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マルチホーム環境におけるアドレス選択機構とその有効性について
社団法人 電子情報通信学会 THE INSTITUTE OF ELECTRONICS, INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS 信学技報 TECHNICAL REPORT OF IEICE. マルチホーム環境におけるアドレス選択機構とその有効性について 能美 保則† 池永 全志† 堀 良彰†† 尾家 祐二††† † 九州工業大学 工学部 〒 804–8500 福岡県北九州市戸畑区仙水町 1–1 †† 九州大学 大学院システム情報科学研究院 〒 812–8581 福岡県福岡市東区箱崎 6–10–1 ††† 九州工業大学 情報工学部 〒 820–8502 福岡県飯塚市川津 680–4 E-mail: †{kano,ike}@cs.comp.kyutech.ac.jp, ††[email protected], †††[email protected] あらまし インターネット接続に対する高い信頼性および可用性を求める組織等(サイト)あるいはネットワークに おいて,複数の ISP との契約または複数のアクセス回線を使用するマルチホーム接続が浸透してきている.また,マ ルチホーム環境においては,信頼性の向上だけでなく,負荷分散による通信特性の向上も期待される.本研究では, マルチアドレス型マルチホーミング環境において,エンドホストが通信開始時に選択可能な始点 IP アドレスの候補お よび終点 IP アドレスの候補を同時に考慮し,適切な IP アドレスのペアを使用することによって,通信特性の向上を はかる手法を提案する.さらに,複数の ISP と接続したマルチホーム実験環境を構築し,現在のインターネットにお ける特性を計測することによって,提案手法の有効性を検証する.その結果より,過去の通信特性の履歴情報と通信 開始時の特性情報の二つを組み合わせて IP アドレスペアを決定することによって,良好な通信特性が得られることを 示す. キーワード IPv6,サイトマルチホーミング,アドレス選択,性能計測 Effectiveness of Address Selection Mechanism for Site Multihoming Yasunori NOUMI† , Takeshi IKENAGA† , Yoshiaki HORI†† , and Yuji OIE††† † Dept. of Electrical, Electronic and Computer Engineering, Kyusyu Institute of Technology Sensui-cyo 1–1, Tobata-ku, Kitakyushu, 804–8550 Japan †† Dept. of Computer Science and Communication Engineering, Kyushu University Hakozaki 6–10–1, Higashi-ku, Fukuoka, 812–8581 ††† Faculty of Computer Science and Systems Engineering, Kyushu Institute of Technology Kawazu 680–4, Iizuka, 820–8502 Japan E-mail: †{kano,ike}@cs.comp.kyutech.ac.jp, ††[email protected], †††[email protected] Abstract A multihomed stub site is a stub site that has two or more connection to the Internet service providers. Multihoming provides improving fault tolerance, carrying out load balance, etc. for the site. In this study, we focus on further improving performance of TCP connections at the multihomed stub site with selecting a source IP address and a destination IP address appropriately. We propose an IP addresses selection scheme with measurement results of responding time at the opening phase of TCP connections. The scheme can selects both of a source IP address and a destination IP address. We evaluate the scheme by using of some experiments on actual multihomed environment and confirm its effectiveness. Key words IPv6, site-multihoming, address selection, performance measurements 1. は じ め に インターネットは,企業および家庭に広く浸透し,社会にお ける情報通信基盤として非常に重要な役割を担うようになって きている.また現在では,インターネットサービスプロバイダ (ISP)が提供するサービスは多様化しており,信頼性や価格等 の面で多くの選択肢があるほか,ADSL や FTTH といったア クセス回線の低価格化も進んでいる.そのため,インターネッ ト接続に対する高い信頼性および可用性を求める組織等(サイ ト)あるいはネットワークにおいて,サービスの品質や価格を 勘案しながら,複数の ISP との契約または複数のアクセス回線 を使用するマルチホーム接続が浸透してきている.マルチホー ム接続においては,契約している一つの ISP に障害が発生した —1— 場合に別の ISP や回線に切替えるアクティブ/スタンバイ型の 利用だけでなく,複数の接続を同時に使用して回線の利用効率 を向上させ,負荷分散を図ることも可能である.この場合,複 数ある接続回線のうち,通信相手やその時点での回線の混雑状 況等にもとづいた適切なサイト出口の選択が重要な課題となる. マルチホーム接続環境の基盤技術として筆者らは,IP version 6(IPv6)に着目している.IPv6 におけるサイトマルチホーミ ングに関する問題は,現在,IETF multi6 WG [1], [2] におい て活発に議論されている.なかでも,サイトが接続している各 ISP から割り当てられたアドレスプレフィクスをエンドホスト へ割り当てるホストセントリックマルチホーミング [3] が注目 を集めている.この手法では,サイト内のホストが通信に使用 する始点 IP アドレスを決定することによって,その通信にお いてサイトの出口となる ISP をエンドホストが自律的に選択す ることが可能となる.言い換えると,エンドホストにおける始 点 IP アドレスの選択が,マルチホームサイトにおける出口の ISP および回線の選択となる. 一方,インターネットの利用形態が多様化するのにともなっ て,取り扱われる情報の種類も多様化・大容量化している.さ らにそれらの情報にアクセスする利用者数も増加していること から,特定のサーバやネットワークにかかる負荷を少なくし, データをネットワーク上に分散配置する手法が広く用いられる ようになってきている.代表的な例としては,Web や動画像 配信,ソフトウェアアーカイブ等のミラーサーバや,分散スト レージ等が挙げられる.このようにネットワーク上に資源が分 散配置されている場合におけるサーバ選択手法については様々 な研究が行われている.しかし,利用者のホストがマルチホー ム環境下にある場合にはサイトからの出口回線が複数存在し, それらの回線ごとに最適なサーバも異なると考えられるが,既 存の手法ではこのような複数のサイト出口と複数のサーバが存 在する場合において最適な出口回線とサーバを選択することは 困難である. そこで,本研究では,ホストセントリックマルチホーミング 等のいわゆるマルチアドレス型マルチホーミング環境におい て,エンドホストが通信開始時に選択可能な始点 IP アドレス および終点 IP アドレスの両方を同時に考慮し,適切な IP ア ドレスのペアを導出するサービス機構を提案する.また,複数 の ISP と接続したマルチホーム実験環境を構築し,現在のイン ターネットにおける特性を計測することによって,提案手法の 有効性を検証する.さらに,適切な IP アドレスペアを導出す るために使用する情報として利用可能な計測情報について検討 し,その一つの手法として,過去の通信特性の履歴情報と通信 開始時の特性情報の二つを組み合わせて IP アドレスペアを決 定した場合における性能を示す. 本稿では以降,2. で IPv6 マルチホーム環境における IP ア ドレス選択の必要性について述べた後,3. で適切な IP アドレ スを選択するためのアーキテクチャを概説する.さらに,マル チホーム環境を構築して行った計測実験について 4. で述べ,5. で実験結果にもとづいて提案手法の有効性について考察する. 最後に,6. でまとめと今後の課題について述べる. 2. マルチホーム環境とアドレス選択 2. 1 IPv6 サイトマルチホーミング 本稿ではマルチホーム環境を,単一のサイトまたはネット ワークが複数のインターネットサービスプロバイダ(ISP)等 と接続することにより,複数のインターネットアクセスを利用 可能な環境と定義する. マルチホーム環境を構築するための基盤技術として,我々は IPv6 に着目している.IPv6 では,インターネットにおける経 図 1 マルチアドレス型マルチホーム環境 路情報を集約するために,階層化されたアドレスアーキテク チャが採用されている.このため,一般に各サイトへのグロー バルアドレスの割り当ては,サイトが接続された ISP によって 行われ,各サイトは,ISP で集約可能なアドレスプレフィクス を得る.従って,一つのサイトが複数の ISP に加入するマルチ ホーム環境においては,各 ISP からそれぞれアドレスプレフィ クスを得ることとなる.さらに,通常 ISP では,不適切なトラ ヒックの流入や始点アドレス詐称等への対策のために,自身が 割り当てたアドレスプレフィクス以外のプレフィクスを始点ア ドレスとするパケットをフィルタするため,マルチホームサイ トでは,パケットを送出する ISP に応じて適切なアドレスプレ フィクスを使用する必要がある. このような IPv6 環境においてマルチホームを実現するため のアーキテクチャの一つとして,複数の ISP と接続されたサイ トの出口において,NAT によるプレフィクス変換機構を用い る手法が提案されている [4] .この手法では,サイトにおいて ISP を選択するための情報および判断基準を集約して管理可能 であり,また各ホスト側における対応が不要であるという利点 があるが,その反面,サイト外との全ての通信がこの変換機構 を経由する必要があり,耐障害性の点で課題が残る.またこれ とは異なる手法として,IETF multi6 WG において,ホストセ ントリックマルチホーミング [3] と呼ばれる手法が提案されて いる.これは,サイトが接続している各 ISP から割り当てられ たアドレスプレフィクスを各々エンドホストへ割り当てるもの である.IPv6 では,ホストが有する一つのネットワークインタ フェース(NIC)に対して複数の IP アドレスを付与することが 可能である.従って,マルチホームサイト内の各ホストは,サ イトが接続された ISP から割り当てられたそれぞれのアドレス プレフィクスを有し,その数だけの IP アドレスを持つことと なる.このようにホストが複数の IP アドレスを有する方式を 総称してマルチアドレス型マルチホーミング方式と呼ぶ.この 手法では,エンドホストが自律的にサイトの出口となる ISP を 選択することが可能となる.図 1 は,サイトが ISP-A,ISP-B, ISP-C の三つの ISP に接続しており,各 ISP からプレフィク ス PA,PB,PC がそれぞれ割り当てられている例を示してい る.ここで,ホスト固有の識別子を X とすると,このホスト X は出口として使用する ISP に応じて,自身の IP アドレスとし て PA:X,PB:X,PC:X の三つの IP アドレスを使い分けるこ ととなる. マルチアドレス型マルチホーミングにおいては,サイト内に おいてエンドホストから,ホストが選択した始点アドレスに対 応したサイトの出口までどのようにして経路制御を行うかとい う点が一つの問題である.これについては,サイト出口のルー タ間においてトンネルを設定し,適切な出口ルータへ転送する 方法 [3] や,出口ルータまで,始点アドレスを考慮した経路制 御を行う方法 [5] などが提案されている.ただし,本稿ではこ の問題については上記のような何らかの手法で解決可能である と考えて議論の対象外とし,以降で述べるアドレス選択手法に ついてのみ取り扱う. —2— 2. 2 ホストにおける始点アドレス選択 マルチアドレス型マルチホーミング方式においては,各ホス トは通信に際して,自身の IP アドレスとして,サイトが接続 された複数の ISP 接続のうち,その通信に使用される ISP に 合った IP アドレスを使用する必要がある.すなわち,マルチ ホームサイトにおける出口の ISP および回線を選択した結果か ら通信に使用する始点 IP アドレスを決定することとなる. 複数の IP アドレスを有するホストにおける始点アドレス選 択手順については,RFC3484 [6] で述べられている.しかしこ れは,負荷分散等のトラヒック制御の観点から適切なアドレス 選択を行うための手法を提示したものではないため,マルチ ホーム環境における通信性能を向上させるためには,より多く の情報にもとづいたアドレス選択機構が必要となる. これまで,このようなマルチホーム環境において,通信の開 始に先立ってホストがアドレスを決定するための支援を行う NAROS と呼ばれるサーバ機構と,そのサーバに対する問い合 わせ手順が提案されている [7] .この手法では,アドレス決定 のための情報をホストが個別に収集することなく,サーバで集 約して管理可能であるが,具体的にどのような情報を用いて適 切なアドレスを決定すればよいかという点が重要な課題として 残っている. 2. 3 終点アドレスの選択とその影響 通信に際して,相手側ホストがマルチホーム環境にある場合 には,終点アドレスの候補が複数存在することとなる.またそ れだけではなく,Web や動画像配信,ソフトウェアアーカイ ブ等のミラーサーバや,分散ストレージ等においては,特定の サーバやネットワークにかかる負荷を少なくし,データをネッ トワーク上に分散配置する手法が広く用いられており,このよ うな場合におけるサーバ選択は,複数の終点アドレスの候補か ら適切な IP アドレスを決定することに等しい.複数のミラー サーバから負荷分散等を考慮して適切なサーバを選択する手法 については,インターネットにおいて実測による評価を行った 例 [8] を始めとして,様々な研究が行われている. ここで,利用者のホストがマルチホーム環境下にある場合に 着目すると,サイトからの出口回線が複数存在し,それらの回 線ごとにサーバとホストの間の通信性能も異なると考えられる. 始点ホストのサイト出口からサーバまでの区間において,エン ドホスト間の通信性能を決定する主要な要素として,以下の四 つに着目して考える. ( 1 ) 始点サイトのアクセスプロバイダ ( 2 ) 始点サイトから終点サイトまでの経由プロバイダ ( 3 ) 終点サイトのアクセスプロバイダ ( 4 ) 終点サイト内部および終点ホスト まず,通信特性に与える影響として(1)の性能が支配的である 場合には,シングルホームサイトや,始点 IP アドレスを決定 した後に終点ホストの IP アドレス選択を行う手法では,良好 な特性を得ることは困難である.次に, (3)および(4)につい ては,終点 IP アドレスを決定した後に始点 IP アドレスを決定 する手法では,良好な特性を得ることは困難であり,特に(4) の性能が支配的であれば,何らかの指標にもとづく始点 IP ア ドレス選択機構を用いたとしても特性の変化は期待できない. さらに, (2)の影響は,始点および終点の組み合わせによって 異なると考えられ,始点および終点ともに複数の候補が存在す る場合において最適な性能を得るためには,全ての組み合わせ を考慮する必要がある. これらの点より,複数のサイト出口すなわち始点 IP アドレ スと複数のサーバすなわち終点 IP アドレスが存在する場合に おいて最適な出口回線とサーバを選択することは既存の手法だ けでは困難であると考えられる. 図 2 提案機構の動作例 図3 実験環境 3. 提案するアドレス選択支援機構 我々は,ホストセントリックマルチホーミング等のいわゆる マルチアドレス型マルチホーミング環境において,エンドホス トが通信開始時に選択可能な始点 IP アドレスの候補および終 点 IP アドレスの候補を入力することによって,最適な IP アド レスのペアを導出するサービス機構を提案している [9] .この アドレス選択支援機構はサイトなどネットワークの管理単位毎 に設置され,通信の開始に先立ってエンドホストから発せられ る問い合わせに対して,得られる通信性能に関する情報や何ら かのポリシ等自らが有する知識を用いて応答する.図 2 に,提 案機構の動作概念図を示す.この図では,ホスト自身が二つの IP アドレスを有し,終点ホストの候補として,二つの IP アド レスを有するホストと,そのミラーホストであり一つの IP ア ドレスを有するホストが存在する例を示している.すなわち, • 始点 IP アドレスの候補 = {PA:X,PB:X } • 終点 IP アドレスの候補 = {PC:Y,PD:Y,PE:Z } から構成される六つの組み合わせの中から,最適なアドレスペ アを導出し,ホストへ通知する. アドレス選択のために利用する情報としては,経路情報,通 信品質に関連する情報(遅延時間,利用可能帯域など),通信 履歴情報,管理・運用のためのポリシ情報などが考えられる. 本稿では,以降で示す測定実験で得られた結果より,サイトに 設置された本機構が ISP 等の支援を受けることなく,独自に収 集可能であり,良好な通信特性を得られる手法について検討し, 有効性の検証を行う. 4. 性能計測実験 提案機構の有効性を検証するために,現在のインターネット においてマルチホーム環境を構築し,性能計測を行う.さらに 計測結果から,最適な始点・終点 IP アドレスペアを選択する ために利用可能な性能指標について考察する.なお,提案機構 では IPv6 を対象としているが,現時点で有意な結果を得るこ とができる環境として IPv4 のインターネットを対象として計 測実験を行う. 実験環境を図 3 に示す.計測用ホストとして PC を 2 台用意 —3— 5. 結果および考察 4. 節で述べた実験環境において,2004 年 12 月 21 日から 2005 年 1 月 14 日までの 25 日間にわたり,1 日に 2 回,3 時と 15 時に計測実験を行なった.50 回の計測のうち有効な計測回 数は 45 回であった.本節では,この計測実験によって得られ た結果を示し,その内容について考察する. 5. 1 提案機構の重要性の検証 計測実験を行なった全ての始点および終点 IP アドレスペア (すなわちパス)におけるファイルダウンロード時のスループッ ト特性を調査することによって,始点および終点を同時に決定 する提案機構の重要性を検証する. 図 4 は,ある計測回における各パスのスループット特性につ いて,横軸に終点が同じとなるパスをまとめて並べたものであ る.この図において,例として,HK を終点とした場合の結果 に着目する.始点 IP アドレス(ISP)の違いによって,得られ るスループットに差があり,ここでは,パス A-HK を使用した 場合が最も高いスループットを得られていることがわかる.し かし,このパス A-HK で得られるスループットは,選択可能な 30 通りの全パスの中では,上位 9 番目程度の値にすぎない.図 Throughput(kB/sec) 2000 1500 1000 500 A-AM B-AM C-AM D-AM E-AM A-FR B-FR C-FR D-FR E-FR A-HK B-HK C-HK D-HK E-HK A-JP_D B-JP_D C-JP_D D-JP_D E-JP_D A-JP_C B-JP_C C-JP_C D-JP_C E-JP_C A-JP_E B-JP_E C-JP_E D-JP_E E-JP_E 0 Path 図 4 パスごとのスループット特性(1 月 11 日 15 時,終点別) 3000 2500 2000 1500 1000 500 A-AM A-FR A-HK A-JP_D A-JP_C A-JP_E B-AM B-FR B-HK B-JP_D B-JP_C B-JP_E C-AM C-FR C-HK C-JP_D C-JP_C C-JP_E D-AM D-FR D-HK D-JP_D D-JP_C D-JP_E E-AM E-FR E-HK E-JP_D E-JP_C E-JP_E 0 Path 図 5 パスごとのスループット特性(1 月 11 日 15 時,始点別) 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 A-AM B-AM C-AM D-AM E-AM A-FR B-FR C-FR D-FR E-FR A-HK B-HK C-HK D-HK E-HK A-JP_D B-JP_D C-JP_D D-JP_D E-JP_D A-JP_C B-JP_C C-JP_C D-JP_C E-JP_C A-JP_E B-JP_E C-JP_E D-JP_E E-JP_E ( 2 ) ファイルダウンロード前と後の通信経路を比較し,同 じものだけを有効な結果として記録する. ( 3 ) これを,始点 IP アドレス B,C,D,E に対して順次 実行する. 2500 Throughput(kB/sec) ( a ) 始点ホストから終点ホストまでの通信経路と 可用帯域を測定する.測定には pathneck [10] を使用 する. ( b ) 始点ホストから終点ホスト間に対する TCP 通信開始時の応答時間を計測する.計測には本研究用 に改良した echoping [11] を使用する. ( c ) HTTP により約 10MByte のファイルをダウ ンロードし,その際のスループットを計測する.計測 には wget [12] を使用する. ( d ) ダウンロード終了後に,再度始点ホストか ら終点ホストまでの通信経路を確認する.測定には pathneck [10] を使用する. 3000 Throughput(kB/sec) し,そのうちの 1 台を,4 つの異なるインタフェースによって 4 つの ISP,ISP A,ISP B,ISP C,ISP D と接続する.さら に,もう 1 台の PC を 1 つの ISP E と接続する.これらを仮想 的に始点 IP アドレスとして A,B,C,D,E の 5 つを有する 1 つのホストとみなす.なおこれらのホストはいずれも九州工業 大学内に設置した.通信相手(終点)として,同一のファイル を HTTP によって取得可能な 6 つのミラーサーバを利用する. それぞれ,アメリカ(AM),フランス(FR),香港(HK),さ らに,始点ホストが接続している ISP と同じ ISP に接続された サーバとして日本国内の三つのサーバ(JP C,JP D,JP E) である.従って,始点 IP アドレスの候補が 5 つ,終点 IP アド レスの候補が 6 つの合計 30 通りのアドレスペアを対象として 特性計測を行う. 構築した実験環境において,各始点および終点 IP アドレス のペアすなわち候補となる全パスを対象とし,下記の手順で計 測を行う. ( 1 ) 始点 IP アドレスとして A を使用し,ISP A 経由で全 終点 IP アドレスに対して,一つずつ順番に計測を行う.ここ で,計測は下記の手順を 1 セットとし,これが 10 分以内で完 了したものだけを有効な結果として使用する.すなわち,10 分 以上経過した場合には計測を中断し,その回は計測不可能と記 録する. Path 図 6 パスごとのスループット特性(12 月 27 日 3 時,終点別) 5 は,図 4 と同じデータについて,始点が同じとなるパスごと にまとめて並べ替えたものである.ここで,E を始点とした場 合に着目すると,パス E-JP D が最も高いスループットを得ら れているが,他の A から D までのいずれかの始点を選択した場 合に得られる最大スループットと比較すると,比較的低い値と なっている.また,始点 B を選択した場合には,パス B-JP D が最も高いスループットを得られているが,同じ終点 JP D を 選択しても始点が A であった場合には,非常に低いスループッ トしか得られていないことがわかる.これらの結果より,始点 または終点のどちらかを先に決定した後では,良好な特性を得 ることは困難であり,最適なパス選択のためには,始点および 終点を同時に決定する手法が必要であるということが言える. —4— 3500 300 AM FR HK JP_D JP_C JP_E 3000 Response Time(msec) 250 Throughput(kB/sec) 2500 2000 1500 1000 200 150 100 50 0 0 A-AM A-FR A-HK A-JP_D A-JP_C A-JP_E B-AM B-FR B-HK B-JP_D B-JP_C B-JP_E C-AM C-FR C-HK C-JP_D C-JP_C C-JP_E D-AM D-FR D-HK D-JP_D D-JP_C D-JP_E E-AM E-FR E-HK E-JP_D E-JP_C E-JP_E 500 0 500 Path 3500 300 Average Response Time(msec) さらに,別の計測回における各パスのスループット特性を図 6 に示す.この計測回においては,パス A-JP C を使用した場 合が最も高いスループット特性を得られており,C-JP C が二 番目に高いスループット特性を得られている.しかし,先ほ どの図 4 および図 5 の結果では,A-JP C は全 30 パス中の上 位 6 番目程度の特性であるうえ,C-JP C については,非常に 低いスループットしか得られていない.これらの結果より,ス ループット特性に着目した場合に,良好な特性が得られるパス は時間によって変化しており,始点および終点アドレス選択に あたっては,通信開始時のネットワーク特性を考慮する必要が あるといえる. 5. 2 計測結果を用いたアドレス選択方式の検討 ここでは,有効な全ての計測回で得られた結果を分析し,計 測結果を用いたパス選択方式について検討する. 図 7 は,今回の計測実験で得られたスループット特性につい て,パスごとの最小,最大,平均値を示したものである.図中 における点 “*” がそのパスにおいて得られた平均スループッ トを表している.この図より,平均 1000kB/sec 以上と高いス ループットが得られるパスにおいては,最小値が極端に低くな ることが無く,常に良好なスループット特性が得られるパスで あると考えられる. 図 8 は,A を始点としたパスにおいて得られたスループット 特性と TCP 通信開始時における応答時間の関係を散布図で示 したものである.ここでは,一つの点が一回の計測結果を表し ており,応答時間が 300msec 以上となったものについては,全 て 300msec の位置に表示している.この図より,A を始点と した場合には,終点 FR,AM,HK との間の TCP 通信開始時 の応答時間が長く,これらのパスで得られるスループットは常 に低いことがわかる.しかし,その他を終点とする場合には, ほとんどの場合において応答時間は非常に短いが,得られるス ループット特性は様々であり,応答時間とスループット特性の 間に相関が見られない.これに関しては,他の B から E を始 点とした場合も同様な結果となった. 各パスにおける全計測回の平均スループットと平均応答時 間の関係を図 9 に,平均スループットと応答時間の変動係数 (CV)の関係を図 10 に示す.どちらも,図中の点は一つのパ スの特性を表している.これらの図より,平均スループットが 高いパスが 5 つ存在し,それらのパスについては,応答時間の 平均値および応答時間の変動がともに非常に小さいということ がわかる.なお,この計測において高い平均スループットが得 られた 5 つのパスは,A-JP C,A-JP E,B-JP D,C-JP D, D-JP D である. 以上の結果より,始点および終点 IP アドレスとして複数の候 3000 図 8 A を始点とする場合におけるスループットと応答時間の関係 250 200 150 100 50 0 0 500 1000 1500 2000 2500 Average Troughput(kB/sec) 3000 3500 図 9 平均スループットと平均応答時間の関係 3.5 3 Response Time CV 図 7 全計測データによる最大,最小,平均スループット 1000 1500 2000 2500 Troughput(kB/sec) 2.5 2 1.5 1 0.5 0 0 500 1000 1500 2000 2500 Average Troughput(kB/sec) 3000 3500 図 10 平均スループットと応答時間の変動係数の関係 補が存在する場合におけるパス選択の一つの戦略として,各パ スを使用して得られたスループット特性を学習し,平均スルー プットが高いパスを選択するという方法が考えられる.さらに, TCP 通信開始時の応答時間の変動が大きなパスはスループッ ト特性が悪い可能性が高いことから,そのようなパスを選択し ない手法を組み合わせることによって,さらに良好なパスの選 択が可能であると考えられる. 5. 3 計測結果を用いたアドレス選択方式の評価 前節で得られた結果より,計測結果を用いたアドレス選択の 戦略の一つとして,次のような方式を考える.まず,全パスの 中から,平均スループットが高いいくつかのパスを候補として 持つ.アドレス選択支援機構がホストから要求を受け取った際 —5— 6 1 Cumulative Distribution 5 Order 4 3 2 1 0 0.6 0.4 ALL 2 4 6 0.2 0 0 5 10 15 20 25 Times 30 35 40 45 図 11 各計測回におけるアドレス選択の結果(順位) 1 2 3 4 5 6 Order 7 8 9 10 図 13 各計測回で得られる順位の累積分布 1 Cumulative Distribution 0.8 6. ま と め 0.8 0.6 0.4 0.2 3 5 10 0 1 2 3 4 5 6 Order 7 8 9 10 図 12 各計測回で得られる順位の累積分布 には,これら全ての候補について応答時間を測定し,その時点 で応答時間が最小であるパスを選択し,始点および終点 IP ア ドレスを決定する.以降では,この手法を使用してアドレス選 択を行なった場合の結果について述べる. 各計測回の結果より,上記の手法を用いて選択されたパスが, ある計測回において上位何番目のスループットを得られている かを示したものが図 11 である.横軸は計測回,縦軸はその計 測回における選択されたパスのスループットの大きさの順位で ある.縦軸が 1 の場合に,最適なパスを選択していることを意 味する.また,得られた順位の累積分布を図 12 に示す.図よ り,この手法を用いることによって,約 80%の確率で全パス中 における上位 3 位以内のスループットを得ることが可能であり, 95%以上の確率で 4 位以内のパスを選択可能であることから, 非常に適切なパス選択ができているといえる.また,これらの 図では,全パスから候補として選択するパスを 3,5,10 個と した場合も,全て同じ結果となった. 次に,各パスにおけるスループットの平均を算出する際の データ数の影響について調査した結果を図 13 に示す.図中の ALL は,45 回の計測回全ての平均値を用いたもの,2,4,6 はそれぞれ,直前の 2 回,4 回,6 回の計測値を用いて平均ス ループットを算出した結果から,候補を選出した場合の結果で ある.なお,選出する候補数は 5 個としている.この結果より, 平均スループットが高いパスを選出する際の,平均を算出する ためのデータとしては,直前の過去 2 回程度の計測値を用いれ ば十分であるといえる.すなわち,パスごとに保持した少量の 通信状態の履歴と,通信を行なう時点での応答時間を組み合わ せることによって,非常に適切なアドレス選択が可能であるこ とがわかる. 本研究では,ホストセントリックマルチホーミング等のいわ ゆるマルチアドレス型マルチホーミング環境において,エンド ホストが通信開始時に選択可能な始点 IP アドレスおよび終点 IP アドレスの両方を同時に考慮し,適切な IP アドレスのペア を導出するサービス機構を提案した.さらに,複数の ISP と接 続したマルチホーム実験環境を構築して計測実験を行なった結 果から,始点および終点 IP アドレスを同時に考慮して決定す ることの重要性を確認するとともに,計測情報の履歴と通信開 始時の応答時間を組み合わせることによって,95%以上の確率 で全パス中における上位 4 位以内のパスを選択可能であること を示した.今後は,提案手法にもとづくアドレス選択支援機構 の実装を進めて行く予定である. 謝辞 本研究を進めるにあたり,有益な助言をいただきまし た九州工業大学情報工学部鶴 正人 助教授に深く感謝致します. なお,本研究の一部は,総務省による「戦略的情報通信研究開 発推進制度」および文部科学省における科学研究費補助金基盤 研究(A)(課題番号 15200005)の支援を受けている.ここに 記して謝意を表す. 文 献 [1] IETF multi6 WG, http://www.ietf.org/html.charters/multi6charter.html [2] J. Abley, et al, “Goals for IPv6 Site-Multihoming Architectures,” RFC3582, IETF, Aug. 2003. [3] C. Huitema, et al, “Host-Centric IPv6 Multihoming,” Internet-draft, draft-huitema-multi6-hosts-03.txt, IETF, 2004. [4] Y. Hori, et al, “Design and Implementation of IPv6 gateway allowing effective use of multihome network,” in Proc. IEEE PACRIM’03, pp.601–604, 2003. [5] 大平建司, 小山洋一, 藤川賢治, 岡部寿男, “IPv6 エンドツーエ ンドマルチホーミングのためのアドレス割り当てと送信元アド レスを考慮した経路制御,” 情処学論, pp.25–30, Jul. 2004. [6] R. Draves, “Default Address Selection for Internet Protocol version 6 (IPv6),” RFC 3484, IETF, Feb. 2003. [7] C. Launois, O. Bonaventure, and M. Lobelle, “The NAROS Approach for IPv6 Multihoming with Traffic Engineering,” in Proc. QoFIS2003, 2003. [8] 間瀬憲一, 栗林孝行, 津野昭彦, “QoS 統計データを利用した動 的サーバ選択法,” 信学論 (B), no.3, pp.499–510, Mar. 2003. [9] 池永 全志, 堀 良彰, 尾家 祐二, “マルチホーム環境におけるアド レス決定支援機構の提案,” 第 57 回電気関係学会九州支部連合 大会, 2004 年 9 月. 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