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南アフリカ自動車産業制度設計支援調査
経済産業省 貿易経済協力局 技術協力課 御中 平成27年度アジア産業基盤強化等事業 南アフリカ自動車産業制度設計支援調査 要約編 2016年3月9日 (株)現代文化研究所 目 次 ·········································· 1 はじめに ······················ ················· 2 Ⅰ.南アフリカ自動車産業の現状と評価 ·············· ················· 22 Ⅱ.南アフリカ自動車産業政策の展望と課題 ········· Ⅲ.競合国事例:タイの自動車産業の発展と政策展開 ················ 29 Ⅳ.今後の南アフリカ自動車産業政策についての提言 ················· 35 ·········································· 46 おわりに ······················ はじめに ・現在、南アフリカ経済は厳しい状況に直面している。2012 年以降、実質 GDP 成長率は 1∼2%台 の低水準で推移。世界的な資源需要の落ち込みによる資源価格の低下で、同国経済の牽引役で ある鉱物資源輸出(輸出に占める鉱物資源の割合は約 45%)が不振に陥り、経常収支と財政収 支の赤字が続く。こうした経済ファンダメンタルズの悪化と国際的な金融不安が重なってランド安 が進行し、インフレ率が 6%台に上昇。インフレ抑制のための金利の引き上げが景気減速をさらに 進行させるという悪循環に陥っている。この結果、失業率は 25%水準で高止まりし、ジニ係数が 63.1 にものぼる社会的格差の解消の目途も立っていない。 ・同国がこの厳しい状況を打開するためには、外部環境に左右される資源依存型の経済構造から、 より内発的で雇用創出効果の大きい製造業に比重をおいた経済構造への転換が求められる。 2014 年時点、南アフリカの GDP に占める製造業の割合は 14%である。なかでも、自動車産業は 同 7.2%を占め、雇用者数は 11.3 万人にのぼる。自動車に使用される材料は多岐にわたり、1 台 の自動車を構成する部品は数万点にのぼり、極めて裾野の広い産業である。また、製造部門のみ ならず販売整備部門や自動車関連サービス部門(金融、広告、運送等)を含めると、その雇用創 出効果はさらに大きなものとなる。したがって、自動車産業の拡大が南アフリカの経済・社会の発 展にとってキー・ファクターとなることは確かである。 ・しかし、同国の自動車産業は近年、国内外の景気減速を背景に伸び悩んでいる。2014 年の自動 車生産台数は前年比 3.7%増の 56.6 万台だったものの、自動車販売台数は同 1.0%減の 64.5 万台と、いずれもリーマンショック前のピーク時(2006 年)の 58.8 万台、71.4 万台に及ばない。IMF は 2016∼20 年の南アフリカの年平均実質 GDP 成長率を 2.2%と予測する。この経済予測を前提 にすると、ここ数年での大きな市場拡大は望めない状況にある(当社の予測:2020 年 67 万台)。 ・また、輸出先をみても、近年タイ、インド、メキシコといった自動車新興国のグローバル市場への参 画が目覚ましく、また北アフリカ地域など新たな自動車産業集積地が立ち現れるなど、自動車産 業をめぐる国際競争は激しさを増している。南アフリカは EU、米国、日本、オーストラリアといった市 場で一定のポジションを確保しているものの、同国の地位は今後も保証されているわけではない。 ・そこで、雇用創出と社会的格差の縮小による国内経済の強靱化と、グローバルな競争ポジション の確保という南アフリカの至上命題に自動車産業として寄与するためには、現在の自動車産業政 策の成果を踏まえ、より広範な裾野産業の振興につながる自動車産業強化策を導入し、体質強 化を図ることが重要であると考える。 1 Ⅰ.南アフリカ自動車産業の現状と評価 ・そこで先ず南アフリカの自動車産業の現状を確認する。そして南アフリカ自動車産業の現状を競 合国との比較の中で評価し、今後の南アフリカ自動車産業の発展を考える上でのポイントを把 握したい。 (1) 自動車産業の発展概要 ・2014 年の南アフリカの自動車生産台数は 56.6 万台(世界第 24 位)、自動車販売台数は 64.5 万 台で(同 22 位)、2013 年の自動車保有台数は 939.1 万台(同 23 位)と、グローバルな自動車産 業において中進国の位置を占めている。 ・南アフリカの自動車産業は、1994 年のアパルトヘイトの廃止による国際的な経済制裁解除を契機 に、輸出主導型の自動車政策 MIDP(Motor Industry Development Programme)を展開することで、 発展軌道に乗った。同政策の下、外資系自動車メーカー各社は車種を絞り込んで生産の集約化 を遂行し、輸出の拡大を推進した。 ・この結果、MIDP の実施期間(1995∼2012 年)、生産台数は 37.6 万台から 50.4 万台へと 1.3 倍 増、輸出台数は 1.2 万台から 27.7 万台へと大きく拡大。輸出比率は 55%にのぼり、MIDP の輸出 主導型の発展政策の目的は達成された。一方、国内販売台数は 37.6 万台から 63.1 万台へと 1.7 倍増に拡大した。ただし、輸入台数が 2.5 万台から 36.3 万台へと急拡大して、国内販売の 57.5%を占めるに至り、輸入関税相殺クレジットの存在が同国の生産拡大を制約する形となっ た。 ・現在、南アフリカ政府はこうした MIDP の成果と課題を受け、2013 年から新自動車政策 APDP (Automotive Production Development Programme)を導入。MIDP が輸出に対してインセンティブ を提供していたのを AIDP は国内生産に対する提供に切り替え、国内自動車生産を振興する姿 勢を明確に打ち出した。ただし、AIDP は「2020 年に自動車生産台数を 120 万台」との目標を掲げ てスタートしたが、政策導入から 2 年を経た現在、国内外の経済不振が大きく影響して進捗は捗々 しくはない。 ・ただし、1990 年代半ばからの発展により、自動車産業は南アフリカの基幹産業として確固たる位 置を占めてきている。自動車生産額は 2014 年 3.8 兆ランドにのぼり、南アフリカの GDP の 7.2%を 占め、自動車及び同部品の生産額は同国製造業の約 30%を占めるにいたっている。また、1995 ∼2014 年で自動車産業全体の収益(輸出を除く)は 951.8 億ランドから 4600 億ランドへと 4.8 倍に増大、自動車輸出収益は 9 億ランドから 700 億ランドと 77.8 倍増、自動車部品輸出収益は 33.2 億ランドから 430 億ランドと大きく拡大した。さらに、OEM7社の設備投資額は過去 5 年間で 240 億ランドを超え、継続的に拡大している(2015 年にも 75 億ランドが予定)。南アフリカの自動 車産業政策は着実に成果を収め、発展の基礎を固めてきたといえる。 2 ■図表 1 南アフリカの自動車生産・販売・輸出・輸入台数の推移 万台 80.0 70.0 60.0 50.0 生産 40.0 販売 30.0 輸出 20.0 輸入 10.0 0.0 年 出典)NAAMSA (2)自動車産業の特徴 ・次に、需要、供給、貿易の観点から南アフリカの自動車産業の特徴を確認する。 ①需要動向 ・2014 年の国内販売台数は前年比 0.7%減の 64.5 万台、うち乗用車は同 2.5%減の 43.9 万台、 小型商用車は同 3.4%増の 17.4 万台、中大型商用車は同 2.0%増の 3.2 万台。構成比は乗用 車 68.1%、小型商用車 27%、中大型商用車 4.9%と、乗用車比率が高い。 ・ブランド別シェアでは、トヨタが 19%台を続け、トップを堅持。これに VW が続くが、2014 年以降シ ェアを落とし、2015 年 1-10 月では 15.9%。かわってシェアを伸ばしているのがフォードで、2012 年の 7.8%から 2015 年 1-10 月では 12.6%にまで拡大。プレミアム・ブランドの M ベンツも 5.4%、 BMW も 4.0%のシェアを占める。 ■図表 2 南アフリカのブランド別国内販売シェアの推移 % 25.0 トヨタ VW/アウディ 20.0 フォード AMH/AAD 15.0 GM 日産 10.0 Mベンツ BMW 5.0 ルノー ホンダ 0.0 クライスラー 2011 2012 2013 2014 2015.1-10 出典)NAAMSA 3 年 ・セグメント別モデル別販売台数をみると、乗用車では 2014 年、VW の Polo Vivo(B セグメント)が 3.5 万台でトップを堅持、2 位は Polo Vivo Classic(B)2.6 万台。3 位はトヨタの Corolla(C)で 1.9 万台。SUV では 2014 年、トヨタの Fortuner(SUV)が 1.0 万台でトップ、急速に販売を伸ばしている のが Ford の Ecosport。2014 年は 0.8 万台の第 3 位だったが、2015 年 1-10 月は 1.0 万台でト ップ。小型商用車では 2014 年、トヨタの Hilux(PUP)がトップで 3.8 万台。2 位はフォードの Ranger (PUP)で 2.9 万台、3 位は日産の NP200 で 1.7 万台(PUP)。このように、南アフリカ市場は B セグ メント、PUP が両輪となって牽引しており、近年これに SUV も販売を伸ばしているという構図になっ ている。 ・なお、同国市場において、輸入車の割合は 55%を占める。その多くがエントリーモデルで、特にイ ンドからの輸入が多い。主な輸入モデルは、現代自の i10(A)、i20(B)、フォードの Fiesta(B)、 Figo(B)、トヨタの Etios(A)、日産の GO(B)など。南アフリカ製のエントリーモデルは VW の Polo Vivo(B)と GM の Chevrolet Spark(A)の 2 モデルのみである。 ・このように輸入車比率が高いこともあって、南アフリカ市場は極めて細分化されている。2014 年時 点、南アフリカでは、乗用車は 55 ブランド、4406 モデル、小型商用車は 31 ブランド、615 モデル が販売されている。乗用車の最量販モデルの VW Polo Vivo でさえ販売台数は 3.5 万台と極めて 規模が小さい。 ②供給動向 ・2014 年メーカー別生産台数のトップはトヨタで 14.3 万台、次いで VW11.4 万台、フォード 7.6 万 台、BMW7.1 万台、D ベンツ 4.5 万台、日産 4.3 万台、GM4.1 万台と続く。 ・生産モデルをみると、ドイツメーカーは VW が Polo 及びその派生車、BMW は 3-Series、D ベンツ は C-Class と、乗用車モデルに注力。これに対し、トヨタは Corolla を 2.4 万台生産しているが、Hilux の生産が最も多く、フォードは Ranger、日産は NP200 や NP300、GM は Chevrolet Utility、Isuzu KB など、日米メーカーは PUP の生産に注力している。 ・輸出でもトップはトヨタで 6.5 万台、次いで BMW6.0 万台、VW5.5 万台、フォード 4.5 万台(含むマ ツダ車)、D ベンツ 3.3 万台、日産 1.5 万台、GM は 0.2 万台。輸出比率をみると、BMW は 84.8%、 D ベンツは 72.1%と高く、同国を輸出拠点と位置付けている。一方、トヨタ 45.9%、VW48.0%、フ ォード 59.2%、日産 33.9%と国内向けと輸出向けの両方を射程に入れている。GM は 5.0%で国 内向け中心の拠点となっている。 ・外資系自動車メーカーの南アフリカでの事業は 1994 年の経済制裁解除後から活発化し、なかでも ドイツ系メーカーは南アフリカ政府の MIDP にいち早く反応し、右ハンドル車の生産を南アフリカに集 中させ、イギリス、日本市場への輸出を開始。以後、主要自動車メーカーは南アフリカに大規模な 投資をおこない、事業を拡大。2010 年以降は PUP、SUV、バンなどの生産事業を強化して、従来 の欧米日など先進国向け輸出拠点からアフリカ諸国向けを含めたグローバル供給拠点として同 国を位置づけてきている。 4 ③貿易動向 ・南アフリカの完成車及び自動車部品貿易の動向を金額ベースで概観すると、完成車輸出額はの 74.9 億ドル(2010 年比 36.4%増)、完成車輸入額は 59.2 億ドル(同 13.7%増)、自動車部品輸 出額は 13.6 億ドル(同 0.6%増)、自動車部品輸入額は 17.6 億ドル(同 8.3%増)。この結果、 2014 年の完成車貿易収支は 15.7 億ドルの黒字を記録。急速に進むランド安の追い風もあって黒 字となった。しかし、自動車部品貿易収支は 4.0 億ドルの赤字で入超が続く。 単位:100 万ドル ■図表 3 南アフリカの完成車・自動車部品の輸出/輸入額の推移 完成車 自動車部品 輸出 輸入 収支 輸出 輸入 収支 2010 5,490.8 5,208.0 282.8 1,349.5 1,625.7 ▲ 276.2 2011 6,176.5 6,729.1 ▲ 552.6 1,506.7 1,894.0 ▲ 387.3 2012 6,304.0 6,939.3 ▲ 635.3 1,449.9 1,732.3 ▲ 282.4 2013 6,034.2 6,814.5 ▲ 780.3 1,369.4 1,688.9 ▲ 319.5 2014 7,491.7 5,922.5 1,569.2 1,357.6 1,762.4 ▲ 404.8 注)「完成車(HS8702-04)」、「自動車部品(HS8706-07、840731-34、840790、840820、 840991、840999、854430)」を合わせた数値 出典)Global Trade Atlas ・品目別に完成車貿易をみると、完成車輸出額のうち最も金額が大きいのが、「シリンダー容量 1.5L 超 3L 以下(GE)乗用車」(セグメント分類では C、D に該当)で 2014 年時点 24.8 億ドル(完 成車輸出額構成比 33.1%)。次いで「車両総重量 5t以下(DE)商用車」(セグメント分類では PUP) が 23.9 億ドル(同 31.9%)と、この 2 品目で 65%を占める。これに「シリンダー容量1L 超 1.5L 以 下(GE)乗用車」(セグメント分類では B)が 8.1 億ドル(同 10.8%)と続く。 ・「シリンダー容量 1.5L 超 3L 以下(GE)乗用車」の輸出先トップは米国で、シェアは 45.6%と半分近く を占める。次いで日本、オーストラリアと右ハンドル国が続く。「車両総重量 5t以下(DE)商用車」の 輸出先はイギリスがトップで、次いでベルギー、ドイツと欧州諸国が続く。「シリンダー容量1L 超 1.5L 以下(GE)乗用車」ではトップはドイツでシェアは 47.2%、これに日本、オーストラリアが続く。 ・このように完成車輸出先は、欧米日の先進諸国が上位を占めている。ただし、注目すべきは、輸出 先として「シリンダー容量 1.5L 超 3L 以下(GE)乗用車」ではナミビアが 5 位、「車両総重量 5t以下 (DE)商用車」ではナミビア 4 位、アルジェリア 5 位、「シリンダー容量1L 超 1.5L 以下(GE)乗用車」 ではナミビア 4 位、ボツワナ 5 位と、アフリカ諸国が上位に入ってきていることである。さらに、商用 車全体の輸出先ではナミビアがトップ、ボツワナが 5 位になっており、アフリカ諸国の自動車需要の 高まりと南アフリカとの貿易の関係緊密化がみてとれる。 ・輸入では乗用車の比重が高い。完成車輸入額でも最も金額が大きいのは、「シリンダー容量 1.5L 超 3L 以下(GE)乗用車」(セグメント分類では C、D)で、2014 年の輸入額は 15,2 億ドル(完成車 輸入額構成比 25.7%)。次いで「シリンダー容量1L 超 1.5L 以下(GE)乗用車」(セグメント分類で は B、C)が 11.0 億ドル(同 18.5%)と続く。 5 ・「シリンダー容量 1.5L 超 3L 以下(GE)乗用車」の輸入元トップはドイツでシェアは 40.4%、次いで韓 国、日本が続く。「シリンダー容量1L 超 1.5L 以下(GE)乗用車」の輸入元はインドがトップで 49.7% とほぼ半数を占める。その後にドイツ、韓国。「シリンダー容量 1.5L 超 2.5L 以下(DE)乗用車」ではド イツがトップで 46.2%、次いで韓国、インドと続く。ドイツとインドのプレゼンスの高さが注目される。 ■図表 4 南アフリカの完成車の品目別輸出/輸入額の推移と取引先構成比 【輸出】 HSコード 単位:100 万ドル、% 品目名 8703 8703.21 8703.22 8703.23 8703.24 8703.31 8703.32 8703.33 8704 8704.21 8704.22 8704.23 8704.31 8704.32 乗用自動車 シリンダー容量1L以下(GE) 同1L超1.5L以下(GE) 同1.5L超3L以下(GE) 同3L超(GE) 同1.5L以下(DE) 同1.5L超2.5L以下(DE) 同2.5L超(DE) 貨物自動車 車両総重量5t以下(DE) 同5t超20t以下(DE) 同20t超(DE) 同5t以下(GE) 同5t超(GE) 2012 2013 2014 3,558.2 4.0 786.8 2267.7 214.7 95.2 112.0 70.1 2706.9 2196.2 66.8 46.7 168.4 0.7 3,353.0 7.4 793.9 2139.6 29.5 68.0 228.1 79.1 2634.6 2141.7 51.8 40.0 200.2 3.5 4,361.1 93.7 805.8 2480.1 73.1 64.6 665.6 159.4 3035.5 2388.8 135.5 59.0 283.2 6.6 輸出先(構成比) 1位 2位 3位 米国(26.0) ドイツ(15.1) 日本(13.2) ドイツ(77.2) スワジランド(6.7) ボツワナ(5.1) ドイツ(47.2) 日本(30.5) オーストラリア(10.1) 米国(45.6) 日本(8.3) オーストラリア(7.6) ボツワナ(28.4) ナミビア(24.9) フランス(8.4) ドイツ(94.7) ナミビア(2.5) スワジランド(0.8) ベルギー(58.8) 日本(18.5) ドイツ(7.5) イギリス(23.1) ナミビア(16.4) フランス(11.9) ナミビア(11.2) イギリス(10.3) ベルギー(9.4) イギリス(12.9) ベルギー(11.6) ドイツ(11.3) ナミビア(38.8) モザンビーク(19.4) ボツワナ(10.2) ナミビア(40.5) ボツワナ(9.6) ジンバブエ(9.2) ナイジェリア(37.0) ナミビア(25.1) サウジアラビア(18.5) ナミビア(64.5) スワジランド(15.4) モザンビーク(6.5) 【輸入】 HSコード 8703 8703.21 8703.22 8703.23 8703.24 8703.31 8703.32 8703.33 8704 8704.21 8704.22 8704.23 8704.31 8704.32 4位 ベルギー(10.5) モザンビーク(3.1) ナミビア(5.2) シンガポール(6.3) ベルギー(7.3) ボツワナ(0.4) オーストラリア(7.2) ザンビア(9.9) ドイツ(9.0) ナミビア(7.4) スワジランド(7.9) モザンビーク(7.9) ボツワナ(7.6) レソト(3.8) 5位 オーストラリア(7.3) ナミビア(2.6) ボツワナ(2.0) ナミビア(6.1) マレーシア(6,5) マダガスカル(0.3) ナミビア(2.2) ボツワナ(9.7) ボツワナ(5.3) アルジェリア(5.5) ジンバブエ(7.8) スワジランド(7.8) アルジェリア(2.2) ボツワナ(3.3) 単位:100 万ドル、% 品目名 乗用自動車 シリンダー容量1L以下(GE) 同1L超1.5L以下(GE) 同1.5L超3L以下(GE) 同3L超(GE) 同1.5L以下(DE) 同1.5L超2.5L以下(DE) 同2.5L超(DE) 貨物自動車 車両総重量5t以下(DE) 同5t超20t以下(DE) 同20t超(DE) 同5t以下(GE) 同5t超(GE) 2012 2013 2014 5,176.4 102.5 1082.4 1977.5 542.0 42.0 768.7 649.6 1618.5 505.0 73.3 27.2 168.6 2.9 5,478.6 109.9 1360.6 1932.9 507.7 51.5 860.1 646.0 1220.5 518.5 58.5 36.1 127.5 0.5 4,713.1 169.9 1096.7 1524.2 474.2 76.6 794.9 564.4 1054.0 420.1 60.4 30.8 57.4 0.2 1位 ドイツ(30.6) ルーマニア(31.0) インド(49.7) ドイツ(40.4) ドイツ(41.8) インド(53.8) ドイツ(46.2) 米国(35.8) 米国(22.1) ドイツ(23.4) スペイン(30.4) スペイン(54.9) 日本(24.7) 中国(45.8) 2位 インド(15.9) トルコ(26.7) ドイツ(17.9) 韓国(16.8) 米国(23.7) イギリス(27.9) 韓国(10.0) 日本(23.4) 日本(15.3) 日本(20.9) イタリア(18.1) インド(11.3) 中国(21.7) ボツワナ(23.6) 輸入元(構成比) 3位 4位 韓国(9.6) 日本(9.5) フランス(10.7) インド(10.3) 韓国(9.6) インドネシア(4.5) 日本(13.1) タイ(5.1) イギリス(14.0) 日本(10.4) スペイン(18.0) 米国(0.1) インド(9.4) 米国(6.2) イギリス(15.6) ドイツ(9.9) ドイツ(10.1) 韓国(7.3) 韓国(16.7) アルゼンチン(14.0) 日本(8.1) フランス(7.7) ドイツ(10.8) トルコ(7.4) スペイン(17.4) ポーランド(14.0) 5位 米国(9.5) 韓国(6.4) イギリス(4.2) 米国(4.7) イタリア(5.6) 韓国(0.1) スペイン(6.0) スロバキア(6.7) イギリス(6.8) インド(6.4) 韓国(7.4) 韓国(5.2) 米国(11.9) 注)GE:Spark-Ignition Internal Combustion Reciprocating Piston Engine(ピストン式火花点火内燃機関:ガソリン エンジン) 、DE:Compression-Ignition Internal Combustion Piston Engine(ピストン式圧縮点火内燃機関:ディー ゼル/セミディーゼルエンジン) 出典)以上、Global Trade Atlas 6 ・品目別で自動車部品貿易をみると、自動車部品輸出額のうち最も金額が大きいのが、「その他エ ンジン部品」で 2014 年時点 2.9 億ドル(自動車部品輸出額構成比 21.0%)、次いで「87 類の車 両用 DE」が 2.0 億ドル(同 14.9%)とエンジン/エンジン部品の割合が高い。これは、VW やフォー ドのエンジン輸出が寄与しているとみられる。「自動車部品及び付属品」の中では、「車体部品(除く シートベルト)」が圧倒的に多く、1.1 億ドル(同 8.2%)。「自動車部品及び付属品」の輸出先をみる と、トップはドイツ、次いでナミビア、米国、ボツワナ、アルゼンチンと地域的に分散している。 ・なお、AIEC/SARS による分類で品目別輸出動向をみると、最も輸出額の大きい品目は Vulnerable 材に指定されている「触媒コンバーター」で、輸出額全体(除くボツワナ、レソト、ナミビア、スワジ ランド)の 42.7%を占めている。輸出先はドイツが 42%と最も高く、次いで米国 15%、イギリス 9%、 スペイン 6%と、欧米諸国が中心である。 ・自動車部品輸入額のうち最も金額が大きいのは、「車体部品(除くシートベルト)」で 2014 年時点 2.6 億ドル(自動車部品輸入額構成比 14.8%)。次いで「ブレーキ及びその部分品」が 1.7 億ドル (同 9.7%)、「その他エンジン部品」が 1.6 億ドル(同 8.9%)、「駆動軸及びその部分品」が 1.0 億ド ル(同 5.8%)と、「車体部品(除くシートベルト)」以外は自動車の走行性能に関わる高い精度と品 質が要求される部品が並ぶ。自動車部品の輸入元もドイツが最も多いが、多岐にわたっている。 「自動車部品及び付属品」の輸入元をみると、トップはドイツ、次いで中国、米国、日本、タイ。南ア フリカに進出している自動車メーカーが VAA や PI の部品輸入関税クレジットを活用してグローバル 調達を展開している状況が反映されている。 ■図表 5 南アフリカの自動車部品の品目別輸出/輸入額の推移と取引先 【輸出】 HSコード 8708 8708.29 8708.80 8708.50 8708.92 8708.93 8708.30 8708.70 8409.99 8408.20 8409.91 単位:100 万ドル、% 品目名 自動車部品及び付属品 車体部品(除くシートベルト) 懸架装置及びその部分品 駆動軸及びその部分品 消音装置、排気管並びにその部分品 クラッチ及びその部分品 ブレーキ及びその部分品 車輪並びにその部分品・付属品 その他エンジン部品 87類の車両用DE GE用エンジン部品 2014 輸出額 780.1 111.4 66.8 61.2 48.3 37.6 33.2 24.5 285.2 202.4 38.6 1位 ドイツ(18.0) ドイツ(21.9) ドイツ(55.0) ドイツ(20.6) 米国(30.5) ドイツ(42.9) ボツワナ(14.8) アルゼンチン(30.4) 米国(25.7) インド(40.9) ベルギー(18.2) 出典)Global Trade Atlas 7 2位 ナミビア(12.7) アルゼンチン(20.4) 米国(9.4) 米国(20.4) ドイツ(17.7) 米国(6.6) ナミビア(14.4) ブラジル(26.6) ドイツ(21.2) 中国(34.9) ドイツ(18.0) 輸出先(構成比) 3位 4位 米国(8.4) ボツワナ(7.9) ナミビア(11.2) 米国(5.7) ボツワナ(6.2) ナミビア(5.2) スペイン(15.9) メキシコ(15.0) 韓国(6.6) イタリア(5.2) ボツワナ(6.1) ナミビア(5.2) レソト(8.1) ザンビア(8.0) ドイツ(19.4) インド(9.6) タイ(15.9) スペイン(14.4) 米国(12.4) マレーシア(3.0) イギリス(11.4) ナミビア(6.9) 5位 アルゼンチン(6.9) スペイン(4.7) ジンバブエ(4.4) ボツワナ(5.2) イギリス(4.8) UAE(5.2) スワジランド(7.9) スペイン(7.9) アルゼンチン(6.6) ボツワナ(3.5) ボツワナ(5.5) 【輸入】 単位:100 万ドル、% HSコード 品目名 8708 8708.29 8708.30 8708.50 8708.80 8708.93 8708.94 8409.99 8409.91 8544.30 8408.20 自動車部品及び付属品 車体部品(除くシートベルト) ブレーキ及びその部分品 駆動軸及びその部分品 懸架装置及びその部分品 クラッチ及びその部分品 ハンドル、ステアリング、並びにその部分品 その他エンジン部品 GE用エンジン部品 点火用配線セット 87類の車両用DE 2014 輸入額 1301.7 261.0 171.3 102.7 74.8 65.7 61.5 156.0 92.9 92.5 58.4 1位 ドイツ(28.9) ドイツ(33.6) ドイツ(55.0) ドイツ(14.2) 中国(19.7) 中国(20.8) ドイツ(14.8) 米国(25.7) 中国(24.5) ボツワナ(57.8) ドイツ(25.2) 2位 中国(11.4) 米国(8.5) 中国(9.4) 中国(13.7) ドイツ(16.7) ドイツ(18.2) 中国(14.4) ドイツ(19.3) ドイツ(13.8) タイ(12.2) 米国(23.6) 出典)以上、Global Trade Atlas 8 輸入元(構成比) 3位 4位 米国(7.5) 日本(7.3) 日本(7.1) タイ(5.0) 日本(6.2) イタリア(5.2) ブラジル(13.2) 日本(10.9) 米国(10.1) スペイン(7.9) 米国(10.1) 日本(9.3) 米国(8.1) ブラジル(8.0) イギリス(7.9) 中国(5.5) 日本(13.5) 米国(11.1) 米国(6.5) スイス(3.6) インド(6.2) シンガポール(5.9) 5位 タイ(5.2) スペイン(4.5) タイ(4.4) 米国(9.1) 日本(7.3) 韓国(6.5) 日本(7.9) インド(5.3) 台湾(7.7) 中国(3.4) インドネシア(5.8) (3)競合国との比較分析と競争ポジション ・南アフリカの自動車産業は、近年の経済低迷により伸び悩んでいるものの、MIDP の施策導入以後 自動車生産・輸出・販売台数は着実に増加し、自動車輸出額も上昇、OEM7 社に加え新興国メー カーも設備投資を増加させているなど、一国単位でみれば順調に成長軌道を辿ってきている。 ・しかし、世界の自動車産業はグローバル化の色を強めており、自動車新興国のグローバルレベル での市場獲得競争は激化している。また、グローバルに事業展開する自動車メーカーや部品メ ーカーは厳しい国際競争を勝ち抜くために、各拠点のコスト競争力や技術力を勘案してグロー バル最適供給・調達体制をめざし、絶えず状況に応じて柔軟に体制を編成し直している。 ・したがって、南アフリカの自動車産業の現状を評価するにあたっては、グローバルな自動車産業に おける同国のポジションを確認することが重要になる。そこで、南アフリカを他の自動車新興国と比 較して、その発展パターンの共通点と相違点、及び競争上のポジションを確認して、南アフリカの課 題と発展可能性を検討することにしたい。 ①競合国との主要定量指標比較 ・図表 6 は南アフリカと競合国とを「デモグラ・経済」、「自動車」、「自動車部品」の主要指標で比較し たものである。 ■図表 6 南アフリカ及び競合国の自動車産業比較(2014 年) 人口 名目GDP 1人当たり名目GDP 自動車保有台数 自動車生産台数 自動車販売台数 自動車輸出台数 輸出比率 自動車輸出額 自動車輸入額 自動車部品輸出額 自動車部品輸入額 単位 100万人 10億ドル ドル 万台(2013年) 万台 万台 万台 % 100万ドル 100万ドル 100万ドル 100万ドル 南アフリカ 53.1 379.6 6482.8 931.9 56.6 64.5 27.7 49.6 7491.7 5922.5 1357.6 1762.4 タイ 68.7 404.8 5896.4 1392.2 188.1 88.2 112.8 60.0 16740.8 1723.8 10216.5 8305.4 インド 1275.9 2051.2 1607.7 2501.1 384.4 317.7 70.8 18.4 6766.9 245.3 5748.0 5483.0 メキシコ 119.7 1291.1 10784.5 3487.0 336.8 117.1 276.7 81.6 53956.1 10759.9 38959.6 34248.8 ブラジル 出典 202.8 2346.6 IMF 11572.7 3969.5 OICA 314.6 349.8 各国自工会データ 36.0 11.3 4911.2 10911.5 Global Trade Atlas 5824.7 10184.7 ・この図表で自動車新興国として注目される競合国と比較すると、南アフリカの数値は見劣りすると 言わざるを得ない。自動車生産台数では、インド、メキシコ、ブラジルは 300 万台を超え、タイでも 188 万台と南アフリカの 3.3 倍の規模をほこっている。自動車販売台数でも、インド、ブラジルが 300 万台、メキシコが 100 万台を超え、タイの 88 万台の後塵も拝している(なお、タイの自動車販売の 9 ピークは 2012 年の 143.6 万台で、南アフリカのピークである 2006 年の 71.4 万台の 2 倍の市場 規模に達していた)。自動車輸出台数では輸出比率が最も低いブラジルをも下回っている。自動車 輸出額では、ブラジル、インドは上回っているものの、メキシコの 1/7、タイの 1/2 以下の水準で、自 動車部品輸出額では競合国に大きく引き離されている。 ②自動車産業の発展類型 ・ただし、南アフリカと競合国を比較する際には、人口や経済規模による構造的違いに留意する必要 がある。そこで、まず主に量的規模の観点から競合国の構造的違いを整理すると、次の 3 つの類 型に分けることができる。 ○国内主導型:インド、ブラジル ・豊富な人口を背景に、高関税/内国税等による国内市場の保護・拡大に依拠して自動車産業を 発展させたパターン。両国とも自動車の生産、販売は 300 万台を超えるが、輸出比率は 10% 台。 ・ただし、金額ベースの自動車貿易では、インドと異なり、ブラジルは自動車/同部品ともに大幅な入 超で、同じ類型の中でも競争力に差が出ている。 ・地場系企業も存在するが、国内市場の規模の魅力と保護的政策への対応で外資系自動車/同部 品メーカーのプレゼンスも大きい。 ○輸出主導型:メキシコ ・NAFTA による大規模な市場(米国)に近接したアクセスの良さと、グローバルな FTA 締結などに よる経済自由化で輸出市場を開拓し、自動車産業を発展させた。自動車の輸出比率は 81.6%。 ・輸出規模の拡大が外資系自動車/同部品メーカーを誘引して規模の拡大に拍車をかけ、一大自 動車産業集積地に成長。自動車貿易では自動車/同部品ともに出超。 ・ただし反面、国内市場の約 5 割を輸入車が占める。また、国内市場の拡大は米国からの中古車輸 入などで緩慢。 (同様の発展パターンをとっているのがトルコ。近接する EU との関税同盟を活用して同地域への輸 出で自動車産業を発展させた。自動車輸出比率は 7 割を超えるが、自動車輸入比率も約 6 割) ○両立型:タイ ・国内市場を高関税/内国税等によって保護・拡大させつつ、一方で ASEAN 域内、オーストラリア、 中東などの輸出市場を開拓し、国内/輸出の両面から自動車産業を発展させたパターン。自動 車の輸出比率は 50%前後。 ・日系企業を中心とした外資誘致で自動車産業の礎をつくり、国内/輸出市場の量的拡大を通じて さらに外資を呼び込み、「アジアのデトロイト」と称されるほどの一大自動車産業集積地を形成。 10 ・この 3 つの類型のうち、南アフリカと最も適合しているのは、③の両立型である。南アフリカの自動 車輸出比率は 49.6%、人口規模、名目 GDP 規模、1 人当たり GDP などデモグラ・経済の条件もタ イに近似している。しかし、タイとの類似にもかかわらず、自動車産業の生産・販売・輸出の規模 では大きく差が開いている(タイを 100 とした場合、南アフリカは自動車保有台数 66.9、自動車生 産台数は 30.1、自動車販売台数は 73.1、自動車輸出台数は 24.6、自動車輸出額 44.8、自動車 部品輸出額 13.3)。この大きな格差の要因を検討することが、南アフリカ自動車産業の今後の発 展を考える鍵になるといえる。 ・また、類型が異なっているとしても、他の競合国でも南アフリカと共通する点がみられる(例えば、 ブラジルは「先進国市場から離れて孤立しているという立地条件」、メキシコは「輸入車比率が高 い」など)。こうした共通点に着目し、南アフリカとの条件の違いを考慮しつつ検討することも、示唆す るところは多い。 ③発展のスピード ・今ひとつの着目点は時系列の推移である。南アフリカ及び競合国は 1980 年代まで輸入代替工業 化政策をとっていた。しかし、1990 年前後から多少のタイムラグはあるが、各国とも経済自由化路 線に転換。自動車産業においても外資の参入規制や国産化規制の緩和・撤廃、輸入関税の引き 下げなどの自由化政策が採用された。 ・したがって、図表 7 や図表 8 が示すように、自由化がスタートし始めた 1994 年時点、自動車生産 台数においては南アフリカ、タイ、インドに大きな違いはない。自動車販売台数でもブラジルを除き 他の 4 カ国はほぼ同じ水準にある。しかし、その後の 20 年間で南アフリカの自動車生産・販売の 伸びは漸増にとどまったのに対し、他の 4 カ国は大きな成長を遂げている。この発展のスピード の違いの要因が、今後の南アフリカの自動車産業を考える上での重要なポイントとなる。 ・そして、ここで着目すべきは、競合国は 1990 年代後半の通貨危機、2008 年のリーマンショックとい った、経済危機を境に発展・拡大軌道に乗っているという点である。言い換えれば、危機に際して の政策対応が自動車産業を転換させたポイントになっており、南アフリカの今後の自動車産業の ステップアップを考える上での大きな注目点といえる。 11 ■図表 7 南アフリカ及び競合国の自動車生産台数の推移 万台 450.0 400.0 350.0 300.0 南アフリカ 250.0 タイ 200.0 インド 150.0 メキシコ ブラジル 100.0 50.0 0.0 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 年 出典)OICA、JAMA「主要国自動車統計」 ■図表 8 南アフリカ及び競合国の自動車販売台数の推移 万台 400.0 350.0 300.0 南アフリカ 250.0 タイ 200.0 インド 150.0 メキシコ 100.0 ブラジル 50.0 出典)OICA、JAMA「主要国自動車統計」 12 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 0.0 年 ④競合国との競争力比較 (A)生産・調達コスト比較 ・まず、労働コストをみると、図表 9 が示すように、ワーカーの月額賃金レベルは、タイ、インド、メキ シコが 360 ドル台であるのに対し、南アフリカは倍の 728 ドルで、ブラジルに次いで高い。現地の 企業ヒアリングでも「人件費はタイの 2 倍、アジアの後進国と比べたらもっと開く」という話が聞かれた。 しかも問題は、「賃金は毎年 8∼10%上昇しており、生産性が追いついていない」ことで、今後もタイ、 インド、メキシコとの格差は縮小せず、さらに大きくなる可能性も高い。また、エンジニアでの賃金水 準はブラジルを逆転、中間管理職でもブラジルに次ぐ高い水準となっている。 ■図表 9 南アフリカ及び競合国の賃金比較(製造業) ワーカー(一般工職) エンジニア(中堅技術者) 中間管理職 南アフリカ ヨハネスブルク 728 5413 5032 タイ バンコク 363 669 1461 単位:ドル、月額 インド ニューデリー 369 719 1722 メキシコ メキシコシティ 259.53∼360.8 784.88∼1932.17 2163.28∼3342 ブラジル サンパウロ 1044.41 4940.33 7718.45 出典)ジェトロ「投資コスト比較」 ・部品調達コストも、競合国に比べ高い。図表 10 が示すように、部品調達コストは西欧を 100 とした 場合、南アフリカは 108∼110 で、ブラジル 102、タイ 92、メキシコ 89、インド 84 と断然高い。現 地企業ヒアリングでは、「南アフリカは裾野産業が未発達であるため多くの部品を輸入せざるをえず、 箱代・梱包費用・輸送費・通関手数料・開梱費・保管費を積み上げるとコスト負担が他国に比べて 高くなる」、「特に国内の輸送費が高く、国際的な競争をする上では不利」などの指摘があった。加 えて、近年のランド安の進行により、輸入部品価格が上昇し、さらにコストが上昇している。 ■図表 10 南アフリカ及び競合国の部品調達コスト比較(西欧を 100 とした場合) ブラジル メキシコ インド タイ 南アフリカ 西欧 0 20 40 60 80 出典)フォーイン「世界自動車調査月報 No.345 2014.5」 13 100 120 (B)輸出競争力比較 ・自動車産業分野の貿易データから、競争力指数(〔輸出-輸入〕/〔輸出+輸入〕:当該製品において 指数+1は輸出のみで輸入がゼロ、-1 は輸出ゼロで全て輸入に依存している状況で、指数が+1に 近づくほど当該製品の輸出競争力が高まっていることを示す)を用いて輸出競争力を比較する。 ・完成車分野では、図表 11 のように、+0.6∼+0.8 の高い水準で推移しているインド、タイ、メキシコ と、0 からマイナスの水準で低迷している南アフリカ、ブラジルに分かれる。インド、タイについては、 高関税で国内市場を保護した上で近年輸出を拡大していることもあり、+0.8 の高い水準を維持して いる。また、メキシコは輸入以上に急速に輸出が拡大しているためとみられる。一方、南アフリカとブ ラジルは近年の輸入の拡大が影響している。ブラジルはレアル高で輸出が不振であることも-0.4 と いう低い水準で推移している要因。これに対して、南アフリカはランド安で輸入が抑制されプラスに 転換。為替の動向で左右される面があるが、南アフリカとタイ、インド、メキシコの格差は大きい。 ■図表 11 完成車分野での競争力指数比較 1.000 0.800 0.600 南アフリカ 0.400 タイ 0.200 インド 0.000 メキシコ -0.200 ブラジル -0.400 -0.600 2010 2011 2012 2013 2014 出典)Global Trade Atlas をもとに弊社作成 ・自動車部品分野をみると、メキシコを除き、他の 4 カ国は競争力指数がマイナスで推移。これは、 自動車産業がテイクオフして発展軌道に乗った局面で、まだ裾野産業が十分に発達していない ために部品を輸入せざるをえず、自動車部品貿易赤字に陥るという中進国の構図に陥っている ためである。その意味で、2010∼14 年にかけてプラスで推移しているメキシコは、この構図から抜 け出し、競争力を着実に向上させているといえる。また、タイも洪水の影響で落ち込んでいたが、急 速に競争力を回復させ、プラスに転換。さらに、2010 年では最も指数が低かったインドはここ数年 で急速に競争力指数を上げ、同じく 2014 年はプラスとなった。一方、南アフリカは-0.1 前後の水 準で推移し、マイナス圏内から抜け出せていない。また、ブラジルはレアル高が影響し、2012 年 以降急激に競争力指数を落としている。 14 ■図表 12 自動車部品分野での競争力指数比較 0.150 0.100 0.050 0.000 南アフリカ -0.050 タイ -0.100 インド -0.150 メキシコ ブラジル -0.200 -0.250 -0.300 年 2010 2011 2012 2013 2014 出典)Global Trade Atlas をもとに現代文化研究所作成 (C)自動車部品産業の集積状況 ・現在のグローバル化が加速度的に進行する状況において、自動車新興国の競争力を大きく左右 するのが、外資系部品メーカーの存在である。各国の Tier1 の多くは外資系部品メーカーによって 占められ、当該国の部品産業の生産性・品質の向上、自動車部品輸出の拡大に対する外資系部 品メーカーの影響力は大きい。したがって、外資系部品メーカーの層の厚さが自動車新興国の競 争力を測るひとつの指標となる。 ・そこで、図表 13 をみると、南アフリカは 100 社(日系 16 社、欧米系 84 社)。これに対して、タイは 日系部品メーカーが 988 社もあり、欧米系と併せると 1101 社にのぼる。インドも 541 社(日系 259 社、欧米系 282 社)、メキシコも 593 社(日系 266 社、欧米系 327 社)も存在し、ブラジルでも 336 社(日系 92 社、欧米系 244 社)と、南アフリカの 3 倍以上である。南アフリカの外資系部品メーカ ーの層の薄さが目立っている。 ■図表 13 欧米日自動車部品メーカーの進出数の比較 ブラジル メキシコ 日系 インド 欧米系 タイ 南アフリカ 0 200 400 600 800 注)持ち株比率 20%以上が対象 出典)マークラインズ 15 1000 1200 社 (D)輸出先市場での競争ポジション ・最後に、南アフリカの主要な輸出先市場における同国の競争的ポジションを検討する。南アフリ カの主要完成車輸出品目である、「HS870323:シリンダー容量 1.5L 超 3L 以下(GE)」 、 「HS870421:車両総重量 5t以下(DE)」、「HS870322:シリンダー容量1L 超 1.5L 以下(GE)」に焦 点を絞り、かつ各輸出市場において輸出額の大きい品目で競争的状況をみると、以下の通り。 ○EU28 ・EU28 の域外貿易において、南アフリカの乗用車の主力商品は「シリンダー容量1L 超 1.5L 以下 (GE)」。2014 年のランキングは 6 位で、トップ 5 には韓国、日本という自動車先進国のほか、ト ルコ、インド、メキシコという競合の自動車新興国が位置している。中でも、トップのトルコは 2010 ∼14 年で輸出額を 1.7 倍に増やし 18.5 億ドルに拡大。これに対し、南アフリカは 2010 年にトヨタ が欧州向け Corolla をトルコに移管したことも影響して輸出が減少、2014 年は 2011 年の半分以下 の 3.6 億ドルにまで落としている。さらに注目されるのが、モロッコ、タイの躍進である。モロッコは 2013 年から急激に輸出額を増やし、2014 年は 3.0 億ドルと南アフリカに迫る。タイも同様に 2013 年から輸出を急増させ、2014 年は 1.6 億ドルまで伸ばした。モロッコはルノーのタンジェ FTZ での 操業本格化、タイはエコカー政策を契機とした同品目の生産拡大が躍進要因とみられる。 ・「車両総重量 5t以下(DE)」では、南アフリカはトップ 3 に入る。2014 年の輸出額は 5 億ドルで 3 位。ただし、この品目ではトルコが圧倒的に強く、輸出額は 36.1 億ドルで、シェア 7 割を誇る。2 位 はタイで 7 億ドル。ここでもモロッコが 2013 年から輸出を伸ばし、現在 1.3 億ドルで 4 位である。 ○米国 ・米国への南アフリカの主要輸出品目は、「シリンダー容量 1.5L 超 3L 以下(GE)」で、ランキングは 8 位につけている。しかし、トップ 5 には、日本、ドイツ、韓国といった自動車先進国、カナダ、メキ シコの NAFTA 加盟国が位置しており、輸出額でも 5 位の韓国の約 12.4%にすぎず、南アフリカの プレゼンスは小さい。 ○オーストラリア ・オーストラリアへの南アフリカの主力輸出商品は、乗用車の「シリンダー容量 1.5L 超 3L 以下(GE)」。 ただし、日本、ドイツがトップ 2 に位置し、両国で 6 割近くのシェアを占める。こうした中、南アフリカ は 7 位に位置している。競合国ではタイが 4 位に位置し、輸出額は多少上下しつつも南アフリカの 3.7 倍の規模の 7 億ドル前後の水準で推移している。 ○日本 ・日本では、右ハンドル生産国の優位性を活かし、南アフリカは「シリンダー容量1L 超 1.5L 以下 (GE)」で 3 位、「シリンダー容量 1.5L 超 3L 以下(GE)」で 4 位につけ、輸出金額も上下しつつも 2 ∼3 億ドル前後の水準を推移。ただし、日本の乗用車輸入市場はドイツのプレゼンスが非常に大 きく、「シリンダー容量1L 超 1.5L 以下(GE)」は約 4 割、「シリンダー容量 1.5L 超 3L 以下(GE)」は 約 6 割のシェアを占める。また、「シリンダー容量1L 超 1.5L 以下(GE)」では、タイがシェア 12.2% で南アフリカを上回るほか、トルコ、インドが 2013∼14 年に輸出を伸ばしていることが注目される。 16 ■図表 14 主要輸出先でのトップ5、南アフリカ、競合国の完成車輸入額の推移(単位:100 万ドル) 【EU28】 ○HS870322:シリンダー容量1L 超 1.5L 以下(GE) 2,000.0 トルコ 韓国 1,500.0 インド 日本 1,000.0 メキシコ 南アフリカ 500.0 モロッコ タイ 0.0 2010 2011 2012 2013 2014 年 ブラジル ○HS870421:車両総重量 5t以下(DE) 4,000.0 3,500.0 トルコ 3,000.0 タイ 2,500.0 南アフリカ 2,000.0 モロッコ 1,500.0 アルゼンチン 1,000.0 ブラジル 500.0 インド 0.0 メキシコ 2010 2011 2012 2013 2014 年 【米国】 ○HS870323:シリンダー容量 1.5L 超 3L 以下(GE) 25,000.0 日本 20,000.0 カナダ 15,000.0 ドイツ 10,000.0 ハンガリー メキシコ 韓国 南アフリカ 5,000.0 トルコ ブラジル 0.0 タイ 2010 2011 2012 2013 17 2014 年 インド 【オーストラリア】 ○HS870323:シリンダー容量 1.5L 超 3L 以下(GE) 4,500.0 4,000.0 3,500.0 3,000.0 2,500.0 2,000.0 1,500.0 1,000.0 500.0 0.0 日本 ドイツ 韓国 タイ 米国 南アフリカ メキシコ トルコ 2010 2011 2012 2013 2014 年 【日本】 ○HS870322:シリンダー容量1L 超 1.5L 以下(GE) 900.0 800.0 700.0 600.0 500.0 400.0 300.0 200.0 100.0 0.0 ドイツ タイ 南アフリカ メキシコ ハンガリー トルコ インド ブラジル 2010 2011 2012 2013 2014 年 ○HS870323:シリンダー容量 1.5L 超 3L 以下(GE) 4,000.0 3,500.0 ドイツ 3,000.0 イギリス 2,500.0 ベルギー 南アフリカ 2,000.0 ハンガリー 1,500.0 メキシコ 1,000.0 タイ ブラジル 500.0 トルコ 0.0 2010 2011 2012 2013 出典)以上、Global Trade Atlas 18 2014 インド 年 ○サブサハラ地域 ・上記したように、南アフリカの完成車輸出先として、ナミビア、ボツワナ、モザンビークなどサブサ ハラ諸国が上位にあがってきており、今後の輸出市場として注目される。しかし、南アフリカに近接 したサブサハラ地域でもグローバル競争が始まっている。そうした状況を明確にみてとれるのが、イ ンドの同地域への完成車輸出の活発化である。 ・図表 15 が示すように、インドのサブサハラ地域への輸出先としては、まず南アフリカである。インド の乗用車輸出全体(HS8703)の 2 位、商用車輸出全体(HS8704)の 3 位に南アフリカは位置づけ られている。品目別では、「シリンダー容量1L 超 1.5L 以下(GE)」、「シリンダー容量 1.5L 以下 DE」でトップ、「シリンダー容量 1.5L 超 3L 以下(GE)」で 2 位に位置している。 ・しかし、南アフリカ以外のサブサハラ諸国への輸出も目立っており、「シリンダー容量1L 以下(GE)」 ではナイジェリアが 1 位、ボツワナが 3 位となっている。商用車輸出全体でもケニアが 4 位となっ ている。今後こうした地域の自動車需要が拡大するにつれ、インドは南アフリカにとって手強い競争 相手になることが予想される。 ■図表 15 インドの品目別完成車輸出先トップ 5 HSコード 品目名 8703 8703.21 8703.22 8703.23 8703.24 8703.31 8703.32 8703.33 8704 8704.21 8704.22 8704.23 8704.31 8704.32 乗用自動車 シリンダー容量1L以下(GE) 同1L超1.5L以下(GE) 同1.5L超3L以下(GE) 同3L超(GE) 同1.5L以下(DE) 同1.5L超2.5L以下(DE) 同2.5L超(DE) 貨物自動車 車両総重量5t以下(DE) 同5t超20t以下(DE) 同20t超(DE) 同5t以下(GE) 同5t超(GE) 2014 輸出額 1位 2位 5812.3 メキシコ(13.6) 南アフリカ(12.6) 1205.6 ナイジェリア(15.2) スリランカ(10.0) 3270.3 南アフリカ(16.6) アルジェリア(9.0) 838.0 メキシコ(77.4) 南アフリカ(5.6) 1.7 ブータン(28.0) イギリス(23.3) 388.7 南アフリカ(23.3) イギリス(23.0) 93.0 メキシコ(66.9) ネパール(11.4) 12.5 ネパール(67.7) アンゴラ(13.0) 684.5 バングラデシュ(23.7) スリランカ(12.2) 270.5 スリランカ(26.3) バングラデシュ(15.0) 218.7 バングラデシュ(45.7) ネパール(8.0) 94.9 ケニア(27.0) バングラデシュ(22.1) 3.9 UAE(43.5) クウェート(22.6) 1.2 ガーナ(63.7) タンザニア(22.4) 単位:100 万ドル、% 輸出先(構成比) 3位 イギリス(7.0) ボツワナ(8.6) UAE(8.1) 台湾(4.7) ネパール(18.1) イタリア(19.3) チュニジア(8.1) ドイツ(5.9) 南アフリカ(7.8) 南アフリカ(9.4) ケニア(6.2) モザンビーク(10.5) イラク(9.3) ギニア(8.3) 4位 アルジェリア(5.3) イギリス(6.8) イギリス(6.9) チリ(3.2) UAE(14.3) フランス(8.7) 南アフリカ(5.5) ブータン(5.1) ケニア(6.6) チュニジア(7.3) 南アフリカ(5.4) タンザニア(6.0) ナイジェリア(3.6) ロシア(3.0) 5位 UAE(4.7) バングラデシュ(5.7) オーストラリア(5.2) モザンビーク(1.8) ドイツ(11.1) スペイン(4.8) カタール(1.5) イギリス(2.4) ネパール(5.7) ネパール(7.2) スリランカ(5.4) 南アフリカ(5.6) バングラデシュ(5.9) ナイジェリア(1.7) 出典)Global Trade Atlas ・加えて、サブサハラ地域内部での自動車産業の胎動も要注目である。ナイジェリアは 2014 年に 2024 年までの自動車産業開発計画 NAIDAP を作成した。同計画の下、現地生産を行う自動車メ ーカーに完成車輸入関税を引き下げる(乗用車は 70%から 35%、商用車は 35%から 20%)とい 19 う優遇措置を設定した。これを受け、2014 年には現代・起亜、日産が地場企業と協力して現地生 産を開始、フォードも 2015 年第 4 四半期に年産能力 5000 台の新工場を設立し、PUP の Ranger の SKD 生産を開始。2015 年 7 月には、ホンダが二輪の現地工場内に年産能力 1000 台の四輪 車生産設備を導入し、Accord の生産を開始。同時期、VW も地場企業と提携して、Passat や Jetta の生産を開始。2015 年 8 月、PSA は 2014 年から SKD 生産していた Peugeot301 を CKD 生産に切り替える計画を進めている。サブサハラ地域の自動車需要が依然として低い水準にとどま っていること、産業の基盤となるインフラがまだ整備されていないことなどから、同地域での自動車 産業育成の動きは端緒についたばかりではある。しかし、今後、サブサハラ各国が中間層の台頭を 受けて、ナイジェリアのように自動車産業育成に乗り出す可能性も想定され、もはや南アフリカだ けがサブサハラ地域での供給拠点の地位を独占できる状況にはないことは留意しておく必要が ある。 (5)総合評価 ・以上の検討を踏まえ、南アフリカ及び競合国の競争ポジションを、「国内市場」、「大規模市場から の距離」、「市場アクセス(輸出先)」、「生産コスト」、「調達コスト」、「産業集積の厚み」の観点か ら 3 段階評価すると、以下のような結果となった。 ■図表 16 南アフリカと競合国との自動車ファンダメンタルズ比較 国内市場 大規模市場からの距離 市場アクセス(輸出先) 生産コスト 調達コスト 産業集積の厚み 南アフリカ △ △ ○ △ △ △ タイ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ インド ◎ △ △ ◎ ◎ ○ メキシコ ○ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ブラジル ◎ △ ○ △ △ ○ 出典)現代文化研究所作成 ・南アフリカはインドやブラジルのような大きな国内市場を持たず、また量的規模が見込める先進 国市場からも遠く、アクセスが悪い。これは、「莫大な投資を必要とする資本集約型産業で規模の 経済の追求が必須」、「安全性など品質や現地の嗜好などきめ細かな対応が必要なため、完成車 生産工場は最終消費地に近い方が望ましい」とされる自動車産業の立地には、大きなデメリットで ある。南アフリカの主要輸出先の競争状況をみても、EU28 ではトルコ、米国ではメキシコ、オースト ラリアではタイといった近隣の生産国が地域経済協定等の恩典を活用して日米欧の自動車先進 国に交じって大きなシェアを確保し、南アフリカよりも上位に位置していた。このように国内外で大 きな量的規模の確保が制約されていることに加え、生産・調達コストが相対的に高いために、外資 系部品メーカーの進出が進まず、国際競争力を有する裾野の広い産業集積が形成できていな いというのが現状である。 20 ・ただし、こうした不利な状況であるにもかかわらず、南アフリカが自動車生産・販売・輸出を増加さ せ、自動車産業への設備投資も継続拡大しているなど、着実に発展してきたことも事実である。 主要輸出先でも、自動車先進国や市場の近隣に位置する競合国に続くポジションを堅持してい る。この背景には、南アフリカ政府が打ち出した MIDP という輸出主導型の産業政策に対応して、同 国に進出した外資系の自動車メーカーが自らのグローバル事業戦略の中で南アフリカに独自の 供給拠点としての役割を与え(右ハンドル国向け生産拠点など)、脆弱な自動車部品産業をグ ローバル調達でカバーして、ターゲットとする市場への輸出に注力したことがある。南アフリカは 外資系完成車メーカーの企業内貿易の一環に組み込まれることで発展してきたといえる。 ・しかし、こうした発展形態は、外資系自動車メーカーの戦略の方向性で左右される脆弱性を抱え ている。上記したように、グローバルに事業展開する自動車メーカーや部品メーカーは厳しい国際 競争を勝ち抜くために、状況の変化に応じて、たえず各拠点のコスト競争力や技術力を勘案して、 最適な供給・調達体制を編成し直している。したがって、南アフリカの現在の競争ポジションも安 定的なものではない。タイ、インド、メキシコといった競合国は国際競争力を向上させて輸出先を 拡大しているのに加え、モロッコのような新たな競争相手も台頭し、南アフリカが現在のポジショ ンを堅持できる保証はない。これまでの成果を踏まえつつ、こうした競争環境の変化に対応した、 コスト競争力と技術力を向上させた自動車産業への発展が求められる局面を南アフリカは迎えて いる。 21 Ⅱ.南アフリカ自動車産業政策の展開と課題 ・そこで先ず、南アフリカの自動車産業政策の変遷をたどり、特に 1990 年代半ば以降の同国自動 車産業の展開に与えた効果を評価し、課題を確認したい。 (1)南アフリカの自動車産業政策の推移と成果 ・南アフリカ政府は 1980 年代まで輸入代替工業化政策をとっていたが、1990 年代前半の経済制 裁解除を契機に「国際経済体制への再統合」へと方針を転換。自動車産業においても、マンデラ 新政権は 1995 年 9 月から MIDP(Motor Industry Development Programme)を開始した。MIDP は、 ①完成車の輸入関税率の引き下げ、②部品輸入無税枠の設定、③輸出インセンティブの提供 (輸出額に応じて完成車・部品輸入関税を相殺できるタックスクレジットを提供)を柱に、輸出主 導で自動車産業の発展を図るというものだった。 ・当初 2002 年に終了予定であった MIDP は 2012 年まで延長された。1995∼2012 年の MIDP の 期間、輸出台数は 1.2 万台から 27.7 万台へと大きく拡大し、一定の成果は達成された。しかし、生 産台数は 37.6 万台から 50.4 万台へと漸増したにとどまり、国内販売台数は 37.6 万台から 63.1 万台へと増加したものの、輸入台数が 2.5 万台から 36.3 万台へと急拡大して国内販売の 57.5% を占めるに至り、輸入関税相殺クレジットの存在が同国の生産拡大を制約する形となった。 ・輸出ベネフィットが段階的に低減する一方で国内市場の自由化を進展させる MIDP モデルを疑問 視する声が自動車業界からあがったこと、MIDP の輸出インセンティブが WTO ルールに抵触すると いう指摘があったことを受け、南アフリカ政府は 2005 年から政策の見直しに着手、2008 年に新自 動車政策 APDP(Automotive Production Development Programme)を発表、2013 年 1 月から導 入した。APDP の対象期間は 2013∼2020 年で、①2020 年に自動車生産台数を 120 万台に拡 大、②現地調達率の向上、③自動車貿易バランスの改善、④雇用創出、を政策目標に掲げた。 大きな変更点は、MIDP が輸出に対してインセンティブを提供していたが、AIDP は国内生産に対す る提供に切り替えたことにあり、国内自動車生産を振興する姿勢をより明確に打ち出した。MIDP と AIDP の政策内容は下記の通り。 22 ■図表 17 MIDP と APDP の政策内容比較 出典)B&M Analyst レポート、AIEC 等各種資料より作成 ・しかし、2013 年 1 月にスタートして 2 年が経過した現時点での ADPD の掲げた政策目標の進捗度 は下記の通りである。 ①2020 年に自動車生産台数 120 万台 ・目標数値がリーマンショック前の高い成長率(5%台)を前提においていたこともあって、現在の経済 状況から考えると達成不可能な数字である。 23 ・2014 年の自動車生産台数は 56.6 万台と半分の水準。国内市場は 2014 年 64.5 万台。NAAMSA は 2015 年 60.3 万台、2016 年は 60 万台を割り込むと予測しており、現在のような 1∼2%台の 経済成長が続くとした場合は 2020 年の市場規模は 70 万台前後にとどまるとみられる。しかも、 2014 年の国内市場における輸入車比率は 55%と過半を超え、輸入車の流入が国内生産の拡 大を制約する構図に変化はない。 ・こうした状況から考えると、NAAMSA は 2020 年のより現実的な生産台数目標として 90 万台をあげ ているが、それさえも達成は困難とみられる。 ②現地調達率の向上 ・南アフリカの OEM7 社の現地調達率(調整済み)は 2013 年の 43.32%、2014 年は 44.59。しかし 2015 年は 39.68%に下がった。 ・さらに、部品メーカーへのヒアリングによれば、「素材・構成部品の 80∼90%以上は輸入」、「現地 調達しているのは、樹脂成型や金属プレスなどかさ張る部品、ワイヤーや後付のアクセサリー 部品、安全性に影響しない部品などごくわずか」、「現地調達率を向上させるには素材の現地化 を進める必要がある」、「素形材の基礎技術を支えるメーカーがない」とのことであり、素材や構成 部品レベルでの脆弱性が指摘されている。 ③自動車貿易バランスの改善 ・NAAMSA によれば、完成車貿易収支は、2013 年は 31 億ランドの赤字だったが、2014 年は 128 億ランドの黒字へと大きく改善。ランド安の影響もあり、2014 年の輸出額が前年比 15.7%増の 700 億ランドと大きく伸びたのに対し、輸入額は同 10.1%減の 572 億ランドと減少した。 ・他方、自動車部品貿易収支は、2013 年は 209 億ランドの赤字、2014 年は 286 億ランドの赤字で、 2012 年の 496 億ランドよりは縮小しているが、赤字基調が続く。2014 年の輸出額は前年比 8.3% 増の 457 億ランドと増加。しかし、輸入額も同 17.7%増の 743 億ドルと輸出を上回る増加を示し、 南アフリカの自動車部品産業の脆弱性が浮き彫りとなっている。 ④雇用創出 ・NAAMSA の OEM 雇用データと APDP Administration System のサプライヤー(約 110 社)雇用デ ータを合わせた自動車産業の雇用者数は 2013 年の 7.1 万人から 2014 年は 7.2 万人、2015 年第 3 四半期は 7.3 万人と増加しているが、緩やかな伸びにとどまっている(NAACAM データに よれば自動車産業分野での雇用者数は 2014 年時点 8.3 万人、OEM の雇用データと併せると自 動車産業分野での雇用者数は 11.3 万人)。 24 (2)APDP の課題 ・上記したように、MIDP から APDP にいたる南アフリカの自動車産業政策は自動車メーカー7 社の参 入を通じて輸出を振興させ、自動車産業を製造業の約 3 割を占める基幹産業とするなど着実に成 果をあげ、 同国を自動車中進国の地位に押し上げた。 ・しかし、現在の輸出依存度の高い自動車産業構造は、輸出先市場での競争の激化やグローバ ルな自動車メーカーや同部品メーカーの事業戦略の変化、為替の変動など外部要因に大きくに 左右される不安定で脆弱な側面を持っている。 ・今後、南アフリカの自動車産業を同国の経済成長の安定した柱と位置付け、雇用創出の重要な 源泉としていくには、輸出の振興と並んで、国内市場の拡大と連動させた広範な裾野産業の振興 を射程に入れたより強靭で内発的な自動車産業への発展策が必要である。こうした観点からみた 場合、現状の APDP には以下のような改善すべき課題がある。 1)国内市場の成長を阻害 ・「生産」重視のインセンティブが需要の増加と生産の拡大という、双方向の好循環サイクルに結びつ きにくい制度設計となっている。さらには販売振興につながる視点に欠いている。この「生産」重視の インセンティブは、市場が拡大基調であれば有効であるが、市場が低迷・縮小局面には在庫負担 増のリスクを負う。このため、一定の経済効果が得られる範囲以上の生産を行うメリットは存在しな い。 ・7 社の自動車メーカーが存在する中で、国内生産 55.9 万台、国内販売 64.5 万台というレベルで は規模の経済は創出できず、コスト高の構造となる(一般に量販車で規模の経済を得るには 20 万 台以上の需要が必要といわれる)。実際、日系自動車メーカー、部品メーカーは「市場規模の拡大 が自動車産業への投資の一番のモチベーションとなる」、「規模があって採算性が確保できないと 外資は進出しない」とコメントしている。 ①生産インセンティブを輸入関税の相殺に使う仕組みが国内市場の発展を歪めている ・VAA も PI も生産インセンティブが部品のみならず、完成車の輸入関税と相殺できるため、輸入車 が容易に流入できる構図になっている。しかも、VAA は卸売価格をベースにインセンティブが算 定される仕組みであるため、国産メーカーは高価格車を生産し、高いインセンティブ額を使って、本 来は需要拡大の担い手となりうるエントリーモデルを輸入(その多くがインド)するという構図になっ ている。この結果、国内生産拡大と国内需要の創出とが連動しないばかりか、国内市場の過半を 輸入車が占め、国産車の生産拡大の制約要因となっている。 ・さらに輸入関税クレジットは多様なモデルの流入につながっており、国内市場が細分化されている 点も問題である。PI ではクレジットの余剰分を他社にキャッシュで売却可能なため、この状況に拍 車をかける要因となっている。2013 年時点で、南アフリカでは乗用車は 55 ブランド、4406 モデル、 小型商用車は 31 ブランド、615 モデルが販売されていた。乗用車の最量販モデルの VW Polo の 販売台数は 6.4 万台、次いでトヨタの Corolla は 1.9 万台であり、とうてい規模の経済が創出できる 25 水準にない。そのうえ、同一セグメントで国産モデルと輸入モデルがカニバル状況を生んでいる。 ・また、輸入関税クレジットのプログラムは、南アフリカ政府に多額の財政負担(年間数千億ランドの徴 税の機会損失)を強いている。 2)裾野産業の育成・発展に寄与していない ・VAA、PI、そして AIS で提供されるインセンティブはいずれも、「自動車メーカー」に帰属する仕組 みとなっており、足腰の強い自動車産業の成長に必要なサプライヤーの保護支援が希薄である。 ①現地調達を促す政策措置がビルトインされていない ・VAA は生産台数がインセンティブ要件であるため、現地調達努力ぬきの生産振興策となっている。 また、輸出車用部品については「再輸出免税」が適用されるため、現地調達努力を促す仕組み になっていない。 ・さらに PI のインセンティブ要件が、自動車メーカーの生産工程内の付加価値に紐づいており、指 定された原材料についてはその分もサプライヤー付加価値(SVA)として、インセンティブに算入 できる仕組みである。このことにより、vulnerable 材に指定されている原材料の一つである、触媒コン バーターがクレジットの大半を稼いでおり、自動車産業全体の現地調達率向上に寄与していな い。 ・部品メーカーからは、「PI、VAA のインセンティブを享受しているのは主に自動車メーカーで、部品メ ーカーは間接的にしか恩恵を受けていない」、「現調化を通じて部品メーカーにもより恩恵が得 られる仕組みにすべき」という問題提起がある。 ・実際、裾野産業が未成熟な中で多くの部品を輸入せざるをえない Tier1 の部品メーカーは、近年の ランド安による輸入部品の価格上昇、箱代・梱包費・輸送費・通関手数料・開梱費・保管費で構成 される部品調達コストの高さに悩んでいる。突出して高い南アフリカの部品調達コストを低下させ るためにも、現地調達率向上に中長期的に取り組む仕組みをつくることが求められる。 ②実行関税率が産業の育成・競争力への寄与にリンクしていない ・南アフリカ政府は APDP の前身である MIDP 導入以降は一貫して、高関税を課す国内産業保護を 止め、国内市場の自由化による産業の育成・発展路線を維持している。しかしそれは必ずしも、政 府の意図通りの効果に結びついているとは言えない。 ・以下は南アフリカと競合国のタイ、インド、メキシコ、ブラジルの自動車関連物品の MFN 関税率を比 較したものである。南アフリカは CBU25%、CKD20%、そして構成部品が最大 20%(一部、無税ま たは低率の品目あり)で、税率の格差が少なく、中途半端に自由化された市場になっている。これ に対して、例えばタイは、CBU/CKD 共通で乗用車 80%、商用車 40%、構成部品 30%としている。 ある程度の関税で国内サプライヤーを守りながら、CBU/CKD が流入しにくくすることで、「地場サプ ライヤーからの供給を受けて国内で生産する」という産業政策の意図が見てとれる。またインドは、 CBU(乗用車)に対して 125%という格段に高率な関税を賦課する一方で、CKD(乗用車)には 10-30%と低率を設定、さらに構成部品も 10%としている。高関税で CBU 流入を完全にブロックす 26 ることにより現地生産へ誘導し、CKD 生産も含めてまずは海外自動車メーカーの国内生産を推し進 め、現地化の深化のプロセスで、自動車産業の育成とレベルアップを図ることを目指した関税政策 となっている。タイもインドも産業の育成・発展に結びつくような、メリハリのある税率設定を行ってい るのが特徴的である。 ・一方、南アフリカの場合、EU との間の FTA では EU 製完成車に対して南アフリカの MFN25%のと ころ、15%、18%の特恵税率としており、さらにシリンダー容量 1L 以下(GE)に対しては 2015 年 から無関税としている。これにより欧州からの完成車が流入増となり、国内自動車産業の成長にも ダメージを与えている。 ・さらに南アフリカでは、輸入関税水準がそれほど高くないために、輸入コストも甚大ではなく、もともと メーカーの現地生産化意欲は喚起されにくいことに加えて、VAA と PI スキームにより生産に必要な 部品・原材料が無税あるいは低関税で輸入可能なため、調達品目が限定される現地サプライヤー から調達して現地で生産するというビジネススタイルが定着しにくい環境が作り出されている。 ③投資インセンティブと生産拡大の連関性が希薄 ・AIS の投資インセンティブは、南アフリカに進出している日系企業から評価は得ている。しかし、現在 の投資インセンティブでは、南アフリカの自動車生産が規模の経済に到達していないという根本 的な問題は解決できていない。 ・また、ツーリングについては、部品メーカーから「設備投資は事業拡大の決定要因なので、現状の 25∼35%のインセンティブでは不十分」との声もある。 3)事業環境面での問題点 ・また、必ずしも APDP の制度設計におさまるものではないが、より広く自動車産業の事業環境に関す る課題として、以下の点が挙げられる。 ①労働問題 ・外資系企業からは労働コストの高さが問題とされている。「各国投資コスト比較」でみても、南アフリ カは 728 ドルと競合国の 2 倍の水準にある。 ・しかも「年率 8∼10%の賃上げがあり、賃金の上昇に生産性が追いつかない」、「3 年に一度のスト ライキにより生産に大きな支障がでる」などの指摘もある。南アフリカでは労働力/労働システムに 柔軟性がない。南アフリカが他の競合国とのグローバル競争で伍していくためには、労働問題の改 善が必須の要件である。 ②BEE 政策への対応 ・2015 年 5 月に施行された改正 BEE 法についても日系企業の間に懸念がある。最も懸念されてい るのが「所有権」のスコアが引き上げられたことである。100%外資のグローバル企業には「所有権」 要素の達成が容易ではなく、刻々と変化するビジネス環境に対応する経営の柔軟性が損なわれ 27 るリスクがある。 ・BEE 政策は南アフリカの「根幹となる政策」であり、黒人の所得向上・雇用確保は自動車産業にとっ てもメリットが大きい政策であることは確かである。しかし、「スキルが不足している労働者を雇用する と生産効率が低下する」との声もあるように、単に BEE スコアを引き上げるだけでは意味はない。「労 働者のスキルの向上」など、質的向上をセットにして初めて南アフリカの産業競争力強化に資す る実効性を伴った政策になるはずである。 ③インフラ対応 ・部品メーカーへのヒアリングでは、南アフリカのインフラ問題としてまず挙げられるのが電力不足であ る。「停電に備え、ジェネレーターの購入が必須で費用負担が大きい」との声が多かった。また、電 力料金の上昇に対する懸念や、将来の水不足を心配する声もあった。 ・港湾施設では「ダーバン港の容量不足」、「風が強いため、納期遅れのリスクに備え緊急用のストッ クが必要」などの問題点の指摘があった。また、「通関手続きに時間がかかる」といった不満も聞か れた。 ・以上のような労働問題への対応、脆弱な社会インフラの整備といったビジネス環境の改善は、南ア フリカの国際競争力向上の基盤となるものである。南アフリカ政府として長期的な視点にたった対 応策を打ち出す必要がある。 28 Ⅲ.競合国事例:タイの自動車産業の発展と政策展開 ・本節では、南アフリカの自動車産業政策の今後を検討するため、参照事例としてタイの自動車政 策の展開と自動車産業の発展との関連を考察する。上記したように、南アフリカとタイは発展パタ ーンの上で近似しており、現在は「アジアのデトロイト」と称されるまでに発展しているタイの自動車産 業政策の展開を辿ることは、南アフリカの産業政策を考える上で参考になる点が多いと考えられ る。 (1)自動車産業の発展概要 ・タイの自動車産業の起源は、1950 年代の外資導入策まで遡る。1960∼70 年代には輸入代替工 業化政策を推進。国産化部品の使用の段階的強化、車種・モデル数の制限、完成乗用車の輸入 禁止などの措置がとられた。 ・同国の自動車産業の最初の転機は 1985 年である。1985 年のプラザ合意以降の円高で日系企 業のタイ進出が加速して経済を刺激し、国内需要が拡大し、それにより自動車生産が拡大すると いう好循環が生まれた。1985 年に 8.2 万台であった自動車生産台数が 1990 年には 24.3 万台と 3 倍増、8.6 万台だった国内販売台数も 30.4 万台と 3.5 倍増と急拡大した。1990 年代には 8%と 超える高い経済成長を背景に、自動車生産・販売ともにさらに拡大し、1996 年には自動車生産台 数は 1990 年比 2.3 倍増の 55.9 万台、国内販売台数は 1.9 倍増の 58.9 万台に達した。 ・また 1990 年代には、国内需要の拡大と需要増に対応するための技術水準の向上や量産体制の 整備の必要から、保護主義政策から市場開放・輸出振興政策に転換。1991 年 7 月、完成車及 び部品の輸入関税が大幅に引き下げられた(完成車:2.3L 超は 300%→100%、2.3L 以下は 180%→60%、CKD 部品は 112%→20%)。1993 年には、乗用車組立の新規参入が解禁され、 完成車輸出への税制優遇制度(CKD 部品の輸入税率 20%から 2%に大幅削減)が導入。そして、 1996 年には、タイ政府は国産化率に関する規制を緩和・撤廃する方針を採択した(1997 年にア ジア通貨危機で延期され、2000 年に実現)。このように、タイ政府は産業政策の重心を輸出の奨 励、技術の高度化、裾野産業育成のための優遇措置へと移していった。その結果、日系・欧米系 メーカーや部品サプライヤーの進出が相次ぎ、産業集積度が一層高まった。 ・次の大きな転機が、1997∼98 年のアジア通貨危機である。1998 年の国内販売台数は 1996 年 の 1/4 の 14.4 万台と急激に縮小。これにより、メーカー各社の設備稼働率は大幅に低下し、1998 年の自動車生産台数は 15.8 万台まで落ち込んだ。この危機を打開するため、各社はこれまでの 国内市場中心の戦略から輸出を視野に入れた戦略へと転換。世界規模での生産拠点の見直し を進め、タイを PUP の一大輸出基地とすべく、PUP の開発・生産機能を日本からタイに移管した。 ・この戦略転換をタイ政府も政策面で支援。1997 年 10 月、輸出促進を目的に、第 1 地域(バンコ 29 ク及び周辺 5 県)と第 2 地域(第 1 地域周辺 10 県)に立地する企業が輸出事業に追加投資する 場合は法人税の免除(3∼8 年)や機械・原材料の輸入関税の減免などの優遇措置を導入、 1998 年 6 月には輸出売上高比率 80%以上の企業や新たに 500 人以上雇用した企業に対して 法人税を免除する優遇措置も導入した。 ・こうした官民連携での危機対応により、自動車生産台数は 2002 年には 58.5 万台とピーク時を上 回り、さらに 2005 年には 100 万台を超えるまでに急拡大、2013 年には 245.7 万台に達した。こ の拡大を牽引していたのが自動車輸出であり、1996 年にわずか 1.4 万台だったのが、通貨危機 を境に、2002 年には 18.1 万台、2005 年に 43.5 万台、2008 年には 77.6 万台と急増、2012 年 には 100 万台を突破した。2014 年の輸出台数は 112.2 万台、輸出比率は 59.7%に達した。 ・国内販売も 1985 年の 9 万台から 1990 年には 30 万台、1996 年には 60 万台弱まで急拡大。し かし、アジア通貨危機で 15 万台を割り込む水準まで落ち込んだ。その後の回復も緩やかで、よう やく危機前の水準に復帰したのは 2004 年であった。その後 2000 年代後半は 60∼70 万台水準 で推移。2011 年に First Car プログラムの導入で 2012 年には 144 万台まで急拡大。しかし 2013 年はその反動で需要が減少して 133 万台、2014 年は政治的経済的不安定により 88.2 万台と大 きく低迷している。 ■図表 18 タイの自動車生産・販売・輸出台数の推移 万台 300.0 250.0 200.0 生産 150.0 販売 100.0 輸出 50.0 0.0 年 出典)OICA、JAMA「主要国自動車統計」等をもとに現代文化研究所作成 30 (2)自動車産業政策のポイント ・以上のように、タイの自動車産業は同国に進出した日系の外資系企業とタイ政府の政策支援が効 果的に連動して発展してきたといえる。同国自動車産業の発展のポイントとなったと考えられる政策 は、「特定育成車種への優遇支援」、「長期にわたる部品産業の継続育成」、「地域経済圏・地域 協定の推進」の 3 つが挙げられる。この 3 点の詳細を確認したい。 ①特定育成車種への優遇支援 ・タイは、現在でも輸入関税を乗用車 80%、商用車 40%と高めに設定し、国内市場を保護している。 特に、タイ政府は 1980 年代から、農業国の同国で地方部を中心に需要の高かった PUP を国産育 成車種として保護してきた。例えば、2002 年 3 月時点の自動車諸税をみると、シングルキャブの PUP は輸入関税 60%、物品税 3.0%、地方税 0.3%、VAT7.0%に対し、乗用車は輸入関税 80%、 物品税 33.0%、地方税 3.5∼4.8%、VAT7.0%で、乗用車の普及・流入を抑え、PUP を税制面で 手厚く優遇している(ダブルキャブの PUP でも物品税は 12.0%)。現在でもなお物品税は、シングル キャブの PUP3.0%、ダブルキャブの PUP12.0%、乗用車 30∼50%と優遇策を続けている(ただし 地方税は一律 10.0%)。この結果、2014 年時点でも PUP の国内シェアは 43.4%と極めて高い。 ・また生産面では、WTO 協定順守のため 2000 年に国産化規制を撤廃するまでは、PUP に対して高 率の国産化率規制を課し(1995 年時点で PUP 国産化率規制はタイプごとに 65∼80%、さらに 1000cc 以上の PUP は国産エンジンの使用が義務づけられた)、進出メーカーに法人税減免など の投資インセンティブとセットで国産 PUP の育成を促した。PUP 販売の拡大と生産・投資インセンテ ィブがあいまって、日系部品メーカーの進出が相次ぎ、自動車産業集積の厚みが増した。 ・そして、PUP をターゲットに育成したことで PUP の生産技術能力と品質力が高まり、アジア通貨危 機後の自動車メーカー各社が輸出戦略に転換した際に、同国がグローバルな PUP 供給拠点とな る素地をつくったといえる。 ・こうした手法は、2007 年から導入された、エコカー政策にも踏襲されている。図表 19 のように、同 政策ではエコカーを生産する要件を満たした自動車メーカーに対し、法人税免除や設備・機械の 輸入関税免除という投資インセンティブを提供。また、エコカーに対する物品税を 17%(2016 年 以降 14%)とし、通常小型乗用車の 30%に比べて優遇している。また、エコカー政策は、2000 年 代後半以降 EU をはじめグローバルに環境規制が高まる中、タイのグローバルな輸出拠点として の地位をさらに高めることを狙いとしている。 31 ■図表 19 エコカー計画の概要 第1期 申請・生産時期 許可要件 投資額 生産規模 エンジン排気量 Eco-Car 規格 排出ガス基準 CO2排出量・燃費 優遇措置 メーカーに対する 優遇措置 Eco-Car物品税 第2期 2014年3月末までに申請 2007年11月末までに申請 2019年末までに生産開始 新規参加メーカー:65億バーツ以上 50億バーツ以上 第1期参加メーカー:50億バーツ以上(土地代除く) 5年以内に年産10万台 4年目以降に年産10万台 ガソリン車:1300cc以下 ガソリン車:1300cc以下 ディーゼル車:1400cc以下 ディーゼル車:1500cc以下 欧州Euro4適合 欧州Euro5適合 120g/km以下 100g/km以下 (燃費:20km/L以上) (燃費:23.3km/L以上) 8年間の法人税免除 6年間の法人税免除 設備・機械の輸入関税免除 軽減税率17%(通常小型車30%) 2016年以降14% 出典)マークラインズ ②長期にわたる部品産業の継続育成 ・1960 年代からタイは輸入代替工業化政策を推進してきた。1983 年にはローカル・コンテントの基 準数値を具体的に定めた新自動車工業育成方針を発表。国産化率は乗用車では 65%(1979 年時点 30%)、商用車では 60%(1980 年時点 25%)と設定された。1985 年には、プラザ合意 による急激な円高に伴う日系自動車メーカーの現地生産拡大もあり、この目標はほぼ達成された。 1989 年にはタイ投資庁(BOI)によるエンジンの国産化政策が打ち出され、日本及び欧州メーカー 4 社に、1994 年までに段階的に国産化比率を 80%まで引き上げるガイドラインを提示した (1994 年 7 月に 80%→70%に見直し)。こうした国産化を奨励する保護主義的政策は、高精度 部品や高加工処理分野の設備確保のため、技術移転に不必要に高いコストを発生させたが、同 国に進出した自動車メーカーや部品メーカーが国産化規制に対応するため、熟練技術者や技能 者の育成、Tier2 以下の部品メーカーへの技術支援を促し、タイの自動車部品産業を着実に成長 させた。 ・しかし、1995 年の WTO TRIM 協定合意を受け、タイ政府は国産化規制撤廃後の準備として、 1990 年代半ばから新たな裾野産業の育成に乗り出した。エンジン・パーツ、トランスミッション、ブレ ーキ、ステアリング、サスペンション・システムを投資奨励業種に指定し、進出地域により法人税減 免、輸入機械及び輸出品製造のための原材料・資材に関わる関税を減免といった優遇措置を提 供。また、サポーティング・インダストリー19 業種(金型、治具、鍛造、鋳造、工具、工作機械、切 削工具、研磨機械、粉末冶金製品、表面処理、熱処理、マシニング・センター、電子コネクター、 Ni-Cd 電池及び充電可能な電池、プラスチック製品、工業用計測装置、ABS、電子制御燃料噴射 装置、触媒コンバーター素材)を特別重要産業とし、立地にかかわらず 8 年間法人税免除、機械 の輸入関税免除、外資規制免除といった措置を実施した。こうした取組みにより、現地調達できる 原材料や半製品が増え、低コストで様々な部品が現地調達できるようになった。 ・また、アジア通貨危機後の 1998 年には、タイ政府は工業省に裾野産業支援局(BSID)を設置し、 32 これに日本の JICA が裾野産業の発展に必要な金型の製作技術の普及などで協力。さらに、宮沢 プランの一環としてタイ国自動車産業振興機構(TAI)が設置され、JICA や JODC などの専門家が 部品メーカーの巡回指導にあたるなど、日本とタイの官民による技術支援がタイの部品産業の底 上げにつながった。 ・2000 年代に入ると、アジア通貨危機後の自動車メーカーの輸出戦略転換を受け、タイ政府はグロ ーバルな輸出競争力をつけるべく、さらなる部品産業育成強化策を展開。2002 年 1 月発表の自 動車投資政策では、自動車組立と部品生産を個別に取り扱ってきた従来のやり方をあらため、 自動車組立と部品生産への投資を一つのプロジェクトとして取り扱うこととした。具体的には、自 動車メーカーが新規自動車組立事業を申請する場合、それに伴って進出する部品メーカーも含 めた全体の投資プロジェクト計画を提出して認可されれば、その部品メーカーも恩典を受けるこ とが可能になった。申請条件は初期投資額 100 億バーツ以上、恩典内容は組立工場の場合立 地ゾーンに関わらず機械類の輸入関税を免除、プロジェクトがゾーン 1(バンコク、周辺 5 県)の工 業団地もしくは新興工業団地で行われる場合は部品メーカーに 3 年間法人税免除。これにより、こ れまでは個々の部品生産への投資は小規模でなかなか恩典を得る投資条件をクリアできなかった 部品メーカーも恩典が得られるようになり、日本から Tier2、Tier3 の部品メーカーの進出が増加し、 タイの裾野産業の厚みがより一層増した。 ③地域経済圏・地域協定の推進 ・市場規模の拡大という点では、タイなど ASEAN 諸国は各国ごとの狭小な市場を超えた地域市場の 構築にも取り組んできた。ASEAN 経済圏への志向は 1980 年代に遡る。当時、ASEAN に進出した 外資系自動車メーカーは、ASEAN 各国の高関税政策と国産化政策は効率的な分業体制構築の 障害と捉えていた。そこで、同一産業内における相互補完体制のスキームである AIC(ASEAN Industrial Complementation)や同一ブランド内自動車部品補完スキームである BBC(ASEAN Brand to Brand Complementation)が提案され、自動車メーカー(ブランドオーナー)による域内 部品相互供給を目指したが、どちらも ASEAN 各国の利害対立で目立った進展はなかった。 ・しかし、1990 年代に入ると、国際的な自由化の潮流の高まりの中、ASEAN 各国にも国際競争に耐 えうる産業体質強化の必要性が認識され、域内企業が優先して規模の経済を追求しうる地域経 済圏の早期実現に向けての動きが加速。1993 年には、ASEAN 自由貿易地域(AFTA)の形成に 向け、CEPT(AFTA Common Effective Preferential Tariff)が締結され、ほぼ全ての ASEAN 産 品(現地調達率 40%以上)の域内関税を 0∼5%に引き下げることが目標に掲げられた。そして 1996 年には、それを先取りして BBC を吸収する形で産業協力スキーム AICO(ASEAN Industrial Co-Operation)が発動。これは、全ての製造業企業を対象に、全ての製造品目を適用品目(ただ し、40%の ASEAN コンテント、ASEAN 資本 30%以上、二国間政府による合意が必要との条件付 き)として、輸入関税を 0∼5%にするというものであった。 ・その後、ASEAN 加盟国は、2003 年には域内自由化の対象をモノからサービスにも広げ、AFTA を 33 ASEAN 経済共同体(AEC)に発展させることで合意。2010 年 1 月には ASEAN6(タイ、インドネシア、 マレーシア、フィリピン、シンガポール、ブルネイ)の域内貿易関税が撤廃(品目数ベースで 98%以 上の域内関税を撤廃、自動車は 2007 年に実施)。そして、2015 年 12 月 31 日には AEC を発足 させた。ASEAN に遅れて加盟した 4 カ国(ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー)も 2018 年まで に域内関税を撤廃する予定である。こうして、タイはインド市場と同規模の ASEAN 地域市場 (2014 年 324.3 万台)を享受することが可能になった。 ・これと並行して、2000 年代に入ると、タイは FTA 締結の動きも活発化させた。中国とは 2005 年か ら通常品目の関税引き下げを実施、オーストラリアとは 2004 年に FTA 協定に調印し、2005 年か ら関税引き下げを実施。インドとも 2004 年から自動車部品、家電など 82 品目をアーリーハーベ ストとして先行撤廃した。現在、タイが FTA/EPA を締結・発効しているのは、日本(ASEAN2008 年、 二国間 2007 年)、中国(ASEAN2003 年)、韓国(ASEAN2007 年)、インド(ASEAN2010 年)、オ ーストラリア(ASEAN・ニュージーランド 2010 年、二国間 2005 年)、ニュージーランド(ASEAN・オーストラリ ア 2010 年、二国間 2005 年)、チリ(二国間 2015 年)である。 ・このように近隣との地域経済圏の形成とアジア・太平洋諸国との FTA/EPA を通じ、輸出先確保 による量的拡大が実現した。 ・以上のように、タイは、自国の市場特性に適合した車種の保護育成や地域経済圏形成を粘り強く 続けたこと、政府と自動車・同部品メーカーが緊密に協働して状況に応じた産業施策を柔軟に 展開したこと、自動車メーカーのみならず部品メーカーも巻き込んで投資を支援し裾野産業の 底上げを進めたことで、東南アジアにおいて一頭地を抜いた自動車生産・輸出拠点へと成長を 遂げた 34 Ⅳ.今後の南アフリカ自動車産業政策についての提言 ・以上の検討を踏まえ、また企業ヒアリングやタイ以外の競合国の事例も参照しつつ、今後の南アフリ カの自動車産業政策に関する提言を述べたい。 (1)提言の基本的考え方 ・南アフリカの自動車産業を今後の経済成長の柱として育成するためには、南アフリカの特長(豊富 な鉱物資源、高い若年人口構成比、サブサハラ地域との地理的・経済的関係、グローバルな自動 車産業における同国のポジション)を最大限利用した成長モデルをつくることが肝要である。 ・その意味で、1990 年代半ばから南アフリカの自動車産業を現在のポジションにまで発展させた MIDP から APDP の成果を踏まえることも重要である。上記の南アフリカを取り巻く国内外の状況を考 慮すると、ポスト 2020 年においてもこれまでの発展を牽引してきた自動車生産促進策は最低限継 続しつつ、さらなるステップアップを実現させるような政策制度設計が求められる。 ・そのためには、同国自動車産業の競争力向上に資する、全体的に整合性のとれた複合的な自動 車政策(市場、供給、商品)と中長期的な実行計画の策定が必要となる (2)具体的提言 (A)国産車の生産拡大と国内販売拡大とが連動する政策を展開する ①国産車の国内販売拡大につながる量的規模の確保 ・自動車産業では工場、建物、機械への投資だけでなく、モデルチェンジに伴う治工具、金型類の更 新など定期的な投資も必要で、莫大な投資を必要とする。こうした巨額の投資のために、自動車産 業の成立には生産過程での経済性をもたらす規模の経済の追求を必須の条件としている。した がって、一定の生産台数を達成できる量的規模を確保する必要がある。 ・量的規模の拡大には国内市場の掘り起しと輸出市場の開拓がある。後者についてはこれまで MIDP/APDP を通じた生産・輸出振興で対応してきた。しかし、前者については生産インセンティブ が輸入関税クレジットと結びついていたために、完成車の生産・輸出の拡大が輸入車の増加に つながり、国産車の販売拡大の制約要因となる構図が続いており、政策上十分な検討がなされ たとは言い難い。 ・南アフリカの国内市場は 2014 年時点で 64.5 万台、しかもその過半を輸入車が占めている状況に あっては、輸出台数を考慮に入れたとしても、到底国産メーカー7 社が規模の経済を達成しうる水 準にはない。また、生産規模の制約が、部品メーカーの進出や事業拡大の足枷にもなっている。 ・したがって、国産メーカーの規模の経済を実現するためには、従来の生産と輸入関税クレジットが 結びついた政策にかえて、国産車の国内販売の拡大につながる政策へと移行させる必要があ る。特に南アフリカで生産していない自動車メーカーに輸入関税クレジットの余剰分を売却する 35 措置は是正すべきで、余剰分は雇用/研究開発補助金や法人税の減免に活用した方が望まし いと考える。 ②時機を捉えた販売刺激策の導入 ・国産車の販売拡大の施策としては輸入関税を引き上げて国内市場を保護することが主要な 政策として考えられるが、加えて販売拡大が期待できる国産車種をターゲットに政府が税制 上の優遇措置を提供するなどの販売刺激策を導入するという施策もある。1990 年代初めの ブラジルはエントリー層をターゲットにした「リッターカー」に税制上の優遇措置を導入することで ボリュームゾーンの掘り起しに成功した。ただし、この施策はマクロ経済環境を十分に考慮する 必要がある。ブラジルの場合はハイパーインフレが収束し、消費者の購入意欲が高まったタイミング での導入であったことも成功の要因であった。一方、タイは 2011 年にエントリー層をターゲットにした First Car プログラムを導入して 2012 年には国内販売を倍増させたが、その後の政治的経済的不 安と需要の先食いにより、急速に市場が縮小した。南アフリカの場合も、経済の先行きが不透明で あることや家計の過剰債務などが消費の足枷になっている現状をふまえると、今需要喚起策を導 入しても効果の持続性は期待できない。経済が好転し、購買力が上向きになったタイミングを捉 える必要がある。 ・ただし、南アフリカでは白人と黒人の所得格差が大きく(黒人の所得は白人の 1/6 の水準)で、人口 の 8 割を占める黒人層が中間層化すれば大きな新規需要の出現が期待できる。マクロ経済での社 会的格差解消策と連動させて、販売拡大が期待できる国産車種に対して税制上の優遇措置 (VAT 減税など)をとって新車価格を引き下げて新規中間層を誘引し、市場拡大のブレークスル ーとする施策を準備・検討しておくことは必要である。 36 【他国の事例】 ○ブラジル ・1993 年政令で「大衆車(リッターカー)奨励策」を実施。大衆車の販売価格を 7000 ドル以下と定義 し、工業製品税(IPI)を大幅に引き下げ(1992 年 14%→1993 年 0.1%)、販売を支援。これにより、 市場構造が高所得者層中心の市場からエントリー層中心に転換した(1L の小型車シェア:1990 年 4%→2001 年 71%)。加えて、経済安定化策(レアル・プラン)によるインフレ収束で購買力が高まり、 ローンが普及したこともあいまって、市場規模は 1990 年 71 万台から 1995 年 163 万台と 2.3 倍に 拡大した。 ・2000 年代後半には、経済の高成長を背景に、ルーラ政権が「ボルサ・ファミリア」(貧困層世帯に直接 補助金を供与)や「ミーニャカーザ・ミーニャヴィーダ」(低所得者向け住宅政策)といった貧困対策に よる所得格差の大幅改善と中間層の台頭を実現。市場規模を 2005 年の 171 万台から、2009 年に は 300 万台市場にまで押し上げた。 ○タイ ・2011 年にエントリー層をターゲットにした First Car プログラムを導入。同プログラムは初めて 100 万 バーツ以下のマイカー(排気量 1.5L 以下の乗用車、PUP、ダブルキャブ)を購入する場合、10 万バー ツを上限として物品税を還付するというもの(2011 年 9 月∼2012 年 12 月)。2000 年代後半に 60 ∼70 万台水準で推移していた国内市場が 2012 年には 144 万台と倍増。ただし、2013 年以降は政 情不安や経済の停滞と需要の反動減により、国内市場は 2014 年には 88.2 万台のレベルに縮小し た。 (B)国産メーカー支援に向け、ターゲットを絞って国産車種の保護育成策を導入する ①国産メーカーの育成支援の方針を明示 ・南アフリカの問題の根底には、同国自動車産業政策の中に国産メーカーを育成する明確な指針 の不在がある。国内市場型(インド、ブラジル)及び両立型(タイ)の競合国では、高関税/国内税 制等により、基幹産業である自動車産業を保護育成する方針を明確に示している。例えば、乗 用車関税ではタイ 80%、インド 125%、ブラジル 30%(加えて輸入車に対しては工業製品税プラス 30%)と、南アフリカの 25%よりも相対的に高い。加えて、南アフリカの場合には、輸入関税クレジッ トにより無関税輸入が可能で、輸入車に対する障壁が極めて低い。 ・しかも、他の競合国で注目されるのは、タイでは PUP、インドネシアでは MPV、インドでは 1L 前後 の小型車、トルコでは 1.6L 以下の小型商用車を育成車種として特定し、高関税や物品税など国 内税制での優遇措置を導入するなどして特定車種の生産・販売を支援し、自動車産業発展の核 とした点である。その国の特性にあった車種で特徴的な市場を創出することは、対外的に保護し やすいというメリットがあり、かつ将来的に地域/グローバル市場で差別化された競争力ある製品 として輸出しうる可能性もある。 ②市場・育成モデルを戦略的にターゲットし、きめ細かな政策支援を提供 ・南アフリカでも、輸入クレジットと連動させて国内・輸出向け生産インセンティブを供与する APDP の プログラムにかえて、市場の特性に適合した、かつ今後の国内での販売拡大が見込まれる国産 37 車種に対して、高めの関税設定や国内税制での優遇、生産・投資インセンティブの提供(設備・ 機械の輸入関税の減免、法人税の減免など)などの支援策を展開することが鍵になる。 ・ただし、南アフリカの現状を考慮すると、ここ数年は国内市場の大きな拡大は期待できず、輸出に 依存する傾向が続くと想定される。また、これまでの同国自動車産業の発展において、南アフリカ は国産メーカーのグローバル供給拠点の一翼を担い、EU、米国、アジア・太平洋州などの輸出 市場での地歩を築いてきた。その成果を今後も生かしていくことも重要なポイントである。 ・加えて、南アフリカで生産されるモデルは、B セグメント、C セグメント、PUP、SUV、プレミアムモデルと 多様である。さらに国内向けであったり輸出向けであったりと、自動車メーカーのグローバル事業戦 略と絡んで錯綜しており、他国のように特定モデルに支援を集約させることは難しい。 ・そこで、南アフリカとしては、どの市場向けかに応じ(国内向け、先進輸出市場向け、アフリカ地域 など新興市場向け)、その市場の特性・ニーズを勘案してどの車種を戦略車種として育成するか を明確にし、各戦略車種に応じた支援内容を精査する必要がある。 ・例えば、例えば、フィリピンの CARS Program の生産インセンティブでは、対象基準として「販売実績 及び競争力のある 3 モデル」、「生産計画を 6 年以内に最低計 20 万台以上」といった設定をおこ なっている。ターゲットとする市場ごとに台数条件やインセンティブ額を変える、あるいは国内の 裾野産業育成に重点をおく国内向けモデルと先進国市場をターゲットにした技術力向上に主眼 をおく輸出向けモデルとでインセンティブの条件・内容を峻別するなどのきめ細かな制度設計を、 政府と民間企業の緊密な擦り合わせの上で進めていくことが必要と考える。 【他国の事例】 ○インド ・インドの輸入関税は乗用車 125%、商用車 20%と、乗用車に極端に高い関税を設定し、国内乗用車 産業保護を明確に打ち出している。しかも、2002 年に発表した自動車政策(Auto Policy)では、インド を小型車の供給拠点として育成する方針を掲げ、具体的には 2006 年度からは全長 4m以上の乗用 車や MUV(乗員 6 人以上 12 人以下)の物品税が 24%に据え置かれたのに対し、小型乗用車(全 長 4m未満)は 16%に引き下げられた。現在も小型車 12%に対し、中型車 24%、大型車 27%、 SUV30%と優遇が続いている。 ○フィリピン ・ASEAN 域内の自由化の進展、日本や韓国との地域経済協定などによる輸入車の急増に危機感を抱 いたフィリピン政府は 2015 年に「自動車産業再生プログラム(CARS Program)」に関する大統領令を 公布。 ・同プログラムでは生産インセンティブを提供する対象として四輪車の 3 モデルに製造を限定、選定モ デルの基準は、①販売実績及びモデル競争力があること、②車両組立及び車両の大型プラスチッ ク部品に新規投資があること、③6 年以内に計 20 万台以上の生産計画が最低あること、④モデル の投資計画による経済効果(部品生産、雇用創出等)があるもの、⑤全体的に競争環境と長期的 な産業の発展があり、燃費・排出量の基準を順守し、大気汚染防止法の下での基準より低いこと、が 挙げられる。 ・拠出金額は 2016 年開始予定で 270 億ペソを上限。財政支援を受けられる有資格モデルには 90 億 ペソを上限に、固定投資支援には 40%配分(部品の共用施設の場合は部品製造用の機械設備額 の 40%を上限)、生産台数インセンティブに 60%配分するとしている。 38 (C)中長期的視点で裾野産業の育成に取組み、育成を主導する外資の誘致を進める ①官民一体での現地調達率向上に向けた持続的取組みを実施 ・上記したように、南アフリカの自動車メーカー7 社の現地調達率は、4 割程度にとどまっている。また、 部品メーカーからは、素材・構成部品のレベルでは「80∼90%以上は輸入」との話もきかれ、同国 の自動車部品産業の裾野が未発達である実態がみてとれた。 ・こうした輸入に依存した調達構造によるコスト高、最近のランド安進行による輸入部品価格の高 騰は部品メーカーの経営に大きな負担を強いており、部品の現地調達率の向上は喫緊の課題と なっている。また、国産車の国内需要の掘り起しのためにコスト低減が求められる自動車メーカ ーにとっても重要課題である。すなわち、南アフリカが総合産業である自動車産業を基幹産業とし て発展させるためには、裾野産業の育成・強化が必須要件となる。 ・ただし、裾野産業の育成は一朝一夕でできるものではない。例えば、国内に一定の素材産業と多 数の地場の部品メーカーを備えたインドでも、2006 年時点でインドに拠点を持つ外資系自動車メ ーカーの話によると、1980 年代以降のマルチスズキやタタなど現地企業による 20 数年間にわた る部品産業育成で国内向けの車については現地調達率がほぼ 100%となったが、先進国をター ゲットにした輸出向けの車になると品質の確保からタイや日本から部品を輸入しないと難しいとの ことであった。 ・しかも、量の制約があるところでやみくもに現地調達率を向上させようとすると、逆に部品の調達 コストのアップにつながる可能性もある。上記したように、自動車産業は規模の経済と関連産業が あって初めて成り立ちうるものなので、部品のコストペナルティを精査することが肝要となる。そして、 コストペナルティを可能な限り低く抑えるためには、 (a)市場の量的拡大で規模の経済が創出され、コストペナルティを低く抑えられる状況になるまで、 拙速な現調化を志向しない (b)部品の中でもコストペナルティには差があるので、コストペナルティの低い部品から現調化する (c)競争優位にある部品に集中的に投資して輸出を拡大させ、コストペナルティを低下させる (d)アフターサービスマーケットのある部品を優先させる などの方策が考えられる。 ・こうした方策の選定にあたっては、南アフリカ政府と自動車メーカー、部品メーカーとが十分に検討 し、協議を重ねることが重要である。その前提として、輸入関税クレジットによって無関税で輸入部 品が流入する APDP の仕組みをあらため、育成すべき部品や現地調達を促す部品を特定し、部 品ごとに細かく関税を設定し、自動車メーカーのみならず部品メーカーにも等しくインセンティブ が提供されるといった、きめ細かな政策設計が求められる。 ・なお、自動車メーカーや部品メーカーからは、現地調達率向上の方策として、「ユニットローカライ ゼーションを進める」、「一定の国内付加価値額達成を条件に輸入部品関税を引き下げ/撤廃」、 39 「素形材産業の底上げ」、「まず二次加工だけ現地化して加工技術に磨きをかける」、「競争優位 にあるサブサハラへの輸出を進めて量を拡大」、「二輪産業を振興し、現調化が容易な二輪車部 品から育成する」などの意見が提示されている。 ・また、南アフリカで最もグローバルレベルで競争力のある部品としては触媒コンバーターがある。 2014 年時点、触媒コンバーターの輸出額は 194.9 億ランドで、全自動車部品輸出額の 42.7%を 占める。輸出先もドイツ 42%、米国 15%、英国 9%と先進国が上位に並ぶ。APDP のもとで触媒コ ンバーターは輸入関税クレジットに連動したインセンティブを提供されているが、触媒コンバーター を核に部品産業全体の底上げができるようなインセンティブの形に変えることが求められる。 ・いずれにせよ裾野産業の育成はステップ・バイ・ステップの長い時間を要する取組みとなる。競合 国のインドやタイも、輸入代替工業化の時期も含めて 20∼30 年にわたる外資系企業の育成支援 を受けて自動車部品産業の競争力を培ってきた。その意味で、2013 年 1 月から着手された ASCCI(Auto Supply Chain Competitive Initiative)が行っているサプライヤーの競争力強化、現地 調達率の拡大、製品付加価値額の増大を官民一体で目指すといった取組みは、実施期限の 2017 年を越えて粘り強く続けるべきである。 ②育成を主導する外資誘致のための環境整備の推進 ・ただし、国産化規制などの保護の下で時間をかけて裾野産業を育成できた時期とは異なり、2000 年以降のグローバル調達の動きが加速する状況の中では、新興国が自動車産業の競争力を強 化するには外資系自動車メーカー/同部品メーカーをいかに数多く誘引できるかが重要なポイ ントとなっている。メキシコのように、NAFTA により外資系企業が進出して地場企業が淘汰されても、 同国が進出した外資系企業が現地に定着して自動車/同部品産業を急速に底上げした。タイも 自動車産業の発展の当初はほとんど地場企業が存在せず、日系企業が進出して時間をかけて 現地で産業育成に取り組み、さらに通貨危機後の官民連携した輸出戦略のもとで日系の Tier2、 Tier3 の部品メーカーまで同国に進出した結果、「アジアのデトロイト」と呼ばれる一大自動車産業 集積地に成長した。国内市場型のインド、ブラジルでも自国の部品産業を主導する Tier1 は外資系 大手サプライヤーの存在が大きい。メキシコ、インド、ブラジルのように地方の権限が強い国では、 中央政府のみならず地方政府のレベルでも競って、外資系部品メーカーが現地に定着しうるよ うな投資インセンティブの提供(法人税の減免、設備機械・原材料・部品の輸入関税の減免な ど)、工業特区などでの事業環境の充実をアピールし、企業誘致を行っている。 ・自動車産業振興には裾野産業の育成、技能者の養成、地場企業の底上げに向けた長期的発展 戦略を着々と進めることが重要であり、外資依存でとどまる話ではない。しかし、産業振興の突破口 として外資誘致は必要要件である。南アフリカも 2014 年に SEZ 法が成立し、現在その具体的な内 容の検討を進めている段階にあるが、こうした先行する競合国の誘致内容、誘致方法を精査し、 外資系企業が進出しやすい事業環境づくりを積極的に進めることが肝要である。 40 【他国の事例】 ○インド ・マルチ・スズキが 1980 年代初頭にインドでの事業を開始した時期は、同社の機能部品の調達は日系 部品メーカーに主に依存し、その日系部品メーカーはその日本本社がインドでの生産立ち上げを支援 していた。当時、インド政府が国産化規制をとっていたため、機能部品以外は主に地場の部品メーカ ーから調達した。マルチは外注のリスクを回避するため、外注先を最初から絞り込み(取引企業数は 400 社)、専属下請け的な地場企業群の育成を図った。一定規模の生産ライン立ち上げには出資 や融資などの金融面での支援や生産技術面での支援を行い、取引開始後も部品メーカーをランク 付けして、ランクの低いメーカーほど頻繁に定期監査と指導をし、技術力の高いメーカーにはより多 くの発注を与えるなど、支援と競争を効果的に組み合わせて部品メーカーの技術力向上を図った。 ・この結果、機能部品以外のメーカーも専門部品メーカーへと急成長した。1990 年代にはマルチ・ス ズキが育てた現地部品メーカーは 1990 年代にインドに新規参入した外資系自動車メーカーに納入 するようになった。また、リバースエンジニアリングで技術を蓄積し、アフターマーケット向け輸出から OEM 向けの納入につなげた事例もある。2000 年代には新規に参入する部品メーカー数は減ってい るものの、事業所数は増えている。これは、優良部品メーカーが第 2 工場、第 3 工場を建設しているた めである。 ○メキシコ ・1990 年代半ば、NAFTA による自由化で外資系部品メーカーの進出が相次ぎ、地場の部品メーカ ーの 7 割近くが淘汰。部品産業は外資系を中心とした階層上位の Tier1 の層が厚く、頭でっかちな構 造。Tier1 の外資系部品メーカーは NAFTA や数多くの自由貿易協定を活用して構成部品や素材を 輸入し、メキシコで組み立て、メキシコと米国の完成車メーカーに納入するビジネスモデルを展開。 輸出を軸に量的拡大が図られると、次第に日本など海外から Tier2、Tier3 も進出するようになり、メ キシコは外資の集積がさらなる外資の集積を呼ぶ形で自動車/同部品産業の国際競争力を急速に 向上させ、タイと並ぶ厚みのある自動車産業集積地に成長した。 ・ただし、このモデルは、巨大な市場と産業集積地を持つ米国に隣接し、安い輸送コストでアクセスが でき、短いリードタイムでの生産が可能という立地条件の良さに起因するところが大きい。 ・一方で、同国が中央政府、州政府の各レベルで積極的な外資誘致活動を展開していることも、外資 系企業進出の主要因であることを留意する必要がある。中央政府レベルでは、(a)IMMEX(年間 50 万 ドル以上もしくは年間総売上の 10%の輸出を義務として、輸入付加価値税等を免除、事務手続きを 簡素化)、(b)PROSEC(自動車・同部品を含む 24 業種を対象に在メキシコ生産者向けの部品・原材 料、機械・設備を 0∼5%の優遇関税で輸入)、(c)レクラ・オクターバ(国内で生産されていないもしく は生産量が少ないものを輸入する場合や新製品/新プロジェクト開始に向けた立ち上げ段階で必要な 場合などで、PROSEC 対象以外の品目を経済省が認可すれば 0∼5%の優遇関税で輸入)といった 投資インセンティブがある。 ・また過去 10 年間で地方分権が進んだメキシコでは、州政府独自のインセンティブがある。州政府が 独自で投資に関する WEB サイトを設け、条件を指定して検索をかければ優遇策などが簡単に把握で きるなどきめ細かな誘致活動を展開している。そして、州間で競争原理が働き、他州の成功事例をま ねたりして、一層誘致活動の質が上がっている。メキシコ全土には 260 もの工業団地が存在している (2014 年時点)。最新の工業団地では工場エリアの他、物流エリア、税関エリアを備えたものもある。 ・インセンティブの内容は各州で様々だが、ホンダ、マツダ、トヨタが進出しているグアナファト州では州税 の一時免除・割引、不動産登録税の割引、新規雇用創出企業の給与税の一時免除・割引、上下水 道使用料金の割引、建設許可料の割引、研究開発案件のインセンティブ、都市圏外投資のインセ ンティブなどが提供される。こうした州政府が提供するインセンティブに加え、州政府と個別企業の交 渉により追加インセンティブが得られることもある。 41 (D)輸出市場の確保・開拓に向け、地域経済圏の形成や地域協定締結を戦略的に進める ①輸出市場の戦略的拡大 ・インドやブラジルのような大きな国内市場を持たない南アフリカは、タイと同じ国内/輸出両立型が 適合的なモデルである。したがって、量的拡大を図る場合、国内市場と同時に輸出市場の開拓を 進めていかなくてはならない。 ・実際、タイが ASEAN の中で一頭地抜けた自動車産業国になったきっかけは、アジア通貨危機に よる国内市場の急減に対応して、同国に進出した日系自動車メーカーが輸出を視野に入れた戦 略に転換したことにある。 ・2014 年時点、南アフリカの自動車輸出比率は 49.6%だが、輸出台数は 27.7 万台とタイの 1/4、 メキシコの 1/10 の水準。AIEC によれば、金額ベースでの小型車(乗用車+小型商用車)の輸出 先は英国、米国、オーストラリア、日本と、右ハンドル国が上位を占める。地域別では EU が 4 割弱 を占めるなど先進国が中心。タイがオーストラリア、サウジアラビア、インドネシア、フィリピン、UAE な どアジア太平洋、中東であるのとは対照的。しかも、台当たり輸出額をみると、南アフリカは 2 万 7,046 ドルで、タイ 1 万 4,841 ドルやメキシコ 1 万 9,500 ドルに比べて高い。先進国向けの高価格 車主体の輸出であることが、南アフリカの輸出規模の拡大を制約することになっている。また、先 進国向け輸出のため高品質が求められることが、部品の輸入依存度が高い要因となっている。 ・とはいえ、こうした輸出市場は南アフリカの自動車メーカーが政府の政策支援を受け、開拓して きた市場である。しかも、近年では、AEC の成立や TPP 合意など、地域経済圏の形成や各国間の FTA/EPA の締結の動きがさらに進展をみせている。南アフリカの競合国は地域経済圏への参画 や FTA/EPA の締結を梃子に輸出市場の開拓を進め、南アフリカの輸出先市場を侵食するリス クもでてきている。 ・南アフリカの FTA および経済圏作りは、これまでのところ、グローバル市場では米国と欧州のみ、ア フリカ地域市場では SACU と SADC、SACU-EAC-COMESA TFTA のみで、締結数、地域ともに限 定的であり、広がりがない。輸出市場の確保・開拓のためには積極的に、他国・地域との経済圏の 形成や FTA/EPA の締結を通じて、地理的に孤立した条件を克服することが重要になる。 ・ただし、オーストラリアが ASEAN、韓国との間で FTA を締結した結果、こうした諸国からの輸入車の 急増が同国の自動車産業に壊滅的打撃を与えたように、自由化は諸刃の剣でもある。タイは FTA 締結国との競争優位を考慮しながら、関税の引き下げをおこなっている(例えば、日本に対しては 3000cc 以上の車は 80%→60%、オーストラリアはゼロ)。その意味で、自由化を進める場合は、 他国との競争力比較をふまえた、戦略的な税率設定を慎重に検討する必要がある。 ②先進国向けモデルの高度化 ・輸出先の確保・拡大には輸出モデルの高度化も不可欠である。現在、EU は 2021 年に CO2 排出 量 95g/km(24.4km/L、57.4mpg)という世界で最も厳しい燃費規制を導入しているのをはじめ、こ こ数年間でインド、メキシコ、ブラジルといった新興国でも燃費規制が導入されるなど、世界的に環 42 境規制の強化が広がりをみせている。こうした潮流に対応して、タイなどはエコカー政策で低燃費低 価格車の生産に乗り出した。先進国のみならずグローバル市場での競争力確保のためにも、南 アフリカ政府はエコカーなど先進的な製品生産へのインセンティブの提供(同国では調達できな い先進的部品や素材の輸入関税の免除・軽減など)が求められる。例えば、タイではエコカー生 産のための設備・機械輸入関税の免除や、エコカーによる収益に対する法人税を一定期間免 除している。 ③サブサハラ経済圏の形成と地域モデルの開発 ・中長期的な射程の話になるが、新たな輸出先として、サブサハラ地域経済圏の形成も念頭におく 必要がある。タイ、ブラジル、メキシコの自動車産業の発展には AFTA(AEC)、メルコスル、NAFTA という国の枠を超えた隣接した地域市場の形成が大きく寄与してきた。南アフリカはサブサハラ地 域において突出した経済力を持っている。ブラジル主導でメルコスルが形成されたように、南アフ リカ主導でサブサハラ経済圏を形成することが可能と考える。AFTA やメルコスルのように、域内 関税を撤廃し、域外共通関税を高めに設定すれば、一定の市場規模も確保できる。 ・2014 年時点、南アフリカを除くサブサハラ地域の販売台数は 24.2 万台、保有台数は 1445 万台と 依然小規模で、中古車優位の市場である。しかし、2000 年代後半には年平均 5%の経済成長を 遂げ、中間層も現れ、市場の拡大も緩やかではあるが見込まれる(当社の自動車市場予測では、 同地域の販売台数は 2020 年 29.5 万台、2025 年 36.6 万台、2030 年 45.5 万台)。事実、2014 年の南アフリカの金額ベースでの「シリンダー容量 1L 超 1.5L 以下(GE)」の輸出先でナミビアが 4 位、ボツワナが 5 位、「車両総重量 5t 以下(DE)」でナミビアが 4 位に入っている。また、 AIEC/SARS によると、同国の大中型商用車/バスの輸出先はアフリカ地域が 99.4%を占める。 ・南アフリカはこうしたサブサハラ地域の中長期的発展を射程に入れ、国内モデルの育成に関連づけ て、同地域の需要に適合したアフリカ専用車の開発・投入を準備しておくことが重要と考える。タ イが PUP のグローバルな供給拠点として発展したように、南アフリカをサブサハラ地域のアフリカ専 用車供給拠点に成長させることも念頭に入れ、国産モデルの開発・生産を促すインセンティブの 提供が必要である。 ・ただし現在、サブサハラ地域の新車需要は地域外からの中古車輸入によって抑制されている。 サブサハラ各国政府が中古車流入規制についての協議を進め、中古車から新車への購入移行 を促す環境整備が重要である。サブサハラ地域に適合した低価格車が投入され、中古車の流入 が規制された場合、同地域の市場は上記の当社予測を上回る可能性が大きい。 ・供給サイドでも、サブサハラ地域で自動車産業の胎動が始まっている。ナイジェリアが 2014 年 1 月に自動車産業開発計画 NAIDAP を策定し、現代、日産、ホンダ、フォード、VW、PSA が組立生 産を開始。ケニアでもトヨタ、日野、三菱ふそう、タタ、スカニアが委託組立をおこなっている。また、 南アフリカからの自動車部品輸出先をみても、SADC 諸国がトップ 10 に入っており、自動車部品 の輸出市場としてもサブサハラ地域は大きな可能性を秘めている。 43 ・ASEAN で CEPT や AICO スキームを関係各国政府と企業が連携してつくっていったように、中長期 的取組みとして、地域経済の発展を南アフリカが取り込むようなサブサハラ地域圏レベルでの自 動車産業補完体制の構築を官民連携で目指すことが求められる。 【他国の事例】 ○オーストラリア ・対照的だったのが、オーストラリア。同国は 1984 年代、自動車産業の国際競争力を向上させるため、 従来の輸入代替政策にかえて自由主義政策への転換を掲げるバトン・プランを発表。同プランの 下、輸入数量割当制は廃止され、乗用車輸入関税は 1984 年の 57.5%から 1992 年には 35%に引 き下げられた。1991 年発表のポスト・バトン・プランでも関税の引き下げは継続して進められて 2000 年には 15%に引き下げ、さらに 1997 年の自動車政策では 2005 年に 10%まで引き下げられること になった。 ・これと並行して、オーストラリアは 1993 年に国産化率達成のオーストラリア製車の輸出付加価値分 は 完 成 車 ・ 部 品 の 無 税 輸 入 の 恩 典 を 付 与 す る 輸 出 促 進 ス キ ー ム ( EFS : Export Facilitation Scheme)を導入して輸出の拡大も図ったが、同スキームは WTO 協定に抵触するとして 2000 年に終 了した。 ・2000 年代半ば以降は、自由化の流れが加速。オーストラリアは 2004 年には米国、タイとの FTA に 調印、2009 年にはチリとの FTA が発効、2010 年には ASEAN、ニュージーランドとの自由貿易協定 AANZFTA が発効、2014 年には韓国との FTA を、2015 年には日本との EPA を発効した。 ・こうした自由化の流れの中で、自動車生産は 2000 年代前半の 40 万台規模から 2010 年代には 20 万台に半減。2013 年には国内販売に占める国産車の割合は 1/4 にまで縮小した。しかも同国市場 で最も人気の高い 3 車種はいずれも輸入車。加えて、同国市場は最量販車種でも 4 万台と市場が 細分化し、規模の経済が創出できず、豪ドル高と労働コストの上昇による国際競争力の低下、政府 の支援がなくなったこともあいまって、全ての国産メーカーが相次ぎ撤退した。 (E)自動車産業の発展を支える人材の育成に政労使が協調して取り組む環境をつくる ①労使協調路線の構築 ・南アフリカに進出した自動車メーカー、部品メーカーが最も懸念していたのは、生産性向上を上 回る労働賃金の上昇、労働争議の頻発といった労働問題である。こうした状況が続けば、南アフリ カの自動車産業に対する信用が低下し、競合国とのコスト格差がさらに拡大してグローバルな競争 力を喪失する。政官財の高次レベルで労使関係の枠組みを改善することが、同国自動車産業 の今後の発展の鍵となる。 ・戦後日本の自動車産業がテイクオフしたのも、労使関係の改善(意識の転換)が大きな転機であ った。日本の自動車メーカーは 1950 年の大規模な労働争議によって倒産の危機に陥ったが、そ の危機の教訓をふまえ、1950∼1960 年代に労使双方が「生産性の向上を通じ、企業の繁栄と 労働条件の維持・改善を図る」という労使協調路線を定着化。「品質の向上」、「原価の低減」、 「量産体制の確立」に労使が協力して取り組む日本的経営システムを追求し、急速に自動車先 進国へと成長した。現在、自動車産業が急成長しているメキシコも、日系企業が同国を選択した主 44 要な理由として、「良好な労使関係」が挙げられている。 ②人材育成の仕組みづくり ・また、自動車メーカー、部品メーカーは労働力の質の低さも問題視していた。上記したように BEE 政策は黒人の雇用創出・所得の向上にとって重要な施策であるが、BEE スコアの引き上げを目的 にするだけでは意味はない。労働者の質の向上、すなわち人材育成をセットにして初めて南アフ リカの産業競争力強化に資する実効的なものになる。 ・日本の自動車産業の競争力の源泉も、QC サークルなどの小集団活動による現場での改善活動、 機動的で柔軟な労働配置を可能にする多能工化、部品メーカーとの協働による設計開発・品質 向上・コスト低減の追求など、緊密なコミュニケーションを通じた人的資源の質の向上にあった。 ・競合国でも、例えばメキシコでは、各州政府が自動車製造の実践的な知識・技術を備えた人材 を育成するトレーニングプログラムの充実に注力し、外資を誘致しようとしている。 ・南アフリカの自動車産業を総合的に強化するためには、人材育成の仕組みづくりが前提条件であ る。人材育成を投資インセンティブに組み込み、自動車先進国からの技術移転を加速させる制 度づくりが重要である。 【他国の事例】 ○メキシコ ・近年、日本企業の進出が加速したグアナファト州やアグエスカリエンテス州などメキシコ中部は米国 国境沿いの諸州に比べて労働力の質が低いことから、人材育成に力を入れている。グアナファト州政 府はカストロ・デル・リオ工業団地に国立技術専門学校のキャンパスを設置し、人材の OJT を実施。 州政府は企業が学生に支払う給与に補助金を出すなど、企業内での技能習熟と就職を意図したイン センティブを提供。 ・アグエスカリエンテス州政府は、(a)人材トレーニングプログラム(新規進出企業へ人材を紹介し、最 初の 2 カ月分の給与は州政府が負担。ただし、紹介された人材の 8 割は企業側に雇用する義務が生 じる)、(b)日産スクール(技術専門学校の卒業 6 カ月前に日産、ジャトコ、ボッシュなどでインターンが できる制度。インターン中の給与の 30%は州政府が負担)など、自動車製造の実践的な知識・技術 を備えた人材の育成を積極的に進めている。 45 おわりに ・本提言は、より広範な裾野産業の育成強化をふまえた南アフリカ自動車産業の競争力強化を念 頭において作成した。中長期的に継続して現地部品サプライヤーの品質・技術の向上に取り組 み、現地のサプライチェーンを構築・深化させ、総合産業としての自動車産業を今後の南アフリ カの経済成長の柱に育成することを提言の基本方針としている。 ・ただし、こうした目標を実現する施策展開にあたっては、南アフリカを取り巻くマクロ経済・通商環境 の変化、南アグローバルな自動車産業における南アフリカの競争ポジションの変化、南アフリカに拠 点を持つ自動車/同部品メーカーの事業戦略の動向を考慮する必要がある。 ・具体的には、タイ、インドなど競合国は国産化規制に保護されて時間をかけて裾野産業の底上げを 図ることができた。しかし、現在は国産化規制を強いて時間をかけて裾野産業の育成に取り組む ことはできない。また、通商環境の自由化の進展によって、欧米日の自動車/同部品メーカーの みならず、韓国・中国・インドの自動車/同部品メーカーまでがグローバルな事業展開を推進し、 グローバル調達のネットワークを拡大させている。その結果、タイ、インド、メキシコといった自動車 新興国間のグローバル市場をめぐる競争が激化しており、南アフリカもその競争に晒され、早急 に競争力を身につけなければ市場を失うリスクが大きくなっている。 ・ただしその一方で、タイ、インド、メキシコなどの競合国に比べ、南アフリカの裾野産業は未成熟 で、同国に進出した自動車/同部品メーカーは部品・素材の多くを輸入に依存し、同国は自動車メ ーカーのグローバル事業戦略の一環に位置付けられることでグローバル競争を生き残ってきた。 ・こうした厳しい国際競争のもとにおかれている南アフリカにとって、提言の内容の(A)∼(E)を段階 的に取り組んでいくというよりは、今後 10∼15 年を年限に短期で方向性を確定する施策と中長 期的に継続して取り組む施策を効率的に組み合わせて進めることが重要といえる。 ・手順としてまず着手すべきは、(B)のターゲット市場の明確化と戦略車種の育成策の展開である。 理由は、国内市場をターゲットとするモデルの場合、適正な輸入関税(完成車/CKD 部品)水準 の設定や税制上の優遇措置などの生産インセンティブの内容を政府と民間企業の間で詰めな ければ、(C)の裾野産業の育成や(E)の人材育成が本格的に始動しないからである。(C)や(E) は中長期的に粘り強く取り組む課題であるとはいえ、国産モデルの仕様や現地調達する部品の決 定を早急に行わないとスタートが遅れる。以上の取組みの前提として、(C)の外資誘致に向けた 環境整備を迅速に進める必要がある。 ・(D)の輸出向けモデルの場合も、南アフリカの経済の現状からみると、2020 年代半ばまで国内市 場の大きな伸びが期待できず、輸出依存度が高まることが想定される中、輸出モデルの競争力 強化のためのインセンティブの提供などの政策支援が早急に必要とされると考えられる。 ・あわせて、南アフリカ政府には輸出市場の確保に向けたグローバルに地域協定に取り組むことが 46 求 めら れ る 。南 ア フ リ カ が現 在 享受 し てい る 、 SACU 、 SADC 、 EU 特 恵 、 AGOA 特 恵の 他 、 SACU-EAC-COMESA TFTA の関税メリットを最大限に活かせる戦略的な仕組み(調達の税率、 内国税、誘致インセンティブ、投入/生産モデル)の構築を目指し、同時にこれと並行して、積極的 な FTA 締結政策を展開する他競合国との輸出先市場の獲得競争を視野に入れた FTA 政策を進 めることが必要である。これら2点を踏まえて、攻略すべき国・地域の優先度と時間軸を設定する ことが望ましい。 ・需要面では、南アフリカでは現在、南アフリカ統計局の「2011 年センサス」や「2010/2011 年の家 計の所得・支出」といったデータから推定すると、世帯年収 5 万∼12.5 万ランドの潜在的な自動車 保有可能な世帯数は 318 万世帯存在する。こうした世帯では中古車を含めて安価な自動車が投 入されると自動車保有世帯になる可能性がある。また、サブサハラ地域の市場については、当社 予測では 2020 年 29.5 万台、2025 年 36.6 万台、45.4 万台とみている。こうした市場でも、インド などから廉価車が投入された場合、新車市場が拡大する可能性もある。現状でも南アフリカを含 めたサブサハラ地域はインドの低価格車輸出先としてターゲティングされている。 ・したがって、こうした潜在的需要層を南アフリカが確保する意味でも、南アフリカ国内市場の拡大に 加え、隣接するサブサハラ地域との経済圏の構築(域内自由化、域内共通関税設定、域内現地 調達率の設定など)を進める必要がある。また、今後 10∼15 年を目途に南アフリカの裾野産業 の底上げを実現し、インドなど競合国に伍していけるコスト競争力を有する国内/アフリカなど新 興地域向けモデルを開発・投入できるようにしておく必要がある。 ・そして、こうした南アフリカの国内モデルの価格競争力の向上状況やマクロ経済環境の好転の機 会をとらえ、(A)の市場刺激策を投入して上記の潜在需要の掘り起しを図ることが重要と考える。 ■ロードマップ 2016∼20年 2021∼25年 2026∼2030年 (A)国内生産拡大と国内販売の連動 ①国内市場の量的規模の確保 (輸入クレジット/関税検討) (政策展開) (政策確定) ②販売刺激策の導入 (時機を捉え導入) (B)国産車種の保護育成 ①育成方針の明示 (時機を見つつ検討) (方針確定) ②ターゲット車種の選定と インセンティブ内容策定 (車種/内容検討) (政策確定) (政策展開) (C)裾野産業育成 ①現地調達率向上 (現調化支援内容検討) (政策展開) (政策確定) (継続的な取組み) (サプライヤー育成支援プログラムの推進) ②外資誘致の環境整備 (SEZ等内容検討) (誘致策確定) (誘致活動展開) (継続的な取組み) (D)輸出市場の確保・拡大 ①輸出市場の戦略的拡大 (継続的な取組み) (地域協定交渉の検討/締結) ②輸出モデルの高度化 (支援内容検討) (政策展開) (政策確定) ③サブサハラ経済圏の形成 (E)人材育成 ①労使協調路線の構築 (経済圏形成) (中古車規制・域内外関税協議) (SEZ等内容検討) (誘致策確定) (誘致活動展開) (政労使での協調枠組みの策定) (継続的な取組み) (継続的な取組み) (継続的な取組み) ②人材育成の仕組みづくり (人材育成プログラムの策定・推進) (継続的な取組み) 47