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21 世紀の建設材料 アルミニウム合金の可能性

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21 世紀の建設材料 アルミニウム合金の可能性
土木学会平成 22 年度全国大会
研究討論会 研-06 資料
21 世紀の建設材料
アルミニウム合金の可能性
座
長
話題提供者
大倉 一郎
大阪大学
前田 義裕 (株)住軽日軽エンジニアリング
熊谷 正樹
住友軽金属工業(株)
萩澤 亘保
日本軽金属(株)
大倉 一郎
大阪大学
宇佐美 勉
名城大学
日
時
平成 22 年 9 月 1 日(水)16:15~18:15
場
所
北海道大学 札幌キャンパス
教
室
E214
鋼構造委員会
目次
はじめに
大阪大学
・・・・・・・・・・ 1
大倉一郎
アルミニウム構造物の現状
・・・・・・・・・・ 2
株式会社住軽日軽エンジニアリング
前田義裕
アルミニウムの画期的な接合技術「摩擦攪拌接合」
住友軽金属工業株式会社
熊谷正樹
道路橋用アルミニウム床版
日本軽金属株式会社
・・・・・・・・・・ 7
萩澤亘保
新しいアルミニウム合金桁の創出
大阪大学
・・・・・・・・・・10
大倉一郎
構造用アルミニウム合金製制震ダンパーの開発研究
名城大学
・・・・・・・・・・ 5
宇佐美勉
・・・・・・・・・・12
はじめに
大阪大学
正会員
大倉 一郎
アルミニウム合金はこれまで橋の高欄や道路のガードレールなど付属品的な用途以外に土木構造物の主要
部材として用いられることはほとんどなかった.しかし耐食性に優れ,軽量であることから,最近,アルミニ
ウム歩道橋や歩道用アルミニウム床版が建設されるようになり 1),今後長大橋などへの適用が期待される.製
作面では,従来の MIG 溶接と圧延板の組み合わせから,摩擦攪拌接合と押出形材の組み合わせに移りつつあ
り,この分野で,日本は世界をリードしている.この様な状況で,アルミニウム構造に関する研究がアルミニ
ウム橋研究会
1)
,日本アルミニウム協会 土木構造物委員会,土木学会 鋼構造委員会 アルミニウム構造小委
員会で調査・研究が精力的に行なわれるようになってきた.
次に,著者がこれまで経験した,アルミニウム合金と鋼の相違点について述べる.アルミニウム合金は鋼と
様々な点において性質が異なるため 2),鋼で最適なことがアルミニウム合金にとって必ずしも最適にならない.
(1) 圧縮,曲げ,せん断などの面内力を受ける鋼板の耐荷力には溶接残留応力が大きく影響するが,アルミニ
ウム合金板の耐荷力に摩擦攪拌接合または MIG 溶接による接合残留応力はあまり影響しない 3).アルミニ
ウム合金の応力-ひずみ関係は 0.2%耐力の近傍で曲線を描く 4).これによる影響が接合残留応力による影
響より大きいことが原因である.
(2) 鋼板の耐荷力は幅厚比および境界条件に依存し,板幅の影響は現れないが,熱処理アルミニウム合金 6000
系の板においては板幅の影響も現れる 3).熱処理アルミニウム合金 6000 系の板の摩擦攪拌接または MIG
溶接による接合部の 0.2%耐力は母材のそれの半分程度まで低下する 4).この強度低下が生じる範囲は,板
幅に関係なく,接合中心から各側 25mm までであり,その範囲は殆ど変わらないので 4),接合部の強度低
下の影響は,板幅の大きさによって変化する.
(3) アルミニウム部材の摩擦攪拌接合部は,鋼部材の溶接部と比較して格段に滑らかである.したがって鋼部
材の溶接継手の疲労寿命は亀裂の伝播寿命に支配されるが,アルミニウム部材の摩擦攪拌接合継手の疲労
寿命は亀裂の発生寿命に支配される.
(4) 鋼部材の溶接部には降伏応力に達する引張残留応力が生じるので,結果として,応力比の影響を考慮しな
いで,鋼部材の溶接部の疲労強度は応力範囲のみで評価される.アルミニウム部材の摩擦攪拌接合部の接
合線直角方向の接合残留応力は小さな圧縮応力,接合線方向の接合残留応力は引張応力であるが,その大
きさは接合部の 0.2%耐力に達しない 4).したがって,アルミニウム部材の摩擦攪拌接合部の疲労強度の評
価には応力範囲のみならず応力比の影響が現れる.接合線直角方向の摩擦攪拌接合部の疲労限度の設定に
は,平滑材の疲労限度を表すのに使用される修正 Goodman 線が参考になる 5).
(5) 鋼部材の高力ボルト摩擦接合継手の疲労強度は高いので,実際の設計でこれが問題となることはない.し
かし,アルミニウム部材の鋼製高力ボルト摩擦接合継手においてはフレッティング(こすれ)疲労亀裂が
発生し,その疲労強度が低いので 6),これが部材全体の疲労寿命を支配することが予想される.
1) アルミニウム橋研究会:アルミニウム構造物,http://alst.jp/str.htm
2) 大倉一郎,萩澤亘保,花崎昌幸:アルミニウム構造学入門,東洋書店,2006.
3) 大倉一郎,小笠原康二:接合位置を考慮したアルミニウム合金板の圧縮耐荷力,構造工学論文集,Vol.56A,
pp.111-121,2010.
4) 大倉一郎,長尾隆史,石川敏之,萩澤亘保,大隅心平:構造用アルミニウム合金の応力-ひずみ関係およ
び接合によって発生する残留応力の定式化,土木学会論文集 A,Vol.64,No.4,pp.789-805,2008.
5) 萩澤亘保,大倉一郎:アルミニウム合金 A6005C-T5 の母材と摩擦攪拌接合部の疲労強度に応力比が与える
影響,土木学会論文集 A,Vol.65,No.1,pp.117-122,2009.
6) 大倉一郎,西田貴裕:アルミニウム合金板摩擦接合継手の疲労特性,ALST 研究レポート,No.8,2009.
1
アルミニウム構造物の現状
株式会社 住軽日軽エンジニアリング 前田 義裕
1.はじめに
アルミニウム合金の用途は,窓枠のサッシ材,アルミ箔から飲料水用の缶材,自動車や鉄道車両のボディー
材などの分野に広がり続け,日常生活に欠かすことのできない金属材料のひとつとなってきた.
近年このアルミニウム合金が,土木構造物の分野にも適用され始め,特にアルミニウム合金製橋梁・床版は,
適用例が増大してきている.
ここに,橋梁を中心として,アルミニウム合金製の土木構造物について現況を紹介する.
2.アルミニウム合金の特徴
アルミニウム合金の種類は,表‐1に示すように添加される主たる金属により大きく 7 種類に分類され,
それぞれの用途に合わせて成分が調整される.アルミニウム合金製橋梁など土木構造物で使用される材料とし
ては 5000 系および 6000 系がある.
5000 系の特徴は Mg を合金の添架主成分にして強度を高めており,また耐食性や溶接性が良く溶接による
強度低下がないため溶接構造物として使用されているが押出性はやや劣る.一方,熱処理合金である 6000 系
材料は,焼入れや焼もどしによって材料の強さ,硬さなどが鉄鋼並みの非常に高い強度が得られる合金である.
しかしながら,溶接などの入熱により焼き鈍しの状態となるため熱影響部の強度は低下する欠点を持っている.
6000 系は押出性に優れるため,従来応力集中による疲労亀裂が発生していた隅肉溶接部を押出成形により一
体化することが可能である.したがってボルトなどによる機械的な接合や,溶接と比較して強度低下の低い摩
擦撹拌接合(FSW)による接合を行うことによって特徴を生かすことができる.
アルミニウム合金と鋼の物理的性質や機械的性質について比較した結果を表‐2に示す.
アルミニウム合金のヤング係数は鋼の 1/3 である.このため鋼に比べて撓みやすく,剛性を同一にするため
には 3 倍の断面を確保する必要がある.しかし,アルミニウムの比重は鋼の約 1/3 であるため,最終的に構造
物としての質量は材料強度も考慮して約 1/2 となる.
一方で,線膨張係数は鋼の 2 倍であることから,温度変化による伸縮量は2倍となるため,その伸縮量の対
応には注意を要する.また,アルミニウム合金の耐食性は良好である.鋼と同じように腐食現象は生じ,酸化
化合物である酸化アルミが表面に形成されるが,酸化アルミ自体が非常に緻密であることからそれ以上の腐食
進行は抑制される.このため,特に厳しい環境でない限り鋼のような防錆処理の必要はないが,化粧塗装を施
すことも多い.
表‐2
アルミニウム合金と鋼の比較
表‐1 アルミニウム合金の用途
合金系統名
主な用途
1000 系
純アルミニウム系
日用品,箔など
2000 系
Al-Cu 系
航空機,エンジン関係
3000 系
Al-Mn 系
化粧板,アルミ缶ボディ
4000 系
Al-Si 系
ピストン,シリンダーヘッド
5000 系
Al-Mg 系
溶接構造物,船舶
6000 系
Al-Mg-Si 系
建材,鉄道車両,構造物
7000 系
Al-Zn-Mg 系
航空機,スポーツ用品
比
重
ヤング係数
線膨張係数
融
点
引張強さ
降 伏 点
伸
び
構造物としての質量比
2
アルミニウム合金
(A6N01S-T5)
2.70
7.0×10-4N/m㎡
24×10-6 1/℃
約 650 ℃
225 N/m㎡
175 N/m㎡
8 %
約 0.5
鋼
(SM400)
7.85
2.1×10-5N/m㎡
12×10-6 1/℃
約 1,500 ℃
400 N/m㎡
245 N/m㎡
21 %
1
3.アルミニウム合金製構造物
アルミニウム合金製構造物の事例を以下に示す.
3-1.アルミニウム合金製歩道橋
架設工法からの制限,耐震性能の向上のため等,総重量の軽減の必要な歩道橋で,アルミニウム合金製の
橋梁が採用される例が増えている.
また,メンテナンスフリーであることから,跨線橋などで機電停止時間が限られ、下面の再塗装が困難で
ある歩道橋に採用された例も見られる.
鋼製の橋梁と同等の断面構成で,板材及び押出し形材の溶接(一部 FSW を含む)により製作される.現
場接合は,主としてハイテンションボルトによる.
3
3-2.アルミニウム合金製拡幅床版
歩道のない既設橋梁に張出しにて歩道を添架する工法で,軽量なアルミニウム合金製の床版を適用し,橋
梁の下部工は改修せず,上部工のみの改修で歩道添架(拡幅)を行なう.
既設橋梁の端縦桁に張出しブラケットを設置し,このブラケット間にアルミニウム合金製支持梁を渡して,
この上に幅(歩道幅)1.5~2.5mのアルミニウム合金製形材を接合(主に FSW)した床版材を設置する.
架設工事では、床版ブロックが軽量であるため,工事期間および 交通規制時間を短縮し,周囲への影響を
最小限に抑えることが可能となる.
拡幅前
拡幅後
3-3.コンパクトブリッジ
橋長 10m 前後の既設の橋梁に側道橋を添架するもので,アルミニウム合金製の橋梁を工場で製作し,更
に舗装・高欄の取付けも行なった完成品として現場に搬送する.
現場では,あらかじめ橋梁の橋台にあと施工アンカーで張出しブラケットを取付けておき,搬入した側道橋
をブラケットに固定するのみで3~4時間ほどで架設工事が完了する.
アルミニウム合金製側道橋の自重が小さく(W:2m L:10m で完成重量2~3t)
,簡易な張出しブ
ラケットで支持が可能であり,橋台設置の土木工事を省略し,工事費・工事期間を縮減する工法として採用が
増大している.
4
アルミニウムの画期的な接合技術「摩擦攪拌接合」
住友軽金属工業株式会社
熊谷 正樹
1.はじめに
地球環境保護のため自動車の二酸化炭素排出量の削減や燃費の向上が叫ばれるなか,輸送機の軽量化が最も効
果があると言われており,軽いアルミニウム合金の適材適所の採用によりその効果が実現しつつある.アルミニウム合
金を効率よく製品に採り入れるためには,成形や接合も含むトータルメリットを考えることが重要である.ここでは,アル
ミニウム合金に適する画期的な摩擦攪拌接合(Friction Stir Welding1); 以下 FSW と略)法につき解説する.
2.摩擦攪拌接合(FSW)とは
図1にFSWの原理を示す.FSWは鋼製のツールを回転させながら接
合部に差込み,ツール周辺の母材を摩擦発熱させた状態で塑性流動さ
せて接合する,固相接合方法の一種である.溶加材,不活性ガス,大電
流,熟練技能が不要で,閃光やスパッターが生じず環境にやさしい接合
法である.固相接合なので,溶接割れ感受性を考慮する必要は無く,合
金によって多少の接合性の違いはあれ,アルミニウム合金同士ならどん
な組合せでも接合できる.代表的な溶接構造物用材料である 6N01-T5
図1 摩擦攪拌接合の原理
2)
材の突合せ継手の断面組織を図2に示す .継手はアーク溶接に比
べ表裏平坦で,熱影響が小さく歪みも少ない.疲労特性や耐衝撃性
にも優れている.接合部の成分は母材と変わらないので,接合後に時
効硬化熱処理を施すことにより,接合部を含めて均一な強度の部材を
作ることができ(図3)軽量化に有効である.
3.溶接構造物の実用例
FSWの実用化は,海外では船舶,日本では鉄道車両で進んだ.
図4に 700 系新幹線の床の一部に用いられた広幅形材を示す.薄い
部分で 2.3mm という薄さの 6N01-T5 形材4枚を同時にFSWして平坦
な広幅形材としている.最近では、ダブルスキン形材を接合して車両
図2 FSW継手の断面組織
図2 FSW継手断面組織
6N01-T5-4mmt
時効→FSW
FSW→時効
構体全体の生産が行われており、接合長の実績も千 km 以上になる.
橋梁床版への適用も広がっている(図5)。橋梁の車線を増やすた
めの拡幅工事で、歩道を新設する際に軽量で平坦度に優れたFSW
アルミパネルが採用されている。歩道橋や跨線橋にも軽量であるが故
に設置が容易で、工期が短く、塗装等のメンテナンスも不要で多くの
実績を上げており、これから車道橋への適用が期待される 3)。
図3 FSW継手の機械的性質
この他、船舶,熱交換器,パラボラアンテナ等,多種多様のア
ルミニウム合金構造物にFSWが適用されてきた.最近では,
図6に示すような隅肉,中空,曲線,曲面等の複雑な形状の接合
も可能になり,適用範囲が自動車分野に広がりつつある.
4.自動車への適用
自動車ボディへアルミニウム合金板を適用する際の課題のひと
つとして、予め板厚の異なる板を接合してからプレス成形するテー
ラードブランク化が挙げられる.この接合には,熱影響部が少なく,
継手形状が滑らかでプレス成形に影響の少ない FSW が適する.
5
図4 700 系新幹線床用FSWパネル
供試材として,6016 合金の T4 板(板厚 0.8mm および 2.0mm)を
用いた.接合条件は, ツールショルダー径 12mm, ツール回転数
1500rpm, 接合速度 500mm/min 等とした. 接合は段差を上にした
突合せ継手で, ツールを斜めに差し込んで行った.成形性の評価
は引張試験およびφ100mm 液圧バルジ試験により行った.図7に
各種接合方法の液圧バルジ試験結果を示す.FSW 改良材の等厚
FSW
継手の成形高さは 25mm(母材の 86%)で, 差厚継手の成形高さは
13mm(母材の 45%)であった 4).これらの結果から,FSW によ
るテーラードブランクは自動車ボディに十分適用できるものと
考えられる.最近では,6016-T4-1.2mmt の等厚接合での接合
図5 橋梁床版への適用(新加古川大橋)
速度は 8m/min まで向上しており、実用的な生産性が見込める
ことから,量産車への適用が期待される.
5.FSW点接合
FSW点接合は自動車ボディにアルミニウム合金が使われるのにと
円周
5)
もない利用されるようになってきた .プローブ(ピン)とショルダーか
角パイプ
らなる一体式ツールでの点接合は,複数の量産車に適用され,大幅
なランニングコストの削減を実現している.一体式ツールでの接合では
穴が残るため疲労強度や耐食性が懸念されるが,複動式ツールを用
シーム管
いた穴やバリが残らない点接合技術が注目されている(図8)6).
蓋
図6 複雑な形状のFSW
さらに,本接合法は固相接合であり,溶融溶接では界面に脆い金属間
化合物が形成されるため困難とされていたアルミニウム合金と鋼の接合
をも可能にする.ツールをアルミニウムと鋼の界面直上まで差込んで,
攪拌によるアルミニウム側の塑性流動で界面に新生面を出して接合す
ることにより,アルミ側母材破断となる強固な接合が実現している7).
母材(未接合)
6.さらなる進化
FSW改良
図7 FSWテーラードブランクの成形性
FSWの新技術のひとつとして,図9に示す複動式ツールを用いた
セルフリアクティング法がある 8).この方法によると,通常の突合せ
FSWで懸念される裏面の未接合部が生じず,中空材の接合が低い
回転工具
板
裏当て
押付け荷重で可能になるため, H-ⅡB ロケットに採用済みである.
接合だけでなく,材料の組織制御や複合材の創製への挑戦も始まっ
差込 接合 引抜
(a) 従来法:一体工具FSW点接合(Fixed Pin Tool)
ており, FSWは未知の可能性を秘めた技術としてさらに発展を続け
ている.
参考文献
差込 接合 引抜
1) C. J. Dawe:An introduction to friction stir welding and its
development, Welding & Metal Fabrication, 1(1995),13.
(b) 開発法:複動工具FSW点接合(Adjustable Pin Tool)
2) 熊谷正樹,田中 直:摩擦攪拌溶接のアルミニウム合金溶接構造物
図8 FSW点接合方法
への適用, 軽金属溶接,39(2001),22.
3) 大隅心平ら:Al 合金製自由通路の設計製作施工, 住軽技報, 44(2003),147.
4) 熊谷正樹ら:FSW による 6000 系 Al 合金テーラードブランクの開発, 自動車技術
秋期学術討論会, (2005),13.
5) 熊谷正樹ら:6000 系アルミニウム合金の摩擦撹拌点接合継手の特性, 軽金属
学会第 102 回春期大会講演概要, (2002),247.
6) 熊谷正樹ら:複動式摩擦撹拌点接合法の開発,軽金属溶接,44(2006),560.
7) 田中晃二ら:摩擦攪拌点接合によるアルミニウム合金板と鋼板の異種金属接合,
軽金属, 56(2006),317.
8) 田中直ら:Self-reacting tool によるFSW 技術の開発, 溶接学会秋季大会,(2004),226.
図9 セルフリアクティング法
6
道路橋用アルミニウム床版
日本軽金属株式会社
正会員 萩澤 亘保
1.はじめに
わが国においては,道路橋用アルミニウム床版はまだ建設されていない.海外では,米国ケンタッキー州で,
RC 床版の取替え床版として 2006 年にアルミニウム床版が建設された.
道路橋用アルミニウム床版の開発は,
科学技術振興機構平成 20 年度委託開発の下で行われている.開発と並行して,日本アルミニウム協会におい
て道路橋アルミニウム床版-鋼桁橋の設計基準が作成されている.アルミニウム合金は,軽量で耐食性に優れ,
低温強度が高いことから,今後,海洋構造物や宇宙構造物への適用が期待される.
以下に,道路橋用アルミニウム床版-鋼桁橋の構造,それを構成する材料と施工法,およびアルミニウム床
版とそれに施工された舗装の疲労耐久試験結果について述べる.
2.アルミニウム床版-鋼桁橋
道路橋用アルミニウム床版-鋼桁橋のイメージを図-1 に示す.複
数の中空のアルミニウム押出形材の側辺を摩擦攪拌接合で接合し
て床版ユニットを製作し,押出形材の長手方向を橋軸直角方向に
架け,床版ユニット間をボルト接合する.
鋼桁の上面には,鋼とアルミニウムとの接触腐食防止と,鋼桁
上面と床版の間隔を調整するためのモルタル台座が設けられる.
3.アルミニウム床版
図-1 アルミニウム床版-鋼桁橋
380
160
320
160
アルミニウム床版には,図-2 に示す 2 種類の押出形
200
を用いる.これらの押出形材は,2 主桁で桁間 4m 以
15
5
R2
ニットの両端に側辺接合形材,それらの間に床版形材
5
R2
R2
5
R2
5
15
材を使用する.複数の押出形材から構成される床版ユ
135
5
27.8
(1) アルミニウム合金押出形材
0
R1
15
下,多主桁で桁間 3.3m 以下,桁からの張出し長さ
R1
0
10
230
1.35m 以下の橋用に設計されている.
(a)
押出形材のアルミニウム合金は A6061-T6 である.
A6061-T6 押出形材の機械的性質の JIS 規格最小値は,
(b)
床版形材
側辺接合形材
図-2 床版用押出形材の断面形状
引張強さが 265MPa,0.2%耐力が 245MPa,伸びが
加圧力
接合方向
ツール
10%である.
回転
(2) 摩擦攪拌接合
床版用押出形材間の上フランジは図-3 に示す摩擦攪拌接合で接合
される.プローブ先端の板突合せ部の未接合を防止するために,道路
ショルダー
橋用アルミニウム床版では,板突合せ部の上下両面から摩擦攪拌接合
を行う.
プローブ
摩擦攪拌接合部の品質検査は,日本アルミニウム協会規格 1)に従っ
て実施されなければならない.
裏当て
図-3 摩擦攪拌接合
(3) 鋼製高力ボルト摩擦接合
床版ユニットを現場に搬送し,それを桁間に渡した後に床版ユニット間をボルト接合する.ボルト継手の断
面を図-4 に示す.
アルミニウム合金押出形材と鋼製高力ボルトの異種金属による接触腐食を防止するために,フッ素樹脂処理
7
222
15
摩擦接合継手に使用する添接板は A6061-T6 の平板押出形材
10
290
された高力ボルト 2)を使用する.
10
で,床版の母材と接触する面に,Rz が 20μm 以上のブラスト処
理を行う.これによって,すべり係数 0.45 が得られる 3).
10
4.アルミニウム床版と鋼桁との連結構造
アルミニウム床版と鋼桁との連結構造を図-5 に示す.鋼桁に
図-4 ボルト継手の断面
溶植された頭付きスタッドがアルミニウム床版の閉断面内へ挿
床版形材
入され,対向するアルミニウム仕切り板の間に無収縮モルタルを
充填することにより,アルミニウム床版と鋼桁が連結される.
床版形材と鋼桁の間に位置する台座には,次章に述べる結果か
ら,ひび割れ抵抗性が高い高靭性繊維補強セメント複合材料
頭付きスタッド
ECC(Engineered Cementitious Composite)を使用する.
モルタル台座
5.アルミニウム床版の疲労耐久性
アルミニウム床版の疲労耐久性を調査するために,日本建設機
仕切り板
械化協会 施工技術総合研究所に設置されている図-6 に示す移動
載荷疲労試験機(高速道路総合技術研究所所有)を用いて,2 ヶ
鋼桁
図-5 アルミニウム床版と鋼桁の連結構造
月間にわたってトラックタイヤによる疲労試験を行った.
アルミニウム床版は,橋軸方向 7.05m,橋軸直角方向 3m の寸
法を有し,1400mm の間隔のタンデム複輪載荷装置が,床版の
橋軸直角方向の中央に沿って 3m の距離を往復走行する.載荷総
荷重は,1 組の T 荷重の片側 100kN に衝撃を考慮した 140kN で
ある.
2 ヶ月間の載荷往復回数は 121.7 万往復であった.載荷装置
の移動範囲の中央部では,
1 往復の間に 4 回の輪荷重が作用する.
したがって,載荷装置の 121.7 万往復は,載荷装置の移動範囲の
図-6 移動載荷疲労試験
中央部では輪荷重で 487 万回に相当する.移動載荷疲労試験の
300
結果,アルミニウム床版に疲労亀裂の発生は認められなかった.
ジ下面中央および摩擦攪拌接合部の裏面である.図-7 にそれぞ
れの応力範囲測定結果と,それに対応する設計 S-N 曲線 4),5)を示
200
150
Δσ (MPa)
アルミニウム床版で疲労について検討すべき箇所は,下フラン
R=0
100
50
す.測定された応力範囲は,疲労限度の半分以下である.
移動載荷疲労試験の結果,アルミニウム床版に疲労亀裂の発
10 4
10
生は認められなかったが,無収縮モルタルを用いた台座に乾燥
200
150
Δσ (MPa)
で,支間 2500mm は移動載荷疲労試験体と同じである.繰返し
108
300
討の結果,ひび割れ抵抗性が高い ECC を用いることになった.
載荷および端載荷疲労試験を行った.試験体の床版形材は 1 本
106
107
N (回)
(a) 下フランジ下面
収縮の影響と考えられるひび割れが発生した.これに対する検
ECC の疲労耐久性を調べるために,図-8(a)と(b)に示す中央
105
R = 0.15
100
50
載荷荷重は 7~70kN とした.70kN は,複輪 1 本の T 荷重 50kN
に衝撃を考慮した 70kN である.
10 4
10
疲労試験前の台座に乾燥収縮によるひび割れの発生は認めら
れなかった.中央載荷疲労試験を 319 万回行った後,端載荷疲
8
105
106
107
N (回)
108
(b) 摩擦攪拌接合部裏面
図-7 設計 S-N 曲線と測定値
労試験を 209 万回行ったが,ECC 台座にひび割れは認められなかった.
2,500
2,500
500
200 200
500
7~70kN
7~70kN
床版形材
ECC
(a)
200 200
(b)
中央載荷
端載荷
図-8 モルタル台座の疲労試験
5.舗装の疲労耐久性
移動載荷疲労試験で用いたアルミニウム床版上面に防水層,基層
(エポキシアスファルト混合物 40mm 厚)
,表層(排水性アスファ
ルト混合物 35mm 厚)を施工し,施工技術総合研究所に設置されて
いる,図-9 に示す屋外輪荷重疲労試験機を用いて舗装の疲労耐久性
を調べた.平成 22 年 3 月 1~16 日の 16 日間疲労試験を実施した.
同疲労試験の載荷装置のタイヤの数と配置寸法は,移動載荷疲労試
験のそれらと同じである.
載荷荷重は複輪 1 輪当たり 60kN であり,輪荷重を 44.5 万回ま
で繰返し与えた.これは 49kN 換算荷重で 100 万輪(交通量
区分 N5)に相当する 6).49kN 換算荷重で 100 万輪において
も舗装にひび割れ(疲労破壊)は認められなかった.
同じ舗装材を用いた,アルミニウム床版に施工された舗装
と鋼床版に施工された舗装 7)の,路面性状測定結果に関する
比較を表-1 に示す.後者が,49kN 換算荷重で 10 万輪まで
図-9 舗装の疲労耐久試験
表-1 路面性状測定結果の比較(10 万輪)
舗装
アルミニウム床版
鋼床版
わだち
掘れ量
(mm)
1.4
2.0
平たん性
σ
0.64
2.11
の調査結果なので,表-1 は,10 万輪における比較である.わだち掘れは橋軸直角方向,平たん性はタイヤ直
下の橋軸方向の路面性状を表す.表-1 に示すように,アルミニウム床版に施工された舗装は鋼床版に施工さ
れた舗装と,路面性状に関して同等かそれ以上であるといえる.
6.結論
道路橋用アルミニウム床版,モルタル台座およびアルミニウム床版に施工された舗装は,高い疲労耐久性を
有することが確認できた.
参考文献
1) 日本アルミニウム協会:アルミニウム合金土木構造物の摩擦攪拌接合部の品質検査指針(案),2008.
2) 土木学会:高力ボルト摩擦接合継手の設計・施工・維持管理指針(案),2008.
3) アルミニウム建築構造協議会:アルミニウム建築構造設計規準・同解説,2003.
4) 萩澤亘保,大倉一郎,花崎昌幸,大西弘志,佐藤正典:アルミニウム合金材の母材と摩擦攪拌接合部の
疲労強度に腐食が与える影響,土木学会論文集 A,Vol.62,No.3,PP.478-488,2006.
5) 萩澤亘保,大倉一郎:アルミニウム合金 A6005C-T5 の母材と摩擦攪拌接合部の疲労強度に応力比が与
える影響,土木学会論文集 A,Vol.65,No.1,PP.117-122,2009.
6) 日本道路協会:舗装設計施工指針,2006.
7) 寺田剛,伊藤正秀:工期短縮型舗装の開発,土木技術資料,47-8,pp.40-45,2005.
9
新しいアルミニウム合金桁の創出
大阪大学
正会員
大倉
一郎
1.はじめに
道路橋用アルミニウム床版の開発が盛んである一方,道路橋用アルミニウム合金桁の開発は遅れている.現在建
設されているアルミニウム歩道橋の桁は,設計条件は道路橋示方書と立体横断施設技術基準に従い,アルミニウム
合金の許容応力と製作はアルミニウム合金土木構造物設計・製作指針案(日本アルミニウム協会)に従っている.
アルミニウム合金桁の製作は,図 1 に示すように,鋼桁の製作方法と同じで,アルミニウム合金 A5083-O の圧延板
のウェブとフランジが MIG 溶接で連結され,さらに垂直補剛材と水平補剛材がウェブに MIG 溶接で連結される.
アルミニウム合金 A5083-O の 0.2%耐力は 125MPa であり,アルミニウム合金 A6061-T6 の 0.2%耐力 245MPa の約
半分である.一般に道路橋は歩道橋より規模が大きく,さらに道路橋の活荷重は歩道橋のそれより格段に大きくな
るので,0.2%耐力の低い A5083-O で道路橋を設計することは困難である.
したがって道路橋用アルミニウム合金桁の設計には,0.2%耐力の高い A6061-T6 などの 6000 系アルミニウム合金
の使用が必須である.しかし,6000 系アルミニウム合金は熱処理によって 0.2%耐力が高められているので,MIG
溶接を施すと,その熱影響範囲の 0.2%耐力が母材のそれの約半分まで低下する.したがって,6000 系アルミニウ
ム合金で,図 1 に示すような桁を製作した場合,垂直補剛材が存在する位置で MIG 溶接がウェブを横断するので,
この横断位置全長に渡って桁の強度が低下する.
そこで,6000 系アルミニウム合金の特徴を活かす新しい桁構造が必要とされ,図 2 に示すような,T 型断面の押
出形材を摩擦撹拌接合によって突合せ接合し,ウェブに等間隔に突起を配置した新しいアルミニウム合金桁が提案
された
1)
.この桁構造には垂直補剛材がなく,ウェブを横断する接合がないので,桁の一断面で強度低下が生じる
ことがないので,6000 系アルミニウム合金の使用が可能となる.しかし,この桁構造のウェブ断面の形状を決定す
る方法はまだ確立されていない.
2.断面積減少率と幅厚比の関係
図 3 を参照して,純曲げを受ける突起付き長方形板が所定の座屈強度を維持するとき,その断面積減少率と幅厚
比の関係が次式で与えられる 2).

s  1 r  2 
A 0 

1+


A0
 


(1)
ここに,η:断面積減少率,A:突起付き長方形板の断面積,A0:突起無し長方形板の断面積,β0:突起無し長方形
板の幅厚比,β:突起付き長方形板の幅厚比(=b/t)
,s:突起で区切られた板要素の総数,βr:突起の幅厚比(=b2/t2),
ξ:突起付き長方形板の板厚に対する突起の板厚の比(=t2/t).
式(1)が与える計算例を図 4 に示す.白丸の右側の破線は,突起で区切られた板要素が局部座屈を起こすので,適
用範囲外である.所定の純曲げ座屈強度 σcr を維持する突起付き長方形板の断面形状が保有する純せん断座屈断面強
σ
σ
b2
b1
度 Qcr が次式で与えられる 2).
b
t2
摩擦撹拌接合
隅肉溶接
a
図1
従来のアルミニウム桁
図2
突起付きアルミニウム桁
10
図3
純曲げを受ける突起付き長方形板
t
0.5


4(1   2 )  r3 4  
Qcr  3.781  0.791.59 
s 



 

 2 Eb 2
121   2  3
0.5
σcr=245MPa,β0=79,βr=10
1.1
1
(2)
0.9
b=1000mm の突起付き長方形板に対する Qcr と β の関係
η
0.8
を図 5 に示す.s の各値に対応する白丸の右側は適用範囲
0.7
外である.s の各値に対して,Qcr と β の関係ほぼ重なっ
0.6
ている.
0.5
曲げとせん断の組合わせ荷重を受ける,4 辺単純支持
0.4
された突起付き長方形板の座屈条件は次式で与えられる.
 


 cr
2
  Q
 
 Q
  cr
70
90
110
130
150
2

 1


190
210
230
250
η と β の関係
図4
(3)
(kN)
800
縁に生じる圧縮応力,σcr:純曲げ座屈強度,Q:せん断
700
力,Qcr:純せん断座屈断面強度.
600
500
Qcr
式(3)を Qcr について解いて次式を得る.
Q
2
170
β
ここに,σ:曲げ荷重によって,突起付き長方形板の上
Qcr 
s=7
s=6
s=5
s=4
s=3
400
s=3
300
(4)
  

1  

  cr 
式(4)の σ と Q に所定の値を代入して,Qcr の下限が求ま
s=4
200
s=5 s=6 s=7
100
0
る.例として,σ=120MPa,Q=150kN に対して Qcr  172kN
70
90
110
130
150
170
190
210
230
250
β
を得る.図 5 において,Qcr=172 kN に対する β の値は 157
図5
である.したがって,β  157 で Qcr  172kN が満足され
Qcr と β の関係
る.図 4 において,β  157 の領域で,s=5,β=157,  0.86
P=300kN
で η が最小値 0.60 をとる.
Bf
図 6 に示すように,前述の断面形状を有する突起付き
b H
長方形板を桁ウェブに適用する.ウェブ幅 b=1000mm,
L=15.0m
桁高 H=1035mm,上下フランジの板厚 tf=17.5mm である.
P=300kN
突起付きアルミニウム桁と突起無しアルミニウム桁の断
Bf
面寸法を表 1 に示す.突起付きウェブの断面積は突起無
b H
しウェブの断面積より減るので,フランジ応力を変わら
ないようにするためには,突起付きアルミニウム桁のフ
ランジ幅 Bf を大きくしなければならない.
L=15.0m
図6
突起付き長方形板の桁ウェブへの適用
突起無しアルミニウム桁の全断面積に対して突起付き
表1
アルミニウム桁のそれは 0.88 になる.突起付きアルミニ
突起無し
突起付き
ウム桁により桁断面積を大幅に減らすことができる.
参考文献
β
79
157
断面寸法
t(mm)
12.7
6.4
t2(mm)
b2(mm)
5.5
55.0
Bf(mm)
418.7
470.0
1) 大倉一郎,北村幸嗣,赤碕圭輔,卯瀧高久,ビッグ・ラズロ・ゲルゲリ,三河克己:新しいアルミニウム合金製
補剛桁の提案,構造工学論文集,Vol.51A,pp.203-210,2005.
2) 大倉一郎,寺川勝大:突起付きアルミニウム合金板の断面積減少率と幅厚比の関係,ALST 研究レポート,No.16,
2010.
11
構造用アルミニウム合金製制震ダンパーの開発研究
名城大学 フェロー会員 宇佐美 勉
1. 緒言
制震構造の要である制震ダンパーの研究は,土木分野でも研究が行われるようになってきている.最近では,制
震ダンパーの高機能化を目指し,橋梁のライフサイクルに渡って取り替え不要を目標に,大地震 3 回に耐えうるよ
うな高機能制震ダンパーの開発研究も行われるようになってきている
1),2)
.高機能制震ダンパーの要求性能として,
a)高いエネルギー吸収能を持つ,b)変形能力が大きい,c)低サイクル疲労強度が大きい,d)高い耐久性
を持つ,e)製作・施工が容易で安価である,f)取り替えが不要である,等が挙げられている 1).従来は鋼材
を用いた履歴型制震ダンパー(座屈拘束ブレース(BRB)
,せん断パネルダンパー(SPD)など)の高機能化
が研究されてきた.本話題提供では,構造用アルミニウム合金(以下,アルミと略称する)の履歴型制震ダン
パーへの適用の可能性に関する最近の研究成果 3),4)について述べる.アルミは耐食性が良く,軽量で施工性に優
れるため,上述の要求性能の一部を満たすが,要求性能 a)~c)については過去にほとんど研究がなされてこなかっ
た.次節では,3種類のアルミ(A5083P-O,A5052P-O,A6061S-T6)の繰り返し弾塑性挙動と弾塑性構成則につい
てまず述べる.構成則は,制震ダンパーの性能実験を補完するための数値解析に必要である.次いで,制震ダンパ
ーの素材として最も適すると考えられる A5083P-O 製 BRB を取り上げ,試作した BRB の性能を実験的,数値解
析的に検証した結果について述べる.最終節では,今後の研究課題についてまとめる.
2.構造用アルミニウム合金の繰り返し弾塑性構成則
繰り返し引張―圧縮載荷でのアルミの弾塑性構成則として,鋼材に対して開発された修正2曲面モデルをさ
らに修正して3種類のアルミ(A5083P-O,A5052P-O,A6061S-T6)に適用できるモデルが開発されている 3),5).
これらの素材の繰り返し引張―圧縮載荷試験によれば, SM400 鋼材の挙動との相違点は次のようにまとめ
られる.1)全てのアルミに対して降伏棚は見られない.2)5000 系のアルミは繰り返しひずみ硬化の影響
が鋼材に比べ大きく現れ,応力上昇が著しい.3)5000 系のアルミと鋼材との差が明確に見られるのは定ひ
ずみ振幅載荷時で,鋼材が1サイクルの繰り返しで定常状態に達するのに対し,5000 系アルミは数サイクル
を必要とする.4)6000 系のアルミの繰り返し弾塑性挙動は鋼材に類似しており,定ひずみ振幅載荷時でも
1サイクルで定常状態に達する.これらの知見を基に,5000 系アルミに対しては鋼材用の修正2曲面モデル
にさらなる修正を施したアルミ用弾塑性構成則が開発されている.また,6000 系アルミに対しては降伏棚の
ない SM570 の修正2曲面モデルをそのまま用いる.詳細については文献
3),5)
を参照されたい.図-1は,3種
類のアルミに対するランダム載荷実験結果と開発したアルミ用構成則による予測結果を比較したものである.
400
100
0
-100
-200
A505-L-R6
300
true-stress(MPa)
300
200
200
100
0
-100
Experiment
Prediction
-1
0
1
2
3
-300
-400
A606-L-R7
200
100
0
-100
-200
-200
-300
-400
400
400
A508-S-10
true-stress(MPa)
true-stress(MPa)
300
Experiment
Prediction
-1
0
1
2
3
-300
-400
Experiment
Prediction
-1
0
1
true-strain(%)
true-strain(%)
true-strain(%)
A5083P-O
A5052P-O
A6061S-T6
2
3
図-1 実験と予測結果の比較
実験データとシミュレーション結果の比較
図-1
3. 構造用アルミニウム合金(A5083P-O )BRB の性能
土木学会「鋼・合成構造標準示方書・耐震設計編(2008)」には鋼製 BRB の性能照査の規定があり,変形性能(発
生最大軸ひずみmax が限界軸ひずみu を越えない)
,および低サイクル疲労性能(累積塑性変形 CID が限界累積塑性
12
ひずみ CID)lim を超えない)の2つを確保することが定められている.一方,鋼製 BRB の高機能化に対する著者ら
の研究
1),2),6)
から得られた主要な知見をまとめると以下のようになる.1)高機能 BRB の要求性能は,目標性能と
して,安全性能に対する限界軸ひずみu=0.03,低サイクル疲労性能として限界累積塑性ひずみ CID)lim=0.7 を設定
すればよい.2)全体座屈防止条件に対する安全係数F が 3.0 以上の供試体は全体座屈を起こさず,高機能 BRB の
目標性能を満たす.
3)累積塑性変形 CID による低サイクル疲労照査法は安全側にある 6).ここでは,上記の 1),2)
の知見がアルミ BRB に適用できるかどうかを確認するために行った実験的,解析的研究の概要 4),5)について述べる.
BRB の全体座屈防止条件式:BRB は次式の安全係数F が 3.0 以上であれば全体座屈は生じないとされている.
1/ F  Py / PER  ( Py L / M yR )(a  d  e) / L
(1)
R
R
ここで,Py =ブレース材の降伏軸力, PE =拘束材のオイラー座屈荷重, M y =拘束材の降伏モーメント,L=ブレー
ス材長,a=BRB の最大初期たわみ,d=ブレース材と拘
30 65 65 30
190
10
性能実験概要と結果:ブレース材には溶接性が良く構
190
80 30 120 60 30
1375
30 65 65 30
30 60 120 30 80
束材間の面外隙間量,e=軸力の偏心量である.
造材に多く用いられている A5083P-O(0.2=122MPa),
拘束材には強度が高く,耐食性に優れている
30 120 3045
10
1565
4530 120 30
100
12
A6061S-T651(0.2=283MPa)を使用した.ブレース材
は図-2 に示す端部にリブを溶接した平板,拘束材は平
2015
型材を面削した図-3 に示す断面形状を採用し,安全係
図-2 ブレース材全体図
数Fの値を変化させるため,板厚 tf が異なる表-1 に示す 2 種類の
アンボンド材
2
供試体を製作した.供試体 A1,A2 は全体座屈が生じ,供試体 A3~A5
ブレース材
(100×10)
は全体座屈が生じないと考えられる BRB である.載荷装置には名
2
城大学高度制震実験・解析研究センター(ARCSEC)の大型構造実
tf
1
験フレームを用い,両側繰り返し変動ひずみ振幅の漸増載荷実験を
tf
1
10
行った.
拘束材
48
性能実験より得られた軸方向荷重 P/P0-軸方向変位0関係(こ
48
200
[mm]
こで,P0=A 0,0=( 0/E) L,  0=0.8 0.2)を図-4 に示す.図の A2
図-3 BRB の断面構成図
供試体は圧縮側で BRB が全体座屈を生じること
4
体は,引張側でブレース材端部のリブ溶接部止
端部に生じたクラックが進展して破断した.ア
ルミニウム合金はひずみ硬化の影響が顕著に現
れ,引張強度(300MPa)に達したため破断した
P/P0
供試体も同様の結果が得られた.一方,A5 供試
4
A5
3
3
2
2
1
1
P/P0
により耐力が低下して実験を終了した.また A1
破断
0
0
-1
-1
-2
-2
-3
-3
-4
A2
-4
-15
-10
-5
0
5
10
/0
15
全体座屈
-15
-10
-5
0
5
10
15
/0
と考えられる.また A3,A4 供試体も同様な結果
が得られた.全ての供試体において破断,もし
くは全体座屈に到るまでは安定した紡錘形の履
歴曲線が得られている.表-1 は実験結果をまと
めたものである.安全係数F が 3.0 以上である
(A5)
全体座屈
(A2)
リブ溶接部の破断
供試体(表中の着色部)は全体座屈が発生せず,
図-4 ブレース材の荷重-変位関係
3.0 以下の供試体は全体座屈を生じたことが分
かる.なお安全係数Fは全て公称値を用いて計算し,a=L/1000,d=1mm,e=0.0 を用いた.また上記で示した目標
性能を全ての供試体において保有していないものの,破断した供試体は全て溶接部から破断していることから,全
13
体座屈を生じなかった安全係数F>3.0 の BRB は,溶接部の応力集中の緩和,端部形状の変更などでこれらの値はよ
表-1 性能実験結果まとめ
り向上すると考えられる.
解析的検討:図-5 に示す本解析モデルは,2
次元の両端単純支持柱モデルであり,軸方向
の対称性からその 1/2 モデルである.繰り返
し構成則には新たに開発したアルミニウム
合金用弾塑性構成則を使用した.解析手法は,
表-1 性能実験結果まとめ
M yR 

Py L  nominal
F
全体座屈
発生?
累積塑性軸
ひずみ
CID [%]
最大軸
ひずみ
max[%]
[mm]
PER 

Py  nominal
(A1)AL20-1
(A2)AL20-2
20
20
2.98
2.98
0.0569
0.0569
2.79
2.79
YES
YES
28
22
1.34
1.75
(A3)AL25-1
25
5.90
0.0901
5.41
NO
25
2.25
(A4)AL25-2
(A5)AL25-3
25
25
5.90
5.90
0.0901
0.0901
5.41
5.41
NO
NO
34
30
1.45
1.34
tf
供試体
Timoshenko はり要素を用いた繰り返し複合
y
非線形解析である.全体座屈を生じた供試体を対象
剛体はり要素
拘束材(はり要素)
剛体はり要素
とし,摩擦の影響と偏心載荷の影響について摩擦係
数,偏心量 e を変化させパラメトリックに解析を
偏心量e
行い実験結果と比較検討を行った.A2 の解析結果を
P
ブレース材(はり要素)
隙間量d
図-5 に実験結果と併せて示す.摩擦係数=0.05,偏
初期たわみa
x
L/2
心量 e =-1.8mm 初期たわみの方向と反対側に偏心さ
図-5 解析モデル概要図
せることにより実験結果と同様のループで全体座屈
が発生した.これは避けられない偏心軸力が実験で
作用していたと考えられる.
4
4.結言
試作した A5083P-O 製 BRB はひずみ硬化が大きく,
3
また,溶接部の疲労強度低下の影響で高機能 BRB の目
2
極端に大きなひずみの生じない箇所に設置すれば,レベ
ル 2 地震一回程度であれば十分使用が可能と思われる.
1
P/P0
標性能に達する前に低サイクル疲労により破断したが,
 =0.05,e=-1.8mm
A2
0
-1
全体座屈(解析)
-2
また,ブレース材端部のリブ溶接部の応力集中の緩和
-3
などで性能は向上すると考えられる.ひずみ硬化が比較
-4
的小さい 6000 系アルミの使用が有望と思われるが,
実験
解析
全体座屈(実験)
-15
-10
-5
0
5
10
15
/0
この材料は溶接による強度低下が大きいと報告され
ている.そこで,溶接を行わない供試体の製作方法を
図-6 実験と解析結果の比較
考案する必要があるが,すべてボルト接合によるブレ
ース材の組み立て方法を現在試作中である.
参考文献
1) 宇佐美勉:高機能制震ダンパーの開発研究(特別講演),第10回地震時保有耐法に基づく橋梁等構造の耐震設計
に関するシンポジウム講演論文集,土木学会,pp.11-22, 2007.2.
2)宇佐美勉,佐藤崇,葛西昭:高機能座屈拘束ブレースの研究開発,土木学会構造工学論文集 Vol.55A, pp.719-729,
2009.3.
3)倉田正志,佐藤崇,宇佐美勉,葛西昭,萩澤亘保:構造用アルミニウム合金の繰り返し弾塑性構成則,土木学会
論文集 A, Vol. 65, No. 4, pp.980-993, 2009.10.
4)佐藤崇,宇佐美勉,
:構造用アルミニウム合金BRBの性能実験と解析, 土木学会論文集A, 印刷中
5)倉田正志,宇佐美勉:構造用アルミニウム合金の繰り返し弾塑性構成則の開発と制震ダンパーの開発研究,平成
22 年度土木学会第 65 回年次学術講演会,2010.9.
6)宇佐美勉,佐藤崇:座屈拘束ブレースの低サイクル疲労実験と照査法,構造工学論文集,Vol.56A,pp.486-498,
2010.3.
14
Fly UP