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マウス体内時計と脂質代謝の相互作用解明 Interaction between
マウス体内時計と脂質代謝の相互作用解明 Interaction between mouse circadian clock and lipid metabolism 電気・情報生命専攻 工藤 崇 2007 年 7 月 目次 略語一覧---3 緒言---4 第1章 餌が体内時計に与える影響 1節 高コレステロール食がマウス体内時計に与える影響 序論---9 方法---10 結果---17 考察---31 2節 Ⅱ型糖尿病がマウス体内時計に与える影響 序論---34 方法---36 結果---41 考察---58 3節 Ⅰ型糖尿病がマウス体内時計に与える影響---47 序論---63 方法---63 結果---65 考察---68 第2章 時計遺伝子が脂質代謝に与える影響 1節 時計遺伝子に変異が起こっているマウスに対する高脂肪食の影響 序論---69 方法---70 結果---74 考察---95 2節 時計遺伝子に変異が起こっているマウスに対する高コレステロール食の影響序論---98 方法---100 結果---103 考察---118 第3章 まとめ---121 謝辞---124 1 本論文に関わる研究業績の一覧---125 引用文献---126 2 略語一覧 β-actin actin, beta, cytoplasmic Bmal1 brain and muscle arnt like 1 Bmal2 brain and muscle arnt like 2 CD cholesterol diet cDNA complementary deoxyribonucleic acid Clock circadian locomoter output cycles kaput Dbp D site albumin promoter binding protein DNase deoxyribonuclease ICR Institute of Cancer Research mRNA messenger ribonucleic acid ND normal diet NR4A1 nuclear receptor subfamily 4, group A, member 1 PAI-1 plasminogen activator inhibitor Per2 period homolog 2 (Drosophila) RNA ribonucleic acid RNase ribonuclease RT-PCR reverse transcription polymerase chain reaction SCN suprachiasmatic nucleus TNF-α tumor necrosis factor alpha TGF-β transforming growth factor-β t-PA tissue-type plasminogen activator u-PA urokinase-type plasminogen activator; Vldlr Vldlr very low density lipoprotein receptor ZT zeitgeber 3 緒言 生体の生理機能やその活動は昼夜常に同じ状態を保っているわけではなく、ほぼ 1 日を 周期として変動する概日リズムが存在している。哺乳類においては脳の視床下部にある Suprachiasmatic nucleus(SCN:視交叉上核)が体内時計の中心である。この視交叉上 核を破壊すると体内時計が消失することがわかっている。体内時計は視交叉上核だけでな く、末梢組織にも存在する。この末梢の体内時計は視交叉上核からの液性因子または、神 経因子によって調節されている。 時計遺伝子は、種によってその分子種は異なるが、共通の振動原理で発振される。 その振動原理とは、振動分子が振動分子自身を産生する過程を抑制するネガティブ因 子として働く、ネガティブ・フィードバック機構である。振動周期はネガティブ因子 の産生から抑制までの過程の時間のずれの大きさによって決定される。そのおおもと になっているのは時計遺伝子の発現量の振動である。摂食などの生命活動や様々な生 活習慣病と体内時計との関係について、ヒトの研究に直接結びつくということで最近 関心を持たれている。また時計遺伝子の一つであるBmal1遺伝子が脂肪細胞の分化に関 わっているという報告もある(Shimba et al., 2005)。ところで時計遺伝子によって制 御されている遺伝子は全遺伝子の約10%だという報告がある(Panda et al., 2002)。 この結果は多くの遺伝子が時計遺伝子によって支配されていることを示すものである。 もし、脂質代謝に関係する重要な遺伝子が、時計遺伝子による制御を受けていた場合、 時計遺伝子変異マウスでは脂質代謝に異常が生じる可能性がある。一方で、時計遺伝 子発現は種々の外来刺激に対して応答反応するものがある。すなわち脂質代謝異常に より細胞内情報伝達系が変化すると、そのことが体内時計の遺伝子発現に影響するこ とが十分に考えられる。そこで、本研究ではマウスを用いて、脂質代謝と体内時計の 相互作用を明らかにする研究を行った。 第1章では脂質代謝が体内時計に与える影響を、第2章では体内時計が脂質代謝に与 える影響を検討した。 ・糖尿病について 糖尿病 diabetes mellitus は、人体でみられる重い物質代謝病としてきわめて頻度の高い 病気である。高血糖・糖尿が長期にわたってそのまま放置されると、①全身の小血管がお かされ、動脈硬化が進行して心筋梗塞、四肢の動脈血栓が発症する。また、②網膜症、③ 腎症、④神経炎が発症し回復不能の状態となる。 糖尿病には、すい臓のβ細胞からのインスリンの分泌が期待できないため、インスリン の投与を絶対必要とするインスリン依存型(IDDM 型またはⅠ型)糖尿病と、すい臓から のインスリンの分泌があっても、組織のインスリン感受性が低いか、もしくはすい臓のβ 細胞が、グルコース刺激によってインスリンを十分に分泌できないため、高血糖をおこす インスリン非依存性(NIDDM 型またはⅡ型)糖尿病がある。 4 治療には、遺伝子工学により得られたヒトインスリン製剤を使うが、インスリンを注射 するとブドウ糖の利用がさかんになり、高血糖が正常血糖値に近づく。量が多いと低血糖 となり、脱力感・空腹感・振戦・意識障害があらわれるので、与薬量(単位であらわされ る)には細心の注意が必要である。 インスリン依存型(Ⅰ型)と非依存型(Ⅱ型)糖尿病の比較 Ⅰ型 タイプ Ⅱ型 インスリン依存型 インスリン非依存型 原因 ①ウイルス感染 ②すい臓の形成不全 ③自己免疫 ①肥満・過食 ②運動不足 ③精神的ストレス 発病年齢 20歳以下に多い 40歳以上 糖尿病全体に対する比率 5%以下 90%以上 体格 やせが多い 肥満が多い 血漿インスリン 低い 正常 治療 ①インスリン ②食事 ①食事と運動 ②経口血糖降下薬 ③インスリン 「系統看護学講座 専門基礎5 疾病のなりたちと回復の促進[2] 薬理学」、医学書院、1997から引用 db/db マウスについて アメリカのジャクソン研究所において肥満・過食・高インスリン血症など顕著な糖尿病 症状を自然発症する突然変異系が発見された。これらの形質は第 4 染色体に位置する単一 劣性遺伝子の支配を受けて発症することが確認され、<diabetes>と命名され遺伝子記号 Leprdb で表すことになった。ジャクソン研究所から関西医科大学病理学第1教室に導入・ 維持されていたものを 1992 年、日本クレア(株)が導入し、生産供給を開始した。ホモ個体 (+Leprdb/+Leprdb)は生後 4~5 週齢頃より肥満が始まり、体重の増加に伴い血糖値は上昇し、 尿糖陽性率は生後 10 週齢をすぎる頃には、ほぼ 100%に到達する。ホモ個体の摂餌量はヘ テロ(m +/+ Leprdb)の 1.5~1.8 倍量に達する。また、ホモ・へテロ共に生後 6 週齢頃より尿 蛋白陽性を呈し、陽性率はほぼ 100%に達する。血漿インスリン値の上昇は生後 10~14 日 齢頃より始まり、重症の個体はインスリンを投与しても血糖値のコントロールができず、 糖新生酵素の活性亢進が見られる。腎・肺・心・眼の病理変化は発現し難いが、ランゲル ハンス島β細胞には脱顆粒と退行性変性が見られる。 db/db マウスは 2 つのフェイズに分けることができる。高インスリン期(フェイズ1)と 低インスリン期(フェイズ2)である。10 日齢で観察される血漿中のインスリンの増加は 5 2~3 ヶ月齢まで続く(フェイズ1)。フェイズ1の間は血糖値は正常か少し高いくらいであ る。しかし、2~3 ヶ月齢を過ぎると、血糖値は著しく増加し、死ぬまで高いままである(フ ェイズ2)。 PAI-1 (plasminogen activator inhibitor、プラスミノーゲン活性阻害因子)について A) 一般的性質 糖尿病患者に多い心筋梗塞はプラークの破綻と血栓を基盤として発症する。過剰な血栓 形成を制御するため線維素溶解系(線溶系)が存在する(図4)。非活性型であるプラスミ ノーゲンは組織型プラスミノーゲンアクチベーター (tissue-type plasminogen activator; t-PA) 、 ウ ロ キ ナ ー ゼ 型 プ ラ ス ミ ノ ー ゲ ン ア ク チ ベ ー タ ー に よ り (urokinase-type plasminogen activator; u-PA)によりプラスミンに変換する。線溶系は t-PA、u-PA を阻害 するプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター(plasminogen activator inhibitor; PAI) で抑制され、血栓が溶けにくくなる。生理的に重要なものは肝、平滑筋、内皮などで産生 される PAI-1 である。 B) メカニズム プラスミンはフィブリンや細胞外マトリックスを溶解させるのみならず、トランスフォ ーミング増殖因子β(transforming growth factor-β; TGF-β)、bFGF を活性化または細胞 外マトリックスより遊離させたり、メタプロテアーゼを活性化させたりする。血液ではプ ラスミンが血栓部分のフィブリンを分解する。一方、線溶系因子は血管壁構成細胞の受容 体に結合し、細胞表面のタンパク溶解活性を調節する。細胞表面で生じたプラスミンは周 囲のフィブリンやマトリックスを直接分解したり、マトリックス溶解酵素を活性化するこ とで、周囲のタンパクを分解し、マトリックスターンオーバーや細胞の遊走を調節したり する。 C) 診断・治療との関連 動脈硬化症は近年炎症性疾患としてとらえられている。PAI-1 は急性期タンパク質として 増加する。急性期タンパク質とは感染を含めた炎症性変化に呼応して血中で増加するたん ぱく質のことである。PAI-1 は動脈硬化に伴う炎症の epiphenomenon として上昇するのか、 あるいは血栓形成傾向を介して冠動脈疾患発症の原因として深く関与しているのかは不明 点も多い。急性期タンパク質として PAI-1 などのマーカーと基底にある動脈硬化症との関 連性は強く、動脈硬化による組織障害を反映して二次的に PAI-1 が変化することが理解で きる。 一方、多くの研究が、凝固亢進、線溶低下が血栓症を介して動脈硬化症の発症や進展に 深く関与することを示している。これらを考慮すれば、PAI-1 は根底にある動脈硬化症への 反応として増加するのみならず、その発症の中心に位置する分子のひとつであると考えら れる。動脈硬化のプレクリニカル状態のマーカーとして PAI-1 は他のマーカーより優れて いるか、動脈硬化症の治療効果を測るマーカーとして PAI-1 は有用かについてはデータは 6 限られており、さらなる研究が必要である。 PAI-1活性上昇→線溶系の低下 PAI-1活性低下→線溶系の亢進 PAI-1(プラスミノーゲン・アクチベーター・インヒビター) 抑制 プラスミノーゲン・アクチベーター プラスミン プラスミノーゲン フィブリノーゲン フィブリン フィブリンペプタイド A, B 繊維素溶解系のカスケード 7 フィブリン 分解産物 第1章1節 高コレステロール食がマウス体内時計に与える影響 序論 心疾患や突然死は朝に起こりやすいという報告がある(Mukamal et al., 2000; Muller et al., 1987)。原因の一部として繊維素溶解系の低下が考えられる。繊維素溶解系の重要な因 子である Plasminogen activator inhibitor-1 (PAI-1)の活性はヒトにおいて朝に高く夜に低 いという日内変動を示す(Andreotti et al., 1988; Huber et al., 1988)。よって、心筋梗塞が 午前中に多い(Muller et al., 1987)という現象は PAI-1 の日内変動が関与している可能性が る。その理由として Pai-1 mRNA が脂肪細胞、肝臓、腎臓、特に心臓で多く発現している からである(Sawdey and Loskutoff, 1991)。これらの臓器から放出された PAI-1 は繊維素溶 解系を促進すると考えられる。Pai-1 mRNA は in vitro と in vivo の両方で日内変動を示 している(Javitt, 1990; Minami et al., 2002b)。また、in vitro において BMAL2-CLOCK と BMAL1-CLOCK によって E-box を介して上昇し(Hua et al., 1999)、PER2 と CRY1 に よって減少する(Javitt, 1990; Schoenhard et al., 2003)。末梢組織において体内時計が Pai-1 遺伝子の日内変動と関わっていることが予想されるが、Pai-1 遺伝子がどのようにし て体内時計によって制御されているかは明らかになっていない。 血中の脂質の変化は内皮の機能に大きな影響を与えるので、とても重要である。この点 に関して高コレステロール血症と内皮細胞の変化に関係があるという報告がある (Chowienczyk et al., 1992; Dart and Chin-Dusting, 1999; Zeiher et al., 1991)。組織型プ ラスミノーゲン・アクチベーターの減少または PAI-1 の増大は繊維素溶解系を阻害し、ヒ トにおいて高コレステロール血症と関係している(Geppert et al., 1998; Oubina et al., 2002) 。 一 方 で 高 脂 肪 食 は Pai-1 の 日 内 変 動 に 影 響 を 与 え な い と い う 報 告 も あ る (Marckmann et al., 1993)。 これらのことをふまえて、本研究においては高コレステロール食がマウス肝臓における Pai-1 遺伝子発現の日内変動を明白にするまたは全体的な発現量を上げるかどうかを解明 することを目的とする。さらに、高コレステロール食によって肝臓の Pai-1 遺伝子発現が上 昇しているときでも体内時計の制御を受けているかどうかを解明するために時計遺伝子で ある Per2 と Bmal1 遺伝子とクロック・コントロールド・ジーンである Dbp(Wuarin and Schibler, 1990; Yamaguchi et al., 2000)と E4bp4(Mitsui et al., 2001)を調べた。 PAI-1 の合成は TNF-αや NR4A1 のような様々なセカンド・メッセンジャー・シグナリ ング経路によって制御されている(Eriksson et al., 1998; Gruber et al., 2003; Stiko-Rahm et al., 1990)。よって、高コレステロール食によって上昇した Pai-1 遺伝子が Nr4a1、Tnf- α、そして Vldlr 発現と関係しているかを調べた。 8 方法 実験動物と餌 高杉実験動物(埼玉、日本)から6週齢のオスのICRマウスを購入した。マウス明暗 環境下で飼育され(12時間明期、12時間暗期、朝8時30分点灯、室温23℃)、制限 給餌の実験を除いては餌と水は自由に与えた。加齢の影響を調べるため、普通食で3、6、 12ヶ月齢になるまで飼育した。本研究においてサイトゲーバー・タイム(ZT; ZT0は 点灯、ZT12は消灯時刻)を用いた。コントロール群には普通の餌を6週間与え、コレ ステロール群はコレステロール食(1%コレステロール(重量/重量)、0.5%コール酸(重 量/重量))を6週間与えた。 ・コレステロール食条件下における肝臓と心臓における Pai-1 遺伝子の日内変動 マウスを明暗周期下で飼育し、6 週間普通食またはコレステロール食を与えた後、ZT1、 7、13、19に肝臓、心臓、血液をサンプリングした。肝臓と心臓の Pai-1 遺伝子と肝臓 の総コレステロールを測定した。 0w 普通食または コレステロール食開始 6w ZT1 ZT7 ZT13 ZT19 ・コレステロール食条件下における肝臓の Pai-1 遺伝子発現に対する加齢の影響 3、6そして12ヶ月齢のマウスにコレステロール食を 2 週間与え、ZT13に肝臓を サンプリングした。肝臓の Pai-1 遺伝子と総コレステロールを調べた。 0w 普通食または コレステロール食開始 2w ZT13 9 ・コレステロールによって上昇した肝臓の Pai-1 遺伝子発現の回復 マウスに 4 週間コレステロール食を与えた後、普通食群には普通食を、コレステロール 食群にはコレステロール食を 2 週間与えた。その後、ZT1、7、13、19で肝臓をサン プリングした。肝臓の Pai-1 と Per2 遺伝子を調べた。 0w コレステロール食開始 4w 普通食または コレステロール食 6w ZT1 ZT7 ZT13 ZT19 ・コレステロール食条件下における肝臓の時計遺伝子とクロック・コントロールド・ジー ンの日内変動 マウスに 2 週間普通食またはコレステロール食を ZT17-21 に与えた。その後、ZT1、7、 13、19で肝臓をサンプリングした。肝臓の Per2、Bmal1、Dbp、E4bp4、Pai-1、Nr4a1、 Tnf-α、そして Vldlr を調べた。 制限給餌 0w ZT17 普通食または コレステロール食 で制限給餌開始 ZT21 2w ZT1 ZT7 ZT13 10 ZT19 ・コレステロール食によって発現が上昇した肝臓の Pai-1 遺伝子に対するSCN破壊の影響 マウスに 4 週間普通食またはコレステロール食を与え、SCN 破壊群には SCN 破壊を行 った。コントロール群は SCN 破壊を行わなかった。その後、さらに 2 週間コレステロール 食を与えた後、ZT1、7、13、19で肝臓をサンプリングし、Pai-1 と Per2 遺伝子を調 べた。SCN 破壊群は SCN 破壊後 2 週間行動リズムを計測し、SCN が破壊されているかど うか確かめた。 0w コレステロール食開始 4w SCN破壊群はSCN破壊 コレステロール食 6w ZT1 ZT7 ZT13 ZT19 ・時計遺伝子と Pai-1 遺伝子の制限給餌による同調 マウスに 4 週間普通食またはコレステロール食を与えた。その後、昼の制限給餌群には ZT5-9、夜の制限給餌群には ZT17-21 に 2 週間コレステロール食を与え、ZT1、7、13、 19に肝臓をサンプリングした。肝臓の Pai-1、Tnf-α、Nr4a1、Vldlr、そして Per2 遺伝 子と総コレステロールを調べた。 11 昼の制限給餌 0w コレステロール食開始 制限給餌 4w ZT5 ZT9 コレステロール食で制限給餌 6w ZT1 ZT7 ZT13 ZT19 夜の制限給餌 0w コレステロール食開始 制限給餌 4w コレステロール食で制限給餌 ZT17 ZT21 6w ZT1 ZT7 ZT13 ZT19 RNA抽出とRT-PCR マウスにエーテル麻酔をかけ、肝臓と心臓を素早く採取した。その後、液体窒素に入れ、 RNA抽出を行うまでは-80℃で保存した。Isogen(ニッポン・ジーン、東京、日本) を用いてトータルRNAを抽出した。抽出したRNAは RQ1 RNase-Free DNase(プロメ ガ)を用いて37℃で30分 DNase 処理を行った。mRNA の発現量を測定するために半 定量的RT-PCR法を用いた。100ng のトータル RNA を逆転写し、スーパースクリプト・ ワンステップ・RT-PCR システム(インビトロジェン)と GeneAmp PCR システム 9700 (アプライド・バイオシステムズ)を用いて増幅した。Per2、Bmal1、Dbp、E4bp4、Tnf- 12 α、Vldlr、Pai-1、そしてβ-actin 遺伝子の特異的なプライマーを設計し、使用した。プラ イマー配列を表 1 に示した。RT-PCRは以下のような条件で行った。cDNA 合成:5 0℃30分、PCR酵素の活性化:94℃2分、熱変性:94℃15秒、アニーリング: 55℃30秒、伸長反応:68℃1分。サイクル数は26-30サイクルの間で行った。 PCR産物は全て26-30サイクルの間で直線的に増えた(β-actin は28サイクル、 Per2 は28サイクル、Bmal1 は28サイクル、Dbp は26サイクル、E4bp4 は29サイ クル、Tnf-αは30サイクル、Vldlr は28サイクル、Pai-1 は28サイクル)。プライマー について、β-actin はエクソン4-5と5-6の境界を、Per2 はエクソン3-4、4-5、 そして5-6の境界を、Bmal1 はエクソン1-2、2-3、3-4、4-5そして5-6 の境界を、Dbp はエクソン2-3の境界を、Tnf-αはエクソン1-2、2-3、3-4、 4-5、そして5-6の境界を Vldlr はエクソン17-18、18-19の境界を、Pai-1 はエクソン3-4、4-5、5-6、6-7、7-8の境界をはさむように設計した。3 2サイクルでは全てのPCR産物が飽和状態になった。PCR産物は3%アガロースゲル で電気泳動し、エチジウムブロマイドにつけてからEDAS-290システム(Kodak) で解析した。標的遺伝子のPCR産物の密度はβ-actin によって補正した。先行研究におい て、この条件でマウス肝臓の時計遺伝子の日内変動を観察することができた(Terazono et al., 2003)。 13 表1 Sequences of primer pairs used to amplify each PCR product Predicted GenBank Size Accession No. Gene Primer (Sense: upper/Antisense: lower) 5’-3’ (bp) β-actin GAGGGAAATCGTGCGTGACAT 452 ACATCTGCTGGAAGGTGGACA Per2 (695-1146) CAGACTCATGATGACAGAGG 381 GAGATGTACAGGATCTTCCC Bmal1 CACTGACTACCAAGAAAGTATG 344 CTGAAGGAAAAGGAGCGCAA 426 TTTTGTGGACGAGCATGAGCCTG 288 AACTTCGGGGTGATCGGTCC 593 M13049 (317-909) ACGTCAGCTGCCTGGGCCATCCTT 231 CAGATCATCATCTGTGCTTACAAC Pai-1 AY061760 (489-776) TGGGGGCTGGGTAGAGAATG Vldlr BC01823 (485-910) TGGGAGTAAGTGGAGAAAGAGC Tnf-α AB014494 (535-878) TCCCTAGATGTCAAGCCTGC E4bp4 AF036893 (381-761) ATCCATCTGCTGCCCTGAGA Dbp X03672 U06670 (2567-2797) TCAGAGCAACAAGTTCAACTACACTGAG CCCACTGTCAAGGCTCCATCACTTGCCCCA 14 539 M33960 (809-1347) 制限給餌の実験 制限給餌の実験は Wakamatsu らの方法に準じて行った(Wakamatsu et al., 2001)。1日 の絶食の後(day0 と定義)、昼の制限給餌群は14日間ZT5からZT9までの4時間のみ 餌を与えた。制限給餌の実験において水は自由に与えた。夜の制限給餌群はZT17から ZT21の4時間のみ餌を与えた。マウスは14日目のZT1、7、13、そして19に サンプリングした。 血清と肝臓のコレステロール測定 各マウスから採取した血液(500-700μl)を遠心して血清を得た。血清のサンプル(20 μl)の総コレステロールをコレステロール E-test キット(和光、大阪、日本)を用いて 測定した。肝臓の総コレステロールは以下のようにして測定した。各マウスから採取した 肝臓 0.2g を50mMの塩化ナトリウム溶液に入れホモジナイズし、4mlのクロロホルム ーメタノール(2:1、体積/体積)溶液に加えた。有機層のサンプル(50μl)を Triton X-100 7.5mg と混ぜ、有機層を蒸発させた後、Triton X-100 に含まれる脂質をコレステロール E-test キットを用いて測定した。 SCN破壊 ICR マウスをケタミン・セラクタール混合麻酔下で頭部を固定し切開し、Bregma 点よ り 0.5mm 後方から温度モニターのあるステンレス・スチール電極(外径 0.7mm、先端 1.5mm、Muromachi Kikai, RFG-4A)を深さ 5.5mm に挿入した。55℃15秒で SCN を 熱破壊した。麻酔からさめた後、マウスを行動測定装置の中に入れた。手術から2週間後 カイ 2 乗ピリオドグラム(Sokolove and Bushell, 1978)を用いて明暗条件下の行動リズムを 解析し、完全にSCNが破壊されているマウスを選んだ。SCN破壊を行ったマウス 20 匹 のうち 12 匹が完全に行動リズムを失っていたので実験に使用した。実験終了後、脳を取り 出しSCN破壊部位を確認した。 統計処理 値は平均値±標準誤差で示した。有意性の判定には、Student’s t-test、1要因の分散分析 (one-way ANOVA)、2 要因の分散分析(two-way ANOVA)を用いた。 15 結果 コレステロール食条件下における肝臓と心臓におけるPai-1 遺伝子の日内変動 コレステロール食は血清の総コレステロールを 104±13mg/dl から 166±12mg/dl へと有 意に上昇させ(P<0.01、Student’s t-test、データ示さず)、肝臓の総コレステロールも 2.5 ±0.2mg/g から 15.9±3.4mg/g へと有意に上昇させた(P<0.01、Student’s t-test、データ 示さず)。0.5%のコール酸(重量/重量)を混ぜた餌は血中の総コレステロールと肝臓の Pai-1 発現に影響しなかった(データ示さず)。 普通食において、心臓の Pai-1 遺伝子は夜にピークを持つ有意な日内リズムを示した(F[3, 20]=9.1, P<0.01, one-way ANOVA, 図 1)が、肝臓の Pai-1 遺伝子は有意な日内リズムを示 さなかった(F[3, 20]=1.1, P>0.05, 図 1)。一方でコレステロール食を 6 週間食べさせた後 は肝臓において Pai-1 遺伝子はZT13にピークを持つ有意なリズム性を示した(F[3, 20]=17.8, P<0.01, one-way ANOVA, 図 1 A と B)。普通食群とコレステロール食群を比較 すると肝臓の Pai-1 遺伝子発現には有意な差があったが(F[3, 40]=16.6, P<0.01, two-way ANOVA, ZT x diet interaction, 図 1 B)、心臓の Pai-1 遺伝子発現には有意な差は無かった (F[3, 40]=0.46, P>0.05, two-way ANOVA, ZT x interaction, Fig.1 B)。肝臓の総コレステ ロールに関して普通食群、コレステロール食群共に日内変動を示さず、コレステロール群 の総コレステロールは普通食群より有意に高かった(F[1, 40]=117, P<0.01, diet effect, one-way ANOVA, 図 1)。 16 Cholesterol Diet A ZT1 Normal Diet ZT7 ZT1 ZT7 ZT13 ZT19 ZT13 ZT19 β -actin Pai-1 β -actin Relative pai-1 mRNA (%) B 2000 Liver Heart ** 300 1600 ** 1200 800 # 200 100 1 7 13 19 0 1 Normal Diet 図1 ## ** 400 0 (ZT) ## ## 7 13 19 Cholesterol content (mg / g tissue) Pai-1 Heart C 20 15 Liver ** ** ** ** 10 5 0 1 7 13 19 Cholesterol Diet 普通食またはコレステロール食条件下における肝臓と心臓の Pai-1 遺伝子の日内変 動 (A) ZT1、7、13 そして 19 における2群(普通食群とコレステロール食群)のPCR産 物の電気泳動の写真。丈夫の白い四角と黒い四角はそれぞれ明期と暗期を示す。(B)β-actin によって補正された Pai-1 遺伝子の相対的発現量の日内変動(n=6)。一番低い遺伝子発現の 値を 100 とした。よって、それぞれの値は最低値からの変化率(%)を示す。**P<0.01 対 普通食群 (two-way ANOVA followed by Student’s t-test)。##P<0.01, #P<0.05 対 ZT1 群 (one-way ANOVA followed by Fisher PLSD test)。(C) 肝臓の総コレステロールの日内変動。 **P<0.01 対普通食群 (two-way ANOVA followed by Student’s t-test)。 17 コレステロール食条件下における肝臓のPai-1 遺伝子発現に対する加齢の影響 3、6そして12ヶ月齢のマウスにコレステロール食を 2 週間与え、ZT13にサンプ リングを行った。なぜならば、普通食群とコレステロール食群の差が一番大きいのがZT 13 だからである(Fig.1 B)。肝臓の Pai-1 遺伝子発現に関して、コレステロール食群は普 通食群よりも発現量が高かった(F[2, 12]=4.5, P<0.05, two-way ANOVA, aging x diet interaction, 図 2 A と B)。コレステロール食群の肝臓における Pai-1 遺伝子発現は加齢に 依存しており、12 ヶ月齢で一番高かった(P<0.01、対 3 ヶ月齢、Student’s t-test、図 2 B)。 全ての年代で肝臓の総コレステロールはコレステロール食群の方が普通食群より高かった (P<0.01、対普通食群、Student’s t-test、Fig.2 C)が、全ての年代においてほぼ同じ値だ った(図 2 C)。 18 3 A 6 months old 12 ND CD ND CD ND CD β -actin B Pai-1 1600 ## ** 1200 ** 800 400 ** 0 3 6 12 C Cholesterol 20 Concentration (mg / g tissue) Relative mRNA (%) Pai-1 ** ** ** 10 0 3 ND CD 6 12 months old 図 2 マウス肝臓におけ Pai-1 遺伝子発現における加齢の影響。 (A) PCR産物の電気泳動の写真。(B)3、6、そして 12 ヶ月齢マウスの肝臓における Pai-1 遺伝子発現と(C) 総コレステロール(それぞれ n=3)。ND:普通食、CD:コレステロール食。 ##P<0.01 対 3 ヶ月齢マウス(one-way ANOVA followed by Fisher PLSD test)。**P<0.01 対普通 食群 (two-way ANOVA followed by Student’s t-test)。 19 コレステロールによって上昇した肝臓のPai-1 遺伝子発現の回復 4 週間のコレステロール食の後、2 週間普通食を与えるとコレステロール食によって上昇 した肝臓の Pai-1 遺伝子発現(F[3, 8]=18、 P<0.01、one-way ANOVA、図 3 B)は元に戻 った。肝臓の Pai-1 遺伝子に関して普通食群のリズム性とコレステロール食群のリズム性に は有意差があった(F[3, 16]=13.5、P<0.01、two-way ANOVA、ZT x diet interaction、図 3 B)。肝臓の Per2 遺伝子発現はコレステロール食の影響を受けなかった(F[3, 16]=0.5、 P>0.05、two-way ANOVA, ZT x interaction、図 3 C)。 20 A Cholesterol ZT1 ZT7 Normal ZT13 Cholesterol Cholesterol ZT1 ZT13 ZT19 ZT7 ZT19 β -actin Per2 Pai-1 Relative mRNA (%) B 1600 1200 800 Pai-1 ** ** * ** 400 0 1 7 13 400 Normal Diet Cholesterol Diet Per2 300 200 100 0 1 19 (ZT) 7 13 19 (ZT) 図 3 コレステロール食から普通食にしたときの肝臓における Pai-1 と Per2 遺伝子発現。 マウスに 4 週間コレステロール食を与え、半分のマウスにはさらに 2 週間コレステロー ル食を与え、もう半分のマウスには 2 週間普通食を与えた。 (A) PCR産物の電気泳動の 写真。丈夫の白い四角と黒い四角はそれぞれ明期と暗期を示す。(B) Pai-1(左)と Per2(右) 遺伝子の日内変動。**P<0.01,*P<0.05 対普通食群(two-way ANOVA followed by Student’s t-test). 21 コレステロール食条件下における肝臓の時計遺伝子とクロック・コントロールド・ジーン の日内変動 コレステロール食を与えたとき、コレステロール食を一定の時間帯だけに食べている可 能性がある。そのよう場合、コレステロール食が重要なのではなく、食べている時間帯が 重要になってくる。食べている時間帯が重要なのではなく、コレステロール食が重要であ ることを調べるために、餌を与える時間を ZT17-21 に固定した。時計遺伝子のポジティブ 因子の1つである Bmal1 遺伝子発現は肝臓においてZT1またはZT7でピークを示した (図 4 A と B)。時計遺伝子のネガティブ因子の1つである Per2 は肝臓においてZT19 にピークを示した(図 4 A と B)。クロック・コントロールド・ジーンである Dbp と E4bp4 に関して、Dbp は肝臓においてZT13にピークを示し(図 4 A と B)、E4bp4 は肝臓にお いてZT1にピークを示した(図 4 A と B)。肝臓においてコレステロール食は時計遺伝子 とクロック・コントロールド・ジーンの振幅や位相に影響を与えなかった(図 4 B)。 普通食群とコレステロール群を比較すると、肝臓の Pai-1 (F[3, 16]=12.9、P<0.01、 two-way ANOVA、ZT x diet interaction、図 4 B)と Nr4a1(F[3, 16]=11.2、P<0.01、two-way ANOVA、ZT x diet interaction、図 4 B)には有意な差があった。よって、コレステロール 食は Pai-1 と Nr4a1 の mRNA 発現を高めていると考えられる。一日の平均ではコレス テロール食群は普通食群と比較して Pai-1 遺伝子は 3.9 倍、Nr4a1 遺伝子は 4.5 倍に増えて いた。一方、普通食群コレステロール食群共に肝臓の Tnf-αと Vldlr は弱いリズム性を示 した(図 4 B)。しかしながら、コレステロール食は Tnf-α(F[1, 22]=5.0、P<0.05、one-way ANOVA、図 4 B)と Vldlr(F[1, 22]=10.9、P<0.01、one-way ANOVA、図 4 B)の発現量 を上げた。 Pai-1 遺伝子と Nr4a1 遺伝子の間には有意な正の相関性があった(r=0.84、P<0.01、図 4 C)が、Pai-1 遺伝子と Tnf-α遺伝子の間には弱い相関性が(r=0.51、P>0.05、図 4 C)、 Pai-1 遺伝子と Vldlr 遺伝子の間には有意な相関性は無かった(r=0.30、P>0.05)。Nr4a1 遺伝子と Tnf-α遺伝子、Nr4a1 遺伝子と Vldlr 遺伝子、Tnf-α遺伝子と Vldlr 遺伝子の間 には有意な相関性は無かった。 22 Normal Diet A ZT1 ZT7 Cholesterol Diet ZT13 ZT19 ZT1 ZT7 ZT13 ZT19 β-actin Per2 Bmal1 Dbp E4bp4 Pai-1 Nr4a1 Tnf-α Vldlr B 500 2000 Per2 NS NS 250 Bmal1 1000 NS NS 0 200 0 1600 NS NS Dbp NS NS 800 0 2500 Pai-1 500 Vldlr 7 13 (r=0.84, **) 1000 Pai-1 2000 0 19 (ZT) 1 13 200 0 1000 2000 Pai-1 23 ## NS 19 (ZT) (r=0.30, NS) (r=0.51, *) 400 0 7 900 Vldlr 1 Nr4a1 0 ** 250 Tnf-α Relative mRNA (%) # NS Tnf-α 1000 0 ## 800 0 150 2000 Nr4a1 ## ** 500 0 300 C E4bp4 0 1600 1500 0 100 450 0 0 1000 Pai-1 2000 図4 コレステロール食を与えられたマウスの肝臓の時計遺伝子とクロック・コントロール ド・ジーン。 本実験においては、時計遺伝子とクロック・コントロールド・ジーンの位相を固定する ため給餌時間は 2 週間の間、夜の 4 時間に制限した。(A)PCR産物の電気泳動の写真。上 部の白い四角と黒い四角はそれぞれ明期と暗期を示す。(B)肝臓の時計遺伝子とクロック・ コントロールド・ジーンの日内変動。黒丸:普通食、白四角:コレステロール食。NS:有 意さ無し。 **P<0.01 as evaluated by two-way ANOVA (ZT x diet interaction) between normal and cholesterol groups. NS:有意差無し。##P<0.01, #P<0.05 as evaluated by one-way ANOVA (diet effect) between normal and cholesterol groups. (C) Pai-1 遺伝子と Nr4a1、Tnf-α、または Vldlr 遺伝子と相関関係。普通食またはコレステロール食の 24 サンプル(普通食 12 サンプル、 コレステロール食 12 サンプル、各ZTポイントにつき 3 匹)を示した。黒と灰色はそれぞ れ普通食とコレステロール食を示す。r値は 24 サンプルの相関係数を示す。 24 コレステロール食によって発現が上昇した肝臓のPai-1 遺伝子に対するSCN破壊の影響 コレステロール食を4週間与えたあと、SCN破壊を行った。さらに2週間コレステロ ール食を与えた後、肝臓の Pai-1 遺伝子と Per2 遺伝子を調べた。SCNを破壊した後では Pai-1 遺伝子(F[3, 8]=0.10、P>0.05、one-way ANOVA、図 5 A と B)、Per2 遺伝子(F[3, 8]=1.5、P>0.05、one-way ANOVA、図 5 A と B)共に有意なリズム性は無かった。 25 Control A ZT1 ZT7 ZT13 ZT19 SCN lesion ZT1 ZT7 ZT13 ZT19 β-actin Per2 B Relative mRNA (%) Pai-1 Pai-1 400 300 ** 200 100 0 1 7 13 19 (ZT) Per2 300 ** control SCN lesion 200 100 0 1 7 13 19 (ZT) 図 5 SCN破壊後の肝臓の Pai-1 と Per2 遺伝子発現。 マウスに 4 週間コレステロール食を与えた後、SCN破壊群にはSCN破壊を行った。 その後さらに 2 週間コレステロール食を与え、行動リズムが乱れているか確認した。 コ ントロール群にはそのままコレステロール食を与えた。コントロール群とSCN破壊群と もに各点 3 匹の動物をサンプリングした。(A) PCR産物の電気泳動の写真。上部の白い四 角と黒い四角はそれぞれ明期と暗期を示す。 (B)肝臓の Pai-1(左)と Per2(右)遺伝子の 日内変動。**P<0.01 対コントロール群。(two-way ANOVA followed by Student’s t-test). 26 時計遺伝子とPai-1 遺伝子の制限給餌による同調 制限給餌それ自身が Pai-1 遺伝子の発現量や位相に影響する可能性を調べるため、4週間 コレステロール食を自由摂食させたマウスに昼または夜にコレステロール食で制限給餌を 2週間行った。夜の制限給餌と比較して昼の制限給餌は肝臓の Pai-1 遺伝子のピークをZT 1-19からZT7 に前進させた(図 4 B、図 6 A と B)。昼の制限給餌と夜の制限給餌を 比較すると、肝臓の Pai-1(F[3, 16]=13.6、P<0.01、two-way ANOVA、ZT x diet interaction、 図 6 B)、Per2(F[3, 16]=16.0、P<0.01、two-way ANOVA、ZT x diet interaction、図 6 B)、 Nr4a1(F[3, 16]=9.3、P<0.01、two-way ANOVA、ZT x diet interaction、図 6 B)遺伝子 発現の日内変動には有意な差があった。実際、これらの遺伝子のピークは夜の制限給餌と 比較して昼の制限給餌では6-12時間前進していた。昼の制限給餌と夜の制限九時で肝 臓の総コレステロールに差は無かった(図 6 C)。 27 Cholesterol Diet A ZT1 ZT7 ZT13 ZT19 ZT1 ZT7 ZT13 ZT19 β-actin Per2 Pai-1 Nr4a1 Tnf-α B Vldlr 800 Pai-1 600 ** 400 200 0 7 400 300 200 19 (ZT) NS 0 1 7 ** 13 19 (ZT) Vldlr 300 200 NS 100 1 7 13 19 (ZT) Per2 ** 1 7 13 0 C Concentration (mg/ g tissue) Relative mRNA (%) 13 Nr4a1 400 300 200 100 0 200 100 1 100 0 Tnf-α 300 19 (ZT) 28 1 7 13 19 (ZT) Cholesterol 30 15 0 1 7 13 19 1 7 13 19 (ZT) 図 6 時計遺伝子とクロック・コントロールド・ジーンに対する昼の制限給餌の位相前進効 果。 マウスにコレステロール食を 4 週間与え、半分のマウス(各点 n=3)には夜の制限給餌を 2 週間行い、残りの半分には昼の制限給餌を 2 週間行った。(A) PCR産物の電気泳動の写 真。上部の白い四角と黒い四角はそれぞれ明期と暗期を示す。制限給餌の時間は灰色の四 角で示した。(B) 時計遺伝子とクロック・コントロールド・ジーンの日内変動を相対値で示 した。黒丸:夜の制限給餌、白い四角:昼の制限給餌。NS:有意差無し。 **P<0.01 as evaluated by 2-way ANOVA ( ZT x feeding time interaction) between daytime and nighttime RF groups. (C)昼 または夜の制限給餌を行ったマウスの肝臓の総これすれロールの値。 29 考察 本実験においてマウスの心臓において Pai-1 遺伝子の明白なリズムと肝臓での発現が弱 いことを確認できたが、Per2 や Bmal1 遺伝子のような時計遺伝子は明白なリズムを示した (データ示さず)。この結果は、普通食条件下で Pai-1 遺伝子が心臓ではリズムを示したが、 肝臓ではリズムを示さなかったという先行研究と一致する(Mohri et al., 2003)。コレステロ ール食は肝臓の Pai-1 遺伝子発現を強く上昇させたが、心臓の Pai-1 遺伝子発現にはほとん ど影響しなかった。コレステロール食が肝臓の Pai-1 遺伝子発現を上げたが、心臓の Pai-1 遺伝子発現にほとんど影響を与えなかったことは、コレステロール食による Pai-1 遺伝子の 上昇が組織によって違うことを示している。組織特異的な Pai-1 遺伝子の誘導は先行研究で も報告されている(Yamamoto et al., 2002)。拘束ストレスによってマウスの Pai-1 遺伝子が 肝臓、腎臓そして副腎では強く誘導されるが、肺、心臓そして脳では誘導されないという ものである。 コレステロール食条件下において、SCN 破壊を行ったマウスの肝臓の Pai-1 と Per2 遺 伝子のリズムは消失した。これは Pai-1 遺伝子がクロック・コントロールド・ジーンである こ と を 示 し て い る 。 Pai-1 遺 伝 子 の プ ロ モ ー タ ー 解 析 に よ っ て 、 プ ロ モ ー タ ー に CLOCL-BMAL1 と CLOCK-BMAL2 が結合する E-box があり、Pai-1 遺伝子の転写を上げ ることがわかっている(Maemura et al., 2000; Schoenhard et al., 2003)。しかし、コレステ ロール食は肝臓の時計遺伝子である Per2 と Bmal1、クロック・コントロールド・ジーンで ある Dbp と E4bp4 に影響を与えなかった。コレステロール食条件下において SCN を破壊 したマウスの肝臓の Pai-1 遺伝子はリズムを失っていたが、発現量は高かった。よって、コ レステロール食によって誘導される肝臓の Pai-1 遺伝子のリズムの明白性には発現量の高 さは必要ではなく、時計遺伝子またはクロック・コントロールド・ジーンのリズム性が必 要であると考える。したがって、コレステロール食はマウス肝臓の末梢時計には影響を与 えていないと考える。 本実験において、肝臓の Tnf-αと Vldlr 遺伝子は、コレステロール食によって上昇した が、弱いリズムしか示さなかった。TNF-αと VLDL は内皮細胞と HepG2 細胞において転 写を介して PAI-1 の合成を増大することがわかっている(Eriksson et al., 1998; Nilsson et al., 1999; Sawdey and Loskutoff, 1991; Stiko-Rahm et al., 1990)。ヒトにおいて VLDLトリグリセリドの濃度と PAI-1 の量が正の相関を示すという報告がある(Asplund-Carlson et al., 1993)。コレステロール食によって誘導された VLDL と VLPDL レムナントは LDL 受容体と VLDL 受容体によって取り込まれる(Javitt, 1990; Webb et al., 1994)。今回の実験 で6週間のコレステロール食を与えると肝臓のトリグリセライドが有意に上昇することが わかった(普通食:3.4±0.4mg/g、コレステロール食:5.0±0.3mg/g、P<0.05、Student’s t-test)。よって、VLDL は肝臓において PAI-1 の合成につながるシグナル・カスケードを 活性化している可能性がある。 Gruber らは NR4A1 がヒト臍帯静脈内皮細胞において Pai-1 遺伝子プロモーターに特異 30 的に結合する DNA 結合たんぱく質であることを発見した(Gruber et al., 2003)。また、 NR4A1 それ自身が TNF-αによって転写を介して上昇することも発見した。コレステロー ル食条件下の肝臓の Tnf-α、Nr4a1 そして Vldlr 遺伝子の日内変動を調べると、Pai-1 と Nr4a1 遺伝子には強い相関が、Pai-1 と Tnf-α遺伝子には弱い相関が、Pai-1 と Vldlr 遺伝 子には相関が無かった。よって、肝臓の Pai-1 遺伝子は NR4A1 には強く、TNF-αには弱 く制御されており、VLDL には制御されていないと考える。しかし、マウス Pai-1 遺伝子 の上流 10kbp を解析したところ、NR4A1 反応領域(AAAGGTCA)は無かった。よって、 コレステロール食はマウス肝臓において TNF-αの活性化を介して Pai-1 と Nr4a1 遺伝子 を独立に上昇させる可能性がある。したがって、コレステロール食条件下において肝臓の Pai-1 遺伝子発現が明白になることは、NR4A1、TNF-αまたはその他の要因によって直接 的にまたは間接的に引き起こされると考える。普通食条件下においては、時計遺伝子によ る Pai-1 遺伝子のプロモーターの制御は隠されているが、コレステロール食条件下ではその ような制御が明らかになると考える。時計遺伝子が正常に働いているにもかかわらず肝臓 の Pai-1 遺伝子のリズムが隠されるメカニズムについてはさらなる研究が必要である。 加齢の実験においては、コレステロール食条件下、若いマウスよりも年をとったマウス のほうが肝臓の Pai-1 遺伝子発現が強かった。さらに、普通食条件下でも若いマウスよりも 年をとったマウスのほうが肝臓の Pai-1 遺伝子発現が強かった。Yamamoto らは12ヶ月 齢と24ヶ月齢のマウスは8週齢のマウスよりも肝臓の Pai-1 遺伝子発現が強く、12ヶ月 齢と24ヶ月齢のマウスのほうが8週齢のマウスよりも拘束ストレスによる肝臓の Pai-1 遺伝子の発現誘導が大きいことを示した(Yamamoto et al., 2002)。よって、PAI-1 合成の加 齢による影響の詳細なメカニズムはわからないが、本実験の結果を考えると、加齢、コレ ステロール、ストレスすべてが PAI-1 の誘導に関係し、血栓疾患の危険因子になると考え る。 制限給餌の実験について、昼の制限給餌は肝臓の Pai-1、Nr4a1 そして Tnf-αだけでな く Per2 遺伝子の位相をずらした。よって末梢の時計遺伝子とクロック・コントロールド・ ジーンは制限給餌の制御を受けていると考える。興味深いことに、普通食の夜の制限給餌 は肝臓の Pai-1 遺伝子発現に有意なリズム性をもたらしたが、自由摂食(約80%は夜に食 べる)では有意なリズム性をもたらさなかった。よって、夜の制限給餌は体内時計に強い 刺激を与えると考える。摂食条件を変えることによって Pai-1 遺伝子発現を介して繊維素溶 解系の日内変動を制御できる可能性がある。 本実験から明らかになったことは、コレステロール食は肝臓の時計遺伝子には影響を与 えないが、Pai-1 遺伝子の日内変動を明白にしたことである。 31 Vldlr Tnfa コレステロール食 NR4a1 Pai-1 体内時計 32 第1章2節 Ⅱ型糖尿病がマウス体内時計に与える影響 序論 様々な生理的、行動的な現象は内在性の概日リズムによって制御されている。体内時計 の分子機構はいくつかの時計遺伝子とその産物から構成される転写・翻訳のフィードバッ クループに基づいている(Reppert and Weaver, 2002)。例えば、哺乳類に関して、転写因子 を含む塩基性へリックス・ループ・へリックスーPAS ドメインのひとつである CLOCK は BMAL1 とヘテロダイマーを形成し、Per1/2 または Cry1/2 遺伝子の転写を活性化する。一 方、CRY1/2 タンパクは CLOCL:BMAL1 の E-box への結合を抑制的に制御する(Reppert and Weaver, 2002)。時計遺伝子は中心時計が存在する視床下部の SCN だけでなく、他の 脳部位や末梢組織にも発現している。先行研究により哺乳類の末梢組織は普通の状態で中 心時計と同調する末梢時計を持っていること(Damiola et al., 2000)、末梢組織の時計遺伝子 は明白な概日リズムを持っていることがわかっている(Young et al., 2001)。PAI-1 は繊維素 溶解系の主な調節因子でありプロモーターに機能的な E-box を2つ持っており(Hua et al., 1999)、その遺伝子発現は概日時計によって制御されている(Maemura et al., 2000)。 In vitro の実験によってグルコースとインスリンがヒト臍帯静脈内皮細胞において PAI-1 の産生と放出を刺激することがわかっている(Maiello et al., 1992; Pandolfi et al., 1996)。 さらに、血管平滑筋細胞において高血糖が Pai-1 遺伝子の転写を刺激することがわかってい る(Chen et al., 1998)。高血糖はインスリンの放出や活性が絶対的にまたは相対的に阻害さ れるために起こるものであり、それぞれⅠ型糖尿病とⅡ型糖尿病の特徴となっている (Moller, 2001)。 db/db マウスはⅡ型糖尿病モデルマウスとしてよく使われる。このマウスは機能的なレプ チン受容体を欠いており(Chen et al., 1996; Chua et al., 1996)、3-4週齢ぐらいから肥満 を示し、インスリン抵抗性の症状を示す。マウスの肥満は2つの段階に分けることができ る(Herberg and Coleman, 1977; Hummel et al., 1966)。高インスリン段階(フェーズ1) と2-3ヵ月後の低インスリン段階(フェーズ2)である。10日齢から示す血中のイン スリンの増大は2-3ヶ月齢まで増え続け(フェーズ1) 、通常レベルに戻った後、急に下 がりだす。フェーズ1では血糖は正常が少し高いぐらいである。しかし、2-3ヶ月齢で は(フェーズ2)、血糖値は顕著に増え、死ぬまで高いままである。 Rat-1 細胞にグルコースを投与すると Per1 と Per2 遺伝子発現が減少し、時計遺伝子発 現の位相をリセットする(Hirota et al., 2002)。さらに、Rat-1 細胞においてインスリンの急 性投与は Per1 遺伝子発現を増大する(Balsalobre et al., 2000)。これらの発見は、Ⅱ型糖尿 病モデルマウスである db/db マウスの肝臓の時計遺伝子と Pai-1 遺伝子発現を調べるための 手がかりとなる。なぜならば、db/db マウスは高血糖と高インスリンを示すからである。 食事、運動、チアジリジンジオン類の投与などの糖尿病を防ぐための方法が、血中の PAI-1 を下げることがわかっている(Folsom et al., 1993; Fonseca et al., 1998; Minami et al., 33 2002b)。よって、本実験においては、Ⅱ型糖尿病モデルマウスである db/db マウスに餌を 与える時間を制限し、制限給餌またはピオグリタゾンの投与が肝臓の時計遺伝子と Pai-1 遺伝子の異常を回復させるかどうかを調べた。 34 方法 動物 オスの C57BL/Ksj-db/db Jcl (db/db)と C57BL/Ksj-db/+m Jcl (db/+)マウスを日本クレア (東京、日本)から購入した。マウスは制限給餌の実験を除いては餌と水は自由に与えた。 ・db/db マウスの行動と時計遺伝子の日内変動 フェーズ1(6-8 週齢)またはフェーズ2(13-14 週齢)の db/+または db/db マウス の行動を測定した後、ZT0、6、12、18で肝臓と脳をサンプリングした。肝臓の Per1、 Per2、Bmal1、そして Pai-1 遺伝子、脳の Per1 と Per2 遺伝子を調べた。 Day 0 行動測定開始 Day 11 ZT0 ZT6 ZT12 ZT18 ・db/db マウス肝臓の時計遺伝子と Pai-1 遺伝子の制限給餌による回復 フェーズ2(13-14 週齢)の db/+または db/db マウスに 6 日間または 12 日間、夜の制 限給餌(ZT18-22)を行い、体重、摂食量、そして行動データを計測した。その後 ZT0、 6、12、18で肝臓と血液をサンプリングした。肝臓の Per1、Per2、Bmal1、Pai-1、 そして Bmal2 と血中の血糖値、インスリン、トリグリセリドを調べた。 制限給餌 Day0 ZT18 制限給餌開始 Day6 or 12 ZT0 ZT6 ZT12 35 ZT18 ZT22 ・db/db マウス肝臓における時計遺伝子と Pai-1 遺伝子のピオグリタゾンによる回復 フェーズ2(13-14 週齢)の db/+または db/db マウスに 12 日間、ZT12 にピオグリタ ゾン(10mg/kg)を腹腔内投与した。13 日目の ZT6と18に体重を計測し、血液、肝臓を サンプリングした。血液からは血糖値とインスリンを、肝臓からは Per2 と Pai-1 遺伝子を 調べた。 Day1-12 ZT18 ピオグリタゾン(10mg/kg)腹腔内投与 Day13 ZT6 ZT18 RNA抽出とRT-PCR 各点3-6匹のマウスをサンプリングし、RNA を抽出し、RT-PCR を行った。肝臓の時 計遺伝子(Per1、Per2 そして Bmal1)と Pai-1 遺伝子を調べた。 In situ hybridization法 Minami らの方法(Minami et al., 2002a)に従って in situ ハイブリダイゼーション法を行 い、SCN の Per1 と Per2 遺伝子発現量を調べた。 A) 試薬の調整方法 0.4×SSC 4%PFA 4% paraform aldehyde 60mM NaCl 80mM Na2HPO4 6mM C6H5O7Na3・2H2O 2×SSC/50%フォルムアミド溶液 20mM NaH2PO4 2×SSC 50% Formamide 0.3M NaCl 0.3M NaCl 30mM C6H5O7Na3・2H2O 30mM C6H5O7Na3・2H2O 20%ショ糖液 0.6M sucrose 80mM Na2HPO4 20mM NaH2PO4 36 Proteinase K バッファー ハイブリダイゼーションバッファー 60% Formamide 10mM Tris-HCl (pH7.5) 1% Dextran Sulfate 10mM EDTA 0.6M NaCl 1μg/ml Proteinase K 0.25% SDS アセチレーションバッファー 1mM EDTA 0.25% acetic acid RNaseバッファー 0.15% NaCl 0.5M NaCl 0.1M Tris-HCl 10mM Tris-HCl 0.1M Triethanolamine 10μg/ml RNase B) 動物の処置、還流固定および脳切片作成の方法 マウスをエーテルで深麻酔し、開腹した。左心室からカテーテル を 通 し 氷 冷 し た 生 理 食 塩 水 2 5 m l 、 続 い て 氷 冷 し た 4 % P FA 2 5 m l を 還 流 さ せ た 。脳 を 摘 出 し 、4 % P FA 液 内 で さ ら に 一 日 固 定 し( 4 ℃ )、 2 0 % シ ョ 糖 液 に 移 し 、 さ ら に 少 な く と も 二 日 間 静 置 し た ( 4 ℃ )。 直 ちにスライスを作成しなかった場合には、サンプルをドライアイス で 急 速 凍 結 し て 、 - 80℃ で 保 管 し た 。 SCN を 中 心 と し た 厚 さ 40μ m の 冠 状 切 片 を 、 ク リ オ ス タ ッ ト ( CM1850; LEICA 社 、 ド イ ツ ) に よ っ て 作 成 し た 。 mPer1 お よ び mPer2 の プ ロ ー ブ に よ っ て 反 応 さ せ ら れ る よ う に 切 片 を 分 け た 後 、 in situ hybridization を 行 う ま で リ ボ ヌ ク レ ア ー ゼ ( RNase) に 汚 染 さ れ て い な い 容 器 の 2 × S S C 溶 液 の な か で 保 存 し た ( 4 ℃ )。 C) RNA プ ロ ー ブ 岡 村 均 教 授 ( 神 戸 大 学 ) よ り 提 供 し て い た だ い た enzyme-linearized cDNA templates よ り in vitro ト ラ ン ス ク リ プ ションによって cRNA を 合 成 し た 。 こ の 際 、 [ α -33P]UTP (New E n g l a n d N u c l e a r 社 、ア メ リ カ ) を 用 い て 標 識 し た 。そ れ ぞ れ の c R N A nucleotide position は 次 の 通 り で あ る ; mPer1 (538-1752)、 mPer2 (1-638)。 D) in situ hybridization 法 の 詳 細 以下の処理は反応および洗浄は全て振とうしながら行い、処理が 均 一 に な る よ う に し た 。 脳 切 片 を Proteinase K (1.0μ g/ml)で 処 理 した。 ( 3 7 ℃ 、1 0 分 )。4 % P FA を 加 え 反 応 を 止 め( 室 温 、5 分 )、[ 3 3 P ] ラ ベ ル の cRNA プ ロ ー ブ を 含 む ハ イ ブ リ ダ イ ゼ ー シ ョ ン バ ッ フ ァ ー 37 中 で 脳 切 片 を イ ン キ ュ ベ ー ト し た ( 6 0 ℃ 、 o v e r n i g h t )。 プ ロ ー ブ と ハ イ ブ リ ダ イ ズ さ せ た 後 、 脳 切 片 を 2×SSC/50%フ ォ ル ム ア ミ ド 溶 液 で 3 回 洗 浄 し た ( 60℃ 、 1 回 目 45 分 、 2-3 回 目 15 分 )。 非 特 異 的 結 合 に よ る ノ イ ズ を 弱 め る た め に 、 R N a s e 溶 液 で 処 理 し た ( 3 7 ℃ 、 3 0 分 )。 さ ら に 0 . 4 × S S C 溶 液 に 移 し て 洗 浄 し た あ と ( 6 0 ℃ 、 3 0 分 )、 5 0 m M Tr i s - H C l 溶 液 中 に 脳 切 片 を 移 し 、 ゼ ラ チ ンクロムコーティングしたスライドグラスに貼り付けた。 標 本 は 風 乾 し た 後 エ タ ノ ー ル 脱 水 ( 80%、 90%、 95%の 順 に 各 10 秒 、1 0 0 % に 1 分 )し 、X 線 フ ィ ル ム( B i o M a x M R 3 0 × 4 0 c m ; K o d a k 社 、ア メ リ カ )に 暴 露 し た 。フ ィ ル ム を 現 像 し( D 1 9 現 像 液 ; K o d a k 社 、 ア メ リ カ 、 F u j i f i x 固 定 液 ; F U J I F I L M 、 東 京 )、 オ ー ト ラ ジ オ グラムを定量した。 E) 定量の方法 シ グ ナ ル の 定 量 化 に は 、 MCID(micro computer imaging device; I m a g i n g R e s e a r c h I n c . , カ ナ ダ ) シ ス テ ム を 用 い た 。1 4 C マ イ ク ロ ス ケ ー ル (14C-microscale 3 strips 222Bq; Amersham 社 、 イ ギ リ ス ) の 感 光 度 に よ る 検 量 線 を 作 成 し 、 そ れ を 基 準 に 各 部 位 の cRNA プ ロ ーブによる放射線量を数値化した。測定は視交叉上核で行った。発 現量は神経核の両側の平均を算出した。さらに、非特異的結合によ る ノ イ ズ を 除 く た め に Period 遺 伝 子 が ほ と ん ど 発 現 し な い 脳 梁 部 の値を引いた。定量する切片の選択は、X 線フィルムに暴露した後 の標本をクレシルバイオレット染色してカナダバルサムで封入し、 光学顕微鏡下で神経核の存在を確認して行った。上位3切片の値を 平均してその個体の値とした。 クレシルバイオレット染色は、クレシルバイオレット溶液に 5 分 間 つ け た 後 、 80%、 90% 、 95% 、 100% エ タ ノ ー ル に 順 に つ け て い った。 制限給餌の実験 制限給餌の実験は 1 節で述べたような方法で行った。 行動測定 行 動 の 測 定 に は オ ム ロ ン 社 の 赤 外 線 セ ン サ ー ( FA - 0 5 F 5 B ; オ ム ロン社、東京)を用い 5 分間にマウスが赤外線センサーを横切った 回数を調べた。計測結果はパーソナルコンピュータ上に蓄積し、専 38 用 の ソ フ ト ウ ェ ア( T h e C h r o n o b i o l o g y K i t 、バ イ オ リ サ ー チ セ ン タ ー社、名古屋)によって解析した。 血中の血糖値、インスリンそしてトリグリセライドの測定 血糖値の測定には、簡易自己血糖測定器ノボアシストシステム ( Novo nordisk) を 、 イ ン ス リ ン の 測 定 に は イ ン ス リ ン 測 定 キ ッ ト (森永)を、トリグリセライドの測定にはトリグリセライド E-テ スト(和光純薬工業)を用いた。 使用薬物 ピ オ グ リ タ ゾ ン ( 10mg/kg、 経 口 投 与 : 和 光 純 薬 、 大 阪 、 日 本 ) を 0.5%カ ル ボ キ シ ・ メ チ ル ・ セ ル ロ ー ス に 溶 か し 、 ZT12 に 12 日 間 、 db/db マ ウ ス ( 10 週 齢 ) に 投 与 し た 。 1 3 日 目 は ピ オ グ リ タ ゾ ン を 投 与 せ ず 、マ ウ ス を Z T 6 と Z T 1 8 に サ ン プ リ ン グ し た 。d b / d b 、 db/+マ ウ ス の コ ン ト ロ ー ル 群 に は 0.5%の カ ル ボ キ シ ル・メ チ ル・セ ル ロ ー ス を 10ml/kg で 投 与 し た 。 統計処理 実 験 結 果 は す べ て 平 均 値 ±標 準 誤 差 で 示 し た 。 リ ズ ム の 有 意 性 は 一 要 因 の 分 散 分 析 ( O n e - w a y A N O VA ) に よ っ て 有 意 差 を 確 認 し た 後 ( p < 0 . 0 5 )、 Tu r k e y - K r a m e r Te s t を 用 い て 検 討 し た 。 二 群 間 の リ ズ ム の 比 較 に は 二 要 因 の 分 散 分 析 ( Tw o - w a y A N O VA ) に よ っ て 有 意 差 を 検 討 し た ( S t a t Vi e w for Windows version 5.0 、 SAS I n t e r n a t i o n a l 社 )。二 群 間 の 値 の 比 較 に は S t u d e n t ’ s t - t e s t を 用 い た ( E x c e l 2 0 0 3 、 M i c r o s o f t 社 )。 行 動 リ ズ ム の 有 意 性 は カ イ 二 乗 検 定 に よ り 検 討 し た( T h e C h r o n o b i o l o g y K i t 、バ イ オ リ サ ー チ セ ン タ ー 社 、 名 古 屋 )。 39 結果 db/dbマ ウ ス の 行 動 と 肝 臓 に お け る 時 計 遺 伝 子 の 日 内 変 動 半 定 量 的 R T- P C R 法 を 用 い て 明 暗 条 件 下 、 d b / + と d b / d b マ ウ ス の 肝 臓 に お け る 時 計 遺 伝 子 ( Per1、 Per2、 Bmal1) と Pai-1 遺 伝 子 発 現を6時間ごとの4ポイントで調べた。時計遺伝子発現に対する糖 尿 病 の 進 行 の 影 響 を 調 べ る た め 、 フ ェ イ ズ 1 ( 6-8 週 齢 ) と フ ェ イ ズ 2 ( 13-14 週 齢 ) の db/db マ ウ ス を 用 い た 。 コ ン ト ロ ー ル 群 で あ る d b / + マ ウ ス は 明 暗 条 件 下 明 白 な 行 動 リ ズ ム を 示 し た ( 図 7 A )。 db/+マ ウ ス で は フ ェ イ ズ 1 、 フ ェ イ ズ 2 共 に す べ て の 時 計 遺 伝 子 が 明 白 な リ ズ ム を 示 し た ( F i g . 7 B と C )。 d b / + マ ウ ス の 時 計 遺 伝 子 発 現を1要因の分散分析で解析したところ、すべて有意なリズム性が あ っ た ( フ ェ イ ズ 1 : Per1 、 F[3, 20]=8.3 、 P<0.01 ; Per2 、 F[3, 20]=12.9、 P<0.01; Bmal1、 F[3,19]=8.4、 P<0.01; フ ェ イ ズ 2 : P e r 1 、 F [ 3 , 1 9 ] = 11 . 9 、 P < 0 . 0 1 、 P e r 2 、 F [ 3 , 1 9 ] = 1 2 . 2 1 8 、 P < 0 . 0 1 ; B m a l 1 、 F [ 3 , 1 9 ] = 2 2 . 9 、 P < 0 . 0 1 、 図 7 C )。 P e r 1 と P e r 2 遺 伝 子 の ピ ー ク は 夜 だ っ た が ( P e r 1 : Z T 1 2 、 P e r 2 : Z T 1 8 、 図 7 C )、 B m a l 1 遺 伝 子 の ピ ー ク は 朝 だ っ た ( Z T 0 、 図 7 C )。 フ ェ イ ズ 1 の db/db マ ウ ス の 行 動 リ ズ ム は 少 し 乱 れ て い た ( 図 7 A )。 し か し 、 フ ェ イ ズ 1 の d b / d b マ ウ ス ( n = 8 ) の 行 動 リ ズ ム を カ イ2乗ピリオドグラムで解析するとすべて有意なリズム性があった。 フ ェ イ ズ 1 の db/db マ ウ ス で は す べ て の 時 計 遺 伝 子 が 有 意 な 日 内 変 動 を 示 し( P e r 1 、F [ 3 , 8 ] = 7 . 7 、P < 0 . 0 1; P e r 2 、 F [ 3 , 8 ] = 4 . 3 、 P < 0 . 0 1 ; B m a l 1 、 F [ 3 , 8 ] = 3 7 . 4 、 P < 0 . 0 1 、 1 要 因 の 分 散 分 析 、 図 7 C )、 P e r 2 遺 伝 子 の ピ ー ク 時 刻 は ZT18 か ら ZT12 に 前 進 し た 。 フ ェ ー ズ 1 の db/+マ ウ ス で は ZT6 に お い て 肝 臓 の Per1 と Per2 遺 伝 子 の 発 現 は 低 か っ た が 、 db/db マ ウ ス の Per1 と Per2 遺 伝 子 の 発 現 は 高 か っ た ( P e r 1: 自 由 度 = 9 、P < 0 . 0 5; P e r 2: 自 由 度 = 11 、P < 0 . 0 1 、S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 7 C )。 一 方 、 フ ェ ー ズ 1 の d b / d b マ ウ ス の B m a l 1 遺 伝 子 発 現 は d b / + マ ウ ス の B m a l 1 遺 伝 子 発 現 に 似 て い た ( 図 7 C )。 フ ェ ー ズ 2 の マ ウ ス の 行 動 リ ズ ム は 消 失 し て い た ( 図 7 A )。 カ イ 2 乗ピリオドグラムで行動リズムを分析したところ、フェーズ2の db/db マ ウ ス の 75%( 8 匹 中 6 匹 ) は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 さ な か っ た 。 行 動 デ ー タ の カ ウ ン ト 数 の 1 日 の 平 均 値 は フ ェ ー ズ 2 の db/db マ ウ ス ( 1 8 2 4 ± 6 5 9 ) は フ ェ ー ズ 2 の d b / + マ ウ ス ( 6 0 7 8 ± 11 9 0 ) よ り も 有 意 に 低 か っ た ( 自 由 度 = 8 、 P<0.01、 Student’s t-test、 図 7 40 A )。 フ ェ ー ズ 2 の d b / d b マ ウ ス に お い て P e r 2 遺 伝 子 の リ ズ ム は 消 失 し て お り ( F [ 3 , 8 ] = 2 . 2 、 P = 0 . 1 7 、 o n e - w a y A N O VA 、 図 7 C )、 ま た P e r 1 遺 伝 子 の 発 現 は 上 昇 し て い た( Z T 0:自 由 度 = 7 、P < 0 . 0 5; Z T 6 : 自 由 度 = 8 、 P<0.01; Z T 1 2 : 自 由 度 = 8 、 P<0.01 、 S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 v s . d b / + 、 図 7 C 右 )。 し か し 、 P e r 1 と B m a l 1 遺 伝 子 発 現 に つ い て は 有 意 な リ ズ ム 性 が 残 っ て い た ( Per1 : F [ 3 , 8 ] = 1 2 . 8 、P < 0 . 0 1 、o n e - w a y A N O VA 、図 7 C )。フ ェ ー ズ 2 の d b / d b マ ウ ス で は db/+マ ウ ス と 比 較 し て Bmal1 遺 伝 子 の 振 幅 が 下 が っ て お り 、 ま た 位 相 が 前 進 し て い た ( 図 7 C )。 db/dbマ ウ ス 肝 臓 に お け る Pai-1 遺 伝 子 の 日 内 変 動 フ ェ ー ズ 1 の d b / + マ ウ ス 肝 臓 に お い て 、す べ て の 時 間 帯 に お い て P a i - 1 遺 伝 子 発 現 は 弱 く ( 図 7 C )、 有 意 な リ ズ ム 性 は 無 か っ た が ( F [ 3 , 8 ] = 2 . 3 、 P = 0 . 1 4 、 o n e - w a y A N O VA 、 図 7 C )、 フ ェ ー ズ 1 の db/db マ ウ ス の Pai-1 遺 伝 子 は Z T 1 8 に ピ ー ク を 持 つ 明 白 な 概 日 リ ズ ム を 示 し た( F [ 3 , 8 ] = 1 5 . 0 、P < 0 . 0 1 、o n e - w a y A N O VA 、図 7 C )。 フ ェ ー ズ 2 の db/+マ ウ ス の Pai-1 遺 伝 子 は 弱 い な が ら も 発 現 し て お り 、有 意 な リ ズ ム 性 を 示 し た( F [ 3 . 8 ] = 1 7 . 9 、P < 0 . 0 1 、o n e - w a y A N O VA 、 図 7 C )。フ ェ ー ズ 2 の d b / d b マ ウ ス の P a i - 1 遺 伝 子 は 強 く 発 現 し て お り 、Z T 1 2 に ピ ー ク を 持 つ 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 し た( F [ 3 , 8 ] = 3 . 7 、 p = 0 . 0 6 、 o n e - w a y A N O VA 、 図 7 C )。 41 フェーズ1 (6-8週齢) フェーズ2 (13-14週齢) A 1000 Qp Qp 1000 db/+ 8 8 Time of day 8 0 8 20 22 24 26 28 8 Time of day 8 1000 Qp 8 B Qp 1000 db/db 8 Time of day ZT 0 8 6 0 20 22 24 26 28 8 12 0 20 22 24 26 28 8 Time of day 18 0 8 6 12 0 20 22 24 26 28 18 β -actin db/+ db/db Per1 db/+ db/db Per2 db/+ db/db Bmal1 db/+ db/db Pai-1 db/+ db/db ** 3 C 5 * Per1 2 Per1 * ** 1 0 0 6 12 0 18 0 6 12 18 10 10 ** 5 0 0 30 15 Bmal1 0 Per2 6 12 相対的mRNA値 30 0 *6 12 ** 0 18 0 * 5 0 Pai-1 0 6 ZT 12 0 18 42 6 15 Bmal1 10 Pai-1 0 18 * ** 5 相対的mRNA値 Per2 18 ** ** 6 12 * * 15 10 12 ** 18 * db/+ db/db 5 0 0 6 12 ZT 18 図 7 db/+と db/db マ ウ ス の 時 計 遺 伝 子 の 日 内 変 動 と 行 動 リ ズ ム 。 ああああ 左 の パ ネ ル : フ ェ ー ズ 1 ( 6-8 週 齢 ) の マ ウ ス 、 右 の パ ネ ル : フ ェ ー ズ 2 ( 13-14 週 齢 ) の マ ウ ス 。 A: 12 時 間 の 明 暗 周 期 条 件 下 に お け る db/+( 上 ) と db/db( 下 ) マ ウ ス の 代 表 的 な 行 動 リ ズ ム( ダ ブ ル プ ロ ッ ト )。上 部 の 白 い 四 角 と 黒 い 四 角 は そ れ ぞ れ 明 期 と暗期を示す。右のパネルはカイ 2 乗ピリオドグラムの解析結果を 示 す 。横 軸 は 行 動 周 期 を 縦 軸 は 振 幅( Qp 値 )を 示 す 。 右上がりの 直 線 は 統 計 的 有 意 性 ( p<0.01) を 示 す 。 B: ZT0, 6, 12, そ し て 18 に お け る db/+と db/db マ ウ ス 肝 臓 の P C R 産 物 の 電 気 泳 動 の 写 真 ( 代 表 例 )。 C , β - a c t i n に よ っ て 補 正 さ れ た 時 計 遺 伝 子 ( P e r 1 、 P e r 2 、 Bmal1)と Pai-1 遺 伝 子 の 日 内 変 動 。最 低 値 を 1 と し た 。そ れ ぞ れ の 値 は 平 均 値 ± 標 準 誤 差 を 示 す( 各 点 n = 3 - 6 )。 各 点 に お け る db/+マ ウ ス **p<0.01, *p<0.05 対 ( S t u d e n t ’s t - t e s t ) 。 白 丸 : d b / + 、 黒 丸 : db/db。 43 db/dbマ ウ ス の SCNに お け る Per遺 伝 子 発 現 の 日 内 変 動 フ ェ ー ズ 2 の db/db マ ウ ス の SCN の Per1 と Per2 遺 伝 子 の 発 現 を 4 ポ イ ン ト で 調 べ た 。肝 臓 の P e r 遺 伝 子 と 比 較 し て 、S C N の P e r 1 遺 伝 子 は db/+マ ウ ス の Per1 遺 伝 子 と 比 較 し て 有 意 な 差 は 無 か っ た が ( F [ 1 , 2 6 ] = 1 . 5 、 P = 0 . 2 2 、 t w o - w a y A N O VA 、 図 8 A )、 P e r 2 遺 伝 子 は db/+ マ ウ ス の Per2 遺 伝 子 と 比 較 し て 有 意 な 差 が あ っ た ( F [ 1 , 3 0 ] = 4 . 9 、 P < 0 . 0 5 、 t w o - w a y A N O VA 、 図 8 B )。 44 A Per1 B Per2 ZT ZT 0 6 12 18 0 db/db db/db mRNA強度 (kBq/g) db/+ mRNA強度 (kBq/g) db/+ 20 12 18 10 10 0 6 0 6 12 18 ZT 5 0 0 6 12 18 ZT db/+ db/db 図 8 フ ェ ー ズ 2 の db/+と db/db マ ウ ス の S C N の Per1 と Per2 遺 伝 子 発 現 の 日 内 変 動 。上:各 点 に お け る d b / + と d b / d b マ ウ ス の P e r 1 ( A ) と Per2(B)遺 伝 子 の 代 表 写 真 。 下 : ZT0、 6、 12、 そ し て 18 に お け る db/+と db/db マ ウ ス ( 13-14 週 齢 ) の Per1(A)と Per2(B)遺 伝 子 の 発 現 量 。そ れ ぞ れ の 値 は 平 均 値 ± 標 準 誤 差 を 示 す( 各 点 n = 4 - 6 )。白 丸 : db/+、 黒 丸 : db/db。 45 db/dbマ ウ ス 肝 臓 の 時 計 遺 伝 子 と Pai-1 遺 伝 子 の 制 限 給 餌 に よ る 回 復 フ ェ ー ズ 2 の db/+と db/db マ ウ ス に 明 暗 条 件 下 、 6 ま た は 12 日 間 、 夜 ( ZT18-22) に 制 限 給 餌 を 行 っ た 。 12 日 間 の 制 限 給 餌 を 行 っ た db/+マ ウ ス は 制 限 給 餌 の 前 と 同 じ よ う に 明 白 な 行 動 リ ズ ム を 示 し た ( 図 9 A )。 d b / d b マ ウ ス は 自 由 摂 食 条 件 下 で は 行 動 リ ズ ム は 弱 ま る か 消 失 す る が 、制 限 給 餌 に よ っ て 明 白 な 行 動 リ ズ ム を 示 し た( 図 9 A )。 カ イ 2 乗 ピ リ オ ド グ ラ ム に よ る 解 析 で は 有 意 な リ ズ ム 性 が あ っ た ( 図 9 A )。 制 限 給 餌 に よ っ て 行 動 デ ー タ の カ ウ ン ト 数 も 増 え た ( d b / + マ ウ ス で 1 . 7 倍 、 d b / d b マ ウ ス で 4 . 5 倍 )。 よ っ て 、 制 限 給 餌 を 行 っ て い る 間 は db/+と db/db マ ウ ス の 間 に 行 動 デ ー タ の カ ウ ン ト 数 に 有 意 な 差 は 無 か っ た( 自 由 度 = 8 、p = 0 . 3 6 、S t u d e n t ’ s t - t e s t )。 自 由 摂 食 条 件 下 で 、 db/+マ ウ ス の 時 計 遺 伝 子 は 明 白 な 日 内 変 動 を 示 し た ( 図 9 B と C )。 d b / + マ ウ ス に 関 し て 、 6 日 間 の 制 限 給 餌 は 時 計 遺 伝 子 に 影 響 を 与 え な か っ た が 、 12 日 間 の 制 限 給 餌 は Per2 遺 伝 子 の 振 幅 を 下 げ た ( 図 9 C )。 d b / d b マ ウ ス に 関 し て 、 6 日 間 ま た は 12 日 間 の 制 限 給 餌 に よ っ て 、 リ ズ ム 性 を 消 失 し て い た Per2 遺 伝 子 は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 す よ う に な っ た ( 図 9 C )。 特 に Z T 6 の P e r 2 遺 伝 子 発 現 は db/+マ ウ ス と 同 じ ぐ ら い の レ ベ ル ま で 下 が っ た ( 図 9 C )。さ ら に 、d b / d b マ ウ ス で は 制 限 給 餌 に よ っ て 前 進 し て い た B m a l 1 遺 伝 子 の ピ ー ク が 元 に 戻 り ( Z T 1 8 か ら Z T 0 )、 振 幅 も d b / + と 同 じ ぐ ら い の レ ベ ル ま で 戻 っ た ( 図 9 C )。 自 由 摂 食 条 件 下 で は d b / + マ ウ ス の Pai-1 遺 伝 子 発 現 は 低 か っ た が 、 制 限 給 餌 は そ の 期 間 ( 6 日 と 1 2 日 ) に 依 存 し て P a i - 1 遺 伝 子 発 現 を 下 げ た ( 図 9 C )。 自 由 摂 食 条 件 下 で は db/db マ ウ ス の 肝 臓 の Pai-1 遺 伝 子 は 全 体 的 に 発 現 が 高 か っ た が 、 有 意 な リ ズ ム 性 は 無 か っ た ( F[3,8]=1.06 、 P=0.41 、 o n e - w a y A N O VA 、図 9 C )。6 日 間 の 制 限 給 餌 は d b / d b マ ウ ス の P a i - 1 遺 伝 子 を 下 げ 、1 2 日 間 の 制 限 給 餌 は P a i - 1 遺 伝 子 を 大 き く 下 げ た( 図 9 C )。 制 限 給 餌 に よ っ て 、 d b / d b マ ウ ス の 時 計 遺 伝 子 の 位 相 が d b / + マ ウ ス の も の に 近 く な っ た ( 図 9 C )。 46 db/+ A db/db 行動リズム 夜の制限給餌 β-actin 8 ZT 自由摂食 制限給餌6日 0 8 時刻 1000 制限給餌後 0 20 22 24 26 28 6 8 1000 制限給餌前 12 制限給餌後 Qp Qp 0 20 22 24 26 28 B 8 1000 制限給餌前 Qp 1000 8 時刻 Qp 8 0 20 22 24 26 28 18 0 0 20 22 24 26 28 6 12 18 制限給餌12日 自由摂食 制限給餌6日 Per1 制限給餌12日 自由摂食 制限給餌6日 制限給餌12日 Per2 自由摂食 Bmal1 制限給餌6日 制限給餌12日 Pai-1 自由摂食 制限給餌6日 制限給餌12日 Bmal2 自由摂食 制限給餌12日 C Per1 * 8 * * 4 0 6 12 100 50 2 50 18 10 5 4 ** ## # 0 0 **## 0 6 # 12 # 0 18 Bmal2 Per2 ** 12 6 ## 2 18 0 Bmal1 ## 0 0 6 12 18 ## 12 6 ## 12 18 * 18 ## 0 6 12 18 ZT ** # ** 40 0 # 0 6 12 ZT 47 0 * ## ## # # 0 6 12 18 6 12 18 6 3 ** Bmal1 相対的mRNA値 相対的mRNA値 6 ## Bmal2 5 80 0 0 ## 10 40 0 # Per2 80 # Pai-1 4 0 0 Per1 Pai-1 100 ## 18 0 0 自由摂食 制限給餌6日 制限給餌12日 図 9 フ ェ ー ズ 2 db/+( 左 ) と db/db( 右 ) マ ウ ス 肝 臓 の 時 計 遺 伝 子 と P a i - 1 遺 伝 子 発 現 に 対 す る 夜 の 制 限 給 餌 の 影 響 。( A ) , 制 限 給 餌( 点 が打たれた四角)前後の行動リズムの代表例(ダブルプロット・ア ク ト グ ラ ム で 示 し た も の )。上 部 の 白 い 四 角 と 黒 い 四 角 は そ れ ぞ れ 明 期と暗期を示す。下のパネルはカイ 2 乗ピリオドグラムの解析結果 を 示 す 。 横 軸 は 周 期 を 、 縦 軸 は 振 幅 ( Qp 値 ) を 示 す 。 図 中 の 右 上 が り の 線 は 統 計 的 な 有 意 性 (p<0.01) を 示 す 。 (B), Day6(RF6d) ま た は Day12(RF12d)に お け る ZT0, 6, 12, そ し て 18 の db/+と db/db マ ウ ス の 自 由 摂 食 群 と 制 限 給 餌 群 の P C R 産 物 の 電 気 泳 動 の 写 真 。 (C), β-actin に よ っ て 補 正 さ れ た 各 点 に お け る db/+と db/db マ ウ ス 肝 臓 の 時 計 遺 伝 子 と Pai-1 遺 伝 子 発 現 。 最 低 値 を 1 と し た 。 そ れ ぞ れ 値 は 平 均 値 ± 標 準 誤 差 を 示 す ( 各 点 n = 3 - 4 )。 * * p < 0 . 0 1 , * p < 0 . 0 5 ( R F 6 d 群 対 自 由 摂 食 群 ), ##p<0.01, #p<0.05 (RF12d 群 対 自由摂食群) ( S t u d e n t ’s t - t e s t ) 。白 丸 : 自 由 摂 食 群 ; 黒 丸 : R F 6 d 群 、黒 三 角 : R F 1 2 d 群。 48 制 限 給 餌 の 前 と 後 に db/db マ ウ ス の 血 中 の イ ン ス リ ン 、 血 糖 値 そ し て ト リ グ リ セ リ ド を 測 定 し た 。1 2 日 間 の 制 限 給 餌 は d b / d b マ ウ ス の 血 糖 値 を 全 体 的 に 下 げ ( ZT0: 自 由 度 = 5 、 P<0.05; ZT6: 自 由 度 = 5 、 P < 0 . 0 5; Z T 1 2: 自 由 度 = 5 、 P < 0 . 0 1; Z T 1 8: 自 由 度 = 5 、 P < 0 . 0 1 、 S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 1 0 A )、 Z T 6 に お け る イ ン ス リ ン を 下 げ ( 自 由 度 = 5 、 P < 0 . 0 5 、 S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 1 0 B )、 ト リ グ リ セ リ ド を 全 体 的 に 下 げ た ( ZT0: 自 由 度 = 8 、 P<0.05; ZT6: 自 由 度 = 8 、 P<0.01; ZT12: 自 由 度 = 8 、 P<0.01; ZT18: 自 由 度 = 8 、 P < 0 . 0 1 、 S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 1 0 C )。 ま た 、 1 2 日 間 の 制 限 給 餌 は db/+マ ウ ス の 血 糖 値 を 下 げ ( ZT0: 自 由 度 = 5 、 P<0.01; ZT6: 自 由 度 = 5 、P < 0 . 0 1; Z T 1 8: 自 由 度 = 5 、P < 0 . 0 5 、S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 1 0 A )、 Z T 1 8 に お い て イ ン ス リ ン を 下 げ ( 自 由 度 = 5 、 P < 0 . 0 1 、 S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 1 0 B )、 ト リ グ リ セ リ ド を 下 げ た ( Z T 0 : 自 由 度 = 5 、 P<0.05; ZT12: 自 由 度 = 5 、 P<0.01、 Student’s t-test 、 図 1 0 C )。 49 A 血糖値 B インスリン C トリグリセリド 0 6 * 12 0 18 0 6 12 18 (ng/ml) (mmol/l) * * ** ** 0 ** 0 6 12 5 0 0.2 * 0.0 0 6 ** 12 18 0.6 0.3 * 0 6 0.0 12 ZT 図 10 18 10 40 20 3 mmol/l ** ** mmol/l 5 0 db/db 0.4 10 (ng/ml) db/+ (mmol/l) 6 18 * ** ** ** 0 6 12 自由摂食 制限給餌12日 フ ェ ー ズ 2 の d b / +( 上 )と d b / d b( 下 )マ ウ ス の 血 糖 値( A )、 イ ン ス リ ン ( B )、 そ し て ト リ グ リ セ リ ド ( C ) の 日 内 変 動 に 対 す る 12 日 間 の 夜 の 制 限 給 餌 の 影 響 。 そ れ ぞ れ の 値 は 平 均 値 ±標 準 誤 差 を 示 す( n = 3 - 4 )。* * p < 0 . 0 1 , * p < 0 . 0 5 ( 自 由 摂 食 群 対 R F 1 2 d 群 ) ( S t u d e n t ’s t-test)。 白 丸 : 自 由 摂 食 群 、 黒 丸 : RF12d 群 。 50 18 12 日 間 の 制 限 給 餌 は db/+マ ウ ス に お い て 摂 食 量 を 減 ら し た ( 自 由 度 = 8 、 P < 0 . 0 1 、 S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 11 A )。 し か し 、 d b / + マ ウ スの体重には有意な影響を与えなかった(6 日目:自由度=8、 P = 0 . 1 2; 1 2 日 目: 自 由 度 = 8 、P = 0 . 1 8 、S t u d e n t ’ s t - t e s t 、図 11 B )。 d b / d b マ ウ ス に 関 し て 、制 限 給 餌 は 摂 食 量 を 期 間( 6 日 ま た は 1 2 日 ) に 依 存 し て 有 意 に 減 ら し た ( 6 日 目 : 自 由 度 = 1 1 、 P < 0 . 0 5; 1 2 日 目 : 自 由 度 = 1 1 、P < 0 . 0 1 、S t u d e n t ’ s t - t e s t 、図 11 A )。ま た 、d b / d b マ ウ ス の 体 重 も 期 間( 6 日 ま た は 1 2 日 )に 依 存 し て 有 意 に 減 ら し た ( 6 日 目 : 自 由 度 = 1 1 、P < 0 . 0 5; 1 2 日 目 : 自 由 度 = 1 1 、P < 0 . 0 1 、 S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 1 0 B )。 51 A 12日間の夜の制限給餌の摂食量 (g) 6 * ** ** 6 12 3 0 0 制限給餌開始後の日数 B 12日間の夜の制限給餌の体重 (g) 40 * ** 6 12 20 0 0 制限給餌開始後の日数 52 db/db 自由摂食 db/db 制限給餌 db/+ 自由摂食 db/+ 制限給餌 図 11 d b / d b マ ウ ス 摂 食 量 ( A ) と 体 重 ( B ) に 対 す る 1 2 日 間 の 夜 の 制 限 給 餌 の 影 響 。そ れ ぞ れ の 値 は 平 均 値 ± 標 準 誤 差 を 示 す ( n = 1 2 - 2 4 ) 。 * * p < 0 . 0 1 , * p < 0 . 0 5 ( 自 由 摂 食 群 対 R F 6 群 ま た は R F 1 2 群 ) ( S t u d e n t ’s t - t e s t ) 。白 丸 : d b / d b 自 由 摂 食 群 、黒 丸 : d b / d b R F 群 、白 三 角 : d b / + a d lib 群 、 黒 三 角 : db/+ RF 群 。 53 db/dbマ ウ ス 肝 臓 に お け る 時 計 遺 伝 子 と Pai-1 遺 伝 子 の ピ オ グ リ タ ゾンによる回復 ピ オ グ リ タ ゾ ン の 投 与 が db/db マ ウ ス の 血 中 の 血 糖 値 と イ ン ス リ ン を 下 げ る と い う 報 告 が あ る (Ishida et al., 2004)。 よ っ て 、 ピ オ グ リ タ ゾ ン を db/db マ ウ ス に 投 与 す る こ と に よ っ て 、 末 梢 の 時 計 遺 伝 子に影響を与えることなく、肝臓のグルコースやインスリンなどの 因 子 を 介 し て 、 Pai-1 遺 伝 子 発 現 が 回 復 す る か ど う か を 調 べ た 。 ピ オ グ リ タ ゾ ン の 投 与 は 体 重 を 増 加 さ せ た ( 図 1 2 A )。 特 に Z T 1 8 で は 有 意 に 増 加 し た( 自 由 度 = 7 、P < 0 . 0 1 、S t u d e n t ’ s t - t e s t 、図 1 2 A )。 ま た 、血 中 の 血 糖 値 と イ ン ス リ ン を わ ず か に 下 げ た( 図 1 2 B と C )。 さ ら に 、ピ オ グ リ タ ゾ ン の 投 与 は P e r 2 遺 伝 子 の 発 現 を Z T 6 で 上 げ 、 Z T 1 8 で 下 げ ( 図 1 2 D と F )、 Z T 6 、 Z T 1 8 共 に P a i - 1 遺 伝 子 の 発 現 量 を 下 げ た ( 図 1 2 E と F )。 54 A 体重 D Per2 * ** (g) 40 10 * 20 0 5 ZT6 18 db/+ 6 18 db/db 0 6 18 db/db + ピオグリタゾン B 血糖値 6 18 db/db + ピオグリタゾン 2 相対的mRNA値 (mmol/l) 6 18 db/db Pai-1 E 50 25 0 ZT6 18 db/+ ZT6 18 db/+ 6 18 db/db 6 18 db/db 1 0 ZT6 18 db/+ 6 18 db/db + ピオグリタゾン C インスリン 6 18 db/db + ピオグリタゾン F 電気泳動の写真 12 (ng/ml) β-actin Per2 6 Pai-1 0 ZT6 18 db/+ 6 18 db/db ZT6 18 db/+ 6 18 db/db 6 18 db/db 6 18 db/db + ピオグリタゾン + ピオグリタゾン 55 図 12 体 重 ( A )、 血 糖 値 ( B )、 イ ン ス リ ン ( C )、 そ し て P a i - 1 と P e r 2 遺 伝 子( D - F )に 対 す る 1 2 日 間 の ピ オ グ リ タ ゾ ン( 1 0 m g / k g ) 投 与 の 影 響 。 13 日 目 に 薬 を 投 与 せ ず に ZT6 ま た は ZT18 に サ ン プ リ ングを行った。 ( F ): Z T 6 ま た は 1 8 に お け る d b / + と d b / d b マ ウ ス 肝 臓 の P C R 産 物 の 電 気 泳 動 の 写 真 ( 代 表 例 )。( D ) と ( E ): β - a c t i n に よ っ て 補 正 さ れ た Pai-1 と Per2 遺 伝 子 発 現 。 最 低 値 を 1 と し た 。 そ れ ぞ れ の 値 は 平 均 値 ±標 準 誤 差 を 示 す (各 点 * p < 0 . 0 5 ( S t u d e n t ’s t - t e s t ) . 56 n=3-4) 。 **p<0.01, 考察 本実験における仮説はⅡ型糖尿病で異常を生じた液性因子が末梢 の 概 日 時 計 に 影 響 を 与 え 、 さ ら に Pai-1 遺 伝 子 に 影 響 を 与 え た と い うものである。今回の実験ではⅡ型糖尿病の時計遺伝子とクロッ ク ・ コ ン ト ロ ー ル ド ・ ジ ー ン で あ る Pai-1 遺 伝 子 に 対 す る 影 響 を 調 べ る た め に 、 若 い ( フ ェ ー ズ 1 ) db/db マ ウ ス と 年 を 取 っ た ( フ ェ ー ズ 2 )d b / d b マ ウ ス を 用 い た 。 フ ェ ー ズ 1 と フ ェ ー ズ 2 の db/db マ ウ ス で は P e r 2 遺 伝 子 の 日 内 変 動 は 弱 ま っ て お り ( ま た は 消 失 )、 Per2 の ピ ー ク 時 刻 が ZT18 か ら ZT12 に 前 進 し て い る こ と が 分 か っ た 。 さ ら に 、 db/db マ ウ ス で は Bmal1 遺 伝 子 の ピ ー ク 時 刻 も ZT0 か ら Z T 1 8 に 前 進 し て い る こ と が 分 か っ た 。P e r 1 遺 伝 子 の ピ ー ク 時 刻 は 変 化 し な か っ た が 、 P e r 1 遺 伝 子 の 発 現 量 は フ ェ ー ズ 1 、フ ェ ー ズ 2 と も に db/db マ ウ ス で は 上 昇 し て い た 。 こ れ ら の こ と か ら フ ェ ー ズ 2 の db/db マ ウ ス で は 末 梢 時 計 は 前 進 し て お り 、 リ ズ ム 性 が 弱 くなっていることが分かった。 ストレプトゾトシンを投与されたラットの心臓において時計遺伝 子 の 位 相 が 約 3 時 間 前 進 す る と い う 報 告 が あ る ( Yo u n g e t a l . , 2 0 0 2 ) 。 ストレプトゾトシンはすい臓のランゲルハンス島のベータ細胞を破 壊 し 、 Ⅰ 型 糖 尿 病 を 引 き 起 こ す (Szkudelski, 2001)。 今 回 の 結 果 は Ⅱ型糖尿病でも末梢組織の時計遺伝子の前進を示すというものであ った。 若 い db/+マ ウ ス の 肝 臓 の Pai-1 遺 伝 子 発 現 は と て も 低 か っ た 。 13-14 週 齢 の db/+マ ウ ス の Pai-1 遺 伝 子 発 現 は 6-8 週 齢 の db/+マ ウ ス の Pai-1 遺 伝 子 発 現 よ り も 高 か っ た が 、 こ れ は 加 齢 効 果 に よ る も の と 考 え る 。 興 味 深 い こ と に 、 6-8 週 齢 の db/db マ ウ ス で は ZT18 で の Pai-1 遺 伝 子 発 現 が 特 に 強 か っ た 。 そ の 理 由 と し て は 、 Pai-1 遺 伝 子 発 現 を 活 性 化 す る い く つ か の 因 子 ( Ly o n a n d H s u e h , 2 0 0 3 ) が 、 こ の 時 期 に db/db マ ウ ス で 増 え て お り 、 時 計 制 御 を 受 け て い る と い う 仮 説 が 考 え ら れ る 。1 3 - 1 4 週 齢 の d b / d b マ ウ ス で 観 察 さ れ た P a i - 1 遺 伝 子 の 高 発 現 は 、 P a i - 1 遺 伝 子 発 現 を 高 め る 因 子 ( Ly o n a n d Hsueh, 2003)が 増 え 、 Per1、 Per2、 Bmal1 の よ う な 時 計 遺 伝 子 の 振幅が下がったからだと考えられる。血糖値、インスリン、トリグ リ セ リ ド の 増 加 は 肝 臓 の Pai-1 遺 伝 子 発 現 を 上 げ (Schneider and Sobel, 1996)、 肝 細 胞 に お い て イ ン ス リ ン と ト リ グ リ セ リ ド は 相 乗 的 に Pai-1 の 生 合 成 を 誘 導 す る (Schneider and Sobel, 1996) 。 57 C L O C K: B M A L 2( ま た は B M A L 1 ) の ヘ テ ロ ダ イ マ ー が P a i - 1 遺 伝 子の日内変動を制御している可能性があるという先行研究がある (Maemura et al., 2000)。 こ れ ら 全 て の 要 因 が db/db マ ウ ス の 肝 臓 に お け る Pai-1 遺 伝 子 の 高 発 現 に 関 与 し て い る と 考 え る 。 SCN に お け る 時 計 遺 伝 子 の 発 現 は db/+ ( コ ン ト ロ ー ル 群 )と d b / d b マウスとの間で有意な差は無かった。よって、Ⅱ型糖尿病モデルマ ウ ス で あ る db/db マ ウ ス で は SCN の 中 心 時 計 は 変 化 し て お ら ず 、 糖尿病によって引き起こされた末梢時計の位相の前進や振幅の現象 は SCN の 中 心 時 計 が 変 化 し た た め で は な い と 考 え る 。 フ ェ ー ズ 2 の db/db マ ウ ス は 自 由 摂 食 条 件 下 で 、 行 動 リ ズ ム を 失 っ た 。 フ ェ ー ズ 2 の db/db マ ウ ス の SCN の 時 計 遺 伝 子 の 日 内 変 動 は 正 常 な の で 、 行 動 と 肝 臓 の 時 計 遺 伝 子 の リ ズ ム 性 の 消 失 は 、S C N の 中 心 時 計 の リ ズム性の消失が原因なのではなく、行動や末梢時計を制御する出力 機構の異常が原因と考えられる。老齢動物を使った同じような結果 が 報 告 さ れ て い る 。 そ れ は 、 SCN の 時 計 遺 伝 子 発 現 は 正 常 だ が 、 行 動 リ ズ ム に 異 常 が 生 じ て い る と い う も の で あ る (Asai et al., 2001)。 よ っ て 、 db/db マ ウ ス に お い て は 肥 満 が 行 動 の 低 下 に 関 与 し 、 過 食 が行動リズムの消失に関与していると考える。 機 能 的 な レ プ チ ン レ セ プ タ ー を 欠 い て い る (Chua et al., 1996; Phillips et al., 1996)肥 満 の Zucker( fa/fa) ラ ッ ト (Clark et al., 1983; Murakami et al., 1995)の 概 日 リ ズ ム は 体 温 、 行 動 共 に 弱 く なっていたが、光条件に関係なく痩せたコントロールマウスと同じ よ う な リ ズ ム が 続 い た (Murakami et al., 1995)。 一 方 、 db/db マ ウ ス は 行 動 リ ズ ム は 弱 ま り 、 フ ェ ー ズ 2 の db/db マ ウ ス の 約 7 5 % は リ ズ ム を 失 っ た 。f a / f a ラ ッ ト と d b / d b マ ウ ス は 共 に 機 能 的 な レ プ チ ン 受 容 体 を 欠 い て い る が (Chen et al., 1996; Chua et al., 1996)、 db/db マ ウ ス と は 異 な り 、 fa/fa ラ ッ ト は 緩 や か な 高 血 糖 を 示 す が (Clark et al., 1983)、 こ れ は 遺 伝 的 な バ ッ ク グ ラ ウ ン ド が 異 な る た め だ と 考 え る 。 肥 満 の fa/fa ラ ッ ト は 血 糖 値 が 比 較 的 正 常 状 態 に 近 い か 、ま た は 少 し 高 い 程 度 で あ る ( I o n e s c u e t a l . , 1 9 8 5 ; S t e r n e t a l . , 1 9 7 2 ; Z u c k e r a n d Z u c k e r, 1 9 9 6 ) 。 よ っ て 、 d b / d b マ ウ ス は f a / f a ラ ットと比較して顕著なリズムの消失を示すが、これはより顕著な糖 尿病によるものと考える。 次 の 目 的 は db/db マ ウ ス の 時 計 遺 伝 子 と Pai-1 遺 伝 子 の 異 常 に 対 する制限給餌の回復効果を解明することである。そのため、動物は 58 普段餌を食べている夜間に制限給餌を行った。夜の制限給餌は行動 リ ズ ム を 元 に 戻 し た だ け で は な く 、時 計 遺 伝 子 の 振 幅 も 元 に 戻 し た 。 自 由 摂 食 条 件 下 で 前 進 し て い た db/db マ ウ ス の Bmal1 遺 伝 子 は 夜 の 制 限 給 餌 に よ っ て 正 常 に な っ た 。 減 少 し た Per2 と Bmal1 遺 伝 子 の 振 幅 も 夜 の 制 限 給 餌 で 回 復 し た 。興 味 深 い こ と に 、制 限 給 餌 は db/+ と db/db マ ウ ス の 肝 臓 の Pai-1 遺 伝 子 発 現 を 減 少 さ せ た 。 実 際 、 制 限 給 餌 は db/db マ ウ ス の 血 中 の 血 糖 値 、 イ ン ス リ ン そ し て ト リ グ リ セ リ ド を 減 少 さ せ 、ま た d b / + マ ウ ス の 血 糖 値 と ト リ グ リ セ リ ド も 減 少させた。制限給餌は普通のマウスだけで無く、クロックミュータ ン ト マ ウ ス (Minami et al., 2002b; Oishi et al., 2004)の よ う な 変 異 マウスに対しても、グルコース、インスリンそしてトリグリセリド と同じくらい、末梢の概日時計の強力な同調因子である。制限給餌 は db/db マ ウ ス の グ ル コ ー ス 、 イ ン ス リ ン そ し て ト リ グ リ セ リ ド を 減 ら し た が 、 db/+ マ ウ ス と 比 較 す る と ま だ 高 か っ た 。 制 限 給 餌 は db/db マ ウ ス の Pai-1 遺 伝 子 発 現 を 正 常 レ ベ ル ま で 下 げ た の で 、 グ ル コ ー ス の よ う な 因 子 は 直 接 的 に は 効 い て い な い と 考 え る 。 Pai-1 遺伝子の制御を考えるときには、アンギオテンシンⅡ、遊離脂肪酸 そ し て グ ル コ コ ル チ コ イ ド ( Ly o n a n d H s u e h , 2 0 0 3 ) の よ う な 液 性 因 子も考慮するべきである。 制 限 給 餌 は db/db マ ウ ス の 行 動 の カ ウ ン ト 数 を 上 げ 行 動 リ ズ ム の 有 意 な リ ズ ム 性 を 回 復 さ せ た 。 よ っ て 、 制 限 給 餌 が db/db マ ウ ス の 「行動」を通して遺伝子発現を回復させたという可能性を排除でき ない。この可能性を考えるためには更なる研究が必要である。 ピオグリタゾンは絶食条件下、体重を増やすことによって血中の グ ル コ ー ス や イ ン ス リ ン を 減 ら す の で (Ishida et al., 2004)、 こ の 薬 は db/db マ ウ ス の 時 計 遺 伝 子 発 現 に 影 響 を 与 え る こ と な く Pai-1 遺 伝 子 を 回 復 さ せ る と 考 え て い た 。先 行 研 究 (Ishida et al., 2004)と 同 様に、ピオグリタゾンはグルコースとインスリンをわずかに下げ、 Pai-1 遺 伝 子 発 現 も わ ず か に 下 げ た 。 ピ オ グ リ タ ゾ ン を イ ン ス リ ン と 共 に 投 与 す る と 、 HepG2 細 胞 (Suzuki et al., 2001)や 3T3 -L1 細 胞 (Ihara et al., 2001)に お い て Pai-1 遺 伝 子 を 強 く 誘 導 し た 。 ピ オ グリタゾンのそのような促進効果は、ピオグリタゾンを投与した d b / d b マ ウ ス の グ ル コ ー ス と イ ン ス リ ン の 減 少 を 弱 め 、P a i - 1 遺 伝 子 の 減 少 効 果 を 弱 め る か も し れ な い 。 db/db マ ウ ス の 肝 臓 に お け る Per2 遺 伝 子 の 振 幅 の 減 少 は ピ オ グ リ タ ゾ ン の 投 与 に よ っ て 促 進 さ 59 れた。現時点ではこのメカニズムを説明できないが、ピオグリタゾ ン に よ っ て 引 き 起 こ さ れ た ZT6 に お け る 体 重 の 増 加 が Per2 遺 伝 子 の発現を増加させた可能性があると考える。 これらのことから、ピオグリタゾンよりも制限給餌のほうが末梢 の 時 計 遺 伝 子 の 振 幅 を 回 復 さ せ る 効 果 と Pai-1 遺 伝 子 発 現 を 回 復 さ せる効果が強いと考える。これは糖尿病患者に対して食事療法が有 効であることの証拠にもなる。 本 実 験 か ら 明 ら か に な っ た こ と は 、 db/db マ ウ ス の 行 動 リ ズ ム と肝臓の時計遺伝子に異常が生じていること、制限給餌によって末 梢 の 時 計 遺 伝 子 と Pai-1 遺 伝 子 が 回 復 し た こ と で あ る 。 60 正常化 ・インスリン ・血糖値 ・中性脂肪 視交叉上核 食事制限 × Ⅱ型糖尿病 作用 食事制限 肝臓 × 体内時計 正常化 体内時計 異常 食事制限 Pai-1遺伝子 正常化 作用 × 食事制限 行動異常 行動リズム正常化 61 第 1 章 3 節 Ⅰ型糖尿病がマウス体内時計に与える影響 序論 前節ではⅡ型糖尿病モデルマウスを調べたので、本節においては Ⅰ型糖尿病モデルマウスについて調べた。 方法 13~ 14 週 齢 の 雄 性 ddy 系 マ ウ ス を 使 用 し た 。 ラ ン ゲ ル ハ ン ス 島 ベ ー タ 細 胞 特 異 的 に 破 壊 す る ス ト レ プ ト ゾ ト シ ン( streptozotocin、 STZ) を 投 与 す る こ と に よ り 、 イ ン ス リ ン 依 存 性 糖 尿 病 モ デ ル マ ウ ス を 作 り 、 肝 臓 の 時 計 遺 伝 子 ( mPer1、 mPer2、 mBmal1) と Pai-1 遺 伝 子 の mRNA 発 現 、 行 動 リ ズ ム を 調 べ た 。 サ ン プ リ ン グ は STZ 投 与 後 5 日 目 に Z T 0 、 6 、 1 2 、 1 8 で 行 っ た ( 各 点 n = 3 )。 動物 実 験 に は ddy 系 マ ウ ス ( 高 杉 実 験 動 物 、 埼 玉 ) を 用 い た 。 STZ200mg/kg を 腹 腔 内 投 与 し 、 5 日 後 の ZT0 、 6 、 1 2 、 1 8 に 肝臓をサンプリングした。その際、行動データも測定した。肝臓の Per1、 Per2、 Bmal1、 そ し て Pai-1 遺 伝 子 を 調 べ た 。 Day1 ZT11.5 STZ 200mg/kg Day5 ZT0 ZT6 ZT12 R T- P C R 法 R T- P C R は 前 節 と 同 様 に 行 っ た 。 行動測定 前節と同様に行動測定を行った。 62 ZT20 使用薬物と投与方法 Streptozotocin (STZ, 2-deoxy-2- (3- (methl-3-nitrosoureid)-Dglucopyranose)は 和 光 純 薬 工 業 よ り 購 入 し 、 実 験 動 物 を イ ン ス リ ン 依 存 性 糖 尿 病 に 誘 導 す る た め に 使 用 し た 。投 与 方 法 は 、S T Z を 0 . 1 M ク エ ン 酸 バ ッ フ ァ ー に 懸 濁 し 、 Z T 11 に 腹 腔 内 投 与 ( 2 0 0 m g / k g ) し た。 統計処理 前節と同様に統計処理を行った。 63 結果 ストレプトゾトシンを投与したマウスの肝臓における時計遺伝子 の日内変動と行動リズム 先行研究でストレプトゾトシンを投与した糖尿病のラットの心臓 では時計遺伝子とクロック・コントロールド・ジーンの位相が約 3 時 間 前 進 し て い る こ と が 示 さ れ た ( Yo u n g e t a l . , 2 0 0 2 ) 。 本 実 験 に お いてはストレプトゾトシンを投与したマウスの時計遺伝子発現と行 動リズムを調べた。ストレプトゾトシンを投与されたマウスの投与 後 5 日 目 の ZT12 に お け る 血 糖 値( 29.4±2.4mmol/l)は コ ン ト ロ ー ル マ ウ ス( 7 . 6 ± 0 . 6 9 m m o l / l )よ り も 有 意 に 高 く( P < 0 . 0 1 、S t u d e n t ’ s t - t e s t )、 フ ェ ー ズ 2 の d b / d b マ ウ ス の 血 糖 値 ( 2 4 . 2 ± 1 . 2 m m o l / l ) に近かった。行動データについて、1 日の平均のカウント数はスト レ プ ト ゾ ト シ ン 投 与 に よ っ て 9488±891 か ら 7309±2062 へ と わ ず か に 減 少 し て い た( 自 由 度 = 9 、P = 0 . 3 6 、S t u d e n t ’ s t - t e s t 、図 1 3 A )。 溶 媒 投 与 は 行 動 の カ ウ ン ト 数 に 影 響 を 与 え な か っ た( 投 与 前:11 4 6 9 ± 6 4 9 、 投 与 後 : 1 0 9 5 6 ± 1 9 6 4 )。 Q p 値 に よ る 解 析 で は ス ト レ プ ト ゾ トシン投与により行動リズムはわずかに減少したが、ストレプトゾ トシンを投与した全てのマウスで24時間周期を維持した。 ス ト レ プ ト ゾ ト シ ン を 投 与 さ れ た マ ウ ス で は 、 肝 臓 の Per2 遺 伝 子 発 現 の 日 内 変 動 は 消 失 し 、B m a l 1 遺 伝 子 の ピ ー ク 時 刻 は Z T 0 か ら Z T 1 8 へ 前 進 し た ( 図 1 3 B と C )。 P e r 1 遺 伝 子 の ピ ー ク 時 刻 は ス ト レ プ ト ゾ ト シ ン の 投 与 に よ っ て 影 響 さ れ な か っ た 。 し か し 、 db/db マウスで見られたように、ストレプトゾトシンを投与したマウスの 肝 臓 に お い て コ ン ト ロ ー ル 群 と 比 べ て ZT6 で Per1 と Per2 遺 伝 子 発 現 が 有 意 に 上 昇 し て い た ( P e r 1 : 自 由 度 = 8 、 P < 0 . 0 1; P e r 2 : 自 由 度 = 8 、P < 0 . 0 1 、S t u d e n t ’ s t - t e s t 、対 コ ン ト ロ ー ル 群 、図 1 3 C )。 コ ン ト ロ ー ル 群 、 ス ト レ プ ト ゾ ト シ ン 投 与 群 共 に Pai-1 遺 伝 子 発 現 は 全 て の 時 間 帯 で 低 く 、 2 群 の 間 に 有 意 な 差 は 無 か っ た ( F [ 1 . 1 6 ] = 0 . 0 7 、 p = 0 . 7 8 、 t w o - w a y A N O VA 、 図 1 3 C )。 64 A 行動データ Qp 投与後 1000 Qp 投与前 1000 0 20 22 24 26 28 0 20 22 24 26 28 溶媒 Qp 0 20 22 24 26 28 0 20 22 24 26 28 STZ B 電気泳動の写真 β-actin ZT 溶媒 STZ Per1 溶媒 STZ Per2 溶媒 STZ Bmal1 溶媒 STZ Pai-1 溶媒 STZ 投与後. 1000 Qp 投与前. 1000 0 6 12 18 C 肝臓の遺伝子発現 Per1 ** 5 Per2 * ** ** 10 相対的 mRNA値 5 0 0 6 12 0 18 0 Bmal1 ** 4 0 0 6 12 18 8 50 0 12 Pai-1 * 100 6 18 ZT 65 溶媒 * 0 6 12 18 STZ 図 13 行 動 リ ズ ム 、 時 計 遺 伝 子 、 そ し て Pai-1 遺 伝 子 発 現 に 対 す る ス ト レ プ ト ゾ ト シ ン ( S T Z ) の 影 響 。 (A), 溶 媒 ( 上 ) ま た は ス ト レプトゾトシン(下)投与(矢印)前後の行動リズム(ダブルプロ ット・アクトグラム)の代表例。上部の白四角と黒四角はそれぞれ 明期と暗期を示す。右のパネルはカイ 2 乗ピリオドグラムの解析結 果 を 示 す 。横 軸 は 行 動 周 期 を 縦 軸 は 振 幅( Qp 値 )を 示 す 。右 上 が り の 線 は 統 計 的 な 有 意 性 ( p<0.01) を 示 す 。 (B), ZT0, 6, 12, そ し て 18 に お け る 溶 媒 ( ctrl) ま た は ス ト レ プ ト ゾ ト シ ン (STZ)投 与 後 5 日 目 の P C R 産 物 の 電 気 泳 動 の 写 真 。 (C), β-actin に よ っ て 補 正 さ れ た コ ン ト ロ ー ル 群 と ス ト レ プ ト ゾ ト シ ン 投 与 群 の 時 計 遺 伝 子 と Pai-1 遺 伝 子 の 日 内 変 動 。 最 低 値 を 1 と し た 。 そ れ ぞ れ の 値 は 平 均 値 ±標 準 誤 差 で 示 し た (各 点 n=3)。 **p<0.01, *p<0.05 対 コ ン ト ロ ー ル 群 ( S t u d e n t ’s t - t e s t ) 。 白 丸 : コ ン ト ロ ー ル 群 、 黒 丸 : ス ト レ プ ト ゾ ト シ ン投与群。 66 考察 ストレプトゾトシンを投与された糖尿病ラットの心臓における時 計 遺 伝 子 の 振 幅 は 変 化 し て い な か っ た が ( Yo u n g e t a l . , 2 0 0 2 ) 、 本 実 験 に お い て は ス ト レ プ ト ゾ ト シ ン を 投 与 し た マ ウ ス の 肝 臓 で は P e r 2 遺 伝 子 の リ ズ ム は 消 失 し て い た 。こ の 違 い は 、異 な っ た 種 ま た は組織を使用していることが原因だと考える。さらに、本実験では Yo u n g ら の 実 験 よ り も 高 用 量 の ス ト レ プ ト ゾ ト シ ン を 使 用 し て い る ( Yo u n g e t a l . , 2 0 0 2 ) ( そ れ ぞ れ 2 0 0 m g / k g と 6 5 m g / k g )。 よ っ て 、 今回の実験で使ったマウスのほうが深刻な糖尿病状態にあり、その こ と が Per2 遺 伝 子 の リ ズ ム 性 を 消 失 さ せ た と 考 え る 。 驚 い た こ と に 、 ス ト レ プ ト ゾ ト シ ン を 投 与 し た マ ウ ス で は Pai-1 遺伝子は上昇していなかった。実際、ストレプトゾトシンを投与し たマウスでは血糖値の上昇を示したが、インスリンやトリグリセリ ドは上昇しなかった。これらのことからストレプトゾトシンを投与 し た マ ウ ス の 肝 臓 の 時 計 遺 伝 子 の 異 常 は db/db マ ウ ス の 肝 臓 の 時 計 遺伝子の異常とは原因が異なる可能性が考えられる。 本実験から明らかになったことは、ストレプトゾトシンを投与し たマウスでは行動リズムは正常であるが、肝臓の時計遺伝子に異常 が生じていることである。 × Ⅰ型糖尿病 作用 × 時計遺伝子 異常 67 第 2章 1節 時計遺伝子に変異が起こっているマウスに対する高脂 肪食の影響 序論 概 日 リ ズ ム は 、食 物 の 消 化 と 吸 収 に 関 係 し た も の を 含 む ( P a n d a e t a l . , 2 0 0 2 ) 、様 々 な 生 理 的 、行 動 的 な リ ズ ム を 制 御 し て い る ( K i n g a n d Ta k a h a s h i , 2 0 0 0 ) 。 哺 乳 類 の 時 計 遺 伝 子 は 最 初 は 異 常 な 行 動 リ ズ ム を 持 つ ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス で 同 定 さ れ た 。 CLOCK は 転 写 因 子 で あ る BMAL1 と ヘ テ ロ ダ イ マ ー を 形 成 し 、 Per 遺 伝 子 の プ ロ モ ー タ ー 領 域 に あ る E - b o x と 結 合 し 、P e r 遺 伝 子 の 転 写 を 促 進 す る 。翻 訳 後 、 PER タ ン パ ク は オ ー ト フ ィ ー ド バ ッ ク ル ー プ を 形 成 す る こ と に よ って自分自身の転写を抑制する。このフィードバックループが概日 時計の分子機構と考えられている。 C57/BL 系 統 の ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス は C57/BL 系 統 の ワ イルドタイプマウスと比較して肥満とメタボリックシンドロームを 示 す こ と が わ か っ て い る ( Tu r e k e t a l . , 2 0 0 5 ) 。 そ し て o b 変 異 を 加 え た ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス で は ob/ob マ ウ ス よ り も 肥 満 が 促 進 さ れ る (Oishi et al., 2006b)。 一 方 、 Jcl:ICR 系 統 の ク ロ ッ ク ミ ュ ータントマウスは高脂肪食条件下、ワイルドタイプマウスと比較し て 太 り に く い 傾 向 が あ る (Oishi et al., 2006a)。 こ の こ と は 、脂 質 代 謝 と 肥 満 に お い て Clock 変 異 に 加 え て 、系 統( C57/BL ま た は ICR) が重要な要因であることを示している。 時計遺伝子とクロック・コントロールド・ジーンの役割は脂肪細 胞 で も 分 か っ て い る (Zvonic et al., 2006)。 例 え ば 、 Bmal1 遺 伝 子 は 脂 質 生 成 や 脂 肪 細 胞 の 分 化 を 促 進 す る (Shimba et al., 2005)。 し かし、肝臓では脂質代謝における時計遺伝子とクロック・コントロ ールド・ジーンの役割は十分にはわかっていない。本実験において は I C R 系 統 の ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス を 用 い た 。マ イ ク ロ ア レ イ に よ る 解 析 に よ っ て 、 ICR 系 統 マ ウ ス の 肝 臓 に お け る CLOCK の 標的遺伝子が明らかとなり、その中には脂質代謝に関連した重要な 生 理 的 分 子 を コ ー ド す る 遺 伝 子 も あ っ た (Oishi et al., 2003)。 よって、高脂肪食条件下のクロックミュータントマウスがワイル ドタイプマウスと比較して肝臓の脂質代謝と脂質生成に関する遺伝 子に異常があるかどうかを調べた。 68 方法 動物 クロックミュータントマウスを用いた。クロックミュータントマ ウ ス は ジ ャ ク ソ ン ・ ラ ボ ラ ト リ ー( s t o c k n o . 0 0 2 9 2 3 、B a r H a r b o r 、 M E )か ら 購 入 し た 。こ ら ら の マ ウ ス は も と も と は C 5 7 B L / 6 J 系 統 で あ っ た が 、 Jcl:ICR 系 統 と 8 回 以 上 交 配 し た 。 6 - 8 週 齢 の メ ス の ワイルドタイプまたはクロックミュータントマウスを用いた。 で き れ ば C57BL/6J 系 統 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス を 使 い た か っ た が 出 来 な か っ た 。 本 研 究 室 に お い て 最 初 は C57BL/6J 系 統 の ク ロックミュータントを維持しており、論文を発表することが出来た が (Udo et al., 2004) 、 そ の 後 、 母 親 が あ ま り 面 倒 を 見 な く な り (Dolatshad et al., 2006; Kennaway et al., 2005; Miller et al., 2 0 0 4 ) 、C 5 7 B L / 6 J 系 統 の ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス は 新 生 児 期 に 死 ぬ 個 体 が 多 く な っ た 。 よ っ て 、 ICR 系 統 の ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マウスを用いた。 ・慢性実験 ワ イ ル ド タ イ プ ( n=30 ) ま た は ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス ( n=30) に 普 通 食 ま た は 高 脂 肪 食 を 13 週 間 与 え た 。 そ の 際 、 体 重 と 摂 食 量 も 測 定 し た 。1 3 週 間 後 、肝 臓 と 血 液 を そ れ ぞ れ の マ ウ ス か ら 4 時 間 ご と ( ZT0、 4、 8、 12、 16、 20) に 集 め た 。 肝 臓 か ら は Per2、 Bmal1、 Fabp1、 そ し て Acsl4 遺 伝 子 と 総 コ レ ス テ ロ ー ル を 測 定 し 、オ イ ル レ ッ ド O 染 色 を 行 っ た 。血 液 か ら は ト リ グ リ セ リ ド と遊離脂肪酸を測定した。 0w 高脂肪食開始 13w ZT0 ZT4 ZT8 ZT12 69 ZT16 ZT20 ・急性実験 急 性 実 験 で は 、 マ ウ ス ( ワ イ ル ド タ イ プ : n=16、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト : n = 1 7 )を 1 日 絶 食 し 、次 の 日 の Z T 2 に 高 脂 肪 食 を 与 え た 。 血液からはトリグリセリド、遊離脂肪酸、肝臓からはトリグリセリ ド を 測 定 し た 。 高 脂 肪 食 を 与 え て か ら 0、 0.5、 1、 そ し て 3 時 間 後 にサンプリングを行った。 Day1 絶食開始 高脂肪食 Day2 サンプリング 餌 普 通 食 は 6.1% の 炭 水 化 物 、23.6% の た ん ぱ く 質 、そ し て 5.3% の 脂質を含む。コントロール群には普通食を与え、実験群には高脂肪 食( 25% 牛 脂 、重 量 /重 量 を 普 通 食 に 加 え た 。オ リ エ ン タ ル 酵 母 )を 与 え た 。 高 脂 肪 食 は 13 週 間 与 え た 。 R N A 抽 出 と リ ア ル タ イ ム R T- P C R RNA 抽 出 は 前 章 と 同 じ よ う に 行 っ た 。 50ng の ト ー タ ル RNA を O n e - S t e p S Y B R R T- P C R k i t( タ カ ラ 、大 津 、日 本 )を 用 い て i C y c l e r ( バ イ オ ラ ッ ド 、Hercules、CA)に よ り 逆 転 写 と 増 幅 を 行 っ た 。各 遺伝子に特異的なプライマーを設計した。 70 それぞれのPCR産物を増幅するために使ったプライマーの配列 遺 伝 子 プ ラ イ マ ー( セ ン ス:上 、ア ン チ セ ン ス : 増 幅 産 物 GenBnak 下 ) 5’-3’ の Accession 長 さ ( 塩 基 ) Acsl4 GTGCTGGAACTGACAGCAGA 147 T G A C A G G AT G C A G A A G G A G A 131 GCTGGAAGGTGGACAGTGAG Bmal1 CCACCTCAGAGCCATTGATACA ATCGTGCATGAAGGGAAGAA 71 T G T G T G C T TA C A C G G G T G T C C TA AB014494 (2407-2477) 142 CACCTTCCAGCTTGACGACT Per2 AK075973 (1009-1139) GAGCAGGTTTAGTTCCACTTTGTCT Fabp1 AB033885 (949-1095) GGCCATAAGTGTGGGTTTCA β-actin No. AK131868 (170-311) 142 A C G T T T G G T T T G C G C AT G A A AF036893 (5563-5704) リ ア ル タ イ ム R T- P C R の 温 度 設 定 は 以 下 の よ う に 行 っ た 。 c D N A 合 成 4 2 ℃ で 1 5 分 、P C R 用 酵 素 の 活 性 化 9 5 ℃ で 2 分 、4 0 サ イ ク ル( 熱 変 性 9 5 ℃ で 5 秒 、 ア ニ ー リ ン グ と 伸 張 6 0 ℃ で 2 0 秒 )。 標 的 遺 伝 子 産 物 の 相 対 的 発 光 量 を β -actin に よ っ て 補 正 し た 。 リ ア ル タ イ ム R T- P C R 終 了 後 、 融 解 曲 線 を 調 べ 非 特 異 的 増 幅 産 物 が 増 幅 さ れ て い ないことを確認した。 肝臓のトリグリセリドの定量 Yo k o d e ら の 方 法 に 従 っ て 行 っ た ( Yo k o d e e t a l . , 1 9 9 0 ) 。 脂 質 の 抽 出までは総コレステロールと同様に行った。サンプルはトリグリセ リ ド ・ E-テ ス ト ・ ワ コ ー ( 和 光 純 薬 、 大 阪 、 日 本 ) を 用 い て 測 定 し た。 血中のトリグリセリドと遊離脂肪酸の測定 血中のトリグリセリドの測定は前章と同様に行った。遊離脂肪酸 の 測 定 に は N E FA ・ C - テ ス ト ・ ワ コ ー ( 和 光 純 薬 、 大 阪 、 日 本 ) を 用いた。スタンダードにはオレイン酸を用いた。 肝 臓 の オ イ ル レ ッ ド O染 色 71 高脂肪食によって、クロックミュータントマウスの肝臓の脂質が ワイルドタイプと比べてどうなるかを調べるために、オイルレッド O 染 色 法 に よ っ て 脂 質 の 蓄 積 を 調 べ た 。マ ウ ス の 肝 臓 を 1 0 % ホ ル マ リ ン で 固 定 し 、 ク ラ イ オ ス タ ッ ト ( L E I C A 、 We t z l a r 、 G e r m a n y ) を 用 い て 10μ m に 切 っ た 。 そ し て 、 肝 臓 を リ ン 酸 緩 衝 食 塩 水 で 30 秒 洗 い 、 60% イ ソ プ ロ ピ ル ア ル コ ー ル で 1 分 間 洗 い 、 そ の 後 オ イ ル レ ッ ド O で 3 7 ℃ で 1 0 分 間 染 色 し た 。6 0 % イ ソ プ ロ ピ ル ア ル コ ー ル で 2 分洗った後、リン酸緩衝食塩水で 2 分洗い、ヘマトキシリンで 5 分間染めた。リン酸緩衝食塩水で 2 分洗った後、炭酸リチウムに 3 0 秒 つ け て 色 を 出 し 、リ ン 酸 緩 衝 食 塩 水 で 5 分 間 洗 っ た 。最 後 に カ バーガラスをかけた。 統計処理 値 は 平 均 値 ± 標 準 誤 差 で 示 し た 。O n e - w a y ま た は t w o - w a y A N O VA を行った。 72 結果 体重と摂食量 普 通 食 ま た は 高 脂 肪 食 を 13 週 間 与 え た ワ イ ル ド タ イ プ ま た は ク ロックミュータントマウスの体重を 1 週間ごとに測定した。普通食 条 件 下 、遺 伝 子 型 に よ っ て 体 重 に 差 は 無 か っ た( r e p e a t e d m e a s u r e s A N O VA 、 P > 0 . 0 5 、 F i g . 1 4 A )。 高 脂 肪 食 条 件 下 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ントマウスはワイルドタイプマウスと比較して肥満を示しにくい傾 向 に あ っ た が 、 遺 伝 子 型 の 間 に 有 意 な 差 は 無 か っ た ( repeated m e a s u r e s A N O VA 、 P > 0 . 0 5 、 図 1 4 A )。 普 通 食 ( r e p e a t e d m e a s u r e s A N O VA 、 P > 0 . 0 5 、 図 1 4 B ) ま た は 高 脂 肪 食 ( r e p e a t e d m e a s u r e s A N O VA 、 P > 0 . 0 5 、 図 1 4 B ) に 関 わ ら ず 、 遺 伝 子 型 の 間 に 摂 食 量 の 差は無かった。 73 A Gain in BW 50 Clock +/+ ND n.s. Clock -/- ND g Clock +/+ HF n.s. 25 0 2 4 6 8 10 12 14 Clock -/- HF Week B Food intake ND 0.2 (g/g) HF n.s. 0.1 0.0 n.s. 0.16 0.08 1 6 12 0.00 1 Week 6 12 Week Clock +/+ Clock -/- 図 14 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス に お け る 高 脂 肪 食 に よ る 肥 満 。 6-8週齢のワイルドタイプまたはクロックミュータントマウス に普通食(ND)または高脂肪食(HF)を与えた。普通食または 高 脂 肪 食 を 与 え た と き の 体 重 増 加 (BW) (A) と 摂 食 量 (B) (n=30)。 普 通 食 ま た は 高 脂 肪 食 条 件 下 に お け る 遺 伝 子 型 に よ る 差 を repeated m e a s u r e s A N O VA に よ っ て 比 較 し た 。 N o t s i g n i f i c a n t ( n . s . ) P > 0 . 0 5 。 74 肝 臓 の ト リ グ リ セ リ ド 、血 中 の ト リ グ リ セ リ ド そ し て 血 中 の 遊 離 脂 肪酸 脂 質 代 謝 に 対 す る Clock 変 異 の 影 響 を 調 べ る た め に 、 ワ イ ル ド タ イプマウスとクロックミュータントマウスの肝臓のトリグリセリド、 血中のトリグリセリドと遊離脂肪酸を測定した。ワイルドタイプま た は ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス に 13 週 間 普 通 食 ま た は 高 脂 肪 食 を与えた後、4 時間ごとに肝臓と血液を採取した。遺伝子型や餌の 条件に関わらず、肝臓のトリグリセリドには有意なリズム性は無か っ た ( 図 1 5 A と B 、 表 2 )。 普 通 食 条 件 下 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マウスの肝臓のトリグリセリドはワイルドタイプマウスよりも有意 に 低 か っ た ( 図 1 5 C 、 表 3 )。 高 脂 肪 食 条 件 下 、 ト リ グ リ セ リ ド は 普通食と比べてワイルドタイプ、クロックミュータントマウス共に 肝 臓 に 有 意 に 蓄 積 し て い た ( 図 1 5 C 、 表 3 )。 し か し 、 ク ロ ッ ク ミ ュータントマウスにおける肝臓のトリグリセリドの蓄積はワイルド タ イ プ マ ウ ス よ り も 有 意 に 低 か っ た ( 図 1 5 C 、 表 3 )。 遺伝子型または餌の条件に関わらず、血中のトリグリセリドには リ ズ ム が 無 か っ た ( 図 1 5 D と E 、 表 2 )。 普 通 食 条 件 下 、 血 中 の ト リ グ リ セ リ ド に 関 し て 遺 伝 子 型 の 間 に 差 は 無 か っ た( 図 1 5 、表 3 )。 高脂肪食条件下、普通食条件と比較するとワイルドタイプ、クロッ クミュータントマウス共に血中のトリグリセリドは有意に増加して い た ( 図 1 5 F 、 表 3 )。 高 脂 肪 食 条 件 下 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウスはワイルドタイプマウスよりも血中のトリグリセリドが高い傾 向 が あ っ た が 、 有 意 で は な か っ た ( 図 1 5 F 、 表 3 )。 普通食条件下、ワイルドタイプマウスの血中の遊離脂肪酸は有意 な リ ズ ム 性 を 示 し た が ( 図 1 5 G 、 表 2 )、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス で は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 さ な か っ た ( 図 1 5 G 、 表 2 )。 高 脂 肪 食条件下、ワイルドタイプ、クロックミュータントマウス共に血中 の 遊 離 脂 肪 酸 に は 有 利 な リ ズ ム 性 が 無 か っ た ( 図 1 5 H 、 表 2 )。 普 通 食 条 件 下 、遺 伝 子 型 の 間 に 血 中 の 遊 離 脂 肪 酸 の 差 は 無 か っ た が( 図 1 5 I 、 表 3 )、 高 脂 肪 食 条 件 下 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の 血 中 の遊離脂肪酸はワイルドタイプマウスと比較して有意に高かった ( 図 1 5 I 、 表 3 )。 普 通 食 条 件 下 、 遺 伝 子 型 の 間 に 肝 臓 の ト リ グ リ セ リ ド の 発 現 形 態 に 有 意 な 差 が あ っ た ( 表 4 )。 75 Liver TG ND HF A B mg/g 20 One-way 0 20 P>0.05 P>0.05 10 P>0.05 0 4 8 12 16 20 20 C ## 10 10 0 Daily levels P>0.05 0 4 8 12 16 20 0 ** ## ** +/+ -/- +/+ -/HF ND Serum TG D E F 120 P>0.05 P>0.05 mg/dl 100 50 0 100 4 8 12 16 20 0 P>0.05 P>0.05 0 4 0 8 12 16 20 H P<0.05 P>0.05 1.0 0.5 0.5 0.5 0.0 0.0 4 8 12 16 20 +/+ -/HF 1.5 P>0.05 1.0 1.0 ## I 1.5 1.5 0 +/+ -/ND Serum FFA G mEq/l 60 50 0 # P>0.05 0 4 8 12 16 20 0.0 ** ## +/+ -/ND ZT Clock +/+ Clock -/- 76 +/+ -/HF 図 15 普 通 食 ま た は 高 脂 肪 条 件 下 に お け る 普 通 食 ま た は 高 脂 肪 食 条 件下におけるワイルドタイプまたはクロックミュータントマウスの 肝 臓 の ト リ グ リ セ リ ド 、血 中 の ト リ グ リ セ リ ド 、血 中 の 遊 離 脂 肪 酸 。 肝 臓 と 血 液 は 4 時 間 ご と に 集 め た 。普 通 食 条 件 下( A )、高 脂 肪 食 条 件 下 ( B )、 そ し て 1 日 平 均 ( C ) の 肝 臓 の ト リ グ リ セ リ ド 。 普 通 食 条 件 下 ( D )、 高 脂 肪 食 条 件 下 ( E )、 そ し て 1 日 平 均 ( F ) の 血 中 の ト リ グ リ セ リ ド( G )、普 通 食 条 件 下( H )、そ し て 1 日 平 均( I ) の 血 中 の 遊 離 脂 肪 酸 。( A )、( B )、( D )、( E )、( G ) そ し て ( H ) は 平 均 値 ± 標 準 誤 差 を 示 す 。 各 点 n = 5 。 リ ズ ム 性 は o n e - w a y A N O VA に よ っ て 解 析 し た (普 通 食 条 件 下 の ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス 、 普 通 食 条件下のクロックミュータントマウス、高脂肪条件下のワイルドタ イ プ マ ウ ス 、そ し て 高 脂 肪 食 条 件 下 の ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス 、 表 2)。 ( C )、 ( F )、そ し て( I ) の 値 も 平 均 値 ± 標 準 誤 差 を 示 す ( n = 3 0 ) 。 各 値 は t w o - w a y A N O VA に よ っ て 比 較 さ れ た ( 表 4 ) 。 * * P < 0 . 0 1 ( ワ イ ルドタイプマウス 対 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス )。 #P<0.05, ##P<0.01 (普 通 食 群 対 高 脂 肪 食 群 )。 77 表 2 一 要 因 の 分 散 分 析 (自 由 度 =5, 24)に よ る 肝 臓 の ト リ グ リ セ リ ド 、 血 中 の ト リ グ リ セ リ ド 、そ し て 血 中 の 遊 離 脂 肪 酸 の 統 計 結 果 。図 15 と一致する。 普通食 高脂肪食 ワ イ ル ド タ ク ロ ッ ク ミ ワ イ ル ド タ ク ロ ッ ク ミ イプ ュータント イプ ュータント F F 肝 臓 の ト F リ グ リ セ p>0.05 = 1.7, = 1.9, p>0.05 = 1.7, p>0.05 F = 2.4, p>0.05 リド 血 中 の ト F リ グ リ セ p>0.05 = 0.8, F = 1.2, p>0.05 F = 0.3, p>0.05 F = 0.8, p>0.05 リド 血 中 の 遊 F 離脂肪酸 p<0.05 = 2.7, F = 0.2, p>0.05 F = p>0.05 78 0.5, F = p>0.05 1.9, 表 3 二 要 因 の 分 散 分 析( 自 由 度 = 1 , 4 8 )に よ る 肝 臓 の ト リ グ リ セ リ ド、血中のトリグリセリド、そして血中の遊離脂肪酸の統計処理の 結果。摂食条件(普通食対高脂肪食)または遺伝子型(ワイルドタ イプ対クロックミュータント)について統計処理を行った。図15 と一致する。 普通食 ワイルドタイプ対ク ロックミュータント 高脂肪食 ワ イ ル ド タ イ プ 対 ク ロックミュータント 肝臓のトリグリセリド F = 18.8, p<0.01 F = 92.8, p<0.01 血中のトリグリセリド F = 0.6, p>0.05 F = 1.2, p>0.05 血中の遊離脂肪酸 F = 2.0, p>0.05 F = 52.6, p<0.01 ワイルドタイプ クロックミュータント 普通食対高脂肪食 普通食対高脂肪食 肝臓のトリグリセリド F = 234.4, p<0.01 F = 97.6, p<0.01 血中のトリグリセリド F = 5.5, p<0.05 F = 12.2, p<0.01 血中の遊離脂肪酸 F = 3.3, p>0.05 F = 22.3, p<0.01 79 表 4 二 要 因 の 分 散 分 析 に よ る 肝 臓 の ト リ グ リ セ リ ド 、血 中 の ト リ グ リ セ リ ド 、そ し て 血 中 の 遊 離 脂 肪 酸 の 統 計 処 理 の 結 果 。摂 食 条 件( 普 通 食 対 高 脂 肪 食 ) ×Z T ま た は 遺 伝 子 型 ( ワ イ ル ド タ イ プ 対 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト ) × Z T を 解 析 し た ( 自 由 度 = 5 , 4 8 )。 図 1 5 と 一 致 する。 普通食 ワ イ ル ド タ イ プ 対 ク ロックミュータント 高脂肪食 ワ イ ル ド タ イ プ 対 ク ロックミュータント 肝臓のトリグリセリド F = 2.5, p<0.05 F = 2.2, p>0.05 血中のトリグリセリド F = 0.2, p>0.05 F = 0.3, p>0.05 血中の遊離脂肪酸 F = 0.3, p>0.05 F = 2.0, p>0.05 ワイルドタイプ クロックミュータント 普通食対高脂肪食 普通食対高脂肪食 肝臓のトリグリセリド F = 1.3, p>0.05 F = 2.7, p<0.05 血中のトリグリセリド F = 0.5, p>0.05 F = 1.1, p>0.05 血中の遊離脂肪酸 F = 0.4, p>0.05 F = 1.2, p>0.05 80 肝 臓 の オ イ ル レ ッ ド O染 色 肝臓におけるトリグリセリドの蓄積を確認するために組織学的な 解 析 を 行 っ た 。ワ イ ル ド タ イ プ と ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス に 1 3 週 間 普 通 食 ま た は 高 脂 肪 食 を 与 え 、肝 臓 を 採 取 し た 。普 通 食 条 件 下 、 ワイルとタイプ、クロックミュータントマウス共に肝臓においてオ イ ル レ ッ ド O は 染 色 さ れ な か っ た が ( 図 1 6 A 、 B 、 E そ し て F )、 高 脂肪食条件下では、ワイルドタイプ、クロックミュータントマウス 共 に 肝 臓 が オ イ ル レ ッ ド O に よ っ て 染 色 さ れ た ( 図 16、 C、 D、 G そ し て H )。 高 脂 肪 食 条 件 下 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の 肝 臓 は ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス と 比 較 し て 染 ま り 方 が 弱 か っ た が( 図 1 6 C 、 D 、 G そ し て H )、 こ の 結 果 は 肝 臓 の ト リ グ リ セ リ ド の 量 と 一 致 す る ( 図 1 5 A 、 B そ し て C )。 81 Oil red O preparations x100 Clock +/+ Clock -/- A B C D ND HF 200μm x400 Clock +/+ Clock -/- E F G H ND HF 100μm 82 図 16 普 通 食 ま た は 高 脂 肪 食 条 件 下 に お け る ワ イ ル ド タ イ プ ま た は クロックミュータントマウスの肝臓のオイルレッド O 染色。 普 通 食 条 件 下 の ワ イ ル ド タ イ プ( A 、E )、普 通 食 条 件 下 の ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト ( B 、 F )、 高 脂 肪 食 条 件 下 の ワ イ ル ド タ イ プ ( C 、 G )、 そ し て 高 脂 肪 食 条 件 下 の ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト ( D 、 H )。 倍 率 1 0 0 倍 ( A - D ) と 4 0 0 倍 ( E - H )。 83 肝臓の時計遺伝子と時計遺伝子の制御を受けている脂質生成に関 係する遺伝子に対する高脂肪食の影響 肝臓における時計遺伝子とクロック・コントロールド・ジーンの 発現を調べた。ワイルドタイプまたはクロックミュータントマウス に 13 週 間 普 通 食 ま た は 高 脂 肪 食 を 与 え た 。 餌 の 条 件 に 関 わ ら ず 、 ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス の 肝 臓 の Per2 遺 伝 子 は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 し( 普 通 食:F [ 5 , 2 4 ] = 1 4 . 6;P < 0 . 0 1 、高 脂 肪 食:F [ 5 , 2 4 ] = 11 . 5 、P < 0 . 0 1 、 一 要 因 の 分 散 分 析 、 図 1 7 A )、 二 要 因 の 分 散 分 析 ( 遺 伝 子 型 × Z T ) に よ る 解 析 で は 餌 の 条 件 に よ っ て 差 は 無 か っ た ( F[5,48]=0.7 ; P > 0 . 0 5 、 図 1 7 A )。 餌 の 条 件 に 関 わ ら ず 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の Per2 遺 伝 子 は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 さ ず ( 普 通 食 : F [ 5 , 2 4 ] = 2 . 1; P > 0 . 0 5 、高 脂 肪 食 : F [ 5 , 2 4 ] = 1 . 4 、 ; P > 0 . 0 5 、図 1 7 B )、 二 要 因 の 分 散 分 析 (遺 伝 子 型 ×ZT)に よ る 解 析 で は 餌 の 条 件 に よ っ て 差 は 無 か っ た ( F [ 5 , 4 8 ] = 0 . 5 ; P > 0 . 0 5 、 図 1 7 B )。 次 に 肝 臓 の Bmal1 遺 伝 子 を 調 べ た 。 Per2 遺 伝 子 発 現 と 同 様 に 、 餌の条件に関わらずワイルドタイプマウスの肝臓において Bmal1 遺 伝 子 は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 し ( 普 通 食 : F[5,24]=10.8; P<0.01、 高 脂 肪 食 : F [ 5 , 2 4 ] = 6 . 4 ; P < 0 . 0 1 、 一 要 因 の 分 散 分 析 、 図 1 7 C )、 二 要 因 の 分 散 分 析 ( 遺 伝 子 ×ZT) に よ る 解 析 で は 餌 の 条 件 に よ っ て 差 は 無 か っ た ( F [ 5 , 4 8 ] = 1 . 4 ; P > 0 . 0 5 、 図 1 7 C )。 餌 の 条 件 に 関 わ ら ず ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の 肝 臓 の Bmal1 遺 伝 子 は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 し( 普 通 食 : F [ 5 , 2 4 ] = 4 . 8; P < 0 . 0 1 、高 脂 肪 食 : F [ 5 , 2 4 ] = 8 . 4; P < 0 . 0 1 、 一 要 因 の 分 散 分 析 、 図 1 7 D )、 2 要 因 の 分 散 分 析 ( 遺 伝 子 × ZT ) に よ る 解 析 で は 餌 の 条 件 に 関 わ ら ず 差 は 無 か っ た ( F [ 5 , 4 8 ] = 1 . 4 ; P > 0 . 0 5 、 一 要 因 の 分 散 分 析 、 図 1 7 D )。 よ っ て 、 高 脂肪食はワイルドタイプ、クロックミュータントマウス共に肝臓の 時計遺伝子には影響を与えなかった。 84 Expression of clock and clock-controlled genes in the liver Per2 Clock +/+ Clock -/- A B P<0.01 P<0.01 One-way 3 3 P>0.05 P>0.05 2 2 ND HF 1 1 0 0 4 8 12 16 20 0 0 4 8 12 16 20 Bmal1 Relative mRNA levels C 3 D 3 P<0.01 P<0.01 2 2 1 1 0 0 0 4 8 12 16 20 P<0.01 P<0.01 0 4 8 12 16 20 ZT 図 17 普 通 食 ま た は 高 脂 肪 食 条 件 下 に お け る ワ イ ル ド タ イ プ ま た は クロックミュータントマウスにおける肝臓の時計遺伝子発現。 マ ウ ス の 肝 臓 を 4 時 間 ご と に サ ン プ リ ン グ し た 。 肝 臓 の Per2 (A, B) と Bmal1 (C, D) 遺 伝 子 発 現 。 値 は 平 均 値 ±標 準 誤 差 を 示 す 。 各 点 n=5。 普 通 食 条 件 下 の ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス の 1 日 平 均 の 値 を 1 と し た 。リ ズ ム 性 は 一 要 因 の 分 散 分 析 で 解 析 し た ( 普 通 食 条 件 下 の ワ イルドタイプ、普通食条件下のクロックミュータント、高脂肪食条 件下のワイルドタイプ、そして高脂肪食条件下のクロックミュータ ン ト )。 85 肝臓の脂質代謝に関係したクロック・コントロールド・ジーンに対 する高脂肪食の影響 いくつかの先行研究によって脂質代謝に関係したクロック・コン ト ロ ー ル ド ・ ジ ー ン の 存 在 が 明 ら か に な っ た (Oishi et al., 2003; P a n d a e t a l . , 2 0 0 2 ; U e d a e t a l . , 2 0 0 2 ) 。先 行 研 究 の 結 果 か ら 、F a t 、 Fatp1、 Fatp2、 Acsl1、 Acsl4、 Fabp1 そ し て Mtp 遺 伝 子 発 現 を 調 べることに決定した。これらの遺伝子の中でマウスの肝臓において Fat、 Fatp1、 そ し て Acsl1 遺 伝 子 は リ ズ ム が 無 か っ た 。 Fatp2 と Mtp 遺 伝 子 発 現 に 関 し て は 普 通 食 条 件 下 、 日 内 変 動 は あ っ た が 、 Clock 変 異 の 影 響 を ほ と ん ど 受 け な か っ た 。 よ っ て 、 こ れ ら の 遺 伝 子についてはさらなる検討を行わなかった。本実験に関して最終的 に は F a b p 1 と A c s l 4 遺 伝 子 発 現 に 着 目 し た 。普 通 食 条 件 下 、ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス の Fabp1 遺 伝 子 は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 し た が ( 図 1 8 A 、 表 5 )、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス で は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 さ な か っ た ( 図 1 8 、 表 5 )。 普 通 食 条 件 下 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の Fabp1 遺 伝 子 は ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス と 比 較 し て 1 日 平 均 で 低 い 発 現 量 を 示 し た が 、 有 意 で は な か っ た ( 図 1 8 、 表 6 )。 普 通 食 条 件 下 、 ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス の Acsl4 遺 伝 子 発 現 は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 し た が ( 図 1 8 D 、 表 5 )、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス で は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 さ な か っ た( 図 1 8 D 、表 5 )。普 通 食 条 件 下 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の Acsl4 遺 伝 子 は ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス よ り も 1 日 平 均 で わ ず か に 低 か っ た が 、有 意 で は な か っ た( 図 1 8 F 、 表 6 )。 高 脂 肪 食 条 件 下 、ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス の F a b p 1 遺 伝 子 発 現 は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 し た が ( 図 1 8 、 表 6 )、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス で は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 さ な か っ た ( 図 1 8 、 表 6 )。 高 脂 肪 食 条 件 下 、 1 日 平 均 の Fabp1 遺 伝 子 発 現 に つ い て 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス で は ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス よ り も 有 意 に 低 か っ た( 図 1 8 C 、 表 6 )。 高 脂 肪 食 条 件 下 、 ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス の A c s l 4 遺 伝 子 発 現 は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 し た が ( 図 1 8 E 、 表 6 )、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス で は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 さ な か っ た( 図 1 8 E 、表 6 )。 高 脂 肪 食 条 件 下 、 1 日 平 均 の Acsl4 遺 伝 子 発 現 に つ い て 、 ク ロ ッ ク ミュータントマウスはワイルドタイプマウスよりも有意に低かった ( 図 1 8 F 、 表 6 )。 肝 臓 の A c s l 4 遺 伝 子 発 現 に つ い て 、 餌 の 条 件 に 関 わ ら ず 、遺 伝 子 型 の 間 に 発 現 形 態 に つ い て 有 意 な 差 が あ っ た( 図 1 8 D 86 と E 、 表 7 )。 87 Clock +/+ Fabp1 Clock -/- ND A One-way P<0.05 P>0.05 4 0 4 Acsl4 ND Relative mRNA levels B P<0.01 P>0.05 D 2 8 12 16 20 0 C 0 4 8 12 16 20 0 HF 2 ** ## 2 ## +/+ -/- +/+ -/- ND HF Daily levels 2 E P<0.01 P>0.05 1 1 Daily levels 4 4 2 2 0 P<0.05 P>0.05 HF F * 1 ## 0 0 4 8 12 16 20 0 0 4 8 12 16 20 ZT 0 ## +/+ -/- +/+ -/- ND HF 図 18 普 通 食 ま た は 高 脂 肪 食 条 件 下 に お け る ワ イ ル ド タ イ プ ま た は クロックミュータントの肝臓のクロック・コントロールド・ジーン ( Fabp1 と Acsl4) の 遺 伝 子 発 現 。 マウスの肝臓を 4 時間ごとにサンプリングした。普通食条件下 ( A )、 高 脂 肪 食 条 件 下 ( B )、 そ し て 1 日 平 均 ( C ) の F a b p 1 遺 伝 子 発 現 。 普 通 食 条 件 下 ( D )、 高 脂 肪 食 条 件 下 ( E )、 そ し て 1 日 平 均 ( F ) の Acsl4 遺 伝 子 発 現 。 普 通 食 条 件 下 の ワ イ ル ド タ イ プ の 1 日 平 均 を 1 と し た 。( A )、( B )、( D )、 そ し て ( E ) の 値 は 平 均 値 ± 標 準 誤 差 を 示 す 。 各 点 n=5。 一 要 因 の 分 散 分 析 に よ っ て リ ズ ム 性 を 解 析 し た ( 普 通 食 条 件 下 の ワ イ ル ド タ イ 、普 通 食 条 件 下 の ク ロ ッ ク ミ ュ ータント、高脂肪食条件下のワイルドタイプ、そして高脂肪食条件 下 の ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト 、 表 5 ) 。( C ) と ( F ) の 値 は 平 均 値 ± 標 準 誤 差 を 示 す (n=30)。 そ れ ぞ れ の 値 は 2 要 因 の 分 散 分 析 に よ っ て 比 較 し た (表 6)。 *P<0.05, **P<0.01 (ワ イ ル ド タ イ プ 対 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト )。 ##P<0.01 (普 通 食 対 高 脂 肪 食 )。 88 表 5 一 要 因 の 分 散 分 析 ( 自 由 度 =5、 24) に よ る Fabp1 と Acsl4 遺 伝 子の統計解析。図18と一致する。 普通食 高脂肪食 ワイルドタイ クロックミュ ワイルドタイ クロックミュ プ ータント プ ータント Fabp1 F = 3.0, p<0.05 F = 0.8, p>0.05 F = 2.8, p<0.05 F = 2.4, p>0.05 Acsl4 F = 6.7, p<0.01 F = 0.1, p>0.05 F = 9.4, p<0.01 F = 1.7, p>0.05 89 表 6 二 要 因 の 分 散 分 析 ( 自 由 度 m=1、 48) に よ る Fabp1 と Acsl4 遺 伝 子 の 統 計 解 析 。摂 食 条 件( 普 通 食 対 高 脂 肪 食 )ま た は 遺 伝 子 型( ワ イ ル ド タ イ プ 対 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト )に つ い て 行 っ た 。図 1 8 に 一 致する。 普通食 高脂肪食 ワイルドタイプ対クロックミ ワイルドタイプ対クロックミ ュータント ュータント Fabp1 F = 4.0, p>0.05 F = 12.0, p<0.01 Acsl4 F = 1.4, p>0.05 F = 6.3, p<0.05 ワイルドタイプ クロックミュータント 普通食対高脂肪食 普通食対高脂肪食 Fabp1 F = 21.1, p<0.01 F = 38.0, p<0.01 Acsl4 F = 37.2, p<0.01 F = 40.3, p<0.01 90 表 7 二 要 因 の 分 散 分 析 ( 自 由 度 =5、 48) に よ る Fabp1 と Acsl4 遺 伝 子 の 統 計 解 析 。摂 食 条 件( 普 通 食 対 高 脂 肪 食 )×ZT ま た は 遺 伝 子 型( ワ イ ル ド タ イ プ 対 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト )× Z T に つ い て 行 っ た 。 図18に一致する。 普通食 高脂肪食 ワイルドタイプ対クロックミ ワイルドタイプ対クロックミ ュータント ュータント Fabp1 F = 1.8, p>0.05 F = 1.4, p>0.05 Acsl4 F = 3.3, p<0.05 F = 3.1, p<0.05 ワイルドタイプ クロックミュータント 普通食対高脂肪食 普通食対高脂肪食 Fabp1 F = 1.0, p>0.05 F = 0.8, p>0.05 Acsl4 F = 2.2, p>0.05 F = 0.8, p>0.05 91 トリグリセリドと遊離脂肪酸に対する高脂肪食急性投与の効果 高脂肪食を急性投与した結果、遺伝子間の間に血中のトリグリセ リ ド の 有 意 な 違 い は 無 か っ た ( F [ 3 , 1 8 ] = 1 . 0 、 t w o - w a y A N O VA 、 図 1 9 A )。 遊 離 脂 肪 酸 に 関 し て 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス は ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス よ り も 有 意 に 高 か っ た ( F[3,18]=6.6、 P<0.01、 二 要 因 の 分 散 分 析 、 図 1 9 B )。 肝 臓 の ト リ グ リ セ リ ド に 関 し て 、 ク ロ ッ ク ミ ュータントマウスはワイルドタイプマウスよりも有意に低かった ( F [ 3 , 1 8 ] = 4 . 5 、 P < 0 . 0 5 、 二 要 因 の 分 散 分 析 、 1 9 C )。 体 重 ( 図 1 9 D )、 摂 食 量( 図 1 9 E )、そ し て 体 重 で 補 正 し た 摂 食 量( 図 1 9 F )に 関 し て 、 遺 伝 子 間 の 間 に 有 意 な 差 は 無 か っ た( 体 重:P > 0 . 0 5 、摂 食 量:P > 0 . 0 5 、 体 重 で 補 正 し た 摂 食 量 : P > 0 . 0 5 )。 92 Clock +/+ Clock -/- Serum TG Serum FFA A B 100 50 0 * 0 20 2 mEq/l mg/dl 150 ** 3 * C mg/g 200 Liver TG 1 0 3 1 ** 0 0 0.5 10 0.5 1 0 3 0.5 1 3 Time after re-feeding (h) Food intake n.s. E 50 3.0 25 1.5 0 g g D +/+ -/- 0.0 Food intake (g/g) F n.s. n.s. 0.06 g/g BW +/+ -/- 0.03 0.00 +/+ -/- 図 19 ト リ グ リ セ リ ド と 脂 肪 酸 に 対 す る 高 脂 肪 食 の 急 性 投 与 の 効 果 。 マ ウ ス に 1 日 絶 食 を 行 い 、次 の 日 の ZT2 に 高 脂 肪 食 を 与 え た 。肝 臓 と 血 液 は ZT2、 2.5、 3、 そ し て 5 に サ ン プ リ ン グ し た 。 血 中 の ト リ グ リ セ リ ド ( A )、 血 中 の 遊 離 脂 肪 酸 ( B )、 肝 臓 の ト リ グ リ セ リ ド ( C )、 体 重 ( B W )( D )、 摂 食 量 ( E )、 そ し て 体 1 g 当 た り の 摂 食 量( F )。 ( A )―( C )は 平 均 値 ± 標 準 誤 差 で 示 し た( 各 点 n = 3 - 4 )。 S t u d e n t ’s t - t e s t を 用 い て 遺 伝 子 型 を 比 較 し た 。* P < 0 . 0 5 , * * P < 0 . 0 1 ( ワ イ ル ド タ イ プ 対 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト ) 。( D ) - ( F ) は 平 均 値 ± 標 準 誤 差 で 示 し た ( n = 4 )。 Z T 5 に サ ン プ リ ン グ し て も の を 示 し た 。 S t u d e n t ’s t - t e s t に よ っ て 遺 伝 子 型 を 比 較 し た 。 ( ワ イ ル ド タ イ プ 対 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト )。 Not significant (n.s.) P>0.05。 93 考察 C57BL/6J 系 統 の ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス は 母 親 が 十 分 に 面 倒 を 見 な い の で 乳 児 期 に 死 ん で し ま う (Dolatshad et al., 2006; Kennaway et al., 2005; Miller et al., 2004)。 よ っ て 、 本 実 験 に お い て は I C R 系 統 の ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス を 使 用 し た 。高 脂 肪 食 条 件 下 、 ICR 系 統 の ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス は ワ イ ル ド タ イ プマウスと比較して肥満を示しにくい傾向があった。高脂肪食条件 下、クロックミュータントマウスでは血中のトリグリセリドと遊離 脂肪酸は増加したが、肝臓のトリグリセリドはあまり増加していな かった。この理由は、クロックミュータントマウスではワイルドタ イプマウスと比較して肝臓における遊離脂肪酸の取り込みが阻害さ れているからだと考える。 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス で は Fabp1 と Acsl4 遺 伝 子 の リ ズ ム 性 が 失 わ れ て い た 。A c s l 4 遺 伝 子 は 上 流 の プ ロ モ ー タ ー 領 域 に E - b o x を 持 っ て い る の で ( O i s h i e t a l . , 2 0 0 3 ) 、ク ロ ッ ク ・ コ ン ト ロ ー ル ド ・ ジーンと考えられる。マイクロアレイによる解析により、クロック ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の 肝 臓 に お い て Acsl4 遺 伝 子 の 昼 夜 差 が 失 わ れ る こ と も 分 か っ て い る (Oishi et al., 2003)。 Fabp1 遺 伝 子 の ノ ッ ク アウトマウスの肝臓では肝臓のトリグリセリドは低かったが、血中 の ト リ グ リ セ リ ド と 脂 肪 酸 は 高 か っ た (Atshaves et al., 2005)。 今 回 高 脂 肪 食 条 件 下 で は 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の 肝 臓 の Fabp1 と Acsl4 遺 伝 子 は 有 意 に 低 下 し て お り 、 1 日 平 均 で も ク ロ ッ クミュータントマウスとワイルドタイプマウスとの間に有意な差が あ っ た 。A C S L 4 は 脂 肪 酸 か ら ア シ ル ー C o A を 合 成 す る 重 要 な 酵 素 で あ り ( F a e r g e m a n a n d K n u d s e n , 1 9 9 7 ) 、 FA B P 1 は 脂 肪 酸 に 結 合 し 肝 臓 の 中 に 脂 肪 酸 を 移 動 さ せ る タ ン パ ク で あ る (Atshaves et al., 2005)。 よ っ て 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の 肝 臓 に お い て ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス と 比 較 し て Fabp1 と Acsl4 遺 伝 子 が 下 が っ て い る ことはトリグリセリドの合成を低下させると考える。高脂肪食条件 下、肝臓のトリグリセリド合成の低下と一致して、クロックミュー タントマウスの血中の脂肪酸はワイルドタイプマウスと比較して高 くなった。 先 行 研 究 に よ る と 、本 実 験 で 使 用 し た I C R 系 統 の ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス は 高 脂 肪 食 条 件 下 、 肥 満 に な り に く か っ た (Oishi et al., 2006a)。 Oishi ら に よ る 研 究 で は こ の 原 因 は 小 腸 で の 脂 質 吸 収 94 の 阻 害 が 関 係 し て い る と 述 べ て い る ( O i s h i e t a l . , 2 0 0 6 a ) 。こ の 仮 説 を検証するため、クロックミュータントマウスに高脂肪食を急性投 与し、血中の脂肪酸とトリグリセリド、肝臓のトリグリセリドを摂 食 後 、 0.5、 1、 3 時 間 で 調 べ た 。 高 脂 肪 食 の 急 性 投 与 に よ っ て 、 ク ロックミュータントマウスはワイルドタイプマウスと比較して血中 のトリグリセリドと脂肪酸を上げ、また肝臓のトリグリセリドの上 が り 具 合 が 低 か っ た 。 本 実 験 と 比 較 し て 、 Oishi ら は オ リ ー ブ オ イ ルの急性投与により、クロックミュータントマウスでは血中のトリ グリセリドと脂肪酸があまり上昇しないことを示したが、肝臓のト リ グ リ セ リ ド は 調 べ な か っ た ( O i s h i e t a l . , 2 0 0 6 a ) 。こ の 違 い は 急 性 投与した脂質の違い(高脂肪食とオリーブオイル)によるものだと 考 え る 。本 実 験 の 結 果 と 先 行 研 究 の 結 果 を 総 合 的 に 考 え る と 、C l o c k 変異は小腸から肝臓への脂質輸送を阻害し、肝臓における脂質合成 を低下させると考える。そしてこのことが高脂肪食条件下、クロッ クミュータントマウスが肥満を示しにくい原因だと考える。本実験 のみでは、肝臓からの脂質輸送が阻害された可能性や脂肪から肝臓 への脂質輸送が阻害された可能性を排除できない。よって、この点 に関しては更なる研究が必要である。 クロックミュータントマウスでは恒暗条件下、長い行動周期を示 し、最終的には行動リズムを消失するが、クロックノックアウトマ ウスでは遺伝子発現のリズムも行動リズムも正常であるという報告 が あ る 。 Clock 遺 伝 子 が 脂 質 代 謝 に 影 響 を 与 え る か ど う か を さ ら に 解明していくためには、本実験と同じ実験をクロックノックアウト マ ウ ス や Bmal1 遺 伝 子 や Per2 遺 伝 子 の よ う な 他 の 時 計 遺 伝 子 の ノ ッ ク ア ウ ト マ ウ ス で 確 か め る 必 要 が あ る 。 Tu r e k ら は C 5 7 B L / 6 J 系 統のクロックミュータントマウスはワイルドタイプマウスと比較し て体重と脂肪が有意に増加するので、クロックミュータントマウス は 肥 満 の モ デ ル マ ウ ス に な る 可 能 性 が あ る と 報 告 し た ( Tu r e k e t a l . , 2 0 0 5 ) 。し か し 、Tu r e k ら の 結 果 は 本 実 験 と O i s h i ら の 実 験 の 結 果 と 異 な っ て い る ( O i s h i e t a l . , 2 0 0 6 a ) 。こ の 違 い の 原 因 は ク ロ ッ ク ミ ュ ータントマウスの系統の違いが原因だと考える。クロックミュータ ン ト マ ウ ス の 系 統 に つ い て 、 C57BL(Miller et al., 2004) 、 CBA(Kennaway et al., 2005)、 そ し て ICR(Hoshino et al., 2006) 系 統 の 間 で 生 殖 能 力 に 差 が あ っ た 。 Oishi ら の 実 験 で は ICR 系 統 の クロックミュータントマウスではワイルドタイプマウスと比較して 95 肥 満 に な り に く か っ た が (Oishi et al., 2006a)、 C57BL 系 統 の ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス は o b 変 異 を 加 え る こ と に よ っ て 、o b / o b マ ウ ス よ り も 肥 満 に な っ た (Oishi et al., 2006b)。 よ っ て 、肥 満 の 程 度 は実験を行う際の技術的な差ではなく、マウスの系統に依存してい ると考える。より詳しく調べるためには他の系統のクロックミュー タントマウスを使って本実験と同じ実験を行う必要がある。 本実験から明らかになったことは、クロックミュータントマウ スでは肝臓にトリグリセリドがたまりにくくなっていることである。 体内時計 × 遊離脂肪酸 Fabp1 Acsl4 アシルCoA トリグリセリド蓄積 96 第 2章 2節 時計遺伝子に変異が起こっているマウスに対する高コ レステロール食の影響 序論 マ イ ク ロ ア レ イ に よ る 解 析 に よ り 、時 計 遺 伝 子 に 加 え て ( P a n d a e t al., 2002; Ueda et al., 2002)、 ク ロ ッ ク ・ コ ン ト ロ ー ル ド ・ ジ ー ン (Oishi et al., 2003; Panda et al., 2002; Ueda et al., 2002)に つ い て も 明 ら か に な っ て き て お り 、 そ の 発 現 形 態 に 関 し て は 、 100 以 上 も の 遺 伝 子 が 日 内 変 動 を 示 し て い る (Panda et al., 2002)。 こ れ ら の 遺伝子の中には、コレステロールの代謝に関係した遺伝子であり、 コ レ ス テ ロ ー ル 合 成 の 律 速 酵 素 で あ る Hmgcr 遺 伝 子 (Bucher et al., 1960) 、 肝 臓 に コ レ ス テ ロ ー ル を 取 り 込 む Ldlr 遺 伝 子 (Balasubramaniam et al., 1994; Brown and Goldstein, 1986)、 コ レ ス テ ロ ー ル の 分 解 関 係 し た Cyp7a1 遺 伝 子 が 含 ま れ て い た (Panda et al., 2002; Ueda et al., 2002)。 明 暗 条 件 下 で 飼 育 さ れ た ラ ッ ト に お い て 、胆 汁 酸 合 成 と C Y P 7 A 1 の 発 現 が 消 灯 の 直 前 に ピ ー ク を 持 つ 日 内 変 動 を 示 し た (Gielen et al., 1975)。 一 日 を 通 し て 、 Cyp7a1 遺 伝 子 の 転 写 は 塩 基 性 ロ イ シ ン ・ ジ ッ パ ー 型 の 転 写 因 子 で あ る albumin promoter D-site binding protein (Dbp)と 相 関 し て い た ( L a v e r y a n d S c h i b l e r, 1 9 9 3 ) 。 こ れ ら の こ と か ら 肝 臓 の 概 日 時 計 と コレステロール代謝の間には重要な関係があると考えられる。 胆汁酸の合成と排出は哺乳類においてはコレステロールの異化の 主要経路から構成される。胆汁酸の合成は、恒常性を維持するため に十分な量のコレステロールが異化されるようにネガティブフィー ドバックループによってしっかりと制御されている。胆汁酸の蓄積 は 、 生 合 成 の 主 要 な 経 路 の 律 速 酵 素 で あ る Cyp7a1 遺 伝 子 の 転 写 を 抑 制 す る (Myant and Mitropoulos, 1977)。 胆 汁 酸 の 消 失 は Cyp7a1 遺伝子の転写を促進し、その後胆汁酸の生合成を増大する。一方、 Cyp7a1 遺 伝 子 は コ レ ス テ ロ ー ル を 豊 富 に 含 む 餌 に よ っ て 増 大 さ れ 、 胆 汁 酸 の 合 成 を 増 や す と い う 報 告 が あ る ( P e e t e t a l . , 1 9 9 8 ) 。マ ウ ス の肝臓でコレステロール、コール酸、そしてコレステロール+コー ル 酸 食 が ど の よ う に Hmgcr、Ldlr、そ し て 遺 伝 子 の 日 内 発 現 に 影 響 を及ぼすかを調べた。 クロックミュータントマウスは体内時計に異常があるマウスとし て 、 生 殖 (Hoshino et al., 2006; Miller et al., 2004) や 脂 質 恒 常 性 97 ( O i s h i e t a l . , 2 0 0 6 a ; Tu r e k e t a l . , 2 0 0 5 ) な ど の 実 験 で 使 わ れ て い る 。 先行研究によって、クロックミュータントマウスの肝臓や心臓では Per1、 Per2、 そ し て Dbp 遺 伝 子 の リ ズ ム 性 が 失 わ れ て い る こ と が 分 か っ て い る (Horikawa et al., 2005; Oishi et al., 2000)。 コ レ ス テロール+コール酸食条件下、クロックミュータントマウスにおい てコレステロールの恒常性が抑制的にまたは促進的に制御されてい る か を 確 か め る た め 、ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の 肝 臓 の H m g c r 、 Ldlr、 そ し て Cyp7a1 遺 伝 子 の 日 内 変 動 に 対 す る コ レ ス テ ロ ー ル 、 コール酸、そしてコレステロール+コール酸の影響を調べた。本実 験においては、コレステロールの恒常性の指標として肝臓と血中の コレステロールを用いた。 98 方法 動物 前節と同じ動物を用いた。 ・肝臓の遺伝子発現と総コレステロールに対するコール酸食または コレステロール+コール酸食の影響 ワイルドタイプまたはクロックミュータントマウスに普通食、 0.25% コ ー ル 酸 食 、 そ し て 2% コ レ ス テ ロ ー ル + 0.25% コ ー ル 酸 食 を 4 週 間 与 え た 。 そ の 後 、 肝 臓 と 血 液 を ZT0 、 4 、 8 、 1 2 、 1 6 、2 0 で サ ン プ リ ン グ し 、肝 臓 の H m g c r 、L d l r 、C y p 7 a 1 、P e r 2 、 Bmal1、そ し て Dbp 遺 伝 子 と 総 コ レ ス テ ロ ー ル 、血 液 の 総 コ レ ス テ ロールを調べた。 0w 普通食 コール酸食 コレステロール+コール酸食 開始 4w ZT0 ZT4 ZT8 ZT12 99 ZT16 ZT20 ・肝臓の遺伝子発現と総コレステロールに対するレステロール食の 影響 ワ イ ル ド タ イ プ ま た は ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス に て 2% コ レ ス テ ロ ー ル 食 を 4 週 間 与 え た 。 そ の 後 、 肝 臓 と 血 液 を ZT4 、 1 6 で サ ン プ リ ン グ し 、肝 臓 の Hmgcr、Ldlr、Cyp7a1、Per2、Bmal1、 そ し て D b p 遺 伝 子 と 総 コ レ ス テ ロ ー ル 、血 液 の 総 コ レ ス テ ロ ー ル を 調べた。 0w 普通食 コレステロール食 開始 4w ZT4 ZT16 ・肝臓の血中における総コレステロールの増加の経日変化(週) ワイルドタイプマウスまたはクロックミュータントマウスにコレ ステロール+コール酸食を0、1、2、そして 4 週間与えた。肝臓 と血液をサンプリングし、肝臓の総コレステロールと血液の総コレ ステロールを調べた。 0w 普通食 コレステロール食 開始 ZT8 1w ZT8 2w ZT8 4w 100 ZT8 コレステロール+コール酸食 普通食は前節と同様のものを用いた。実験群にはコレステロール + コ ー ル 酸 食 ( 2% コ レ ス テ ロ ー ル ( 重 量 /重 量 ) と 0.25% コ ー ル 酸 ( 重 量 / 重 量 )) を 与 え た 。 コ レ ス テ ロ ー ル の 吸 収 を よ く す る た め 、 コール酸を加えた。 R N A 抽 出 と リ ア ル タ イ ム R T- P C R 前節と同じように行った。 肝臓と血中の総コレステロール測定 前章と同じように行った。 統計処理 前章と同じように行った。 101 結果 肝臓の遺伝子発現と総コレステロールに対するコール酸食の影響 本実験の目的はコレステロール食の影響であるが、コレステロー ル食だけでは十分に吸収できないので、コール酸食を加えている。 しかし、コール酸食が影響することも考えられるので、まずはコー ル酸食を用いて実験を行った。普通食またはコール酸食条件下、マ ウ ス の 肝 臓 の Hmgcr、 Ldlr、 そ し て Cyp7a1 遺 伝 子 発 現 を 調 べ た 。 ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス の H m g c r 遺 伝 子 に 関 し て 、普 通 食 を 与 え ら れ た マ ウ ス で は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 し た が( F [ 5 , 2 4 ] = 3 . 1 0 6 、P < 0 . 0 5 、 一 要 因 の 分 散 分 析 、 図 2 0 A )、 コ ー ル 酸 を 与 え ら れ た マ ウ ス で は リ ズ ム 性 は 完 全 に 消 失 し て い た ( F[5,12]=2.429、 P>0.05、 一 要 因 の 分 散 分 析 、 図 2 0 A )。 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の H m g c r 遺 伝 子 発現に関して、普通食とコール酸を与えられたマウスでは有意なリ ズ ム 性 を 示 さ な か っ た ( 普 通 食 : F[5,24]=1.023、 P>0.05; コ ー ル 酸 : F [ 5 , 1 2 ] = 2 . 4 2 9 、 P > 0 . 0 5 、 一 要 因 の 分 散 分 析 、 図 2 0 B )。 コ ー ル 酸 食 は ワ イ ル ド タ イ プ 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス 共 に Hmgcr 遺 伝 子 発 現 を 低 下 さ せ た ( 普 通 食 : P<0.01、 コ ー ル 酸 食 : P<0.01、 S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 2 0 C )。 普 通 食 ま た は コ ー ル 酸 食 条 件 下 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の Hmgcr 遺 伝 子 発 現 は ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス と 比 較 し て 有 意 に 低 下 し た ( 普 通 食 : P<0.05、 コ ー ル 酸 食 : P < 0 . 0 1 、 S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 2 0 C )。 普 通 食 条 件 下 、ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス の L d l r 遺 伝 子 発 現 は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 し た が( F [ 5 , 2 4 ] = 7 . 4 4 3 、P < 0 . 0 1 、一 要 因 の 分 散 分 析 、 図 2 0 D )、 コ ー ル 酸 食 条 件 下 で は 有 意 な リ ズ ム 性 を 失 っ た ( F [ 5 , 1 2 ] = 1 . 7 6 5 、 P > 0 . 0 5 、 一 要 因 の 分 散 分 析 、 図 2 0 D )。 普 通 食 ま た は コ ー ル 酸 食 条 件 下 、ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス で は L d l r 遺 伝 子 発 現 は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 さ な か っ た( 普 通 食:F [ 5 , 2 4 ] = 0 . 4 4 6 、 P > 0 . 0 5 、コ ー ル 酸 食 : F [ 5 , 1 2 ] = 1 . 7 5 7 、P > 0 . 0 5 、一 要 因 の 分 散 分 析 、 図 2 0 E )。 ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス 共 に コ ー ル 酸 食 に よ っ て 、1 日 平 均 の L d l r 遺 伝 子 の 遺 伝 子 発 現 が 有 意 に 低 下 し た ( ワ イ ル ド タ イ プ : P<0.01、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト : P < 0 . 0 1 、 S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 2 0 F )。 普 通 食 ま た は コ ー ル 酸 食 条 件 下 、ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の L d l r 遺 伝 子 発 現 は ワ イ ル ド タ イ プ よ り も 低 か っ た( 普 通 食:P < 0 . 0 1 、コ ー ル 酸 食:P < 0 . 0 1 、S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 2 0 F )。 102 普 通 食 条 件 下 、 ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス の Cyp7a1 遺 伝 子 発 現 は 有 意 な リ ズ ム 性 を 持 っ て い た が ( F[5, 24]=0.937、 P<0.05、 一 要 因 の 分 散 分 析 、 図 2 0 G )、 コ ー ル 酸 を 与 え た マ ウ ス で は 有 意 な リ ズ ム 性 が 無 か っ た ( F[5,12]=2.370、 P>0.05、 一 要 因 の 分 散 分 析 、 図 20 G )。 普 通 食 ま た は コ ー ル 酸 食 条 件 下 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の Cyp7a1 遺 伝 子 発 現 は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 さ な か っ た ( 普 通 食 : F[5,24]=1.144、 P>0.05、 コ ー ル 酸 食 : F[5, 12]=1.801、 P>0.05、 図 2 0 H )。 コ ー ル 酸 食 条 件 下 、 ワ イ ル ド タ イ プ 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス 共 に 1 日 平 均 の Cyp7a1 遺 伝 子 発 現 は 低 下 し て い た ( ワ イ ル ド タ イ プ:P < 0 . 0 1 、ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト:P < 0 . 0 1 、S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 2 0 I )。 普 通 食 ま た は コ ー ル 酸 食 条 件 下 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の Cyp7a1 遺 伝 子 発 現 は ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス よ り 有 意 に 低 か っ た ( 普 通 食 : P<0.01 、 コ ー ル 酸 食 : P<0.01 、 Student’s t-test 、 図 2 0 I )。 血中の総コレステロールは、ワイルドタイプ、クロックミュータ ントマウス共にコール酸食によって上がっていた(ワイルドタイ プ : P<0.01 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト : P<0.01 、 Student’s t-test 、 図 2 0 J )。餌 の 条 件 に 関 わ ら ず 、遺 伝 子 型 の 間 に 血 中 の 総 コ レ ス テ ロ ー ル の 有 意 な 差 は 無 か っ た( 普 通 食:P > 0 . 0 5 、コ ー ル 酸 食:P > 0 . 0 5 、 図 2 0 J )。肝 臓 の 総 コ レ ス テ ロ ー ル に 関 し て 、コ ー ル 酸 食 条 件 下 ワ イ ルドタイプ、クロックミュータントマウス共に有意に増加した(ワ イ ル ド タ イ プ : P < 0 . 0 1 、ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト : P < 0 . 0 1 、S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 2 0 K )。 普 通 食 条 件 下 、 肝 臓 の 総 コ レ ス テ ロ ー ル に は 遺 伝 子 型 に よ る 差 は 無 か っ た が ( P > 0 . 0 5 、 S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 2 0 K )、 コール酸食条件下、クロックミュータントマウスの肝臓の総コレス テ ロ ー ル は ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス よ り も 高 か っ た ( P<0.01 、 S t u d e n t ' s t - t e s t 、 図 2 0 K )。 103 Clock +/+ 3 Hmgcr Daily levels 3 B 3 C 2 2 2 1 1 1 A ** 0 0 4 8 12 16 20 2 Ldlr Clock -/- 0 * *** 4 8 12 16 20 0 ## ** ## +/+ -/- +/+ -/- ND CA 3 F 2 E D 0 * 2 1 1 ** 1 Cyp7a1 Relative mRNA levels 0 *4 *8 0 2 * 12 16 20 G 1 0 **** 0 **0 *4 **8 ** 12 ** 16 ** 20 2 H 2 I 1 1 * 0 4 8 12 16 20 0 +/+ -/ND 0 ** ** * ** * 0 4 8 12 16 20 50 0 3 mg/g mg/dl 100 +/+ -/- +/+ -/- ND CA CA ** +/+ -/- ## +/+ -/- CA Liver cholesterol ## ## J ## +/+ -/- ** ND Serum cholesterol ** ## 0 ZT 150 ## ** ## K Clock +/+ ND Clock +/+ CA Clock -/- ND Clock -/- CA ## 2 1 0 104 +/+ -/- +/+ -/- ND CA 図 20 肝 臓 の 遺 伝 子 発 現 と 総 コ レ ス テ ロ ー ル 量 に 対 す る コ ー ル 酸 食 の影響。 6-8週齢のワイルドタイプとクロックミュータントに普通食ま たはコール酸食を 4 週間与えた。マウスの肝臓と血液を 4 時間ごと に サ ン プ リ ン グ し た 。 肝 臓 の Hmgcr (A, B, C)、 Ldlr (D, E, F)、 そ し て C y p 7 a 1 ( G, H , I ) 遺 伝 子 発 現 を 調 べ た ( A , B , D , E , G, H : 各 点 n = 5 、 C , F, I : n = 3 0 ) 。 血 中 ( J ) と 肝 臓 ( K ) の 総 コ レ ス テ ロ ー ル を 測 定 し た ( n = 3 0 ) 。 値 は 平 均 値 ± 標 準 誤 差 を 示 す 。 S t u d e n t ’s t - t e s t に よ っ て 遺 伝 子 型 と 摂 食 条 件 を 比 較 し た 。 *P<0.05, **P<0.01 (ワ イ ル ド タ イ プ 対 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト )。 #P<0.05, ##P<0.01 (普 通 食 対 コ ー ル 酸 食 )。 105 肝臓の遺伝子発現と総コレステロールに対するコレステロール+ コール酸食の影響 コレステロール食だけでは吸収が悪いのでコレステロールが十分 に吸収されない。よって、胆汁酸の成分であるコール酸を混ぜた餌 を与えることによって、コレステロールの吸収効率を上げた。コレ ステロール+コール酸食の影響を調べるため、コレステロール+コ ー ル 酸 食 条 件 下 、 マ ウ ス の 肝 臓 の Hmgcr、 Ldlr、 そ し て Cyp7a1 遺 伝子発現を調べた。コレステロール+コール酸食条件下、ワイルド タ イ プ マ ウ ス の Hmgcr 遺 伝 子 は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 し た が ( F [ 5 , 2 4 ] = 3 . 1 0 6 、 P < 0 . 0 1 、 一 要 因 の 分 散 分 析 、 図 2 1 A )、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス で は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 さ な か っ た ( F [ 5 , 2 4 ] = 2 . 2 8 3 、 P > 0 . 0 5 、 一 要 因 の 分 散 分 析 、 図 2 1 B )。 コ レ ス テ ロール+コール酸食条件下、ワイルドタイプ、クロックミュータン ト マ ウ ス 共 に 1 日 平 均 の Hmgcr 遺 伝 子 発 現 は 有 意 に 減 少 し て い た ( ワ イ ル ド タ イ プ : P<0.01 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト : P<0.01 、 S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 2 1 C )。 コ レ ス テ ロ ー ル + コ ー ル 酸 食 条 件 下 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の Hmgcr 遺 伝 子 発 現 は ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス よ り 有 意 に 低 か っ た( P < 0 . 0 1 、S t u d e n t ’ s t - t e s t 、図 2 1 C )。 コレステロール+コール酸食条件下、ワイルドタイプ、クロック ミ ュ ー タ ン ト 共 に L d l r 遺 伝 子 発 現 は 有 意 に 低 下 し た( ワ イ ル ド タ イ プ : P<0.01 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト : P<0.01 、 Student’s t-test 、 図 2 1 F )。コ レ ス テ ロ ー ル + コ ー ル 酸 食 条 件 下 、ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の 1 日 平 均 の Ldlr 遺 伝 子 発 現 は ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス よ り も 有 意 に 低 か っ た ( P < 0 . 0 1 、 S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 2 1 F )。 コレステロール+コール酸食条件下、ワイルドタイプ、クロック ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス 共 に 1 日 平 均 の Cyp7a1 遺 伝 子 発 現 は 有 意 に 低 下 し た ( P < 0 . 0 1 、 S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 2 1 F )。 コ レ ス テ ロ ー ル + コ ー ル 酸 食 条 件 下 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の Cyp7a1 遺 伝 子 発 現 は ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス よ り も 有 意 に 低 か っ た ( P<0.01 、 S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 2 1 I )。 コレステロール+コール酸食条件下、ワイルドタイプとクロック ミュータントマウスの血中の総コレステロールは有意に増加した ( ワ イ ル ド タ イ プ : P<0.01 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト : P<0.01 、 S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 2 1 J )。 コ レ ス テ ロ ー ル + コ ー ル 酸 食 条 件 下 、 血液中の総コレステロールに関して、遺伝子型の間に有意な差は無 106 か っ た ( P > 0 . 0 5 、 S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 2 1 J )。 コ レ ス テ ロ ー ル + コ ール酸食条件下、ワイルドタイプ、クロックミュータントマウス共 に肝臓の総コレステロールは有意に増加した(ワイルドタイプ: P < 0 . 0 1 、ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト:P < 0 . 0 1 、S t u d e n t ’ s t - t e s t 、図 2 1 K )。 コレステロール+コール酸食条件下、クロックミュータントマウス の肝臓の総コレステロールはワイルドタイプマウスよりも有意に高 か っ た ( P < 0 . 0 1 、 S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 P < 0 . 0 1 、 図 2 1 K )。 107 Clock +/+ Clock -/- A B 2 1 Hmgcr 0 * ** 0 ** 4 8 **** 0.8 Cyp7a1 Relative mRNA levels 0.0 2 * ** 0 4 8 12 16 20 2 1 1 * ******** * C * 0 4 8 12 16 20 1.6 E 0.8 0.8 ** ******** ** 0.0 0 4 8 12 16 20 2 0.0 1 1 1 * ** * * 0 **** 0 4 8 12 16 20 0 ** **** * **** 0 150 J Liver cholesterol ZT ## mg/g 50 +/+ -/- +/+ -/- ND CA 10 ## 5 0 +/+ -/- +/+ -/- ND CH+CA 108 +/+ -/- ND CH+CA F ** ## ** +/+ -/- +/+ -/- ND CH+CA I ** ** ## +/+ -/- ND +/+ ## -/- CH+CA ** ## K ## 100 0 0 4 8 12 16 20 +/+ -/- ## 2 H ** ## ## 0 1.6 G Serum cholesterol mg/dl 2 0 12 16 20 1.6 D Ldlr Daily levels Clock +/+ ND Clock +/+ CH+CA Clock -/- ND Clock -/- CH+CA 図 21 肝 臓 の 遺 伝 子 発 現 と 総 コ レ ス テ ロ ー ル に 対 す る コ レ ス テ ロ ール+コール酸食の影響。 6-8週齢のワイルドタイプまたはクロックミュータントマウス に普通食またはコレステロール+コール酸食を 4 週間与えた。その 後、マウスの肝臓と血液を 4 時間ごとにサンプリングした。肝臓の H m g c r ( A , B , C ) 、 L d l r ( D , E , F ) 、 そ し て C y p 7 a 1 ( G, H , I ) 遺 伝 子 発 現 を 調 べ た (A、 B、 D、 E、 G、 そ し て H: 各 点 n=5、 C、 F、 そ し て I: n=30)。 血 中 (J)と 肝 臓 (K)の 総 コ レ ス テ ロ ー ル を 測 定 し た ( n = 3 0 ) 。値 は 平 均 値 ± 標 準 誤 差 を 示 す 。S t u d e n t ’s t - t e s t に よ っ て 遺 伝 子 型 と 摂 食 条 件 を 比 較 し た 。 *P<0.05, **P<0.01 (ワ イ ル ド タ イ プ 対 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト ). #P<0.05, ##P<0.01 (普 通 食 対 コ レ ス テ ロ ー ル + コ ー ル 酸 食 )。 109 肝臓の時計遺伝子発現に対するコレステロール+コール酸食の影 響 コール酸食またはコレステロール+コール酸食条件下における、 Hmgcr、 Ldlr、 そ し て Cyp7a1 遺 伝 子 発 現 の 制 御 に 関 し て 2 つ の 仮 説を考えた。一つはコレステロール+コール酸食が時計遺伝子に作 用 し 、 そ の 結 果 Hmgcr、 Ldlr、 そ し て Cyp7a1 遺 伝 子 発 現 を 下 げ る というものであり、もう一つはコレステロール+コール酸食がこれ らの遺伝子に直接作用するというものである。これらの仮説を検証 す る た め 、コ レ ス テ ロ ー ル + コ ー ル 酸 食 条 件 下 、肝 臓 の P e r 2 、B m a l 1 、 そ し て D b p 遺 伝 子 発 現 を 調 べ た 。普 通 食 条 件 下 、ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス の 肝 臓 の Per2、 Bmal1、 そ し て Dbp 遺 伝 子 発 現 は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 し た ( Per2 : F[5,24]=12.548 、 P<0.01 、 Bmal1 : F[5,24]=6.385 、 P<0.01 、 Dbp : F[5,24]=18.964 、 P<0.01 、 一 要 因 の 分 散 分 析 、 図 2 2 A 、 B 、 そ し て C )。 コ レ ス テ ロ ー ル + コ ー ル 酸 食 条 件 下 、ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス の 肝 臓 の Per2、Bmal1、そ し て Dbp 遺 伝 子 発 現 は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 し た ( Per2 : F[5,24]=12.548 、 P<0.01、 Bmal1: F[5,24]=6.385、 P<0.01、 Dbp: F[5,24]=18.964、 P < 0 . 0 1 、 一 要 因 の 分 散 分 析 、 図 2 2 A 、 B 、 そ し て C )。 先 行 研 究 と 同 様 に (Horikawa et al., 2005; Oishi et al., 2000)、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の 肝 臓 の Per2、 Bmal1、 そ し て Dbp 遺 伝 子 発 現 は 有 意 な リ ズ ム 性 を 示 さ な か っ た ( Per2 : F [ 5 , 2 4 ] = 0 . 0 9 4 3 、 P > 0 . 0 5 、 B m a l 1: F [ 5 , 2 4 ] = 1 . 3 1 6 、 P > 0 . 0 5 、 D b p : F [ 5 , 2 4 ] = 1 . 8 1 6 、 P > 0 . 0 5 、 図 2 2 D 、 E 、 そ し て F )。 コ レ ス テ ロ ー ル + コ ー ル 酸 食 条 件 下 、ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の P e r 2 と B m a l 1 遺 伝 子 は わ ず か に 減 少 し ( 図 2 2 D 、 E )、 D b p 遺 伝 子 発 現 は 強 く 抑 制 さ れ た ( 図 2 2 F )。 110 Clock +/+ A Per2 3 B Bmal1 C Dbp 2 * 3 2 2 1 1 0 1 * ** 0 4 8 12 16 20 0 0 4 8 12 16 20 0 0 4 8 12 16 20 Relative mRNA levels Clock -/3 D Per2 2 E Bmal1 0.06 F Dbp 1 0.03 2 1 0 0 4 8 12 16 20 0 ** * 0 4 8 12 16 20 0.00 ** * * ** ** ** 0 4 8 12 16 20 ZT Clock +/+ ND Clock +/+ CH+CA Clock -/- ND Clock -/- CH+CA 図 22 肝 臓 の 時 計 遺 伝 子 に 対 す る コ レ ス テ ロ ー ル + コ ー ル 酸 の 影 響 。 この実験のサンプルは図21で使われたものと同じである。肝臓 の Per2 (A, D)、 Bmal1 (B, E)、 そ し て Dbp (C, F)遺 伝 子 発 現 (各 点 n = 5 ) 。 値 は 平 均 値 ± 標 準 誤 差 を 示 す 。 S t u d e n t ’s t - t e s t に よ っ て 遺 伝 子 型 と 摂 食 条 件 を 比 較 し た 。 *P<0.05, **P<0.01 (普 通 食 対 コ レ ス テ ロ ー ル + コ ー ル 酸 食 )。 111 肝臓の遺伝子発現と総コレステロールに対するコレステロール食 の影響 Hmgcr、 Ldlr、 そ し て Cyp7a1 遺 伝 子 発 現 に 関 し て コ レ ス テ ロ ー ル食がコール酸食と反対の影響を与えるかどうかを調べた。コレス テロール食は、ワイルドタイプとクロックミュータントマウスの 1 日 平 均 の H m g c r と L d l r 遺 伝 子 に 影 響 を 与 え な か っ た( 図 2 3 A 、B 、 C 、 D 、 E 、 そ し て F )。 一 方 で コ レ ス テ ロ ー ル 食 条 件 下 、 ワ イ ル ド タ イ プ と ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス で 1 日 平 均 の Cyp7a1 遺 伝 子 発 現 量 が 上 昇 し て い た ( ワ イ ル ド タ イ プ : P<0.01、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト : P < 0 . 0 1 、 S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 2 3 、 G 、 H 、 そ し て I )。 コレステロール食条件下、血中の総コレステロールはワイルドタ イプ、クロックミュータントマウス共に有意に上昇していた(ワイ ル ド タ イ プ : P<0.01 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト : P<0.01 、 Student’s t - t e s t 、 図 2 3 J )。 コ レ ス テ ロ ー ル 食 条 件 下 、 肝 臓 の 総 コ レ ス テ ロ ー ルはワイルドタイプ、クロックミュータントマウス共に有意に増加 し て い た( ワ イ ル ド タ イ プ:P < 0 . 0 1 、ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト:P < 0 . 0 1 、 図 2 3 K )。 112 Chole only Clock -/- Clock +/+ Hmgcr 3 A 3 B 3 C 2 2 2 1 1 * 1 0 2 Ldlr ND CH ND CH ZT4 ZT16 Relative mRNA levels 0 0 2 D * 1 Cyp7a1 ND CH ND CH ZT4 ZT16 E ND CH ND CH ZT4 ZT16 0 2 # 1 +/+ -/- +/+ -/- ND CH +/+ -/- +/+ -/- ND CH F 1 0 ND CH ND CH ZT4 ZT16 0 3 G ## 3 H ## 3 I 2 2 2 1 1 0 ND CH ND CH ZT4 ZT16 150 mg/g 50 0 +/+ -/- ND +/+ -/- ## 1 ND CH ND CH ZT4 ZT16 0 +/+ -/- ND +/+ -/- CH ## ## 4 K ## 100 ## Liver cholesterol ## J * 0 Serum cholesterol mg/l Daily levels Clock +/+ Clock -/- 2 0 +/+ -/- +/+ -/- ND CH CH 113 図 23 肝 臓 の 遺 伝 子 発 現 と 総 コ レ ス テ ロ ー ル に 対 す る コ レ ス テ ロ ー ル食の影響。 6-8週齢のワイルドタイプまたはクロックミュータントマウス に 4 週 間 コ レ ス テ ロ ー ル 食 を 与 え た 。マ ウ ス の 肝 臓 と 血 液 を Z T 4 と ZT16 に サ ン プ リ ン グ し た 。 肝 臓 の Hmgcr (A, B, C)、 Ldlr (D, E, F)、 そ し て C y p 7 a 1 ( G, H , I ) 遺 伝 子 発 現 ( A , B , D , E , G, そ し て H : : 各 点 n = 3 - 5 、 C , F, I : n = 6 - 1 0 ) 。 血 中 ( J ) と 肝 臓 ( K ) の 総 コ レ ス テ ロ ー ル ( n = 6 - 1 0 ) 。 値 は 平 均 値 ± 標 準 誤 差 を 示 す 。 S t u d e n t ’s t - t e s t を 用 い て 時 間 と 摂 食 条 件 を 比 較 し た 。* P < 0 . 0 5 ( Z T 4 対 Z T 1 6 ) , # P < 0 . 0 5 , # # P < 0 . 0 1 (普 通 食 対 コ レ ス テ ロ ー ル 食 )。 114 肝臓の血中における総コレステロールの増加の経日変化(週) コレステロール+コール酸食を与えた後、マウスの肝臓と血中の 総コレステロールを0、1、2、そして 4 週間後に調べた。コレス テロール+コール酸条件下、ワイルドタイプ、クロックミュータン トマウス共に肝臓の総コレステロールは時間がたつにつれて増加し たが、4 週間後ではクロックミュータントマウスの方がワイルドタ イ プ マ ウ ス よ り も 有 意 に 高 か っ た( 4 週:P < 0 . 0 5 、S t u d e n t ’ s t - t e s t 、 図 2 4 A )。 血 中 の 総 コ レ ス テ ロ ー ル に 関 し て は 遺 伝 子 型 の 間 に 差 は 無 か っ た ( 図 2 4 B )。 115 Serum cholesterol Liver cholesterol 200 * A 10 5 0 0w 1w 2w 4w Clock +/+ Clock -/- B mg/dl mg/g 15 100 0 0w 1w 2w 4w After cholesterol feeding 図 24 血 中 と 肝 臓 に お け る 総 コ レ ス テ ロ ー ル の 経 時 的 変 化 。 6 - 8 週 齢 の ワ イ ル ド タ イ プ と ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス に 0、 1、 2、 ま た は 4 週 間 コ レ ス テ ロ ー ル + コ ー ル 酸 食 を 与 え た 。 マ ウ ス の 肝 臓 と 血 液 を サ ン プ リ ン グ し た 。 肝 臓 (A)と 血 中 (B)の 総 コ レ ス テ ロ ー ル ( 各 点 n = 3 - 5 ) 。 値 は 平 均 値 ± 標 準 誤 差 を 示 す 。 S t u d e n t ’s に よ っ て 遺 伝 子 型 を 比 較 し た 。 *P<0.05 (ワ イ ル ド タ イ プ 対 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト )。 116 考察 本 実 験 の 最 も 重 要 な 発 見 は 、コ レ ス テ ロ ー ル + コ ー ル 酸 食 条 件 下 、 クロックミュータントマウスではワイルドタイプマウスよりも肝臓 の 総 コ レ ス テ ロ ー ル が 高 い こ と で あ る 。さ ら に 、コ ー ル 酸 食 条 件 下 、 クロックミュータントマウスの肝臓の総コレステロールはワイルド タイプマウスよりも有意に増加していたが、肝臓の総コレステロー ルの増加具合はコレステロール+コール酸食の約 3 分の1だった。 コール酸食またはコレステロール+コール酸食条件下、クロックミ ュータントマウスの肝臓の総コレステロールがワイルドタイプマウ スよりも有意に増加するには少なくとも 4 週間必要であると考える。 最初、なぜコール酸またはコレステロール+コール酸食条件下で クロックミュータントマウスの肝臓の総コレステロールが高いのか 不 明 で あ っ た 。 本 実 験 に お い て 、 Cyp7a1 遺 伝 子 発 現 が ワ イ ル ド タ イプ(コール酸食で19%に減少、コレステロール+コール酸食に よって18%に減少)よりもクロックミュータントマウス(コール 酸 食 で 1 2 % に 減 少 、コ レ ス テ ロ ー ル + コ ー ル 酸 食 で 1 1 % に 減 少 ) の ほ う が 低 い こ と が 分 か っ た 。C Y P 7 A 1 は 肝 臓 に お け る コ レ ス テ ロ ー ル 異 化 の 主 要 な 酵 素 と し て 知 ら れ て お り (Myant and Mitropoulos, 1977)、 肝 臓 の Cyp7a1 遺 伝 子 発 現 は コ ー ル 酸 に よ っ て 強 く 抑 制 さ れ る (Lu et al., 2000)。 よ っ て 、 コ ー ル 酸 食 ま た は コ レステロール+コール酸食のコール酸がクロックミュータントマウ スの肝臓のコレステロール異化を抑制し、肝臓の総コレステロール の蓄積を促進すると考える。コール酸食またはコレステロール+コ ー ル 酸 食 に 対 し て 、 コ レ ス テ ロ ー ル 食 は 肝 臓 に お け る Cyp7a1 遺 伝 子発現をワイルドタイプとクロックミュータントマウスの中間の値 ま で 増 大 さ せ た 。 そ の よ う な Cyp7a1 遺 伝 子 の 増 加 は コ レ ス テ ロ ー ル の Cyp7a1 遺 伝 子 促 進 効 果 を 示 し た 先 行 研 究 と 一 致 す る (Peet et al., 1998)。本 実 験 に お い て は 、コ レ ス テ ロ ー ル 食 条 件 下 、ワ イ ル ド タイプとクロックミュータントマウスの肝臓で同じくらいの総コレ ステロールが蓄積した。よって、コレステロール食はワイルドタイ プとクロックミュータントマウスに同じように働くと考える。 Per2、Bmal1、そ し て Dbp 遺 伝 子 に 関 し て 、コ レ ス テ ロ ー ル + コ ー ル 酸 食 は ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス の 肝 臓 の Dbp 遺 伝 子 発 現 を 減 少 さ せ た が 、 ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス は 減 少 さ せ な か っ た 。 Cyp7a1 遺 伝 子 の プ ロ モ ー タ ー に Dbp 結 合 モ チ ー フ が あ る の で 、 コ 117 レステロール+コール酸条件下、クロックミュータントマウスの肝 臓 の D b p 遺 伝 子 が 下 が る と C y p 7 a 1 遺 伝 子 も 下 が る と 考 え る 。な ぜ コレステロール+コール酸食がクロックミュータントマウスの肝臓 の Dbp 遺 伝 子 は 下 げ る が 、 ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス の Dbp 遺 伝 子 を 下げないかを解明するためには更なる研究が必要である。 Hmgcr と Ldlr 遺 伝 子 発 現 は コ レ ス テ ロ ー ル に よ っ て SRE- 1 の 活性化を介してコレステロールによって抑制されることが分かって い る が (Goldstein and Brown, 1990)、 本 実 験 に お い て は 、 コ ー ル 酸 食 ま た は コ レ ス テ ロ ー ル + コ ー ル 酸 食 は 肝 臓 の Hmgcr と Ldlr 遺 伝 子をワイルドタイプ、クロックミュータントマウス共に同じくらい 抑 制 し た 。 HMGCR は 肝 臓 に お け る コ レ ス テ ロ ー ル 合 成 の 律 速 酵 素 なので、コール酸食またはコレステロール+コール酸食条件下、肝 臓 の HMGR に よ る コ レ ス テ ロ ー ル 合 成 が ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウスで促進され、肝臓のコレステロール蓄積に関与している可能性 を排除できない。 本実験においては Clock 変 異 に よ っ て Hmgcr 、 Ldlr 、 そ し て Cyp7a1 遺 伝 子 発 現 が 強 く 抑 制 さ れ た が 、 こ れ ら の 遺 伝 子 が ク ロ ッ ク・コ ン ト ロ ー ル ド・ジ ー ン で あ る (Balasubramaniam et al., 1994; Panda et al., 2002; Ueda et al., 2002)た め で あ る 。 驚 く べ き こ と に 、 Clock 変 異 と 同 様 に 、 コ ー ル 酸 食 ま た は コ レ ス テ ロ ー ル + コ ー ル酸食はワイルドタイプマウスの肝臓の Hmgcr 、 Ldlr 、 そ し て Cyp7a1 遺 伝 子 発 現 を 強 く 抑 制 し た 。 コ レ ス テ ロ ー ル + コ ー ル 酸 食 は Per2 や Bmal1 遺 伝 子 の よ う な 時 計 遺 伝 子 に は 影 響 を 与 え な か っ た の で 、 Hmgcr、 Ldlr、 そ し て Cyp7a1 遺 伝 子 発 現 に 対 し て マ ス キ ング効果を与えたと考える。コレステロール+コール酸食はクロッ ク・コントロールド・ジーンの発現量を下げ、またマスキング効果 によって日内変動を妨げた。 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス は 生 殖 (Hoshino et al., 2006; Miller e t a l . , 2 0 0 4 ) 、睡 眠 覚 醒 ( N a y l o r e t a l . , 2 0 0 0 ) 、そ し て 脂 質 代 謝 ( Tu r e k et al., 2005)に 関 連 し た リ ズ ム 異 常 の モ デ ル 動 物 と し て 使 わ れ て い る 。ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス は 高 脂 肪 食 下 肥 満 を 示 し ( Tu r e k e t al., 2005)、 ob 遺 伝 子 変 異 を 加 え る と ob/ob マ ウ ス よ り も 肥 満 を 示 す (Oishi et al., 2006b)。 本 実 験 の 結 果 か ら 、 ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マウスはコレステロール代謝に関係したリズム異常のモデル動物と して有用であると考える。 118 本実験から明らかになったことは、コレステロール+コール酸 食条件下、クロックミュータントマウスではワイルドタイプマウス よりも肝臓の総コレステロールが高くなることである。 コレステロール 取り込み LDL 受容体 合成 HMG CoA reductase 分解 Cholesterol 7αhydroxylase (CYP7A1) 蓄積 119 第 3 章 まとめ まず、第 1 章では高コレステロール食や肥満などメタボリックシ ンドローム状態が体内時計に与える影響について調べた。第 1 章 1 節ではコレステロール食が体内時計に与える影響について調べた。 心筋梗塞は朝に多いことが報告されており、これは繊維素溶解系の 低 下 と 一 部 関 係 し て い る 。 Pai-1 遺 伝 子 は 繊 維 素 溶 解 系 に 関 係 す る 重要な遺伝子であり、マウスの心臓と肝臓においては時計遺伝子の 制 御 を 受 け て い る 。 高 コ レ ス テ ロ ー ル 血 症 は PA I - 1 増 加 に 伴 う 繊 維 素溶解系の低下に関係し、粥状動脈硬化につながる可能性もある。 高コレステロール食を与えたマウスの肝臓では時計遺伝子に変化は 無 い が 、 Pai-1 遺 伝 子 の 時 計 出 力 増 大 が 見 ら れ た 。 ま た コ レ ス テ ロ ールも肝臓に蓄積していた。この傾向は若いマウスよりも老化した マウスで顕著だった。しかし、心臓の時計遺伝子には変化は無かっ た 。 コ レ ス テ ロ ー ル 食 に よ っ て 増 大 し た 肝 臓 の Pai-1 遺 伝 子 発 現 は 普 通 食 に 戻 す こ と に よ っ て 発 現 量 が 下 が っ た 。 Pai-1 遺 伝 子 を 制 御 し て い る 遺 伝 子 を 複 数 調 べ た 結 果 、 Nr4a1 遺 伝 子 が リ ズ ム 変 動 し て いることが分かった。また、中心時計である視交叉上核を破壊する と Pai-1 遺 伝 子 の リ ズ ム が 消 失 し た 。 本 研 究 に よ っ て 、 高 コ レ ス テ ロ ー ル 食 に よ り 、 肝 臓 の 時 計 遺 伝 子 に 変 化 は 無 い が Pai-1 遺 伝 子 の リズム性が明白になることが分かった。 第 1 章 2 節ではⅡ型糖尿病が体内時計に与える影響について調べ た 。 Pai-1 遺 伝 子 は 時 計 遺 伝 子 だ け で な く イ ン ス リ ン や 中 性 脂 肪 の ような液性因子によっても制御されている。よって、高血糖、高イ ン ス リ ン 、 高 中 性 脂 肪 を 示 す Ⅱ 型 糖 尿 病 モ デ ル マ ウ ス ( db/db マ ウ ス ) の 肝 臓 の 時 計 遺 伝 子 、 Pai-1 遺 伝 子 、 そ し て 行 動 リ ズ ム を 調 べ た 。 db/db マ ウ ス と は レ プ チ ン 受 容 体 に 変 異 が 起 こ っ て い る マ ウ ス で あ る 。 db/db マ ウ ス は 肝 臓 の 時 計 遺 伝 子 の 振 幅 が 減 っ て い る こ と が分かった。さらに行動リズムも乱れていること、肝臓における P a i - 1 遺 伝 子 発 現 が 増 大 し て い る こ と も わ か っ た 。d b / d b マ ウ ス に 餌 を与える時間を制限すると肝臓の時計遺伝子の振幅が大きくなり、 行 動 リ ズ ム も 正 常 に な り 、 Pai-1 遺 伝 子 発 現 量 も 正 常 に な っ た 。 ま た、糖尿病治療薬であるピオグリタゾンを投与することによって Pai-1 遺 伝 子 発 現 が 減 少 し た 。 以 上 の こ と か ら Ⅱ 型 糖 尿 病 が 末 梢 時 計の働きを阻害することが示された。また、糖尿病治療薬であるピ オグリタゾンよりも餌を制限する方が効果的であることがわかった。 120 第 1 章 3 節ではⅠ型糖尿病が体内時計に与える影響について調べ た。すい臓のランゲルハンス島ベータ細胞を破壊するストレプトゾ ト シ ン を 投 与 す る こ と に よ り 、Ⅰ 型 糖 尿 病 モ デ ル マ ウ ス を 作 成 し た 。 血糖値が上昇したのを確認した後、肝臓の時計遺伝子発現と行動リ ズ ム を 調 べ た 。 そ の 結 果 、 肝 臓 の Per2 遺 伝 子 発 現 の リ ズ ム 性 が 消 え 、 Bmal1 遺 伝 子 の 位 相 が 前 進 し て い が 、 Per1 遺 伝 子 は 変 化 が 無 か っ た 。 Pai-1 遺 伝 子 に 関 し て は ス ト レ プ ト ゾ ト シ ン 投 与 の 影 響 は 見られなかった。また、行動リズムにも変化は無かった。 第 2 章では時計遺伝子の異常が脂質代謝に与える影響について調 べ た 。第 2 章 1 節 で は 時 計 遺 伝 子 に 変 異 が 起 こ っ て い る マ ウ ス に 対 する高脂肪食の影響について調べた。体内時計に異常が生じている マウスは脂質代謝に異常がある可能性を検討した。ワイルドタイプ マウスまたはクロックミュータントマウスに普通食または高脂肪食 を与えた。高脂肪食を与えている間、摂食量と体重を計測し、その 後 血 液 と 肝 臓 を サ ン プ リ ン グ し た 。検 討 し た 項 目 は ① 体 重 、② 血 液 、 ③肝臓の脂質、④肝臓の遺伝子の 4 つである。体重についてはエサ の条件によって増加の割合に変化があるかどうかを調べた。血液か らは中性脂肪、脂肪酸を検討した。肝臓の脂質としては、コレステ ロール、中性脂肪を調べた。肝臓の時計遺伝子と脂質代謝に関係す る 遺 伝 子 を 解 析 し た 。 ま ず は 代 表 的 な 時 計 遺 伝 子 で あ る Per2 遺 伝 子 と B m a l 1 遺 伝 子 を 調 べ た 。次 に 、脂 質 代 謝 に 関 す る 遺 伝 子 を 検 討 した。ただし、脂質代謝に関係する遺伝子は膨大な数に上るので全 てを調べるにはとても時間がかかる。よって、脂質代謝に関係する 遺伝子でさらに時計遺伝子による制御を受けている遺伝子に限定し た。脂質代謝には取り込み、輸送、合成など様々な要因がある。脂 質代謝のどの段階で時計制御が強く働いているか検討した。高脂肪 食による実験ではクロックミュータントマウスの肝臓では中性脂肪 が た ま り に く い こ と 分 か っ た 。ま た そ の 原 因 遺 伝 子 と し て 、 A c s l 4 、 Fabp1 遺 伝 子 が 候 補 と し て 考 え ら れ た 。 こ の 2 つ の 遺 伝 子 は 時 計 遺 伝子の制御を受けており、かつ脂質代謝でも重要な役割を果たす遺 伝子である。 第 2章 第 2節 で は 時 計 遺 伝 子 に 変 異 が 起 こ っ て い る マ ウ ス に 対 す る コ レ ス テ ロ ー ル 食 の 影 響 に つ い て 調 べ た 。ま ず ク ロ ッ ク ミ ュ ー タ ン ト マ ウ ス と ワ イ ル ド タ イ プ マ ウ ス を 用 意 し た 。普 通 食 群 と 高 コ レ ス テ ロ ー ル 食 群 に 分 け エ サ を 与 え た 。 実 験 の 際 、 1週 間 ご と に 体 重 121 と 摂 食 量 を 計 測 し 、普 通 食 と コ レ ス テ ロ ー ル 食 ま た は ワ イ ル ド タ イ プマウスとクロックミュータントマウスで差があるかを解析した。 4 週 間 目 に 体 重 を は か っ て か ら 、肝 臓 、血 液 の サ ン プ リ ン グ を 行 っ た 。4 時 間 ご と に サ ン プ リ ン グ を 行 う こ と に よ り 、日 内 リ ズ ム を 観 察 し た 。肝 臓 か ら は 脂 質 を 抽 出 し 、コ レ テ ロ ー ル を 測 定 し た 。次 に Bmal1、Per1遺 伝 子 な ど の 時 計 遺 伝 子 や 、Hmgcr、Cyp7a1遺 伝 子 な ど の コ レ ス テ ロ ー ル 代 謝 に か か わ る 遺 伝 子 を 調 べ た 。血 液 か ら は 、コ レステロールを調べた。脂質代謝にはコレステロールの取り込み、 コ レ ス テ ロ ー ル の 合 成 、コ レ ス テ ロ ー ル の 排 出 な ど 様 々 な 要 因 が あ る 。コ レ ス テ ロ ー ル 代 謝 の ど の 段 階 で 時 計 制 御 が 強 く 働 い て い る か を 検 討 し た 。ま た 、コ レ ス テ ロ ー ル 代 謝 の 各 ス テ ッ プ に お け る 重 要 な 遺 伝 子 を 調 べ 、変 化 が 起 こ っ て い る か ど う か を 検 討 し た 。高 コ レ ステロール食による実験ではクロックミュータントマウスの肝臓 で コ レ ス テ ロ ー ル が た ま り や す い こ と が 分 か っ た 。ま た そ の 原 因 遺 伝 子 と し て C y p 7 a 1 遺 伝 子 が 候 補 と し て 考 え ら れ た 。こ の 遺 伝 子 は 時 計 遺 伝 子 の 制 御 を 受 け て お り 、か つ 脂 質 代 謝 で 重 要 な 役 割 を 果 た す遺伝子である。 以上の結果、高脂血症、肥満、糖尿病などメタボリックシンドロ ーム状態になると、体内時計遺伝子発現に影響が出現したり、その 下流遺伝子発現にも異常が出てくるなど、メタボリックシンドロー ムそのものが体内時計機構を異常にすることがわかった。また体内 時計が異常なマウスではコレステロールや脂質代謝に異常が出現し やすいこともわかった。本研究成果が現在社会問題となっているメ タボリックシンドロームの病因解明や治療に役立つ情報提供になる ことを期待する。 122 謝辞 本研究のあらゆる面に対し、終始適切なご指導とご助言により私を導いてくれた早稲田 大学 先進理工学術院 電気・情報生命工学科 柴田重信教授に甚大なる感謝の念をあら わします。薬理学研究室の皆様にも多くのご協力を頂きました。ありがとうございました。 123 本論文に関わる研究業績の一覧 Takashi Kudo, Toru Tamagawa, Mihoko Kawashima, Natsuko Mito, Shigenobu Shibata. [Attenuating effect of Clock mutation on triglyceride contents], [Journal of biological rhythm] in press Takashi Kudo, Emiko Nakayama, Sawako Suzuki, Masashi Akiyama, Shigenobu Shibata. [ Cholesterol diet enhances daily rhythm of Pai-1 mRNA in the mouse liver], [ Am J Physiol Endocrinol Metab. ], 287(4):E644-651, 2004 Takashi Kudo, Masashi Akiyama, Koji Kuriyama, Motoki Sudo, Takahiro Moriya and Shigenobu Shibata. [Night-time restricted feeding normalises clock genes and Pai-1 gene expression in the db/db mouse liver ], [ Diabetologia ], 47(8):1425-1436, 2004 124 引用文献 Andreotti F, Davies GJ, Hackett DR, Khan MI, De Bart AC, Aber VR, Maseri A and Kluft C (1988) Major circadian fluctuations in fibrinolytic factors and possible relevance to time of onset of myocardial infarction, sudden cardiac death and stroke. Am J Cardiol 62:635-7. 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