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資本・事業戦略ツールとしての「新会社法」

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資本・事業戦略ツールとしての「新会社法」
経営/法務/2006 年 2 月 16 日
資本・事業戦略ツールとしての「新会社法」の活用
~(その6)新会社法がM&Aに及ぼす影響~
新会社法では、合併・会社分割・株式交換・株式移転・事業譲渡等の組織再編につ
いて、規制が緩和され、①株主総会を省略し、取締役会限りで行える範囲の拡大(簡易・
略式組織再編)②対価の選択肢が増える(対価の柔軟化)③再編手続期間の短縮等、M&
Aを活発化させる重要な改正が行われています。
本稿では、新会社法がM&Aに及ぼす影響について、説明致します。
1. 簡易組織再編(要件緩和)
【改正ポイント】
合併・会社分割等の組織再編行為は、株主にとって影響が大きい為、再編対象会社
の株主総会の特別決議が必要になります。しかし、合併相手の会社規模や分割対象の
事業規模が比較的小さい場合には、株主への影響も小さいため、株主総会の特別決議
は不要とされています。現行法では、自社と合併会社または再編対象事業の規模が
「20対1以下」の場合に特別決議が不要とされますが、新会社法では「5対1以下」
に緩和されます。また、従来、簡易再編の規定が設けられていなかった事業の全部譲
受にも同様の緩和がなされます。
【活用例】
株主総会を機動的に開催することが困難な上場会社にとって、小規模な会社を合併
したり、他の会社からの小規模な事業を事業の全部譲受けや吸収分割で承継する場合
に、株主総会決議を省略して迅速に会社再編を行うことができます。また、他の会社
に対し、小規模な事業を事業譲渡や会社分割で承継させる場合にも、株主総会決議を
省略することが認められます。
【対象・要件】
<対象>
~存続会社等の場合~
<要件>
①吸収合併の存続会社が合併対価として交付する存続会
・吸収合併の存続会社
社株式数の発行済株式総数に対する割合と、それ以外の
・吸収分割の承継会社
財産の純資産額に対する割合の合計が20%以下の場
・株式交換の完全親会社
合には、存続会社において株主総会の承認は不要です。
・事業全部の譲受会社
②吸収分割の承継会社、株式交換の完全親会社及び事業全
部の譲受会社についても①と同様になります。
~分割会社等の場合~
①吸収分割、新設分割の分割会社が承継会社に承継させる
・吸収分割の分割会社
資産の分割会社の総資産に占める割合が20%以下の
・新設分割の分割会社
場合、分割会社において株主総会の決議は不要です。
・事業の重要な一部譲渡
②事業の重要な一部を譲渡する株式会社も、同様です。
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【簡易組織再編ができない場合】
以下の場合は、株主総会決議が必要となりますので注意が必要です。
①組織再編において、存続会社等に差損が生じる場合
②組織再編により、譲渡制限株式の発行を伴う場合
③簡易組織再編に対する反対株主から異議の申出がなされた場合
2.略式組織再編(新設)
●A社(親会社)がB社(子会社)の議決権の90%以上を支配している場合、B社(子会社)
の株主総会決議を行わずに組織再編が可能になります。
【改正ポイント】
現行法では、原則として組織再編を行ういずれの会社においても株主総会決議が必
要です。しかし、特別支配関係のある会社間、即ち議決権の90%以上を保有してい
る会社間で、組織再編を行う場合は、株主総会を開催すれば承認されることが明らか
ですから、被支配会社の株主総会の開催が不要となります。
【対象・要件】
①存続会社(吸収合併)・承継会社(吸収分割)・完全親会社(株式交換)が、それ
ぞれ消滅会社・分割会社・完全子会社の特別支配会社である場合、消滅会社等の株
主総会決議は不要となります。
②逆に、消滅会社(吸収合併)・分割会社(吸収分割)・完全子会社(株式交換)が
存続会社等の特別支配会社である場合、存続会社等の総会決議は不要となります。
③譲受会社が特別支配会社である場合、譲渡会社の株主総会決議は不要となります。
④定款で90%を上回る基準を設けることもできます。
⑤特別支配会社は、単独だけでなく、子会社等も含めて他の会社の議決権の90%以
上を持つ場合も含みます。
【活用例】
略式組織再編が、同時に簡易組織再編の要件を満たす場合には、存続会社・消滅会
社共に、株主総会の決議が不要となりますので、株主総会開催の費用と時間が節約で
き、簡易・迅速な組織再編が可能となります。
【留意点】
(1)少数株主による差止請求権
被支配会社の少数株主の保護のために、略式組織再編が法令又は定款に違反し、又
は著しく不当な条件で行われることによって、株主が不利益を受けるおそれがある
場合には、被支配会社の株主には、差止請求が認められます。
(2)略式組織再編に当たる場合でも、対価の全部または一部が譲渡制限株式等であっ
て、消滅会社が公開会社であり、かつ、種類株式発行会社でないときは、株主総会
決議が必要となります。
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3. 対価の柔軟化
●吸収合併・吸収分割・株式交換の際に、存続会社等の株式を交付しないで、金銭そ
の他の財産を交付することが認められます(2007年5月施行予定)。
【改正ポイント】
現行法上、組織再編における対価は、存続会社等の株式に限定されていましたが、
新会社法では、対価の内容が「金銭その他の財産」まで拡大されますので、企業買収
が活発化すると予想されます。尚、対価の柔軟化に関する部分については、結果とし
て敵対的買収が増加するのではないかとの懸念により、施行が1年延び、2007年
5月施行予定となります。
【要件】
吸収合併・吸収分割・株式交換の場合において、組織再編対価の柔軟化を認め、消滅
会社の株主等に対して、存続会社等の株式以外にも、金銭その他の財産を交付するこ
とが可能になります。金銭以外の例としては、存続会社等の親会社の株式、新株予約
権、社債もしくは新株予約権付社債等が典型です。
【活用例】
(1)新会社法により、現金を対価とした合併(キャッシュアウト・マージャー)や親
会社株式を対価として行う合併(三角合併)が可能となります。
例えば、企業再生への活用として、吸収分割会社が、分割の対価として、現金を受け
取ることが可能となりますので、これを金融機関に返済することにより、企業再生が
可能となります。
(2)現行商法では、親会社が子会社を吸収合併する場合、親会社の株式を子会社の株
主に割り当てざるを得ませんので、子会社の株主が親会社の株主になることが避けら
れません。しかし、対価の柔軟化を活用すれば、子会社の株主に、金銭等の対価を交
付することにより、存続会社は、消滅会社の株主との関係を断ち切ることができます。
(3)また、吸収分割の場合も、承継会社は、分割会社に対して、株式ではなく、現金
等を交付することができますので、承継会社は分割会社の支配が及ぶことなく、事業
の承継が可能となります。
【留意点】
新設合併・新設分割・株式移転においては、新会社設立により、法人格が新たに創
設されるため、現金等の対価の柔軟化は認められません。
4.合併・会社分割に関する改正ポイント
(1)合併スケジュールの短縮化
現行法では、合併に対する株主総会承認決議後、2週間以内でなければ債権者保護
手続が開始できませんが、新会社法では、株主総会決議前から債権者保護手続を開始
することができますので、現行商法に比べて、半月から1か月程度、スケジュールを
短縮することができます。
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経営/法務/2006 年 2 月 16 日
(2)吸収合併・吸収分割の効力発生時期
●吸収合併・吸収分割の効力発生日は、登記日ではなく、契約書で定めた日となります。
【改正ポイント】
現行法では、吸収合併および吸収分割の効力発生日は登記日とされていますが、
実際には、合併契約書・分割契約書で定める合併期日・分割期日に事実上の効力
が生じており、効力発生日と登記日にズレが生じていました。
新会社法では、合併契約書・分割契約書に「その効力が発生する日」を定めなけ
ればならないことから、契約書で定めた日が効力発生日となります。
【活用例】
登記申請ができない1月1日等の休祝日を効力発生日と定めることも可能になります。
【留意点】
①第三者に対しては、吸収合併等の効力の発生は、登記をしなければ対抗できません
ので、注意が必要です。
②新設合併・新設分割・株式移転の場合は、新会社が設立されますので、設立登記の
日に効力が発生します。
(3)合併契約書・分割契約書の記載事項の簡略化
新会社法では、合併契約書・分割契約書に記載すべき事項は、商号・住所・株式その
他の対価に関する事項、新株予約権の取り扱いに関する事項、効力発生日等となり、
現行商法における法定記載事項に比べて簡略化されますので、注意が必要です。
5.株式交換・株式移転の債権者保護手続
【改正ポイント】
現行法では、債権者保護手続を要するのは、合併・会社分割の場合のみで、株主構
成に変動があるだけの株式交換については、債権者保護手続きは不要でした。新会社
法では、対価の柔軟化により、現金による株式交換が可能となる為、完全親会社の責
任財産が変動する可能性があり、①株式以外の財産を交付する場合②新株予約権付社
債が承継される場合には債権者保護手続きが必要となります。
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