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情報サービス・ソフトウェア (PDF形式:10986KB)

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情報サービス・ソフトウェア (PDF形式:10986KB)
情報サービス・ソフトウェアに係る
技術に関する施策・事業
評価報告書
平成23年3月
産業構造審議会産業技術分科会
評
価
小
委
員
会
はじめに
研究開発の評価は、研究開発活動の効率化・活性化、優れた成果の獲得や社
会・経済への還元等を図るとともに、国民に対して説明責任を果たすために、
極めて重要な活動であり、このため、経済産業省では、「国の研究開発評価に
関する大綱的指針」(平成20年10月31日、内閣総理大臣決定)等に沿っ
た適切な評価を実施すべく「経済産業省技術評価指針」(平成21年3月31
日改正)を定め、これに基づいて研究開発の評価を実施している。
また、第25回産業構造審議会評価小委員会(平成21年1月)において、
新たな評価類型として「技術に関する施策評価」が審議・了承された。技術に
関する施策評価は、当該技術分野全体の方向性等を勘案しつつ、当該施策の下
に位置付けられる技術に関する事業のまとまりを俯瞰する形で、各事業の相互
関係等に着目し、個々の事業に係る評価結果を踏まえて行うこととしている。
経済産業省において実施している技術に関する施策「情報サービス・ソフト
ウェアに係る技術に関する施策」は、売上規模17兆円、雇用者数86万人を
擁する重要産業であることに加え、あらゆる産業にとって不可欠な業務インフ
ラとして機能し、生産性向上、コスト削減、新サービスの創出等も実現する情
報サービス・ソフトウェア産業の高度化を通じた、IT利活用による我が国産業
全体の競争力強化を図ることを目的としており、以下の技術に関する事業から
構成される施策である。
①情報大航海プロジェクト(平成19年度~平成21年度)
②産学連携ソフトウェア工学実践事業(高信頼組込みソフトウェア開発)
(平成19年度~平成21年度)
③IT投資効率性向上のための共通基盤開発プロジェクト(平成20年度~
平成21年度)
④次世代高信頼・省エネ型IT基盤技術開発・実証事業(平成22年度~)
⑤中小企業システム基盤開発環境整備事業(平成22年度~)
※④⑤については平成22年度より開始した事業であるため、事業評価の
対象外
今回の評価は、技術に関する施策「情報サービス・ソフトウェアに係る技術
に関する施策」、及びこの構成要素である技術に関する事業評価であり、実際
の評価に際しては、省外の有識者からなる情報サービス・ソフトウェアに係る
技術に関する施策・事業評価検討会(座長:池上 徹彦 文部科学省宇宙開発
委員会委員長)を開催した。
今般、当該検討会における検討結果が評価報告書の原案として産業構造審議
会産業技術分科会評価小委員会(小委員長:平澤 泠 東京大学名誉教授)に
付議され、内容を審議し、了承された。
本書は、これらの評価結果を取りまとめたものである。
平成23年3月
産業構造審議会産業技術分科会評価小委員会
産業構造審議会産業技術分科会評価小委員会
委
委員長
平澤
泠
員
名
簿
東京大学 名誉教授
池村 淑道
長浜バイオ大学バイオサイエンス学部 教授
大島 まり
東京大学大学院情報学環 教授
東京大学生産技術研究所 教授
太田 健一郎
横浜国立大学大学院工学研究院 教授
菊池 純一
青山学院大学法学部長・大学院法学研究科長
小林 直人
早稲田大学研究戦略センター 教授
鈴木
政策研究大学院大学 教授
潤
冨田 房男
中小路 久美代
森
俊介
吉本 陽子
北海道大学名誉 教授
株式会社SRA先端技術研究所リサーチディレクター
東京理科大学理工学部経営工学科
教授
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
経済・社会政策部
主任研究員
(委員敬称略、五十音順)
事務局:経済産業省産業技術環境局技術評価室
情報サービス・ソフトウェアに係る技術に関する施策・事業評価検討会
評価者名簿
座
長
池上
徹彦
岩野 和生
文部科学省宇宙開発委員会委員長
日本アイ・ビー・エム株式会社執行役員
未来価値創造事業担当
新
誠一
電気通信大学電気通信学部システム工学科教授
西尾章治郎
大阪大学理事・副学長
西岡
法政大学デザイン工学部システムデザイン学科教授
靖之
(敬称略、五十音順)
事務局:経済産業省商務情報政策局情報処理振興課・情報経済課
情報サービス・ソフトウェアに係る技術に関する施策・事業評価に係る省内関
係者
1.技術に関する施策
(平成22年度)
商務情報政策局
産業技術環境局
情報処理振興課長 東條 吉朗(事業担当)
情報経済課長 村瀬 佳史(事業担当)
産業技術政策課 技術評価室長 秦 茂則
2.技術に関する事業
A. 情報大航海プロジェクト
【事後評価】(平成22年度)
商務情報政策局 情報処理振興課長 東條 吉朗(事業担当)
産業技術環境局 産業技術政策課 技術評価室長 秦 茂則
【事前評価時】(予算要求時)
商務情報政策局 情報経済課 情報経済企画調査官 八尋 俊英(事業担当)
B. 産学連携ソフトウェア工学実践事業(高信頼組込みソフトウェア開発)
【事後評価】(平成22年度)
商務情報政策局 情報処理振興課長 東條 吉朗(事業担当)
産業技術環境局 産業技術政策課 技術評価室長 秦 茂則
【事前評価時】(予算要求時)
商務情報政策局 情報処理振興課長 鍛冶 克彦(事業担当)
C. IT投資効率向上のための共通基盤開発プロジェクト
【事後評価】(平成22年度)
商務情報政策局 情報経済課長 村瀬 佳史(事業担当)
産業技術環境局 産業技術政策課 技術評価室長 秦 茂則
【事前評価時】(予算要求時)
商務情報政策局 情報経済課長 土本 一郎(事業担当)
情報サービス・ソフトウェアに係る技術に関する施策・事業評価
審 議 経 過
○第1回評価検討会(平成23年1月7日)
・評価検討会について
・技術に関する施策・事業の概要について
・今後の評価の進め方について
○第2回評価検討会(平成23年2月9日)
・評価報告書(案)について
○産業構造審議会産業技術分科会評価小委員会(平成23年3月9日)
・評価報告書(案)について
目
次
はじめに
産業構造審議会産業技術分科会評価小委員会 委員名簿
情報サービス・ソフトウェアに係る技術に関する施策・事業評価検討会 委員名簿
情報サービス・ソフトウェアに係る技術に関する施策・事業評価に係る省内関係者
情報サービス・ソフトウェアに係る技術に関する施策・事業評価 審議経過
ページ
技術に関する施策・事業評価報告書概要
…………………………………………i~xiv
第1章 評価の実施方法
1.評価目的
……………………………………………………………………
2
………………………………………………………………………
3
3.評価対象
……………………………………………………………………
3
4.評価方法
……………………………………………………………………
3
5.評価項目
……………………………………………………………………
4
2.評価者
第2章 技術に関する施策の概要
1.施策の目的・政策的位置付け
……………………………………………
2.施策の構造及び目的実現の見通し
6
………………………………………… 19
第3章 技術に関する事業の概要
A.情報大航海プロジェクト
1.事業の目的・政策的位置付け
2.研究開発等の目標
3.成果、目標の達成度
…………………………………………… 27
………………………………………………………… 31
……………………………………………………… 34
4.事業化、波及効果について
……………………………………………… 63
5.研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等
………………… 72
B.産学連携ソフトウェア工学実践事業(高信頼組込みソフトウェア開発)
1.事業の目的・政策的位置付け
2.研究開発等の目標
3.成果、目標の達成度
…………………………………………… 77
………………………………………………………… 84
……………………………………………………… 89
4.事業化、波及効果について
………………………………………………109
5.研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等
…………………114
C.IT投資効率向上のための共通基盤開発プロジェクト
1.事業の目的・政策的位置付け
2.研究開発等の目標
……………………………………………119
…………………………………………………………122
3.成果、目標の達成度
………………………………………………………128
4.事業化、波及効果について
………………………………………………159
5.研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等
…………………161
第4章 技術に関する施策評価
1.施策の目的・政策的位置付けの妥当性 ……………………………………166
2.施策の構造及び目的実現の見通しの妥当性
………………………………168
3.総合評価 ………………………………………………………………………170
第5章 技術に関する事業評価
A.情報大航海プロジェクト総合評価
………………………………………173
B.産学連携ソフトウェア工学実践事業(高信頼組込みソフトウェア開発)
総合評価
……………………………………………………………………176
C.IT投資効率向上のための共通基盤開発プロジェクト
第6章 今後の研究開発の方向等に関する提言
第7章 評価小委員会としての意見
第8章 評点法による評点結果
……………………179
…………………………………181
………………………………………………188
……………………………………………………190
参考 今後の研究開発の方向等に関する提言に対する対処方針
技術に関する施策・事業評価報告書概要
技術に関する施策
技術に関する
施策名
担当課
情報サービス・ソフトウェアに係る技術に関する施策
商務情報政策局情報処理振興課・情報経済課
技術に関する施策の目的・概要
施策の主な目的は、情報サービス・ソフトウェア産業の高度化を通じた、IT利活用による我が
国産業全体の競争力強化である。我が国情報サービス・ソフトウェア産業は、売上げ規模は17
兆円、雇用者数86万人を擁する重要産業である。そして、企業の生産、物流、顧客管理のため
のエンタプライズ系のソフトウェアや、携帯電話、情報家電等の製品の中にある組込み系のソフ
トウェアのように、ITがあらゆる産業にとって不可欠な業務インフラとして機能しており、ITの
利活用によって生産性向上、コスト削減、新サービスの創出等を実現するという点に鑑みても、
情報サービス・ソフトウェア産業は他産業の発展に大きく裨益している。そのため、我が国産業
全体の競争力強化という観点で、情報サービス・ソフトウェア産業政策の費用対効果は極めて大
きい。
また、我が国経済社会の安全・安心の確保も、引いては我が国産業全体の競争力強化に寄与す
るものではあるが、情報サービス・ソフトウェア産業政策の目的の一つである。上記のようにIT
が経済社会インフラとして機能する中、ソフトウェア・システムの信頼性・安全性は社会基盤の
安定性を左右する存在となっている。一方で、最近では、航空会社のシステム、証券取引システ
ム等のトラブルが頻発しており、ソフトウェア・システムの品質の確保が喫緊の課題となってい
る。その品質の向上に資する技術開発は、経済社会の安全・安心の確保という極めて公益性の高
い取組みと言える。
商務情報政策局においては、情報サービス・ソフトウェアに係る技術に関する施策として、「大
量データ利活用」と「組込みソフトウェア」の2分野に集中して施策展開を図っている。
技術に関する事業一覧
A.情報大航海プロジェクト
B.産学連携ソフトウェア工学実践事業(高信頼組込みソフトウェア開発)
C.IT投資効率性向上のための共通基盤開発プロジェクト
D.次世代高信頼・省エネ型IT基盤技術開発・実証事業
E.中小企業システム基盤開発環境整備事業
※D.及びE.については平成22年度より開始した事業であるため、事業評価の対象外とした。
技術に関する施策評価の概要
1.施策の目的・政策的位置付けの妥当性
情報サービス・ソフトウェア産業関連施策の全体像の中で、技術関連の施策として「大量デー
タ利活用」と「組込みソフトウェア」に注力していることは妥当である。この2分野は、詳細な
産業分析からも社会的ニーズの高さは明らかであり、政府計画等でも重要な課題として常に位置
づけられており、また、海外でも活発な動きが見受けられるため、国際市場を見据えて国として
取り組んだことの意義は大きい。
一方で、国際市場を視野に入れた日本の特色をいかした高度な戦略を模索すべきである。また、
当該産業分野の技術環境・市場環境の変化が激しいことを前提とすると、全体戦略に基づきつつ、
i
その変化を次の施策に適宜反映することが必要である。
2.施策の構造及び目的実現の見通しの妥当性
「IT利活用による競争力強化」という施策目的はおおむね達成されたと考えられる。特に、産
業界を巻き込んでいる点、標準化やプラットフォーム化等の個別企業ではなく産業全体のインフ
ラとなり得る施策を選んで実施している点、法規制やセキュリティ等の公的な機関が行うべき内
容について、実証実験を行いながら、具体的な成果につなげている点等が評価できる。
一方で、事業のフォローアップを適切に行って、事業開始時に計画した予算配分やスケジュー
ル等の軌道修正を必要に応じ効果的に行うべきである。特に「組込みソフトウェア」について国
内外への波及効果を測る定量的な効果が曖昧である。
3.総合評価
情報サービス・ソフトウェアに係る技術に関する施策は、その政策的位置付けが様々な政府計
画などに裏付けられ、その開始のタイミング、具体的な事業の内容等の点で、全般的に評価でき
る。各事業とも技術開発という観点では成果があり、情報大航海プロジェクトに関しては、ユー
ザ視点で事業設計を行った点、情報爆発時代において大きな方向性を示した点で意義が大きい。
一方で、国際競争が激化する中、これまでの施策の成果を礎として、今後は、国として具体的
なビジョンを明確に打ち出し、その下で大胆かつ柔軟に施策を展開することが望まれる。それを
支えるものとして、施策の成果や効果、後継施策との関連性等を明確に整理し、国民にアピール
することが重要である。また、国際比較も行いつつ定量的評価指標を活用して事業成果を検証す
ることも重要である。
今後の研究開発の方向等に関する提言
まずは、リスクを覚悟した上で、世界をリードする又は世界をリードするグループ入りするた
めの戦略を練り、大胆な施策展開を図って欲しい。戦略の例は、オープン化、標準化、ブラック
ボックス化、囲い込み、海外を巻き込んだ技術開発、省庁間連携等である。そのためには、マー
ケティングも含めた高度なソフトウェア工学も必要となってくる。
施策対象分野としては、国が関与すべき領域、民間にゆだねるべき領域について常に見直すこ
とが必要である。国が関与すべき領域としては、民間だけでは時間がかかるもの、外部不経済に
伴う社会的コストを明らかにして劇的に削減するもの、社会・産業構造の変化を先取りした新た
なイノベーション分野にアプローチするもの等である。具体的には、クラウドコンピューティン
グ、サイバーフィジカルシステム 等である。
また、環境や技術の変化に対応するため、以下の点にも留意すべきである。
1.施策の開始前に前提、成功指標の達成目標などを明らかにしておく。
2.Reviewの際に前提の変化による影響分析を行う。それによって、施策の中で意味のなくな
ったこと、重要性が増したこと、今後注力すべきことを明らかにする。
加えて、ユーザの立場に立った施策も今後必要である。例えば、ユーザ側に立って、システム
開発を監視し、最終的な品質を見極める仕組みがあれば、業界全体の発展に寄与すると考える。
ii
技術に関する事業
技術に関する
事業名
上位施策名
A.情報大航海プロジェクト
16.情報産業強化
担当課
商務情報政策局情報処理振興課
事業の目的・概要
センサデバイスが普及するなど社会のIT化が進展することにより、社会活動のあらゆる場面で
情報の「創出」「蓄積」が爆発的に起こっている。この「情報爆発」は情報探索が難しくなると
いう負の側面がある一方、大量の情報から新たな価値を宗主るすることで新たなサービスの創出
を期待できる。
本プロジェクトでは情報爆発をイノベーションに結びつけるため、多種多様な大量情報を利活
用した先進的なサービスを実証することにより、国際競争力ある新たな産業の育成を図るととも
に、プライバシーや著作権等制度的課題の解決に取り組み、サービスが自律的に展開していくた
めの環境を整備しつつ、そのために必要な基盤となる次世代知的情報アクセス技術の開発及び普
及・展開を目指した。
予算額等(委託)
開始年度
終了年度
中間評価時期
事後評価時期
平成19年度
平成21年度
-
平成22年度
H19FY 予算額
46億円
H20FY 予算額
41億円
H21FY 予算額
26億円
総予算額
113億円
事業実施
㈱日立コンサル
ティング 他
総執行額
目標・指標及び成果・達成度
(1) 全体目標に対する成果・達成度
要素技
①先端事業
による実証
目標・指標
成果
達成度
次世代知的情報アクセス技
術を用いた先進的なサービ
スの有効性・実現性の検証
と、制度的課題の抽出、な
らびに技術面の検証
・プライバシーに十分配慮しながら、個
人の行動情報、位置情報を活用し、個人
が欲している情報を自動でレコメンデ
ーションする新たなサービスの有用性
が確認できた。
・個人の行動情報、血糖値・血圧・体重
などの健康・医療情報を活用したサービ
スにより、適切なタイミングで適切な情
報を提供すると患者が適切な行動をと
り、生活習慣を改善できることが確認で
きた。
・大量のレポート・運航データからトラ
ブル発生モデルを構築する技術と、トラ
ブルを予兆管理する技術の利用により、
新たな安心・安全に資するサービスを実
達成
iii
②制度・環
境の整備
事業者が次世代知的情報ア
クセス技術を活用した先進
的なサービスを展開する上
で必要となる制度環境の整
備
③技術開発
先進的なサービスを展開す
る上で必要となる次世代知
的情報アクセス技術の開発
と、汎用化・共通化
現できる見込みが高いことが判った。
・映像、画像、ブログ検索等のリッチコ
ンテンツ分野で、ユーザの満足度がより
高い、新たなサービスを実現した。
・実証から生まれた、今後社会で広く利
活用される見込みの共通技術を検証し
た。
・著作権法等で、先進的なサービス普及
の妨げとなる制度的な課題を抽出し、制
度・環境の整備につなげることができた。
・個人情報を匿名化して利活用を促進す
達成
るため、利活用の考え方を整理し、「パ (一部
ーソナル情報の利用ガイドライン(案)」 継続
として取りまとめた。
実施)
・検索サービスのための複製等を著作権
法上明記することを目指した本事業の取
組みがきっかけとなり、改正著作権法が
成立した。
・ISOやOECDなどにおいて、本事業の取
組みを紹介し、国際標準化に向けた足掛
かりを構築した。
・実用規模の大規模実データに対応可能
達成
な処理性能を持つ、世界で初めての汎用
的な匿名化技術を開発した。
・世界最高速レベルの頻出パタンマイニ
ングアルゴリズムが実装された、先進的
なデータマイニング基盤技術を開発し
た。
・「PI(Place Identifier)基盤」の開発で
は、ISOの規格化(ISO-17572)を実現し
た。
・オープンソース化等により技術の汎用
化。共通化を実施した。これらの技術に
ついては、リッチコンテンツ分野を中心
に既に120件以上の商用化事例が存在す
るほか、次世代パーソナルサービス推進
コンソーシアム等を通じて普及が進めら
れている。
(2) 目標及び計画の変更の有無
無し
<共通指標>
論文数
77
特許等件数
(出願を含む)
43
技術の
商用化件数
126
技術の国際
標準件数
2
iv
総合評価概要
諸外国において未着手であった非Webの「データの価値」の実証に国家プロジェクトとして率
先して取り組んだ独自性と先進性を高く評価する。また、サービス創出を目的として、日本の弱
点と言われる技術応用とコンテンツ分野の強化に取り組み、その結果頑ななプライバシー意識を
持つ日本社会に利便性とリスクのバランスが重要との意識が芽生えたこと、また著作権法改正等
の制度改革につながったことは国家の事業であるがゆえに可能だったことであり、その意味で大
いに意義があった。開発された技術内容も高度なもので、ここ5年の技術開発を先導したものと
して位置づけられる。総じて、本プロジェクトの結果、データ利活用サービスの機運が大きく育
ってきたと言える。
なお、多大な成果があるにも拘わらず、一見すると、関連性が希薄な複数の実証事業が推進さ
れ、統合感が欠落しているという誤解を与える可能性があり、これについてはメッセージの発信
を工夫するなど、より戦略的なアウトリーチ策が必要である。また、事業の成果をグローバルな
産業として育てる、政策レベルでの戦略が必要である。本プロジェクトの成果を踏まえて、明ら
かになった課題を整理すると共に次なる施策を戦略的に実施することが期待される。
今後の研究開発の方向等に関する提言
情報大航海プロジェクトは、社会的構造、社会的費用を顕在化し、社会システムの最適化する
ものである。そのためのインフラ、センサーインフラ、サービスについて更なる展開を図ること
が望ましい。また、本事業の成果については、引き続き知的財産の共同利用の促進と更なる要素
技術開発を促すことが望まれる。
クラウドコンピューティングに関連する次の事業として、「サイバーフィジカルシステム」の
研究開発が考えられる。「進化し続けるメディアと人間・社会のつながりを読み解く実時間ソー
シャルITメディア解析基盤システム」を構築し、膨大な情報空間の観測及び解析によって社会の
動向を探ることは、今後の社会において重要な役割を果たす。
v
評点結果
vi
技術に関する
事業名
B.産学連携ソフトウェア工学実践事業(高信頼組込みソフトウェア開発)
上位施策名
16.情報産業強化
事業担当課
商務情報政策局情報処理振興課
プロジェクトの目的・概要
組込みソフトウェアは、自動車、情報家電、携帯電話等の機器固有の機能を実現しており、組
込みソフトウェア搭載製品は我が国輸出製品の半数を占め、我が国競争力の源泉となっている。
組込みソフトウェアの重要性が高まる一方で、構造的課題も抱えており、我が国の基幹製品であ
る自動車の組込みソフトウェア開発を支援することにより、自動車産業及び組込みソフトウェア
産業等の国際競争力強化を図ることを本事業の目的とする。
本事業の主な取組みは、車載組込みソフトウェアの共通部分を括り出した基盤ソフトウェア
(BSW)の開発である。その背景としては、車載組込みソフトウェアに関して、省エネ化等の機
能拡張へのニーズの高まりにより、高級車では数十個のECUが搭載されてソフトウェア規模は数
百万行に達し、信頼性への影響が懸念されている。また、欧州においては、国際標準化を睨みつ
つ、ボッシュ等が主導したコンソーシアムAUTOSARにて車載共通基盤ソフトウェアを開発中であ
り、我が国の意向が反映されていないBSWが国際標準となる危険性がある。 そのため、我が国に
おいても、大規模化したソフトウェアの信頼性・生産性を向上させるため、業界横断的に高信頼
なBSW(OS、ミドルウェア)を共同開発することとした。
予算額等(委託)
開始年度
終了年度
平成19年度
平成21年度
H19FY 予算額
8.2億円
H20FY 予算額
11.9億円
中間評価時
事後評価時期
平成22年度
H21FY 予算
11.9億円
総予算額
31.9億円
事業実施主体
一般社団法人
JASPAR
総執行額
31.9億円
目標・指標及び成果・達成度
(1) 全体目標に対する成果・達成度
要素技術
①高信頼・
高効率な共
通基盤ソフ
トウェアの
構築
目標・指標
成果
達成度
1-1)車載電子制御システム
に適用できるBSWを開発
し、実システムに搭載して、
従来と同等の性能を確認す
る。
自動車メーカ、部品メーカ、組込みソフ
トメーカ、半導体メーカ、ツールメーカ
が、業界横断的にBSWを共同開発。さら
に、開発したBSWを実システムに適用・評
価した結果、従来と同等の性能を確認で
きた。
達成
vii
②ソフトウ
ェア工学に
基づく高効
率な開発環
境の整備
③中小の組
込みソフト
ウェアメー
カの育成
1-2)BSWを開発してベンチ ベンチマーク評価を実施し、ROM/RAM
マーク評価を実施し、性能 消費量、CPU負荷率等の観点でAUTOSAR
がAUTOSAR版を上回ること 版BSWに対する優位性を確認した。
を確認する。
達成
1-3) 開発成果物(ソフトウ
ェア、開発プロセス)につ
いて、我が国発の国際標準
化を目指し世界基準とす
る。
本開発成果の国際標準化に向けて、20
10年にAUTOSARコンソーシアムに
JASPAR版BSWの主要技術である「プロ
ファイル」、「クラスタ」コンセプトに
ついて提案を行った。AUTOSARから高い
評価を受け、規格化する方向で現在調整
中である。
達成
2-1)組込みソフトウェアの
開発プロセスの効率性向上
を図るため、欧州の先進的
取組みを調査するととも
に、サプライチェーン関係
者間のインターフェースの
共通化を図る。
2-2)構造設計から単体テス
トまでのプロセスについ
て,開発の負荷軽減、信頼
性向上を意識し、設計パラ
メータ削減を実現するツー
ルチェーンを開発・実装評
価する。
3-1)IPA/SECが公開してい
るETSSを土台にして、車載
制御ソフトウェア技術スキ
ル診断手法(自動車版ETSS)
を整備する。それによって、
スキルの見える化、及び技
術力向上項目の特定化を図
り、技術者のスキル向上に
繋げる。
3-2)IPA/SECで開発中の
EPMと、品質指標(ESQR)
などを組み合わせることで
開発進捗状況の実情を発注
側が把握できるようにし、
受注側のマネージメント力
向上に繋げる。
車載ソフトウェア開発の生産性・信頼性
を向上させるため、サプライチェーン関
係者間のインターフェースの共通化(受
発注情報の統一)を図った。
達成
高品質な製品を生み出す日本の開発プロ
セス(すり合わせ型)に、欧米流のプラ
ットフォームベース開発(組合せ型)の
方法論を融合した、ツールチェーンを開
発。大幅なパラメータ設定項目の削減
(AUTOSARに対して75%削減)が可能と
なり、開発生産性・信頼性を向上させた。
車載組込みソフトウェア開発に対応した
独自のスキル診断システムを開発。また、
中小組込みソフトウェアメーカを大手自
動車メーカと共同で開発作業に従事さ
せ、スキル診断システムを用いて組込み
ソフトエンジニアのスキル向上を定量的
に確認できた。
達成
プロジェクト管理指標と品質指標を組み
合わせて開発進捗状況の見える化手法を
開発して、本事業に適用した。開発者の
スキルと開発進捗に強い相関が確認で
き、マネージメントツールとしての有効
性を確認できた。
達成
(2) 目標及び計画の変更の有無
無
viii
達成
規格文書
JASPAR内公開
規格文書
国際標準化提案
論文寄稿
講演・表
新聞記事
7件
3件
1件
6件
12件
総合評価概要
車載電子制御システムの共通基盤ソフトウェア及びその開発環境の整備を業界横断的に推進
できたことの意義は大きい。その中で、ベンチマーク評価によってAUTOSAR版の諸性能に対する
優位性を示せたこと、それによって日本の実情に合った形でAUTOSAR規格の修正を提案して採用
される目途が立ったこと、また、「すり合わせ型」手法と「組み合わせ型」手法を高度に融合し
た新たな開発環境の整備について大きな成果を上げたこと、それによって競争領域・共通領域の
概念を業界に浸透させられたこと等も高く評価できる。
一方で、AUTOSAR規格の適合にとどまらず、車載電子制御システムのソフトウェア規格の主導
権を握るところまで達して欲しかった。今後に向けては、ビジネスモデル的な視点に立った共通
領域と競争領域の境界線や、国が支援すべき領域についての議論を重ねるべきである。また、精
緻な評価のためには、産業界へのインパクトについて定量的評価等も必要と思われる。
今後の研究開発の方向等に関する提言
現在のクラウドサービスの展開の中でどのような開発環境やソフトウェア、プロセスを標準化
して提供していくかが重要になってきており、その観点からの分析が求められる。
また、日本の優位性を活かすためには、形式化された開発プロセスの中で擦り合わせができる
ことが不可欠であり、このような枠組みを構築する事業がこれからの日本に不可欠である。従来
の古典的なソフトウェア工学をあてはめるのではなく、独自のソフトウェア工学を構築すること
を目指すべきである。
ix
評点結果
x
技術に関する
事業名
上位施策名
担当課
C.IT投資効率向上のための共通基盤開発プロジェクト
16.情報産業強化
商務情報政策局情報経済課
事業の目的・概要
本事業は、情報家電向けのプラットフォーム上での特に情報家電向けに必須の機能であるメデ
ィア処理用インタフェース(API)を共通化することにより、新しい情報家電の付加価値の高い
ソフトウェア/サービスの構築を容易にするとともに、再利用を促進し、ソフトウェア体系の整
備にかかるコストの低減を実現し、情報家電分野の投資効率に貢献することを目的とする。
次世代情報家電ソフトウェア開発のための共通的な要件を広くオープンにし、その結果、ソフ
トウェア資産の再利用を促すことで、開発コストの低減を目指すとともに、最終的に各企業にお
いては競争領域へのコストシフトを図るものである。今回マルチメディア制御機能を協調領域と
定義し標準化することで、開発効率向上のための企業横断的な次世代の仕様を確立する。
予算額等(委託)
開始年度
終了年度
中間評価時期
事後評価時期
平成20年度
平成21年度
-
平成22年度
H20FY 予算額
4.5億円
H21FY 予算額
4億円
H22FY 予算額
-
総予算額
8.5億円
事業実施主体
技術研究組合
ASET
総執行額
8.5億円
目標・指標及び成果・達成度
(1) 全体目標に対する成果・達成度
要素技術
目標・指標
成果
達成度
メディア・イン
タフェース用AP
仕様の策定
デジタルTV等メディア処理をア
プリケーション層とメディアフ
レームワーク層に分離するため
メディア・インタフェース用API
仕様の策定を行う。
メディア・インタフェース用 達成
API仕様を策定し、「OMI関数
仕様書」、「OMIチェーン仕
様書 ISDB-T再生編」、「OMI
ユーザーズガイド」をめた。
メディア・イン
タフェース用
APIの実証開発
メディア・インタフェース用API
の仕様を用いて正しくマルチメ
ディア処理を実行できることを
3社(NECエレクトロニクス、東
芝、ルネサステクノロジ)のLSI
を使用した試作ボード上で確認
完了する。
3社(NECエレクトロニクス、 達成
東芝、ルネサステクノロジ)
が所有する価開発システム
上で実証開発を行い、メディ
ア・インタフェース用APIが
仕様が機能面、性能面、品質
面で問題ないことを確認し
た。抽出した課題については
各メディア・インタフェース
用API仕様書にしてフィード
バックを行った。
xi
メディア・イン
タフェース用拡
張API仕様の策
定
メディア・イン
タフェース用拡
張APIの実証開
発
ハードウェア仮
想化インタフェ
ース(HAL)仕様
の策定
HAL仕様の効果
実証
HAL仕様範囲拡
大および実証開
発
移植性検証
デジタルTV対応のマルチメディ
ア用インタフェースを基に、
DLNAやインターネットなどネッ
トワークに対する仕様拡張と、
録画再生等の複合動作に対する
拡張を行う。
拡張仕様を策定し、「OMI基
本仕様書」、「OMIチェーン
仕様書 ネットワークメデ
ィア再編」、「OMIチェーン
仕様書 分離AV入力再生
編」、「OMIチェーン仕様書
ISDB-T録画編」、「OMIチェ
ーン仕様書 録画済TS再生
編」、「OMIチェーン仕様書
DTV再生」を纏めた。
メディア・インタフェース用拡 社(NECエレトロニクス、東
張API仕様に基づき、開発評価シ 芝、ルネサステクノロジ)が
テム上で実証開発を行い、これ 所有する評価開発システム
らの拡張仕様が機面、性能面、 上で実証開発を行い、拡張仕
品質面で十分であることを確認 様が機能面、性能面、品質面
し、抽出した課題について前期 で問題ないことを確認した。
API仕様にフィードバックを行
抽出した課題については各
う。
拡張仕様書に対してフィー
ドバックを行った。
HAL標準仕様を開発し、テスト検 HAL仕様書として、「HAL概要
証を完了した仕様書として第三 説明書」、「HAL基本仕様書」、
者に提示可能する。
「HAL機能仕様書」、HAL用語
・略語集」を纏め。
異なるハードウェア上で同じ機 HAL仕様を元に実証システム
能を実現するデバイスドライバ を開発し、HALを導入した場
のHAL上でのソフトウェアの移
合、新規でハードウェア操作
植性実証を完了する。
に必要なコード量が56.7%削
できること、また、他のLSI
へ開発したHALを転用する際
に得られる削減効果は平均
79.6%であることを確認し
た。また、HALを導入ること
によるレスポンス低下率は
限定的(1%~4%)であること
を確認した。
デバイスHALの適用範囲を拡大
HAL概要説明書(V2.00)、機
しブートローダーに対するHAL
能仕様書(V2.00)を纏め、HAL
の検討、USB HL等の定義と仕様 対応ブートロダーとUSB関連
策定を行う。ブートローダーが デバイスのHAL対応を実施
ハードウェア固有部から分離さ し、デバイスHALに対応した
れ再利用性の向上を実現する
デバスドライバは100%再利
用できることを確認した。
拡張仕様に対する実証開発を通 ISDB-T以外の他地域対応の
じてメディア・インタフェース ミルウェアの移植が可能か、
用API仕様についソフトウェア
Linux以外のOSに変更してシ
移植は再利用性に関し、ISDBT以 ステムが構築できるか、本
外の他地域対応ミドルウェアに APIを実現するメディアフレ
xii
達成
達成
達成
達成
達成
達成
標準化支援活動
る視聴検証を行う。更に、OS更
による移植性に対しても、Linux
以外にRTOS上での動作実証を行
い、ハードウェア、OS、ミドル
ウェアの各視点で、ソフトウェ
アの移植性検証を行う
協議会と連携しメディア・イン
タフェース用APIを広く普及さ
せる
ームワークが他の基本ソト
ウェアやハードウェアに対
して用意に移植可能か確認
し、本APIがソフトウェアの
移植性にたいして有効であ
ることを確認した。
メディア・インタフェース用 達成
APIに対して協議会参加企業
よりフィードバックを頂き、
仕様に反映させた。
(2) 目標及び計画の変更の有無
<共通指標>
論文数
0件
論文の
被引用度数
0件
特許等件数
(出願を含む)
1件
特許権の
実施件数
0件
ライセンス
供与数
0件
取得ライセ
ンス料
0件
国際標への
寄与
0件
総合評価概要
半導体産業(ハードウェア)のもの作りの分野にソフトウェアの発想を注入したことの意義は
大きい。また、情報家電の分野において、企業の枠を越えて共通APIを開発・実装することで
企業が競争力をえられるとともに、ミドルウェアに対して統一的なAPIを提供することで生産
性が向上する。さらにこのAPIが事実上の業界標準になれば、多くの関連業界のコスト削減に向
けてのスパイラル構造が可能となり、波及効果は大きい。
一方で、Androidの登場等オープンソースソフトウェアの動向や世界中の半導体ベンダーの動
向を意識した商品化行う国内の有力なテレビセットメーカとの協業体制が不調となり、本プロジ
ェクトの成果物の価値を大きく減じている。そして、成果を波及していくにあたっては、標準化
活動を展開するよりもデファクト・スタンダードとして採用されていくべきと考えられ、セット
メーカを含む国内企業がオールジャパンでの採用が得られるよう本プロジェクト終了後も地道
な普及活動が肝要である。
今後の研究開発の方向等に関する提言
現在のクラウドサービスの展開の中でどのような開発環境やソフトウェア、プロセスを標準化
して提供していくかが重要になってきており、その観点からの分析が求められる。
また、日本の優位性を活かすためには、形式化された開発プロセスの中で擦り合わせができる
ことが不可欠であり、このような枠組みを構築する事業がこれからの日本に不可欠である。従来
の古典的なソフトウェア工学をあてはめるのではなく、独自のソフトウェア工学を構築すること
を目指すべきである。
xiii
評点結果
xiv
第1章 評価の実施方法
1
第1章
評価の実施方法
本プロジェクト評価は、「経済産業省技術評価指針」(平成21年3月31日改定、
以下「評価指針」という。)及び第25回産業構造審議会産業技術部会評価小委員会(平
成21年1月28日)において審議・了承された「技術に関する施策の評価」に基づき、
実施した。
1.評価目的
以下の(1)~(4)を目的として評価を実施した。
(1) より良い政策・施策への反映
評価を適切かつ公正に行うことにより、研究者の創造性が十分に発揮される
ような、柔軟かつ競争的で開かれた研究開発環境の創出など、より良い政策
・施策の形成等につなげること。
(2) より効率的・効果的な研究開発の実施
評価を支援的に行うことにより、研究開発の前進や質の向上、独創的で有望
な優れた研究開発や研究者の発掘、研究者の意欲の向上など、研究開発を効
果的・効率的に推進すること。
(3) 国民への技術に関する施策・事業の開示
高度かつ専門的な内容を含む技術に関する施策・事業の意義や内容について、
一般国民にわかりやすく開示すること。
(4) 資源の重点的・効率的配分への反映
評価の結果を技術に関する施策・事業の継続、拡大・縮小・中止など資源の
配分へ反映させることにより資源の重点化及び効率化を促進すること。また、
研究開発をその評価の結果に基づく適切な資源配分等通じて次の段階に連続
してつなげることなどにより、研究開発成果の国民・社会への還元の効率化
・迅速化に資すること。
また、評価の実施に当たっては、以下の①~④を基本理念として実施した。
① 透明性の確保
推進課、主管課及び研究開発機関においては、積極的に成果を公開し、その
内容について広く有識者等の意見を聴くこと。評価事務局においては、透明
で公正な評価システムの形成、定着を図るため、評価手続、評価項目・評価
基準を含めた評価システム全般についてあらかじめ明確に定め、これを公開
することにより、評価システム自体を誰にも分かるものとするとともに、評
価結果のみならず評価の過程についても可能な限り公開すること。
② 中立性の確保
評価を行う場合には、被評価者に直接利害を有しない中立的な者である外部
評価の導入等により、中立性の確保に努めること。
③ 継続性の確保
技術に関する施策・事業においては、個々の評価がそれ自体意義を持つだけ
ではなく、評価とそれを反映した技術に関する施策・事業の推進というプロ
セスを繰り返していく時系列のつながりにも意義がある。したがって、推進
課及び主管課にとって評価結果を後の技術に関する施策・事業の企画立案等
2
に反映させる際に有用な知見を抽出し、継続性のある評価方法で評価を行う
こと。
④ 実効性の確保
政策目的に照らし、効果的な技術に関する施策・事業が行われているか判断
するための効率的評価が行われるよう、明確で実効性のある評価システムを確
立・維持するとともに、技術に関する施策・事業の運営に支障が生じたり、評
価者及び被評価者双方に過重な負担をかけることのない費用対効果の高い評価
を行うこと。
2.評価者
評価を実施するにあたり、評価指針に定められた「評価を行う場合には、被評価
者に直接利害を有しない中立的な者である外部評価者の導入等により、中立性の確
保に努めること」との規定に基づき、外部の有識者・専門家で構成する検討会を設
置し、評価を行うこととした。
これに基づき、評価検討会を設置し、技術に関する施策、技術に関する事業の目
的や研究内容に即した専門家や経済・社会ニーズについて指摘できる有識者等から
評価検討会評価者名簿にある5名が選任された。
なお、本評価検討会の事務局については、指針に基づき経済産業省情報処理振興
課・情報経済課が担当した。
3.評価対象
技術に関する施策「情報サービス・ソフトウェアに係る技術に関する施策」
技術に関する事業
A.情報大航海プロジェクト(実施期間:平成19年度から平成21年度)
B.産学連携ソフトウェア工学実践事業(高信頼組込みソフトウェア開発)(実
施期間:平成19年度から平成21年度)
C.IT投資効率向上のための共通基盤開発プロジェクト(実施期間:平成20年度
から平成21年度)
を評価対象として、研究開発実施者(株式会社日立コンサルティング、一般社団法人
JASPAR、技術研究組合超先端電子技術開発機構)から提出された資料をもとに、技術に
関する事業の評価を行うとともに、それらの事業評価の結果を踏まえて、各事業を俯瞰
する形で各事業の相互関係等に着目し、技術に関する施策の評価を実施した。
4.評価方法
第1回評価検討会においては、評価検討会、施策・事業の概要、今後の評価の進め方
についての議論が行われた。
第2回評価検討会においては、評価報告書(案)についての議論が行われた。
また、知的財産権の保護等の観点から、評価検討会は非公開とした。ただし、配布資
料、議事要旨は、知的財産権の保護等に配慮する形で、経済産業省のホームページに掲
3
載した。
5.評価項目
【技術に関する施策】
○施策の目的・政策的位置付けの妥当性
・施策の目的の妥当性
・施策の政策的位置付けの妥当性
・国の施策としての妥当性、国の関与が必要とされる施策か。
○施策の構造及び目的実現見通しの妥当性
・現時点において得られた成果は妥当性
・施策の目的を実現するために技術に関する事業が適切に配置されているか。
○総合評価
【技術に関する事業】
○事業の目的・政策的位置付けの妥当性
・事業の目的は妥当で、政策的位置付けは明確か。
・国の事業として妥当であるか、国の関与が必要とされる事業か。
○研究開発等の目標の妥当性
・研究開発等の目標は適切かつ妥当か。
○成果、目標の達成度の妥当性
・成果は妥当か。
・目標の達成度は妥当か。
○事業化、波及効果についての妥当性
・事業化については妥当か。
・波及効果は妥当か。
○研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等の妥当性
・研究開発計画は適切かつ妥当か。
・研究開発実施者の実施体制・運営は適切かつ妥当か。
・資金配分は妥当か。
・費用対効果は妥当か。
・変化への対応は妥当か。
○総合評価
4
第2章 技術に関する施策の概要
5
第2章
技術に関する施策の概要
1.施策の目的・政策的位置付けの妥当性
1-1 施策の目的の妥当性
(1)背景
①大きな雇用を抱える情報サービス・ソフトウェア産業
図1-1のように、情報サービス・ソフトウェア産業は、デジタル化・ネットワ
ーク化の進展を背景に、旺盛な成長力を持続させており、2008年現在で売上高
約17兆円、従業者数約86万人とエレクトロニクス産業にも匹敵する大きな雇用
を抱えている(図1-1)。
日本のITソリューション産業の売上高・従業者数の推移
(出所)経済産業省「特定サービス産業実態調査」
図1-1
情報サービス・ソフトウェア産業の規模
②成熟する国内市場とグローバル展開の必要性の増大
図1-2のように、2002年以降、我が国の情報サービス市場の成長率は大き
く鈍化。また、ユーザ企業における人件費単価の抜本的な価格見直し、クラウドコ
ンピューティングの進展、オフショア開発の普及等による価格低減圧力の高まり等
を背景にIT価格の構造的な低下圧力が常態化している。
このように国内市場は成熟する一方で、ユーザ企業のグローバルな事業展開が拡
大しており、グローバルレベルでのIT投資が増加する可能性が高い。また、アジア
等新興国のIT市場が今後拡大することが見込まれる。
こうした状況下で、従来の国内顧客の個別の要求に応じたSI業務を中心とした業
務展開では、更なる成長は見込めず、グローバルな事業展開に向けた取組を進める
必要がある。
6
図1-2
海外進出の遅れる我が国の情報サービス・ソフトウェア産業
③組込みソフトウェア産業の競争力の重要性
SI型のソリューション企業が苦境に立たされつつある一方、組込みソフトウェア
は我が国輸出製品の半分以上を支える付加価値の源泉となっている(図1-3)。
これらの強みを維持・強化していくことが求められる。
我が国輸出製品に占める
組込みソフトウェア関連製品の割合
事業部門の全開発費の内訳
原料品
食料品 1.5%
鉱物性燃料
0.7%
1.8%
電気機器
(電子部品、電池)
一般機械
6.9%
その他
12.8%
化学製品
10.7%
(ベアリング及び
同部分品)
組込みシステムに
関連しない開発費
26.5%
原料別製品
13.0%
0.5%
輸送用機器
21.9%
組込みソフトウェア
関連製品
52.2%
組込みシステムに関連する
上記以外の開発費
7.4%
一般機械
(ベアリング及び
同部分品を除く)
電気機器
(電子部品、電池を除く)
組込みシステムに関連する
ソフトウェア開発費
43.6%
組込みシステムに関連する
ハードウェア(機構系)開発費
10.3%
組込みシステムに関連する
ハードウェア(電子系)開発費
12.2%
17.4%
13.0%
(出典)組込みソフトウェア産業実態調査2010
図1-3
我が国を支える組込みソフトウェア
④我が国の情報システム・ソフトウェアの高い信頼性
国内ユーザの厳しい要求に対応し続けてきたことから、我が国情報サービス・ソ
フトウェア企業が構築・制作する情報システム・ソフトウェアの品質・信頼性は高
いものとなっており、我が国情報サービス・ソフトウェア企業が海外展開を図って
いく際の強みとなり得る。情報システム・ソフトウェアの品質・信頼性を維持・向
上していくことが求められる。
⑤海外・新興国ベンダの台頭
オフショア開発の取引額は増加傾向にあり、今後も急速に拡大していくことが見
込まれる(図1-4)。オフショア利用率は企業の規模が大きいほど高く、今後も
拡大の意向が強い。
7
図1-4
強まるオフショア開発への依存傾向
また、インド、中国などの新興国ベンダは競争力を高め、規模を急速に拡大。我
が国大手ベンダの売上をも上回るベンダも見られる(図1-5)。これらの中には、
日本語教育を積極的に行い、日本に対するサービス提供能力を高め日本市場への攻
勢を強めるものも存在する。
図1-5 急拡大する新興国ベンダ
8
⑥地域・中小ベンダの状況
我が国の情報サービス・ソフトウェア産業は、プライムベンダを頂点に、多くの
地域・中小ベンダが支えるピラミッド型の産業構造となっており、約8割弱のベン
ダが何らかの形で下請業務を受注している。
また、地域・中小ベンダは、下請業務を中心に事業を展開してきたため、必ずし
も地域・中小ユーザのニーズに応え切れておらず、さらに、新興国ベンダの台頭に
よる競争激化への対応や、クラウド時代を見据えた新たな市場に向けての業態転換
も求められている(図1-6)。
図1-6
業態転換が求められる地域・中小ベンダ
(2)情報サービス・ソフトウェア産業政策の全体像
図1-7は、平成22年3月に開催された経済産業省の情報サービス・ソフトウ
ェア小委員会において、情報サービス・ソフトウェア産業政策の体系についてまと
めた資料である。ここでは、世の中の情報量増大化の傾向に対していかにそれを利
活用して新サービスを普及させるか、組込み分野を中心としたソフトウェアの大規
模化・複雑化に対していかに信頼性を確保して競争力強化を図るか、海外進出の重
要性の増大や新興国ベンダの台頭といった産業全体を覆うグローバル化の波にいか
に対応するか、地域における中小ベンダの活性化・中小ユーザ企業のIT化をいかに
促進するかといった課題が掲げられている。政策には制度整備、人材育成、中小企
業支援等、様々な手法が存在するが、上記課題の中で研究開発に密接に関係するの
は、大量データの利活用と組込みソフトウェアの競争力強化である。図1-8と図
1-9は平成18、19年頃の情報分野の政策体系図であるが、この2分野の重要
性は当時も強く意識されていた。
商務情報政策局においては、こうした政策分析結果及び「選択と集中」の観点か
ら、情報サービス・ソフトウェア分野の技術政策は大量データ利活用関連と組込み
ソフトウェア関連の2つに特化しているところである。
9
我が国情報サービス・ソフト
ウェア産業の世界市場における
強み・弱み
今後の情報サービス・ソフト
ウェア産業のあり方
■ 情報サービス業の今後の方向性
■ 日本の情報サービス・ソフト
ウェア市場は世界第3位
■ しかし、市場は成熟
■ 世界市場はアジア等新興国中心
に市場拡大見込み
施 策
大量データ利活用(クラウド)関連
● 海外展開
■ ソフトウェア業の今後の方向性
クラウドビジネスの拡大、業務ノウ
ハウをベースにシステム輸出、信頼
性の見える化
● SaaSビジネスの展開、業務ノウ
ハウを取り込んでパッケージ化
■ 情報サービス業の今後の方向性
■ クラウドの進展、価格低減圧力
の増大などにより従来型のSIビ
ジネスだけでは厳しい状況
● ユーザとパートナー関係構築、コ
ンサル機能の拡大
● クラウドへの対応・国際展開(ソ
フトウェアプラットフォーム、
データセンタの規模拡大、グリー
ン化・高信頼化が付加価値)
■ ソフトウェア業の今後の方向性
● プラットフォーム事業者とのアラ
イアンス形成
我が国情報サービス・ソフト
ウェア産業の世界市場における
強み・弱み
■ 一方、組込みソフトウェアは我
が国輸出製品の6割を支える付加
価値の源泉
■ 情報システム・ソフトウェアで
も品質・信頼性の高さは我が国の
強み
■ 他方、インド、中国を中心とす
る新興国ベンダは規模を急拡大
■ オフショア開発にとどまらず、
サービス提供能力を高めている
■ 我が国の情報サービス・ソフト
ウェア産業は、多くの地域・中小
ベンダの下支えにより形成。
■ 一方、地域・中小ベンダは、地
域の中小ユーザのニーズに応え切
れておらず、さらに、クラウド時
代を見据えて業態の転換も求めら
れている。
今後の情報サービス・ソフト
ウェア産業のあり方
要件定義の精緻化、モデル取引・契
約書、新しい契約形態への対応
クラウド基盤の整備・ルール整備、
BPO業務への対応やクラウド型開
発への対応人材の育成
施 策
組込みソフトウェア分野関連
■ 組込みソフトウェア業の今後の
方向性
● 海外展開
■ 情報サービス業・ソフトウェア
業・組込みソフトウェア業の今後
の方向性
● 開発機関の短縮、信頼性向上
非競争領域の特定・共同開発・標準
化の推進
ソフトウェアエンジニアリングの高
度化・推進、検証工程の自動化、第
三者検証の推進による信頼性の見え
る化、障害事例共有、人材・スキル
の見える化促進
■ 情報サービス業の今後の方向性
(地域・中小ベンダ)
● 下請け構造からの脱却と地元ユー
ザ密着型ITサービス展開のための
供給力強化
● SaaS型ビジネスへの参入のため
の基盤強化
中小ベンダ間の連携促進(共同受
注、技術・提案力強化等の人材育
成)、ユーザのための中小ベンダの
可視化とマッチング機会の拡大、中
小企業のIT投資促進
図1-7
平成22年3月19日 産業構造審議会 情報経済分科会
第13回 情報サービス・ソフトウェア小委員会資料
10
H19~21年度
産学連携ソフトウェア
工学実践事業
ITによる生産性向上の加速化に向けて
● 業種・製品毎(業務や仕
様)の標準化とイノベー
ションの促進
・標準化の議論の場の設定や
関連する研究開発を促進
IT投資の効率性の向上
ITは、生産性の
向上に貢献
(競争領域と非競争領域の峻別による選択と集中)
● 企業システム、最終製品用ソフトウェアのいずれでも開発コスト急増。
● 他方、我が国産業の特色は「垂直統合・囲い込み」。ITの導入に際しても、他社との差別化につながる部
分も、そうでない部分も、全てオーダーメードで開発し、外部展開しないため、IT投資の生産性が低い。
● ソフトウェアの競争領域と非競争領域を峻別し、IT投資の「選択と集中」を図ることが必要。
●経済成長に占めるIT投資
と寄不度は、近年増加傾
向。特に、2000年以
降、ほぼTFPとIT投資の
2要素により経済成長を
牽引。
組織を越えた情報共有
しかしながら、米国と比べ
ると、IT資本比率及びIT投
資と生産性上昇の相関係数
は低い
●ITを活用した生産性の向
上のためには、
①IT資本投資の拡大、
②IT投資効率を向上させ
るようなIT活用の促進
を図ることが必要。
● I政府での取組
・政府調達においても、製品
化・共同化・再利用の実践
を検討
● 企業が直面する課題へ
のきめ細かな施策を
草の根的に展開
● 「中小企業IT経営ロードマップ」の普及
● 地域密着・出前型支援の展開
● インターネットを活用した経営・
財務管理の支援 など
オープンイノベーション
・ユーザ企業内の情報システムにより提供されていた機
能が、ネットワーク経由のサービスとして提供可能に
IT活用を支える
基盤の整備
● 我が国の99%以上を占める中小企業のIT化、我が
国のGDPの70%を占めるサービス産業におけるIT
活用は丌十分。
● 大企業と比較して中小企業では、
・「売上高に占めるIT投資」の割合は概ね2倍を超
える水準。
・一社当たりのIT投資額が増えていない。
● IT資本ストックの比値米比較では、製造業に比して
サービス産業のIT化率の低さが目立つ。
● 標準化情報の拡大・・・製品安全、環境、化学物質管理など様々
な社会的課題へ対応
● 業界を越えた標準化・・・中小企業も含め業種を越えた情報流通
を円滑に行うためのルールの構築
● ①電気・電子、②繊維、③建材・住宅設備産業で先行的に開始。
今後、幅広く他の分野に拡大。
サービス化展開
「IT革新」を支
える技術と市場の
変化
中小企業・サービス産業の底上げ
(電子商取引や電子タグによる「ネットワーク化」)
● 技術的には、組織や企業を超えた情報共有は容
易化。しかし、
・標準化されている情報が限定。
・業務の標準化が丌十分。
・業界を越えた情報共有が丌十分。
・電子タグの利用も、現状では、企業内の利用が
中心。
● ソフトウェアの製品化・共
同化・再利用のための環境
整備
H19~21年度
情報大航海プロジェクト
検索・解析技術のインフラ化
・企業の研究開発に関し、従来の社内リソースに加え、
外部リソースと連携したオープンイノベーションが有
力手段として認識
・IT化による情報量の「大爆発」が起こり、必要な情
報を簡便に検索・解析することが重要に
人材戦略の展開
安心・安全の確保
制度的課題への対応
ワーク・ライフ・バランス
環境調和型ITシステムの構築
・高度IT人材の具体像(キャリア・
スキル)の可視化・共有化
・実践的かつ先端的な人材育成手法
の確立、実践等
・情報セキュリティ対策のベストプ
ラクティス事例集
・簡易チェックツールの作成を通じ
た中小企業対策の底上げ等
・電子商取引の発展、インターネッ
ト上の情報の増大、画像・動画の
共有等の進展等に対応したルール
の整備等
・テレワークを始めとするITの効果
的な活用による「ワーク・ライ
フ・バランス」の実現等
・IT分野での省エネルギー技術に関
する研究開発の強化
・トップランナー制度の対象製品の
拡大、更なる目標値の引き上げ等
(平成19年4月11日 産業構造審議会 第18回 情報経済分科会資料)
図1-8
産業構造審議会 第18回
平成19年4月11日
情報経済分科会資料
【変革のきざし】
【現状】
情報サービス産業
情報サービス産業
○ITによる企業等の生産性・信頼性向上の必要性の高
まり
○技術構造変化への対応の遅れ、取引の丌透明性による
問題が顕在化
○先導的なIT経営を行うユーザの出現
○Webをプラットフォームとした新たなビジネスモデルの出現
【在るべき姿】
ソフトウェア産業
情報サービス産業
○OSSを始めとするオープンイノベーションの出現
○組込みソフトウェアの規模増大とプラットフォーム化への動き
○「価値」に基づく取引により、能力のある企業・人材
が生み出され、評価され、発展する市場
○明確化された各種「機能」に基づく役割分担が行われ
る産業構造
ソフトウェア産業
【構造改革の方向性】
○外国系ベンダによる寡占化
○圧倒的輸入超過(輸出:輸入=1:30)
○組込みソフトウェアの重要性の高まり
○透明で価値創造型の産業構造・市場の創出
○国際競争に打ち勝つイノベーションの促進
○優秀な人材を引きつけるメカニズムの構築
産業構造・市場取引の可視化
(情報サービス産業の国際競争力強化策)
【具体的取組】
【産業構造の可視化】
○情報サービス産業の基本的機能についての統一マップの作成及び個別プレイヤー間の
SLAに盛り込む事項の標準化の促進 等
ソフトウェア産業
○多数のプレイヤーがそれぞれの強みを活かして、局面
に応じた競争と協調により、持続的にイノベーション
が生み出される産業構造。
イノベーションの促進
(ソフトウェア産業の国際競争力強化策)
【競争政策の推進】
○「信頼性評価指標」、「スキル評価ガイドライン」、「生産性価値実現ガイドライン
」を整備し、第三者機関による企業認定制度を創設 等
○ソフトウェア分野の特許権行使についての準則の整備、裁定実施権制度の在り方の検討、
独占禁止法による対応の強化 等
○情報大航海プ
【オープンスタンダード・OSSの推進】
ロジェクト
○OSSに係る統一的なサポート体制の整備、最適な組織体制の再構築 等
【政府調達改革】
【戦略的技術開発と国際標準化への取組】
○上記3指標を活用した価値の可視化、取引関係・役割分担の可視化、ベンダ間の競争
環境の整備、調達力の向上等の総合的な対策
○公共性の高い応用分野の基盤開発・標準化、パラダイムシフトを起こしうる次世代型IT
アーキテクチャ開発、国際規格の動向注視、ソフトウェアエンジニアリングの推進 等
【その他】
【組込みソフトウェア産業の強化】
○グローバル展開の支援、地域・中小ソリューション産業の活性化策の推進等
○ソフトウェアエンジニアリングの推進、組込みスキル標準の改良・普及展開、産業の実態把握、中小企業の
ものづくり基盤の高度化に関する法律の活用 等
【市場取引の可視化】
高レベル人材の育成
(情報サービス・ソフトウェア産業の構造改革を下支え)
○産学連携ソフトウェア工学実践事業
○IT投資効率向上のための共通基盤
開発
【高度IT人材育成・評価メカニズムの構築】
【高度IT人材養成・供給メカニズムの構築】
○OJT偏重を見直し、実務、研修及び評価の各プロセスを効果的に連携させた企業
内人材育成の好循環を形成
○「スキル標準ガイドライン」を策定し、第三者機関による企業認定制度を創設する
とともに、安心・安全の観点からの公的規制の導入を検討(資格化等)
○受託システム開発人材、組込みシステム開発人材、独創的ソフトウェア製品開発人材の類
型に沿って、それぞれの特性に応じた、産学官連携による人材養成のための環境を整備
産業構造審議会
図1-9
情報経済分科会 情報サービス・ソフトウェア小委員会
中間とりまとめ(平成18年9月14日)
1-2 施策の政策的位置付けの妥当性
(1)上位施策との関連
大量データ利活用と組込みソフトウェアは以下のような政府計画等に位置付けら
れている。政府・経済産業省の成長戦略、政府の科学技術政策、IT戦略本部のIT戦
略、経済産業省のIT施策といった各レイヤーにおいて、その多くに大量データ利活
11
用と組込みソフトウェアは言及されており、この2分野の重要性を裏付けている。
①政府・経済産業省の成長戦略
○新経済成長戦略(平成18年6月 経済産業省)
大量データ利活用に関連して、大量かつ多様な情報処理、データマイニング等
を支援する「知的情報アクセス」や情報活用力の強化に係る技術開発が重要とし
ている。
○経済成長戦略大綱(平成18年7月6日 財政・経済一体改革会議)
大量データ利活用に関連して、大量かつ多様な情報から必要な情報を探し出す
技術を次世代を担うIT関連技術として展開を推進すべきとされている。
組込みソフトウェアに関連して、我が国の強みを生かして強化を図るべき分野
として、組込みソフトを挙げている。
○経済成長戦略大綱 改定版(平成19年6月19日 経済産業省)
大量データ利活用に関連して、多種多様な大量の情報の中から必要な情報を検
索・解析する技術を、次世代を担うIT関連技術として展開を推進すべきとしてい
る。
組込みソフトウェアに関連して、組込みソフトウェア産業の競争力強化の必要
性を指摘するとともに、自動車、情報家電、携帯電話等の製品の高度化が進む中
で、組込みソフトウェア基盤の重要性が増大している点にも触れ、ソフトウェア
開発に係る技術を開発すべきとしている。
○新成長戦略(平成22年6月18日 閣議決定)
7つの戦略分野の一つとして、科学・技術・情報通信分野を位置付けている。
その中で、大量データ利活用に関連して、産業の競争力を高めるクラウドコンピ
ューティング等の情報通信技術をイノベーション促進の基盤として利活用を促進
すべきとしている。
また、別表の成長戦略実行計画(工程表)の中では、「データ利活用を促進す
るための制度見直し等のクラウドコンピューティングの競争力確保のための環境
整備」を2010年度から2013年度にかけて実施すべき事項としている(図
1-10)。
12
図1-10
新成長戦略 成長戦略実行計画(工程表)
②政府の科学技術政策
○第3期科学技術基本計画(平成18年3月28日 閣議決定)
重点分野4分野の一つとして、情報通信分野を位置付けている。
その中で、大量データ利活用に関連して、大量で多用なデジタル情報を簡便、
的確かつ安心して収集・分析・利用することができる情報検索・情報解析技術へ
の投資が不可欠としている。
同じく組込みソフトウェアに関連して、組込みソフトウェアの近年の動向とし
て、ソフトウェアの大規模化・複雑化が著しく、特に、自動車やロボットなどの
機械制御システムの分野では、システムの誤動作により人命が危険にさらされる
可能性があることから信頼性・安全性の確保が極めて重要であり、設計開発に高
いコストと長い期間がかかるという現状を指摘した上で、ソフトウェアの大規模
化・複雑化は、今後も進行する傾向にあり、高信頼・高安全な組込みソフトウェ
アの設計開発技術の必要性が高いとしている。
○長期戦略指針「イノベーション25」(平成19年6月1日 閣議決定)
大量データ利活用に関連して、戦略重点科学技術として「課題解決力や国際競
争力の高いサービス提供を可能とする次世代のオープンアーキテクチャ及びその
開発基盤の整備」と「情報の巨大集積化とその活用」を挙げている。その上で、
「Web及び非Web上にあるテキスト、画像、音声、映像等の情報を、収集、分析す
ることができる情報検索・解析技術の強化」という研究目標を掲げている。
組込みソフトウェアに関連して、戦略重点科学技術として「高信頼・高安全・
セキュアな組込みソフトウェア設計開発技術」を挙げている。その上で、「現場
における設計開発手法を知識化・体系化するとともに、各種の理論・手法を実シ
13
ステムへ適用するための技術を開発し、組込みソフトウェアの設計開発技術を確
立」という研究目標を掲げている。
○革新的技術戦略(平成20年5月19日 総合科学技術会議)
組込みソフトウェアに関連して信頼性と生産性を飛躍的に向上させる組込みソ
フトウェア技術を世界に先駆けて育成、開発、産業化し、将来の我が国産業の持
続的発展、国際競争力の強化及び新産業の創出を目指すとしている。また、革新
的技術として「組込みソフトウェア技術・高信頼・生産性ソフトウェア開発技術」
を掲げ、規模が急速に拡大する組込みソフトウェア開発分野において、信頼性と
生産性を飛躍的に向上させるため、複数のマイコンチップや多様なアプリケーシ
ョンに対応できる国際標準となる基盤ソフトアーキテクチャを開発するとととも
に、ソフトウェアエンジニアリング手法やモデルベース開発手法等により、組込
みソフトウェアの開発効率を従来の倍程度に上げて、世界トップクラスの信頼性
を達成するとしている。その結果、ソフトウェア分野だけでなく自動車産業等で
の国際競争力をさらに強化させるとしている。
③IT戦略本部のIT戦略
○IT新改革戦略(平成18年3月28日 閣議決定)
大量データ利活用に関連して、ソフトウェアの信頼性・生産性の向上のため、
映像検索、情報解析等の次世代の知的情報アクセスに関する技術を強化するとし
ている。
組込みソフトウェアに関連して、プロジェクトマネージャー、ITアーキテクト、
ITコーディネータ、組み込みソフトの専門家等の高度IT人材の育成を促進すると
している。
○i-Japan戦略2015(平成21年7月6日 IT戦略本部)
大量データ利活用に関連して、情報システムを自ら「所有」しなくても、必要
な時に、必要な機能だけを、誰もが簡単にネットワーク経由でサービスとして「利
用」できる、いわゆるクラウドコンピューティングと言われるような新しい情報
・知識の利用環境を整備するという目標を設定している。同時に、その実現に向
けた方策として、情報を分析・解析したり、様々な情報を組み合わせたりするこ
とにより、新しい価値を生み出すことのできる基盤を整備するとともに、その基
盤を誰もが利用できる環境を整えること、クラウドコンピューティング等新しい
技術やシステム等を、国は必要に応じ率先的に導入し、これを広く普及すること
により、我が国における新しい情報・知識の利用環境の整備を推進すること等を
挙げている。
組込みソフトウェアに関連して、情報家電、自動車等の分野におけるものづく
りとデジタル技術の融合、その他組込みソフトウェアの高機能化・高信頼化等を
図り、世界をリードするという目標を設定している。同時に、その実現に向けた
方策として、自動車をはじめとした各種製品の競争力の源泉を握るソフトウェア
の共同開発、標準化及び共通化を促進することを挙げている。
○新たな情報通信技術戦略(平成22年5月11日 IT戦略本部)
大量データ利活用に関連して、重点施策として、国民利便性向上及びユーザ産
業の高次化に資するクラウドコンピューティングサービスの競争力確保のため、
データ利活用による新産業創出、データセンターの国内立地の推進、関連技術の
14
標準化等の環境整備を集中的に実施するとしている。また、具体的取組として、
次世代クラウドコンピューティング技術の開発、複数のクラウドコンピューティ
ングサービス間における相互接続・運用性の確保、クラウド利用のためのガイド
ライン等の利用環境の整備、データセンターの立地環境整備等について、関係府
省が連携して推進する。特に、高効率なデータセンターの国内立地促進のため、
特区制度の創設も視野にコンテナ型データセンターの設置に係る規制の緩和など
を2010年度中に検討するとしている。
組込みソフトウェアに関連して、世界的な成長が期待され、我が国が強みを有
する技術分野として組込みシステムを挙げ、今後集中的に研究開発を行うととも
に、国際的なパートナーシップの下で国際標準(デジュール及びデファクト)の
獲得を推進するとしている。
また、工程表の中でも集中的研究開発を実施すべき戦略分野として、クラウド
コンピューティングと組込みシステムを挙げ、前者については2012年度まで
に研究開発を実施して、2013年度以降に次世代クラウドサービスの実現を図
るとしており、後者については2012年度までに開発・評価を実施し、201
3年度以降に製品開発・市場展開を図るとしている(図1-11)。
研究開発と知財・標準化戦略
との一体的実施
2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度
新世代・ 光ネットワーク
研究開発
2020年度
実証実験
製品開発・市場展開
総務省
次世代ワイヤレス
研究開発
製品開発・市場展開
実証実験
総務省
クラウドコンピューティング
総務省
戦
略
分
野
の
集
中
的
研
究
開
発
研究開発
次世代クラウドサービスの実現
経済産業省
次世代コンピュータ
性能評価
開発
運用開始・市場展開
文部科学省
スマートグリッド
総務省
ロボッ ト
総務省
製品開発・市場展開
実証実験
研究開発
経済産業省
研究開発
製品開発・市場展開
研究開発
製品開発・市場展開
経済産業省
革新的デバイス
研究開発
成果の早期
市場化
文部科学省 経済産業省
組込みシステム
開発・評価
製品開発・市場展開
経済産業省
三次元映像
研究開発
製品開発・市場展開
実証実験
総務省
音声翻訳
研究開発
音声翻訳サービスの実現
高度化
市場展開
総務省
ソフトウェア エ ンジニア リング
文部科学省 経済産業省
HPCI(ハイパフォーマンス・コンピュ ーティング・ インフラ)、テストベッドの整備・運用
革新的コンピューティング環境
総務省
文部科学省
高等教育機関強化等
による海外の有能な
教師・学生の獲得等
最先端の研究活動のための学術情報ネッ トワークの高度化・国際展開
高等教育機関の強化
文部科学省
図1-11
新たな情報通信技術戦略
工程表
④その他(商務情報政策局の予算事業に関する事後評価書)
図1-12は、平成22年度政策評価に挙げられているIT関連政策(施策名「IT
の利活用の推進」「情報セキュリティ対策の推進」「情報産業強化」「省エネルギ
ーの推進」)の全体像である。この中で、「クラウドコンピューティングによる産
業高次化」と「組込みシステムの信頼性向上」の必要性が指摘されている。また、
ロジックツリー(図1-13)においては、上位アウトカム目標である「ITによる
産業の高次化と社会システムの革新」に対応する中位アウトカム目標である「クラ
ウドコンピューティングによる産業高次化」と「組込みシステムの信頼性向上」が
明確に位置付けられている。
15
図1-12
施策名
16 情 報 産
業強化
アウトカム目
大目標
標(上位)
(施策目
<施策の大
的)
きな柱>
情報経済
社会 の発
展を支える
質の高い
製品・サー
ビスが提供
され、次世
代の情報
経済社会
を支える 基
盤の構築・
発展が図ら
れる上で不
可欠な 、我
が国 情報
産業 の競
争力 の強
化を図る。
経済産業省
事後評価書
アウトカム目標(中位)
IT 関連施策体系
アウトカム目標(下位)
クラウドコンピューティングによる産業の高次化
ビジネスに対応した各種サービスを支える次世代IT
基盤を構築するための信頼性向上等に関する技術
開発を支援する。
組込みシステムの信頼性向上
製造業を支えつつも国際標準化競争が激しい組込
システム開発の信頼性・生産性の向上と、これを支
える中小企業の開発力を強化するため、実践的手
法を適用した組込システムの開発・実証を行う。
ITによる産業
の高次化と
社会システム
の革新
エレク トロ
ニクス 産業
の 競 争 力 強 社会的課題を解決する革新的技術の開発
化と低炭素
社会の実現
半導体の更なる高機能、低消費電力化を実現する
ための革新的な微細加工技術の確立や、現行の方
式に比べ劇的な電力削減を可能としうる「ノーマリー
オフコンピューティング」の基盤となる技術の確立等、
革新的な技術開発を推進する。
図1-13 経済産業省 事後評価書
ロジックツリー
(2)国際的政策動向
大量データ利活用と組込みソフトウェアに関しては、海外各国においてもその重要
性が認識されており、公的支援の下で様々な事業が実施されている。
まず、大量データ利活用について、特に情報大航海プロジェクトと密接に関係する
事業としては、Theseus事業とQuaero事業がある。前者は、2007年~2011年
に1億8000万ユーロをかけて、約50の企業や研究機関が参加して、セマンティ
ック(意味論的)Web技術を開発している。具体的には、インターネット上のコンテ
ンツの単語や画像、音声等の意味を認識・分類できる意味論的な検索技術の開発等に
取り組んでいる。後者は、2008年~2012年に1億9900万ユーロをかけて、
16
企業や大学を中心とする26機関が参加して、テキスト検索に加え、音声やビデオ検
索が利用されることを念頭に置き、マルチメディア型の新しい検索技術の開発に取り
組んでいる。また、次世代高信頼・省エネ型IT基盤技術開発・実証事業と密接に関係
する事業としては、RESERVOIR事業がある。これは、欧州FP7(第7次欧州研究開発フ
レームワーク計画)の下で、IBMが核となり、SAP、サンマイクロ、ロンドン大学等と
の共同研究として行われている。2008年~2010年に1700万ユーロをかけ
て、異なるITシステムやサービスのバリアを無くし、真にユーザフレンドリーな環境
を提供することを目的として、クラウドコンピューティングを用いて異なるITプラッ
トフォームやITサービスを境目無く提供する運用・管理技術を研究した。
次に、組込みソフトウェアについて、特に産学連携ソフトウェア工学実践事業と密
接に関係する事業としては、EAST-EEA事業がある。これは、EUREKAから約4000万
ユーロの助成金が支給され、2001年~2004年に実施されたもので、BMW、ダ
イムラークライスラー、フォルクスワーゲン等、ドイツ、フランス、スウェーデンの
各企業が参加した。事業内容としては、車載共通基盤ソフトウェアの開発を行った
AUTOSAR事業の前身に位置づけられるもので、車載共通基盤ソフトウェアの企画策定
を行った。
1-3 国の施策として妥当であるか、国の関与が必要とされる施策か。
(1)国が取り組む必要性
情報サービス・ソフトウェア産業政策に国が取り組む必要性としては、それが我が
国産業全体の競争力強化に寄与する大きな波及効果を有している点、我が国経済社会
の安全・安心を支えるという強い公益性を持っている点の二つが主に挙げられる。
前者については、そもそも我が国情報サービス・ソフトウェア産業は、売上げ規模
は17兆円、雇用者数86万人を擁する重要産業である(図1-1、平成20年特定
サービス産業実態調査)。そして、企業の生産、物流、顧客管理のためのエンタプラ
イズ系のソフトウェアや、携帯電話、情報家電等の製品の中にある組込み系のソフト
ウェアのように、ITがあらゆる産業にとって不可欠な業務インフラとして機能してお
り、ITの利活用によって生産性向上、コスト削減、新サービスの創出等を実現すると
いう点に鑑みても、情報サービス・ソフトウェア産業は他産業の発展に大きく裨益し
ている。そのため、我が国産業全体の競争力強化という観点で、情報サービス・ソフ
トウェア産業政策の費用対効果は極めて大きい。
後者については、上記のようにITが経済社会インフラとして機能する中、ソフトウ
ェア・システムの信頼性・安全性は社会基盤の安定性を左右する存在となっている。
一方で、最近では、航空会社のシステム、証券取引システム等のトラブルが頻発して
おり、ソフトウェア・システムの品質の確保が喫緊の課題となっている。その品質の
向上に資する技術開発は、経済社会の安全・安心の確保という極めて公益性の高い取
組みと言える。
こうした認識に立った上で、経済産業省の情報サービス・ソフトウェアに係る技術
に関する施策では、さらに国が取り組むべき分野に特化して取り組んでいる。具体的
には、①産業全体に裨益する共通基盤ソフトウェアの開発、②直ちに事業化すること
が困難な基盤技術の開発、③制度構築を視野に入れた実証事業、の3つに主に取り組
んでいる。
①については、各社が個別に開発しているソフトウェアについて、共通部分を括り
出してプラットフォーム化するものであり、業界全体のコスト削減に寄与する、国際
17
標準化を視野に入れた開発となる等の理由で国の関与が妥当である。
②については、民間のみの投資はリスクが高い、開発成果物をオープン化して業界
全体に裨益させる必要がある等の理由で国の関与が妥当である。
③については、現行法の解釈がはっきりとしていない分野において国の実証事業を
行うことで、リスクを検証し、法の運用についてガイドライン化等をするものであり、
実証自体にリスクをはらんでいる、成果物が制度である等の理由で国の関与が妥当で
ある。
(2)省庁間連携
大量データ利活用と組込みソフトウェアのうち、後者については他省庁で取り組ん
でいる事例が尐ないために省庁間連携は生じていないが、前者については総務省等の
関係省庁との連携を進めている。具体的には、以下の事例が挙げられる。
①科学技術連携施策群
科学技術連携施策群とは、平成16年より総合科学技術会議において各府省間の
連携を促す目的で開始されたもので、テーマごとのコーディネータを中心に各府省
において実施される関連施策の強化、重複排除等の調整活動を行い、関連施策の成
果の最大化を図る枠組みである。
情報大航海プロジェクトは、「情報の巨大集積化と利活用基盤技術開発」連携群
の一プロジェクトとして、文部科学省の「革新的実行原理に基づく超高性能データ
ベース基盤ソフトウェアの開発」及び総務省の「電気通信サービスにおける情報信
憑性検証技術等に関する研究開発」と連携を図り、全体として、独自の情報サービ
スを提供するためにあらゆる情報(コンテンツ)を簡便、的確かつ安心して収集、
解析、管理する次世代の知的な情報利活用のための基盤技術の開発に資するように
実施されたところである。
②ジャパン・クラウド・コンソーシアム
ジャパン・クラウド・コンソーシアムとは、多様な企業、団体、業種の枠を超え、
わが国におけるクラウドサービスの普及・発展を産学官が連携して推進するため、
平成22年12月に設立された民間団体である。本コンソーシアムは、クラウドサ
ービス関連企業・団体等におけるクラウドサービスの普及・発展に向けた様々な取
組みについて横断的な情報の共有、新たな課題の抽出、解決に向けた提言活動等を
行うこととなっている。
経済産業省及び総務省は本コンソーシアムのオブザーバとして活動を支援すると
ともに、総務省の「スマート・クラウド研究会」座長を務められた大阪大学の宮原
教授と、経済産業省の「クラウド・コンピューティングと日本の競争力に関する研
究会」委員長を務められた慶應義塾大学の村井教授が、それぞれ会長、副会長とし
て参加している。また、本コンソーシアム総会において取りまとめられた政策提言
については、経済産業省・総務省が連携して各種施策に反映させることとなってい
る。
18
2.施策の構造及び目的実現見通しの妥当性
2-1 現時点において得られた成果は妥当か。
(1)~(3)は昨年度までに終了した事業であるが、いずれも各産業の競争力強
化に寄与しており、全体として「IT利活用による競争力強化」という施策目的を実現
している。(4)(5)については、今年度から開始し、現在も執行中のものである
(そのため、事業評価の対象からは外す)。
(1)情報大航海プロジェクト
【アウトプット】
・大量の情報の中から必要な情報を的確に検索・解析するための次世代技術を開発
(例えば、パーソナル情報保護・解析基盤等)。この結果、59の共通技術を開
発し、企業等での活用例は120以上にのぼる。
・利用者の好みや置かれた状況に応じて、最適な情報やサービスを提供できる未来
型ビジネスを実証(例えば、GPS情報に基づく行動予測レコメンドサービス等)。
のべ20の実証事業を行い、複数の事業が実ビジネス化され、国際展開や多分野
展開も見込まれるものも生まれた。
・検討、他省庁への働きかけの結果、著作権法が改正され検索サービスが可能とな
る等、必要な制度的課題への対応が進展した。また、パーソナル情報の利活用に
ついては、制度面のOECDへの働きかけや匿名化技術のISO標準化等国際展開にも
取り組んだ。
【アウトカム】
・その結果、次世代検索・解析技術の普及や実サービス化が進み、我が国情報サー
ビス・ソフトウェア産業やその他サービス産業の付加価値向上・市場規模拡大に
寄与する。
(2)産学連携ソフトウェア工学実践事業(高信頼組込みソフトウェア開発)
【アウトプット】
・非競争領域である高信頼な共通基盤ソフトウェア(OS、ミドルウェア)を業界横
断的に共同開発するとともに、開発ソフトウェアの国際標準化を図った。
・高効率なツールチェーンの開発等を通じて、車載組込みソフトウェアの開発環境
の整備を図った。
・大手自動車メーカやサプライヤと中小組込みソフトメーカをマッチングさせるこ
とにより、中小組込みソフトメーカの育成を図った。
【アウトカム】
・共通基盤ソフトウェアの整備により、我が国組込みソフトウェアベンダが高付加
価値なアプリケーション領域の開発に集中できるようになるとともに、基盤ソフ
トウェアの国際標準化、ツールの活用等を通じた組込みソフトウェアの開発生産
性・信頼性の向上によって、我が国自動車産業及び組込みソフトウェア産業等の
競争力強化を図る。
(3)IT投資効率性向上のための共通基盤開発プロジェクト
【アウトプット】
・共通部分の開発効率向上のため情報家電分野におけるソフトウェアの開発効率や
流通を促進するためのメディア・インタフェース用APIを策定、共通ソフトウ
ェア・プラットフォームとしての移植性と妥当性を実証した。
19
【アウトカム】
・LSIベンダ、ミドルベンダ、SIerなど、装置開発市場形成に必要な補完協力関係
形成が標準APIを利用して進むため、新たな情報家電分野への水平分業型サプラ
イヤ体制を形成し、普及型装置の開発に貢献、ひいては、市場の形成・普及を加
速させる。
・情報家電と同様の技術が使える周辺市場へ、 LSI、ミドルウェアの流通性を向上
させ、商機展開を図る。
・生産プロセス内での再利用性向上による開発コストが削減できる。
共通仕様によるSW流通化促進により、生産全体のコストが削減できる。
・将来機能追加への対応力で、ロングライフでの活用によるコスト低減させる。
(4)次世代高信頼・省エネ型IT基盤技術開発・実証事業
・現在、クラウドコンピューティングの基盤的技術(匿名化技術、秘匿分散技術等)
の開発9事業と、クラウドコンピューティングを活用したサービスの実証3事業
(医療、コンテンツ等)に着手しているところ。
(5)中小企業システム基盤開発環境整備事業
・平成23年度に自動車分野の機能安全規格がISO化されることを想定し、車載組
込みソフトウェア開発の機能安全対応を図る目的で、対応ガイドラインや機能安
全対応の共通基盤ソフトウェアの開発等に着手しているところ。
・今年度中に、ガイドラインのドラフト版の策定や、機能安全対応共通基盤ソフト
ウェアの要件定義書の作成等を終える予定である。
トッ プダウン
必要とされる施策
市場ニーズ
( 背景)
施策
ボトムアップ
実現上の課題
(Market)
目標
技術(国の事業)
(F unction)
事業目標
先進的サービ ス事例の創出
新たな市場創出に向けたサービス実証
新サービ スの
創出・普及
利
活
用
推
進
事業環境の整備
標準化等技術・制度の
国際展開
(T echnology )
事業(PRJ)
次世代検索・解析技術のオープン化
開発した技術の国際標準化提案の検討
情報大航海プ ロジェ
クト
H19-H21
制度改正の手法検討
概要
インターネットに限らず存在する多種
多様な大量の情報の中から、必要な
情報を簡便かつ的確に検索・解析す
るための次世代情報検索・解析技術
を開発。それら技術を公開するため
の社会基盤を構築。また、先導 的な
分野において 、開発された技術を用
いたモ デルサービス を実証
制度環境の整備
ソフトウェアの安
全 性 ・信頼性に
関する ニーズの
高 まり
情
報
処
理
分
野
ソフトウェアの大
規 模 化・複雑化
情報サービス・ソ
フトウェ ア産業の
重 要 性の高まり
研
究
開
発
を
通
じ
た
情
報
サ
ー
ビ
ス
・
ソ
フ
ト
ウ
ェ
ア
産
業
の
競
争
力
強
化
高
機
能
化
次世代技術の開
発
次世代技術の新規開発
クラ ウドコン ピューティング
の基盤的技術開発
情報の匿名管理
技術基盤の強
化
信
頼安
性全
の性
向・
上
情報システム・ソフ
トウェ アの安全性・
信頼性の向上
情報の秘匿分散
クラ ウドコンピューティングを利
活用したサービ スの実証
次世代高信頼・省エ
ネ型IT基盤技術開発
・実証事業
クラ ウドコン ピューティング
の利活用に向けた必要な
制度の整備
H22-H24
情報の暗号化
高信頼・高効率な共通基
盤ソフトウェ アの構築
障害対策
ソフトウェ ア工学に基づく
高効率な開発環境の整備
リアルタイ ム処理
高
速
化
情報システム・ソフ
トウェ アの処理能
力向上
複製の高速化
情報システム・ソフ
トウェ アの処理効
率・省エネ性能向
上
生
産
性
の
向
上
情報システム・ソフ
トウェ アの生産性
の向上
H16-H21
シ ステムの信頼性及び開発効率を向
上させる実践的なシ ステムエ ンジ ニ
ア リング手法を開発するとともに、そ
の手法を適用して、複数の事業者に
よる高信頼な車載制御システム組込
みソフトウェア の開発環境を確立する
。
中小組込みソフトウェ ア
メーカ の育成
転送の高速化
分散処理
効
率
化
・
省
エ
ネ
化
産学連携ソフトウェア
工学実践事業
ITのために資本・人材を確保すること
が困難な 中小企業にとって も利便性
の高い、高信頼・高い互換性かつ省
エ ネ型のビジ ネス向け次世代IT基盤
を構築するための技術開発・実証を
行う。
自動車分野における 機能
安全規格対応の検討
中小企業システム基
盤開発環境整備事
H22-H24
省エネ制御
シ ステムの信頼性を向上させるととも
に、我が国製造業及びソフトウェア 産
業の国際競争力を強化するため、中
小企業でも信頼性・生産性の高いシ
ス テム開発を行え るような 開発手法
を標準化するとともに、中小ソフトウ
ェア 企業等による高信頼な組込みシ
ス テムの技術開発・実証等を行う。
開発力の向上
開発環境の整備
ソフトウェ ア工学活用
情報家電分野における 組
込みソフトウェ アの共通基
盤開発
IT投資効率向上のた
めの共通基盤開発プ
ロ ジェ クト
H20-H21
OS,ミドルウェ ア等
共通基盤の整備
図2-1
情報サービス・ソフトウェアに係る技術に関する施策
20
ロジックツリー
IT投資の効率性を高めるため、情 報
家電、携帯電話、カーナビ等に搭載
する共通的な制御ソフトウェア の技
術開発を行うとともに、生産管理等に
関する共通基盤的な 情報シ ス テム開
発に向けた取組を進める。
情報大航海プロジェクト
インプット
アクション
プロジェクトの
アウトプット
カスタマー
直接アウトカム
中期のアウトカム・インパクト
情報大航海プロジェクト
国
委託
次世代知的情報アクセ
ス技術のオープン化
オープン利用可能な次世
代知的情報アクセス技術
に
新たな市場創出に向け
たサービス実証
情報利活用による新サー
ビスの実証
実証サービスの実サー
ビス化
民間団体等
次世代知的情報アクセ
ス技術の普及
制度改正の手法検討
個人情報保護・著作権等
の制度環境のあり方の取
りまとめ
グ
ロ
ー
新バ
産ル
プ
業レ
のイ
創ヤ
出た
り
得
る
市情
場報 情
産 規サ 報
業 模ー 通
全のビ信
体 拡ス 機
の 大・
ソ器
・ フ・
生付
デ
産 加ト バ
性 価ウ イ
ェ
向 値ア ス
上 増産 産
業
加業 や
やの
IT
民間事業者
• 事業期間 H19~H21
• 事業総額 113億円
利
活
用
に
よ
る
競
争
力
強
化
情報利活用を促進する
ような制度環境の変化
事業環境の整備
開発した技術の国際標
準化提案の検討
国際標準化された我が
国発の次世代知的情報
アクセス技術の利活用
次世代知的情報アクセス
技術の共通化の推進
:イ ン プット(投入資源)
:アクショ ン (実施
:アウトプ)ット(成果
)
:直接カ スタマ
ーム
:アウトカ
:イ ン パクト
:必要な要員・阻害要因
図2- 2
情報大航海プロジェクト
ロジックモデル
次世代高信頼・省エネ型IT基盤技術開発・実証事業
インプッ ト
カス タマー
直接ア ウトカム
中期のア ウトカム・インパクト
次世代高信頼・省エネ型
I T基盤技術開発・実証事
業
障害を防止する技術
の確立・有効性の確
認
委託
民間団
体等
• 事業期間
H22~H24
• H22年度予算
8.6億円
プロジェクトの
アウトプッ ト
IT
国
ア クシ ョン
クラウドコンピューティン
グの基盤的技術の確立
セキュリティを強化す
る技術の確立・有効
性の確認
クラウドコンピューティン
グの基盤的技術開発
データ処理の高速化
を実現する技術の確
立・有効性の確認
民間事業者
利用者が求めるサー
ビスレベルに対し柔
軟且つ迅速に対応す
る技術の確立・有効
性の確認
クラウドコンピューティン
グを利活用したサービ
スの実証
サービスにおけるクラ
ウドコンピューティング
の有効性の確認
クラウドコンピューティン
グの利活用に向けた必
要な制度の整備
サービスにおけるクラ
ウドコンピューティング
の有効性の確認
クラウドコンピューティン
グ利用の成功事例の創
出・認知
高
信
頼
か
テつ
ィ省
ンエ
グネ
のの
利ク
用ラ
のウ
促ド
進コ
ン
ピ
ュ
ー
制度整備もしくは制度整
備に向けた提案
利
活
用
に
よ
る
競
争
力
強
化
グ
リ
ー
ン
I
T
:イ ン プット(投入資源)
:アクショ ン (実施)
:アウトプ ット(成果)
:直接カ スタマー
:アウトカ ム
:イ ン パクト
:必要な要員・阻害要因
図2-3 次世代高信頼・省エネ型 IT 基盤技術開発・実証事業 ロジックモデル
21
産学連携ソフトウェア工学実践事業
インプッ ト
ア クシ ョン
プロジェクトの
アウトプッ ト
カスタマー
直接ア ウトカム
中期のア ウトカム・インパクト
共自
通動
基車
盤用
の組
国込
際み
標ソ
準フ
ト
化の
国
委託
民間団
体等
高信頼・高効率なBSW
の構築
車載BSWの構築
ソフトウェア工学を活用
した、車載組込みソフト
の開発基盤の整備
車載組込みソフトの開
発環境の整備
民間事業者
よ車
る載
競組
争込
領み
域ソ
へ フ
のト
集メ
中ー
投カ
資に
中小組込みソフトメー
カと大企業セットメー
カのマッチング
生
産組
性込
み
・
信ソ
頼フ
性ト
開
の発
向
上の
ソフトウェア工学に基づ
く高効率な開発環境の
整備
:イ ン プット(投入資源)
:アクショ ン (実施)
:アウトプ ット(成果)
:直接カ スタマー
:アウトカ ム
:イ ン パクト
:必要な要員・阻害要因
IT
• 事業期間
H19~H21
• 事業総額
32.0億円
我
が
国
自
動
車
産
業
及
び
組
込
み
ソ
フ
ト
ウ
ェ
ア
産
業
等
の
国
際
競
争
力
強
化
利
活
用
に
よ
る
競
争
力
強
化
図2-4
中小組込みソフトメーカ
の育成
産学連携ソフトウェア工学実践事業
ロジックモデル
中小企業システム基盤開発環境整備事業
インプッ ト
ア クション
プロジェクトの
アウトプッ ト
カスタマー
直接ア ウトカム
中小企業システム基盤開
発環境整備事業
国
自動車分野の機能安全
対応の円滑化・標準化
委託
自動車分野の機能安
全規格の対応ガイドラ
インの策定
民間団体
等
自動車分野における機
能安全規格対応の検討
民間事業者
車載BSWの機能安全
対応
機能安全対応BSWの構
築
生
産組
性込
み
・
信ソ
頼フ
性ト
開
の発
向
上の
よ車
る載
競組
争込
領み
域ソ
へ フ
のト
集メ
中ー
投カ
資に
我
が
ウ国
ェ 自
ア動
産車
業産
等業
の及
競び
争組
力込
強み
化ソ
フ
ト
IT
• 事業期間
H22~H24
• H22年度予算
7.3億円
中期のア ウトカム・インパクト
利
活
用
に
よ
る
競
争
力
強
化
自
テ動
ム車
の用
国
際組
標込
準み
シ
化ス
:イ ン プット(投入資源)
:アクショ ン (実施)
:アウトプ ット(成果)
:直接カ スタマー
:アウトカ ム
:イ ン パクト
:必要な要員・阻害要因
図2-5
中小企業システム基盤開発環境整備事業
22
ロジックモデル
インプット
アクション
プロジェクトの
アウトプット
カスタマー
直接アウトカム
中期のアウトカム・インパクト
次世代情報家電
ソフトウエア・
プラットフォーム
プロジェクト
①メディア・インタ
フェース用API仕様
の策定と実証開発
経済産業
省
委託
ASET(技
術研究組
合 超先
端電子技
術開発機
構)
②メディア・インタ
フェース用拡張API
仕様の策定と実証開
発
・ OMI関数仕 様書 (V1.01)
・ OMIチェー ン仕様 書
ISDB-T再 生編 (V1.01)
・ OMIユーザ ーズガ イド
・ OMI基本仕 様書 (V2.50)
・ OMIチェー ン仕様 書
(V1.50)
- ネッ トワー ク
メデ ィア再 生編
- 分離 AV入力 再生編
- ISDB-T録画 編
- 録画 済TS再 生編
- DTV再生 編
民間事業者
③ハードウェア仮想
化インタフェース
(HAL)仕様の策定
と実証開発
・ HAL概要説 明書
・ HAL基本仕 様書
・ HAL機能仕 様書
・ HAL用語・ 略語集
④HAL仕様範囲拡大
および実証開発
HAL概 要説明 書( V2.00)
機 能仕様 書( V2.00)
⑤移植性検証
メ ディア ・イン ター
フ ェース 用APIによ る
ソ フトウ ェア移 植性・
再 利用性 の向上
SW開発の
投資効率向
上
の技
投術
資革
推新
進へ
業
界
全
体
の
活
性
化
I
T
競利
争活
力
強用
に
化よ
る
: インプット(投入資源)
・事業期間H20-H21
・予算総額
850百万円
: アクション(実施h)
: アウトプット(成果)
: 直接カスタマー
⑥標準化支援活動
機 器メー カー、 ミドル
ウ ェアメ ーカー 、半導
体 メーカ ーによ り設立
さ れた協 議会と の連携
: アウトカム
: インパクト
図2-6 IT 投資効率向上のための共通基盤開発プロジェクト ロジックモデル
2-2 技術に関する施策の目的を実現するために技術に関する事業が適切に配置さ
れているか。
1-1で示したように、情報サービス・ソフトウェアに係る技術に関する施策は(1)
大量データ利活用関連と(2)組込みソフトウェア関連の2つに分かれる。
(1)大量データ利活用関連
・情報大航海プロジェクト
平成19年~平成21年度 113億円
・次世代高信頼・省エネ型IT基盤技術開発・実証事業
平成22年度~ 8.6億円(平成22年度予算額)
最初に着手された情報大航海プロジェクトは、「情報大爆発」時代に対応するため
に、Web 上のデジタル情報に留まらず実世界の情報も含めて、多種多様な大量の情報
の中から必要な情報を的確に検索・解析する次世代検索・解析技術を開発・実証し、
当該技術を汎用化してオープンに利用できる共通基盤を構築することを目指したも
のである。具体的には、①次世代検索・解析技術の開発、②技術の有効性・実効性に
関する実証、③デジタル融合加速に向けた制度・環境の整備の三つの取組みから成っ
ている。
続いて着手された次世代高信頼・省エネ型IT基盤技術開発・実証事業は、ネットワ
ークを通じ、求める情報処理に必要な資源だけ利用する形態をとることで、大容量の
データを高速に処理することを可能にするIT基盤として近年脚光を浴びているクラ
ウドコンピューティングに関する開発・実証である。本事業も、クラウドコンピュー
ティングの信頼性、省エネ性等を向上させる基盤的技術の開発、大量データを利活用
した新サービス・新産業の創出を目指した実証、大量データを利活用するためのプラ
23
イバシー等の制度整備の三本柱であり、これらはいずれも情報大航海での三つの取組
みの成果を継承する形で進められている(図2-7 情報大航海プロジェクト)。
同じ大量データ利活用というテーマの中の二事業であるが、クラウドコンピューテ
ィングという新技術の登場に対して柔軟に対応しつつ、サービス実証や制度検討とい
った実際の活動は適切に連携を図って、事業を実施している。
平成22年度~
平成19~21年度
次世代高信頼・省エネ型IT基盤技術開発・実証
(一部予定を含む)
情報大航海プロジェクト
イノベーション
創
出
基
盤
整
備
制
度
整
備
次世代検索・解析技術を用いてWeb及び
非Webの大量の情報を利活用した新サー
ビスを実証
・GPS情報によるパーソナルサービス
・リッチコンテンツ 他
大量データを利活用した新サービス・新
産業
成果を継承
次世代検索・解析技術の共通化・汎用化
による普及
・地理空間、コンテンツ、ヘルスケア等
・異業種情報の連携(GPS+購買情報+等)
高信頼性、低環境負荷を売りにイノベー
ションを支えるプラットフォーム
・匿名化技術
・レコメンデーション技術
・画像特徴量抽出技術 他
・高信頼化・低環境負荷技術
・匿名化技術の高度化
実証事業から洗い出された制度的課題へ
の対応
「データ」を外部へ/利活用可能
・プライバシに配慮したデータ利活用・流通の
・検索サービスや研究目的の解析が可能となる
円滑化のための制度整備
著作権法改正
一部を継続 ・クラウド事業者の責任制限
・パーソナル情報利活用のための課題整理・ガ
・データの外部保存促進
イドラインの検討
図2-7 情報大航海プロジェクトと
次世代高信頼・省エネ型 IT 基盤技術開発・実証事業の関係性
(2)組込みソフトウェア関連
・産学連携ソフトウェア工学実践事業(高信頼組込みソフトウェア開発)
平成19年度~平成21年度 31.9億円
・IT投資効率性向上のための共通基盤開発プロジェクト
平成20年度~平成21年度 8.5億円
・中小企業システム基盤開発環境整備事業
平成22年度~ 7.3億円(平成22年度予算額)
組込みソフトウェアの大規模化・複雑化が進む中、組込みソフトウェア開発の生産
性向上を目指して、共通基盤ソフトウェアの開発に取り組んだのが産学連携ソフトウ
ェア工学実践事業とIT投資効率性向上のための共通基盤開発プロジェクトである。こ
の2事業は、我が国の基幹産業であるとともに、より高度な制御が求められる自動車
分野、情報家電分野についてそれぞれ着目し、ほぼ同時期に実施された(図2-8 ニ
ーズに対応した経済産業省の組込みソフトウェア関連事業、図2-9)。
そうした中、近年の組込みソフトウェアの品質に関するニーズの高まりや(社会的
要因)、自動車分野で平成23年に自動車分野の機能安全のISO化が予定される中(国
際的要因)、特に車載組込みソフトウェアについて機能安全対応を図るための事業が
中小企業システム基盤開発環境整備事業である。本事業は、機能安全対応のためのガ
イドラインを策定するとともに、機能安全対応の共通基盤ソフトウェアを開発する予
定であるが、その共通基盤ソフトウェアは産学連携ソフトウェア工学実践事業をベー
24
スとすることとなっており、そうした点からも、各事業間の連携は適切になされてい
ると言える(図2-10)。
【国際的な要因】
・国際規格(機能安全)の検討が進行。
<産業構造の転換>
産学連携ソフトウェア
工学実践事業
○組込み産業の現状認識
・製品付加価値の源泉
・高い技術力保有
(高信頼ソフトウェア開発・生産)
中小
システム
基盤環境
整備事業
IT投資効率性向上のための
共通基盤開発プロジェクト
・垂直統合から水平統合へ
構造転換
・海外市場への展開
我が国製造業等、組
込みシステム産業の
国際競争力強化
<技術基盤強化> 品質
・共通基盤技術の開発
・安全安心の規格化
(国際標準)
【社会的要因】
・製品開発サイクルの短縮化、開発コスト
の低減、更なる多機能・高機能への対応
・品質(安全・安心)への強い関心
図2-8
ニーズに対応した経済産業省の組込みソフトウェア関連事業
エレクトロニクス
1 2 % 1 0 6 万人
エレクトロニクス
1 3 % 4 5兆円
自動車 11%
9 0 万人
自動車 1 7 %
5 7 兆円
従業員数
(全製造業)852万人
製造品出荷額等
(全製造業)337
兆円
(出所)経済産業省「工業統計調査(2009年2月)」
図2-9
基幹産業である自動車産業と情報家電産業
車載組込みソフトウェ
アの大規模化・複雑化
車載組込みソフトの安全性
に対する関心の高まり
平成19年度
平成20年度
平成21年度
平成22年度
自動車分野の機能安全
規格のISO化
平成23年度~
自動車分野
産学連携ソフトウェア工学実践事業
中小システム基盤
環境整備事業
共通基盤ソフトウェアの構築
共通基盤ソフトウェア
の機能安全対応
ツールの開発
機能安全対応ガイドラ
インの策定
情報家電分野
IT投資効率性向上のための
共通基盤開発プロジェクト
検証技術の
高度化(予定)
共通基盤ソフトウェアの構築
図2-10
組込みソフトウェア関連事業の流れ
25
第3章 技術に関する事業の概要
26
第3章
技術に関する事業の概要
A.情報大航海プロジェクトの概要
1-A 事業の目的・政策的位置付け
1-1-A 事業目的
(1)背景
IT化の進展により、社会活動のあらゆる場面で情報の「創出」・「蓄積」が起こって
いる(情報爆発)。IDCの調査によると2006年には161EB(エクサバイト)の情報が人類
によって創出されており、2011年には1.8ZB(ゼッタバイト)まで拡大し、2020年に35ZB
に達すると予想されている(図1-1)。このような情報爆発は情報探索が難しくなる
というマイナスの側面がある一方、大量の情報から新たな価値を抽出することで新たな
サービスの創出が期待できる。しかしながら、あらゆる社会活動において更なるIT化が
進展していく中で、我が国においては、大量に蓄積していく情報を有効に活用し、新た
なビジネスやイノベーションの創出に結びつけていく環境が必要である。
情報爆発
図1-1
情報爆発
(2)目的
情報爆発をイノベーションに結び付けるため、多種多様な大量の情報の中から新たな
価値を創出する先進的なサービスを実証することにより、国際競争力のある新たな産業
の育成を図る。また、合わせて、プライバシー、著作権を始めとする制度的課題につい
て所要の手当てを行い、サービスが自律的に展開していくための環境を整備するととも
に、そのために必要な基盤となる次世代知的情報アクセス技術の開発及び普及・展開を
目指す。
情報爆発はWeb上だけでなく、非Webすなわち実世界においても急速に進んでいる。特
に我が国の強みであるセンサ・デバイスから創出される情報量は膨大であり、Web情報
27
と非Web情報を次世代知的情報アクセス技術によって融合を図り、我が国の競争優位に
結び付くイノベーションの創出を図る(図1-2)。
企業・個人のHP
画像・映像・音楽
位置情報
購買履歴情報
情報爆発
Web情報
Blog、SNS
非Web情報
各種DB
視聴覚情報
健康管理情報
次世代知的情報アクセス技術
情報融合
先進的なサービスのイノベーション
図1-2
情報大航海プロジェクトの趣旨
1-2-A 政策的位置付け
本事業は、以下に示す通り「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」を
始めとする閣議等の決定による報告書において、我が国の生産性の向上に寄与し、国際
競争力の強化に資するものと位置づけられている(表1-1)。
表1-1 本事業の政策的な位置付け
○「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」(平成18年7月7日閣議
決定)
第2章 成長力・競争力を強化する取組
大量・多様な情報から必要情報を検索する等の次世代IT技術の展開を推進す
る。
○「経済成長戦略大綱」(平成18年7月6日財政・経済一体改革会議決定)
第2.生産性の向上(ITとサービス産業の革新)
大量かつ多様な情報から必要な情報を探し出す技術や、情報システムの統合を効
率的かつ安全に実現する技術など次世代を担うIT関連技術の展開を推進する。
○「新経済成長戦略」(平成18年6月9日経済産業省とりまとめ)
第2章 国際競争力の強化(国際)産業戦略
大量かつ多様な情報処理、データマイニング等の観点からの「知的情報アクセス」
の技術開発など、情報活用力の強化に資する技術開発を支援する。
○「IT新改革戦略」(平成18年1月19日IT戦略本部決定)
3.世界への発信【国際競争社会における日本のプレゼンスの向上―世界へ発信す
る日本】
ソフトウェアの信頼性・生産性の向上のため、産官学連携の下、研究開発の促進
及び品質評価の機能強化を図るとともに、映像検索、情報解析等の次世代の知的
情報アクセスに関する技術を強化する。
○「第3期科学技術基本計画」(平成18年3月28日閣議決定)
28
社会:すべての国民がITの恩恵を実感できる社会の実現
大量で多様なデジタル情報を簡便、的確かつ安心して収集・分析・利用すること
ができる情報検索・情報解析技術および関連する人材の育成への投資が不可欠で
ある。
また、平成18年3月22日に総合科学技術会議で決定された「第3期科学技術基本計画(平
成18~22年度)」の「分野別推進戦略:情報通信分野」において、「戦略重点科学技術」
(特に今後5年間に集中投資すべき科学技術)として選定されており、イノベーション
パイプラインの中で、第1期及び第2期科学技術基本計画の成果を引き継いだ、実用化研
究に向けた政策として位置付けられている(図1-3)。
出典:総合科学技術会議資料
図1-3 イノベーションパイプライン
科学技術基本計画における位置付けを受け、平成19年度から内閣府、総務省、文部科
学省のプロジェクトと連携した科学技術連携施策群(情報通信分野)としてスタートし、
その後、同施策群を担当している総合科学技術会議情報通信PTにより定期的な成果のフ
ォローアップが行われている(図1-4)。
29
出典:「平成19-21年度「情報の巨大集積化と利活用基盤技術開発」成果報告書 」
図1-4 科学技術連携施策群
1-3-A 国の関与の必要性
情報量が飛躍的に増え続けていく中、必要な情報を簡便かつ的確に探し出し、効率よ
く把握し、知的欲求や価値創造に如何に活かしていくかが産業の競争力に直結する状況
となっている。こうした状況において、我が国産業の競争力強化という観点からは、企
業や個人のニーズに対応できる我が国独自の次世代知的情報アクセス技術の開発が不
可欠であるが、本事業では大きく二つの点に留意した。すなわち、事業に直結するサー
ビスオリエンティッドな取組み、そして制度・環境の整備である。
特に制度・環境の整備については、民間のみのプロジェクトや過去の国家プロジェク
トにおいても対応はどうしても遅れがちだった。その反省を踏まえ、制度検討を一体的
に実施するよう研究会等で指摘がなされた。また、このような新たなサービスを事業化
する際、制度・環境の整備や基盤となる新たな基盤技術開発において大きなリスクが伴
うため、経済産業省が主導し、産学官が連携して効率的に本事業を行う必要がある。
同様の問題意識のもと、Quaero、Theseus等、欧州においても同様に国費を投じてお
り、我が国においても、国際競争力を強化する観点から官民が一体となってその知見を
結集し、取り組むことが不可欠である。更に国際競争力という観点から、OECD、ISO等、
国際機関への働きかけ、国際標準化の推進も必要であり、この点からも産学官の連携に
よる取組みが非常に重要である。
30
2-A 研究開発等の目標
2-1-C 研究開発目標
国際競争力の強化と市場・産業の発展、活性化を促進するため、「先端事業による実
証」、「制度・環境の整備」、「技術開発」を三位一体で取り組むこととし、それぞれ
において目標を設定した(図2-1)。
先端事業による実証
先端事業による実証
目標:「次世代知的情報アクセス技術を用
目標:「次世代知的情報アクセス技術を用
いた先進的なサービスの有効性・実現性の
いた先進的なサービスの有効性・実現性の
検証と、制度的課題の抽出、ならびに技術
検証と、制度的課題の抽出、ならびに技術
面の検証」
面の検証」
国際競争力の強化と市場・産業
の発展、活性化を促進
制度・環境の整備
制度・環境の整備
技術開発
技術開発
目標:「事業者が次世代知的情報アクセ
目標:「事業者が次世代知的情報アクセ
ス技術を活用した先進的なサービスを展
ス技術を活用した先進的なサービスを展
開する上で必要となる制度環境の整備」
開する上で必要となる制度環境の整備」
目標:「先進的なサービスを展開する上で
目標:「先進的なサービスを展開する上で
必要となる次世代知的情報アクセス技術
必要となる次世代知的情報アクセス技術
の開発と、汎用化・共通化」
の開発と、汎用化・共通化」
図2-1 三位一体の取り組み
2-2-A 全体の目標設定
表2-1 全体の目標
目標・指標
目標1:先端事業による実証
次世代知的情報アクセス技術を用い
た先進的なサービスの有効性・実現性
の検証と、制度的課題の抽出、ならび
に技術面の検証。
目標2:制度・環境の整備
事業者が次世代知的情報アクセス技
術を活用した先進的なサービスを展開
する上で必要となる制度環境の整備。
目標3:技術開発
先進的なサービスを展開する上で必
要となる次世代知的情報アクセス技術
の開発と、汎用化・共通化。
設定理由・根拠等
大量に蓄積していく情報を有効に活用
し、新たなビジネスやイノベーション
の創出に結びつけ、国際競争力の強化
と市場・産業の発展、活性化を促進す
る上で必要なため。加えて、先端事業
による実証が先駆けとなり、制度環境
の整備、技術開発につなげるため。
グローバル経済の中で先進的なサービ
スが自律的に展開していく上で、プラ
イバシー、著作権を始めとする制度的
な課題への対応が必要であるため。
先進的なサービスを展開する上での技
術基盤となる、多種多様な大量の情報
の中から必要な情報を的確に解析する
ための汎用的・共通的技術が必要であ
るため。
2-3-A 個別要素技術の目標設定
31
表2-2 個別要素技術の目標
要素技術
目標・指標
設定理由・根拠等
先端事業によ
1)パーソナル情報を活用したサー センサ技術等を活用した
る実証
ビス分野
パーソナル情報の蓄積が
プライバシーに配慮した上で、 進んでおり、我が国の強
プロファイルや行動履歴等に基 みを活かした産業創出が
づき、各自の生活に適した情報を 期待されるため。
自動で提供するサービスを実証
する。また、パーソナル情報を利
活用する場合の制度的な課題を
抽出し、対応する。
2)健康サービス分野
高齢化による医療費が大
健康・医療情報等を利用するこ きな課題となっており、
とで、医療の質の向上に貢献する ITを活用したサービスの
情報薬サービス(情報により人を 高度化が期待できるた
健康にするサービス)を実証す め。
る。
3)安全・安心な社会対応サービス 組織内に蓄積した安全・
分野
安心分野の情報を有効利
人手で分析していたレポート、 用することで社会インフ
運用データ等の情報を解析して ラの安全・安心の向上が
活用することで、業界を越えて安 期待できるため。
心・安全という公共の利益に貢献
するサービスを実証する。
4)リッチコンテンツを活用した次 通信の高速化により、動
世代型サービス分野
画等の流通が拡大してお
日本が強みとするコンテンツ
り、リッチコンテンツに
分野を生かすためのリッチコン 関連した先進的なサービ
テンツ関連サービスを実証する。 スの創出が期待されるた
加えて、Web時代の法的な課題と め。
問題点を明確化する。
制度・環境の整 1)個人情報保護法等の制度のあり パーソナルサービスの推
備
方検討と環境整備
進を図る上でプライバシ
消費生活分野において先進的
ー保護との両立が不可欠
なサービスを展開する上での個 であるため。
人情報保護法等の制度のあり方
を検討し、環境を整備する。
2)著作権法等の制度のあり方検討 次世代知的情報アクセス
と環境整備
技術を用いた先進的なサ
次世代知的情報アクセス技術
ービス展開を実現する上
を用いた先進的なサービスを展 で法制度上の位置付けの
開する上での著作権法等の制度 明確化が不可欠であるた
のあり方を検討し、環境を整備す め。
る。
3)国際標準化の推進
本事業の成果として創出
技術面、制度面、双方において される新たなサービスが
32
本事業の成果に関する国際標準
化を推進する。
技術開発
国際的に普及するために
は国際標準化の推進が必
要であるため。
1)個人情報管理
パーソナルサービスの推
プライバシーや個人情報を十
進を図る上でプライバシ
分に保護しつつ、個人に関する情 ー保護との両立が不可欠
報を有効に活用するための個人 であるため。
情報匿名化技術等を開発する。
2)サービス連携
エンドユーザーにとって
イメージ的・感覚的に必要な情 使い易さを創出し、技術
報を検索できる次世代ユーザー の普及促進を図るために
インターフェース技術、効率的・ 不可欠であるため。
効果的な情報の収集・配信技術、
様々な情報の統合技術を開発す
る。
3)リッチコンテンツ解析
リッチコンテンツを活用
画像・動画などを効果的に解析 した先進的なサービスの
する次世代画像・映像解析技術、 創出を図るため。
ブログ・対話・口語文章などを解
析する自然言語解析技術、空間・
位置・時間を解析する時空間情報
解析技術、検索エンジンなどの信
頼性を評価するコンテンツ・サー
ビス信頼性評価技術を開発する。
4)プロファイル情報解析
膨大に蓄積されるデー
行動情報等を活用し有益な情
タ、特に行動データを効
報を提供するレコメンデーショ 率的に解析し、サービス
ン技術、プロファイル情報・テキ 提供に結び付ける上で不
スト情報等を解析するデータマ 可欠であるため。
イニング技術を開発する。
33
3-A 成果、目標の達成度
3-1-A 成果
3-1-1-A 全体成果
先端事業の実証では、先進的なサービスの創出に必要な技術、制度について多様な
サービス分野において実証を実施し、3年間で延べ22の実証事業を実施した。その中で
は、プライバシーに十分配慮しながら、個人の行動情報、位置情報を活用し、個人が
欲している情報を自動でレコメンデーションする新たなサービスの有用性を確認でき
た。医療情報を活用したサービスでは、適切なタイミングで適正な情報を提供すると
患者が適切な行動をとり、生活習慣を改善できることが確認できた。映像、画像、ブ
ログ検索等のリッチコンテンツ分野のサービスでは、ユーザーの満足度がより高い、
新たなサービスを実現した。また、今後社会で広く利活用される見込みの共通技術を
検証すると共に、先進的なサービスの普及の妨げとなる制度的な課題を抽出し、制度
・環境の整備につなげることができた。
制度・環境の整備では、著作権法改正に向けた提言やパブリックコメントなどによる
継続的な働きかけにより、平成21年6月に、「著作権法の一部を改正する法律」(平成
21年法律第53号。以下「改正著作権法」という。)が成立し、検索サービスのための
複製が著作権法上位置づけられた。その法改正を踏まえ、次世代サービスの可能性を
調査するとともに、新たな制度的課題の有無等を検討し取りまとめた。また、新市場
(パーソナル情報市場)の創出に向けて、制度・技術の両面からパーソナル情報の利
活用を促進するための取組みを実施するとともに、プロジェクト成果を次世代パーソ
ナルサービス推進コンソーシアムに承継した。また、国際競争力の強化のため、パーソ
ナル情報関連の取組み・成果について、技術・制度の両面から国際展開活動を実施し、
ISOやOECDなどに提案することで国際展開に向けた足がかりを構築した。
技術開発では、先進的なサービスの創出に汎用的に活用可能な59の共通技術を開発
した。その中では、実用規模の大規模実データに対応可能な処理性能を持つ、世界で
初めての汎用的な匿名化技術を開発した。また、世界最高速レベルの頻出パタンマイ
ニングアルゴリズムが実装された、先進的なデータマイニング基盤技術を開発した。
「PI(Place Identifier)基盤」の開発では、ISOの規格化(ISO-17572)を実現した。
このように、情報大航海プロジェクトでは、先端事業の実証、制度・環境の整備、
技術開発の三位一体の取り組みの中で、国際競争力の強化と市場・産業の発展、活性化
を促進するための多様な成果を上げることができた。
3-1-2-A 個別要素技術成果
(1)先端事業による実証
先端事業による実証では、先進的なサービスの創出に必要な技術・制度について多様
なサービス分野において実証を実施し、3年間で延べ22の実証事業を実施した。主な実
証分野としては「パーソナル情報を活用したサービス分野」、「健康サービス分野」、
「安全・安心な社会対応サービス分野」、「リッチコンテンツを活用した次世代型サー
ビス分野」があり、以下に示すような成果を上げた。
①
パーソナル情報を活用したサービス分野
パーソナル情報を活用したサービス分野では、主にプライバシーに配慮した上で、プ
ロファイルや行動履歴等に基づき、各自の生活に適した情報を自動で提供するサービス
を実証した。また、パーソナル情報を利活用する場合の制度的な課題に対応した。
34
ここでは、パーソナル情報活用分野の実証事業の中でも主要な位置付けである、「マ
イ・ライフ・アシストサービス」と「ラダリング型検索サービス”ラダサーチ”」の成
果について記述する。
(a)マイ・ライフ・アシストサービス
マイ・ライフ・アシストサービスの実証事業では、プライバシーに十分配慮しながら、
個人の行動情報、位置情報を活用し、個人が欲している情報を自動でレコメンデーショ
ンする新たなサービスの有用性が確認できた。
本実証事業により、個人の行動を理解した情報配信は、日常的・一斉的な情報配信と
比較して利用者の閲覧率が高く、中でも独身女性等は、来店率、購買率についても向上
することが判った(図3-1)。
閲覧
行動ベース情報配信(例):
独身女性層;職場で帰宅前の
タイミングに配信
タイミングに配信
来店
購買
※配信当日の購買
利用者の匿名性を守りながら、行動に合わせた
※配信当日の来店
※配信当日の閲覧
※推薦商品以外の
全く新しいマーケティング手法が可能になる!
購入含む
セール今日までだ!
セール今日までだ!
これは寄らなきゃ!
これは寄らなきゃ!
そろそろ仕事も終わり。
そろそろ仕事も終わり。
帰りどこか寄ろうかな・・・
帰りどこか寄ろうかな・・・
~今月の催し物~
今月の催し物~
★Spring Festa開催中
Festa開催中!★
トレンドを取り入れた旬の
コーディネートをご提案します。
※配信対象者:
百貨店モニター
(約200名)
帰宅途中の乗り換え駅で
立ち寄り
配信回数
閲覧率
来店率
799回
73.5%
27.9%
<今までの手法との比較>
■ 一般的な広告のCTR
■ 募集関係のCTR
■ インセンティブがある場合
■ 来店をリアルタイムに知る手段
⇒ FeliCa R/Wへのアクセス等 コスト高い
■ リアルタイムに、閲覧⇒来店⇒購買を観測する
仕組みは無かった
⇒ 3~4%
⇒ 4~5%
⇒ 10%超
図3-1
購買率
16.3%
行動に基づいた情報配信の有効性
また、GPS携帯電話の行動情報だけでなく、鉄道(IC乗車券)や自動車(カーナビ)
といった異種の行動情報をプライバシーに配慮しながら統合的に活用できることも実
証できた(図3-2)。
35
①NWアクセス状況
時刻・属性・嗜好・対象
リマインド情報
②PASMOを使った駅乗降
データとGPS携帯位置
情報の組合せ+購買連携
④ドライブシーンや行動
状況に合った情報配信
③自動車の行動特性
カーナビとの連動による一般
道、高速道路での行動予測
(目的地、経由地、周辺)
PC、携帯、情報家電
観光地
POS
鉄道・バス
家庭
行動連鎖型
電子チラシ
利用者間の
情報交換
(渋滞・事故・工事)
FeliCa、車内NW、
駅改札、無線LAN
FeliCa
POS
カーナビ (VICS、GPS)
自動車
レストラン
日常・非日常ドライブ
行動連鎖型
電子チラシ
POS
⑤事前のNWアクセスと
実来店の関係
途中の行動特性
店舗
⑥店舗のPOSデータの
統計的なリアルタイム
消費動向特性
⑦散歩経路による移動
GPS、カメラ
散歩
図3-2
異種の行動情報との統合
技術面では、自己情報コントロールと匿名化した情報の二次利用を両立する技術、複
数のレコメンデーション技術を統合した効果的な推薦技術等について、その有効性を実
証している。また、本実証で開発した位置情報の匿名化技術に関しては、汎用化し、現
在次世代パーソナルサービス推進コンソーシアム等に展開されているパーソナル情報
保護・解析基盤(個人情報匿名化基盤)に実装されている。
制度的な課題への対応の点では、個人情報を匿名化する機能により情報の二次利用の
可能性を検証するとともに、自己情報コントロール機能を提供することで、利便性のた
めに個人が情報の開示、提供を行う可能性についても確認できた(図3-3)。
プライバシ性が高い情報を提供しても精度が高い情報が欲しいという被験者が多かった一方で、過去の行動を振
り返ったときの必要に応じた削除や、滞留場所による匿名化ポリシーの変更が必要であるという意見が得られた。
匿名性低
よく行く場所
仕事場
1回
2~3回
4回以上
203(380)
155
22
アンケート: 提供する情報のプライバシ性を制御するための匿名化ポ
リシー(プライバシ情報設定)が、「必要である」、「まあ必要である」と
答えた被験者は77.4%
グループインタビュー: プライバシ性が高い情報を提供しても精度が高
い情報が欲しいという被験者が多かった一方で、過去の行動を振り
返ったときの必要に応じた削除や、滞留場所による匿名化ポリシーの
変更が必要であるという意見が得られた。
図3-3
よく行く場所
仕事場
自宅
よく行く場所
自宅
仕事場
匿名性中
自宅
匿名性高
匿名化ポリシーの変更回数とアンケート結果
このように、複数のサービス、事業者を組合せ、行動情報を解析し、最適な情報を提
供することで、商業的な価値を創出する新たなサービスの有効性、実現性を検証した。
36
(b)ラダリング型検索サービス”ラダサーチ”
ラダリング型検索サービス”ラダサーチ”の実証事業では、利用者とシステムとの対
話の中で、利用者の深層心理からニーズや価値観などの情報を引き出し、それにマッチ
する情報を自動で提供するラダリング技術を開発した。
本技術を適用することにより、商品やサービスに対する納得感が高まり、商品・サー
ビスへの信頼感や親近感の向上が期待できることを検証した。アンケートの結果、「自
分の気持ちを理解して寄り添ってくれる感じがする」という質問に対し、45%の人が「そ
う思う」と回答した。
加えて、以下のようなサービスにおいて応用の可能性があることを確認した。
・個人が保有する高度なノウハウを本サービスに入力することで、第三者へのノウハウ
の継承・展開が可能になる。
・商品販売や営業支援に用いることで、顧客の深層心理を汲み取った顧客が求める商品
を提案できる。
・年金相談/ジョブカード/就職相談/各行政システム等の相手との対話を必要とする
サービスで利用できる。
②
健康サービス分野
健康・医療情報等を利用することで、医療の質の向上に貢献する情報薬サービス(情
報により人を健康にするサービス)を実証した。
ここでは、高齢化社会に対応した健康サービス分野の実証事業の中でも、主要な位置
付けである「次世代解析技術を活用した携帯情報端末などを用いた循環方式による健康
管理(e-carna)」の成果について記述する。
(a)次世代解析技術を活用した携帯情報端末などを用いた循環方式による健康管理(e
-carna)
e-carnaの実証事業では、センサ技術等を活用して収集した個人の行動情報、
血糖値・血圧・体重などの医療情報を活用し、適切なタイミングで適正な情報を提供す
ると、患者が適切な行動をとり、生活習慣を改善できることが確認できた。その結果、
医療の質の向上や医療費を削減する見込みがあることも判った。
本サービスを利用することで、特定健診・保健指導制度の保険指導面談において、医
療従事者の患者一人に対する面談時間を22分から12分に短縮することができ、面談にか
かる時間を4分の3に削減できる可能性が確認できた(図3-4)。
37
特定保健指導 初回面接の一例
生活習慣改善プログラムの説明
↓
サポーターの確認
↓
健診結果から見たリスクの判定
↓
生活習慣ふりかえりシート
↓
生活習慣改善の努力レベルは?
↓
ゴール設定
↓
取り組めないこと
↓
行動目標の設定
↓
行動目標の記録について
↓
登録内容の確認
↓
個人面談報告書のダウンロード
↓
面接コメント
全12ステップ 必要時間:約 40 分
図3-4
センサを用いて行動解析を行うと・・・
生活習慣のふりかえりが簡単
・センサから得られる項目をふりかえる必要がなくなる
・センサ情報をきっかけに、行動を思い出しやすくなる
10分→ 5分に 50%削減
実際の生活に則した目標の設定が可能
・センサで得られた行動履歴から、変更できそうな部分を
目で確認しながら考えることができる
・対象者の気付かなかったポイントなどを、面接者が指摘
できるため、より適切な指導ができる(質の向上)
12分→ 7分に 42%削減
10分の時間短縮/対象者が可能!
または
年間1,000人多く指導できる!
または
人件費を4分の3に減らせる!
特定健診・保健指導制度の保険指導面談における効果
加えて、本サービスを利用することで、通院では判明しなかった高血圧症、糖尿病な
どの病態が判明し、入院治療となった例もあり、隠れた医療リスクの検出においても有
効性が検証できた(図3-5)。
mmHg
血圧(収縮期)
「逆白衣高血圧症」の検出例→
血糖値
mg/dl
A→
C
↓
B→
時間(日)
←恒常的に血糖値が高い人の検出
時間(日)
図3-5
隠れた医療リスクの検出例
③
安全・安心な社会対応サービス分野
これまで人手で分析していたレポート、運用データ等の情報を解析して活用すること
で、業界を越えて安心・安全という公共の利益に貢献するサービスを実証した。
38
ここでは、安全・安心な社会対応サービス分野の実証事業である「新総合安全運航支
援システム」の成果について記述する。
(a)新総合安全運航支援システム
新総合安全運航支援システムの実証事業では、大量のレポート・運航データからトラ
ブル発生モデルを構築する技術と、センサ情報とテキスト情報をデジタル融合してトラ
ブルの予兆管理をする技術を開発した。また、それらの分析により、安全運航管理の効
率的、効果的な推進が可能であることが実証された。
実証事業において従来の安全管理分析手法と比較した結果、本システムを利用した場
合は730%分析能力が向上する試算が出ている(図3-6)。
トラブルレポート
イベント連鎖
↓
ATCによる降下指示
↓
天候)CBの影響あり
↓
ベルトサインの判断
↓
20000ftを通過
↓
ベルトサインの操作
↓
PAの操作
↓
18000ftを通過地点
↓
Configuration操作
↓
高度が低すぎ
↓
【タイトル】 QNHのSET遅れによる高度
の逸脱
【本文】 当日は台風が接近しており、
GUM周辺の天気は雲が多く、また気圧
も2909inと低かった。
その日のPFはCAP、PNFはFOであった。
GUMへの進入の際、GUM CTRから
Initial 17000ftの降下指示があった。
コース前方にCBがあったので、早めに
ベルトサインを点灯しようと思い、
20000ftを通過した頃、PF自らPAを行
い、ベルトサインを点灯した。PAも終了
しベルトサインも点灯し終わった頃、高
度を見ると18000ftを丁度通過すると
ころであった。すぐさまQNH(2909in)を
Setしたが、結果的に17000ftを500ft
程、突き抜けてしまった。
【リスクモデリング】
トラブル発生モデル
【リスクシミュレーション】
トラブルレポートのテキスト記述から、イベント
(条件、事象、出来事)の連鎖を抽出
複数のトラブルレポートから抽出された複数のイベン
ト連鎖を統合してトラブルに至るまでの経過を可視化
3名の分析者が3日で分析
5名の分析者が15日を要していた分析
730%アップ
図3-6
新総合安全運航システムの分析の効率化
また、人手の分析では検出できないトラブル発生モデルを検出可能であることも確
認できた。さらに、他の社会インフラ企業も含めて結成している実用化コンソーシア
ム(後述)に参加した3社5部門の実務担当者が本システムを実際に利用した結果、全
ての部門で有用性を確認でき、継続使用の意向が得られた。グローバル対応に関して
も、海外4社(者)において評価を実施し、実務適用への有益性があるとの評価が得られ
ている。
④
リッチコンテンツを活用した次世代型サービス分野
日本が強みとするコンテンツ分野を生かすためのリッチコンテンツ関連サービスを
実証した。加えて、Web時代の法的な課題と問題点を明確化した。
ここでは、映像、画像、ブログ検索に関して技術開発を行った実証事業「サグールテ
レビ」、「Viewサーチ北海道」の成果について記述する。
(a)サグールテレビ
サグールテレビの実証事業では、面白い順に検索結果を表示する技術や、あいまいな
要求に対応した推薦エンジン等を開発し、これを活用した動画検索サービスを実証した。
39
このような人間の感覚に配慮した技術を動画検索サービスに組み合わせることで、ユー
ザーの満足度がより高い、新たなサービスを実現できる可能性が検証できた。能動性の
低い状態で長時間流し見する形態のサービスが有効であることが実証でき、実際にサグ
ールテレビでのサイト滞在時間はYoutubeよりも42%長かった(図3-7)(図3-8)。
目的志向
能動性の低い状態で
長時間流し見
※ユーザー行動をデータベースに蓄積して計測
図3-7
サグールテレビでの利用データ
■Youtubeとサグールテレビ滞在時間の比較
サービス名
YOUTUBE
※2008年2月データ
Data)Web Report
平均滞在時間
11:59
/ ビデオリサーチインタラクティブ
サービス名
平均滞在時間
サグールテレビ
17:04
※2008年3/6-3/12データ
Sitetracker8.0を使用し、アクセスログから測定
図3-8
YOUTUBEとサグールテレビの滞在時間の比較
加えて、本実証事業終了後も数多くの人がサグールテレビを利用している。2009年1
月は100万人の利用者がおり(2008年2月~2009年1月では累計500万人の利用者)、ソー
シャルブックマーク数は640を超えている。
本実証事業で開発された検索システムは、テレビ、メーカーの試作機に搭載されたほ
か、産経新聞のWebサービス「イザ」などで活用されており、実用性も高い。
また、著作権に関して、実証の過程で検索サービスにおける制度的な課題を抽出し、
プロジェクト内の制度課題の検討に連携することで、制度・環境の整備につなげること
ができた。
(b)Viewサーチ北海道
Viewサーチ北海道の実証事業では、キーワードでは探せない情報や大量の候補の中
から、感覚的な画像検索を可能にする画像検索サービスを開発した。実際の使用アンケ
ート結果では、「役に立つ」との回答が81%、「楽しい・面白い」との回答が77%あり、
大量の画像等を使用する直感的な画像検索サービスの有用性を検証することができた。
さらに、高齢者との親和性とも高いということも分かっており、デジタルデバイド解
消にも有効性であることも実証した(図3-9)(図3-10)。
40
 高齢者との親和性
 実証実験アンケートでは、高齢者(60歳以上)ほど・インターネット歴が浅いほどが「わ
と回答する率が高く、デジタルデバイドを克服する技術として有効と考えられる
使い方はわかりやすいか?
年齢が高いほど
わかりやすい」「役にたつ」
と回答している
0.4%
60才以上
17.7%
50.0%
28.0%
3.9%
60才以上
40才未満
12.7%
49.9%
11.0%
29.7%
50.0%
6.4%
28.3%
8.6%
40-59才
19.9%
40才未満
19.6%
2.1%
とてもわかりやすい わかりやすい どちらともいえない 難しい とても難しい
以上)ほど・インターネット歴が浅いほどが「わかりやすい」「役に立つ」
図3-9 高齢者における使い易さ
を克服する技術として有効と考えられる
使い方はわかりやすいか?
りやすいか?
ネット歴が浅いほど
わかりやすい」「役にたつ」0.4%
0%
3.9%
と回答している 28.0%
アンケート回答者数
3年未満
135人
29.7%
3-10年
484人
10年以上
492人
い
28.3%
3年未満
60才以上
3-10年
難しい
い
48.9%
29.3%
24.4%
7.4%
ど
役に
50.0%
3年未満
28.1%
0.0%
1.2%
9.9%0.4%
60.3%
12.6%
40-59才
10年以上
19.9%
12.8%
29.3%
40才未満
19.6%
とてもわかりやすい
59.1%
6.8%
18.4%
50.2%
3-10年
21.3%
29.7%
2.4%
6.1%
10年以上
20.5%
1.2%
8.6%
55.1%どちらともいえない
わかりやすい
3.6%
難しい20.8%
とても難しい
とても思う
0.9%
とても難しい
とても思う
思う
図3-10
どちらともいえない
あまり思わない
まったく思わない
高齢者による有用性評価
役に立つサイトか?
1.5%
2.2%
Viewサーチ北海道の開発過程で作られた技術群「ImageCruiser」はSaaSアプリケーシ
3年未満
28.1%
57.0%
11.1% 2.2%
24.4%
7.4%
ョンとして既に商用化されており、現代美術を販売するタグボートで正式採用されてい
0.0%
1.2%
るほか、楽天やセシール、エムシープラスで試験的に採用された。
29.3%
思う
0.2%
りやすいか?
%
17.0%
1.3%
6.4%
とても思う
2.2%
役に立つサイトか?
2.1%
どちらともいえない
29.3%
1.3%
40-59才
アンケート回答者数
60才以上
232人
40-59才
543人
40才未満
336人
役に
6.8%
3-10年
21.3%
59.1%
18.2%
1.4%
(2)制度・環境の整備
本プロジェクトでは、先進的なサービスを展開する上で必要となる制度基盤を整える
20.5%
57.5%
18.3%
3.3%
10年以上
29.7%
6.1%
ため、個人情報保護法や著作権法などの法制度のあり方について3年間を通じて検討を
0.4%
1.2%
とても思う
思う
どちらともいえない
あまり思わない
まったく思わない
どちらともいえない 行った。加えて、国際競争力強化のための取組みとして技術面、制度面、双方において
難しい とても難しい
国際標準化を推進した。
* アンケート質問項目は「添付4-2アンケート(質問項目)」に記載
①
個人情報保護法等の制度のあり方検討と環境整備
消費生活分野における先進的なサービスを展開する上での法制度面での課題につい
ては、プライバシーに配慮して個人情報だけでなく個人に関連する情報(パーソナル情
報)の利活用を促進するため、利活用の考え方を整理し「パーソナル情報の利用ガイド
ライン(案)」として取りまとめるとともに、今後のアクションプランを策定した(図
3-11)。「パーソナル情報の利用ガイドライン(案)」は次世代パーソナルサービ
ス推進コンソーシアムが引き継ぎ、業界自主基準の策定が進められている。
41
思う
ど
* アンケート質
図3-11 パーソナル情報の利用ガイドライン(案)構成
②
著作権法等の制度のあり方検討と環境整備
リッチコンテンツ分野における先進的なサービスを展開する上での法制度面での課
題については、情報検索サービスのための複製を著作権法に明記するための改正を働き
かけ、平成21年6月に改正著作権法の成立を実現した。その結果、検索サービス事業の
ための複製が著作権法上位置づけられた(図3-12)。
42
2005年度
2006年度
2007年度
2008年度
2009年度
プロジェクトマネジメント
情報大航海PJ
実証事業
2006.7
2005.12
情報大航海プロジェクトコンソーシアム
ITによる「情報大航海時代」
の情報利用を考える研究会
情報大航海研究会
著作権、個人情報保護等、
検索エンジンに係る法的論
点を整理し、法令化等の施
策検討の必要性についてと
りまとめた。
「著作権を考える各界連絡
会」として「著作権法改正要
望書」提出研究会の成果を
「デジタル対応ワーキング
チーム」へ報告
2007.10
著作権に係る取り組み
・「中間まとめ」を踏まえた実証事
業の対応方針整備
・改正を見据えた課題検討
実証事業等の
パブリックコメント
平成19年度中間まとめ
・検索エンジンが著作権侵害にな
るおそれがあることを指摘
・著作者の権利との調和と安定的
な制度運用に配慮しながら権利
制限を講ずることが適当
検索サービス事業
が可能に
2009.6.12
▲
文化審議会著作権分科会 法制問題小委員会 デジタル
対応ワーキングチーム
知的財産推進計画2008
▲
知財戦略本部
図3-12
改正法成立
(2010年1月
施行)
2008.6
著作権法改正までの流れ
さらに、改正著作権法を踏まえた先進的なサービスの可能性を調査し、事業者が新し
いサービスを安心して提供できるようにするための事業者向け解説書「平成21年著作権
法改正のポイント」を作成するとともに、新たな制度的課題について「産業活性化」「文
化保護」「権利保護」の観点から改善の方向性を検討した。なお、改善の検討に携わっ
た有識者を中心に提言がまとめられ、平成22年7月に文化庁へ提言が行われている。
③
国際標準化の推進
国際競争力強化のための取組みとして、パーソナル情報関連の取組み・成果について、
技術・制度の両面から国際展開活動を実施した。具体的には、ISOやOECDなどにおいて、
情報大航海プロジェクトにおけるパーソナル情報関連への取組みを紹介し、意見交換等
を実施した。パーソナル情報を匿名化して安全に二次利用スキームについてOECDの
WPISPで発表するとともに、参加各国へのサウンディングを行った。その結果、制定30
周年を迎えたOECDプライバシーガイドラインの見直しの中でも匿名化というキーワー
ドが出てきており、国際機関におけるパーソナル情報活用の議論の起点をつくった。ま
た、ISO/TC211においても匿名化技術に関する紹介を行い、技術的な標準化の足掛かり
を構築した(図3-13)。
なお、技術面での標準化に関しては、後述するPI基盤において重点的に推進している。
43
OECD WPISP
ISO/TC211
図3-13 OECD WPISP、ISO/TC211での発表
(3)技術開発
技術開発では、先進的なサービスの創出に汎用的に活用可能な59の「共通技術」を開
発した。アーキテクチャーに基づき整理した共通技術を以下に示す(図3-14)。
凡例
実証事業システム
:2007・2008年度に開発・改良され、他共通技術と
統合・連携した技術
:2009年度に新規開発を行う共通技術(候補)
:その他技術
:重点化サービス共通技術
:サービス共通技術
:基盤共通技術
個人情報管理層
知的財産管理
サ
ー
ビ
ス
連
携
層
ユーザー
インタフェース
200706-08
アニメやゲーム感覚を取り入れた
インターフェース生成支援
200704-03
画像の発見のためのナビゲーション基盤
200703-04
200704-05
画像データの空間配置エンジン
200704-08
3次元表現による画像間の関連性発見
のための可視化ツール
200704-09
200703-06
FLASHインターフェースのコアクラス
収集・配信
2007オープンオーバーレイネットワーク基盤
05-02
(※2008年度にプロファイル情報解析基盤に連携・統合)
情報統合
200706-01
CG
音声インタフェース
携帯電話のRFID/QRコードを用いた
商品データ取得
200808-01
コンテンツ不正利用防止
(ネットポリス、電子透かし等)
画像・映像解析
個人情報匿名化
2009-01-01
プライバシ情報セキュア流通基盤
(2007-01-04
プライバシー情報保護基盤)
2009-Infra-A
パーソナル情報保護・解析基盤
(2008-Infra-A
プロファイル情報解析基盤)
(2008-Infra-C
個人情報匿名化基盤)
(2007-Infra-C1
個人情報匿名化技術
・統計的匿名化
・非統計的匿名化
(仮名化・切り落とし))
リ
ッ
チ
コ
ン
テ
ン
ツ
解
析
層
複数サイトにまたがるWebサービス連携のための基盤技術
・サービス連携プログラム自動生成技術
・複数サイトシステム稼動状況一括把握技術 等
異業種連携サービス基盤
200809-A
画像類似性判定エンジン
200809-C
映像のシーンカット・エンジン
200704-07
対象物の関係性把握のための
インタラクティブ・ツール
映像からのオブジェクト抽出・追跡
200908-A
画像特徴量の抽出エンジン
200703-10
動画のweb上での評判情報の取得
動画コンテンツの同一性検知技術
200706-06
2007-Infra-C2
決定木による「高品質」なFLASHの判別
映像の意味理解のための基盤技術
CGM理解のための日本語解析基盤
200810-A
200812-A
動画へのメタ情報の付加
200909-A
200706-03
200703-14
コンテンツ・サービス
信頼性評価
個人情報のアクセスコントロール
プライバシ情報の開示先制限
プ
ロ
フ
ァ
イ
ル
情
報
解
析
層
レコメンデーション
200907-A
2007Infra-B2
200701-08
200703-15
表記ゆれの解析と正規化
入力キーワードに対する関連キーワードの提示
200902-03
PI(Place Identifier)基盤
複数の推奨エンジンの選択・組合せが
可能なマルチモード推奨
行動履歴と「コンテンツの文脈」に
基づくレコメンデーション
行動履歴に基づくレコメンデーション
時間軸に沿った流行語の抽出
情報要約
形態素解析/構文解析
意味解析
200806-01
センサ情報に基づく行動解析基盤
200812-C
サービスの性質に応じて推薦のしかたを
選べるレコメンデーション
200806-02
200708-01
レポート文書のレポート文のカテゴリー分類
200703-12
ベイジアンフィルタを用いた文書判別
類似テキストコンテンツの検索
機械翻訳
200703-03
実世界の行動とネット上の行動を
統合したユーザ特性推定
ヘルスケアのための
クリティカルパスエンジン
2007- 加速度センサーから収集されたデータに基づく
05-01
日常身体活動性類型化モデル
200910-A
データマイニング基盤技術
頻出パターンマイニング
クラス分類
辞書生成
情報抽出
情報フィルタリング
200806-03
e空間レポジトリ
無線LAN端末による位置測定
コンテンツ評判解析
2007- TPOに応じた推薦ができるコンシェルジュ型
06-05
レコメンデーション
プロファイルデータ表現の策定及びプロファイルデータを
用いたユーザー特性推定技術)
2007Infra-A1
200807-04
200807-03
ラダリング対話エンジン
200702-04
200703-08
Webからの特定アイテムに関するデータ抽出
フォークソノミーの利用
200804-01
リッチコンテンツ
・画像、映像
・音声
・センターデータ
・3D/GIS
・テキスト
200903-01
データ信憑性認証
200701-09
映像監視
映像との相関関係まで
着目した音響解析
グループ属性・エリア情報抽出技術
「流行」を反映したクエリの提示
200902-01
治療計画立案エンジン
200902-02
情報薬調合エンジン
200906-A
健康管理自己情報コントロール技術
200904-01
その他統合型の
レコメンデーション
リスクモデリング&シミュレーション
プロファイルデータ
各種クラスタリング技法
200703-02
文書群の内容を可視化する
「テキスト・エクスプローラ」
ストリームマイニング
200905-A
行動情報マイニングエンジン
・行動履歴
・購買履歴
・嗜好情報 等
(2007-Infra-A2
データマイニング
類似画像検索
【画像・映像ハンドリング基盤技術】
(圧縮、符号化、変換)
面白い順に検索結果が現れる「オモロ検索」
検索エンジンの多次元評価と
ロングテール部分からの情報抽出
2008-Infra-A
プロファイル情報解析基盤
(※2009年度にパーソナル情報保護・解析基盤に統合)
大規模リソース
管理
図3-14
CGMからの記事情報の抽出
200703-01
オントロジ構築
【画像処理基盤技術】
(特徴抽出、オブジェクト抽出、人物認識 等 )
意味の似ている言葉の抽出
200703-05
セマンティックウェブ
動画視聴履歴を用いたソーシャルタギング
映像ジャンル分類
ジェスチャ認識
複数話者、雑音下、
口語体の音声認識
200811-A
200901-02
セキュリティ基盤
シーン分類
e空間映像解析技術
200706-07
写メールでアップロードされたCGMの写真認識
シーン理解
【映像処理基盤技術】
(カメラワーク抽出、セグメンテーション
テロップ認識 動き特徴抽出 動き予測
追跡 ショット分割 代表フレーム抽出
ハイライトシーン検出 等)
音声認識基盤技術
音響特徴抽出 音声認識 音声識別 等
音声・音響解析
時空間情報解析
プライバシ・プリザービング
データマイニング
・統計的開示制御法
・ルール秘匿法
・再構築法
・セキュア計算法
200703-13
2008Infra-B
200807-01
自然言語解析
3Dインタフェース
カメラ・センサ搭載のワイヤレス端末
200709-03
200802-01
(
サ
ー
ビ
ス
固
有
部
分
)
マッピングサーチ(視覚化検索)
スケッチクエリ
200709-01
コンテンツの
知的財産権保護
API
画像検索におけるユーザビリティ
ジェスチャ入力
ユーザをインタラクティブに支援する
「携帯アシスタント」
200701-02
Web-API
確率モデル
多変量解析
2007Infra-A3
e空間フォーマット
自然言語インタビューを用いた
Webアンケート管理
グリッドコンピューティング
クラウドコンピューティング
マイニング技術の
検証用プロファイル
データ収集
超高速データアクセス
情報大航海プロジェクト「共通技術」アーキテクチャー図
①
個人情報管理
プライバシーや個人情報を十分に保護しつつ、個人に関する情報を有効に活用するた
めの個人情報匿名化技術等を開発した。
ここでは、その個人情報匿名化機能の中でも主要な位置付けである「パーソナル情報
保護・解析基盤(個人情報匿名化基盤)」の成果について記述する。
44
(a)パーソナル情報保護・解析基盤(個人情報匿名化基盤)
実用規模の大規模実データに対応可能な処理性能を持つ、世界で初めての汎用的な匿
名化技術である。個人を識別できる要素を外した上で、情報を解析できるようにする基
盤で、本人を特定できる可能性を排除することで、本人の不安感や不快感を無くすこと
が可能である。
必要な匿名化手法を選択でき、柔軟に追加拡張できる汎用的なデータ匿名化技術であ
る点、データ属性に対して匿名化処理の優先度設定やマルチスレッド対応の匿名化処理
により実用規模のデータ匿名化処理が可能である点で、新規性、独創性がある(表3-
1)。
表3-1
個人情報匿名化基盤と類似技術との比較
名称
概要
匿名化手法
匿名化指標
その他機能
実用性
「個人情報匿名化
基盤」 [2010]
経済産業省(日)
指定したkの値と匿名化手法
に基づいて、k 匿名化を実行
し、匿名化データとともに、匿
名化指標などの処理結果を出
力する基盤プラットフォーム
単純匿名化
階層探索型
クラスタリング
型
対話型
k 匿名性
PARAT [2009]
Privacy Analystics
Inc./オタワ大学
(カナダ)
再識別リスクの評価を行い、
尐ない情報損失とレコード削
除数で指定したリスク値を満
たす匿名化を実行するツール
階層探索型
CAT [2009]
コーネル大学(米)
指定されたℓ 多様性に基づい
て、一般化による匿名化を行
うツール
階層探索型
TIAMAT [2009]
パーデュ大学(米)
ヒストグラムや情報損失の結 クラスタリング 情報損失
果を参照しながら、対話的に
型
匿名化手法を適用するツール トップダウン型
一般化階層エディ ベンチマークデータでの
タ
実施報告
ヒストグラム表示 処理速度の言及なし
μ -ARGUS
Ver.4.2[2008]
オランダ統計局
(オランダ)
母集団一意性の評価を行い、 単純匿名化
閾値に基づいてミクロデータに 対話型
対する統計的開示制御を対話
的に行うソフトウェア
世帯リスク評価
データ統合
バージョン管理
レコード削除
汎用的なプラットフォー
ム
実用規模のデータ対応
(245万レコードを約100
分)
再識別リスク
削除レコード数
情報損失
レコード削除
商用化開始(主に医療
分野)
12万5千~4千レコード
での実施報告
ℓ 多様性
頻度表の密度分
布図
レコード削除
デモとオープンソース公
開
処理速度の言及なし
情報損失
母集団一意性
削除レコード数
レコード開示リ
スク
母集団一意性
情報損失
EU諸国における政府統
計を中心に広く利用
また、制度面における検討と連携した開発を行った点も大きな成果であり、「パーソ
ナル情報の利用ガイドライン(案)」と整合を図った技術となっている。これにより技
術、制度が一体となり、パーソナル情報を活用した先進的なサービスへパーソナル情報
保護・解析基盤(個人情報匿名化基盤)の実装を効果的に推進することが期待できる。
なお、同技術に関してはオープンソースとして広く公開しており、様々な分野への適
用が期待される。現在、次世代パーソナルサービス推進コンソーシアムにおいて、コン
ソーシアム参加各社が試行評価を実施中である。
②
サービス連携
イメージ的・感覚的に必要な情報を検索できる次世代ユーザーインターフェース技術、
効率的・効果的な情報の収集・配信技術、様々な情報の統合技術を開発した。
ここでは主な成果として、ユーザーインターフェース機能である「画像の発見のため
のナビゲーション基盤」の成果について記述する。
(a)画像の発見のためのナビゲーション基盤
検索対象となる画像の全てを、特徴量に基づいて3次元および2次元の空間に配置する。
空間中をあたかも散歩しているように、3次元および2次元上で望みの画像を感覚的に発
見できる点が先進的で従来の技術と比較して優れている。大量の画像情報の一覧性に優
45
れており、誰でも感覚的に利用することが可能であるため、デジタルデバイド解消等の
面でも非常に有効であることが確認されている(図3-15)。
画像を用いた様々なサービスに使えることから適用範囲が非常に広く、現代美術を販
売するタグボートで正式採用されているほか、楽天やセシール、エムシープラスで試験
的に採用された。また、多様なサービスに活用できるよう、SaaSとしても事業化されて
いる。
<2D表示>
<詳細画像表示>
<3D表示>
<関連情報表示>
マウスでズーム
クルージング・モデル
マウスでパン
図3-15
ズーム = 絞込み
パン = 次候補
画像の発見のためのナビゲーション基盤画面イメージ
③
リッチコンテンツ解析
画像・動画などを効果的に解析する次世代画像・映像解析技術、ブログ・対話・口語
文章などを解析する自然言語解析技術、空間・位置・時間を解析する時空間情報解析技
術、検索エンジンなどの信頼性を評価するコンテンツ・サービス信頼性評価技術を開発
した。
ここでは主な成果として、次世代画像・映像解析機能である「映像の意味理解のため
の基盤技術」、「動画コンテンツの同一性検知技術」、自然言語解析機能である「面白
い順に検索結果が現れる「オモロ検索」」、時空間情報解析機能である「PI(Place
Identifier)基盤」の成果について記述する。
(a)映像の意味理解のための基盤技術
本技術は、画像・映像の中身を解析し、概念カテゴリ(種類)毎に画像・映像を自動
で分類する技術であり、以下に示す複数の技術で構成されている。
・静止画像の解析基盤技術
・ホームビデオ映像解析基盤技術
・映像意味理解プラットフォーム
・映像の種類を特定せずに適用可能な構成ショットの分類技術
・限定された種類の映像の意味理解を実現する技術
46
これらの技術は、人物、顔、植物、動物、スポーツなどの種類で画像を自動で分類で
きる点、利用者が自由に定義した種類でも、学習用画像を用意すればシステムにより学
習可能な点が従来の技術と比較して優れている(図3-16)。
一部の技術に関しては、オープンソースとして公開も行い、TRECVID(映像技術の発
展のためNISTが主催する国際的競争型ワークショップ)、MPEG7等の国際標準を考慮し
て行っている点からも、映像技術開発の基盤としての活用が期待される。
 「映像の意味理解のための基盤技術(静止画像部分)」は、画像の特徴を認識し、その特徴から当該画像の内容
 「映像の意味理解のための基盤技術(画像)」とは、画像の特徴を認識し、その特徴から当該画像の内容を理解する技
を理解する技術である。
術である。
概念カテゴリ
へ分類
対象が
対象が
LMでない
LMでない
場合
場合
拡張概念カテゴリ
へ分類
?
屋外/植物/山
景色
?
屋外
LM
LM
へ分類
「景色」で
画像検索
「東京タワー」
で画像検索
東京タワー
対象が
対象が
LMである
LMである
景色
場合
場合
東京タワー
注)「LM」はランドマークの略
36種類の概念カテゴリ
9種類の拡張概念カテゴ
の中から割り当て
リの中から割り当て
図3-16
36種類のLMの中から割り当て
映像の意味理解のための基盤技術(静止画像部分)イメージ
また、自分の子供の映像だけが含まれるホームビデオや、ニュース、ドキュメンタリ
ー映像の作成など、様々な用途で、効率よく映像を作成・編集することができ、エンド
ユーザーを想定した技術となっていることが従来の技術と大きく異なる(図3-17)。
技術の比較軸
使用用途
(編集対象動画の種類)
ショット/シーン
構成の精度
×
 時 間情報の みを用
富士通
富士通
映像の意味理解のた
ホームビデオ
い るため、 画像の
(映像の意味理解のた
(映像の意味理解のた
めの基盤技術
(アマチュアによる撮影)
内 容に応じ た構成
めの基盤技術)
めの基盤技術)
ができない
×
富士通
富士通
(映像のシーンカッ
(映像のシーンカッ
ト・エンジン技術)
ト・エンジン技術)
未編集映像
(プロによる撮影)
 時間情報のみを用
いるため、画像の
内容に応じた構成
ができない
電気通信大学
電気通信大学
柳井研究室
柳井研究室
未編集映像
(プロによる撮影)
 1種の画像特徴量を
用いるため、精度
は比較的高い
旭化成
旭化成
未編集映像
(プロによる撮影)
 2種の画像特徴量を
用いるため、精度
は高い
NTTサイバーソリュー
NTTサイバーソリュー
ション研究所
ション研究所
NTTエレクトロニクス
NTTエレクトロニクス
未編集映像
(プロによる撮影)
 2種の画像特徴量を
用 いるため 、精度
は高い
△
△
○
図3-17
抽出可能な
イベントの種類
△
 4種類:ズーム、静
止 、高速な 動き、
不安定なブレ
 2種類
 3種類
 5種類
 8種類
×
△
○
○
生成される
メタデータの多様性
生成される
メタデータの正確性
△
N/A
 現状では4~5種類
 メ タデータ の種類
を想定しているが、
は未決定
追加・修正・削除で
きるIFを開発中
×
 画 像の意味 理解ま
では行わない
○
 20種類以上に対応
可能
 TRECVID2008*
における実績
○
 20種類以上に対応
可能
 TRECVID2008*
における実績
×
 画 像の意味 理解ま
では行わない
開発 / 実用化状況
実験段階
N/A
 画 像の意味 理解を
行っていない
実験段階
△
 適合率は5%未満と
低 めではあ るが、
TRECVID2008* 参
加者の平均程度
実験段階
△
 適合率は5%未満と
低 めではあ るが、
TRECVID2008* 参
加者の平均程度
実験段階
N/A
 画 像の意味 理解を
行っていない
実験段階
映像の意味理解のための基盤技術のベンチマーク調査結果
「映像のシーンカット・エンジン技術」での評価と同様
*映像に関するワークショップ
 「ホームビデオ」に関する競合は見当たらない。
(b)動画コンテンツの同一性検知技術
動画コンテンツから音の波形値や映像の画素値を基にした特徴データを抽出し、当該
特徴データを高速に照合することによって、動画コンテンツの同一性を判断する技術で
47
ある。
本技術は、音声と映像の両方から検知を行なうことにより、競合技術と比較してノイ
ズや务化およびコンテンツの加工に対して高い確率で検出が可能という点で優位性を
持っている。また、商用サービスの一例においては、特徴データベースに約2,000時間
相当のコンテンツが登録されている状態で、1日に約100万分相当(例:平均4分の映像
ファイルの場合、25万件に相当)の処理を行う等、効率性の高い処理能力も大きな特徴
である(図3-18)。
本技術は、第三者が著作権を有するメディアコンテンツ(音楽や映像など)の無許可
利用の問題対策や、特定のコンテンツを直接検索したいといった要望に対応でき、動画
コンテンツの適性かつ円滑な流通に大きく貢献する。
技術の比較軸
検知結果のロバスト性*
動画コンテンツの同
一性検知技術
角川マーケティング
角川マーケティング
Google
Google Inc.
Inc.
「Video
「Video ID」
ID」
Vobile
Vobile Inc.
Inc.
「Video
「Video DNA」
DNA」
解析処理の負荷
開発 / 実用化状況
○
○
2009年1月から実証
 オリジナル動画に加工を施した動画に対し
て、人の目と同程度の判断が可能
 音声データを用いずに、映像データのみで
ロバスト性を有する。
 特徴量の抽出が困難なアニメにおいても、
90%の検知率を目標として実証実験中
 特徴データが圧縮されており、処理の負荷
は低い。
 数千時間の動画コンテンツの特徴を
DVD1枚以下に圧縮可能
サービスを開始
(アニメに特化しない
動画全般については、
2008年12月より
Bay TSP(米)にサー
ビスの提供開始)
○
△
 著作権侵害コンテンツの検知率は75~80%
 大規模サーバでの処理を前提としているた
め、特徴データの圧縮レベルは低い。
△~○
○
 解像度、アスペクト比、フレームレート、
ファイルフォーマット等に関わらず特定可
能
 アニメに関しては他の動画と比べて検知率
が低くなる。
 対象技術と同様の分割技術を採用しており
同等レベル
 数千時間の動画コンテンツの特徴を
DVD1枚程度に圧縮可能
2007年10月より、
YouTubeにおいて
ベータテストを開始
実用化済
*ロバスト性とは、ノイズや务化、加工が加わった動画に対して、どこまで検知できるかを意味する。
図3-18
動画コンテンツの同一性検知技術のベンチマーク調査結果
 開発事業者は、解析処理の負担を増加させずに検知結果のロバスト性を高めているという点で優位性がある。
(c)面白い順に検索結果が現れる「オモロ検索」
ユーザーの興味/関心の度合を定量的に評価し、検索クエリに対して、評価に基づい
た最適な検索結果を抽出する技術である。
競合技術と比較して、対象コンテンツ数や重み付けに使用する情報量で優位である。
また、従来の技術と異なり、検索履歴による評価だけでなく、Webクロールによって収
集したテキスト情報等からコンテンツへの興味/関心を算出する点において新規性が
高い(図3-19)。
本技術を適用することで、大量のコンテンツを保持しながら利用者に対し効果的にコ
ンテンツを提供できないテレビ局・映画会社・出版社などでは、効果的にインターネッ
ト上でコンテンツを提供するビジネスが展開できる。
また、本技術は既に実用化されており、平成19年度から平成21年度の3年間で、日本
テレビ、フジテレビ、角川マーケティング、サントリー、キューピー等の企業で44件の
商用化実績が存在する。
48
技術の比較軸
重み付けのできる
コンテンツ数
面白い順に検索結果
チームラボ
チームラボ
が現れる「オモロ検索」
重み付けに使用する
情報量
○
○
×
 数千万件
 1日30万件増加、
2009 年 2 月 に は
5,000万-6,000万
件に達する見込み
 Webクロールを用い
ているため、ブログ
だけでなく掲示板や
Webページにも対応
している。
 統計的に割り出した
動画との位置関係を
もとに抽出箇所を特
定している。
 72%の精度
×
×
 800件程度*
 ブログのみ
 公開中/1週間内
 当初はgooブログ
NTT・NTTレゾナント
NTT・NTTレゾナント
に公開予定の映画
にのみ対応すると
「オピニオンReader
「オピニオンReader for
for 映画」
映画」
に限定しているが、
考えられる
汎用性は高いと考
えられる
東芝
東芝
「ユビdeコミミハサンダー」
「ユビdeコミミハサンダー」
重み付けに使用する
情報の抽出箇所の適切さ
ユーザの興味・関心の
反映度合い
開発 / 実用化状況
N/A(○?)
 付加されている「単
語のオモロ度」と、
ページランクに近い
「ページのオモロ
度」を使用している。
○
×
 言語解析により抽出
箇所を特定、更に意
見抽出技術で、ブロ
グ筆者の意見文のみ
を抽出している。
 情報を詳細に意味理
解している。
 4項目に分けて評
判を度数化
 主観表現を20種類
に分類
×
△
○
○
 150商品
 但し、汎用性は高
いと考えられる
 ブログのみ
 大手30社のブログ
サービスに対応
 言語解析により抽出
箇所を特定、更に販
売業者のブログや評
価意見を含まないブ
ログは排除/重要度
下げている。
 情報を詳細に意味理
解している。
 オントロジー導入
 4項目に分けて評
判を度数化
 リンク間関係の分析
し、ブログの重要度
を把握している。
 オピニオンリー
ダー、特徴的意見
者の特定など
実現済み
実験済み
現在改良中
実験済み
現在改良中
*年間の公開映画数は800本程度で推移しており、当サービスは1年間実用化されていたことから800件程度と予測
図3-19 面白い順に検索結果が現れる「オモロ検索」のベンチマーク調査結果
 重み付けに使用する情報の抽出箇所の適切さでは競合に务るものの、対象コンテンツ数や重み付けに使用する情
報量では優位である。
(d)PI(Place
Identifier)基盤
 ユーザの興味・関心の反映度合いの優务は、判定し難い
時空間情報を活用したサービスの提供が進んでいるが、場所に関する情報はコンテン
ツによって表現方法も様々であるため検索の障害となっている。また、カーナビゲーシ
ョンやインターネットの地図サービスが普及しているが、地図に記載されている道路や
建物の形状は地図システムごとに異なることが多いため、ある地図上で登録されたコン
テンツを別の地図上で表示させようとすると、位置がずれてしまう問題が生じていた。
本基盤は、様々な“同じ場所”に関する情報を統合する仕組み(PI機能)と、異なる地
図システム間で発生する位置のズレを補正する仕組み(DLR機能)によって、場所に紐
付くコンテンツをユーザーにより「簡単に」「正確に」提供することを可能とする(図
3-20)。異なる地図システム間で表示させることができる点で、独自の優位性があ
る(図3-21)。
PI基盤はISO(国際標準化機構)と併行した開発を行っており、DLR機能に関しては、
既にISO17572として標準化が完了している。また、PI機能に関しては、ISO19155として
委員会原案(CD)の標準化検討が進められている。
49
(注3)PI機能 :ISO/TC211へ新規国際規格
提案し、ISO19155として承認
DLR機能:ISO17572としてIS発行
ユーザ
サービス事業者
場所に紐づく
コンテンツの検索
検索・抽出されたコンテンツの提示
(任意の地図システム上で表示することが可能)
PI基盤
DLR機能②
異なる地図間の位置のズレを補正する仕組み
空間参照系の
登録・更新・削除
・・
・
PI機能①
同じ場所を指す様々なPI同士を紐付けWeb上で相互利用できる仕組み
同一の場所を指すPIの
登録・更新・削除
【空間参照系B】
【空間参照系A】
種類:エリアコード 【空間参照系C】
種類:同級生が使う言葉
種類:建物名
範囲:△△
範囲:東京都千代田区
範囲:△△
【同級生が使う言葉】
PI:太郎の家
【エリアコード】
PI:62-26
【建物名】
PI:国際太郎本舗
地図システムD
地図システムA
【空間参照系D】
種類:住所
範囲:△△
地図システムC
【空間参照系E】
種類:URL
範囲:△△
【住所】
PI:東京都千代田区
六番町2番地
地図システムB
地図システムA上で登録
地図システムA上で登録
されたコンテンツ
されたコンテンツ
【URL】
PI:www.xxxxx.com
地図システムAで付与された緯度経度の値を
地図システムAで付与された緯度経度の値を
用いてコンテンツを地図システムBに表示す
用いてコンテンツを地図システムBに表示す
ると、本来あるべき場所からズレて表示され
ると、本来あるべき場所からズレて表示され
るる
Web上で
Web上で
相互利用
相互利用
図3-20
DLR機能を用いることで、本
DLR機能を用いることで、本
来あるべき正しい位置を特定
来あるべき正しい位置を特定
し、コンテンツを表示させるこ
し、コンテンツを表示させるこ
とができる
とができる
PI基盤の概要
技術の比較軸
異なる地図システムでの表示
異なる地図システムでの表示
PI基盤
国際航業
国際航業
統合する情報量・
情報更新の速度
開発状況
 「情報大航海プ
ロジェクト」で
開発中
○
○
×
△
 情報提供者の直接登録・
情報提供者の直接登録・
既存サービスからのデー
既存サービスからのデー
タアップが可能であるた
タアップが可能であるた
め、情報量・更新速度共
め、情報量・更新速度共
に優れている。
 識別子が芋づる式に紐付
識別子が芋づる式に紐付
けられるため、検索に時
けられるため、検索に時
間がかかる。
 当面情報の登録は、管理
当面情報の登録は、管理
者の確認・情報提供者を
者の確認・情報提供者を
限定(許可制)すること
限定(許可制)すること
で対応することを想定し
で対応することを想定し
ている。
×
×
×
○
○
 全識別子が座標を中心に
紐付けられているため、
検索が容易である。
 情報の登録は、管理者が
行なうため、不適切な情
報は排除される。
○
N.A.
 情報提供者の直接登録・
 異なる地図システムでの
既存サービスからのデー
表示には対応していない。
タアップが可能であるた
め、情報量・更新速度共
に優れている。
×
ゼンリン
ゼンリン
「いつもガイド地図」
「いつもガイド地図」
不適切情報の排除
 DLR機能が実装されてい
るため、異なる地図シス
るため、異なる地図シス
テム間での表示が可能で
テム間での表示が可能で
ある。
 異なる地図システムでの
 直接登録・既存サービス
OGC
OGC
表示には対応していない。
からのデータアップ機能
「Gazetteer
「Gazetteer Service」
Service」
はない。
Google
Google
「Google
「Google Map」
Map」
検索の処理速度
△
 OGCの仕様に
則った製品が既
に存在(イン
フォマティクス
によるGeogno
SIS.NETなど)
 実用化済み
 一部の情報の登録は、管
理者の確認・チェックを
経て行なう。
×
N.A.
 異なる地図システムでの
 直接登録・既存サービス
表示には対応していない。
からのデータアップ機能
はない。
○
 実用化済み
 情報の登録は、管理者が
行なうため、不適切な情
報は排除される。
図3-21 PI基盤のベンチマーク調査結果
④
 評価対象技術は、検索の処理速度・不適切情報の排除については不利であるものの、異なる地図システム上に表
評価対象技術は、検索の処理速度・不適切情報の排除については不利であるものの、異なる地図システム上に表
示させることができる点で独自の優位性がある。
示させることができる点で独自の優位性がある。
プロファイル情報解析
行動情報等を活用し有益な情報を提供するレコメンデーション技術、プロファイル情
報・テキスト情報等を解析するデータマイニング技術を開発した。
ここでは主な成果として、データマイニング機能である「パーソナル情報保護・解析
基盤(プロファイル情報解析基盤)」、「グループ属性・エリア情報抽出技術」の成果
について記述する。
(a)パーソナル情報保護・解析基盤(プロファイル情報解析基盤)
世界最高速レベルの頻出パタンマイニングアルゴリズムが実装された、先進的なデー
タマイニング基盤技術である。例えば、1000万件を超える大量の行動履歴データや時系
列的データから、一定の比率以上で出現する頻出パターンや相関ルールを、秒速1万個
を超える世界最高水準のスピードで発見することができる。また、データに重みをつけ
ることで、特定のユーザーや状況にのみ頻出するパターンを優先的に検出することがで
50
きる他、時系列を含んだデータからイベントの順序関係も考慮した頻出パターンの検出
が可能である(図3-22)。
本技術は、商品アクセス履歴、コンテンツ閲覧履歴からのレコメンデーションサービ
ス、異常検知、各種予測などでの利用が見込まれるほか、前述した個人情報匿名化基盤
と直結することで匿名化したデータの効率的な解析も実現している。
【プロファイル情報解析技術のフロー】
process
Input
Output
変数の選択
頻出する組み合わせの検出
頻出する組み合わせの検出
目的
変数
説明変数
Aさん
1月5日
1月10日
1月15日
1月20日
1月25日
1月30日
血圧(上)
低
高
低
低
高
高
閲覧履歴
活動履歴1 活動履歴2
野球情報サイト スポーツ
飲酒
映画情報サイト 映画鑑賞 カラオケ
野球情報サイト
読書
買い物
アニメサイト
睡眠
入浴
ニュースサイト スポーツ
飲酒
野球情報サイト スポーツ
飲酒
…
行動パターンモデルの作成
行動パターンモデルの作成
Yes
…
…
曇
血圧高
組み合わせでない
説明変数
 作成する行動パターンモ
デルにおいて利用する変
数と結論の項目をユーザ
が選択して抽出
 出現頻度の高い組み合わせ(閾
値はユーザが設定)を高速に
計算するLCM*1を採用
*1:LCM (Linear time Closed itemset Miner)は、宇野准教授(NII)および有村教授
(北海道大学)によって開発されたアルゴリズムである。
*2:VSOP (Valued-Sum-of-Products Caluculator)は、湊教授(北海道大学)に
 大量の組み合せを効率
的に表現する機能
(VSOP*2)を実装
よって開発されたデータ管理機能である。
注)分岐点を発見するたびに、頻出の閾値を再設定して頻出する組み合わせの検
出を行うことも可能
図3-22
○
Yes
No
野球
サイト
No
説明変数と目的変数の
関係性を分岐構造で記述
頻出する説明変数
の組み合わせ
頻出する組み合わせを
検出する
抽出された
プロファイル
データ
プロファイル
DB
目的変数
(飲酒)
説明変数
血圧(上) 閲覧サイト
行動履歴
天気 飲酒
高
野球以外
スポーツ
曇
○
低
野球以外
スポーツ
晴
○
高
野球
スポーツ以外 曇
○
低
野球
スポーツ
曇
×
高
野球以外
スポーツ
晴
○
高
野球
スポーツ以外 雤
×
×
○
行動パターン
モデル
 一定頻度以上の説明変数(あるいはその組み合
わせ)の内、目的変数に対する「影響力の大き
い*」順に決定木を組み立てる。
*ある特定の説明変数(あるいはその組み合わせ)
に対して、目的変数の値が一定であること。
• 例)『血圧「高」かつ「スポーツ」』の
場合、目的変数の値は常に「飲酒○」
プロファイル情報解析基盤の処理フロー
本技術の要素技術「頻出する組み合わせの検出」は、 飽和集合の検出速度、重み付
けへの対応、検出結果の効率的な格納において優位性があるとの評価を得られている
(図3-23)。
技術の比較軸
頻出する組み合わせの
検出速度
三菱総合研究所
プロファイル情報解析基盤
三菱総合研究所
イリノイ大学
イリノイ大学
「FP-growth」
「FP-growth」
レインセラー工科大学
レインセラー工科大学
「CHARM」
「CHARM」
飽和集合*2の
検出速度
検出結果の
効率的な格納
重み付けへの対応
○
○
○
○
 DB圧縮によってメモリ
消費の抑制、不要な計算
の回避を実現している
 組み合わせる値の最適化
によって不要な計算の回
避している
 頻出する組み合わせを
検出することなく、飽
和集合を直接検出する
ことができる
 特定の行に重み付けを
行うことによって、特
定の行の値を重視した
頻出組み合わせを検出
することができる
 検出結果を、簡素化さ
れた木構造によって格
納する
 同一の値は、1つの
木の要素として統合
する
○
×
 元データを木構造で保持
するため、DB圧縮およ
び、出現頻度の効率的な
計算が可能である*1
 一旦頻出集合を検出し
た後に、飽和集合を検
出する
△
△
 最初に不要な値を削除し
てDBを圧縮することが
できる
 一旦頻出集合を検出し
た後に、飽和集合を検
出する
 一部の明らかに飽和
集合ではない集合は
作成しない
×
 対応していない
△
 検出結果を、木構造に
よって格納する
 同一の値が1つの要
素として統合される
わけではない
×
 対応していない
*1:「高速化の手法は異なるものの、頻出集合の検出速度で言えば、LCMとFP-growthとは同等のレベルである。」
×
 検出された頻出パター
ンを全て列挙して格納
する
-国立情報学研究所宇野准教授
*2:飽和集合とは、出現頻度が同じで、かつ包含関係にある組み合わせ((1,3)と(1,3,5)など)の中で、値の数が最も多い組み合わせを意味する。
行動履歴データ等、データ提供者の属性ごとにデータに偏りがある場合において、有益な分析結果となりやすい。
図3-23 プロファイル情報解析基盤(頻出する組み合わせの検出)のベンチマ
ーク調査結果
 評価対象技術は、頻出集合の検出速度においては同レベルの競合技術があるものの、飽和集合の検出速度、重み
付けへの対応、検出結果の効率的な格納において優位性がある。
51
また、本技術の要素技術「行動パターンモデル作成」は、計算量の増加を抑えつつ、
変数の組み合わせに対応した行動パターンモデルを作成できる点で優位性があるとの
評価を得られている(図3-24)。
技術の比較軸
作成できる行動パターンモデルの
多様性
行動パターンモデル作成に
必要な処理量
不完全データへの対応
開発状況
×
 情報大航海プロジェ
クトで実証実験
○
△
三菱総合研究所
三菱総合研究所
プロファイル情報解析基盤
「プロファイル情報解析技術」
「プロファイル情報解析技術」
 変 数の 組み合わせを 1つの
「 変数」と して扱うことが
できる
 変数の組み合わせも扱うため
計算量が多くなるものの、頻
出パターンのみを計算するた
め処理量の増加は限定的
SPSS
SPSS
「Clementine」
「Clementine」
 変 数の 組み合わせを 1つの
「 変数」と して扱うことが
できる
×
○
△
数理システム
数理システム
「Visual
「Visual Minig
Minig Studio」
Studio」
 変 数の組み 合わせには対応
していない
 変数の組み合わせを扱わない
ため、計算量が尐ない
 値 の欠落し た変数を除いて
目的変数の値を推定
 ベイジアンネットワーク
の要素を取り込む
×
○
△
SAS
SAS
「Enterprise」
「Enterprise」
 変 数の組み 合わせには対応
していない
(但し、次期バージョンにて対
応を検討中)
 変数の組み合わせを扱わない
ため、計算量が尐ない
 値 の欠損し た変数について
は 、平均値 または中央値を
採 用するこ とで目的変数の
値を推定
×
○
IBM
IBM
「intelligent
「intelligent miner」
miner」
 変 数の組み 合わせには対応
していない
 変数の組み合わせを扱わない
ため、計算量が尐ない
○
×
 変数の組み合わせを扱うため、
計算量が多くなる
 対応できない
×
 対応できない
×
 対応できない
 パッケージソフトと
して販売中
 パッケージソフトと
して販売中
 パッケージソフトと
して販売中
 パッケージソフトと
して販売中
図3-24 プロファイル情報解析基盤(行動パターンモデル作成)のベンチマー
ク調査結果
 評価対象技術は、計算量の増加を抑えつつ、変数の組み合わせに対応した行動パターンモデルを作成できる点で
優位性がある。
(b)グループ属性・エリア情報抽出技術
複合商業施設などにおいて、センサによってグループの人数、それらがどのように動
いているか、店舗での滞留時間などを識別し、来店者およびグループがその場所をどの
ように利用しているかを解析する技術である。本技術を活用することで、個人や団体な
どのグループによって施設が実際どのように利用されているかが把握可能となり、来訪
者のプロファイルを事前に入手することなく、グループ属性に応じたレコメンデーショ
ンの提供が可能となる。
本技術は個人情報等の事前入手を必要とせずにグループの属性情報を抽出できる点
が従来の技術と比較して優れており、独自性が非常に高い。また、グループ属性に加え、
エリア情報まで分析できる技術は尐なく、分析可能なエリアの限定が無い点でも優れて
いる(図3-25)。
そのため、複合商業施設等におけるお勧め商品情報の配信や、店舗設計、商品配置へ
の利用が見込まれる。
52
技術の比較軸
個人情報の
遵守性
グループ属性・エリア情
グループ属性・エリア情
報抽出技術
報抽出技術
筑波大学
筑波大学
「グループに適応する
「グループに適応する
公共空間向け広告
公共空間向け広告
システムGAS」
システムGAS」
○
×
○
(レーザー認
証)
 時系列、人
数、位置情
報を使用
 1カテゴリ
 グループの構
成人数のみ
 各エリアに
お け る グ
ループの動
き方を4段階
で分析
△
△
×
○
(カメラ認証)
 時系列、人
数、位置、
顔情報を使
用
図3-25
* 祖父、祖母、孫等の関係も把握可能
分析可能
なエリア
グループ属性分析
の処理速度
○
○
×
 無制限
 取得可能
な人数に
応じて対
応可能
○
開発 / 実用化
状況
開発中
(2009年)
○
 広告の前等  瞬時に把握
人物が立ち
可能
 約5秒
止まる空間
のみ限定
N/A
 各人の年齢・性  エ リ ア の 分
別
析は行わな
 5カテゴリ(恋
い
人・夫婦、友人、
親子*、兄弟・姉
妹、個人)
同時把握可能な
グループ数
○
 店舗内外問  瞬時に把握
わずグルー
可能
 約5秒
プ属性を抽
出可能
×
 5カテゴリ(恋  エリアの分
(カメラ認証)
 人数、位置、
人・夫婦、友人、
析は行わな
身長情報を
家族、ビジネス、
い
使用
個人)
△
科学技術振興事業団、
科学技術振興事業団、
ソフトピアジャパン
ソフトピアジャパン
「グループ属性推定方法
「グループ属性推定方法
及びグループ属性推定装置」
及びグループ属性推定装置」
分析できる
エリア情報の
グループ属性区分の多さ 分析の有無
 無制限
 取得可能
な人数に
応じて対
応可能
N/A
2007年9月
実験済み
N/A
 分析可能な  処理速度な
エリアにつ
エリアにつ
いては言及
いては言及
されていな
されていな
い
い
 処理速度に
ついては言
及されてい
ない
2002年7月
特許出願
グループ属性・エリア情報抽出技術のベンチマーク調査結果
 グループ属性を分析する競合は尐なく、エリア情報分析まで出来る技術は独自性が高いことに加え、分析可能な
3-1-3-A
特許出願状況等
エリアの限定が無い点で優位である。

但し、個人情報の遵守性と引き換えに、分析できるグループ属性区分はグループの構成人数のみであるた
(1)特許件数(平成21年12月28日時点)
め、本技術の目的の一つであるレコメンデーションへの応用は限定的とならざるを得ない
特許件数:43件(出願予定4件、海外出願2件含む)
表3-2
No
1
開発実証企業/
共通技術開発団
体
(株)エヌ・テ
ィ・ティ・ドコ
モ
ステータス
特許一覧
発明の名称
特許番号
出願日
出願人
特許公開
コンテンツ情報配信装置、コンテンツ情報配
信システムおよびコンテンツ情報配信方法
2007-299291
2007年11月19日
日本電気(株)
2
特許公開
情報推薦システム、情報推薦方法および情報
推薦用プログラム
2007-301423
2007年11月21日
3
特許公開
2007-305307
2007年11月27日
4
特許公開
コンテクスト対応情報推薦装置、コンテクス
ト対応情報推薦方法およびコンテクスト対応
情報推薦プログラム
情報配信システム、情報配信方法および情報
配信用プログラム
2007-305308
2007年11月27日
5
特許公開
広告配信装置、携帯端末、広告配信システム
および広告配信方法
2007-307936
2007年11月28日
6
特許公開
コンテンツ選択支援装置、コンテンツ選択支
援方法及びそのプログラム
2007-309618
2007年11月30日
7
特許公開
2007-310698
2007年11月30日
8
特許公開
2007-310699
2007年11月30日
日本電気(株)
9
特許出願
2008-115261
2008年4月25日
日本電気(株)
10
特許出願
2008-294919
2008年11月18日
日本電気(株)
11
特許出願
情報配信・情報検索連携装置、情報配信・情報
検索方法及び情報配信・情報検索用プログラ
ム
物品推薦装置、物品推薦方法及び物品推薦プ
ログラム
データ利用状況追跡システム、マネージャ装
置、エージェント装置、データ利用状況追跡
方法及びプログラム
ハイブリッド検索システム、ハイブリッド検
索方法およびハイブリッド検索プログラム
プライバシ情報保護システムとその方法
日本電気(株)、
(株)エヌ・ティ・
ティ・ドコモ
日本電気(株)、
(株)エヌ・ティ・
ティ・ドコモ
日本電気(株)、
(株)エヌ・ティ・
ティ・ドコモ
日本電気(株)、
(株)エヌ・ティ・
ティ・ドコモ
日本電気(株)、
(株)エヌ・ティ・
ティ・ドコモ
日本電気(株)
2008-310500
2008年12月5日
日本電気(株)
12
特許出願
情報通知システム、情報通知方法およびプロ
グラム
2008-311212
2008年12月5日
日本電気(株)、
(株)エヌ・ティ・
ティ・ドコモ
13
特許出願
情報管理装置、情報管理方法、及び情報管理
2009-180041
2009年7月31日
日本電気(株)
53
プログラム
14
特許出願
2009-234897
2009年10月9日
日本電気(株)
2009-235057
2009年10月9日
日本電気(株)
2009-237423
2009年10月14日
日本電気(株)
2009-245549
2009年10月26日
日本電気(株)
特許出願
特許出願
情報管理装置、そのデータ処理方法、および
コンピュータプログラム
情報管理装置、そのデータ処理方法、および
コンピュータプログラム
行動類型抽出システム、装置、方法、プログ
ラムを記憶した記録媒体
コンテンツ推薦システム、推薦方法及び推薦
プログラム
ワード提示システム、方法及びプログラム、
並びに情報検索装置
対話システム、方法及びプログラム
情報検索装置、方法及びプログラム
15
特許出願
16
特許出願
17
特許出願
18
沖電気工業(株) 特許出願
19
20
21
特許出願
22
特願2008-050430
2008年2月29日
沖電気工業(株)
特願2008-034743
特願2008-034999
2008年2月15日
2008年2月15日
情報抽出装置、方法及びプログラム
特願2008-036356
2008年2月18日
沖電気工業(株)
沖電気工業(株)、
沖ソフトウェア
(株)
沖電気工業(株)
特許出願
対話管理装置、方法及びプログラム、並びに
意識抽出システム
特願2008-036342
2008年2月18日
沖電気工業(株)
23
特許出願
情報処理装置、関連度計算方法、データ検索
方法、及びプログラム
特願2009-078868
2009年3月27日
沖電気工業(株)
24
特許出願
文書生成装置及び文書生成方法
特願2009-105911
2009年4月24日
沖電気工業(株)
25
特許出願
検索システム及び検索プログラム
特願2009-110638
2009年4月30日
沖電気工業(株)、
(株)リクルート
26
特許出願
特願2009-110637
2009年4月30日
沖電気工業(株)、
(株)リクルート
27
特許出願
対話制御システム及びプログラム、並びに、
多次元オントロジー処理システム及びプログ
ラム
オントロジー作成支援装置及びプログラム
特願2009-110636
2009年4月30日
沖電気工業(株)、
(株)リクルート
28
特許出願
情報検索システム
2008年11月20日
沖電気工業(株)
29
特許出願
Information retrieving system
200810176359.9
(出願先:中国)
12/273556
(出願先:米国)
2008年11月19日
沖電気工業(株)
ヒト行動識別機能付き無線型センサ
個人の行動データを基に作成する行動識別用
アルゴリズムの自動生成方法
字幕作成システム及びプログラム
30
31
(株)キューデ
ンインフォコム
出願予定
出願予定
32
(株)角川メデ
ィアマネジメン
ト
(株)エス・ピ
ー・シー
特許出願
特許出願
関心度計測システム、関心度計測端末、関心
度計測方法、及び関心度計測プログラム
(株)ジー・サ
ーチ
出願予定
人のすれ違い行動を考慮した将来位置予測シ
ステム
グループ属性推定装置
人物検出装置及び人物検出方法並びにプログ
ラム
33
34
35
36
37
東京急行電鉄
(株)
2009年1月6日
(株)角川マーケテ
ィング
特願2009-044201
2009年2月26日
日本電気(株)
特願2008-133981
2008年5月22日
日本電気(株)
特許出願
デジタル地図の位置情報伝達方法
2008-47003
2008年2月28日
パナソニック(株)
38
特許出願
2009-86973
2009年3月31日
パナソニック(株)
39
特許出願
デジタル地図の事象情報受信装置および送信
装置並びに事象情報の活用方法
デジタル地図の位置参照情報受信装置および
位置特定方法
コンテンツ分類装置、コンテンツ検索装置、
コンテンツ検索システム及びコンピュータプ
ログラム
2009-86974
2009年3月31日
パナソニック(株)
特願2008-156830
2008年6月16日
KDDI株式会社
40
パナソニック
(株)
出願予定
特許出願
2009-151
(株)KDDI研究
所
特許出願
41
特許出願
コンテンツ検索システムおよびコンテンツ検
索プログラム
特願2008-275514
2008年10月27日
KDDI株式会社
42
特許出願
コンテンツ検索システムおよびコンテンツ検
索プログラム
特願2009-069701
2009年3月23日
KDDI株式会社
54
43
特許出願
画像検索システム、画像検索プログラムおよ
びサーバ装置
特願2009-153452
2009年6月29日
KDDI株式会社
(2)論文件数(平成21年12月28日時点)
論文件数:77件(投稿中5件、投稿予定4件含む)
表3-3
No
1
開発実証企業/ ステー
論文誌/学会誌/予稿集名など
共通技術開発 タス
団体
(株)エヌ・テ 掲載済 情報処理学会第70回全国大会、5B-6
ィ・ティ・ドコ
み
(2008)
モ
論文一覧
著者名
タイトル
河又 恒久(日本電気(株))、村上 千央(日本電気(株))、 行動情報を利用した携帯端末への
永井 洋一(日本電気(株))、今野 清孝(日本電気(株))、 情報配信システムアーキテクチャ
松川 淑子(日本電気会社)、木内 直人(日本電気(株))、
山田 洋志(日本電気(株))、亀井 真一郎(日本電気(株))、
山本 真人((株)NTTドコモ)、小林 功((株)NTTドコモ)
木内 直人(日本電気(株))、山田 洋志(日本電気(株))、 行動履歴を利用したコンテンツ推
亀井 真一郎(日本電気(株))、山本 真人((株)NTTドコ 薦方式の提案
モ)、小林 功((株)NTTドコモ)
永井洋一(日本電気(株))、木内直人(日本電気(株))、 携帯端末へのPush 配信サービスに
山田洋志(日本電気(株))、亀井真一郎(日本電気(株))、 おける配信スケジュール方式
山本 真人((株)NTTドコモ)、小林 功((株)NTTドコモ)
松川淑子(日本電気(株))、小林正博((株)日本システ 大規模テキストから位置情報およ
ムアプリケーション)、 永井洋一(日本電気(株))、木内 び特徴語を抽出するルールの検討
直人(日本電気(株))、今野清孝(日本電気(株))、山田
洋志(日本電気(株))、亀井真一郎(日本電気(株))
菅野亨太(日本電気(株))、村上千央(日本電気(株))、 利用者状況に適した方式で情報を
松川淑子(日本電気(株))、山田洋志(日本電気(株))、 推薦する「マルチモード推薦システ
西村健士(日本電気(株))、河又恒久(日本電気(株))、 ム」の実現
石塚清司((株)NTTドコモ)、小林功((株)NTTドコモ)
白木孝(日本電気(株))、菅野亨太(日本電気(株))、西 マルチモード推薦方式における 推
村健士(日本電気(株))、河又恒久(日本電気(株))、 論効果評価方式の提案
2
掲載済 情報処理学会第70回全国大会、5B-5
み
(2008)
3
掲載済 情報処理学会第70回全国大会、5B-7
み
(2008)
4
掲載済 情報処理学会第70回全国大会、5B-1
み
(2008)
5
掲載済 情報処理学会第71回全国大会、2C-3
み
(2009)
6
掲載済 情報処理学会第71回全国大会、2C-4
み
(2009)
7
掲載済 情報処理学会第71回全国大会、5E-2
み
(2009)
8
掲載済
み
9
掲載済
み
10
掲載済
み
11
掲載済
み
12
掲載済
み
13
掲載済 人工知能学会論文誌、Vol.23、No.6、 田中克明(東京大学)、堀浩一(東京大学)、山本真人((株) 個人行動履歴に基づく情報推薦シ
み
pp.412-423、2008
NTTドコモ)
ステムの開発
14
掲載済 Proc. of third International
み
Conference on Knowledge,
Information and Creativity Support
Systems、pp.148-155、2008
掲載済 第六回知識創造支援システムシンポジ
み
ウム報告書、pp.90-98、2008
15
16
17
宮川 伸也(日本電気(株))、西村 祥治(日本電気(株))、 利用者が主導となりプライバシ情
森 拓也(日本電気(株))、佐治 信之(日本電気(株)) 報の開示制御が行えるプライバシ
情報セキュア流通基盤の実現
情報処理学会第71回全国大会、5E-3
西村 祥治(日本電気(株))、宮川 伸也(日本電気(株))、 プライバシ情報セキュア流通基盤
(2009)
森 拓也(日本電気(株))、佐治 信之(日本電気(株)) におけるプライバシ情報開示制御
の実現
情報処理学会第71回全国大会、6E-2
森 拓也(日本電気(株))、大野 岳夫(日本電気(株))、 行動情報収集型サービスにおける
(2009)
宮川 伸也(日本電気(株))、西村 祥治(日本電気(株))、 行動情報抽象化手法とプライバシ
佐治 信之(日本電気(株))、石塚 清司((株)NTTドコ 性の変化についての報告
モ)、小林 功((株)NTTドコモ)
情報処理学会第71回全国大会、2C-2
大野 岳夫(日本電気(株))、小倉 章嗣(日本電気(株))、 ユーザの未来の行動の「検知」と、
(2009)
森 拓也(日本電気(株))、村上 隆浩(日本電気(株))、 それに対する「情報通知」の実現
佐治 信之(日本電気(株))、石塚 清司((株)NTTドコ
モ)、小林 功((株)NTTドコモ)
電子情報通信学会 人工知能と知識処 佐藤 一夫((株)NTTドコモ)、山本 真人((株)NTTドコモ)、 行動履歴に基づく情報推薦基盤と
理研究会 (AI)
小林 功((株)NTTドコモ)、佐治 信之(日本電気(株))、 推論エンジンの開発
田中 克明(東京大学)
第22回人工知能学会全国大会予稿集、 田中克明(東京大学)、堀浩一(東京大学)、山本真人((株) 表現の他者文脈への伸延による流
1A2-10、2008
NTTドコモ)
通促進の試み
Katsuaki Tanaka (The University of Tokyo)、Mina Akaishi Reorganizing Topic Transitions in
(The University of Tokyo)、Koichi Hori (The University Design Process Records
of Tokyo)
田中克明(東京大学)、堀浩一(東京大学)
蓄積情報からの変化の抽出と再構
成―小型衛星設計と個人行動履歴
を例に―
掲載済 Proc. of International Conference on Katsuaki Tanaka (The University of Tokyo)、Koichi Hori A Recommender System Based on
み
Information & Communication Systems (The University of Tokyo)、Masato Yamamoto (NTT DOCOMO Context Extending of Content
2009
Inc.)
andPersonal History
投稿予 情報処理学会 第72回全国大会 講演論 宮川 伸也(日本電気(株))、森 拓也(日本電気(株))、 位置情報における匿名性・多様性保
定
文集
佐治 信之(日本電気(株))、小林 功((株)NTTドコモ)、 証とその活用
栗山 桂一((株)NTTドコモ)
55
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
沖電気工業
(株)
投稿予 情報処理学会 第72回全国大会 講演論 村上 千央(日本電気(株))、白木 孝(日本電気(株))、 「マルチモードレコメンド基盤」に
定
文集
桐越 孝之(日本電気(株))、菅野 亨太(日本電気(株))、 おけるコンテキストアウェア推薦
河又 恒久(日本電気(株))、西村 健士(日本電気(株))、 方式の有効性評価
小林 功((株)NTTドコモ)、臼井 隆行((株)NTTドコ
モ)
投稿予 情報処理学会 第72回全国大会 講演論 桐越 孝之(日本電気(株))、村上 千央(日本電気(株))、 「マルチモードレコメンド基盤」の
定
文集
白木 孝(日本電気(株))、小倉 章嗣(日本電気(株))、 コンテキストアウェア拡張方式
菅野 亨太(日本電気(株))、西村 健士(日本電気(株))、
河又 恒久(日本電気(株))、小林 功((株)NTTドコ
モ)、石塚 清司((株)NTTドコモ)
掲載済 電子情報通信学会技術研究報告. NLC, 北村 美穂子, 下畑 さより, 介弘 達哉, 池野 篤司, 坂本 ラダリング型検索サービスのため
み
言語理解とコミュニケーション,
仁, 折原 幾夫, 村田 稔樹
の対話エンジンの設計・開発
108(141), pp.97-102
情報処理学会自然言語処理研究会研究
報告, 2008(67), pp.97-102, 2008
掲載済 電子情報通信学会技術研究報告. NLC, 下畑 さより, 北村 美穂子, 介弘 達哉, 池野 篤司, 坂本 ラダリング型検索サービスのため
み
言語理解とコミュニケーション,
仁, 折原 幾夫, 村田 稔樹
のドメイン知識構築、及び、実証実
108(141), pp.103-108情報処理学会
験
自然言語処理研究会研究報告,
2008(67), pp.103-108, 2008
掲載済 電子情報通信学会技術研究報告.
村田稔樹
対話でユーザの希望を引き出して
み
SWIM, ソフトウェアインタプライズモ
検索する「ラダリング型検索サービ
デリング ,108(185), pp.21-22, 2008
ス」
掲載済 Proc. of International Symposium of Mihoko Kitamura, Sayori Shimohata, Tatsuya Sukehiro, Laddering Search Service System:
み
Universal Communication,
Atsushi Ikeno, Masashi Sakamoto, Ikuo Orihara, and LadaSearch
pp.382-389, 2008
Toshiki Murata
掲載済 沖テクニカルレビュー, No.214,
下畑さより, 北村 美穂子, 介弘 達哉, 池野 篤司, 折原 幾 ラダリング型検索サービス「ラダサ
み
Vol.1, pp.56-59, 2009
夫, 村田 稔樹
ーチ(R)」
(株)キューデ 掲載済 医療情報学 28(別冊): 144-147, 2008 中島直樹、小林邦久、井口登與志、西田大介、鶴田紘子、 保健指導の実際- 実証実験結果およ
ンインフォコ
み
田中直美、高柳涼一、名和田新
び制度施行初年度の施行状況 –
ム
掲載済 医療情報学 28(別冊): 90-92, 2008 中島直樹、井上創造、須藤修、鶴田紘子、西田大介
センサーネットワークを用いた糖
み
尿病ディジーズマネジメント-運動
指導の効率性と安全性の確保へ-
掲載済 医療情報学 28(別冊): 105-108, 2008 中島直樹、小林邦久、井口登與志、西田大介、鶴田紘子、 糖尿病地域連携パス-ディジーズマ
み
田中直美、高柳涼一、名和田新
ネジメントによる展開掲載済 11th China-Japan-Korea Medical
Nakashima N, Misumi M, Kobayashi K, Inoguchi T, Tsuruta Disease Prevention/Management
み
Informatics Conference 25-28, 2008 H, Nishida D, Tanaka N, Takayanagi R, Nawata H
Model and Nationwide Standardized
Health Check-up Program in Japan
掲載済 NET. Health Asia 2008 119-122, 2008 Nakashima N
Nationwide Standardized Health
み
Check-up/Counseling Program in
Japan
掲載済 Towards Sustainable Society on
Sudoh O, Inoue S, Nakashima N
eService Innovation and Sensor
み
Ubiquitous Networks pp1-14, 2008
Based Healthcare
掲載済 治療 90: 3029-3034, 2008
中島直樹
ディジーズ・マネジメントによる糖
み
尿病地域連携
掲載済 新医療 2月号 44-47, 2009
中島直樹
ディジーズマネジメント視点での
み
糖尿病地域連携への可能性と具体
的効果
掲載済 治療 90: 1048-1055, 2008
小林邦久、中島直樹、井口登與志、高柳涼一、名和田新 日本型Disease Managementカルナプ
み
ロジェクトによる糖尿病地域医療
連携
掲載済 IT Medical 2:61-63, 2009
中島直樹
糖尿病1~3次予防システム「カル
み
ナ」について
掲載済 12nd China-Japan-Korea Medical
N Nakashima, S Inoue, H Tsuruta, O Sudo, K Kobayashi, “INFO-MEDICINE CONCEPT”,
み
Informatics Conference 22-25, 2009 T Inoguchi
INFORMATION CAN BE A MEDICINE IF
IT IS PROVIDED IN A TIMELY AND
APPROPRIATE MANNER
掲載済 マルチメディア,分散,協調とモバイ 井上 創造, 竹森 正起, 鶴田 紘子, 中島 直樹, 須藤 修
特定健診効率化のための加速度セ
み
ル(DICOMO2009)シンポジウム,
ンサによる行動判別
pp.1370 - 1379, Jul. 2009.
掲載済 マルチメディア,分散,協調とモバイ 末永 俊一郎, 根本 恒, 井上 創造, 千田 廉, 中島 直樹
ライフログ無線ネットワークにお
み
ル(DICOMO2009)シンポジウム,
けるデータ取得実験
pp.1362 - 1369, Jul. 2009.
掲載済 理学療法学 36(1):18-23, 2009
香川真二、千田廉、木村愛子、前田真依子、眞渕敏、道免 リサージュ図形を用いた歩行加速
み
和久
度データの可視化評価の開発と臨
床的有用性
56
39
投稿中 肥満と糖尿病 2009
40
投稿中 Medinfo2010
41
42
43
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45
46
47
48
49
50
51
52
53
54
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56
中島直樹
Q&Aディジーズマネジメントを
用いた糖尿病地域連携について教
えてください
N Nakashima, S Inoue, H Tsuruta, O Sudo, K Kobayashi, Information as Medicine, a
T Inoguchi
Service of Disease Management
with Wearing Sensor Network for
Lifestyle Related Diseases
Yuxin WANG, Nobuyuki SHIMIZU, Minoru YOSHIDA, and
Automatic Synonym Acquisition
Hiroshi NAKAGAWA (The University of Tokyo)
through Word Similarity Network
(株)日本航空 掲載済 IPSJ SIG Technical Reports
インターナシ
み
(2008-NL-185(2), 2008-SLP-71(2)),
ョナル
Vol.2008, No.46k ISSN 0919-6072, pp.
7-14, May 22-23, 2008, Yokohama,
Japan
掲載済 情報処理学会 研究報告, Vol.2008
王玉馨/清水伸幸/吉田稔/中川裕志 (東京大学 情報基 『単語類似度ネットワークを通じ
み
No.46, 2008年5月, 研究報告「自然言 盤センター)
た自動同義語獲得』
語処理(NL)」 No.2008-NL-185, 7-14
ページ
掲載済 The Fourteenth Annual Meeting of The Yuxin WANG, Nobuyuki SHIMIZU, Minoru YOSHIDA, and
Contextual Information Based
み
Association for Natural Language
Hiroshi NAKAGAWA (The University of Tokyo)
Technical Synonym Extraction
Processing, B4-4, Mar. 17-21, 2008,
Tokyo, Japan
(株)エス・ピ 掲載済 In Proc. of the Symposium on
Tomohiro ODA (SRA-KTL : SRA Key Technology Laboratory, Persuasive Navigation Mechanisms
ー・シー
み
Interactive Visual Information
Inc.)、 Kenro AIHARA (NII : National Insutitute of for Consumer Generated Media.
Collections and Activity
Informatics)、 Hitoshi KOSHIBA (NII : National
(IVICA2009)、 pp. 7-12、 2009.06. Insutitute of Informatics).
掲載済 第8回情報技術フォーラム(FIT2009)
相原健郎
(国立情報学研究所)
、中尾敏康
(日本電気
(株)
)
、 「地域活性化を支えるITサービス
み
講演論文集、第4分冊、pp. 267– 272、 小方 靖((株)東急エージェンシー)、宮本有紀彦((株) ぷらっとPlat@自由が丘」における
2009.09.
東急電鉄)、 小柴 等(国立情報学研究所)、 小西勇介 技術開発 - コンセプトと全体像
(日本電気(株))、 千葉雄樹(日本電気(株))、 武 -
田英明(国立情報学研究所)、 佐々木憲二((株)東急
エージェンシー)、 金山明煥((株)東急電鉄)
掲載済 第8回情報技術フォーラム(FIT2009)
小田朊宏((株)SRA先端技術研究所)、 松原伸人((株) 「ぷらっとPlat@自由が丘」におけ
み
講演論文集、第4分冊、pp. 285– 290、 SRA先端技術研究所)、 星孝哲((株)SRA)、相原健郎 るCGMサービス - 盛り上がりマッ
2009.09.
(国立情報学研究所)、小柴等(国立情報学研究所)、森 プとライフログ連携ブログの実装
純一郎(東京大学)、 武田英明(国立情報学研究所). -
掲載済 第8回情報技術フォーラム(FIT2009)
森純一郎(東京大学)、 相原健郎(国立情報学研究所)、 心的コンテキスト推定 - 「ぷらっ
み
講演論文集、第4分冊、pp. 291– 294、 小柴等(国立情報学研究所)、 武田英明(国立情報学研 とPlat@自由が丘」におけるユーザ
2009.09.
究所)、 小田朊宏((株)SRA先端技術研究所)、 松原伸 特性の推定 -
人((株)SRA先端技術研究所)、 星孝哲((株)SRA).
掲載済 第8回情報技術フォーラム(FIT2009)
小柴等(国立情報学研究所)、 相原健郎(国立情報学研 説得性に基づく情報推薦手法の提
み
講演論文集、 第4分冊、 pp. 31– 42、 究所)、 森純一郎(東京大学)、 武田英明(国立情報学 案 - 「ぷらっとPlat@自由が丘」
2009.09.
研究所)、 小田朊宏((株)SRA先端技術研究所)、 星孝 における統合された行動ログの活
哲((株)SRA)、 松原伸人((株)SRA先端技術研究所). 用 -
掲載済 第8回情報技術フォーラム(FIT2009)
中尾敏康(日本電気(株))、小西勇介(日本電気(株))、 ぷらっとPlat@自由が丘におけるタ
み
講演論文集、第4分冊、pp. 273– 276、 千葉雄樹(日本電気(株))
ウンログ収集(1) タウンログ収集の
2009.09.
全体像と盛り上がりマップへの活
用
掲載済 第8回情報技術フォーラム(FIT2009)
小西勇介(日本電気(株))、中尾敏康(日本電気(株)) ぷらっとPlat@自由が丘におけるタ
み
講演論文集、第4分冊、pp. 277– 280、
ウンログ収集(2) 携帯電話内蔵無線
2009.09.
LANを用いたエリア検知
掲載済 第8回情報技術フォーラム(FIT2009)
千葉雄樹(日本電気(株))、小西勇介(日本電気(株))、 ぷらっとPlat@自由が丘におけるタ
み
講演論文集、第4分冊、pp. 281– 284、 中尾敏康(日本電気(株))
ウンログ収集(3) 携帯電話内蔵加速
2009.09.
度センサを用いた関心推定
投稿中 情報処理学会論文誌 (FIT2009推薦論 小柴等(国立情報学研究所)、 相原健郎(国立情報学研 説得性に基づく情報推薦手法の提
文)
究所)、 小田朊宏((株)SRA先端技術研究所)、 星孝哲 案
((株)SRA)、 松原伸人((株)SRA先端技術研究所)、
森純一郎(東京大学)、 武田英明(国立情報学研究所).
投稿予 NEC技報、Vol.62 No.4、未定、2009.12 中尾敏康(日本電気(株))、小西勇介(日本電気(株))、 地域活性化を支えるITサービス「ぷ
定
千葉雄樹(日本電気(株))
らっとPlat@自由が丘」の開発と実
証実験
(株)ジー・サ 投稿中 2010 IEEE International Conference A. Castro-González (ATR), Masahiro Shiomi (ATR),
Position Prediction in Crossing
ーチ
on Robotics and Automation
Takayuki Kanda (ATR), M. A. Salichs (ATR), Hiroshi Behaviors
(ICRA2010)、2010
Ishiguro (ATR), Norihiro Hagita (ATR)
東京急行電鉄 掲載済 情報処理学会研究報告、Vol. 2009、No. 小西勇介(日本電気(株))、中尾敏康(日本電気(株)) 参照用無線機を用いたエリア検知
(株)
み
17(UBI-21)、pp.61-66、2009
方式
掲載済 In Proc. of the International
Junichiro Mori (NII : National Insutitute of
Predicting Customer Models Using
み
Conference on User Modeling,
Informatics)、 Yutaka Matsuo(The University of Tokyo)、 Behavior-based Features in Shops.
Adaptation, and Personalization
Hitoshi KOSHIBA (NII : National Insutitute of
(UMAP 2009)、 Vol.5535 of Lecture Informatics)、 Kenro Aihara (NII : National Insutitute
57
Notes in Computer Science、 pp.
126-137、 Springer、 2009.06.
57
58
59
60
掲載済 第8回情報技術フォーラム(FIT2009)
森純一郎(東京大学).
み
講演論文集、第2分冊、pp. 413– 420、
2009.09.
掲載済 情報処理学会論文誌、 Vol. 51 No. 01、 小柴等(国立情報学研究所)、 相原健郎(国立情報学研
み
pp 1-19、 2010.01.
究所)、 森純一郎(東京大学), 武田英明(国立情報学
研究所)、 小田朊宏((株)SRA先端技術研究所)、 星孝
哲((株)SRA)、 松原伸人((株)SRA先端技術研究所).
(財)国際医学 掲載済 あいみっく 28(3) 21-22, 2007
情報センター
み
掲載済 あいみっく 29(1) 21-24. 2008
み
61
(株)データク 掲載済 The 13th IEEE International
ラフト
み
Symposium on Consumer Electronics
(2009)
62
(株)ブログウ 掲載済 第70回情報処理学会全国大会論文
ォッチャー
み
集,pp.5-71~5-72,2008
63
掲載済 電子情報通信学会 第19回データ工学
み
ワークショップ(DEWS2008)論文
集,B7-6,2008
64
掲載済 The Second International Conference
み
on Ubiquitous Information
Management and Communication
(ICUIMC2008),pp.289-295,2008
65
掲載済 電子情報通信学会 ヒューマンコミュ
み
ニケーショングループ 第10回WI2研究
会(IEICE SIG-WI2)論文集
WI2-2007-39-65,pp.27-28,2007
(財)日本情報 掲載済 CSS2009予稿集,E7-3,2009
処理開発協会
み
66
67
68
69
70
71
72
73
74
75
of Informatics)、 and Hideaki Takeda (NII : National
Insutitute of Informatics).
大淵直子((財)国際医学情報センター)
Miki Haseyama, School of Information Science and
Technology Hokkaido University
Toshifumi Murata, Softfront
Hisashi Ukawa Datacraft Co., Ltd.
奥 健太(奈良先端科学技術大学院大学), 中島 伸介(奈良
先端科学技術大学院大学), 宮崎 純(奈良先端科学技術大
学院大学), 植村 俊亮(奈良産業大学), 加藤 博一(奈良
先端科学技術大学院大学)
奥 健太(奈良先端科学技術大学院大学), 中島 伸介(奈良
先端科学技術大学院大学), 宮崎 純(奈良先端科学技術大
学院大学), 植村 俊亮(奈良産業大学), 加藤 博一(奈良
先端科学技術大学院大学)
Kenta Oku(Nara Institute of Science and Technology),
Shinsuke Nakajima(Nara Institute of Science and
Technology), Jun Miyazaki(Nara Institute of Science
and Technology), Shunsuke Uemura(Nara Sangyo
University), Hirokazu Kato(Nara Institute of Science
and Technology)
太田将行(セントラル・コンピュータ・サービス(株)),松
澤徹(セントラル・コンピュータ・サービス(株)),中川聖
(セントラル・コンピュータ・サービス(株)),羽野仁彦
((株)ブログウォッチャー)
高橋克巳,廣田啓一,千田浩司,五十嵐大(日本電信電話
(株) NTT情報流通プラットフォーム研究所)
Predicting Customer Models Using
Behavior-based Features in Shops
記憶の想起と記録のためのライフ
ログ・ブログ連携型支援手法の提案
経済産業省情報大航海プロジェク
ト「すこやかライフサポートサービ
ス」モデルサービス実施計画
すこやかライフサポートサービス
についてー経済産業省情報大航海
プロジェクトとサービスの概要
A new image retrieval interface
and its practical use in “View
Search Hokkaido”
情報爆発時代に向けたコンテキス
トアウェア情報推薦方式のための
特徴パラメータ最適化手法
ユーザが重要視するパラメタの推
定によるコンテキスト依存型ラン
キング方式
A Ranking Method based on Users'
Contexts for Information
Recommendation
行動履歴を一元的に蓄積するプロ
ファイルパスポートプラットフォ
ームの構築
プライバシー保護データ活用技術
の現状と課題
掲載済 人工知能学会誌, vol. 24, No. 2, pp. 佐久間淳 (東京工業大学), 小林重信 (東京工業大学)
プライバシ保護データマイニング
み
283-294
掲載済 CSS2009予稿集,E7-2,2009
山口(繁富) 利恵, 副田俊介(独立行政法人産業技術総合研 移動履歴を保持する際のk-匿名性
み
究所)
の考え方
(株)三菱総合 掲載済 The 13th IEEE International
研究所
み
Symposium on Consumer Electronics
May 25-28, 2009, Mielparque-Kyoto,
Kyoto, Japan
掲載済 人工知能学会全国大会(2009年6月, 高
み
松)
Aya Koike, Yasuyuki Shirai, Yu Koseki, Yasuyuki
Constructing Web Sites Evaluation
Nanamori(以上、三菱総合研究所), Kiyoshi Nakagaway and Rules Based on Page-Staying Time
Yoshihiko Hano(以上、ブログウォッチャー)
小池亜弥, 白井康之, 小関悠(以上、三菱総合研究所), 羽 視聴滞在時間に基づくWeb ページ評
野仁彦, 中川聖(以上、ブログウォッチャー)
価手法の検討
掲載済 人工知能学会全国大会(2009年6月, 高 荒木次郎, 小池亜弥, 松崎和賢, 小関悠, 白井康之
み
松)
日常生活習慣パターン把握に基づ
くスポーツジムの新たな 指導サー
ビスの創出
Efficient Concept Detection By
Fusing Simple Visual Features
(株)富士通総 掲載済 Proc. Annual ACM Symposium on
Duy-Dinh Le, Shin'ichi Satoh
研
み
Applied Computing (ACM-SAC09), MMV
Track, pp 1839-1840, Mar 2009.
(株)KDDI研究 掲載済 Proc. of ICME 2009, pp. 606-609,
Keiichiro Hoashi (KDDI研究所)、Toshiaki Uemukai (KDDI Constructing a Landmark
所
み
2009.
研究所)、Kazunori Matsumoto (KDDI研究所)、Yasuhiro Identification System for
Takishima (KDDI研究所)
Geo-tagged Photographs based on
Web Data Analysis
掲載済 信学技報DE2008-52, p.3, 2008.
帄足啓一郎(KDDI研究所)、上向俊晃(KDDI研究所)、松 画像類似度を利用した位置情報付
み
本一則(KDDI研究所)、滝嶋康弘(KDDI研究所)
き写真データへのランドマーク情
報付与方法
掲載済 WebDB Forum 2008 予稿集,2008.
帄足啓一郎(KDDI研究所)、上向俊晃(KDDI研究所)、松 画像類似度を利用した位置情報付
み
本一則(KDDI研究所)、滝嶋康弘(KDDI研究所)
き写真データへのランドマーク情
報付与方法
58
76
77
掲載済 信学技報DE2008-12, pp.65-70, 2008. 帄足啓一郎(KDDI研究所)、Magnus Lundstedt(Uppsala 位置情報メタデータを利用した画
み
大学)、上向俊晃(KDDI研究所)、松本一則(KDDI研究所)、 像検索手法の実装と評価
滝嶋康弘(KDDI研究所)
掲載済 情報処理学会論文誌:データベース
帄足啓一郎(KDDI研究所)、上向俊晃(KDDI研究所)、松 画像類似度を利用した位置情報付
み
(TOD43), Vol.2, No.3, pp.41-52,
本一則(KDDI研究所)、滝嶋康弘(KDDI研究所)
き写真データへのランドマーク情
2009.
報付与手法
3-2-A 目標の達成度
3-2-1-A 全体の目標達成度
目標・指標
目標1:先端事業によ
る実証
次世代知的情報ア
クセス技術を用いた
先進的なサービスの
有効性・実現性の検証
と、制度的課題の抽
出、ならびに技術面の
検証。
目標2:制度・環境の
整備
事業者が次世代知
的情報アクセス技術
を活用した先進的な
サービスを展開する
上で必要となる制度
環境の整備。
目標3:技術開発
先進的なサービ
スを展開する上で必
要となる次世代知的
情報アクセス技術の
開発と、汎用化・共通
化。
表3-4 全体の目標達成度
成果
達成度
 プライバシーに十分配慮しながら、個人の行動情報、位置情報
達成
を活用し、個人が欲している情報を自動でレコメンデーション
する新たなサービスの有用性が確認できた。
 個人の行動情報、血糖値・血圧・体重などの医療情報を活用し
たサービスにより、適切なタイミングで適正な情報を提供する
と患者が適切な行動をとり、生活習慣を改善できることが確認
できた。
 大量のレポート・運航データからトラブル発生モデルを構築す
る技術と、トラブルを予兆管理する技術を利用により、新たな
安心・安全に資するサービスを実現できる見込みが高いことが
判った。
 映像、画像、ブログ検索等のリッチコンテンツ分野で、ユーザ
ーの満足度がより高い、新たなサービスを実現した。
 実証から生まれた、今後社会で広く利活用される見込みの共通
技術を検証した。
 著作権法等で、先進的なサービスの普及の妨げとなる制度的な
課題を抽出し、制度・環境の整備につなげることができた。
 個人情報を匿名化して利活用を促進するため、利活用の考え方
達成
を整理し、「パーソナル情報の利用ガイドライン(案)」とし (一部継
て取りまとめた。
続
 検索サービスのための複製等を著作権法上明記することを目 実施)
指した本事業の取組みがきっかけとなり、改正著作権法が成立
した。
 ISO や OECD などにおいて、本事業の取組みを紹介し、国際標
準化に向けた足掛かりを構築した。
 実用規模の大規模実データに対応可能な処理性能を持つ、世界
で初めての汎用的な匿名化技術を開発した。
 世界最高速レベルの頻出パタンマイニングアルゴリズムが実
装された、先進的なデータマイニング基盤技術を開発した。
 「PI(Place Identifier)基盤」の開発では、ISO の規格化
(ISO-17572)を実現した。
 オープンソース化等により技術の汎用化・共通化を実施した。
これらの技術については、
リッチコンテンツ分野を中心に既に
120 件以上の商用化事例が存在するほか、次世代パーソナルサ
59
達成
ービスコンソーシアム等を通じて普及が進められている。
3-2-2-A
個別要素技術の目標達成度
表3-5 個別要素技術の目標達成度
要素技術
目標・指標
成果
達成度
先端事業 1)パーソナル情報を活用  プライバシーに十分配慮しながら、
達成
による実
したサービス分野
個人の行動情報、位置情報を活用し、
証
プライバシーに配慮し
個人が欲している情報を自動でレコ
た上で、プロファイルや
メンデーションする新たなサービス
行動履歴等に基づき、各
の有用性が確認できた。個人の行動
自の生活に適した情報を
を理解した情報配信(広告)は、日
自動で提供するサービス
常的・一斉的な情報配信と比較して
を実証する。また、パー
来店率、購買率の反応が高まること
ソナル情報を利活用する
等が判った。
場合の制度的な課題を抽  制度的な課題への対応では、個人情
出し、対応する。
報を匿名化する機能により、個人情
報の二次利用の実現性を検証すると
ともに、利便性のために個人が積極
的に情報の開示・提供を行う点も検
証できた。
2)健康サービス分野
 センサ技術等を活用して収集した個 達成
健康・医療情報等を利
人の行動情報、血糖値・血圧・体重
用することで、医療の質
などの医療情報を活用したサービス
の向上に貢献する情報薬
により、適切なタイミングで適正な
サービス(情報により人
情報を提供すると患者が適切な行動
を健康にするサービス)
をとり、生活習慣を改善できること
を実証する。
が確認できた。その結果、医療の質
の向上や医療費を削減する見込みが
あることも判った。また、隠れた医
療リスクの検出においても有用性が
確認できた。
3)安全・安心な社会対応  大量のレポート・運航データからト 達成
サービス分野
ラブル発生モデルを構築する技術
これまで人手で分析し
と、センサ情報とテキスト情報をデ
ていたレポート、運用デ
ジタル融合してトラブルを予兆管理
ータ等の情報を解析して
する技術を開発した。また、それら
活用することで、業界を
の技術を利用することで、新たな安
越えて安心・安全という
心・安全に資するサービスを実現で
公共の利益に貢献するサ
きることが判った。加えて、そのサ
ービスを実証する。
ービスの利用により、従来より安全
運航管理の効率的、効果的な推進が
可能なことが判明した。
4)リッチコンテンツを活  映像、画像、ブログ検索等のリッチ 達成
用した次世代型サービス
コンテンツ分野で、ユーザーの満足
分野
度がより高い、新たなサービスを実
60
日本が強みとするコン
現した。
テンツ分野を生かすため  著作権に関しては、実証の過程で検
のリッチコンテンツ関連
索サービスにおける制度的な課題を
サービスを実証する。加
抽出し、プロジェクト内の制度課題
えて、Web時代の法的な課
の検討に連携することで、制度・環
題と問題点を明確化す
境の整備につなげることができた。
る。
制度・環 1)個人情報保護法等の制  パーソナル情報の分野に関しては、
境の整備
度のあり方検討と環境整
個人情報だけでなく個人に関連する
備
情報(パーソナル情報)をプライバ
消費生活分野において
シーに配慮しつつ匿名化して利活用
先進的なサービスを展開
する際の考え方を整理した「パーソ
する上での個人情報保護
ナル情報の利用ガイドライン(案)」
法等の制度のあり方を検
を次世代パーソナルサービス推進コ
討し、環境を整備する。
ンソーシアムが引き継ぎ、業界自主
基準の策定が進められている。
 今後も検討すべき課題としては、
「健康情報の利用に向けたルールの
最適化」、「パーソナル情報利用状
況の透明性の確保」、「(認証・第
3者機関などによる)実施担保の在
り方」、「事業者の配慮事項の定義」、
「匿名化手法の更なる検討」などが
挙げられる。
2)著作権法等の制度のあ  著作権の分野に関しては、検索サー
り方検討と環境整備
ビスのための複製等を著作権法上明
次世代知的情報アクセ
記することを目指した本事業の取組
ス技術を用いた先進的な
みがきっかけとなり、平成 21 年 6 月
サービスを展開する上で
に改正著作権法が成立した。
の著作権法等の制度のあ  また、この改正を受け、更なる課題
り方を検討し、環境を整
整理を行った。検討内容は、平成 22
備する。
年 7 月に情報大航海プロジェクト関
連の企業・有識者一同により「次世
代情報化社会の実現に向けた著作権
制度の在り方についての提言」とし
て文化庁へ提出された。
 今後の課題としては、「間接侵害責
任の明確化」、「権利制限規定の拡
充」の実現といった点が挙げられる。
3)国際標準化の推進
 国際標準化では、ISO やOECD などに
技術面、制度面、双方
おいて、本事業の取組みを紹介し、
において本事業の成果に
標準化に向けた足掛かりを構築し
関する国際標準化を推進
た。OECD では制定 30 周年を迎えた
する。
プライバシーガイドラインの見直し
の中でも「匿名化」について検討し
ており、ISO/TC211 においても匿名
61
一部
達成
一部
達成
達成
技術開発 1)個人情報管理
プライバシーや個人情
報を十分に保護しつつ、
個人に関する情報を有効
に活用するための個人情
報匿名化技術等を開発す
る。
化技術の標準化に向けた提案が予定
されている。
 実用規模の大規模実データに対応可
能な処理性能を持つ、世界で初めて
の汎用的な匿名化技術等を開発し
た。その匿名化技術は、制度面の検
討と連携しており、「パーソナル情
報の利用ガイドライン(案)」との
整合が図られている汎用性の高い技
術である。
 従来の技術と比較して、望みの画像
等を感覚的に発見できる点が先進的
で優れている技術等を開発した。例
えば、その技術は大量の画像情報の
一覧性に優れており、誰でも感覚的
に利用することが可能であるため、
デジタルデバイド解消等の面でも非
常に有効である。
 ユーザーの興味/関心の度合を定量
的に評価し最適な検索結果を抽出す
る技術や、GPS 等での異なる地図シ
ステム間で発生する位置のズレを補
正する技術等を開発した。
 また、本分野で開発した技術からは
数多くの商用化事例が作られ、複数
の特許の取得や、 ISO の規格化
(ISO-17572)を実現した技術も開発
された。
2)サービス連携
イメージ的・感覚的に
必要な情報を検索できる
次世代ユーザーインター
フェース技術、効率的・
効果的な情報の収集・配
信技術、様々な情報の統
合技術を開発する。
3)リッチコンテンツ解析
画像・動画などを効果
的に解析する次世代画像
・映像解析技術、ブログ
・対話・口語文章などを
解析する自然言語解析技
術、空間・位置・時間を
解析する時空間情報解析
技術、検索エンジンなど
の信頼性を評価するコン
テンツ・サービス信頼性
評価技術を開発する。
4)プロファイル情報解析  世界最高速レベルの頻出パタンマイ
行動情報等を活用し有
ニングアルゴリズムが実装された、
益な情報を提供するレコ
先進的なデータマイニング基盤技術
メンデーション技術、プ
等を開発した。その技術は、例えば
ロファイル情報・テキス
1000 万件を超える大量の行動履歴デ
ト情報等を解析するデー
ータや時系列的データから、一定の
タマイニング技術を開発
比率以上で出現する頻出パターンや
する。
相関ルールを、秒速 1 万個を超える
世界最高水準のスピードで発見する
ことができる。
62
達成
達成
達成
達成
4-A 事業化、波及効果について
4-1-A 事業化の見通し
(1)先端事業による実証の事業化
① パーソナル情報を活用したサービス分野
NTTドコモのマイ・ライフ・アシストサービスに関しては、同社が提供しているiコン
シェル(平成22年9月時点で540万契約)というサービスに実証で開発した技術、ノウハ
ウを適用することが予定されている(図4-1)。
出典:NTTドコモ資料
図4-1
マイ・ライフ・アシストサービスの事業化
②
健康サービス分野
キューデンインフォコムの次世代解析技術を活用した携帯情報端末などを用いた情
報循環方式による健康管理(e-carna)については、既に特定保健指導を実施している
合同会社カルナヘルスサポートで活用することが予定されており、更に必要な制度改正
が行われた場合には、実証事業の成果を踏まえた糖尿病等の疾病管理事業への展開も想
定している。
また、同事業の成果については国際展開も進んでいる。カナダ先住民(モンゴリアン)
のアルバータ州での糖尿病罹患率が55%を超える深刻な状態から、カナダ政府がその対
策システムの研究開発を推進している。アルバータ大学、レッドエンジンヘルス社を中
心とした糖尿病対策プロジェクトでは以下のシステムを開発構想に本事業の成果を投
入した共同研究を進めている(図4-2)。
63
レッドエンジンヘルス社の開発中のシステム概略
redengin Health Inc. system and application
無線型体重計
Wireless Scale
無線型転倒報知及び
行動識別センサ
Wireless Smart Sensor
センターサーバー
Center Server
無線型血圧計
Wireless Manometer
無線型血糖計
Wireless Glucose meter
図4-2
無線型脈拍計
Wireless pulsometer
医療従事者
Clinician
カナダ・アルバータ州のプロジェクト適用
③
安全・安心な社会対応サービス分野
日本航空インターナショナルで実施した新総合安全運航支援システムに関しては、平
成22年度から自社内で導入を行う予定となっている。また、同社が中心となって組織し
た「実用化コンソーシアム」においても鉄道会社、電力会社が実務適用に向けた調整を
行っており、今後、実導入が期待される。
④
リッチコンテンツを活用した次世代型サービス分野
データクラフトのViewサーチ北海道は、同社がSaaSサービス(次世代画像クルージン
グ技術「ImageCruiser」)として平成22年3月からサービス提供を開始しており、雑貨、
ファッション等のサイトでの利用が進んでいる(図4-3)。
チームラボのサグールテレビに関しては、同社のサービスとして継続的に提供されてい
るとともに、so-netの動画検索等に適用されるなど、商用展開が進んでいる。
64
出典:http://imagecruiser.jp/
図4-3
データクラフトSaaSサービスの提供事例
(2)制度・環境の整備の継続的実施
パーソナル情報の分野に関しては、個人情報だけでなく個人に関連する情報(パーソ
ナル情報)をプライバシーに配慮しつつ利活用する際の考え方を整理した「パーソナル
情報の利用ガイドライン(案)」を次世代パーソナルサービス推進コンソーシアムが引
き継ぎ、業界自主基準を策定することに取組みむ予定である(図4-4)。
出典:次世代パーソナルサービス推進コンソーシアム資料
図4-4 次世代パーソナルサービス推進コンソーシアムの平成22年度活動計画
著作権の分野に関しては、検索サービスのための複製等を著作権法上明記することを
目指し、平成19年2月に「著作権法改正要望書」を文化庁へ提出し、更に文化審議会著
作権分科会 法制問題小委員会が平成19年10月に発表した中間まとめに対するパブリ
ックコメントを実施したことがきっかけとなり、平成21年6月に「著作権の一部を改正
65
する法律」が成立した。この改正を受けて、平成22年7月に情報大航海プロジェクト関
連の企業・有識者一同で、次世代情報化社会の実現に向けた著作権制度の在り方につい
ての提言を文化庁に行った(図4-5)(表4-1)。
図4-5
著作権制度の在り方に関する提言の概要
表4-1 情報大航海プロジェクト関連の企業・有識者一同
喜連川 優
東京大学生産技術研究所 教授
小川 克彦
慶應義塾大学環境情報学部 教授
山名 早人
早稲田大学理工学術院 教授
長谷山 美紀
北海道大学大学院情報科学研究科 教授
牧野 二郎
牧野総合法律事務所弁護士法人 弁護士
荻野 明仁
東京海上キャピタル株式会社 パートナ
壇
俊光
北尻総合法律事務所 弁護士/株式会社ドリームボート 取締
役
岩倉 正和
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士
金
正勲
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 准教授
塩澤 一洋
成蹊大学法学部 教授
内山 幸樹
株式会社ホットリンク 代表取締役社長
杉本 誠司
株式会社ニワンゴ 代表取締役社長
林
信行
popIn株式会社 アドバイザー /ITジャーナリスト
小向 太郎
情報通信総合研究所 主席研究員
中川 裕志
東京大学情報基盤センター 教授
夏野 剛
慶應義塾大学大学院政策メディア研究科 特別招聘教授
宮田 加久子
明治学院大学 社会学部教授
角川 歴彦
株式会社角川グループホールディングス 代表取締役会長兼CEO
丸橋 透
ニフティ株式会社 法務部長
東出 正裕
NECビッグローブ株式会社 執行役員サービス開発本部長
66
高島 洋典
田中 良和
田中 実
熊谷 正寿
猪子 寿之
高橋 昭憲
村田 利文
阪口 克彦
羽野 仁彦
加藤 茂博
山崎 久義
伊藤 健吾
秋葉 重幸
狩野 昌央
今﨑 善秀
寺田 航平
平野敤士カール
一瀬 隆重
佐々木 俊尚
小川 浩
森 祐治
日本電気株式会社サービスプラットフォーム研究所 所長
グリー株式会社 代表取締役社長
株式会社カカクコム 代表取締役社長
GMOインターネット株式会社 代表取締役会長兼社長 グループ代表
チームラボ株式会社 代表取締役社長
株式会社 データクラフト 代表取締役
ムラタオフィス株式会社 代表取締役
株式会社ソフトフロント 代表取締役
株式会社ブログウォッチャー 代表取締役社長
株式会社リクルート HRカンパニー エグゼクティブプロデューサー
イートライジャパン株式会社 代表取締役社長
株式会社メタキャスト 代表取締役
株式会社KDDI研究所 代表取締役所長
ネットレイティングス株式会社 取締役副会長
ジャストオンライン株式会社 代表取締役
株式会社ビットアイル 代表取締役社長CEO
株式会社ネットストラテジー 代表取締役社長
株式会社オズ 代表取締役
ITジャーナリスト
株式会社モディファイ 代表取締役社長CEO兼クリエイティブディレクター
株式会社シンク 代表取締役社長
/慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 講師
/九州大学大学院芸術工学研究科 講師
原田 裕介
アーサー・D・リトル(ジャパン)株式会社 代表取締役社長
芦邉 洋司
株式会社日立コンサルティング 取締役
(順不同、敬称略、平成22年3月時点の所属・役職)
(3)開発技術の普及・展開
2009年12月までで、リッチコンテンツ分野を中心に延べ120件以上の商用化事例が存
在する(図4-6)。
【開発技術の主な活用先】
・画像検索サービス会社・IT企業・現代アート販売会社・携帯アプリ会社・カタログ通
販会社・コンサルティング会社・アニメ商品販売会社・アパレル通販会社・医薬・健康
食品販売会社・エステティックサロン・オンラインチケット販売会社・オンラインフラ
ワーショップ・オンライン書籍販売会社・建設会社・シニア向けサービス会社・テレビ
局・レンタルサーバー会社・飲料メーカー・学習塾・観光宿泊リゾート会社・求人サー
ビス会社・携帯電話事業会社・女性向け情報サイト会社・食品メーカー・新聞社・精密
機器メーカー・探偵会社・賃貸物件紹介サービス会社・鉄道会社、他
パーソナル情報保護・解析基盤に関しては、次世代パーソナルサービス推進コンソー
シアムが立ち上がっており、匿名化したパーソナル情報を活用すべく、同技術の活用を
視野にいれた事業検討が行われている。
67
【活用事例①】オンライン書店ビーケーワン
ユーザーの選んだ書籍に対して嗜好性の合う別の書籍を自動的に推
奨・表示するサービスを実現
【活用事例②】株式会社CLON Lab
携帯電話のアバターとさまざまな会話を交わすことで、ユーザー
の好みや嗜好性、行動特性を学習し、ユーザーにマッチした情報
を自律的に収集・提供するサービスを実現
『今度の休みに京都に旅行に行くよ』
書籍の
選択
・・・
・・・
・
『京都、いいね!』
おすすめ商品を表示
『京都で美味しいモノを
食べたいな』
共通技術
おすすめ商品の サービスの性質に応じて推薦の
メール配信
しかたを選べるレコメンデーショ
ン
アクセスデータ・
注文データ
『確か和食が好きだったね。京都なら、
○○屋の湯豆腐が美味しいよ。』
出典:オンライン書店ビーケーワン
図4-6 開発技術の商用化事例
68
対
話
内
容
を
学
習
ユーザの好み
や嗜好性
推薦エンジ
ン
共通技術
TPOに応じた推薦ができるコ
ンシェルジュ型レコメンデーシ
ョン
4-2-A 波及効果
(1)パーソナル情報を活用したサービス分野
パーソナル情報に関する情報爆発は進んでおり、匿名化技術の適用分野も多岐に渡る
と考えられる。
IT戦略本部「新たな情報通信技術戦略」において、行政機関等において保有するデー
タを匿名化して活用していくことが示されている。レセプト情報を匿名化し、広く医療
の標準化・効率化及びサービスの向上に活用可能とする仕組みを構築することとなって
いる。
匿名化に関しては、レセプト以外の医療情報や、購買情報、位置情報だけでなく、今
後、普及が進むと考えられる家庭でのエネルギー使用情報等への適用も想定される。
パーソナル情報活用市場は今後、急速に規模を拡大し、2019年には13兆円程度になる
と想定される。このうち11兆円は既存市場におけるパーソナル情報活用の浸透であり、
約2兆円が情報活用によって新たに創出される市場になる(図4-7)。
(十億円)
家電制御
14,000
ライトヘルスケア
医療アドバイス
12,000
省エネ
10,000
統計データ提供
接客支援
8,000
広告(社会端末)
広告(個人端末)
6,000
プロファイル流通型EC
4,000
地図案内
マッチング(車)
2,000
マッチング(人)
コンテンツ配信
0
2010
12
14
16
18
(年)
出典:平成21年度情報大航海プロジェクト(全体管理と共通化)事業「市場動向に関する調査研究」報告書
図4-7
パーソナル情報活用市場の推移
(2)健康サービス分野
我が国の医療費は増加傾向が続いており、2025年には56兆円まで膨らむという予想も
ある(図4-8)。政府では医療費拡大の大きな要因となっている生活習慣病対策を進
めることで医療費抑制を中長期的に推進することになっている。本事業で実証した特定
保健指導や糖尿病の疾病管理を行うサービスが普及することで、生活習慣病の予防が効
率的、効果的に進み医療費抑制に寄与すると考えられる。
また、実証事業の成果はカナダのアルバータ大学を中心としたアルバータ州の糖尿病
対策プロジェクトにも活用が進められており、本事業の成果が海外に展開される可能性
も広がっている。
69
(兆円)
36
35.3
35
34.1
34
33.4
33
32.4
32%
32
32.4
31.4
31
68%
30
生活習慣病
29
その他
平成16年度 平成17年度 平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度
出典:厚生労働省「医療費の動向」
図4-8 我が国の医療費の推移
(3)安全・安心な社会対応サービス分野
本事業で実証した航空だけでなく、鉄道、道路等を含む交通分野、あるいは発電等の
エネルギー分野を含めた社会インフラ全般に関しては、安定した稼働が最重要事項であ
り、本事業で実証した安全運航管理の仕組みはこのような社会インフラ全般に応用が可
能であり、安全性向上という面で幅広い展開が想定される(図4-9)。
適用先
導入シナリオ
高
(
導サ
入ー
のビ
技ス
術提
的供
容者
易視
さ点
)
通信
データセンタ
金融
*
C:命にまで
は関わら
ないが、
社会的な
リスクの
ある領域
• 実用化コンソーシアム
に参加しているため、早
期に導入
空運
鉄道 A:多数の命に関わる
• 先行事例の成果を見な
がら導入
• システムがこなれて導
入・運営コストが低減さ
れ導入が進む
• 安全投資意向の更なる
高まりも上記を後押し
命までは関わらないが
社会的リスクのある領
域
• 導入・運用コストの更な
る低下に伴い導入
リスクのある領域
実
現
性
I(
T本
シサ
ス ーユ
テ ビー
ム スザ
の 活視
導用
入 の点
意土
向壌
) 、
複数人の命に関わる
リスクのある領域
多数の命に関わる
リスクのある領域
海運、陸運
電力、自動車
ガス機器、食品
C:通信、データセンタ、金融
市
場
規
模
B:複数人の命に関わる
リスクのある領域
水道、ガス
警察、消防、
警備
B:海運、陸運、電力、自動車、ガス機器、食
品、バス、病院、水道、ガス、警察、警備、
消防
バス
病院
A:空運、鉄道
低
小
ニーズ
大
2010
2019
(年度)
(左記ニーズに対する)
安心・安全に対するニーズ
(社会的・法制度的な要請)
図4-9
本サービスの有効性
(ヒヤリハット分析の有効性、
分析の自動化ニーズ)
安全運航管理の仕組みの適用先と展開シナリオ
(4)リッチコンテンツを活用した次世代型サービス分野
著作権法の改正、リッチコンテンツ解析技術等により、マルチメディア検索等の市場
が今後、拡大し、その規模は2019年には190億円程度までに成長すると予想される(図
4-10)。
また、Googleテレビが発売される等、テレビとマルチメディア検索サービスの融合も
70
進んでおり、この部分でも市場拡大は更に進むと考えられる。
25,000
(億円)
18,605
20,000
19,367
16,648
15,000
12,240
10,000
5,225
5,000
495
0
2009
2011
2013
2015
2017
2019 (年)
出典:平成21年度情報大航海プロジェクト(全体管理と共通化)事業「市場動向に関する調査研究」報告書
図4-10
マルチメディア検索サービスの市場推移
71
5-A 研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等
5-1-A 研究開発計画
本事業は平成19年度から三カ年で事業を実施した。初年度の実証事業において制度的
な課題や基盤となる共通技術の抽出を行い、次年度以降、制度の具体的な検討、共通技
術の改良、汎用化を推進した(図5-1)。また、実証事業については、市場化の動向
等を考慮し、選択と集中を図りつつ、事業の推進を行った。
実証事業
技術開発
制度・課題対応
平成19年度
平成20年度
平成21年度
先端事業の実証
(10事業)
実証事業を戦略的
領域へ選択と集中
(8事業)
実証事業の更なる選
択と集中
(4事業)
共通技術領域の
選定・開発
共通技術アーキテクチャ
策定
共通技術の改良
実証事業の検証
共通技術アーキテクチャ
改訂
共通技術の改良
国際標準化、グローバル
展開
共通技術アーキテクチャ
改訂
制度課題の抽出(個人
情報、著作権、不正競
争等)
国際標準化の検討
制度改正に向けたアク
ションプラン作成
ガイドライン構成策定
国際標準化、国際協調
へ着手
パーソナル情報利用ガイド
ライン(案)の策定
事業者向け解説書の策定
国際標準化、国際協調の
推進
図5-1 研究開発計画
5-2-A 研究開発実施者の実施体制・運営
前述したように技術開発、実証事業、制度検討について三位一体で取組みを行い、相
乗効果を挙げたことが本事業の大きな特徴である。その効率的かつ的確な推進のため、
実証事業者とは別にプロジェクトマネージャーを置いた(図5-2)。
実証事業に関しては、実サービスに近い検討が行えるよう、技術開発担当事業者では
なくサービス実施担当事業者が主体となるスキームとした。また、実証事業を束ねるプ
ロジェクトマネージャーに関しても、民間ノウハウを十分に活用できるよう、民間のコ
ンサルティング会社がこれを担った。サービスや個々の技術検証、制度の検討は実証事
業において行ったが、共通性の高い技術開発、制度検討についてはプロジェクトマネー
ジャーにおいて実施した。
また、大規模なプロジェクトにおいて適切な運営が図れるよう、外部と内部に有識者
による検討組織をつくり、運営に有用な知見を得た。商務流通政策局長の私的研究会と
して『「情報大航海時代」における経済・社会・文化のあり方に関する研究会』を平成
21年度末までに7回開催している。また、プロジェクトの推進内容について専門的、客
観的な視点から具体的な示唆を行うべく、有識者で構成される戦略委員会(ステアリン
グコミッティ)を置き、平成21年度末までに30回開催している。
72
図5-2
情報大航海プロジェクトの推進体制
更に実証事業、制度検討、技術開発等の着実な推進を図るため、戦略委員会の下に必
要な会議体を設置し、運営を行った(図5-3)。特に制度検討に関しては、パーソナ
ル情報、著作権等について、堀部政男名誉教授、牧野二郎弁護士等、当該分野の有識者
で構成される委員会を開催し、制度の方向性等について検討を図った。
73
「情報大航海時代」における
経済・社会・文化のあり方に関する研究会
評価委員会
2010/2/23
プロジェクトマネージャー
プロジェクト全体のマネジメント
【戦略委員会】 東京大学 喜連川先生
小川先生(慶應義塾大学)、山名先生(早稲田大学)、長谷山先生(北海道大学)、牧野先生(牧野総合法律事務所)
荻野明仁氏海上キャピタル株式会社)、経済産業省(関係部局) 事務局;㈱日立コンサルティング
- 情報大航海プロジェクト全体の推進に関わる戦略的なテーマについて検討する。
【匿名化技術委員会】 東京大学 喜連川先生
長谷山先生(北海道大学)、繁富先生(産業技術総合研究所)、高橋(NTTプラットフォーム研究所)、三菱総合研究
所、(財)日本情報処理開発協会、開発実証企業等、経済産業省(関係部局) 事務局;㈱日立コンサルティング
-個人情報匿名化基盤についての達成目標や実施内容を具体化し、開発/展開の方向性を決定する。
牧野先生(牧野総合法律事務所)、佐々木俊尚氏等の有識者
経済産業省(関係部局) 事務局;(財)日本情報処理開発協会
【パーソナル情報検討ラウンドテーブル】 一橋大学 堀部先生
- パーソナル情報関連のガイドラインを策定するとともに、国際的な展開の推進を図る。
主要関連企業代表者、経済産業省(関係部
局)、事務局;(財)日本情報処理開発協会
【パーソナル情報の利用ガイドライン(案)公開ヒアリング】(財)日本情報処理開発協会 坂下
- パーソナル情報関連のガイドラインについて、主要関連企業により有効性を検証し、産業界での合意形成を図る。
【パーソナル情報検討ラウンドテーブル作業部会】 東京工科大学 村上先生
主要関連企業代表者、弁護士、経済産業省(関
係部局)、事務局;(財)日本情報処理開発協会
- パーソナル情報関連のガイドラインについて、法的根拠などの分析を行い、ガイドラインの内容を検討する。
戦略委員会委員、経済産業省(関係部局)、開発実証企業
経済産業省(関係部局)、事務局;(株)日立コンサルティング
【開発実証企業進捗会議】 株式会社日立コンサルティング 渡邉
- 実証事業の進捗状況を報告する。
開発実証企業、共通技術開発企業、戦略委員会委員、外部評価委員
経済産業省(関係部局)、事務局; (株)日立コンサルティング
【最終報告会】 株式会社日立コンサルティング 渡邉
- 年度の節目において実証事業及び共通技術の成果を報告し、評価する。
経済産業省(関係部局) 事務局;(株)日立コンサルティング
【全体成果連携会議】 株式会社日立コンサルティング 渡邉
- 共通技術、制度、プラットフォーム化など、プロジェクト内の各タスクにおいて創出される成果を共有し、必要な連携を図る。
開発実証企業、共通技術関係企業等、経済産業省(関係部局)
事務局; (株)日立コンサルティング
【共通技術開発会議】 北海道大学 長谷山先生
- 実証事業等の共通技術開発に係わる方針、方向性について討議、決定、調整を行う。
部会主査・副主査、経済産業省(関係部局)
事務局;(株)日立コンサルティング
【共通技術部会(主査会議)】 北海道大学 長谷山先生
- 共通技術の汎用化、統合化、標準化、制度検討、今後の展開検討等のロードマップを策定する。
開発実証企業、共通技術関係企業等、経済産業省(関係部局)
ビジネスマイニング研究センター
事務局; (株)日立コンサルティング
有限責任事業組合 森田先生
-プロファイル情報の分野における共通技術のロードマップ更新、普及・促進に向けた方策の検討を行う。
【プロファイル情報部会】
【個人情報保護部会】 産業技術総合研究所 繁富先生
開発実証企業、共通技術関係企業等、経済産業省(関係部局)
事務局; (株)日立コンサルティング
- パーソナル情報の分野における共通技術のロードマップ更新、普及・促進に向けた方策の検討を行う。
【リッチコンテンツ部会】 国立情報学研究所 佐藤先生
開発実証企業、共通技術関係企業等、経済産業省(関係部局)
事務局; (株)日立コンサルティング
- リッチコンテンツの分野における共通技術のロードマップ更新、普及・促進に向けた方策の検討を行う。
【プラットフォーム推進会議】 慶應義塾大学 小川先生
有識者、開発実証企業代表者、共通技術関係企業代表者、ガイドライン検討担
当者等 経済産業省(関係部局) 事務局;プロレクサス(株)
-企業間のパーソナル情報の交換・活用を推進するプラットフォームの実現に向けて、機能・ビジネス・技術の面からの検討を図る。
【CP活用推進会議】 早稲田大学 山名先生
開発実証企業代表者、共通技術関係企業代表者、共通技術開発企業、開発実証企業等の
CPユーザー、CP運営担当者、経済産業省(関係部局) 事務局;(株)日立コンサルティング
-CPのインフラ機能及びCP上のアセットの今後の活用方策について検討を図り、方向性をとりまとめる。
【著作権検討ワーキンググループ】 牧野総合法律事務所 牧野弁護士
有識者、関連企業代表者の数名で構成、
事務局;三菱UFJ R&C (株)
- 著作権法改正を受けて、新たに事業/サービス創出を加速するための指針のとりまとめの検討をする。
【改正著作権法ガイドライン検討タスクフォース】北尻総合法律事務所 壇弁護士
有識者、関連企業代表者の数名で構成
事務局;三菱UFJ R&C (株)
-事業者における著作権改正法の解釈を支援し、サービスを提供する際の検討の参考となるような「事業者向けガイドライン」を検討。
【著作権制度提言タスクフォース】北尻総合法律事務所 壇弁護士
有識者、関連企業代表者の数名で構成、
事務局;三菱UFJ R&C (株)
-産業活性化、文化発展を実現するために必要となる法制度面での「提言事項」の検討。
図5-3 平成21年度の会議体
さらに、本事業は、総合科学技術会議が、国家的・社会的に重要であって関係府省の
連携の下に「情報の巨大集積化と利活用基盤技術開発」連携施策群を構成しており、総
務省「電気通信サービスに関する情報信憑性・信頼性技術等に関する研究開発」、文部
科学省「革新的実行原理に基づく超高性能データベース基盤ソフトウェアの開発」、内
閣府「センサ情報の社会利用のためのコンテンツ化」と連携しつつ、プロジェクトの推
進を行った。具体的にはプロジェクト間の以下のような技術要素間連携図である技術連
携マップを作成し、プロジェクト成果の連携シナリオを想定しながら研究開発を進めた
74
(図5-4)。
出典:平成19-21年度「情報の巨大集積化と利活用基盤技術開発」成果報告書
図5-4 「情報の巨大集積化と利活用基盤技術開発」連携施策群の技術連携マップ
5-3-A 資金配分
本事業については、平成19年度から21年度の3か年で計113億円を投入して実
施した。その年度ごとの内訳は、平成19年度に46億円、平成20年度に41億円、
平成21年度に26億円であった。
情報大航海プロジェクトでは、市場動向や技術動向等を考慮し、実施内容の選択と集
中を行った。具体的には、初年度、大きな柱としていたリッチコンテンツ解析技術に関
しては、開発した共通技術を用いた商用化事例の創出が進み、かつ技術的な方向性も見
えてきたため、2年目以降については資金配分を見直し、新市場創出の期待が高く取組
みに時間と労力を要するパーソナル情報分野へ資源の傾斜配分を行った。(図5-5)
各年度の見直しを事業内容を含めて的確に実施することで、最終年度は前2年度に非し
て大きく圧縮した予算で実施することができた。
図5-5
各分野ごとの実証事業数(件)
5-4-A 費用対効果
75
本事業の市場創出効果の試算では、国内のパーソナル情報活用市場は2019年におよそ
13兆円の市場規模が想定されており、本事業の成果はその市場の形成に対して多大な貢
献をするものと考えられる。また、本事業で実証した特定保健指導や糖尿病の疾病管理
を行うサービスが普及することで、生活習慣病の予防が、2025年には56兆円まで膨らむ
と予想される医療費抑制に寄与すると考えられる。
このほか、本事業で実証した安全・安心な社会対応サービスは、社会インフラ分野に
幅広く適用できるものであり、社会全体の安全・安心の向上に大きな貢献が期待できる
ほか、リッチコンテンツに関しては、既に様々なサービスが立ち上がっており、市場の
形成が急速に進んでおり、今後、我が国の強みである家電等のデバイスとの次世代知的
情報アクセス技術の融合により新たな市場の創出が期待できる。
5-5-A 変化への対応
情報大航海プロジェクトは次世代知的情報アクセス技術によって大量情報を利活用
した新たなサービスの市場を創出するためのプロジェクトであり、プロジェクト開始当
初、知的情報アクセス技術を用いたサービスの代表例はインターネット検索であった。
しかしながら、インターネット・ビジネスは先行者利益が非常に大きいことから、情
報大航海プロジェクトでは「Googleの後追いはしない」ことを方針とし、当時あまり手
付かずではあったものの将来的な市場の広がりが期待できる分野であった、行動履歴な
ど現実世界の「パーソナル情報」の収集、分析を一つの柱とするなど、一般的な検索サ
ービスとは異なるサービス分野に取り組んだ。
また、情報大航海プロジェクトでは、前述のように、市場動向や技術動向等を考慮し
た実施内容の選択と集中により、新市場創出の期待が高く取組みに時間と労力を要する
パーソナル情報分野へ資源の傾斜配分を行った。パーソナル情報分野については、現時
点でも新たな技術やサービスの模索が行われており、制度面での検討も継続的に行われ
ている。
制度面では、パーソナル情報の分野に関して、本事業で先行して検討を行ってきたが、
その後、総務省や国土交通省においても、ライフログや地理空間情報の活用の観点から
パーソナル情報に関連した検討を行うようになってきた。、情報大航海プロジェクトで
は効率的に検討を進めるため、各省庁におけるパーソナル情報に関連した検討と協調し、
内容の整合を図った。
76
B.産学連携ソフトウェア工学実践事業(高信頼組込みソフトウェア開発)
の概要
1-B 事業の目的・政策的位置付け
1-1-B 事業目的
(1)背景
組込みソフトウェアは、自動車、情報家電、携帯電話等の製品機器に内蔵され、各
機器固有の機能を実現している。現在、ハイブリッド自動車のように、他社製品と差
別化を図る機能の多くは組込みシステムが寄与しており、また、組込みソフトウェア
搭載製品は我が国の輸出製品の半数を占めるまでになっている(図1-1)。組込み
システムは我が国競争力の源泉と言っても過言では無く、その重要性は益々高まって
いる。
その一方で、製品の多機能化に伴って、組込みソフトウェアの大規模化・複雑化は
顕著になり(図1-2)、また、上流からの発注納期の短縮化も進む中で、開発者側
の負担はますます強まり、それに伴う組込みシステム及び関連製品の信頼性・安全性
への影響が懸念されている。また、ネットワーク環境の普及により、組込みシステム
は、機器単体での機能の実行から、機器がつながった状態での機能の実行へと変化し
ていることから、その意味でも、更なる複雑化・高速化が進んでいると同時に、信頼
性・安全性が求められている。組込み製品の不具合のうちソフトウェア起因のものは
全体の約6割という調査結果もあり、国民の間でも組込みソフトウェアの信頼性、安
全性等の品質の確保に対するニーズは高まっている。
こうした状況は海外においても同様であったが、その解決に向け、欧州においては、
ボッシュ、BMW等のドイツの自動車関連企業を中心とするコンソーシアム、AUTOSARが
車載共通基盤ソフトウェアを開発している。AUTOSARの活動には日本企業も参加する
等、国際的な広がりを見せ(図1-3)、開発成果物である共通基盤ソフトウェアは
国際標準になろうとしている。もし、我が国の意向が全く考慮されていない共通基盤
ソフトウェアが国際標準となった場合、我が国自動車産業への悪影響が大いに懸念さ
れるところである。
2009年輸出製品比率(輸出総額:54.2兆円)
その他
12.8%
電気機器(電子部
品、電池) 6.9%
食料品 原料品
鉱物性燃料
0.7% 1.5%
1.8%
化学製品
10.7%
一般機械(ベアリン
グ及び同部分品)
0.5%
輸送用機器
21.9%
原料別製品
13.0%
組込みソフトウェア
関連製品
52.2%
一般機械(ベアリン
グ及び同部品を除
く) 17.4%
電気機器(電子部品、電
池を除く) 13.0%
出所:財務省貿易統計:世界年別(輸出)2009年確定値
図1-1
我が国の輸出製品に占める組込みソフトウェア関連製品の割合
77
プログラム行数
500万行
~1000万行
プログラム行数
自動車
500万行
5 倍以上
5~10倍
100万行
100万行
2000年
プログラム行数
現在
DVDレコーダ
2001年
プログラム行数
100万行
300万行
~500万行
5 倍以上
3 ~5 倍
20万行
100万行
2002年
図1-2
携帯電話
現在
現在
カーナビ
2000年
現在
増大する組込みソフトウェアの規模
欧州の自動車関連企業,ソフトウェア産業を中心に運営
Status: October 4 th , 2005
24 Associate
Members
10 Core Partners
46 Premium Members
General
OEM
図1-3
Generic
Tier 1
Standard
Software
Tools and
Services
Semiconductors
幅広い企業が参画するAUTOSAR
(2)目的
組込みソフトウェアの重要性が高まる一方で、組込みソフトウェアの大規模化・複
雑化に伴う信頼性・安全性への影響という社会的要因、AUTOSARの取組みと比較した
我が国の出遅れという国際的要因等によって、我が国組込みソフトウェア産業が逆風
にさらされる中、自動車の組込みソフトウェア開発を支援することにより、自動車産
業及び組込みソフトウェア産業等の国際競争力強化を図ることを本事業の目的とす
る。
特に自動車の組込みソフトウェアを対象とする理由は、主に2つある。第一に、自
動車産業は、出荷額(全製造業)の約2割を占め(図1-4)、関連産業を含めた就
業人口は、全体の約1割の雇用を生み出しており、まさしく我が国の基幹産業である
ため、本産業を支援することの意味は大きい。第二に、自動車は国民の安全・安心に
直結するため高い信頼性を要求される製品であるとともに、自動車の制御は特に技術
78
力を要する開発分野であるため(図1-5)、自動車の組込みソフトウェア開発の高
度化は産業全体の良いモデルケースとなり、他産業にも波及することが見込まれる。
そのため、車載組込みソフトウェアの開発支援は、産業政策上、大きな意義がある。
なお、以上のような諸々の傾向は、事業開始時と比較して顕著になってきており、
本事業の必要性はますます高まっている。
本事業の目的である自動車産業及び組込みソフトウェア産業等の国際競争力強化
の実現に向けて、高信頼・高効率な共通基盤ソフトウェアの構築、ソフトウェア工学
に基づく高効率な開発環境の整備、及び中小組込みソフトウェアメーカの育成という
3つについて取り組んだ。この3つと自動車産業及び組込みソフトウェア産業等の国
際競争力強化という事業目的の関係性については、2-1で後述するが、一つ目の高
信頼・高効率な共通基盤ソフトウェアの構築だけに着目しても、社会的・経済的意義
は大きい。具体的には、車載組込みソフトウェアの共通領域を拡大させることにより
開発コストを押し下げるだけでなく、我が国の企業が他社と差別化を図るべき競争領
域である高価値なアプリケーション部分の開発に集中することを可能にするという
産業構造の変革を促し、また、開発した共通基盤ソフトウェアを国際標準に反映させ
ることによって、海外においてもこれまで培ったノウハウを生かして開発に従事する
ことができるという標準化戦略にも大きな役割を果たすことができる。
うち、自動車は、
57兆円(16.9%)
(単位:億円)
その他
1015930
(30%)
非鉄金属
104805
(3%)
金属製品
151492
(5%)
図1-4
輸送用機器
637666
(19%)
輸送用機器
電気機器
一般機器
電気機器
518797
(15%)
化学
鉄鋼
金属製品
一般機器
鉄鋼
非鉄金属
243322 化学 402477
(12%)
その他
(7%) 281299
(8%)
(平成20年工業統計)
製造業に占める自動車分野の出荷額の割合
79
組込み
車載電子制御系
CPU
使
用
形
態
機
能
的
特
長
信
頼
性
視
点
モバイル系
エンタープライズ
Microcomputer
Microcomputer
ROM
◆ROM,RAMを内臓し,AD,DA,D-I/O
系などの機能を有する.
◆携帯電話や無線機など外部機器から
のノイズによる誤動作(EMS:電磁気妨
害感受)対策や,自身の動作によるノ
イズ発生(EMI:電磁気妨害)対策のた
め,極力パッケージ内で高周波動作を
閉じ込めている.
RAM
◆画像系やUSBなどの機能を内蔵し,ROM
やRAMは外付けするような構成である.
◆システム上必要機能でマイコンに統合
することがコスト低減上有利なものが優先
的にマイコン機能に組み込まれている.
◆また,ROMやRAMなどアプリケーションに
より大きさが左右されるものは外付けとな
り自由度が確保されている.
◆複雑な多重割込み処理を行うのが一般
的であり,複数発生する割込み処理を考
えると,マイコンの動作信頼性の観点
から処理負荷は処理能力の70%程度と
することが望ましい.
◆ROM,RAM量にも制限があるため,
基本ソフトウェアの使用率は極力
抑えたい.
図1-5
◆開発費や人材確保の観点から,基本は
パソコンとほぼ同構成である.
◆演算能力は車載用組込みマイコンに比
べて100倍程度高く,プログラム領域や
RAMは無尽蔵に使用することが出来る.
◆システムとしては多くの機能を有するが
バッチ処理的なものであり,マイクロ
オーダ等の非常に厳しいタイミング要求
などない.
◆信頼性が必要なシステムは,3重系等の
複数のバックアップを持つ構成となってお
り,コストと信頼性に強い相関が見られる
ものが多い.
車載電子制御系ソフトウェアの技術的特性
1-2-B 政策的位置づけ
技術戦略マップを含むあらゆる上位施策の中に、組込みソフトウェア開発の高度化
が位置付けられている。
①政府・経済産業省の成長戦略
○経済成長戦略大綱(平成18年7月6日 財政・経済一体改革会議)
我が国の強みを生かして強化を図るべき分野として、組込みソフトを挙げてい
る。
○経済成長戦略大綱 改定版(平成19年6月19日 経済産業省)
組込みソフトウェアに関連して、組込みソフトウェア産業の競争力強化の必要
性を指摘するとともに、自動車、情報家電、携帯電話等の製品の高度化が進む中
で、組込ソフトウェア基盤の重要性が増大している点にも触れ、ソフトウェア開
発に係る技術を開発すべきとしている。
②政府の科学技術政策
○第3期科学技術基本計画(平成18年3月28日 閣議決定)
重点分野4分野の一つとして、情報通信分野を位置付けている。
その中で、組込みソフトウェアに関連して、組込みソフトウェアの近年の動向
として、ソフトウェアの大規模化・複雑化が著しく、特に、自動車やロボットな
どの機械制御システムの分野では、システムの誤動作により人命が危険にさらさ
れる可能性があることから信頼性・安全性の確保が極めて重要であり、設計開発
に高いコストと長い期間がかかるという現状を指摘した上で、ソフトウェアの大
規模化・複雑化は、今後も進行する傾向にあり、高信頼・高安全な組込みソフト
ウェアの設計開発技術の必要性が高いとしている。
○長期戦略指針「イノベーション25」(平成19年6月1日 閣議決定)
戦略重点科学技術として「高信頼・高安全・セキュアな組込みソフトウェア設
80
計開発技術」を挙げている。その上で、「現場における設計開発手法を知識化・
体系化するとともに、各種の理論・手法を実システムへ適用するための技術を開
発し、組込みソフトウェアの設計開発技術を確立」という研究目標を掲げている。
○革新的技術戦略(平成20年5月19日 総合科学技術会議)
組込みソフトウェアに関連して信頼性と生産性を飛躍的に向上させる組込みソ
フトウェア技術を世界に先駆けて育成、開発、産業化し、将来の我が国産業の持
続的発展、国際競争力の強化及び新産業の創出を目指すとしている。また、革新
的技術として「組込みソフトウェア技術・高信頼・生産性ソフトウェア開発技術」
を掲げ、規模が急速に拡大する組込みソフトウェア開発分野において、信頼性と
生産性を飛躍的に向上させるため、複数のマイコンチップや多様なアプリケーシ
ョンに対応できる国際標準となる基盤ソフトアーキテクチャを開発するとととも
に、ソフトウェアエンジニアリング手法やモデルベース開発手法等により、組込
みソフトウェアの開発効率を従来の倍程度に上げて、世界トップクラスの信頼性
を達成するとしている。その結果、ソフトウェア分野だけでなく自動車産業等で
の国際競争力をさらに強化させるとしている。
③IT戦略本部のIT戦略
○IT新改革戦略(平成18年3月28日 閣議決定)
プロジェクトマネージャー、ITアーキテクト、ITコーディネータ、組み込みソ
フトの専門家等の高度IT人材の育成を促進するとしている。
○i-Japan戦略2015(平成21年7月6日 IT戦略本部)
情報家電、自動車等の分野におけるものづくりとデジタル技術の融合、その他
組込みソフトウェアの高機能化・高信頼化等を図り、世界をリードするという目
標を設定している。同時に、その実現に向けた方策として、自動車をはじめとし
た各種製品の競争力の源泉を握るソフトウェアの共同開発、標準化及び共通化を
促進することを挙げている。
○新たな情報通信技術戦略(平成22年5月11日 IT戦略本部)
世界的な成長が期待され、我が国が強みを有する技術分野として組込みシステ
ムを挙げ、今後集中的に研究開発を行うとともに、国際的なパートナーシップの
下で国際標準(デジュール及びデファクト)の獲得を推進するとしている。
また、工程表の中でも集中的研究開発を実施すべき戦略分野として組込みシス
テムを挙げ、2012年度までに開発・評価を実施し、2013年度以降に製品
開発・市場展開を図るとしている(図1-6)。
81
図1-6
新たな情報通信技術戦略
工程表
④その他(経済産業省の技術戦略マップ)
ソフトウェア分野の中で、「情報家電・車載・環境・エネルギーの共通プラット
フォームの開発」が位置付けられ、2018年まで共通プラットフォームの普及率
向上を図るべきということが明示されている(図1-7)。
図1-7 技術戦略マップ2010
1-3-B 国の関与の必要性
82
成果物である開発基盤(共通基盤ソフトウェア、開発支援ツール等)は自動車業
界全体が活用可能であり、また、組込みソフトメーカはあらゆる製造業に関与して
いるため、その技術力の育成やソフトウェア工学に関する知見は製造業全体に裨益
するものであり、事業の波及性は極めて大きい。また、組込みソフトウェアが自動
車、情報家電、携帯電話等のあらゆる製品機器に内蔵され、重要な機能を実現する
役割を果たしており、その信頼性・安全性が経済社会全体の安定性を左右する存在
となっている中、本事業が目指す組込みソフトウェア開発の生産性・信頼性向上は
公益性が非常に高い。現在、各社の車種ごとにバラバラな車載基盤ソフトウェアに
ついて、共通領域を括り出し、共通基盤ソフトウェアを開発するという事業の特性
上、関係者の利害が対立しやすい中、間に立って、成果物が業界全体にとって最も
裨益するように調整する役割を担う第三者が不可欠となるため、その意味でも国の
関与は必要である。
また、本事業は、組込みソフトウェア関連製品の信頼性・安全性の向上を求める
国民のニーズ、AUTOSARが共通基盤ソフトウェアの国際標準化をうかがう中で、我が
国の意向を国際標準に反映させ、開発コストを削減させたい業界のニーズいずれと
も、合致している。
なお、官民の役割分担については、そもそも本事業の内容が、自動車の組込みソ
フトウェアの競争領域と共通領域を定めるものであるため、競争領域の開発につい
て民間企業が自主的に取り組み、共通領域の開発は国が実施するという官民の役割
分担は適切になされている。
83
2-B 研究開発等の目標
2-1-B 研究開発目標
本事業の主な取組みは、車載組込みソフトウェアの共通部分を括り出した基本ソフト
ウェア(BSW:Basic Software)の開発である。
欧州では前述のようにドイツの自動車関連企業が決定権を有するAUTOSARコンソーシ
アムによって、BSWを開発し、車載電子制御システム用の組込みソフトウェアの標準化
が進められている。しかし、欧州型の考え方に基づいてコンセプトが作られているため、
AUTOSARソフトウェアを実現するには高性能マイコンを必要とし、標準化達成には大き
なコストアップが伴うことが予想され、小型車から普通車までフルラインアップで車両
を開発する日本企業にはインパクトが大きいことになる。また、開発プロセスもAUTOSAR
ではソフトウェアとハードウェアの仕様を入力とし、組込みソフトウェアを出力する領
域だけが対象となっている。このため、組込みソフトウェアを開発するためのソフトウ
ェア及びハードウェア仕様と自動車メーカからの発注情報との関係や、作成した組込み
ソフトウェアの妥当性を証明するためのテスト工程との連携が考えられていない効率
性の乏しい開発プロセスになる可能性がある。
また、従来日本国内における車載電子制御システム開発は、基本的にシステムサプラ
イヤが関連企業だけにより開発する垂直統合開発であった。これに対し、基盤ソフトウ
ェア(BSW)を中心とする水平分業開発を行うには、国内のソフトウェア及び開発ツー
ルベンダは経験及び知識が乏しい上、中小の企業であるためにこれら投資を行う体力も
乏しい。これらのことを踏まえ、BSW開発、開発環境開発、ソフトウェア及びツールベ
ンダ(中小企業)の育成について目標を立案した。
2-2-B
全体の目標設定
表2-1 全体の目標
目標・指標
設定理由・根拠等
目標1:高信頼・高効率な共通基 ◆組込みソフトウェアの大規模化が進む
盤ソフトウェアの構築(産業構 中、各社が個別に全てを開発すると開発工
造変革)
数が膨大となる 。
◆そのため、車載共通基盤ソフトウェア
(BSW)を業界横断的に開発し、共通領域を
拡大させることにより、業界全体の開発コ
ストを削減する。
◆さらに、我が国の企業が、他社と差別化
を図るべき競争領域である高価値なアプリ
ケーション領域の開発に集中することを可
能にし、我が国の開発力を強化する(図2
-1)。
◆加えて、開発したBSWを国際標準に反映さ
せることにより、海外においてもこれまで
培ったノウハウを生かして、開発に従事す
ることができる。
目標2:ソフトウェア工学に基づ
く高効率な開発環境の整備(開
◆組込みソフトウェアの大規模化・複雑化
に加え、開発は未だに人為的な作業に依存
84
発生産性の向上)
目標3:中小組込みソフトウェア
メーカの育成 (開発人材の育
成)
2-3-B
する割合が高く、さらに自動車開発は多様
な関係者が介在しているため、開発側の負
担は非常に大きい。
◆そのため、開発支援ツールの高度化を図
るとともに、サプライチェーンの関係者間
の連携を強化することによって、開発生産
性を向上させる。
◆組込みソフトウェアの重要性が高まる一
方で、ハード・ソフト双方に通ずる必要の
ある組込みソフトウェア人材の不足は顕著
となっている。
◆多くの中小組込みソフトウェアメーカ
に、大企業とコンソーシアムを組んで、大
規模かつソフトウェア工学を活用した開発
を行う機会を提供することにより、事業を
通じて彼らの技術力を育成する。
個別要素技術の目標設定
表2-2 個別要素技術の目標
要素技術
目標・指標
設定理由・根拠等
高信頼・高効率 1)車載電子制御システム
日本の組込みソフトウェア開
な共通基盤ソ
に適用できるBSWを開発 発に則していないBSWがデファク
フトウェアの
し、実システム に搭載 ト標準となって国際的に普及し
構築
して、従来と同等の性能 た場合、我が国自動車産業は、こ
を確認する。
れまで培ったノウハウを生かし
2)BSWを開発してベンチマ て開発に従事することができず、
ーク評価を実施し、性能 国際競争力に悪影響が生じる。そ
がAUTOSAR版を上回るこ のため、本事業で開発したBSWに
とを確認する。
ついては国際標準に反映させる
3)開発成果物(ソフトウ ことが望ましいが、それに向けて
ェア、開発プロセス)に は、同様に国際標準を睨んで開発
ついて、我が国発の国際 されているAUTOSAR版BSWと比較
標準化を目指し世界基準 して品質面で同等以上の評価を
とする。
得る必要がある。
具体的には、まず、実システム
に搭載して、走行テスト等を行う
ことにより、従来車と同等の性能
を確認する。さらに、システム毎
に組込みソフトウェアの構造が
大きく異なるため、BSWの性能を
一定基準に基づいて評価する必
要があり、ベンチマークを定めて
客観的評価を行い、AUTOSAR版BSW
85
ソフトウェア
工学に基づく
高効率な開発
環境の整備
1)組込みソフトウェアの
開発プロセスの効率性向
上を図るため、欧州の先
進的取組みを調査すると
ともに、サプライチェー
ン関係者間のインターフ
ェースの共通化を図る。
2)構造設計から単体テス
トまでのプロセスについ
て、開発の負荷軽減、信
頼性向上を意識し、設計
パラメータ削減を実現す
るツールチェーンを開発
・実装評価する。
中小組込みソ
フトウェアメ
ーカの育成
1)IPA/SECが公開している
ETSS (Embedded
Technology Skill
Standards)を土台にし
て、車載制御ソフトウェ
ア技術スキル診断手法
(自動車版ETSS)を整備
する。それによって、ス
キルの見える化、及び技
術力向上項目の特定化を
86
を上回るかを確認する。その上
で、国際標準を目指して、AUTOSAR
にJASPAR版BSWを提案する。
我が国における組込みソフト
ウェア開発の効率性を向上させ
るためには、BSWを構築すること
以外に、開発環境を整備する必要
がある。課題としては、日本の製
品開発(ソフトウェアも含む)は
すり合わせ型であるために受発
注関係が固定化しやすい点、開発
を支援するツールの利用が進ん
でいない点等が挙げられる(図2
-2)。
そのため、第一に、インターフ
ェースの共通化を検討し、会社毎
や車載電子制御毎に自動車メー
カとサプライヤ間のインターフ
ェースが異なり、仕様の情報流通
齟齬の発生や人材の固定化等に
より効率的な開発が行えている
とは言い難い現状の解決を図る。
また、欧州プロジェクトとして開
発されているソフトウェア仕様
記述言語であるEAST-ADLの開発
状況を調査し、今後のインターフ
ェース統一の検討に助する。
第二に、日本のすり合わせ型開
発に欧米のプラットフォームベ
ース開発に方法論を融合したツ
ールチェーンを開発するととも
に、ツール利用が進まない現状を
踏まえ、本事業で開発したBSW
の特徴を生かし、大幅な設定項目
の削減を可能にするツールとす
る。
我が国組込みソフトウェア産
業の国際競争力強化に向けて、基
盤となる事業者の開発に係る技
術力及びマネージメント力を向
上させる必要がある(図2-3)。
具体的には、大手自動車メーカと
サプライヤに中小組込みソフト
メーカをマッチングさせること
により、メーカのソフトウェア開
発の技術力を高めるとともに、車
図り、技術者のスキル向
上に繋げる。
2)IPA/SECで開発中のEPM
(Empirical Project
Monitor)と、品質指標
(ESQR)などを組合わせ
ることで開発進捗状況の
実情を発注側が把握でき
るようにし、受注側のマ
ネージメント力向上に繋
げる。
載電子制御ソフトウェアエンジ
ニアのスキルを見える化する手
法を整備し、定量的にその技術力
向上を確認する。更に、納期達成
に向けて必要な各会社の開発状
況把握と発注先に応じたマネー
ジメントを実現するため、EPM等
を活用したマネージメント向上
方法について検討する。
市場・技術の進化により
拡大する競争領域
強みを活かせる領域へのシフト
高価値領域
高価値領域での開発力強化
による競争力向上
競争領域
競争領域をモジュール・
プラットフォーム化し、人材・
資金を強みの活かせる高価
値領域へシフト
図2-1
高価値領域
高価値領域
高価値領域へ
資源シフト
高価値領域へ
資源シフト
競争領域
共通領域
共通領域
共通領域
サプライヤが担う競争領域
組込みソフトウェアのプラットフォーム(共通領域)開発の意義
海外との比較
日本
海外平均
海外に対する日本の使用比率
平均使用率
100%
比率
1.4
1.2
80%
1.0
60%
0.8
40%
0.6
0.4
20%
0%
0.2
数
値
解
析
ツ
ー
ル
図2-2
分
析
・
設
計
ツ
ー
ル
ソ
ー
ス
コ
ー
ド
解
析
ツ
ー
ル
静
的
コ
ー
ド
チ
ェ
ッ
ク
ツ
ー
ル
コ
ン
パ
イ
ラ
/
デ
バ
ッ
ガ
テ
ス
ト
ツ
ー
ル
検
証
ツ
ー
ル
評
価
ボ
ー
ド
イ
ン
サ
ー
キ
ッ
ト
エ
ミ
ュ
レ
ー
タ
ア
ナ
ラ
イ
ザ
・
測
定
機
統
合
開
発
環
境
構
成
管
理
ツ
ー
ル
プ
ロ
ジ
ェ
ク
ト
管
理
ツ
ー
ル
品
質
管
理
ツ
ー
ル
ド
キ
ュ
メ
ン
ト
管
理
ツ
ー
ル
0.0
組込みソフトウェア開発で使用するツールの日本と海外企業
の使用比率比較
87
2007
2008
2009
2010
技術者ス
キル向上
技術者の
確保
PMのスキ
ル向上
開発技術
の向上
技術者ス
キル向上
技術者の
確保
PMのスキ
ル向上
開発技術
の向上
技術者ス
キル向上
PMのスキ
ル向上
開発技術
の向上
PMの確保
PMの確保
技術者ス
キル向上
PMのスキ
ル向上
開発技術
の向上
技術者の
確保
新技術開
発・導入
管理技術
の向上
新技術開
発・導入
開発環境
の整備
開発製品
数最適化
経営者の
理解
図2-3
PMの確保
技術者の
確保
管理技術
管理技術
PMの確保
の向上
の向上
新技術開
新技術開
管理技術
発・導入
発・導入
の向上
開発環境
委託先の
開発製品
の整備
確保
数最適化
委託先の
開発環境
開発環境
確保
の整備
の整備
経営者の
委託先の
経営者の
理解
確保
理解
出所:組込みソフトウェア産業実態調査
組込みソフトウェア開発課題の有効手段
88
3-B 成果、目標の達成度
3-1-B 成果
3-1-1-B 全体成果
JASPARコンセプトを組み込んだBSWと開発環境を構築し、実システムへの実装及びベ
ンチマークテストにより評価を行った結果、目標であった高信頼で高効率なBSWとソフ
トウェア工学に基づく高効率な開発環境を実現できたことが確認された。中小組込み
ソフトウェアメーカの育成については、必要な技術スキルを明確にし、技術スキルに
基づく進捗マネージメントを行うことの有効性を確認した。今後、我が国自動車産業
及び組込みソフトウェア産業等の競争力強化に寄与することが大いに見込まれる。以
下、それぞれの取り組みの概要について記す。
BSWは、AUTOSAR版BSWをベースにJASPARコンセプトを組み込んだJASPAR版BSWを試作
実装した。そして、JASPAR版BSWの各種実車載電子制御システムへの適用性判断と、ベ
ンチマークテストによるAUTOSAR版BSWの性能比較評価を行った。その結果、JASPAR版
BSWは実システムに十分適用できることを確認し、ベンチマークテストにより、処理負
荷の軽減、ROM及びRAMの消費量を削減しており目標を十分達成している。
ソフトウェア開発環境は、JASPAR版BSWを用いた電子制御システムの開発に必要なツ
ールを開発した。AUTOSARのツールと比較すると、本事業で開発したツールは778パラ
メータ中580パラメータ(75%)が自動設定でき、設計者の作業負荷を軽減することがで
きた。また、ソフトウェア単体試験ツールとの連携もできており、目標を達成してい
ることを確認した。
中小企業の育成については、国内のソフトウェアベンダの車載電子制御ソフトウェ
ア開発の技術力、及びプロジェクトマネージメント力の向上に注力して活動した。技
術力についてはIPA/SECのETSSの技術項目の大項目と中項目から、車載電子制御システ
ムに必要な項目を洗い出し、JASPAR版ETSSを作成した。さらにそれを用いて、本開発
に関わった組込みソフトウェアメーカの技術力診断を行った。ソフトウェアメーカ各
社はJASPAR版ETSSより車載電子制御システムのソフトウェア開発に必要な技術が明確
になったこともあり、毎年本領域の技術力が向上していることが測定された。また、
進捗状況を監視するEPMデータと各社のJASPAR版ETSSにより測定された技術力を関連
付けて解析すると、技術力と各プロセスにおける進捗状況との間に強い相関が見られ
た。これらより、管理上留意すべきポイントや、遂行業務として必要な技術力が事前
に把握できるなど、業務の質を高めるためのマネージメント力強化に繋がる結果を得
た。
3-1-2-B 個別要素技術成果
(1)高信頼・高効率な共通基盤ソフトウェアの構築
① 高信頼・高効率なBSWの開発及び実システムへの適用・評価
自動車メーカ、部品メーカ、組込みソフトウェアメーカ、半導体メーカ、ツールベ
ンダが、業界横断的にBSWを共同開発した。具体的には、BSWは組込みソフトメーカが
主に担当し、ハードウェア部分を接続するMCAL(Microcontroller Abstraction Layer)
は半導体メーカが担当、アプリケーション部分は自動車メーカ、部品メーカが担当し
て開発を行った。そして、この開発したJASPAR BSWを図3-1に示す3つの実システ
ムに適用・評価した。
89
安全制御系
~周辺監視センサにより障害物を回避~
ステアバイワイヤシステム
ITS系制御
ステアリング系制御
~前輪とハンドル間に機械的接合のないステアリング~
~設定車速の範囲内で、車間距離を一定に保つ~
図3-1
JASPAR BSWを適用した車載電子制御システム
今回、JASPAR版BSWを図3-1に示す3つの実システムに適用・評価した。本事業で
開発した共通の制御基盤ソフトウェアは、図3-2に示すように異なる車載制御シス
テムに組み込まれても、各システムは従来と同等の機能・性能を実現できることを走
行テスト等を通じた実験により検証した。また、実システムにおいても、本事業で開
発したJASPAR版BSWは、AUTOSAR版BSWと比較して、実システムにおいても、後述するベ
ンチマークテスト同様、CPU負荷、ROM及びRAM消費量が改善することを確認した。
「安全制御系システム」における
制御基盤ソフトウェア性能改善率20%(対AUTOSAR版比)
図3-2
JASPAR BSW実システム適用結果概要
90
②
BSWのROM/RAM消費量、CPU負荷率等に関するベンチマーク評価
JASPAR版BSWの性能を客観的に評価するため、車載電子制御システムとして特徴的な
組込みソフトウェアを模擬したベンチマークテストソフトウェア及び測定方法が
JASPARで規格化(自動車用制御基盤ソフトウェア評価基準書Ver.1.0)されている。図
3-3に示すように車載電子制御システムは大きく分類して、実行処理に対して時間
制約が非常に厳しいHard-Real-Time-Systemと、時間制約は厳しくないが多くの処理が
要求されるSoft-Real-Time-System に分類される。BSWの機能を測定するという目
的から、Hard-Real-Time-Systemからベンチマークソフトウェアは選定する。
Hard-Real-Time-Systemから、時間的な割込みが最優先処理で処理能力が厳しい三相
交流モータ*と、非同期(クランク角センサ)信号に基づく処理が最優先で行われるエ
ンジン制御系を模擬したものをベンチマークソフトウェアとした。また、測定方法や
基準についても、自動車用制御基盤ソフトウェア評価基準書Ver.1.0で規定されている
方法に基づいて行った。
*三相交流モータ:高効率、高寿命なモータであり、電気自動車やハイブリッド自動車のモータに使わ
れている。この交流モータを駆動するインバータはモータのトルクや回転数を制御するためには、100
μsオーダーでの電流コントロールにより発生する三相交流の電圧および周波数を変えられる機能が
必要である。
Soft Real Time
ITS
Powertrain
Time Driven
Event Driven
Hard Real Time
Time Driven
Event Driven
Hard Real Time
時間制約が厳密
Soft Real Time
時間制約が緩い
Engine
Event処理最優先
Event後の処理時間
が厳密に規定
AT/CVT
Motor
時間同期最小の
サンプリングタイム
AD変換2chの同期
Distance
Lane Keep
Body
Body Control
Battery
AFS
図3-3
車載電子制御システムの特徴
91
ベンチマークテスト結果-1
CPU負荷率
小← CPU負荷率 →大
CPU負荷率
CPU負荷率
小← CPU負荷率 →大
RAM容量
8%削減
RAM容量
ROM容量
小← RAM容量 →大
AUTOSAR JASPAR
Rel. 3.0 コンセプト
25%削減
FlexRay通信処理
(100s処理)
3%削減
ROM容量
小← ROM容量 →大
30%削減
CPU負荷率比較結果
電流制御部
図3-5
RAM容量
エンジン
CPU負荷率
ROM/RAM消費量比較結果
AUTOSAR JASPAR
Rel. 3.0 コンセプト
RAM容量
小← RAM容量 →大
30%削減
ROM容量
RAM容量
RAM容量
AUTOSAR JASPAR AUTOSAR JASPAR
Rel. 3.0 コンセプト
Rel. 3.0 コンセプト
AUTOSAR JASPAR AUTOSAR JASPAR
Rel. 3.0 コンセプト Rel. 3.0 コンセプト
図3-4
ROM容量
小← ROM容量 →大
FlexRay通信を用いた場合の
ROM/RAM消費量比較結果
35%削減
小← RAM容量 →大
30%削減
ROM容量
ROM容量
小← ROM容量 →大
CAN通信を用いた場合の
ROM/RAM消費量比較結果
AUTOSAR JASPAR AUTOSAR JASPAR
Rel. 3.0 コンセプト Rel. 3.0 コンセプト
ベンチマークテスト結果-2
92
三相交流モータ
項目
機能面
AUTOSAR
JASPAR
機能性
○
○
信頼性
△
FlexRay通信※
に適用評価
使用性
×
△
効率性
△
◎
保守性
△
△
移植性
△
△
◎
非
機
能
面
※次世代車載用通信ネットワークの一種
機能性
4
信頼性
3
2
AUTOSAR
JASPAR
効率性
1
0
使用性
保守性
移植性
(注記)本評価結果は、国プロベンダーによる実装かつ
通信スタックを中心に評価した結果である。
図3-6
品質6特性に基づくJASPAR版BSWとAUTOSAR版BSWの比較
図3-4、図3-5はエンジン及び三相交流モータのベンチマークテスト結果であ
り、BSWに対するJASPARコンセプトの目標であるROM及びRAMの消費量削減と、CPU負荷
の軽減を達成していることが分かる。特に、エンジンアプリケーションでは、ROM及び
RAMの削減効果が大きい。これは、JASPARコンセプトであるプロファイルにより余分な
機能が削減されているからだと考えられる。一方、三相交流モータでは100(μs)のサ
ブルーチンがソフトウェア全体に及ぼす影響が大きいので、プロファイルやクラスタ
コンセプトによる効果が全体から見ると相対的に小さくなってしまっているため、大
きな効果として表れていないと考えられる。そこで、JASPARコンセプトの部分である
FlexRay通信部分に着目してデータを抽出すると、CPU負荷率が大幅に減尐しているこ
とが分かる。
以上の結果より、JASPARコンセプトはAUTOSAR仕様に比べて、
ⅰ ROM、RAM量の削減
ⅱ CPU負荷率の軽減
といった目標を達成することができている。これらの結果は、
Ⅰ 車載電子制御システム用マイコンはROM、RAM量におけるコスト感度が高く、ROM、
RAM削減はコスト競争力上重要である。
Ⅱ CPU負荷の軽減はマイコンのコストに与える影響ばかりではなく、多くの割込み処
理が必要な車載電子制御システムにおいては予測不可能な多重割込み発生した場合
の余裕度があることが信頼性上のポイントとなる。
という観点から意義のある結果が得られたと考える。また、FlexRay通信部分を含め、
93
JASPAR版BSWとAUTOSAR版BSWを非機能面の品質6特性について評価した結果を図3-6
に示す。JASPAR版BSWは、効率性、使用性、信頼性において、AUTOSAR版BSWに勝ってい
る。
③
開発成果物(ソフトウェア、開発プロセス)の国際標準化
JASPARコンセプトであるプロファイルとクラスタコンセプトについて、AUTOSARコン
ソーシアムに規格提案を2010年9月に行った。AUTOSARコンソーシアムにおける規
格提案の流れは図3-7であり、規格提案対象となるワークパッケージの承認、各ワ
ークパッケージのリーダからなるプロジェクトリーダ会議の承認、ステアリングコミ
ッティの承認を経て正式な規格となる。
図3-8はJASPARから企画提案を行った際のワーキングパッケージの様子を写した
写真であり、50社近い出席があり本件に関する関心の高さが伺える。また、JASPAR
側からの発表に対し多くの質問が寄せられ、最後には我々の活動に対し賛辞を頂き、
規格提案対象のワークパッケージメンバの承認を得た。現在は、プロジェクトリーダ
会議の結果を待っている状態である。ただし、JASPARの運営委員会メンバとAUTOSARス
テアリングコミッティメンバの打合せを2010年5月、11月と行っており、JASPAR
からの規格提案についてはAUTOSARステアリングメンバーの事前合意を得ている。この
ことから規格化されることは、ほぼ間違いないとものと考える。
Approved
Work Package
(WPⅢ-1.1.1)
図3-7
Deliberating
Project Leader
Meeting
Steering
Committee
AUTOSARコンソーシアムにおける規格提案の流れ
94
図3-8
JASPARコンセプト提案時のAUTOSAR WPⅢ-1.1.1.
(2)ソフトウェア工学に基づく高効率な開発環境の整備(開発生産性の向上)
① サプライチェーン関係者間のインターフェースの共通化
車載電子制御システムのソフトウェア開発が、BSWを用いたプラットフォーム開発に
なれば、現在のようなシステムで固定化された組込みソフトウェア開発人材から流動
化させることが可能となる。この人材の流動化はシステム開発の状況に応じた適正な
人材配置など効率的な開発が行うことができ、国際競争力の強化が図れるものと考え
る。つまり、マルチサプライヤによるBSWを用いたプラットフォーム開発によるプロダ
クトライン型開発が理想の姿である。しかし現実には、各電子制御システム毎、会社間
毎にインターフェースが異なり、BSWの統一だけでは人材の流動化は解決できる問題で
はない。また、日本では欧米などのトップダウン指向とは異なり、ボトムアップ指向で
あるため、自動車メーカとサプライヤの責任範囲を明確に規定したインターフェースが
必要となる。自動車メーカ各社の『システム仕様記述に対するニーズ』を明らかにし、
このニーズをもとに『システム仕様記述の要件』を抽出した結果、図3-9のような開
発スタイルが一つの解と考えた。この開発スタイルの実現に向けては、ルールの統一(項
目、表記方法)、ドメイン毎に適切なインターフェース、自動車メーカとサプライヤ間
でそれぞれ得意分野による摺り合わせの三項目が重要と考えられる。ここでまず、我々
はルールの統一について検討を行うため、欧州EAST-ADLの活動について調査を行った。
95
◆ルール(項目、表記方法)を合わせ、内容は競争
◆ドメイン(走行、ボデー、MM)に最適なI/F
◆OEM/Supsの得意領域を活かした摺り合わせ
図3-9
従来の開発スタイルと提案する開発スタイルの比較
EAST-ADLを中心とした欧州の活動成果を調査した結果、図3-10の業務インターフ
ェースを明確とする階層レベルに沿ったシステム仕様を持ち、図3-11のように必要
最低限の車載電子制御システムの仕様定義が可能であることが分かった。そして、シス
テム記述を中心としたツールチェーン試作検証によりコンセプト実証がほぼ完了して
いる段階であった。ただし、図3-12に示すように車載電子制御システム開発プロセ
ス要件満足度において、自動車開発で重要となる車種展開等の差分開発へのインターフ
ェース対応は検討があまり進んでいない。したがって、プラットフォームベースのプロ
セスについては、EAST-ADLの成果を有効に活用し、性能向上や車種展開等の差分開発に
対する取り組みに特化して日本として検討を行うべきだと考える。
5つの階層
階層構造⇒自動車メーカ~サプライヤ間のインターフェース候補
図3-10
EAST-ADL定義される5つの階層
96
図3-11
EAST-ADLで記述できる仕様
ソフトウェア開発の入力情報は、
• 要求
• 車載機能(フィーチャ)
• システム仕様
の3つに分けられている。
EAST-ADLの車載開発プロセス要件の満足度
プラットフォームベース開発
◯
Autosarとの接続を前提
プロダクトライン型開発
△
トップダウンのみ、ボトムアップ困難
マルチベンダ型開発
×
分業開発のための仕様定義方法はない
差分開発
×
差分のみの情報表現方法はない
ドメイン毎にインタフェースを類型化
△
システム仕様の抽象レベルが利用可能
図3-12
EAST-ADLの車載電子制御システム開発プロセス要件満足度
②
高効率なツールチェーンの開発
プラットフォームベース開発に対応するJASPAR版BSWを用いた電子制御システムの
開発に必須なツールの要件検討、仕様策定、プロトタイプ開発、評価を行う。AUTOSAR
における開発環境の対象は、システム設計から組込みソフトウェアが作成されるまで
の間であり、V字開発プロセスにおける設計プロセスの一部に留まる。本事業では図3
-13に示すようにシステム設計ツールからソフトウェア検証までの範囲とし、各プ
ロセス間のデータ受理を前提とした効率の良い開発プロセス構築を検討する。ただし、
実際開発環境として試作するのは、システム設計ツールからソフトウェアの単体テス
トまでの領域とし、AUTOSARの開発環境と比較すると図3-14の通りである。
97
システム仕様記述
要求獲得、定義
Matlab
ZIPC
UML
etc.
制御アプリケーション
Behavior
Model
Tool (BMT)
システム
設計ツール
制御システム
・標準評価アプリ
・実証実験アプリ
Cv
JASPARツール
フレームワーク
サポート範囲
自動車用制御基盤ソフトウェア
(プラットフォーム)
アダプテーションソフト
ECU
Extract
Tool
(システム、メモリ、通信、I/O)
ソフト設計
ツール
図3-13
ソフト検証ツール
ECU
Configuration
Tool
制御アプリケーション
ECU
Description
OS
C、Hコード
RTE
C、Hコード
◆シミュレータ・
デバッガ・ISS
◆コードチェッカ
◆モジュール単体
テストツール
アダプテーションソフト
JASPAR BSW
ミドルウェア
COM
C、Hコード
ECU
Generation
Tool
標準実装TF
(システム、メモリ、通信、I/O)
カーネル(OS、MCAL)
開発ツールタスクフォースの検討及び開発範囲
システム設計ツール
ソフト設計ツール
ジェネレータ
AUTOSAR
JASPAR
ツ
ー
ル
検証情報export
ツール
- JASPAR FlexRay対応
カーネル(OS、MCAL)
◆SILS
◆SPILS
◆HILS
設計
情報
Extract ECU of
System
Description
JASPAR-BSW
・高性能・高い実用性
- 仕様・実装の最適化
ジェネレータ
仕様・実装の最適化
- 実装ガイドライン整備
実装ガイドライン整備
ブリッジ
・高信頼性
JASPAR BSW
ミドルウェア
◆バスモニター
◆適合ツール
検証情報Export
ツールブリッジ
System
Template
Description
システム検証ツール
開発ツールTF
JPTC(JASPAR Tool Chain)
System
Design
Tool
検証ツール
仕様記述
ツール
要求の
追跡
各社ツール
パ ツ
ッ ー
ケル
ーチ
ジェ
ー
ン
図3-14
System
Configuration
Tool
パラメータ
削減情報
ECU
Extract
Tool
パラメータ
削減情報
XXX
Configuration
Editor
パラメータ
削減情報
XXXX
Generator
検証ツール
I/F
Verification
Tool
JASPARツールフレームワーク
Eclipse
JASPAR試作開発環境とAUTOSAR開発環境の対象範囲の比較
本事業で開発したツールはAUTOSARのツールと比較すると、778パラメータ中58
0パラメータ(75%)を自動設定され設計者の作業負荷が軽減されている。また、ソ
フトウェア単体試験ツールとの連携も可能となっており、目標を達成していることを
確認した。これは、ISO/IEC 9126-4などの評価基準を基に開発ツールの競争力向上に
寄与する評価基準を図3-15のように策定し、開発途上のJASPAR開発環境の評価、
フィードバックを行うことで完成度を高め設定パラメータの削減、使用性の向上を実
現した。また、図3-16にJASPAR策定した開発環境評価結果の一例と、図3-17
に3つの実車載電子制御システムにJASPAR開発環境を用いた開発者の開発環境に対す
るアンケート結果を示す。操作性に関しては概ね良好な結果を得られているが、開発
規模が大きいシステムについては更なる生産性の向上に対する要望が寄せられている。
98
●評価の目的
●評価項目
基本シナリオについては前年度の評価との比較も行う
【基本シナリオ】
・本年の活動目標に対する評価を行う
・使い勝手向上のためのフィードバックを得る
・JPTCの起動からジェネレータの起動、検証情報Exportツール
の起動までを1つのシナリオに沿って評価する。
・08年度のシナリオと同等のシナリオで評価する。
ユーザの設計負荷の軽減とリリース時の完成度向上
【追加シナリオ】
JASPARプロファイル、クラスタへの対応と設定値の
・09年度の活動目標に関連した開発項目を中心に評価する。
固定化等による入力項目の削減
<有効性>
▼タスク完了率
・作業がどれほどの割合で完了したか
<効率性>
▼試験時間
・ツールによる作業完了にかかる時間
▼マニュアル参照回数
・作業におけるマニュアル参照頻度
▼ミス発生回数
・作業実施にかかるミスの回数
<満足度>
▼参照性の向上に関する項目 ▼機能性向上に関する項目
・操作が分かりやすい
・優れた機能がある
・表示が見やすい
・気の利いた機能がある
・マニュアル無しで操作できる
・プロセスにマッチ
▼操作性の向上に関する項目 ▼その他
・操作の応答性が高い
・信頼性が高い
・入力しやすい
・全体に対する満足度
・海外ツールとの比較
ツール間の連動性と統一操作環境を実現する
上流ツール(システム仕様)情報のインポート
完成度向上のためのリリースプロセスの確立
■評価対象
・JPTC(ジェネレータブリッジ含む)
・システム設計ツール
・ECUコンフィグレータ(RTE/OS/MCAL)
・ECUコンフィグレータ(COM)
・検証情報Exportツールブリッジ
図3-15
開発環境評価基準
●効率性
JPTC
システム設計
OS
COM
検証情報
本年度
本年度
前年度
本年度
前年度
本年度
前年度
本年度
平均試験時間(分) マニュアル参 ミス発生
照
間隔(分/
全体
基本 間隔(分/回) 回)
46.1
-
16.7
31.7
69.2
53.0
16.0
41.8
-
72.2
10.5
36.1
105.4
44.4
44.9
44.9
-
62.2
23.0
38.8
60.1
45.1
40.1
60.1
-
62.0
23.0
38.8
36.9
-
29.5
184.5
平均試験時間、マニュアル参照間隔、
ミス発生間隔のいずれも前年度から
向上している。
●満足度
JPTC
システム設
計
OS
COM
検証情報
操作
応答性
本年度
3.56
本年度
3.80
操作の分 入力の 表示の 優れた機 気の利い マニュアル 信頼性が プロセス 全体
かりやすさ しやすさ 見やすさ 能
た機能
なしの操作 高い
にマッチ として
2.95
3.39
3.17
3.29
3.24
2.94
3.29
3.38
3.17
3.25
3.65
3.30
3.68
3.71
3.10
3.29
3.43
3.68
前年度
4.30
3.00
3.23
3.23
3.92
3.54
3.46
3.46
3.00
3.34
本年度
3.50
3.25
3.55
3.65
3.61
3.63
3.30
3.12
3.57
3.45
前年度
3.75
2.75
2.93
3.13
3.25
3.13
2.63
2.69
3.00
3.00
本年度
3.50
2.70
3.11
2.58
3.59
3.63
3.22
3.24
3.57
3.26
前年度
3.43
3.00
3.28
3.57
3.07
3.07
3.50
2.29
3.00
3,07
本年度
3.61
2.84
3.00
3.00
3.13
2.88
2.59
3.44
3.29
3.00
全体的に3以上の良い評価、前年度との比較においても概ね向上している。
COMは操作の分かりやすさ、表示の見やすさの評価が低く、改善が必要である。
JPTC、検証情報Exportツールは操作の分かりやすさに課題がある。
図3-16
JASPAR開発環境の評価結果の一例
99
3点以下
向上
悪化
ツール
全体
問題点・要望
・AUTOSARの知識を必要とするので、初めて設計する人には難しい。
・操作すべきツール、場所が分からないことがあった。
・エラー原因が判別できない。
・構成が少しでも変わるとインテグレーションをやり直さなければならない。
・バリデーション機能の強化。
JPTC
・ジェネレータ起動はあまり便利だとは思えない。
分かりやすさ
32%
・起動が遅い。
システム設計 ・各種図をきれいに配置しづらい。
・ウィザード等のアシスト機能。
生産性
・マルチキャストゲートウェイの実現。
41%
・コミュニケーション情報の自動生成機能の強化。
・設定が大変な項目がある。
操作性
16%
・OSの仕様を知らないと設定が難しい。
OS
・単位表記が統一されていない。
不足機能追加
・OSスケーラビリティクラスにJASPAR OSを対応させてほしい。(対応済)
11%
・CANのビットタイミングの設定がシステム設計ではなく、コンフィグレータで
できる方が分かりやすい。
・MCALコンフィグレータでFlexRay信頼性機能のパラメータ設定が面倒。
・パラメータのプリセット機能もしくはインポート、エクスポート機能が欲しい。
問題点・要望の内訳
COM
・パラメータの編集の可・丌可について、保管を行わないと反映されない。
規模が大きくなることにより生産性を求める要望が多い。
また、評価アンケートの結果と同様に、操作等の分かりやすさに関する指摘が多い。
図3-17
実システム開発者からのJASPAR開発環境アンケート結果
100
(3)中小組込みソフトウェアメーカの育成 (開発人材の育成)
① 車載制御ソフトウェア技術スキル診断手法の整備と、それを元にしたスキルの見
える化及び技術力向上項目の特定化
ETSS(Embedded Technology Skill Standards)は、スキル標準、キャリア標準、教育
の 3 本柱から構成され、最大の特徴は、スキルを中核に、キャリア、教育を紐づけてい
る点にある。したがって、ETSS を適用するには、適用ドメインの特徴に応じたスキルを
定義することが最も重要になる。
ETSSスキルは、図3-18のように技術要素、開発技術、管理技術で構成される(そ
の他のカテゴリとしてヒューマンスキルもある)。各スキルカテゴリとも、組込みソフ
トウェア業界として共通のスキルフレームワークが提供されており、提供対象毎にプロ
ファイルを策定して活用することを想定している。
スキル定義
診断方法検討
車載用ソフトへの
適用ポイント
診断実施
結果分析・FB
ETSSスキルカテゴリー
ETSSスキルカテゴリー (ETSS概説書より抜粋)
(ETSS概説書より抜粋)
車載電子システム開発向け
フレームワーク
プロダクトライン型開発
システム領域の強化
ESPRとの整合性確認
EPMとの整合性確認
図3-18
ETSSスキルカテゴリの関連イメージ
このETSSを参考に、車載電子制御システム向けプロファイルとして、自動車メーカ、
サプライヤなどからヒアリングも行い、図3-19に示すような自動車プロファイルを
定義した。
次に、車載用電子システム開発のシステム領域に関する開発技術スキルを定義するに
あたり次の活動を実施し、図3-20のスキル項目を定義した。
 自動車メーカへのヒアリング実施
自動車メーカへのヒアリングを実施し、各社の典型的なシステム仕様書を一般化し
たシステム仕様の項目をもとに検討した。
 展開車両のシステム開発(差分開発)のプロセスとスキルの定義
開発業務従事者数が多い、展開車両開発(差分開発)に関係する開発技術に焦点を
あてて、展開車両開発のプロセスを定義し、それに合わせてスキル項目を定義した。
101
外界I/F
走行環境
状態認知
走行環境
作用
・レーザセンサ
・ワイパ
快適環境
状態認知
快適環境
作用
・日照センサ ・サンフール
安全環境 セキュリティ環境セキュリティ環境 開発・製造・
サービス
作用
状態認知
作用
音声アラーマ ・リモートセキュリティ・イモビライザ 環境作用
乗員I/F
走行要求認知
走行作用
・スタータ
・メーター
・アクセルペダル ・警告ランプ
車両
・ダイアグ
快適要求認知
快適作用
安全要求認知
・リモコンキー ・電動スライドドア ・脇見センサ
・タッチパネル
・エアコン
・乗員検知
安全作用
・エアバッグ
・ヘッドレスト
駆動制御
・エンジン ・トランスミッション
制動制御
・ABS
操舵制御
・EPS
加重制御
・アクティブサス
車両状態
計測
・空気圧モニタ
・車輪速センサ
・ヨーレイトセンサ
電子システム基盤
アプリケーション機構
分散機構
システム
管理
ネットワーク
ECU
CPU
車載ソフトウェアの
技術要素を体系化
ECU H/W
電源
WD
入力系回路
・SW ・パルス ・AD
メモリ
CPU
出力系回路
・ON/OFF ・パルス ・DA
専用IP ・MM系
通信系回路
センサ / アクチュエータ
車両ユニット
車載LAN
ECU
ECU
対外物理
作用装置
外界I/F装置
対外情報
外界
作用装置
通信装置
外界
図3-19
外界状態
監視装置
[走、曲、止]
+姿勢保持機構
体感
作用装置
音声・視覚
作用装置
乗員I/F装置
乗員状態 走行操作
監視装置
装置
乗員
・他社 ・道路 ・障害物 ・歩行者
その他
操作装置
・ドライバ ・同乗者
車載電子制御システム開発向けフレームワーク
【自動車プロファイル】
車載用電子システム開発のシステム領域に関する開発技術スキルを定義
システム目標、
ベースシステムの特定
システムのねらい、目的、展開範囲、
および目標コストを定義できるスキル
開発のベースとなるシステムを特定し、
ベースシステムの特徴を理解できるスキル
機能概要、
システム構成概略の定義
機能詳細、
システム構成詳細の定義
機能概略を定義し、ベースのシステム構成から
変更・追加・削除すべき点を洗い出すスキル
変更の影響範囲を特定し、
変更が成立するかを検証することで
機能概要とシステム構成の概略を決定できるスキル
状態遷移、機能詳細、適合定数、
および、システム構成詳細について
ベースからの変更点を定義できるスキル
変更の影響範囲を特定し、変更が成立することを
検証することで状態遷移、機能詳細、適合定数と
システム構成詳細を決定できるスキル
異常時の処置に着目して
ベースからの変更点を定義できるスキル
異常時の処置の定義
変更の影響範囲を特定し、
変更が成立することを検証することで
異常時の処置を決定できるスキル


OEM企業の典型的なシステム仕様書上にシステム仕様項目をもとに検討
展開車両開発(差分開発)に関係する開発技術に焦点をあてて、展開車両開発のプロセスを定
義し、それに合わせてスキル項目を定義
図3-20
車載電子制御システム仕様開発プロセスと開発技術スキル
このような活動を経て自動車版ETSS(JASPAR版ETSS)を定義したが、最初の年に行
った診断結果は実態と乖離するデータであり、以下の診断精度向上活動を取り組んだ。
その結果、実態に即したデータを取得することができ、本事業参加のソフトウェアベ
ンダは参加年毎に技術が向上している図3-21のような結果を得ることができた。
これは、車載電子制御用ソフトウェア開発に必要な技術領域について、明確に参加ソ
フトウェアベンダに示すことができたことが大きな効果として考える。また、今後の
ETSS普及に向け、本活動の成果をJASPAR版ETSSとして図3-22にようにまとめた。
 実施企業ヒアリング調査
102
現状の問題を把握するため、07年度のスキル診断実施上の課題や、その効果に対
する期待やモチベーションなどについてのヒアリングをスキル診断実施対象企業に
行った。
 スキル診断説明会実施
スキルレベル評価のバラツキの原因の一つにスキル診断に対する説明が不足してい
ることが懸念された。そのため、スキル診断実施の目的やレベル付けのポイントを実
施企業に対して説明会を実施した。
 スキル診断演習問題
スキル診断実施者のスキルレベルの評価のポイントやレベル感の理解を補助するた
めに、仮想事例によるスキルレベル評価のための演習問題を検討・実施した。
08年度⇒09年度継続メンバ
(JASPAR国プロ全体)
3.0
:スキルアップが確認された領域
2.5
2009.1
2009.12
通信技術、プラットフォーム
ソースコード作成とテスト、システム結合
基準線(1.0)
コストマネジメント、組織マネジメント
2.0
コミュニケーション、ネゴシエーション、問題解決
1.5
1.0
0.5
技術要素
開発技術
管理技術
パーソナル
ビジネス
昨年度(08年度)からの国プロ参加メンバの経年変化では,
国プロ関連領域のスキル伸展が確認できた
図3-21
本事業参加ソフトウェアベンダのスキル診断結果
図3-22
JASPAR版ETSS
103
HCM
会計
マーケティング
経営
問題解決
リーダシップ
ネゴシエーション
コミュニケーション
構成管理・変更管理
知財マネジメント
開発環境マネジメント
調達マネジメント
開発プロセス設定
リスクマネジメント
組織マネジメント
コミュニケーションマネジメント
品質マネジメント
コストマネジメント
タイムマネジメント
統合マネジメント
スコープマネジメント
システム結合
システム適合性確認テスト
ソフトウェア結合
ソフトウェア適合性確認テスト
ソースコード作成とテスト
ソフトウェア方式設計
ソフトウェア詳細設計
システム設計
ソフトウェア要求分析
プラットフォーム
システム要求分析
ストレージ
計測・制御
ユーザインタフェース
情報処理
マルチメディア
通信技術
0.0
②
開発進捗状況の見える化手法の開発・評価
IPA/SECの資産であるEPM(Empirical Project Monitor)を実開発に適用し、プロジ
ェクトに潜むリスクを未然防止できる仕組みを構築するため、図3-23のようなシ
ステムを導入しマネージメント力向上を図った。また、来るべきマルチベンダ型開発
に向け、会社間をまたぐ大規模な開発に適合するようEPMの環境・分析要件を整理した。
EPMツールは客観的な判断に従ってプロジェクトをマネージメントできることを目指
すものであり、従来は開発者からのあいまいな報告をもとに管理者による主観的な判断
でプロジェクトをコントロールしていた。このため管理者のスキルや現場からの報告精
度によって把握できる内容に差異が生じており、プロジェクトコントロールの手法もま
ちまちであった。適切なマネージメントを実施するためには、「勘と経験」を長い時間
かけて養う必要がある上に教育では正確に伝わりにくい性質を持つ(また誰でも身につ
けられるとは限らない)。EPMツールを用いることで、進行中のプロジェクトの異変に
気づくことは「勘と経験」に頼る必要がなくなる。これは、一定のタイミングでプロジ
ェクトの成果物から機械的に観測データを抽出することで客観的な情報を収集するこ
とができ、収集した観測データを一定の尺度で整形することで変化点を容易に導き出し
客観的な判断を下す材料となるからである。
開発現場
ソフトウェア開発
チームはEPMを意識す
ることなく開発に専
念する
フィードバック
設計書
ソースコード
送信メール
障害登録
成果物
障害管理
構成管理
メール管理
自動データ収集
EPM リポジトリ
分析チームは成果物の
更新履歴から問題点を
洗い出し、現場に
フィードバックする
分析の実施
図3-23
本事業におけるEPM導入概要
本事業における開発の中で、これらEPMデータをSECが提唱する品質指標(ESQR)を参
考に部品開発状況を表す定量データ(成果物ベース)として抽出した結果が図3-24
である。ESQRを参考にした成果物ベースの定量データが、自動車メーカ/サプライヤの
管理者視点での部品開発の進捗管理に活用できる可能性が高いことを検証付けるデー
タが得られた。このようにEPMツールは誰でも、どのようなプロジェクトでも一定のマ
ネージメントができ、企業の「勘と経験」を具体的な形で蓄積することができる。さら
に蓄積された具体的な「勘と経験」を再利用することで、次の世代にも効率的に伝播で
きると考える。
104
また、本事業の各ソフトウェアベンダのスキルデータと、ソフトウェア開発における
成果物との間にどのような関係があるかを分析した。ETSSで採取したスキルレベルが高
いチームは、ソフトウェア開発における各工程の十分性が確保される可能性が高いこと
が伺える。マネージメントの観点からはプロジェクト開始時にチームの保有するスキル
を把握し、リスクレベルが低い場合はリスク発動の閾値を低く設定する工夫が有用であ
る。また、スキルデータと成果物データを蓄積することで、過去の失敗例から体制の改
善や進行中のプロジェクトの問題予測に役立てられると考える。以上のように、成果物
ベースの定量データとスキルデータ(ETSS)間にある相関関係がある可能性が高いこと
を検証した。
設計のレビューにどれだけ工数をかけているかを設計に費やした工数とのバランスで表す
(充当率=設計レビュー工数/設計作業工数)
設計レビュー作業充当率
仕様レビュー作業充当率
Highly Critical
15
〇
①
設計レビューに工数を掛けすぎて
いる
△
②
問題なし
△
③
問題なし
〇
④
問題なし
〇
⑤
問題なし
〇
⑥
問題なし
〇
⑦
設計レビューにやや工数を掛けす
ぎている
△
全てのチームが基準をクリアしていない。
マイルストンを達成しているチームはな
い
×
10
5
Normal
0
Corp012 Corp008 Corp007 Corp011 Corp009 Corp010 Corp013
企業名
仕様レビュー作業充当率(%)
20
参考値
設計レビュー作業充当率
25
充当率(% )
20
Highly Critical
15
10
5
Normal
0
Corp012 Corp008 Corp007 Corp011 Corp009 Corp010 Corp013
企業名
設計レビュー作業充当率(%)
25
充当率(% )
充当率(%)
25
20
全てのチームが基準をクリアしているた
めマイルストンは達成している
Highly Critical
15
10
5
参考値
レビュー工数に関するメトリクス
0
からマイルストンの達成度を Corp012
評価する例
コードレビュー作業充当率
充当率(% )
14
12
10
8
6
4
2
0
Highly Critical
Normal
Corp012 Corp008 Corp007 Corp011 Corp009 Corp010 Corp013
企業名
コードレビュー作業充当率(%)
Normal
Corp008 Corp007 Corp011 Corp009 Corp010 Corp013
企業名
参考値
設計レビュー作業充当率(%)
参考値
設計のレビューにどれだけ工数をかけているかをプロジェクト規模とのバランスで表す
(実施率=設計レビュー工数/ソースコード全行数)
設計レビュー作業実施率
仕様レビュー作業実施率
Highly Critical
Normal
Corp012 Corp008 Corp007 Corp011 Corp009 Corp010 Corp013
企業名
仕様レビュー作業実施率(%)
参考値
設計レビュー作業実施率
16
14
12
10
8
6
4
2
0
実施率(% )
Highly Critical
Normal
Corp012 Corp008 Corp007 Corp011 Corp009 Corp010 Corp013
企業名
設計レビュー作業実施率(%)
参考値
コードレビュー作業実施率
8
7
6
5
4
3
2
1
0
実施率(% )
Highly Critical
Normal
16
14
12
10
8
6
4
2
0
Highly Critical
実施率(% )
実施率(% )
16
14
12
10
8
6
4
2
0
Normal
Corp012 Corp008 Corp007 Corp011 Corp009 Corp010 Corp013
企業名
Corp012 Corp008 Corp007 Corp011 Corp009 Corp010 Corp013
企業名
コードレビュー作業実施率(%)
参考値
設計レビュー作業実施率(%)
図3-24
参考値
①
まったく足りていない
×
②
25%程度達成
×
③
50%程度達成
×
④
まったく足りていない
×
⑤
まったく足りていない
×
⑥
25%程度達成
×
⑦
まったく足りていない
×
メトリックス可視化データからマイルストンの達成度評価実施の例
105
3-1-3-B 特許出願状況等
本事業に関わる規格文書の発行数、対外発表の件数等は表3-1に記す通りである。
規格文書
JASPAR内
公開
7件
表3-1 規格書発行、発表件数等
規格文書
論文寄稿
講演・発表
新聞記事
国際標準化
提案
3件
1件
6件
12件
本事業の成果はJASPAR規格文書として発行し、会員向けに公開される。表3-2に
示す7件の規格文書を、発行に向けてJASPAR内で所定の手続き中である。うち3件を
海外の標準化組織であるAUTOSARに向けて提案活動中である。
表3-2
題目
規格文書リスト
発行元
自動車用制御基盤ソフトウェア推奨要求定義書
カーネル編 Ver.1.0
自動車用制御基盤ソフトウェア推奨要求定義書
RTE編 Ver.1.0
自動車用制御基盤ソフトウェア推奨要件定義書
ソフトウェアアーキテクチャ編 Ver.1.0
自動車用制御基盤ソフトウェア開発ツール推奨要求定義書ECU
Configuration Tool編 Ver.1.0
自動車用制御基盤ソフトウェア開発ツール推奨要求定義書
System Design Tool-ECU Extract Tool間インタフェース編
Ver.1.0
自動車用制御基盤ソフトウェア開発ツール推奨要求定義書ECU
Configuration Tool-ECU Generation Ver.1.0
自動車用制御基盤ソフトウェア開発ツール開発ガイドライン
パラメータ設定編 Ver.1.0
106
国プロ
推進WG
国プロ
推進WG
国プロ
推進WG
国プロ
推進WG
国プロ
推進WG
国プロ
推進WG
国プロ
推進WG
海外標
準提案
○
○
○
―
―
―
―
対外的な発表として、表3-3に示す通り論文1件を専門誌に投稿し、講演6件を
実施した。
論文
発表
発表
発表
発表
発表
発表
表3-3 論文、発表リスト
題目・メディア等
SEC Journal別冊 第5巻 第2号
「JASPAR・国プロ推進WGにおけるETSSの導入」
北本 桂造、他11名
Automotive Technology Days 2007 Autumn
「JASPARにおけるエンピリカルソフトウェア工学の取り組
みに関する報告」
村上 晋一郎(キャッツ)
AT International 2008
「JasParの活動状況 AUTOSARとの協調について」
安達 和孝(日産自動車)
AT International 2009
「産学連携ソフトウェア工学実践事業
(高信頼性組込みソフトウェア開発)
標準実装TF活動紹介」
岩井 明史(デンソー)
AT International 2009
「産学連携ソフトウェア工学実践事業
(高信頼性組込みソフトウェア開発)
プロセス関連活動紹介」
佐藤 浩司(トヨタ自動車)
国際カーエレクトロニクス技術展
「JasParにおけるAUTOSARベーシックソフトウェア関連の
開発状況について」
安達 和孝(日産自動車)
AUTOSAR Open Conference
"JASPAR NATIONAL PROJECT
Implementation and Evaluation of AUTOSAR Software"
安達 和孝(日産自動車)
107
時期
H21.4
H19.11
H20.7
H21.7
H21.7
H22.1
H22.5
3-2-B 目標の達成度
環境、安全などの社会的要求から自動車は電動化、高機能化が行われており、電子制
御システムが国際競争力の大きな影響を与えるようになっている。このような状況の中
で、車載電子制御ソフトウェアの開発は増加、複雑化の一途をたどっておりプラットフ
ォームベースによる高信頼、高効率な開発が求められている。本事業では、高信頼・高
効率な共通基盤ソフトウェアの構築と、ソフトウェア工学に基づく高効率な開発環境の
整備、中小組込みソフトウェアメーカの育成 (開発人材の育成)といったことを目標
とし開発を行った。全体目標に対する成果、達成度は、表3-4のように全ての項目を
達成しており、一部の項目では目標を上回る結果も得た。
表3-4 全体成果まとめ
◎:目標を上回る成果、○:目標達成、×:目標未達
目標項目と概要
Ⅰ.高信頼・高効率な共通基盤ソフトウェアの構築
1) 車載電子制御システムに適用できるBSWを開発し,実システム
に搭載して、従来と同等の性能を確認する.
成果と目標の達成度
自動車メーカ、部品メーカ、組込みソフトメーカ、半導体メーカ、ツー
ルメーカが、業界横断的にBSWを共同開発。さらに、開発したBS
Wを実システムに適用・評価した結果、従来と同等の性能を確認で
きた。
2) BSWを開発してベンチマーク評価を実施し、性能がAUTOSAR版 ベンチマーク評価を実施し、ROM/RAM消費量、CPU負荷率等の観
を上回ることを確認する.
点でAUTOSAR版BSWに対する優位性を確認した.
3) 開発成果物(ソフトウェア,開発プロセス)について,我が国発の 本開発成果の国際標準化に向けて,2010年にAUTOSARコンソーシ
国際標準化を目指し世界基準とする.
アムにJASPAR版BSWの主要技術である「プロファイル」,「クラスタ」
コンセプトについて提案を行った.AUTOSARから高い評価を受け、
規格化する方向で現在調整中である.
Ⅱ.ソフトウェア工学に基づく高効率な開発環境の整備
1) 組込みソフトウェアの開発プロセスの効率性向上を図るため、欧 車載ソフトウェア開発の生産性・信頼性を向上させるため、サプライ
州の先進的取組みを調査するとともに、サプライチェーン関係者 チェーン関係者間のインターフェースの共通化(受発注情報の統一)
間のインターフェースの共通化を図る.
を図った.
2) 構造設計から単体テストまでのプロセスについて,開発の負荷軽 高品質な製品を生み出す日本の開発プロセス(すり合わせ型)に,
減,信頼性向上を意識し,設計パラメータ削減を実現するツール 欧米流のプラットフォームベース開発(組合せ型)の方法論を融合し
チェーンを開発・実装評価する.
た、ツールチェーンを開発.大幅なパラメータ設定項目の削減
(AUTOSARに対して75%削減)が可能となり、開発生産性・信頼性を
向上させた.
Ⅲ.中小の組込みソフトウェアメーカの育成
1) IPA/SECが公開しているETSSを土台にして,車載制御ソフトウェ
ア技術スキル診断手法(自動車版ETSS)を整備する。それによっ
て、スキルの見える化、及び技術力向上項目の特定化を図り、
技術者のスキル向上に繋げる.
車載組込みソフトウェア開発に対応した独自のスキル診断システム
を開発.また、中小組込みソフトウェアメーカを大手自動車メーカと
共同で開発作業に従事させ、スキル診断システムを用いて組込み
ソフトエンジニアのスキル向上を定量的に確認できた.
2) IPA/SECで開発中のEPMと,品質指標(ESQR)などを組合わせ プロジェクト管理指標と品質指標を組み合わせて開発進捗状況の見
ることで開発進捗状況の実情を発注側が把握できるようにし,受 える化手法を開発して、本事業に適用した.開発者のスキルと開発
注側のマネージメント力向上に繋げる.
進捗に強い相関が確認でき、マネージメントツールとしての有効性
を確認できた.
108
○
○
◎
◎
○
◎
○
4-B 事業化、波及効果について
4-1-B 事業化の見通し
(1)本事業の製品化
本事業の成果を用いた製品適用の例として、イーソル(株)及び(株)チェンジビジ
ョンの二社が図4-1に示すようにソフトウェア自動生成ツールの製品化を発表して
いる。
図4-1 本事業の製品化適用例
(2)JASPAR版ETSSの活用
本事業の成果であるJASPAR版ETSSはJASPAR会員であるシステムサプライヤ及び自動
車メーカにて、自社の人材のソフトウェア技術力把握、向上のための診断に用いられて
いる。また、車載電子制御システムの開発委託を実施しようとする際の請負先の企業に
対して、JASPAR版ETSSを用いた診断により、発注しようとする業務が行えるレベルにあ
るのか、また実施中の業務の改善点の抽出などに利用されるなど、広く普及、活用が始
まっている。
109
4-2-B 波及効果
(1)本事業の報告会の実施
本事業の成果を広くアピールすることを目的として、平成22年2月4日に東京お台
場の日本科学未来館並びに隣接する駐車場に於いて報告会を実施した。本報告会は
・プレス向け事業成果発表会
・実車によるデモンストレーション
・専門家向け技術セミナー
の3部構成にて開催した。図4-2はプレス向けに配布した開催案内のレターである。
当日は新聞・TV局等計20社より取材を受け、計11のメディアにより報道された。
表4-1にその詳細な内訳を示す。また翌日に各新聞に掲載された記事の内容を図4-
3に示す。
図4-2
成果発表会のプレス向け案内レター
表4-1 マスコミ取材及び報道の状況
取材数 報道数
TV
5
2
NHK、TV東京(昼のNews、WBS)
新聞
7
5
日経、日経産業、中部経済、中日、産経ビジネス
アイ
日刊工業、電波新聞
EDN JAPAN、日経BP Tech ON(WEB記事)
業界紙
3
専門雑誌 5
合計
20
2
2
11
110
中日 中経
日経
日刊工業
図4-3
日経産業
フジサンケイ
ビジネスアイ
成果発表会に関する新聞報道記事(平成22年2月5日付)
図4-4
マスコミ向け発表の会場スナップ写真
実車によるデモンストレーションでは、JASPAR版BSWを組み込んだ車載制御システム
を搭載した3台の試作車を会場に展示し、実際に来場者の試乗も含めた走行デモを実
施した。図4-5に実車デモの様子を示す。また表4-2に主な参加者を記す。
111
図4-5
組織名
JASPAR
(各社役員)
JASPAR
理事/幹事
JASPAR
国プロ関係者
実車によるデモンストレーション実施の様子
表4-2 成果発表会の主な参加者
(所属・役職は当時のもの。敬称略。)
所属・役職等
氏 名
日産自動車㈱ 副社長
山下 光彦
本田技研工業㈱ 会長
青木 哲
㈱デンソー 副社長
徳田 寛
豊田通商㈱ 専務
髙梨 建司
トヨタ自動車㈱ 常務役員
宮田 博司
㈱本田技術研究所 常務取締役
川口 祐治
㈱豊通エレクトロニクス 代表取締役社長 岡本 康
㈱デンソー 常務役員
村山 浩之
イーソル㈱ 専務取締役
長谷川 勝敏
㈱チェンジビジョン 代表取締役社長
平鍋 健児
㈱サニー技研 代表取締役社長
上月 富夫
専門家向けセミナーは、JASPAR会員以外の業界関係者等を招き、ワーキンググループ
主査並びに各タスクフォースリーダより本事業の成果及び試作車・展示品の説明を実施
した。来場者は107名であった。図4-6に技術セミナーのプログラムを示す。また
図4-7は会場内の様子を撮影したものである。
(2)その他
平成22年度から、経済産業省において、車載組込みソフトウェア開発について、ISO
で平成23年度に規格化が予定される機能安全の対応を図るための事業が実施されて
いる。当該事業では、ソフトウェア開発に関する機能安全対応ガイドラインを策定する
とともに、機能安全対応の共通基盤ソフトウェアとツールを開発するが、後者について
は本事業で開発したBSWとツールがベースとなる予定である。
112
図4-6 技術セミナープログラム
図4-7 技術セミナー会場スナップ
113
5-B 研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等
5-1-B 研究開発計画
本研究開発は、平成19年度を初年度とする三ヵ年計画にて実施し、平成19年度を
環境整備フェーズ、平成20年度を開発フェーズ、平成21年度を検証フェーズとそれ
ぞれ位置づけた。
図5-1 研究開発計画
平成19年度
担当
全体日程
Q2
Q3
平成20年度
Q4
Q1
Q2
環境整備フェーズ
マイルストーン
標準実装
タスクフォース
Q1
岩井
ツール開発
橋本
タスクフォース (本田技研)
平成21年度
Q4
開発フェーズ
評価レポート★
(デンソー)
Q3
評価レポート★
Q1
Q2
Q3
Q4
検証フェーズ
評価レポート★
JASPAR BSWの要件定義
AUTOSAR BSWプロトタイプ実装
AUTOSAR BSW評価
JASPAR BSW仕様策定
JASPAR BSW開発
JASPAR BSW評価(単体)
JASPAR BSW仕様検証
JASPAR BSW評価
JASPAR BSW評価(総合)
ツールの要件策定
ソフト設計ツール
評価基準の策定
システム設計ツール
ツールフレームワーク
評価によるフィードバック
検証ツールとの連携
評価によるフィードバック
プロセス試行
要件に基づくプロセス定義
プロセス評価:システム開発試行
プロジェクト管理ツール検証環境
プロセス 評価: システム 開発適用評価
プロセス
石井 プロセス 評価:BSW/ツール開発適用
タスクフォース (トヨタ) プロジェクト管理計画・進捗管理試行
実証・標準提案
プロジェクト管理まとめ
研究開発の実施は、自動車用制御基盤ソフトウェアの仕様策定と実装評価を行う標準
実装タスクフォース、ソフトウェア開発環境及びツールの仕様策定と実装評価を行う開
発ツールタスクフォース、車載電子制御システム開発プロセスの実証を行うプロセスタ
スクフォースの三つを組織して遂行した。
(1)自動車用制御基盤ソフトウェアの仕様策定と実装評価
標準実装タスクフォースは1年目にAUTOSAR版BSW仕様分析とプロトタイプ実装によ
る評価及びこれに基づくJASPAR版BSW要件定義を行うと共に開発体制並びに環境構築を
進め、2年目にはJASPAR版BSW仕様策定とその実装・評価を行い、3年目にはJASPAR版
BSWの検証・評価を行いその結果を前年に策定した
JASPAR版BSW仕様へフィードバックする計画とした。
(2)開発環境・ツールの仕様策定と実装評価
開発ツールタスクフォースは1年目にAUTOSAR仕様の分析、既存ツールの評価及びツ
ール仕様の策定を行い、2年目に1年目に策定したツール仕様に基づくプロトタイプツ
ールの開発を行い、3年目にはプロトタイプツールを用いたソフトウェア開発の実証を
行う計画とした。
(3)プロセス実証
プロセスタスクフォースでは1年目に車載電子制御システム開発プロセスの要件定
義を行い、2年目は1年目の課題を受けて日本におけるマルチサプライヤ型開発を実現
するために最優先で共有化すべき自動車メーカとサプライヤ間のインターフェースの
定義、体系化を行い、3年目には2年目までの成果に基づくプロセスの実証・標準化を
行う計画とした。
114
5-2-B 研究開発実施者の実施体制・運営
本研究開発は、公募による選定審査手続きを経て、一般社団法人JASPARが経済産業省
からの委託を受けて実施した。また、再委託先としてJASPAR会員企業である中小の組込
みソフトウェアメーカ及びツールメーカ計15社が参加した。更に、再委託先以外の大
手自動車メーカ、サプライヤ、半導体メーカ13社がワーキンググループメンバーとし
て参加した。図5-2に本研究開発のスキームを示す。
自動車メーカ
情報処理推進機構
(IPA/SEC)
協力
トヨタ自動車(株)
日産自動車(株)
(株)本田技術研究所
マツダ(株)
経済産業省
大
手
企
業
支援
JASPAR
サプライヤ
(株)デンソー
日立オートモティブシステムズ(株)
(株)ホンダエレシス
(株)ケーヒン
カルソニックカンセイ(株)
日本精機(株)
半導体メーカ
<中小企業>
・組込みソフトメーカ
・ツールメーカ
NECエレクトロニクス(株)
(株)ルネサステクノロジ
富士通マイクロエレクトロニクス
組込みソフトウェアメーカ/ツールメーカ
マッチング
<大手企業>
・自動車メーカー
・サプライヤ
・半導体メーカ
●中小企業の開発作業に
対する支援(人件費)
●大手企業とのマッチング
機会の創出
中
小
企
業
人件費等の支援を受けた企業
(株)アドバンスド・データ・コントロールズ
(株)アックス
イーソル(株)
(株)ヴィッツ
(株)永和システムマネジメント
(株)OTSL
(株)ガイア・システム・ソリューション
ガイオ・テクノロジー(株)
キャッツ(株)
(株)サニー技研
(株)チェンジビジョン
(株)日立情報制御ソリューションズ
富士ソフト(株)
(株)未来技術研究所
横河ディジタルコンピュータ(株)
図5-2 研究開発スキーム
研究開発の実施に当たっては、研究開発を統括するためのプロジェクトリーダー(日
産自動車 安達和孝)を主査とする新しいワーキングループ「国プロ推進ワーキンググ
ループ」をJASPAR内に発足させ、研究開発テーマ推進のため国プロ推進ワーキンググル
ープの配下に三つのタスクフォースを設置した。
また、「実機適用に向けた実証」の活動を実施するため、国プロ推進ワーキンググル
ープ配下に三つのチームを2年目より発足させた。国プロ推進ワーキンググループ(WG)
とその配下に設置された三つのタスクフォース(TF)および三つのチームの体制を、図
5-3に示す。
115
JASPAR運営委員会
主査: 安達(日産)
副主査: 佐藤(トヨタ)
国プロ推進WG
国プロ推進WG
管理グループ
管理グループ
豊通エレ、ガイア
ガイア
※技術管理・技術事務
ブリッジSE
標準実装TF
標準実装TF
リーダ: 岩井(デンソー)
サブリーダ: 井野(日産)
仕様グループ
仕様グループ
開発ツールTF
開発ツールTF
リーダ: 橋本(ホンダ)
サブリーダ: 佐藤(トヨタ)
仕様グループ
仕様グループ
JASPAR BSW仕様の策定
プロセスTF
プロセスTF
JASPARツール仕様の策定
アーキテクチャチーム
ミドルウェアチーム
システム設計ツールチーム
カーネルチーム
ソフトウェア設計ツールチーム
評価グループ
評価グループ
システム仕様記述小委員会
システム仕様記述小委員会
システム仕様記述方法の定義、
およびツール要件の定義
アーキテクチャチーム
実装グループ
実装グループ
リーダ: 石井(トヨタ)
リーダ代行: 佐藤(トヨタ)
サブリーダ: 菅沼(デンソー)
ETSS小委員会
ETSS小委員会
ETSSプロファイルの策定と評価
①自動車用制御基盤ソフトウェア
開発エンジニア向けプロファイル
②ツール開発エンジニア向け
プロファイル
ソフトウェア検証ツールチーム
JASPAR BSWの実装
(ジェネレータ含む)
JASPAR BSWの評価
実装グループ
実装グループ
JASPARツールの実装
評価グループ
評価グループ
JASPARツールの評価
評価用ソフトチーム
評価用ソフトチーム
安全制御系
安全制御系
評価用ソフトチーム
評価用ソフトチーム
ステアリング系制御
ステアリング系制御
評価用ソフトチーム
評価用ソフトチーム
ITS系制御
ITS系制御
リーダ: 城戸(トヨタ)
リーダ: 加藤(日産)
リーダ: 橋本(ホンダ)
EPM小委員会
EPM小委員会
EPM仕様の策定、および
ツール要件の定義
ESPR/ESMRの適用と評価
図5-3 研究開発実施体制
図5-4に研究開発の計画と実行のサイクルを示す。研究開発を推進するに際しては
経済産業省情報処理振興課ならびにアドバイザーである独立行政法人情報処理推進機
構ソフトウェア・エンジニアリング・センター(IPA/SEC)とJASPARが緊密に連携し、
年間計画策定時におけるフィードバック及び計画実行時における各週ヒアリングの実
施により、着実なPDCAサイクルの実行が行える体制を構築した。
経済産業省情報処理振興課
IPA/SEC
JASPAR
国プロ・ワーキング
計画への反映
Plan
フィードバック事項の実行
Action
評価項目の追加・変更
予算執行の修正
各週ヒアリング
開発進捗の確認
開発内容のフィードバック
年度計画の実行
Do
(計画に基づく)
各TFでの開発
予算執行
年度計画のフィードバック
開発項目・成果内容
予算費目・額など
年度計画の策定
Plan
Check
(前年度振り返り基づく)
開発項目
予算申請
図5-4 開発計画と実行サイクル
図5-5は年度計画の実行時における具体的な開発進捗報告の実施要領を示す。三つ
116
のタスクフォースによる毎月各1回の定例報告会を開催し、開発の進捗状況やトピック
ス報告を行い、経済産業省からのフィードバックを得る。更に全体の進捗概要報告は毎
月開催される国プロ推進ワーキンググループの会議の場において実施する。
進捗状況・トピックス報告
/フィードバック
経済産業省
情報処理振興課
((独)情報処理振興機構)
毎月第1週
第2週
全体進捗概要報告
毎月第4週
JASPAR
国プロ推進ワーキング
標準実装タスクフォース
開発ツールタスクフォース
プロセスタスクフォース
評価用ソフトチーム
図5-5 開発進捗報告
117
第3週
5-3-B 資金配分
資金配分は三年間で総額3,039百万円を表5-1に示す通りの配分を行った。
表5-1 資金度配分
年度 平成
19
標準実装タスクフォース
355
ツール開発タスクフォース
159
プロセスタスクフォース
126
評価用アプリ開発チーム
0
サーバー、プロジェクト室管理費用
136
合計
776
(単位:百万円)(税抜)
20
21
合計
403
350
1、107
218
255
632
204
187
516
170
207
377
139
131
406
1,134
1,130
3,039
5-4-B 費用対効果
1-3-Bでも述べたように、本事業は、開発成果物が自動車産業以外にも裨益す
るために波及性が高く、また、組込みソフトウェア開発の信頼性・安全性の向上に資
するために公益性も非常に高い。以上のような効果全体は、その金額的価値を試算す
ることが極めて困難であるが、自動車産業における車載組込みソフトウェア開発のコ
スト削減という観点に絞って費用対効果を試算しても、投入資源に十分見合った効果
が期待できる。
具体的には、製品開発費の約10%の削減効果が期待できる。なぜなら、企業ヒア
リングの結果から、製品開発費のうち組込みソフトウェア開発は約50%、組込みソ
フトウェア全体に占める共通領域は約20%であると仮定すると、製品開発費は約1
0%削減(=50%×20%)となるからである。これは、組込みソフトウェア産業
実態調査によると我が国の組込み製品開発費は約7.4兆円であるため、我が国全体
で7,400億円(=7.4兆円×10%)のコスト削減に相当することになり、本事
業の予算額が約30億円であることを踏まえれば、費用対効果は極めて大きいと言え
る。
5-5-B 変化への対応
組込みソフトウェアの産業戦略上の重要性、組込みソフトウェアの品質に対する国
民のニーズの高さ、AUTOSARの共通基盤ソフトウェアに関する取組み状況等は、基本的
に事業開始時から大きな変化はなく、むしろ我が国組込みソフトウェア産業にとって
リスクが高くなる方向に各傾向が強まっているため、本事業の迅速な遂行が「変化へ
の対応」に他ならない。
代替手段の検討については、本事業の目的の一つとして、AUTOSARの進める共通基盤
ソフトウェアの国際標準化への対応が挙げられるため、日本発の車載共通基盤ソフト
ウェアを構築しない限り、十分な対応とは言えず、他の手法をとることは考えにくい。
118
C.IT投資効率性向上のための共通基盤開発プロジェクトの概要
1-C.
事業の目的・政策的位置付け
1-1-C 事業目的
産業に於けるITの役割が拡大することに伴い、半導体、装置、情報システムを
含めたあらゆる事業領域において、ソフトウェアの開発規模が急増し、アーキテ
クトやシステムエンジニアなど高度人材の不足といった課題が、産業全体として
の経営問題に発展している。このような状況において、我が国における情報家電
産業の競争力強化に向けては、日本の強みを活かしつつ、モジュール化・サービ
ス化を睨んだ情報化プラットフォームの推進が必要となってきている。
このような情報化プラットフォームの推進に、以下の視点を前提とした検討が
重要なポイントとなる。まず、ブラックボックス化すべき差異化領域と、オープ
ンにすべき非競争領域を明確化し、標準化する領域を見極めること。第二点とし
て、情報化プラットフォームのベースとなる技術(チップ、OS、ミドル、アプリ
など)を利用技術の観点で明確化すること。第三点として、開発、販売といった
フェーズにおいて、関連する企業を巻き込んだ仲間作りの仕組みを構築すること
である。これら三つの項目を、関連する企業の経営者や現場の開発者を含め連携
しながら取り組んでいく必要がある。
以上の課題解決に向けた組込み領域におけるプラットフォーム化の動向とし
て、組込み領域における高機能化・ネットワーク化が進展する中、自動車および
携帯電話の領域では、ユーザーやベンダーの参画による「デバイス+ソフト」の
プラットフォーム化の動きが既に進展している。一方、日本の強みである情報家
電領域では、このような動きは未だ鈍く、次なるステップへの飛躍に向けて、情
報化プラットフォームの検討および推進が急務と考えられる。
情報家電領域の状況としては、デジタル放送の進展と、それに伴うIP化が進ん
でいる。デジタル放送浸透とともに、IPネットワーク化(IP放送、ホームネット
ワーク)により、IPコンテンツと、放送・マルチメディアコンテンツとの融合も
今後加速すると考えられている。さらに、IP化により、情報家電がWeb2.0に対応
して進化し、情報家電とIPコンテンツ(Web2.0)の融合による新たなビジネスチャ
ンスの到来が期待されている。各国でのアナログTVの停波や、IP-TVの進展に伴
い、2010年ごろデジタルTVの需要が爆発的に増加すると予測されている。さらに、
デジタルTVとIT技術/インターネットとが融合し、Web2.0的サービスが進展する
ことで、従来の枠を越えたデジタルTVが出現すると予測されている。しかしなが
ら、現在の情報家電業界は各社独自仕様でのソフトウェア開発に終始し、開発規
模の急増に十分な対応ができていない。
以上の状況を改善し、広がる情報家電のビジネスチャンスを捉えるためには、
ソフトウェアやサービスの新規開発ならびに、既存資産の再利用を促進するため
のプラットフォームの構築が不可欠である。本事業は、情報家電向けのプラット
フォーム上での特に情報家電向けに必須の機能であるメディア処理用インタフ
ェース(API)を共通化することにより、新しい情報家電の付加価値の高いソフ
トウェア/サービスの構築を容易にするとともに、再利用を促進し、ソフトウェ
119
ア体系の整備にかかるコストの低減を実現し、情報家電分野の投資効率に貢献す
ることを目的とする。
ところで、このようなメディア処理用インターフェース(API)を用いたソフ
トウェア・プラットフォームによる開発投資の効率化は、自動車および携帯電話
の分野では進展している。情報家電分野においては、APIの仕様を特に設定せず、
個別企業の情報家電機器へ単純にソフトウェアを実装したり、差異化領域と非競
争領域の分離がされていない等の理由からソフトウェア・プラットフォームの普
及が進んでいない。また、情報家電の標準化を進めているDLNA(Digital Living
Network Alliance)では情報家電間のネットワークに重点が置かれ、情報家電機
器内に組み込むメディア処理用のAPIは対象外である。(下図赤線部分がAPIに相
当)
本事業では、情報家電機器にフォーカスし、差異化領域と非競争領域を考慮し
ながらミドルウェアやアプリケーション・ソフトウェアとの境界を考慮して異な
るハードウェア上でも実装可能な、これまでに類を見ない独創性を有すAPIを開
発し、業界内へ普及を行う。
図 1-1 標準APIによる異なるハードウェア上でのソフトウェア流用性向上
1-2-C 政策的位置付け
本事業は、情報産業強化の政策に沿い、下記3つの政策通知に基づき実施され
る1施策である。
・ 「基本方針 2007 第2章 成長力の強化
Ⅲサービス革新戦略 (1)
IT 革新 ①IT による生産性向上」
・ 「経済成長戦略大綱 第2.生産性の向上(IT とサービス産業の革新 1.
IT による生産性向上と市場創出 (1)IT 革新による競争力強化 及び
(4)IT 革新を支える産業・基盤の強化)
・ 「成長力加速プログラム 第二章サービス革新戦略 3.IT 革新 (1)IT
による生産性向上」
120
1-3-C 国の関与の必要性
本事業は、日本の優位分野ながら、プラットフォームの標準化が遅れている情
報家電にフォーカスし、市場調査、ユーザーニーズ、技術動向、標準化動向の調
査分析を元に、情報家電向けAPI(Application Programmer’s Interface:上述
のハードウェア・インタフェースやマルチメディア・インタフェースの様に、他
のソフトウェアから呼び出されるソフトウェアの切り口を指す。)の開発とプロ
トタイプによる実証を行うことで、日本経済の発展に貢献する活動と位置づけら
れる。しかしながら、競合する半導体各社が保有するLSI上で実証を進める際に、
仕様への要求内容、動作の詳細情報等、共同で開発/評価/分析を、民間企業同士
で推進するには、求心力が必要であり、国による中立性の高いイニシアティブと
議論のリード/共同開発の場を設定する支援が望まれる。また、半導体上でソフ
トウェアを実装するミドルウェア・メーカーや、装置メーカーの多岐に渡る要求
を引き出し、業界全体が連携した技術確立の活動体制が必須であり、半導体業界
を超えIT業界全体に及ぶ、国によるイニシアティブが必要となる。一方、開発し
確立するAPIは、情報家電分野対応では、先進的活動であり、実用性については
実証を通して、初めての有効性を評価できるものである。半導体各社が、この施
策の全ての先行投資を負担するには、リスクが高いと予測される。業界の競争力
強化を目指しながらも、リスクがあることも否めず、活動には、国による支援が
必要と考えられる。
121
2-C.
研究開発等の目標
2-1-C 研究開発目標
近年、我が国の情報家電産業では、技術革新と擦り合わせ技術を得意としなが
ら、家電製品の普及期にシェアを失い、収益を確保できない問題に直面している。
また、IT投資効率向上の阻害要因であるソフトウェア開発投資の増大解決に向け、
モジュール化とAPI(注1)の標準化によるソフトウェアの再利用化を実現する
ソフトウェア・プラットフォーム整備が急務となっている。本プロジェクトは、
我が国に優位な分野ながらソフトウェア・プラットフォームのAPI標準化が遅れ
ている情報家電にフォーカスし、以下に記載するメディア・インターフェース(注
2)とハードウェア仮想化による標準API仕様開発、及び、標準化支援活動を実
施する。
APIの開発においては、最終製品の価値を定める差異化領域と、オープンな標
準化により共通化や再利用化が可能な非競争領域を明確化し、それらの境界およ
びその間のインターフェース、プラットフォームのベースとなる技術(LSIデバ
イス、OS、ミドルウェア(注3)、アプリケーション(注4)など)を利用技術
の観点から決定する。これにより、新しい付加価値の高い情報家電向けソフトウ
ェアの構築が容易になるとともに再利用が促進され、ソフトウェア開発の投資の
選択と集中が可能となる。
本事業では、標準ソフトウェア・プラットフォームを確立することで、次世代
情報家電製品の普及期においても、シェアと収益が確保できる事業環境のモデル
ケースを目指し、日本の情報家電産業の発展に貢献することが目標である。その
為に、併置している業界メンバーによる協議会に、本事業の成果を示し、標準化
方向を検討することによって次世代情報家電の普及と収益確保に向けた基盤整
備を支援する。
注1)
API: Application Programming Interface ソフトウェアモジュー
ル、あるいは階層間の入出力情報。ハードウェア・インタフェースやマ
ルチメディア・インタフェースの様に、他のソフトウェアから呼び出さ
れるソフトウェアの切り口を指す。
注2)
メディア・インターフェース:画像や音のデータを処理し、画面で
の視聴などを実現する処理ソフトウェアを呼び出すインターフェースを
指す。
注3)
ミドルウェア:ハードウェアを直接制御するソフトウェアを活用し、
上位のアプリケーションから使われる基本的機能を実現するソフトウェ
アを指す。
注4)
アプリケーション:装置利用者の指令を受け、ハードウェア制御を
複数組み合わせ、装置全体を制御して、要求した機能を実現するソフト
ウェアを指す。
本事業の前提となる研究開発内容の全体構成概要を図2-1に示す。
122
図2-1 IT投資効率向上のための共通基盤開発プロジェクトの研究開発構成概要
2-2-C
全体の目標設定
表2-1.全体の目標
目標・指標
設定理由・根拠等
本事業では、情報家電分野の半導
本事業では、日本の優位分野なが
体メーカー、ミドルウェアメーカー、 ら、プラットフォームの標準化が遅
機器メーカーが連携し、共通ソフト れている情報家電にフォーカスし、
ウェア・プラットフォームを開発す 市場調査、ユーザーニーズ、技術動
る。これにより、ソフトウェアの移 向、標準化動向の調査分析を基に、
植性を実証し、開発費の低減効果を 情報家電向け標準APIの開発とプロ
国内外にアピールし、情報家電分野 トタイプによる実証を設定した。
でワールド・ワイドに展開可能な日
また、標準APIの評価、普及、発
本発の共通ソフトウェア・プラット 展を目的とした分野横断で活用で
フォームを実現する。
きる協議会活動を行うことを提案
また、ミドルウェア、情報家電機 した。
器業界からの標準技術要求を反映さ
せるための協議会発足を支援すると
ともに活動に参加する。
123
2-3-C
個別要素技術の目標設定
要素技術
メディア・イン
タフェース用
API仕様の策定
メディア・イン
タフェース用
APIの実証開発
メディア・イン
タフェース用
拡張API仕様の
策定
メディア・イン
タフェース用
表2-2.個別要素技術の目標
目標・指標
設定理由・根拠等
デジタルTV等メディ
情報家電分野における組込
ア処理をアプリケーシ
みソフトウェアの開発費の低
ョン層とメディアフレ
減の為、ソフトウェア階層間の
ームワーク層に分離す
標準APIを有するソフトウェア
るためメディア・インタ ・プラットフォームによるソフ
フェース用API仕様の策 トウェアモジュールの再利用
定を行う。情報家電分野 化促進やソフトウェア・パッケ
に好適なメディア・イン ージの利用拡大が有効である。
ターフェースを定義す
しかし、現在まで、情報家電業
ることにより、マルチメ 界は各社独自仕様のソフトウ
ディアに関わるソフト
ェア体系を整備しており、API
ウェア(ミドルウェア、 の標準化の必要性を認識しつ
アプリケーション)資産 つも企業間連携を進める場が
の流用を可能にする。
無く、十分な対応ができていな
かった。この為、本事業では、
情報家電向けソフトウェア・プ
ラットフォームに用いるAPIを
開発する目標を設定した。
メディア・インタフェ
実証開発を通じ、策定した
ース用APIの仕様を用い API仕様が機能面、性能面、品
て正しくマルチメディ
質面で十分であるかどうかの
ア処理を実行できるこ
確認を行うと共にその課題を
とを3社(NECエレクトロ 抽出する目標も設定した。表面
ニクス、東芝、ルネサス 化した課題について策定した
テクノロジ)のLSIを使 API仕様へのフィードバックを
用した試作ボード上で
実施し、実使用に耐えるメディ
確認完了する。
ア・インターフェース用API仕
様策定を行う。
デジタルTV対応のマ
今後想定されるネット経由
ルチメディア用インタ
の新規サービス向けに必要な
ーフェースを基に、DLNA 拡張API仕様の確立を実証を目
やインターネットなど
指して、当技術目標を設定した
ネットワークに対する
仕様拡張と、録画再生等
の複合動作に対する拡
張を行う。
メディア・インタフェ
実証開発を通じ、策定した
ース用拡張API仕様に基 API仕様が機能面、性能面、品
124
拡張APIの実証 づき、開発評価システム 質面で十分であるかどうかの
開発
上で実証開発を行い、こ 確認を行うと共にその課題を
れらの拡張仕様が機能
抽出する目標も設定した。表面
面、性能面、品質面で十 化した課題について策定した
分であることを確認し、 API仕様へのフィードバックを
抽出した課題について
実施し、実使用に耐えるメディ
前記API仕様にフィード ア・インターフェース用API仕
バックを行う。
様策定を行える。
ハードウェア
主プロセッサで制御
従来、組込み機器などに用い
仮想化インタ を行うデバイスドライ
られるデバイスドライバ・ソフ
フェース(HAL) バ・ソフトウェアに対し トウェアは、同様な機能であっ
仕様の策定
て、ソフトウェアで抽象 てもハードウェアを変更する
化を行う層(HAL:ハー 毎に開発が必要となっており、
ドウェア・アブストラク 効率の悪さが問題となってい
ション・レイヤー)の仕 る。同種のデバイスドライバ・
様定義を行い、可搬性の ソフトウェア開発規模を必要
高いデバイスドライバ
最小限にするため、ハードウェ
・ソフトウェアを構築す ア仮想化の技術を導入する目
る。
標を設定した。HALは、デバイ
スドライバ・ソフトウェアに代
わりハードウェアの仕様変更
に対応し、そのハードウェアの
制御を行うデバイスドライバ
・ソフトウェアの再開発や修正
工数を抑えることが可能にな
る。
HAL仕様の効果
異なるハードウェア
Linuxデバイスドライバ・ソ
実証
上で同じ機能を実現す
フトウェアのHAL対応実装を行
るデバイスドライバの
い、HAL対応をしていないデバ
HAL上でのソフトウェア イスドライバ・ソフトウェアと
の移植性実証を完了す
の比較を行い、HALの有効性を
る。
実証する目標を設定した。
HAL仕様範囲拡
デバイスHALの適用範
現状、ブートローダは、その
大および実証 囲を拡大しブートロー
多くをハードウェア依存部に
開発
ダーに対するHALの検
よって構成されているが、通信
討、USB HAL等の定義と プロトコルスタックやファイ
仕様策定を行う。ブート ルシステムなど、ハードウェア
ローダがハードウェア
非依存な上位サービスの充実
固有部から分離され再
したものが普及してきている。
利用性の向上を実現す
これらの機能を流用するため、
る
実証開発ではブートローダの
デバイス依存性を、HALインタ
125
移植性検証
拡張仕様に対する実
証開発を通じて、メディ
ア・インタフェース用
API仕様のソフトウェア
移植や再利用性に関し、
ISDB-T以外の他地域対
応ミドルウェアによる
視聴検証を行う。また、
ハードウェア、OS、ミド
ルウェアの各視点で、ソ
フトウェアの移植性検
証を行う。更に、OS変更
による移植性に対して
も、Linux以外にRTOS上
での動作実証を行う。
標準化支援活
動
機器メーカー、ミドル
ウェアメーカー、半導体
メーカーにより設立さ
れた協議会と連携し、本
プロジェクトの成果を
業界標準に育成するよ
う、以下の活動を支援す
る
・策定したAPIのレビ
ューとフィードバック
126
ーフェースとデバイスHALによ
り取り除くことで、再利用性の
高いブートローダを開発する
目標を設定した。策定した機能
仕様の評価を行った上で、HAL
を用いたブートローダ・ソフト
ウェアの移植性をコーディン
グ量の変更量などを確認する
ことで明らかにできる。
3社(NECエレクトロニクス、
東芝、ルネサステクノロジ)が
所有する開発評価システム上
で、「メディア・インターフェ
ース用API仕様」のソフトウェ
ア移植や再利用性に対する下
記有効性を確認する為、当目標
を設定した。
(1)策定したAPI上でISDB-T
ミドルウェア以外のアプリケ
ーションソフトを用いて他地
域デジタルTVが試聴可能なシ
ステムが構築できるかを確認
する。
(2)本APIを実現するメディ
アフレームワークが他の基本
ソフトウェア(メディアフレー
ムワークの基礎となるソフト
ウェア)やハードウェアに対し
て容易に移植可能であること
を確認する。
(3)OSをRTOSに変更しても動
作可能であることを確認する
研究開発した「メディア・イ
ンターフェース用API仕様」を
業界に広く普及させるため、ま
た、業界の今後の技術革新に対
応する「メディア・インターフ
ェース用API仕様」を継続して
開発・展開するため、標準化を
推進するための活動が必須で
ある。この為、この目標を設定
した。
・活動提案内容のレビ
ューとフィードバック
127
3-C
成果、目標の達成度
3-1-C 成果
3-1-1-C 全体成果
産業におけるITの役割が拡大することに伴い、半導体、装置、情報システム
を含めたあらゆる事業領域において、ソフトウェアの開発規模が急増し、アー
キテクトやシステムエンジニアが不足する課題があった。また我が国の情報家
電産業では、技術革新とすり合わせ技術を得意としながら家電製品の普及期に
シェアを失い収益を確保できない問題に直面している。このようなソフトウェ
ア開発投資が増大する課題を解決するため、ソフトウェア・プラットフォーム
のAPI標準化が遅れている情報家電の分野にフォーカスし、各社の非競争領域部
分についてメディア・インタフェース用APIを策定し、本API仕様に基づいた実
証開発を行った。また、ハードウェアを仮想化するインタフェース仕様を策定
して実証開発を行った。本API仕様を業界に広く普及させるため、機器メーカー、
ミドルウェアメーカー、半導体メーカーによる協議会を発足させ、本プロジェ
クトの成果を業界標準に育成するよう、APIのレビューとフィードバックを行っ
た。また、これらの成果により情報家電向けのミドルウェアのハードウェアに
依存する制御部が分離されミドルウェアの流用性が向上した。またドライバか
らハードウェア依存部分を分離したため、ドライバの流用性が向上した。
メディアI/F(OMI)
図3-1
情報家電向けソフトウェア・プラットフォーム
3-1-2-C 個別要素技術成果
(1)メディア・インタフェース用API仕様の策定
色々な形式でデジタル化された映像や音声の時間的な流れを入力し、最終的
128
に対応する表示装置に適切な形式で出力するような処理をメディア処理とい
う。またメディア処理の中で特定のデータストリームに対して一連の処理を
実施するものを、メディア基本機能と呼ぶ。このようなメディア処理を実施
するソフトウェアをメディア基本機能群の実装と制御に関するメディアフレ
ームワーク層(MF層)と、その層の機能を使ってより複雑なメディア処理を
実現するアプリケーション層(AP層)とに分離し、その間のインタフェース
であるメディア・インタフェース用API仕様をOpen Media Interface(OMI)と
して定義した。
メディア処理
アプリケーション層
本プロジェクトで規定するイン
タフェース
メディア基本機能群
( Open Media Interface )
の実装と制御に関する層
(メディアフレームワーク層)
図3-2
OMIの概念
メディアフレーム層においてメディア基本機能群の制御を行うモジュールを
DIAメディアフレームワーク(DIA-MF)と定義し、また、メディア基本機能は
入力のデータストリームに一定の加工を加える処理の連鎖として実装される
ことが多いので、この一定の加工を加える単位的な処理対をメディアコンポ
ーネント(MC)とし、一連の処理の連鎖をメディアコンポーネントチェーン
(チェーン)と呼ぶこととした。OMIはこれら下層のモジュールを効果的に制
御するために以下のインタフェースを定義した。
表3-1
関数
OMI関数一覧
機能概要
OmiInit( )
メディアフレームワーク層の初期化を
行う
OmiDeinit( )
メディアフレームワーク層の終了処理
を行う
OmiCreateChain( )
チェーンを生成する
OmiReleaseChain( )
チェーンを解放する
OmiControlChain( )
チェーンを制御する
OmiSetEventMask( )
イベントマスクの設定と解除を行う
OmiSetCallbackChain( ) コールバック関数の登録および削除を
行う
OmiGetMessage( )
メッセージを取得する
OmiFreeMessage( )
メッセージを破棄する
129
非同期対
応
×
×
×
○
○
×
×
△
×
また、日本における地上デジタル放送(ISDB-T)のライブ再生を行うメディ
ア処理に対してOMIを用いて制御を行う際の詳細仕様を定めた。ISDB-Tライブ
再生に関するメディアソフトウェアの構成を図3-3に示す。
アプリケーション層
アプリケーション
ISDB-T再生用メディア処理ミドルウェア
OMI
メディアフレームワーク層
DIA-MF
デコード
映像
チューナー
制御
TS
ISDB-T再生メディアコンポーネントチェーン
図3-3
デコード
音声
映像出力制御
音声出力制御
ISDB-T再生メディア処理ソフトウェア構成図
OmiControlChain関数は、そのコマンドの処理が全て終わってから戻るブロッ
キングモードと、コマンドの要求を登録するだけで戻るノンブロッキングモ
ードの2種類の動作モードがある。ノンブロッキングモードの場合は、そのコ
マンドの処理が終わった時に、処理結果が事象の一種としてAP層に通知さ
れる。制御コマンドが発行されると、そのチェーンの構成要素である複数の
メディアコンポーネントに対して、一連の制御が適切な順序で実行される。
定義したメディア処理を制御するコマンド例を表3-2に示す。
表3-2
コマンド名
制御コマンドとその対応動作モード一覧
概要
動作モード
Block NonBlock
共通制御
OMI_CMD_RUN
チェーンを起動する
×
○
OMI_CMD_STOP
チェーンを停止する
×
○
OMI_CMD_GET_STATUS
チェーンの状態を取得す
る
○
×
OMI_CMD_GET_STC
STC値の取得
○
×
OMI_CMD_ALLOC_BUFFER
バッファの獲得
○
×
OMI_CMD_GET_BUFFER_INF
バッファ情報の取得
○
×
130
O
OMI_CMD_FREE_BUFFER
バッファの解放
○
×
OMI_CMD_RELEASE_BUFF_D
ATA
バッファデータ領域の解
除
○
×
OMI_CMD_SET_CONFIG
コンフィグ情報の設定
×
○
OMI_CMD_GET_CONFIG
コンフィグ情報の取得
○
×
OMI_CMD_DEMUX_
SET_PES_FILTER
PESフィルタの設定
×
○
OMI_CMD_DEMUX_
GET_PES_FILTER
PESフィルタ設定の取得
○
×
OMI_CMD_DEMUX_
CLEAR_PES_FILTER
PESフィルタ設定のクリア
×
○
OMI_CMD_DEMUX_
SET_ SECTION_FILTER
Sectionフィルタの設定
×
○
OMI_CMD_DEMUX_
GET_SECTION_FILTER
Sectionフィルタ設定の取
得
○
×
OMI_CMD_DEMUX_
CLEAR_SECTION_FILTER
Sectionフィルタ設定のク
リア
×
○
OMI_CMD_CA_INIT
CAシステムの初期化
×
○
OMI_CMD_CA_GET_INFO
CAシステム情報取得
×
○
OMI_CMD_CA_SEND_CMD
ICカードへのコマンド送
信
×
○
OMI_CMD_DESC_SET_ECM
デスクランブルECM PID設
定
×
○
OMI_CMD_DESC_GET_ECM
デスクランブルECM PID設
定取得
○
×
OMI_CMD_DESC_CLEAR_ECM
デスクランブルECM PID設
定解除
×
○
Demux制御
CA制御
デスクランブル制御
131
OMI_CMD_DESC_SET_ID
ICカードID設定
○
×
ビデオデコーダストリー
ム情報取得
○
×
オーディオデコーダスト
リーム情報取得
○
×
ビデオデコーダ制御
OMI_CMD_VIDEO_GET_STRE
AM_INFO
オーディオデコーダ制御
OMI_CMD_AUDIO_GET_STRE
AM_INFO
本メディア・インタフェース用API仕様は協議会のレビューを受け、実証開発
のフィードバックをかけた後、「OMI関数仕様書」、「OMIチェーン仕様書
ISDB-T再生編」に纏めた。
(2)メディア・インタフェース用APIの実証開発
策定したメディア・インタフェース用API仕様に基づき3社(NECエレクトロ
ニクス、東芝、ルネサステクノロジ)のLSIを使用したデジタルTVシステムに
おいて実証開発を行い、仕様が機能面、性能面、品質面で十分であることを
確認し、実証開発において摘出した課題はメディア・インタフェース用API仕
様にフィードバックをかけた。
①実証開発(NECエレクトロニクス)
NECエレクトロニクス社製のデジタルTV用システムLSI(EMMA2TH/H)を搭載
したデジタルTV用評価ボードを用いて実証開発を行った。本システムはOS
としてLinuxを使用し、EMMA2TH/Hのメディア用デバイスドライバ上にメデ
ィア・インタフェース用API層を構築した。またグラフィックス用インタフ
ェースとしてDirectFBを使用し、これらのインタフェース上にデジタルTV
用のミドルウェアおよび基本的なアプリケーション層と簡易GUIを設け、デ
ジタルTVとしての基本的な機能を実現した。評価はテストストリームを用
い、オーディオ・ビデオの同期再生やチャンネル切り替えおよび字幕の表
示など、デジタルTVとしての基本的な機能を確認した。本実証セットの概
念図を図3-4に、写真を図3-5に示す。
132
テストストリームデータ出力
メディア・インターフェース用
API仕様に基づいた
デジタルTVソフトウェアを搭載
データ 入力
映像出力
音声出力
データ 出力
(1)EMMA2TH/Hボード
(3)ストリーマ
(4)ディスプレイ
アプリケーション操作
OSイメージダウンロード
(5)リモコン
図3-4
図3-5
(2)ホストPC
実証セットの概念図
実証セットの写真
②実証開発(東芝)
東芝製プロセッサCellの評価セットCell Reference Set2(CRS2)を用いて実
証開発を行った。本実証セットはOSとしてLinuxを使用し、メディア用デバ
イスドライバ上にメディア・インタフェース用API層を構築した。またグラ
フィックス用インタフェースとしてDirectFBを使用し、これらのインタフ
ェース上にデジタルTV用のミドルウェアおよび基本的なアプリケーション
層と簡易GUIを儲け、デジタルTVとしての基本的な機能を実現した。評価は
実放送波を受信して行い、オーディオ・ビデオの同期再生やチャネル切り
替えなど、デジタルTVとしての基本機能を確認した。図3-6に本実証セ
ットの機器構成、図3-7に本実証セットの概要を示す。
133
図3-6
実証セットの機器構成
Digital Tuner
Boa rd
Main Board
XDR
DRAM
(1 GB)
AVIF
図3-7
On-Boa rd
Sys te m
Controlle r
BCAS
HDMI
Super
Cell
XDR
Companion
Broadband 1GB
Chip
Engine
Super
Compa nion
Chip
D Tune r
PCIe
GbEth er (1 ),
USB(4),
Serial(1),
PATA (2 )
AVIF
Cell
Broadband
Engine
D Tune r
実証セット概要
③実証開発(ルネサステクノロジ)
ルネサステクノロジ社製のデジタルTV用システムLSIを搭載した評価ボー
ドを開発し、その上にメディア・インタフェース用APIを実現するデジタル
TVフレームワークを搭載しデジタルTVリファレンスシステムを構築した。
OSとしてLinuxを使用しメディア・インタフェース用API仕様に準拠したド
ライバソフトおよびAPIを開発した。メディア・インタフェース用API仕様
の機能や性能を評価するためのテストプログラムを用い、デジタルTVとし
ての基本的な機能が実現できることを確認した。図3-8に本実証セット
のシステム構成、図3-9に本実証セットの写真を示す。
134
CAS
controller
図3-8
TS拡張コネクタ
B-CAS
Card
TS
CAS
TS拡張コネクタ
コネクタ
アンテナ
地上波デジタル
複合フロントエンド
CPU
HDMI
Transmitter
HDMIコネクタ
CPUボード
チューナーボード
TV
実証セットシステム構成
図3-9
実証セット写真
(3)メディア・インタフェース用拡張API仕様の策定
平成20年度に策定したメディア・インタフェース用API仕様を基に、ネットワ
ーク系メディア再生用、録画再生用API仕様と、インターネット・コンテンツ
再生等の新規サービス向け拡張仕様を策定した。
①ネットワーク系メディア再生
インターネット、及びホームネットワークにおいて配信されるビデオ/オー
ディオコンテンツを再生するメディア処理に対してOMIを用いて制御を行
う際の詳細仕様を定めた。図3-10にネットワーク系メディア再生処理
ソフトウェア構成を示す。
135
アプリケーション層
アプリケーション
ネットワーク
再生処理ミドルウェア
制御
制御
ネットワーク系メディア
ストリーム
OMI
DIA-MF
デコード映像
ネットワーク配信ストリーム
再生メディアコンポーネント
チェーン
映像出力
制御
デコード音声
音声出力
制御
メディアフレームワーク層
図3-10
ネットワーク系メディア再生処理ソフトウェア構成図
標準化したネットワーク系メディア再生処理において、アプリケーション
層とメディアフレームワーク層での処理区分の概要を表3―3に示す。
表3-3
アプリケーション層とメディアフレームワーク層との処理区分概要
アプリケーション層
メディアフレームワー
ク層
ストリーム処理 ストリーム読み込み、デスク Demux、デコード
ランブル、DIA-MFに転送
MPEG-2 TS
Sectionフィルタパラメータ Section形式データ抽
Section処理
の設定、Sectionデータのパー 出、
ス
MWに転送
内包されたスト PID/stream_id(SIDと略す)/ 内包されたストリーム
リームに対する ボックスタイプの指定、
の抽出、MWに転送
処理
字幕レンダリングおよび同期
表示
②分離AV入力再生
アプリケーション層で分離したAVコンテンツをメディアフレームワーク層
で再生するメディア処理に対して、OMIを用いて制御を行う際の詳細仕様を
定めた。図3-11に分離AV入力の再生に関するメディア処理ソフトウェ
アの構成を示す。仕様の規定範囲はアプリケーション層から入力されたAV
ストリームを処理し、デコード映像およびデコード音声を生成して出力す
るまでとした。
136
アプリケーション層
アプリケーション
コンテンツ
AV コンテンツ再生処理
取得部
ミドルウェア
OMI
DIA-MF
デコード映像
映像出力
分離 AV 入力再生
メディアコンポーネント
制御
デコード音声
音声出力
チェーン
制御
メディアフレームワーク層
図3-11
分離AV入力再生メディア処理ソフトウェア構成図
③ISDB-T録画
日本における地上デジタル放送方式(ISDB-T)のライブの録画を行うメデ
ィア処理に対して、OMIを用いて制御を行う際の詳細仕様を定めた。図3-
12にISDB-T録画に対するメディア処理ソフトウェアの構成を示す。ビデ
オ、オーディオを入力とし、ストレージメディアにTS(MPEG-2 Transport
Stream)を出力するまでの処理を標準化範囲とした。
アプリケーション層
アプリケーション
ISBD-T録画用メディア処理ミドルウェア
メディアフレームワーク層
OMI
DIA-MF
Video
録画素材
制御
Audio
TS
ISDB-T
録画メディアコンポーネントチェーン
制御
制御
図3-12
ストレージ
データの流れ
ISDB-T録画メディア処理ソフトウェア構成図
④録画済TS再生
(4)メディア・インタフェース用拡張APIの実証開発
本における地上デジタル放送方式(ISDB-T)の素材をストレージメディア等に録
137
画し、そのストリームの再生を行うメディア処理に対してOMIを用いて制御を
行う際の詳細仕様を定めた。図3-13に録画済TSの再生に関するメディア処理
ソフトウェアの構成を示す。ストレージメディアからのTS(MPEG-2 Transport
Stream)を入力とし、映像および音声を生成して出力するまでの処理を標準化範
囲とした。
アプリケーション層
アプリケーション
録画済TS 再生用メディア処理ミドルウェア
OMI
メディアフレームワーク層
ストレージ
制御
TS
DIA-MF
デコード
映像
録画済TS
再生メディアコンポーネントチェーン
デコード
音声
制御
図3-13
映像出力制御
音声出力制御
データの流れ
録画済TS再生メディア処理ソフトウェア構成図
(5)ハードウェア仮想化インタフェース(HAL)仕様の策定
デバイスドライバをハードウェアに依存する部分と依存しない部分に分け、
ソフトウェアの開発効率を上げ共通で利便性の高い操作性を提供するため、
ハードウェア仮想化インタフェース(HAL: Hardware Abstract Layer)を策
定した。
①HALの特徴
HALは共通のHALファンクションで各ハードウェア操作が可能となりデバイ
スドライバにハードウェア操作を意識させないインタフェースを提供する。
HALはファンクションに設定されるパラメータによってハードウェアに与
える作用と戻る結果が異なるオブジェクトレイヤである。従来のデバイス
ドライバの論理層と物理層を分離し、HALがハードウェアデバイス(I/O)
操作を分担する。HALを組み込んだシステム構成図を図3-14に示す。
138
従来のデバイスドライバ
を2つに分離する
デバイスドライバ
・論理層
・物理層
UART
PCI host
RTC
function
function
function
Interrupt
HAL
UART
GPIO
CPU
RTC
PCI host
GPIO
CPU
ハードウェア
UART
図3-14
RTC
PCI host
HALを組み込んだシステム構成図
②HALのメリット
HALのメリットは、ハードウェアデバイスに変更があってもデバイスドライバを
修正する必要がなく、HALを差し替えるのみで動作可能になることである
デ バ イ ス ド ラ イ バ に 影 響 す る 部 分 は 、H A L で 吸 収 済
ドライバ
論理層
HAL I/F
HAL
ハードウェア
部分
ex) RTC
○
○
■
○
○
■
HAL
修正
ハードウェア
ex) RTC
図3-15
部分変更
ex) RTC
○
○
○
○
▲
▲
ex) RTC
HALのメリット
さらに、デバイスドライバとHALの機能分担が明確になり、ソフト品質検査範囲
を明確化でき、ドライバ開発コストと開発リードタイムが短縮できる。
(6)HAL仕様の効果実証
NECエレクトロニクス社のデジタルTV評価ボード上に、デバイスドライバを策
139
定したHAL仕様に対応させ、通常のデバイスドライバソフトウェアとHAL仕様
に準拠したデバイスドライバソフトウェアを比較しコーディング量の効率向
上とレスポンスの低下が実用に影響を及ぼさないことを明らかにした。実証
システム評価の実施内容は以下である。
① 評価システムの総合評価
Linuxによる評価を行い、HALが仕様通りに動作していることを確認した。
② ソースコードの比較検討
HALインタフェースの呼び出しを行ったカーネルおよびデバイスドライバの
コード量を調査し、HALインタフェース未対応のコードと比較した。
③ HAL の性能評価
HAL対応によるレスポンスの低下を計測し、HALインタフェース未対応のシス
テムと比較した。
④ HAL インタフェース評価
各デバイスHAL(CPU、RTC、UART、PCI host、Interrupt)が機能仕様書で定
義したインタフェース仕様通りに動作することを確認した。
本評価システムのハードウェア構成を図3-16に示す。
図3-16
実証システム構成図
本実証システム評価環境のソフトウェア構成を図3-17に示す。
140
LTP
H/W制御コマンド
(ltp-full-20071130.gz)
(cat /proc/iomem 等)
性能測定スクリプト
HAL機能
評価TP
Linux System (※)
Other Device
Drivers
RTC
Driver
Boot Loader
(U-Boot)
Device Help Function
HAL I/F
HALs
Kernel Function
(Interrupt, UART, PCI host, CPU)
RTC
Interrupt
UART
PCI
CPU
Digital TV Reference Board
※TPを実行するためのカーネルモードドライバを
追加
評価 TP 類
評価対象モジュール
図3-17
ソフトウェア構成図
本評価の結果、HALを導入すれば新規でバードウェア操作に必要なソースコー
ドのコーディング量を削減する効果は56.7%、他のLSIへ開発したHALを転用す
る際に得られる削減効果は平均79.6%であり、ソフトウェアの開発効率が向上
していることを確認した。また、HALを導入した場合のレスポンスの低下は1%
~4%であり実際の動作に支障が無いことを確認した。
(7)HAL仕様範囲拡大および実証開発
平成20年度に策定したHALを組み込み機器用ブートローダ・ソフトウェアへ仕
様拡大し、ブートローダ・ソフトウェア(U-boot)におけるHAL仕様の有効性
を確認する。図3-18にブートローダ・ソフトウェアにHAL仕様を適用した
場合のソフトウェア構成を示す。通常ブートローダ・ソフトウェアはハード
ウェアに依存している部分と通信プロトコルスタックやファイルシステムな
どハードウェアに非依存な上位サービスを行う部分からなる。HAL仕様を適用
後、機能的に問題ないことを確認し、ブートローダ・ソフトウェアのコーデ
ィング量の変更量などを検証した。これらの評価を実施することにより、HAL
仕様の適用をブートローダ・ソフトウェアに拡大した結果、ソフトウェアの
再利用性が向上したことを確認した。
141
評価用テストプログラム
LTP 評価
インター フェース評価
ユースケース評価
Linux( オープンな高機能 OS)
カーネル
U-Boot
DevHelp
(ブートロ ーダ)
デバイス・ドライ バ
HAL 対応デバイス・ドライバ
DevHelp
DevHelp
HAL インターフェース
ハードウェア I/O
ハードウェア仮想化インターフェース
(Hardware Abstraction Layer)
EMMA3TL リファレンスボード(ハードウェア)
図3-18
ソフトウェア構成図
①HAL仕様機能評価
HAL仕様をブートローダ・ソフトウェアに適用したシステムに対し、ユーズ
ケースによる動作検証とLTP(Linux Test Project)が公開しているテスト
ケースを実行し機能的に問題ないことを確認した。ユースケースによる動
作確認結果を3-4と表3-5、LTPによる動作確認結果を表3-6に示す。
表3-4
ユースケースによるハードウェア制御動作の評価結果(1/2)
分類
評価項目概要
Linuxの起動
/ログインの確認
下記の組み合わせでLinuxの起動とログインの確認を行う
・HALの配置場所
:RAM領域/ROM領域
・Linuxファイルシステム :NFS/ROMFS
・Linux起動方式 :TFTP Boot/Flash ROM Boot
・カーネルファイル形式 :ELF/binファイル/U-Bootヘッダ付きファイル
USBデバイス接続
・USBメモリに格納されたu-boot.binの起動確認
・USBシリアル・ブリッジ出力の確認
・USBメモリとUSBシリアル・ブリッジを接続した場合の、U-Bootの起動と
USBシリアル・ブリッジ出力の確認
・PCIデバイスリストの表示を確認(pci short/pci long)
・OHCIデバイスのエミュレーション動作確認
・EHCIデバイスのエミュレーション動作確認
・PCIコンフィグレーション空間の表示確認
・PCIコンフィグレーション空間への書き込み確認
・USBコントローラの初期化とUSBデバイス検索動作の確認
・USBデバイス接続形態表示の確認
・USBデバイス情報表示の確認
・USBストレージデバイス情報表示の確認
U-Boot PCI
コマンド
U-Boot USB
コマンド
142
結果
(判定)
OK
OK
OK
OK
・USBコントローラの停止確認
・パラメータがない場合のUSBコマンド動作確認
・ファイル一覧表示の確認
・FAT情報表示の確認
・バイナリイメージのロードと起動の確認
U-Boot FAT
コマンド
表3-5
OK
ユースケースによるハードウェア制御動作の評価結果(2/2)
分類
評価項目概要
評価ボードの初
期化
割り込み制御
タイマ制御
PCI制御
UARTデバイス
RTCドライバ
・PCI I/Oスペースの確認 (cat /proc/ioports)
・PCIメモリスペースの確認 (cat /proc/iomem)
※本評価はU-Bootの改造(PCI host HAL対応)の評価も含む
・IRQコントローラ名称の確認 (cat /proc/interrupts)
・シリアル通信, Ethernet, CPUタイマのIRQ割り込み回数の確認 (cat
/proc/interrupts)
・CPUクロック数の表示(カーネルログ)確認
・初期設定日付の確認 (dateコマンド)
・PCIデバイス(USB, Ethernet, Multimediaの各コントローラ)の接続確認
(lspci)
・PCIコンフィグレーションレジスタの表示確認 (Multimedia Controller)
・UARTデバイスのリソース情報の確認
(cat /proc/tty/driver/serial、setserial -g /dev/tty、setserial -g
/dev/console)
・RTCドライバエントリ表示(カーネルログ)の確認
・RTC制御確認 (hwclock、dateコマンド)
・割り込み制御(日跨ぎ/アラーム)確認
(hwclock、cat /proc/interrupts、/bin/rtctest)
※rtctestは/linux-2.6.18_pro500/Documentation/rtc.txtをベースにカ
スタマイズしたもの
表3-6
結果
(判定)
OK
OK
OK
OK
OK
OK
LTP評価結果
HAL対応前
評価項目
PASS
システムコール機能テスト
ファイルシステムストレステスト
ディスクI/Oテスト
メモリ管理ストレステスト
ipcストレステスト
スケジューラテスト
コマンド機能テスト
Total
705
45
28
18
8
3
10
817
HAL対応後
FAIL
12
10
0
3
0
0
0
25
PASS
705
45
28
18
8
3
10
817
FAIL
12
10
0
3
0
0
0
25
②HAL移植性評価
LinuxのHAL対応済みPCIホスト・デバイス・ドライバのソースコードについ
て移植前後でライン数を比較した結果を表3-7に示す。
143
表3-7
PCIホストドライバの移植結果
新規
ライン数
0
0
流用コード
HAL仕様Ver2.0の実装
合計
修正
ライン数
0
13
0
13
流用
ライン数
332
0
332
比率
(%)
96.2
3.8
100.0
HAL対応済みPCIホストのデバイス・ドライバの移植において全体の96.2%が
移植前コードの流用であったことを示す。残りの3.8%はHAL仕様Ver2.0適用
による修正であり、これを除くと移植前のソースコードは100%流用可能で
あった。
LinuxのHAL対応済みRTCドライバのソースコードについて移植前後でライ
ン数を比較した結果を表3-8に示す。
表3-8
RTCドライバのライン数比較結果
新規
ライン数
0
0
流用コード
HAL仕様Ver2.0の実装
合計
修正
ライン数
0
18
0
18
流用
ライン数
623
0
623
比率
(%)
97.2
2.8
100.0
HAL対応済みRTCホストのデバイス・ドライバの移植において全体の97.2%が
移植前コードの流用であったことを示す。残りの2.8%はHAL仕様Ver2.0適用
による修正であり、これを除くと移植前のソースコードは100%流用可能で
あった。
(8)移植性検証
平成20年度事業成果のうちメディア・インタフェース用APIの実証開発において
開発したデジタルTV向けシステムLSI上で動作するソフトウェアを異なる基本
ソフトウェアやデジタルTV向けシステムLSIを搭載した実証開発セットに移植
して、平成20年度に策定したAPI仕様がある環境から他の環境に移るための能力
を有しているか検証した。確認方法は以下の5つの検証範囲を定めた上で、各
々の検証内容に従って行った。
基本ソフトウェアのリアルタイム OS 対応
基本ソフトウェアを Linux からリアルタイム OS に変更した場合でも、メディ
アフレームワークおよびアプリケーションソフトが問題なく動作することを
確認する。
異なるハードウェア間でのメディアフレームワーク層の移植性
メディアフレームワークが他のハードウェアに対して容易に移植可能である
ことを確認する。
異なる基本ソフトウェア間でのメディアフレームワーク層の移植性
144
メディアフレームワークが異なる他の基本ソフトウェアに対して容易に移植
可能であることを確認する。
異なるハードウェア間でのアプリケーション層の移植性
アプリケーションが他のハードウェアに対して、容易に移植可能であることを
確認する。
ISDB-T 以外他地域視聴対応
メディアフレームワークがISDB-Tミドルウェア以外の他地域デジタル
TVに容易に対応できることを確認する。
①基本ソフトウェアのリアルタイムOS対応
平成20年度事業成果であるデジタルTV 用ソフトウェアを、基本ソフトウェ
アをリアルタイムOS(μITRON仕様OS)に変更し、メディアフレームワーク
をμITRON 仕様OS上に移植開発した場合、環境適応性に問題ないことを確
認した。図3-19は本ソフトウェアの移植イメージを示す。
アプリケーション
アプリケーション
ISDB-T再生用ミドルウエア
ISDB-T再生用ミドルウエア
OMI API
OMI API
メディアフレームワーク層
メディアフレームワーク層
DIAメディアフレームワーク
DIAメディアフレームワーク
移植
ISDB-T再生
ISDB-T再生
メディアコンポーネントチェーン
メディアコンポーネントチェーン
Linux OS
μ ITRON仕様OS
図
3-19
ソフトウェアの移植イメージ
OMI仕様に基づくメディアフレームワーク層をμITRON仕様OS上に実装し、
OMI仕様上の問題がないことを確認した。評価の対象とする関数及び制御コ
マンド、イベント表を表3-10、表3-11、表3-12に示す。
表3-10
関数名
OmiInit( )
OmiDeinit( )
OmiCreateChain( )
OmiReleaseChain( )
移植評価対象のOMI関数一覧
機能概要
メディアフレームワーク層の初期化を行う
メディアフレームワーク層の終了処理を行う
チェーンを生成する
チェーンを解放する
145
OmiControlChain( )
チェーンを制御する
OmiSetEventMask( )
イベントマスクの設定と解除を行う
OmiSetCallbackChain( ) コールバック関数の登録および削除を行う
OmiGetMessage( )
メッセージを取得する
OmiFreeMessage( )
メッセージを破棄する
表3-11
コマンド名
移植評価対象の制御コマンド一覧
概要
共通制御
OMI_CMD_RUN
OMI_CMD_STOP
OMI_CMD_GET_STATUS
OMI_CMD_GET_STC
OMI_CMD_ALLOC_BUFFER
OMI_CMD_GET_BUFFER_INFO
OMI_CMD_FREE_BUFFER
OMI_CMD_RELEASE_BUFF_DATA
OMI_CMD_SET_CONFIG
OMI_CMD_GET_CONFIG
Demux制御
OMI_CMD_DEMUX_SET_PES_FILTER
OMI_CMD_DEMUX_GET_PES_FILTER
OMI_CMD_DEMUX_
CLEAR_PES_FILTER
OMI_CMD_DEMUX_
SET_ SECTION_FILTER
OMI_CMD_DEMUX_
GET_SECTION_FILTER
OMI_CMD_DEMUX_
CLEAR_SECTION_FILTER
CA制御
OMI_CMD_CA_INIT
OMI_CMD_CA_GET_INFO
OMI_CMD_CA_SEND_CMD
デスクランブル制御
OMI_CMD_DESC_SET_ECM
OMI_CMD_DESC_GET_ECM
OMI_CMD_DESC_CLEAR_ECM
OMI_CMD_DESC_SET_ID
ビデオデコーダ制御
OMI_CMD_VIDEO_GET_STREAM_INFO
チェーンを起動する
チェーンを停止する
チェーンの状態を取得する
STC値の取得
バッファの獲得
バッファ情報の取得
バッファの解放
バッファデータ領域の解除
コンフィグ情報の設定
コンフィグ情報の取得
PESフィルタの設定
PESフィルタ設定の取得
PESフィルタ設定のクリア
Sectionフィルタの設定
Sectionフィルタ設定の取得
Sectionフィルタ設定のクリア
CAシステムの初期化
CAシステム情報取得
ICカードへのコマンド送信
デスクランブルECM PID設定
デスクランブルECM PID設定取得
デスクランブルECM PID設定解除
ICカードID設定
ビデオデコーダストリーム情報取
146
得
オーディオデコーダ制御
OMI_CMD_AUDIO_GET_STREAM_INFO
オーディオデコーダストリーム情
報取得
表3-12 実証評価対象のイベントコード一覧
イベント
説明
OMI_EVT_DEMUX_SECTION_DETECTED
Sectionデータ転送通知
OMI_EVT_DEMUX_PRV_PES_DETECTED
独立PESデータ転送通知
OMI_EVT_DEMUX_DISRUPTION_DETECTED
途絶検知情報の通知
OMI_EVT_CA_CARD_CHANGE
ICカード挿抜通知
OMI_EVT_CA_CARD_RESPONSE
ICカードコマンドレスポンス
通知
OMI_EVT_CA_CARD_FAILED
ICカードアクセス時のエラー
通知
OMI_EVT_VIDEO_PROPERTY_CHANGE
ビデオデコーダ状態変化通知
OMI_EVT_AUDIO_PROPERTY_CHANGE
オーディオデコーダ状態変化
通知
また、移植評価セット上に構築したISDB-T再生用メディアフレームワーク層
について、デジタルTVの基本的な機能を実現するために必要な機能的要求を
ユースケースとして定義し、このユースケースがμITRON仕様OS上でも正常
に動作するかを移植評価セット上で評価プログラムを使用して評価を行い、
問題なく動作することを確認した。表3-13にユースケースによる評価仕
様の概要を示す。
表3-13
大分類
No
内容
1 起動・停止
ユースケースによる評価仕様(概要)
中分類
No
内容
小分類
No
内容
1 電源ON
1 電源ON操作が行えること
2 電源OFF
1 電源OFF操作が行えること
3 操作
1 リモコンの数字キー操作が行えること
2
リモコンのチャンネルアップ、ダウンキー操作が
行えること
3 リモコンのメニュー、上下左右キー操作が行えること
2 再生制御
4 繰り返し
1 電源ONとOFF操作の繰り返しが行えること
5 継続使用
1 一定時間以上の放送視聴が行えること
1 映像・音声の再生
1 リモコンの数字キーによる選局と映像・音声の出力確認
147
備考
2 文字スーパー
1 文字スーパー情報の取得・表示ができること
3 字幕
1 字幕の取得・解析・表示が行えること
4 音声の切替
1 音声の選択が行えること
3 チャンネル
1 チャンネルスキャンの実行 1 メニューからのチャンネルスキャンの実行が行えること
スキャン
2 チャンネルスキャンの中断 1 メニューからのチャンネルスキャンの中断が行えること
4 チャンネル変更
3 放送波の受信レベル
1 放送波の受信レベルの取得が行えること
1 選局
1 指定したチャンネルの選局が行えること
2 チャンネル選択
1 リモコンの数字キーで選局が行えること
3 チャンネル切替
1
4 緊急警報放送
1 緊急警報放送に切り替わること
5 臨時サービス
1 臨時サービスに切り替わること
6 イベントリレー
1 イベントリレー処理が行えること
リモコンのチャンネルアップ、ダウンキー操作で
選局できること
5 OSD・メニュー制御 1 選局バナー
1 選局バナーの表示・制御が行えること
2 音声バナー
1 音声バナーの表示・制御が行えること
3 字幕バナー
1 字幕バナーの表示・制御が行えること
4 初期スキャン
1 初期スキャンの制御が行えること
5 緊急警報放送
1 緊急警報放送の制御が行えること
6 イベントリレー
1 イベントリレー設定の制御が行えること
②異なるハードウェア間でのメディアフレームワーク層の移植性
OMI移植性の評価を行うために、平成20年度の評価システムとして開発した
デジタル放送視聴アプリケーションのハードウェアを、Cell Reference Set
2(CRS2)のフレームワークから異なる東芝製マルチメディアSoCへ変更し、
メディアフレームワーク層が容易に移植できることを確認した。図3-20
に本移植性評価の実施内容を示す。
平成 20 年度実証セット
DTV 再生アプリケーション
平成 21年度実証セット
DTV 再生アプリケーション
アプリケーション層
アプリケーション層
OMI
OMI
Media Framework 層
)
CRS2
図3-20
Media Framework 層
移植
東芝製マルチメディア SoC
本移植性評価の実施内容
148
表3-14に本評価に用いたユースケースを示す。また、表3-15に東
芝製マルチメディアSoC上で実装したOMI関数の評価結果を示す。OMI関数に
ついてユースケース毎で見ると「チャンネルスキャンの中断」処理に関して
は、OMI関数を使用しなかった。本処理については、ミドルウェアである
Channel ScannerモジュールでNITのセット/リセットを繰り返すというミド
ルウェアで閉じた処理となっているため、スキャンの中断が要求された場合
は、OMI関数については使用せずに中断されるため、OMI関数を使用せず実現
している。「情報表示」についても同様にミドルウェアで閉じた処理となっ
ているため、OMI関数については使用していない。
表3-14
ユースケース
ユースケース
意味
起動
チェーン状態を Executing への遷移
停止
チェーン状態を Unloaded への遷移
チャンネルスキャン実行
チェーン状態は Executing で、DTV 停止状態からチャンネルス
キャン実行状態への遷移
チャンネルスキャン中断
チャンネルスキャン実行中からの中断で、チェーン状態は
Executing で、DTV は再生状態を維持
DTV 視聴開始
チェーン状態は Executing で、DTV 再生開始状態への遷移
DTV 視聴停止
チェーン状態は Executing で、DTV 再生停止状態への遷移
チャンネル切り替え
リモコン操作による選局指定(Up/Down キーによる切り替え)
マルチオーディオ切り替え
リモコン操作によるマルチオーディオ切り替え
クローズドキャプション切り替え
リモコン操作による字幕の表示/非表示の切り替え
情報表示
ビデオ、オーディオストリーム情報、チューナの受信感度
表3-15
関数
OmiInit()
OmiDeinit()
OmiCreateChain()
OmiReleaseChain()
OmiControlChain()
OmiSetEventMask()
OmiSetCallbackChain()
OmiGetMessage()
OmiFreeMessage()
チ
ャ
ン
ネ
実
ル
装 起 停
ス
状 動 止
キ
況
ャ
ン
実
行
OMI関数の評価結果
チ
ャ
ン
ネ
ル
ス
キ
ャ
ン
中
断
D
T
V
視
聴
開
始
D
T
V
視
聴
停
止
チ
ャ
ン
ネ
ル
切
替
音
声
多
重
切
り
替
え
マ
ル
チ
音
声
切
り
替
え
情
報
表
示
ク
ロ
ー
ズ
ド
キ
ャ
プ
シ
ョ
ン
備考
○ ○
○
○
○ ○
○
○
○
○
○
○
○
○ ○ ○
○
○ ○
○ ○ ○
○ ○ ○
○ ○ ○ ○ ○
○
○
○ ○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○ ○
○
○
表3-16に東芝製マルチメディアSoC上で実装した制御コマンドの評価
149
結果を示すこの表より、本プロジェクトで策定された制御コマンドを用いて、
デジタルテレビアプリケーションを開発しコマンドの有用性を示すことが
できた。一部の実装していない制御コマンドがあるが、これは本評価システ
ムのソフトウェア環境により実装できなかったものである
表3-16 制御コマンド評価結果
コ マ ンド
チ
ャ
ン
ネ
ル
実 起 停
ス
装 動 止
キ
ャ
ン
実
行
チ
ャ
ン
D チ
ネ D T ャ
ル T V ン
ス V 再 ネ
キ 再 生 ル
ャ 生 停 切
ン
止 替
中
断
音
声
多
重
切
替
マ
ル
チ
音
声
切
替
情
報
表
示
ク
ロ
ー
ズ
ド
キ
ャ
プ
シ
ョ
ン
備考
共通制御
OM I_CM D_RUN
OM I_CM D_STOP
OM I_CM D_GET_STATUS
OM I_CM D_GET_STC
OM I_CM D_ALLOC_BUFFER
OM I_CM D_GET_BUFFER_INFO
OM I_CM D_FREE_BUFFER
OM I_CM D_RELEASE_BUFF_DATA
OM I_CM D_SET_CONFIG
OM I_CM D_GET_CONFIG
○ ○
○
○
○
○
×
○ ○
○
×
○
○ ○
○
○
×
×
○
○
○ ○ ○
○
○
Demux制 御
OM I_CM D_DEM UX_SET_PES_FILTER
OM I_CM D_DEM UX_GET_PES_FILTER
OM I_CM D_DEM UX_CLEAR_PES_FILTER
OM I_CM D_DEM UX_SET_SECTION_FILTER
OM I_CM D_DEM UX_GET_SECTION_FILTER
OM I_CM D_DEM UX_CLEAR_SECTION_FILTER
○
×
○
○
×
○
○
○ ○ ○
(* 1 )
○
○
○ ○ ○ ○ ○
○
○
(* 1 )
○
○ ○ ○
CA制 御
OM I_CM D_CA_INIT
OM I_CM D_CA_GET_INFO
OM I_CM D_CA_SEND_CM D
×
×
×
デス クラン ブル 制 御
OM I_CM D_DESC_SET_ECM
OM I_CM D_DESC_GET_ECM
OM I_CM D_DESC_CLEAR_ECM
OM I_CM D_DESC_SET_ID
×
×
×
×
ビ デオ デコーダ 制 御
OM I_CM D_VIDEO_GET_STREAM _INFO
OM I_CM D_VIDEO_START_RCV_CC708
OM I_CM D_VIDEO_END_RCV_CC708
○
○
○
○
○
○
○
オ ーディオ デコーダ 制 御
OM I_CM D_AUDIO_GET_STREAM _INFO
×
表
3-17に東芝製マルチメディアSoCが実装したOMIイベントの評価結果を
示す。この結果、本プロジェクトで策定されたOMIイベントを用いてデジタ
ルテレビアプリケーションを開発しイベントの有用性を証明することがで
きた。
150
表3-17
イベント評価結果
チ
ャ
ン
ネ
ル
実 起 停
ス
装 動 止
キ
ャ
ン
実
行
イベント
OMI_EVT_DEMUX_SECTION_DETECTED
OMI_EVT_DEMUX_PRV_PES_DETECTED
OMI_EVT_DEMUX_DISRUPTION_DETECTED
OMI_EVT_CA_CARD_CHANGE
OMI_EVT_CA_CARD_RESPONSE
OMI_EVT_CA_CARD_FAILED
OMI_EVT_VIDEO_PROPERTY_CHANGE
OMI_EVT_AUDIO_PROPERTY_CHANGE
OMI_EVT_VIDEO_CC708_RCV
○
×
×
×
×
×
○
○
○
○
チ
ャ
ン
ネ
ル
ス
キ
ャ
ン
中
断
D
T
V
視
聴
開
始
D
T
V
視
聴
停
止
チ
ャ
ン
ネ
ル
切
り
替
え
音
声
多
重
切
り
替
え
マ
ル
チ
音
声
切
替
○
○
○
○
○
○ ○ ○
情
報
表
示
ク
ロ
ー
ズ
ド
キ
ャ
プ
シ
ョ
ン
備考
一部未サポート
一部未サポート
○
③異なる基本ソフトウェア間でのメディアフレームワーク層の移植性
OMI移植性の評価を行うために、平成20年度の評価システムとして開発した
デジタル放送視聴アプリケーションのメディアフレームワーク層を、Cell
Reference Set 2(CRS2)のフレームワークを用いたメディアフレームワー
ク層上へ容易に移植できることを確認した。図3-21に本移植性評価の実
施内容を示す。
平成 20 年度実証セット
DTV 再生アプリケーション
平成 21年度実証セット
DTV 再生アプリケーション
アプリケーション層
アプリケーション層
OMI
平成 20 年度
OMI
移植
CRS2 ベースの異なる
Media Framework 層
図3-21
Media Framework 層
本移植評価の実施内容
④異なるハードウェア間でのアプリケーション層の移植性
成20年度事業成果のうちNEC エレクトロニクス社製のデジタルTV 用システ
ムLSI(EMMA2TH/H)を搭載したデジタルTV 用評価ボード上に構築されたアプ
リケーションおよびISDB-T再生用メディア処理ミドルウェアを、同社の新型
デジタルTV 用システムLSI(EMMA3TL)へ移植し、異なるハードウェア間での
アプリケーション層の移植性が有効であることを確認した。図3-22にデ
151
ジタルTVソフトウェアにおけるアプリケーション層の移植イメージを示す。
EMMA2TH/H 向けデジタル TV ソフトウェア
EMMA3TL 向けデジタル TV ソフトウェア
アプリケーション層
アプリケーション層
アプリケーション
アプリケーション
移植
ISDB-T 再生用
ISDB-T 再生用
メディア処理ミドルウェア
メディア処理ミドルウェア
OMI
OMI
EMMA2TH/H 向け
EMMA3TL 向け
メディアフレームワーク層
メディアフレームワーク層
DIA-MF
DIA-MF
ISDB-T 再生
ISDB-T 再生
メディアコンポーネントチェーン
メディアコンポーネントチェーン
EMMA2TH/H リファレンスボード
EMMA3TL リファレンスボード
平成 20 年度のシステム
平成 21 年度のシステム
移植部分
図3-22
アプリケーション層の移植イメージ
本評価において移植上の問題がないことを確認したOMI関数の一覧を表3-
18に、OMI制御コマンド/イベント一覧を表3-19に示す。また、デジタ
ルTVアプリケーションとミドルウェアを実行させ、ハードウェアの違いをメ
ディアフレームワーク層が吸収し、デジタルTVシステムとして移植元システ
ムと同じ動作をしていることを確認した。
表3-18 実証セットに実装したOMI関数一覧
Open Media Interface関数
実 備考
装
状
況
OmiInit()
実
OmiDeinit()
実
OmiCreateChain()
実
OmiReleaseChain()
実
152
OmiControlChain()
OmiSetEventMask()
OmiSetCallbackChain()
OmiGetMessage()
OmiFreeMessage()
実
実
実
実
実
未使用1
表3-19 実証セットに実装したOMI制御コマンド/イベント一覧
Open Media Interface制御コマンド/イベ
実 備考
ント
装
状
況
OMI_CMD_RUN
実
OMI_CMD_STOP
実
OMI_CMD_GET_STATUS
実
OMI_CMD_GET_STC
実
OMI_CMD_ALLOC_BUFFER
実
OMI_CMD_GET_BUFFER_INFO
実
OMI_CMD_FREE_BUFFER
実
OMI_CMD_RELEASE_BUFF_DATA
実
OMI_CMD_SET_CONFIG
実
OMI_CMD_GET_CONFIG
実
OMI_CMD_DEMUX_SET_PES_FILTER
実
OMI_CMD_DEMUX_GET_PES_FILTER
実
OMI_CMD_DEMUX_CLEAR_PES_FILTER
実
OMI_CMD_DEMUX_SET_SECTION_FILTER
実
OMI_CMD_DEMUX_GET_SECTION_FILTER
実
OMI_CMD_DEMUX_CLEAR_SECTION_FILTER
実
OMI_CMD_CA_INIT
未 実証セット仕様上の制
約2
OMI_CMD_CA_GET_INFO
未 実証セット仕様上の制
約
OMI_CMD_CA_SEND_CMD
未 実証セット仕様上の制
約
OMI_CMD_DESC_SET_ECM
未 実証セット仕様上の制
約
OMI_CMD_DESC_GET_ECM
未 実証セット仕様上の制
約
OMI_CMD_DESC_CLEAR_ECM
未 実証セット仕様上の制
1
OMI 関数として実装済みだが、デジタル TV アプリケーション、同ミドルウェアが使
用していない
2
本実証セットが B-CAS カードをサポートしていない仕様上の制約による未実装
153
OMI_CMD_DESC_SET_ID
未
OMI_CMD_VIDEO_GET_STREAM_INFO
OMI_CMD_AUDIO_GET_STREAM_INFO
OMI_EVT_DEMUX_SECTION_DETECTED
OMI_EVT_DEMUX_PRV_PES_DETECTED
OMI_EVT_DEMUX_DISRUPTION_DETECTED
OMI_EVT_CA_CARD_CHANGE
実
実
実
実
実
未
OMI_EVT_CA_CARD_RESPONSE
未
OMI_EVT_CA_CARD_FAILED
未
OMI_EVT_VIDEO_PROPERTY_CHANGE
制
OMI_EVT_AUDIO_PROPERTY_CHANGE
制
約
実証セット仕様上の制
約
実証セット仕様上の制
約
実証セット仕様上の制
約
実証セット仕様上の制
約
一部のビデオコーデッ
クに対応
一部のオーディオコー
デックに対応
⑤ISDB-T以外他地域視聴対応
平成20年度事業成果であるデジタルTV 用ソフトウェアから、ミドルウェア
及びアプリケーションをISDB-T仕様以外の他地域のDTV用ソフトウェア(評
価では北米ATSC規格)に変更し、ISDB-T仕様のメディアフレームワーク層が
他地域のDTVへ容易に対応できることを確認した。ソフトウェアの移植イメ
ージを図3-23に示す。
154
アプリケーション
アプリケーション
ISDB-T再生用ミドルウエア
変更
OMI API
DTV再生用ミドルウエア
OMI API
メディアフレームワーク層
メディアフレームワーク層
DIAメディアフレームワーク
DIAメディアフレームワーク
DTV再生
ISDB-T再生
メディアコンポーネントチェーン
メディアコンポーネントチェーン
μ ITRON仕様OS
μ ITRON仕様OS
図3-23
ソフトウェアの移植イメージ
(9)標準化支援活動
メディア・インタフェース用API(OMI)を業界に広く普及させるため機器メ
ーカー、ミドルウェアメーカー、半導体メーカーによる協議会と連携し本API
のレビューを協議会参加各社に実施いただき、フィードバックを仕様に反映
させた。
155
3-1-3-C
特許出願状況等
表3-20
要素技術
メディア
・インタフ
ェース用
拡張API仕
様策定
計
論文数
論文の被
引用度数
0
0
特許等件
数(出願を
含む)
1
0
0
1
表3-21
特許
3-2-C
特許・論文等件数
特許権の
実施件数
ライセン
ス供与数
取得ライ
センス料
国際標準
への寄与
0
0
0
0
0
0
0
0
論文、投稿、発表、特許リスト
題目・メディア等
時期
出願No.2010-163778 マルチメディア処理システム及び H22/7/
方法
21
出願
目標の達成度
表3-22.目標に対する成果・達成度の一覧表
要素技術
目標・指標
成果
達成
度
達成
メディア・イ
ンタフェー
ス用API仕様
の策定
デジタルTV等メディア処
理をアプリケーション層
とメディアフレームワー
ク層に分離するためメデ
ィア・インタフェース用
API仕様の策定を行う。
メディア・インタフェ
ース用API仕様を策定
し、「OMI関数仕様書」、
「OMIチェーン仕様書
ISDB-T再生編」、「OMI
ユーザーズガイド」を
纏めた。
メディア・イ
ンタフェー
ス用APIの実
証開発
メディア・インタフェース
用APIの仕様を用いて正し
くマルチメディア処理を
実行できることを3社(NEC
エレクトロニクス、東芝、
ルネサステクノロジ)の
LSIを使用した試作ボード
上で確認完了する。
3社(NECエレクトロニ 達成
クス、東芝、ルネサス
テクノロジ)が所有す
る評価開発システム上
で実証開発を行い、メ
ディア・インタフェー
ス用APIが仕様が機能
面、性能面、品質面で
問題ないことを確認し
た。抽出した課題につ
156
いては各メディア・イ
ンタフェース用API仕
様書に対してフィード
バックを行った。
メディア・イ
ンタフェー
ス用拡張API
仕様の策定
デジタルTV対応のマルチ
メディア用インタフェー
スを基に、DLNAやインター
ネットなどネットワーク
に対する仕様拡張と、録画
再生等の複合動作に対す
る拡張を行う。
メディア・イ
ンタフェー
ス用拡張API
の実証開発
メディア・インタフェース
用拡張API仕様に基づき、
開発評価システム上で実
証開発を行い、これらの拡
張仕様が機能面、性能面、
品質面で十分であること
を確認し、抽出した課題に
ついて前期API仕様にフィ
ードバックを行う。
ハードウェ
ア仮想化イ
ンタフェー
ス(HAL)仕
様の策定
HAL標準仕様を開発し、テ
スト検証を完了した仕様
書として第三者に提示可
能とする。
HAL仕様の効
果実証
異なるハードウェア上で
同じ機能を実現するデバ
イスドライバのHAL上での
ソフトウェアの移植性実
証を完了する。
157
拡張仕様を策定し、
「OMI基本仕様書」、
「OMIチェーン仕様書
ネットワークメディア
再生編」、「OMIチェー
ン仕様書 分離AV入力
再生編」、「OMIチェー
ン仕様書 ISDB-T録画
編」、「OMIチェーン仕
様書 録画済TS再生
編」、「OMIチェーン仕
様書 DTV再生編」を纏
めた。
社(NECエレクトロニク
ス、東芝、ルネサステ
クノロジ)が所有する
評価開発システム上で
実証開発を行い、拡張
仕様が機能面、性能面、
品質面で問題ないこと
を確認した。抽出した
課題については各拡張
仕様書に対してフィー
ドバックを行った。
HAL仕様書として、
「HAL概要説明書」、
「HAL基本仕様書」、
「HAL機能仕様書」、
「HAL用語・略語集」を
纏めた。
HAL仕様を元に実証シ
ステムを開発し、HAL
を導入した場合、新規
でハードウェア操作に
必要なコード量が
56.7%削減できること、
また、他のLSIへ開発し
達成
達成
達成
達成
たHALを転用する際に
得られる削減効果は平
均79.6%であることを
確認した。また、HAL
を導入することによる
レスポンス低下率は限
定的(1%~4%)である
ことを確認した。
HAL仕様範囲
拡大および
実証開発
デバイスHALの適用範囲を
拡大しブートローダーに
対するHALの検討、USB
HAL等の定義と仕様策定を
行う。ブートローダーがハ
ードウェア固有部から分
離され再利用性の向上を
実現する
HAL概要説明書
(V2.00)、機能仕様書
(V2.00)を纏め、HAL
対応ブートローダーと
USB関連デバイスのHAL
対応を実施し、デバイ
スHALに対応したデバ
イスドライバは100%再
利用できることを確認
した。
移植性検証
拡張仕様に対する実証開
発を通じてメディア・イン
タフェース用API仕様につ
いてソフトウェア移植は
再利用性に関し、ISDB-T
以外の他地域対応ミドル
ウェアによる視聴検証を
行う。更に、OS変更による
移植性に対しても、Linux
以外にRTOS上での動作実
証を行い、ハードウェア、
OS、ミドルウェアの各視点
で、ソフトウェアの移植性
検証を行う
協議会と連携してメディ
ア・インタフェース用API
を広く普及させる
ISDB-T以外の他地域対 達成
応のミドルウェアの移
植が可能か、Linux以外
のOSに変更してシステ
ムが構築できるか、本
APIを実現するメディ
アフレームワークが他
の基本ソフトウェアや
ハードウェアに対して
用意に移植可能か確認
し、本APIがソフトウェ
アの移植性にたいして
有効であることを確認
した。
メディア・インタフェ 達成
ース用APIに対して協
議会参加企業よりフィ
ードバックを頂き、仕
様に反映させた。
標準化支援
活動
158
達成
4-C
事業化、波及効果について
4-1-C 事業化の見通し
本プロジェクトで策定したAPIが事実上の標準となり、多くのミドルウェアな
どに採用されることが最終目標である。しかし、これは一朝一夕には達成困難で
あり、プロジェクト終了後も地道な努力が必要である。そこで、ここでは本プロ
ジェクトの主な参加企業である個々の半導体メーカの立場で、この最終目標に近
づくための今後のシナリオについて説明する。
まず、半導体メーカは可能な限り多くの情報家電向けSoCチップに本APIを採用
したソフトウェア・プラットフォームを開発し、提供することが重要である。本
APIを採用したソフトウェア・プラットフォームが増えるにつれて、ミドルウェ
アメーカも本APIに対応する動機が強くなり、結果として本APIに対応したミドル
ウェアが増加することが期待される。本APIに対応したミドルウェアが増加する
につれて、ミドルウェアの流用性が高まり、徐々に後述の波及効果が出てくるこ
とが期待される。普及が進めば進むほど、コスト削減効果が大きくなってくるの
で、これが新たな参加者を引き寄せ、本格的な普及につながると期待される。
しかし、半導体メーカが本APIを採用したソフトウェア・プラットフォームを
提供するだけでは、本APIを使ったミドルウェアがなかなか増えない可能性もあ
る。この課題を突破するためには、①本APIを採用した製品の蓄積と、②半導体
メーカによる積極的な本APIの普及活動が重要である。
①は、半導体メーカがソフトウェア開発の主導権を取れるような案件において、
積極的に本APIを採用していくことが求められる。これにより、本APIの採用実績
が増えるだけではなく、本APIに対応したミドルウェアが増えることにもつなが
る。
②の具体的な手段としては、各社のSoC事業のパートナープログラムなどの場
を使って、本APIを普及するための各種の施策を実施することが有効と思われる。
本APIの単純な紹介だけではなく、①の採用事例の説明などを加え、ミドルウェ
アメーカの採用意欲を高めるような施策が必要である。
4-2-C 波及効果
本プロジェクトで策定したAPIが普及した暁には、このAPIを採用した関連企業
には、次のような効果が期待できる。
 情報家電機器メーカ
開発する装置以外にも転用可能なソフトウェアが増加することで、装置
開発時のソフトウェア開発費(調達を含む)を削減できる。また、市場形成
時から成熟期までソフトウェア・プラットフォームのロングライフ適用が
可能となり、プラットフォームの変更コストを削減できる。
さらに、本APIで動く複数のミドルウェアの中から、それぞれの装置に
最適なミドルウェアを選択可能となり、機種展開も容易になる。
 ミドルウェアメーカ
159
本APIによりハードウェアの差が隠蔽され、複数の半導体メーカのLSIへ
の対応が容易になり、ビジネス機会が拡大する。
 半導体メーカ
多くのミドルウェアメーカが本APIに対応したミドルウェアを開発する
ことにより、ミドルウェアの整備費用の削減が可能となる。また、本API
により、LSI開発前にミドルウェア整備が進むため、LSI開発後直ちに市場
参入が可能となる。
すなわち、このAPIを利用することで、情報家電業界全体としては次のような
波及効果が期待できる。
(1) コスト削減
生産プロセス内での再利用性向上により、開発コストが削減できる。また、仕
様共通化によるソフトウェア流通促進により、生産全体のコストが削減できる。
将来機能追加への対応力で、プラットフォームのロングライフ活用によるコスト
低減ができる。
(2) 市場拡大
半導体メーカ、ミドルウェアメーカ、SI’erなどの関連企業の情報家電装置の
開発に必要な補完協力関係が促進され、新たな情報家電分野への水平分業型サプ
ライヤー体制を形成し、普及型装置の低価格化に貢献、ひいては、市場の拡大を
加速できる。
また、情報家電と同様の技術が使える周辺市場へ、LSI、ミドルウェアの流通
性を向上させ、商機展開を図れる。
160
5-C
研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等
5-1-C
研究開発計画
図5-1
研究開発計画
(1)標準ソフトウェア・プラットフォーム開発活動
標準ソフトウェア・プラットフォーム開発は、初年度に基本となるデジタルテ
レビ視聴機能関連APIの開発と実証実験、2年目にネットワーク関連の複合機
能を実現する拡張APIの開発および実証実験、を計画した。特にH21年度は、
製品化を想定した「使い易さの向上」と「適用範囲の拡大」のための研究開発を
実施し、実証実験を通じてAPIの実機への適用評価を計画した。また、技術開
発の途中段階で、標準ソフトウェア・プラットフォームの仕様書を作成し、それ
らを次世代情報家電ソフトウェア・プラットフォーム協議会で説明、レビュー依
頼することにより、ユーザニーズの早期反映を狙った。
(2)協議会活動
標準APIのレビューとフィードバック活動については、初年度から次世代情
報家電ソフトウェア・プラットフォーム協議会で開発成果の説明を随時行い、積
極的にユーザの意見を反映する計画とした。標準化方針検討活動については、初
年度に水平分業ビジネスモデルの検討をスタートし、2年目から具体的標準化方
式検討や標準化運営体制検討を行う計画とした。
5-2-C 研究開発実施者の実施体制・運営
本研究開発は、公募による選定審査手続きを経て、技術研究組合超先端電子技
術開発機構(ASET)が経済産業省からの委託を受け、その組合員であるNECエレ
クトロニクス株式会社、株式会社東芝と株式会社ルネサステクノロジが研究開発
161
を担当した。
図5-2
実施体制
プロジェクトは、DIA-N研究室、DIA-T研究室とDIA-R研究室の
3研究室体制とし、各研究室共同で基本および拡張API仕様の研究開発を行い、
各研究室で分担して実証実験と評価を担当した。協議会活動についてはASET
を事務局とする次世代情報家電ソフトウェア・プラットフォーム協議会を平成2
0年11月に設立して参加者を広く募集し、研究開発の参加会社が幹事会社とな
って、活動した。
本事業の運営管理は、研究開発については計画・成果の妥当性を審議するため
に、ASET内の次世代情報家電ソフトウェア・プラットフォーム研究部におい
て運営会議を実施し、協議会活動については、幹事会社を中心に活動内容を検討
し、協議会総会にて審議した。
5-3-C 資金配分
事業資金は、当初850百万円の計画に対し、実績は817百万であった。計
画に対して33百万円(約4%)の不用があった。
事業資金のプロジェクト内部での配分は、DIA-N研究室45%を、DIA
-T研究室に34%を、DIA-R研究室に21%を配分した。
162
表5-1
資金配分
(単位:千円)
平成20年度
(実績)
内訳
平成21年度
(実績)
合計
DIA-N研究室
人件費、外注費、借料
204,645
159,993
364,638
DIA-T研究室
人件費、外注費、借料
161,043
117,411
278,455
DIA-R研究室
人件費、外注費
54,304
119,659
173,963
419,993
397,063
817,056
合計
5-4-C 費用対効果
4-2-A節で述べたとおり、本プロジェクトで策定したAPIを使用すること
で、ミドルウェアの開発費用や、半導体メーカのミドルウェア整備費用、情報家
電機器メーカのソフトウェア開発費用などの削減が期待できる。本APIを使用し
て組み込み機器の開発を行った場合、本APIを使用しなかった場合と比べて、経
験上は5%程度の開発費削減が期待できる。
一方、下図のとおり組み込み機器のソフトウェア開発費用は増加の一途である。
9
8
7
兆円
6
5
4
3
2
1
0
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
年
図5-3 組み込みソフトウェア開発費の推移3
現時点では、本プロジェクトで策定したAPIの将来における普及率は未知数で
あるが、例えば5年後の2014年(ソフトウェア開発費の推定値は約8.5兆円)におい
て5%程度のソフトウェア開発に適用できたとしても、212億円程度の開発費用削
減が期待できる。
3
2009 年 6 月 経産省商務情報政策局情報処理振興課「組み込みソフトウェア産業活性化プラン」よ
り (2010 年以降は予測値)
163
さらに、このような直接的な開発費用の削減の他に、ミドルウェアのプラット
フォーム展開の容易化による業界の活性化なども期待でき、投資額に対して十分
な効果が期待できる。
5-5-C 変化への対応
本技術開発遂行期間中に、情報処理家電向け非競争領域として、メディア処理
インターフェースを確立し、組み込みソフトウェア・メーカーで共有し活用して
いくことの有効性はなんら変化していない。むしろ、日本の競争力強化の為には、
共通のAPIを使ってソフトウェア開発効率を向上させ、より競争力のある技術開
発へシフトする必要性がますます高まっている。本技術の重要性の変化は無いと
言ってよい。
一方、この2年間で、組み込みソフトウェアの領域で、オープン・ソース・ソ
フトウェアが台頭してきている事も事実で、本技術開発遂行に当たって、表に示
すように、情報処理家電向けの本技術の強みと、オープン・ソース・ソフトウェ
アの代表としてGStreamerの役割を比較分析した。結論は、オープン・ソース・
ソフトウェアが組み込みソフトウェア開発の領域で全てを解決するような変化
に見えるが、本技術開発で扱うメディア処理インターフェースの技術とは、開発
するソフトウェアの構成レイヤが異なることを確認し、本技術開発の重要性は変
化していないことを確認した。更に、本技術を活用して、オープン・ソース・ソ
フトウェアの方式を活用して、本技術開発で確立したメディア処理インターフェ
ースを構築する方法も、本技術開発により知識の蓄積がなされており、今後、相
互に有効に接続させる可能性もソフトウェア開発の効率化へ貢献できる技術と
なっている。
表5-2 OMIとGStreamerの比較
164
第4章 技術に関する施策評価
165
第4章
技術に関する施策評価
この章における枠囲み外の【肯定的意見】と【問題点・改善すべき点】に述べられた
評は、各有識者個別の意見を記載したものである。
1.施策の目的・政策的位置付けの妥当性
情報サービス・ソフトウェア産業関連施策の全体像の中で、技術関連の施策として「大
量データ利活用」と「組込みソフトウェア」に注力していることは妥当である。この2
分野は、詳細な産業分析からも社会的ニーズの高さは明らかであり、政府計画等でも重
要な課題として常に位置づけられており、また、海外でも活発な動きが見受けられるた
め、国際市場を見据えて国として取り組んだことの意義は大きい。
一方で、国際市場を視野に入れた日本の特色をいかした高度な戦略を模索すべきであ
る。また、当該産業分野の技術環境・市場環境の変化が激しいことを前提とすると、全
体戦略に基づきつつ、その変化を次の施策に適宜反映することが必要である。
【肯定的意見】
・国の目的、それを受けたMETIの政策は妥当である。
・取り組みの分野は良い。特に大量データの利活用は重要。
現在、仮想世界と実世界の融合した社会インフラや社会サービス(CPS, Cyber
Physical Systems)が世界的なテーマになり重要になっていることをみると、大航海
プロジェクトの先見性を評価できる。とくに今後のCPSにおける研究やビジネスを推
進していく上で当プロジェクトは貴重な気づきと方向性を与えたと考える。今後は、
社会的費用の見える化や劇的な削減や新しい社会構造に向けたイノベーションにむ
けても成果を発展できるとよい。
・大航海プロジェクトは面白い技術を沢山生み出している。また,JASPARを中心とした
自動車用ミドルウェアのプロジェクトでは,実質的に世界標準となっているAUTOSAR
規格への日本メーカの対応に大きな支援を与えた。三つ目の家電用APIも当時は戦略
的なものと位置付けることは可能であった。
・(施策の目的の妥当性):情報サービス・ソフトウェア産業政策に関して、ミクロな
側面からマクロな側面に至るまで、技術動向、市場動向、波及効果等に関する精査が
十分になされ、その上での「選択と集中」の観点から、技術施策として「大量データ
利活用」関連と「組込みソフトウェア」関連の二つに特化した経過は妥当であると考
える。特に、これらの二つの技術施策課題に対する社会的なニーズの高さに関しては
疑う余地がない。
(施策の政策的位置付けの妥当性):「大量データ利活用」関連と「組込みソフトウ
ェア関連」の2分野の重要性については、報告書に列挙されているように、政府計画
等において再三にわたり重要な課題として位置づけられてきており、政策的位置の意
義付けが十分になされている。また、国際的な動向に関しても、近年、これら2分野
については特に欧州で活発な動きがあり、これら海外の動きを看過することは国際競
争力の観点からも禍根を残す事態に至ることが懸念され、その意味からも2分野を強
力に推進したことの意義は大きい。
(国の施策としての妥当性、国の関与の必要性):この観点から特に評価したいのは、
「大量データ利活用」に関して、経済産業省、総務省、文部科学省との間で強力に推
進された科学技術連携施策群の大きな成果である。評価者は、この科学技術連携施策
群の主監として全体のコーディネーターの役割を果たしたが、3省の施策が有機的な
166
関係のもとで強い連携が図られ、顕著な成果を収めることができた。
・変化の激しい先の見えない環境の中で、既存の産業育成とイノベーションというある
意味で相反するベクトルを融合させるための方向性(あるべき姿)を示せている。特
に、情報サービス産業とソフトウェア産業を区別し、それぞれの向かうべき方向性が
明確である点が評価できる。
【問題点・改善すべき点】
・技術環境、市場環境が変化した時の戦略を作ること。戦略とは、リスクを予見し、幾
つかのオプションを準備し、必要に応じて修正をしていくことであり、フォローアッ
プをMETI自身で行うことである。政策については、「国全体の政策の為の科学技術」
と「科学技術振興の為の政策」の違いを理解していない大学と公的研究機関である現
場に課題があると思う。しかし、政策執行担当の役人は、それを承知の上で現場のわ
がままに寛容と忍耐を持って支援して欲しい。
・目標設定に、測定可能な指標があった方が良い。目標設定における前提も明確にして
おく必要がある。もし環境変化で前提が変わるようなことがあれば、目標達成はでき
ないが、なにが将来にむけて財産になるのか明確にする必要がある。
ソフトウェア工学、共通基盤プロジェクトについては、クラウドのインフラの台頭
が予測されたなか、国際的開発ツールを備えた中小向けのクラウド上の開発基盤の提
供があっても良かった。
・情報技術は変化が激しい。その変化への対応が十分ではない。大航海プロジェクトが
目指した仮想世界と実世界を融合したサービスは当時では斬新であったが,現在は世
界中が目指すサービスとなっている。非グーグルという合言葉で始めた開発方向にグ
ーグル自体が進んでいる。このグーグルの転換を踏まえた上でのプロジェクトの修正
が必要だったのだろう。
次に技術開発に偏重し,それで日本の製造業が世界を牛耳るという戦略が見えない。
大航海プロジェクトのビジネスモデルはグローバルな視点を欠き,沿岸航海に終始し
た。自動車用ミドルウェアの開発は,世界規格対応であって,世界を牛耳るものでは
ない。追いつき,追い越せという20世紀モデルではなく,日本の良さを踏まえた上
での日本の優位性構築に向けたプロジェクトでなければならない。
・(国の施策としての妥当性、国の関与の必要性):「組込みソフトウェア」に関して
は、より高度な戦略性のもとでの国の関与が重要かと思われる。世界の競争相手を巻
き込み、真に世界のリーダーシップを発揮していく方針であるならば、さらなる「選
択と集中」を敢行し、車載組込みソフトウェアか情報家電組込みソフトウェアのどち
らか一方に絞り、集中的に国が関与することも有り得たと思われる。つまり、中途半
端になっていないかが懸念され、完全な民間ベースか、徹底して世界に打って出てい
くかの見極めが肝要である。
・具体的な施策は、情報サービスを、旧来の枠組みでしか捉えられていない可能性があ
り、ここからのイノベーションの余地は低い。装置産業的、内向きの品質改善型、ハ
ードウェアの成功体験を引きずったままの感じが根強い。特に、日本のSIerが極端に
弱いエンタープライズ系のソフトウェアあるいは情報サービスが持っている大きな
可能性(市場性)を、クラウドというバズワードでひとくくりにしている点が問題。
欧米の企業にキャッチアップする戦略ではなく、互角に戦うための戦略を模索すべき。
現状維持的な発想をあらため、10 年後にIT の世界で欧米企業に勝つための戦略
を結果から逆算して再構成する議論が必要。ユーザ企業ではなく、ITベンダーまたは
ITサービス企業が既存の自動車産業に代わるように外貨を稼ぐ産業とするためのト
ップダウンな議論をあえてやるべき時期にある。
167
2.施策の構造及び目的実現見通しの妥当性
「IT利活用による競争力強化」という施策目的はおおむね達成されたと考えられる。
特に、産業界を巻き込んでいる点、標準化やプラットフォーム化等の個別企業ではなく
産業全体のインフラとなり得る施策を選んで実施している点、法規制やセキュリティ等
の公的な機関が行うべき内容について、実証実験を行いながら、具体的な成果につなげ
ている点等が評価できる。
一方で、事業のフォローアップを適切に行って、事業開始時に計画した予算配分やス
ケジュール等の軌道修正を必要に応じ効果的に行うべきである。特に「組込みソフトウ
ェア」について国内外への波及効果を測る定量的な効果が曖昧である。
【肯定的意見】
・産業界を巻き込めることが他省庁では出来ないMETIプロジェクトの特徴であり、他省
庁との相対比較ではトップであるが、海外も展望した絶対評価では不満が残る。
・大量データの利活用は順調に成果をだしており、次の施策への布石になっている。
大航海プロジェクトは、物理インフラとデジタルインフラの融合された新しい社会
インフラや社会サービスを構築していくための礎石を作ったと考えられる。その点タ
イムリーで重要なプロジェクトであった。プライバシーとサービスの関係、CPSにお
ける大規模リアルタイムデータ処理技術の必要性の認識、著作権の改定など今後の基
礎となるものである。さらに多くの研究者のベクトルを合わせた意義は評価できる。
・大航海プロジェクトは野心的である。その意味では高く評価できる。 今後,10年世
界が範とする開発結果だと思う。自動車用ミドルウェアの開発も世界規格に日本が対
応するという意味では適切なプロジェクトだったと思う。三つ目の家電ミドルウェア
は狙いは斬新であった。
・(現時点において得られた成果は妥当か):「大量データ利活用」関連に関しては、
当初の目的以上の成果が得られたと判断する。また、「組込みソフトウェア」関連に
ついては堅実な成果が得られたと判断できる。総じて「IT利活用による競争力強化」
という施策目的を実現していると判断する。
(事業(プロジェクト等)が適切に配置されているか):「組込みソフトウェア」関
連については、社会的な要請も踏まえ、「選択と集中」の観点から我が国の基幹産業
である自動車産業と情報家電産業に具体的な事業を限定して遂行したことは評価され
る。
・標準化の問題、プラットフォームの視点、そして製品アーキテクチャー(あるいはビ
ジネスアーキテクチャー)の観点から、個別の企業ではなく産業全体のインフラとな
りうる施策を選んで実施している点が評価できる。また、法規制の問題や、個人のセ
キュリティの問題など、公的な機関が行うべき内容について、施策を通して、具体的
な実証実験を行いながら、関係団体を協調して具体的な成果につなげている点が評価
できる。
【問題点・改善すべき点】
・事業のフォローアップを効果的に進めた役人を評価するシステムが霞ヶ関では欠けて
いる。インセンティブを与えない国の責任は重い。決定権は霞ヶ関にあるのであれば、
深い技術管理の議論も出来る確かな有識者の「審議会」をうまく活用してほしい。主
査の人選と、主査の育成が肝要。
・IT投資効率向上のための共通基盤開発、産学連携ソフトウェア工学実践事業の両者が
狙った領域での国の産業界に与えたインパクトを定量的に測る必要がある。両者とも
168
この数年にクラウドサービスの台頭、オープン化、グローバル化の進展で大きく環境
が変化したと考えられる。その点当初達成しようとした産業界、経済へのインパクト
をもう一度見直してみる必要がある。
・評価できる点はあるものの,個別には問題も多い。日本の過去は技術的優位性だけで
は世界を牛耳れないことを示している。世界の流れと自国の技術を踏まえた上での,
しっかりした方向性の把握。その上での標準化,オープン化,特許化,隠蔽化などの
戦術の柔軟に選択していくことが必要である。このためには,国内に視点を置いた開
発はやめて,常に世界で売れる技術か否かという視点でのプロジェクト選択が必要で
ある。
その観点から言えば、大航海プロジェクトは、その成果が正しくビジネスに反映さ
れない可能性がある。また、AUTOSAR関連のプロジェクトは、この内容では日本の優位
性への貢献は低コスト化だけになる。日本の技術開発の魂と言うべき「擦り合わせ」
が可能な技術開発、国際標準が必要である。最後の家電用ミドルウェア開発は、時代
の変化に即したプロジェクトの見直し体制が不足していた。そのため、プロジェクト
終了時には世界の流れから置いていかれる結果となってしまった。これは、プロジェ
クト担当者の問題と言うよりは、施策側の問題であるといえる。
・(現時点において得られた成果は妥当か):「組込みソフトウェア」関連については、
二つの事業の国内・国際的な波及効果がどれだけ得られているかが明確ではない。特
に、情報家電に関する組込み基盤ソフトウェアに関する成果の普及については、今後
も地道な宣伝活動が継続的に遂行されることが重要である。
(事業(プロジェクト等)が適切に配置されているか):「組込みソフトウェア」関
連の予算配分については、「1.施策の目的・政策的位置付けの妥当性」のコメント
に記した通りである。また、スケジュール的には、どの事業も期間的に短く、まさに
大きな成果が得られかけ始めた時点においてプロジェクトの終了時期が来てしまって
いるように思われ、予算の投資効果が十分に発揮されたかどうかは検討を要する。も
う尐し長期間にわたる事業にすべきであった、と思われる。
・全体的な印象として、プロジェクト実施に対する成果の具体的な評価方法及びそれに
対する責任範囲が曖昧である。また、変化が激しい社会環境の中で、予想された成果
があがりそうにないプロジェクトを軌道修正する仕組み、あるいはそこから次ステッ
プへの教訓や二次的成果を吸い上げる具体的な仕組みがないように見える。一般論を
いえば、評価は、実施する労力に匹敵するくらいの時間と知識を要するため、現状の
しくみでは十分な評価、あるいは監視機能は期待できないだろう。また、成果のフィ
ードバックや普及のための場が設定されていないために、貴重な資産が活かされない
危険性もある。
169
3.総合評価
情報サービス・ソフトウェアに係る技術に関する施策は、その政策的位置付けが様々
な政府計画などに裏付けられ、その開始のタイミング、具体的な事業の内容等の点で、
全般的に評価できる。各事業とも技術開発という観点では成果があり、情報大航海プロ
ジェクトに関しては、ユーザ視点で事業設計を行った点、情報爆発時代において大きな
方向性を示した点で意義が大きい。
一方で、国際競争が激化する中、これまでの施策の成果を礎として、今後は、国とし
て具体的なビジョンを明確に打ち出し、その下で大胆かつ柔軟に施策を展開することが
望まれる。それを支えるものとして、施策の成果や効果、後継施策との関連性等を明確
に整理し、国民にアピールすることが重要である。また、国際比較も行いつつ定量的評
価指標を活用して事業成果を検証することも重要である。
【肯定的意見】
・「もの作り」と異なり、「見えないソフトウェア」の可視化に貢献している。ただし、
成功、不成功にかかわらず、尻切れトンボになることへの配慮を一層強くしてほしい。
・国が大きな流れのなかで方向性を示した点は非常に重要である。特に情報大航海プロ
ジェクトはタイムリーであった。
・技術的には成果があったと思う。特に大航海プロジェクトの成果をグローバルな視点
でどう活かしていくかは大事である。また,自動車業界のAUTOSAR対応の際の低コス
ト化に貢献したという意味では自動車用ミドルウェア開発の貢献も大きい。最後の家
電用については,チェインと呼ばれるAPIの開発やマルチメディア処理実装などの技
術開発は評価できる。
・情報サービス・ソフトウェアに係る技術に関する施策は、その政策的位置付けがさま
ざまな政府計画などに裏付けられ、その開始のタイミング、具体的な事業の内容、そ
の構造的側面など、全般的に高く評価できる。特に、社会的なニーズの高さ、国際的
な競争力強化の観点からも、本施策の推進は妥当であったと判断する。
また、「大量データ利活用」関連の事業として推進された「情報大航海プロジェク
ト」は、情報爆発時代に遭遇している現在において、「高い先駆性」、「未踏領域へ
の挑戦」、「データの価値の啓蒙」、「法制度への配慮」など、「科学技術そのもの
のイノベーション」、「ユーザ視点のイノベーション」、法規制や標準化に係わる「ソ
ーシャルなイノベーション」という三つのイノベーションをスパイラル的に実現して
おり、21世紀における真のイノベーションをいかに創起すべきかの典型例を提示し
た事業として非常に高く評価できる。実際、評価者が、内閣府の用務の一環で欧州地
区に情報技術に関する調査に訪れた際に、「情報大航海プロジェクト」に関する多く
の質問を受け、非常に注目されていることと同時にチャレンジングなテーマへの取り
組みが好評を得ていることを実感した。
・情報サービス・ソフトウェア産業というカテゴリを、技術の提供者としてのITベンダ
ーあるいはSIer等の視点ではなく、ユーザ側の視点からとらえたプロジェクトに対し
て予算をつけ実施している点が非常に評価できる。むしろ、ユーザ企業の側が、ITベ
ンダーを育てるような構造が(過渡的ではあるが)実現し、その中から、あたらしい
ソフトウェアアーキテクチャー、あるいは製品・サービスアーキテクチャーが生まれ
る可能性があるからだ。また、プラットフォーム化と標準化、あるいは技術先導型の
イノベーションとビジネスモデルとの関わりなどを強く意識した事業の選択となっ
ている点も、非常に好感が持てる。
170
【問題点・改善すべき点】
・国民への成果のアピールがあまりにも尐なすぎる。その理由は、METIが内向き(省内
向き)であることにある。マスコミをうまく取り入れた産業界とも連携したアウトリ
ーチを本気で担当するプロの広報グループ作りも効果があろう。
・ソフトウェア開発、プラットフォーム開発でこの国のプロジェクトが果たすべき役割
を果たしたのか疑問である。当初の欧米のプロジェクトなどの成果達成などとの比較
も必要だろう。産業界へのインパクトについて定量的判断が必要。組込みも含めたソ
フトウェア開発のなかで国際的品質を担保するためのインフラ、テストデータの充実、
国際的ミドルウェアを備えたプラットフォームの開発など何をやれなかったかの検
証が必要かもしれない。
・現況、3つのプロジェクトの成果で日本の優位性が確立できたとはいえない。総額、
150億円かけたプロジェクトであれば、国民に明るい明日を見せるものでなければ
ならない。そのためには、国内を見ているだけのプロジェクト、技術偏重だけのプロ
ジェクトは排し、日本が世界を実質的にリードできる技術開発を進めていくべきであ
る。それには、技術だけでなく、ビジネスという視点も不可欠だと思う。同時に、変
化は激しい技術開発のプロジェクトでは常に修正と改善をしていく姿勢が不可欠で
ある。始まったプロジェクトが計画通り進んでいること自体が悪であるという認識も
必要かもしれない。
・情報サービス・ソフトウェアに係る技術に関する施策の遂行に関しては、その国際競
争の激しさが顕著になっており、日本の強みを活かしつつ世界のリーダーシップをい
かに発揮していくかがますます問われる事態に至っている。そのような状況において、
中途半端な施策の実行ではなかなか闘えず、予算配分、プロジェクト推進期間等さま
ざまな観点から「1.施策の目的・政策的位置付けの妥当性」、「2.施策の構造及
び目的実現見通しの妥当性」の【問題点・改善すべき点】で記したことに特段の配慮
をすべきと考える。
・施策を選択した側の思惑と、プロジェクト実施者の認識が若干ずれている、あるいは
正しく伝わっていないと思われる部分が見られる。これは、半分は実施者の問題であ
るが、やはり具体的なビジョンがあいまいで、実施にあたってのゴール及び成果に対
する最低限の縛り、あるいは評価指標の具体化、省内あるいは外部と連携したビジョ
ン策定チーム、評価チームの存在感のなさが原因と思われる。評価システムの再構築
が必要と考える。
また、施策を実現するための課題の中にオープン化、あるいはデファクトスタンダ
ード化を上げているが、この問題は、オールジャパンという枠の中ではもはや実現し
ない。プロジェクトに外資系の企業、あるいは外国企業を参加させることで、標準化
の策定時点からグローバルな体制をとらないと、もはやこの課題は実現しない。プロ
ジェクトの体制、あるいは予算執行の観点から、この問題は大いに検討すべきといえ
る。
171
第5章 技術に関する事業評価
172
第5章 技術に関する事業評価
この章における枠囲み外の【肯定的意見】と【問題点・改善すべき点】に述べられた
評は、各有識者個別の意見を記載したものである。
A.情報大航海プロジェクト
(総合評価)
諸外国において未着手であった非Webの「データの価値」の実証に国家プロジェクト
として率先して取り組んだ独自性と先進性を高く評価する。また、サービス創出を目的
として、日本の弱点と言われる技術応用とコンテンツ分野の強化に取り組み、その結果
頑ななプライバシー意識を持つ日本社会に利便性とリスクのバランスが重要との意識
が芽生えたこと、また著作権法改正等の制度改革につながったことは国家の事業である
がゆえに可能だったことであり、その意味で大いに意義があった。開発された技術内容
も高度なもので、ここ5年の技術開発を先導したものとして位置づけられる。総じて、
本プロジェクトの結果、データ利活用サービスの機運が大きく育ってきたと言える。
なお、多大な成果があるにも拘わらず、一見すると、関連性が希薄な複数の実証事業
が推進され、統合感が欠落しているという誤解を与える可能性があり、これについては
メッセージの発信を工夫するなど、より戦略的なアウトリーチ策が必要である。また、
事業の成果をグローバルな産業として育てる、政策レベルでの戦略が必要である。本プ
ロジェクトの成果を踏まえて、明らかになった課題を整理すると共に次なる施策を戦略
的に実施することが期待される。
【肯定的意見】
・情報技術(IT)と通信・ネットワーク技術(CT)において、物理面では世界を先導で
きた日本の弱点、応用面とコンテンツ面の強化に挑戦した冒険であった。特に日本社
会の頑ななプライバシーの壁を利便性とリスクのバランス意識改革で穴をあけるこ
とができたことは、国のプロジェクトであるからこそ可能であった。
・テーマ設定は良い。成果も順調だと考える。このプロジェクトからの次の施策への
lessons learnedを明確にされたい。
・本プロジェクトを始めた時点で非グーグルという軸を据えて独自性を持ち戦略的に技
術を開発したことは高く評価する。また、開発された技術内容は高度なものであり、
ここ5年の開発の先取りという位置づけをしても良いと思う。
・高い先駆性: 近年、米国、EU、中国においてサイバーフィジカルシステム、スマー
トシステム等の研究開発が積極的に推進されつつあるが、情報大航海プロジェクトは
正に同じ方向感を2006年の段階で概算要求し、2007年より推進してきたその先駆
性は非常に高く評価されよう。また、プロジェクトの先進性からEUの会合に多々招待
を受けたことは、評価者が主監を務めた内閣府連携施策群の定期的会合においても何
度も報告を受けており、その国際的認知度も評価される。
未踏領域への挑戦: 個人の有するデータの利活用に関しては、いずれの先進国にお
いても未着手であったのに対し、その委縮性を乗り越え、先端的な匿名化技術等を駆
使することにより、新しいビジネス領域の可能性と法制度の方向性に関して大きな一
歩を踏み出せたことは、「国家プロジェクト」としての後ろ支えがあったからこそと
見做せ、その取組みは、我が国における企業の期待を正面から支援するものであり、
波及効果も大きく、企業を勇気づけるプロジェクトとして高く評価される。
データの価値の啓蒙: 評価者はデータベースを専門としているが、我が国の企業に
173
おけるデータベース規模は米国に比べるとかなり小さいことが報告されてきている。
一方、Amazon, e-Bayなど所謂インタネット時代のメガサービスは膨大なデータの解
析からそのサービス価値の飛躍的な向上を実現しており、国家プロジェクトにおいて、
「データの価値」を抽出することの有用性を浸透させたことは、国益上大きな意義が
あると言える。
法制度への配慮: 著作権法の改正を実現し、現行の検索エンジンを合法化する等、
IT企業にとって最も大きな課題とも言える法制度改革に対してもプロジェクト内で
積極的に取り組んだことは特筆に値する。つまり、社会的なイノベーションを創起し
たプロジェクトを言うことができる。
・非常にチャレンジングなテーマであり、多くの人々の期待を集めた分だけ、ハンデを
背負ったプロジェクトといえるかもしれない。しかし、非Web 情報にも焦点を当てた
点、またWeb 情報と非Web 情報の関係性に着目した点に斬新さがある。膨大な規模の
プロジェクトにも係わらず、一定期間で一定の成果が得られたという点で評価できる。
また、制度的な視点から、法改正や新しい制度のありかたの見極めに対する貢献につ
いても高く評価できる。
【問題点・改善すべき点】
・ICTの分野における、技術とビジネスモデルは数ヶ月単位で変化している。しかし
Google(ハードウェアに重心を移している)にこだわったことは問題ありとも評価で
きるが、プロジェクト全体の緊張を高めることに有益であった。プロジェクト参加者
の今後の活躍を期待している。
・個別プロジェクトは非常に面白い。欲をいえば、国のプロジェクトでしかアドレスで
きないような社会的構造や外部不経済をあらわにすること。社会のリアルタイムの変
化を処理できるインフラや技術など萌芽を見せてほしい。
・非グーグルということで非Webに特化するという戦略は素晴らしかったが、グーグル
も非Webに進出してきている。ヒューマンセントリックかつ実世界と連動したサービ
スというコンセプトは現在のグーグルも持ち合わせている。その意味で、プロジェク
ト開始当初に比べて、本プロジェクトの輝きは薄れている。
ビジネス面で考えれば、本プロジェクトの成果をいち早く、DOCOMOがコンソルジェ
サービスという形で事業化を図っている。これは評価できる。もっとも、通信料金と
端末料金の区別を厳格化するという施策の変化により新サービス対応の端末普及が
滞っている。合わせて、ガラパゴス携帯からスマートホンという流れで、新サービス
自体が頓挫する可能性がある。このような個人サービスにはグーグルも大きな興味を
持っており、グーグルマップなどのサービスを既に始めている。また、アンドロイド
を搭載したスマートホン化の流れに乗って個人サービスに本格的に進出しはじめて
いる。このような状況で、本プロジェクト参加企業がグーグルを制することが可能か
といえば、懸念を感じざるをえない。これは、技術開発中心で、世界を制覇する戦略
と行動が十分ではないからである。
大航海という名称を付けたプロジェクトであったが、ビジネス的には現状、近海巡
行に留まっているといえる。そして、巡行中に世界のIT事情が変わったのに、それを
踏まえた方向の修正ができなかったことも問題である。もっとも、この点はプロジェ
クト実行側の問題と言うよりは施策側の問題ととらえている。同時に、本来の大航海
に早く船出して欲しいと念願している。
・敢えて問題を指摘するならば、一見すると、関連性が希薄な複数の実証事業が推進さ
れ、統合感が欠落しているという誤解を与える可能性がある。EUや米国においても
ITの大型プロジェクトは同様の課題があり、その解決は必ずしも容易ではないが、統
174
一メッセージを工夫するなど、より戦略的なアウトリーチ策が考えられたと感じられ
なくない。民間企業にプロジェクト管理を委託する等、従来に比べて、プロジェクト
推進において配慮はされてはいるものの、広報戦略への資金配分の工夫があったとも
言える。なお、これはプロジェクトの推進過程の課題であり、プロジェクトの内容自
身は全く問題なく、10年後には、その先進的なIT分野の開拓の真価は一層高く評価さ
れるものと考える。
・個別のプロジェクトの横串としての統一した技術、プラットフォーム、あるいは設計
思想のようなものが見えづらい。個々のサービスモデルの開発であれば個々の企業で
あっても可能であり、業界横断的なアウトプット、共通で使える技術などをもう尐し
整理して、共通資産として利用可能な形に仕上げる必要があるように思える。
175
B.産学連携ソフトウェア工学実践事業(高信頼組込みソフトウェア開発)
(総合評価)
車載電子制御システムの共通基盤ソフトウェア及びその開発環境の整備を業界横断
的に推進できたことの意義は大きい。その中で、ベンチマーク評価によってAUTOSAR版
の諸性能に対する優位性を示せたこと、それによって日本の実情に合った形でAUTOSAR
規格の修正を提案して採用される目途が立ったこと、また、「すり合わせ型」手法と「組
み合わせ型」手法を高度に融合した新たな開発環境の整備について大きな成果を上げた
こと、それによって競争領域・共通領域の概念を業界に浸透させられたこと等も高く評
価できる。
一方で、AUTOSAR規格の適合にとどまらず、車載電子制御システムのソフトウェア規
格の主導権を握るところまで達して欲しかった。今後に向けては、ビジネスモデル的な
視点に立った共通領域と競争領域の境界線や、国が支援すべき領域についての議論を重
ねるべきである。また、精緻な評価のためには、産業界へのインパクトについて定量的
評価等も必要と思われる。
【肯定的意見】
・日本のソフトウェア分野で強い組込みソフトの分野の発展支援でスタートし、それに
見合う成果は得られた。特に競争とオープンイノベーションを現場(企業群)で実施
できたことは、今後の基盤作りに貢献は大きい。
・テーマは重要である。標準化への取り組みも評価できる。
・実質的な自動車用のミドルウェア規格であるAUTOSARはヨーロッパ主導である。この
ため,日本の実情にあっていない。自動車各社が国の支援を受けてAUTOSAR対応のソ
フトの開発環境を構築し,日本の実情に合ったAUTOSAR規格の修正を提案したことは
高く評価できる。これにより,従来からのマイコンやネットワークを使って低コスト
でAUTOSAR対応のコントローラを制作できる。
・車載電子制御システムの基盤ソフトウェアの開発に関して、特にミドルウェアのさら
なる基盤となる非競争的な領域についての共通基盤ソフトウェアおよびその開発環
境の整備を業界横断的に推進することの意義は大きい。
特に、本プロジェクトの成果として、ベンチマーク評価によって比較対象とする
AUTOSAR版の諸性能に対する優位性を示し、AUTOSARからも高い評価を受け、規格化す
る方向が打ち出せたことは高く評価できる。また、これらの優位性による今後の経済
効果についても期待できる。
また、高品質な製品を生み出す日本の独特の開発プロセスである「すりあわせ型」
手法と、欧米流のプラットフォーム開発の方法論である「組合せ型」手法を高度に融
合した新たな開発環境の整備に関して大きな成果を上げ、AUTOSARに対してさまざま
な尺度で優位性を得るに至っていることも評価できる。
・プロジェクトの出発点にあった欧州での標準化動向への対応や、基盤ソフトウェアの
共通領域の確立によるサードパーティの効果的な参加など、目標が明確で、それに対
する一定の成果も出ている点が評価できる。特に、期間内に具体的な成果として
AUTOSAR への提案を行い、採用に目処がつけられた点は高く評価する。また、日本国
内の異なるメーカ間で、共通の議論の土壌ができた点も、今後の波及効果のひとつと
して期待できる。
【問題点・改善すべき点】
・今後は、国の支援が必要な項目についてフォローアップする必要があり、「学」の現
176
実(イノベーションを理解できていない)をあぶり出したことは評価するが、いかに
産学連携の「神話」を脱却するかの具体策を政策として打ち出して欲しい。
・アーキテクチャー的な考えがもっと導入されて良い。そうすれば国際的なコンポーネ
ント群との連携がよりはかれるだろう。産業界のインパクトを定量的に示されたい。
・結局,AUTOSAR規格の日本技術への適合に終わった。世界一を争うべき日本の自動車
メーカが相変わらず欧米に追従している。日本の物づくりを誇るなら,それに合った
規格を作りAUTOSARの主導権や自動車のソフトウェア規格の主導権を握るべきである。
その意味で中途半端な成果と言える。
日本が擦り合わせ技術を誇るなら,それが可能な開発体制を構築すべきである。今
回のプロジェクトが規範としたV字型開発は擦り合わせを否定するものである。
AUTOSARやソフト開発で主導権を握って日本の良さを出すとは,V字型開発の打破でな
ければならない。モデルベース開発,シミュレーションの利用などの自動車業界を中
心として整いつつある技術を背景に,擦り合わせ開発のプロジェクトを起こすべきで
ある。
このような技術は高度であるが,安全性を確保した上で高性能な製品を開発するに
は不可欠な取り組みである。このような取り組みを通して,日本の製造業の方向性を
示すことが施策では必要である。もちろん,開発する側も技術だけに満足するのでは
なく,グローバルビューの中での技術展開を描くべきである。
・自動車業界にとって非常に重要な課題に関するプロジェクトであるだけに、国の関与
がどこまで必要なことなのかは十分に検討する必要がある。AUTOSARによって開発さ
れている基盤ソフトウェアは、その基本部分はEU投資で開発されているが、その施策
が世界中を巻き込むような戦略で進められており、その観点からは投資効果は十分に
あると考えられる。その点、本プロジェクトへの国の関わり方が中途半端であり、完
全に民間企業ベースとするのか、国際的な観点からの戦略性をより強力に打ち出して、
国がより深く関与するのか、などの検討が必要と思われる。
一方で、新聞記事によれば、本プロジェクトには民間企業から3年間で約70億円拠出
される計画が立てられている。この民間からの投資に関して、本プロジェクトでどの
ような使途がなされたのかの記述が報告書にないように思われる。このような観点か
ら、約30億円の政府出資金と約70億円の民間拠出金が、本プロジェクトでどのように
配分され、有効に用いられたのかが不明である。
また、自動車業界にとって非常に重要な案件にもかかわらず、シンポジウム参加者
数などが意外にも尐なく、その関心度の低さから本プロジェクトが国内で真に大きな
意義を有していたのか、また、その成果の普及に実際どれ程の期待がなされていたの
かに関して確信がもてない。
さらに、中小の組込みソフトウェアメーカーの育成は、本プロジェクトにおける重
要事項であるが、提示されているデータからはその効果が明確にあったとは言い難い。
懸念事項として、本プロジェクトの立ち上げの経緯を深く理解していないので的確
なコメントは難しいが、本プロジェクトが「産学連携ソフトウェア工学実践事業」と
いう名のもとで推進されながら、本格的な産学連携がなされていないことは、一般的
には理解を得難いように思われる。
・ソフトウェア開発のうちの、どの部分が共通基盤で開発すべきであるかについての戦
略的な視点、あるいはビジネスモデル的な視点を、もっと深く議論すべきである。今
回は技術的な側面に重きが置かれていたが、今後の継続的な取り組みをどのような体
制で行うかを含め、ステークホルダーを明確に規定した上での、展開が期待される。
あえていえば、標準化、共通化と競争領域の境界ラインは日進月歩で変動するため、
提供する技術標準がこの流れを如何にしてキャッチアップし、リードできるかの議論
177
ができていない。
178
C.IT投資効率向上のための共通基盤開発プロジェクト
(総合評価)
半導体産業(ハードウェア)のもの作りの分野にソフトウェアの発想を注入したこと
の意義は大きい。また、情報家電の分野において、企業の枠を越えて共通APIを開発
・実装することで企業が競争力をえられるとともに、ミドルウェアに対して統一的なA
PIを提供することで生産性が向上する。さらにこのAPIが事実上の業界標準になれば、
多くの関連業界のコスト削減に向けてのスパイラル構造が可能となり、波及効果は大き
い。
一方で、Androidの登場等オープンソースソフトウェアの動向や世界中の半導体ベン
ダーの動向を意識した商品化行う国内の有力なテレビセットメーカとの協業体制が不
調となり、本プロジェクトの成果物の価値を大きく減じている。そして、成果を波及し
ていくにあたっては、標準化活動を展開するよりもデファクト・スタンダードとして採
用されていくべきと考えられ、セットメーカを含む国内企業がオールジャパンでの採用
が得られるよう本プロジェクト終了後も地道な普及活動が肝要である。
【肯定的意見】
・半導体産業(ハードウェア)のもの作りの分野にソフトウェアの発想を注入したこと
の意義は大きい。
・予定のプロジェクトの範囲内では着実に行っている。
・ルネサス,東芝の二社が自社のメディアプロセッサー向けの共通APIを開発し,実装
したことで競争力をえたことは評価できる.また,APIにチェインという新しい概念
を導入したことも評価できる。
・日本が強みとする情報家電分野の組込ソフトウェアについて、IT投資効率の向上の観
点から、ミドルウェアからハードウェアに依存するメディア制御部を分離してミドル
ウェアの流用性向上を図ること、さらには、ドライバからハードウェア依存部分を分
離してドライバの流用性向上を図ることの意義は大きい。また、そのような方向性の
もとで、既にソフトウェアの移植性などに関する効果が出てきており、本プロジェク
トで具体的に策定したAPIが事実上の業界標準になれば、半導体メーカー、ミドルウ
ェアメーカー、さらには情報家電機器メーカーに至るまで、多くの関連業界がコスト
削減に向けてのスパイラル構造の構築が可能となり、その波及効果は大きい。
・情報家電という、現在もっとも注目され、かつ変化が最も激しい競争領域のミドルウ
ェアに対して統一的なAPIを提供することで、生産性が向上する点も実証することが
できた点も成果といえる。
【問題点・改善すべき点】
・これからの展開を期待したい。「もの作り」と「サービス」が二分化されているME
TIの仕組みは時代遅れである。日本企業はその中間、融合領域で勝負してほしい。
霞ヶ関の意識改革が必要である。
・国のプロジェクトとして取り組むべきテーマかどうかは疑問である。産業界のインパ
クトや目標設定が定量的に扱われていない。共通基盤開発としては対象が限定的であ
る。
・本プロジェクトは幾つかの誤算が重なったことにより頓挫していると認識している。
一つは,メディアプロセッサーの重要性に世界中の半導体ベンダーが意識し戦略商
品化したことである.GPU自体の開発,CPUへのGPU組込,分散処理へのGPU利用などの
179
流れの中,ルネサスも東芝もメインストリームにはほど遠い現況にある。
もう一つの誤算はAndroidの登場である。これは、グーグルが携帯端末向けなどに開
発したOSである。アップル社のiOSへの対抗を強く意識している。もう一つのプレヤー
であるマイクロソフトもTVのメディア規格をうかがっている。この三社の競合に日本
のテレビメーカーは現在流されているといっても過言ではない。
最後の誤算はソニー、パナソニック、シャープなどの国内の有力なテレビセットメ
ーカとの協業体制が見えないことである。三社ともに、グーグル社,アップル社,マ
イクロソフト社の動向に沿った開発を行っている。
以上,三つの誤算が本プロジェクトの成果物の価値を大きく減じている。日本は超
解像技術を始め民生品の画像処理技術には卓越したものを持っている。しかし,時代
の速い流れがそれを陳腐化している。携帯電話同様に,このガラパゴス状態をうっち
ゃる気概と戦略が欲しい。
・本プロジェクトは、その成果を国内企業がオールジャパンで採用し、普及していくこ
とで国全体として市場拡大、コスト削減などに関する大きな効果が得られる。その観
点から、例えば、ソニーが本プロジェクトに協議会活動も含めて参画していないこと
は問題であると思われる。また、パナソニックについても協議会のメンバーではある
が、本プロジェクトとの関わりが深くないことが懸念される。このような問題につい
ては、むしろ、経済産業省からのより強い働きかけが有効であったのかもしれない。
特に、本プロジェクトの成果の波及については、標準化活動を展開するよりもデフ
ァクト・スタンダードとして採用されていくことを考えており、その点からも本プロ
ジェクト終了後も地道な普及活動が肝要である。その普及に当たっては、本プロジェ
クトの成果がもたらす効用に関するエビデンスベースの強い広報活動が、今後ますま
す必要に思われる。
また、変化への対応については、ソニー、グーグル、インテル、Logitechの4社は、
米サンフランシスコで昨年5月21日、グーグルの開発したアンドロイド・プラットフ
ォーム「Google TV」を搭載する「Sony Internet TV」の開発を発表しており、新た
な考え方によるデジタルTV開発の大きな波が押し寄せている。このような状況のなか
で、本プロジェクトの成果が現在進行中の大きな変化に対応可能かどうかが不明であ
る。
・API という共通仕様を採用するかどうかはミドルウェア開発ベンダー、あるいは家電
メーカーの判断であり、かならずしも今回の成果が採用され、普及にいたらない可能
性がある。現状の機能の共通化しただけではメリットが尐ない半面、新規の要求や個
別の対応が逆にしにくくなるというデメリットがある。特に、最終商品側から、現時
点で未知である新しい機能やデバイスの利用を行いたい場合に、API がそれらの要求
に応じてどのように改定され、進化していくのかについての具体的な仕組みや方策が
望まれる。
180
第6章 今後の研究開発の方向等に関する提言
181
第6章
今後の研究開発の方向等に関する提言
この章における枠囲み外の【肯定的意見】と【問題点・改善すべき点】に述べられた
評は、各有識者個別の意見を記載したものである。
【技術に関する施策】
まずは、リスクを覚悟した上で、世界をリードする又は世界をリードするグループ入
りするための戦略を練り、大胆な施策展開を図って欲しい。戦略の例は、オープン化、
標準化、ブラックボックス化、囲い込み、海外を巻き込んだ技術開発、省庁間連携等で
ある。そのためには、マーケティングも含めた高度なソフトウェア工学も必要となって
くる。
施策対象分野としては、国が関与すべき領域、民間にゆだねるべき領域について常に
見直すことが必要である。国が関与すべき領域としては、民間だけでは時間がかかるも
の、外部不経済に伴う社会的コストを明らかにして劇的に削減するもの、社会・産業構
造の変化を先取りした新たなイノベーション分野にアプローチするもの等である。具体
的には、クラウドコンピューティング、サイバーフィジカルシステム4等である。
また、環境や技術の変化に対応するため、以下の点にも留意すべきである。
1.施策の開始前に前提、成功指標の達成目標などを明らかにしておく。
2.Reviewの際に前提の変化による影響分析を行う。それによって、施策の中で意味の
なくなったこと、重要性が増したこと、今後注力すべきことを明らかにする。
加えて、ユーザの立場に立った施策も今後必要である。例えば、ユーザ側に立って、
システム開発を監視し、最終的な品質を見極める仕組みがあれば、業界全体の発展に寄
与すると考える。
【各委員の提言】
・経産省としては、可視化が容易ではないSW分野の施策への理解は容易ではないという
前提で、リスクを事前に確認しつつダイナミックな発想で自信をもって施策つくりと
そのImplementation を進めて欲しい。
SWとHWの共通技術基盤は、Digital化技術のみにあるとの割切りが必要。また、物
理層からアプリ層までの多様なドメインにある固有のSWとそれらドメイン全体を貫
くSWがあるという理解もされておらず、議論が混乱する理由になっている。
産業界のインセンティブは自社の生き残りにあり、社会貢献もその戦略のひとつで
ある。産業界のわがままな「金儲け」とし、距離をおきたいと考える国民に、国益の
立場に立って説明することも経産省の使命である。
「大航海プロジェクト」で、プライバシーと利便性のバランスがあるということと、
自分の責任でそのリスクをとることを国民に納得させたことは、国の公的支援があっ
たため可能となった。民間だけでは時間がかかる事業のなかから公的支援を活かせる
施策をを選択し、実施してほしい。省庁間連携(内閣府を活用)、企業のオープン・
イノベーション、標準化等がその例である。また、国のおおきなシステムについては、
SWプロバイダーだけではなく、ユーザーの立場にたった支援策が必要である。失敗例
は、年金システム問題、官公庁関連のシステム等、反省材料は多々ある。しかし、個
4
本報告書においては、大量のセンサーデータの解析結果に基づき、エネルギー消費や
交通等の社会活動を最適化するシステムをいう。
182
人番号制導入についてはこれまでの経産省の貢献を評価したい。
とにかく、急速な技術革新の流れにそって、リスクはあるという覚悟でSW関連の支
援を、自信をもってまずは進めて欲しい。必要なら開始後の修正も前提とすること。
SW産業における経費の3分の1は、修正・改善のために使われているという現実は、HW
の世界とは異なる。
・施策を戦略的に考えプロジェクトを展開するのは良い。しかし、環境や技術の変化非
常に激しいので、次の点を留意するといいのではないか?
1.施策の開始前に前提、成功指標の達成目標(技術、産業界へのインパクト)など
を明らかにしておく。
2.Reviewの際に前提の変化による影響の分析を行う。そのためにプロジェクト自身
で意味のなくなったこと、重要性が増したこと、これから注力しなければ成らない
ことを明らかにする。成功指標の達成度の分析。
(例:クラウドサービスの進展にともなう開発行為のネットワーク化とグローバル
化、オープン化によるコモディティー化の急激な進展。アンドロイド携帯、i-appli,
Google app engineなどのビジネス分野の遷移)
国の施策としては常に産業界にゆだねるべきところと、国がやらなければならない
ことを常に見直す必要性がある。サイバーフィジカルシステム、スマータープラネッ
トに内在する外部不経済にともなう社会的費用を明らかにし、劇的に削減すること、
新たなイノベーション分野を社会・産業構造の変化を先取りして明らかにしていくな
ど。
サイバーフィジカルシステムにおける社会インフラ、社会サービスが焦点になって
きているが、このようにITが社会性をもっていき、社会構造や産業構造が変わる可能
性があるときに、必要とされるIT人材や必要とされなくなるIT人材を見極め、人材育
成を戦略的に行う必要がある。
・20世紀の日本における技術開発は追いつき追い越せであった。しかし、現在は技術
力では先端に達している。高度に成熟した国にも関わらず製造業中心で生きていくと
いう歴史上稀な挑戦を行っている。このような視点から、単に技術開発だけを視野に
入れた施策をするだけでなく、成熟した尐子高齢化社会、成熟した情報社会における
技術開発を支援していくという施策が大事である。
これから、多くの国が成熟化に向かっていくときの大きな実験場ととらえて、社会
が求める安全、安心な技術開発という位置づけを明確化することがまず大事である。
それに加えて、投資した技術で世界をリードしていく姿勢が不可欠である。これまで
世界で戦える技術かという視点はあったが、世界をリードする戦略は十分とはいえな
い。オープン化、標準化、隠蔽化、囲い込みなどの手段を明確にするという戦略、そ
して、欧米やアジア諸国も巻き込んだ技術開発という戦略を展開して欲しい。
・経済産業省における情報技術関連分野の施策において、ハードウェアとソフトウェア
の施策遂行がバランス良く展開されることは、該当分野が真に国際競争力を備え、健
全な発展を遂げていく上で非常に重要である。つまり、今回の「情報サービス・ソフ
トウェアに係る技術に関する施策」のように、時期を得たソフトウェア関連の施策の
遂行はますます重要になってくる。今後の具体的な技術として、特に検討すべき施策
を三つ挙げるとしたら以下のものが考えられる。
(1)「新たな情報通信技術(平成22年5月11日 IT戦略本部)」、「新成長戦略(平成
22年6月18日 閣議決定)」をはじめとして、昨今、クラウドコンピューティングに
関する情報環境整備やサービス展開の必要性を謳う政府計画等が目白押しである。
このような状況のなかで、クラウドコンピューティングに関する施策を多面的に立
案し、遂行することは重要である。
183
(2)「第4期科学技術基本計画」の策定が最終段階に来ているが、Ⅳ.4に「 国際水準
の研究環境及び基盤の形成」を遂行する上での「知識インフラ」の必要性が明記さ
れている。この「知識インフラ」は、単に学術研究の推進のみならず、民間企業に
おける分野横断的な研究開発、さらにはオープンイノベーションを創起するために
も非常に重要な情報基盤となり得る。そこで、この「知識インフラ」の整備に当た
っては、他省庁との連携も考慮しながら経済産業省としての施策遂行が望まれる。
(3)「新成長戦略(平成22年6月18日 閣議決定)」、「第4期科学技術基本計画」にお
ける「成長の柱としての2大イノベーションの推進」に関する情報技術関連施策に
関して、経済産業省として今後さらにどのような施策を打って出るかは非常に重要
な課題である。つまり、“BY IT”の観点から、2大イノベーション実現のための
具体的な施策遂行のシナリオ策定がますます求められる。
・従来のIT産業の進化が、ITに関するハードウェアおよびインフラ中心であり、それを
核としたものであった。これまでの我が国のIT戦略は、基本的にこの路線であり、あ
るいはITサービスの受け手に対する施策が多かった。これに対し、ITそのものをビジ
ネスの業とする企業の将来展望は開けていない。これまでとは異なる新しいITを育て
る必要がある。
特に、情報サービスの側面において、企業向けの業務システム構築サービスを提供
するSI企業の抜本的な立て直しが必要と考える。技術的にはSOA、しくみ的にはクラ
ウドという大枠は踏襲しつつも、それぞれの企業がもつビジネスモデルを再構築する
ことを可能にする施策でなければならない。
たとえば、日本の摺合せ技術をサポートするITのしくみを提供するITサービスは、
欧米型の現在のITではカバーできておらず、ITサービスを海外展開するうえで日本企
業が優位に展開できる可能性がある。いや、逆に、この摺合せ型のITは、日本的な“
かいぜん”のしくみのなかでこそ完成できるのではないだろうか。大量生産、大量消
費をITの世界で再現するのではなく、必要な情報を必要なときに必要な形で提供する
リーンなITを目指すべきである。
なお、これは、いわゆるアジャイル型のソフトウェア開発をいっているのではなく、
むしろPDCA型の業務改善(通常の多くの製造業、サービス業はすでに行っている)の
中で、ITのコンテンツをどう洗練し、高めていくかという技術である。したがって、
ITサービス企業は、ソフトウェア知識以上にその業界の業務知識が必要となる。
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【技術に関する事業】
(大量データ利活用関連)
情報大航海プロジェクトは、社会的構造、社会的費用を顕在化し、社会システムの最
適化するものである。そのためのインフラ、センサーインフラ、サービスについて更な
る展開を図ることが望ましい。また、本事業の成果については、引き続き知的財産の共
同利用の促進と更なる要素技術開発を促すことが望まれる。
クラウドコンピューティングに関連する次の事業として、「サイバーフィジカルシス
テム」の研究開発が考えられる。「進化し続けるメディアと人間・社会のつながりを読
み解く実時間ソーシャルITメディア解析基盤システム」を構築し、膨大な情報空間の観
測及び解析によって社会の動向を探ることは、今後の社会において重要な役割を果た
す。
(組込みソフトウェア関連)
現在のクラウドサービスの展開の中でどのような開発環境やソフトウェア、プロセス
を標準化して提供していくかが重要になってきており、その観点からの分析が求められ
る。
また、日本の優位性を活かすためには、形式化された開発プロセスの中で擦り合わせ
ができることが不可欠であり、このような枠組みを構築する事業がこれからの日本に不
可欠である。従来の古典的なソフトウェア工学をあてはめるのではなく、独自のソフト
ウェア工学を構築することを目指すべきである。
(その他)
起業者育成により注力すべきである。
【各委員の提言】
・基本はSW分野はヒトにあり、短期的にはGDPへの貢献は小さくとも、若手の起業者の
育成が肝要であるという点にある。そのためには、リスクを考慮した「ばらまき」が
必要である。’80年代のIPAはそれを実施し、日本のSW産業の先端部分を支えてきた。
今後の具体策としては、日本の現状を点検すると、当面、IPAの強化(分割を含め)
しかないと思われる。IPAと産業革新機構との連携も期待する。そのためにも、技術
者の増員も考慮のこと。
委託事業については、リーダーの選定と育成・支援が鍵である。公的権限をうまく
活用させる配慮も必要。これまで経産省の事業がパットしないのは、その選定が稚拙
であった例が多いことも反省のこと。
・プロジェクトの前提となる環境変化があっても、常に次のステップに対するlessons
learnedを提示されたい。情報大航海プロジェクトはとくに社会的構造、社会的費用
を顕在化し社会システムの最適化への道を開くものだと考える。そのためのインフラ、
センサーインフラ、サービスの提言なども織り込まれるといいと考える。組み込みソ
フトウェアに関しては、現在のクラウドサービスの展開の中でどのような開発環境や
ソフトウェア、プロセスを標準化して提供していくかが重要に成ってきている。その
観点からの分析も必要だろう。
・日本の強みは擦り合わせ技術にあると言われている。もっとも、擦り合わせという言
葉で全てを語れば暗黙知だけになってしまう。欧米では、製品開発の形式化が進んで
おり、それに基づく多数の国際標準化がなされている。この影響で日本の開発技術も
形式化が進んできた。しかしながら、日本の優位性を活かすには形式化された開発プ
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ロセスの中で擦り合わせができることが不可欠である。このような枠組み作りの事業
はこれからの日本に不可欠である。
また、尐子高齢化や若い世代の内向化が社会問題になっているが、これは社会の成
熟化と裏腹の関係にある。情報技術は成熟化に大きな貢献をしてきた。今は、成熟化
のメリットをさらに引き出すように社会における情報技術を再定義するときである。
現在の日本のように高度に情報化された国は世界にない。それは製品とその製品を
使う国民が両輪となって築いた社会である。ここを情報技術の大きな実験場として誰
もが快適に使える安全安心な情報技術の構築とその技術を享受する国民への啓蒙、場
合によって教育も視野にいれていく必要がある。そして、日本に続いて高度化されて
いく諸国をリードしていく技術を生み出していく必要がある。
・具体的な事業として、例えば、クラウドコンピューティングに関する施策として、「ジ
ャパン・クラウド・コンソーシアム」の活動の推進が既に始まっている。今後、クラ
ウドコンピューティングに関するソフトウェア基盤の構築に関する諸事業の立案と
遂行が、さまざまな観点から日本の国際競争力強化のために不可欠であると考える。
そのクラウドコンピューティングにも関連する重要事業として、「サイバー・フィ
ジカル・システム」の研究開発事業を提案したい。情報爆発時代の真っ直中にいる現
状において、ITが社会インフラに組み込まれていくにつれ、物理世界(実世界)とサ
イバー世界を統一的に扱うパラダイム、「サイバー・フィジカル・システム」の考え
が特に重要になってきている。この分野に関しては、特に米国において、NSFが年間
3,000万ドルの予算をつけて研究開発を始めているのは良く知られている。日本でも
主要産業が、IT、特にクラウドコンピューティング基盤との連携を強めており、また、
環境・交通・医療などの社会インフラの構築において、物理世界とサイバー世界の融
合が喫緊の課題になってきている。
そのような状況のなかで、「進化し続けるメディアと人間・社会のつながりを読み
解く実時間ソーシャルITメディア解析基盤システム」の構築は非常に重要である。近
年、ソーシャルネットワークを中心とした多メディア化およびリアルタイム化が著し
く進んでいるデジタル情報空間における人々の活動は、実世界における社会活動と密
接に結合し、もはや切り離すことは不可能である。この傾向は逆に、ITを駆使したメ
ディアが社会の大きな不安定要因ともなり得る時代に突入していることを示してお
り、研究開発の対象としてメディアによる社会の影響を観測し、適切かつ健全な利用
をデザインしていくことが不可欠である。膨大な情報空間の観測及び解析により、社
会の動向を探ることは、ITメディアに強く依存することが必至である今後の社会にお
いて、国家、社会、組織、企業、さらには個人等多様なステークホルダの意思決定お
よびリスク管理において重要な役割を果たすことは間違いない。
・国が行う事業として、以下の基準に合った事業かどうかという視点でコメントする。
A)競争環境を整備することに貢献しているか。
B)協調環境を整備することに貢献しているか。
C)マーケットを大きくすることに貢献しているか。
D)要素技術を開発することに貢献しているか。
①情報大航海プロジェクト
基本コンセプトを明確にし、その上で、競争戦略を再度明確にするべきである。競
争相手は誰なのか、マーケットはどこなのか、開発すべき要素技術は何なのか。そし
て、当事者は誰なのか。
このプロジェクトの性格は、基本的にはD)である。B)に関する期待も多尐ある
186
が、現状では、あまりB)に関する成果は望めそうにない。コンテンツに関する法的
整備について、A)の要素が若干あるが、これは開発プロジェクトとは性格が異なる
ために、事業としては切り離して別途実施することが望ましい。一方、D)について
、今回の蓄積を個別の企業が個別に活用するのでは、プロジェクトの意味がないため
、パテントプール的なしくみを用いて、共同利用の促進と、さらなる要素技術開発の
インセンティブとなるような事業が望まれる。
②産学連携ソフトウェア実践事業
組み込みソフトウェアの技術開発に関しては、日本の製造業の今後の競争力にも大
きくかかわる問題であり、このテーマは引き続き、事業を継続するべきである。ただ
し、ソフトウェア開発の部分について、従来の古典的なソフトウェア工学、あるいは
エンタープライズ系のソフトウェア開発のフレームワークを無批判に当てはめるの
ではなく、独自のソフトウェア工学を新たに構築することをミッションとすべきであ
る。
プロジェクトの性格としては、A)およびB)である。現時点では、B)の非競争
領域に対するアプローチが中心であるが、協調環境の整備という意味では、AUTOSAR
の後追いという域を脱していない。日本の企業群がリーダシップをとって、あらたな
協調環境の整備を行うという第二ステップに進んでほしい。
また、一方で、A)の競争環境の視点も重要である。この視点がないと、最終的に
は、企業が本気にならないからだ。継続する場合には、前記の協調環境の中で、企業
個々がそれぞれの持つ技術によって差別化を図りやすい環境あるいはプラットフォ
ームとするかどうかにかかっている。
③IT投資効率向上のための共通基盤開発プロジェクト
基本的には、本事業は、一定の成果がすでに得られたものであり、情報家電の分野
での組み込みソフトウェアへの支援と育成について、あらたな戦略の見直しが必要で
あると思われる。
すでに、GoogleやApple等の欧米企業により、基本的なルールとインフラができあ
がっている現在において、新たな競争ルールをグローバルに提案することは難しい。
つまりA)についてはすでに勝負がついているともいえる。
しかし、情報家電とは、つまりはネットワーク上の1パーツとしての家電であり、
そのネットワークの構成を性格づける基盤ソフトウェアや、パーツそのものの信頼性
、汎用性を高めるソフトウェアには、多くの開発余地と競争の余地が残されているの
ではないか。
たとえば、現在はインターネット(TCP/IP)ベースの技術が注目されているが、衛
星を利用した技術、近距離の無線技術、電力ケーブルを利用した技術など、さまざま
な要素技術と、その利用技術とを結びつけるところに今後の展開を期待したい。
いずれにしても、パートナーシップを先に構築し、B)の視点にたった上で、D)
またはA)を志向する事業を新規に立ち上げて欲しい。
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第7章 評価小委員会としての意見
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第7章 評価小委員会としての意見
①民間に任せる分野と国が推進する分野にメリハリを付ける必要がある。例えば「産学
連携ソフトウェア工学実践事業(高信頼組込みソフトウェア開発)」については、業
界横断的に実施する意義が非常に大きく、国が推進する事業として妥当であるもの
の、プロジェクトの実施体制や管理マネジメントについては、更なる改善を望みたい。
②この分野は技術的な成果が社会的インパクトに繋がっていない例が多く、個別技術の
イノベーションではなく、社会的イノベーションに対して国がどう関与するのかとい
う観点から、戦略を練り直す必要がある。
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第8章 評点法による評点結果
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第8章 評点法による評点結果
「情報大航海プロジェクト」「産学連携ソフトウェア工学実践事業(高信頼組込みソ
フトウェア開発)」「IT投資効率向上のための共通基盤開発プロジェクト」に係る評価
の実施に併せて、以下に基づき、本評価検討会委員による「評点法による評価」を実施
した。その結果は「3.評点結果」のとおりである。
1.趣 旨
評点法による評価については、産業技術審議会評価部会の下で平成11年度に評価を
行った研究開発事業(39プロジェクト)について「試行」を行い、本格的導入の是非に
ついて評価部会において検討を行ってきたところである。その結果、第9回評価部会(平
成12年5月12日開催)において、評価手法としての評点法について、
(1)数値での提示は評価結果の全体的傾向の把握に有効である、
(2)個々のプロジェクト毎に評価者は異なっても相対評価はある程度可能である、
との判断がなされ、これを受けて今後のプロジェクト評価において評点法による評価を
行っていくことが確認されている。
また、平成21年3月31日に改定された「経済産業省技術評価指針」においても、
プロジェクト評価の実施に当たって、評点法の活用による評価の定量化を行うことが規
定されている。
これらを踏まえ、プロジェクトの中間・事後評価においては、
(1)評価結果をできる限りわかりやすく提示すること、
(2)プロジェクト間の相対評価がある程度可能となるようにすること、
を目的として、評価委員全員による評点法による評価を実施することとする。
本評点法は、各評価委員の概括的な判断に基づき、点数による評価を行うもので、評
価報告書を取りまとめる際の議論の参考に供するとともに、それ自体評価報告書を補足
する資料とする。
2.評価方法
・各項目ごとに4段階(A(優)、B(良)、C(可)、D(不可)<a,b,c,dも同様>)
で評価する。
・4段階はそれぞれ、A(a)=3点、B(b)=2点、C(c)=1点、D(d)=0点に
該当する。
・評価シートの記入に際しては、評価シートの《判定基準》に示された基準を参照し、
該当と思われる段階に○を付ける。
・大項目(A,B,C,D)及び小項目(a,b,c,d)は、それぞれ別に評点を
付ける。
・総合評価は、各項目の評点とは別に、プロジェクト全体に総合点を付ける。
191
3.評点結果
(A 情報大航海プロジェクト)
192
(B 産学連携ソフトウェア工学実践事業(高信頼組込みソフトウェア開発))
193
(C IT投資効率向上のための共通基盤開発プロジェクト)
194
「情報サービス・ソフトウェア技術分野」施策評価
今後の研究開発の方向等に関する提言に対する対処方針
提
言
対
処 方
針
○まずは、リスクを覚悟した上で、世界をリードする又は世界をリー ○今後のプロジェクトは、開始時、周辺調査を実施し、可能な限り、プロジ
ドするグループ入りするための戦略を練り、大胆な施策展開を図っ
ェクト終了後の事業化に向けた戦略を明確にすることとしたい。
て欲しい。戦略の例は、オープン化、標準化、ブラックボックス化、
囲い込み、海外を巻き込んだ技術開発、省庁間連携等である。その
ためには、マーケティングも含めた高度なソフトウェア工学も必要
となってくる。
○施策対象分野としては、国が関与すべき領域、民間にゆだねるべき ○情報サービス・ソフトウェア産業は特に変化が激しく、周辺環境の変化に
領域について常に見直すことが必要である。国が関与すべき領域と
適切に対応することは重要である。そのため、プロジェクト実施期間中も
しては、民間だけでは時間がかかるもの、外部不経済に伴う社会的
フォローアップを行い、各年度の事業内容を柔軟に見直すこと等を検討す
コストを明らかにして劇的に削減するもの、社会・産業構造の変化
ることとしたい。
を先取りした新たなイノベーション分野にアプローチするもの等
である。具体的には、クラウドコンピューティング、サイバーフィ
ジカルシステム等である。
また、環境や技術の変化に対応するため、以下の点にも留意すべ
きである。
1.施策の開始前に前提、成功指標の達成目標などを
明らかに
しておく。
2.Reviewの際に前提の変化による影響分析を行う。それによって、
施策の中で意味のなくなったこと、重要性が増したこと、今後注力
すべきことを明らかにする。
○加えて、ユーザの立場に立った施策も今後必要である。例えば、ユ ○関連する業界団体、(独)情報処理推進機構とも連携して、ユーザ視点か
ーザ側に立って、システム開発を監視し、最終的な品質を見極める
ら、品質・信頼性等に関するガイドライン等を作成しており、今後もこう
仕組みがあれば、業界全体の発展に寄与すると考える。
した取組を継続していくこととしたい。
1
「情報大航海プロジェクト」プロジェクト評価
提
言
今後の研究開発の方向等に関する提言に対する対処方針
対
処 方
針
○情報大航海プロジェクトは、社会的構造、社会的費用を顕在化し、 ○ご指摘を踏まえた上で、大量データの利活用について、平成22年度より
社会システムの最適化するものである。そのためのインフラ、セン
実施している「次世代高信頼・省エネ型IT基盤技術開発・実証事業」や
サーインフラ、サービスについて更なる展開を図ることが望まし
データの取扱いに関する検討、その他の施策を開始している。
い。また、本事業の成果については、引き続き知的財産の共同利用
の促進と更なる要素技術開発を促すことが望まれる。
○クラウドコンピューティングに関連する次の事業として、「サイバ
ーフィジカルシステム」の研究開発が考えられる。「進化し続ける
メディアと人間・社会のつながりを読み解く実時間ソーシャルIT
メディア解析基盤システム」を構築し、膨大な情報空間の観測及び
解析によって社会の動向を探ることは、今後の社会において重要な
役割を果たす。
2
「産学連携ソフトウェア工学実践事業(高信頼組込みソフトウェア開発)」プロジェクト評価
今後の研究開発の方向等に関する提言に対する対処方針
提 言
対 処 方 針
○現在のクラウドサービスの展開の中でどのような開発環境やソフ ○我が国独自の開発プロセスであるすり合わせ型手法と、欧米流の開発プロ
トウェア、プロセスを標準化して提供していくかが重要になってき
セスであるモジュール型手法を適切に融合させることの重要性は本事業
ており、その観点からの分析が求められる。また、日本の優位性を
を通して再認識したところであり、今後も検討してまいりたい。
活かすためには、形式化された開発プロセスの中で擦り合わせがで
きることが不可欠であり、このような枠組みを構築する事業がこれ
からの日本に不可欠である。従来の古典的なソフトウェア工学をあ
てはめるのではなく、独自のソフトウェア工学を構築することを目
指すべきである。
3
「IT投資効率向上のための共通基盤開発プロジェクト(情報家電分野 組込ソフトウェア)」プロジェクト評価
今後の研究開発の方向等に関する提言に対する対処方針
提 言
対 処 方 針
○現在のクラウドサービスの展開の中でどのような開発環境やソフ ○ご指摘のとおり、我が国独自の開発プロセスであるすり合わせ型手法と、
トウェア、プロセスを標準化して提供していくかが重要になってき
欧米流の開発プロセスであるモジュール型手法を適切に融合させること
ており、その観点からの分析が求められる。また、日本の優位性を
の重要性は認識しており、今後検討してまいりたい。
活かすためには、形式化された開発プロセスの中で擦り合わせがで
きることが不可欠であり、このような枠組みを構築する事業がこれ
からの日本に不可欠である。従来の古典的なソフトウェア工学をあ
てはめるのではなく、独自のソフトウェア工学を構築することを目
指すべきである。
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