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舳倉島の海女の潜水特性について
海洋科学技術センター試験研究報告 第36号 JAMSTECR, 36 (Septem ber 1997) 舳倉島の海女の潜水特性について 毛利 白木 元 彦*1 川 西 奈 緒 美*1 池 田 啓 三*3 鳥 居 幸 應*2 理 子*3 S. K. Hong*4 素潜 りによる息こらえ潜水士 は,かちど,ふなどアマに大 別される。舶倉 島におけ るアマ(海女 )は,同一海域,同一条件 下(ウェ ット スーツなど )で潜水 作業 に 従事 してい る。舶倉島のかちど海女, ふなど海女の身体特性と潜水特性(深度,水温,皮 膚温を1.6秒毎 に記録できるデ ータロガを用いて記録した )を計 測し , そ の 相違 につ いて検討 した。そ の相違点は 1 ) ふなど海女の方が,かちど海女より も年令,経験年数が高かった。 2 )1 日の潜水 回数は,ふ など海女の方がかちど海女よりも少なかった。 3 ) 潜水深度は, ふなど海女の方がかちど海女 よりも深 く潜ることがで きたO舶倉 島 の海女は他 の地域の海女 よりも深く潜ってい た。 4 )1 回の潜水時 間には有 意な差が認めら れなかった。 5) ふなど海女 の浮上速度はかちど海女や他のアマダ ループ の2倍速かっ た。 キーワ ード:海女,ふなど, かちど,舳倉 島‥ 皀こらえ潜水 Diving Characteristico of Hegura Motohiko MOHRI*5 Naomi KAWANISHI*S Keizo SHIRAKI*" Riko TORII* Ama Yukio IKEDA" Suk Ki HONG*8 Daily diving patterns, especially depth-time profiles,were continuously recorded during the entire work shifts in four cachido and four funado amas of Hegura Island. All Hegura amas were female and wore wet suits. The results were as following; 1) Funado amas were considerably older than cachido amas and had been active for at least 30 years. 海域開発・利用研究部 金沢 経済大学 産業医科大学 第二生理学教室 ニュ ーヨ ーク州立大学バファロ ー校生理学 教室 Coastal Research Department Kanazawa Economic College 2nd Department of physiology, School of Medicine University of Occupational and Environmental Health. Department of Physiology, State University of New York at Buffalo 77 2) Total number of dives per day by funado amas is much more than that by cachido amas. 3) Hegura amas dived deeper than other groups of cachido and funado divers.Depth of dives by funado amas 4) Dive 5) Ascent were deeper than that by cachido amas. times of cachido and funado amas were equal. rate of funado amas was 1.48 m/sec, cachido amas which is twice that observed in Hegura and other groups of divers. Key Words :Ama, Funado, Cachido, Hegura, Breath-Hold Diving 表 1 舳倉 島のアマ の身体特性 1 は じ めに 息 こ らえ潜水 による潜 水 従事者 “アマ ”は,全 国に15, 301 人お りBirukawa Table 1 Physical Characteristics of Hegura Divers*1 か ちど海女 (1963)2)の報 告 に比 し て 海 士 は 著 し く増 加 し,逆 に海女 は著 し く減少 してい た。 年 齢(年) ふ など海女 35.2±1.3" 49.5±7.5 48.2±3、8 66.2±6.0 151.0士2.4 157.2土1.9 17.7士1.1 23.0士1.6 我 々 は先 に韓 国 と 日本 のか ちど海 女 と 日本 のふ など, か ち ど海 士 の 日常 の潜 水特 性 は, 各 々異 なってい る こ とを 体 重(kg) 報告 した3) 。 例 えば, 漁業 協 同 組合 と申 し合わせてウェ ッ 身 ト ス ーツ等 を着 用 してい ない ,白 間津 のふ など 海士 の潜 体脂肪量( %) 水 回 数 は1 日23 回で , ウェ ット スーツを 着用 してい る他 長(cm) 潜水 経験(年 ) 6.3士0.7*2 の海 女, 海士 の グル ープ の 1日 の 潜 水 回 数 は100 回 前 後 と多 く, 白問津 の ふ など海 士 と は著 し く異なっ てい た。 舳倉 島 に ぱ ふ など” “かち ど”海 女 として , 同 一海 域, 同 一 条件 下 ( ウェ ット ス ーツ など )で 潜水 漁業 に従 事 してい る。 34.2土7.4 *1 平均 士標準 偏差( 4人の 被験 者 ) *2 P <0.05 vs ふ など 海女 時 間記 録 出 来る デ ータロ ガ を用い て, 1.6 秒 毎 に 深 度 (O ∼50 m range) ・水 温・皮膚 温(10 ∼40℃,±1 %) 本研 究 は, 水 温 の影響 並 び に海象状 況 の変化 など, 潜 を記録した。潜水作業 は,作業海域に船で移動し,09 : 水 特性 に影響 を与 える もの を除外 する た め,│可一 海 域, 30より開始 し,14 : 30に終了 した。こ の間30分以 内の昼 同一 条件 下で潜 水 作業 を してい る舳倉 島 のふ な ど, かち 食 を船上で取っ た。この潜水作業時 間は,舳倉 島の海女 ど海 女 の潜 水特 性 を計測 し, そ の 相違 につ いて 検討 した のきまりであっ た。 ので報 告 する。 海女はウェ ット スーツ,マ スク,フ インと手袋を着用 していた。 2 方 法 かちど海女は5 ∼7kg のウェ イトベ ルトをして浮 き輪 北 緯37 ° 50 ’東 経136 ° 50 ’の 日 本 海 に 位 置 す る 舳 倉 島 の より自力で潜降・浮上をし,ふなど海女は5 ∼7kg のウ 現 地 調 査 は, 1993 年 の 夏 に 実 施 し た。 舳 倉 島 に は10 ∼60 ェ イトベ ルト にさらに1.5kg以 上 の重 り を付 け て , 船 の 代 の 海 女 が100 余 名 お り , 潜 水 活 動 を し て い る 海 女 は そ ふ なべ りの横棒を足で蹴っ て潜降し,浮上には船上にい の 約80 % で , こ の な か で も ふ な ど 海 女 は , 潜 水 活 動 を し るパート ナーにロ ープで引 き上げて もらった。 て い る 海 女 の 約10 % に す ぎ な か っ た。 本 実 験 は 4 名 の ふ な ど海 女 と 4名 の か ち ど 海 女 を 被 験者 と し て 実 施 し た。 3 結果 と考 察 海 女 の 身 体 特 性 を 表 1 に示 し た 。 海 女 は , 朝 9時 に 海 岸 本研 究 におい て 表 1 に示 し た よう に, ふな ど 海女 の方 に きて , そ こ で 身 長 , 体 重 並 び に皮 脂 厚 を 測 定 し, そ の が かちど 海女 よ りも年令 , 身 長は高 く, 体重 は重 く経 験 後 記 録 用 電 極 を装 着 し た 。 ま た , 体 脂 肪 量 を皮 脂 厚 よ り 年 数 は長 く,そ して 皮 脂厚 は厚 かっ た。 舳 倉 島 の海女 は 求 め た4)。 社会 の通 例と して女 子 は 中学 を卒業 す る15 ∼16 才で 海 女 潜 水 用 の デ ー タ ロ ガ(Vine をナップザッ になり, 最初,かちど海 女 として出発 し,後 にふなど海 女 ク に よっ て 背 中 に 収 納 し , 動 か な い よ う に し た 。 こ の 8 に なるため , そ の結果 と して ふ など 海 女 は か ちど 海女 よ 78 社 製 。 東 京) JAMSTECR, 36 (1997) ⋮ γ 時 など海女は 0.75m/sec,自問津のふなど海士は 0.97m/ s e c で浮上速度のように著しい相違は認められなかった。 e 1 2 . 0 " . 0 ' " 由 副幽 表 2に紬倉島のかちど,ふなど海女の潜水特性を示す。 かちど海女の 1日の潜水回数は, 平 均 98土 3回で, S h i r a k ie taJ . 5 ) , Honge tal_3'が報告したかちど海女の 平均 110~ 1 3 0回の 1日の潜水回数よりも少なかった。 1 回の潜水時間は ,60.0+1 .7 秒 で,韓 国 の か ち ど 海 女3)の 1回の潜水時間 30,5 秒以内と比較しでも明らかに長かっ 8 . 5 た。さらに , 自問津のふなど海士の l回の潜水時間 6 秒と 紬倉島のふなど海女の 1回 の 潜 水 時 間 58.4+ +4. 3 1 .8 秒と比較しでもほとんど同じで有意 な 差 は 認 め ら れ なかった。 また,紬倉島のかちど海女の潜水深度は 1 3 . 9 図 1 かちど,ふなど海女の潜水パタ ーン F i g . 1 Typica l Di vi ng P a t t e r n so f Cachido and FunadoAma . +O .6mと韓国のかちど海女の 4m以 下 , 松 輸 の か ち ど 海士の 7 m以下,白 間津のふなど海士の 10m以下と比べ てもより深く潜っていることが示唆された 。 1回の滞底 表 2 紬倉島のアマの潜水特性 9. 4+2.3 秒と韓国のかち ど海女の 1 4 . 3 秒以内と比 時間は 1 1 Table2 Div eCharac t e r i s t i c so fHeguraD i v e r s. かち ど海女 1 日の 潜 水 時 間 min/day 1日の海女滞在時間 min/day 1 日の 潜 水 回 数 平均の潜水深度 町1 潜 水 時 ( s e c ) 間 平均の潜降速度 m/sec ふなど海女 して長かったが, 1日の滞底時間には両者で有意な差 は 認められなかった。 1 8土 6回 紬倉島のふなど海女の 1日の潜水 回数は , 1 98+3 叫 118+6 174+4 1 3 1+2 0た。先の報告旬、ら海女,海士の 1日の潜水回数(11 1 0 9土4. 4 1 3 0回)とはほぼ同じであった。 叫 98+2 叫 と紬倉島のかち ど海女 (98+3回)よりも 有意に多かっ 自問津のふな ど海士 ( 2 6+ 2匝)と比して著しく多かっ 1 3 . 9 + 0 . 6・ 2 1 6 . 8+0 . 5 60+1 .7 5 8.4+1 .8 なども着用せず、 パンツのみで潜水をし,潜水後に船上で、 0,6 1+ 0 . 0 5 0 . 7 5 + 0 . 0 5 タオルで海水をふき取り た。この白間津のふなど海士はウェットスーツ , フイン ストーブで身体が暖まるまで 暖を取ったので,潜水間隔は 15-30分間で、あった。その 0 . 8 1+0.01 ・ 2 1 .4 6 + 0 . 1 2 平均の潜降時間 2 3 . 5土0 . 9 2 3 . 0土1.7 かしながら ,自問津のふなど海士の l回の滞底時間は著 平均浮 上 時間 1 7. 4+ 0.8 1 .9土1 .3 1 しく長く,統計的には潜水回数の減少をこの l回長い滞 平均 l回の滞 c )底時間 1 9. 4+2. 3 2 3 . 6 +1 .6 平均の浮上速度 m/sec ( s e c ) ( s ec ) 全滞底時間 min/day ため 1日の潜水回数が少なかったものと推測された。し 底時間によって代償できるもの と考えられた。 潜降速度 は紬倉島のふなど海女は 0.75+0,05m/sec, 3 1 .8+3.8 4 7 . 9: t4 . 3 *1 平 均 ± 標 準 偏 差 (4人の被験者) *2 P<0.05 VS ふなど海女 りも年令,経験年数が高かったものと考えられた。 かちとと海女は 0 . 6 1土0 . 0 5m/secと有意 な差 は認められな か った。一方,浮上速度はふなど海女は1.46: t0. 12m / s e c ,かちど海女は 0 . 8 1+0 . 0 1m/s e cと ふ な ど 海 女 の 方 が有意に速かった。 紬倉島の両海女の典型的な潜水パタ ー ンを図 1に示し . 9 7: t0,07m/sec、 で 自問津のふなとや海士の潜降速度は 0 た。この紬倉島で観察されたかちど海女の潜水パターン あり,紬倉島のふなど海女と大きな差異は認められなかっ は,先の報告3)で観察さ れ た か ち ど 海 女 の 潜 水 パ タ ー ン た。しかし ,浮上速度は紬倉島のふなど海女の方が自 問 と同じであ った o 一方,紬倉島のふなど海女の潜水パター 津のふなど海士の浮上速度 ( 0 .72土0,03m/sec) に比べ ンは,先に報告 したの自問津のふ など海士 の 潜 水 パ タ ー て有意に速かった。すなわち紬倉島のふなど海女の浮上 ンと若干 異 なっていた o それは ,浮上速度は紬倉島のふ 速度は他の海女,海士の 2倍以上であ った。 なとと海女の方 が船上 のパートナーに引き上げてもらう た 6 lは 木 綿 の シ ャ ツ を 着 た 日 本 の ふ な ど 海 女 の Teruoka め 非常に速かっ たが,潜降速度については,紬倉島のふ .5m/secで、非常 に速い と報告 し て おり , 紬 浮上速度は 1 JAMSTECR,3 6( 1 9 9 7 ) 7 9 倉島のふなど海女の浮上速度は Teruokaの報告と一致し た 。 6 ) 浮上速度は,ふなど海女の方がかちど海女の 2倍 ていた。 紬倉島のふなど海女の 1日の滞底時間は 4 7 . 9: f :4.3min あり有意に速かった。 /day,かちど海女は 3 1 . 8+3.8min/day, 自 問 津 の ふ など海士は, 17.2min/day,松輪のかちど海士は 37.0m 参考文献 7 . 2 . . . . . .29.0min/dayで , in/day,韓国のかちど海女は 2 1 ) 竹内久美・毛利元彦:全国の潜水漁業者の実態調 紬倉島のふなど海女が 1日の滞底時間が一番長かった。 査 一分布,年齢層および潜水、法など一.日高圧医誌, 紬倉島のふなど海女達の潜水特性は北アメリカの太平洋 2 2,2 2 7 2 3 4 .( 1 9 8 7 ) に生息する体重3 0 4 5 k g成 熟 ラ ッ コ の 潜 水 特 性7)す な わ 2 )A s u r v e yoft h eama, Ministry of Agricu l t u r e , ち潜水深度,潜水回数,潜水時間等が類似しており非常 ForestryandF i s h e r e so ft h eJapaneseGoverment に興味ある問題と思われた。 Tokyo. ( 1 9 7 7 ) 3 . 2C, 海 底 で 2 2 . 7C 紬倉島の海域の水温は,海面で 2 . Henderson,A. Olszowka W .E. 3 ) Hong,SK.,J であった。両海女の胸部皮膚温は,潜水開始時には平均 .Falke,J.Qvist,P .Radermacher, Hurford,K.J 0 0 3 2 . 3Cで,終了時には 2 9 . 0Cと有意に低下していた。聞 K. S h i r a k i, M . Mohri,日. Takeuchi, W . J . き取り調査によっても両海女とも潜水作業終了時には寒 Zapol,D . W. Ahn,J . K. Choi and Y. S . Park い感じがすると報告している。 :Daily d i v i n gp a t t e r n of Koreaand Japanese また,紬倉島の両海女ともにウェットスーツを着用して b r e a t h h o l d d i v e r s (ama). Undersea Biomed いるため皮膚温の低下が軽度であり,白間津のふなど海 4 4 3 .( 1 9 9 1 ) Res,8,433 0 0 0 2C近くまでの低 士のように著しい皮膚温の低下,水温2 4 )A l l e nT . H. ,M. P.Peng, and K. P . Chen: 下を起こさないために連続的な潜水作業ができたものと P r e d i c t i o no ft o t a la d i p o s i t y from s k i n f o l d nd 考えられた。 c u r v i l i n e a rr e l a t i o n s h i pbetweene x t e r n a landi n 352.( 1 9 5 6 ) t e r n a la d i p o s i t y .Metabolism,5,346 4 おわりに 紬倉島のかちど海女 . Park, 5 )S h i r a k i,K.,K.Konda,S,Sagawa,Y. S ふなど海女の身体特性と潜水特 T,Komatsuands .k . Hong:Divingpattern o f Tsushima male b r e a t h h o l dd i v e r s ( K a t s u g i ) . 性を計測した。その結果 1 ) ふなど海女の方がかちど海女よりも年令も経験年 UnderseaBiomedRes,1 2,439・452.( 1 9 8 5 ) 6 ) Teruoka, T : Die Ama undihre Arbeit. 数も高かった。 2 ) 1日の潜水回数は,ふなど海女の方が他の海女, A r b e i t s p h y s i l o g i e,5,2 3 9 2 51 .( 19 3 2 ) . 海士とほぼ同じである,かちど海女より少なかった。 7 ) VanBlaricomJ . R.andJ .A.Ester:Thecom- 3 ) 潜水深度は,ふなど海女の方がかちど海女よりも munitye c ol ogyo fs e ao t t e r s .S p r i n g e r Verlag, 深く潜ることができた。 4 ) 1回の潜水時間は New York,2 3 2 p p .( 1 9 8 8 ) 両海女で有意な差が認められ なかった。 (原稿受理:1997年 5月30日) 5 ) 潜降速度は,両海女でも有意な差が認められなかっ 8 0 JAMSTECR,3 6( 1 9 9 7 )