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ふるさと教育の振興に関する報告書
ふるさと教育の振興に関する報告書 平成22年2月 ふるさと教育有識者懇談会 目 次 Ⅰ はじめに(ふるさと教育有識者懇談会設置の背景と目的) 頁 2 Ⅱ 総論(ふるさと教育の振興のあり方について) 1 ふるさと教育が必要とされる理由(ふるさと教育の趣旨) (1)心豊かで活力あるふるさとづくり (2)グローバル社会で活躍する人づくり 2 ふるさと教育の振興の基本的な方向性 4 4 4 4 5 Ⅲ 各論(具体的方策について) 1 学校における「ふるさと教育」の推進 (1)全ての子どもが郷土の歴史や文化を学ぶ (2)郷土の自然体験や、異なる文化との交流を進める 6 6 6 8 2 富山ならではの「ふるさと教育」の振興 (3)ふるさと富山の自然、歴史、文化などを学び、親しむ ① 越中万葉を学び、楽しむ ② 郷土の先人の志や業績を学ぶ ③ 郷土の自然、くらし、産業等を学び、親しむ ④ ふるさと文学を学び、楽しむ ⑤ ふるさとへの誇りと愛着を育む (4)身近な地域で歴史や文化を学び、親しむ (5)ICTを活用してふるさとの歴史や文化を学び、親しむ 9 9 9 10 11 14 15 16 17 3 「ふるさと教育」を推進する体制の整備 (6)ふるさとの持つ魅力や教育資源を発掘・活用する (7)ふるさと教育の指導者・ボランティアを養成する (8)ふるさと教育の推進体制を整備する 18 18 20 21 おわりに 22 参考資料 ふるさと教育有識者懇談会の開催経過 ふるさと教育有識者懇談会設置要綱 ふるさと教育有識者懇談会委員名簿 用語解説 23 23 24 25 26 ― 1 ― Ⅰ はじめに(ふるさと教育有識者懇談会設置の背景と目的) 本県は、北に富山湾を擁し、他の三方を北アルプスなどの急峻な山々に囲まれてお り、四季の変化に富む豊かな自然は、多くの恵みとともに、時として豪雪・洪水等の 災害をもたらしてきた。先人たちは、このような自然に揉まれながら「粘り強さ」 「勤 勉性」 「積極進取の気性」などの県民性を育み、豊かな創造力とたくましい行動力を磨 いてきた。 そうした中から、明治・大正期の金融王と称された安田善次郎氏、京浜工業地帯の 父と呼ばれる大実業家浅野総一郎氏、 『タカ・ジアスターゼ』や『アドレナリン』など を発明・発見した高峰譲吉氏、ノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏など、日本や世 界で活躍する数多くの人材を輩出してきた。 また、江戸時代に十二貫野用水等の工事と農地開拓を進めた椎名道三氏や、明治時 代の初頭に私財を投じて伏木港を開港し、県内最初の小学校(伏木小学校)の創設に も努めた藤井能三氏、大正時代に公立高等学校(旧制富山高等学校)開設のため、多 額の寄付と「ヘルン文庫」を寄贈した馬場はる氏など、多くの人が郷土の発展や人材 育成に尽力してきた。 一方、富山県は、日本海沿岸地帯の中心に位置し、対岸との文化交流の中核的な存 在であることから、非常に優れた文化的特色を形成してきた。1300年前、越中国 守に赴任した大伴家持は、雄大で美しく、かつ厳しくもある越中の自然風土に感動し、 この地で223首もの作品を万葉集に残した。また、中世に広まった親鸞や蓮如の教 えは、現在でも県内の約7割の寺院が浄土真宗という「真宗王国」を形成し、「報恩 講料理」という食文化を育んでいる。この他にも、立山信仰、天神信仰などの宗教的 風土や、曳山、獅子舞、民謡など全国に誇る伝統文化を伝承している。 さらに、富山県の誕生の経緯や、水害などの災害と戦い克服してきた歴史、富山の 自然風土の中で営まれてきた農業や定置網による漁業、先用後利の売薬で全国に知ら れる薬業、急流河川を活かした電源開発、高岡銅器やアルミなどの金属加工等の産業 は、ものづくり県としての本県の発展と県民生活に深く関わってきた。 近年、県内では世界文化遺産登録を目指す運動が進められ、県民がわが町とわが富 山県の歴史や文化を見直す意識を高める上で、大きな成果を上げている。 また、浅野総一郎の生涯が描かれた「九転十起の男」、険しい山に挑む宇治長次郎 らの姿や越中人の魂も描かれた「劔岳 点の記」の映画化、富山版のふるさと検定で ある「越中富山ふるさとチャレンジ」の実施、先人の功績を紹介する「越中人譚」の 発行などが、県民のふるさとへの誇りと愛着を深め、チャレンジ精神の高揚に貢献し ている。 ― 2 ― このように、県民が地域の良さや魅力に関わる機会を通して、ふるさとへの誇りと 愛着を育むことは、地域社会を活性化し、活力あるふるさとづくりを進める上でも重 要なものとなっている。 また、今日、私たちを取り巻く状況が大きく変化する中、とりわけ子どもたちの社 会性の不足、いじめや不登校の増加、家庭や地域の教育力の低下など、かつては見ら れなかった多くの課題が存在している。 県民一人ひとりが自分たちの生まれ育ったふるさとに対する理解を深め、 ① ふるさとへの感謝の気持ちを芽生えさせ醸成していくこと ② そしてどこにいてもふるさとが心の支え、根っこであるという思いをもつこと ③ 先人から祖父母、両親、そして自分へと脈々と受け継いだ命をいつくしみ、その 命を次の世代につないでいくこと などの大切さを自覚することにより、社会の中で人々とのかかわり合いを持ちながら 成長するとともに、様々な課題を解決していくことができる。 さらに、グローバル化が進展し、社会経済情勢が大きく変動する現代社会において、 県民一人ひとりが自らのアイデンティティを持って生きることができるよう、ふるさ との自然、歴史や文化、先人の業績や志などに対する理解を深めることは、本県の将 来を担う人づくりを進める上で大切なことである。 しかしながら、ふるさとの多彩な歴史、文化、郷土の偉人をあまり知らない県民が 少なくない。そのため、明日を担う子どもだけでなく、地域や企業を含め県民総参加 で、ふるさと の自然風土、歴史・文化、産業に関する理解を深め、ふるさとに対する 誇りや愛着を育む 「ふるさと教育」を振興することが求められており、その具体的な 方策を検討する ため、本 懇談会が設置されたものである。 ― 3 ― Ⅱ 総論(ふるさと教育の振興のあり方について) 1 ふるさと教育が必要とされる理由(ふるさと教育の趣旨) (1)心豊かで活力あるふるさとづくり 都市化や核家族化、少子高齢化の進行は、地域住民間の交流機会の減少、地域社会 の構成員であるとの意識の低下など人間関係の希薄化を生みだし、個人主義的風潮や 地域の教育力の低下をもたらすとともに、人口減少とあいまって地域コミュニティの 活力を失わせ、地域を衰退へと向かわせていくことが懸念されている。 人は、生まれ育った社会の歴史、文化、伝統をよく知ることによって初めて地域を ふるさとと意識し、ふるさとへの誇りと愛着、感謝の気持ちを抱く。また、ふるさと を心の支えであると自覚することにより、地域の人々との連帯感、地域への帰属意識 が高まり、人々とかかわり合いを持ち合いながら成長することができる。さらに、両 親や先人から受け継いだ命が次の世代に引き継がれ、世代を超えて、その地域に住む 人々のふるさとを思う気持ちが響き合うとき、持続的な地域の活性化が可能となり、 心豊かで活力あるふるさとが形成される。 このように、ふるさと教育は、県民一人一人が社会や人間関係の中で自分自身を見 直し、地域の文化を育て、地域社会のあり方を見直す活力である。 (2) グローバル社会で活躍する人づくり 21世紀に入り、交通・輸送手段の一層の広域・高速化の進展や情報通信技術の発 達によって、人、物、情報等が世界中を活発に行き交い、グローバル化が急速に進ん でいる。本県出身者が東京を始め全国各地で活躍し、そして国際社会においても活躍 するなど、現代に生きる人々の活動は、地域や国の枠を超え、世界とつながっている。 本県においても、こうした世界とのつながりの中で、未来の郷土を支え、社会の発展 に貢献し、また、国際社会でたくましく生き抜き活躍していく人材をいかに育ててい くかということが、重要な課題となっている。 グローバル化の中で、自らが富山県人、日本国民であると同時に、国際社会の一員 であることを自覚し、自分とは異なる歴史・文化に立脚する人々と共生していくため には、自らの国や地域の歴史・文化、伝統についての理解を深め、ふるさとを愛し、 誇りに思う心や、日本人であることの自覚を持ち、人間としての生き方や教養の基盤 を培うことが重要である。こうした自覚や意識があって初めて、他の国や地域の伝 統・文化に接した時に、自他の相違を理解し、多様な伝統・文化に敬意を払う態度も 身に付けることができる。 このように、ふるさと教育は、国際社会の責任ある構成員としての自覚を持ち、世 界を舞台に活躍し、信頼され、世界に貢献できる人材の育成を目指すものである。 ― 4 ― 2 ふるさと教育の振興の基本的な方向性 ふるさと教育の振興は、行政(県、市町村)、学校、家庭、地域、民間企業など、ふ るさと教育に関わる様々な人が、それぞれの役割を踏まえつつ、知恵と力を出し合い ながら、社会全体(県民総ぐるみ)で取り組む必要がある。 特に、県は市町村と連携し、富山ならではのふるさと教育を行っていくため、 ① ふるさとに関する情報を整理し、新しい情報を提供・発信する。 ② 県民が参加する場を提供するとともに、県民が参加しやすい環境を整備する。 ③ 指導者やボランティアの育成など県民の主体的な活動をサポートする。 これら3つの段階の、どの段階に対する要望が強いかを見極めながら、上手に組み合 わせて取り組んでいくことが求められている。 これらを踏まえ、ふるさと教育の振興の基本的な方向を、次のような「3つの柱」 と「8つの提案」としてまとめる。 1 2 学校における「ふるさと教育」の推進 提案1 全ての子どもが郷土の歴史や文化を学ぶ 提案2 郷土の自然体験や、異なる文化との交流を進める 富山ならではの「ふるさと教育」の振興 提案3 3 ふるさと富山の自然、歴史、文化などを学び、親しむ ① 越中万葉を学び、楽しむ ② 郷土の先人の志や業績を学ぶ ③ 郷土の自然、くらし、産業等を学び、親しむ ④ ふるさと文学を学び、楽しむ ⑤ ふるさとへの誇りと愛着を育む 提案4 身近な地域で歴史や文化を学び、親しむ 提案5 ICTを活用してふるさとの歴史や文化を学び、親しむ 「ふるさと教育」を推進する体制の整備 提案6 ふるさとの持つ魅力や教育資源を発掘・活用する 提案7 ふるさと教育の指導者・ボランティアを養成する 提案8 ふるさと教育の推進体制を整備する ― 5 ― Ⅲ 各論(具体的方策について) 1 学校における「ふるさと教育」の推進 (1)全ての子どもが郷土の歴史や文化を学ぶ 【現状と課題】 《小中高等学校における郷土史等の学習》 ○ 県内の小学校では、3・4 年生の社会科の授業において身近な地域、市町村、 県の歴史や地理、生活、産業等について学習し、5 年生では日本の産業や生活、 環境等、6 年生では日本の歴史、憲法、世界の国々等について学習している。 ○ また、中学校 1・2 年の社会科でも日本史を中心とした歴史的分野を学習してお り、身近な地域の歴史については、日本の歴史と関連づけながら学習すること になっている。さらに、ほとんどの小・中学校で、総合的な学習の時間にも郷 土をテーマとした学習を行っている。 ○ 県内の各市町村では、小・中学生用の郷土学習教材・資料を作成し、社会科や 総合的な学習の時間に活用しているが、市町村により、郷土学習教材の内容等 に違いがある。また、多くの小・中学校で、地域の人を講師として、子どもた ちが地域の歴史や文化などについて学ぶ機会を設けているが、人材の確保等に 苦労している。 ○ 小・中学校の新しい学習指導要領では、社会科での歴史学習など、我が国や郷 土の伝統や文化に関する教育の充実が主な改善内容の一つとされている。 ○ 高校では、世界史は全ての高校生が学ぶこととなっているが、日本史は地理と の選択となっており、県内の高校生の約半数は日本史を選択していない。この ため、県教育委員会では、高校生の負担が少なく無理のない形で、郷土や日本 の歴史・文化を学ぶ方法について検討している。 《食育や地産地消の推進による郷土学習》 ○ 子どもたちがふるさとの味に親しみ、地域の食材や食文化についての理解を深 めるため、授業における農業体験などを通した食育や地産地消に関する指導、 地場産食材の給食材料への積極的な活用、「学校給食とやまの日」の実施など に取り組んでいる。また、「富山県食育推進会議」や「とやま地産地消県民会 議」を設置し、県民ぐるみの食育・地産地消活動を推進している。 ○ 食育や地産地消の推進にあたっては、学校だけでなく、家庭や地域、生産者等 とより一層連携して取り組んでいくことが大切であり、今後ともその核となる 栄養教諭の配置及び活用に努めていく必要がある。 ― 6 ― 【取組みの方向性】 ○ 郷土の自然、歴史や文化、産業、先人の英知や偉業に関する理解を深める学 習活動により、ふるさとを思う心と広い視野を身につける。 ○ 学校給食での地産地消や郷土料理等の取組みを通して、地域文化や郷土の食 文化への理解を深める。 【具体的方策の提案】 項 目 小・中学生の郷土学習の 推進 高校生郷土史・日本史学 習教材の作成 郷土の優れた先人の学 習教材化の推進 小学生によるふるさと についての作文コンク ールの実施 ふるさと文学を題材と した教材の作成 ふるさと文学に関する 作品募集 歴史の語り部の小・中学 校への派遣 ふるさとの食文化の体 験学習の推進 栄養教諭の配置 内 容 小・中学校の社会科や総合的な学習の時間における、郷土の歴 史等の学習や伝統文化の伝承活動などを推進する。 県内の高校生が使用する郷土史・日本史学習の補助教材を作 成・活用する。教師用指導の手引きも作成する。 郷土の発展に尽くした先人を新たに発掘するとともに、既に評 価されている先人の志や業績を再評価し、小学生等に向けた郷 土学習教材の作成・配布や、高校生向けの郷土史学習資料への 掲載、指導の手引きの作成などを進める。 ふるさとの先人の英知や生き方を学び、自らの目標を見出すこ とを目指し、小学生を対象とした作文コンクールを実施する。 ふるさと文学のテキストを作成し、総合的な学習の時間等での 活用を図る。 ふるさと文学の作品を通して感じる情景や作家の歩いた足跡 などをモチーフにした作品を中・高校生から公募する。 小・中学校に戦争体験者による語り部を派遣し、体験談を子ど もたちに聞かせ、平和の尊さとふるさとの歴史などを学ぶ。 小・中学校にふるさとの食文化を実践するモデル校を設置する 等し、地域特産物の農林漁業体験や伝統料理体験等を実施す る。 食育や地産地消の推進の核となる栄養教諭の配置を充実する。 ― 7 ― (2)郷土の自然体験や、異なる文化との交流を進める 【現状と課題】 《学校における自然体験活動》 ○ 県内の小・中学校では、社会科や理科の授業や総合的な学習の時間において身 近な地域を調査したり、行事を体験したりする活動、ビオトープや地域の自然 を観察する活動、自然環境を保全する体験的な活動などが行われている。 ○ また、学校行事として、身近な青少年自然の家などでの宿泊学習や、富山県の 象徴である立山や地域に縁のある山への登山、スキー教室などを実施している。 ○ 全国学力・学習状況調査によれば、「地域の歴史や自然について関心のある子 ども」、 「地域の行事に参加している子ども」の比率は全国平均より高い。一方、 自然に恵まれているにもかかわらず、「子どもたちの自然体験」の比率は全国 平均より低いことが明らかとなっている。 《異文化交流体験活動》 ○ グローバル化の進展に伴い、広い視野を持って異文化を理解し、これを尊重す る態度や異なる文化を持った人々と共に生きていく態度を育成するため、子ど もたちの国際交流活動の充実が求められている。 ○ 県内の公立学校においては、これまで所在している市町村の姉妹都市提携や企 業の海外進出等をきっかけとして、それぞれの学校間で交流が始まり、姉妹校 の提携など教育、文化、スポーツ等の様々な分野で着実な交流が行われている が、その継続・拡充に努める必要がある。 【取組みの方向性】 ○ 富山の雄大で美しく、厳しさもある自然への理解を深め、ふるさとの良さを 楽しみながら体感できるようにする。 ○ 身近な地域を調査する体験学習を通して、子どもたち自身が地域の魅力や良 さを楽しみながら再発見する。 ○ 国際交流活動を通して、子どもたちの視野を広げ、異文化理解を推進する。 【具体的方策の提案】 項 目 立山や地域に縁のある 山への登山の実施 身近な地域の生き物調 べ 高校生の海外派遣の実 施 内 容 学校や PTA による立山登山や地域に縁のある山への登山を推 奨するとともに、安全確保のため、指導者の研修を実施する。 小学生が、身近な川やため池などの生き物調べなど、自然環境 を調査する。 県内の高校生が海外を直接体験することにより、視野を広げ、 異文化を理解する機会を提供する。 ― 8 ― 2 富山ならではの「ふるさと教育」の振興 (3)ふるさと富山の自然、歴史、文化などを学び、親しむ ① 越中万葉を学び、楽しむ 【現状と課題】 ○ 万葉集の中には越中で詠まれた歌が337首含まれており、越中万葉として県 民に親しまれている。特に、高岡市では、毎年、市内の約800名の小中学生 が参加する越中万葉かるた大会が開催されるほか、万葉集全20巻朗唱の会や、 全国万葉短歌大会、万葉歴史館による講演会や出前授業など、様々な取組みが なされている。 ○ 万葉集には、県内各地で詠まれた歌が含まれており、その歌碑も県内各地に点 在しているが、高岡市以外では県民の越中万葉に対する意識や関心は必ずしも 高くない。 【取組みの方向性】 ○ 県内全域を対象とした万葉集に関するイベント等を行うことにより、「越中 万葉」が県民全体の文化遺産であるという意識を高めるとともに、県民の「越 中万葉」に対する理解を深める。 ○ 万葉集等を活用して、県民の創作活動に対する意欲を高める。 【具体的方策の提案】 項 目 越中万葉のウォークラ リーの実施 越中万葉マップの作成 越中万葉カルタ等のふ るさとに関するカルタ の普及 万葉集等のふるさと文 学に関する作品募集 内 容 ふるさと富山の文化遺産である越中万葉に親しみ、理解を深め るため、県内各地に点在する越中万葉ゆかりの地で、親子で楽 しめるウォークラリー大会を開催する。 県内全域を対象とした越中万葉の歌碑等のマップを作成し、ウ ォークラリー会場等で配布する。 県民のふるさとに関する理解を深め、誇りと愛着を育むカルタ 等の普及に努める。 ふるさと文学の作品を通して感じる情景や作家の歩いた足跡 などをモチーフにした作品を中・高校生から公募する。 ― 9 ― ② 郷土の先人の志や業績を学ぶ 【現状と課題】 ○ 全国学力・学習状況調査によれば、本県の子どもたちは、「将来の夢や目標を しっかり持っている」というふうに答える比率が全国平均より低くなっている。 ○ 本県には、様々な分野で輝かしい業績を残してきた偉人、郷土を発展させてき た先人が多く存在する。子どもたち自身の目標(ロールモデル)となる郷土の 偉人や先人について、その志や業績を子どもたちが理解する機会を充実する必 要がある。 【取組みの方向性】 ○ 郷土を発展させてきた先人達の生き方や努力に共感することで、子どもたちの チャレンジ精神や地域の一員として自覚等を涵養する。 【具体的方策の提案】 項 目 郷土の優れた先人の学 習教材化の推進 ふるさとの優れた先人 についての小学生によ る作文コンクールの実 施 郷土の優れた先人に関 する生涯学習講座等の 充実 内 容 郷土の発展に尽くした先人を新たに発掘するとともに、既に評価 されている先人の志や業績を再評価し、小学生等に向けた郷土学 習教材の作成・配布や、高校生向けの郷土史学習資料への掲載、 指導の手引きの作成などを進める。 ふるさとの優れた先人の生き方を学び、自らの目標を見出すこと を目指し、小学生を対象とした作文コンクールを実施する。 県民生涯学習カレッジにおいて、郷土の優れた先人の志や業績に 関する講座を開講する。 立山博物館において、立山の自然や文化に関する学習機会を提供 する。 ― 10 ― ③ 郷土の自然、くらし、産業等を学び、親しむ 【現状と課題】 《郷土の自然とくらし》 ○ 富山県は三方を山に囲まれ、北側を日本海・富山湾に面している。標高 3,000 mの立山連峰から水深 1,000mの富山湾の高度差 4,000mの空間における水の 大循環が、様々な生き物を育み、豊かな自然の恵みをもたらしてきたが、反面、 厳しい自然により災害もたびたび引き起こされてきた。冬の豪雪は五箇山の合 掌造りを、春のフェーン現象による大火は砺波平野の散居村を生み出す一因と なるなど、富山の自然は私たちのくらしにも大きな影響を及ぼしてきた。 ○ 県民が自然観察・体験などを通じて、郷土の自然と衣食住などのくらしとのか かわりについて理解を深める学習機会を充実し、自らの新しいライフスタイル を考え、発信していくことが求められている。 ○ 外国の人々に富山を知り、理解を深めてもらう国際交流の取組みにより、富山 の魅力を国内外に発信するとともに、県民自身もふるさとの魅力に気づくこと が期待されることから、県としても、県内各地で実施されている国際交流の普 及に努めている。 ○ また、富山県には、環日本海地域の人間と自然のかかわり、地域間の人間と人 間のかかわりを、総合的、学際的に研究した「日本海学」のコンテンツが蓄積 されており、その活用が求められている。 《災害とふるさと》 ○ 明治初期に繰り返された常願寺川や庄川等の水害が、分県運動のきっかけとな り、明治16年5月9日に富山県が誕生したように、富山県の歴史は治水や自 然災害との闘いの歴史であるとも言われ、常に 災害に強い「ふるさと富山」の 創造を目指してきた。 ○ 立山砂防は自然災害と県民の闘いの歴史の象徴的事例であるが、世界文化遺産 登録運動で注目されている中、昨年、白岩砂防えん堤が国の重要文化財に指定 されたこともあり、立山砂防に対する県民の関心は高まっており、立山カルデ ラ砂防体験学習会の増加等が求められている。 ○ 現在、平成24年4月にオープンを目指し整備を進めている消防学校・防災拠 点施設が、災害教育の場となることが期待されている。 《郷土の産業》 ○ 富山県の産業は、明治時代までは農業が産業の中心であり、椎名道三らによる 用水開削により、新田開発が活発に行われていた。 ○ 一方、江戸時代に、現在にも通用する「先用後利」の理念の下、全国に広まっ た越中売薬や、江戸中期から明治にかけて日本海で活躍した北前船により蓄積 された資本は、明治期に入り河川の水力による電源開発や、銀行の設立など近 ― 11 ― 代産業に次々と投入され、その後の本県発展の礎となった。 ○ 本県の工業は、大正時代には豊富で低廉な電力供給の下に、化学、電炉、機械、 紡績など大手企業の立地が進み、第2次世界大戦頃には大規模な工業集積が形 成された。また、越中売薬に端を発した医薬品製造業が容器、包装、機械、印 刷等の関連産業の発展を促し、高岡銅器の高度な鋳造技術や金型技術を基礎に、 一般機械、金属製品、アルミ等の非鉄金属、プラスチック等の産業が発展する など、高いものづくり技術を誇る裾野の広い産業集積を形成し、日本海側屈指 の工業県となっている。 ○ 近年では、先端技術産業や情報産業など新たな産業の集積が進むとともに、 「富 山のくすり」の伝統を活かしたバイオテクノロジーや深層水等の地域の産業資 源を有効に活用した産業への取組みも積極的に展開されている。 ○ 本県産業の発展の基盤となった電源開発の取組みについては、「黒部川第四発 電所」の工事専用軌道として昭和30年代前半に整備されたルートを一般者が 体験できる「黒部ルート」公募見学会が、関西電力(株)により実施されてお り、また、有峰開発の歴史や建設計画などについて、北陸電力(株)の有峰記念 館で紹介されており、県では配置薬業の歴史等について紹介する小冊子や講演 会を開催しているが、本県産業の発展の歴史を総合的に学ぶ機会は充分とはい えない。 【取組みの方向性】 ○ 富山の豊かで厳しい自然と風土に育まれたふるさとの産業やくらしの特徴を 学び、ふるさとの良さを体感できるようにする。 ○ ふるさと富山の自然の特色と、その下で引き起こされた自然災害との闘いの歴 史等について理解を深め、先達の苦労を認識し、県民の防災意識を高める。 【具体的方策の提案】 項 目 豊かな水をもたらす自 然や気象等の学習機会 の充実 富山の自然や環境保護 の大切さを学ぶ機会の 充実 富山湾に関する書籍の 発行 日本海学の展示コーナ ーの設置 ナチュラリストの活用 内 容 扇状地や湧水地などの自然環境の理解を図ることにより、ふる さと富山の自然や気象、水の恵みなどを学ぶ機会を提供する。 子どもたちが郷土の自然や環境保護、地球規模の環境問題等と 私たちのくらしとのかかわりを学ぶ機会の充実を図る。 富山湾を入り口としてふるさと富山を知る書籍を発行する。 展示コーナーを設置し、 「富山湾の生き物」 「北前船と昆布ロー ド」 「日本海地域における海洋環境」等について紹介する。 ナチュラリストによる自然観察やフィールドワークを通して、 郷土の自然や歴史等について学ぶ機会を提供する。 ― 12 ― 雪かき体験や雪文化の 学習機会の充実 雪かき体験や雪文化などの学習を通して、薄れつつある、富山 の生活と雪の関係等を見つめなおすきっかけづくりとする。 農村地域での暮らしや 生き方等の学習機会の 提供 富山の食材や食文化を 学習する機会の充実 農村地域(散居村や合掌造り集落など)の暮らしや生き方を通 して、ふるさと富山の風俗や文化、産業などについて学ぶ機会 を提供する。 地産地消活動や郷土料理等を通して、富山ならではの食文化や 産業などについて学ぶ機会を提供する。 戦時下の暮らしや戦争 の悲惨さを学習する機 会の提供 富山の自然災害の歴史 の学習等、防災教育の推 進 県民会館などにおいて、県民から寄付を受けた戦時下の暮らし の資料を展示することで、戦争の悲惨さや平和の尊さを学ぶ機 会を提供する。 本県の自然災害の歴史と克服に向けた先人たちの努力を学ぶ ための学習教材を作成する。 立山カルデラ砂防体験 の充実 郷土の産業への理解の 増進 産業観光の推進 富山の産業、くらし等に 関する生涯学習講座等 の充実 富山の産業、くらし、災 害等の学習教材化の推 進 富山の春夏秋冬の災害を学び、体験できる体験型学習施設を設 置するとともに、この施設を活用した防災関係の研修計画等を 作成する。 より多くの県民が、立山カルデラの砂防事業を学習する機会を 増やすとともに、国の砂防ミュージアム構想とも連携して、自 然災害の克服に力を注いできた歴史を学び親しめるようにす る。 配置薬業の歴史等、ふるさと富山の産業と風俗などの歴史につ いて学ぶ機会を提供する。 本県の産業界と連携協力して、地元産業の歴史や産業文化財を 再認識し、優秀な企業を知る機会となっている産業観光体験バ スツアー等の取組みを推奨する。 県民生涯学習カレッジにおいて、富山の産業やくらし等に関す る講座を開講する。 富山の産業、くらし、災害等を再検証し、高校生向けの郷土史 学習資料への掲載や、市町村等が作成・配布している小・中学 生向けの郷土学習教材への掲載を推奨する。 ― 13 ― ④ ふるさと文学を学び、楽しむ 【現状と課題】 ○ 富山県では、今年度から、ふるさと文学を広く紹介し、その魅力を伝えるため、 富山大学との連携によるふるさと文学県民講座の開催や、子どもへの読み聞か せ活動への支援など様々な事業を実施するとともに、貴重な文学資料の散逸を 防ぐため、「ふるさと文学発掘チーム」の創設などの新たな取組みを進めてい る。 ○ また、ふるさと文学を題材とした教材を作成するなど、子どもたちを対象とし て、ふるさと文学に親しむ機会を増やし、言葉や文学への関心を高めるための 取り組みを進めている。 【取組みの方向性】 ○ 富山の風土が生んだふるさと文学を通じて、ふるさとの歴史や文化を学び、 楽しみ、先人の心や優れた知恵を知って、ふるさとの良さを体感できるよう にする。 ○ 子どもたちがふるさと文学に親しむ機会を増やし、言葉や文学への関心を高 め、自らの言葉等で発信する取組みを進める。 【具体的方策の提案】 項 目 ふるさと文学を題材と した教材の作成 ふるさと文学に関する 作品募集 ふるさと文学振興のた めの普及啓発事業の実 施 内 容 ふるさと文学のテキストを作成し、総合的な学習の時間等での 活用を図る。 ふるさと文学の作品を通して感じる情景や作家の歩いた足跡 などをモチーフにした作品を中・高校生から公募する。 児童生徒に「ふるさととやまの本」を推奨するためのリーフレ ットを作成し配布する。 県民がふるさと文学を学ぶ講座や散策ツアー等を実施する。 ふるさと文学の拠点施 設の整備 ふるさと文学について多くの県民が学び、楽しむことはもとよ り、県外からの観光客にも富山の魅力が発信できる「ふるさと 文学館」の整備を進める。 ― 14 ― ⑤ ふるさとへの誇りと愛着を育む 【現状と課題】 ○ 富山県人の県民性や「心」には、自然・風土とともに、農業やそれを基盤とす る宗教等も大きく影響していると言われており、特に、県内寺院の7割を占め る浄土真宗や、日本の山岳信仰の中でも注目される立山信仰、教育熱心な県民 性と結びつく天神信仰などの宗教的な風土は重要である。 ○ また、富山県民として、「富山弁」に対するきちんとした理解や認識は、これ まで祖先が形成してきた文化を県民に深く知らせ、全国への発信にも繋がるも のである。しかしながら、これらの信仰や方言等に関する学習機会は、数少な い状況にある。 ○ 県民総ぐるみで、ふるさと教育を推進していくため、県民がふるさと富山に対 する誇りと愛着を育むなど、県民の心に訴え、県民の連帯感を醸成するような 取組みが必要になってくる。 ○ 昭和33年に制作された「富山県民の歌」は、富山の山・海・野の風景と、県 民が一体となって発展を目指す富山県の姿や希望が盛り込まれた躍動感あふ れる明快な音律の歌として評価されているが、制作後、半世紀が過ぎ、若者を 中心にあまり歌われなくなっている。子どもから大人まで幅広く県民が愛唱で きる歌の制作を求める声があがっている。 ○ また、県内では、高岡市の越中万葉カルタや富山弁のカルタなどふるさとに関 するカルタが作られており、その普及が求められている。 【取組みの方向性】 ○ 富山で形成され、引き継がれてきた信仰や方言の正しい理解を通して、郷土の 心を継承していく。 ○ 県民が連帯感を持ち、ふるさと富山に誇りと愛着を育む取組みを推進する。 【具体的方策の提案】 項 目 郷土の心に関する生涯 学習講座等の充実 内 容 県民生涯学習カレッジにおいて、郷土の心(信仰、方言等)に関 する講座を開講する。 新しい県民愛唱歌の検 討・制作 ふるさとに関するカル タ等の普及 立山博物館において、立山の自然や信仰に関する学習機会を提供 する。 現在の「県民の歌」を歌い継ぐとともに、子どもから大人まで幅 広く県民が愛唱できる歌の制作について検討する。 県民のふるさとに関する理解を深め、誇りと愛着を育むカルタ等 の普及に努める。 ― 15 ― (4)身近な地域で歴史や文化を学び、親しむ 【現状と課題】 《公民館等での学習活動》 ○ 地域の学習拠点としての機能を有する公民館は、社会教育関係団体やその他の 団体等と共同するなどして、各種講座や体験活動を実施している。高齢化の進 行に伴い、県民の生涯学習に対する需要は大きいものがあり、公民館には、そ の機会の提供について中心的な役割が期待されている。 ○ 県内の公民館が実施している身近な自然やふるさとの歴史・文化などに関する 講座や、祭りや獅子舞、夜高、左義長等の伝統行事、地域の史跡めぐり、三世 代交流の歩こう会、もちつき大会などの活動は、地域住民のふるさとに対する 理解を深めるだけでなく、地域住民の交流や異世代間の交流にも役立っている が、その運営に対する支援の充実が求められている。 《郷土学習を行っている団体・サークル》 ○ 地域における自主的な学習活動を支えているのが、生涯学習団体やサークルで ある。その中には、歴史(郷土史、考古学、古文書)に関する学習活動や地域 の様々なボランティア活動を行っている団体・サークル等も数多く「とやま学 遊ネット」に登録されており、公民館や図書館等を拠点として活動している。 ○ これらの学習団体・サークルの活動は、県民にあまり知られておらず、活動を アピールする機会を充実することや指導者の確保が課題となっている。 【取組みの方向性】 ○ 地域におけるふるさと教育の拠点として、公民館の学習機能の充実を図る。 ○ 地域の子どもと大人が一緒に学習や自然体験活動を行うことにより、地域への 愛着や地域の一員としての自覚を養う。 ○ ふるさとに関する学習を自主的に行っている団体・サークルの活性化を図る。 【具体的方策の提案】 項 目 公民館でのふるさと教 育の充実 公民館等での子どもの 自然体験活動の充実 ふるさと教育に関する 学習団体・サークルの活 動支援 内 容 公民館や図書館、博物館、大学等の関係機関が連携して、公民館 でのふるさと教育の機会の充実を図る。 公民館などで親世代の参画を促しながら、子どもたちの身近なふ るさとの自然体験活動を行う。 ふるさとに関する学習を自主的に行っている団体・サークルのネ ットワーク化や横の連携強化を図る。 ― 16 ― (5)ICTを活用してふるさとの歴史や文化を学び、親しむ 【現状と課題】 ○ ICTを生涯学習に活用することにより、 「いつでも、どこでも、誰でも」学 ぶことができるようになるなど、ふるさと教育においても効果が期待される。 ○ 県内においてインターネットを利用した在宅学習機会を提供している「富山イ ンターネット市民塾」は、スクーリングと組み合わせたふるさとに関する学習 講座を全国に先駆けて提供している。 ○ また、インターネットの普及に伴い、「とやま学遊ネット」や「とやまデジタ ル映像ライブラリー」、 「富山県デジタル文化財ミュージアム」、 「とやま県民ふ るさと資料館」など、ふるさと教育で活用できるコンテンツが年々充実し、利 用者も増加してきている。 ○ さらに、富山県立図書館が運用している郷土資料情報総合データベースは、イ ンターネット上で郷土関連の各種データベースを統合して検索することがで きるようになっている。 ○ しかし、ICTを活用することによりふるさと教育に関する多様な学びの機会 を充実し、県民のふるさと教育の一層の振興を図っていくには、ケーブルテレ ビや携帯電話等の多様なネットを活用するとともに、ICTを活用してふるさ とに関する様々なテーマで学び合った人が、集まり、その成果を地域に活かす 活動を継続的に行うことができるような仕組みを構築していく必要がある。 【取組みの方向性】 ○ ICTを活用した「ふるさと学習コミュニティ」を構築し、多様なふるさと学 習の機会を充実する。 ○ ICTを活用したふるさと学習を支援する人材を養成し、「ふるさと学習コミ ュニティ」の活動を支援する。 【具体的方策の提案】 項 目 ICTを活用したふる さと教育環境の整備 ICTを活用した「ふる さと学習コミュニティ」 の構築 ICTを活用したふる さと学習を支援する人 材の養成 内 容 富山インターネット市民塾を基盤に、CATVや携帯電話、T V会議システムなどを活用した学びの場を整備する。 富山に関する様々なテーマで学びあい、その成果を地域に生か すグループを形成し、県民に多様な学習機会を提供する。 webコンテンツ作成等について学び、ICTを活用したふる さと学習を支援する人材を養成する講座を開講するとともに、 学習コミュニティをコーディネートする人材を確保する。 ※「ふるさと学習コミュニティ」 :ICTを活用してふるさと富山に関する様々なテーマで学び合 った県民が集い、その学習の成果を地域に生かす活動を継続的に行う、学びの循環により形 成されるグループ ― 17 ― 3 「ふるさと教育」を推進する体制の整備 (6)ふるさとの持つ魅力と教育資源を発掘・活用する 【現状と課題】 ○ 五箇山の合掌造り集落は、国の重要伝統的建造群としてだけでなく、国指定史 跡として保護されており、日本の代表的原風景であることから、我が国4番目 の文化遺産として平成7年に世界遺産登録された。 ○ 県民挙げての世界文化遺産登録への取組みにより、高岡では日本美術の国際的 地位向上に寄与した林忠正の功績が再評価されるとともに、前田利長墓所が国 の史跡に指定された。立山・黒部地域では、白岩えん堤が砂防施設として初め て国の重要文化財に指定された。 ○ また、立山の麓・芦峅寺地区では、立山信仰における女人救済を目的とした世 界的にも稀有な布橋灌頂会が伝承されている。昨年来、映画「劔岳 点の記」 の大ヒットにより、あらためて雄大で美しくかつ厳しさもある立山連峰の魅力 が内外に広く再認識された。さらに、浅野総一郎や高峰譲吉の生涯が映画化さ れたほか、木曽義仲・巴御前を題材とした大河ドラマ誘致に向けた取組み等が 展開されている。これらのような取組みは、わが町とわが富山県を見直す意識 を高める上で、一定の成果を上げている。 ○ しかしながら、富山県が有する、豊かで美しい自然、多彩な歴史、文化、産業、 美しい水と食など、大都市圏にはない数多くの魅力が、県民に十分認識されて いるとは必ずしもいえない。 ○ 今後、ふるさと教育を通して、県民自身が身近にある地域の魅力を再認識する とともに、歴史的、文化的な価値にさらに磨きをかける活動や新たなコンテン ツを発掘する取組み、誇りと愛着を感じながら保存・継承していく人材の育成、 地域間の相互連携による県民一体となった取組みを促すことにより、富山県全 体の魅力の向上につなげていくことが求められる。 【取組みの方向性】 ○ 世界文化遺産登録への取組みなどにより、県民の地域の魅力の再認識と、ふる さとの教育資源や富山ならではの新たなコンテンツの発掘、それらの活用を進 める。 ○ 富山県の豊かで美しい自然や多彩な歴史、文化などを活かしたまちづくりを市 町村と連携し、また、極力、県民参加で進めることにより、地域の魅力を高め、 富山県全体の魅力の向上と発信につなげる。 ― 18 ― 【具体的方策の提案】 項 目 世界文化遺産・五箇山の 合掌造り集落の保護 世界文化遺産登録運動 への支援の充実 とやま文化財百選の選 定 とやま未来遺産の活用 思い出のとやまの映像 フィルム等の収集 映像による郷土学習教 材の作成・配布 いきいき文化財博士の 活用 県庁本館竣工75周年 記念事業の開催 ふるさと展示コーナー の設置 木曽義仲の再発見・再発 信の推進 歴史と文化が薫るまち づくりの推進 若者によるふるさとの 魅力再発見の企画募集 水辺のまちづくりの推 進 内 容 相倉集落と菅沼集落は、国指定史跡として本来の歴史的な姿で 保護されており、合掌造り建物の茅屋根の葺き替え、躯体の保 存修理や周辺の環境の保存などを支援する。 世界文化遺産への登録を目指す「近世高岡の文化遺産群」、 「立 山・黒部」の民間支援団体を支援する。 地域の宝として親しまれている文化財の中から、郷土の誇りと して後世に保存・継承すべきものを選定し、インターネット等 を通じて広くPRする。 富山の風土に根ざした身近な地域資源を「とやま未来遺産」と して発掘・選定し、地域の魅力創造、地域活性化に活用する。 過去の富山を写した映像フィルム等を収集して、デジタル変換 し、保存・活用する。 DVDによる郷土学習教材を作成し、県内の学校に配布し活用 する。 「いきいき文化財博士(ボランティア)」を活用して子ども向け 文化財ガイド、リーフレットを作成する。 県庁本館竣工75周年を記念して、郷土の歴史や文化などにつ いて学習できるイベントや特別番組の制作等を行う。 県庁内にふるさと展示コーナーを設け、ふるさと文学や偉人な どについて紹介する。 木曽義仲の生い立ちや人物伝、功績などを学習できるイベント やまんが等を制作する。 ふるさとの魅力の再発見を目指し、モデル地域で行う事業を支 援する。 次代を担う若者から、ふるさとの魅力の再発見と向上を目指す 企画を募集する。 地域の特性を活かした水辺のまちの賑わい創出と活性化の推 進に対して支援する。 ― 19 ― (7)ふるさと教育の指導者・ボランティアを養成する 【現状と課題】 《教員養成・研修》 ○ 富山大学人間発達科学部の学生を対象とした必修専門科目である「富山学」は、 富山県の歴史・自然・産業・文化などに対する理解を深めることにより、富山 県の教員を目指す学生の郷土教材開発などの実践的指導力の向上を図ってい る。 ○ また、現職教員に対しては、総合教育センターにおいて各種研修、教材開発な どの事業を展開しているほか、本県の教員の自主的な研究組織である小学校、 中学校、高等学校の各教育研究会等においても、「授業研究」「教材研究」などの 実践を積み重ね、 「ふるさと教育」の教材作成等で大きな役割を果たしている。 《指導者・リーダー、ボランティアの養成》 ○ ふるさと学習を行っている団体・サークルが活動する上で、指導者・リーダー の果たす役割は重要である。これまでも県民生涯学習カレッジでは、指導者・ リーダーの養成・登録 等を行っているが、その活用策まで含めた養成の充実が 求められている。 ○ 「とやまの食」について卓越した知識や技能を有し、その普及活動を行う、 「と やま食の匠」や、富山ならではの食材や食文化などの魅力を語り伝える「食の 語り部」などの認定や、観光振興に向けての地域の核となるキーマンの育成等、 元気な地域づくりに資する人材の養成が行われている。 ○ 富山県や北日本新聞などが加わった実行委員会で実施している「越中富山ふる さとチャレンジ」は、21年度から上級部門を実施しており、合格者の活躍の 場が求められている。 【取組みの方向性】 ○ 富山大学や小学校・中学校教育研究会などと連携して、教員の郷土教材の作 成・活用能力を育成する。 ○ 県民生涯学習カレッジや総合教育センターの機能を活用するなどして、ふるさ と教育の指導者や元気な地域づくりの核となる人材を発掘・養成し、活用策の 充実を図る。 【具体的方策の提案】 項 目 教員の郷土学習教材の 作成・活用能力の育成 内 容 総合教育センターや小学校・中学校教育研究会等が実施する教 員研修を通して、教員の郷土学習教材の作成・活用能力の向上 を図る。 ― 20 ― 県民カレッジでの学習 団体やボランティアの 指導者を養成 「とやま食の匠」「食の 語り部」の認定 観光振興のための地域 人材(キーマン)の育成 「越中富山ふるさとチ ャレンジ」上級合格者の 活用 県民生涯学習カレッジにおいて、生涯学習団体やボランティア サークル等のメンバーに対し、ふるさと学習の企画運営等の方 法についての研修を行い、指導者・リーダーとして養成する。 「とやまの食」に関する知識や技能、魅力を伝えるため、「と やま食の匠」や「食の語り部」を認定する。 郷土の自然や歴史、魅力などを情報発信し、観光を振興してい くため、地域の核となるキーマンの育成を図る。 越中富山ふるさとチャレンジ上級合格者のうち希望者を登録 し、学校や地域、企業などで実施するふるさと学習講座等に講 師として派遣する。 (8)ふるさと教育の推進体制を整備する 【現状と課題】 ○ ふるさとを大切に思う気持ちは多くの県民が有しているが、ふるさと教育を通 して郷土に対する誇りと愛着を持つことが大切であるとの認識をさらに浸透 させる必要がある。学校だけでなく社会全体でふるさと教育を振興していくた め、ふるさと教育を県民運動としていくことが求められている。 【取組みの方向性】 ○ ふるさと教育を県民運動として推進していくための組織づくりを進める。 ○ 学校、地域、各世代、県・市町村・民間等における様々な活動を結びつけ、県 民にふるさと教育をアピールする機会や、ふるさと教育を進める上で、励みと なる機会を設ける。 【具体的方策の提案】 項 目 ふるさと教育を推進す るための体制の整備 ふるさと教育関係者に よるフォーラムの開催 ふるさと教育に関する 表彰制度の創設 内 容 ふるさと教育を県民運動として推進していくため、関係機関・ 団体等が参画し、事業の企画、調整等を行う組織を設置する。 また、その下に、個別の事項を専門的に検討する部会等を設け る。 有識者の講演やパネルディスカッション、表彰等を行うフォー ラムを開催し、県民にふるさと教育を広くアピールする。 先進的な取組みをした団体等を表彰する。 ― 21 ― おわりに この報告書は、学識者、経済・産業界、社会教育団体、保護者等、様々な分野で活 躍されている方々からいただいたご意見、ご提案をまとめ、本県のふるさと教育の振 興に向けた方策を示そうとするものである。 社会経済情勢が変化していく中であっても、県民一人ひとりが両親や先人から受け 継いだ自分の命や生をいつくしみ、それを育み支えてきた基盤、由縁を学び認識し、 心豊かに自らを高め、ふるさと富山を次の時代に伝えていくことが重要である。県民 一人ひとりのふるさとを思う気持ちを大切にしながら、心豊かで活力あるふるさと富 山をつくると同時に、若者が富山県や日本全国、世界を舞台に未来を切り拓いていく ため、ふるさと教育の振興と、それに基づく人づくり、地域づくりが非常に大切であ る。 この報告書の提案内容及びこれまでの議論の過程で出された様々な意見が、ふるさ と教育の振興に必ずや役立つものと思っている。 ― 22 ― 参考資料 ふるさと教育有識者懇談会の開催経過 1 設置趣旨 富山県の豊かで美しく、厳しさもある自然・風土の中で構築された歴史・文化に 関する理解を深める「ふるさと教育」を、学校だけでなく社会全体で推進していく ことについて、幅広く議論するため、平成21年8月に設置した。 2 委員の構成等 (名簿のとおり) ・委員 17名(学識経験者、教育関係者等) ・特別委員 1名 座 長:中尾哲雄 副座長:小風秀雅 3 富山経済同友会代表幹事 お茶の水女子大学教授、山西潤一 富山大学教授 開催経過、議論のテーマ 平成 21 年 8 月 18 日 第1回 ふるさと教育の基本的な理念について ふるさと教育の意義・効果、取り組みを進めるう えでの留意すべき視点、検討すべき事項などを議論 平成 21 年 11 月 11 日 第2回 ふるさと教育の具体的な方策について 基本的な方向性を示した骨子のたたき台をもと に、より具体的な方法や追加すべき事項などを議論 平成 22 年 2 月 8 日 第3回 ふるさと教育の振興に関する報告書(案)について 報告のとりまとめ 平成 22 年 2 月 24 日 報告書の県への提出 ― 23 ― ふるさと教育有識者懇談会設置要綱 (目的) 第1条 ふるさと富山や日本の自然、歴史・文化に関する理解を深め、ふるさとへの誇りと 愛着を育む「ふるさと教育」を社会全体で推進していく方策等について検討するため、ふ るさと教育有識者懇談会(以下「懇談会」という。)を設置する。 (所掌事務) 第2条 懇談会は、次の各号に掲げる事項を所掌する。 (1)富山県のふるさと教育の基本的方向に関する事項 (2)ふるさと教育の推進方策に関する事項 (3)その他ふるさと教育の振興に関する事項 (組織) 第3条 懇談会は、委員17人以内で組織する。 (委員) 第4条 委員は、学識経験者その他適当と認める者のうちから知事が委嘱する。 2 委員の任期は、1年間とする。 (特別委員) 第5条 特別な事項を審議させるために必要があるときは、懇談会に特別委員を置くことが できる。 特別委員は、当該特別な事項に関し優れた識見を有する者のうちから知事が委嘱する。 2 (座長及び副座長) 第6条 懇談会に座長及び副座長を置く。 2 座長は、委員の互選によってこれを定め、副座長は、座長が指名する。 3 座長は、会務を総理し、懇談会を代表する。 4 副座長は、座長を補佐し、座長に事故があるときは、その職務を代行する。 (会議) 第7条 懇談会は、座長が招集する。 2 座長は、必要があると認めるときは、懇談会に委員、特別委員以外の者の出席又は意見 を求めることができる。 (事務局等) 第8条 懇談会の事務局は、知事政策局に置くものとする。 2 懇談会の事務処理にあたり、教育委員会は、その所管するふるさと教育に関する事務を 分担する。また、知事部局は、各部局においてそれぞれ所管するふるさと教育に関する事 務を分担する。 (その他) 第9条 この要綱に定めるもののほか、懇談会の運営に関し必要な事項は、座長が定める。 附 則 1 この要綱は、平成 21 年 7 月 28 日から施行する。 ― 24 ― ふるさと教育有識者懇談会 委員名簿 <委 氏 員> (五十音順、敬称略) 名 所属団体等 麻畠 裕之 富山市教育委員会教育長 岩田 繁子 富山県婦人会会長 大橋 聡司 富山県高等学校PTA連合会顧問 尾崎 汎 富山県公民館連合会副会長 加藤 敏久 富山県高等学校長協会会長 河合 隆 北村 廣明 日本放送協会富山放送局長 小風 秀雅 お茶の水女子大学 教授 後藤 治 武内 繁和 富山県経営者協会副会長 寺西 外美 富山県小学校長会副会長 中尾 哲雄 富山経済同友会代表幹事 姫野 裕一 日本青年会議所富山ブロック協議会副会長 山西 潤一 富山大学 教授 山本 晶 吉川 佳子 米原 寛 北日本新聞社 社長 座長 副座長 富山県中学校長会会長 富山県PTA連合会副会長 越中史壇会副会長、立山博物館長 <特別委員> 英子 副座長 工学院大学 教授 計17名 平舘 備考 日本女子大学 教授 ― 25 ― 【用 語 解 説】 アルファベット CATV(p17) Common Antenna TeleVisionおよびCommunity Antenna TeleVision(共同受信)の略。TV放送波を受信し多 数のTVセットへ配信する為のアンテナ、増幅装置、配線類の一式を指す。 ICT(p5、p17) Information and Communication Technology の略。ICTとは、情報・通信に関連する技術一般の総称で、従来 から頻繁に用いられてきた「IT」とほぼ同様の意味。 TV会議システム(p17) 通信回線を通じて遠隔地と接続し、テレビ(映像と音声)を用いて、遠隔地同士が相手の表情やその場の雰囲気 を感じ取りながら会議を実現するシステム。現地に赴く時間や経費を節約することができる。 あ行 アイデンティティ(p3) Identity。自己同一性。個人や地域が持つ特徴や個性。共同体(地域・組織など)への帰属意識。 浅野総一郎(p2) 実業家、浅野財閥創設者(1848~1930) 。射水郡薮田村(現・氷見市)の医師の長男として生まれる。浅野セメン ト、日本鋼管、東洋汽船等を設立。大正期には鶴見海岸(横浜市)の埋め立て事業に着手し、京浜工業地帯の基礎を 築いた。 アドレナリン(p2) 副腎髄質より分泌されるホルモンであり、神経節や脳神経系における神経伝達物質でもある。ストレス反応の中心 的役割を果たし、血中に放出されると心拍数や血圧を上げ、瞳孔を開き血糖値を上げる作用などがある。 いきいき文化財博士(p19) 県が平成 14 年から 16 年までに行った文化財ボランティア養成事業の修了者で、235 人が認定。 宇治長次郎(p2) 明治期から昭和初期の立山登山ガイド(1871~1945) 。大山村和田(現・富山市)生まれ。1907 年(明治 40 年) に陸軍参謀本部陸地測量部の測量官柴崎芳太郎に同行して剱岳に登り、山案内人としての素質を発揮。彼の登頂を記 念して、登山ルートの谷を「長次郎谷」と名付けられた。 栄養教諭(p6、p7) 学校給食の管理と食に関する指導を一体的に行うとともに、コーディネーターとして学校における食育推進の中 核的役割を担う教員。 越中人譚(p2) 郷土、国際、創校などをテーマに、富山県で生まれ育った人や、ゆかりのある人、尽力した人、偉業を成し遂げた 人を基準に選定され、分冊形式で 1 冊に 3 人を紹介した偉人伝。 (全 72 号・計 216 人)チューリップテレビが放送と 出版で紹介した。 越中富山ふるさとチャレンジ(p2、p20、p21) 富山県の自然や歴史、文化、地理、産業などを試験科目とした「ふるさと検定」 。ジュニア・一般・中級・上級部 門に分かれ、40 から 100 問が出題される。県内にある特定施設を訪れスタンプを集めれば、20点までテストの得 点に加算されるユニークな試みが行われている。 越中万葉(p5、p9、p15) 『万葉集』の代表的な歌人である大伴家持や官人たちが詠んだ 337 首の歌のこと。または、歌の題材となった、越 中の山・川・気候・動植物などの自然や文化のこと。 越中万葉かるた大会(p9) 高岡市内の小中学生を対象として、1980 年から毎年開催されているかるた大会。越中万葉かるたは、高岡古城ラ イオンズクラブが、万葉集の中から高岡にちなんだ百首を選んで制作したもの。 ― 26 ― 大伴家持(p2) 奈良時代の公卿、歌人(718~785) 。746 年(天平 18 年)から 5 年間、越中の国司として赴任。長歌・短歌など合 計 473 首が『万葉集』に収められ、 『万葉集』全体の 1 割を超えている。 か行 学校給食とやまの日(p6) 2005年から、県が11月を地産地消推進月間と定め、月間中に「学校給食とやまの日」として、地場産食材を使用 する学校給食を実施。地場産食材を積極的な活用と、会食を通して学校と家庭、地域との連携を進める。 合掌造り(p11、p13、p18) 急傾斜の屋根を持つ日本の住宅建築様式。庄川の上流地域に多く残存し、白川郷や五箇山の集落に残存する建築 群はユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録されている。 木曽義仲(p18、p19) 平安末期の武将(1154~1184)。源頼朝・義経とは従兄弟にあたる。以仁王(後白河天皇の子)の要請に応じて信 濃で挙兵。砺波山の倶利伽羅峠付近で、10万の平維盛軍と対戦。夜間に火牛の計の奇襲を行い、勝利した。その後、 京から平氏を追放したが、後白河法皇との対立により近江で敗死。巴御前は、義仲の従者で愛妾。 北前船(p11、p12) 江戸から明治時代にかけて、日本海沿岸諸港から関門海峡を経て、瀬戸内海から大坂に向かう航路、及びこの航 路を行きかう海運船のこと。北海道へは米などを運び、北海道からは昆布やニシンなどを運んだ。 九転十起の男(p2) 近代日本経済の礎を築き上げた浅野総一郎の波乱万丈の人生を描いた伝記映画。氷見市役所や雨晴海岸などでも 撮影が行われた。監督:市川徹、原作:新田純子(『その男、はかりしれず』)2006年製作。 近世高岡の文化遺産群(p19) 富山県と高岡市が共同で、世界文化遺産登録を目指している文化遺産群。平成18年度に瑞龍寺・勝興寺・前田利 長墓所・高岡城跡を構成資産とした提案書を文化庁に提出した。現在、継続審議。 グローバル化(p3、p4、p8) グローバル(global)は、全地球的、全世界的の意味。人々の社会的、経済的な活動等が国境を越え、世界的な規 模に拡大し、展開される社会のこと。 黒部川第四発電所(p12) 黒部市の黒部川上流部にある関西電力の水力発電所。ダムの高さは186m(日本一)、総貯水容量は約2億t。通称 「黒四(くろよん)」。総工費515億円と延べ1,000万人もの労力を費やした。周辺は名勝・中部山岳国立公園でも あることから、立山黒部アルペンルートのハイライトのひとつとして、多くの観光客が訪れる。 県民生涯学習カレッジ(p10、p13、p15、p20、p21) 県民の生涯学習の中核的機関として、多彩な生涯学習事業を実施。愛称は県民カレッジ。県民カレッジ本部(富 山県映像センター)、県民カレッジ地区センター(新川・高岡・砺波)の4地区で講座を開催するとともに、学習 団体や県立学校の特性を生かした講座の委託、大学等との連携講座など幅広い事業を展開。 五箇山(p11、p18、p19) 富山県の南西端にある南砺市の旧平村、旧上平村、旧利賀村を合わせた地域。世界遺産の菅沼合掌集落やこきりこ 節や麦屋節の無形文化財など、景観や文化が大切に守られている。 コンテンツ(p11、p17、p18) 内容、中身という意味の英語(contents)。特にメディアなど伝達するための手段によって提供される、娯楽や教 養のために文字や音声、映像などを使用して創作する内容、もしくは創作物を指す。 昆布ロード(p12) 北前船によって運ばれた昆布の交易ルートのことで、蝦夷地(北海道)から長崎を経て中国へ輸出されるルートに 加え、薩摩(鹿児島)から琉球王国(沖縄)を経て清国(中国)へ昆布が交易された。 ― 27 ― さ行 産業観光(p13) 産業に関する施設や技術等の資源を用い、地域内外の人々の交流を図る観光のこと。歴史的、文化的価値のある 産業文化財(機械器具、工場遺構等)、生産現場(工場、工房等)及び製品などを観光資源とする。 散居村(p11、p13) 広大な水田の中に住宅が散らばって点在する集落形態。日本国内最大とされる砺波平野では現在、およそ220平方 キロメートルに7000戸程度が点在している。家屋の周りは、屋敷林(カイニョ)が取り囲んでいる。 椎名道三(p2、p11) 多くの用水開削を行い、新田開発に貢献した水利土木技術者(1790~1858)。新川郡小林村(現・滑川市)の十 村役の家に生まれる。室山野用水、十二貫野用水など開削し、加賀藩から新田裁許(責任者)に任命された。 十二貫野用水(p2) 黒部峡谷の奥の尾ノ沼谷に取水口を持ち、旧扇状地を流れる延長約21km、灌漑面積約220ha、益個戸数約300 軒の用水。椎名道三の指導のもと、地元の先人の熱意によって1841年(天保12年)に完成した。「疏水百選」「とや まの名水」に選ばれている。 浄土真宗(p2、p15) 開祖は親鸞で、真宗・一向宗ともいう。浄土宗では数多く念仏を称えることを勧めるのに対し、郷土真宗では、心の 中でのひたすらなる信心を求め、阿弥陀仏の力にすがる絶対他力を強調した。 食育(p6、p7) 「食」に関する正しい知識を身につけ、自ら「食」を適切に選択することにより、健全な食生活が実践できるよ うにすること。2005年(平成17年)に、食育を国民的な運動として推進する「食育基本法」が制定された。 食の語り部(p20、p21) 「富山ならでは」の食材や独自の食文化の魅力を深く体験できるスポットを巡る周遊ルートが「とやま食の街道」 として設定され、その施設で、街道のテーマに関する歴史や文化、生産加工、料理等の説話を語る人。現在、108 施設が設定され、103名の「食の語り部」がそれぞれの施設で魅力を伝える役割を果たしている。 白岩砂防えん堤(p11、p18) 常願寺川の土砂災害を防ぐために行われている立山砂防工事によって、1939年(昭和14年) 、立山カルデ ラ出口の湯川に築かれた。高さ63m、7基の副堰堤を合わせた総落差108mは、砂防堰堤としては日本一を 誇る。2009年、砂防施設としては全国で初めて国重要文化財に指定された。 親鸞(p2) 鎌倉時代初期の僧で、法然の弟子。浄土真宗の開祖(1173~1263)。阿弥陀仏の救いを信じる心を起こすだけで 極楽往生できると説く絶対他力を称え、悪人正機説を立て、地方武士や農民に流布した。 世界文化遺産(p2、p11、p18、p19) ユネスコ総会で採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」(世界遺産条約)に基づいて、世 界遺産リストに登録された遺跡や景観、自然など、人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」をもつ不動産を指す。文 化遺産、自然遺産、複合遺産に分類される。 全国学力・学習状況調査(p8、p10) 小学校第6学年、中学校第3学年の全児童生徒を対象に、国語、算数・数学の教科に関する調査(「知識」「活用」) と、 生活習慣や学習環境等に関する質問紙調査 (児童生徒に対する調査、学校に対する調査 )のこと。2007年度 から実施。2010年度は抽出調査に変更される。 先用後利(p2、p11) 薬を先に利用してもらい、代金は次回訪問時に使った分だけを徴収する富山売薬独特の販売手法。富山の売薬はこ の商法をベースに、薬の効用とともに、全国各地の情報、健康相談、結婚相談、紙風船などの子供のお土産といった 「お客様に喜ばれる価値」を宅配することで、全国にその販路を拡大した。 ― 28 ― た行 タカジアスターゼ(p2) 高峰譲吉が発明した胃腸薬で、三共(現:第一三共)の商品名。消化酵素のひとつで、デンプンやグリコーゲン を分解する。胃腸薬、消化剤として市販され、胃もたれや胸焼けの治療、防止に服用されている。 高峰譲吉(p2) 高岡市生まれの薬学者・化学者(1854~1922)。「タカジアスターゼ」の発明や、副腎から分泌されるホルモンを 結晶化して「アドレナリン」と命名。製薬会社・三共の初代社長。水力発電所から送電し、アルミニウム工業を高岡 に興す産業振興策なども構想した。 立山カルデラ(p11、p13) 常願寺川源流部に広がる、東西約6.5kmの楕円形のくぼ地。立山火山の崩壊・侵食によってできた。日本の地質 百選に選定。 立山砂防(p11) 1858年(安政5年)の飛越地震により堆積した土砂が流出し、下流域を土砂災害から守るために行われている事業。 現在も約2億㎥の土砂が立山カルデラ内に残っており、流出すると富山平野が厚さ2メートルの土砂で埋没するとい う。 立山信仰(p2、p15、p18) 平安時代末期から江戸時代にかけて信仰を集めた神仏混淆の山岳仏教。立山には地獄から浄土まですべての世界 が存在するとされ、登拝することで罪や汚れのない新しい自分に生まれ変わることができると信じられていた。女 人禁制であったため、入山を許されない女性のための布橋大灌頂という行事が芦峅寺で行われた。 立山博物館(p10、p15) 「立山の自然と人間の関わり」について、人文、自然の両分野を学術的・総合的に調査研究し、その成果を紹介 する博物館。1991年に開館。13haの敷地に、教界・聖界・遊界と名付けられた3つのゾーンで構成され、展示館、 遙望館、まんだら遊苑などの施設がある。 田中耕一(p2) レーザーによりタンパク質を壊さずにイオン化することに世界で初めて成功し、2002年にノーベル賞を受賞。富 山市生まれ(1959~)。東北大学工学部卒業後、島津製作所に入社。現在は、株式会社島津製作所フェロー・田中 耕一記念質量分析研究所所長。 劔岳 点の記(p2) 明治時代末期、陸軍参謀本部陸地測量部(現在の国土地理院)の柴崎芳太郎測量官らが剱岳山頂に三角点を設置す るまでの苦難を描いた映画。上市町・富山市・立山町で地域住民の協力のもとロケ撮影が行われた。監督:木村大作、 原作:新田次郎(『劔岳 点の記』)2009年製作。 天神信仰(p2、p15) 天神(雷神)に対する信仰のことで、特に菅原道真を「天神様」として畏怖・祈願の対象とする神道の信仰のこと をいう。加賀・前田氏が道真の末裔と称し、道真を神格化したことにより、富山県や石川県で広く信仰されている。 巴御前(p18) 平安時代末期の信濃国の武将とされる女性。『平家物語』では、源義仲の平氏討伐に従軍し、大刀と強弓の女武者 として描かれている。 富山インターネット市民塾(p17) 1999年に運用を開始した、インターネットを使った学びの場。富山県や市町村、企業、NPOなどが共同で運営し、 年間の利用者は延べ10万人を超える。登録すると受講できるほか、市民講師としても活動できる。 富山学(p20) 富山大学人間発達科学部の授業「地域教材研究」の通称。富山県の歴史・自然・産業・文化などの理解を深めて、 富山県の教員としての情熱・希望・使命感を高め、教材開発などの実践的指導力の向上を図っている。 ― 29 ― とやま学遊ネット(p16、p17) 富山県生涯学習情報提供ネットワークシステムの通称。ネットワークを活用して富山県内の生涯学習情報の収 集・提供ほか、学習活動を支援するサービスを提供している。 富山県デジタル文化財ミュージアム(p17) 富山県内にある文化財を広く知ってもらうために、県教育委員会が2005年に開設したホームページ。対象は富山 県内にある国・県指定文化財が中心。個別解説については、富山県文化財GISを活用し、写真や地図情報で見ること ができる。ホームページ http://www.pref.toyama.jp/sections/3009/3007/digital/index2.html とやま県民ふるさと資料館(p17) とやまの自然、文化、歴史などの資料や活動の成果などを、文字や映像で提供するホームページ。祭り、立山、 民謡、川などの17分野に分類されている。ホームページhttp://www.tkc.pref.toyama.jp/furusato/findex.html とやま食の匠(p20、p21) 地域で育まれてきた「とやまの食」について卓越した知識と技能を有し、その普及活動を積極的に行える個人や 団体を「とやま食の匠」として認定。特産の匠、伝承の匠、創作の匠の3部門がある。 とやまデジタル映像ライブラリー(p17) 生涯学習・教育・文化などの分野のふるさと富山に関する映像ライブラリーで、 1,100件以上の映像が登録されて いる。ホームページ http://www5.tkc.pref.toyama.jp/mmdb/center/index.html とやま文化財百選(p19) 県民に親しまれている文化財を後世に伝えるために、県教育委員会が100件を選定し、冊子作成などのPR活動 をしている。これまでに、土蔵、獅子舞、祭り、年中行事、お城、近代歴史遺産の百選が選定されている。 富山弁(p15) 富山県で話されている日本語の方言で、北陸方言の一種でもある。日本でも珍しい、古語が残っている方言であり、 更に日本の東西の文化が入り混じる独特な方言。 とやま未来遺産(p19) 次代に引き継きたい景観や自然、産業技術、街並みなどの「地域のたからもの(地域資源)」のこと。県民生活に かかわりが深いものや、地域で継続的な活動が行われているものが対象。現在19件が選定されている。 な行 ナチュラリスト(p12) 自然豊かな場所で動植物などの解説を行うボランティア。自然保護講座を受講し、知識・技能を身につけた人を 認定し、立山の室堂平、弥陀ヶ原、称名滝のほか、ねいの里、頼成の森などで活躍している。 日本海学(p11、p12) 環日本海地域全体を、日本海を共有する一つのまとまりのある圏域としてとらえ、過去、現在、未来にわたる人間 と自然のかかわり、地域間の人間と人間とのかかわりを、総合学として研究しようとするもの。 は行 馬場はる(p2) 旧制富山高等学校の創設者(1886~1971)。上新川郡岩瀬町(現・富山市)の船問屋に嫁ぎ、夫の死後、事業を継 承する。県に100万円を寄付し、全国初の公立7年制の富山高等学校(富山大学の前身)を創設。「ヘルン文庫」 の寄贈、教授らの外国留学費を拠出するなど、富山県教育のために尽力した。 林忠正(p18) 浮世絵をフランスに紹介し、パリに日本美術ブームを巻き起こした国際的美術商兼評論家(1853~1906)。高岡 の蘭方医の家に生まれる。パリ万国博覧会の通訳として渡仏。ジャポニズムが流行するパリで日本文化の伝達者とし て画家や文学者と深く交流し、影響を与えた。 ― 30 ― ビオトープ(p8) ドイツ語で「野生生物の生息・生育空間」という意味。県内でも学校ビオトープが造られ、子どもたちに直接自 然に触れる機会を与え、自然の仕組みを理解させることや、地域住民が維持管理に関わることで、学校と地域の交 流を深める等の効果をあげている。 フェーン現象(p11) 山越え気流に伴う昇温現象のこと。風上の湿った空気が山の斜面を越える時に雨を降らせ、その後山を吹き降り るか、または、上空の高温位の空気塊が力学的に山地の風下側に下降する現象。 藤井能三(p2) 実業家、伏木小学校創設者(1846~1913)。射水郡伏木村(現・高岡市)の回船問屋に生まれる。西洋型汽船によ る航路開設、灯台・測候所の設置、庄川改修工事に付帯する伏木港築港工事の完成など地域経済の発展に尽くした。 ふるさと文学発掘チーム(p14) 富山県ゆかりの文学に関する貴重な資料を、安心して寄贈・寄託してもらうための窓口として、制度のPRや情報 収集を行うボランティア組織。 分県運動(p11) 大石川県時代(1876~1883)に越中域の治水費をめぐり、越中出身の議員と加賀・能登出身の議員の間で対立。 1882年に米沢紋三郎らが「分県之建白」を政府に提出するなど請願運動を続け、1883年富山県が成立した。 ヘルン文庫(p2) ラフカディオ・ハーン(Lafcadio Hearn, 1850~1904 :小泉八雲)の旧蔵書を収めた文庫。富山大学附属図書 館5階にある。馬場はるがハーンの蔵書を譲り受けて、1924年に旧制富山高等学校に寄附。ヘルンとはハーンをさす。 報恩講(p2) 浄土真宗で、親鸞の命日である11月28日を中心に行う仏事のこと。「ほんこはん」ともいわれ、富山県では主に 秋から年暮れにかけて行う。仏事の後に報恩講料理という精進料理が出される。 ま行 前田利長(p18) 加賀藩2代藩主(1562~1614)。加賀藩祖・前田利家の長男(嫡男)で、母はまつ(芳春院)。秀吉没後から徳川幕府成立 までの難局を、苦渋の政治判断で乗り越え、加賀藩の礎を築いた。隠居してから、高岡城を築き移り、そこで病没。 万葉歴史館(p9) 正式名は高岡市万葉歴史館。『万葉集』を中心テ-マに据えた初めての研究施設(平成2年開館)。館内では『万 葉集』や「越中万葉の世界」を楽しみながら学ぶ常設展示や企画展示を行っている。また、『万葉集』とその時代 に関係する資料の収集・整理や、研究成果の全国発信を行っている。 万葉集全20巻朗唱の会(p9) 毎年10月の第1週末に高岡古城公園内で、万葉歌人風の装束に身を包んだ幼児から大人まで2,000人余りが、三昼 夜にわたり万葉集全20巻4,516首をリレー朗唱するイベント。2009年で20回を数える。 や行 安田善次郎(p2) 安田財閥を築いた実業家(1838~1921)。富山藩の下級藩士の家に生まれる。海産物兼両替商「安田屋」を創業。 安田銀行、共済五百名社(のちの安田生命)を設立。東大安田講堂、日比谷公会堂を寄贈。 ら行 蓮如(p2) 浄土真宗本願寺8世法主(1415~1499)。本願寺中興の祖。一向宗の信仰をやさしい言葉でわかりやすく述べた御 文(手紙)が各地の門徒に送られ、講の集まりなどで読み聞かせられた。 ロールモデル(p10) 具体的な行動技術や行動事例を模倣・学習する対象となる人材。役割モデル。 ― 31 ― ― 32 ―