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施行後初の「特別警報」に対する高校生の意識・行動調査の分析

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施行後初の「特別警報」に対する高校生の意識・行動調査の分析
Bulletin of Aichi Univ. of Education, 65(Natural Sciences),pp. 55 - 60, March, 2016
施行後初の「特別警報」に対する高校生の意識・行動調査の分析
戸倉 則正
理科教育講座
Analysis of Consciousness, the Action Survey by High School Students
for “the Emergency Warning” First after the Enforcement
Norimasa TOKURA
Department of Science Education, Aichi University of Education, Kariya 448-8542, Japan
1.はじめに
2.日本列島の自然災害に関して
平成 25(2013)年 9 月 15 ~ 16 日にかけて、東海地方
に上陸して三陸沖に抜けた台風第 18 号とその北側に
日本列島はその地理的位置からくる自然災害の発生
停滞していた秋雨前線の影響を受け、京都府内は典型
気団の境界、大陸東岸で太平洋に面する、夏季にも極
的な雨台風となり、広い範囲にわたり大雨となり、河
気団の勢力下に成り得る。さらに地球科学的には、プ
川のはん濫や土砂崩れ等の大きな被害が発生した。記
レート境界の圧縮応力場に起因する地震・火山の発生
録的な大雨で前月に施行されたばかりの大雨の「特別
密度が高い変動帯の島弧で、山地起伏が大である。し
警報」
が発表され、気象庁は厳重な警戒を呼びかけた。
京都府の広い範囲で総雨量が 200 mm を超え、由良川
たがって河川勾配は滝と揶揄されるほど急で、人口の
と桂川の流域で総雨量 400 mm を記録するなど、平成
16 年台風 23 号のときを超え、昭和 28 年水害(台風 13
ら成る。
号)に匹敵する記録的豪雨となった(京都地方気象台、
20131))。
けられよう。すなわち、気象災害・河川災害(斜面崩壊
こういった状況下で気象庁は 16 日午前 5 時 5 分、京
て、前者は台風の接近に伴う河川の増水などを代表例
都府と滋賀県、福井県に「大雨特別警報」を出した。
に、漸進的に被害が拡大する災害であり、ある程度の
同庁は各府県内に、ただちに安全を確保して命を守る
発生予測が可能である。対して、後者は爆発的噴火を
行動を取り、土砂災害や河川の氾濫に最大級の警戒を
する火山やプレート境界で発生する地震の例にもある
するよう呼びかけた。数十年に一度の重大な災害の危
ように短期予測は困難である。いずれにしても防災・
険性が著しく高まっていることを知らせるため、この
2 週間ほど前の 8 月 30 日に運用が始まった特別警報が
減災対策が急務であることは言を待たない。
初めて発令されたのであった。筆者が当時勤務してい
要因の多様さが顕著である。すなわち極気団と亜熱帯
集中する平野はこれら河川が形成した軟弱な沖積層か
ここに発生する自然災害は大別すると次の 2 つに分
を含む)と地震・火山である。現代科学の到達点とし
この頻発する自然災害に対する対策として 1. 予防的
対策 2. 緊急的対策 3. 復旧的対策 の 3 点があげら
きょう)が橋桁近くまで濁流に洗われる様子(図 1)や
れよう。ただ現状では当然ながら発生後の 2.3. に重点
が置かれている。そこで手薄な 1. を学校教育の場で
観光客らが浸水した旅館からボートで避難する姿がテ
もっと担うべきであろうと考えている。そのための予
レビで全国放送された。
察的な意味も含めて本報告の意義を認める。
施行後初の特別警報に関して身近なところで大きな
天災は決して突然降って湧いてくるものではない。
被害が出た水害に際し、高校生たちがどのように感じ
素因に誘因が組み合わさって初めて発生するものであ
たのかを調べるため、アンケート調査を実施し、概要
る。どちらか一方だけでは発生しにくい。ここでいう
は戸倉(2015) で報告した。ここではその分析も含め
素因とはそれぞれの土地が持つ災害特性、すなわち過
た報告をする。
去にどんな災害が発生しやすかったかということであ
た学校近くの京都市右京区嵯峨嵐山の渡月橋(とげつ
2)
る。一方、誘因とは災害を発生させる引き金となるよ
うな激しい自然現象である。
特別警報などの気象情報はこの誘因の程度を周知す
― 55 ―
戸倉 則正
恐怖感情などにより適切な行為の選択が困難になる場
合が多いとし、また、取ったとしても過去の経験に依
存した適切でない行動をとる場合があるとし、事前に
多様な状況に対応可能な行為スクリプトの知識を身に
着ける必要性を指摘している。そのためにもこれまで
の知見を整理したうえで、系統的な防災教育を学校教
育の場に積極的に取り入れることの必要性が求められ
る。
現状のような広い地域の全住民に一律の避難を要求
することは必ずしも現実的でないことは本調査でも明
らかで、災害の性質や土地条件を考慮に入れない機械
的・画一的な「避難命令」が機能しなかったことは本
調査でも明らかになった。
3.平成25年台風第18号(台風1318号)について
9 月 13 日に小笠原近海で発生した 18 号台風は、日
本の南海上を北上し、大型の勢力を保ったまま 16 日
8 時頃に愛知県豊橋市付近に上陸し、本州中部を北東
に進んだ。この台風を取り巻く雨雲や湿った空気が
次々と流れ込んだ京都府では記録的な大雨となった。
気象庁は 16 日 5 時 05 分に京都府に大雨特別警報を発
図 1.嵐山「渡月橋」の様子。上は 16 日午前 8 時頃(http://
dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/disaster/
?id=6090847 による)。下は平常時で 2014 年 3 月上旬
に筆者撮影。
る情報である。一方、素因に関しての情報は近年、各
自治体よりハザードマップという形態も含めてかなり
整備されてきた。ならば、内閣府(2014) が言うよ
3)
表した。降り始めの 9 月 15 日 0 時から 16 日 12 時まで
の総雨量は、綾部市睦寄町で 353.5 mm、南丹市美山
で 318.5 mm、京都市京北で 313.0 mm、南丹市園部で
311.5 mm、舞鶴で 305.0 mm を観測するなど各地で記録
的な大雨となった。この影響で、京都府では軽傷者が 3
名、また住宅の一部損壊が 7 戸、床上浸水が 723 戸、床
下浸水が 2197 戸の被害が発生した(京都府災害対策本
部調べ:9 月 16 日 20 時 00 分現在)
、
「京都府気象速報」
難しいこと…(略)から『公助の限界』
」を言い、「地
平成 25 年台風第 18 号による大雨について(京都地方気
象台、平成 25(2013)年 9 月 17 日 13 時現在 http://www.
域コミュニティにおける自助・共助…(略)
」を打ち
jma-net.go.jp/kyoto/kishousokuhou20130917.pdf による)。
出していることを鑑みれば、各人が避難の目安を持て
図 2 に渡月橋北岸の天竜寺水位観測所の水位変化をグ
ば、手遅れにならないうちに避難行動に結び付くはず
ラフ化した。15 日深夜から水位は急上昇し、特別警報
発令時の 16 日早朝にはすでに既往最高水位を越えて
うに「行政がすべての被災者を迅速に支援することが
だ、となるのである。しかし結論から言うと、そうは
ならなかったことが今回の調査で明らかになったので
ある。
人間の避難行動、特に発生直前に関する研究史をひ
もとくと、Perry(1979) は警報情報と避難行動につ
4)
いて検討した結果、一般的には災害発生前の避難行動
は取られにくく、避難行動を開始するためには、警報
に対する信憑性が高いことと避難者自身のリスク評価
が低いことが重要な要因として挙げている。緊急に人
命被害を回避することを意味する「避難」の基礎は各
5)
人が以下の 2 点を判断することだと水谷(2002) は言
う。その 1、現在いる場所がどのように危険か。その
2、避難先の安全性の認定、である。
図 2.天竜寺水位観測所での水位変化。
15 日深夜より急激に水位が上昇し、日付が変わるこ
また、元吉(2004) は適切な避難行動を行うため
6)
にはその行為の実行可能性や、被害に対する切迫性、
― 56 ―
ろには過去の最高水位を超えることが予想され、16
日 5 時 5 分「特別警報」が発令された。
施行後初の「特別警報」に対する高校生の意識・行動調査の分析
いたことがわかる。なお水位データは国土交通省の水
して厳重な警戒を呼びかけた。この大雨と暴風、竜巻
文水質データベース(http://www1.river.go.jp/)に依っ
等により、土砂災害、浸水害、河川の氾濫等が発生し、
た。
台風第 18 号による大雨は全国的にみると、台風の接
岩手県、福島県、福井県、三重県、滋賀県、兵庫県で
あわせて死者 3 名、行方不明者 5 名となり、四国から北
近・通過に伴い、日本海から北日本にのびる前線の影
海道の広い範囲で損壊家屋 800 棟以上、浸水家屋 5,000
響や、台風周辺から流れ込む湿った空気の影響、台風
棟以上の住家被害が生じた。また、停電、電話の不通、
に伴う雨雲の影響で、四国から北海道の広い範囲で大
雨となった。
鉄道の運休、航空機・フェリーの欠航等による交通障
害が発生した(被害状況は、平成 25 年 9 月 18 日 10 時 30
また、台風や台風から変わった温帯低気圧の影響
分現在の内閣府の情報及び平成 25 年 9 月 18 日 6 時現在
で、九州から北海道の各地で暴風となった。このほか、
の国土交通省の情報による)。
和歌山県、三重県、栃木県、埼玉県、群馬県及び宮城
県においては竜巻等の突風が発生した。9 月 15 日から
4.アンケートの内容
16 日までの総雨量は、三重県宮川で 575.5 mm、奈良県
上北山で 542.5 mm となるなど、近畿、東海地方を中心
に 400 mm を超えたほか、統計期間が 10 年以上の観測
対象生徒は筆者の当時の勤務先である京都府立北嵯
峨高等学校第 2 学年「地学基礎」選択者の 8 クラスおよ
地点のうち、最大 1 時間降水量で 13 地点、最大 3 時間降
水量で 25 地点、最大 24 時間降水量で 35 地点、最大 48
び若干名の地学部員 1、3 年生を含む約 320 名である。
休日明けの 17 日以降の 1 週間以内に実施した。質問項
時間降水量で 25 地点が統計開始以来の観測史上 1 位を
更新した。風については、東京都三宅坪田で 28.0 m/s、
目は以下の Q1 ~ Q9 の 9 項目である。なお、本校では
愛知県セントレアで 26.3 m/s、兵庫県神戸で 26.1 m/s の
最大風速を観測したほか、統計期間が 10 年以上の観測
の地域に居住している。
地点のうち 5 地点で最大風速の統計開始以来の観測史
上 1 位を更新した。
質問 1:台風 18 号により 9 月 16 日午前 5 時 5 分に気象庁
各地の気象台は、台風に伴う大雨や暴風等に対し、
警報・注意報や気象情報で警戒を呼びかけた。特に、
多くの対象生徒は図 3 地図内の京都市右京区嵯峨周辺
は「特別警報」を発表しました。
Q1:その時あなたはどこにいましたか?
その地域では過去に経験したことのないような大雨と
ア、屋内 イ、屋外
Q2:あなたはいつ「特別警報」を知りましたか?
なった京都府、滋賀県、福井県では、特別警報を発表
ア、今まで知らなかった イ、日 時頃
図 3.位置図
北嵯峨高等学校は京都市西京区の京都盆地最西北部に位置する。嵐山「渡月橋」は地図の左下部、北嵯峨高校(↓印で
示す)の南方約 1km に位置する。(国土地理院「電子国土」一部改変)
― 57 ―
戸倉 則正
Q3:何で知りましたか?
ア、エリアメールなどスマホやケータイ・パソコ
ン等を通じて
て、改めて高校生の間にスマートフォンや携帯電話が
浸透していることを裏付ける結果となり約 6 割であっ
た(図 4)。ちなみに、本地域には元々防災無線等の放
イ、テレビ
送設備は設置されていない。また、自由記述欄におい
ウ、ラジオ
ても自治体の広報車等に関するものはなかった。
エ、親や知人などの人を通じて
Q4:聞いた時どう感じましたか?
Q4、特別警報が発表されどう思ったか?に関して。
6 割以上の生徒が何か大変なことが起こっているとい
ア、一生に一度あるかないかの大変なこと
う認識である。しかし大したことがないという印象を
持っている生徒の数も 2 割近くあり、無視できない数
イ、年に一度くらいのこと
ウ、少し強い雨風程度のこと
エ、何とも思わなかった
Q5:具 体的にあなたはどのような行動をとりました
か?
(自由記述欄)
字である。
質問 2 に関して、京都市は初の避難指示を京都市南
区、右京区、西京区、伏見区の地域で出し、避難指示
は 11 万世帯に達した。しかしこの避難指示を知らな
かった高校生が約 1 割もいたことは休日早朝とはいえ
かなりの高率と言わざるを得ない。Q7 をみると時間
質問 2:さらに京都府は災害対策本部を設置し、避難の
呼びかけなどにあたった。京都市は午前 7 時 45 分、桂
川流域の伏見区内 2 万 8106 人に同市としては初の避難
指示を出した。避難指示はさらに右京、南、西の 4 区
が遅い分、アの携帯端末等が減り、イのテレビ等が若
干増加している。
さらに、Q8 の避難指示を知ってどう感じたか?に対
しても Q4 と同様で、何とも思わないと答えた生徒が 2
計約 11 万世帯、27 万人に達したが、
Q6:あなたはいつ避難指示のことをを知りましたか?
割弱とかなりの率で存在する(図 5)。
ア、今まで知らなかった イ、
日 時頃
Q7:何で知りましたか?
げると、Q9 の避難指示に対しての対応として
最後に自由記述欄から生徒の行動をいくつか取り上
・上の階に行った(避難行動)
・避難の準備をした
ア、エリアメールなどスマホやケータイ・パソコ
ン等を通じて
(避難行動)
・ニュースを見た(情報収集)
・祖父
母の家に行った(避難行動)といった避難に結び付く
イ、テレビ
ウ、ラジオ
エ、親や知人などの人を通じて
Q8:聞いた時どう感じましたか?
エリアメールなどス
マホや携帯などパソ
コン等を通じて
テレビ
0%
10%
ア、一生に一度あるかないかの大変なこと
イ、年に一度くらいのこと
29%
ウ、少し強い雨風程度のこと
ラジオ
61%
エ、何とも思わなかった
Q9:具 体的にあなたはどのような行動をとりました
親、知人等を通じて
か?
(自由記述欄)
図 4.Q3:特別警報発表を何で知ったのか?
5.アンケート結果
40%
アンケート結果を表 1 に示す。Q1 について、時間的
35%
に部活の早朝練習以外の生徒は、ほとんどが自宅内で
30%
ある。Q2 について、特別警報発表をいつ知ったのか?
25%
という質問に対し、アンケート実施時まで「知らな
かった」ものはたったの 16 人であった。ほとんどの生
20%
徒がアンケートを実施した授業時までに何らかの形で
15%
知っていたことがわかる。多くの生徒が当日の朝方に
10%
はすでに警報が発表されたことを知っていたと回答し
5%
た。
0%
一生に一度あるかない
かの大変なこと
34%
28%
20%
年に一度くらいの大変
なこと
18%
少し強い雨風程度のこ
と
何とも思わなかった
Q3、特別警報発表を何で知ったのか?に対しては、
ある程度予想をしていたが、情報入手のツールとし
― 58 ―
図 5.Q4:特別警報が発表されどう思ったか?
施行後初の「特別警報」に対する高校生の意識・行動調査の分析
表 1.アンケート結果
北嵯峨高校 2 年生に対して実施したもの
(単位は人)
ア
イ
ウ
エ
第 1 問
Q1
262
5
Q2
9
104
Q3
176
80
1
30
Q4
87
71
50
47
図 6.携帯電話に送信されてきた緊急速報。近くの小・中
学校への避難が初めて指示されているがほとんどの
Q5
住民は対応しなかった。
第 2 問
Q6
16
119
Q7
149
90
4
28
Q8
74
77
55
45
Q9
行動を記述している生徒はいるが少数派である。一番
多いのが・自宅待機という指示待ちである。休日早朝
とはいえ、具体的にどこへ避難すればいいのかすらわ
からない中で動けなかったというのが正直な感想であ
る。一方、Q5 には危険な行為も散見される。たとえ
ば・友達と連絡したとか、・近くの川を見に行ったと
かの記述もあり、筆者は確認していないが生徒間では
図 7.生徒に配布された各種警報発令時における自宅待機
等の判断を指針するプリント。
左が2013年8月下旬、2学期開始時に配布されたもの。
右が 16 日の台風 18 号被害以降に急遽配布された「特
『誰それの Line(ライン)に増水した渡月橋の写真や
別警報」の文言入りのもの。
ムービーを公開している…』などという情報が後日寄
せられた。
結論としては、大変な事態が発生していると思った
ていた」と聞いたが、筆者の勤務する高等学校では、
生徒は多いにも関わらず、具体的な行動をとった生徒
当初より避難先に指定されていないためか、全くの想
は数えるほどしかいなかったのが現実である。すなわ
定外であった。
ち、自治体には特別警報の地域住民への周知徹底が義
事後に改めて「特別警報」が発令された場合の休校
務付けられているにもかかわらず、この調査自体は高
規定の変更を告げるプリント(図 7)を生徒向けに配
校生対象だが、時刻から判断して他の年代も含めて、
布する始末であった。
多くの地域住民の行動も同様であったことが推測され
る。
7.まとめ
「特別警報」はとても危険な状況にあると自治体は住
6.学校の対応
民に知らせる義務を負った警報である。しかし、具体
少なくとも筆者の勤務していた京都府の高等学校に
おいては、ほんの 2 週間前に「特別警報」が施行され
的な行動が示されないため、高校生はどう行動すれば
たのにまったく準備ができていなかったといえよう。
族ともども自宅に待機することしかできない生徒が大
小・中学校に関しては、従来より災害時の避難所とな
半であった。中には避難準備をしたという生徒もあっ
ることがあらかじめ指定されていた(図 6)ために、小
たが圧倒的に少数であった。おそらく多くの地域住民
学校勤務の筆者の知人らに確かめたところ、
「待機し
も同様であったことが想像に難くない。
いいのかわからなかった。そのため、早朝でもあり家
― 59 ―
戸倉 則正
この原因の一つに事前の報道にも一因があるのでは
引用文献
なかったかと指摘できよう。つまり、めったにないこ
1 )京都地方気象台,「京都府の気候」台風 18 号による鴨川の
と、
「数十年に一度云々…」を強調しすぎたのではな
出水について,www.pref.kyoto.jp/kamogawa/.../25-2-kamoapfsiryo_1.pdf, 2013.
かったか。そのため、まさか自分に起るとは予想もで
きなかったのではあるまいか。当該の自治体関係者す
2 )戸倉則正,
「特別警報と高校生」―施行後最初に発令された
「特別警報」に対する意識調査―,日本理科教育学会第 65 回
らそうだったのではないかと推測できる。なんとなれ
全国大会論文集,448,2015.
ば、深夜・早朝であるため、いたずらに混乱を防ぐた
3 )内閣府政策統括官(防災担当),「平成 26 年版 防災白書」,
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h26/honbun/index.
めという理由でただちに特別警報の周知徹底のための
行動をとらなかった自治体もあったのである。
実際「数十年に一度がたった 2 週間で来てどうすん
html, 2014.
だよ。基準甘いんじゃねーの? 今回被害出なかった
4 )Perry, R.W.「Evacuation decision-making in natural disaster」
, Mass
Emargencies, Vol. 4, 25–38, 1979.
ら、今後、特別警報なんて出ても、誰も気にしなくなる
5 )水谷武司著,
『自然災害と防災の科学』,東京大学出版,2002.
6 )元吉忠寛「災害に関する心理学的研究の展望」―防災行動
の規定因を中心として―,Bulletin of Graduate School of Edu-
ぞ。そのうち
“超特別警報”
なんてのができるかも…。」
「今後は、まだ『特別』が出てないから大丈夫って待っ
cation and human Development, Nagoya University (Psychology
ていたらいいのかね…」などと誤解とも冗談ともつか
and human Development Science), Vol. 51, 9–33, 2004.
ない会話が職員室で交わされた。
我々はここでもう一度、まさに毎日が一生に一度な
7 )文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課(平成 24 年
4 月 27 日閣議決定,
「学校安全の推進に関する計画」),http://
んだ。手を変え品を変え場所を変え、災害は発生する
www.mext.go.jp/a_menu/kenko/anzen/1320286.htm),2012.
んだ。日本列島の数十か所をとれば、毎年どこかで数
十年に一度級の災害が起こり得るんだという視点を持
たねばならない。また単に災害の知識を教え込むので
なく、自分の頭で考えて判断できる市民を学校教育の
場で育てることが必要だと痛感した次第である。
最終的に災害から生命・財産を守る力となるのは各
個人の防災努力であると前掲の水谷(2002)は力説し
ている。
ただ、その前提として場所ごとのきめ細かい情報が
与えられていることが必要であろう。つまり、防災・
減災の出発点は地域の災害危険性の把握と結論できよ
う。なぜなら、注意報・警報は市町村単位、特別警報
は府県単位で、しかも発令された段階では「最後の決
断」情報であり、命を守るため最善を尽くせという意味
であるからだ。例えば河川水位を例にあげるなら今回、
結果として特別警報が発令されたのは奇しくも最高水
位を記録した時だったのである。本アンケートで明ら
かになったように普及率や速報性という観点からも携
帯端末による公的な通報システムの整備が急がれる。
危険の程度は家ごとに違うから、あらかじめ地域・
地区の災害危険性についての知識が得られている必要
がある。この点は文部科学省(2012) も「児童生徒等
7)
は守られるべき対象であることに留まらず、学校にお
いて、その生涯にわたり、自らの安全を確保すること
のできる基礎的な素養を育成していくことが求められ
る。
」として学校教育の重要性を指摘している。
課題として、学校教育における災害への関心と成人
してからの防災行動への関連については、まだ十分な
検討がなされていない。今後は、理論的な裏付けを含
めて、学校教育で得た災害への関心とその後の各人の
防災・減災行動との関連について明らかにしていく必
要がある。
― 60 ―
(2015 年 9 月 16 日受理)
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