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上告理由書の要旨 - 大阪アスベスト弁護団
上告理由書の要旨 2011.12.13 泉南アスベスト国賠弁護団 泉南アスベスト国賠1陣訴訟・上告理由書は、はじめにから第5章(本文で 89 頁)で構 成されており、国の規制権限不行使の違憲性及び控訴審判決の違憲性、憲法解釈の誤りに ついて、述べています。要旨は、以下のとおりです。 1 第1章「なぜ本件訴訟において憲法違反を問うのか」 第1章では、上告理由書の出発点として、本件で憲法違反を問う理由を述べている。 それは(とりわけ泉南地域の)石綿被害が深刻・重大であること、そして泉南地域にお けるその深刻な石綿被害を国が知っていたことにある。 日本国憲法は、法の支配の下、基本原則として国民の基本的人権を至上のものとして 尊重することを宣言している(憲法 11 条、97 条)。最高裁も、死刑制度の合憲性判断 において、「生命は尊貴である。1人の生命は全地球よりも重い」と断言し、刑罰とし てさえ生命を奪うことには躊躇を覚えている。 本件は、何ら罪のない被害者の生命・健康が、石綿の危険性を国から全く知らされこ となく奪われている。これは、憲法が全ての国民に保障した基本的人権の侵害以外の何 ものでもない。 2 第2章「歴史の流れに逆行する原判決」 第2章では、憲法違反を論ずる前提として、控訴審判決が歴史に明らかに逆行する判 決であることを3つの視点で述べている。 1点目は、人権の歴史に逆行していることである。アメリカの「ヴァージニア章典」、 「独立宣言」、フランスの「人および市民の権利宣言」などに始まる近代国家の自由権 保障が、さらにドイツのワイマール基本法などの現代社会国家の社会権保障に引き継が れ、これをさらに発展させたものとして日本国憲法がある。現代国家の役割、使命とし て、生命と健康の保障の重要性を説いている。しかし控訴審判決は、生きる権利すら奪 う石綿被害が問われているにも関わらず、人の生命を比較考量や自由裁量の枠内で判断 しており、人権の歴史に明らかに逆行している。 2点目は、科学技術の歴史からも逆行していることである。控訴審判決は、規制は工 業技術の発展を阻害すると判断した。しかし、アメリカの排ガス規制法「マスキー法」 等、規制を行うことで規制を支える科学技術が進歩し普及が進むことは歴史的事実であ る。控訴審判決は科学技術の歴史にも逆行している。 3点目は、これまでの裁判例の流れにも逆行していることである。1970 年の公害国会 で、生活環境と経済との調和条項が削除された。それを受け、四日市公害判決は、経済 性を度外視し、世界最高の技術・知識を動員して防止措置を講ずべきと判断した。この ような考え方は、新潟水俣病判決、熊本水俣病判決、大阪国際空港公害判決、東京スモ ン訴訟判決等によって明確となり、これが規制権限不行使に関して、生命健康を保護す - 1 - るための最大限の規制を要求する筑豊じん肺最高裁判決、関西水俣病最高裁判決に続い ている。控訴審判決は、このように命と健康を最大限保障した裁判例の流れにも逆行し ているのである。 3 第3章「国の基本権保護義務等」 第3章では、ドイツで確立されている基本権保護義務論(国家の存立目的の一つに国 民の生命・健康を保護する義務があり、国民の生命健康が危険に瀕しているときには国 が国民を保護することは当然であるという考え方)について述べている。 基本権保護義務論は、基本的人権の尊重を宣言する我が国の憲法下においても、該当 する考え方である。泉南地域の深刻な石綿被害を知っていた国には、泉南地域の労働者 ・住民について死に至る石綿被害から守る義務があった。規制を怠った国は、基本権保 護義務に反している。 また、アメリカやフランスなどでも、基本権保護的な発想から行政の責任を認めた判 決が出されている。 4 第4章「国の規制権限不行使及び原判決の判断の憲法 13 条、25 条1項、27 条2項違 反」 第4章では、国の規制権限不行使によって被害者が石綿関連疾患に罹患したこと、及 び控訴審判決が①国民の生命・健康よりも経済発展を優先させる価値判断の判断枠組み をとり、②国の規制権限の行使の裁量を広く認め、③法で規制せず効果的制裁がなく、 また実施状況も問題にしない通達でよいとしたことが、憲法 13 条、25 条1項、27 条2 項に違反することを述べている。 憲法 13 条は、国民の生命自由及び幸福追求の権利を保障し、個人の存在そのものであ る生命が最大の保障を受けるべきことを定めている。憲法 25 条1項は、国に国民の健康 で文化的な最低限度の生活(生存)を保障するため積極的な行為を求める権利を保障し ている。憲法 27 条2項は、労働者が使用者との関係で、過酷な雇用条件、危険な作業態 様、劣悪な衛生状況下で作業に従事することを余儀なくされてきた歴史的必然性から、 労働者を直接保護するため適切な労働条件基準を法によって設定することを国に義務づ けた。 控訴審判決は、憲法上の権利に位置づけられていない工業技術の発展や産業社会の発 展を判断要素に入れている。これは国に国政の上で国民の生命を最大限尊重する義務を 課し生命・健康権を最も優越した基本的人権として保障した憲法 13 条、25 条1項に違 反し、また適切な労働条件基準の設定を国に義務づけた憲法 27 条2項に違反している。 また控訴審判決は、国民の生命健康が問題になっているにもかかわらず、国に広範な 裁量を付与し、局所排気装置の義務づけや特化則で測定は義務づけながら報告義務を義 務づけをしなかったことも行政裁量の範囲内のこととし、むしろ事業主・労働者が防じ んマスクを着用しなかった(させなかった)責任に転嫁している。これは国民の生命・ 健康を最大限尊重した憲法 13 条等に違反している。 - 2 - さらに控訴審判決が、効果的制裁がなく実施状況を問題にしない通達でよいと判断し た点についても、とりわけ罰則を背景に労働者の最低限の労働条件基準を法で設定する ことを国に義務づけた憲法 27 条2項に違反している。 5 第5章「憲法上要請される情報提供義務違反とその違反の違憲性」 第5章では、憲法上要請される情報提供義務にも違反していることを述べている。 本件では、被害者は石綿被害の深刻・重大性を知らず、また石綿の危険性について認 識のない泉南地域の零細な石綿工場の事業主には自ら被害対策や労働者への危険性情報 の提供を期待することが不可能であったのであるから、石綿の危険性を認識して危険性 情報を独占している国が石綿の危険性に関する情報を労働者や住民に積極的に提供し て、石綿被害の拡大を防止すべきだった。憲法 13 条は国民の生命健康を保障するため国 に積極的に国民を保護することを求めており、その目的達成のため、積極的な情報提供 が憲法 13 条から要請されていたのである。 また、生命健康と工業的有用性を天秤にかける控訴審判決の立場に立ったとしても、 そのような比較考量は最終的に生命・健康被害のリスクを負う国民の判断に委ねられる べきである。国民がリスク判断をするには、大前提として石綿の危険性情報に関する正 確な情報が不可欠である。このような情報も得られずに石綿被害に遭ったことは、国民 の自己決定権を保障した憲法 13 条に違反する。 以 - 3 - 上