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報告書 - 岡山県総合教育センター

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報告書 - 岡山県総合教育センター
F1-07
総合的な学習の時間
文化への関心とコミュニケーションを図ることへの意欲を高める小学校英語活動の工夫
岡山市立建部小学校
黒
教諭
田 和
子
研究の概要
本研究では,小学校高学年の英語活動において,児童の文化への関心とコミュニケーションを図
ることへの意欲を高めるための工夫を試みた。その結果,文化を題材にして,文化に触れる活動と
コミュニケーション活動を組み合わせた授業構成は,児童の文化への関心とコミュニケーションを
図ることへの意欲を高めることに有効であった。
キーワード 小学校,英語活動,文化,コミュニケーション活動
Ⅰ
主題設定の理由
第15期中央教育審議会第一次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」では,国
際化への対応として提言された三つの視点の中に,「コミュニケーション能力の育成を図ること」
が挙げられている。グローバル化が進む社会の中で,異文化を持つ人々とかかわる機会が増えてい
る現状では,互いの文化を尊重する態度や相手と意思の疎通を図ったり,自分の思いをきちんと伝
えたりする能力を身に付けることが大切となってくる。国際理解に関する学習の一環としての小学
校英語活動は,このような態度や能力を育成するための重要な役割を担っているものと考える。
本校では,ALTが中心となって,ゲームを取り入れた英語活動を年間10時間行ってきた。これ
により,児童は英語活動に楽しく取り組むことができている。しかし,文化を題材にした活動や様
様なコミュニケーション活動に取り組んだ経験は少なく,文化の違いを面白いと感じたり,積極的
にコミュニケーションを図ろうとしたりする児童は多くない。このような児童に対して,特に高学
年では,児童の発達段階を考慮し,ゲーム的な要素のある活動とともに文化に対する知的好奇心を
満たすような活動を工夫し,コミュニケーションを図ることへの意欲を高めることが必要であると
考える。また,高学年にふさわしい活動の工夫は,先行研究においても課題として挙げられている。
そこで,高学年の児童を対象にして,児童に身近な暮らしや遊びなどの文化を題材に取り上げ,
児童が異文化を知り,自国文化と比べたり,体験したりすることを通して,文化に対する興味を持
つことができるようにしたい。そして,「もっと知りたい」「実際に体験してみたい」という児童
の欲求を基にコミュニケーション活動を行うことで,コミュニケーションを図ることへの意欲を高
めたいと考え,本主題を設定した。
Ⅱ
研究の目的
小学校高学年の英語活動において,授業実践を通して児童の文化への関心とコミュニケーション
を図ることへの意欲を高めるための工夫について探る。
Ⅲ 研究の内容
1 基本的な考え方
(1) 文化に触れる活動について
異文化や自国文化への興味は,英語教育や国際理解教育を進める上で,大きな動機付けになる
ことから,文化的な内容を扱った英語活動を取り入れることは,小学校段階では大切であると考
える。佐野(1995)は,異文化についての知識と同様に,文化による価値観や発想の差を理解す
ることや実際に異文化間コミュニケーションを体験することの重要性を指摘し,知識を持ってい
るだけではなく,それを価値観と結びつけて理解し,体験することがコミュニケーションを図る
ために生きた力となると述べている。また,伊藤(2000)は,小学校で扱うべきものとしては,
- 87 -
生活文化が適切であると述べて,
表1 文化に触れる活動の段階
衣食住・日常生活・伝統文化・行
段階
内 容
具 体 例
事・レジャーなどを挙げている。
知 る 文化について知る活動
クイズやQ&A
そこで,これらの考えを基に,児
気付く 類似点や相違点に気付く活動
日本文化との比較
童が異文化や自国文化の中の生活
異文化間のコミュニケーション ALTや外国人と
文化について「知る」段階,日本
親しむ
を体験する活動
の交流
文化と比較することで類似点や相
違点に「気付く」段階,実際に異
文化を持つ人とコミュニケーションを体験する「親しむ」段階の三つの段階を設定し,これらの
段階を踏んだ活動を「文化に触れる活動」とする(表1)。児童が,文化に触れる活動を通して
「文化について知ること・考えることは面白い」と感じ,知的好奇心から,「もっと知りたい」
「実際に体験したい」という欲求を持つことができるようにする。そして,この興味や欲求を基
に,それぞれの段階で関連のある英語表現を使った次のようなコミュニケーション活動を同じ時
間の中で行うことで,更に文化への関心を高めるようにする。
(2) コミュニケーション活動について
小学校英語活動にお
表2 コミュニケーション活動の段階
いては,身近で簡単な
段階
内 容
具 体 例
英語を聞いたり,話し
新しい表現が分かり,発話を聞 ビンゴゲーム・カルタとり・はえた
たりすることが中心と
分かる き取ったり簡単な発話をしたり たきゲーム・伝言ゲーム・3ヒント
なる。児童のコミュニ
クイズ・サイモンセズ等
する活動
ケーションを図ること
児童が決まった発話を繰り返し フルーツバスケット・ドンじゃんけ
への意欲を高めるため
慣れる たり進んで相手に発話したりす ん・スネークスアンドラダーズ・ には,文化に触れる活
る活動
ファッツザタイムミスターウルフ等
動に関連のある英語表
設定された場面の中で会話をす 買い物ゲーム・仲間さがしゲーム・
現を材料にし,コミュ
親しむ る活動
インタビューゲーム・道案内等
ニケーション活動を行
い,児童が無理なく英
語表現に親しむことができるようにすることが必要であると考えた。そこで,相手の発話を聞き
取ったり簡単な発話をしたりする「分かる」段階,児童が決まった発話を繰り返したり進んで相
手に発話したりする「慣れる」段階,設定された場面の中で,会話をする「親しむ」段階の三つ
の段階を踏んだコミュニケーション活動を行う(表2)。また,文化に触れる活動に関連のある
英語表現も単語から文へと発展するようにする。「分かる」段階や「慣れる」段階では,「聞い
て分かった」「言うことができた」という気持ちを,「親しむ」段階では,「学んだ英語表現を
実際の場面で使うことができた」「自分の思いを伝えることができた」という満足感を児童が味
わうことができるような活動にして,コミュニケーションを図ることに対する意欲を高めたい。
また,言葉によるコミュニケーションだけでなく,アイコンタクトやジェスチャーなどの非言語
を使うことの大切さも児童に伝えていく。
(3) 文化に触れる活動とコミュニケーション活動をつなぐ「親しむ」活動について
単元の終わりには,文化に触れる活動とコミュニケーション活動をつなぐ「親しむ」活動を位
置付ける。「親しむ」活動は,会話を主体としたコミュニケーション活動で,異文化を持つ人と
コミュニケーションを図ったり文化を体験したりする。「親しむ」活動を通して,児童が段階を
踏んで触れてきた文化に対して理解を深め,もっと知りたいという興味を持つことができるよう
にする。また,段階を踏んで学んできた英語表現を使ってコミュニケーションを図ることができ
たという満足感を味わうことができるようにする。この理解や興味,満足感がコミュニケーショ
ンを図ることへの意欲を高めると考える。
- 88 -
2 実態調査
(1) 実態調査の目的
第5・6学年児童の英語活動と異文化やコミュニケーションに対する意識を把握し,指導・支
援の手だてを探る。
表3 調査の内容と結果(N=60)
(2) 調査の計画
調査の観点
設 問
人数
① 調査対象:岡山市立建部小学校
英語の授業は「いつも,だいたい楽しい」
55
英語活動
第5学年33人,第6学年27人
外国のことを聞いて面白いと「よく思う」
② 実施時期:平成18年5月26日
42
「ときどき思う」
③ 調査内容
異文化
外国のことをもっと知りたいと「よく思
44
次の3点について4件法で調査した。
う」「ときどき思う」
ア 英語活動に対する意識
英語を使って話をするのは「とても楽し
44
イ 異文化に対する意識
い」「楽しい」
ウ コミュニケーションに対する意識
コミュニケ 言いたいことが相手に伝わってうれしかっ
34
(3) 調査結果と考察
たことが「よくある」「ときどきある」
ーション
① 調査結果(表3)
ALT以外の外国人と英語で話してみたい
33
と「よく思う」「ときどき思う」
ア 英語活動に対する意識
英語活動については,60人中55人の児
童が「いつも楽しい」「だいたい楽しい」と答えている。大部分の児童がその理由としてゲーム
を挙げている。一方,楽しくない理由としては,「よくわからない」「難しい」を挙げていた。
イ 異文化に対する意識
外国のことを聞いて面白いと「よく思う」「ときどき思う」と答えた児童は60人中42人で,外
国のことに対してもっと知りたいと「よく思う」「ときどき思う」と答えた児童は60人中44人で
あった。
ウ コミュニケーションに対する意識
英語を使って話をすることに対して「とても楽しい」「楽しい」と答えた児童は60人中44人で,
言いたいことが相手に伝わってうれしかったことが「よくある」「ときどきある」と答えた児童
は60人中34人であった。また,ALT以外の外国の人と英語で話してみたいと「よく思う」「と
きどき思う」と答えた児童は,60人中33人であった。
② 調査結果の考察
本校の英語活動はゲームを中心としたもので,多くの児童が「ゲームがあるから英語活動は楽
しい」と答えている。ゲーム的な要素は小学校段階では欠かせないものと思われる。しかし,異
文化や自国文化を題材にした授業を,これまであまり行っていなかったこともあり,文化につい
て知ることは面白いと思ったり,もっと知りたいと思ったりするなどの文化に対する興味を持っ
ている児童はやや少なかった。また,英語でコミュニケーションを図ることへの満足度も高くは
なく,自分の言いたいことが伝わってうれしいという経験のある児童は少なかった。
この結果から,児童が好むゲーム的な要素を取り入れながら,文化を題材にして文化に触れる
活動とコミュニケーション活動を工夫し組み合わせることで,児童が文化に興味を持ったり言い
たいことが伝わったという満足感を持ったりすることができる授業にする必要があると考えた。
Ⅳ 実践の内容
岡山市立建部小学校第5学年34人,第6学年27人の児童を対象に実践した。実践Ⅰ(平成18年6
月~7月)では,オーストラリアのキャンティーンを題材に,異文化を体験する英語活動「Happy
Lunch at Takebe Canteen 」を行った。実践Ⅱ(平成18年10月~11月)では,身近な自国文化を題
材に,外国の人に自国文化を発信する活動「伝えよう!日本の文化」を行った。学習活動と展開・
支援の工夫を表4に示す。
- 89 -
表4
時
学習活動
「Happy Lunch at
Takebe Canteen」
① 日本とオーストラリ
アの昼食の取り方の
違いを知ろう
授
業
実
践
Ⅰ
② 日本とオーストラリ
アの通貨を知ろう
(
③ キャンティーンでの
やりとりを知ろう
)
4
時
間
④ キャンティーンを
体験してみよう
学習活動と展開・支援の工夫 (◎は目標
展開・支援の工夫
オーストラリアのキャンティーン
知 ◎オーストラリアの昼食の取り方を
知り,日本の給食との類似点や相
違点に気付くことができる。
○写真やメニュー表などを準備し,
る
日本の給食と比べやすくする。
通貨の違い
・ ◎通貨や物価について知り,類似点
や相違点に気付くことができる。
○本物のお金を見たり,換算して物
気
の値段を比べたりして体験的に学
ぶことができるようにする。
付
キャンティーンでのやりとり
◎キャンティーンでのやりとりの仕
く
方を知る。
○ALTと担任とのデモンストレー
ションを見て,キャンティーンの
やりとりの仕方を知る。
親
し
む
「伝えよう!
日本の文化」
① 日本の文化を知ろう
② 紹介の仕方を知ろう
~
~
授 ③ 台本を作ろう
業
実 ⑥ 紹介の英語を教えて
践
もらおう
Ⅱ ⑧ 準備と練習をしよう
( 文化に触れる活動
~
身近な日本の文化
知 ◎身近な日本の文化を想起すること
ができる。
○ALTの話を聞いたり絵を示した
りすることで想起しやすくする。
英語での紹介の仕方
◎英語での紹介の仕方を知る。
る ○2種類のデモンストレーションを
示すことで,分かりやすい紹介の
仕方について気付くことができる
・
ようにする。
日本の文化の紹介の台本づくり
◎グループで発表の台本を作る。
気 ○紹介の台本づくりを通して,日本
の文化について調べたり,お手玉
やあやとりなどの技を練習したり
付
できるようにする。
(
~
く
)
・
親
~
⑫ ゲストティーチャー
に日本の文化を発表
しよう
し
む
/ コミュニケーション活動 )
好きなメニュー当てゲーム
◎キャンティーンのメニューの英
語表現が分かる。
○既習の“Do you like~?”を
使った予想当てゲームを通して
メニューの英語表現が分かる。
伝言ゲーム
◎キャンティーンのメニューの英
語表現に慣れることができる。
○“I like ~.”を使って好きな
メニューを表し,伝言ゲームを
通して英語表現に慣れる。
ぷちお客さんゲーム
◎キャンティーンでの店員と客の
やりとりが分かり,慣れること
ができる。
○指示された物を二人組で買うゲ
ームを通して,やりとりの英語
表現に慣れる。
キャンティーン体験
◎キャンティーンの体験を楽しみ,やりとりの表現を進んで使おう
とすることができる。
○一人で自由に買いに行くことができるようにすることで,自分の
思いを進んで伝えることができるようにする。
⑩ リハーサルをしよう
13
時
間
○は支援)
3ヒントオセロゲーム※1
◎日本の文化を表す英語表現が分
かる。
○3ヒントオセロゲームを通して
文化を表す英語表現が分かる。
スネークスアンドラダーズ※2
◎紹介に使う基本的な英語表現が
分かり,慣れることができる。
○すごろくの一種のスネークスア
ンドラダーズゲームを通して英
語表現に慣れる。
必要な英語表現の練習
◎グループに必要な英語表現が分
かり,慣れることができる。
○ALTの声で台本通りに吹き込
んだカセットテープを準備し,
練習しやすくする。
リハーサル
◎分かりやすい発表になるように
リハーサルをする。
○友達同士で相互にアドバイスを
し,よりよい発表ができるよう
にする。
日本の文化発表会
◎日本の文化発表会をする。
○ゲストティーチャーに,日本の文化を体験してもらったり発表後に
質問をしてもらったりすることで,外国人とかかわることができた
とか自分の思いを伝えることができたという満足感を味わうことが
できるようにする。
たん
○英語がコミュニケーションの手段となるように,英語に 堪 能な中国
人ゲストティーチャーを招く。
分
か
る
・
慣
れ
る
親
し
む
分
か
る
・
慣
れ
る
親
し
む
※1 3ヒントオセロゲーム ・・・・・・三つのヒントに当てはまるものを答え,当てたグループは,自分のグループの
色のこまを盤上に置くことができる。4色対抗オセロゲーム。
※2 スネークスアンドラダーズ・・・すごろく盤に蛇とはしごの絵があり,蛇の頭に来ると尾に戻り,はしごの下に
来ると上に進むことができるすごろく。
- 90 -
1
(1)
(2)
①
ア
授業実践Ⅰ
題材名:Happy Lunch at Takebe Canteen(全4時間)
授業の実際
活動の工夫
文化に触れる活動の工夫
オーストラリアでは,日本の給食と異なり,キャンティーンという場所で児童が昼食を注文し
たり買ったりする。これをALTが写真やメニュー表を使って児童に質問を交えて説明すること
で,児童がキャンティーンについて「知る」ことができるようにする。また,日本の給食と比べ
ることで,児童が類似点や相違点に「気付く」ことができるようにする。第2時では,クイズを
しながらオーストラリアの通貨を紹介することで「知る」ことができ,身近な品物の値段をドル
から円に換算して物価を比べることで,類似点や相違点に「気付く」ことができるようにする。
イ コミュニケーション活動の工夫
言語材料は,キャンティーンのメニューを表す英語表現からキャンティーンでのやりとりの英
語表現へと段階を踏んでいく。キャンティーンのメニューの英語表現が「分かる」ように,既習
の“Do you like~?”を使って,「好きなメニュー当てゲーム」を行う。また,「慣れる」段階
では伝言ゲームや二人組で指示されたものを買う「ぷちお客さんゲーム」を行う。
ウ 「親しむ」活動の工夫
第4時は,キャンティーンを体験するとともに,キャンティーンでのやりとりに「親しむ」段
階である。店員役はALTと担任で行う。メニューを振り分け,児童がALTと一度はコミュニ
ケーションできるようにする。また,ALTと担任は,時々児童が言ったものと違うものを出し
て,児童が何とかして自分の思いを正しく伝えようとする場面を作る。
② 児童の活動の様子
ア 文化に触れる活動
児童は,これまでオーストラリアのキャンティーンについて全く知らなかったので,ALTの
出す質問に対する答えを考えながら,熱心に説明を聞くことができた。また,日本の給食と比べ
ることで,類似点や相違点に気付き,ワークシートに記述できていた。第2時の通貨についても
クイズに答えながら楽しく話を聞くことができた。ほとんどの児童がオーストラリアの紙幣やコ
インを見るのは初めてで,興味を示した。ドルを円に換算しながら,児童に身近な品物の物価比
べをすることによって,同じ物でも国によって値段が違うことに気付くことができた。
イ コミュニケーション活動
「分かる」段階の「好きなメニュー当てゲーム」では,予
想が当たっているか早く知りたくて,児童は進んで発話して
いた。「ALTの好みがわかった」といううれしさを授業後
のアンケートに記述している児童もいて,コミュニケーショ
ンすることの楽しさを感じることができていた。「慣れる」
段階の「ぷちお客さんゲーム」では,二人組で練習して互い
に分からない表現を教え合いながら発話できていた。
写真1 ALTとのやりとり
ウ 「親しむ」活動
前時は,指示された物を買う活動であったが,本時は一人で自由に買えるという設定にしたた
め,児童は活動が始まると,すぐにALTや担任の店に向かった(写真1)。メニューをカラー
シールにしておいたため,それを集めたいという気持ちから,発話も進んでできていた。うまく
言えなくても,メニュー表を指さすなどして何とかして自分の思いを伝えようとする児童が見ら
れた。ALTや担任から欲しい物と違う物を出された時,“No.No.”とすぐ言葉が出たり,指で
欲しい物を指し示したりして何とか伝えようとする児童も見られた。しかし,自分の思いが言え
ずそのまま受け取ろうとする児童がおり,このような活動を繰り返し体験する必要性を感じた。
- 91 -
(3) 結果と考察
授業後の感想では「よかったことはオーストラリアのキャンティーンが分かったこと」「オー
ストラリアと日本のお金の違いや値段の違いを勉強するのが楽しかった」など,知的好奇心が満
たされたことが分かる記述が見られた。また,「今度の授業では食べ物のことではなく,ほかの
ことが知りたい」と,文化に対して更に興味を持つことができた児童もいた。
また,段階を踏んだコミュニケーション活動を取り入れることで,「言うことができた」「伝
わった」という満足感を多くの児童が,味わうことができた。「ゲームの中で進んで英語を使お
うとしていますか」というアンケートでは「よくしている,だいたいしている」と答えた児童が
59人中53人だった。授業後の感想では,「私が言った英語も伝わって本当にうれしかったし,楽
しかったです」「一人ではできないと思っていたけど,だんだん慣れてきていろんな人と英語で
話すことが好きになりました」などコミュニケーションを図ることへの楽しさ・満足感が記述さ
れたものが見られた。
以上のことにより,異文化を題材にして,文化に触れる活動とコミュニケーション活動を工夫
して,組み合わせた授業を構成することで,高学年の児童の知的好奇心を満たし,コミュニケー
ションを図ることへの満足感を味わわせることができたと考える。また,児童は文化に対する関
心を持ち,コミュニケーションを図ることへの意欲を高めることができたと考える。
2 授業実践Ⅱ
(1) 題材名:伝えよう!日本の文化(全13時間)
表5 児童が紹介した文化
(2) 授業の実際
第5学年
第6学年
① 活動の工夫
お手玉
お手玉
ア 文化に触れる活動の工夫
神楽
神楽
「知る」段階では,ゲストティーチャー(中国人)からの日本のこ
あやとり
あやとり
とを知りたいという手紙を提示し,身近な自国文化を想起できるよう
折り紙
折り紙
にする。第3時には,紹介する文化を決め(表5),第5時までに,
めんこ
囲碁
どのような方法で伝えたらゲストティーチャーに分かってもらえるか
和食
日本の家
を考えながら,日本語で台本を作成する。台本づくりを進める中で,
お茶
調べたりお手玉やあやとりなどの技を練習したりして,身近な自国文
こま
化を見直すことができるようにする。ゲストティーチャーに発表する
古い建物
ことで,児童は自国文化のよさに「気付く」ことができ,もっと知り
たい,今度はもっと詳しく教えてあげたいという自国文化に対する興
味を持つことができるようにする。また,ゲストティーチャーに中国の学校生活,遊び・行事,
伝統文化について紹介してもらい,中国の文化について児童が「知る」ことができ,児童が自分
に身近な日本の文化と比べることにより,類似点や相違点に「気付く」ことができるようにする。
イ コミュニケーション活動の工夫
ゲストティーチャーからの手紙は,自国文化を紹介するコミュニケーション活動に取り組む動
機付けになり,児童がコミュニケーションを図る相手を意識することができる。また,第2時に,
「あやとり」を例に担任が「言葉だけで紹介する」「実演を入れて紹介する」の二種類の紹介の
デモンストレーションを行い,発表するというコミュニケーション活動では,言葉とともに視覚
的な工夫やジェスチャーが必要であることに気付くことができるようにする。
言語材料については,日本の文化を表す英語表現から五つの基本的な紹介のための英語表現,
そして自分たちに必要な紹介のための英語表現へと,段階を踏んでいく。「分かる」段階では,
日本の文化を表す英語表現を使った「3ヒントオセロゲーム」を行う。「慣れる」段階では,す
ごろくの一種である「スネークスアンドラダーズ」のゲームを行い,“Hello. My name is ~.”
“We'll introduce ~.”“We'll show it.”“This is ~.”“That's all. Thank you.”の五
つの英語表現を練習する。児童が作った台本どおりにせりふ(表6)を吹き込んだカセットテー
- 92 -
プを各グループに渡し,自由に聞いて,英語表現に「慣
表6 児童のせりふ例(お茶)
れる」ことができるようにする。
みんな:Hello. My name is ○○.
ウ 「親しむ」活動の工夫
A児:We'll introduce tea ceremony.
児童が,自分の言いたいことを英語で伝え,相手に伝
B児:First, powdered tea.
わったということを感じることができる体験にする。ま
C児:Second, hot water.
た,ゲストティーチャーに英語を母国語としない中国人
D児:Third, mixed with a whisk.
を迎えることで,英語は,異なる言語を持つ人とコミュ
ニケーションを図る手段であることに児童が気付くこと
A児:Here you are.
ができるようにしたい。日本の文化の体験,発表につい
B児:How is it?
てのコメント,既習の英語表現を使っての質問などを,
C児:That's all.
ゲストティーチャーにしてもらうことで,児童が外国人
D児:Thank you.
と直接コミュニケーションを図ることができたという満
足感を味わうことができるようにする。
② 児童の活動の様子
ア 文化に触れる活動
児童は自分の町のことや和食などについて詳しく調べたり,お手玉やあやとりの技を繰り返し
練習したりした。「ゲストティーチャーの前で失敗したくない」「いい発表を見せたい」という
気持ちで練習をしている児童が見られた。発表会では,児童は,中国の小学校の授業,宿題,給
食の様子,子どもの遊びについてゲストティーチャーから話を聞いた。また,日本とは異なるお
手玉の遊び方を見たり,中国の「先生の日」について説明を聞いたりすることで,自分たちの文
化と比べながら聞くことができた。もっと詳しく知りたいと,質問をする児童の姿も見られた。
イ コミュニケーション活動
第1時は,ゲストティーチャーからの手紙を読んだりゲストのプロフィールを紹介したりする
ことで, 児童はコミュニケーションを図る相手を意識することができた。相手のことを意識しな
がら台本づくりに取り組んだので,説明を分かりやすくしようとしたりプレゼントを渡そうと考
えたりするなど相手を思いやる工夫ができた。「分かる」段階の3ヒントオセロゲームでは,ヒ
ントから類推する,どこに置くとオセロに勝てるかを考えるという二つのゲーム的要素が入って
いたため,児童はゲームに熱中し,発話も進んでできていた。「慣れる」段階のスネークスアン
ドラダーズは,偶然に左右されるゲームのため,児童によっては練習する英語表現に偏りが生じ
てしまった。いろいろな表現に,複数回,接することができるルールの工夫が必要であった。自
分たちに必要な紹介の英語表現に「慣れる」ためのカセットテープは,ほぼ全員が使って練習し
ていた。「何回も聞ける」「発音がよく分かった」など,児童に好評であった。
ウ 「親しむ」活動
発表会では,英語表現を使って,多くの児童が進んで発表
することができた(写真2)。英語表現が少ない児童も,技
を見せてゲストティーチャーから拍手をもらうことで,笑顔
になり自分の思いが伝わったと感じることができた。また,
自分の技がうまくできない児童も,ゲストティーチャーやA
LTの英語での励ましにこたえて,何度も繰り返し挑戦し,
技を成功させようとしていた。ゲストティーチャーが日本の
文化を体験し,上手に技ができた時,児童は指でオーケーの
写真2 発表会の様子
サインを出したり,自然に“ Very good! ”と話し掛けたり
するなど進んでコミュニケーションを図ろうとする姿が見られた。ゲストティーチャーの質問に
対して,ほとんどの児童がはっきりと答えることができていたが,一方で,既習の表現であった
にもかかわらず,恥ずかしさのためか返事がなかなかできない児童もいた。
- 93 -
(3) 結果と考察
授業後の感想には,「中国や日本の文化が分かってよかった」と知的好奇心が満たされたこと
や「中国のことをもっと知りたい」という興味を持つことができたことが表れていた。
コミュニケーションを図ることについては,「王さんを迎えるためにいろんな英語を覚えるの
をがんばった」「王さんが面白い人で,英語が楽しく言えた」「外国の人に日本のことを教える
のが楽しかった」と書いていることから,児童は相手を意識してコミュニケーション活動に取り
組めていた。台本を作り,自分の言いたいことをある程度まとまった英語表現を適切に使って,
英語で発表する活動は,高学年にふさわしい活動であったと考える。授業後のアンケートでは,
「伝えようと思っていたことがうまく伝わったと思いますか」という質問に, 59人中56人が「伝
わった,だいたい伝わった」と答えており,児童はコミュニケーションを図ることができた満足
感を味わうことができたものと考える。
以上のことから,自国文化を題材にして外国の人に日本の文化を発信するコミュニケーション
活動は高学年の児童にふさわしい活動と考えられ,児童は文化に対する関心とコミュニケーショ
ンを図ることへの意欲を高めることができたと考える。
Ⅴ 研究の成果と課題
事 後 N=59
(人 )
事 前 N= 60
60
本研究においては,児童の文化への関
50
心とコミュニケーションを図ることへの
40
意欲を高めるために,文化に触れる活動
55 58
30
とコミュニケーション活動を組み合わせ
49
51
45
45
44 48
44
42
34
た授業実践を行った。
20
33
事前事後のアンケート結果(図1)を
10
比較すると,児童の異文化に対する意識
0
英語活動
外 国 の ことを 外 国 の ことを
外 国 人 と話
英 語 を使 って 相 手 に 伝 わ っ
とコミュニケーション活動に対する意識
聞 い て面 白 い もっと知 りたい
て うれ しか った したい
話す
い つ も楽 しい よ く思 う
よ く思 う
よ く思 う
とて も楽 しい よ くあ る
は,ともに高まっている。これは,児童
大 体 楽 しい
時々思う
時々思う
時々ある
時々思う
楽しい
英語活動
が身近な生活文化を題材に,「知る,気
異
文
化
コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン
付く,親しむ」の段階を踏んだ文化に触
図1 事前事後のアンケート結果
れる活動を通して,文化の違いを面白い
と感じ「もっと知りたい」という欲求を持つことができたからであると考える。また,文化に触れ
る活動に関連のある英語表現を材料に,「分かる,慣れる,親しむ」の段階を踏んだコミュニケー
ション活動を通して,「実際の場面で使えた」「相手に伝わった」という満足感を味わい,コミュ
ニケーションを図ることへの意欲を高めることができたためと考えられる。英語活動について「英
語は意味不明だから,何でしなければいけないんだと思うときがあり,あまり楽しくない」と書い
ていた児童も,実践後は「英語が伝わっているんだなと思うときがあるから,英語で話をするのは
楽しい」とコミュニケーションを図ることへの感じ方が変化していた。
以上のことにより,小学校英語活動において,文化を題材にして,文化に触れる活動とコミュニ
ケーション活動とを組み合わせた英語活動を工夫することは,児童の文化への関心とコミュニケー
ションを図ることへの意欲を高めることに有効であったと考えられる。
今後も,国際理解教育の一環としての小学校英語活動において,児童の文化への関心とコミュニ
ケーションを図ることへの意欲を高めるための題材の開発と授業改善に取り組んでいきたい。また,
コミュニケーションの力を育てるために,他教科と関連を持たせた年間計画の作成に取り組みたい。
○参考文献
・ 佐野正之,水落一朗,鈴木龍一:異文化理解のストラテジー,大修館書店,1995
・ 伊藤嘉一編著:小学校英語学習レディゴー,ぎょうせい,2000
- 94 -
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