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ストレスと腸内環境

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ストレスと腸内環境
No.208 2013年3月31日発行(季刊)
2013
春
ストレスと腸内環境 ・・
・・・・・・・・・ 辨野義己 1
特集 ス
「トレスと腸内環境 」
巻頭文
ストレスは腸にくる・・・・・・・・・・・・・ 石藏文信 3
ストレスと腸内細菌・・・・・・・・・・・・・ 指原紀宏 6
【連載】
ストレスに極度に耐性を持つ哺乳類・・・・・・ 香川靖雄 8
ヘルスケアカウンセリングケース研究・・・・・ 尾形明子 巻頭文
ストレスと腸内環境
特別招聘研究員
独立行政法人理化学研究所イノベーション推進センター
辨野特別研究室
辨野義己
の臓器の中で最も種類の多い疾
患が発症する場です。すなわち、
腸内細菌が産生した腐敗産物、
細菌毒素、発がん物質、二次胆
汁酸などの有害物質は腸管自体
に 直 接 障 害 を 与 え、 発 ガ ン や
様々な大腸疾患を発症するとと
もに、一部は吸収され長い間に
は宿主の各種内臓に障害を与え、
発がん、肥満、糖尿病、自己免
疫病、免疫能の低下などの原因
になることが明らかにされてき
ました(図1)。
腸内細菌多様性解析の進展は、
宿主の有する腸内細菌の役割、
腸内細菌による生体防御
ローズアップされています。そ
特に生体防御機能解明に大きな
して 世紀に入り、腸内細菌の
形成しています。ヒトが毎日排
ヒトの大腸内には多様な細菌
が常在し、複雑な腸内細菌叢を
困難な腸内細菌を含む多様性解
分子生物学的手法を用いた培養
解析から培養・単離を介さない
れまでの培養可能な腸内細菌の
研究も新しい段階をむかえ、こ
との関連性について述べます。
あるストレス、加齢および肥満
いるかについて、現代的課題で
ロールし、疾病予防に関与して
がいかに生体防御機能をコント
貢献をしてきました。腸内細菌
腸内細菌の全容解明が進んだ
泄する大便の約 %は生きた細
析が行われ、ようやくその全容
現代医療解明のトップランナー
(1)(2)
菌で占められ、その大部分が嫌
が見えてきました。
〇〇〇種類以上、その数たるや
としての腸内細菌
い細菌が棲みついています。現
生体は各種刺激に反応して脳
下垂体─副腎系の防衛反応が起
こり、生体の抵抗性が得られま
ヒトの腸内細菌の構成が極め
て個人差が大きいために、腸内
ひずみが起こってきます。生体
と生体は十分に対応できないで
すが、この刺激が過剰に加わる
の関与なしには語れないほど、
細菌が棲む場である大腸はヒト
在、起きている多くの病気がそ
ストレス
気性細菌なのです。詳細な研究
21
糞便1グラムあたり約1兆個近
によりヒトの大腸内には実に一
10
腸内細菌は重要な存在としてク
1
c o n t e n t s
ガン,動脈硬化,免疫能低下
自己免疫疾患,肥満,糖尿病
属性
生理機能
に緊張、不安、怒りや過密、騒
薬物などの化学的なもの、さら
スが相当生じる狭い船内に長期
行訓練において、精神的ストレ
宇宙飛行計画の進行時、宇宙飛
SA(米国航空宇宙局)が有人
の減少、大腸菌群およびウエル
ラクトバチルスやビフィズス菌
腸内細菌が検索され、飛行中、
ロシアにおいても宇宙飛行士の
イア プロダクツスが減少する
(3)
ことが知られています。一方、
暑さ、打撃などの物理的なもの、 てくるのです。たとえば、NA
音などの精神的・社会的なもの
間閉じ込めた場合、飛行士の腸
などの生物的なものから、寒さ、 運動や消化液の分泌低下を招い
内細菌を検索したところ、バク
免疫機能の調整
にまで多岐にわたっています
宿主の生体防御
取というような腸内代謝を通じ
の生成、あるいは栄養成分の奪
する腸内細菌は腸内で有害物質
総脂肪量が増加することが明ら
に摂取させると、そのマウスの
マウスの腸内細菌を無菌マウス
存在することや、遺伝的な肥満
2
加齢
(5)
加齢は「加齢に付随する生理
学的機能の後戻り」と規定され
ています。いわば生体防御機能
の低下と理解されてもいいでし
ょう。加齢による腸管運動の低
下は排便・便秘にも影響を与え、
(6)
食事成分の腸内滞留時間の長期
化に繋がっています。健康成人、
歳老人および百寿者の腸内細
菌の多様性解析について、培養
歳老人の
を介さない手法で解析したとこ
ろ、健康成人および
的なヒトの腸内細菌バランスが
「 肥 満 型 」 と「 や せ 型 」 に 特 徴
てストレスの生体における影響
かにされました。彼らは、腸内
(バクテロイデーテスとファー
細菌を大きく2つのグループ
(9)
を与え続けているのです。
(4)
シュ菌の増加が認められていま
図2. ストレスを含む生体防御に関与する腸内細菌に影響を与える諸因子
す。ストレス条件下で異常増殖
の生体防御と言えます。最近、
(8)
生体の肥満という変化は腸内
細菌の構成に影響を与える一つ
肥満
ています。
特徴を有していることが知られ
ーミキュウテスが再構築される
なり、とくに百寿者の腸内ファ
(7)
性は百寿者のそれとは有意に異
腸内細菌の構成およびその多様
70
感染・絶食・疲労
自律神経系および内分泌
より、その支配を受けている消
食餌・薬物・毒物
化管の機能は影響を受け、腸管
図1.腸内細菌と疾患の関係
(図2)
。副交感神経系の抑制に
70
便秘
アレルギー
腸疾患
糖尿病
高血圧
動脈硬化
居住地域
食生活
生活習慣
運動習慣
緊張・不安・怒りなどのストレス
中枢神経系
肥満
腸内細菌
の構成と機能
環境
血中に移行
に加わる刺激はストレッサーと
直接腸管を障害
健康状態
年齢(加齢)
性別
内臓に障害
免
疫
力
の
低
下
粘
膜
バ
リ
ア
の
機
能
低
下
有害物質の産生
発ガン物質
発ガン促進物質
細菌毒素など
よばれ、疲労、飢餓、細菌感染
有害菌優勢
の腸内環境
テロイデス ユニフォルミスが
増加することや、逆にブラウテ
大腸
ミキュウテス)に分類し、遺伝
Appl Environ Microbiol 31:
)
2009
One, 5: 1-14.
(
Ley R.E. et al.
Proc.
Plos
Gastro-
)
2005
enterology 136: 65-80.
( 2010
)
Biagi E. et al.
50: 351-352.
(
Neish A.S.
Nahrung 28: 599-605.
) Nutr Rev
Imahori (
K. 1992
) Die
1984
的な肥満症マウスにはファーミ
⑷
⑺
⑹
⑸
359-375.
(
Lizko N.N. et al.
キュウテスが多く、バクテオイ
デーテスが少ないという傾向が
あり、ヒトでも、肥満型ほどバ
クテロイデーテスが少ないこと
を認めています。
以上成績から、肥満原因は過
食と運動不足といわれてきまし
⑻
れ出す要因が腸内細菌の変動と
Natl. Acad. Sci. USA, 102:
たが、本来あるべき恒常性が崩
連結されていると言えます。こ
特集
ス
「トレスと腸内環境
ストレスは腸にくる
」
大阪大学大学院 医学系研究科 保健学専攻 医療技術科学分野 機能診断科学講座
んも少なくなかった。私は内科
医であるので、ホルモン補充を
しないで一人一人丁寧に診察し
ながら、SSRIなどの抗うつ
薬を精神科の先生のご指導を受
けながら処方していた。そのう
ち、多くの男性がイライラして
いて、発汗や動悸などの症状が
強いことに気がつき、この症状
を改善するためにα・β遮断剤
(アロチノロールやカルベジロ
らさんがご自身の体調のすぐれ
の症状がかなり改善したのであ
これらの治療で多くの患者さん
石藏文信
なぜ循環器専門医が腸の話をす
ないのを“男性更年期”として
る。さらに驚くべきことに約
ール)を処方するようになった。
るのか?
出版されたのをヒントに“男性
ている患者さんも居心地が悪か
起外来にすれば、お待ちになっ
に外来の名称をED外来とか勃
しいとの依頼を受けた。その時
を処方する専門外来をやってほ
バイアグラが発売されて間も
なく、市内の病院でバイアグラ
者でもあり、専門家でもある。
がある。私はバイアグラの研究
外漢の私が腸の話をするのは訳
の治療にあたってきた。その門
を用いて弁膜症の患者さんなど
いううつ病や不安障害の患者さ
診したがうまくいかなかったと
が受診した。すでに精神科を受
来にも多くの悩める中高年男性
を浴びることになった。私の外
ら男性更年期外来が一気に脚光
必要だとマスコミに登場してか
足によるものでホルモン補充が
た体調不良は男性ホルモンの不
が中高年男性の勃起不全を含め
った。ある時、泌尿器科の先生
性がちらほら受診するだけであ
方してほしいという中高年の男
更年期外来”と命名したのであ
私は内科医(専門医)であり、
る。しばらくはバイアグラを処
特に循環器病が専門で、超音波
れる。約3割の患者さんは初め
いことが大問題で私の外来を訪
力の低下・不眠で仕事ができな
さんは下痢よりも疲労感や集中
もなかった。また、多くの患者
設当初にはそのような便利な薬
方しているが、二〇〇一年の開
あるイリボーという薬もよく処
ていた。現在はIBSに効果の
腸症候群(IBS)と診断され
を受けても異常はなく、過敏性
である。しかも消化器科で検査
で悩んでいることに気付いたの
んでいて、その大半が主に下痢
%の患者さんは下痢か便秘に悩
ろうと、当時漫画家のはらたい
70
11070-11075.
)
Turnbaugh P.J. et (
al. 2006
⑼
(独)理化学研究所 イノベーション推
進センター 辨野特別研究室(特別招聘
研究員)
,農学博士。
専門領域は,腸内環境学、微生物分類学。
主な著書は『ビフィズス菌パワーで改
善する花粉症』
(講談社)『腸内環境学
のすすめ』
(岩波書店)『健腸生活のス
スメ』
(日本経済新聞社)『大便通』(幻
冬舎)など。
のことは腸内細菌のコントロー
Nature, 444:1027-1031.
プロフィール
辨野義己(べんの よしみ)
ルで肥満を防止する可能性があ
ることが示唆されています。
最後に
世紀に入り、暗黒の世界で
あった大腸内に分子生物学の光
が射し込み、腸内細菌の全容解
明が進んできました。その結果、
ストレスや肥満にも重要な役割
Appl
を担っていることがにわかに注
)
1999
目されているのです。
(
Suau A et al.
2 0 0)
2
Microbiol Immunol 46: 535-548.
( 1976
)
Holdeman L.V. et al.
4807.
H a y a s h i H e t a(
l.
Environ Microbiol 65: 4799-
文献
⑴
⑵
⑶
3
21
は3─4mもあり、中にはひだ
の専門家でもない私が知らない
いました”と言うのである。腸
から下痢もすっかり治ってしま
です。でも先生の治療を受けて
不明で、薬も効果がなかったの
病院で検査してもらっても原因
痢だったんですよ。いろいろな
と聞くと“実は以前は大変な下
てきた。“どういうことですか?”
た”と言う患者さんも多くなっ
近お腹の調子も良くなりまし
するようになる。そのうち、
“最
も症状が改善すると仕事に復帰
の胃液を出し、十二指腸では胆
は唾液を出し、胃は主に強酸性
化管の中は水分だらけだ。口で
化液で食物を分解するので、消
大概の食物は水分を含んでい
るし、我々も水分たっぷりの消
はないだろう。
のようであってもあまり問題で
きれば、大便が硬かろうが、水
自分の都合のよいときに排便で
トロールできないことである。
でも回数でもなく、排便をコン
で一番つらいことは、便の性状
と分けて言うことが多い。下痢
S状結腸に貯められて、排泄を
理された食物のかすは直腸から
分の吸収が主な仕事である。処
がある。大腸は約1・5mで水
分を含んでドロドロである必要
るためにも食物はできるだけ水
能がある。スムーズに撹拌され
動・分節運動と呼ばれる撹拌機
出すような蠕動運動や振子運
必要があるので大腸方向に押し
になった食物を効率よく混ぜる
だからだ。さらに小腸では液状
収するために十分な時間が必要
で、感染を起こしている細菌を
いろいろな細菌に効果があるの
くなる。特に最近の抗生物質は
化して下痢や便秘を起こしやす
ランスが崩れると腸内環境が変
良く暮らしている腸内細菌のバ
る。このような微妙な環境で仲
さらに感染防御にも役立ってい
役に立つものを作ることである。
にするだけでなく宿主(人)に
残りカスを分解し、自分の栄養
役割は小腸で分解できなかった
腸内細菌叢と呼ばれ、その主な
取っている。これらの生態系は
小腸が腸の中できわめて長く、 拠していて、それぞれ縄張り争
いをしながら微妙なバランスを
ひだや絨毛があるのは栄養を吸
る、③便形状(外観)の変化で
する、②排便頻度の変化で始ま
不快感が、①排便によって軽快
は生じ、その腹痛あるいは腹部
か月につき少なくとも3日以上
IBSは「腹痛あるいは腹部
不快感が、最近3か月の中の1
るので、検査は必要である。
病気、腫瘍などを疑う必要があ
便の通過を障害するような腸の
味になる。中高年以降の便秘は、
で、腸の動きが遅くなり便秘気
はすべての機能が緩慢になるの
が低下すると我慢できにくくな
がよい。
易な抗生物質の服用は避けた方
重要視されている。そして大事
義がされていて、特に便の形が
なことは内視鏡などの様々な検
るので外出が億劫になる。
4
ての診察で、
「会社を辞めたい」
便秘の原因
ストレス・精神的な緊張感で
腸の動きが遅く、弱くなること
腸内細菌の役割
食物と接触して栄養分を吸収す
大腸には一〇〇種類以上、一
〇〇兆個以上の腸内細菌が生息
が便秘の主な原因である。極力
と絨毛が多数あり、できるだけ
さらに大量の消化酵素が分泌さ
していて、大便の約半分が腸内
トイレに行かないように我慢す
腸の仕事
れながら、主に栄養分が吸収さ
細菌であると言われている。腸
る習慣がつけば、腸の運動は低
と言うくらい深刻である。もっ
たい」と暗に自殺をほのめかす。 下痢の原因はさまざまである
が、一番多いのが原因不明の機
と深刻な人は「この世から消え
能性と呼ばれるIBSである。
れる。小腸で分泌する腸液も一
内にはいろいろな細菌が群雄割
間にIBSの患者さんを治療し
汁や膵液が出て食物の消化を助
待つ。肛門には強力な肛門括約
やっつけるだけでなく、機嫌良
始まる、の3つの便通異常の2
病患者さんがなんと7割近く来
下痢といってもその形状から医
日で2400 程度ある。
る構造になっている。小腸では
院する大変な外来だったのだ。
学的には軟便、泥状便、水様便
ていたのである。その経験をま
けている。この時点で食物はか
筋があり、通常なら出口をふさ
く暮らしている腸内細菌まで殺
つ以上の症状を伴うもの」と定
つまり、男性更年期外来はうつ
しかし、そんな深刻な患者さん
とめて『下痢、ストレスは腸に
なりの消化液と混ざってドロド
いでくれるのでお漏らしするこ
してしまう恐れがあるので、安
下し、便秘になる。老人の場合
くる』
(大阪大学出版会)を二
ロ状態になる。一日で胃液15
とはないが、この括約筋の機能
が分泌される。ド
小腸で吸収されるが、その小腸
脳で受けたストレスは腸にくる
〇一一年に出版した。まさにス
、膵液800
―1000
00―2500
ml
トレスが腸の環境に大きく影響
していたのである。
ml
ロドロになった食物はいよいよ
ml
る。脳と腸の間には密接な神経
目したい理論に腸・脳相関があ
ている。原因不明なのだが、注
のために機能性の病気と呼ばれ
の原因がないことが前提で、そ
い、つまり癌や炎症や細菌など
査を受けても器質的な異常がな
ロールできない。不便だなあと
律神経は自分の意思ではコント
抱するしかないというように自
られない。動悸がひどくても辛
めたいと思ってもなかなか止め
なかがゴロゴロしてきたので止
すぐに出せる人はいないし、お
とが必要である。視床下部はス
いる視床下部が機嫌よく働くこ
はその活動をコントロールして
神経をうまく使いこなすために
緊張と弛緩、交感神経と副交感
いて消化・吸収が促進される。
泌も盛んになり、腸も活発に動
場合はメンツやプライドが邪魔
取り込んでもらえるが、男性の
ので、比較的早くこの考え方を
る。女性の場合は柔軟性がある
ターンを覚えることが大切であ
性格が災いしないような行動パ
は断ろうとかいうように自分の
問題ではないだろう。
れで気が落ち着くのなら大きな
の延長かもしれない。本人がそ
らどうしようかという予期不安
あり、万が一症状が悪くなった
人は多い。これは長年の習慣で
化酵素を分泌しようかとか考え
ストレスは目に見えないし、
測定することもできない厄介な
ると大変である。それらの細か
ないかと思われる。
トレスの影響を受けやすいので、 をして、失敗を繰り返して2~
し、さらに腸の調子が悪いこと
い指令は自律神経が自動的に管
も良い
思うだろうが、運動する時にど
により脳がさらにストレスにさ
理し、その最高司令機関が脳の
腸の調子は自律神経がつかさ
どっているのでストレスにうま
網があり、脳で受けたストレス
らされるという悪循環に陥ると
奥の視床下部である。過度のス
く対応するためにはカウンセリ
潰瘍性大腸炎やクローン病の
ような腸の病気も免疫異常が関
ものであるが、薬やカウンセリ
いう理論だ。そのため、腸の治
トレスが長く続いて視床下部が
ングや自律訓練法が有効なこと
係していると言われている。原
腸の働きを順調にするためには、 3年かかる場合が多い。自律訓
療も大切であるが、ストレスに
機能不全になると体のあちこち
がある。抗うつ薬や抗不安薬を
因のある病気でも、ストレスを
れだけ血圧と脈を調整しようと
さらされる脳・いわゆるメンタ
に不快な症状が出現する。これ
処方することも大切であるが、
軽くすることで免疫機能が改善
は容易に腸に伝わり、調子を崩
ルの治療も大切であると言われ
を一般的に「自律神経失調症」
現在の生活を見直すことも必要
して、下痢などの症状が軽くな
ングなどでストレスにうまく対
ている。
とか「更年期症状」とか呼ばれ
である。律儀でまじめな性格が
ることもしばしば経験する。メ
練法は緊張を取るための瞑想の
過度のストレスは自律神経の働
る。
性格を変える必要はないだろう。 ンタル疾患を解決するだけで多
災いしているようだが、無理に
くの腸の症状は改善するのだが、
長期の過度のストレスを避ける
きを狂わせる
交感神経が活性化すると胃や
腸の働きは停止状態になる。緊
どんな性格にも裏表があり、表
下痢が改善しても、意外とトイ
か、食事の後にどれくらいの消
自律神経には頑張る時に働く
交感神経とリラックスする時に
張している時は胃・腸の運動や
向きはよくても、裏から見れば
応することで腸内環境が整えら
働く副交感神経がある。自分の
分泌が止まる。副交感神経が活
ダメなこともある。それよりも、 レに行く回数はあまり変わらな
ような方法で、不安感の強い患
意思とは関係なく体が自動的に
動すると、食物をスムーズに食
い。便意で困ることはなく、便
ことが大切である。
調節するので自律神経という。
べられる準備が始まる。唾液の
頑張りすぎる性格だから、少し
も硬くなっているにもかかわら
れ、生活の質が向上するのでは
右手を挙げてと言えば自分の意
分泌が盛んになり、胃液は分泌
早めに帰るとか、同時に仕事は
ず、毎食後に必ずトイレに行く
者さんには効果がある。
思で挙げることができる。この
されて運動が盛んになり、消化
3つまで受けるけど、それ以上
5
カウンセリングと自律訓練法
ような神経は随意神経と呼ばれ
を早める。いろいろな酵素の分
大阪大学大学院医学系研究科 保健学
医療科学技術分野 機能診断科学講座
准教授。
日本内科学会(認定医・専門医)、日本
循環器学会(専門医)、日本超音波医学
会(専門医・指導医)、日本性機能学会
(専門医)
。
現在、大阪市内で男性更年期外来担当。
主な著書は,
『男のうつ:治らなくても
働ける』( 日本経済新聞出版会 ) など。
明るく生きることは腸の健康に
る。汗をかきたいといって汗を
プロフィール
石藏文信(いしくら ふみのぶ)
特集
ス
「トレスと腸内環境
ストレスと腸内細菌
」
(株)明治 研究本部 食機能科学研究所
乳類の個体発生時においても腸管
形で行われるということです。哺
その動物の進化の過程を繰り返す
わゆる善玉菌が
%、バクテロイ
属乳酸菌やビフィズス菌などのい
す。ヒトの腸管はラクトバチルス
つまり、ある動物の発生の過程は、 病原菌の排除などの作用がありま
クロストリジウムなどにより代謝
もつアミノ酸がバクテロイデスや
ファンやチロシンなどの芳香環を
のは、肉に多く含まれるトリプト
最も重要な器官の一つです。この
も分かるように、生命にとっては
は初期段階で形成されることから
他
などの一部の悪玉菌が
%、その
デスやクロストリジウム、大腸菌
ためです。また、食物脂肪の吸収
され、これらの成分に変換される
%は日和見菌と言われており、 を担う胆汁酸は、一部は大腸菌な
10
どによって代謝されて二次胆汁酸
は胃酸や胆汁酸の影響により
これらの菌がお互いを抑制し合う
腸は、栄養成分を効率的に摂取す
gと少なく、回腸(小腸下部)で
このようなことから、ヨーグルトな
腸管は体の中にありますが、口腔
はじめに
るために絨毛が発達しており、広
トバチルス属乳酸菌が優勢に存在
少し増加して
になりますが、これはインドール
ストレスは一般に悪いものとし
て認識されていますが、もとは「生
従 っ て、 適 正 を 逸 脱 す る よ う な、
げるとテニスコートの1・5面分
どの乳酸菌含有食品を摂取して善
ことで日々バランスが保たれてい
体の恒常性を障害する刺激に対す
慢性的なストレスは回避しなけれ
の表面積で外界と接していること
しています。さらに、大腸に近づ
と共に、便通を改善して腐敗産物
から肛門までちくわのような一つ
る生物学的反応」などと定義され
ばならないのです。
くにつれて菌数が増加して
受け続けると感染症やがんにかか
る 生 体 反 応 を 意 味 す る 言 葉 で す。
になります。従って、腸管は常に
/gの菌が検出され、バクテロイ
の生体内への吸収を抑える“整腸”
などと共に発がん性を有していま
ストレスによりアドレナリンやコ
ストレスは腸管機能にも大きな
影 響 を 及 ぼ し ま す。 脳 と 腸 に は 双
粘膜上皮からの病原性細菌の感染
デス、クロストリジウム、ビフィ
は日々の健康維持に重要なのです。
す。これに対して、乳酸菌やビフ
ルチゾールなどの種々のストレス
これを脳腸相関といいます。近年、 や、アレルギーや毒性を示す物質
方 向 の シ グ ナ ル 伝 達 機 構 が あ り、
の生体への侵入リスクに曝されて
ズス菌といった酸素があると生育
ストレスは腸内環境を悪化させる
ます。その菌数や構成は消化管部
ホ ル モ ン が 分 泌 さ れ ま す が、 こ れ
この脳腸相関において腸内細菌が
います。
しない偏性嫌気性細菌が優勢とな
位で異なり、空腸(小腸上部)で
らは糖代謝を亢進させるなど生体
腸から脳へのシグナル伝達とスト
腸管には、ヒトの場合では一〇
〇〇種以上、一〇〇兆個、重さで
の 管 に な っ て い ま す の で、
「内な
の 恒 常 性 を 維 持 し、 ス ト レ ッ サ ー
レス応答に重要な役割を果たして
食中毒でニュースに頻出する腸管
りやすいというのはコルチゾール
から回避行動をするために重要な
いる事が明らかになりつつありま
以上の腸内細菌が生息してお
にこのような作用があるためです。 る外」と言われています。特に小
役 割 を 果 た す、 生 命 維 持 に な く て
1
107
~
にして悪玉菌の増殖を抑制します。
玉菌を増やし、悪玉菌を抑制する
免疫細胞の機能を抑制するという
卒中や心筋梗塞のリスクを高めま
上 昇 は 動 脈 硬 化 の 要 因 と な り、 脳
アドレナリンによる継続的な血圧
の 発 症 要 因 と な り ま す。 例 え ば、
免疫系の異常が生じて様々な疾患
ン ス が 乱 れ、 内 分 泌 系 や 血 管 系 、
す。「 個 体 発 生 は 系 統 発 生 を 繰 り
イ ド 薬 と し て も 用 い ら れ る よ う に、 成 分 を 排 出 す る 役 割 を 担 っ て い ま
す。 ま た コ ル チ ゾ ー ル は 、 ス テ ロ
返 す 」 と い う 反 復 説 が あ り ま す。
く、 栄 養 分 を 消 化 吸 収 し て 不 要 な
概 説 し ま す。 腸 管 は 言 う ま で も な
ま ず、 本 題 に 入 る 前 に、 腸 管 の
機能と腸内環境の重要性について
生物における消化管の重要性
知見をご紹介します。
腸 内 細 菌 の 関 連 に つ い て、 最 近 の
収補助やビタミンの生合成、外来
方で、腸内細菌側は栄養成分の吸
場所を提供して栄養を供給する一
生関係にあり、宿主は細菌に生息
ます。宿主とこれら腸内細菌は共
が腸管の中に存在することになり
すので、それよりも多い腸内細菌
全細胞が六〇兆個と言われていま
生態系を形成しています。ヒトの
り、腸内細菌叢と呼ばれる一種の
り、肉を食べると便臭が強くなる
スカトールは便臭の主な成分であ
のがいます。特に、インドールや
産生して生体に悪影響を及ぼすも
細胞毒性を有する腸内腐敗産物を
水素、アンモニア、アミンなど、
もインドール、スカトール、硫化
示すものと、病原性は示さなくて
など感染や毒素によって病原性を
出血性大腸菌(O157:H7株)
物が滞留する時間が長くなり、血
一方、便秘になると腸内に腐敗産
ことができずに体力が低下します。
消化不良となり、栄養を吸収する
ためです。下痢を起こすと食物が
攣、または異常な活性化が生じる
って、腸管の蠕動運動の低下や痙
自律神経系や内分泌ホルモンによ
で経験があると思います。これは
秘になったりすることは多くの人
ります。悪玉菌はサルモネラ菌や、
ストレスによって慢性または急
性の下痢になったり、慢性的な便
1012
/gで、ラク
104
10
105
酢酸を産生し、腸管のpHを酸性
は な ら な い 反 応 で す。 し か し 、 ス
す。 そ こ で、 本 稿 で は ス ト レ ス と
11
~
トレスが継続するとホルモンバラ
ィズス菌は糖分を分解して乳酸や
指原紀宏
20
/
70
作 用 も 有 し て い ま す。 ス ト レ ス を
kg
6
または糞便内で著しく増加するこ
細 菌、 バ ク テ ロ イ デ ス な ど が 回 腸
れ て い ま す。 例 え ば、 マ ウ ス を 絶
さ ら に、 ス ト レ ス に よ っ て 腸 内
菌叢が変化することも多く報告さ
の低下などの原因にな り ま す 。
毒 機 能 負 担 の 増 加、 ま た は 肌 機 能
中へ移行して細胞毒性や肝臓の解
ノルアドレナリンは
が 促 進 さ れ ま す。 ア ド レ ナ リ ン /
3を認識することで増殖
─
す る 機 構 を 有 し て い ま す。 こ の 機
き を 抜 い て 過 密 状 態 で 飼 育 す る と、 い の 細 菌 の 密 度 を 認 識 し て 増 殖 を
食 お よ び 絶 水 し、 ケ ー ジ か ら 床 敷
が 類 似 し て お り、
減 少 し、 小 腸 や 盲 腸 で は 大 腸 菌 が
構 に 自 己 誘 導 因 子( Auto増 加 す る こ と が 報 告 さ れ て い ま す。
inducers-3 ; ─3) と い う ホ ル モ
ン 様 の 物 質 が 関 与 し て お り、 大 腸
胃ではラクトバチルス属乳酸菌が
認識されて大腸菌の増殖を促進す
は ク オ ラ ム セ ン シ ン グ と い う、 互
す る こ と が 分 か り ま し た。 細 菌 に
ルアドレナリンがその増殖を亢進
7 株 に お い て、 ア ド レ ナ リ ン / ノ
さ ら に 近 年、 大 腸 菌 O 1 5 7: H
が 変 わ る た め だ と 考 え ら れ ま す。
化ストレスの増加により腸内環境
担うシグナル伝達経路の発達また
います。須藤らはストレス応答を
が分かり、その研究が注目されて
ストレス応答に影響を及ぼすこと
これに対して最近では、非病原
性細菌、即ち通常の共生細菌でも
するという悪循環を招きます。
化し、これがコルチゾールを誘導
ンが侵入してさらに炎症状態が悪
化の食物成分に由来するアレルゲ
によって、体内に腸内細菌や未消
す。従って、感染によるストレス
透過性を亢進させる作用もありま
結合(バリア機能)を低下させ、
チゾールは腸管上皮の細胞間密着
されるのです。さらに、このコル
感染によってストレスが引き起こ
生物学的なストレッサーであり、
も、細菌やウィルスによる感染は
ことが報告されています。そもそ
一方で、既に成長したマウスで
も乳酸菌を経口的に投与すること
ました。
応答を低減していることが分かり
答機構が発達し、過剰なストレス
管からの刺激によってストレス応
フィズス菌などの特定の細菌の腸
このことから、成長期におけるビ
弱していたことを報告しています。
育マウスと同程度まで反応性が減
ィズス菌単一マウスでは、通常飼
無菌マウスと同一でしたが、ビフ
よるコルチコステロン上昇反応は
デス単一マウスのストレス負荷に
人工菌叢マウスでは、バクテロイ
らに、単一細菌のみで構成された
応が有意に亢進していました。さ
でのストレスホルモン)の上昇反
によるコルチコステロン(マウス
空間に押し込めて動けなくする)
275.
response in mice. J Physiol, 558:263–
pituitary-adrenal system for stress
programs the hypothalamic-
natal microbial colonization
文
ようです。
境を維持することの意義は大きい
心の健康のためにも良好な腸内環
ることは言うまでもありませんが、
た。身体の健康に整腸が重要であ
るとの最近の研究をご紹介しまし
以上、腸内菌叢が脳のストレス
応答にも重要な役割を果たしてい
おわりに
います。
3を生産して仲間の大腸
変 化 を 見 せ 始 め、 飛 行 中 に は さ ら
る こ と も 報 告 さ れ て い ま す。 従 っ
へ の 付 着 も 亢 進 し、 病 原 性 を 高 め
けでなく毒素遺伝子の発現や腸管
ルで覆われた設備の中で、無菌的
スをアイソレーターというビニー
叢の影響を検討しています。マウ
生直後から定着してくる常在細菌
は成熟に外界因子の一つとして、
に対する脳内受容体の発現量が遺
質であるγアミノ酪酸(GABA)
され、この時、抑制性神経伝達物
荷実験を行うと、不安行動が軽減
菌をマウスに投与してストレス負
の報告もあります。ある種の乳酸
で動物のストレスが軽減されると
菌は
に 異 常 が 認 め ら れ、 ラ ク ト バ チ ル
て、 こ の よ う な 機 序 に よ っ て ス ト
に飼育することができます。この
た 場 合 で も 黄 色 ブ ド ウ 球 菌、 結 核
─
ス属乳酸菌およびビフィズス菌の
レ ス に 応 じ て 特 定 の 菌 が 増 殖 し、
ような無菌マウスに人工的にさま
菌が
減少と大腸菌群および食中毒細菌
腸内菌叢のバランスが乱れて腸内
菌が属するコリネバクテリウム属
3に構造
─
3受容体に
であるウェルシュ菌が増加したこ
環境が悪化するのです。
伝子レベルで変動していることが
学)
。
─
と が 報 告 さ れ て い ま す。 概 し て、
ざまな菌叢を移植したマウスを作
治製菓と統合し現在に至る。博士(農
─
ストレスによって乳酸菌やビフィ
腸内環境の改善によるストレス軽減
観察されないことから、脳へのス
成し、そのストレス反応性を無菌
分かりました。さらに、この影響
で は、 逆 に 腸 内 細 菌 は ス ト レ ス
応答に影響を及ぼすのでしょうか。 マウスと比較しました。その結果、 は迷走神経を切断したマウスでは
治乳業(株)に入社。2009 年に旧明
) PostSudo N et (
al. 2004
と が 認 め ら れ て い ま す。 同 様 の 菌
3は増殖を促進するだ
る こ と が 明 ら か に な り ま し た。 さ
ズ ス 菌 な ど の 善 玉 菌 が 減 少 し、 大
無菌マウスは腸内細菌を保有する
トレス応答の情報伝達は迷走神経
日本学術振興会特別研究員を経て旧明
献:
叢 変 化 は、 強 い ス ト レ ス を 受 け る
ら に、
腸菌やその他の悪玉菌が増加する
大 腸 菌 な ど の 病 原 性 細 菌 は、 感 染
通常飼育マウスと比較して、拘束
を介したものであると考えられて
所 研究員。
ま た、 ラ ッ ト を 過 密 状 態 で 飼 育 し
宇宙飛行士を対象に調べられてい
ようです。
や毒素によって腸管に炎症を引き
ストレス(マウスを一定時間狭い
7
ま す。 そ の 菌 叢 は 宇 宙 飛 行 前 か ら
こ の 機 序 は、 ス ト レ ス に よ っ て
胃酸や小腸における粘性物質ムチ
起 こ し、 コ ル チ ゾ ー ル を 誘 導 す る
(株)明治 研究本部 食機能科学研究
AI
ン な ど の 分 泌 物 の 低 下、 ま た は 酸
プロフィール
指原紀宏(さしはらとしひろ)
AI
AI
AI AI
AI
ストレスに極度に耐性を持つ哺乳類
女子栄養大学副学長 香川靖雄
驚くべきストレス耐性と長寿を示す哺乳類として東ア
ストレス耐性が存在することは明らかです(図1)⑴。
フリカの荒野にすむハダカデバネズミ(naked mole-
このような細胞のストレス耐性は、食事制限マウスや長
rat)が報告されています 。これは体重が約30gの小
寿の変異マウスにも見られるので、健康寿命とストレス
動物で、モグラのように巣穴を掘って生活しているので、
耐性には共通性があります⑴。事実、カドミウム培地で
視力は退化しています。哺乳類では例外的にミツバチ型
生き残ったマウス細胞が老化したことは老化のマーカー
の社会生活を営んでいます。女王ネズミは年に300頭
であるβガラクトシダーゼの出現でわかりましたが、ハ
もの仔を産むことが出来ますが、女王ネズミ以外は生殖
ダカデバネズミでは老化しません。老化の大きな原因で
能力の無い労働ネズミと兵隊ネズミが社会を形成してい
ある活性酸素にも耐性です。そこで、細胞増殖速度をブ
ます。冬は体温維持が出来ず、地中の温度に頼っていま
ロモウリジンで調べるとマウスに比べて、取り込み速度
す。低温耐性を細胞培養で検討すると、普通の37℃よ
が遅く、ストレス中の増殖によるDNA合成のミスを防
りも32℃の低温の方が良く育つのです。マウスの年齢
いでいることがわかったのです。この驚くべきストレス
は3歳が最高ですが、30年以上の寿命を持ち、女王は
耐性の原因はハダカデバネズミがマウスの50倍も多く
60年も生きます。過酷な環境でも、約100匹の社会が
のp53という細胞増殖抑制蛋白質を持っているためで
共同して木の根を食べ、セルロースは腸内細菌に分解さ
す(図2)。このp53と共同して働くのが、ストレスを
せて吸収するのです。この動物の驚くべきストレス耐性
感知して、無毒化するKeap1-Nfr2系です。これは図3
は、多数の毒物薬物でも実証されています。カドミウム
のような機構で細胞を守ります。酸化ストレスを感知す
やクロムを投与すると、マウスの50%致死量(LD50)
るセンサータンパク質Keap1は細胞質にあって、スト
の4~5倍も耐性であり、DNAを損傷する毒物のアド
レスのないときはNrf2という転写因子のはたらきを抑
リアマイシンには実に16倍も耐えるのです 。食事制
えています。しかし、Keap1がストレスを感知すると
限をした人や動物の血清中には細胞の長寿因子Sirt1を
Nrf2は活性化してKeap1から離れて細胞質から核へ移
増す成分が出るのですが 、この動物のストレス耐性は、
動します。そして、Nrf2はストレスから身を守るため
取り出した細胞の無血清培養液に毒物を加えて2時間放
に必要な抗酸化酵素群や解毒酵素群の遺伝子を発現させ
置後の細胞生存率でも同様ですから血清中の物質が解毒
る(遺伝子DNAの情報をもとに酵素をつくらせる)の
したのではなく、吸収、排泄の相違でもなく、細胞内に
です。正常細胞において、転写因子Nrf2 は、通常、細
⑴
⑴
⑵
胞質で分解されていますが、酸化ストレスなどの刺激に
図1
ハダカデバネズミの細胞の無血清培地中の耐毒性
無血清培地
より安定化して核内へ移行します。人工的にNfr2を除去
した動物はストレスに極めて弱くなるのです。Nfr2の
量もこの動物で多い事が判り研究が進められています⑴。
マウス
ハ ダカテ ゙ハ ゙ネ ス ゙ミ
細
胞
生
存
率
文献
⑴ Lewis
KN,
et
al.:Gerontology.
2012;58(5):453-462
⑵ Allard JS, et al.:PLoS One 2008; 3:e3211.
クロム濃度(μM )
Lewis KN, et al.:Gerontology. 2012;58(5):453-462
図2
ハダカデバネズミ細胞の細胞保護蛋白質p53はマウス細胞の50倍
53
蛋
白
質
図3
ストレス感知因子 Keap1はストレスを受けて転写因子Nrf2
を遊離して、核で解毒酵素群を発現させる。
酸化ス トレス セ ンサ ー
Nrf2
細
胞
内
補助
酸化ス トレス セ ンサ ー
Keap1
Keap1
Nrf2
含
量
マウス
ハダカデバネズミ
• Lewis KN,et al.:Gerontology. 2012;58(5):453- 462
Keap1:kelch-like ECH-associated protein 1 酸化ス トレス 感知因子
Nrf2:nuclear factor (erythroid -derived 2) -like 2 転写因子
8
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