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未経験を逆手に取りビジネスモデルを構築

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未経験を逆手に取りビジネスモデルを構築
このインタビュー記事は、日本政策金融公庫 国民生活事業 創業事例集 NO.21 から転載したものです。
未経験を逆手に取りビジネスモデルを構築
B.Creation 株式会社
創
業
2004 年
資 本 金
1 億 2,445 万円
事業内容
釣り船予約サイトの運営
従業者数
7人
所 在 地
大阪府大阪市北区芝田1-4-8
北阪急ビル6階
代表取締役
電話番号
06-6485-2277
U
http://www.bcreation.jp
R
L
渡邉 一史 氏
インターネットの普及が進み、これまで数多くのネットビジネスが生まれてきた。アイデアは出尽
くしたようにもみえるが、ビジネスの種はまだまだ残されている可能性がある。
渡邉一史社長が経営するB.Creation㈱は、2004年に釣り船専門の予約サイトをスタートした。使
いやすさの徹底された同サイトは、多くの釣り客の支持を集めており、利用件数は順調に伸びて
いる。
ホテル感覚で釣り船を予約
ちょう わ り
―インターネットを使った釣り船予約サイト「釣 割」を運営されているそうですが、仕組みを教えてくださ
い。
釣りには海岸からの投げ釣りや、川や湖でのルアーフィッシングなど、さまざまなジャンルがあ
ります。
そのなかには、船で沖に出たり、島や磯に送ってもらったりして釣りを楽しむ愛好家も大勢います。
ただ、自分で船を持っている人はごく稀で、多くが仲間で船をチャーターしたり、乗り合いの釣り船
を利用したりします。
当社のサイトでは、出発日、地域、釣りたい魚などを入力すると、予約可能な釣り船のリストが
出てきます。さらに船名をクリックすると、連絡先や港へのアクセス方法だけではなく、船の紹介記
事、船長さんのコメント、最近釣れた魚の種類などが、20枚ほどの写真とともに表示されます。ユ
ーザーは、そうした情報を参考にしながら、空き状況と価格をみて、船を決めていきます。最近で
は広く利用されるようになっている、ホテルや飛行機のインターネット予約と同じ要領です。当社は、
予約が成立するごとに、釣り船業者から手数料をいただくというビジネスモデルです。
1
―今まで釣り船の予約はどのように行われていたのですか。
釣り船の情報は、必ずしも整理されていませんでした。利用者に話を聞くと、これまで乗ったこと
のある船や、仲間同士の口コミで評判の良い船に、直接連絡するケースが多かったそうです。釣
りの専門誌やスポーツ紙の釣りコーナーなどに掲載されている紹介記事や広告をみて、電話をか
けるのも、一つの方法でした。
ただ、釣り船業者は漁師との兼業も多く、休業日もあるため、希望通りに予約ができないことも
しばしばです。マスコミに紹介された直後は予約が殺到しますから、なおさら席の確保は困難にな
ります。また、初めての船の場合には情報が少なく、実際に乗ってみて設備にがっかりすることも
あるそうです。
一方、釣り船業者側には、顧客の開拓はなかなか難しいという問題がありました。専門誌に広
告を出すには費用がかかりますし、記事に取り上げられる機会もめったにありません。新規の顧
客といえば、常連客からの紹介が主なルートで、広く釣りファンにアピールする方法は限られてい
ました。
こうした釣り客と釣り船業者双方の問題を解決したのがこのサイトなのです。
社会人大学院でビジネスモデルを作成
―現在の事業を始めようと思ったきっかけは何だったのですか。
わたしは大学の薬学部から大学院を経て、薬剤師として製薬会社に就職しました。ただ、入社
したころから、定年までサラリーマンとして勤めるのではなく、いつかは自分自身で事業を起こして
みたいと考えていました。仕事に慣れてきたころ、大阪市立大学が新設した大学院の都市ビジネ
ス専攻課程に入学したのもそのためです。
大学院ではビジネスプランのリポートを書く機会があり、さまざまな業界を調べていたところ、偶
然釣り船の予約が面倒だという話を聞いたのです。その時点では、予約サイトの運営は選択肢の
一つにすぎませんでしたが、釣り好きの知人や釣り船のオーナーに話を聞き、詳しく業界を調べて
いくうちに、今のビジネスモデルの原型ができあがっていきました。
最終的にこの事業をビジネスに選んだのは、予約サイトに適した条件が備わっていたからです。
釣り船は乗り合いのものが大半を占めています。お客が一人でも満員でも、船を出す費用はほと
んど変わりません。ですから、たとえ安い料金であっても、残席を販売したほうが得策といえます。
一方、利用者側には少しでも安く船を利用したいというニーズがあります。これは、インターネット
予約のビジネスが成功しているホテルと同じような状況だと気付いたのです。それならば、釣り船
専門の予約サイトも、きっとうまくいくはずだと考えました。
2
―サイトに登録する業者はすぐに確保できたのですか。
勤務先を退職した後、大学院在学中の2004年3月に会社を設立しました。この時点では登録す
る業者は全く決まっていなかったため、まずは全国の釣り船業者を個別に訪問し、サイトへの登
録を勧めることから始めていきました。
サイトの利点をうまく説明すれば、登録したいという釣り船業者はすぐに集まると思っていました。
しかし、ふたを開けてみると、良い反応はなかなか得られませんでした。時には門前払いされるこ
ともありましたし、話を聞いてくれる釣り船業者でも、実績が全くない当社を簡単には信用してくれ
なかったのです。
それでも、数カ月にわたって地道に各地を訪問していった結果、2004年12月には確保した釣り
船が100隻を超えました。事業を始めるには十分な数となり、ようやくサイトを開設することができ
たのです。
―釣り船のオーナーにインターネットを利用してもらうのは大変だったのではないですか。
よく勘違いされるのですが、釣り船業者は必ずしもインター
ネットは利用しません。サイトに予約が入ったら、当社からその
旨を連絡します。その際には、電話やファクスなど釣り船業者
側の要望に応じた手段を用いるので、インターネットを使えなく
ても支障はありません。連絡方法がばらばらだと多少手間は
増えますが、コンピューターを敬遠しがちな釣り船業者にも登
録してもらうには必要なことだと考えました。
―サイトの利用件数は順調に伸びていきましたか。
創業当初は、乗船料金を格安に設定できる翌日分の残席だけを扱い、予約受付時間も前日の
夜に限っていました。初めのうちこそ、月間の予約は数件程度でしたが、ユーザーは月を追うごと
に増え、十分ビジネスになるとの手応えも感じるようになってきました。
しかし、一方で、ユーザーからは「割引率が低くてもよいので、もっと先の予約はできないか」と
いった問い合わせや「予約を受け付ける時間を拡大してほしい」といった声が多数寄せられるよう
になったのです。そうしたニーズにも応えるため、開設から半年が経った2005年6月に、数カ月先
まで予約のできる24時間受付のサイトへと機能を充実させました。
その結果、利用件数はさらに大きく伸びていき、今では年間 3万件ペースにまで達しました。登
録業者から話を聞くと、もともと釣り船を利用していた人はもちろん、船で釣りをした経験がない人
や全くの初心者からの予約も多いようです。リピート率も高いので、利用件数はまだまだ増加して
いくと思います。
3
―他企業との連携も進んでいるそうですね。
サイトのサービスを拡大してから3カ月後に、大
手の釣具販売業者から「店舗内に設置している情
報端末のメニューとして使わせてもらいたい」という
話があり、当社のコンテンツを提供するようになり
ました。釣具店では、釣れている魚の情報検索や
釣り船の予約が店内でできるため、来店客の購買
意欲をそそるツールとして役立っているようです。も
ちろん当社にも、ユーザーの裾野が広がるという大
きなメリットがあります。そのほか、大手インターネ
ット釣具店のホームページからも当社のサイトにリ
ンクを張ってもらうなど、ほかの企業との提携は活
発に行っています。
釣り船予約サイト「釣割」
素人だから見えた課題
―もともと釣りが好きだったのですか。
実はわたし自身、釣りは子どものころに少し経験しただけです。釣りに関する業界に携わったこ
ともないので、初心者と変わらないといえるでしょう。
ただ、あまり知識がないことが、プラスに働いた面は大きいと思います。もしわたしが釣りの愛
好家だったら、船を電話予約する煩わしさを当たり前のことと考えて、このビジネスチャンスに気付
かなかったかもしれません。
サイトの運営に関しても、あまり釣りへの思い入れが強いと、むしろ失敗すると考えています。
釣りマニアのさまざまな細かいニーズをすべて満たそうとすれば、手間や費用がかかりますし、多
くのユーザーにとっては、かえって使い勝手が悪くなることもあるからです。
実際、当社の従業員にも釣り好きはほとんどいませんが、素人の目線だからこそ見つけられた
問題点がサイトの改善につながっています。
例えば、魚の呼び名です。これには方言のようなものがあり、関東近辺で「カサゴ」といわれる
魚が、西日本では「ガシラ」「ホゴ」などと呼ばれたりするため、混乱しがちです。当社では、ほかの
地方に行った時でも戸惑わないよう、そうした呼称の違いを検索時に反映できるようにしました。
最近では、土地勘がない地域でも船を探しやすいように、スクロール式の地図上から検索できる
機能も導入しました。
4
―ほかにもより良いサイトをつくるために心がけていることはありますか。
サイトの信頼性を高めるため、優良な業者を集めることです。ユーザーから不評で顧客サービ
スが改善されないところとは、更新手続きをしないようにしています。思い切って登録業者を300社
から200社ほどへ減らしたこともありました。もしユーザーがサービスの悪い業者で嫌な思いをす
れば、もうサイトで予約をしようとは思わなくなるでしょう。初心者であれば、釣り自体を止めてしま
うかもしれません。そうなれば、新規顧客を獲得したい、ほかの釣り船業者にも大きな損失となり
ます。ですから、登録している業者すべてに、一定レベルのサービスを維持してもらう必要がある
のです。
こうした考えを理解してもらうため、わたしは定期的に登録業者を訪問するように努めています。
IT企業とはいっても、取引先の経営者と直接話をして信頼関係を築いていくのが大切なことに変
わりはありません。
現在では、サイトの船は300隻を超え、新規の登録も月20隻ほどのペースで増えています。ユ
ーザーから登録業者に対して寄せられる声も、好意的なものがほとんどです。
―最後に今後の抱負を教えてください。
現在、「どこでどんな魚が釣れた」といった釣りに関するデータの提供に力を入れています。こう
した情報は専門誌にも掲載されていますが、情報量が少ないうえに、タイムリーではありません。
そこで、当社では、全国のユーザーや釣り船業者から情報を毎日集め、その都度データを更新し
ています。今後は、さらにデータベースを充実させ、漁業関係者への販売も進めていく予定です。
社名のB.Creationには「ビジネスを創造する」という意味を込めました。釣りに関するビジネスに
は、まだまだ多くの可能性が残されているはずです。これからも、初心を忘れずに、新しいビジネ
スモデルを追求し続けていきたいと思います。
聞き手から
聞き手から
国民生活金融公庫総合研究所(現・日本政策金融公庫総合研究所)が実施した「2010年度新
規開業実態調査」によれば、それまでに経験がある分野での開業が全体の87.2%と大多数を占
めている。
しかし、渡邉社長は、逆に素人としての視点から、従来の釣り船予約の常識に疑問を抱き、そ
れを打ち破る新たなビジネスを生み出したのである。
未経験の分野で果敢にチャンスを見出した渡邉社長の姿は、新規開業を志す多くの人に勇気
を与えてくれるだろう。
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