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組織テロの特性と対策に関する考察

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組織テロの特性と対策に関する考察
21 世紀社会デザイン研究 2008 No.7
組織テロの特性と対策に関する考察
= MANPADS、RPG7、携帯電話起爆の脅威=
福田 秀人
FUKUDA Hideto
運輸保安及び軍事関係者の協力をえて実施した組織テロに関する調査研究(期間:
06 年 8 月∼ 08 年 2 月)の結果をもとに、開示可能な範囲で、国家ないし国際テロ組
織が主導する組織的な無差別テロの特性と対策について考察する。個人や過激派等に
よる刀剣や拳銃・猟銃程度の小火器を用いたテロや要人テロ、及び、特定の地域、国
家の支配を目的としたゲリラ活動は対象外とした。
なお、テロを、自衛隊法 81 条の 2 第 1 項の次の記述のとおり定義する。「政治上そ
の他の主義主張に基づき、国家もしくは他人にこれを強要し、又は、社会に不安若し
くは恐怖を与える目的で、多数の人を殺傷し、又は、重要な施設その他の物を破壊す
る行為」。
1.武器に関する想定
(1)MANPADS の脅威
01 年 9 月 11 日のアメリカ同時多発テロ以降、ハイジャック対策が格段に強化され
た。これに対し、アルカイダは、MANPADS(Man Portable Air Defense System:携
帯式地対空ミサイル)を用い、02 年 11 月、ケニアのモンバサで、ホテルへの自爆テ
ロ(15 名死亡)とほぼ同時に、ロシア製 SA7 を 2 発、イスラエル民航機に発射した。
03 年 11 月、バグダッド空港を離陸した DHL 機が、MANPADS に左エンジンを吹き飛
ばされ、緊急着陸した。
ここに、04 年 6 月、G8 シーアイランド・サミットで SAFTI(G8-Secure and Facilitated
International Travel Initiative)が決議された。また、05 年 9 月、APEC テロ対策タス
クフォースは、潜在的発射場所のリスク・マトリックスの作成に着手した。しかし、
MANPADS は、距離 5,000 m、高度 3,000 m 以上も飛ぶため、滑走路から 6 マイル× 50
マイルの地域から発射可能となり、トラックや小型船からも発射できるため、その特
定は無理である。
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(2)IFALPA の主張
MANPADS 対策として、航空機搭載型や地上設置型の DIRCM(Directed Infrared
Counter-Measure: 赤 外 線 直 射 型 迎 撃 法 ) が 開 発 さ れ た。 レ ー ザ ー レ ー ダ ー で
MANPADS を探知し、その頭部のセンサーに赤外線を照射し、迷走させるのである。
しかし、軍事技術の専門家である元防衛大学校教授徳田八郎衛は、ヒヤリングで、「地
表に向けられるレーザーレーダーは、高度 1,000 m 以上、最低でも 400 m 以上でない
と、地表からのエコーで MANPADS を探知できない」とし、また、「レーダーから発
するレーザー自体が赤外線であるから、そのレーザーが、赤外線追尾の MANPADS を、
機体へ正確に誘導する危険がある」ことを指摘した。
IFALPA(The International Federation of Air Line Pilots Associations: 国際定期航空
操縦士協会連合会)も、DIRCM の信頼性を否定した。そして、MANPADS はエン
ジンを 1 基破壊するだけのため、複数のエンジンをもつ航空機の場合、「ハイドロ・
ヒューズ・プラグ(破断された操縦系統からの油流出を遮断する装置)による操縦系
統の残存性向上により生還できる確率が高いこと」、及び「攻撃された大型機 7 機のう
ち 6 機が生還していること」を根拠に、生還確率を高めるための操縦システムや教育
訓練の強化を主張した。また、携帯式ロケット砲や迫撃砲などの攻撃の方が脅威であ
るとし、空港周辺地域の警戒強化などを要求した。(1)
(3)RPG7 と迫撃砲の脅威
今日、組織テロやゲリラが使用している携帯式ロケット砲は、ほとんどがロシアで
開発された RPG7 であり、イランが積極的に製造、輸出している。全長 953 mm、重量
7 kg と小型軽量(別途、弾頭の重量は 3 ∼ 5 kg)でありながら、強力な破壊力をもつ。
命中精度は悪いが、イラクやアフガニスタンの反米武装勢力は、数人が一斉に発射し、
また、時限信管を短時間に設定し、空中爆発させる「即席信管切り」を開発し、アメ
リカ軍の装甲ヘリコプターを多数撃墜している。
イランは、榴弾を装着し近接信管を併用して破片効果で航空機の破壊を狙う OG-7VRPG-7V を開発した。また、CTB-7G が、02 年にブルガリアで開発された。これは、
サーモバリック(熱圧)弾頭であり、地下鉄構内や新幹線の長大トンネルなどに撃ち
込まれれば、そこにいる人々は、破片を受けずとも焼死ないし窒息死する。通常弾頭
でも、走行中の新幹線、満員の通勤電車、離発着中の大型旅客機を撃たれれば、大惨
事となろう。迫撃砲は、目標に接近せずとも発射できる。世界で最も普及しているイ
ギリス製 L16 で、銃身 1,280 mm 、重量 36.6 kg 、射程 100 m ∼ 5,650 m 、発射速度 15
発/分 である。
(4)携帯電話起爆型 C4 爆弾の脅威
よく用いる爆弾はプラスチック爆弾 C4 である。プラスチック(大きさや形状を自由
に変えられる)であり、爆速 8 km/ 秒。力=質量×速度 2 であるから、爆速 3 ∼ 4 km/ 秒
の通常爆薬の 4 倍(8 2/4 2 = 4)の破壊力をもつ。87 年、北朝鮮工作員金賢姫が、携帯
ラジオケースに詰め、預託手荷物に入れ、タイマー起爆で、大韓航空機を空中爆破し
た。しかも、00 年頃から携帯電話起爆が主流となり、離れた場所から効果的なタイミ
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ングで爆発させている。04 年 3 月、これにより、マドリードの 3 駅で、朝の通勤時間
帯に 10 回の爆発が発生し、死者 191 名、負傷者 1,800 名をだした。
不審物発見キャンペーンが爆発物テロの抑止効果をもつとされるが、什器備品を、
爆装された同一品にすり替える古典的な手口に対応できない。また、爆弾のケースに
は、大量の金属片が詰め込まれ、爆発で飛散させ、多数の人々を殺傷する。某貨物検
査マニュアルに、爆発音がすれば物陰に隠れろと記されているが、音より早く大量の
破片が飛んでくる。
(5)北朝鮮工作船が積載していた武器
これまでの武器の想定には根拠がある。読売新聞 07 年 1 月 19 日号は「政府関係者
によると、阪神大震災の時、ある被災地の瓦礫から、工作員のものと見られる迫撃砲
などの武器が発見されたという」と報じた。また、九州南西海域で自沈した北朝鮮工
作船から次の武器が発見された。
14.5 ミ リ 2 連 装 機 銃 × 1 丁、7.62 ミ リ 軽 機 関 銃 × 2 丁 、5.45 ミ リ 自 動 小 銃 × 4 丁、
RPG7 × 2 門、82 ミリ迫撃砲× 1 門、MANPADS × 2 基 、手榴弾× 6 個。
写真 1:北朝鮮工作船から発見された RPG7〈上〉と MANPADS〈下〉、
(海上保安庁 HP)
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2.攻撃特性に関する想定
(1)組織テロの人的特性
強力な武器をもっていても、戦闘能力が低レベルであれば、テロの損害は限定的な
ものとなり、警察の狙撃部隊で制圧できよう。しかし、厳しい警戒体制がとられてい
る海外の都市や施設でのテロ、そして、96 年 9 月に発生した韓国の江陵(かんぬん)
浸透事件は、強固な意思と高度な戦闘能力を示唆している。後者では、北朝鮮特殊部
隊員 15 名が 6 万名の韓国軍と警察に追跡されながら 49 日間にわたって戦い、韓国の
兵士 13 名、民間人 6 名を殺害した上で 13 名が自決した(捕虜 1 名、行方不明 1 名)。
また、九州南西沖で、北朝鮮工作船は、巡視船に機関銃や RPG7 で反撃し、自沈した。
ここに、組織テロリストは、次の人的特性をもつと想定する。
① 大量殺戮を追求する:大量殺戮・大量破壊を使命と信じ、命令に無条件に服従し、
自らの意思や感情と無関係に行動する。
② 死を恐れない:任務の達成に思考と行動を集中し、身の危険を顧みず、最後まで
戦った上で、捕虜になるより死を選ぶ。
③ 致命傷を負っても戦う:絶命するまで戦うため、アメリカ陸軍は、「2 イン・ザ・ボ
ディ、1 イン・ザ・ヘッド(身体を 2 発撃ち、ただちに頭を撃つ)」を鉄則としている。
④ 高度な戦闘能力と精神力をもつ:組織的なテロは、厳しく鍛えられた特殊部隊員に
より遂行されることもある。
(2)組織テロの攻撃特性
テロは、10 数名でなすと想定されるが、その攻撃特性は、次の様なものになろう。
① 奇襲を追求する:「敵を、その準備していない時期、場所、方法で打撃する」ため、
攻撃対象を周到に調査、選択し、偽情報の流布や牽制などの欺瞞工作もなす。
② パニックを狙う:社会に恐怖を与え、パニックにおとしいれることを目的とするた
め、できる限り殺傷・破壊効果の大きい非道な方法を用いる。
③ パニックに乗じる:一撃離脱するとは限らず、それで生じたパニックに乗じて、さ
らなる攻撃をし、大きな戦果を追求することもある。
④ 分散攻撃をなす:複数の目標に同時多発、ないし時間差攻撃をなす。
⑤ 弱点を攻撃する:殺戮・破壊自体が直接目的であるため、警戒が手薄なところを攻
撃する。
3.自衛隊の出動と限界
(1)陸上自衛隊の出動
強力な武器と戦闘能力を有する組織テロに対抗できるのは自衛隊だけである。東京
で発生すれば、08 年 4 月に結成された中央即応集団(図表 1)の特殊作戦群(300 名)、
中央即応連隊(700 名)、第一空挺団(1,900 名)、第一ヘリコプター団(900 名)が急
派される。また、第 1 普通科連隊(練馬 1,000 名)、第 32 普通科連隊(大宮 1,000 名)、
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図表 1:関東地方の中央即応集団配置図(陸上自衛隊 HP)
第 34 普通科連隊(板妻 1,000 名)、普通科教導連隊(滝ヶ原 1,100 名)などが順次出動
するであろう。
(2)陸上自衛隊の対応限界
組織テロ側にとって、自衛隊の出動は想定内の事項であり、別働隊が、現場にアク
セスする鉄道や道路を RPG-7 や爆発物で破壊するかもしれない。鉄道やターミナル等
で同時多発テロをなす可能性もある。日没後の荒天時に実行されれば、ヘリコプター
による部隊急派もできない。テロ対抗部隊は、数に限りがあるため、また、情報の錯
綜と、政府の危機管理システムの機能・運用能力からして、的確な兵力投入ができな
い可能性が大である。
そこで、10 名前後のテロ部隊が 3 ∼ 4 部隊あれば、かなりの殺傷が可能となる。わ
が国に数百名の特殊工作員が組織テロのために潜入しているとの推定が正しければ、
さらに大規模なテロが可能となる。しかも、宣戦布告や、特定の国家によるテロであ
るとの確証をえられない限り、「必要な武力を行使できる」防衛出動ではなく、「警察
官職務執行法を準用した武器の使用」が認められるにとどまる治安出動となるため、
自衛隊の行動や武器使用が大きく制約される。
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4.組織テロの発生に備える
(1)避難と死傷回避のための教育訓練の実施
テロ対策を考える上で、攻撃地点を特定し、かつ防止することは極めて困難である。
ここに、テロ対策は、テロ発生後の負傷者の救出に力点がおかれがちである。しかし、
少しでも死傷者を減らす方策も考慮すべきである。それは、本質的に火災発生時同様
の避難誘導訓練の実施であるが、それに加えて、小爆発等の異常があれば、絶対に現
場に近づかず、すみやかに離脱する必要を周知徹底することである。なぜなら、野次
馬を引き寄せ、そこで大爆発を起こし、多数の人間を殺傷するという手口が用いられ
るからである。
また、不審物を発見すれば警察に通報することが定められているが、テロリストを
発見すれば、とにかく逃げることが最優先課題となる。逃げ損なえば、伏せて動かな
いことである。近接戦闘の原則は、「動く者は撃て」であり、テロリストは、それを実
行するはずである。また、彼らは、多数の人間を殺傷すること自体が目的であり、死
を恐れないため、助命の懇願や、投降説得工作は、なんの効果も持たない。
なお、2、3 名のテロリストが人質をとって立て籠もり、それを多数の警官が包囲し、
投降させるとか、狙撃するという想定は、非現実的と思う。また、警官・保安要員の
目立つ配置・巡回は、抑止効果を発揮するより、殺傷目標を与えるかもしれない。
(2)大量殺人を追求するテロを地震同様に考えないこと
テロ対策を地震対策と同列に論じる論説をよく見受けるが、自動小銃や RPG-7 など
の武器を持った、10 ∼ 20 名のテロリストの奇襲攻撃に、襲撃された施設や組織の危
機管理を担当する部門やスタッフが、地震の場合と同じようにイニシャチブを発揮し
て対応を指揮することは不可能である。地震と異なり、テロリストの最初の攻撃後の
テロ行動を把握するのは困難であり、攻撃規模も把握できない可能性がある。また、
監視カメラの存在は、テロの早期発見や、攻撃状況を把握するのに、大きな効果を発
揮するが、それには、ロンドンのように監視カメラの画像の一元管理が必要であり、
部門や地域別の分権管理では、管理領域を越えたテロリストの行動や被害の全般的な
状況を捕捉できない。
テロを地震と同じ脈絡で論じるのは、災害対策と大量殺人対策を同列に考えること
になり、テロ対策を的はずれで、あいまいにする危険をはらんでいる。リーダーは、
ただちに状況を把握し、適切な対策を決定、実行すべきとの論説を見受けるが、その
ような迅速かつ的確な対応ができる状況は限られており、アメリカ陸軍の指揮官マニュ
アルが示す次のような状況に追い込まれる可能性が大である。「指揮官は、必要とされ
る情報の欠落と、不完全な、相対立する、あいまいな情報をもとに、素早く決定をし
なければならない」(2)。これは、リーダーに、大変な直感力と決断力を要求するもので
あるが、最低限、テロ対応を、地震後の救援、復旧活動と同様の発想や方法で対応で
きると考えてはならない。
̶ 10 ̶
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5.爆発物などの検知システムの普及促進
(1)検知システムの進歩
爆弾テロは、自らの身を危険にさらさずに実行でき、また、既述のとおり、携帯電
話起爆により、最も効果的なタイミングで、様々な場所で、一斉ないし順次爆破させ
ることも可能となった。その脅威を最も深刻に受け止め、かつ、強力な対策を推進し
ているのは、航空会社であろう。搭乗客や手荷物検査の強化や、スカイマーシャル
(私服の武装警官の警乗)の導入などにより、ハイジャックの脅威は大きく減少した
が、逆に、航空貨物に爆発物を仕掛け、航空機を空中爆破させるテロの脅威が高まり、
ICAO(International Civil Aviation Organization:国際民間航空機構)はその対策強化
を勧告した。
ここに、2006 年 4 月より、航空貨物の KS / RA(Known Shipper / Regulated Agent)
制度が本格導入され、貨物専用機積載貨物と、信頼のおける荷主(特定荷主という)
から出荷される貨物以外は、物流業者ないし航空会社で、X 線装置や爆発物検査装置
により全数検査され、不審とみなされれば、持込者が開披しなければならない。
アメリカの在外公館や軍事基地は、さらに厳しく、コンテナや自動車に搭載されて
いる武器や爆発物、さらには潜んでいる人間を、まるごと発見できる後方散乱 X 線装
置を用いている。陸上自衛隊のイラク派遣部隊は入門車両のチェックに用いた。オレ
ンジ等をくりぬいて隠した薬物まで発見するため、税関の通関検査でも用いられてい
る。また、炭疽菌等の生物化学兵器や放射性物質の検知装置も、次々と開発、進歩し
ており、これらを設置する施設や艦船、航空機等の保安水準の向上に貢献している。
(2)アメリカ政府の要求水準の高度化
爆発物などの検知システムは高価であり、その費用負担が普及のネックとなってい
る。ここに、公共性を有し、かつテロの攻撃対象となる可能性が高い施設や、貨物を
扱う交通・運輸関連企業に対しては、一層の助成措置や利用者が費用負担する法的措
置が必要と考える。特に、アメリカ向け貨物については、米国税関・国境警備局ボナー
写真 2:後方散乱 X 線装置によるプラスチック爆弾(白い塊)発見画像
Copyright American Science and Engineering, Inc. 2007
̶ 11 ̶
図表 2:検知技術の現況と今後
(1)
新しい探知技術の現状
1.X 線:物質を透過する能力を有しており、そのエネルギーが大きい程、透過力は
大きいが、物質の固定(識別)は困難
2.中 性 子:X線に比べ物質の透過能力が高く、物質の固定が可能。ただし、安全管理の
対策が必要
3.テ ラ ヘ ル ツ 波:物質を透過する能力を有し、材質の判別が可能。
4.赤 外 線:遠距離からの物体の表面温度を測定することにより、異物の探知が可能
5.ミ リ 波:物質に対する電磁波の反射や透過を利用し、異物の探知が可能
6.バイオセンサー:においの微粒子を分析することにより、物質の固定が可能
(2)
今後の検査機器の研究・開発
X線(固定式・車載式)
出所:財務省『検査機器に関する懇話会報告書』2006 年
局長の次の発言からも分かるように、近い将来、きわめて強力で広範な検査が要求さ
れる可能性が大きいことにも留意しなければならない。
「9・11 の直後に私たちは非侵襲技術設備の拡大を開始しました。X 線型画像機械の
数を 4 倍に増やしました。通関手続地で、核および放射線物質 兵器をより正確に探知
するため、利用できる最高の探知技術 を加え、2002 年 5 月からは高感度の放射線ポー
タル・モニターをわが国の陸上及び海上の通関手続地に設置しています。…(中略)
…これら(核爆弾、核起爆装置、ジャイロ・アストロ・コンパス、サリン等)すべて
は私たちの潜在的なセキュリティー、そして PSI(大量破壊兵器の拡散防止安全保障
構想)に加盟している 60 カ国を含む他の諸国のセキュリティーにも本物の脅威を与え
(3)
。
ます」
̶ 12 ̶
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6.従業員対策の強化
(1)スリーパーの防止
テロの対象となるような施設に持ち込まれる携帯品や貨物などの検査は、部外者だ
けでなく、部内者にも、例外なく実施するのが鉄則である。ICAO は、空港の地上作業
員による爆発物等の持込防止のための従業員の身元調査と従業員検査の徹底を勧告し
ている。
ただし、わが国では、「職業安定法第 5 条 4 項に関する労働大臣指針(平成 11 年労
働省告示第 141 号)」により、「人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出身地その他
社会的差別の原因となる恐れのある事項。思想及び信条。労働組合への加入」が収集
してはならない情報とされ、それには犯罪歴も含まれ、徹底的な身元調査は実施でき
ない。
しかし、履歴の確認や前勤務先への照会など、法的に許容される範囲での身元調査
や、しっかりとした保証人の確保はできるはずである。これを安易にすれば、テロリ
ストが従業員(派遣や請負も含む)となり、スリーパー(潜伏工作員)として誠実に
働き、信頼を得て、効果的なテロのための情報収集と準備に励み、最も効果的な場所
とタイミングを選んで、爆発物等によるテロを敢行するであろう。
(2)劣悪な雇用条件の改善
従業員の身元調査を厳重にしても、金や異性、それに弱みを握っての脅迫などで籠
絡し、諜報活動や破壊活動に協力させる方法が、古典的だが有効な方法として存在す
る。従業員のモラールが低下すれば、テロリストがそれにつけいり、協力者を確保す
ることが容易になる。このモラールは、雇用条件に大きく影響されるが、多くの施設
で、低賃金で雇用保障もない非正規社員が増加している。さらに、様々な作業の外注
化が進み、それらの作業を請け負う会社間の価格競争のしわ寄せで、賃金などの雇用
条件が悪化している。
一生懸命働き続けても賃金がほとんどあがらず、低賃金のままで、ささいなミスや
病気ですぐに解雇され、昇進など将来への希望ももてない状況では、モラールが大き
く低下して当然である。それは、強権的な管理を強化し、それへの反感でモラール(や
る気)がさらに低下するという悪循環を生み、モラールの消滅にとどまらず、モラル
(倫理)自体が崩れ、利益をえるために手段を選ばないモラルハザードを誘発する。
近年の雇用情勢は、作業の質やチームワークを低下させ、事故の発生確率を高める
一方で、非常時への対応力を減殺し、またテロリストがつけいる余地を拡大している
と考えられ、従業員の劣悪な雇用条件の改善が望まれる。ちなみに、アメリカでは、
2001 年 9 月 11 日の同時多発テロを契機に、空港の保安要員 4 万 5 千名を、全員、連
邦職員にした。
̶ 13 ̶
7.おわりに:適合性、実行可能性、受容可能性をみたす対策の追求を
調査により、組織テロの恐ろしさと対策の不備を痛感した。しかし、抜本的な対策
を講じるには、ぼうだいな費用と対策要員を必要とし、さらに、あらゆるところで検
問や検査がなされて社会的・経済的な活動が阻害され、
「テロ対策で国が滅びかねない」
と思う。また、テロリストやテロ準備を捕捉するための情報収集力の抜本的な強化は、
大変な警察国家を生むであろうし、それでも完全に捕捉できないと思う。
テロ対策の不備を批判し、抜本的強化の要を説くのは正論であろう。しかし、金も
人も無限にあるわけではなく、国や地方自治体の財政は窮迫の一途をたどっている。
いったい、どのようなテロを想定し、そのどれに、どこまで対応すべきかを、必要と
なる費用や様々の活動の束縛や停滞等の負の効果も試算し、適合性のみならず、実行
可能性と受容可能性をみたす対策を策定しない限り、テロ対策をめぐる議論は、断片
的ないし総花的なものになり、対策は、場当たり的で、穴だらけなものにとどまるで
あろう。
本論では、一般に認識されているよりは、はるかに恐ろしいテロの脅威を指摘した
と思う。しかし、提示したテロ対策はささやかなものであり、テロ発生に備えての避
難誘導訓練をするという火災対策レベルのものと、テロ攻撃を受ける可能性の高い施
設、組織、交通機関や貨物検査などへの高性能の爆発物などの検知装置の導入促進、
それらの従業員の身元確認の励行と雇用条件の改善、それに様々な組織や地域で分断
されているモニタリングシステムの一元化、その他若干であり、結論は、下表のとお
りである。
結論
① 組織テロの多くは、多数の人間を無差別に殺傷、破壊して、パニックを誘発する
ことを目的として実施される、残虐、非道な行為である。
② 組織テロでは、主に、MANPADS、RPG7、携帯電話起爆プラスチック爆弾 C4 が
用いられ、また、同時多発テロが主流である。
③ 組織テロを防ぐことは不可能であり、重要な対策は、テロの恐ろしさと方法を周
知し、少しでも死傷者を減じるための避難誘導訓練をなすことである。
④ 組織テロには、治安出動ではなく、防衛出動が可能となる法改正が必要である。
⑤ 爆発物等を用いたテロは、爆発物等を検知する装置の飛躍的な進歩により、施設
レベルではかなり抑制できるが、費用負担が普及のネックとなっており、その軽
減対策の強化や適用範囲の拡大が望まれる。
⑥ テロの対象となる可能性が高い施設や交通機関では、スリーパー対策のための従
業員調査と、劣悪な雇用条件の是正による不満の軽減が必要である。
⑦ テロ対策の抜本的強化は正論ではあっても、ばく大な費用を必要とし、また社会
的・経済的活動への悪影響などをもたらす。実行可能で、社会的にも経済的にも
受容可能な対策を追求すべきである。
̶ 14 ̶
21 世紀社会デザイン研究 2008 No.7
■引用文献
(1) IFALPA The Global Voice of Pilots Briefing Leaflet Security 07SECBL01 Dec. 06
(2) U.S.Army, FM5-0:Army Planning and Orders Production , 2006
(3) 駐日米国大使館「拡散安全保障イニシアティブの重要性を強調─ロバート・c・ボナー局長/
国土安全保障省米国税関・国境警備局長(2005 年 9 月 14 日)」
http://tokyo.usembassy.gov/j/p/tpj-j20050914-50.html
̶ 15 ̶
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