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大学組織の評価指標のあり方に関する国際研究
プロジェクト研究 「大学組織の評価指標のあり方に関する国際研究」 報告書(簡易版) 筑波大学 大学研究センター リーダー 田中正弘(大学研究センター) メンバー 德永 保(大学研究センター) 稲永由紀(大学研究センター) 林隆之(大学評価・学位授与機構研究開発部) 浅野茂(山形大学学術研究院) 嶌田敏行(茨城大学大学戦略・IR 室) 西郡大(佐賀大学アドミッションセンター) 1 目次 本研究プロジェクトの趣旨と概要(田中正弘) . ...... .... .... .... .... . ..3-4 頁 組織評価に関する訪問調査の概要(田中正弘) 広島大学経営企画室訪問調査の概要 .. .... .... . ...... .... .... . ... .. .5-6 頁 広島大学高等教育研究開発センター訪問調査の概要 .. .... .... .... .. . .7-8 頁 金沢大学大学教育開発・支援センター訪問調査の概要 .... .... .... .. .9-10 頁 神戸大学企画評価室訪問調査の概要 .. .... .... . ...... .... .. . . . . .. .11-12 頁 ボルドー大学訪問調査の概要 .... .... .... .... . ...... .... .... .. .. . .. .13 頁 カリフォルニア大学(バークレイ・アーバイン)訪問調査の概要 .. ..14-15 頁 組織評価に関する先進的事例 英国大学における KPI 設定の事例(林隆之) .. . ...... .... .... ... .16-23 頁 山形大学における組織評価の概要(浅野茂) .. . ...... .... .... ... . .24-32 頁 佐賀大学の組織評価について(西郡大) .. .... . ...... .... .... .... .33-35 頁 組織評価に資する数値目標や指標と IR 活動について(嶌田敏行) . .36-37 頁 2 本研究プロジェクトの趣旨と概要 田中正弘(筑波大学) 本研究プロジェクト「大学組織の評価指標のあり方に関する国際研究」の趣旨は,本学の 組織評価のあり方を転換させるのに有用な情報を提供することである。 筑波大学には,平成 29 年度に組織評価を主に定量的指標(Key Performance Indicators: KPI)に基づくものへと転換させる計画がある。この計画実施に向けて,平成 28 年度は, 評価に利用するデータの収集を進める予定である。評価の基本的なスキームは以下の通り である(筑波大学 2015b) 。 (1)教育研究組織の評価は,基本的に下記の①と②の評価指標に基づく。なお,①の評価 指標を当該組織の評価に用いることが不適当と判断された場合や,①の評価指標にさらに 評価指標を加えたい場合などは,③の評価指標も加味できる。 ①大学全体の標準評価指標 ②比較対象として適当な国内外の大学の評価指標 ③当該組織が選定・開発し,かつ国際互換性がある評価指標 (2)教育研究組織の評価は,本学の組織同士を比較するためのものではなく,年度ごとの 向上度を測るためのものである。 (3)各組織と本部が協働し,データ収集の作業を効率化させる。 組織評価を主に定量的指標に基づくものへと転換させる理由として,現在実施している 組織評価に下記のような課題を見いだせることが挙げられている(筑波大学 2015a) 。 ①組織評価が教育研究の質の向上に結びついているかが疑問である。 ②評価結果に基づいて,各組織の活動を発展・改善させるための支援が行われた実績が, あまりない。 ③評価結果に基づいて,各組織の見直しや将来計画の策定が行われた実績もあまりない。 ④活動実績報告書の作成が各組織にとってかなりの負担になっている。 そこで本研究では,組織評価で先駆的な取り組みを既に実施している広島大学,金沢大学, 神戸大学,フランスのボルドー大学,アメリカのカリフォルニア大学(バークレー校,アー バイン校)に着目し,訪問調査を実施した。その成果は次節以降を参照していただくことと して,ここではその成果から得られた示唆を述べたい。 定量的指標に基づく組織評価は,組織全体の活動を数量化できるため,各組織の現状や課 題を浮き彫りにできるだけでなく,組織ごとに期待する活動の水準を数値化できるため,将 来計画(ゴール)が明確になるというメリットがある。例えば,広島大学は,世界ランキン グでトップ 100 に入るために大学全体でどの程度の業績が求められるかを数値化した, 「目 標達成型重要業績指標」 (Achievement-motivated Key Performance Indicators)を策定し, 3 ゴールに向かって業績の上積みに取り組んでいる。 しかし,定量的指標に基づく組織評価にはデメリットもある。その一つは,指標化されな かった活動は評価から抜け落ちてしまうことである。もう一つは,質の保証・向上には活用 しにくいこともあることである。例えば,個々の研究論文の質は,掲載された雑誌のインパ クトファクターや論文の被引用数などで計ることができるが,人文系社会科学系の分野で はあまり一般的ではない。従って,定量的指標に基づく組織評価のメリットを活かしつつ, 定性的判断(ピアレビュー)に基づく組織評価を適宜組み合わせることで,より有効な組織 評価制度を構築できると思われる(佐賀大学 2015)。 【参考文献】 筑波大学(2015a) 「教育研究評議会資料」(平成 27 年 6 月 18 日) 筑波大学(2015b) 「運営会議資料」 (平成 27 年 12 月 24 日) 佐賀大学インスティテューショナル・リサーチ室(編) (2015) 『大学マネジメントと IR ~ 最適な KPI の設定を目指して~』 4 広島大学大学経営企画室訪問調査の概要 田中正弘(筑波大学) 日時:2015 年 7 月 15 日(月)11:00~12:30 場所:広島大学本部棟 対応者:相田美砂子副学長(大学経営企画室担当) ,佐々本隆司高度専門職員, 角田明主査(IR 担当) 訪問者:林隆之(大学評価・学位授与機構) ,田中正弘(筑波大学) 訪問調査の結果概要 (1) 「徹底した大学のモニタリング」を開始することとなった背景 モニタリングの実施組織である大学経営企画室は,既存組織の競争的資金獲得戦略室を 発展的に改組し,平成 23 年 12 月に設置されている。企画室の元となった戦略室が設けら れたのは,競争的資金に申請するために必要な情報(どの教員がどのような研究を行ってい るかなど)を集約し,かつ,申請窓口を各部局単位から,全学単位に統一すべきだと,浅原 前学長が考えたためである。このため,この戦略室は学内の全ての情報の把握に力を注いで きた。 その後,戦略室が,競争的資金を獲得するためだけでなく,情報に基づいて大学全体の計 画を論じるようになってきたことから,その活動内容に合わせて名称を大学経営企画室へ と改めた。このような背景があるため,大学経営企画室の役目は全学のコントロールタワー, つまり,大学の活動を監視することとなった。現在の室員は,副学長(大学経営企画室担当) 1 名と,高度専門職員 5 名である。大学経営企画室の部会は,IR 検討会と競争的資金獲得 検討会の 2 つで,兼担の教職員にも参加してもらっている。 (2)A-KPI 作成のプロセス モニタリングの指標である, 「目標達成型重要業績指標」(Achievement-motivated Key Performance Indicators: A-KPI)の原案は,どのような指標があれば教員の活動を計れる のかという課題を与えられた,競争的資金獲得戦略室が作成している。その後, 「スーパー グローバル大学創成支援」 (SGU)の申請に合わせて,その原案を A-KPI として具現化し, SGU の申請書に盛り込んだ。よって,A-KPI は,SGU の趣旨に従って,広島大学が世界ト ップ 100 に入るという,目標への達成経路をモニターする仕組みとして設計された。 具体的に,A-KPI は,主に5つの指標で構成されている。5つの指標とは,①授業担当, ②博士人材の養成,③SCI 論文,④外部資金受入,⑤国際性である。なお,教育と研究の重 みは,意図的に同じにしている。 (3)A-KPI 制度の現状と課題 広島大学が世界トップ 100 に入るには,5つの指標の合計値が 1000 となる必要がある。 平成 24 年度の時点で,合計値は 440 なので,目標値には 2 倍強の隔たりがある。ただし, 各指標によって,目標値までの隔たりに大きな差がある。例えば,①授業担当の目標値が 5 300 なのに対して,現在値は 266 なので既におおむね達成されているといえる。対照的に, ④外部資金受入の目標値は 150 なのに対して,現在値は 30 しかない。さらに,⑤国際性の 目標値は 100 なのに,現在値は 8 しかない。 A-KPI の導入によって,部局ごとの単位で,教員の活動を数値化できるようになった。そ の結果,例えば,授業担当の指標において,社会科学研究科や外国語教育研究センターの教 員の得点が高いことが可視化された。加えて,教養科目,専門科目,教職科目ごとの得点分 布も明確となった。また,非常勤講師の得点が高いという問題点も露わとなった。一方で, 理工農系の部局は SCI 論文の得点が高い傾向が見られる。 A-KPI 導入の目的は,部局間の得点分布の差を是正することではない。各部局の強みを 伸ばしつつ,大学全体の合計値を高めていくことが主目的である。教養科目の指導に力を注 ぐ部局もあれば,大学院生の増加を目指す部局,または SCI 論文(特に国際共著論文)の 作成に特化する部局など,各部局に求められる活動成果が達成されているかを定量的に示 すツールとして,A-KPI は用いられる。たとえば,授業担当の指標は全学レベルでは目標値 をおおむね達成しているが,これで良いのではなく,授業担当が目標値の数倍の人と 0 の 人を増やすような内訳の変化が今後必要となる。なお,A-KPI のデータは教員単位で示す ことも可能だが(そして,部局長はそれを求めてくるが),今のところ,そのようなデータ は提供していない。各部局の平均値のみを提供している。 A-KPI について部局等から反発のようなものはない。特に,研究大学強化促進事業への 申請の際に「採択されないことがあってはならない」と全教員が危機感を共有し,エビデン スベースで分析を行い,申請書を書くという考えが浸透した。各種の大学改革のワーキング も展開されており,そこでも危機感は共有されてきていたことが背景にある。また,A-KPI は役員会でオーソライズするプロセスも経ているので反発は出ていない。 (4)A-KPI 制度の望ましい発展の方向 A-KPI 制度は,10 年後の目標値を設定し,その目標値を教員一人当たりの数値に換算し 直したものだといえる。ただし,全ての教員がこの数字を目指す必要はないと考えている。 換言すれば,全ての教員の平均値が目標値に達する解は無数にあるはずなので,その点を踏 まえた上で,教員の適切な配置に A-KPI 制度を利用できるように,A-KPI 制度の精度を上 げていきたい。 A-KPI の合計値は,全教員の努力の総和である。よって,教員の数が増えれば,単純に, A-KPI の合計値も増える。広島大学では,運営費交付金の削減に合わせて承継教員の数を 漸減してきた。10 年前には 1,650 人いたのが,現在は 1,500 人を下回っている。しかし, 毎年度更新など不安定な雇用形態である特任教員の数を増やしてきたため,教員の総数は 1,800 人へと増えた。教員の人数をどのように増やしていくかは,世界トップ 100 を目指す 日本の大学にとって,今後の課題である。 以上 6 広島大学高等教育研究開発センター訪問調査の概要 田中正弘(筑波大学) 日時:2015 年 7 月 15 日(月)14:00~15:10 場所:広島大学高等教育研究開発センター 対応者:丸山文裕センター長・教授,大場淳副センター長・准教授,村澤昌崇准教授 訪問者:林隆之(大学評価・学位授与機構) ,田中正弘(筑波大学) 訪問調査の結果概要 (1)外部評価を開始することとなった背景 2012 年 3 月の広島大学評議会において,中期計画の修了年度である 2015 年度までに, 広島大学の学内共同教育研究施設等の外部評価を実施することが決議された。この決議に 従い,高等教育研究開発センターでも,外部評価,およびその根拠となる自己点検・自己評 価に着手した。 外部評価に類する過去の経験としては,21 世紀 COE プログラムに採択されてプロジェ クトを実施したときに,COE の外部評価を行った。しかし,センターの外部評価としては 今回が初めてである。 2014 年 3 月に,高等教育研究開発センター運営委員会において,自己点検の実施および 自己評価報告書の作成が認められ,その後,外部評価委員会を発足させた。この委員会の委 員には,他の部局の教員にも参加してもらった。 (2)外部評価指標の作成プロセス(特にどの指標を盛り込むかの議論について) 評価の項目は,大きく分けて,研究活動,教育活動,社会貢献・国際交流活動の3つがあ る。各項目のリーダーを定め,教員が分担して,2010 年度から 2014 年度までの5年間の 活動に対する自己点検を行い,その結果を自己評価報告書(2015 年 7 月発行)として,冊 子にまとめた。評価方法は,過去に立てた目標の達成を見るものではなく,現況を評価する 方法である。評価項目は,他大学や広島大学内のセンター等の外部評価報告書を参考に検討 した。 研究活動の主な評価項目は,研究活動の実態と研究活動の支援の2つである。研究活動の 実態は,さらに5つの細目(①各教員の研究テーマ,②国際会議,③受託研究,④出版活動, ⑤各教員の研究成果)に分かれている。自己点検・自己評価では,外部にアピールできる活 動の記述を意識的に盛り込んでいる(漏れがないように,書けることは全て書くという,ベ タ書きになっている) 。その一方で,自らの課題について厳しく分析することに努めた。 研究成果の扱いについて,例えば分担執筆を著書としてカウントするべきかなどの点で, 教員個々の合意形成が難しかったため,各自の判断(各教員の自己申請)に委ねた。また, 研究の質の評価は,研究成果を数量化し,定量的に判断するのではなく,ピアレビューを基 本とした,定性的な方法を採用した。換言すれば, (他大学との比較の視点が含まれる)ピ アレビューによって,センターに期待されている研究成果の質が保たれているかを判断し てもらった。 7 教育活動の評価では,大学院生の入口から出口までの質的な評価を行った。指標化した項 目は,大学院の定員充足率のみである。修了生アンケートも行ったが,自由記述中心である ため,報告書の本文には一部引用したのみである。なお,修了者の就職状況が良好であるこ とを,強くアピールした。実情を知っている人が外部評価者とはならないため,見える化・ 数量化し,また,時系列を示すことが必要と考えた。 社会貢献・国際交流活動の評価について,高等教育政策への貢献など,各教員の活動を捕 捉することに努めた。とはいえ,データの収集は困難であったため,嘱託依頼があって副業 申請が行われているもの以外(例えば学会活動への貢献など)は,取りこぼしがあるかもし れない。 (3)外部評価制度の現状と課題 外部評価委員の厳しいコメントは,自己評価報告書で自ら課題として掲げた箇所に集中 していた。このことは,評価結果を何に活用するのかという点で,難しい問題を内包してい る。つまり,評価結果を自己改善に活かしたいのであれば,自己点検で発見した課題を自己 評価報告書に包み隠さずさらけ出し,その点を外部評価委員に指摘してもらうことで,自己 改善をしなければならないという外圧を得られる。ところが,その厳しい評価結果が学内予 算の傾斜配分に利用されるのであれば,自己評価報告書に書かなくても良いことは,書かな いという判断をしたほうが賢明だといえる。このため,自己評価の目的によって,報告書の 内容を書き分けたほうが良いと指摘できる。 (4)外部評価制度の望ましい発展の方向 外部評価の実施にかかる教職員の負担が大きい割に,自己改善に関する目立った成果を 得られていないように思われる。センターは規模が小さいため,外部評価書を外圧として活 用して組織を動かす必要性もない。次回は,評価のコストパフォーマンスを高めつつ,自己 改善により活用できるようなものにしていきたい。 以上 8 金沢大学大学教育開発・支援センター訪問調査の概要 田中正弘(筑波大学) 日時:2015 年 10 月 8 日(木)9:30~11:30 場所:金沢大学大学教育開発・支援センター 対応者:堀井祐介教授,西山宣昭教授,杉森公一准教授,河内真美特任助教, 上畠洋佑特任助教 訪問者:浅野茂(山形大学) ,嶌田敏行(茨城大学),田中正弘(筑波大学) 訪問調査の結果概要 (1)教員評価制度の現状と課題 金沢大学は,法人評価における文部科学省の要望に応える形で,平成 19 年に教員評価に 着手した。平成 19 年は試行として実施し,それから 2 年おきに,平成 21 年,平成 23 年, 平成 25 年と本実施している。さらに,平成 23 年頃から教員評価の結果の活用を文科省に 求められたので, 「教員評価結果活用ワーキング」を立ち上げている。 教員評価に用いる教員業績のデータベースは,教育,研究,社会貢献,診療,管理運営の 5 項目で構成されている。その 5 項目について,教員が 10 を割り当てる重み付けを自らの 判断で行う。例えば,教育は 3,研究は 4,社会貢献は 1,管理運営は 2 など,合計が 10 に なるようにする。そして,教員が期末や年度末に 5 段階で自己評価し,各自が設定した重み 付けの点と掛け算をする。よって,最高点は 50 点となる。評価結果は,40 点以上なら S, 30 点から 40 点なら A,それ以下の点数なら B や C となる。 この自己評価と平行して,平成 27 年に試行された新しい教員評価制度では,委員会形式 のピアレビューも行われることとなった。評価委員会は 2 人~5 人で構成される。多くの場 合,学類長 1 名,コース長 1 名,および専門分野が近いと,学類長やコース長が推薦した教 員 1 名の計 3 名となっている。彼らが評価対象となる教員の業績を全て吟味し,各自が個々 に点数を付けて,その平均点を算出する仕組みとなっている。 これらの 1 次評価の結果は,執行部に 2 次評価の資料として提出される。この 2 次評価 の結果が給与に反映されることになる。なお,2 次評価の結果は 4 段階(SS,S,A,B) で,付けられる。その内訳は,SS「勤務成績が極めて良好である」が 5%,S「勤務成績が 特に良好である」が 15%,A「勤務成績が良好」が 80%となっていることから,プラス評価 のみを行い,マイナス評価は行わない設定となっている。 教員評価の課題として,金沢大学の教員の所属は,研究域およびその下部組織である系と なっている一方,教育組織は学域と学類なので,所属長が教育活動の評価も行うべきなのか, あるいは学域長や学類長も評価に加わるべきなのか,という議論があることである。また, 教授会や各種委員会をむやみに欠席する教員が散見されることから,管理運営の評価項目 として, 「勤務態度」を入れるべきかという議論も出されている。 (2)IR 制度の現状と課題 平成 23 年頃に,データを集約するシステムの構築に取りかかり,そのための審議組織と 9 して,データウエアハウス検討部会というワーキング・グループが情報戦略本部の下に作ら れた。そして,平成 25 年には,データウエアハウスというデータベースが稼働している。 また,平成 26 年度に AP が採択されたことにより,その補助金を用いて,教育面の IR を 担当する特任助教を 1 名採用した。 (3)学習成果の測定の現状と課題 金沢大学は,SGU および AP の採択に伴い,学習成果の測定をアクティブ・ラーニング の推進と組み合わせて進めている。つまり,アクティブ・ラーニング科目の学習成果をどの ように測定するのかという課題に全学で取り組んでいる。一例として,学生による学習成果 の自己評価アンケートを年 2 回実施することとなった。また,学習成果の測定結果は,筑波 大学の FD 報告書を参考に,FD 活動に用いるべきだという結論に至ったので,分析結果を 各部局に提示し,次年度に向けてどのように改善するかを,400 字以内で具体的に記述して もらう制度を構築した。なお,これらの文章は全学の FD 活動報告として公表されている。 (4)大学組織評価指標の現状と課題 金沢大学は,千葉大学の取り組みを参考に,データに基づく自己点検評価を毎年実施して いる。主な評価指標は,教育面では標準年限修業率,中退率,退学率,休学率,単位取得率 など,研究面では科研など外部資金の額,論文本数など,人事面では女性の割合,高度専門 職員の割合など,数量化しやすい項目が並んでいる。これらの項目ごとのデータを元に自己 点検報告書が作成され,かつ公表されている。 データの結果に対するコメントは,企画評価会議という全学組織が示している。構成員は 理事や研究域長などである。なお,評価指標の項目によっては,割合が高い方がよいのか, 低い方がよいのか単純に判断できないものも含まれているため,安易なコメントは避ける 努力が払われている。例えば,転学部率が低ければ,転学のハードルが高いのを改善すべき, あるいは転学部率が高ければ,学生が定着していないのを改善すべき,という矛盾したコメ ントになりかねないためである。 以上 10 神戸大学企画評価室訪問調査の概要 田中正弘(筑波大学) 日時:2015 年 12 月 7 日(月)14:00~16:00 場所:神戸大学本部棟 対応者:土橋慶章准教授,長崎英助専門職員 訪問者:浅野茂(山形大学) ,嶌田敏行(茨城大学),西郡大(佐賀大学), 田中正弘(筑波大学) 訪問調査の結果概要 (1)組織評価(主にセンターの評価)について 神戸大学は, 「神戸大学における点検評価の基本的な考え方」および「神戸大学自己点検・ 評価指針」を策定し,これらに基づいて組織評価を行っている。この組織評価の基本的な理 念として,①組織の理念・使命に基づいた点検・評価を行うこと,②必ず外部の視点を取り 入れること,③証拠に基づいた点検・評価とすること,④点検・評価を合理的・効率的に行 うことなどが掲げられている。点検・評価は部局(またはセンター)単位で行い,組織の点 検・評価とその組織に所属する各教員の点検・評価の 2 本立てで構成されている。 総括的な点検・評価は,法人評価のサイクルに合わせて,原則 6 年に一度実施される。こ の点検・評価は,評価の対象となった組織の質の保証や質の改善に資するようなものである べきだと考えられている。このため,評価結果によって,人的・物的ペナルティーを科した りすることは,意図的に避けられている。評価結果は,適切な水準にある,水準を上回って いるなど,現況調査表に沿った 4 段階で示される。評価は評価専門委員(各部局から 1 名 ずつ推薦される)2 名が行う。その評価結果は,部局長などで構成される大学評価委員会で 最終決定される。評価結果に基づき,改善計画を提出してもらい,しばらくして,その改善 計画の履行状況を報告してもらう。 点検・評価の第一サイクルの時は,センターの評価も,学部や研究科と同様に,教育,研 究,学内支援活動,社会貢献・国際交流という,4 つの項目に対して,点検・評価を実施し てもらった。しかし,研究中心のセンターで教育をほとんど担当していないところは,教育 の項目を書くのは難しいという問題が発生した。逆に,学内支援のためのセンターが研究業 績を強くアピールしようとするなどの問題も見られた。そこで第二サイクルでは,自己点 検・評価報告書の冒頭に,センターごとの目的・使命を書いていただくこととし,その目的・ 使命に従って,期待されている活動が水準を上回っているかを点検・評価してもらう形に改 めた。よって,自己点検・評価報告書にどの項目を記載するかはセンターの裁量で決められ るようになった。 自己点検・評価報告書の分量は,1 頁あたり 2,000 字で,計 10 頁程度と定められている。 報告書には必ず,センターの目的,および将来構想を書き込まなければならない。また,自 己評価の結果だけではなく,外部評価の結果も記載することに加えて,それらの資料を添付 することが求められている。自己点検・評価報告書は,先記したように,主査・副査(基本 的に文系・理系の組み合わせ)の2名で構成される評価専門委員によって評価され,その結 11 果は大学評価委員会で最終決定される。この評価結果に不服の場合は,異議申立を行える。 異議申立に散見される内容は, 「もう少しこういった業務にも力を入れて欲しい」という指 摘に対して, 「指摘事項はセンターのミッションから外れるので的を射ていない」というよ うな反論である。 組織評価を導入するにあたり,第一サイクルの時は特に一部のセンターから強い反発が 見られた。これは,評価の形がどのようなものになるのかがはっきりしない上に,評価の結 果がどのように使われるのかもはっきりしなかったためである。しかし,評価の目的がスク ラップ・アンド・ビルドではないことが明確になったことから,第二サイクルでは,反発は ほとんど見られなくなった。神戸大学におけるセンターを対象とした組織評価は,大学全体 として各センターをどう位置づけているかということと,それぞれのセンターが大学の一 部としてどのような活動を展開しているのかを,執行部だけでなく,センターにとっても, 確認する良い機会となっている。 以上 12 大学評価制度に関するボルドー大学訪問調査の報告 田中正弘(筑波大学) 日時:2015 年 7 月 22 日 14:00~15:00 場所:ボルドー大学(フランス) 対応者:Maureen Grimbert, Director of Management Control 訪問者:佐藤忍,山岡裕一,テイラー・デマー,田中正弘,元村彰雄,田中文 訪問調査の結果概要 フランスの「大学」 (université)は全て国立で,教職員の身分は公務員である。ただし, その法的地位は,国の交付金で運営される「公施設法人」 (établissement public à caractère scientifique, cultural et professionnel : EPSCP)と見なされる。大学への交付金の一部は, 国と大学との「機関契約」 (contract d’établissement)に基づいて配分される。契約は 5 年 サイクルで,その更新のたびに,国の「認可」(habilitation)を受ける必要がある。なお, 認可に至るまでに国の指導(政策の受容:例えば,職業志向の学位への転換など)を受ける ことがままある(大場 2014) 。 フランスの大学の自律性は 2007 年 8 月に「大学の自由と責任に関する法律」 (Loi relative aux libetés et responsabilités des universités : LRU)が施行されたことによって,大幅に 拡大した。とはいえ,自律性の拡大と引き替えに大学評価制度も整備されたため,現在では, 「研究・高等教育評価機関」 (Agence d’évaluation de la recherche et de l’enseignement supérieur : AERES)による機関評価も行われている。そして,その評価結果は予算配分に 反映されるため,AERES の評価は大学の内部質保証制度の整備を促した(大場 2014) 。 ボルドー大学では,2016 年の新しい契約更新に向けて,準備を始めている。その準備は 三段階に分かれている。第一段階として,2014 年 4 月~9 月に既存組織の評価を行った。 第二段階(2015 年 10 月に実施予定)は,AERES の評価結果を学内に浸透させて,学内組 織を改善させることである。第三段階(2016 年度)において,新しい学位プログラムを試 行的に実施する計画がある。この三段階の改革を滞りなく実行していくため,組織評価指標 (KPI)を作成した。指標は 57 あり,定量的(数値化)というよりも定性的(報告書の内 容を吟味できるような)評価の物差しとなっている。なお,KPI は大学の組織全体を評価す るもので,個々の部局や教職員に当てはめるものではない。 以上 【参考文献】 大場淳(編) (2014) 『フランスの大学ガバナンス』広島大学高等教育研究開発センター 13 カリフォルニア大学訪問調査報告書(組織評価) 田中正弘(筑波大学) 日時:2015 年 10 月 27 日(月)10:00~12:00,10 月 28 日(火)13:00~15:30 場所:カリフォルニア大学バークレー校(UCB) ,アーバイン校(UCI) 対応者:Heather Archer, Assistant Vice Provost, Academic Personnel Office, UCB Diane O’Dowd, Vice Provost, Academic Personnel Office, UCI 訪問者:野村港二,田中正弘,中上聡夫,馬場友美子 訪問調査の結果概要 カリフォルニア大学の組織評価制度を調査する目的で,バークレー校とアーバイン校を 訪問した。主な調査項目は, (1)教員の採用・昇進・テニュア授与などに関わる教員業績 評価について, (2)大学全体の組織評価について, (3)教育プログラムの新設・改善・廃 止などに関わるプログラム評価について,という三つを設定していた。しかし,調査で具体 的な説明をいただけたのは,両校ともに対応者が人事担当副学長であったことから,(1) のみとなった。なお,カリフォルニア大学は,教員の採用・昇進・テニュア授与に関して全 学統一の規定を設けている。このため,バークレー校とアーバイン校の訪問では,教員人事 に関してほぼ同じ内容の説明を伺うこととなった。 カリフォルニア大学に限らず,アメリカの大学では,教員人事に多大な時間をかけて,丁 寧な人事を行っている。一例として,教員採用の最終審査(書類審査で残った上位3人程度 の審査)において,最終選考の対象者を2泊3日程度の日程でキャンパスに招いて,教員(学 科長,学部長,理事などを含む)と 30 分刻みで面談をしたり,食事会などで教員(学生代 表が含まれることもある)と一般的な会話をしたりすることによって,対象者の知識や人柄 を複眼的に判断するということが行われている(松井 2007) 。このような手間の掛かる人 事制度は, 「教員の質こそが大学のアカデミック・インテグリティの要」 (松井 2007: 1)で あるという信念に基づいている。 カリフォルニア大学の昇進人事では,2~3年のサイクルで号俸が上がっていく制度が 採用されている(別添資料1を参照)。俸給表は全学統一であるが,経済学,法学,医学, 情報科学などは,その分野への高い社会的需要を考慮して,給与が高く設定されている。た だし, 「情報科学分野の研究者の給与面で,シリコンバレーにある IT 企業との競争は,ほぼ 不可能」 (バークレー校訪問調査結果)とのことであった。 カリフォルニア大学では,助教(Assistant Professor)として働き始めてから,7年目~ 12年目の間に,准教授(Associate Professor)に昇進しなければ,大学を去らなければな らない(13年以上,助教で居続けることはできない) 。なお,助教から准教授へと昇進し テニュア(終身雇用資格)を授与される割合は, 「バークレー校で約 75%」 (バークレー校訪 問調査結果) , 「アーバイン校で約 85%」 (アーバイン校訪問調査結果)である。職階は,助 教,准教授,教授の3種類であるが,特に優れた教授には「教授 VI-IX」という肩書きや, さらに上位の「国際教授」 (University Professor)という肩書きもある(APM-260) 。 2~3年ごとに行われる教員評価は,ピア・レビュー(同僚評価)を原則としている。評 14 価の項目は,①教育,②研究,③専門職としての活動(医療行為など),④社会サービス(学 内業務を含む)である(APM-210) 。アメリカの大学は教育活動の貢献を重視するが,カリ フォルニア大学は研究大学であるため,②研究のウエイトが重い。事実,その割合は「教育 20%,研究 70%,社会サービス 10%」 (バークレー校訪問調査結果)となっている。ちなみ に, 「従来はおおむね研究業績のみで評価されていたが,現在は教育の割合が増えてきてい る。教育で特に優れた業績をもつ教員について,教育のウエイトを重くした特別な評価を行 うこともあるが,特殊な事例にとどまっている」 (バークレー校訪問調査結果)。 昇進に関わる評価は「通常,同僚との面談を経て,学科長の推薦によって始められる」 (APM-220: 11)。昇進評価の対象となった教員は,自己評価報告書を教員人事委員会 (Committee on Academic Personnel)に提出する。この自己評価報告書と,大学が管理し ている教員業績記録,および学科長の推薦書などが評価の対象となる。評価の実施組織とし て,学科レベルの臨時評価委員会(ad hoc review committee)が組織される。なお,この 委員会の委員は「評価される教員と同等の号俸を得ている同僚」 (APM-220: 13)から選ば れる。学科レベルの臨時評価委員の判定結果(昇進の推薦状)は,学部レベルの臨時評価委 員会が審査する。そして,この学科レベルの委員会の推薦状は,各校(キャンパス)レベル の臨時評価委員会,予算委員会(給与面での妥当性を審査) ,教学副学長補佐(Vice Provost) , および教学副学長(Provost)が審査する(別添資料1を参照) 。最終的な評価結果は,教学 副学長に決定権がある。 上記のように,昇進評価は学科内で閉じられた審査にはなっていない。これは個人的な感 情(好き嫌い)や学科内の派閥関係で,昇進評価の結果がゆがめられないための工夫といえ る。 (補足)教員評価と組織改組の関係について 教員は,個々のプログラムではなく,学科(department)に所属している。このため, 学科の改廃は執行部にとって容易ではない。ただし,退職者4人の中の1人分のポストは執 行部で吸い上げられる(そのポストは執行部が自由に配置できる)ので,長いスパンで,学 科の改組は可能といえる。例えば, 「バークレー校は歴史的・地理的背景から鉱山学科を有 していたが,役割を終えたこの学科は既に存在しない」 (バークレー校訪問調査結果) 。 以上 【参考資料】 松井範淳(2007) 「アメリカにおける大学の運営と評価」『大学教育』第4号,1-21 頁。 15 英国大学における KPI 設定の事例 林隆之(大学評価・学位授与機構) 1.英国大学における KPI の概観 英国の多くの大学では、戦略文書において独自に KPI を設定している(JISC 2009, Pollard et al. 2013a: 28)。2006 年に英国の大学議長委員会(Committee of University Chairs: CUC)は、自大学の KPI を設定しようとしている大学のカウンシル等の議長職へ 向けたガイダンスを作成した。そこでは暫定的なフレームワークとして、大学のパフォーマ ンスに関する 10 の幅広の領域を以下のように示した。そのうちの 2 つはトップレベルの総 括的指標であり、残りの 8 つの指標がより具体的なものとして、2 つの総括的指標を支援す るという構造である(Pollard et al. 2013b: 14) 。 表1 CUC(2006)による指標領域 ・トップレベル総括的指標(スーパーKPI) 1. 大学の持続性 2. アカデミックプロフィールと市場のポジション ・大学の健全性に関するトップレベル指標 3. 学生の経験と教育・学習 4. 研究 5. 知識移転と連携 6. 財務面の健全性 7. 不動産とインフラ 8. スタッフ・人材開発 9. ガバナンス、リーダーシップ、マネジメント 10. 大学のプロジェクト CUC ではこの 2006 年の提言に続いて 2008 年に調査を行った。その結果では、調査を受 けた 10 大学のうちの 9 大学がこの CUC のフレームワークのもとで KPI の見直しを行って いる状況であったという。また、KPI の設定にはコストがかかるが、大学の戦略マネジメン トプロセスにおいて主要な要素であると認識されていることも明らかにしている。逆に言 えば、KPI 設定やモニタリングが独立した活動になっては意味がなく、既存の戦略プラン ニングの取組とかみ合った活動になることが重要であることが強調されている。 このように個別大学が独自に KPI を設定していることと並行して、英国では、国レベル で共通的な PI が設定され公表されている。1997 年のデアリングレポートにおいて、大学 に関する適切な指標とベンチマークを提供する必要性が提言されたことを受け、1999 年よ り HEFCE が、2004 年からは高等教育統計局(HESA)が統計データに基づく UK Performance Indicators in Higher Education(UKPI)を公表している。大学は HESA が 提供する HEIDI というシステムにより、容易にこの UKPI のデータを用いて時系列分析や 他大学との比較ができるようになっており、大学が各自で KPI を設定するための一つのイ ンフラとして UKPI が機能している。ただし、あくまでも UKPI は大学セクター全体の公 的アカウンタビリティのために設定された指標群であり、各大学はそれぞれのミッション 16 に即した独自の KPI を設定している。 E. Pollard, et al.(2013b)では、大学などに対するアンケート調査により、現時点でど のような PI を組織内で用いているかを調査している。多くの大学では、幅広い種類の学生 の参加(入学) 、学生の在籍維持、雇用可能性、研究の4つの領域が示されたとのことであ る。より具体的には次のような指標が英国では用いられている。 表2 英国で用いられている指標例(E. Pollard, et al. 2013b) 学生の指標 財務の指標 研究の指標 スタッフの指標 リーチアウトの 指標 その他の指標 ・ 出願と入学(例:コースへのデマンド、出願数と定員の比率、学部・ 大学院ごとや英国・EU 国・非 EU 国ごとの数) ・ UCAS の入学のための traiff points ・ 在籍維持データ。プログラムレベルやモジュールの修了率。 ・ 教育のアウトカム・学位授与のデータ(例:優等学位の受領) ・ 雇用面のアウトカム(例:進路、最初の給与) ・ 平等性に関する情報(例:グループごとの出願、教育アウトカム、雇 用面のアウトカムの詳細) ・ 学生を対象とした指標。統一的な満足度や達成度の指標。たとえば Key Information Sets。 ・ 学生満足度指標。NSS データ、国際学生指標(ISB)、大学院生学習経験 調査(PTES)と大学院生研究経験調査(PRES)、大学の独自の満足度調 査、学生の意見 ・ 総売上、収入、資金、収入と内部投資・資本投資のバランス、負債、 投資収益率、キャッシュフロー、予算に対する支出、投資計画に対す る支出、学科の財政的貢献や市場シェア。 ・ 寄付金 ・ 学生ごとの学習資源・図書館の費用 ・ 奨学金の状況 ・ 国際学生の授業料収入 ・ REF(RAE)およびその他の研究ランキング ・ 論文のデータ(数、引用、IF、海外との共著論文、トップ 10%被引用 論文の割合) ・ 研究費のデータ(グラント申請、グラントの受領、グラントの資金源 の分布-海外・企業・RCUK) ・ PhD の数(研究大学院生数、学位獲得率、年間の指導 PhD 学生数) ・ スタッフのデータ(公平性、多様性、離職者、職種ごとの数、雇用申 請数) ・ スタッフのパフォーマンスや満足度のデータ ・ 学生スタッフ比率 ・ 産学連携のデータ ・ 地域、国、国際のコミュニティとのエンゲージメントの指標 ・ 事業への関与(ライセンス収入、スピンアウト、知財の許諾) ・ サービスのベンチマーク ・ グリーンサステイナビリティのベンチマーク ・ 外部からの質の評価(QAA)のデータ ・ 社会的責任のデータ ・ 経済インパクトのデータ ・ 健康や安全面の満足度 以下では、大学の具体的な例としてマンチェスター大学の戦略文書について、KPI の設 17 定内容を紹介する1。 2.マンチェスター大学における KPI マンチェスター大学では、大学全体の戦略計画として「Manchester 2020 The Strategic Plan for The University of Manchester」2を 2011 年 11 月に策定した。その冒頭に包括的 な目標として「2020 年までに世界の研究大学トップ 25 の一つになり、全ての学生が実り ある教育と幅広い経験を享受する場になる」と述べており、 「高い学術的価値と教育改革が 重視され、研究が成功し現実に変化を生み、学術の成果が社会に響き渡る場にする。 」とし ている。 その上で「目標(goal) 」領域を3つ設定し、それぞれに重要戦略(Key strategy)と重要 業績指標(KPI)を設定している。3つの目標領域は、1) 世界クラスの研究、2)卓越 した学習や学生経験、3)社会的責任である。 1)目標 1 世界クラスの研究(world class research) 研究大学として目標領域の第一には研究活動が置かれている。研究活動の包括的な目標 としては、前述の通り、 「2020 年までに世界の研究大学トップ 25 の一つになる」を掲げ、 国際的に先導的な研究者が最高の重要性やインパクトの研究を生む場となるとしている。 研究目標については、さらにこの下に、研究戦略の中心的な目的を3つ、野心を3つ、行動 領域を4つ、以下のように述べている。 表3 研究戦略の構造 ●中心的目的(objectives) 1)最高の質の研究の実現、2)卓越した人材の支援と育成、3)経済・社会・文化面でのイン パクト。 ●野心(ambition) 1) 2020 年までに、研究成果の 80%が国際的に優れていると認められ(internationally excellent)、少なくとも世界をリードする(world-leading)研究の 5 つの群に入る。 2) 少なくとも 8 人のノーベル賞級の看板的研究者を擁する。 3) イギリスにおける研究の申請・獲得において 3 位に入る。 ●行動領域(enabling areas) 1) 焦点を定め、クリティカルマスや学際的能力に投資する。 2) 財務資源・物理的資源・ 知識資源を適性に提供する。3) 研究の公正性を高い水準で満たす。4) 大学の全てのレベ ルでの戦略を整合させる。 以上のような目標から行動領域の設定のもとで、主要戦略(Key Starategy)を次のよう に定め、それぞれに具体的な方策を定めている。 (1) 最高の質の研究を実施し、活動のレベルや野心を世界レベル(world-class)や世界 を主導するレベル(world-leading)の卓越性に高めていく。 (2) 卓越した研究者を引きつけ、育成し、養成していく。全てのキャリアステージのス 1 マンチェスター大学には 2013 年初頭に研究戦略に関するヒアリング調査を行っており、その内容を踏 まえて説明する。 2 http://documents.manchester.ac.uk/display.aspx?DocID=11953 18 タッフから選ばれる場になる。 (3) 研究成果がアカデミア以外へのインパクトを有するように実現し、機会がある場合 には経済・社会・文化的な貢献を生んでいく。 マンチェスター大学に限らず、英国の研究大学の研究戦略の文書をみれば、日本の大学と 比べて、人材の育成や確保を明確に掲げている傾向がみられる。マンチェスター大学におい ても、卓越した研究者の育成や確保が 2 番目の主要戦略となっている。また、3 番目に掲げ られた「インパクト」については、英国では大学に研究評価である Research Excellence Framework において「インパクト」基準が導入されたこと、リサーチカウンシルにおいて も「インパクトへの筋道(Pathway to Impact)」として研究プロジェクトのインパクトの 構想が求められていることなど、国全体として研究活動にアカデミックな質だけでなく社 会・経済・文化面のインパクトを求める傾向が強まってきた背景がある。マンチェスター大 学の戦略でもそのような背景が反映された戦略設定になっている。 このような戦略設定の下で、重要業績指標(Key Performance Indicator: KPI)を以下の ように定めている。 表4 世界クラスの研究(world class research)の KPI KPI 目標 1. 世界ランキング 上海交通大学による大学ランキングで 2020 年までに上位 25 位に入る。 2. 研究助成金と委 研究収入を 2015 年までに 30%増加させ、2020 年までに倍増 託費の収入 させる。国際的、産業界からの収入の構成比を上げるととも に、英国の研究助成金と委託費の中でのマンチェスター大学 の占有率を上げる。 3. 研究の質 研究成果の質を向上させる。REF 及び学内評価でのピア・レ ビューにおいて、スタッフの 70%が、 「World-leading」ない し「Internationally excellent」となる。また、2020 年までに マンチェスター大学の論文の 20%が、各分野の被引用上位 10%に入る。 4. 知財の商業化 発明開示、ライセンシング、スピンオフ、その他の知財商業化 活動の測定のポートフォリオ。UMI3 グループ(マンチェスタ ー大学イノベーション企業)3の投資効果を従来よりも高める (a value-for-money operation)。 KPI の設定で着目すべきは、一つには、世界ランキングを KPI に掲げており、さらに、 それが英国の Times Higher Education 誌のランキングではなく、中国の上海交通大学によ る世界大学ランキングであることである。その理由は、英国以外の視点からどのように見え るかを重視しているとのことである。 3 http://umi3.com/introduction/ 19 また、研究の質については、大学研究評価である REF の結果が目標値として設定されて いる。英国では研究活動への基盤経費が REF の結果により配分されること、REF の結果が 数字として公表され、メディアでも報道されることで大学の評判に直結することなどから、 大学評価が大学の活動を定性的に測定する方法として認識されている。日本では、大学評価 結果がこのように使いやすいものとして存在しないため、論文数や資金獲得数のような定 量的・外形的な指標が使われやすい構造となっている。一方でマンチェスター大学でも、論 文数などの定量的ベンチマーキングは行っており、最近は Elsevier のサービスにより国内 大学間、分野間、ならびに特定の機関との比較を行っているとのことである。論文の 20% が各分野の論文被引用数でトップ 10%に入ることを目標としており、現状では約 14%とな っている。 研究資金の目標については、ヒアリングによれば大学は最低でも年 1 度、様々な資金配 分機関からの資金獲得実績を調査し、各 Faculty、School 単位で前年度比の状況を見てきた が、たとえ学内で特定分野の研究収入が増加していても、他大学と比較するとシェアが減少 している可能性があることが懸念された。そのため、KPI にも占有率の指標をあげており、 ベンチマーキングを行うことに注力しているという。これらの値は HESA のデータベース から入手可能となっているが、それではデータは 1 年間に 1 回更新され、2 年程度前の調査 時点の状況を示すものであり、十分なデータとは言えないという課題を抱えている。 2)目標2 卓越した学習や学生経験(outstanding learning and student experience) 教育に関する目標としては、 「大学は最高の高等教育と学習経験を、卓越した学生に対し て学生のバックグラウンドに関係なく提供する。また、知的能力、雇用可能性、リーダーシ ップ能力、社会に対する貢献の能力と意欲の面で卓越した卒業生を育成する」。としている。 その上で重要戦略を以下のように定めている。 (1) 学生経験の質を向上する。 十分に支援され、熱意を有し、魅力的な教員によって学生が教えられる。教員は、 好奇心を育む刺激的な環境と、学習への批判的アプローチの中で、学生を個人とし て扱う。 (2) 人(学生とスタッフ)を引きつけ、質を向上する。 ポテンシャルを基礎に最も能力ある学生を引きつけ、最高の能力を有するスタッ フを雇用し、能力を開発する。 (3) 資源、環境、施設の質を確保する。 世界クラスの施設のもとでスタッフは仕事をし、学生は学ぶ。施設は個人教育、 融合教育、遠隔教育を支援し、また、大学への思い(sense of place)を育む。 (4) 教育・学習の教育面・社会面のインパクトを促進する。 学術的成果、雇用可能性、リーダーシップ能力、コミュニティや幅広い社会へ貢 献する意欲からみて卓越した卒業生を生む。 20 表5 卓越した学習や学生経験の KPI KPI 目標 5. 学生満足度 全国学生調査(National Student Survey)の問 22( 「全体 的に、私はコースの質に満足している」)で 2015 年までにセ クターのベンチマークを達成し、2020 年までに 90%以上が 満足しているようにする。それまでにラッセルグループの中 で上位 1/4 に入る。 6. 卒業生の進路 2020 年までに卒業生の進路決定率が 85%を達成する(高等教 育 卒 業 後 進 路 調 査 Destinations of Leavers from Higher Education Survey の卒後 6 ヶ月調査による)。ラッセルグル ープの中で上位 1/4 に入る。 7. 参加拡大 参加率(大学への就学率)が低い地域や社会経済グループか らの学生入学に関する OFFA アクセス目標を達成する。ラッ セルグループの中で上位 1/4 に入る。 教育関係の KPI では、アウトカム指標として全国学生調査(NSS)および卒業後進路調査 (DHLE)といった全国レベルの調査が用いられている。この点についても、日本ではその ようなインフラが欠けており、大学が KPI を形成しにくいという課題がある。一方で、ア ウトプットに相当する定量的指標である卒業率・退学率はあがっておらず、アウトカムを重 視した構成になっている。 3)目標3 社会的責任(social responsibility) 目標の 3 つ目の領域として社会的責任があげられている。社会的責任は研究・教育を通 じて果たされるものであるが、以下のように目標が設定されている。 「大学は 21 世紀の主 要な課題に対する解決策を見いだすために自身の専門知識を活用することや、社会でリー ダーシップや責任を発揮する卒業生を生むことにより、地域、国、国際コミュニティにおけ る社会・経済の成功に貢献する。 」 そのうえで、社会的責任を対象者により3つに整理している。 1.大学に直接関わる人々への責任 2.近隣の人々への責任 3.世界的な責任 さらに重要戦略を8つ設定している。 1)大学のシステムや活動により、人(学生およびスタッフ)の公正性の確保 2)地域や国際のコミュニティ、特に大学へのアクセスに障害があったり制限がある人々と の相互作用によるインパクトを増すことで、開放性やアクセス性を向上する。 3)我々が「生み出す」人々を通じた未来の構築 4)経済的福祉への貢献 5)社会的福祉への貢献 6)創造性のスパークの伝播 21 7)倫理や価値の高い水準の維持 8)大きな困難への関与 このような8つの戦略があるが、測定が難しい領域でもあり、KPI としては以下の一つ が挙がっている。 表6 社会的責任の KPI KPI 目標 8. 社会的責任 社会的責任に関わる課題、たとえば、平等や多様性、コミュニ ティとの連携、持続性、経済・社会インパクトについての進捗 をモニターする測定のポートフォリオ。 以上の3つの目標領域と各重要戦略のもとに、さらに実現戦略(Enabling strategy)を 8 項目設定し、いくつかの戦略については KPI を設定している。 表7 実現戦略の KPI 実現戦略 KPI 目標 人の質 9. ス タ ッ フ の 2020 年までに、大学で働くことに満足しているス 満足度 タッフ割合を 80%にする。高等教育機関や類似機関 の中で上位 1/4 に入るとともに、スタッフの回答率 を 50%以上にする。 施設 10. 施設 2020 年までに、居住用以外の施設について良い状 況にあると判断され、適切に機能していると判断さ れるものが 80%を達成する。 情報マネジメ <KPI 無し> ント 国際的な競争 11. 財務成果 戦略的優先事項に投資するキャッシュを提供する ために、国際的な資金を 2015 年までに収入の 7% 的資金 まで増加させる。 卓越性の評判 12. 評判 評判調査、投票、メディアカバレッジ、リーグテー ブルなどの各種測定のポートフォリオ。 国際的な機関 <KPI 無し> プロセスの質 13. マ ネ ジ メ ン トのコンプ 保健や安全の指標、内部コンプライアンスのプロセ スや施行通知などの測定のポートフォリオ ライアンス 環境面のサス <KPI 無し> テイナビリテ ィ 以上のマンチェスター大学の事例からの含意を改めてまとめれば、第一には、KPI は大 22 学の目標や戦略計画の中でそれを測定するものとして位置づけられており、KPI のみが単 独で存在するものではないことが挙げられる。第二には、評価結果や全国レベルの調査、デ ータベースなど、国全体のインフラを活用する形で KPI が策定されている。第三には、必 ずしも研究・教育に関する近視眼的な指標だけでなく、人材の育成に関する目標や指標、社 会的責任の目標と指標、さらにはスタッフの満足度や施設の満足度など内部顧客にも焦点 をおいた指標が設定されており、それにより組織の持続性も考慮されていることが挙げら れる。 【参考文献】 JISC (2009), Managing Strategic Activity. https://www.jisc.ac.uk/guides/managingstrategic-activity E. Pollard, M. Williams, J. Williams, C. Bertram, J. Buzzeo, E. Drever, J. Griggs and S. Coutinho (2013a), How should we measure higher education? A fundamental review of the Performance Indicators, Part One: The synthesis report. http://www.hefce.ac.uk/media/hefce/content/pubs/indirreports/2013/Fundamental, review,of,the,UKPIs/2013_ukpireview1.pdf E. Pollard, M. Williams, J. Williams, C. Bertram, J. Buzzeo, E. Drever, J. Griggs and S. Coutinho (2013b), How should we measure higher education? A fundamental review of the Performance Indicators, Part Two: The evidence report. http://www.hefce.ac.uk/media/hefce/content/pubs/indirreports/2013/Fundamental, review,of,the,UKPIs/2013_ukpireview2.pdf 23 山形大学における組織評価の概要 浅野茂(山形大学) (1)はじめに 大学は評価活動を通じて,学内における諸活動の現状把握,現状分析を行っている。その 際,活動の実態を示す叙述的な資料のみならず,客観的なエビデンスとなり得る定量的なデ ータ収集が不可欠となる。また,2008 年の中央教育審議会答申「学士課程教育の構築に向 けて」では,大学教育の質の維持・向上,学位の水準の保証に係る一義的な責任は大学にあ り,大学は自己点検・評価のための自主的な評価基準や評価項目を適切に定めて運用するな ど,内部質保証体制を構築することが求められている。したがって,大学における教育の質 保証や質向上は,認証評価や法人評価といった第三者評価への対応として受動的に行うの ではなく,大学自らが主導して行うことが重要であると考えられている。 (2)山形大学における組織評価 上述した大学が自主的に評価基準や評価項目を定めて実施する評価について,山形大学 では平成18年度から大学独自の評価である「組織評価」を図1の流れに沿って実施してい る。 図1.組織評価の実施フロー 24 当該評価は,各部局における教育,研究,社会連携,国際交流,業務運営等の諸活動に ついて,部局の自己点検・評価に基づき,役員会が総合的に点検・評価することにより, 大学の教育研究活動の改善・向上に役立て,ひいては一層の活性化を図ることを目的とし て実施している。 評価項目は,以下の3つの区分から構成される。 ①部局における経営状況及び運営状況 ②基礎的データに基づく部局の教育研究活動状況 ③当該年度の事業実績 このうち,②については,教育(入学定員充足状況,収容定員充足状況,学位授与状況 等),研究(論文数等の研究成果の状況,外部資金の獲得状況等),社会連携(研究成果 の還元・普及状況等)といった活動領域ごとに定量的なデータ提出が求められ,その一部 は認証評価や法人評価の基礎資料として共有できるようになっている。 これらの評価項目に沿って各部局が作成する自己点検・評価書は,役員会及び経営協議 会学外委員から構成される委員会において,各部局の経営・運営上の工夫や取組の客観的 な進行状況について評価するとともに,中期目標・中期計画に照らして意図する実績や効 果が得られているか,といった観点で評価される。併せて,評価プロセスそのものも検証 し,必要に応じて評価項目を見直すなどして,より実態及び目的に則した評価の枠組みと しての定着を図っている。 このようにして実施した組織評価の結果については,各部局への研究費配分やインセン ティブ経費として再配分され,運営の活性化や教育研究活動の改善・向上への取組の推進 につなげている。また,評価を通じて確認できた特徴的な取組については,参考資料のよ うな形式でホームページにおいて公開(http://www.yamagatau.ac.jp/pdf/20150825bh.pdf)し,社会への情報発信にも活用している。 (3)おわりに 1998年の大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について―競争的環境の中 で個性が輝く大学―」において,「大学評価の取組の基本は,各大学が自らの教育研究水 準の一層の向上を図るために,自らの教育研究活動の点検・評価を行う「自己点検・評 価」にある」と指摘されて,20年が経過しようとしている。 この間,認証評価や法人評価のみならず,大学内部における評価も実施されるようにな ってきている。本稿で紹介した組織評価は,その取組の一つに過ぎないが,こういった自 ら実施する自己点検・評価に係る取組は認証評価や法人評価とは異なり,組織運営の活性 化や改善へと発展する可能性が大きい。そのことを通じて,先述した答申等で求められて いる内部質保証体制の構築を前進させるとともに,大学における評価文化の定着にも寄与 できると考えられる。また,評価の過程で収集・蓄積した各種情報やデータ等を活用でき るようになり,日本の大学関係者の関心事であるIR(Institutional Research)機能の強 化,客観的なエビデンスに基づく大学経営の推進,さらには社会に対する効果的な情報発 信へとつながる好循環を生み出すことが期待できる。 参考資料 25 26 27 28 29 30 31 32 佐賀大学の組織評価について 西郡大(佐賀大学) (1)組織評価の概要 佐賀大学の組織評価は, 「部局等評価」という枠組みで評価され,部局等の目的を達成 するための諸活動について自己点検・評価を行い,改善を図ることを目的としている。具 体的には,評価項目ごとに,現状把握,現状分析,自己評価,評価結果に基づく改善等が 期待されている。評価は,毎年度実施することとなっているが, 「外部評価」は2年ごと の実施でよい。評価対象となる組織を表1に示す。 表 1.評価対象となる組織 (1) (2) (3) (4) (5) (6) 各学部(附属の教育施設又は研究施設を含む) 各研究科 全学教育機構 附属図書館 美術館 保健管理センター (7) 共同利用・共同研究拠点 (8) 各学内共同教育研究施設 (9) 産学・地域連携機構 (10) アドミッションセンター (11) キャリアセンター (12) 国際交流推進センター (2)評価の対象領域 原則として,教育,研究,国際交流・社会貢献,組織運営及び施設の5領域を評価対象 としているが,表1の(4)~(12)の組織については,その特性に応じた領域又は事項 を評価対象として設定できるようになっている。 表 2.評価の対象領域と具体的事項 対象領域 教育の領域 研究の領域 国際交流・ 社会貢献の領域 組織運営の領域 施設の領域 具体的事項 教育目標・成果に関する事項,教育内容・活動に関する事項,入学,卒業等に関 する事項,教育環境に関する事項,学生支援に関する事項,その他教育に関する 事項 学術・研究活動に関する事項,研究環境に関する事項,その他研究に関する事項 大学,職員及び学生の国際交流に関する,教育における社会連携・貢献に関する 事項,研究における社会連携・貢献に関する事項,その他国際交流・社会貢献に 関する事項 教育研究組織の編成,管理運営に関する事項,その他組織運営に関する事項 施設,設備等の整備状況に関する事項,施設,設備等の利用状況に関する事項, その他施設,設備等に関する事項 33 (3)評価の実施体制 (4)評価結果の活用 部局等評価の結果は学長に報告され,文書冊子又は電子媒体等により公表される(参考 URL を以下に示す) 。結果の活用に関しては,学長の下で,大学の運営及び諸活動の向上 のために評価結果を検証し,部局等の優れた活動に対しては適切な措置を講じたり,改善 を要するものについては,具体的な改善計画と改善状況の報告を部局等の長に求めること ができる仕組みになっている。また,これらの評価の活用は,「自律的な自己点検・評価 の実施及び点検・評価結果を活用したマネジメントサイクルに関する方針」として図1の ように定められている。 さらに,評価のために作成されたデータ等は,IR (Institutional Research)のデータの一部としても利用されている。 参考 URL http://www.saga-u.ac.jp/hyoka/gakugai/hyouka.htm http://www.saga-u.ac.jp/hyoka/gakugai/hyouka.htm 34 1 目的 この方針は,国立大学法人佐賀大学(以下「本学」という。)の運営及び諸活動の向上に向けて, 自律的な自己点検・評価を実施するとともに,自己点検・評価結果及び外部評価等による評価結果を活 用したマネジメントサイクルを推進することを目的とする。 2 自律的な自己点検・評価 「自律的な自己点検・評価」とは,本学が実施する次に掲げる自己点検・評価等を包括的に指すも のとし,恒常的に実施するものとする。 (1)国立大学法人佐賀大学大学評価の実施に関する規則に基づいて実施する各部局等及び職員個人 の活動状況についての自己点検・評価 (2)役員会指針2に基づいて実施する組織と業務の見直し (3)役員会指針4に基づいて実施する全学的な研究センター及びプロジェクトに関わる自己点検・評 価 (4)中期目標・中期計画実施本部体制により中期目標・中期計画進捗管理システムの運用を通して実 施する中期計画・年度計画の進捗管理及び実施状況に関わる自己点検・評価 3 外部評価等 「外部評価等」とは,国立大学法人評価,認証評価及び他の評価機関による評価に限らず,競争的 資金応募審査結果及び学外者による検証意見,表彰等を包括的に指すものとし,本学の活動に対する外 部の評価意見として尊重し,活用するものとする。 4 自律的な自己点検・評価結果及び外部評価等による評価結果の活用 自律的な自己点検・評価結果及び外部評価等による評価結果(以下「自己点検・評価結果等」とい う。 )の活用は,次のとおり行うものとする。 (1)役員会は,必要に応じ経営協議会又は教育研究評議会の議に基づき,自己点検・評価結果等を検 証し,学長は,当該検証の結果を次に掲げるところにより,プロジェクト及び中期計画等の実施担当部 署・組織を含む各部局等(以下「各部局等」という。 )へフィードバックする。 1)学長は,自己点検・評価結果等に基づいた組織と業務の見直し及び評価反映特別経費等による予算 配分への反映など,重要事項の方針を定め,必要な措置を講ずる。 2)改善を要する事項については,学長又は担当理事から各部局等の長に対し,改善に必要な指示を行 い,具体的な改善計画と改善状況の報告を求める。 3)優れた事項・取組については,それを発展・継続させるための措置(以下「インセンティブ付与措 置」という。 )を講じ,奨励する。 4)インセンティブ付与措置は,各部局等に対する報奨,予算配分・人員配置への反映等及び職員個人 に対する表彰,報奨,支援経費・人事処遇への反映等により行い,予算措置が必要なものは,毎年度の 「予算編成の基本方針」に,その趣旨を明示する。 5)インセンティブ付与措置に係る基準・方法等については,別に定める。 (2)各部局等は,自らが行う自己点検・評価結果及び自己点検・評価結果等の検証による学長又は担 当理事からの指示に基づき,速やかに改善策等の検討を行い,実行に移す。 5 社会への説明 学長は,自己点検・評価結果等及びそれに基づく諸活動の状況を,年度ごとにまとめて社会に公表 するものとする。 図 1.「自律的な自己点検・評価の実施及び点検・評価結果を活用したマネジメントサイクルに 関する方針」 35 組織評価に資する数値目標や指標と IR 活動について 嶌田敏行(茨城大学) 近年、我が国の高等教育機関において IR オフィスの設置が進んでいる。IR オフィス設置 の目的は様々だが、ガバナンス改革という文脈に沿った高等教育マネジメントにおける意 思決定機能強化という側面もかなり強いだろう。そこで、本小論では、高等教育マネジメン トのための組織評価、即ち、組織の状況を把握するための効果的な方法としての数値目標や 指標の活用と IR との関係について考えていきたい。 我が国の IR オフィスの潮流は大きく分けて3つある。1つは、大学評価を行っている部 署を拡大し、IR 機能を附加したものである(例えば、茨城大学、佐賀大学など)。2つめは いわゆる教学 IR と呼ばれる学習成果アセスメントなどの教育の効果性測定などを中心に教 育改善を志向するオフィスである(例えば、京都光華女子大など)。3つ目は、これらとは 別に経営支援の目的で、設置した IR オフィスである(例えば、埼玉大学など)。これは、昨 今のガバナンス改革の流れとも相まって、迅速で効果的な意思決定を支える仕組みとして 注目されている。 経営支援の IR を行う場合、国立大学においては、中期目標・計画の進行管理の支援など もその大きな業務になり得ると考えられる。第三期の中期目標・計画においては多くの国立 大が数値目標を提示し、指標を設定した。これは、文科省からの示唆もあったと思われるが、 数量的なデータにもとづくマネジメントがより各大学にとって身近なものになっていると も考えられる。そこで、中期目標・計画の運用をモデルに数値目標や指標を用いる場合と用 いない場合のメリット、デメリットについて考えてみよう。 数値目標を用いる場合のメリットは、その目標を達成したのかどうかについて誰しもが 分かりやすい、ということが挙げられる。また、例えば、中期目標だけでなく各年度計画に も数値目標を入れれば、計画の進行状況が掴みやすいだろう。ただし、数値目標は、その設 定時に妥当性についての吟味が不可欠となる。いわゆる「楽勝」数値目標を立て、「大きく 上回って」達成することもできるが、それがその大学や在学する学生にとって本当に有益な 進展だったのかどうかは分からないだろう。つまり、プロセスはどうであれ、ある目標数値 をとにかく上回ってしまえばよいわけだから、本質的な側面で成果が十分でなくとも、それ が気づきにくいという難点があるわけだ。もちろん、数値目標を大学と文部科学省との約束 として用いる場合、 「未達成」の発生はお互いに避けるべきこととして認識される。従って、 過度に未達成を恐れるあまり、その大学のポテンシャルから見れば楽勝に近い数値目標を 立ててしまうこともあり得る。このように数値一辺倒の評価というものは、数値の達成自体 の目的化を促すことが多く、必要な改善が図られない可能性がある。このようなことは数値 目標を用いるデメリットであろう。 指標については、現状を示す数値であり、目標があって初めて意味を持つ。つまり、目標 との差分がどのようになっているのか、ということが指標を用いて知りたいことであり、目 標がない指標は単なる数字である。 しかしながら、妥当性のある数値目標の設定や活動を代表しうる指標の設定は一般に簡 単ではない。ではどのようにして妥当性のある、即ち学内で合意の得られやすい数値目標や 36 指標が設定できるのだろうか。まず考えられるのは、現在までの経年的なデータを示し、そ れらを外挿することで未来である数値目標を設定する手段である。そのためには、過去数年 間のデータを収集の上、整理し、適切な可視化を行い議論する者らに提示する必要がある。 また、併せて、他大学の数値についても示し、自大学と比較ができた方がよい。もちろん、 数値の比較は一喜一憂するために行うわけではなく、なぜ差が生じるのか、どのようなこと を行えば、その差が縮まるのかなどの議論を促すために行っているはずである。即ち、数値 同士の比較をプロセスの比較につなげ、参考になり得るプロセスを学ぶのである。また数値 目標の設定には、これまでの経緯を踏まえるだけでなく、他大学の動向の把握による世間相 場の把握も不可欠となる。もちろん比較や外挿なしに達成可能な数値目標を設定すること も可能であるが、これらの検討を経なければ、その妥当性が判断できないわけである。 次に指標の設定方法について考えてみよう。これは、まさに中期目標でも中期計画でもよ いので、そのセンテンスを要素に分解し、評価質問の形にして、問を立てるところから始ま る。例えば、 「英語教育の充実を図り異文化コミュニケーション力の高い学生を育成する。 」 というような計画があったとしよう。要素分解を行うと「英語教育の充実を図る」と言う要 素1、「異文化コミュニケーション力の高い学生を育成する」という要素2に分解される。 要素1は、評価質問の形にすると「英語教育の充実を図ることができたか?」ということ になるが、このままでは不十分なことが分かる。それは、何を以て充実を図ったと言えるの か、ということを設定しない限り、この要素から指標が生成できないからである。そうなっ た場合、担当部局に「何を以て英語教育の充実を図ったとするか?」 (補助質問1)という 問い合わせを行うのもよいが、平行して現在の状況の把握も必要である。例えば、英語で行 う科目数、英語力を示すテスト等のスコアなどを入手しなくてはならないだろう。現状の把 握ができており、ゴール地点の具体的なイメージがあれば、あとは、ゴールに達するための プロセスを考えるだけだ。そのようにしながら補助質問1の回答を作成すれば、要素1の指 標も自ずと見えてくるだろう。 要素2については、「異文化コミュニケーション力の高い学生を育成することができた か?」ということになるが、またここでも「異文化コミュニケーション力とは何か?」とい う補助質問2を明らかにしなくてはならない。それが明らかになれば、要素2の指標も自ず と浮かび上がってくる。 このように見ていくと、数値目標や指標を定め、それらの定期的なモニタリングを行おう とする場合、それらの活動を支援するような組織の存在は不可欠であることが浮かび上が ってくる。つまり、IR オフィスが、データベースなどと共に整備されていれば、学内で情 報を必要とするクライアントに対してタイムリーに情報提供が可能となる。しかし、我が国 ではこれらの支援組織の整備は不十分であると思われる。加えて、経営スタイルとしても数 的なデータを用いて議論を行うような素地などがなければ、せっかく IR オフィスを設置し ても何をしてよいのか分からない組織になってしまうだろう。 37