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熱水条件

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熱水条件
4
4(2
0
0
6)
地 球 化 学 4
0,2
3
9―2
4
4(2
0
0
6)
Chikyukagaku(Geochemistry)4
0,2
3
9―2
報 文
熱水条件(1
5
0°
C)におけるカルサイトの
マグネサイト化反応の条件とマグネサイトと
熱水溶液間の希土類元素分配挙動
中 野
悠*・川 邊 岩 夫*
(2
0
0
5年1
2月1
6日受付,2
0
0
6年4月1
6日受理)
Experimental magnesitization of calcite at 150°
C and
partitioning behavior of REE between magnesite and
hydrothermal solution
Yu NAKANO* and Iwao KAWABE*
*
Department of Earth and Planetary Sciences,
Graduate School of Environmental Studies, Nagoya University,
Building E of Faculty of Science, Chikusa, Nagoya 464-8602, Japan
Reagent grade calcite was reacted with MgCl2 solutions doped with REE (Mg concentration
of 0.089M-1.8M and REE concentration of about 0.3 ppm each) at 150°
C for 10 or 20 days. Solid
products were identified by X-ray diffraction. Solid and liquid phases were analyzed for Mg, Ca
and REE. The solid phases reacted with MgCl2 solutions (0.89M and 1.8M of Mg2+) were almost
magnesite (about 95%). The molar ratios of Mg/(Mg+Ca) in solutions of the run products were
consistent with the extrapolation of the reported experimental equations in the high temperature range from 275°
C to 420°
C to lower temperatures. The values of pH at room temperature of
the final solutions are ranging from 5-7, and they show a decreasing trend with increasing Mg
concentration. This is probably caused by the precipitation reaction of brucite, which is more
likely to occur at 150°
C than at 25°
C. The REE partition coefficients between solid and liquid
phases defined by
Kd (REE)={XREE/(XMg+XCa)}
/[REE]
/(
[Mg]
+[Ca]
)}
solid{
liquid
have been determined experimentally. The series variation of logKd (REE) in the run in which
the solid phases were almost magnesite, shows a decreasing trend in LREE and a convex tetrad
effect.
Key words: magnesite, rare earth element, tetrad effect
1.は じ め に
Miura et al., 2004)
。しかし,詳細な議論を行うため
には,炭酸塩と流体間の希土類元素の分配挙動がある
炭酸塩中の希土類元素は,生成時の物理化学的条
程度明らかにされている必要がある(Tanaka et al.,
件,流体の組成に関する情報を保持している可能性が
2004; Tanaka and Kawabe, 2006)
。そこで,我々は
ある(Kawabe et al., 1991; Tanaka et al., 2003;
マグネサイトと熱水溶液間の希土類元素分配挙動を実
*
験的に検討した。マグネサイトは天然では熱水条件で
名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻
〒4
6
4―8
6
0
2 名古屋市千種区不老町
名古屋大学理学部 E 館地球惑星科学教室
よく確認されている(Aharon, 1988)
。温度,溶液の
Mg,Ca 比に対するカルサイト―ドロマイト―マグネ
240
中
野
悠・川
邊
岩
夫
サイトの安定領域は Rosenberg and Holland(1964)
,
3pH メ ー
温 で 放 冷 し,溶 液 の pH を HORIBA D―1
Rosenberg et al.(1967)により実験的に定められて
ターで測定した。その後,固相と液相を0.
4
5μm フィ
い る が,彼 ら の 実 験 の 温 度 範 囲 は2
7
5∼4
2
0°
C であ
ルターで分離し,固相は8
0°
C で乾燥させた後,XRD
り,それより低温では実験的に安定領域を明らかにし
により鉱物の同定を行った。液相の一部,及び固相に
ている研究例はない。そこで,ここでは本研究で得ら
ついては塩酸で溶解後の溶解液の一部を分取し,ICP
れた1
5
0°
C でのカルサイトのマグネサイト化の結果と
5
0
0R)で Mg,Ca を定量した。
-AES(Seiko SPS―1
彼らの実験式の比較について報告する。また,マグネ
残りの大部分は,Kawabe et al.(1991 and 1994)に
サイトと熱水溶液間の希土類元素分配挙動についても
従い,希土類元素を鉄共沈により Mg,Ca と分離し,
簡単に述べる。
さ ら に 陽 イ オ ン 交 換(Bio-Rad AG5
0WX8,2
0
0∼
4
0
0mesh, / 1cm×1
1cm)により Fe と残りの Mg,
2.実 験 方 法
Ca を分離した後,固相中の希土類元素を ICP-AES,
特 級 カ ル サ イ ト 約0.
5g と 反 応 溶 液(Mg 濃 度:
0.
0
8
8
5M,
0.
4
4
2M,
0.
8
8
5M,1.
7
7M)3
3.
7ml を耐
液相中の希土類元素は ICP-MS(HP4
5
0
0)で定量し
た。
圧分解容器(テフロン製円筒容器を内容器とするステ
3.結果・議論
ンレス製密閉容器,内容積3
7ml)に入れ,電気炉中
にて1
5
0°
C で1
0日間,または2
0日間反応させた。実験
3.
1 マグネサイト化の反応
条件は Table1にまとめた。反応溶液は,MgCl2・H2O
Table2に XRD による鉱物同定結果,固相,液相
を MQ 水で溶解して作った MgCl2溶液に,希土類元
で の Mg,Ca の 組 成,最 終 溶 液 の pH,計 算 上 の
素混合溶液(1
0ppm)を加え希土類元素濃度をそれ
logKMg(OH)をまとめた。1―a と1―b のマグネサイト率は
ぞれ約0.
3ppm にし,0.
1M NaOH により pH6に調
それぞれ5.
8
4%,6.
8
2%で,XRD の結果からも固相
整 し た も の を 使 用 し た。希 土 類 元 素 混 合 溶 液(1
0
はほとんどカルサイトである。しかし,XRD では小
2
ppm)は,原子吸光用標準溶液(1,
0
0
0ppm)を希釈
さ な ピ ー ク で は あ る が,1―a で は ブ ル ー サ イ ト
して作ったものを使用した。容器中の実験試料は,室
―b ではマグネサイト
(Mg
(OH)
2)の最強回折線,1
Table1
Table2
Experimental conditions of respective runs.
Analyses of Mg and Ca for run products, pH values of final solutions, and
mineral identification by XRD, together with calculated logKMg(OH) .
2
熱水条件におけるカルサイトのマグネサイト化反応と希土類元素分配挙動
241
の最強回折線が認められた。2―a,2―b ではマグネサ
イト率がそれぞれ6
0.
9%,6
7.
3%で,XRD ではカル
サイト,マグネサイトどちらのピークもはっきりと認
められた。3―a,3―b,4―a,4―b ではマグネサイト率
は9
3.
4%∼9
6.
7%で,XRD でもカルサイトの最強回
折線が小さなピークとして認められたが,ほとんどマ
グ ネ サ イ ト で あ っ た。Rosenberg
and
Holland
(1964)
,Rosenberg et al.(1967)は,2
7
5∼4
2
0°
C
(Mg
で CaCl2-MgCl2水溶液(1M または2M)の Mg/
+Ca)
比に対するカルサイト―ドロマイト―マグネサ
イトの安定領域を実験的に決めた。Fig.
1は,2
7
5∼
4
2
0°
C における実験式から,カルサイト―ドロマイト
―マグネサイトの安定領域を低温へ外挿した図である
(Tribble et al., 1995)
。このような外挿はある程度の
不確かさはあるが,反応エンタルピーの温度依存を無
視できると仮定すれば,van’t Hoff の式から低温への
外挿が許される。濃度は少し違うが,本研究の1
5
0°
C
でほぼ完全にマグネサイト化した3―a,3―b 最終溶液
Fig.
1
Extrapolation
of
calcite-dolomitemagnesite boundary by Rosenberg and
Holland (1964) and Rosenberg et al. (1967)
to lower temperatures (Tribble et al., 1995).
The solid and dotted carves are for the solutions with 2M and 1M of (Ca, Mg) Cl2, respectively. The square and circle indicate
the values of the third and fourth series
runs, respectively. The diamond shows the
experimental data of dolomitization with
2M MgCl2 by Miura and Kawabe (2000).
の Mg/
(Mg+Ca)
比を1M 溶液における相図と比較
(Mg+Ca)
比を
し,同 じ く4―a,4―b 最 終 溶 液 の Mg/
2M 溶液における相図と比較してみると,どちらも
1
5
0°
C におけるマグネサイトの安定領域となった。ま
た,Miura and Kawabe(2000)による1
5
0°
C での2M
MgCl2溶液による天然の石灰岩のドロマイト化(ドロ
マイト率=9
1%,最終溶液の Mg/
(Mg+Ca)
=0.
3
3)
も比較してみたところ,1
5
0°
C のドロマイト安定領域
となった。以上のことから,1
5
0°
C で得られた実験結
果は,Rosenberg and Holland(1964)
,Rosenberg et
al.(1967)による高温での実験式から Tribble et al.
(1995)が求めた低温への外挿図と矛盾しないことが
わかった。
3.
2 最終溶液の pH
反応溶液は,カルサイトを加える前は pH6に調整
してあるが,出発物質であるカルサイトを加えれば,
K1:H2CO3=H++HCO3−
−
3
+
2−
3
K2:HCO =H +HCO
KH O:H2O=H++OH−
2
KMgCO :MgCO3=Mg2++CO32−
3
KCaCO :CaCO3=Ca2++CO32−
3
+
(OH)
KMg(OH)=Mg2++2H2O=Mg
2+2H
2
pH は 高 く な る。し か し,最 終 溶 液 の pH は5.
0
8∼
6つ を 考 え る。こ れ ら 各 反 応 の logK の 温 度 変 化
6.
9
1と弱酸性で溶液の Mg 濃度が高くなるにつれて,
(Helgeson, 1969; Bowers et al., 1984)を Fig.
2に
低くなる傾向が認められる(Table2)。この原因は,
示す。
反応溶液の pH に影響する化学反応とその温度変化,
カルサイト,マグネサイトの溶解反応の平衡定数
実験結果から説明できる。反応溶液の pH に直接,間
KCaCO ,KMgCO は温度が高くなるほど低くなる。それに
接的に影響する化学反応,
伴い溶液中の炭酸濃度が減少するため,pH が下がる
3
3
原因となり得る。しかし,直接 H+を放出する反応で
5°
C
はない。炭酸の第一,第二解離定数(K1,K2)も2
と1
5
0°
C で大きく変わらないため,反応溶液の pH を
大きく下げる原因とは考えにくい。また,カルサイト
242
中
野
悠・川
邊
岩
夫
とマグネサイトの溶解度の差が大きければ pH への影
(Table2)
。実 験 結 果 か ら 計 算 し た 値 は 明 ら か に
響も大きいと考えられるが,その差は1
5
0°
C ではほと
1
5
0°
C の logKMg(OH)に 近 い。こ の こ と は,冷 却 後 pH
んどない(Fig.
2)
。残りの水 の 解 離 定 数 KH O と ブ
を測ったとき,ブルーサイトの沈殿反応について,
ルーサイトの沈殿反応の平衡定数 KMg(OH)は,どちら
2
5°
C における平衡系より1
5
0°
C における平衡系に近
2
2
2
も2
5°
C と1
5
0°
C で大きな差がある。1―a の XRD の結
い状態であったことを意味する。固相にブルーサイト
果に,小さいピークであるがブルーサイトの最強回折
が存在する証拠は1―a の XRD の結果のみである。し
線が認められたこと,反応溶液の Mg 濃度が非常に高
かし,他の試料でも存在していたがろ過処理により溶
いこと,ブルーサイトの沈殿反応は固相―液相間の反
解してしまった,または量が少ないか,結晶状態が悪
応であるため逆反応が一般的に起こりにくいことか
いために,XRD で検出できなかったと考えられる。
ら,最終溶液の pH が下がるのはブルーサイトの沈殿
3.
3 希土類元素の分配
反応
希土類元素分配係数を
による影響が大きいと考えられる。ブルーサイ
トの沈殿反応は溶液中の Mg 濃度が高いほど進むの
で,Mg 濃度が高い溶液ほど最終溶液の pH が低くな
={XREE(X
/ Mg+XCa)
}
K(REE)
d
solid/
{
[REE]
(
/[Mg]
+[Ca]
)
}
liquid
るという実験結果とも一致する(Table2)
。ブルー
al.
と定義する。X は炭酸塩における Mg,Ca,REE の
6.
4
4,1
5
0°
C
(1984)によると2
5°
C で logKMg(OH)=−1
モル分率,鍵括弧は重量モル濃度を示す。ほぼ完全に
0.
8
9で あ り,次 の 式 で 与 え ら れ
で logKMg(OH)=−1
)
マグネサイ ト 化(9
6.
5%)し た4―a の logK(REE
d
る。
値は
の 系 列 変 化 を Fig.
3に 示 す。logK(REE)の
d
サ イ ト の 沈 殿 反 応 の 平 衡 定 数 は,Bowers
et
2
2
KMg(OH)=
2
2
aH
=
aMg
+
2+
−2pH
1
0
・mMg
Mg2+
Byrne et al.(1988)に従い,
2+
=0.
2
5と仮定して,
Mg2+
Table3に記す。
の重量モル濃度は容量モル濃度で
3を見る
置き換えて K(REE)を計算している。Fig.
d
と,LREE における K(REE)の減少と上に凸の四組
d
最終溶液の Mg の容量モル濃度を mMg とし,実験で
効果がはっきりと認められる。logK(REE)の上に
d
得られた室温での pH を用いて logKMg(OH)の値を計算
凸な四組効果は,水溶液中の REE 化学種における
し た。こ れ ら は−1
2.
6∼−9.
8の 範 囲 の 値 と な る
REE3+イオンとマグネサイト中に存在する REE3+イ
2+
2
オンでは,前者の4f 電子に対するラカーパラメー
ター(E1,E3)がわずかに大きいことで近似的説明が
可能であろう(川邊,2
0
0
3)
。
Fig.
2
Temperature dependences of equilibrium
constants for reactions controlling pH. The
values of logK are cited from Helgeson
(1969) and Bowers et al. (1984).
Fig.
3
Experimental logKd(REE) values in the run
4-a as function of Z of REE. Yttrium is
placed on the right of Lu.
熱水条件におけるカルサイトのマグネサイト化反応と希土類元素分配挙動
Table3
The values of logKd(REE) in the run 4-a.
sures and temperatures to 5 kb and 600°
C.
4.ま と め
Springer-Verlag Berlin Heidelberg New York
1)本研究での1
5
0°
C でのマグネサイト化,既報のド
Tokyo.
ロ マ イ ト 化 の 実 験 で 得 ら れ た 水 溶 液 中 の Mg/
Helgeson, H. C. (1969) Thermodynamics of hydro-
(Mg+Ca)比の値は,Rosenberg and Holland
thermal systems at elevated temperatures and
(1964)
,Rosenberg
et
al.(1967)が2
7
5°
C∼
4
2
0°
C で実験的に求めた式を用いた,Tribble
et
al.(1995)による外挿結果と矛盾しない。
2)本研究で最終溶液の pH は弱酸性であり,溶液の
pressures. Am. J. Sci. 267, 729―804.
川邊岩夫(2
0
0
3)元素分配,マントル・地殻の地球化
学(地 球 科 学 講 座3; 野 津 憲 治・清 水 洋 共
0
0,培風館.
編)
,5
1―1
Mg 濃度が高くなるにつれて,その pH が低くな
Kawabe, I., Kitahara, Y. and Naito, K. (1991) Non-
る傾向が認められるのは1
5
0°
C でのブルーサイト
chondritic yttrium/holmium ratio and lantha-
の沈殿が原因であると考えられる。
nide tetrad effect observed in pre-Cenozoic
3)ほ ぼ 完 全 に マ グ ネ サ イ ト 化 し た 試 料 の
謝
243
limestones. Geochem. J. 25, 31―44.
LREE での減少と
logK(REE)の系列変化には
d
Kawabe, I., Inoue, T. and Kitamura, S. (1994) Com-
上に凸の四組効果が認められる。希土類元素の分
parison of REE analyses of GSJ carbonate rocks
配挙動についての議論はまた別の形で報告する。
by ICP-AES and INAA: Fission and spectral interferences in INAA determination of REE in
辞
geochemical samples with high U/REE ratios.
ICP-MS,XRD に際し御指導いただいた名古屋大
学環境学研究科の山本鋼志助教授,名古屋大学博物館
Geochem. J. 28, 19―29.
Miura, N. and Kawabe, I. (2000) Dolomitization of
の吉田英一助教授に深く感謝致します。また,広島大
C: Prelimestone with MgCl2 solution at 150°
学理学研究科の田中万也博士には研究,分析に関する
served original signatures of rare earth ele-
多くの助言をいただき深く感謝します。本稿に対する
ments and yttriumas marine limestone. Geo-
御意見をいただいた査読者,編集委員の方々にも深く
chem. J. 34, 223―227.
Miura, N., Asahara, Y. and Kawabe, I. (2004) Rare
感謝致します。
引用文献
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Calcite-Dolomite-Magnesite
Stability
isting minerals and aqueous solutions at pres-
Relations in Solutions: the effect of Ionic
244
中
野
悠・川
strength. Geochim. Cosmochim. Acta 31, 391―
396.
邊
岩
夫
limestones. Geochem. J. 37, 163―180.
Tanaka, K., Ohta, A. and Kawabe, I. (2004) Experi-
Tanaka, K. and Kawabe, I. (2006) REE abundances
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in ancient seawater inferred from marine lime-
aqueous solution at 25°
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plications to petrologic problems. Sed. Geol. 95,
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Fly UP