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学校における望ましい動物飼育のあり方
学校における望ましい動物飼育のあり方 (平成24年12月1日作成) 一般社団法人 愛媛県開業獣医師会 I.はじめに II.学校動物飼育の意義とあり方 III.関係法令 IV. 動物飼育をする前の検討課題 V. 動物の扱い(ふれあい)方 VI. 動物の病気と感染 VII. 飼育動物の特徴 VIII.獣医師からの要望 各論(動物種別) 概論 I.はじめに 学校で動物を飼育することによって、成長期の子供の情緒や人格だけでなく、 とりわけ協調性や社会適応力などの形成に大きな効果が期待される。その成果 を得るためには、様々対応が教諭に求められる。すべての動物は「動物の愛護 および管理に関する法律(動管法)」によって守られており、学校動物も望まし い飼育を行う義務がある。同法は、 「動物の虐待の防止、動物の適正な取り扱い などの愛護と、動物による人の生命、身体および財産に対する侵害防止を遵守 すべきことを規定しており、その中で「学校における動物飼育は、獣医師等十 分な知識と飼養経験を有する者の指導の下に行われるよう努める」とされてい る。一般社団法人愛媛県開業獣医師会では設立と同時に、学校の動物飼育の担 当部門を設けている。 ここでは、これから現在学校の動物飼育の責任者になる教諭が、 「望ましい動 物飼育のあり方」を守るため検討すべきことを、獣医師の立場からまとめた。 この内容は、動物の健康管理や傷病の治療に直接関係した狭義的な内容だけで なく、学校で生徒の教育を目的として共同飼育される設定から予防医学的な重 要性を考え、人の安全や動物の傷病の遠因になる様々な条件についても検討す べきことを取り上げた。 II.学校動物飼育の意義とあり方 近年は、家庭で飼育する動物を“ペット、愛玩動物”ではなく、伴侶動物、 コンパニオン・アニマルと呼ぶようになって久しい。飼育動物が愛玩道具では なく、家族としての仲間であると同時に動物の固有のあり方も尊重する考えが 定着してきたといえる。動物から受ける安らぎは、あらゆる世代で大きな効果 がある。とりわけ、成長期の子供に対する意義は、自然の偉大さ、美しさ、不 思議さ命の大切さを、さらに動物を飼育し触れることによって、心の安らぎ、 豊かな感情、好奇心、思考力、表現力などの人間形成や社会生活に必要な基礎 を得ることができることにある。同時に、 「生きている仲間」に対する虐待、生 命の危機、恐怖心や嫌悪感、死に対する人の共通認識を持つ効果がある。 このような動物飼育による効果を得るためには、学校での望ましい動物飼育 のあり方に努める必要がある。すなわち、動物が健康に安心できる望ましい生 活環境や条件を整え、維持する義務がある。言葉を持たない動物の飼育や固有 の知識を持ち、さらに動物の個性を大切にすることが重要である。 学校で飼育されるウサギやモルモットなどの動物は、概しておとなしく、人 に慣れやすい種類を選ばれることが多い。しかし、適切でない飼育管理や飼育 環境、および動物の触れ方など,人が動物の安穏な生活に虐待や攻撃を加える と、結果として人を咬む、さらに攻撃的になる、傷病の原因にもなる。傷病動 物は、他の動物への感染や攻撃による傷病の増加、さらに人への感染を招く可 能性がある。様々な事故を防ぎ、動物が健全な生活と子供に対する飼育効果の 恩恵を受けるには、なによりも飼育全体に対する十分な配慮が必要であり、と りわけ、動物だけでなく人における事故や傷病に対する予防対策が必要である。 III.関係法令 1.動物の保護および管理に関する法律(法律第 105 号)が昭和 48 年 10 月 1日に制定、平成 11 年 12 月に動物の愛護および管理に関する法律に改正され た。平成 17 年 6 月改正によって学校の飼育動物も対象として明記された。 「家庭動物等飼養及び保管に関する基準」 (平成 14 年環境省告示第 37 号) が改正。学校動物飼育は、実験動物などの一部の例外を除き、本基準の適 用対象となった。 要点: 改正前の「動物の健康と安全保持、動物による人の生命、財産の侵害ならび に迷惑を防止する」(飼い主の責務)、とくに学校や福祉施設等においては「獣 医師等十分な知識と飼養経験を有する者の指導の下に行われるよう努める」に 加え、 「休日等においても、動物の飼養及び保管が適切に行われるように配慮す ること」が新たに規定として追加された。 その他、動物に関する法律があるが、ウサギ、モルモット,ハムスターなど 学校飼育の対象外の動物に関した法律については、ここでは省略。 2.学校における環境衛生管理の観点からは、「学校環境衛生の基準」(文部 科学省告示)に、飼育動物の施設・設備を清潔に保つことが定められている。 (文 部科学省「学校における望ましい動物飼育のあり方参照) IV. 動物飼育前の検討課題 1. 飼育環境 1)飼育対象の動物種によって、屋内飼育と屋外飼育がある。 屋内飼育は、一般に各教室あるいは決められた共用部屋で飼育するために、 利点として動物を屋外飼育に比べ、観察やふれあう時間が多いことによる効果 が期待される。一方、動物アレルギーのある生徒などがいる場合には避けるべ きで、また飼育ケージの交換、洗浄、消毒、餌の保管、排泄物の処理など飼育 や衛生に関する作業を充分に行うスペースの確保などが容易でない欠点も。 2)屋外飼育舎の設置と構造 屋外飼育に関しては、飼育対象の動物種によって、動物の飼育管理、健康維 持するために以下のような項目の検討が必要である。ここでは、動物種に共通 した検討項目について述べた。 (1)設置場所 学校で飼育される動物は、高温や低温に弱いので、温度や湿度、風など気候 変化による影響を受けにくい場所を選ぶ。また、動物や排泄物の臭いなど敷地 周辺条件とりわけ周辺住民の理解を得る。 (2) 飼育舎の構造 飼育する動物種によって、構造が異なる。一般に、少なくとも動物飼育室と 前室が望ましい。飼育室は、動物が運動できる、飼育箱(寝床)が設置できる、 給水給餌と排泄場所の分離ができる広さであること。前室は人の出入りなどに よる動物逃亡防止、履物の消毒、衣服の交換、餌保管などの広さがあること。 動物舎の仕材や破損によって動物に外傷が起きないように配慮する(釘、金網、 トタンなどの破損など。動物の逃亡防止の扉の構造やストッパー、鍵、他の動 物の侵入防止、および盗難対策を考慮する。また、飼育動物が観察しやすい、 排泄物や食残物や抜け毛の清掃や処理しやすい、洗浄(臭い対策や清潔維持) しやすい構造にする。 (文部科学省、教育委員会などで指標がある?) (3)動物舎の維持や破損の修理 毎日の動物の確認と同時に、動物舎の破損の点検を行い、動物の逃亡や創傷、 外部動物の侵入および生徒の創傷防止のためすみやかに修理を行う。 (4)動物の逃亡時の対策を講じておく。 逃亡した動物が逃げ込みやすい場所、ネコや野生動物によって追い込まれや すい場所の事前調査。周辺地域への捜索協力。逃亡動物の扱い(発見者がう かつにさわらないなど) 2. 予算 飼育舎の製作費 飼育器材費(食器、給水器、清掃用具) 動物購入費 飼料費—市販の固形飼料、生野菜 動物舎の修理費 健康検査や病気の治療費 *学校動物飼育は、経費によるトラブルが少なくない。望ましい飼育をする には、しっかりした継続的な予算確保が必要。 3. 飼育責任 1)教諭と生徒 (1)日常作業—動物の餌や水補給は休日に関わらず毎日行う。学校で飼育す る動物は、餌や水を与えないと 1-1.5 日程度で死に至るので、登校日はもちろ ん、土日や祭日の休日、とりわけ、連休や夏期および冬期休暇などの責任所 在は明確にし、飼育管理を実施して手遅れにならないように、また教諭や獣 医師などへの非常時の連絡体制を確立しておくこと。獣医師としては、早期 段階の受診や傷病の経過や原因など治療に必要な情報が多いほど迅速な 処置や救命ができる。 (2)生涯飼育—飼育動物は確実の責任を持って生涯飼育する。動物の寿命な どあらかじめ知識として習得しておくこと。 (3)繁殖—繁殖するか、しないか明確に決める。どちらにも利点や欠点があ る。たとえば、繁殖には出産や子育ての問題など、繁殖しない場合には、 去勢処置や雌雄の組み合わせ、分離飼育の措置の選択が必要) (4)死亡時の対応—斃死体は、行政(県や市)に相談する。校庭など土中に 埋めない(衛生管理、公衆衛生上の問題から)。 (5)動物飼育に関する作業内容や動物の飼育や健康管理の理解と観察記録あ るいは作業日誌の作成。観察記録や作業日誌傷病の診断など有用。 (6)定期検査 年度内で2回の定期健康検査を受ける。 4.保護者(親)の同意 動物の毛アレルギーや餌に含まれる成分(トウモロコシや小麦など)アレ ルギーなどを起こす生徒がいる可能性がある。事前の本人や保護者の調査 や同意が必要。 動物から人へ、家庭動物との相互感染を危惧する保護者に対して、詳細な 説明が必要。 5. 動物種の選択 ウサギ、モルモット、ハムスター、ニワトリ、チャボなどの候補がある。 それぞれの種によって固有の性質に適した飼育がある。各動物種に関して は、各論で述べた。 動物の入手は、原則として業者から健康な動物を購入する。動物を追加す る場合には、2週間程度の隔離(検疫)飼育が必要。 野生動物や家庭から放棄された動物は飼育禁止。 6.地域ネットワーク (1) 獣医師や保健所との連携 飼育する前に、学校周辺で、飼育動物の健康検査や病気の診療に協力して 貰える獣医師(動物病院)にあらかじめ相談する。 また、動物が死亡した場合の処置に関しては、相談できる保健所を探 しておく。 (校庭などに埋めることはしない) 獣医師による定期的なふれあい講習会—年度初め、とりわけ新入生への 動物のふれあい(動物の特徴やさわり方、注意事項など)、また学年別の 相談・勉強会開催などによって、望まし飼育の指導を受ける。さらに、 日常的な生徒からの質問への応答(メール形式)—先生がまとめ、期間 区々で実施することも推奨できる。 (2) 医師との連携 動物飼育で、動物の咬傷、引っ掻き傷、飼育舎損壊などにより外傷を 受けた場合には、あるいは動物アレルギーの疑いあるいは発症した場合 に備えて、保健室に消毒などの一時的な処置の準備、および診療してく れる医師を探しておく。 V. 動物の扱い(ふれあい)方(ウサギ、モルモット、ハムスター) ウサギ、モルモット、ハムスターなどの各動物種については、各論で述べ た。 1)動物にふれる時 (1)子供といえども、その体の大きさは動物の数倍から十倍あるいはそ れ以上である。大きな体(像)が近づくと、動物は恐怖を感じて、怯えてし まう。まず、動物に声をかけ、動物の視野の範囲(できれば、動物の正面) に立ってからゆっくりと近づく。決して、視野外(体の後)から近づかない。 (2)動物に急に触れない。 (3)口や顔はできるだけさけ、背中などを優しく撫でるように触れる。 (4)足先(とくに爪)の部分は、触らない。 2)手指の消毒 動物の世話や触れる前には、水道水で丁寧に手指を洗浄、その後必ず消毒液 で消毒する(ベンザルコニウム、アルコール)。 糞や尿、その他糞尿で汚染された物によって、手指に汚染物が付着した場合 には、すみやかに水道水で洗浄する。 動物の世話が終了した時には、水道水で手首まで石けんで充分の洗い、その 後消毒液で消毒する。 3)動物を抱く時 (1)対象動物は四肢で体を支える姿勢を保ち、行動する。したがって、四 肢が地面から離れた時には、不安定な状態になり、不安を生じる。動物を抱 いた時、充分に体を支え、四肢が体のどこかに触れるようにする。 (2)大きな声で近づき、多人数が一度にさわらない。決めた一人がやさし く抱く。 4)動物を置く時 抱いた動物は、人が屈んで、地面に近づけて、ゆっくり置く。とくに地面か ら高い位置で抱いたまま他人へ移動させない。 VI. 動物の病気と感染 1.動物の病気(ウサギ、モルモット、ハムスター) 動物の病気は、以下のようなさまざまな原因で起る。 (1)飼育環境:温度や湿度、風(換気) 、栄養補給(バランス)や水分補給、 運動、衛生管理、飼育舎の構造や破損など (2)動物同士の喧嘩や咬傷など外傷、骨折など (3)感染性:皮膚病、腸内寄生虫、ダニ、ノミ、真菌、眼病など (4)その他:腫瘍、肥満など 2. 人獣共通伝染病 動物は真菌、寄生虫、細菌など、人と共通に感染する原因を保有する可能性 がある。手洗い、消毒、動物の取り扱いなどをしっかり慣行すれば、予防で きる。 3.共通の問題(獣医師が対応すべき) 獣医師は、飼育方法、予防医学、消毒方法、傷病治療、抱き方や異常の観察 など、飼育する前や相談があった時には適切な指導し、定期検診や異常の相 談があった場合には、すみやかに対応すること。 VII. 飼育動物の解剖生理学的特徴(ウサギ、モルモット、ハムスター) (前項の動物の特徴以外の基礎知識などー必要があれば) VIII. (学校飼育動物に対する)獣医師からの要望 1.学校で飼育する動物を健全に管理するためには、人と同様に定期検査(年 2回)や傷病の治療が必要になる。傷病の原因として、栄養や運動、排泄物 の処理、動物舎の清掃や破損などの日常の管理が充分でないこと、動物の体 表面や行動の異常発見が遅れることがある。換言すれば、動物を長期に健康 維持するためには、原因を作らない日常の予防対策とともに、異常の早期発 見が傷病の効果的な治癒につながります。そのためには、獣医師との連携維 持と早期相談を薦めます。 *病気には、飼育環境や飼育管理などに原因がある場合が多い。病気の原因 を探して改善しないと、完治しないで、繰り返し再発が起きる。人が病院で 病因を探すために、医師から最初に聞かれる「何かこころあたりがあります か」 「いつもと変わったことはありますか」などの問診に相当する内容は、日 常の注意深い観察や記録です。動物に治療と同時に原因の改善が重要です。 観察記録(飼育日誌)の励行と環境維持が重要です。 2.獣医師が診断に必要な材料の採取や情報提供 ・飼育記録—毎日与える餌の量、固形飼料以外に与える餌の種類と量、水の交 換、ケージや飼育舎の破損などの異常、清掃、下痢、体重測定、異常行動— 病気と飼育や環境ストレスの鑑別 ・脱毛の採取—皮膚病(ダニ、真菌など)の検査 ・採取糞(下痢)—寄生虫などの検査 ・採取尿(別のケージにいれて採取)—泌尿器系などの検査 ・動物の動物病院への搬送 *材料採取の方法は、獣医師に相談すること。 各論 1. ウサギ 1. 動物の特徴 ・臆病なので、脅かさないように取り扱いや飼育環境に十分な配慮をする。 ・アナウサギは土に穴を掘るので、脱走に注意する。 ・寿命はおおよそ5−7年である。 ・繁殖性が高いため、雌雄と同居させないで、分けて飼育する。 ・狭いエリアに雄同士を入れると、激しい喧嘩をする。1匹ずつ分離するか、 去勢が推奨される。 ・原因不明で死んだ場合は、必ず地域の獣医師(保健所)に連絡を取ること。 (2)新しいウサギを選択する時のチェックポイント ・人になれている。 ・耳の内側に汚れ、 “かさぶた”や“ただれ“がない。 ・涙、目やに、よだれ、鼻汁がでていない。 ・ケガをしていない。 ・痩せていない。(背骨や腰部の骨が飛び出していない) ・腹部が膨らんでいない。 ・動きや歩き方がしっかりしている。 ・神経質そうに動き回る、びくびくしない。 ・雄、雌を確かめる。 ・体、とくに肛門の周りが汚れていない。 2.飼育舎の設置 ・屋外の飼育舎で飼育する。室内およびケージ飼育には向かない。 ・飼育舎の設置は、学校敷地の周辺に一般住宅から離れ(臭いが流れない)、夏 期に直射日光があたらず、温度や湿度が低く、冬期に日当たりがよく、年間 を通して床がよく乾燥する条件を満たす場所を選ぶ。排水に問題がない条件 も考慮する。 ・飼育室は巣箱(寝床)を置く場所と、排便場所は決めて清潔に生活するので、 排便場所と餌や水を摂取する場所、適度な運動ができる清潔な広さが保てる 床面積を確保する。 (複数あるいは過密状態で飼育すると、とくに雄は闘争心 を呼び起こすので、歯や爪で咬傷や外傷をもたらす。したがって、頭数を少 なくするか、小室を設けて単独飼育するか、あるいは去勢手術を受ける)。 ・歯が過長にならないように、かじるための固めの木片などを入れる。 ・前室をもうけ、出入りの長靴の消毒槽や作業着、清掃用具、器材を置ける広 さにする。 ・飼育舎の床は、防水コンクリートを用いる(穴を掘って逃走しない、床が清 潔に保てる、清掃しやすいなどの利点がある)。 3.給餌や栄養管理 1)固形飼料 ・市販の固形飼料を与えるのがよい。栄養バランスがよく、摂取量を知ること ができる。 (歯が伸びるのを防ぐ効果もある)。 2)野菜など 補助的に、野菜類(ニンジン、キャベツ、白菜、芋類、カボチャ、小松菜 パセリ、タンポポ、クローバー、干し草)を与える。ただし、毎日、新鮮な 野菜類と交換する。夏期には、腐敗に気をつける。ウサギ用固形飼料がない 場合には、煮干しも与える。 ただし、ネギ、タマネギ、ショウガ、唐辛子など刺激の強いものはあたえな い。 3)餌の量 固形飼料は1羽あたり1日 100g を与える。野菜類は、水道水できれいに洗っ た後、朝夕2回、おおよそ1時間で食べ終わる量を目安に与える。 4)水 市販の給水器を用いて水道水を与える。給水器を用いると、摂取推量が測定 でき、水の汚染が起きにくい。慣れないウサギには、給水器の飲み口に近づ け、教える。 5)清掃 大量の糞を排泄するので、毎日排泄物と食べ残しなどの野菜類もきれいに取 り除いて、床を洗浄し、ウサギの足裏が乾燥した状態にする。餌容器や給水 ビン(とくに摂水口)は、毎日流水で洗浄する。 4.動物の扱い方 1)ウサギは臆病で、人に抱かれると不安を示すことが少なくない。 ウサギを抱くときは、初めは、背中や首の後をやさしくなでる。その後、慣 れてくると、片方の手で首後部あるいは背部の皮膚をやさしく持ち上げるよ うにつかみ、もう片方の手で臀部を支える。耳を持って抱き上げない。抱き 上げた時、人の腹部や胸にウサギの側部が触れるようにする。 2)ウサギは不安を感じると、急に爪で引っ掻いたり、後ろ足で蹴ったり、 前に飛びだしたりする。高い位置で抱いていると、地面に落ちて背骨などの 骨折を起こすことがある。 (骨折の治療は容易ではなく、治療にも時間がかか る。)したがって、ウサギを抱く時は、座って抱くように、また絶えず地面か ら近い位置で扱い、決して不容易に抱き上げたり、高い場所におかないよう にする。 5.疾病 1)観察ポイント 以下のような変化は、病気の前兆あるいは罹患した疾患の症状が表れている 可能性がある。観察記録(飼育日誌)は教諭の判断だけでなく、獣医師にと っても診断、治療に重要である。 ・ 痩せてくる(体重測定:毎月1回程度する)。 ・ 物音や人が近づいても反応が鈍い。 ・ 咳をしたり、苦しそうに鼻汁をだす。 ・ 肛門周辺が汚れる。 ・ 下痢をする。 ・ 排便量が少ない日が続く。 ・ 腹部が膨れる。 ・ 体毛が汚れ、とくに一部部分の毛が固まったり、黒く変色する。 ・ 耳の内部がただれる、かさぶたができる。 * 罹患あるいは可能性のあるウサギは、隔離して、飼育舎を消毒する。 2)病気 ・ 毛球症—ウサギは嘔吐できないので、胃の中に毛球が溜まることがある。 ・ 不正咬合—歯が伸びすぎて、餌を摂取出来なくなる、伸びた歯が頬内や歯 肉に突き刺さり、炎症を起こす。 ・ 皮膚糸状菌症—真菌(カビ)によって、頭、耳、足、指の付け根などにフケ ができたり、毛がぬけたりする。獣医師の治療を受けると同時に、飼育舎を 塩素系漂白剤などで消毒、乾燥する。 ・ 耳の汚れーダニが寄生して、黒い固まりが多量にたまり赤くただれる。(飼 育している全頭のウサギの検査と罹患したウサギの治療を受ける)。 ・ スナッフル症—鼻水、くしゃみなど風邪の症状を示し、首を傾けたりする。 湿度が高いと細菌感染を起こしやすくなる。 ・ 寄生虫感染—コクシジウムなどの寄生虫の感染で下痢が起る。(人も感染す る可能性がある) ・ 外傷—ウサギ同士の喧嘩で傷から細菌がはいり、化膿性炎症がおきる、皮下 などに膿みがたまって腫れる。 ・ 骨折や体躯麻痺—無理な抱き方をした時など、暴れて落下し、背骨の骨折や 脊椎損傷を起こして、後躯麻痺や排尿排便ができなくなる。 ・ 2. モルモット 1. 動物の特徴や習性 ・ 草食性、雑食性である。 ・ 寿命はおおよそ5−7年。 ・ 跳躍力は弱い。 ・ 排泄物の量が多く、毛が長いので、臭いが強くなりやすい。 ・ 体内でビタミン C が合成できないので、野菜類を与える。 ・ 温和な性質で、静かに扱えば、めったに噛みつかない。 ・ 生まれた時、目が見える、動きまわる、餌を食べるまでに成長している。 ・ 繁殖力が強い。 ・ 成熟した雄同志は喧嘩する。 2.飼育ケージや飼育舎の設置 1)飼育ケージ ・ 直射日光があたらない(特に夏期)、風通しがよい場所におく。冬期は防寒 に注意する。 ・ 深さが40−50cm 程度の飼育箱あるいは金属性蓋付きカーボネイト性の ケージで、内に巣箱を置き、排泄場所と餌や飲水場所が離れている床面積が 必要(たとえば、1匹あたり衣装ケースぐらいの大きさ)。多数を飼育する 場合は、隔離できるケージも用意する。 ・ 床は金網にしても、新聞紙や専用の床敷き(木片)を用いてもよいが、毎日 の清掃作業が容易にできるようにする。 2)飼育舎 ・ 屋外の飼育舎で多数で飼育する場合には、繁殖をコントロールするため雄雌 を、喧嘩を防ぐために雄同士を分けて飼育できるような構造にする。外周部 は、外部からの動物侵入、あるいは逃亡防止のため、壊れにくい構造にする。 また野生のネズミなどの侵入を防ぐため、ネズミ返しで囲む。 ・ 高温や低温になりすぎないようにする、とくに、冬期の防寒は注意する。 3.給餌や栄養管理 ・ モルモット用の市販固形飼料を与える。 ・ 野菜類(ニンジン、ピーマン、トウモロコシ、サツマイモ、キャベツ、キュ ウリなど)を流水でよく洗って与える。 ・ 毎日、野菜は少し食べ残すくらいの量を与える。 ・ 水は専用の給水器で与え、毎日容器を水洗し新しい水を補給する。 4.動物の扱い方 ・ 動物の視野(前方)に入る位置から、さわる前に、声をかける。 ・ ケージの上部から、モルモットの頸部から背中をやさしくなで、両手で側部 を包むように持ち上げる。あるいは、胸部から腹部を片手に、もう片方を背 部にあてて、持ち上げる。 ・ 抱いている時は、できるだけ人の胸部あるいは腹部に近づけ、モルモットの 位置が膝の上になるようにする。 ・ 多人数が一度にさわらない。 ・ 大きな声や金属音をださない。 ・ 口の周辺に手を近づけない。 ・ ケージなどに戻すときは、ゆっくりと着実にケージの床において、しずかに 手を離す。 5.疾病 1)観察点 以下のような変化は、病気の前兆あるいは罹患した疾患の症状が表れている 可能性がある。観察記録(飼育日誌)は教諭の判断だけでなく、獣医師にと っても診断、治療に重要である。 ・ 体重の減少。 ・ 動きが鈍い。 ・ 食欲がない。 ・ 肛門周辺が汚れている。 ・ 脱毛、皮膚にフケが多くついている ・ 体表面の一部や関節部が腫れている。 2)病気 ・ 皮膚病や腫脹(はれ)—いくつかの原因がある。ダニやノミ、真菌、細菌感 染による。不衛生な飼育環境、巣箱などによる繰り返しの摩擦による脱毛。 咬傷や化膿性炎症。栄養アンバランスータンパク質やビタミン C 不足。モル モットは体内でビタミンを合成できないので、ビタミン C 不足で起きる壊血 病によって関節の腫脹、関節炎、乳腺炎などを起こす。 ・ 流涎(よだれ)—不正咬合や口内炎、ビタミン C 不足による。 ・ 体重減少—餌を新しく代えた時や環境ストレス。タンパク質欠乏、消化器系 疾患、歯の不正咬合、ビタミン C 不足、寄生虫感染など。 ・ 神経系の疾患(運動失調や麻痺)—落下による骨折、脊椎損傷、ビタミン C 不足、骨関節炎など 3. ハムスター 1.動物の特徴など 1)一般的な特徴 ・ 温厚な性格で、ゴールデン・ハムスターやジャンガリアン・ハムスターな どが飼育しやすい。 ・ 市販の固形飼料を与える(栄養バランスがとれている)。ひまわりの種、 ピ ーナッツ、新鮮な野菜や果物を好む。 ・ 2ヶ月程度で成熟期に達し、1歳程度で高齢、適正な飼育下では2年以上 生きる。 ・ 前歯が伸びるのでよく物をかじる。歯が伸びすぎないように木片等(市販) を与える。 ・ 頭の大きさの隙間があれば、逃亡するので、金属製あるいは専用のケージ で飼育する。 ・ ハムスター(ジャンガリアン・ハムスターの事例がある。)に咬まれると、 アレルギーによるアナフィラキシーショックを起こす人がいる。 また歯が鋭いので出血が多い場合がある。 2)習性 ・ 夜行性で、昼間は寝ていることが多い。 ・ 快適温度は 20-25℃、湿度 50-60%,低温になると活性が低下、5℃程度に なると疑似冬眠する。 ・ 睡眠時間は 14 時間で、体を丸めて眠る。 ・ わずかなことで驚く、警戒する。たとえば、とりわけ金属音や大きな音、 急に触れると驚いて、噛まれることが少なくない。 ・ 単独生活を好む。(繁殖力が強いので、雌雄を同居させない)。 ・ 頬袋に食物などを詰め込んで巣に運び、後にゆっくり食べる。 2.飼育ケージ ・ 屋外飼育(飼育舎)よりは、屋内でハムスター用金属性ケージ飼育する方 が推奨できる。 ・ ケージは温度が20−25℃、風通しのよい湿度が低い場所におく。 ・ ケージ内に巣箱、トイレ用砂、運動用まわし車、固い小枝(歯が伸びすぎ ないように齧るため) 、新聞紙などの床敷き、などをおく。 ・ 飼育ケージ以外に清掃時にハムスターを一時的に確保するケージを用意 する。 ・ 静かな場所におく(騒音などによるストレスを受けないように) ・ ケージ、餌箱、給水器の清掃や消毒は、毎日行う。 3.給餌や栄養管理 (1)餌—基本的には市販の固形飼料(1日1頭10g)を与える。 (2)野菜や草類ー水洗して与える。イチゴ、リンゴ、バナナ、ブドウ、ヒ マワリ、クルミ、トウモロコシ、ピーナッツ、キャベツ、ニンジンな ど。 タンポポ、クローバー、オオバコ、ナズナなど。 (ハムスターは頬袋にいれ、巣箱に溜めるので、野菜や草などは腐敗しない ように清掃の時に除去し、ヒマワリの種など腐敗しないものをすこし残す)。 (2)水—専用給水器を用いる。毎日、洗浄し、水を交換する。 4.動物の扱い方 1)慣れるまで、静かに声をかけて、人になれるようにする。 2)餌を食べている時や、運動している時は、さわらない(噛まれる)。 3)人に興味を示し、近づいてくるようになったら、背中や頭にそっと触れ る。(口の前や体の前部には、急に手をださない)。 4)多人数がいる場合、大きな声を出さない、騒がしくしないで、静かにす る。 5) 手の平(指)などに餌を置いて、ハムスターが近づいてくるまでまつ。 急に手を出したり、引いたりしない。 6)慣れてきたら、両手のひらでやさしく包むようにして持ち上げ、座った 状態で、人の腹部や膝の上で抱く(ケージの上端、机,床面から離れた 高い位置で抱くのは禁止)。ケージに戻す時も静かに置く。決して、投げ 出さない。 5.病気 1)観察ポイント 以下のような変化は、病気の前兆あるいは罹患した疾患の症状が表れてい る可能性がある。観察記録(飼育日誌)は教諭の判断だけでなく、獣医師 にとっても診断、治療に重要である。 ・体重減少 ・食欲低下あるいは廃絶。 ・尾がぬれている。 ・耳がしわしわになる。 ・脱毛、毛が汚れる。 ・腹部や肛門周りが濡れて汚れている。 ・夜、行動しない。 ・行動活性の低下(ケージの隅で動かないなど)。 2) 病気 ・体重減少—栄養不足やアンバランス、外因性ストレス、温湿度管理、歯の 不正咬合、腸炎、肝疾患、腫瘍など ・脱毛—栄養アンバランス、ニキビダニ、真菌、外傷など ・下痢—腐敗した餌、環境変化、細菌、真菌、寄生虫など ・目やに、目が開かない、目の周りの汚れー床敷のホコリ、結膜炎、噛み傷、 歯の疾患などー体調が崩れると目やにが多くなる。 ・外傷—2匹以上を同じケージなどで飼育すると、ハムスター同志の喧嘩や 噛傷、激しい時は相手を殺すことも。雄の方が雌よりも気性が荒い。 ・疑似冬眠—低温(5℃以下)になると疑似冬眠をする。衰弱(痩せる、体 重減少、体温低下など)との識別が必要。 ・足の外傷や骨折—高所から落としたり、金網に四肢端を挟んだりして起る。 (ウサギ、モルモット、ハムスターなどの骨は、成熟してもすべての骨が完 成しない部分がある) 。