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看護学生の高齢者イメージの変化
[研究ノート] 香川県立医療短期大学紀要 第 1巻 , 5 1-6 0,1 9 9 9 看護学生の高齢者イメージの変化 一老年看護学概論の授業前・後の比較一 滝川由美子¥吉本知恵,横川絹恵 香川県立医療短滞丈学者護学梓 Change ofNursing Student's Elderly Person Image after the Lecture ofGerontological Nursing , C hieYoshimoto andKinue Yokogawa Yumiko Takigawa* Departmento fN u r s i n g,Kagawa Pr φctural College ofHealthSciences Key Words:高齢者 ( e l d e r l yp e r s o n ),老人 ( o l dp e r s o n ),イメージ(image),看護学生 ( n u r s i n gs t u d e n t ) 老いを否定的に捉える傾向にあることなどから学生 はじめに の高齢者に対するイメージ(以下高齢者イメージ) 現代社会においては家族構造の変化により核家族 が約 6割を占めている.このことから,入学してく には一般的に偏りがある.保坂ら 1) は「大学生が 抱く老人イメ}ジは,どちらかといえば否定的であ る学生の背景として高齢者との同居体験が少ないた る. Jと述べている. また,イメージとは人によっ め,日頃高齢者と接する機会が少ないことが予測き て異なり行動はイメージに依存する.高齢者に対す れる.また,高齢社会における問題のみが強調され るイメージも学生一人ひとり,あるいは教員との間 取り上げられること,効率を重んじる近代社会以降 でも異なることが考えられる.教育はまず学生のも *連絡先:干 7 6 1 0 1 2 3 香川県木田郡牟礼町大字原 2 8 1 1 香川県立医療短期大学看護学科 ' C o r r e s p o n d i n ga d d r e s s:D e p a r t m e n to fN u r s i n g,K a g a w aP r e f e c t u r a lC o l l e g eo fH e a l t hS c i e n c e s, 2 8 1 1H a r a ,M u r e c h o .K i t ag u n,K a g a w a .761-0123.] a p a n キ ← -51 つイメージを始点としそこから出発することが必要 2)調査方法 である.また,イメージ、は情報によっても変化する 1回目は老年看護学概論の授業開始前の 1年次 ため,学習のなかでどのような情報をどのような形 1 0月に学生に調査の意図を説明し,自記式調査票 で提供するかが教育側の重要な課題となる.老年看 を配布しその場で回収した. 2回目は老年看護学 護学の学習過程では,はじめに健康で、社会生活を営 概論の授業が終了し,高齢者に関する図書を読み んでいる高齢者を正しく理解することが重要であ る.看護学生の高齢者イメージの他の研究 2- 4) を 高齢者へのインタビューが終了した 1年次 1月に 学生に調査の意図を説明し,自記式調査票を配布 見てみると,老年看護学実習の前後での高齢者イメ し数日後に回収した. 1回目 ージの変化に着目したものは数多くあるが,老年看 率は 1 00%であった. 2回目ともに回 4 又 3 . 分析方法 護学概論の授業の前後での高齢者イメージの変化を 見たものは見当たらない. 高齢者イメージは各項目毎に平均値と標準偏差を そこで,老年看護学概論の授業開始時に学生の高 算出した.また, 5 0項目を老年看護学に携わる教員 齢者イメージを知るためと,授業終了後,イメージ 3名の協議に基づき類似項目ごとに『外観性.1 . 行 がどのように変化したかを把握するために調査を行 動 . 1 . 能力.1 . 性格.1 . 幸福性.1 . 関係j なった.その結果今後の老年看護学の授業展開の示 『総合評価 Jの 7つのカテゴリーに分類した.結 r 唆を得たので報告する. r r r r 果は分布により正規性の検定,等分散の検定を行っ てノンパラメトリックデータであることが確認され たので老年看護学概論の授業前・後の比較には 方法 Wilcoxonの符号付き順位検定を,祖父母との同居 1.対象 経験がある群と同居経験のない群との比較には Mann-Whitneyの U検定を行った.なお統計ソフ 調査に同意を得られた本短期大学看護学科 1年次生 4 9名 2 . 調査内容および調査方法 o rWindows.Ver .9 .0をイ吏用した. トは SPSSf 4 . 対象者の属性 9名は全員女子であり,平 分析対象となった学生4 1)調査内容 均年齢は 1 8 .7歳(::t0 . 6 ) であった.対象者のうち ( 1 ) 高齢者イメージに影響する個人的要因 5名 ( 3 0 . 6 % ), 祖父母と現在同居しているものは 1 ① 年齢 ②性別 現在は同居していないが過去に同居した経験がある ③ 祖父母との同居経験の有無 ものは 9名 ( 1 8 . 4 % ),全く同居経験がないものは ④ 2 5名 ( 51 .0%) であった.また,同居経験もなく祖 父母以外の高齢者と話す機会もないものは1 2名 ( 2 4 . 5 % ) であった. 同居の祖父母との接触頻度・会話内容 ⑤ 学生にとっての祖父母の存在 ⑥ 同居の祖父母以外の高齢者との接触頻度 -会話内容 結果 ( 2 ) 高齢者イメージについて ① 学生が高齢者と考える年齢について 1 . 自由記述式の調査結果について ② 学生が高齢者という言葉からイメージす 「高齢者とは何歳からだと思いますか」の質問で は授業前は 6 0歳からは歳が 1 0名だ、ったが授業後は 3 る色について(自由記述式) ③ 高齢者イメージ調査 高齢者イメージの調査には保坂ら 名と減少した. 6 5歳は 2 2名から 2 5名とやや増加し が考案した た.また,授業前は 70歳が 1 3名いたが授業後は 7名 SD法によるイメ}ジのスケールを使用した.これ 5歳以上が 3名から 1 1名に増えた.授業 に減少し, 7 は高齢者イメージ、について「否定的一肯定的」と対 後で「特に年齢制限はない」と答えた学生が 1名い をなす 5 0の項目からなる. 7段階評定で た.理由は「個人差があるから」と答えている(表 1) 4点は肯 定的,否定的どちらでもない段階で,これを境に 3 点(やや). 2点(かなり), 1点(非常に)と否定 的 イ メ ー ジ が 強 く な り , 一 方 5点(やや), (かなり), 次に「高齢者という言葉から何色をイメージしま 名,灰色 1 4 すか」の質問には,授業前は茶系が 18 6点 名,白 9名の 4 1名で、地味な色合いが71 .9%をしめて 7点(非常に)と肯定的イメージが強 2名,灰色 1 1名,白 7名の 3 0 おり,授業後では茶系 1 くなるとした. 5 2 香川県立医療短期大学紀要 表 1 高齢者のイメージ年齢 後 授業 害 年齢 人数 リ 6 0 9 1巻 , 5 1-6 0, 1 9 9 9 表 2 高齢者のイメージカラー 授業後 授業前 年齢 人数 割合 I 口 L 第 授業後 人数 割合 色 口 人 数 害1 ム 色 1 8 . 4 6 0 3 6 . 1 茶系 1 8 31 .5 茶系 1 2 2 4 . 5 6 1 1 2 . 0 6 5 2 5 51 .0 灰色 1 4 2 4 . 6 灰色 1 1 2 2 . 5 6 5 2 2 4 4 . 9 6 7 1 2 . 0 白 9 1 5 . 8 白 7 1 4 . 3 7 0 1 3 2 6 . 5 7 0 7 1 4 . 3 肌色 5 8 . 8 緑系 6 1 2 . 2 7 2 1 2 . 0 7 2 1 2 . 0 緑系 3 5 . 3 黄色系 5 1 0 . 2 7 5 2 4 . 1 7 5 5 1 0 . 2 青系 2 3 . 5 桃色 2 4 . 1 8 0 1 2 . 0 8 0 その他 6 1 2 . 2 桂系 2 3 . 5 青系 1 2 . 0 1 2 . 0 山吹色 1 1 .8 肌色 l 2 . 0 紫 1 1 .8 紫 1 2 . 0 里 1 1 .8 暗い色 1 2 . 0 無回答 1 1 .8 その他 2 4 . 1 表 3 カテゴリー別の授業前・後の比較 カテゴリー名 外観性 行動 能力 性格 幸福性 関係 総合評価 授業 前 平 均 値 標準偏差 3 . 2 8 0 . 6 2 3 . 1 9 0 . 5 1 3 . 6 9 0 . 5 8 4 . 0 0 0 . 6 0 3 . 5 5 0 . 5 7 3 . 3 8 0 . 7 2 3 . 2 1 0 . 6 1 授業 後 平 均 値 標準偏差 3 . 6 0 0 . 5 5 3 . 2 4 0 . 5 3 4 . 0 0 0 . 6 6 4 . 2 0 0 . 4 3 3 . 9 6 0 . 5 4 3 .7 8 0 . 6 5 3 . 5 2 0 . 5 2 名で 6 1 .2%と減少した.緑系,黄色系は 6名から 1 1 Wilcoxon 前 後 差 の順符位号検付定き 0 . 3 2 0 . 0 5 0 . 3 1 0 . 2 0 0 . 4 1 0 . 4 0 0 . 3 1 * * * * * * *p<O.Ol えて『能力』が肯定的ゾーンとなった(図1). 名 に 増 え た . ま た ピ ン ク 色 が 2名 み ら れ た ( 表 また,各項目において祖父母との同居経験が 2) . ある学生と同居経験のない学生に有意差はなか 2. SD法による質問調査の結果について った. 2)各カテゴリーについて 1)全体について ( 1 ) 外観性について 0項目のうち「騒がしい一静かな」 授業後は 5 を除く 4 9 項目が肯定的な方向に変化していた. 「外観性 j の 7項目の中で,授業前に肯定 . 0 0,授 また,全体の平均値をみると授業前が4 的ゾーンにあった項目は「だらしない きち 業 後 が4 . 3 5と高くなり 3 5項 目 が 有 意 に (p< 貧弱な一立派な J 1 汚い一きれ んとした J 1 0 . 0 5 ) 肯定的な方向に変化した. 7つのカテゴ い」の 3項目であったが,授業後では「弱弱 リーの平均値を比較すると『行動.1 < 総合評 しい 価 . 1 < 外観性.1 < 関係.1 < 幸福性.1 < 能 4項目となった.そして,授業前・後ともに 力 . 1 < 性 格j となり授業前・後ともに同様の 平均値が最も低かったのは「地味な一派手 順序を示し『行動』以外の『総合評価.1. 外観 な」で,最も高かったのは「だらしない一き 性 . 1 . 関 係 . 1 , ちんとした Jであった. r r r r r r r r r 幸福性.1. r 能力.1. r 性格』で有 意差 (p<0.05) がみられた(表 3 ). たくましい」が肯定的ゾーンに変化し 『外観性』の 7項目においてはすべての項 しかしながら,全体に肯定的な方向に変化し 目に有意差 (p<O.Ol) がみられ,最も変化 たとはいえ,授業前では 4 (どちらともいえな したのは「貧弱な一立派な」の 0 . 6 5ポイント い)以上の肯定的ゾーンを示したのは f 性格 J であった.また『外観性』の授業前・後の平 のみで,他の 6つのカテゴリーは 4未満の否定 均値を比較すると, 3 . 2 8から 3 . 6 0と高くなっ 的ゾ}ンであった.授業後では, た(表 4). r 性格Jに加 5 3 性 小さい きたない や や や 3 目立つ │ 外 きちんとした カ 遅い 単純な 格 鈍い 霊監盟 能動的 劣った 優れた 無能な 思かな 有能な 能 賢い 生産的 カ 非生産的 単純な 厳しい 悲観的 いばった 憎らしい 固い 組い 内向的 暗い 強情な 冷たい 貧しい 不満 悲しい まな 空っ l 灰色 関 不幸な 疎遠な 孤立 A 口 評 閉鎖的 消極的 反ばっ 依存的 感情的 保守的 不安定 主観的 弱い 貧欲な . . . . . . . . . • •-, . . •-, . . • . , ' . . . ' . . ' . . . , . . e e a a e e 8 e e a 高尚な 複雑な やさしい 楽観的 へりくだった│性 愛らしい 柔らかい 細かい 外受的 格 明るい 索直な 霊 堂 t ¥ 豊かな 瀦足 うれしい 滋たされた ほら色 福 魅カのある 性 圭室主 親密な 速稽 開放的 積極的 同調 自立的 理性的 進歩的 安定 客観的 強い 無欲な い 広い 図 1 各項目の平均評定値 -54- 関 係 総 A ロ 評 価 同魁 区 価 動 忙しそう 魅力のない 総 行 暇ぞう 性 係 性 幸 幸 福 l 観 大きい きれい 複雑な 静かな 鋭い 盤盆主 性 派手な 立派な 動的 速い 騒がしい 能 に 7 静的 動 砕 常 mく去しい 重霊主 行 かなり 地味な どちらで もない‘ 観 か な り 2τ1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・. . .‘ 砕常に 外 弱弱しい 目立たない だらしない や 香川県立医療短期大学紀要 第 1巻. 5 1-6 0 .1 9 9 9 表 4 外観性カテゴリー 授業前 名 目 項 平均値 ~B~B しいーたくましい 目立たない 目立つ だらしない一きちんとした 地味な一派手な 小さい一大きい きたない一きれい 貧弱な一立派な 標準偏差 3 . 4 9 3 .7 6 4 . 5 5 3 . 1 2 3 . 2 2 4 . 1 0 4 . 2 4 授業 平均値 0 . 7 4 1 .1 4 1 .2 8 1 .2 8 1 .1 6 0 . 9 9 0 . 9 3 後 標準偏差 4 . 0 8 3 . 9 8 4 . 9 8 3 . 3 7 3 . 5 7 4 . 5 3 4 . 9 0 羽T i l c o x o n 前 後 差 の順符位号検付定き 0 . 8 9 1 .0 5 1 .1 9 1 .3 2 1 .2 7 0 . 8 5 0 . 9 1 0 . 5 9 0 . 2 2 0 . 4 3 0 . 2 4 0 . 3 5 0 . 4 3 0 . 6 5 * * * * * * * *p<O.Ol 表 5 行動カテゴリー 日 項 名 静的一動的 遅い一速い 不自由な 自由な 騒がしい一静かな 鈍い一鋭い 暇そう一忙しそう 受動的能動的 前 授業 平均値 標準偏差 3 . 2 9 2 . 6 7 3 . 8 0 4 . 6 3 3 . 5 1 3 . 4 9 3 . 2 7 授 業 平均値 1 .0 4 1 .0 4 0 . 9 9 0 . 9 4 1 .0 6 1 .1 7 1 .3 4 ( 2 ) 行動について 3 . 8 8 2 . 8 6 4 . 0 8 4 . 6 1 3 . 6 5 3 . 8 4 3 . 6 9 後 標準偏差 Wilcoxon 前後差 の 順 符 位 号 検 付 定き 1 .1 8 1 .0 5 0 . 9 8 0 . 8 6 0 . 9 6 1 .1 0 1 .3 2 0 . 5 9 0 . 1 8 0 . 2 9 0 . 0 2 0 . 1 4 0 . 3 5 0 . 4 3 * * * *p<O.Ol そして,授業前・後ともに平均値が最も低か 『行動』の 7項目の中で授業前に肯定的ゾ ったのは「非生産的生産的」で,最も高か ーンにあった項目は「騒がしい一静かな」の ったのは「愚かな一賢い」であった.特に 愚かな 「無能な一有能な JI 1項目であったが,授業後では「不自由な一 自由な」が肯定的ゾーンに変化し 2項目とな った.そして,授業前・後ともに平均値が最 賢い」の項目 は,授業後には平均値が 5以上となった. 『能力 Jの 5項目においては, 4 項目に有 速い」で,最も高か p < O . O l ) がみられ,最も変化したの 意差 ( ったのは「騒がしい一静かな」であった. I 騒 . 5 9ポイントであっ は「劣った一優れた」の 0 も低かったのは「遅い がしい . 0 2ポ 静かな」は授業前に比べると 0 イント低くなっていた.しかし授業前・後 とも肯定的ゾーンであった.また「遅い一速 い」は 5 0項目のうち平均値が最も低かった. た.また『能力』の授業前・後の平均値を比 較すると 3 . 6 9から 4 . 0 0と高くなった(表 6 ). ( 4 ) 性格について 『性格』の 1 1項目の中で,授業前に肯定的 3項目に有 厳 ゾーンにあった項目は「冷たい一温かい JI 意差 ( p < O . 01)がみられ,最も変化したの しい一優しい J1 憎らしいー愛らしい JI 単純 . 5 9ポイントであった. は「静的一動的」の 0 な一複雑な JI 粗い一細かい JI いばったーへ また『行動 Jの授業前・後の平均値を比較す 暗い りくだった JI . 1 9,がら 3 . 2 4と高くなったがカテゴリー ると 3 内向 った.授業後では「固い一柔らかい JI のなかで変化が最も小さかった(表 5) . 悲観的一楽観的」が肯定的ゾ 的一外交的 JI 『行動』の 7項目においては 明るい」の 7項目であ 0項目となった.そして,授業 ーンに変化し 1 ( 3 ) 能力について 『能力 Jの 5項目の中では,授業前・後と 前・後ともに平均値が最も低かったのは「強 もに 5項目すべてが肯定的ゾーンにあった. 情な一素直な」で,最も高かったのは「冷た -55-- 表 6 能力カテコリー 項 目 名 授業後 授業前 平均値 無能な一有能な 愚かな一賢い 非生産的一生産的 低俗な一高尚な 標準偏差 標準偏差 平均値 1 .0 4 4 . 0 4 4 . 9 0 4 . 9 4 4 . 1 2 4 . 3 9 劣った一優れた 4 . 6 3 5 . 4 3 5 . 3 1 4 . 2 4 4 . 6 9 1 .1 2 1 .0 9 1 .0 9 0 . 9 8 1 .2 9 1 .1 2 1 .0 4 1 .1 5 0 . 9 6 1 九 T i l c o x o n 前 後 差 の順符位号検付定き 0 . 5 9 0 . 5 3 0 . 3 7 0 . 1 2 0 . 3 1 * * * * *p<0.01 表 7 性格カテゴリー 項 目 名 授業 平均値 単純な一複雑な 厳しいーやさしい 悲観的楽観的 いばったーへりくだ、った 憎らしい一愛らしい 固い一柔らかい 粗い一細かい 内向的一外交的 暗い一明るい 強情な一素直な 冷たい一温かい 4 . 4 8 5 . 1 4 3 . 8 0 4 . 1 6 4 . 8 8 3 . 9 8 4 . 3 9 3 . 8 4 4 . 0 4 3 . 6 7 5 . 5 5 前 授業 標準偏差 平均値 1 .4 7 0 . 5 9 1 .0 7 1 .0 2 1 .2 1 1 .1 2 1 .0 4 1 .5 1 1 .3 2 1 .2 6 1 .0 2 5 . 0 4 5 . 2 9 4 . 1 4 4 . 3 5 5 . 1 4 4 . 4 7 4 . 4 3 4 . 3 1 4 . 6 1 3 . 8 6 6 . 0 4 後 標準偏差 1 .3 8 0 . 5 2 0 . 9 8 0 . 8 6 1 .1 2 0 . 9 6 0 . 8 7 1 .2 9 1 .0 2 1 .0 2 0 . 9 8 Wilcoxon 前 後 差 の順符位号検付定き 0 . 5 6 0 . 1 4 0 . 3 5 0 . 1 8 0 . 2 7 0 . 4 9 0 . 0 4 0 . 4 7 0 . 5 7 0 . 1 8 0 . 4 9 * * * * * * * * *p<0.01 い一温かい」であった.また,平均値が 5以 も低かったのは「灰色一ばら色」で最も高か 上の項目をみると授業前では 2項目であった ったのは「魅力のない一魅力のある」であっ が,授業後では 4項目となり,なかでも「冷 た.また, . 0 4と5 0 項目中最高値を示 たい一温かい」は 6 授業後では平均値が 5以上となった. した. I 魅力のない一魅力のある」は, 『幸福性』の 7項目においてはすべての項 『性格Jの1 1項目においては 8項目に有 目に有意差 ( p<O.01)がみられ,最も変化 p < O . O l ) がみられ,最も変化したの 意差 ( したのは「灰色一ばら色」の 0 . 6 4ポイントで は「暗い一明るい」の 0 . 5 7ポイントであった. あった.また『幸福性j の授業前・後の平均 また『性格Jの授業前・後の平均値を比較す 値を比較すると 3 . 5 5から 3 . 9 6と高くなった . 0 0から 4 . 2 0と高くなった(表7). ると 4 ( 表 8). ( 5 ) 幸福牲について ( 6 ) 関係について 『幸福性』の 7項目の中で,授業前に肯定 『関係』の 6項目の中で,授業前に肯定的 的ゾーンにあった項目は「魅力のない一魅力 ゾーンにあった項目は「反発一同調 JI 疎遠 のある JI 貧しい 豊かな JI 不幸な一幸福な」 な一親密な」の 2項目であったが,授業後で 「空っぽな一満たされた JI 不満一満足」の は「閉鎖的一開放的 JI 消極的一積極的 JI 孤 5項目であったが,授業後では「悲しい一う 立一連帯 JI 依存的一自律的」の 4つの項目 れしい」が肯定的ゾーンに変化し 6項目とな が肯定的ゾーンに変化し全ての項目が肯定的 った.そして,授業前・後ともに平均値が最 ゾーンとなった.授業前・後ともに平均値が 56- 香川県立医療短期大学紀要 第 l巻 , 5 1-60,1 9 9 9 表 8 幸福性カテゴリー 項 名 目 授業前 授業 後 W i l c o x o n 前 後 差 の順符位号検付定き 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 貧しい一豊かな 4 . 3 9 1 .0 8 4 . 4 7 0 . 9 4 0 . 0 8 不満一満足 4 . 0 0 3 . 9 4 0 . 9 1 0 . 9 2 0 . 4 1 0 . 8 7 4 . 4 1 4 . 1 6 0 . 8 1 0 . 2 2 0 . 4 5 0 . 6 3 悲しい一うれしい 4 . 2 0 3 . 1 4 0 . 9 4 4 . 6 5 0 . 9 8 3 . 7 8 0 . 9 6 0 . 9 2 魅力のない一魅力のある 4 . 5 3 0 . 9 1 5 . 0 4 1 .0 2 0 . 5 1 不幸な一幸福な 4 . 3 7 0 . 8 3 4 .7 6 O .7 5 0 . 3 9 空っぽな一満たされた 灰色一ばら色 * * * * * * * *p<0.01 表 9 関係カテゴリー 項 目 名 授業前 授業 後 W i l c o x o n 前 後 差 の順符位号検付定き 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 疎遠な一親密な 4 . 4 1 1 .2 6 4 . 8 8 1 .2 4 0 . 4 7 孤立連帯 3 . 8 4 1 . 4 3 1 .1 7 0 . 3 7 閉鎖的開放的 3 . 9 6 3 . 9 2 4 . 1 4 3 .7 1 1 . 3 7 1 .1 5 1 .2 2 1 .2 2 4 . 2 0 4 . 3 1 4 . 3 5 1 .1 5 0 . 3 5 0 . 4 3 0 . 2 2 0 . 4 9 消極的積極的 反ぱつ一同調 依存的一自立的 4 . 3 7 4 . 2 0 0 . 9 3 1 .1 8 1 .1 8 * * * * *p<O.Ol 最も低かったのは「依存的一自立的」であり, のは「弱い一強い」の 0 . 5 3ポイントであっ 最も高かったのは「疎遠な た.また『総合評価』の授業前・後の平均値 親密な」であっ を比較すると 3 . 2 1から 3 . 5 2と高くなった(表 た. 1 0 ) . 『関係』の 6項目のうち 4項目においては 有意差 (p<O.Ol) がみられ,最も変化した のは「依存的 自立的」の 0 . 4 9ポイントであ 考察 った.また『関係』の授業前・後の平均値を 比較すると 3 . 3 8から 3 . 7 8と高くなった(表 老年看護学概論において老年期を「豊かな経験に よって裏付けられた知識と生活の厚みという積極的 9). ( 7 ) 総合評価について な側面と,加齢によって種々の機能が低下し,心身 ともに衰えていく過程にあるという消極的な側面が 『総合評価』の 7項目のなかで,授業前に 共存している」引と捉えている.学生がどのような 肯定的ゾーンにあった項目は「狭い一広い」 「貧欲な一無欲な」の 2項目であったが,授 老年観をもっているかは高齢者に対する看護の質や 業後では「不安定一安定」が肯定的ゾーンに 内容に影響を及ぼす要因のーっと考えられる.学生 I 感情的一理 が高齢者の積極的側面と消極的側面を正しく認識す . 9 2で変化しなか 性的」は授業前・後ともに 3 ることが老年観を形成することに重要であると考え った.そして,授業前・後ともに平均値が最 る. 変化し 3項目となった.また, も低かったのは「保守的一進歩的」で,最も 実際に学生の高齢者イメージをみると『外観性』 高かったのは「食欲な一無欲な」であった. カテゴリーでは,加齢による外見的な変化を肯定的 『総合評価』の 7項目においては 3項目に に捉えており,高齢者を尊敬できる存在としている 有意差 (p<O.01)がみられ,最も変化した ことが窺える.同時に高齢者が普段着ている服の色 -57 表1 0 総合評価カテコリー 項 目 名 感情的一理性的 保守的進歩的 不安定一安定 主観的一客観的 弱い一強い 貧欲な一無欲な 狭い一広い 授業後 授業前 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 3 . 9 2 3 . 0 0 3 .7 8 3 .7 1 3 . 2 7 4 . 4 5 4 . 1 6 1 .2 4 3 . 9 2 3 . 4 3 4 . 0 2 4 . 0 0 3 . 8 0 4 . 5 7 4 . 2 4 1 .2 1 0 . 8 7 1 .0 7 1 .0 6 1 .1 7 1 .4 8 0 . 9 2 Wilcoxon 前 後 差 の順符位号検付定き 1 .0 6 1 .3 9 0 . 9 4 1 .1 0 1 .3 0 1 .0 3 0 . 0 0 0 . 4 3 0 . 2 4 0 . 2 9 0 . 5 3 0 . 1 2 0 . 0 8 * * * *p<0.01 や身体機能の低下,健康障害などから目立たない, 側面を表わしているが,学生はこれらの側面を円熟 地味な存在であると思っている. しますます成長・発達していく部分として正しく認 『行動』カテゴリーにおける否定的イメージにつ 識していると考えられる. いては,高齢者の身体的側面である運動機能の低下 『幸福性』カテゴリーにおいては,退職や家庭で や活動能力の低下に,学生の視点が向いているため の役割の変化など,社会的に大きな変化のあった高 と考えられる.老化による身体的機能の変化は外見 齢者の生活を肯定的に捉えている.否定的ゾーンの 上の変化および機能上の変化となって表れるため, 「灰色」はカラーイメージと同様に高齢者の特徴で 学生は一部を肯定的に捉えながらも全体として否定 ある髪の色や服装の色などが大きく関与していると 的イメージとなっている. 考えられる.しかし,授業前・後の変化が大きかっ 『外観性』ゃ『行動』は学生が高齢者とあまり接 たことは学生の視点が高齢者の外見から内面に向け する機会が少ないため外見的側面だけで捉えてしま られつつあると考える. う傾向がある.しかし現実に高齢者との出会いを 『関係』カテゴリーは授業後に全ての項目が肯定 体験することによって多少なりともイメージが変化 的ゾーンに変化した.それは学生がインタビューを してきた.学生が高齢者に対して肯定的イメージを した高齢者は健康で、あり,家族や友人のこと,地域 持つには高齢者とのふれあいや出会いの体験を授業 での出来事や昔の話しを生き生きと話してくれたこ に積極的に取り込んで、いくことが重要だと考える. とによると考える.今回のインタビューは,短時間 『能力』カテゴリーにおいては高齢者の知的側面 だったことや高齢者が学生のインタビューという学 や人生経験の蓄積が役立つ総合判断能力などの成熟 習課題に協力的だ、ったため楽しい話や教訓的な話題 .発達した部分を肯定的イメージとして捉えてい が主となり,高齢者の直面している悩みや不安など る.田島ら 5)も「高齢者の知的側面や情緒的側面で が十分に表出されなかったためとも懸念される.安 はかなり高い水準を保っている.ことに,想像力・ 達られ)は「学生が捉えているイメージは高齢者の行 統合能力・理解力などは,高齢者になってもほとん 動そのものを表現したものであり,その行動の意味 ど低下しない」と述べている.学生は外見や否定的 を考えることにより『孤独』という状況が見えてく イメージからの連動ではなく高齢者の能力を正しく るかも知れない」と述べている.今後,高齢者の行 把握していることが窺える. 動の意味にも着目できるよう関わっていくことが大 『性格』カテゴリーにおいては高齢者に対して学 切である. 生は好意的に捉えている.しかし否定的ゾーンの 『総合評価 j において,否定的ゾーンにある「弱 r 「強情な」は高齢者の特徴的な性格であり,老化の いJ 保守的」は,他の研究でも否定的とされてお 進行により適応能力が減退し環境の変化に順応し り高齢者のイメージの特徴と考える.しかし,授業 て行くことが困難になり高齢者は頑固・強情と受け 後に肯定的な方向に変化したことは授業の成果と評 止められやすい.学生も同様に高齢者を「強情な J 価できる. と捉えている. 学生が抱く高齢者イメージを授業の前・後でみる これらのカテゴリーは高齢者の知的側面や情緒的 と全体像の大きな変化はみられなかった.学生は高 5 8 第 1巻. 5 1-6 0, 1 9 9 9 香川県立医療短期大学紀要 齢者をあたたかさや優しさがあり長年の人生経験か 老年看護は,老年期というライフサイクルの最終 らいろいろな知識をもった尊敬すべき存在としてイ ステージにある人を現社会を支えた人生の先輩とし メージしている.一方で、は,行動が遅いことや髪の て尊重しその人がその人らしくできるだけ自立し 色が白髪になっていくことなど加齢による身体的な た状態で人生の最後まで人間として誇りを持ちなが 特徴から活動性や外見に対しては衰えが認められる ら生活でき,安らかな死を迎えることができるよう 存在と捉えていることが窺える. 援助することを目指している. 保坂ら 1)の大学生を対象にした調査でも同様の結 老年看護学を学ぶ過程において,学生が実習で対 果がみられ,本学の看護学生も他の大学生と同様の 象を理解するときにも老年期にあるその人を衰退期 高齢者イメージを持っていることがわかる.これは にある無力な人ではなく,生き生きと生活していた 青年期の学生が高齢者を見る時の特徴と考えられ 人として捉え,障害のある部分ばかりに日を向けず る. 人間として成熟期にある個性豊かな尊重されるべき このような高齢者イメージは授業前に比べ,授業 人として受けとめることができるよう期待してい る. 後は全体的に肯定的方向に変化していた.これらは 講義で高齢者の身体的・精神的・社会的特徴を学習 川崎ら剖は看護学生と一般学生との比較研究で I 老い」に関する図書を読んだことや 「看護学生は,臨床実習の中で,病院や特別養護老 高齢者に直接会ってインタビューしたことによって 人ホームなどで病気やハンデイキャップをもっ老人 変化したと考える.特に,一番大きく変化した「貧 と接し,看護を行うことから一般学生よりも老人に 弱な したことと, 立派な」はインタビューで高齢者と話したこ 対して否定的イメージを持っている Jと述べてい とによりその人の思いや考え方を知ったことに起因 る.確かに臨地実習においては病気や加齢から生活 すると考える.伊藤 7)は「印象形成は新しい情報や に支障をきたしている痴呆老人や寝たきり老人とい 接し方,つまり新しい体験によって絶えず修正を受 われる高齢者を対象に看護を展開することが多い. けイメージは作り変えられていく.学習や実習など 住みなれたわが家を離れ家族とも別れて暮らす高齢 による新しい情報や体験によって,学生の老人の全 者に接し,学生がその人にとって「幸福とは何か」 体イメージが変化し,結果として肯定的な方向に変 と自問自答するであろうことが予測される.それだ 化する」と述べている.学生が健康な高齢者と出会 けに実習前に学生が肯定的な高齢者イメージをもつ い生き生きと過ごしている姿を目の当たりにし,そ ことは,看護への意欲を高めその質や内容の向上に の個性に触れるという体験によって新しい情報を 影響すると考える. 得,授業前に持っていた高齢者イメージがより肯定 今後,臨地実習において障害を持った高齢者の看 的な方向に広がったためと考える.そのことは学生 護を実践するとき,高齢者イメージがわずかではあ が高齢者という言葉からイメージする色の変化にも るが肯定的に変化したことは,老年看護学実習の導 表れている.授業前にはみられなかった黄色系やピ 入を容易にすると考えられ,看護の対象を理解する ンク色が授業後にはみられ,これらの変化も講義や うえで意義がある. 読書,インタビューの経験の結果だと考えられる. また,高齢者と同居経験のある学生は約半数いた まとめ が,ほとんどの学生は同居している高齢者と世間話 しをする程度であった.なかには挨拶程度のみとい 老年看護学概論の授業前・後における本学看護学 う学生もいた.祖父母に悩みなどの相談をするとい 生の高齢者イメージの変化を明らかにするため調査 う学生は 2名しかいなかった.これらのことから学 を行なった結果,以下の結論を得た. 生は高齢者と同居はしているが,高齢者を十分に理 1.高齢者イメージは『外観性 t 行動j, r r 『性格 t 幸福性 t 関 係 . 1 , 解しているとは言いがたい状況である.このことは r r 能力 t r 総合評価 Jの 7つの 授業前の高齢者イメージが同居経験のある学生とな カテゴリーに分類された. い学生に有意差がなかったことからもいえる.学生 Z . カテゴリー全てにおいて授業後には肯定的方向 が高齢者のイメージを形成する過程では高齢者との に変化した. 同居経験の有無よりも講義や読書,インタビューの 3 . 肯定的イメージとして授業前・後ともに高齢者 ような新しい情報や体験などが大きく影響するので の人格的な成熟を認めている.なかでも授業後には はないかと考える. 知的側面において変化がみられた. 5 9 4 . 否定的イメージでは,授業前・後のいずれにお 2)山本洋子,安藤詳子,中武美江(19 9 8 ) 老人看護学実 いても高齢者の身体的老化や活動性の低下など高齢 習で学生が学んだ内容に関する研究 I 学習内容と実 者の特徴が影響した. 習前後の老人に対するイメージの変化との関連一,日 5 . 本学の学生は他の大学生と同様の高齢者イメー 本看護研究学会雑誌, 2 1 (3) :2 6 8 . ジの傾向をもっており,これは青年期の学生が高齢 3)渡辺久美,近藤益子,太田にわ,池田敏子,前田真紀 者を見る時の特徴といえる. 子,太田武夫(19 9 7 ) 看護学生の老人施設実習前後の 6 . 以上の結果より講義や高齢者擬似体験,読書, 老人イメージ.岡山大学医療技術短期大学部紀要, 8 インタビューなどの体験が学生の高齢者イメージに (1) :8 5-9 0 . 影響を与えることがわかった.また,高齢者と深く 4)大谷英子,松木光子 ( 1 9 9 5 ) 老人イメージと形成要因 関わる機会を意図的に設けることが老年看護学実習 に関する調査研究(1)大学生の老人イメージと生活 の導入や対象理解に有効な教育方法であることを再 経験の関連,日本看護研究学会雑誌, 1 8 (4) :2 5-3 8 . 確認した. 5)田島桂子,竹内孝仁 ( 1 9 9 9 ) “系統看護学講座専門 1 9老 年看護学医学書院,東京, p .2-41 . 6)安達憲子,荻野朋子 ( 1 9 9 7 ) 看護学生の老人理解.名 おわりに 4 1-148. 古屋市立大学看護短期大学部紀要, 9・1 今回の調査では,高齢者との同居経験の有無と高 7)伊藤孝治 ( 1 9 9 5 ) 看護学生の老人イメージの変化に関 齢者イメージの変化に差が見られなかったため,学 する考察.愛知県立看護短期大学雑誌, 27: 9-13. 生の背景の差による変化の違いなどについては検討 8)川崎未和,大串靖子 ( 1 9 9 7 ) 看護学生の老人のイメー しなかった.また,講義や読書,インタビューなど ジと死に対する態度に関する研究,日本看護研究学会 がイメージの変化にどのように影響するのか明らか 雑誌, 2 0 (3) :2 2 0 . にする必要がある.これらについて今後の継続課題 として取組んで、行きたい. 受付日 文献 1)保坂久美子,袖井孝子(19 8 8 ) 大学生の老人イメージ -SD法による分析一.社会老年学. N o . 2 7 :2 2-3 3 . 60 2 0 0 0年 3月2 1日