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地方公共財としてのパブリックアート - Kyoto University Research

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地方公共財としてのパブリックアート - Kyoto University Research
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<研究論文>地方公共財としてのパブリックアート : 財政
的連邦主義からの規範的検討
金武, 創
財政学研究 (1997), 22: 97-106
1997-10-15
http://hdl.handle.net/2433/156214
Right
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Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
地 方 公 共 財 としてのパ ブ リックアー ト
■研 究論 文
地 方 公 共 財 として のパ ブ リックアー ト
―財 政的連邦主義からの規範 的検討―
金
1.は
武
創†
となるべ き 「
住 民 の 多 様 な 選 好 の 把 握 」に 不 向 きな
じめ に
シス テ ムで ある 点 に 注 目 し,多 くの 地 方 政 府 がパ
ブ リックア ー ト整 備 に 失 敗 した 原 因 をピラミッド型 の
都 市 の 公 共 空 間 に 設 置 され た 屋 外 彫 刻 は 一 般
的 にパ ブ リックア ー トとよば れ るが,「都 市 の公 共 性
官 僚 組 織 に もとめ て み た い.
とは 何 か 」とい う問 い か ら普 遍 的 な 現 代 芸 術 表 現 と
本 論 文 の 構 成 は 以 下 の とお りで ある.は じめ に,
して のパ ブ リックアー トを発 展 させ た ア メリカ の 取 り
アメリカ にお けるパ ブ リックア ー ト発 展 の 歴 史 的 経
組みを「
地 域 固 有 の 文 化 を 具 現 化 す るパ ブ リック
緯 を概 観 し,連 邦 政 府 と地 方 政 府 が そ の 財 政 機
ア ー ト」とい う視 点 か ら評 価 す る時,公 共 性 を有 す
能 を分 担 して きた ことを 明 らか に す る.つ づ い て,
る都 市 空 間 に 個 人 的 な 芸 術 表 現 とい え る屋 外 彫
財 政 機 能 との 関係 か ら,地 方 公 共 財 としての パ ブ
刻 を設 置 す る根 拠 や そ の 外 部 性 を財 政 学 的 に ど
リックア ー トを検 討 す る.そ の 際,地 域 住 民 の選 好
のように位 置 付 けることが 可 能 な の だ ろうか.Dこ
をより反 映 しや す い 地 方 政 府 が パ ブ リックア ー トの
う
した 地 方 公 共 財 として のパ ブ リックアー トに注 目 し,
供 給 を主 体 的 に 担 う根 拠 を示 す と同 時 に,補 助 金
そ の 外 部 性 を財 政 学 的 に 考 察 す ることが 本 論 文
交 付 や 全 国 的 な 法 整 備 を用 い た 連 邦 政 府 の 支 援
の 第 一 の 研 究 目的 で ある.な お,理 解 を深 め るた
に つ い ても,そ の 一 定 の 合 理 性 を 明 らか に す るっ
め に 「都 市 の 公 共 空 間 に 設 置 され た 」「政 府 資 金
も りで あ る.最 後 に,地 方 公 共 財 として のパ ブリック
を主 た る財 源 とす る」に 議 論 を限 定 す る.
アー トの 問 題 点 とそ の将 来 展 望 を述 べ るが,ま ず
は,一 連 の議 論 に 入 る前 に,ア メリカ にお けるパ ブ
戦 後,わ が 国 の 地 方 自治 体 が,約 一 万 点 以 上 の
パ ブ リックア ー トを 設 置 して きた ことは 以 外 に 知 ら
れ て い な い が 〔竹 田(1995),98ペ
リックアー ト発 展 の 歴 史 を整 理 して お こう.
ー ジ〕,そ れ ら
の 多 くは公 園 や 道 路 脇 に裸 婦 像 を 中 心 とした 多 数
の 小 規 摸 な作 品 を設 置 し,自 主 財 源 と国 か らの 各
π.ア メリカ に お け るパ ブ リックア ー ト発 展 の
種 補 助 金 ・地 方 交 付 金 で 賄 わ れ る場 合 が 多 い2).
歴史的背景
そ れ に対 して,欧 米 で は 抽 象 的 で 巨 大 な 作 品 が
1960年 代 とい え ば,パ ブ リックア ー トを含 め た アメ
主 流 で あるが,そ の財 源 に っ い て は,中 央 政 府 主
導,地 方 補 助 金 と自 主 財 源 の 混 合,地 方 財 源 の
リカ 現 代 芸 術 が 確 立 した 時 期 で あ るが,こ の 時 期
み とい う具 合 に 実 に多 様 であ る3).こ うした 現 状 に
にア メリカ で パ ブ リックア ー トが 発 展 した 要 因 として
オ ー ツの 『財 政 的 連 邦 主 義 』の 文 脈 を 照 らし合 わ
は,① 人 材 面:先 進 的 な 芸 術 分 野 に 挑 戦 す る若 い
せ ると,都 市 に お け るパ ブ リックア ー ト整 備 に 関 す
芸 術 家 と彼 らを支 える芸 術 経 営 専 門 家 の 存 在,お
る中 央 政 府 と地 方 政 府 との 財 政 機 能 の 分 担 とい う
よび 両 者 を教 育 ・訓 練 した 高 等 教 育 制 度 の 整 備,
第 二 の 論 点 が 設 定 可 能 とな るだ ろう.さらに,三 番
② 民 間 支 援:実 験 的 芸 術 に 対 す る積 極 的 な 専 門
目の論 点 として,現 在 の 地 方 政 府 を構 成 す る官 僚
評 価 とそ れ に伴 う民 間 団 体 の 財 政 支 援,③ 公 的 支
組 織 が,地 域 の 固 有 価 値 を具 現 化 す る 際 の 前 提
援:地 方 政 府 の 主 体 的 取 り組 み と連 邦 機 関 の補 助
†公 共 経 済研 究 所 ,京 都 大 学 大 学 院
97
財 政学研究 第22号
金 交 付 とい う二 段 階 の 支 援 システ ム,④ 設 置 場 所
実 験 的 な 現 代 芸 術 を 積 極 的 に 認 知 し,そ の 芸 術
の 増 加:都 市 再 開発 事 業 がもた らした公 共 空 間 の
性 を 高 く評 価 した ことに加 えて,こ うした 専 門 的 評
増 加 とい う4点 に 要 約 で きるだ ろう.そ の うち,① ②
価 を信 頼 し,金 銭 的 な 援 助 を続 けた 非 営 利 団 体,
に つ い て は,む しろア メリカ 現 代 芸 術 全 体 の 発 展
お よび 背 後 で そ れ を支 え た 大 企 業 の 活 動 に っ い
要 因 と認 識 す べ きで あるの で,ま ず はここか ら議 論
て も,① 購 入 した 作 品 を 自 らの 建 物 に 展 示 した り
を進 め ることにしよう.
地 方 政 府 に 寄 付 す る,② 若 い 芸 術 家 に 奨 学 金 や
第 一 の 要 因 として,多 くの 革 新 的 な芸 術 家 の 存
報 奨 を 供 与 す る,③ 芸 術 専 門 の教 育 機 関 に財 政
在 は 指 摘 す るまで もな い が,同 時 に 彼 らを支 え る
支 援 す るとい っ た 手 法 を用 い て,多 くの 若 い 芸 術
芸 術 経 営 専 門 家(ArtManager)の
育 成 も無 視 で
家 を物 心 両 面 か ら支 援 した の であ った.ち な み に,
代 後 半 か ら,全
こうした 企 業 や 非 営利 団 体 の 活 躍 を背 後 で 支 えた
米 の 経 営 学 大 学 院 に 芸 術 経 営 コー ス が 設 置 され
の は,ア メリカ独 特 の 寄 付 金 に 関 す る税 控 除 シ ス
始 め たが,そ の 教 育 内 容 は 美 術 館 や コン サ ー トホ
ー ル といっ た芸 術 表 現 の現 場 の 運 営 とそ こに 芸 術
テ ムで あ ることを付 け加 えて お こう4).
補 助 金 を 交 付 す る芸 術 支 援 機 関(非 営 利 団 体 や
ア メリカ 現 代 芸 術 は ヨー ロッパ 伝 統 文 化 か らの 脱
公 的 機 関)の 経 営 とに大 別 され る。芸 術 経 営 の 重
却 と独 自 の 芸 術 表 現 の 確 立 を果 た した とい わ れ る
要 性 が ア メリカ で 認 識 され て い た 背 景 に は,実 学
が,そ の 発 展 要 因 に 関 連 す る歴 史 的 背 景 として,
中 心 とい う高 等 教 育 の 基 本 方 向 が うか が わ れ る.
経 済,軍 事 面 だ け でな く,ア メリカ は 芸 術 文 化 面 に
さらに,各 州 立 大 学 の 新 設 ・拡 充 と安 価 な 教 育 費
お け る国 際 的 な 優 位 性 をも国 内 外 に 誇 示 す る必
用 の 設 定 等,第 二 次 世 界 大 戦 後 の 専 門 教 育 の 大
要 が あ った とい う側 面 に も触 れ て お か な け れ ば な
衆 化 の果 たした 役 割 につ い ても,単 に 芸 術 家 の 育
らな い.彼 らは,東 側 諸 国 に 対 して は,ア メリカ の
成 と芸 術 経 営 専 門 家 の 訓 練 に とど まらず,多 くの
中 心 的 価 値 で あ る 「表 現 の 自 由 」と資 本 主 義 経 済
鑑 賞 者 の 育 成,す な わ ち 消 費 者 選 好 の 開 発 にも
に よる都 市 発 展 を,西 側 同 盟 国 お よび 自 国 民 に は
多 い に 貢 献 したと評 価 で きる.
自 由 主 義 諸 国 の リー ダ ー として の 高 い 文 化 水 準 を
きない.後 者 に っ い て は,1960年
ところで,東 西 冷 戦 のピ ー クを迎 え た1960年 代 に
結 局,生 産 者,消 費 者,両 者 の仲 介 機 関 各 々 の
誇 示 す る必 要 が あ った.そ の 意 味 で は,ア メリカ 現
人 材 を育 成 す る高 等 教 育 シス テ ムが ア メリカ 現 代
代 芸 術 の 隆 盛 は 東 西 冷 戦 の 産 物 の 一 つ とも位 置
芸 術 の発 展 に 大 きく寄 与 した ことは 疑 い の な い 事
づ け られ る 〔Wetenhall(1992)pp.142-157〕.つ
実 か と思 わ れ る.こ うした 人 材 育成 の努 力 の結 果,
づ い て,パ ブ リックア ー ト固 有 の発 展 要 因 に議 論 を
1970年 代 以 降 の アメリカ 現 代 芸 術 家 た ち は,単 な
移 そ う。
る都 市 の 屋 外 彫 刻 か ら,パ ブ リソクア ー トの 概 念 を
2つ の パ ブリックア ー ト固 有 の 発 展 要 因 の うち,そ
ストリー ト・ア ー ト,ゲ リラ・シ アター,看 板,抗 議 行
の 一 は パ ブ リックア ー ト整 備 に 対 す る政 府 の積 極
動,ポ スター,壁 画 とい った 都 市 の 公 共 空 間 に お
的 な 姿 勢 が あ げ られ る.特 に 主 体 的 な役 割 を果 た
け る芸 術 表 現 全 般 に 拡 張 させ た 〔Raven(eds.)
した 地 方 政 府 で は 「都 市 景 観 の 整 備 」「地 域 住 民
(1993)p.1〕.ア
メリカ の パ ブ リックア ー トの 歩 み を
の 選 好 開 発 」とい う2つ の 政 策 方 向 が 設 定 され た
振 り返 る時,芸 術 経 営 の 専 門 家 を育 成 す る専 門 教
が,い ず れ の 場 合 も地 域 の 歴 史 や 文 化 に 内 在 す
育 課 程 をわ が 国 は い まだ 十 分 整 備 してい な い 点 を
る 固 有 価 値 の 具 現 化 を共 通 の 目的 として い る.そ
考 慮 す れ ば,日 米 両 国 の 人 材 育 成 に対 す る努 力
して,制 度 的 に は 資 本 支 出 の1%を 自 動 的 にパ ブ リ
の 差 異 は 明 らか で あ る.
ックア ー ト予 算 として 計 上 す る 「1%f()rarts(1%事
次 に,芸 術 家 の実 験 的 な活 動 を積 極 的 に評 価 し
業 制 度)」が 導 入 され た5)。
支 援 す る 民 間 セ クター の 存 在 を 第 二 の 要 因 に あ
た とえ ば,「都 市 景 観 の 整 備 」を 目的 としたパ ブ リ
げ て お きたい 。特 に,国 内 外 の 批 評 家 や 専 門 家 が
ックア ー ト整 備 条 例 は,フ ィラデ ル フ ィア(1955),
98
地 方 公 共 財 としての パブ リックアー ト
ニュー ヨー ク(1964),ハ
ワイ(1967)と い った 州 ・
都
ア ー トを求 め るインセ ンテ ィヴ を各 再 開 発 業 者 に植
市 で 制 定 され た の が そ の 噛 矢 で ある.ま た,シ ア ト
え付 けた と思 わ れ る.
ル は 「視 覚 芸 術 を 体 験 す る機 会 を通 して,全 て の
都 市 住 民 が 地 域 社 会 や 地 元 で の 生 活 をよ り理 解
そして,優 れ た パ ブ リックア ー トの 存 在 が都 市イメ
ー ジ の 向 上 に 結 び 付 くと仮 定 す る時 ,① 売 上 税 の
す る能 力 をつ ける」目的 で1973年 同 条 例 を制 定 し
増 収,② 都 市 人 口数 の 増 加,③ 不 動 産 価 値=財
たが,現 代 芸 術 に 関 す る地 域 住 民 の 選 好 開 発 を
産 税 の 水 準 向 上 等,都 市 財 政 を 安 定 化 させ る効
優 先 課 題 としてお り,もう一 方 の 代 表 的 な 事 例 とい
果 も 予 想 され ることか ら,地 元 経 済 界 や 地 方 自治
えるだ ろう〔Shamash(1991)p.12〕.
一 方 ,地 方 政 府 の 取 り組 み を財 政 支 援 す る補 助
体 も 同 様 の インセ ンテ ィヴを 有 す る と推 察 され る.
金 交 付 制 度 は,連 邦 レベ ル で 構 築 され た が,ケ ネ
業 に 組 み 入 れ る手 法 は,1980年
ディ政 権 下 の公 共 施 設 管 理 庁(GelleralService
な経 済 の サ ー ビス化 に 伴 い,芸 術 文 化 活 動 と都 市
Administration=以
経 済 政 策 との 結 び 付 きを深 め るきっか け とな った と
下GSA)に
余 談 に な るが,こ うした 文 化 的 要 素 を都 市 開 発 事
よる 「
芸 術 作 品購
代 以 降 の国際 的
入 の た め のパ ー セ ン ト基 金 」(連邦 政 府 施 設 建 設
い え るだ ろ う。さらに,現 在 の 欧 米 各 都 市 で 「
経済
費 の0.5%を そ の 施 設 に 設 置 す る芸 術 作 品 購 入 費
政 策 としての 文 化 政 策 」が 推 進 され てい ることを 勘
に 充 当す る)の 設 立 と1966年 に 設 立 され た 全 米 芸
案 す れ ば,1960年
術 基 金(NationalEndowmentfortheArts:以
は都 市 文 化 政 策 の先 駆 け と評 価 す べ きな の もしれ
下NEA)に
よる「公 共 空 間 に お ける芸 術 作 品 設 置
計 画 」が これ に 該 当 す る.前 者 はGSAが
代 以 来 の パ ブ リックア ー ト整 備
ない 助.
直接 指
皿.財 政 的 連 邦 主 義 か らみ た
名 した 芸 術 家 に連 邦 政 府 ビル の 隣 接 地 に 作 品 の
パ ブリックアー トの 位 置 づ け
設 置 を委 託 す る制 度 であ るが,パ ブ リックア ー トの
発 展 に貢 献 した 点 は十 分 評 価 で きる半 面,政 府 が
芸 術 家 を選 考 す る過 程 で,暗 に彼 らを 序 列 化 す る
前 段 で 示 した 通 り,アメリカ で は,地 方 政 府 が パ
価 値 財 的 側 面 が うか が わ れ る6).後者 に つ い て は,
ブ リックア ー ト整 備 を 主 体 的 に 担 う半 面,そ れ に対
地 方 政 府 が 推 進 す るプ ロジ ェクトに補 助 金 を交 付
す る補 助 金 交 付 や 都 市 再 開 発 事 業 の 関 連 法 整 備
す ることを通 して,パ ブリックア ー トの 全 国 的 な普 及
/補 助 金 交 付 の 推 進 等 に よって,連 邦 政 府 系 機
に貢 献 した と高 く評 価 され て い るが,NEAの
関 が 地 方 政 府 の 取 り組 み を支 援 して い た 点 を示 し
設立
自体 に 前 述 した東 西 冷 戦 の 影 響 が 読 み 取 れ る7).
た.本 章 で は,議 論 の 焦 点 をパ ブ リックア ー ト整 備
最 後 に,連 邦 政 府 の 都 市 再 開 発 政 策 がパ ブ リッ
に お け る 中 央 政 府 と地 方 政 府 との 財 政 機 能 分 担
クア ー トの 設 置 可 能 な公 共 空 間 を数 量 的 に 著 しく
にあ わ せ る.そ こで は,オ ー ツ の財 政 的 連 邦 主 義
増 加 させ た 点 を指 摘 して お きた い8).こ の 当 時,
(FiscalFederalisln)の
敷 地 の 一 部 を公 共 空 間 として 地 域 住 民 や 通 行 人
もた らす 正 の 外 部 性 とを 照 らし合 わせ,パ ブ リック
に 提 供 す る代 償 に,容 積 率 を緩 和 し建 物 の 高 層
ア ー トの公 共 財 的 側 面 と混 合 財 的 な 側 面 を 明 らか
概 念 とパ ブ リックア ・
・
一
一Lト
が
化 を促 進 す る規 制 緩 和 が 進 め られ た が,そ の 結 果
にす ることが 主 要 な 検 討 課 題 とな るだ ろう.議 論 を
得 られ た 公 共 空 間 にパ ブ リックア ー トを組 み 合 わ
進 め る準 備 として,オ ー ツの 財 政 的 連 邦 主 義 を概
せ ることを通 して,都 市 開 発 業 者 は 快 適 性 を高 め,
観 して お こう.
質 の 高 い 住 居 や オ フィス,商 業 ビル の 整 備 を推 進
した.別 の 見 方 をす れ ば,都 市 間 の 経 済 競 争 が 厳
3.1財 政 的連 邦主 義と地 方分 権
しい アメリカで は,都 市 の 個 性 化,差 別 化 の シ ンボ
ル として快 適 な公 共 空 間 を 求 めるの は 当 然 の帰 結
現代財 政の基本的機 能を「
資 源 の最 適 配 分 」
「
所 特 再分 配 」「
経 済 の安 定化 」と位 置 付 ける時,
であ って,こ うした 規 制 緩 和 は より優 れ た パ ブリック
中央 政府 と地 方 政 府 との 間 にお ける各 財 政機 能
99
財政学研究 第22号
の役 割 分 担 が 財 政 的 連 邦 主 義 理 論 の 主 題 で あ る.
央 集 権 的 な 単 一 政 府 と分 権 的 な 地 方 政 府 とを 比
これ に 関 して,オ ー ツは 単 一 形 態 の 中 央 政 府 と分
較 したオ ー ツは,経 済 効 率 の 観 点 か らみ た 各 々 の
権 的 な 地 方 政 府 を比 較 し,公 共 部 門 の 適 切 な 分
長 所 と短 所 を明 示 し,そ の 機 能 分 離 の 合 理 性 を 示
権 化 の 可 能 性 を考 察 した.
した の で あ った.そ れ で は,こ の 視 点 に 立 っ て,地
経 済 の安 定 化 に つ い て は,中 央 政 府 の ほうが 地
方 公 共 財 とみ な され るパ ブ リックアー ト整 備 の 財 政
方 政 府 よりも優 れ て い るとオ ー ツ は 位 置 づ け て い
学 的 分 析 を進 めよう.
る.な ぜ な ら,中 央 政 府 に よる経 済 の 安 定 化 政 策
は 一 定 の 有 効 性 が認 め られ るの に 対 し,独 自通 貨
3.2パ
ブ リック ア ー トに お け る
公 共財 的側 面の 検 討
発 行 に ともなうインフ レの 危 険 性,地 域 経 済 に 占め
る他 地 域 との 関 係 の深 さ,そ れ に ともな う乗 数 効 果
わ が 国 の 実 例 か ら,竹 田 は パ ブ リックア ー ト整 備
の 低 下,発 行 した 地 方 債 償 還 時 に 所 得 が 地 域 外
の 目的 を 「景 観 形 成 」「地 域 の 特 色 の 表 現 」「
文化
に 流 出 す る可 能 性 等,地 方 政 府 独 自 の 財 政 ・金
振 興 」に3区 分 して い るが,パ
融 政 策 に は い くつ か の 問 題 点 が 見 受 け られ るか ら
社 会 的 便 益 は 地 域 全 体 に 共 通 の 利 益 をもた らし,
で あ った.ま た,所 特 再 分 配 に 関 しても同 様 で あ っ
必 ず しも,個 人 消 費 を 前 提 としな い 〔竹 田(1993)
て,あ る地 方 政 府 だ け が より平 等 な 所 得 分 配 政 策
48∼49ペ
を実 施 す る時,個 人 の 自 由 な移 動 を 考 慮 す れ ば,
性 を反 映 す る芸 術 作 品 で あるパ ブ リックア ー トの 設
裕 福 な 人 々 は 他 地 域 へ 流 出 す る一 方 で,多 くの
置 自体 に 公 共 財 的 な 性 質 が うか が え るlo).これ は
貧 困 者 が 流 入 す ることが 予 想 され るの で,所 得 再
パ ブ リックア ー ト生 産 が もた らす 外 部 性 とみ な され
分 配 政 策 の 有 効 性 は 低 く,そ の 地 方 政 府 は 厳 しい
る が,今 回 は 「a.新た な 芸 術 表 現 の 革 新 」、「b.共
財 政 状 況 に追 い 込 まれ ることが容 易 に 理 解 で きる
同 体 の シ ンボ ル あ るい は 地 域 社 会 の イメー ジ の 設
〔Oates(1972)pp.6-8〕.
定 」に 二 分 し,順 に 検 討 す る.
ブ リックアー トに よる
ー ジ 〕.その 意 味 で は,都 市 空 間 の公 共
最 後 に,資 源 の最 適 配 分 のうち,全 国 民 が 同 程
第 一 に 「芸 術 表 現 上 の 革 新 」が想 定 され るが,こ
度 に 欲 す る公 共 財 に 関 して は,中 央 政 府 に よる供
れ は 分 野 ご とに 細 分 化 され た 芸 術 表 現 を都 市 空
給 の 方 が 有 効 で あ ると思 わ れ る.そ の 理 由 として
間 で 再 統 合 す ることを指 す.こ の 目的 で,あ る地 方
は,分 権 的 な 意 思 決 定 を す る 地 方 政 府 が この 役
政 府 が 単 独 でパ ブ リックア ー トを 奨 励 した と仮 定 す
割 を担 った 場 合,地 域 住 民 は で きるだ け少 な い 負
ると,そ の 結 果 生 ず る 「
芸 術 表 現 上 の 革 新 」は典 型
担 を望 み が ち な の で,公 共 財 の過 少 供 給 に 陥 るこ
的 なスピル オ ー バ ー を発 生 させ,そ の 恩 恵 は 全 国
とが 推 察 され る.逆 に い え ば,個 人 の 多 様 な 選 好
的 あ るい は 国 際 的 に広 が ることが 予 想 され る.し た
を集 合 的 に 把 握 し,特 定 地 域 の 住 民 だ け に 便 益
が っ て,地 方 政 府 単 独 で の 資 源 配 分 は き わ め て
が 及 ぶ 地 方 公 共 財 供 給 に 関 して は,単 一 形 態 の
不 効 率 で あ って,こ の 外 部 性 だ け を期 待 す るの で
中 央 政 府 に は 不 向 きで あ ると推 察 され ることか ら,
あ れ ば,パ ブ リックア ー トの 公 的 整 備 は 中 央 政 府
この役 割 を地 方 政 府 が 担 うことが 望 ましい と考 えら
が 担 う方 が 望 ましい.ま た,鑑 賞 す る側 の 立 場 か ら
れ る.さ らに,分 権 的 地 方 政 府 に よる地 方 公 共 財
み て も,「最 先 端 の 芸 術 表 現 を 地 元 で 鑑 賞 す る」と
の 供 給 に 関 して 「
周 辺 の 地 方 政 府 に波 及 し,結 果
い う地 域 住 民 の 選 好 もそ の 費 用 負 担 に 見 合 うほ ど
的 に 公 共 財 生 産 の 実 験 と革 新 をもた らす 」「支 出
存 在 しな い 可 能 性 が 高 い.結 論 的 に い え ば,「 芸
の 決 定 が 実 質 的 な 資 源 費 用 とより直 接 的 に結 び
術 表 現 上 の革 新 」だ け に 依 拠 したパ ブ リックア ー ト
付 け られ る結 果,地 域 に お け る公 共 的 意 思 決 定 が
整 備 は 地 方 政 府 の 役 割 と認 め られ ず,地 方 公 共
改 善 され,費 用 負 担 の 自覚 を 前 提 とした 事 業 計 画
財 に はな じまな い ことが わ か るだ ろう.
の 決 定 が 進 め られ る 」とオ ー ツ は 述 べ て い る
〔Oates(1972)pp.8-13〕.結
第 二 に,「市 民 意 識 づ くり」あるい は 「
地 域社 会 の
シ ン ボル 」とい う役 割 を 期 待 して パ ブ リックア ー トを
論 的 に 言 え ば,中
100
地 方 公 共 財 としてのパ ブ リックア ー ト
整 備 す る場 合 を想 定 して み よう.同 じア イデ ンテ ィ
ティを有 す る地 域 住 民 か ら構 成 され る閉 鎖 的 な 地
3.3パ
ブ リックア ー トに お け る
域 社 会 を 仮 定 す る 時,各 個 人 の 価 値 観 は きわ め
混 合財 的側 面の 検 討
一 方 ,パ ブ リックア ー トは 地 域 住 民 だ れ もが 無 料
て接 近 して い ると予 想 で きるか ら,全 員 一 致 に 近
で鑑 賞 で きる芸 術 作 品 で あ るか ら,個 別 の 私 人 が
い 形 で 特 定 の作 品 が 選 択 され ると思 わ れ る.し た
それ を特 に 重 視 し,鑑 賞 や 日常 生 活 の 対 象 とす る
が って,こ の 仮 定 の 上 で は,地 方 政 府 が 地 域 住 民
ことも多 い に あ りうると考 え られ る.そ の 際 「
私人の
の 選 好 に反 しな い パ ブ リックア ー トを設 置 す ること
生 活 環 境 の 改 善 」「(美術 館 や コンサ ー トホー ル を
は 十 分 可 能 で あ るが,こ の 場 合 は 地 方 公 共 財 とい
平 常 訪 れ な い)低 所 得 者 層 や 青 少 年 の 芸 術 選 好
うよりも,あ る種 の クラブ財 と位 置 づ け るべ きか と思
の形 成 」あ るい は 「
パ ブ リックア ー トが 集 客 す ること
われ る.い ず れ に しても,こ の仮 定 は 現 実 的 とは い
に伴 う地 域 経 済 へ の波 及 効 果 」等 が 想 定 され るが,
えない ことか ら,開 放 的 な 地 域 社 会 を想 定 す るティ
い ず れ もパ ブ リックアー トの 消 費 がもた らす 外 部 性
ボ ー の 「足 に よる投 票 」概 念 を 次 に 適 用 して み よ
とみ な され る12).そこで,本 項 で は,「C.パ ブ リックア
ー ト整 備 による資 源 の 最 適 配 分(都 市 間 の経 済 競
う.
地 域 住 民 が 異 な る価 値 観 を有 し,自 由 に 居 住 地
争 に 伴 う資 源 の 最 適 配 分 に あた って,私 的 利 益 の
を移 転 で きる と仮 定 した 上 で,地 域 社 会 の シ ン ボ
充 足 を促 進 す る)」と「d.パブ リックア ー ト整 備 による
ル た るパ ブ リックア ー トを設 置 した 場 合,そ の 作 品
所 得 再 分 配(私 的 な 利 益 関 心 に 訴 え て,芸 術 文
を好 まない 人 は 居 住 地 を離 れ る一 方,地 域 社 会 を
化 の 享 受 機 会 を増 や し,芸 術 へ の選 好 を発 展 させ
象 徴 す るこの 作 品 を 気 に 入 った 他 地 域 の 住 民 が
ることに よって,住 民 の 文 化 的 な 生 活 水 準 を 向 上
新 た に転 入 す る.こ れ は 自らの 選 好 に合 うパ ブ リッ
させ,現 在 所 得 を再 分 配 しな けれ ば 得 られ な い 効
クアー トを各 個 人 が選 択 した結 果 で あ って,あ たか
果 を 低 所 得 者 層 へ の 公 共 サ ー ビス 供 給 に よって
も市 場 で 私 有 財 を選 ぶ の と同様 に 一 定 の 効 率 性
実 現 す る)」に 関 す る検 討 をオ ー ツの 議 論 に 沿 う形
を有 して い ると思 わ れ る.し か し,こ の 仮 定 に 関 し
で 進 める.
ても,現 実 の 世 界 で 居 住 地 の 移 転 費 用 は 必 ず しも
資 源 の 最 適 配 分 機 能 に つ い て は,(中 央 政 府 で
安 価 とは い えな い ことを 思 い 起 こせ ば,仮 定 に 無
は な く)地 方 政 府 が 地 域 住 民 の 選 好 や 価 値 観 によ
理 が ある と疑 わ れ てもしか た あ るまい.現 実 に は,
り接 近 したパ ブ リックア ー トを整 備 す ることに よって,
個 別 プ ロジェ クトの 中 止 は 日常 茶 飯 事 で あ っ て,
結 果 的 に 資 源 の 効 率 的 な配 分 に結 び 付 くとい う見
パ ブ リックア ー ト整 備 条 例 自体 を 執 行 停 止 す る事
方 を最 初 に示 して お こう.オ ー ツ は,地 方 政 府 が
例 もアメリカ で は 見 受 け られ た.こ の種 の 政 府 の 失
中央 政 府 よりも効 率 的 に 地 方 公 共 財 を供 給 で きる
敗 に つ い て は,パ ブ リックアー ト整 備 を推 進 す る地
要 件 の 一 つ として 「(地方 政 府 が)あ る公 共 財 の 消
方 政 府 とそ れ を好 まない 一 部 住 民 との 間 で,政 府
費 水 準 を 地 域 社 会 の 集 合 的 選 好 に 調 整 す ること
組 織 の 官 僚 機 構 に 起 因 す る情 報 の 格 差,あ るい
は,消 費 者 選 好 に 適 合 した 資 源 の 最 適 配 分 に 結
は納 税 者 の 真 の 選 好 と費 用 負 担 意 思 の 非 顕 示 が
び 付 くの で,経 済 効 率 が 高 まる」と指 摘 した が,こ
もた らした結 果 と推 察 され る11).少な くとも,地 域 社
の 文 脈 か ら,地 域 住 民 の 選 好 をふ まえ たパ ブリック
会 の シンボ ル としての パ ブ リックア ー ト整 備 自体 が
ア ー ト整 備 に 関 して は,地 方 政 府 の 方 が 望 ましい
個 人 の価 値 観 を逆 なで る不 確 実 性 を含 ん で い るこ
とい う推 論 が 成 り立 っ 〔Oates(1972)pp.11-12〕.
とに気 付 け ば,「 地 方 政 府 に よる個 人 の 選 好 の 集
また,都 市 再 開 発 事 業 に お け るパ ブ リックア ー ト
約 とそ れ をふ まえた集 合 的 な選 好 の 実 現 」とい う基
整 備 に 議 論 を 限 定 す れ ば,芸 術 的 に 質 が 高 く,
本 的 枠 組 み 自体 に 問 題 が あることは 明 らか で あ っ
人 々 を魅 了 す るパ ブ リックア ー トの 存 在 は,そ の都
て,納 税 者 の選 好 を所 与 としな い ア プ ロー チ が 求
市 環 境 に 好 意 を持 っ た 企 業 や 居 住 者 の 転 入 を促
められ てい ると考 えるべ きか もしれ ない.
す だ ろ う.こうした 再 開 発 手 法 の採 用 は,そ の 区 域
101
財政 学研究 第22号
の 地 価 を相 対 的 に 高 め,他 都 市 の事 業 との 差 別
に 低 い 」とい うオ ー ツの 見 解 と食 い 違 って い るか の
化 に成 功 す る可 能 性 を秘 め てい るだ け で な く,新
ように 受 け止 め られ る.同 様 の 見 解 として,実 演 芸
規 雇 用 や 地 域 経 済 へ の 波 及 効 果 等 も期 待 で きる
術 支 援 政 策 の 実 証 分 析 を試 み た スロス ビー らは,
か もしれ な い.そ して,一 地 区 で これ が 成 功 す れ
移 転 所 得 の 給 付 や 現 物 支 給 と比 べ た 場 合 に 「芸
は,都 市 間 の 経 済 競 争 に 直 面 した 他 の 地 方 政 府
術 文 化 に 対 す る個 人 の選 好 開 発 を通 した 所 得 再
にも人 々 を魅 了 す る作 品 を 投 入 す るイ ンセ ンテ ィ
分 配 の 非 効 率 性 」お よび 「芸 術 文 化 に 対 す る選 好
ヴ が 働 き,各 地 で 魅 力 あ るパ ブ リックア ー トを含 ん
開 発 の 第 一 義 的 な 責 任 は 地 方 政 府 に は な く,中
だ 都 市 再 開 発 事 業 が 展 開 され る可 能 性 が 残 され
央 政 府 の 教 育 政 策 が 担 うべ きで あ る」と指 摘 してい
て い る.こ れ は都 市 再 開 発 事 業 に お ける資 源 の 最
る 〔ThrosbyandWither(1979)pp。187-191〕.
こうした 見 解 は,所 得 再 分 配 を 単 な る所 得 金 額
適 配 分 機 能 の 一 種 と認 め られ る.
ちな み に,こ の 論 点 は 「あ る地 方 政 府 に よる革 新
の 平 準 化 と捉 え た 上 の 論 点 とい え るだ ろう.し か し
的 な 地 方 公 共 財 の 供 給 が,周 辺 地 域 の 地 方 政 府
な が ら,パ ブ リックア ー トを 地 域 の 固有 価 値 を具 現
が 同 じ手 法 を採 用 す ることに よっ て,結 果 的 に 公
化 す る地 方 公 共 財 と位 置 付 け,所 得 や 教 育 の 階
共 財 供 給 の 効 率 性 の 向 上 を 導 く」とい うオ ー ツ の
層 に よって,地 域 文 化 の 固 有 性 を 享 受 す る能 力 の
指 摘 と重 なっ て い る 〔Oates(1972)p,12〕.実
格 差 が 地 域 社 会 で 生 じてい る点 を課 題 とみ なす な
に,1970年
際
代 以 降,都 市 再 開 発 に お け るパ ブ リッ
らば,そ れ を 是 正 す るとい う意 味 で の 所 得 再 分 配
クア ー ト整 備 が 世 界 的 な 広 が りを み せ て お り,た と
とい うの は 十 分 可 能 で は ない か と思 わ れ る.ス ロス
え ば マ クナ ル ティは 都 市 開 発 を 通 じた 都 市 イメー
ビ ー らの 論 考 は 単 に各 家 計 収 入 の 格 差 是 正 に 芸
ジ の 改 善 の重 要 性 を指 摘 す る13).個別 の作 品 が ど
術 支 援 政 策 の 外 部 性 が 貢 献 す る余 地 は 少 な い こ
の 程 度 地 価 の 上 昇 に貢 献 した の か を実 証 す ること
とを述 べ て い るに過 ぎ ず,こ こで は,パ ブ リックア ー
は 容 易 で は ない が,イ ギ リス の アンケ ー ト結 果 か ら
トによる所 得 再 分 配 政 策 を 「
地 域 の 固有価 値 を把
も,都 市 間 競 争 に 生 き残 る戦 略 の 一 つ として パ ブ
握 す る基 礎 となる個 人 の選 好 開 発 の 際 に 発 生 す
リックア ー トは 認 知 され てい ることが うか が え,他 の
る機 会 費 用 を 安 価 に す る」と位 置 付 け て お け ば,
代 替 策 よりも資 源 配 分 上 の 効 率 性 が 高 い 可 能 性
そ の 可 能 性 は 十 分 認 め られ る の で は な い だ ろ う
を秘 めて い ることが わ か るだ ろう14).
か.
次 に,パ ブリックアー ト整 備 に お ける所 得 再 分 配
最 後 に,シ ュスター が 提 示 した都 市 文 化 政 策 の6
的 な 側 面 を とりあ げ るが,具 体 的 に は,ふ だ ん 芸
っ の 基 本 方 向 を 適 用 して,今 回 議 論 した 地 方 公
術 に触 れ ない 青 少 年 や 低 所 得 階 層 が 無 料 で芸 術
共 財 として の パ ブ リックア ー トの 多 様 な 側 面 を整 理
体 験 できる外 部 性 を期 待 で きるか と思 わ れ る.そ こ
す ることに しよう.パ ブ リックア ー ト整 備 に よる資 源
で,芸 術 支 援 政 策 の 最 も重 要 な 課 題 の 一 っ に 「教
の 最 適 配 分 機 能 は,シ ュス ター の 示 した 「地 域 内
育 機 関 による専 門 的 訓 練 と作 品 鑑 賞 の 体 験 を 通
へ の 資 源 ・資 金 の誘 因 」「芸 術 活 動 を含 め た 都 市
した 個 人 の 芸 術 選 好 の 開 発 」を位 置 づ け るピ ー コ
開 発 事 業 の 推 進 」「地 域 経 済 開 発 ・観 光 産 業 の 促
ックの 主 張 を適 用 す れ ば,こ れ は 日常 生 活 空 間 に
進 」に 適 合 す る.ま た,所 得 再 分 配 機 能 は,彼 の
芸 術 作 品 を鑑 賞 す る体 験 を安 価 に 提 供 す る外 部
文 脈 で は 「地 方 財 政 の 意 思 決 定 プ ロセ ス の啓 発 」
性 と理 解 できるだ ろ う15).さらに,低 所 得 者 をそ の
「草 の 根 ・コミュニ ティを基 礎 とした 調 査 ・
企 画 の推
空 間 か ら排 除 しな い な ら,パ ブ リックア ー トに よっ て,
進 」に 相 当 す ると考 え られ る.そ して 「芸 術 分 野 へ
中 低 所 得 階 層 の 生 活 環 境 を質 的 に 改 善 す る効 果
の 財 政 支 出 の 増 加 」に 関 して は,先 に 紹 介 した パ
も期 待 で きるか もしれ な い.し か し,一 見 す るとこの
ブ リックア ー ト整 備 財 源 を 自 動 的 に 確 保 す る1%
点 は 「全 国 一 律 の所 得 再 分 配 政 策 と比 較 した場 合,
fbrArt制
地 方 政 府 の所 得 再 分 配 政 策 の効 率 性 は 一般 的
て は まる16).ち な み に,前 項 で パ ブ リックア ー トの
102
度 が 全 米 各 都 市 で構 築 され た ことが 当
地 方 公 共 財 としての パ ブリックアー ト
公 共 財 的 側 面 として示 した 「芸 術 表 現 上 の 革 新 」
もう一 つ の 課 題 とは,地 方 政 府 が(パ ブ リックア ー
「
地 域 イメー ジ の 設 定 」は,必 ず しも個 人 消 費 を 前
ト整 備 を含 めた)地 域 住 民 の精 神 的 な 充 足 を 支 援
提 としな い ことか ら,あ る種 の 地 域 住 民 の 選 択 需 要
す る行 政 サ ー ビスを推 進 す る時,ど の ように多 様 な
に基 づ く政 策 とみ な され,都 市 文 化 政 策 の範 疇 に
住 民 の 価 値 観 ・選 好 を集 合 的 に 把 握 し,政 策 とし
はい るか 否 か は 議 論 が 分 か れ るか と思 われ る.
て 反 映 す れ ば よい の か とい う論 点 で ある.特 にパ
ブ リックア ー トに 対 す る住 民 の 集 合 的 な選 好 把 握
3.4パ ブ リックアー ト整 備 の 財 政 問 題
にっ い て は,社 会 政 策 や 経 済 政 策 と異 な り,既 存
これ までの 検 討 か ら,地 域 住 民 の選 好 をより反 映
の 統 計 資 料 は 参 考 にな らず,新 たな 調 査 も莫 大 な
しや す い 地 方 政 府 がパ ブ リックア ー トの 供 給 を担 う
費 用 が 見 込 まれ る上 に,必 ず しも住 民 の真 の 選 好
正 当 性 をい くっ か の 要 素 か ら示 す ことが で きた.そ
が 顕 示 され るとは 限 らな い.と なれ ば,そ れ を集 合
の 半 面,地 方 公 共 財 として の パ ブ リックア ー トの 将
的 に 把 握 す るな ん らか のイ ンセ ン テ ィヴ を組 み 込
来 課 題 として 「
価 値 財 供 給 として の パ ブ リックアー ト
ん だ 具 体 的 施 策 を 私 た ち は 模 索 す る必 要 が あ る
が 抱 える危 険 性 」「多 様 な 住 民 選 好 の 集 合 的 把 握
の で は ない だ ろうか18).
この 問 題 に 関 連 して,ピ ラミッド型 の 官 僚 機 構 シ
を前 提 とす ることの 難 しさ」の2点 が 見 受 け られ た.
は じめ に,政 府 主 導 の パ ブ リックア ー ト整 備 をあ る
ス テムそ の もの が 住 民 の集 合 的 な選 好 を 把 握 す る
種 の 価 値 財 供 給 とみ な す 時,そ れ が 行 き過 ぎ ると
障 害 とな ってい る可 能 性 にふ れ て お きた い 。「
ピラ
民 主 主 義 体 制 そ の もの を 危 機 に 陥 れ る可 能 性 に
ミッド原 理=職
ふ れ てお きたい.
方 政 府 組 織 は,同 質 的 な 公 的 欲 求 を 効 率 的 に具
確 か に,都 市 開 発 に 関 す る規 制 緩 和 や 個 別 プ ロ
能 別 の 分 業 」を前 提 とす る現 在 の地
現 化 す る に は 適 してい るもの の,多 様 な住 民 の 価
ジェクトに対 す る補 助 金 等,中 央 政 府 が 地 方 政 府
値 観 ・選 好 を集 合 的 に把 握 す るに は 不 向 きな組 織
の 取 り組 み を援 助 す る理 論 的 根 拠 は オ ー ツの 議
形 態 であ り,そ のイン セ ンテ ィブ も十 分 持 ち合 わ せ
論 か らも認 め られ た が,住 民 の 多 様 な 選 好 を均 一
てい な い と考 え られ る19).別の 見 方 をす れ ば 「下 か
な欲 求 として位 置 付 け が ち な 中 央 政 府 がパ ブ リッ
ら上 へ の報 告 と上 か ら下 へ の命 令 とい う連 鎖 」で 各
クアー ト整 備 を担 う時,民 主 主 義 体 制 の 崩 壊 や 全
階 層 が 結 び 付 い て い る官 僚 機 構 は,市 場 競 争 に
体 主 義 国 家 による思 想 統 制 に 結 び 付 ぐ危 険 性 が
直 面 す る企 業 と異 な って,社 会 環 境 の 変 化 に瞬 時
そ こに 含 まれ て い る17).中央 政 府 による均 一 的 な
に対 応 す ることに も不 向 きで あ る.地 方 政 府 が 効
価 値 財 供 給 としてのパ ブ リックア ー ト設 置 政 策 が 大
率 的 に地 方 公 共 財 を供 給 で きる根 拠 の一 つ として,
衆 運 動 を 巻 き起 こした結 果,多 数 派 に よる少 数 意
オ ー ツは 「
多 様 な地 域 住 民 の 選 好 を 把 握 し,事 業
見 の 圧 殺 を促 した とい う1930年 代 の 欧 州 にお け る
一 連 の歴 史 的 事 実 を思 い 起 こせ ば
,そ の 危 うさを
に は 全 く言 及 しな か った.実 際 に,多 くの パ ブ リッ
に反 映 させ る利 点 」を 強 調 した が,そ の 把 握 方 法
充 分 認 識 できるだ ろう〔
美 術 手 帳 編 集 部(1993)81
∼94ペ ー ジ〕.ナ チ ス による古 典 主 義 的 ドイツ芸 術
クア ー ト整 備 の 現 場 で は,「 独 善 的 に 芸 術 家 を選
の 称 揚 に 伴 う理 想 的 人 物 像 の 巨 大 彫 刻 設 置,お
前 説 明 を しな い まま,作 品 を設 置 す る」等,地 方 政
よび 表 現 主 義 や バ ウハ ウス等 の 「退 廃 芸 術 」の排
府 は 時 として 上 位 者 として 傲 慢 に ふ るまい が ち で
斥,ム ッソリー 二 に 支 持 され た イタリア の 芸 術 家 グ
ある.
考 し制 作 を委 託 す る」「周 辺 地 域 住 民 に 十 分 な事
ル ー プ に よる 「壁 画 宣 言 」(芸術 を人 民 に 奉 仕 させ
さまざ まな 制 約 の な か で,実 際 に 作 品 を提 供 す
る政 策 のもと芸 術 は 社 会 的 機 能 をもっ),「 芸 術 は
る芸 術 家 の能 力 を 最 大 限 引 き出 す こと,お よび 作
民衆 の 思 考,感 情,概 念,夢 等 を 同 化 す る」とす る
品 を 受 け 入 れ る地 域 住 民 の 集 合 的 選 好 を把 握 し
ソビエ ト連 邦 の 国 家 的 文 化 政 策 に よる大 型 野 外 彫
作 品 に 反 映 させ る ことをパ ブ リックア ー ト整 備 に お
刻 設 置 等 がそ の 代 表 的 事 例 で あ る.
ける地 方 政 府 の 果 た す べ き役 割 と認 識 す る時,残
103
財政 学研 究 第22号
念 な が ら,現 実 に は そ の水 準 まで 達 して い な い 場
しか し,す べ ての パ ブ リックア ー トで 「
地 域 文化 の
合 が 多 く見 受 け られ る.「住 民 の 多 様 な 選 好 の 集
固 有 性 」と「現 代 芸 術 の 抱 え る普 遍 的 な 芸 術 性 」と
合 的 把 握1と い う政 策 課 題 か ら触 発 され た 地 方 自
の バ ランス をとることは 決 して容 易 な ことで は な い
治 体 経 営 論 に 関 して は,別 稿 で 詳 しく議 論 した い
だ ろう.あ る地 方 政 府 で 成 功 した 理 想 的 なパ ブ リッ
と考 え てい るが,こ の 問 題 の核 心 は 「ピラミッド原 理
クア ー ト整 備 制 度 を別 の 地 方 政 府 が 導 入 しても,
を 基 礎 とす る政 府 組 織 が パ ブ リックア ー トを芸 術 家
そ の運 用 は 非 常 に 困 難 で あって,多 くの 地 方 政 府
に 発 注 し,地 域 住 民 に 押 し付 ける 」とい う上 か らの
が パ ブ リックア ー ト整 備 に 失 敗 した ことも歴 史 的 な
委 託 業 務 形 式 を取 り止 め,地 方 政 府,地 域 住 民,
事 実 で あ る.そ の 要 因 として は,1)地 域 の 固 有 性
芸 術 家 とい う三 者 のポ リエ ー ジ ェントな 関 係 を構 築
と国 際 的 な 芸 術 的 価 値 との 両 方 を調 整 し,具 現 化
し,「意 味 の 共 有 化 ネ ットワ ー クの 形 成 として の パ
す ること自 体 の 困 難 さ,2)そ の 上 で,多 様 な 住 民
ブ リックア ー ト整 備 」へ 転 換 で きるか どうか に か か っ
選 好 の 把 握 とそ れ を作 品 制 作 に 反 映 させ るノウハ
てい る20).
ウを 地 方 政 府 が 蓄 積 す ることの 難 しさの2点 を想 定
そ の 実 現 に 向 けて は,納 税 者 の 学 習 に よる財 政
で きるが,特 に 後 者 に 関 して 言 え ば,先 に 検 討 し
制 御 の 可 能 性 にもふ れ てお か ね ばな らな い だ ろう.
た とお り,ピ ラミッド型 官 僚 機 構 を 組 織 原 則 とす る
本 論 で も,価 値 財 として のパ ブ リックア ー トの 問 題
地 方 政 府 は 多 様 な 住 民 の 選 好 を把 握 す る機 能 を
点 を 指 摘 したが,こ れ を避 け るた め に は,(1)納
税
有 してい な い.地 域 の 固 有 価 値 と普 遍 的 な 芸 術 価
者 の 判 断 の 基 礎 となる個 人 の 選 好 ・価 値 基 準 を開
値 を 具 現 化 す るパ ブ リックア ー トの実 現 を図 るた め
発 す る機 会 を社 会 的 に 保 障 す る,す な わ ち 学 習 し
に は,地 方 政 府 の組 織 形 態 の あ り方 も視 野 に 入 れ
つ つ 発 達 す る個 人 の 存 在 を財 政 理 論 に組 み 入 れ
た検 討 を進 め る必 要 があ るだ ろう。
ること,(2♪ 少 数 者 に 価 値 基 準 を押 し付 け な い よう
そ れ 以 外 の 今 後 の研 究 課 題 として は,政 府 間 関
な,満 場 一 致 で 「互 い の個 性 を 生 か しあ える」雰 囲
係 を視 野 に 入 れ た 芸 術 市 場 へ の 政 府 介 入 に 関 す
気 づ くりの 二 点 が 必 要 条 件 か と思 わ れ る 〔池 上;
る実 証 研 究 や 都 市 空 間 に 設 置 され た パ ブ リックア
ー トか らさらに進 化 した 仮 想 空 間 上 の 芸 術 表 現 と
1990,1996参
照 〕.
政 府 との 関 係 等 が あ げ られ る.い ず れ に しても,個
人 的 な 価 値 観 の 反 映 で あ る芸 術 活 動 と納 税 者 の
1V.ま
とめ
選 好 の反 映 を 目指 す 政 府 活 動 との 関 係 に 関 心 を
抱 い て い きた い.
今 回 の 検 討 を通 して,序 章 で 設 定 した 論 点 は 以
下 の ように明 らか に な った.パ ブ リックア ー トの 外 部
性 をめ ぐ る議 論 で は,パ ブ リックア ー トの 供 給 に よ
註
1)パ ブ リックア ー トとプ ライベ ー
一
一
一
トア ー トとの 境 界 線 は 必
る資 源 の 最 適 配 分 機 能 と所 得 再 分 配 機 能 を示 唆
ず しも明 確 で は な い.た とえ ば,マ コナ シ ー は 「
公 共体
した.ま た,中 央 と地 方 政 府 との 役 割 分 担 に つ い
(含 む 公 立 美 術 館)に 収 蔵 され た 芸 術 作 品 は 除 外 され
る.一 般 的 に は,非 営 利 団 体(政 府 系,企 業 系 問 わ
て は,人 材 育 成 や 法 律 の 整 備,民 間 支 援 の 土 台
ず)が 選 択,出 資 して地 域 住 民 の た め に創 作 した 芸 術
作 り,補 助 金 の 交 付 等,中 央 政 府 の 役 割 が 一 定
作 品 を 指 す 」とパ ブ リックア ー トを 定 義 づ け て い る.
程 度 認 め られ る半 面,オ ー ツの 議 論 を基 礎 に して,
McConathy(1987),p.13参
照.
2)若 桑(1996)は わ が 国 のパ ブ リックア ー トの 特 徴 を 「
裸
地 域 住 民 の 選 好 を反 映 す るパ ブ リックア ー ト整 備
婦 像 」に 見 い 出 し,ジ ェ ンダ ー 論 の 視 点 か ら議 論 を 進
め てい る.ま た,山 岡 編(1994)は
に は 地 方 政 府 が 主 体 的 に 関 わ ることの 重 要 性 が
各 作 品 が 設 置 され て
い る周 辺 環 境 の 状 況 に 注 目 し,「幸 ・不 幸 度 」とい う指
認 め られ た.こ うした成 果 を ふ まえ て み れ ば,地 方
標 か らわ が 国 の パ ブ リックア ー トを調 査 した.
3)パ ブ リックア ー トに 関 す る 欧 米 間 の 差 異 は
公 共 財 としての パ ブ リックア ー トの 可 能 性 は 高 く評
(1990)(1996)の
価 で きるだ ろう.
104
,樋 口
巻 末 解 説 に 詳 しく述 べ られ て い る.ま
地 方公 共 財 としてのパ ブ リックアー ト
た,ア メリカ の パ ブ リックア ー トの 歴 史 を 都 市 開 発 の 視
テ ィ モ ア,イ
点 か ら概 説 した もの として は,平 木(1993),欧
ル,ポ ー トラ ン ドが 紹 介 され て い る.ま た,彼 ら は これ を
"AmenityInfrastructure"と
位 置 づ け てい る
.
米 とわ が
国 の 現 状 を 平 易 に 比 較 解 説 した 入 門 書 として は 杉 村
ン デ ア ナ ポ リス,ミ ネ ア ポ リス ー セ ン トポ ー
14}こ の 調 査 によれ ば
(1995)参 照.
4)芸 術 活 動 に 関 す る税 控 除 シス テ ム につ い て
,芸 術 支
援 政 策 の 欧 米 比 較 の 視 点 か ら論 じ た も の とし て
Shuster(1986)参 照.
5)わ が 国 にも
,こ の 制 度 を導 入 してい る地 方 自治 体 は 多
/4は
,再 開 発 ビル に 入 居 した 企 業 の3
「企 業 イメー ジや 社 会 的 地 位 を 再 開 発 ビル が反
映 して い る」,入居 企 業 の62%が
「
パ ブ リックア ー トが 再
開 発 ビル の イメー ジ を 高 め て い る,地 方 政 府 の 都 市 開
発 担 当 者 の70%は
数 見 受 け られ るが,そ の 大 半 で は,本 論 文 で 展 開 した
「
パ ブ リックア ー トを推 進 して い る」と
芸 術 支 援 政 策 の 論 点 に 触 れ な い まま,パ ブ リックア ー ト
回 答 して い る.詳 しくはRobertsetal.(1993)参
照.
15)経 済 学 で は一 般 的 とされ る 「
消 費者 の選 好や 嗜好を
を「
公 共 施 設 の 単 な るメル ヘ ン チ ックな 装 飾 」と誤 解 し
所 与 と仮 定 した上 で 消 費 者 主 権 原 則 を適 用 す る」点 に
てい る.こ の議 論 に 関 連 した公 共 デ ザイ ンの 「デ ィズ ニ
ー ラン ド化 」の 議 論 につ い て は
,中 川(1996)参 照.
て い る.Peacock(1993)pp.122428参
6)連 邦政 府 の価 値 財 供 給 に関 連 して
関 し,ピ ー コックは 制 約 の 強 い 仮 定 としてこれ を批 判 し
照.こ の 点 に 関
,フ ライドは連 邦
議 会 の入 口や屋 根 に古代 ローマ風 彫刻 が設 置 され て
連 して,早 い 段 階 か ら,彼 は 「
芸 術 団体 へ の補 助金 交
いる 点 に言 及 し,開 拓 時 代 当 時 の 先 住 民 族 を虐 殺 し
る芸 衛 文 化 へ の 選 好 や 嗜 好 を能 力 開 発 す ることを通 し
た 価 値 観 を反 映 して い ると指 摘 してい る.Fryd(1994)参
て,芸 術 鑑 賞 に 対 す る所 得 格 差 の 是 正 」の3点 を芸 術
照.
7}NEAは
支 援 政 策 の 具 体 的 手 法 として 指 摘 して い たことは 注 目
に 値 す る.Peac㏄k(1968)pp.8-14参
照.
16都 市 開 発 と芸 術 活 動 との 関 係 を 論 じた シ ュス ター は,
ケネ デ ィ政 権 下 で 検 討 され
,ジ ョンソン 大 統 領
が設 立 した政 府 か ら独 立 した芸 術 支 援 の た め の 基 金
で あ る.NEA設
付 」「芸 術 団 体 へ の 寄 付 金 に 対 す る税 控 除 」「
教育 によ
立 の背 景 に は,ア メリカ の 首 都 ワシ ン ト
ン に 立 地 す る連 邦 政 府 ビル の デ ザ インの 劣 悪 さを 改 善
す る 目的 もあ っ て,そ れ が 全 米 各 都 市 に お け るパ ブ リ
地 方 政 府 が 担 う都 市 文 化 政 策 の6つ の 基 本 方 向 を示
唆 した.詳 しくはShuster(1988)pp.8-9参
照.
10ナ
チスや 社 会 主 義 国 家 の芸 術 政 策 につ いては
ックア ー ト整 備 へ の 補 助 金 給 付 に結 び 付 い た 点 は ユ ニ
ー クとい えよう.詳 しくはWetenhall(1992)参
照.ま た,
,
Kay(1983)参 照.
18}公 共 政 策 に お け るニ ー ズ 把 握 の 手 法 に 関 して 「
概
東 西 冷 戦 が 終 結 した1990年 代 に 入 って,連 邦 議 会 で
存 の 情 報 を 分 析 す る方 法 」と「
政 策 内 容 にあ わ せ て新
何 度 もNEA廃
止 が提 唱 され た 上 に,1994年
度 予算 が
たな 情 報 を収 集 す る方 法 」が 想 定 され るが,両 者 の 比
約4割 削 減 され た ことか らも,こ の 見 方 は 裏 付 け られ
較 に つ い て はPortθous(1996)参
る.
8)ア メリカ に お け る芸 術 文 化 施 設 を含 ん だ 複 合 的 都 市
ア ス が 想 定 され る が,こ れ に 関 す る実 証 研 究 として
開 発 事 業 につ い て は,Snedocof(1985)参
照.
9)こ の 分 野 は 特 に1980年 代 以 降 研 究 され は じめ た が
ThrosbyandWither(1986)参
照.
19)牛 嶋(1988)は
,住 民 選 好 の 均 一 性 と多 様 性 に 注 目
し,前 者 に 基 づ く基 本 的 サ ー ビス と多 様 な 価 値 観 に 基
づ く欲 求 に対 応 した選 択 的 サ ー ビス に 区 別 した 上 で ,
,
そ の 背 景 に は1980年 代 初 め の慢 性 的 な スタ グフ レー
ション に 伴 う都 市 製 造 業 の 衰 退 と都 市 サ ー ビス経 済 の
進 展 が うか が わ れ る.た とえ ばPerloff(1979)参
照.都
各 行 政 サ ー ビ ス の 最 適 水 準 を 議 論 して い る.牛 嶋
市 文 化 政 策 に 関 す る経 済 学 的 な ア プ ロー チ を 代 表 す
る近 年 の 論 考 として は,BianchiniandParkinson(eds.)
(1993),EbertandKunzmann(1994),Zukin(1995)を
照.
lo)パ
Robinette(1976)[千
葉 訳(1985)28ペ
(1988)pp.19-24参
照.
20)企 業 活 動 に お け る 組 織 論 とし て は
口(1996)参
参
ブ リッ ク ア ー トの 公 共 性 に つ い て は
照.ま た,文 化 政 策 に
対 す る住 民 の 選 好 顕 示 に つ い て は,様 々 な 情 報 バ イ
,高 木(1996),出
照.ま た,ス トー カ ー らは 「
ヒエ ラル キ ー か ら
ネ ットワー クへ 」とい う地 方 政 府 の 組 織 原 理 の 移 行 を提
言 して い るが,こ れ は 地 方 政 府 を 上 位 とし,業 務 を遂
,
ー シ 参 照],
行 す る企 業 や 非 営 利 団 体 を下 位 に お く契 約 関係 にす
Selwood(1992)P.ll参
照.
1D先 進 地 の 取 り組 み をふ まえ
ぎ ない.彼 等 の概 念 に 高 木 や 出 口 の示 唆 す るポ リエ ー
,長 期 的 にパ ブ リックア ー
トへ の 市 民 意 識 を高 め て きても,実 際 に 作 品 が 設 置 さ
ジ ェント概 念 を組 み 込 む 必 要 が あ るだ ろう.Stokerand
Young(1993)参
照.
れ た,つ まり事 業 が 完 結 した 時 点 で 反 対 運 動 が 起 こる
場 合 も 少 な く な い.こ うし た 事 例 の 一 例 と し て
0℃onner(1992)参 照.
12)Robinette(1976)[千
葉 訳(1985)134∼160ペ
ー シ参
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都 市 環 境 に お ける 野 外 彫 刻 の利 用
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13)McNultyetal
.(1985)Chapter4参
照.都 市 イメー ジ
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105
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