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電気化学検出器の特長とアプリケーション例 - Thermo Fisher Scientific
TR018YS-0105 200206 200706 電気化学検出器の特長とアプリケーション例 【はじめに】 1 視吸光光度検出器、電気化学検出器、蛍光検出器などの検 出器が用いられます。最も多く使用されている電気伝導度検 出器はイオン成分を高感度に検出することができる反面、選 Voltage(V) イオンクロマトグラフィーでは、電気伝導度検出器、紫外/可 0.5 0 -0.5 択性が乏しく測定目的イオン以外のイオンも検出することがあ -1 0 ります。一方、電気化学検出器は電極表面で酸化または還元 10 20 30 Time (sec) する成分だけを検出することができる比較的選択性の高い検 出器です。おもにシアンや糖質、アミノ酸の検出器として用い 図 1 サイクリックボルタンメトリの電圧印加例 られています。 この技術資料では、電気化学検出器の検出原理を解説す E1 るとともに、アプリケーション例を紹介します。 【検出原理】 E2 化あるいは還元反応の結果生じる電流もしくは電位を検 出します。酸化反応が起こると、電気的に活性化された分 子から電気化学検出器セルの作用電極へ電子が移動しま す。これに対して還元反応の場合は、作用電極から電子が 酸化電流(A) 電気化学検出器は、作用電極表面での分析目的分子の酸 E3 0 放出されます。多くの成分はこのような酸化、還元反応を 起こさず、電気化学検出器で検出されないため、酸化ある いは還元されやすい成分を選択的に、また高感度に検出す ることができます。 -0.5 0 0.5 作用電極と参照電極の電位差(V) 図 2 金電極におけるグルコースのボルタングラム 【モード】 ダイオネクス製電気化学検出器は、電極に印加する電流 図 2 において、点線は 100 mmol/L 水酸化ナトリウムのバッ シーケンスが異なる 4 種類のモードを装備しています。これら クグランドスキャンです。-0.8 V から印加電圧を徐々に上昇さ は、ボルタンメトリモード、D.C.アンペロメトリモード、パルスドア せると、電流値はおよそ 0.25 V で上がり始めます。これは金 ンペロメトリモード、インテグレーテッドアンペロメトリモードです。 電極表面での酸化が 0.25 V で始まることを表しています。0.6 それぞれのモードの特長を以下に述べます。 V まで電圧を上げてから電圧を下げると、電極表面の金の酸 A) ボルタンメトリモード 化物が金に還元され 0.1 V 付近で、スキャンが反転して負の ピークとなります。溶液中にグルコースを加える(実線)と、およ ボルタンメトリモードは、他のモードにおける最適印加電流 そ 0.26 V で酸化物のピークが現れます。電圧をかけ続けると 値を決める際に使用するモードです。セルに溶離液と試料を 金の酸化がすすみ、グルコースの酸化電流は下がります。酸 導入した状態で、図 1 のような時間に対して 2 段階に変化する 化電流が下がるのは、酸化物の量が多いためと、金電極が酸 電圧を印加します。その結果をボルタングラムとして表します。 化されることでグルコースの酸化を妨害しているためです。ス 図 2 に 100 mmol/L 水酸化ナトリウム溶液中のグルコース キャンを逆転させると、金電極の酸化物が還元された時点で のボルタングラムを示します。 負から正に反転します。このことは、酸化被膜のない金電極表 面でのグルコースの酸化が、金の酸化物によって阻害される ということを示しています。もし D.C.アンペロメトリモードで検出 をおこなうのであれば、グルコースの酸化電流が一番高く、バ ックグランド電流が一番低い 0.2 V の印加電圧を選択すべき 1 電極の酸化 する酸化被膜の影響で急速に感度が低下します。そこでまず 0.1 V での酸化電流を測定した後、0.6 V まで印加電圧を上 げ、それから-0.6 V に下げるような設定を繰り返して、電極表 面の酸化物を取り除き、感度を維持します。(通常は 0.2 V よ Voltage (V) です。しかし一定電圧を印加しつづけると、電極表面に生成 0.5 0 積分時間 りもバックグランド電流が低い 0.1 V を初期電圧として使用しま す。)初期電圧は金の酸化に必要な電圧以下に設定すること 電極の還元 -0.5 0 が重要になります。 0.2 0.4 0.6 Time(sec) 0.8 1 図 4 パルスドアンペロメトリの電位波形例 1 B) D.C.アンペロメトリモード このモードは電極に一定電圧を印加するモードで、シアン のような比較的酸化物のできにくい成分を測定する場合に用 糖質分析には、図 5 に示す 4 電位を印加すると電極の消耗 を抑えシグナル、ノイズ比が改善します。 います。D.C.アンペロメトリモードでは、印加電位を増加させる 1 と、ピーク高さも増加します。図 3 には試料としてセロトニンを 図からセロトニンに対する最適電位は 0.7 V であることがわか ります。測定分子の酸化もしくは還元によって生じる電流は、 多くのファクターに依存しています。中でも最も重要なものは Voltage (V) 用いたときの印加電圧とピーク面積値の関係を示します。この 0 積分時間 -1 測定目的分子の濃度で、他に温度や作用電極の表面積、作 -2 用電極表面を流れる溶媒の粘度などがあります。 0 0.1 Peak Area 1500 0.2 0.3 Time(sec) 0.4 0.5 図 5 パルスドアンペロメトリの電位波形例 2 パルスドアンペロメトリモードでは、電圧を一定時間印加した 1000 後の数百ミリ秒間だけ積分をおこないます。これは、酸化およ び還元電位を印加することによって起こるバックグランド電位 500 の変動が、ノイズの原因となることを防ぐためです。 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 作用電極と参照電極の電位差(V) 1 図 3 印加電圧とピーク面積値の関係(試料:セロトニン) D. インテグレーテッドアンペロメトリモード パルスドアンペロメトリモードの応用で、インテグレーテッド アンペロメトリモードがあります。このモードの電位波形を図 6 に示します。 C) パルスドアンペロメトリモード パルスドアンペロメトリモードは、積分電圧、クリーニング(酸 0.8 し印加するモードです。電圧を変化することによって、電極表 面に生成した酸化物を除去することができ、検出感度を一定 に維持できます。図 4 にパルスドアンペロメトリモードにおける 印加電圧例を示します。 パルスドアンペロメトリモードは、糖質だけでなくアルコール 類やアルデヒド、アミン、硫黄などの官能基を持つ成分の検出 モードとして確立されています。これらの成分は金や白金電極 Voltage (V) 化)電圧、還元電圧の 3 つの電圧をわずかな時間の間に繰返 0.4 0 -0.4 積分時間 -0.8 0 0.2 0.4 0.6 0.8 Time (sec) 上で酸化されて、その酸化物が電極表面に蓄積し、次の酸化 還元反応を妨害します。酸化物の蓄積を防ぐために正と負の 図 6 インテグレーテッドアンペロメトリモードの電位波形 高い電圧を電極に交互に印加して、電極表面を安定で活性 化した状態に保ちます。 このモードは、電極の酸化によって起こるバックグランド電 圧の影響を最小限にできるため、金属電極表面で金属の酸 化物によって酸化が促進されるようなアミンやスルホン酸基を 持つ成分の検出に有効です。また、pH 変化の影響を受けに くいという特長もあるため、pH 変化を伴うようなグラジエント分 析の際にも、ベースラインの変動を抑制することができます。 図 7 にボルタングラムによるインテグレーテッドアンペロメトリ A B 1 2 1 Voltage (V) モードとパルスドアンペロメトリモードの比較を示します。パル スドアンペロメトリではパルスと遅延時間を除く一定な電圧が 測定されるのに対して、インテグレーテッドアンペロメトリモード 2 では酸化電圧および還元電圧の両方が印加されている間も 0.5 0 -0.5 1 0 荷はほぼゼロとなります。 0 6 12 Time (min) 図8 パルスドアン ペロメトリー 酸化電流(A) 0.5 1 Time (sec) インテグレーテッド アンペロメトリー 0 6 12 Time (min) 積分時間を変えたときのクロマトグラムの違い 【電気化学検出器の検出対象成分】 分析対象成分 アルコール類、アルデヒド類 1,2,3 級アミン類 1,2,3 級アミン類 糖質 カテコールアミン フェノール シアン、硫黄 ヨウ素 亜硫酸、亜ヒ酸 硫化物、チオール、メルカプタン 0 -0.5 B -1 測定がおこなわれます。測定目的成分がなければ、正味の電 -1.0 A 0 0.5 1.0 作用電極と参照電極の電位差(V) 図 7 インテグレーテッドアンペロメトリ(実線)と パルスドアンペロメトリ(点線)の比較 試料;ロイシン、電極;金、溶媒;100mmol/L 水酸化ナトリウム インテグレーテッドアンペロメトリの利点は、酸化や還元の際 に生じる電荷を測定しないため、ベースラインノイズを最小限 にできる点です。図 8 に積分時間の違いによるクロマトグラム の差を示します。酸化物が生成されている間に生じる電流だ 検出方法 PA PA IntePA IntePA PA D.C. D.C. D.C. D.C. IntePA 作用電極 Pt Au Au Au GC Pt Ag Pt Pt Au ・PA:パルスドアンペロメトリ ・IntePA:インテグレーテッドパルスドアンペロメトリ ・D.C.:D.C.アンペロメトリ ・ Pt:白金電極 ・ Au:金電極 ・ GC:グラッシーカーボン電極 ・ Ag:銀電極 【アプリケーション例】 A. 尿中のカテコールアミン けを測定すると、ベースラインシフトは大きくなります(図 8-A)。 また、成分の応答値よりも電極の酸化抑制の影響が大きいた め、ピークはマイナス方向に検出されます。正と負の電位を印 加している間に積分をおこなうと、ベースラインシフトもなくなり、 正の方向にピーク検出できます(図 8-B)。 カラム Zorbax C-18 溶離液 クエン酸/酢酸/メタノール/オクタンスルホン酸 /EDTA 溶離液流量 1.0 mL/min 検出器モード D.C.アンペロメトリ 作用電極 グラッシーカーボン(印加電圧 0.65 V) 試料導入量 20 µL ピーク (µg/L) 1. ノルエピネフリン 2. エピネフリン 3. DHBA 4. ドーパミン B. シアン化物イオン 100 D. ヒドラジン 10 80 8 CN− 1 mg/L ヒドラジン 0.1 mg/L 6 nA nC 60 4 40 2 20 0 0 0 2 4 6 8 10 12 Time (min) カラム IonPac AG15、AS15 溶離液 38 mmol/L NaOH 溶離液流量 1.0 mL/min 検出モード D.C.アンペロメトリ 作用電極 銀電極 (印加電圧 0.0 V) 試料導入量 25 µL 14 16 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Time (min) カラム IonPac CG3、CS3 溶離液 30 mmol/L HCl 6 mmol/L ジアミノプロピオン酸・一塩酸塩 溶離液流量 1.0 mL/min 検出モード パルスドアンペロメトリ 作用電極 白金電極 (印加電圧 0.5 V) 試料導入量 50 µL E. ヨウ化物イオン 4 C. 硫化物イオン 4 -2 0 S− 10 mg/L 3 3 nC µA 2 2 1 I− 50 µg/L 1 0 -1 0 0 1 2 3 4 5 6 7 Time (min) 8 9 10 0 2 Time (min) IonPac AG11、AS11 カラム IonPac AG16, AS16 カラム 溶離液 50 mmol/L NaOH 溶離液 50 mmol/L HNO3 溶離液流量 1.0 mL/min 溶離液流量 1.5 mL/min 検出モード D.C.アンペロメトリ 検出モード パルスドアンペロメトリ 作用電極 銀電極 (印加電圧 0.0 V) 作用電極 銀電極 (印加電圧 0.05 V) 25 µL 試料導入量 50 µL 試料導入量 4 H. 単糖と糖アルコール 0.3 F. シスチン、システイン 1.2 1.0 3 L-CYSTEINE 10 mg/L 0.6 L-CYSTINE 10 mg/L 0.4 5 6 µC µC 2 0.2 0.8 1 4 7 0.1 8 0.2 0 0 -0.2 0 5 10 15 20 Time (min) 25 0 30 5 10 15 20 25 Time (min) 30 35 40 CarboPac MA1 Guard、MA1 カラム OmniPac PAX 100 Guard、PAX 100 カラム 溶離液 0.1 mol/L HClO4、0.15 mol/L NaClO4 溶離液 0.48 mol/L NaOH 溶離液流量 1.0 mL/min 溶離液流量 0.4 mL/min 検出モード インテグレーテッドパルスドアンペロメトリ 検出モード インテグレーテッドパルスドアンペロメトリ 作用電極 金電極 作用電極 金電極 試料導入量 50 µL 試料導入量 25 µL ピーク (各 100 µmol/L) G. 単糖 40 nC 30 1 2 3 4 5 20 2. フコース 3. アラビトール 4. ソルビトール 5. マンニトール 6. マンノース 7. グルコース 8. ガラクトース I. 多糖 120 6 10 1. キシリトール 100 0 80 5 10 15 Time(min) 20 CarboPac PA1 Guard、PA1 40 20 カラム 溶離液 16 mmol/L NaOH 溶離液流量 1.0 mL/min 検出モード インテグレーテッドパルスドアンペロメトリ 作用電極 金電極 試料導入量 60 nC 0 0 0 10 20 30 Time (min) 40 CarboPac PA1 Guard、PA1 カラム 25 µL ピーク (各 2.5 µmol/L) 溶離液 NaOH、酢酸ナトリウムグラジエント 1.0 mL/min 1. フコース 2. ガラクトサミン 溶離液流量 3. グルコサミン 4. ガラクトース 検出モード インテグレーテッドパルスドアンペロメトリ 6. マンノース 作用電極 金電極 5. グルコース 試料導入量 25 µL 試料 アミロペクチン加水分解物 50 K. アミノ酸 J. アルコール類 7 400 Hys 6 6 5 300 4 Thr 3 5 2 1 4 3 Arg 7 2 11 8 Asp Lys 200 Ser nC nC 9 12 Ala Gly 100 10 1 0 Cys-Cys Phe Pro Tyr Glu Val Met Leu Ile Nle 0 0 5 10 15 20 25 30 Time (min) 35 0 40 5 10 15 20 Time (min) 25 30 35 IonPac ICE-AS1 カラム 溶離液 50 mmol/L HClO4 溶離液 NaOH/ 酢酸ナトリウム グラジエント 溶離液流量 0.8 mL/min 溶離液流量 0.25 mL/min カラム 40 AminoPac PA10 Guard、PA10 検出モード パルスドアンペロメトリ 検出モード インテグレーテッドパルスドアンペロメトリ 作用電極 白金電極 作用電極 金電極 試料導入量 25 µL 試料導入量 25 µL ピーク (各 20 µmol/L) ピーク(µg/L) 1. ソルビトール 50 2. キシリトール 50 3. エリスリトール 50 4. グリセロール 20 5. エチレングリコール 20 6. メタノール 50 L. 亜ヒ酸 7. エタノール 50 8. 2-プロパノール 200 20 11. 1-ブタノール 200 10. 2-ブタノール 100 12. 3-メチル-1-プロパノール 300 2- 200 AsO2 : 2 mg/L 10 nA 9. 1-プロパノール 0 -10 0 カラム 2 4 6 8 Time (min) 10 12 14 IonPac ICE-AS1 溶離液 20 mmol/L HNO3 溶離液流量 1.0 mL/min 検出モード D.C.アンペロメトリ 作用電極 白金電極 (印加電圧 0.2 V) 試料導入量 25 µL 電子署名者 : Jun Kato DN: CN = Jun Kato, C = JP, L = Yodogawa-ku Osaka-city, S = Osaka, O = Nippon Dionex k.k. 理由 : この文書の承認者 場所 : 大阪市淀川区西中島6-3-14 日付 : 2007.08.25 12:35:43 +09'00'