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教材Ⅴ(第12回) 第6 弁済の提供、同時履行の抗弁、および、受領遅滞

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教材Ⅴ(第12回) 第6 弁済の提供、同時履行の抗弁、および、受領遅滞
2013年度前期
民法Ⅱ(教材Ⅴ)
山田誠一
教材Ⅴ(第12回)
第6 弁済の提供、同時履行の抗弁、および、受領遅滞
[1] 弁済の提供[民法Ⅲ:210-213]
(1) 弁済の提供という制度の趣旨:弁済がなくても、債務者が一定のことを行なった場合には、債
務者は債務不履行責任を免れる。公平の考慮にもとづく制度である。しかし、弁済の提供によ
って、債務は消滅しない。
(2) 弁済の提供の効果(492条):①損害賠償責任を免れる。②双務契約から生じた場合は解除さ
れない。③担保権を実行されない。強制執行を免れることはない(異論もある)。
(3) 弁済の提供の要件:債務者としてすべきことをすべてしたが、受領その他債権者の行為が必
要なため弁済が完了しない場合。具体的には、現実の提供と、口頭の提供の2通りがある。
(4) 現実の提供(要件①。493条本文):債務の本旨にしたがって現実にする提供。契約通りの内
容の債務について、定められた時期に、定められた場所で、債権者の協力がないために履行
を完了することができないという程度に、すべてのことをなすこと。
(5) 現実の提供の例:金銭債務の場合、全部の額の提供を要し、一部の額の提供では足りない。
物の引渡し債務の場合、目的物の量に不足がある場合は、現実の提供とならない。
(6) 口頭の提供(要件②。493条ただし書):債権者が予め受領を拒むか、債務の履行について債
権者の行為を要する場合、準備をしたことの通知と受領の催告をすると、弁済の提供となる。こ
れを口頭の提供という。債務者に要求される行為の程度を公平上軽減したものである。「債務
の履行について債権者の行為を要する」とは、弁済に先立って債権者の行為が必要な場合で
あり、単に債権者の受領を要することを意味するのではない。
(7) 口頭の提供も要しない場合:不動産賃貸借契約の賃料支払債務について、債権者(賃貸人)
が契約の存在自体を否定するなど、受領しない意思が明確であると認められる時は、口頭の
提供をしなくても、債務者は免責される(判例)。例外的な規律である。
[2] 同時履行の抗弁[民法Ⅳ:27-31]
(1) 同時履行の抗弁の効果(533条):同時履行の抗弁が成立すると、債務者は履行を拒むことが
できる。具体的には、①債務不履行による損害賠償の不成立、②債務不履行による解除権の
不成立のほかに、③債権者の履行を求める請求に対して、裁判所は、債権者の反対債務の
履行と引き換えに履行することを、債務者に命ずる。この判決を引換給付判決という。例えば、
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山田誠一
「被告は原告に対し、金100万円の支払を受けるのと引き換えに、本件機械を引き渡せ」という
判決となる。
(2) 同時履行の抗弁の要件:①双務契約であること(その結果、甲債権と乙債権とが成立してい
る)、②(甲債権について同時履行の抗弁が成立するためには)反対債権(乙債権)の履行期
が到来していること、③(甲債権の)債権者が反対債務(乙債権)の履行をせず、その履行の提
供もしないこと。したがって、双務契約の当事者(A)が、自己が負う債務の履行の提供をすると、
弁済の提供の効果として、自己の債務不履行責任の成立を阻止し(492条)、同時に、相手方
(B)の同時履行の抗弁の成立を阻止することになる(その結果、相手方(B)の債務不履行責
任の成立が可能となる)。
(3) 同時履行の抗弁の例:売買契約で、代金の支払債務も、物(動産)の引渡し債務も、履行期を
定めなかった。買主の同時履行の抗弁の例は、次の通りである。①売主が、買主に、代金の支
払いを求めると、買主は、物の引渡しが提供されない限り、代金を支払わないと主張することが
許される、②売主が、買主に、代金の支払債務の履行遅滞を理由にして、損害賠償(遅延損
害金)の支払いを求めても、買主は、同時履行の抗弁があることを理由に、損害賠償の支払う
義務を負わない、③売主が、代金の支払いを催告し、相当期間経過後解除の意思表示をして
も、541条の解除原因はなく、したがって、売主には解除権は与えられず、解除の効力は生じ
ない。売主の同時履行の抗弁の例は、次の通りである。①買主が、売主に、物の引渡しを求め
ると、売主は、代金の支払いが提供されない限り、物を引き渡さないと主張することが許される、
②買主が、売主に、物の引渡し債務の履行遅滞を理由にして、損害賠償(遅延損害金)の支
払いを求めても、売主は、同時履行の抗弁があることを理由に、損害賠償の支払う義務を負わ
ない、③買主が、物の引渡しを催告し、相当期間経過後解除の意思表示をしても、541条の
解除原因はなく、したがって、買主には解除権は与えられず、解除の効力は生じない。
[3] 受領遅滞[民法Ⅲ:69-71]
(1) 弁済の提供と受領遅滞:債務者が責任を免れるという効果を生じさせる制度が、弁済の提供で
あり、債務者に生じた不利益を債権者が負担する制度が、受領遅滞である。両者は相互に独
立の制度であり、それぞれ固有の効果が与えられるべきである。しかし、受領遅滞に関する民
法413条は、「遅滞の責任を負う」と規定するにとどまる。
(2) 効果:①債務者の目的物の保存義務(400条)の軽減。②債務者から債権者への危険の移転
(536条1項にあたる場合。債務者主義が修正される)。③受領遅滞によって増加した費用を
債務者は債権者に請求することができる。
(3) 要件:2種類のタイプがある。①と②か、①と③をみたすことが必要である。帰責事由は必要が
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ない。①履行の提供があったこと。弁済の提供があったことであり、493条の規定通りである。
②債権者が履行を拒んだこと。弁済の提供が口頭の提供で足りるための要件である「受領を
拒んだこと」と共通する。③債権者が履行を受けることができないこと。
(4) 受領義務を認めるかどうか:債権者に受領義務を認め、その義務に違反するとして、債務者か
ら債権者に対する損害賠償請求や、債務者の行なう解除権を認めるかどうかという問題がある。
判例は、原則として認めない。しかし、継続的な契約関係で、個別具体的な場合に即して、契
約の解釈や信義則により、債権者の受領義務を認めることができる場合はある。その場合は、
受領義務違反を理由として、債務者は債権者に対して、損害賠償請求をすることができる。こ
の場合には、債権者の帰責事由が必要である。
(5) 最判昭和46年12月16日民集25巻9号1472頁[百選Ⅱ:10事件]:X と Y との間で、本件鉱
区から算出される硫黄鉱石全量の売買契約が締結された。Y は、一部の硫黄鉱石を受領した
が、市況悪化を理由に、その後の硫黄鉱石の受領を拒絶した。X は Y に対して、債務不履行
にもとづく損害賠償を求めて訴えを提起した。原判決は、請求を認容した。本判決は上告を棄
却した。
[4] 種類債権(不特定物債権)の目的の特定(集中)[民法Ⅲ:14-16]
(1) 種類債権(不特定物債権)の特定:種類債権(不特定物債権)の目的が特定すると、債務者は、
特定された物についてのみ、引き渡し債務を負う。したがって、履行不能は生じうる。債務者に
帰責事由があれば、債務不履行となり(損害賠償、解除が問題となる)、債務者に帰責事由が
なければ、双務契約の場合、危険負担の債権者主義が適用される(534条2項)。
(2) 特定の要件:特定は、当事者の合意により行なわれる。当事者の合意がない場合、①給付に
必要な行為の完了、または、②債権者の同意を得てする債務者による物の指定により特定す
る(401条2項)。
(3) 種類債権の品質の確定:引き渡すべき物を、種類、数量で定めた場合、その債権を種類債権
という。その場合、引き渡すべき物の品質が問題となりうる。種類債権が契約によって成立する
場合、その契約で、引き渡すべき物の品質を定めていれば、その契約で定めた品質の物を引
き渡さなければならない。しかし、その契約で、引き渡すべき物の品質を定めていないときは、
中等の品質の物を引き渡さなければならない(401条1項。任意規定である)。そのうえで、種
類、品質が同一の物が、取引社会に多数あり、そのどれを引き渡すべきかを定めていない場
合、その債権は、特定物債権であり、特定の問題が伴う。
■ 復習用リスト
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民法Ⅱ(教材Ⅴ)
山田誠一
(1) 弁済の提供について、要件と効果を説明できるか。
(2) 同時履行の抗弁について、要件と効果を説明できるか。
(3) 受領遅滞について、要件と効果を説明できるか。
■ 例題
(1) A は B に対して売買契約にもとづく300万円の代金支払債務を負っていた。A は履行期に現
金300万円を用意して B の営業所に出向いた。しかし、B が受領をしないため、支払わずに持
ち帰った。その後、B が A の債務不履行を理由に、相当期間を定めて催告をし、売買契約の
解除の意思表示を行なった。A と B の法律関係はどうなるか。
(2) A は B に対して売買契約にもとづく300万円の代金支払債務を負っていた。A は履行期に現
金300万円を用意して B の営業所に出向いた。しかし、B が受領をしないため、支払わずに持
ち帰った。その後、B が A に対して、代金と履行期以後の遅延損害金との支払を求めて訴え
を提起した。A と B の法律関係はどうなるか。
(3) C は、じゃがいも100キログラムを、種類、品質、等級を定めて D に売却した。C の倉庫には、
500キログラムのじゃがいもがあり、D への履行のためのじゃがいもも区別されていない状態で
含まれていたが、それらは倉庫の倒壊で商品価値を失った。C と D の法律関係はどうなるか。
(4) C は、じゃがいも100キログラムを、種類、品質、等級を定めて D に売却した。C の倉庫には、
D への履行のためのじゃがいも100キログラムが他と区別されて、D が受け取りにくれば即時
に引渡せる状態となっていたが、それは倉庫の倒壊で商品価値を失った。C と D の法律関係
はどうなるか。
(以上、第12回)
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