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「いしずえ」 No.153 ダウンロード(印刷不可)

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「いしずえ」 No.153 ダウンロード(印刷不可)
ISHIZUE NEWS
ビル経営管理講座
セミナー開催報告
平成 24 年度「ビル経営管理講座」が終了 413 名が受講
平成24年度「ビル経営管理講座」は、
《九州ビル経営研究セミナー》
《仙台ビル経営研究セミナー》
ビル賃貸借契約の
法的諸問題と実務的対応
ビル賃貸借契約の
法的諸問題と実務的対応
7月13日(金)に電気ビル本館会議室で、103名
9月27日(木)にホテルメトロポリタン仙台で、
の参加を得て、九州ビル経営研究セミナーが開催さ
45名の参加を得て、仙台ビル経営研究セミナーが開
本年6月から9月末までの4カ月間にわ
たって実施され、413名が受講した。
9月6、7日に砂防会館で実施された
スクーリングには、
348名が出席した(他
にCD代替受講60名、合計408名)
。今
年度の修了者は、407名で、9月30日
付でビル経営管理主任資格証が発行され
た。
ビル経営管理士試験
平成 24 年度「ビル経営管理士試験」は12 月9日(日)に実施
申込受付は10月31日まで
平成24年度「ビル経営管理士試験」
国6都市で実施される。
試験は①企画・
記述が免除される。
の申込受付期間は、10月1日(月)
立案業務、②賃貸営業業務、③管理・
合格発表は平成25年1月31日
(木)
。
から31日
(水)
。試験は、
12月9日
(日)
午前11時から午後5時まで、札幌、
運営業務、④総合記述の4時限構成で、 登録要件を満たした試験合格者は登録
することにより、同年3月には、ビル
各時限共60分間。平成22 ∼ 24年度
仙台、東京、名古屋、大阪、福岡の全
のビル経営管理講座修了者は、④総合
【最近5か年の試験実施結果及び合格基準】
れた。テーマは「ビル賃貸借契約の法的諸問題と実
催された。テーマは「ビル賃貸借契約の法的諸問題
務的対応」
。海谷・江口・池田法律事務所の江口正
と実務的対応」
。海谷・江口・池田法律事務所の江
夫弁護士を講師にお迎えし、賃貸借契約における条
口正夫弁護士を講師にお迎えし、賃貸借契約におけ
件折衝後の契約不成立と損害賠償請求、賃貸ビルの
る条件折衝後の契約不成立と損害賠償請求、賃貸ビ
管理責任等について、お話を伺った。
ルの管理責任等について、お話を伺った
《名古屋ビル経営研究セミナー》
貸ビルオーナーが実施すべき
テナント営業活動
経営管理士の称号が与えられる。
10月5日(金)に名古屋商工会議所会議室
【時間割】
平成
19 年度
平成
20 年度
平成
21 年度
平成
22 年度
平成
23 年度
で、72名の参加を得て、名古屋ビル経営研究
試験日 平成 24 年 12 月 9 日(日曜日)
セミナーが開催された。テーマは
「貸ビルオー
受験申込者
平均年齢
男性
女性
受験者
名
歳
名
名
名
770
39.8
717
53
698
715
38.2
649
66
641
698
39.4
646
52
630
600
38.4
553
47
544
585
38.8
529
56
537
10:50 ~ 11:00
注意事項説明
ナーが実施すべきテナント営業活動」
。㈱
11:00 ~ 12:00
1 時限:企画・立案業務 (60 分・90 点)
ディック・エンタープライズ 専務取締役 12:00 ~ 13:05
昼食 増田 富夫氏を講師にお迎えし、効率的なテ
13:05 ~ 13:10
注意事項説明
出席率
%
89.7
90.3
90.7
91.8
13:10 ~ 14:10
2時限:賃貸営業業務 (60 分・90 点)
ナント営業活動について、お話を伺った。
90.6
試験合格者
合格率
平均年齢
男性
女性
名
482
448
432
390
378
14:10 ~ 14:25
休憩 %
歳
名
名
69.1
40.1
455
27
69.9
38.2
412
36
68.6
38.8
397
35
71.7
37.9
363
27
70.4
38.9
344
34
14:25 ~ 14:30
注意事項説明 14:30 ~ 15:30
3時限:管理・運営業務 (60 分・90 点)
15:30 ~ 15:45
休憩 15:45 ~ 15:50
注意事項説明 15:50 ~ 16:50
4時限:総合記述※(60 分・30 点)
(点以上)
3 科目合計
企画・立案
賃貸営業
管理・運営
2
I S H I ZU E
点
点
点
点
197
58
68
67.5
Summer 2012
180
46
64
64
186
55
66
62
180
57
59
61
185
52
70
59
≪ ※科目免除制度があります。≫
今後のスキルアップセミナー及びビル経営研究セミナー
地区
日時
場所
テーマ及び講師
東京
11 月 15 日
(木)
13:30 ∼ 14:30
三菱ビル 10 階
コンファレンススクエア エムプラス 「グランド」
「オフィスマーケット調査報告」
森ビル㈱ マーケティング室 部長 松本栄二 氏
大阪
12 月 14 日(金)
13:30 ∼ 15:30
全日大阪会館4階
「ビルマネジメント法律実務講座」
佐藤貴美法律事務所 弁護士 佐藤貴美 氏
No.152
ISHIZUE
3
第49回スキルアップセミナー
Report
﹁賃貸オフィス市場の
賃料・空室動向﹂盛況裡に終了
図表 -3 東京都心5区オフィス賃貸面積推移
図表 -4 都心3区の大規模オフィス賃料予測
725 万坪
100 万坪
700 万坪
90 万坪
60 万坪
625 万坪
30 万坪
550 万坪
10 万坪
500 万坪
0 万坪
00 年12 月
01.3
01.6
01.9
01.12
02.3
02.6
02.9
02.12
03.3
03.6
03.9
03.12
04.3
04.6
04.9
04.12
05.3
05.6
05.9
05.12
06.3
06.6
06.9
06.12
07.3
07.6
07.9
07.12
08.3
08.6
08.9
08.12
09.3
09.6
09.9
09.12
10.3
10.6
10.9
10.12
11.3
11.6
11.9
11.12
12.3
12.6
著名な竹内一雅氏(株式会社ニッセイ基礎研究所)
で、会場は熱のこもった雰囲気となった。
賃貸可能面積(坪)
以下に講演の要旨を紹介する。
賃貸面積(坪)
空室面積(坪、右目盛)
・東京都心大規模ビルの市況は回復局面に入るところ
・都心大規模オフィス賃料は2015年まで上昇しその後下落
・需給ギャップの広がりから二極化が進展する可能性
・供給増
(旧耐震ビル建替え含む)
による市況への影響が強まる
・中長期的には需要の高成長は期待できず、競争戦略
(生き残
り戦略)
が重要となる
・ただし需要の減少スピードは速くなく、過度な悲観は不要
・需給構造の変化とオフィスワーカー数の、統計による把握が
困難になる中で、オフィス市況の将来見通しがこれまで以上
に困難になっている
単純平均賃料の場合:新規竣工物件の影響で賃料が大幅上昇
するので注意!(空室率上昇する中で賃料が大幅に上昇し
ている)
⇒都心新築大規模ビルへの需要拡大 図表 -1 都区部大規模ビルの需供動向
新規供給面積(坪)
(貸室面積:万坪)
新規需要面積(坪)
空室率(右目盛)
40
16%
14%
30
12%
10%
20
8%
10
4%
6%
2%
0
都区部大規模ビルの需供動向
0%
図表 -1
-2%
-10
・需要低迷の中、2015年も2014年と同等の供給と新規開発は続く
・2012年も都心における大量供給が需給の悪化をもたらすこと
が懸念されていた 現在の東京オフィス市況
Autumn 2012
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
図表 -2 東京都心3区規模別オフィス空室率
14%
(注)需要は純増分。供給は新規竣工の積上げ(滅失考慮せず)
(出所)2011年までCBRE、2012年以降はニッセイ基礎研究所推計(2012年初め)
12.04%
11.53%
12%
10%
9.18%
8%
7.97%
6.69%
6%
4%
2%
0%
大規模
大型
中型
小型
2012年7月
2012年1月
2011年7月
I SH I ZU E
(注)
需要は純増分。
供給は新規竣工の積上げ
(滅失考慮せず)
(出所)
2011年までCBRE、
2012年以降はニッセイ基礎研究所推計
(2012年初め)
2011年1月
2010年7月
2010年1月
2009年7月
4
-8%
図表 -2
・2003年∼ 2009年に、
規模別の空室率格差が極端に縮小(2007
年末頃は小型以外ほぼ同率)
・2010年以降、都心の規模別空室率に再び格差が顕在化
・2003年問題時点と比べ、大規模ビルは低く、大型・中型は
大幅に上回っている
・中型∼大型の最近の空室率の低下は、コスト削減目的の移転
等に加え、旧耐震ビル等における募集停止による可能性も
空室率は概して規模が大きいほど変動は小さい 全体平均
(出所)
三幸エステート資料を基にニッセイ基礎研究所が作成、
大規模
(基準階面積
200坪以上)
、
大型
(同100~200坪)
、
中型
(同50~100坪)
、
小型
(同20~50坪)、小規模
(20坪未満:全体平均にのみ計上)
東京都心5区オフィス需給の現況
図表 -3
・都心5区のオフィス賃貸可能面積は増加を続け704万坪に増加。
・オフィス賃貸面積は2008年1月の651万坪から、2010年6月
に615万坪に減少した後、現在は638万坪まで回復
・過去、賃貸可能面積の増加に対して、賃貸面積空室率2.5 ∼
3%を下限に増減を繰り返してきた
・空室面積は2010年よりほぼ同水準で推移してきたが、2011
年初より増加し現在66万坪
都心3区の大規模オフィス賃料予測
悲観シナリオ
(注)上記は都心3区のため都心5区とは過去の数値に相違がある
-6%
-20
2009年1月
2008年7月
2008年1月
2007年7月
2007年1月
2006年7月
2006年1月
2005年7月
2005年1月
2004年7月
2004年1月
2003年7月
2003年1月
2002年7月
2002年1月
2001年7月
2001年1月
2000年7月
2000年1月
1999年7月
1999年1月
1998年7月
1998年1月
◇空室率
・東京都心5区の空室率は高原状態で推移
・都心大規模・Aクラスビルの空室率はまもなくピークアウトか
(ただし、空室率の定義の違いによりピークアウト時期にタ
イムラグあり)
・周辺エリア、中小ビル、旧耐震ビルは今後、二次空室の可能性
◇賃料
・都心5区賃料は底ばい状態
・都心大規模・Aクラスビル賃料は上昇がはじまった
◇大規模・Aクラスオフィスビルの空室率・賃料動向
・大規模・Aクラスビルの空室率は中小ビルよりも安定的
・大規模・Aクラスビルの賃料動向は中小ビルよりもボラタイル
◇最近の空室率と賃料の関係
・これまで:空室率の2∼4四半期後に賃料が変動
・2010年以降、空室率高原状態の中、基本的に賃料は低下を継続
-4%
楽観シナリオ
(出所)三幸エステート・ニッセイ基礎研究所
(注)上記は都心3区のため都心5区とは過去の数値に相違がある
(単位:円/坪)
(出所)三幸エステート・ニッセイ基礎研究所
◇現在は、大規模ビルからオフィス市況が 回復しようとして
いる時期
・空室が減少しはじめた都心大規模ビルでは賃料も上昇開始
・ただし、二極化や、人口減少等による中期的成長への懸念も
東京都心3区規模別オフィス空室率
10,000
標準シナリオ
(出所)三鬼商事資料をもとにニッセイ基礎研究所作成
最近のオフィスビル賃料・空室動向のポイント
15,000
20 万坪
525 万坪
6H1
2016
2015
5H2
2015
5H1
2014
4H2
2014
4H1
2013
3H2
2013
3H1
2012
2H2
2H1
2012
2011 H2
2011 H1
2010
0H2
2010
0H1
9H2
2009
2009
9H1
8H2
2008
8H1
2008
2007
7H2
7H1
2007
6H2
2006
2006
6H1
2005
5H2
2005
5H1
2004
4H2
2004
4H1
2003
3H2
2003
3H1
2002
2H2
2002
2H1
2001 H2
2001 H1
2000
0H2
2000
0H1
1999
9H2
1999
9H1
1998
8H2
1998
8H1
1997
7H2
1997
7H1
定員を超える受講者が集まった。講師はこの分野の分析・研究者として
20,000
40 万坪
575 万坪
空室率の高止まり、長引く賃料下落傾向の中で、注目を集めるテーマであり、
〔懸念〕
50 万坪
600 万坪
「コンファレンス スクエア エムプラス」で、110名の参加を得て開催された。
25,000
70 万坪
650 万坪
「賃貸オフィス市場の賃料・空室動向」をテーマに、
7月21日
(火)に東京・丸の内三菱ビル10階
予測
80 万坪
675 万坪
第49回日本ビル経営管理士会スキルアップセミナーは、
30,000
図表 -4
・都心3区大規模オフィス賃料は、2011年下期を底にしだい
に上昇し、2015年下期をピークとして下落に転ずる
・ただ、今後の上昇は力強さに欠け、2012年上期からピーク
(2015年下期)までの上昇率は、標準シナリオで16.7%(楽
観シナリオで38.9%、悲観シナリオで▲6.0%)
・今後の上昇が大幅ではないのは、団塊世代の退職に伴い需要
の増加ペースが低下すること、都心大規模オフィスの供給
が続くことに加え、過去の賃料の決定構造を基に推計して
いるため、都心大規模ビルへの選好の高まりをうまくとり
こめていないためと考えている
・
「大規模ビル」を上回る「Sクラスビル」ではすでに大幅な
賃料上昇が見られ、そうした高品質ビルへの選好はより高
まっている。ただ、周辺・中小型ビルにも選好されるビル
がある
今後のオフィス市場(まとめ)
1
【短中期的方向性】
◇短期的には市況回復時期(底打ち時期)にある=基本的認識
として重要
特にオフィス賃料はリーマンショック後、過剰に下落した
(オーバーシュート)状況。ただし、需要を大幅に上回る供
給が、市況を悪化させる可能性が高い
◇現在、復興需要による景気下支えがあるが、その影響は長く
はもたない
◇都心部の大規模オフィス需要は今後も続くが、中型ビル等に
おいて二次空室拡大の恐れ
◇耐震・省エネビル・グリーンビル需要の高まり(都による旧
耐震ビル建替えの影響も)
◇新築大規模ビルの攻勢により、旧耐震の大型以下のビルなど
が苦境に陥る可能性
【中長期的方向性】
◇人口減少・少子高齢化はしだいにオフィス需要を減少させる
─しかし、人口要因だけならその影響(需要減)は急激には
進まない。団塊世代退職後、オフィスワーカー減はいった
ん落ち着く。高齢雇用・女性雇用の増加
◇近年の市況悪化の主要因は『供給過剰』にある
ファンドバブルは、投資資金の過剰流動性による、オフィス
需要を上回る供給で発生
◇今後も供給過剰が市況悪化の主因となる可能性
◇中長期的なオフィス需要不足・供給過剰の可能性(国をあげ
ての対策の必要性)
◇オペレーショナルアセットの需要増加(オペレーショナルア
セット化の進展)
No.153
ISHIZUE
5
東京 東 部 エ リ ア活性化の起爆剤に
コンセプトは「Rising East Project ~やさしい未来が、ここからはじまる~」
東京スカイツリータウン
®
®
®
東京スカイツリー 、
東京ソラマチ 、
東京スカイツリーイーストタワー
®
本年 5月22日に開業した、世界一の高さを誇る自立式電波塔﹁東京スカイ
Project﹂のコンセプトの下、 東京東部エリアの活性化を担うシンボルとし
て期待を集めておりました。 本稿ではこのプロジェクトの開発経緯、全体概
要と、環境配慮対策も含めた個々の施設概要をご紹介致します。
東武鉄道株式会社 生活サービス創造本部SC事業部 課長 1
ことになり、
「押上・業平橋駅周辺土
な土地利用を可能とし、新たな国際観
業における調査設計、工事補償の交渉、
地区画整理事業」が2005年12月に設
光拠点としての大規模プロジェクトを
事業の運営・収支管理等の業務を受託
立認可され、当社も組合員の一人とし
見据えた計画に生まれ変わりました。
し、公的機関としての中立的な立場か
て事業参画をいたしました。
本区画整理事業は、まちづくりのノ
ら、権利者間の合意形成を円滑に進め、
組合設立後の2006年3月に、新タ
ウハウを有する独立行政法人都市再生
工事の総合調整能力を十分に発揮し、
ワー建設地として決定されたことを契
機構(以下「機構」
)に事務局を委託
計画通りの事業推進を実現されました。
プロジェクトの概要
高橋 秀樹
プトの下、
「下町のものづくりのDNA
出したプロジェクトで、当時新タワー
を継承したアトリエコミュニティ」
、
の誘致合戦が繰り広げられ、15箇所
「地球に優しく、災害に強く潤いと活
気に満ちたやさしいコミュニティ」
、
です。 図表1
リーナ」 図表2 が外階段でつながり
タワーのある街「東京スカイツリー
人々が自由に往来できるスペースを提
「東京スカイツリータウン」とは、世
タウン」としてデビューすることで、
供するなど、地域へ開かれた大型複合
界一の自立式電波塔である東京スカイ
タワーとその周辺地域との一体性が強
施設となっています。また、スカイツ
ツリーと、その足元の商業施設「東京
まり、さらに賑わいのあるまちづくり
リータウンは、墨田区の防災無線、防
い日本を世界へ発信するタワーを核と
具体的には「新タワー候補地に関す
合開発事業を業平橋・押上地区開発事
した開かれたコミュニティ」の形成の
る有識者検討委員会」の答申によると、
業
「ライジングイーストプロジェクト」
場となるよう、江戸下町文化の歴史を
①安全性・永続性、②環境影響、③
と名付けました。
受け継ぎながら、これまでにない魅力
機能面・事業性、④都市文化の創造
近年話題を集めている集客施設は、
的な複合開発、新しい都市文化の創造
拠点の4つの評価軸で検討され候補地
東京23区の中心から西南部に集中し
発信拠点としての機能を持つまちづく
を決めたと公表されております。なお、
ており、東京東部エリアの賑わいが相
りを目指し、開発を推進してまいりま
付帯条件として、①台東・墨田両区の
対的に失われつつあることから、本開
した。
区民と行政が一体となった観光やま
発事業を東京東部エリアの活性化の起
そもそも本開発事業は、2004年12
ちづくり活動の支援や推進が図れるこ
爆剤にしようとの思いを込めて
月に墨田区長並びに地元代表者より、
と、②地元住民の受け入れ態勢がある
武鉄道が受けたことを契機として動き
に貢献できるようにとのデベロッパー
災カメラ、防災備蓄倉庫、危機管理ス
の強い思いが込められております。
ペース、災害時約7000tの生活用水確
イーストタワー」などをまとめた名称
本施設は、公共空地確保のため敷地
緯があります。
では、東京スカイツリーとその周辺複
来が、ここからはじまる∼」のコンセ
ソラマチ」
、及びオフィス等の施設か
らなる31階建ての「東京スカイツリー
年3月に選定され、決定したという経
「先端技術、メディアが集積し、新し
「新タワー誘致に関する要望書」を東
面があり、敷地内には3 ヵ所の広場を
の候補地から最終的に本地区が2006
東武鉄道を中核とする東武グループ
「Rising East Project ∼やさしい未
境界から5mセットバックして建物壁
持つほか、4階屋上の広場「スカイア
(1)全体概要
©TOKYO-SKYTREE
開 発 の経 緯
機に都市計画を見直し、高度で複合的
3
ツリー﹂と、その足元の商業施設﹁東京ソラマチ﹂、及びオフィスを中心と
した 31 階建ての﹁東京スカイツリーイーストタワー﹂ 等からなる﹁東京スカ
イツリータウン﹂は、マスコミでも大きく取り上げられ、注目の的になりました。
2006 年にこの地への建設が決定されてから、この施設は﹁Rising East
しています。機構は、土地区画整理事
土地区画整理事業により基盤整備する
こと、③都市防災に関する行政支援が
東京スカイツリー ®
東京スカイツリーイーストタワー ®
図表1
なされることの3点が追加されました。
東京スカイツリータウン施設構成図
東京ソラマチ ®
2
開発手法
(基盤整備)
6
I S H I ZU E
Autumn 2012
東京スカイツリータウンの建設敷地
未利用地として次の開発が待たれてい
は、東武スカイツリーライン「とうきょ
たところ、2003年には東京メトロ半蔵
うスカイツリー駅」の貨物ヤード跡地
門線と東武伊勢崎線(当時)との相互
であり、東西約400m、南北約100m
直通運転を契機に新たなまちづくりの
の細長い形状となっています。1993年
機運が盛り上がりました。
に同線の貨物取扱いが全廃となり、低
駅近傍に相応しい開発敷地として、
ドームシアター
水族館
東武スカイツリーライン
とうきょうスカイツリー駅
図表2
スカイアリーナ
©TOKYO-SKYTREE
図表3
東京スカイツリータウン概要図
5F出口フロア
4F入口フロア
押上(スカイツリー前)駅
©TOKYO-SKYTREETOWN
No.153
東武スカイツリーライン
押上(スカイツリー前)駅
ISHIZUE
7
粋
保等の防災機能を整備・強化すること
を採用・実施しており、これにより、
で、周辺エリアと連携したまちづくり
国内最高レベルの年間総合エネルギー
を目指しています。
効率(COP1.35以上)およびCO2 の
東京スカイツリータウンは、敷地面
大幅削減(個別熱源に比して▲48%)
積 約36,900 ㎡、 建 物 延 床 面 積 約
が達成される見込みです。
230,000㎡の規模を有した、地下3階
②雨水の再利用
地上31階建ての施設規模です。 図表3
世界的に有名な
「雨水利用の墨田区」
玄関口となる東武スカイツリーライ
のシンボルとして、首都圏最大級の雨
ン「とうきょうスカイツリー駅」は、
水貯留槽(800t)を設置し、植栽散水、
図表4
雅
とうきょうスカイツリー駅
(画像提供:東武鉄道株式会社)
タウン開業に先立ち業平橋駅から駅名
太陽光パネル冷却等、多目的な利用を
を変更し、東京スカイツリーのアクセ
行っています。
ス駅として、日本中誰でも分かり易い
③災害時の支援
駅名「とうきょうスカイツリー駅」に
雨水貯留槽と同時に設置した雨水抑
改称することで、業平橋・押上地区全
制槽(1,835t)とあわせて(計2,635t)
、
体の活性化を図ると共に、駅のリ
ゲリラ豪雨に代表される都市型洪水の
ニューアルを実施し、改札口・昇降階
抑制に資するとともに、大容量水蓄熱
段の増設、エスカレーターの新設、コ
槽の水は、災害発生時に消防・生活用
ンコースの大幅拡張等により、安全・
水としても利用できるよう墨田区と協
安心そして快適な駅へと生まれ変わり
定を締結しています。
低層部で見える3本足の姿は、古代
LED化”によって、従来と比べ最大
ました。 図表4
④その他
中国の儀礼に用いられた鼎(かなえ/
約43%の省エネ化を実現しました。
また、もう一つの玄関口である「押
太陽光発電・緑化の推進や、
「BEMS」
カメラの三脚と同じく、3つの足でど
心意気を示す「粋」の姿では、隅田
図表8 「粋」
と
「雅」
©TOKYO-SKYTREE
図表5
効率熱源機器を設置した
高
地域冷暖房システムメインプラント
(画像提供:東武エネルギーマネジメント)
きます。縦横比は約9:1のスレンダー
のLED照明器具と、それらを高速制
なタワーとなっています。 図表7
御するLEDシステムによる“オール
上(スカイツリー前)駅」は、東武ス
(ビルエネルギーマネジメントシステ
のような場所でも自立する)を想起さ
川の水をモチーフとした淡いブルーの
カイツリーライン・東京メトロ半蔵門
ム)にクラウドコンピューティングを
せ、見るものに安定感を与えます。三
光でタワーを貫くシャフトを照らし出
線・京成押上線・都営地下鉄浅草線の
加え発展させたエネルギー管理システ
角形は最小の部材数で安定した構造解
します。大地から力強く立ち上がり、
4路線が乗り入れるターミナル駅です
ム「LCEM」
(ライフサイクルエネル
を導き、周辺地域への圧迫感を抑え、
隠さないで中を見せるイメージからは、
が、今回の開発事業によって、押上駅
ギーマネジメント)ツールを活用した
鉄骨数量の軽減という環境への配慮も
気風の良さや潔さを感じることができ
改札コンコース階と地下3階を連絡通
CO2 の削減等により、環境にやさしい
意図しています。
ます。
路で直結させ、電車利用のお客様の利
まちづくりを進めています。
展望台は、1周360度の関東一円を
美意識を示す「雅」の姿では、鉄骨
⑤省CO2 推進モデル事業
図表7
図表6
天望デッキ
タワー形状
©TOKYO-SKYTREE
©TOKYO-SKYTREE
見渡せる体験が実現できるように、円
の細かな構造体を衣に見立て、優雅で
これらの計画が認められ、本プロ
送が開始されていますが、電波の送信
望デッキ』は、5mを超える大型のガ
形がふさわしいと考えました。この結
気品あるイメージを表現します。江戸
ジェクトは省CO2 の実現性に向けた
について都心部に林立する高さ200m
ラスを360度に配置し、タワーの足元
果、平面的には低層部の三角形から高
紫をテーマカラーとし、金箔のような
リーディングプロジェクトとして平成
級超高層ビルの影響を受ける可能性が
から計算上約70km先までご覧いただ
層部の円形へと変化する、世界にも例
きらめきのある光をバランスよくちり
①地域冷暖房システム
20年度(第2回)住宅・建築物省CO2
出てきたため、高さ600m級の新タ
ける開放的な造りになっています。さ
のないタワー形状が生まれました
ばめています。
今回開発にともない、業平橋・押上
推進モデル事業(現名称:住宅・建築
ワーからの送信が望まれました。高さ
らに100m上った地上450mの『東京
③ライティングデザイン 地区におけるエネルギー供給を一体的
物省CO2 先導事業)に採択されまし
600m級の新タワーに移行すると、地
スカイツリー天望回廊』では、チュー
〜「粋」と「雅」という 2 つの光で
に担う新会社「株式会社東武エネル
た。一方において、これらの取り組み
上デジタル放送の送信高は現在の約2
ブ型でガラス張りの回廊が続き、まる
江戸の美意識を表現〜
ギーマネジメント」
(東武鉄道全額出
を社会への「見える化(周知ツール)
」
倍となります。
で空中を散歩しているような感覚を味
江戸で育まれてきた心意気の
「粋
(い
東京スカイツリーの足元に位置し、
資会社)が2006年に設立されました。
や建物ユーザーへの省CO2 の働きか
年々増加する超高層ビルの影響を低
わいながら、フロア445からタワーで
き)
」と、美意識の「雅(みやび)
」と
個性豊かな賑わいを創出するSC面積
便性を大きく向上させました。
(2)環境への配慮
(4)商業施設「東京ソラマチ」
同社はスカイツリータウンを中心に環
け等において可視化・具体化する等、
減できるとともに、2006年4月に開
最も高いフロア450へ皆様をご案内し
いう2つの光が、一日ごと交互に現れ
約52,000㎡の商業施設
「東京ソラマチ」
境面において先見性を兼ね備えたまち
幅広いマネジメントが継続的に要求さ
始された携帯端末向けのデジタル放送
ます。
る新しいスタイルのライティングで、
は、312の専門店により構成されてい
づくりを実現するため、最新鋭の高効
れるモデル事業となっています。
サービス「ワンセグ」のエリアの拡大
②
「三角から円へ」世界にも例を
それぞれ「潔さ」
「優雅さ」を表現し
ます。東京ソラマチは「タワーのある
。また随所に江戸の原
街(空の街)
」をわかりやすく、親し
率熱源機器 図表5 と大容量水蓄熱槽に
より廉価なエネルギー供給および省エ
ネ・省CO2 を実現し環境負荷の低減
も期待されています。また、災害時に
(3)東京スカイツリー
を図るべく事業推進しております。国
東京スカイツリーの大きな役割は地
内地域冷暖房初の地中熱利用など、最
上デジタル放送の送信です。2003年
新の技術を駆使した先駆的なシステム
12月より関東地方の地上デジタル放
8
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Autumn 2012
見ないタワー形状を創出
ました
図表8
は防災機能のタワーとしての役割も期
東京スカイツリーの足元は、一辺約
風景を継承するデザインを取り入れる
みを持てる日本語で表現し、
加えて
「伝
待されています。
68mの正三角形の平面形です。この
ことで、タワーの建つ下町の歴史文化
統の下町文化が根付く街」と、
「商業
①東京スカイツリー「天望デッキ」と
頂点の3点から上部へ伸び、地上約
をあらわします。最先端の照明技術を
施設の名称としてこれまでにない斬新
50mのところでひとつにつながり、
駆使し、美しさと省エネルギーを両立
さ」を両立させる言葉として名付けら
地上600m以上の高さにまで伸びてい
するライティングには、合計1,995台
れました。
「天望回廊」 図表6
地上350mの『東京スカイツリー天
No.153
ISHIZUE
9
東京ソラマチの特徴は、東京スカイ
チは、様々な情報やトレンドを発信し、 コミュニティスペースとして、お客様
ツリーの「観光を目的に来るお客様」
新しい下町の活気や賑わいを感じさせ
に上質のエンターテイメントと交流の
と、周辺地域にお住まいの「デイリー
るバラエティ豊かな商業施設として誕
機会を提供します。 図表11
な買い物のお客様」
、さらにはアーバ
生しました。
東京スカイツリーに来場されるお客
様のご利用はもちろんのこと、足元に
ンツーリズムとしての「東京散歩を楽
しむお客様」と様々な目的を持ったお
客様のニーズに対して、十分に対応出
(5)水族館・
ドームシアター
ある商業施設だけでも十分に愉しんで
いただけるように工夫を凝らした「東
来る店舗構成を行った点にあります。
また、ウエストヤード5 ∼ 6階には、 京ソラマチ」は、様々なニーズに対応
店舗内訳は、物販店127店、食物販店
ビルインタイプの「すみだ水族館」を
したお土産をはじめ、現在の日本を代
90店、飲食店77店、サービス18店と
オリックス不動産㈱が開設し、単なる
表する美味しい飲食店を取り揃えるな
なっています。 図表9
展示型の水族館にとどまらず、憩いの
ど、世界中のお客様に満足していただ
東京ソラマチの特徴的なテナントと
空間、学習機能を兼ね備えた施設とす
けるような商業施設を目指し、今後も
しては、地元墨田区の魅力を伝え区内
る等、「新江ノ島水族館」 での運営ノ
成長を続けられるよう努めてまいりま
回遊を促す「産業観光プラザ すみだ
ウハウを生かし、
「文化・交流・賑わ
す。
まち処」
、栃木県のアンテナショップと
いの拠点」や「環境教育」の場として、
して栃木のいいところをまるごと楽しん
新しいライフスタイルを発信提供して
でもらう「とちまるショップ」
、読売巨
います。 図表10
人軍として球団初の直営グッズショッ
さらに、イーストヤード7階には、
敷地の東端に建つ、地上31階建て
プ「GIANTS OFFICIAL STORE」
、
最新鋭の多機能型ドームシアター「コ
のもうひとつのランドマークが「東京
在京テレビ各局の番組やキャラクター
ニカミノルタプラネタリウム“天空”
スカイツリーイーストタワー」です
商品を販売するオフィシャルストアー
in東京スカイツリータウン 」をコ
図表12
「Tree Village」
、FM・AMラジ オ等
ニカミノルタホールディングス㈱が開
東京メトロ半蔵門線・都営浅草線・京
のライブ放送や各種イベントを展開す
設し、従来のプラネタリウムの枠組み
成押上線の4路線が利用可能な押上
るマルチメディアスタジオ「TOKYO
を越え、教育分野からエンターテイメ
(スカイツリー前)駅に直結する本建
STUDIO」
、落
ント分野まで様々なコンテンツを開
物の13階から29階までの17フロア、
語などの寄席芸を楽しめる居酒屋「江
発・展開しています。ドーム型の空間
総貸室面積約7,700坪を賃貸オフィス
戸味楽茶屋そらまち亭」など、他の商
を活用し、臨場感溢れる全天周映像、
としており、駅コンコースに直結する
業施設では見られない店舗を多数揃え
高画質映像、コンピューターグラ
エレベーターホールには、地上12階
ております。このように、東京ソラマ
フィックス映像などを通じて、新しい
のスカイロビーへ向かうシャトルエレ
SKYTREE TOWN
(6)東
京スカイツリー
イーストタワー(オフィス施設等)
図表13
所在地
東京都墨田区押上一丁目1番2号
敷地面積 36,844.39㎡
延床面積 229,728.92㎡
階数
地上31階地下3階
最高高さ 634m
。東武スカイツリーライン・
ベーターを4基設置。雨の日も濡れる
東京スカイツリーイーストタワーのフロアレイアウト
構造
鉄骨造、鉄筋コンクリート造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造
駐車台数 1,077台
事業主
図表12
東京スカイツリーイーストタワー
(右)
と東京スカイツリー
©TOKYO-SKYTREETOWN
4
東武鉄道株式会社・東武タワースカイツリー株式会社
設計監理 株式会社日建設計
施工
図表14
ウエストヤード:大成建設・東武谷内田建設共同企業体
タワーヤード:株式会社大林組
イーストヤード:大林・株木・東武建設共同企業体
東京スカイツリータウンの建築概要
施設管理運営について
元的に受託しています。
東武グループの一員として、また、
東京スカイツリータウン内の施設の
タウンソラマチ株式会社は、ビルメン
動線を確保しています。
運営管理全般については、東武鉄道の
テナンスとして設備管理、警備、清掃、 東京スカイツリータウンの施設管理業
スカイロビーには、さらに上階に向
全額出資会社である東武タウンソラマ
物流、
植栽管理等の他、
コールセンター
務の専門会社としてそのノウハウを蓄
かう低層階用と高層階用のエレベー
チ株式会社が一括して行うことで、効
やインフォメーション、商業施設「東
積し、地域に根ざした会社になること
ターをそれぞれ5基づつ設置し、各フ
率化・一体化を図っております。東武
京ソラマチ」の販売促進等の業務を一
を目指しています。
無柱空間となっており、約17m ∼
東京スカイツリーの最高高さ634m
と、改めて感謝申し上げます。
12mの奥行きを持ち、柔軟なオフィ
への到達を目前に控えた昨年3月に、
また、開業にあたり周辺地域の皆様
東日本大震災に遭いましたが、工事関
のご理解・ご協力さらにはご声援に対
係者、工事躯体とも被害なく無事で
して御礼申し上げる共に、これからも
あったことは本当に幸運であったとと
東京東部エリアを盛り上げていくシン
もに、改めて施工各社の技術レベルの
ボルとして
「東京スカイツリータウン」
高さを認識した次第です。これも、東
を東武グループ一丸となって育んでま
京スカイツリータウン建設工事に係
いります。
ことなく、通勤や訪問時などの快適な
ロアまでスムーズにアクセスすること
が可能です。
図表10
すみだ水族館
(画像提供:オリックス不動産株式会社)
基準階フロアは約450坪を確保した
スレイアウトが可能です。 図表13
各種スペックとしては、天井高
2,800mm、床荷重500㎏ /㎡(コア側
より約3mは重量機器の設置も可能な
1,000 ㎏ / ㎡)
、100 ㎜ のOAフ ロ ア、
図表9
商業施設
「東京ソラマチ」
図表11
コニカミノルタプラネタリウム
“天空”in東京スカイツリータウン®
電気容量60VA/㎡、Low-Eペアガラ
ス等、高機能空間を提供しています。
5
おわりに
わった関係者の皆さんのご尽力の賜物
(画像提供:コニカミノルタプラネタリウム株式会社)
10
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11
(水光熱費)
の概要
vol. 11 エネルギー費用
vol.
すが、ガス熱源ではなかったり、厨房設備がなかったりす
11
新しい時代の
プロパティ・
マネジメント
株式会社 PMアドバイザーズ 齊藤 利雄
取締役社長 エネルギー費用
(水光熱費)
の概要
共益費の原価を区分すると、 設備管理業務や警備・清掃等業務の人に関わる費用と、 設備機器の
保 守・メンテナンス等の維 持 管 理 費 用、 そしてビルの運 営のためのエネルギー費 用( 水 光 熱 費 )
の 3 項目に大別することができます。
2000kW以上で受電する大口需要家の価格が自由化されて
れば、ビルに引き込む必要はありません。DHCは、空調
以来徐々にその規模が拡げられてきましたが、05年以降
用の熱源である冷水および空調・給湯用の蒸気・温水とし
は自由化の範囲も50kW以上受電の需要家までに拡大し
て利用するために供給を受けますが、DHC会社の供給エ
ました。価格の自由化とともに特定規模電気事業者
(PPS)
リアに立地しているビルに限定されます。最後の油は、空
が参入したため、大型ビルでは需給契約を一般事業者から
調の熱源として使用しますが、最近のビルの熱源は電気ま
PPSに変更するという動きも拡がりましたが、リーマン
たはガス炊きであり、油炊きの熱源を使用しているビルは
ショックによる原油価格高騰でその勢いは低下しました。
ほとんどありません。このように、ビルで5種類のエネル
しかし、震災後の電気料の高騰により、変更の動きは再び
ギーを全て使用しているということはなく、電気・水道の
加速しています。電気に対しガスの場合は、95年の200
2種類だけか、空調の熱源によっては、ガス・DHC・油の
万m3/年以上の需要家から自由化が開始されて、現在は
1種類を加えた3種類のエネルギーを使用します。
10万m3/年以上にまで拡大されています。ガス導管事業
※ DHCまたは油を熱源として使用している場合は、厨房用のガス
者や大口ガス事業者といった自由化分野事業者の新規参入
(低圧)を加えた4種類というケースもあるが、ガスはガス供給
も徐々に増加しているようですが、これは工場等への供給
会社が店舗等に直引込みというケースもある。
に限定されているようであり、ビルへの供給は一般ガス事
これらの 3 項目以外にも種々雑多な項目がありますが、 原価の総額に占める割合は極少ないもので
ビルで使用しているエネルギーは、その大半を空調のた
業者からの供給が中心です。水道とDHCは自由化されて
あり、 重要性としては低いものとなります。 設備管理業務や警備業務・清掃業務の費用(人件費)
めに使用しています。空調以外で使用しているのは、空調
いないため、価格交渉することはありませんが、事業者や
以外の給排水・昇降機等の設備機器の運転や照明および専
地域によって価格が異なることに留意しなければなりませ
用部・共用部のコンセントで使用する電気とトイレや飲用
ん。
その他の水道となります。給湯用にガスを使用することも
もう一つは、人件費や維持管理費ではその実施内容等に
ありましたが、現在のビルの手洗い・飲用の局所給湯では、
ついてはPMgerが直接決めることができるのに対し、エ
りますが、 一般的には項目ごとに概ね 1/3 程度に区分されます。このうち、 エネルギー費用の割合
ほとんどか電気温水器を使用しています。
ネルギーではPMgerがその使用量を直接コントロールす
は、 テナントがオン・オフする個別パッケージ方式の中小規模ビルであれば、 通常の割合よりは小
ビルで使用するエネルギーは、その種類に関してだけで
ることはできず、設備機器の運転等の結果に過ぎないとい
さなものになります。 その理由は、 空調に要するエネルギー費用が他より少ないというわけではあ
なく、使用者つまり費用の負担者が誰かということもポイ
う点です。たとえば警備費であれば、どのような業務を行
ントとなります。共用部または共用設備で使用するエネル
い、そのためには何人配置しなければならないかというこ
ギーは、共益費の原価となりますが、専用室内の照明・コ
とがポイントであり、その内容についてはPMgerがビル
ンセントおよびテナントが設置した設備で使用するエネル
の運営方針に基づいて決めることができます。設備機器の
ギーは、その使用した分の支払義務はテナントにあります。
メンテナンスや整備等でも同様で、メンテナンスの実施内
40%~ 50%になってしまうこともあります。
ただし、前者であっても、共益費としてテナントが間接的
容について保守会社や設備管理要員からのアドバイスをう
ビルで使用するエネルギー費用には、 共益費の原価として負担するもの以外に、 テナントが専用部
に負担しているという点では同じです。
けるとしても、PMgerがその内容を判断して実施します。
および設備機器等の維持管理費用については、 前回までの本稿で解説をしてきましたので、 今回
はエネルギー費用について取り上げることとします。
人件費、 維持管理費、 エネルギーの 3 項目の割合はビルの規模や管理方式、 空調方式により異な
りません。 その費用の徴収方法が、 共益費原価として徴収するのではなく、 専用部のエネルギー費
用(電気料)として別途徴収しているためです。これに対し、 規模が大きく空調がセントラル方式
のビルでは、 共益費原価に含まれる空調に要するエネルギー費用の負担も大きくなり、 その割合が
つまり、やるべきことはPMgerが直接決めることででき、
で使用し負担するエネルギーも含めた金額となり、ビルの全体コストに占める割合はさらに大きなも
のとなります。
2エネルギー費用の特徴
その内容によってグレードやコストが変化します。
エネルギーに関する費用は、共益費原価の一部を構成しているということだけではなく、エネルギー
エネルギー費用の項目は、共益費原価のなかでも人件費
することはできますが、使用量のコントロールは間接的に
や維持管理費の項目とは大きく異なる点が2つあります。
しかおこなえません。
たとえば、
空調で使用するエネルギー
1つ目は、その料金体系が事業者と供給者の間で協議して
をコントロールするためには、運転時間や設定温度等を調
金額を決めるのではなく、供給者が料金設定をする公共料
整して間接的に使用量をコントロールするということで、
金としての性格を持っていることです。油を除く電気・水
ここにエネルギー管理の難しさがあるといえます。
の使用量を削減するという社会的な要請にも応えなければなりません。このことは、 単なる要請と
いうレベルではなく、 エネルギー使用の合理化に関する法律(省エネ法)や地球温暖化対策の推
進に関する法律(温対法)といった法令による規制とも関連します。
プロパティ・マネージャー(PMger)は、コスト削減や省エネルギーの推進という観点だけでなく、
これらの法規制をクリアーするといった観点からの活動も必要となります。
これに対しエネルギーの場合は、需給契約の種類を選択
道・ガス・DHCの供給事業者は、法に基づいてそれぞれ
の事業地域における事業を認可された独占事業者であり、
その価格体系は監督官庁の認可をうけて決められていまし
3エネルギー使用量の予測
た。従って、これまではその価格について交渉することは
電気とガスで大口需要家の価格が自由化されたとはいえ、
の5種類のエネルギーのうち、電気と水道は全てのビルで
できませんでした。
電気でいえばPPSの電力供給量は限定されたものであり、
使用されていますが、他のガス・DHC・油は全てのビル
しかし、電気とガスについては1995年から徐々に自由
全てのビルで自由化の恩恵を受けることができるわけでは
ビルで使用するエネルギーは、電気と水道以外にもガス、
で使用されているわけではありません。
化が進み、価格についても交渉が可能になっています。電
ありません。また、価格が自由化されたからといっても、
DHC(地域冷暖房)
、重油等の油類を使用しています。こ
ガスは空調の熱源や給湯および店舗等の厨房で使用しま
気の価格は、2000年の特定規模電気事業の認可とともに、
一般電気事業者の標準的な価格との差は、数%程度です。
1 ビ ル で 使 用するエ ネ ル ギ ー
12
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(水光熱費)
の概要
vol. 11 エネルギー費用
料金の特徴としては、運営事業体が上水道と下水道に分か
もちろん、PMgerにとって数%であっても価格低下は重
段階であれば、
用途・規模を基準とした標準的な原単位(単
メーター間で親子関係が発生するため、計量対象の使用量
要なことですが、価格交渉をして契約を締結した時点で業
位面積当たりの使用量)を用いて使用量を算定する程度で
を把握するためには、複数のメーターの値を加減算して算
れているため、料金も上下水道が別々に設定されています。
務は終了します。これに対し、エネルギーの使用量の把握
すが、設備機器や運営方法が決まっていれば、機器仕様に
出しなければならないケースも出てきます。新築時のメー
それ以外にも、基本料の設定が無く、一定の使用量までは
とそのコントロールは、ビルにおいて継続的に起こる問題
基づく容量と運転時間等から使用量を算定することになり
ター系統は比較的シンプルで、系統の検証も比較的容易な
定額とする供給事業者が多いことや、使用量が増加するに
であり、その重要性は高いものです。
ます。原単位からの算定より、仕様・運転時間からの算定
ため、ミスの発生する可能性は極めて小さなものです。時
つれて段階的に単価が高くなる料金体系がとられている等
ビルにおけるエネルギー使用量をコントロールするため
のほうが精度は高いものですが、あくまでも想定値にすぎ
間の経過とともに、テナントの入退去や賃貸区画の変更、
の特徴があります。
には、既存ビルであれば使用量データの把握が必要であり、
ません。
設備の増減等により、メーター系統は複雑化してきます。
※東京都・名古屋市の上水道は、呼び径(メーターの口径)のサイ
新築ビルであれば使用量の予測をする必要があります。
しかし、この想定値から共益費原価のエネルギーコスト
複雑化するにつれて、ミスの可能性は増加してくるため、
(1)既存ビルのエネルギーデータの把握
やテナントに請求する電気料単価を設定する基準値になる
系統図を適宜メンテナンスしていくことは重要です。
具体的な料金事例でみてみると、口径20mmで20m3 使
エネルギーデータの把握は、ビルに設置されているメー
わけであり、その重要性は低いものではありません。
(3)検針データのチェック
用した場合の月額水道料は、上水・下水それぞれで1000
毎月の検針データは、自動検針のビルであっても、その
円から6000円程度の幅があり、上下水あわせた水道料金
4 エネルギー使用量の検針とチェック体制
値を必ず確認しなければなりません。自動検針をしていな
としては2000円から1万円程度となります(主要都市の
いビルであれば、さまざまな人的ミスの有無をチェックす
20m3 あたり上下水道料金は、東京23区4662円、横浜市
取引メーターは定期的に供給会社が検針し、その値に基づ
エネルギーの使用量は定期的に検針し、その使用量を把
ることが必要なのは自明のことですが、自動検針をしてい
4520円、大阪市3234円、名古屋市4504円)
。
いて使用料を(○○ビルに)請求するためのものですが、
握しますが、通常はテナントに対する請求サイクルに基づ
るビルであっても、機械の故障や初期設定ミスによる異常
共益費やテナントへの請求においてエネルギー料金を算
エネルギーの総使用量を把握する点ではビルにとっても重
き月1回のサイクルで検針を行います。検針サイクルは、
値の確認のためにチェックは必要です。一般的なチェック
定する場合、単価に関してはフラットレートで考える方法
要なものであり、通常はビルでも毎日検針して日々の使用
仮に電力会社の検針サイクルに合わせたとしても全ての種
の方法は、前月や前年同月の値との比較により異常値を発
が効果的です。フラットレート(FR)とは、年間の総支
量を把握しています。
類のエネルギーが同じになるとは限らないため、供給会社
見し、そのデータが誤っていないかの確認をしますが、異
払金額を総使用量で除して算出した単位当たり使用量の単
これに対し、ビルで設置するメーターには、テナントへ
の検針サイクルと同じである必要はありません。
常値であったとしても、テナントの使用状況によっては異
価で、電気であれば1kWh当たりの単価です。エネルギー
使用料を請求するためのメーターとその他設備機器の管理
検針はテナントに対するエネルギーコストの請求に直結
常値になることにもあるため、その理由を確認する必要が
コストの単価は、季節別の料金設定や使用量が月毎に大き
データ収集のためのメーターに分かれます。前者のテナン
しているため、PMgerは使用量の把握とメーター系統に
あります。
く変動することにより、単価は毎月変動します。実績値に
トへの請求メーターは、請求が必要な負荷の全てを計量で
ついて留意しなくてはなりません。
異常値は、前月比20%以上の増加又は減少というよう
ついては、毎月の変動に即したコストを集計する必要があ
きるように設置しなければなりません。以前はフロア単位
(1)使用量の把握
増減率を設定することになります。設定値以下で異常の場
りますが、共益費の予測において毎月の変動を考慮して算
に設置し、複数テナントが入居している場合は面積等で按
PMgerにとって最も重要なことは、使用量を正確に把
合もありますが、そのようなケースでは負荷の内容と使用
定することは望ましいとはいえ、作業量が増加してしまい
分するといった方法もとられていましたが、現在はテナン
握することであり、そのためには、毎月の検針値が正確で
量のバランスから異常を発見するしか方法はなく、言い換
ます。
トごとの専用メーターが一般的であり、設置数は増加して
なくてはなりません。最近のビルの検針は自動化されてい
えると職人的な感覚が必要です。だからと言って、異常値
また、テナントに対する請求単価は、固定単価を用いる
います。請求するためのメーターは、計量法に基づく検定
るため、初期設定が正確であれば、以後の検針データは機
の設定を低くしてしまうと、チェック対象が拡がりすぎて
方法が一般的であり、まさにFRを用いることになります。
を受けなければならないため、メーターを増やすことによ
器の故障等がない限り正確といえます。ここでポイントと
しまうことになり、そのバランスは重要です。
ガスやDHCをテナントが使用し、事業者が請求するとい
り、請求するエネルギー使用量が正確になった反面、コス
なるのは、初期設定が正確であるということです。使用量
トが増加してしまうというデメリットがあります。後者の
データが誤っていて、誤請求が発生したケースでは、毎月
ターを検針することで可能です。メーターには供給会社が
設置し、需要家(○○ビル)への請求に使用する取引メー
ターと、ビルが必要に応じて設置するメーターがあります。
ズにより基本料が設定されている。
うケースは稀ですが、電気はテナントが専用室内の照明や
5エネルギー料金
コンセントで使用した電気料を請求することや基本料の負
管理用メーターは共益費原価の分析等を行うために計量す
の検針値が誤っていたというケースは少なく、そのほとん
るものですが、設置の基準があるわけではなく、必要に応
どがメーターの初期値や乗数、系統といった初期設定のミ
電気・ガス・DHCの料金体系は、エネルギーの種別ご
電気の請求単価については、前述の燃料費価格の調整制度
じて設置することになります。共益費原価に相当する量は、
スが原因となっています。検針値のミスであれば当該月だ
とに異なりますが、
原則として基本料と使用料(従量料金)
による変動についても考慮する必要があります。この制度
取引メーターからテナント請求の総量を差し引くことによ
けで済みますが、初期設定の場合は発見されるまで、その
から構成されています。基本料は、電気であれば契約電力
により、電気の使用料金単価は毎月変動しますが、この変
り算定できるため、設備ごとの使用量を把握する必要があ
ミスが累積されてしまうこともあり、その影響はより大き
のようにビル設備の規模によって決まりますが、一定時間
動値を請求単価にも反映する必要があります。調整単価は、
るわけではありません。しかし、エネルギー使用量の分析
なものになります。検針が自動化されていないビルで留意
に使用する最大量によって契約電力の値も変化します。こ
原油・LNG・石炭の輸入価格と為替レートから算定され
や省エネ対策を行うためには、計量対象が細分化されてい
すべき事項は、メーター値の読み取りとデータ記録の際の
れに対し、使用料は消費したエネルギーの量に応じて支払
ます。リーマンショックで一時低下した原油等の価格も、
たほうが良いわけです。メーター数が増加すればコストも
ミスや、検針データの入力ミス等です。どちらも人的なミ
うものであり、契約の種類により単価は異なります。単価
その後は徐々に上昇傾向にあります。円高により相殺され
増加することを踏まえ、適切なメーター設置が必要です。
スですが、機械に比べると発生の頻度は高いものになるこ
は原則として変動しませんが、電気とガスは燃料の輸入価
たため、結果として単価の上昇も抑制されていますが、原
(2)新築ビルのエネルギー使用量予測の重要性
とは否めません。
格の変動に応じて、毎月単価が増減する調整制度が実施さ
油等価格の急激な上昇や円安局面になると、短期的にでも
既存ビルではエネルギー使用の実績値を把握することに
(2)メーター系統図
れています。
大きく変動します。もちろん価格の低下や円高により調整
より、エネルギー管理を実施しますが、新築ビルの場合は
2つ目の留意点は、正確なメーター系統図の作成です。
水道料金は、その供給事業者が電気・ガス・DHCのよ
単価がマイナスになる可能性もありますが、請求単価に調
実績値が無いため使用量を予測することになります。予測
メーター系統は、取引メーターから末端のメーターまでの
うな民間事業者ではなく、市または複数の町村による広域
整単価を反映させることにより、調整単価の変動によるリ
の方法は、その実施する時期により方法が異なります。計
親子関係を図式化したものですが、メーターで計量の対象
事業体等が運営する公営事業であるため、電気やガスに比
スクを回避できるわけで、事業者にとっては大きなメリッ
画段階でビルの用途や規模程度しか決まっていないような
となる設備やエリアを把握することが可能となります。
べると供給エリアが狭く、価格水準もさまざまです。水道
トになります。
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担割合が大きいため、正確なFRの算定が重要になります。
No.153
ISHIZUE
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vol.
不動産業は構造的なマーケットの縮小を克服できるか
6
ストックの活用・再生による新たな街づくりへの挑戦
不動産業は構造的なマーケットの縮小を克服できるか
ストックの活用・再生による
新たな街づくりへの挑戦
株式会社不動産経済研究所 日刊不動産経済通信 編集長
場になる。大手と中堅・中小では資金
のはリーマンショックによ
調達力と信用力に圧倒的な差があるた
る影響だけではない。05年
め、マス・マーケットでは中堅・中小
に起きたマンションの耐震
は大手に太刀打ちできない。ニッチな
強度偽装問題、いわゆる「姉
市場である間だけが中堅・中小の稼ぎ
歯事件」に遡る。あの事件
時になる。一定のニーズがあるものの、 が独立系の中堅・中小デベ
田村 修
大手が継続的に手掛けられないような
ロッパーによる分譲マン
効率の悪いマーケットが中堅・中小の
ション事業の展開に与えた
不動産業にとって人口減少は需要減に直結する。とりわけフロービジネスである開発事業は、人口が減少し続
ければこれまで獲得してきたビジネスの機会を徐々に失い、マーケットが縮小する。フローのマーケットが縮小
すればストックビジネスである仲介事業や賃貸・管理事業もやがてジリ貧になる。GDP がバブル崩壊後の約
20 年間ほとんど伸びず、株価が約 30 年前の水準にある日本経済は長期低迷の時代にある。人口減と特に少
子高齢化に伴う生産年齢人口の減少がそれに追い打ちを掛け、若年世代の年収の伸び悩みもあり、不動産業
の将来見通しを暗くしている。典型的なドメスティック産業と言われてきた不動産業は国内市場の縮小によって、
将来的にはビジネス機会を海外需要への対応に求めるか、ストックの維持・再生にシフトすることでカバーして
いくしかない。人口減などによる国内不動産市場の縮小をどうやって克服していけばいいのか。構造的な変化
からみた今後の不動産業を展望する。
事業領域だ。
傷跡は今も残っている。姉
歯事件に対応するため、建
08年リーマンショック後、
不動産業界に構造変化
=分譲マンション事業
築基準法が改正された。
07年7月から建物の構造
計算に対するピアチェック
が義務化され、マンション
短いサイクルで好不調の波を繰り返
の建築確認業務が長期化す
す不動産業にとって、新しい風を送り
るなど、建設業務の現場が
込むプレーヤーの動きは重要である。
混乱し、供給側の体力を奪うことにつ
に徐々についていけなくなってきてい
ところが、08年のリーマンショック
ながった。当然、体力の劣る中堅・中
る。大手同士の熾烈な争いが起きてい
にも参入できる。参入障壁が低いと言
深く連動していることがその背景にあ
以降は目立った新規参入の動きが見ら
小企業にそのしわ寄せが及び、金融機
るマンション市場はますます中堅・中
われる所以だ。分譲マンションが大量
る。しかもかつてのように間接金融が
れない。長く続いているデフレが日本
関も中堅・中小への融資に対して徐々
小の出番を阻むのではないか。
供給された90年代半ばから00年代半
中心でなく、エクイティ・ファイナン
経済全体の足腰を弱くしてしまったこ
に慎重になっていった。土地の取得か
マンション開発の事業機会を奪われ
ばにかけて、マンション供給業者は多
スなどによる直接金融が占める割合が
とも影響していると考えられるが、過
ら建物の着工、販売、引き渡しまで、
た中堅・中小は、既存マンションを買
不動産業は他の産業に比べて参入障
いときで500社を超えていた。
増え、その流れがグローバル化し、調
去の不況と大きく異なるのは規制の強
資金をいかに早く回転させるかが勝負
い取ってリニューアルしてから販売す
壁が低いと言われてきた。不動産業を
バブル崩壊後の銀行の不良債権処理
達スキームも複雑化しているため、不
化と人口減少である。規制の強化が参
になる分譲マンション事業にとって、
る買取り再販事業を積極的に展開する
営む宅建業者は全国で10万社を超え
に伴う担保不動産の流動化で、不動産
動産業のボラタイルは以前より加速し
入障壁を高くし、人口減少がマーケッ
着工までの工程を複雑にした法改正は
ようになったが、このマーケットは参
る。三井不動産や三菱地所といった超
証券化および不動産投資・運用ビジネ
ている。
ト規模を縮小したことで、裾野が広
売上計上の遅延をもたらし、経営環境
入障壁が低いため、競合が激化してい
多種多様・多彩な
不動産企業群を
取り巻く背景
大手総合不動産会社から少人数で経営
スが活性化した04 ∼ 07年は、不動産
一方でボラタイルがあるから、そこ
かった不動産業界の構造が大きく変わ
を悪化させた。リーマンショックがそ
る。優良な既存物件を安価で仕入れる
する駅前の自営業者まで、幅広い企業
ファンドを組成・運用するAM会社
に商機が生まれる。一定のマーケット
ろうとしている。
れに追い打ちを掛けた。
のは難しい。しかし、新築マンション
が国土交通省所管の不動産業に携わっ
が隆盛し、Jリートの運用会社を含め
が存在する限り、参入障壁の低い不動
構造変化の一つが分譲マンション事
多くのプレーヤーの退場と新規参入
事業よりリスクは圧倒的に少なく、過
ている。不動産会社と一口に言っても、 て次々に誕生した。金融商品取引法に
産業には常に“一発大儲け”しようと
業に顕れている。ピーク時に全国で
の不在、景気悪化と人口減少による需
去の大量供給によって買取り対象とな
独立系の専業から旧財閥系、製造業、
よる規制もなかったため、市場が一気
する山っ気のある新規参入組が常に現
500社以上あった供給企業が現在は
要減退によって、分譲マンション市場
るストックが積み上がっているため、
銀行、証券会社、生損保、ゼネコン、
に拡大した。
れてきた。
不動産業界は独立系の中堅・
150社程度まで大幅に減少した。残っ
は生き残った大手デベロッパーを中心
当面は厳しい競合の中でストックビジ
商社、電鉄会社、情報通信、流通業な
マーケットが拡大すると参入企業が
中小オーナー企業がリスクを取って新
ているのは大手デベロッパーが中心で
とした、以前よりかなり狭いマーケッ
ネスとして継続したマーケットを確保
ど様々な業種を母体とする系列企業が
それに合わせて増幅し、需給バランス
規ビジネスを開拓し、軌道に乗ると大
ある。リーマンショック後に新興系の
トになった。また、大型の開発用地が
していくに違いない。
あり、多種多様だ。
が崩れてマーケットが縮小する。不動
手資本系列の企業が参入してマーケッ
中堅・中小デベロッパーの経営破綻が
以前より供給されなくなったため、デ
土地を保有していて資金を調達でき
産市場は何度かそれを繰り返してきた。 トシェアを奪っていくというパターン
相次いだほか、倒産は免れたものの銀
ベロッパー各社はマンション供給戸数
不動産投資事業にも
不動産業界の
構造変化の波
れば開発事業や賃貸事業が可能である。 良い時期は短くて悪い時期が長いとも
があった。中堅・中小は大手が手掛け
行から事業資金を調達できなくなり、
を一定量確保していくため、限られた
土地を持っていなくても取得できる資
言われる。不動産業は他の産業よりボ
ないようなニッチな市場を開拓し、自
分譲マンション事業から撤退または事
用地の奪い合いを展開している。大手
金調達力があれば、建物の建設をゼネ
ラティリティが高く、好況と不況の落
分たちの領域を確保していく。しかし、
業を停止しているデベロッパーも多い。 のようなブランド力による大量集客と
コンに丸投げし、販売会社に営業を委
差が大きくて移り変わりが激しい。取
市場が拡大してしまうとニッチではな
分譲マンション事業を展開していた
販売訴求力を持たない中堅・中小は、
構造変化は不動産投資事業にも起き
託することでマンション分譲事業など
り扱う商品が高額であり、金融市場と
くなり、大手も事業化できるマスの市
中堅・中小企業の経営環境が悪化した
取得競争の激化に伴う用地価格の上昇
ている。90年代後半から始まり、07
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不動産業は構造的なマーケットの縮小を克服できるか
ストックの活用・再生による新たな街づくりへの挑戦
vol.
年にピークを迎えたこのビジネスモデ
は頭打ちであり、このままでは今後の
産がなかったため、今は供給不足であ
りそうだ。
あるマンション事業とオフィス事業の
存不適格物件も多い。現行の法制度で
ルは、金融機関の不良債権処理に伴い
縮小は避けられない。供給も2012年
り、新たな市場として拡大していくこ
市場規模の拡大という観点では、シ
成長に限界がくるとは言え、両ビジネ
は建替えはほとんど進まないため、老
流動化しなければならなかった担保不
問題は一段落するとしても、今後も都
とが期待されている。三井不動産や三
ニア向け住宅のマーケットは見逃せな
スが今後も不動産業にとって重要であ
朽化マンションの建替えに関しては、
菱地所も物流不動産の開発に参入して
い。すでに事業が始まっているサービス
ることに変わりはない。ただし、これ
容積率の思い切った割増しを認める規
動産が大量のシードアセットになった。 心部の再開発計画は目白押しであり、
ディストレストアセットを得意とする
当面は供給が減少するという見通しが
おり、不動産業の今後の成長セクター
付き高齢者向け住宅をはじめ、介護や
までの成功体験は徐々に通じなくなる。 制緩和を導入し、スピード感を持って
外資系ファンドが乗り込んできて、そ
ない。したがってオフィス賃料の上昇
になりそうだ。
医療といったヘルスケア分野への事業
マンション事業は住宅需要の縮小に
取り組むべきである。容積率の余剰分
れをサポートした新興AM会社が
はあまり期待できない。
もう一つの成長セクターはホテル。
進出は不動産業にとって大きな課題だ。
よって新規の発売戸数は減っていく。
を今後の新規マンション供給の種地に
徐々に力をつけていく中でマーケット
ただし、築年数が古くて耐震性に問
政府が掲げる観光立国の政策によって
ホテルやヘルスケア施設はともにオ
オフィス事業はオフィスワーカーの減
していけばいいのではないか。また、
が拡大していった。その後、参入企業
題のあるビルや、スペックの劣るビル、 外国人観光客の呼び込みが進めば市場
ペレーショナル・アセットであるため、 少により新たな供給面積が限られてく
都心に近いレジデンシャルエリアに立
が相次ぎ、私募ファンドとJリートの
立地がよくないビルなどがレジデン
の拡大が大いに期待できる。人の移動
単に箱モノを開発して分譲または賃貸
る。しかし、建物の耐震性能やセキュ
地する古い中小オフィスはオフィスと
組成ラッシュとなり、過熱した市場は
シャル系のアセットなどに用途転換し
による瞬間人口の増減が影響するホテ
するというビジネスモデルではなく、
リティ機能の強化、防災対策、エネル
しての競争力を失っているため、マン
リーマンショックでクラッシュした。
ていけば、オフィスの供給量が抑えら
ルは人口減少の影響を最も受けにくい
オペレーターとの連携が必要となる。
ギー利用のスマート化など今後も進化
ションへの建替えを推進する必要があ
現在の不動産投資マーケットは、外
れ、需給バランスが回復してくる可能
アセットタイプだ。今後は企業活動の
不動産業が今後も成長していくために
し続けるスペックと、変化し多様化し
る。その場合も容積率の割増しを認め
資の撤退や独立系AM会社の経営破
性がある。
グローバル化に伴い、海外と日本を行
は、ビジネス領域の拡大は避けて通れ
ていくユーザーニーズに対応していか
て事業にインセンティブをつけるべき
綻や事業縮小をはじめとするプレー
今後新規に開発または再開発される
き来するビジネス客の増加が予想され
ない課題だ。オペレーターをはじめと
なければならないという大きなミッ
である。
ヤーの大幅な減少とリスクマネーの縮
ビルを投資家向けに売却していくビジ
るほか、団塊世代を中心とするシニア
する異業種との連携によって、新たな
ションはなくならないため、新たな開
小、シードアセットの不足によって大
ネスモデルも有効だ。国内外のエクイ
層の旅行需要が増えることも見込まれ
サービスを提供していくというソフト
発による商品供給の役割は持続する。
きく低迷している。不動産の買い手と
ティ資金が以前より集まりやすくなっ
るため、ホテルは長期的な成長を遂げ
ウェアの分野で不動産業が進化してい
して最も勢いがあるのは上場リートと
ている。しかし、投資対象物件が乏し
る可能性が強い。短期滞在型のサービ
くことが求められる。
新たに出てきた非上場リートだ。リー
い状況が続けば投資家の日本離れが進
スアパートメントに対する需要も高ま
人口減少によって不動産業の主流で
マンショック前まではあまり日本で投
むことにもなりかねない。
資したことがなかった外資系ファンド
がそれに加わっている。IRRが20%
を超えるオポチュニスティックな投資
スタイルはほとんどなくなり、長期安
定運用を目指したコアあるいはコアプ
今後の成長セクターは、
物流施設、ホテル、
ヘルスケア施設
都市のコンパクト化に
対応し、既存ストックの
再生(用途変換)
を
新しい街づくりへの挑戦
は不動産業の成長戦略
都市のコンパクト化とは単にエリア
を縮小させるだけではない。これまで
より高度な都市機能を、限られたエリ
不動産業が今後対応していかなけれ
アに集約し、都市そのものを効率的に
ばならないのは、人口減少に伴う都市
することだ。個々の建物のスペックを、
のコンパクト化だ。大都市圏ではスプ
よりグレードアップし、環境、防災、
ロール化して拡大してきた郊外の
安全性などあらゆる面で優れたスマー
ラスの投資スタンスが主流になってい
投資機会を増やしていくためには、
ニュータウンで世代交代が進まず、
トシティを構築していくことを今後の
る。
対象となるアセットタイプを拡充して
徐々に衰退していく現象もすでに起き
開発事業に求めたい。
不動産投資マーケットの最大の課題
いくことも必要だ。これまでの投資対
ている。ニュータウンの再生策が論じ
国内市場が縮小していくため、海外
は投資対象不動産の取引量をどのよう
象はオフィスと住宅が主流だったが、
られているが、決め手に乏しい。効率
市場の開拓に活路を見出していく戦略
に増やしていくかである。それを阻ん
人口減少と少子高齢化により、両ア
的な都市化を考えると、将来的には郊
はもちろん大事であり、日本の不動産
でいる理由は大きく二つある。一つは
セットの成長には限界がある。現在最
外の縮小が避けられない。新たな住宅
会社が持つ事業ノウハウを海外で活か
市場規模が最も大きいオフィスビルの
も注目され、投資資金が動いているの
の供給はできるだけ都心部に近いエリ
せば、新たな成長も見えてくる。すで
賃料が下がっているため、売り手側と
が物流不動産だ。Eコマース市場の拡
アに集約していくことが望ましい。し
に多くの企業が海外市場に進出してい
買い手側の価格目線が乖離しているこ
大や物流業務のマネジメントを専門に
かし、新規の開発用地は限られている。 る。その流れは続くだろう。しかし、
と。もう一つは新築のトロフィービル
受託する3PL(サード・パーティー・
そこで注目されるのは老朽化したマン
や有名なプライムビルが流通していな
ロジスティクス)業者の台頭などに
ションの建替えと、中規模以下でス
よる需要減というネガティブ要素を逆
いことだ。オフィス賃料が安定し、上
よって、従来の在庫保管型倉庫ではな
ペックの劣っている古いオフィスビル
手にとり、これまで取り組めなかった
昇していくためには供給が減るか、需
く、大型で近代的な賃貸用物流施設を
の住宅用途への転換だ。
新しい街づくりに挑戦していくことは
要が増えるかのどちらかしかない。し
求めるニーズが高まっている。
老朽化したマンションの多くは、都
不動産業の今後の成長戦略に十分なり
かし、人口減少により国内市場の需要
日本にはこれまで賃貸用の物流不動
心部または都心近郊に建っている。既
得る。
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国内市場にも活路はある。人口減少に
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6
Vol.
10
渡 辺 晋 の ビルマネジメントゼミナール
Plofile
山下・渡辺法律事務所 弁護士
渡辺 晋 Susumu Watanabe
賃料の不増減額特約
﹁ 定 期 建 物 賃 貸 借 ﹂の
概 要と実 務( 中 編 )
昭和 55 年 3月一橋大学卒業。同年 4月に三菱地所㈱入社。平成元年 11月
司法試験合格。平成 2 年 3月三菱地所㈱退社。平成 4 年 4月弁護士登録
(第
一東京弁護士会)
。平成 14 年 4月山下・渡辺法律事務所開設、現在に至る。
2 定期建物賃貸借における効力
図表-1 賃料不増減特約の無効と有効
普通建物賃貸借とは異なり、定期建物賃貸借では、不減
普通建物
賃貸借
額特約についても、効力が認められる(38条7項)
。不減
定期建物賃貸借の概要と実務に関し、前号で、制度趣旨、成立要件、契約の成立および事前説明をとりあげたのに続き、
本号では、賃料不増減額特約をとりあげる。
バブル経済までの右肩上がりの経済状況とは異なり、バブル崩壊後は、空室率の高止まりと賃料の低迷が常態化した。
その結果、ビルマネジメント業務においては、テナントリテンション(tenant retention・一度入居したテナントを引き留めてお
くこと)が必要となると同時に、賃料減額のリスクをくい止めることもまた、重要な課題となった。
ところが一方で、わが国の法制度上、賃借人には賃料減額請求権が認められており、賃料確保は法的に担保されていない。
この問題は、ビルへの投資の抑制条件にもなっているというという指摘もなされていた。そのような状況下、平成12年に定
期建物賃貸借が導入され、定期建物賃貸借では、賃料減額請求権を行使しないという特約(不減額特約)の有効性が認
められた。現在では、定期建物賃貸借が利用されるときには、多くの場合に、同時に不減額特約の定めも設けられている。
以下、定期建物賃貸借における不増減額特約について、最近の裁判例を検討しつつ、解説を加えることとする。
額特約が定められた場合には、これに反する減額請求はで
きない
図表-1
。
不増減額特約につき、普通建物賃貸借と定期建物賃貸借
不増額特約
有効
不減額特約
無効
定期建物
賃貸借
有効
とで取り扱いを異にするのは、普通建物賃貸借が、期間が
満了しても法定更新によって契約関係が繰り返され、長期
が成立しない限り賃料の増減を許さないとする趣旨のもの
に継続することが一般的であるのに対し、定期建物賃貸借
ではないと解するのが相当である。そして,賃料増減の意
では、期間が満了すれば契約が終了するために、賃貸期間
思表示が予め協議を経ることなく行なわれても,なお事後
中の賃料の変動要因を推測しやすく、借賃の変動を契約条
の協議によって右の目的を達することができるのであるか
項で約定しておくことが可能であって、紛争の原因となり
ら,本件約定によっても,右の意思表示前に必ず協議を経
がちである賃料の額を契約時の合意で定めておいて、後日
なければならないとまでいうことはできない。また,当事
の紛争を避けられるようにしても、特に賃借人の利益を不
者相互の事情によって協議が進まない場合においては,本
額特約、減額請求をしない特約を不減額特約という。
当に害することはないと判断されたからである。実際に、
件約定は,当事者が訴訟により解決を求めることを妨げる
普通建物賃貸借であれば、不増額特約は、法律上、明文
事業用の定期建物賃貸借を中心に、数多くの定期建物賃貸
ものではないのであつて,右のような場合でも当事者は協
借地借家法は『建物の借賃が,土地若しくは建物に対す
をもってその有効性が認められている(32条1項ただし
借において、
賃料増減請求をしない旨の特約が付されている。
議を尽くすべき義務を負い,これに違反すると先にした増
る租税その他の負担の増減により,土地若しくは建物の価
書)
。不増額特約があれば賃貸人はこれに拘束され、増額
格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により,又
請求はできない。他方で、不減額特約には効力は認められ
は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは,
ない(最高裁平成20年2月29日判決、最高裁平成16年11
契約の条件にかかわらず,当事者は,将来に向かって建物
月8日判決、最高裁平成15年10月21日判決、いずれも最
賃貸借契約において、賃料の改定に関して、協議条項が
この最高裁判決で述べられる法理は、建物賃貸借でも、
の借賃の額の増減を請求することができる』
(同法32条32
高裁Webページ)
。普通建物賃貸借では、不増額特約は有
設けられることがある。賃料増減請求との関係では、賃料
選ぶところはない。
条1項。以下、本稿において単に条文を掲げるときは、借
効、不減額特約は無効である(以下、不増額特約と不減額
の改定方法に関する協議条項が置かれていても、これに
ところで、定期建物賃貸借における増減請求と賃料改定
地借家法の条文)と定め、賃料の増減額請求権を認めてい
特約をあわせて、
「不増減特約」という)
。
よって32条の適用が排除されるものではないとされている。
の協議条項の関係については、近時、次の2つの興味深い
最高裁昭和56年4月20日判決(判タ442号99頁)は、
裁判例が公表されている。①は不増減特約の効力を肯定し、
土地の賃貸借について、昭和47年5月以降賃料一か月
賃料減額請求はできないとされた事案であり、②は不増減
6490円と定められたうえ、昭和48年5月以降の賃料につ
特約の効力を制限し、減額請求が認められた事案である。
1
普通建物賃貸借の賃料増減額請求
注1
注2
る。法に定められた条件を満たせば、賃借人はいつでも賃
料減額の請求をすることが可能である。
かつては、物価が特に大きく変動する社会経済状況にな
ければ、増減額請求権が行使されることはなかった。しか
し、賃貸人側での経営状況の厳しさや、賃借人側でのコス
ト意識の高まりを受けて、現在では、ビルの賃貸借におい
て、賃貸人が賃料増額請求権を行使し、あるいは賃借人が
賃料減額請求権を行使することは、めずらしいことではな
くなっている。
2
賃料不増減額特約がある定期建物賃貸借
1 借地借家法の原則
建物賃貸借契約において、増額請求をしない特約を不増
20
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注1:借地借家法に関する議論においては「増額請求」「減額請求」
という用語は、一般に、相手方との協議の中で賃料の増額や
減額の了解を求めるための申出という意味ではなく、借地借
家法 32 条に基づく賃料増減請求の意味に用いられている。
本稿でも、「増額請求」「減額請求」を、借地借家法 32 条に
基づく権利行使の意味として使用している。
注2:建 物賃貸借の効力について、一方的強行規定を定めた 37 条
の中には、32 条が列挙されてはいないから、不減額特約は、
37 条によって、一方的強行規定とされるわけではない。不減
額特約が無効なのは、32 条1項本文に、
「契約の条件にかか
わらず賃料増減請求権を行使できる」と定められているから
である。この条項によって、賃借人に有利な不増額特約は有
効、賃借人に不利な不減額特約は無効、となり、結果的には、
不増減特約に関しても、一方的強行規定の性格をもつことに
なる。最高裁平成 20 年2月 29 日判で決は『借地借家法 32
条1項の規定は,強行法規であり,賃料自動改定特約によっ
てその適用を排除することはできないものである』と判示さ
れている。
減請求の意思表示は無効となると解すべきものではない
3 賃料ついての不増減条項と協議条項との関係
(1)2つの判決
(最高裁昭和41年11月22日第三小法廷判決)
』
と述べている。
いては公租公課の増加に応じ賃貸人と賃借人とが協議して
定める旨の約定(本件約定)があった事案において
『土地の賃貸借契約の当事者は,従前の賃料が公租公課
①京 地裁平成 23 年 3 月 29 日判決( シネコン判決 )
(WL)
の増減その他の事由により不相当となるに至ったときは,
【事案の概要】
借地法12条1項の定めるところにより,賃料の増減請求
(i)賃貸人Xと賃借人Yは,関西にある大規模複合施設内
権を行使することができるところ,右の規定は強行法規で
の複合型映画館(シネマコンプレックス)部分(本件
あって,本件約定によってもその適用を排除することはで
建物)について,平成18年4月15日,次の約定で定期
きないものである(最高裁31年5月15日第三小法廷判決)
。
建物賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結した。賃料
そうすると,本件約定は,賃貸借当事者間の信義に基づき,
に関しては,月額固定賃料に加え,年間興行収入及び
できる限り訴訟によらずに当事者双方の意向を反映した結
年間売店収入の総額が規定の額を超えた場合に支払わ
論に達することを目的としたにとどまり,当事者間に協議
れるべき年額歩合賃料が定められていた(契約書4条)
。
No.153
ISHIZUE
21
渡 辺 晋 の ビルマネジメントゼミナール
・期 間:平成18年4月15日から満20年間。契約は
より,一方当事者の請求による賃料の増減について定めた
より終了する(契約の更新のない)類型の建物賃貸借とし
て,これをもって,平成19年7月1日以降の本件賃料の改
同期間の満了により終了し,更新はないも
法32条の適用の有無が左右されるものではないことも明
て導入された制度である。そして,法38条7項は,上記
定についても,従前と同様にXYの合意によるほかない趣
のとする。
らかである。
の基本的立場に立脚して導入された定期建物賃貸借におけ
旨を宣明したものと解するのは不合理である。そして,本
・月額固定賃料:1589万1429円(消費税別途)
・・・
(以上のとおり)
、本件賃貸借は,法38条1項に規
る家賃の改定に関しても,当事者の合意を優先させること
件特約の内容は協議改定条項であって,前記説示のとおり
・敷 金:1億5000万円
定された定期建物賃貸借であるところ,本件賃貸借につい
により家賃の改定をめぐる紛争ないしこれに伴う訴訟を回
借賃改定特約には該当しないものであるから,平成19年7
・建設協力金:1億5000万円。ただし,開業後2年経
ては,賃借の改定に係る特約があり,法38条7項の規定
避することを可能とする趣旨で設けられたものであるとこ
月1日以降の本件賃料については法32条の適用があると
により,法32条の規定の適用はないから,Yは,Xに対し,
ろ,その趣旨にかんがみれば,借賃改定特約は,家賃額を
解するのが相当である。
』
法32条の規定に基づいて賃料の減額請求をすることはで
客観的かつ一義的に決定する合意であって,経済事情の変
きない。
』
動等に即応した家賃改定の実現を目的とした借賃増減額請
過後,毎月250万円ずつ60回の分割弁済
(ii)本件賃貸借契約には,上記約定のほか,賃料の改定に
ついて契約書5条に規定があり,同条1項は,
「前条に
定める月額固定賃料および年額歩合賃料の歩率は,本
注3
(2)検討
求権の排除を是認し得るだけの明確さを備えたものでなけ
①東京地裁平成23年3月29日判決(シネコン判決)と
契約期間中,増減しないものとする。ただし,次項に
②東京地判平成 21 年6月1日判決
ればならないと解するのが相当である。
②東京地判平成21年6月1日判決(大規模ビル賃料減額中
定める賃料改定協議が成立した場合には,借地借家法
(大規模ビル賃料減額中間判決)
(WL)
したがって,
「賃貸借期間中家賃の改定を行わない」旨
間判決)は、いずれも定期建物賃貸借において、賃料改定
32条の適用を受けずに,賃料改定できるものとする」
【事案の概要】
の不改定特約,
「一定の期間経過ごとに一定の割合で家賃
の協議について、明示的な規定を置いていたケースである
と規定し,同条2項は,
「月額固定賃料および年額歩合
(i)賃貸人Xと賃借人Yは,都心部にある大型ビルの賃貸
を増額あるいは減額する」旨ないし「一定の期間経過ごと
にもかかわらず、不増減特約としての効力の有無について
賃料の歩率については,本契約開始の日を起算日とし
借室について、平成16年6月18 8日、次の約定で定期
に特定の指標(例えば,消費者物価指数)の変動率に従っ
は、
反対の結論が導かれている
(①は不増減特約に効力あっ
て家賃を改定する」旨の自動改定特約は,借賃改定特約に
て、増減額請求できない。②は不増減特約には効力がなく、
該当するものということができるけれども,協議改定条項
増減請求できる)
。
は,家賃額の決定に関する外形的方法を定めるにすぎず,
これらの結論は、裁判所による当事者の意思の合理的解
て満3年経過毎に,次条の共益費の増減,公租公課の
増減,土地価格の変動,近傍隣地の建物賃料の変動等
を考慮し,XY誠意をもって改定を協議するものとす
建物賃貸借契約(本件契約)を締結した。
・賃貸期間:内装工事着工日又は平成16年7月1日のい
ずれか早い日から平成21年6月30日まで
る」と規定している(以下「本件賃貸借契約5条」と
・賃 料 額:1か月7700万9482円(消費税別)
改定後の家賃額を客観的かつ一義的に決定するものとはい
釈の帰結であって、必ずしも明確ではないが、①は、不増
いう)
。
(1平方メートル当たり月額1万0013円,
えないから,上記のような法38条7項の趣旨に照らし,
減特約を肯定するために、単に一般的な法理を述べている
借賃改定特約には該当しないものといわなければならない
に過ぎないのである。しかし②は「協議のうえ、平成19
し,家賃額の定めとともになされた単なる「法32条の適
年7月1日に賃料を改定することができる」と定めたこと
(iii)平成19年ころ,Yが,Xに対し,本件建物の賃料減
額を申し入れたところ,Xは,平成20年1月分から平
1坪当たり月額3万3101円)
・敷 金:9億2411万3784円 (賃料12か月分相当額)
成21年12月分までに限り,暫定的に月額固定賃料を
(ii)本件賃貸借契約には,上記約定のほか,賃料の改定に
用はない」ないし「法32条の適用を排除する」旨の合意
について、その経緯や契約期間について事案を分析して、
1476万1905円(消費税別途)に減額することに同意し
ついて、本件契約8条1項に,
「XおよびYは,賃料の改
のみでは借賃改定特約に該当するものでないことも前述し
理由付けを行っている。
た(平成22年1月分からは,再び本件賃貸借契約にお
定は行わないこととし,法第32条の適用はないものと
たところから明らかというべきである。
このことから判断するに、賃料ついての不増減条項と協
いて合意されたとおりの賃料額とされている)
。
する。
」と定められており(本件約定)
,他方で,本件契
これを本件についてみると,本件約定は,本件賃料の不
議条項とは、基本的には関係することはないが、協議条項
(ⅳ)さらに、Yは,Xに対し,平成21年12月25日,本
約の契約要項(5)特約3(1)には「第8条第1項の定めに
改定特約であって,借賃改定特約に該当するものであるこ
を定めた経緯等から、協議条項が不増減条項を排斥する趣
件建物の月額固定賃料を平成22年1月1日以降1060万
かかわらず,XおよびYは協議のうえ,平成19年7月
とが明らかである。もっとも,本件約定において,不改定
旨と解することができる場合には、一定の時期以降、賃料
円(消費税別途)に減額する旨の意思表示をした。Xは,
1日に賃料を改定することができる。
」と定められてい
特約として借賃改定特約の実質を有するのは本件約定前段
増減請求が可能になる、と解されるようである。
この減額請求を了承せず,本件賃貸借契約には不増減特
る(本件特約)
。
であって,本件約定後段はその法的効果である法32条適
約があるとして,減額請求の効力を争った。
(v)裁判所は,不増減特約の効力を肯定し,Yの減額請求
を認めなかった。
【裁判所の判断】
『本件賃貸借契約5条1項本文は,
「・・・月額固定賃料・・・
(iii)Xは,Yに対し,平成19年6月25日付けの書面で,
図表-1
用除外につき注意的に記載したものと解される。
3
不増減特約がない定期建物賃貸借
同年7月1日から本件貸室の賃料を1か月1億2795万
そして,本件契約の交渉段階において,Xは,本件契約
8181円(消費税別。1平方メートル当たり月額1万
の期間が5年と長期にわたり,契約の締結から相当期間経
定期建物賃貸借は、更新がないこと、および、不減額特
6638円,1坪当たり月額5万5000円。
)に増額する旨
過後に本件賃料を見直す必要が生ずることが予想されると
約がすべて有効であることを除けば、民法および借地借家
の意思表示(本件増額請求)をした。
して,Yに対して「平成19年7月1日に賃料を改定いたし
法による建物賃貸借一般のルールに従う。強行規定に違反
は,本契約期間中,増減しないものとする。
」と規定して
(iv)Yはこの増額請求に対し,本件契約には不増額特約
ます。
」旨の特約を置く案を提示したところ,Xが一方的
しない特約を定めることも可能である。
いるから,この条項が「借賃の改定に係る特約」に当たる
が付されているから,増額請求は認められないと主張し
に新賃料を決めることができるというのでは困る旨のYか
なお、賃料の不増減額特約がなければ、賃料増額請求ま
たが,裁判所は,Yの請求を否定し,32条の適用があ
らの申入れを受けて,協議改定条項である本件特約に落ち
たは賃料減額請求を行うことも当然に可能である。東京地
ると判断した。
着いたものである。こうした経緯や本件特約の文言に加え
裁平成19年3月9日判決(LLI)は、法32条が適用され、
て,本件約定の下においても,XYの合意によって本件賃
賃料増額請求権の行使がなされている。
ことは明らかである。
そして,本件賃貸借契約5条1項ただし書及び2項は,
XY間に賃料改定協議が成立した場合に賃料改定をするこ
【裁判所の判断】
とができる旨を規定しているのであるが,これは,契約の
『定期建物賃貸借は,平成11年の借地借家法改正におい
料を改定することは当然に可能であることにも鑑みれば,
当事者双方が合意により契約内容を変更することができる
て,建物賃貸借における私的自治ないし契約自由の原則尊
本件特約は,平成19年7月1日以降の本件賃料につき本件
との極めて当然の事柄を定めたものにすぎず,この条項に
重という基本的立場から,一定の要件の下に期間の満了に
約定の適用を排除する趣旨のものと解するのが相当であっ
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I S H I ZU E
Autumn 2012
注3:②判決は中間判決であるが、終局判決は公表されていない。
No.153
ISHIZUE
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