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中間報告書

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中間報告書
国立大学法人筑波大学
本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構との実施協定に基づき、国立大学法人筑波
大学が実施した平成 26 年度・平成 27 年度グローバルサイエンスキャンパス実施業務(未来を創
る科学技術人材育成プログラム~筑波大学 GFEST(Global Future Expert in Science &
Technology)~)の成果を取りまとめたものです。
目次
Ⅰ.筑波大学 GFEST について
1
I.1. 筑波大学 GFEST の概要
1
I.2. 筑波大学 GFEST のコースについて
2
I.3 共通プログラムについて
4
I.4 海外派遣について
4
Ⅱ.将来の国際的な科学者たち ~人材育成面での達成成果
5
Ⅲ.受講生の募集と一次選抜
7
Ⅳ.
「将来国際的に活躍しうる傑出した科学者」を育てる教育プログラム
8
Ⅴ.受講生に対する評価手法の開発と実施
14
Ⅵ.受講生の活動成果 ―
16
「数値目標」の達成状況
Ⅶ.効果検証とプログラム等の改善に向けた取組
17
Ⅷ.開発手法や成果の他機関や社会的波及の取組
18
Ⅸ.グローバルサイエンスキャンパスの実施体制
19
Ⅹ.大学としての事業の中間評価と今後の重点課題
20
Ⅹ.1. 大学としての中間評価
20
Ⅹ.2. 課題について
20
Ⅹ.3. 課題についての対応
22
資料編
23
Ⅰ.筑波大学 GFEST について
I.1 筑波大学 GFEST の概要
GFEST の目指すもの
筑波大学 GFEST では、受講生一人一人の個性を伸ばしつつ、自主的探求能力・学習能力、
科学的思考力を向上させ、将来、グローバルに活躍していく科学技術人材を育成することを
目指している。
筑波大学は 2008 年に JST「未来の科学者養成講座」に採択されて以来、継続的に自主研
究を行っている生徒の個別支援を行っている。また「科学の芽賞」を主催し、国内外で自主
研究を行う小中高校生のモチベーションを高めている。これらの経験により、自主研究を行
っている生徒には、研究テーマに合わせた専門家の個別支援が有効であることがわかって
いる。また、筑波大学は 2009 年に国際生物学オリンピックを開催し、日本生物学オリンピ
ックや物理チャレンジを隔年で開催している。これらの知見から、その分野に秀でた生徒た
ちは、通常の学校の授業内容では飽き足らず高いレベルの科学講義を求めていること、同時
に自分の興味のある科学の話を思う存分にできる仲間の存在も渇望しているなどの特性を
熟知している。
筑波大学 GFEST では、上記のような生徒の特性を踏まえ、受講生 1 名に対し、チューター
教員 1 名とティーチングアシスタント 1 名を専属で配置し、きめ細やかな個別支援を行っ
ている。また、2 ヶ月に一回、全受講生を対象とした共通プログラムを開催し、大学教員に
よる最先端科学講義や科学的思考力を養うための講義を行うとともに、横のつながりの醸
成を図っている。
生徒の目的と資質に合わせたコース設定
科学技術に秀でた生徒には 2 つのタイプがある。1 つは、自分の興味のあることについて
研究を深めていくタイプ、もう一つは好きな分野について深く学び、科学技術オリンピック
を目指すタイプである。2 つのタイプとも、科学技術への関心が高いことは共通しているが、
求めている支援内容は異なる。
自主研究を行う生徒は、それぞれの研究についての専門的なアドバイスや研究のまとめ
方などの支援を必要としている。一方、科学技術オリンピックを目指す生徒は、自分自身で
は行えない実験をすることや自身の興味のある分野についての深い学びを必要としている。
そのため筑波大学 GFEST は自主研究を行っている生徒を対象とした「スーパーサイエンス
1
コース(SS コース)
」と科学技術オリンピックに挑戦する生徒を対象にした「科学トップリ
ーダーコース(TL コース)」を設けた。
質が高く幅広い分野の科学講義・実習
筑波大学 GFEST では二ヶ月に一度、受講生全員を対象とした共通プログラムを行ってい
る。ノーベル化学賞受賞者の白川英樹名誉教授による化学実習や JAXA での小型実用衛星運
営体験などは、受講生の科学への興味・憧れを高めるものとなっている。また、筑波大学芸
術系の教員によるサイエンスイラストレーションの講義やインテル社でのプログラミング
実習などで、21 世紀の科学技術を支えていく人材に不可欠なスキルの向上を図っている。
共通プログラム時には筑波大学教員による最先端科学講義も実施し、受講生の視野を拡
げるとともに、最先端の科学知識や研究方法についての理解を深めることにしている。
I.2 筑波大学 GFEST のコースについて
スーパーサイエンスコース(SS コース)
筑波大学は平成 24,25 年度に JST「次世代科学者育成プログラム」に採択され、「筑波大
学 SS リーグ」として、自主研究を行っている児童・生徒の個別支援を行ってきた。SS コー
スは SS リーグでの実績を基につくられたコースである。
SS コースは真に熱意があり、自主的探求能力と科学的思考力を持ち、高度で挑戦的な問
題解決をめざす「グローバルな未
来の科学者」の育成を目標として
いる。そのため、すでに研究を行
っている生徒を対象とし、その研
究実績を該当分野の大学教員が
精査し、選抜する(一次選抜)。選
抜後、生徒各自の研究テーマに即
した筑波大学の教員および大学
院生を専属で配置し、主にメーリ
ングリストにより個別研究支援を行う。
SS コースは SS3⇒SS2⇒SS1 と昇格していくリーグ制となっており、選抜された受講生は
SS3 に所属する。一年後にポスター発表を行い半数程度を SS2 生として選抜する(二次選
抜)
。さらに一年後に SS2 生を口頭発表により選抜し、数名を SS1 生とする(三次選抜)。
2
SS リーグは、
「高校生科学技術チャレンジ(JSEC)で最優秀賞である文部科学大臣賞を 2
回受賞し、国際学生科学技術フェア(Intel ISEF)においても優等賞 2 等を受賞する生徒を
輩出するなど、高い実績を持っている。SS コース生もそのような「SS の先輩」の姿を間近
で見ることで、自主研究を行う生徒にとっての憧れの場である「Intel ISEF」を目標として
いる。実際に Intel ISEF2015 に、筑波大学 GFEST の SS コース生が 2 名、日本代表として
出場した。
Intel ISEF という科学研究を行っている世界中の生徒達にとっての憧れのコンテストを
具体的な目標とし、その目標に対して的確な支援が可能になっているのは、未来の科学者養
成講座採択時より継続して個別研究支援を行っている筑波大学ならではの特長である。
科学トップリーダーコース(TL コース)
このコースでは、特定科学分野へ
の傑出した理解と興味をもち、その
分野における幅広い知識やスキル
の習得をし、将来的にその力を活か
して、グローバルな視野を持って、
様々な分野で活躍して行くリーダ
ーの育成を目標としている。
TL コースは物理、化学、生物、地
学・地理、数学、情報、工学の 7 分
野に分けて募集を行い、科学技術オ
リンピック予選等の実績を考慮し、選抜を行う。
TL コースは単に「科学オリンピック出場を目指すコース」ではなく、科学に非常に関心が
高く、その分野に関する高いレベルの知識、スキルを有する生徒の能力を高めることを目的
としている。我が国において、物理チャレンジの予選参加者は 1,900 名以上、日本生物学オ
リンピックの予選参加者は 3,500 名以上に及ぶなど、特定分野に関心の高い生徒は、その分
野の科学技術オリンピックに挑戦していることがほとんどである。前述の通り、科学技術オ
リンピック国内本選に参加している生徒たちは、
「通常の学校での教科範囲を超えた深い学
び」及び「同じレベルで語り合える仲間」を強く欲している。TL コースは、7 分野に分けて
募集を行うことで、それぞれの分野にきわめて関心が高く、レベルの高い生徒たちに「専門
的な学びと仲間との出会い」を提供する場となっている。
TL コースでは分野毎に大学において実習を行う。所属学校ではできない実験や実習を行
3
うことで、その分野に関する知識とスキルを高める。同時に実習時には、大学の研究者等が
各分野の最近の進展や最新の研究成果を解説する「特別セミナー」を行い、自主的探究を含
めたレポート等の課題を課すとともに、個々の生徒が主体的に学習・探究を進めるための指
導と個別相談を実施する。
I.3 共通プログラムについて
グローバルな視野を持つ科学技術人材には、英語力のみならず、論理的に考える力、わか
りやすく伝えるスキル等も必要である。そのため「グローバルな視野を持つための基礎」を
構築することを目的とし、筑波大学において講義・実習を 2 ヶ月に一回開催している。
白川英樹先生に直接指導していただく GFEST 特別化学実習は「ノーベル賞の先生とお話
しができた」ということで、受講生たちにとって得がたい経験になっている。また、筑波大
学の特色を生かした芸術系の教員によるサイエンスイラストレーションの講義や、筑波研
究学園都市の立地と連携関係を生かしたインテル社でのプログラミング実習などで、21 世
紀の科学技術を支えていく人材に不可欠なスキルの向上を図っている。
I.4 海外派遣について
大学の研究室に高校生が入って研究を行うことは日本でも難しい。海外の大学において、
日本の高校生が研究を行うには、言葉の問題や責任問題などもあることから、非常に実施が
難しいのが事実である。そのため、筑波大学の海外協定大学として緊密な連携関係を結んで
いるマレーシア日本国際工科院(MJIIT)とタスマニア大学において、筑波大学 GFEST の海
外研修を実施することとした。平成 26 年度は、MJIIT に 16 名の受講生を派遣し、1-3 名の
グループで、研究室に配属し、MJIIT の教員・大学院生の指導の下、研究体験を行った。
4
Ⅱ.将来の国際的な科学者たち
~人材育成面での達成成果
平成 26 年度は GFEST の初年度であったが、国内のコンテスト・オリンピックのみならず
国際オリンピック、Intel ISEF においても非常に高い実績を上げることができた。
【SS コース】
国際学生科学技術フェア(Intel ISEF2015)
アメリカ園芸学会賞 3 等
高校生科学技術チャレンジ(JSEC2014)
朝日新聞社賞、審査委員奨励賞
日本代表として 2 名が Intel ISEF2015 派遣
日本学生科学賞中学生の部
内閣総理大臣賞受賞(SS1 生)
入選 1 等(SS3 生)
【TL コース】
・国際科学オリンピック出場者
国際地理オリンピック銀メダル 1 名
国際言語学オリンピック日本代表 2 名
・科学オリンピック国内本選出場者(計 17 名)
日本生物学オリンピック 5 名
物理チャレンジ 3 名
化学グランプリ 2 名
地学オリンピック 3 名
地理オリンピック 1 名
情報オリンピック 1 名
数学オリンピック 2 名
平成 27 年度は ISEF 出場者は出なかったものの、JSEC2015 の最終審査に 2 名が選出され
るなど、引き続き高い実績を上げることができた。
【SS コース】
高校生科学技術チャレンジ(JSEC2014)
最終審査(30 組)のうち 2 名(SS2 生、SS1 生)
日本学生科学賞高校生の部
5
入選 1 等(TL 生)
中央審査選出 3 名(SS3 生 1 名、SS1 生 2 名)
科学の芽賞
高校生の部での最優秀賞は 2 名。2 名とも SS1生
【TL コース】
・科学オリンピック国内本選出場者(計 14 名)
地学オリンピック 1 名
地理オリンピック 1 名
情報オリンピック 2 名
数学オリンピック 1 名
生物学オリンピック 2 名
化学グランプリ 3 名
物理チャレンジ 4 名
6
Ⅲ.受講生の募集と一次選抜
(1) 受講生募集の方針と選抜基準
SS コースと TL コースについては、大学教員が個別指導を行うことから、厳しく選抜を行
う。SS コースにおいては、オリジナルな研究テーマを持ち、一定レベルの研究スキルを持
っていることを必須とする。TL コースに関しては、国内科学技術オリンピックでの予選成
績が上位 50%以上を基準とする。
(資料:選抜時の採点表)
(2) 募集・一次選抜の具体的な取組・方法
募集に当たっては、県内高校および筑波大学附属の高校へのチラシの配布を行った。また、
茨城県教育委員会と共催で行った「茨城県高校生科学研究発表会」において、全参加者(約
500 名)に対して、GFEST のチラシおよび説明書を配布した上、参加高校の教員を対象にし
て、GFEST の募集説明を行った。このほか、GFEST のウェブサイトはもちろん筑波大学のウ
ェブサイトでも募集について掲載した。
一次選抜については、応募資料(SS コースは研究実績のわかる資料。TL コースは科学技
術オリンピックへの取り組みがわかる資料。2 コース共通として応募動機等を記載する応募
申請書。
)を各学類の教員が複数名で審査する書類審査とした。SS コースの選抜にあたって
は、単に資料をまとめただけのものについては、研究とは認めず、自分なりにテーマをもっ
て、実験・観察を行っている生徒を選抜した。TL コースについては各学類で選抜基準が異
なり、化学類においては、化学グランプリ(国内本選)の出場者のみを合格とした。
(3) 選抜結果と選抜した受講生の能力・資質特性
SS コース、TL コースについてはそれぞれのコースにあった生徒を選抜できた。平成 26 年
度に選抜した生徒の成果から、それぞれのコースの目標にかなった生徒の選抜ができてい
たと考える。
SS コース生は、個性的かつ研究熱心な生徒が多く、TL コースは成績優秀で学校ではリー
ダーシップを発揮していると考えられる生徒が多く集まった。これは、ISEF に行く生徒と
科学オリンピックに生徒の資質特性とも合致している。
7
Ⅳ.
「将来国際的に活躍しうる傑出した科学者」を育てる教育プログラム
(1) プログラムの全体像
TL コース生については科学者を目指すよりも、産官学でグローバルに活躍していく人材
を育成することを目的としている。一方、SS コースについては、科学者を目指す生徒を選
抜し、育成することを目的としている。
SS コースでは、応募時にすでに自主的研究を行っていることを求めており、選抜後は、
個別に大学教員と大学院生がメンターとしてサポートしている。これにより、独りよがりな
研究になることなく、学術的に正しい方向に導くことが可能になる。
筑波大学 GFEST は 500 名以上の高校生の参加する「つくば科学研究コンテスト」を開催
してきたが、教科書に載っている実験をなぞっただけのものや、独自のテーマによる研究で
もコントロールが適切にとられていないといった研究が多く見られた。日本の高校教員に
は大学院修了者が少なく、研究経験がない場合がある。そのような教員が、適切に研究指導
をできるとは考えにくく、高校教員のみの指導で優れた研究を行うには、限界がある。Intel
ISEF で入賞する海外の高校生の多くは、専門家の支援の下で研究を進めている。
これらのことを考慮すると、SS コースの個別研究支援は「将来国際的に活躍しうる傑出
した科学者」を育てるには、非常に優れたプログラムであり、その結果、JST 全国受講生発
表会等でも高く評価される受講生の育成に繋がっていると考える。
(2) 国際性付与の方針
GFEST 受講生は、海外大学を目指している生徒から、中学一年生で英語の勉強を始めた
ばかりの生徒まで、英語のレベルが一様ではない。GFEST では、一人一人の英語レベルに合
わせたオンライン英語プログラムを用意している。これはベネッセに委託して行っている
ものであるが、内容については、科学に特化することにしており、科学に関心の高い GFEST
生にとっては英語が苦手であっても取り組みやすいものとなっている。
動画による自主学習の後に、Skype を通して講師とマンツーマンで話すプログラムとなっ
ており、受講生には非常に好評である。
また、異文化コミュニケーションの講義を行うことで、文化の違いを理解した上で、自分
自身の主張を正しく伝え、周りとの共同作業を行うことの大切さを学ばせている。共通プロ
グラム開催時には、留学生による英語ゲームを行うなど、「英語を話すこと」についての障
壁を取り除くようにしている。
国際性付与に当たっては、英語を話すことだけではなく、相手にわかりやすく伝えるスキ
ルの向上も大切だと考え、
「アカデミックコミュニケーション」についてもオンラインマン
8
ツーマン講義を行うとともに、ロジカルシンキングの講義、そして論理性を身につけるため
のプログラミング講義・実習を取り入れている。
(3) 講座の具体的な内容(各講座要素の活動の具体的事例)
共通プログラム時の例をいくつか紹介する。
①サイエンスイラストレーション
「PowerPoint による理系学生・研究者のためのビ
ジュアルデザイン入門」の著者である筑波大学芸術
系の田中佐代子先生に、発表資料(ポスター、スラ
イド)の基本的なデザインの方法を講義いただいた
後、事前に渡しておいた GFEST 生の資料を修正した
ものを提示していただいた。修正前と修正後では明
らかに見た目が異なり、同じ内容でも伝わりやすさ
が全く異なることを実感できる講義となっている。
②化学実習「導電性高分子を使った二次電池の作製」
白川英樹先生に講演いただいた後、実際に導電性
高分子を合成し、導電性を確かめ、二次電池として
の機能を調べる実験を行った。
高校の化学の教科書に載っている白川先生に直接
ご指導いただくことは、高校生にとって非常に大き
な刺激となる。また実験内容自体も、高校では扱わ
ない内容であるが、中学生高校生でも、工夫しなが
ら進めることのできる内容となっており、楽しそう
に実験を行っていた。
9
③最先端科学講義「睡眠の謎に挑む」
睡眠についての研究の第一人者であり、世界的にも名高
い筑波大学国際統合睡眠研究医科学機構長の柳沢正史先生
にご自身の研究について講義をしていただいた。
「睡眠」は
誰でもしていることであるが詳しいことはまだがわかって
いないことや、睡眠不足がなぜいけないのか、なぜ起こる
のかということ、そして睡眠と覚醒をコントロールしてい
る物質「オレキシン」についての研究についてお話してい
ただき、受講生は最先端の研究についての理解を深めた。
(4) 一次選抜者の育成状況
TL コースは一次選抜のみであるが、分野ごとの特別実習やメーリングリストでの個別支
援を通して、それぞれの学びを深めた。その結果、科学技術オリンピックの国内本選への出
場者が計画よりも大幅に多くなった。
SS コースの一次選抜者である SS3 生は、チューター教員、TA の支援の下、それぞれの研
究を行い、約半数が二次選抜を通過した。
(5) 二次選抜の実施と二次選抜者の育成状況
二次選抜者である SS2 生は高校生科学技術チャレンジや日本学生科学賞に挑戦する生徒
が多い。また三次選抜を経て SS1 生になった生徒 2 名は、Intel ISEF に出場しており、選
抜が適切に行われていることがわかる。
(6) 海外研修活動とその成果
■平成 26 年度
平成 26 年度は受講生 16 名を選抜し、マレーシア日本国際工科院(MJIIT)の研究室での研
究体験を実施した。1-3 名を各研究室に配属し、MJIIT の教員・大学院生の指導の下、研究体
験を行うこととした。生命環境系の研究室では、
「マレーシアでしかできない研究をさせた
い」ということで、フィールドワークを行っていただいた。最終日は、MJIIT の教員・大学
院生の前で英語でのプレゼンを行った。
帰国後、英語でレポートを書かせるとともに、共通プログラムでグループ毎に MJIIT での
研究について英語での発表をさせた。
「マレーシア研修では、現地の文化に触れるとともに、海外で科学するということそのもの
10
を学びました」
「海外へ初めて行き、英語を話す、しかも大学で学んでいる方と科学的な話
題についてコミュニケーションをとることができたのは、英語で話すときの自信になりま
した」等の感想文から分かるように、海外の研究室で研究を行ったことは受講生にとって非
常に大きな自信になったと同時に、科学への想いを一層強くしたと考えられる。
研修目的
自らの研究・学習内容を英語で伝えることを通して、コミュニケーションスキルの向上を
図る。また、海外大学の研究室にて教員や大学院生の指導の下、研究体験を行うことにより、
科学に対する興味と理解を深化させるとともに、異文化についての理解を深める
配属先一覧
Intelligent Dynamics and Systems Lab
1名
Engineering Vehicle System Research Lab
2名
Embedded System Research Lab
1名
Centre for Artificial Intelligence &
3名
Robotics (CAIRO)
Metabolic Engineering and Molecular Biology
6名
Research Lab
(3 グループ)
Center for Lipids Engineering Applied Res
3名
Lab (CLEAR) (EGT)
スケジュール
3 月 31 日
09:00-09:30
開講式
1. Rubiyah 院長挨拶&MJIIT 紹介
2. 受講生代表挨拶
3. 教員紹介
4. 受講生自己紹介
09:30-16:30
各研究室に分かれて活動
4月1日
09:00-16:30
各研究室に分かれて活動および発表準備
4月2日
09:00-10:00
各研究室にて発表準備
10:00-11:30
グループ別発表
(各グループプレゼン 10 分程度+Q&A 5 分)
11:30-12:00
閉講式
11
1. 小林先生総評
2. 指導教員講評
3. 受講生代表挨拶
4. 記念撮影
12:00-13:00
昼食会(farewell party)
13:30-16:00
森林研究所(FRIM)見学
研修の成果
1-3 名のグループに分けて、研究室に配属し、ほぼ一対一で大学院生から実験指導を受
けることとし、流暢であるかどうかに関わらず、英語でコミュニケーションをとらざるを得
ない状況とした。結果的に、海外に行くのが初めての生徒を含め、全員が、英語にて発表を
行った。このことは、彼らに自信を与えるとともに、英語で話すことへの障壁を取り除くこ
ととなった。
各研究室での研究体験では、一人ひとりが実験を行い、データを分析し、結果をまとめた。
工学系の研究室では、音の可視化や、エンジンの燃焼効率の実験を行った。生物系の研究室
では、海岸等で土壌を採集し、土壌微生物の同定を行った。また、環境ツーリズムについて
現地の公園にてインタビュー調査を行った生徒もいた。化学系の研究室では、ショウガ抽出
物が、抽出温度や圧力でどのように変化するのかを実験した。
これらの実験・観察は、通常の学校で行う「結果が分かっている」ものではなく、自分た
ちの得たデータを分析・解析した上で、結果を導かなければならない。この経験により、受
講生たちは「研究するとはどういうことなのか」を実感できた。
また、MJIIT をはじめマレーシアの大学では女性教員が非常に多い。このことは、特に女
子生徒にとって、印象的なことだったようだ。
■平成 27 年度
平成 27 年度は、タスマニア大学にて研修を行った。昨年同様、共通プログラムのレポー
ト、月次報告書、海外研修志望書、および英語プログラムの成績により 11 名を選抜した。
タスマニア大学では、それぞれの研究・学習テーマに合わせ、2-4 名のグループに分かれ
て研修を行った。GFEST プログラムリーダー、コーディネータのほかに工学系の教員 1 名お
よび大学院生 1 名、大学生(GFEST 修了生)1 名の 5 名がそれぞれのラボに付き添った。
12
配属先一覧
Dr. Greg Jordan, fossils and plants
3名
4名
Dr. Ashley Edwards, lizards and biology
2名
Dr. Jason Lavroff, Engineering
2名
Dr. Jason Smith, Physical Chemistry
スケジュール
3 月 23 日
18 時~20 時
タスマニア大学 Prof. Wilson と会食。
3 月 24 日
9 時~16 時
タスマニア大学の研究室で、グループごとに研究体験。
(木)
19 時~22 時
研究結果のとりまとめ。
3 月 25 日
9 時~16 時
フィールドトリップ:
(水)
(金)
3 月 26 日
Bonorong Wildlife Sanctuary、Mt. Wellington
19 時~22 時
研究発表の準備。
9 時~11 時
グループごとの研究発表。
(土)
研修の成果
研究体験においては、各ラボで大学院生も加わって指導してくれたため、ほぼ一対一対応
となり、昨年同様、流暢であるかどうかに関わらず、英語でコミュニケーションをとらざる
を得ない状況であった。研究発表までの時間が短かったのにも関わらず、それぞれのグルー
プの発表は、適切にまとまっていた上、質疑応答も含め、全員が英語で行った。GFEST 生の
資質の高さおよびモチベーションの高さを実感した。
タスマニアということで、動植物も日本とは全く異なる。生物系の生徒にとってのみなら
ず、物理系の生徒にとっても、フィールドトリップでの体験は貴重だったようだ。
今回は、SSH の研修にも同行することが多いという添乗員が同行していたが、
「これまで
あったことないレベルの生徒さんたちであった。研究発表も、SSH 校だと、単なる感想で終
わることが多いが、GFEST の生徒さんたちは、自分たちの研究発表を行い、現地の先生の質
問にも答えるなど、全く違った。
」とのことであった。研修の詳細は、GFEST ニュースレタ
ーvol.3 に掲載し、ウェブサイトからも見ることができるようにした。(別添資料参照)
13
Ⅴ.受講生に対する評価手法の開発と実施
(1) 育てたい人材像と育成したい能力・資質に照応した「評価基準」の開発
■SS コース
未来の科学者の育成を図る SS コースは、昇格審査により研究者としての資質を評価して
いる。
「未来の科学者養成講座」採択時から 8 年間に及ぶ経験から、SS コースの昇格審査に
おいては、下記の 3 者によるトリプル評価が有効であることがわかっている
•
生徒それぞれを指導している個別チューター教員
•
全体を見ているコーディネータ・サブコーディネータ
•
昇格審査当日の研究発表をみる研究発表審査員
研究発表審査においては下記 6 項目をそれぞれ 5 点、計 30 点満点で複数の大学教員が審
査する。
1. 研究テーマが自分のものになっているか?
2. 実験・観察を科学的に組み立てることができているか?
3. 自分が行っている実験・観察の意味を理解しているか?
4. この先どのように実験・観察をしていけばよいかわかっているか?
5. 研究に対する熱意
6. 今後の期待度
昇格審査は、昇格審査会議を開催し、研究発表審査の評点とともに、チューター教員の意
見、および GFEST 共通プログラムへの参加数やレポートの内容を考慮して行う。
また月次レポートで毎月、研究の進捗具合を報告し、それについて受講生専属の TA がア
ドバイスとコメントを行う。
■TL コース
グローバルリーダーの育成を図る TL コースでは、年に 3 回、大学の研究室での実習を行
い、それぞれの受講生の資質をさらに高めている。この際に、教員や TA から直接指導およ
び評価を受けると同時に、レポートを作成させ、評価を行っている。
また、月次レポートで毎月、学習の進捗具合を報告し、それについて受講生専属の TA が
アドバイスとコメントを行う。
■2 コース共通
14
共通プログラム時に必ずレポートを書かせ、受講生専用システムから提出させることで
「ポートフォリオ化」している。自分の提出したレポートの変遷が確認できる。また、レ
ポートは p30 に示した基準で講義を行った教員もしくはその教員の研究室の大学院生が
評価する。
(2) 評価の実施結果と課題
SS コースでは、SS1 生の研究レベルが明らかに高い。これまで ISEF に出場したのはすべ
て、SS1 生であり、適切に評価が行われていたと考えられる。
月次レポートおよび全コース共通で行っているレポートについては、
「最初は書くのが大
変だったが、何度も書き続けているうちに、書くということになれてきた」と言う意見が多
く、文章力のトレーニングとしても、優れていると考える。
一方で、通常の学校とは違い、レポート提出とその評価については、成績等に関係はない
ため、受講生にとってフィードバックがどこまで有効なのかと言う疑問は残る。
(3) 評価結果に基づく受講生へのフォロー指導
月次レポートについては TA が必ずコメントをする。また共通プログラムのレポートにつ
ては、講義を行った教員の研究を熟知している大学院生が採点、コメントすることで、受講
生に誤解や知識の不足があった場合に、フォローする様になっている。
15
Ⅵ.受講生の活動成果 ― 「数値目標」の達成状況
目標(4 年間)
実績(H28.4 月現在)
(1)海外での研究発表
5件
3件
(2)外国語での論文発表
2件
(3)科学技術コンテスト
ISEF 予選参加 30 名
予選参加者約 30 名
ISEF 出場者 3 名
ISEF 出場者 2 名
(4)科学の甲子園
科学の甲子園都道府県代表者
1名
(5)科学技術オリンピック
国内本選参加者 8 名
本選参加者 22 名
国際大会参加者 2 名
日本生物学オリンピック 5
名(日本代表候補 2 名)
物理チャレンジ 3 名
化学グランプリ 2 名
地学オリンピック 4 名
地理オリンピック 2 名
情報オリンピック 3 名
数学オリンピック 3 名
国際地理オリンピック銀メダ
ル1名
国際言語学オリンピック日本
代表 2 名
16
Ⅶ.効果検証とプログラム等の改善に向けた取組
(1) 事業の効果検証の方針
コンソーシアムメンバーおよび筑波大学教育担当副学長、AC センター長、グローバル・コ
モンズ機構長等による評価委員により、事業を評価する。
(2) 日常的な取組の改善
教員や TA と生徒とのやりとりは全て記録の残るオンラインシステム上で行い、コーディ
ネータが全ての交信に目を通しており、問題がある場合には迅速な対応を行っている。
(3) 修了生との関係性の維持の取組の計画
平成 26 年度の受講生の顔写真と連絡先および一年間の感想を各自が書いた「感想文集」
を作成し、配布した。また Facebook に GFEST ページを作成した。平成 28 年 3 月の共通プロ
グラム時には、修了生を含んだ交流会を行った。また、GFEST ニュースレターを発行し、修
了生にも送付している。
(4) 修了生の追跡調査による効果検証の計画
平成 26 年度の受講生の多くが大学に進んだと考えられる平成 29 年 4 月に、アンケート
を行い、進学先、学部等を調査する。
17
Ⅷ.開発手法や成果の他機関や社会的波及の取組
文部科学省次世代人材政策検討会議や科学教育学会で、開発手法や成果について発表を
行っている。また、つくば科学研究コンテストを開催し、科学研究を行っている多くの高校
生の前で、SS コース生および修了者のうち ISEF 出場者の研究発表を行っている。SS コー
ス生の研究レベルおよび発表スキルは非常に高く、多くの高校生の見本となっている。
ISEF2014 に出場した GFEST 生に
よるポスター発表
H26 年度日本学生科学賞中学生
の部内閣総理大臣賞を受賞した
GFEST 生によるポスター発表
18
Ⅸ.グローバルサイエンスキャンパスの実施体制
(1) コンソーシアムの構築
筑波大学・茨城県教育委員会・茨城大学理学部・筑
波研究学園都市交流協議会・つくば市教育委員会・イ
ンテル(株)でコンソーシアムを構築している。
つくば市内の研究所見学やプログラミング実習等
で、コンソーシアムでの連携を生かしている。
(2) 学内の実施体制
GFEST プログラムリーダーは元生命環境学群長であり、副プログラムリーダーは現理工学
群長であることから、理系分野すべての教員の協力が得やすい。
プログラムリーダー、副リーダー、GFEST 事務局の緊密な連携および社会連携課等大学本
部の全面的なバックアップのもと、非常にスムーズにプログラム運営が実施されている。
受講生一人ひとりのサポートについては、各学類の協力の下、チューター教員とティーチ
ングアシスタント(TA)を配属し、全体を GFEST 事務局で統括する体制となっており、きめ
細かくかつ一体感を持って行うことが可能となっている。
(3) 機動的で安定した実施体制づくりに向けた取組
受講生の個別研究・学習支援は、受講生専用システムで行っている。受講生一人ひとりの
「コース」を作成し、そのコースに受講生とチューター教員、TA、そしてコーディネータと
サブコーディネータが登録する仕組みとなっている。受講生からの質問や TA の回答はすべ
てコース内の掲示板で行うことになっており、情報共有を行いやすい。またコーディネータ
とサブコーディネータが常に内容を共有しているため、問題があった場合に即時対応が可
能である。受講生とのやりとりは掲示板上に保存されているので、万が一、TA 等が変更に
なった場合にも安定した支援が行うことが可能である。
19
Ⅹ.大学としての事業の中間評価と今後の重点課題
X.1. 大学としての中間評価
GFEST の取組については大学より「優れた取組として高く評価できる」とされている。筑
波大学では年次報告書において、本学の事業の自己点検・評価を報告している。平成 26 年
11 月の年次報告書の「Ⅳ.社会との連携・貢献の推進」のなかでも、
「次代を担う児童・生徒
の育成」として GFEST の活動が取り上げられている。
また、GFEST 評価委員会においても、コンソーシアムメンバーより、実績について高く評
価されている。
筑波大学理工学群、生命環境学群の活動実績書 GFEST 関連部分抜粋
【理工学群】
(学群) 従来から続いている体験学習や出前授業だけでなく、高校生を対象とした GFEST に
積極的にかかわっており、多くの教員が高校生の実験指導やアドバイスを行っている。また、
元理工学群を担当されていたノーベル賞受賞者の白川英樹名誉教授に特別実験指導を行っ
ていただいた。
▼(数学) 将来の科学トップリーダを発掘・育成するために,GFEST の数学分野では
4 名の高校生を選出し,高校の教科内容を超える実習や指導を行っている。
▼(物理) 筑波大学 GFEST 事業に協力し、物理学分野の学生6名(中学3年から高校2年
生)に web による指導、特別実習などを行った。
▼(応理) GFEST 参加学生を対象とした講演及び実験実習を各1回実施した。
【生命環境学群】平成 26 年度実績報告(抜粋)
本年度から SS リーグは筑波大学「GFEST(Global Future Expert in Science &Technology)」
(科学技術振興機構「グローバルサイエンスキャンパス」として継続実施し、3 年目以降の
SS1 コース生 8 名、2 年目の SS2 コース生 5 名と共に、科学研究に意欲と実績のある 21 名
の中学生・高校生を全国から選考(SS3 コース生) し、継続的な個人指導や菅平高原実験
センター等を利用した実習などを実施、3 月 28 日につくば科学研究コンテストを開催し、
その成績と 1 年間の研究実績を評価して SS2 リーグ生のうち 2 名、SS3 リーグ生のうち 7 名
を来年度も継続(上位リーグへの昇格)とした。
X.2. 課題について
20
(1)受講生の応募状況
大きな課題としは、受講生の応募状況がある。平成 27 年度はこれまでに比べて応募者数
が激減した。理由は二つあると考えている。
1 つ目は、実績が高いが故に、受講生および高校教員にとって応募する障壁が高くなって
いることである。筑波大学は平成 20 年度に未来の科学者養成講座に採択されて以来、継続
的に中高生の支援を行ってきた。これまで支援してきた生徒が 5 名、ISEF 出場するなど、
児童・生徒の育成の実績については、グローバルサイエンスキャンパス実施機関の中でも高
く評価されていると自負している。一方で、特に茨城県内の高校においては、筑波大学 GFEST
に応募する敷居が高くなっているように見受けられる。県内の高校に対しては説明会を行
っているが、
「本校には GFEST にお願いできるだけの力のある生徒がいない」と言われるこ
とがしばしばある。
2 つ目はグローバルサイエンスキャンパスが地域性を重視していることである。筑波大学
では、未来の科学者養成講座の採択時から一貫して、すでに何らかの実績を持っている生徒
を選抜し、個別支援を行ってきた。JST が主催する全国受講生研究発表会では毎年発表者全
員が優秀賞を受賞することからも、非常に高いレベルの自主研究をしている生徒が集まっ
ていることがわかる。一方で、このようにレベルの高い生徒は全国に散在しており、限られ
た地域の中で探すことは困難である。実際に筑波大学 GFEST には、北海道や和歌山県など、
全国各地から受講生が集まってきている。
筑波大学、東京理科大学、慶応義塾大学、埼玉大学および宇都宮大学の 5 大学がグローバ
ルサイエンスキャンパスに採択されていることから、地域性を重視しての募集には困難が
伴う。
グローバルサイエンスキャンパスの事業が、各大学で同じ画一的なものであるのならば、
地域性を重視するのもよいが、実施機関によってプログラムが異なる場合には、地域性より
も生徒の資質と目的にあったプログラムを選べる仕組みの方がよいのではないかと考える。
(2)大学への負担
グローバルサイエンスキャンパスは大学が主体となりトップ層の高校生の育成をはかる
ものであり、高校生にとって、非常にメリットがあると考える。大学にとっても社会貢献と
して行う意義は大きい。しかしながら、高校生が大学の研究室で研究をした場合の責任問題
等もあいまいである。海外研修についても、大学に所属していない高校生を連れて行くこと
について、問題が起こった場合に大学としての責任範囲が不明確である。
もう一つの問題は、大学教員への負担である。BS リーグ時代から 7 年間にわたる実施に
21
より、トップ層の高校生の研究・自学のサポートは、高校教員では難しいということがわか
ったが、大学教員が、高校生をサポートすることについては、現時点では、アウトリーチ活
動、社会貢献活動に過ぎず、高くは評価されない。
平成 26 年に筑波大学は「スーパーグローバル大学・タイプ A」に採択された。スーパーグ
ローバル大学タイプ A は世界レベルの教育研究を行うとされており、大学教員は研究に力
を入れていく必要がある。GFEST 受講生に話を聞くと「筑波大学のプログラムだから受講し
たいと思った。地元にある大学でやっていたのだったら、受講していない。
」と言う。他の
実施機関を見ても、
「世界を牽引していく研究を行っている大学の行うプログラムだからこ
そ、トップ層の高校生が集まる」というのも事実であろう。グローバルサイエンスキャンパ
スの受講生は本学の学生ではないため、大学教員はあくまでも社会貢献活動として、受講生
の支援を行っている。このような中で、社会貢献活動として中高生の育成を行っていくこと
と大学のミッションとのバランスをとることは、困難になっていく恐れがある。
X.3. 課題についての対応
(1)チャレンジコースの設置
応募者が少なかったのは、GFEST に応募するための敷居が高いのが一因であることを鑑
み、これまで自主研究や科学技術オリンピック挑戦の実績はないが、科学に強い関心のある
生徒を対象としたコースとして、平成 27 年度に「チャレンジコース」を自己財源で開設し
た。チャレンジ生は、共通プログラムに参加し、SS コース生や TL コース生と触れ合う中で、
それぞれの科学への関心を深め、自主研究や自主学習の意欲を高めていくことを目的とし
ている。SS コースや TL コースに応募し、実績が不足しているが科学への意欲が高いと判断
した生徒については、チャレンジ生とした。
チャレンジコース生が自主研究をまとめ、そのレベルが SS コースに相応しいと判断した
場合は、SS コースへの移行を可能とする。同様に、チャレンジコース生が科学技術オリン
ピックに挑戦し、優秀な成績を収めた場合には TL コースへの移行を可能とする。
(2)大学の負担の軽減
筑波大学 GFEST では、GFEST 事務局をおき、専任のコーディネータとサブコーディネータ
を職員として配置している。受講生の対応やプログラム運営等を教員ではなく、GFEST 事務
局で行うことで、教員の負担の軽減を図っている。教員がボランティアベースで運営を行う
には、事務作業等の負担が大きすぎるため、専属の職員の配置は不可欠であると考える。
22
<資料編>
1.育てたい人材像の育成要件と目標水準(詳細)
SS コース:オリジナルの研究テーマを科学的思考力と的確な実験スキルそして熱意を持
って追求する生徒を育成し、将来的にグローバルに活躍していく科学者とする。
大学教員と大学院生による個別研究支援により、研究遂行力と研究をまとめる力をつけ
ていく。日本学生科学賞や高校生科学技術チャレンジ等のコンテストへの挑戦を促し、ISEF
等の国際科学コンテストにも挑戦させる。
TL コース:興味のある分野についての学びを深めると同時に科学的思考力、コミュニケ
ーション能力の育成をはかり、将来的にグローバルリーダーとして活躍する人材の育成を
目指す。科学技術オリンピックに挑戦することで、同じ分野に興味を持つ高いレベルの仲間
との交流を深める。切磋琢磨することで、より高いレベルの学びに繋げる。
チャレンジコース:共通プログラムを通して、幅広い科学分野への理解を深め、SS コー
ス生や TL 生と接する中で、自分の資質を見極める。科学の甲子園の予選などで、所属学校
の科学企画においてリーダーシップを発揮していくような生徒の育成を図る。
2.募集(応募)状況・実績を示す具体的な資料(学年、性別、地域(県)
、学校))
■平成 26 年度(男子 49 名、女子 15 名)
SS コース: 生物 21 名、化学 3 名、地学 3 名、物理 2 名、工学 1 名、数学 1 名
(計 31 名)
TL コース: 物理 5 名、化学 5 名、生物 13 名、地学&地理 7 名、数学 3 名、情報 2 名、
工学 2 名 (計 37 名)
受講生所属学校
茨城県立並木中等教育学校(SSH)
6
筑波大学附属駒場高等学校
5
(SSH・東京)
佐野日本大学高等学校 (SSH・栃木)
3
茗溪学園高等学校 (SSH・茨城)
3
茨城県立土浦第一高等学校 (SGH)
3
清真学園高等学校 (SSH・茨城)
3
茨城県立竹園高等学校
2
23
開成高等学校(東京)
2
開智高等学校(埼玉)
2
複数名の高校のみ抽出
■平成 27 年度(男子 30 名、女子 9 名)
SS コース: 生物 16 名、地学 3 名、物理 2 名、工学 2 名
(計 23 名)
TL コース: 物理 4 名、化学 1 名、生物 4 名、地学&地理 1 名、数学 1 名、情報 1
名、工学 3 名 (計 16 名)
(参考 チャレンジ生
受講生所属学校
筑波大学附属駒場中学校
筑波大学附属駒場高等学校
4
(SSH・東京都)
3
茗溪学園高等学校 (SSH・茨城県)
3
水城高等学校(茨城県)
2
並木中等教育学校(SSH・茨城県)
4
複数名の学校のみ抽出
24
3.プログラムの具体的な実施内容・カリキュラム
2014 年度 GFEST 共通プログラム全 6 回(2014 年 9 月~2015 年 8 月)
<第 1 回>2014 年 9 月 28 日(日)
10:00-10:30
筑波大学情報メディアユニオン
GFEST ガイダンス
(プログラムリーダー・筑波大学生命環境系 佐藤 忍教授)
10:30-11:45
科学倫理「科学的とはどういうことか」
(筑波大学生命環境系 野村港二教授)
12:30-13:45
最先端科学講義「微生物も群れて会話する」
(筑波大学生命環境系 野村暢彦教授)
14:00-15:15
英語プログラム説明
(株式会社ベネッセコーポレーション)
<第 2 回>2014 年 11 月 16 日(日)
9:45-11:15
筑波大学情報メディアユニオン
「英語で話そう」
(筑波学院大学 ロバート ジュペ教授)
11:30-12:45
「21 世紀型スキルとプログラミングの重要性」
(インテル株式会社)
13:30-14:45
最先端科学講義「青色発光ダイオードとはなにか?」
(筑波大学数理物質系 山本洋平准教授)
15:00-16:00
受講生交流会(自由参加)
<第 3 回>2015 年 1 月 25 日(日)
9:45-10:00
筑波大学情報メディアユニオン
アイスブレイク
(コスモスカフェ)
10:00-11:15
「サイエンスイラストレーション」
(筑波大学芸術系 田中佐代子准教授)
11:45-12:45
藻類バイオマス・エネルギー大規模実証施設の見学
(筑波大学生命環境系 鈴木石根教授)
13:30-14:45
最先端科学講義「脳の再生」
(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構 坂口昌徳准教授)
15:00-16:00
受講生交流会(自由参加)
<白川英樹名誉教授特別化学実習>2015 年 2 月 1 日(日) 筑波大学 3A 棟
「導電性高分子を使った二次電池の作製」
10:10-11:00
特別講演
25
「こうして導電性高分子は発見・開発された
~ポリアセチレン研究の 34 年を振り返って~」
(筑波大学 白川英樹名誉教授)
11:00-16:00
特別実習
「導電性高分子を使った二次電池の作製」
(筑波大学 白川英樹名誉教授
筑波大学数理物質系 木島正志教授、山本洋平准教授、
辻村清也准教授)
<第 4 回>2015 年 3 月 22 日(日)
受講生研究発表会・JAXA サイエンスツアー
10:00-12:00
受講生研究発表会(於:情報メディアユニオン)
13:00-17:00
JAXA サイエンスツアー
「小型実証衛星 SDS-4 運用体験プログラム」
① 小型実証衛星 SDS-4 に関する講義
② 小型実証衛星 SDS-4 運用体験
③ 筑波宇宙センター展示館見学、SDS-4 展
<第 5 回>2015 年 5 月 24 日(日)
9:30-10:00
筑波大学情報メディアユニオン
英語コミュニケーション
(筑波大学留学生)
10:00-11:15
「論理的思考力」
(筑波大学数理物質系 坂井公准教授)
11:15-12:30
MJIIT 研修成果発表会
13:30-14:45
最先端科学講義「睡眠の謎に挑む」
(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構 柳沢正史教授)
15:00-16:00
受講生交流会(自由参加)
<第 6 回>2015 年 7 月 26 日(日)
10:00-12:30
筑波大学自然系学系 1G 棟、総合研究 A 棟
「岩石と化石から古環境を探る」講義および実習
(筑波大学生命環境系 上松佐知子准教授)
13:30-14:45
最先端科学講義「クスリから知る体、見て知る体」
(筑波大学医学医療系 三輪佳宏講師)
15:00-16:00
受講生交流会(自由参加)
2015 年度 GFEST 共通プログラム(2015 年 9 月~2016 年 8 月)
26
<第 1 回>2015 年 9 月 6 日(日)
9:30-10:00
筑波大学情報メディアユニオン
オープニング
(プログラムリーダー・筑波大学生命環境系 佐藤忍教授)
10:00-11:15
「異文化コミュニケーション」
(筑波大学留学生センター
11:20-12:35
鈴木華子助教)
科学倫理「科学的とはどういうことか」
(筑波大学教育イニシアティブ機構 野村港二教授)
13:30-14:45
最先端科学講義
14:45-15:00
「トレーニング適応のメカニズムを探る 分子運動生理学は日本を救
えるのか?」(筑波大学体育系 武政徹教授)
GFEST 英語プログラム受講説明
(株式会社ベネッセコーポレーション)
<白川英樹名誉教授特別化学実習>2015 年 10 月 4 日(日)
筑波大学 3A 棟
「導電性高分子を使った二次電池の作製」
10:00-11:00
特別講演
「こうして導電性高分子は発見・開発された
~ポリアセチレン研究の 34 年を振り返って~」
(筑波大学
11:00-16:00
白川英樹名誉教授)
特別実習
「導電性高分子を使った二次電池の作製」
(筑波大学
白川英樹名誉教授
筑波大学数理物質系 木島正志教授、後藤博正准教授、桑原純平講
師)
<第 2 回>2015 年 11 月 1 日(日) 筑波大学情報メディアユニオン
9:45-10:00
英語ゲーム
(筑波大学 留学生センター)
10:00-11:15
「論じる」ということ
(筑波大学人文社会系 島田康行教授)
11:30-12:45
プログラミング実習
(筑波大学情報科学類 矢倉大夢氏)
13:30-14:45
最先端科学講義「映像と物質」
27
(筑波大学図書館情報メディア系 落合陽一助教)
15:00-16:00
受講生交流会
<第 3 回>2016 年 1 月 10-11 日 筑波大学
1 月 10 日 筑波大学総合研究棟 A107
10:00-17:30
プログラミング実習
(筑波大学情報科学類 矢倉大夢氏)
1 月 11 日 筑波大学 2B 棟 403
9:00-12:30
ザリガニの解剖
(筑波大学生命環境系 丸尾文昭助教)
13:00-15:00
グループ発表
<第 4 回>2016 年 3 月 13 日(日) 筑波大学
SS コース受講生研究発表会
最先端科学講義
(筑波大学システム情報系 三谷純教授)

講義は録画し、参加できなかった受講生は筑波大学動画配信サイトで見ることを
可能とした。

科学倫理および最先端科学講義についてはレポートを課した。
28
4.
「評価基準」詳細
研究発表審査項目
評価項目
評価内容
1. 研究テーマが自分のものに
なっているか?
研究のきっかけは保護者や教員からの助言であっ
たとしても、それを自分のものとし、自らの考え
に基づいて実験・観察しているかどうかを重視
し、評価する。
2. 実験・観察を科学的に組み立
てることができているか?
科学的思考力や自分で研究を企画する能力を評価
する。
3. 自分が行っている実験・観察
の意味を理解しているか?
仮説を立て、実験・観察を行い、その結果をもと
に新たな実験・観察を行っているか、考察はでき
ているかを評価する。
4. この先どのように実験・観察
をしていけばよいかわかっ
ているか?
これまでの研究結果に基づいて、新たに表出する
疑問を見つけ出し、それを解明するために行動を
おこし、解決方法を見つけることができる能力が
あるか。またそのために、問題発見・解決能力と
情報収集・解析能力を評価する。
5. 研究に対する熱意
熱意なくして研究活動を発展・継続していくこと
はできないことから、自分の行っている研究への
熱意を評価する。
6. 今後の期待度
発表や質疑応答を通してのコミュニケーション能
力や科学的思考力から、科学者として伸びていく
可能性を評価する。
29
共通プログラムレポート採点基準
提出期限
期限を守っている
5
タイトル
適切なタイトルがついている
5
形式
形式を守っている
5
要約部分
講義中に解説した重要なキーワードが入っている
5
講義内容全体について、内容が適切にまとまっている
5
自分ならではの視点がある
5
事実と意見を分けて考えられている
5
論理的な説明がなされている
5
読み手にとって議論の流れがわかりやすく書かれている
5
引用が適切である
5
自分の考え
計 50 点
A 41-50 点
B 31-40 点
C 21-30 点
D 20 点以下
5.評価結果の詳細
SS コース昇格審査結果
SS3 生のうち昇格審査対象者
16 名
SS2 への昇格者
7名
SS2 生のうち昇格審査対象者
5名
SS1 への昇格者
2名
30
6.実行推進体制図
31
7.人材育成の成果、達成水準を示す具体的資料
海外研修報告レポート
グローバルサイエンスキャンパス全国受講生発表会発表要旨
32
33
Malaysia is HOT but COOL!
I would like to write what I learned and what I thought on this study tour to Malaysia.
I have three points to write, which are about the university MJIIT, Malaysian culture,
and English.
Firstly, I would like to explain what kind of lab work I did in three days. The lab I went
to was Embedded System Research Lab, where Prof. Dr. Fuminori Kobayashi looked
over. Though I was the only one to go to the lab, the professor and the tutor, who was a
graduate student at the lab, named Shah, taught and overlooked me really kindly. On
the first day, I took a brief lecture from Prof. Kobayashi, which was about how
computers worked, how embedded systems worked, and what kind of language “C”
was. After that, I practiced some fundamental programs using a device for embedded
system. On the second day, I made a program based on my own idea.
Embedded system is a combination of software, such as programs, and hardware, such
as the machine that actually does what the program demands. Almost all kinds of
electronic devices have embedded system in them. For example, TV has a system that
gets signals form a remote controller, and then actually does the demands, such as
changing channels or volume. That system is an embedded system. I used C language
and the device called AVR micro controller( below, left picture) to get some experience
of using embedded system.
When I write a program on PC and send it to AVR, users are able to turn on LED lights
or 7 segments display by turning on switches or pressing keypads on AVR. The
program that I made on the second day can calculate the percentage of the user getting
into universities in the US. Users type scores of GPS, SAT, TOEFL, and activities on
34
keypads, then, the program calculate the average percent of each score and show the
result on 7 segments display.
The process of making a program on my own was really difficult, since it was almost
my first time to do programming using C language, and I had to concentrate on the
program and English at the same time. However, the professor and the tutor taught me
anything I wanted to know, and they supported me really kindly, so I could finish my
work. I am really thankful to them.
During the stay in Malaysia, I felt culture of it anywhere. The weather, the food, the
people, all of them had unique aspects. I thought that food was too spicy and the
weather was too hot, but I liked people very much. Students in Malaysia were really
kind to me and were friendly. On the first day, my tutor and another student in the lab
toured me around the campus and taught me many things about the university, tall
buildings in the city, suitable souvenirs and so on. Unlike native English speakers, they
naturally talked slowly without much pronunciation problems. Thus I thought that
talking with them was really pleasure experience for me.
On the final day, students of GFEST, including me, presented what we did at each lab
in English. I noticed that some of them talked in a small voice, without confidence. I
think that English is still a very big problem for Japan. While Malaysian people used
English when with Japanese, Japanese students often used Japanese each other
though Malaysian people were near. I think that we, Japanese can learn from
Malaysia, about commingling of different cultures, languages, or people.
In addition, I spoke on behalf of GFEST students at the closing ceremony, and that was
an important experience for me. It was my first time to present an English speech in
front of such number of people, and my English was yet to improve, so I was a little
nervous; however, I think I could talk what I wanted to say, what I truly felt, for a few
minutes. Maybe not writing any scripts helped me to do that, but I felt just happy that
I could finish my speech. After the ceremony, a professor of MJIIT said to me “ your
speech was good. Where did you learn English?” I said “ thank you sir. In junior and
high school.” He said, “ So you do not have any experience of living abroad? So you
35
must have studied English very hard.” I was really happy to hear that. My speaking
ability of English has always been a problem compared to other abilities, such as
reading or listening, so I have been putting the best effort to improve my speaking,
getting help from global learning center. Thus I felt like “my English really improved!”
but during in MJIIT, I had difficulty to express my opinions or questions to professors
or tutors many times, so I would continue to practice speaking English further.
Finally, I would like to thank all of professors, students, and others who made this
camp happen. I spent wonderful time with other friends and Malaysian people. I am
sure that this experience will help me to think about my future.
36
Let’ Communicate with the World!!
This spring vacation was the most stimulating one I have ever experienced. It was the
first time for me to visit foreign country and use English all the time. I felt little nervous
before arriving at Malaysia, because I did not know if I am going to get used to the life
during this program, such as speaking English, Muslim culture―and especially getting
on an airplane. In fact, I watched the movie “Frozen” to take my mind off things on the
plane, saying “Let It GO” to myself. Anyway, those concerns were useless. I could adapted
to Malaysian culture much more smoothly than I had expected. Furthermore, I realized
being exposed to different culture was quite interesting.
Kuala Lumpur is an urban city like Tokyo, but it has many features which are different
from Tokyo’s. For example, we were often caught in a traffic jam, which prevented us
from acting as scheduled. I suppose, however, there were not so serious problems then.
If we were in the same situation in Tokyo, we would be irritated. In addition, our
experiments at MJIIT were not conducted as we had planned, but the MJIIT students
did not seem to be upset. Probably these differences are caused by it’s nationality.
By the way, the main purpose of this program was studying science at MJIIT. I wished
I could communicate with the researchers in the Lab as well as my English teachers. But
to make communication in English is one thing, while to learn science in English is quite
another. First, I did not the meaning of some scientific terms. Moreover, I was lacking
the fundamental chemical knowledge. Those are why I sometimes had troubles to
understand the procedure of the experiments. But the communication with the MJIIT
students was fruitful. We talked about this and that over lunch. Some of them helped
me finding not spicy food in the cafeteria, though I could not find it in the end. Almost
every Malaysian food is spicy!
I was able to gain many valuable experiences I would never gain in Japan through this
program. The presentation in English was especially new to me. These experiences are
supposed to help me throughout my career as a globally minded person. I have come to
want to be active all over the world in the future since I stayed at MJIIT. I appreciate
everyone’s great support for this program.
37
38
How can we find effective compounds?
1. Purpose
When we try to make a new medicine for a certain disease, we often need to find
effective compounds from plants. So this time, we conducted an experiment of
extracting compounds from Correa Alba and identified what kinds of compounds they
are.
2. Method
I.
Collect leaves and cut them into powder to make the next procedure easier.
II.
Dissolve the powder in the mixture of water and ethanol by using a coffee maker. We
added ethanol, for organic chemicals can easily dissolve in organic solvent.
III.
Remove ethanol by using a special machine presented below in figure 1. We rotate
the flask in the hot water to expand the surface of the liquid, which promotes the
vaporization of the liquid, and also make the inside of the machine vacuum so the
liquids can evaporate at lower temperature.
IV.
Add acetate as organic solvent.
V.
Remove water by separating the organic layer with chemicals from water layer. Also,
we use MgSO2 that causes dehydration reaction.
VI.
Remove acetate by using the machine used in procedureⅢ.
VII.
Use paper chromatography to determine how many compounds the substance we
get in the last procedure contains.
VIII.
Use column chromatography to separate compounds according to their speed when
going up through silica gel. Separated substances are distributed to different test
tubes.
IX.
Conduct paper chromatography for the test tubes and choose interesting tubes in
order to do further analysis.
X.
Use machine shown below in figure 2 called NMR to determine the structure of
compounds the tubes chosen in the last procedure contain.
3. Result

Paper chromatography in Ⅶ (figure 3)

Paper chromatography in Ⅸ (figure 4) (We chose tubes 12-13, 15, 17-19)

NMR (figure 5)
4. Consideration

There are mainly two kinds of compounds in Correa Alba.
39

From the analysis of structures, we can conclude that they are compounds called
Alosin and Meransin.
5. Conclusion
It took us almost a whole day to complete this experiment, and it was not guaranteed
that we could get meaningful compounds or rather we could get any compounds through
this experiment. Considering this, I can imagine how difficult it is to make new medicines.
However, even though it is difficult, it’s not boring but interesting and exciting for me. So,
I feel I can endeavor to make new medicines.
Figure 1
Figure 2
Figure 3
40
Figure 4
Figure5
The relations between environment and leaf
I was assigned to Dr. Greg Jordan’s lab in this training. I am interested in
paleontology. So his studying and experiment in this lab are very
interesting. I enjoyed very much.
1. Introduction
In this lab, we try to compare to 2 type of leaf which planting a tree.
Especially we compare each vein to make microscope slide. And we try to
understand relationship between leaves and environment.
Dr. Greg told us that plant is sensitive to environment and change shape
and size live with environment. If we understand the relationship, we can
know environment in the past and future by using fossils.
2. Material
First, Dr. Greg showed us one tree planting in Tasmania University. The
name of tree is Nothofagus cunninghamii.
It is planted in front of building. So one side in front of building cannot get
sunshine. The
building makes two types of condition. Dr. Greg told us these conditions
make 2 types
of leaf.
We called “Sun leaf” (Fig.1) and “Shade leaf” (Fig.2). Each leaf is too
different to think they are different species. Each has different size and
shape.
3. Objective
The objective of this study is to understand difference of the each leaf in
outside by observation. And we try to make microscope slide to know in
contents. Using the differences, we try to think the relationships and why
the plant made these differences.
4. Process
Dr. Greg told us these leaves have different types of the vein. Vein is the
very thin tubes that form the frame of a leaf. It is very important part of the
leaf.
We challenge making the microscope slide to observe vein.
①
41
Scratch
We scratch the surface of leaf (Fig.3). On the surface of it, there are many
impurities. They make difficult to observe. So we have to removal it. But
scratching so strong is not bad. Because if we scratch strong, breaking the
vein. This is the most difficult process for me.
②
Bleach
Leaf has chloroplasts and it is green. But it is in the way to observe the
vein. So we have to bleach the leaf (Fig.4). It kept in the bleach in about 30
minutes. 30 minutes later, leaf changed white from green.
③
Stain
The vein is only tube. So it is too difficult to observe in detail. We stained
the vein
(Fig.5).
④
Enclose
To keep the leaf for a long time, we enclose it (Fig.6). We use preparation
to enclose. There is an important thing to make the specimen. That is
always writing the name of slide. If there is not the name on the slide, that
cannot be say specimen.
⑤ Observe (Fig.7,Fig.8)
3. Result & Discussion
In outside, Sun leaf is smaller than shade, and hard. Shade leaf is big and
soft. In contents, we can look different types of vein. Sun leaf’s vein is
thick and high density (Fig.9). Sunshade leaf’s vein is thin and low density
(Fig.10).
From these results, we think why this difference happened. We think
sunlight is also important to decide shape and size of the leaf.
42
①
Sun leaf
Sun leaves can get a lot of sunlight. They can and have to carry out
photosynthesis. To do it, leaves need much water. An efficient way of
carrying is making the big tube and high density. So Sun leaf have the vein
that is big and high density.
②
Sunshade leaf
Shade leaves cannot get much sunlight. They have to spread and get more
sunlight. But they need water to carry out photosynthesis. That means they
have to carry water everywhere so vein is small and low density.
4. Application
We found that we can understand the environment of the leaf from this
experience. Dr. Greg showed us a leaf. That is Nothofagus cunninghamii
fossil about 1 million years ago.
Vein of the leaf is big and high density like Sun leaf (Fig.12). So we could
know it had grown in the sun. To search a lot of leaf, we can know the
environment of the tree.
5. Conclusion
○ Water is important for the plants and water effects to shape and size of
the leaves.
○ To observe veins of the leaf fossil, we found that it grew in the sun.
○ We can imagine the paleoenvironment from the relations between
environment and shape of plants
6. Impression
I really enjoyed this experience. I think that I can get two important things
from this experience.
First, paleontology is also interesting and very important subject. In Japan,
many people say fossil is not important and good for nothing. But, I could
understand to know the importance with real feeing and physically. We
cannot know the future from only now environment. From the past
environment, we can know the future. This is very interesting.
43
Second, everywhere in the world scientists love their own studies. Many
people say that is natural. But, to meet the scientists of the other countries, I
could understand it in detail. From this experience, my dream (to be a earth
scientists) gets more big and strong.
7. Acknowledgments
I want to thank Dr. Greg Jordan and his lab’s members for providing us this
precious experience.
44
ボノロングの生物から感じたこと
私は 3 月 25 日、オーストラリア・タスマニア島、ボノロング自然保護区内にある、動物
保護施設を訪れた。
施設内には、カンガルー、コアラに代表される有袋類の仲間、大きなインコの仲間などが
飼育されていた。
私が施設に入りまず驚いたのは、カンガルーが放し飼いにされていたことである。また、
ウォンバット、タスマニアデビルなどといった生き物も、囲いの中には入っているものの、
ほとんど施設内の環境をそのままに残したスペースで飼育されていた。これは、日本ではな
かなかできないのではないだろうか。タスマニア島の中でも自然豊かなボノロング自然保
護区の中だから可能なことなのだと考えられる。
先に出てきたタスマニアデビルだが、この生物は、14 世紀ごろまでは、オーストラリア
本土にも生息していたことが、化石などから分かっている。しかし、人類がもたらした野生
化した犬「ディンゴ」の影響により、絶滅してしまったらしい。オーストラリアには、絶滅
してしまった生物で有名なものとして「フクロオオカミ」があるが、この生物の主な絶滅の
理由も、ディンゴであると考えられている。しかし、人類が著しく環境を変えていく中、タ
スマニア島では、ほぼ全域にタスマニアデビルが生息している。百数十年前は、彼らの鳴き
声を悪魔と勘違いした人間に駆除されかけたことがあったが、フクロオオカミの絶滅を機
に、彼らを保護しようと人々が変わっていき、現在の状況を作った。そういった意味でこの
生き物は、人間と生物の歴史をいい意味で象徴しているのかもしれないと感じた。
私はもともと生き物が好きなこともあり、ホバートについてから、ほとんど常に外の環境
を見渡していた。見たことも無い色のカラスに、ピンクのインコなど、ときめく事ばかりで
あったが、保護区内では、さらに多くの野生の生き物にも出会えた。ボノロングは、タスマ
ニア島の中でも少し標高の高いところにあり、生えている木なども平地とは少し違うよう
に感じたが、おそらくはそのことが原因なのではないかと考えられる。また、地域の差とい
うことなのかもしれないが、確認できたカラスの仲間の大きさが、日本に生息しているもの
に対し、半分ほどの大きさであった。これはもしかしたら、キバタンという大型の鳥類も生
息していたことから一概には言えないが、タスマニアが、日本よりも小さい島だからなのか
もしれないと考えた。生物は、大陸性の生き物より島の生き物のほうが小型になる傾向が知
られているが、そのことが影響している可能性もあると感じた。
上記のように、島と大陸で異なる生物相になることは、「島嶼化」と呼ばれている。島嶼
化の例はいくつかあるが、一番有名なものは、ダーウィンの進化論に代表されるような、特
殊な生き物が多くなるということではないだろうか。ボノロングでは、実際にそのような生
物を、間近で確認できた。このことからもタスマニア島では、やはり島嶼化が起こっている
のではないかと考えられる。
45
「自然保護とタスマニアの自然」
僕たちはタスマニア大学で一日研修を行った後、ボノロング自然保護施設( Bonolong
Wildlife Sanctuary)を訪れました。この施設はけがを負った動物や親を失った動物が回
復を待つ場所であり、その意味でただの動物園とは異なります。この地域では自然が豊か
であり、動物も数多く存在するので車にひかれてしまうものもその中でたくさんいると聞
きました。このような動物を助けるのがこの施設です。実際に施設内にいるカンガルーの
中には耳が裂けているものがおり、これもおそらくけがを負ってここで生活しているのだ
なと感じました。この施設のもう一つの目的というべきものは、動物の生態を多くの人に
知ってもらい、自然保護を呼びかけることだと思います。施設内の動物には絶滅の危惧が
あるものも多かったと思います。いかに自然が豊かであると言ってもそれを保全する取り
組みは重要であり、この地域はそのことを身近に感じられる場所であると思いました。
この後僕たちが向かったのはウェリントン山です。この山からは自分たちが宿泊してい
たホテルを含め、ホバートの町が一望できました。山頂付近の地形はとても面白く、一つ
の峰では岩肌が露出していて柱状の岩が残されていました。さらに、一部はテーブルマウ
ンテンになっていました。この山を含め、この地帯は世界遺産として登録されているとガ
イドさんのお話にもありました。地質、植生に関連した自然の側面に加えてこの山はアボ
リジニの人々の一部であったという一面も持つため、自然遺産と文化遺産を両方合わせた
数少ない複合遺産に登録されています。テーブルマウンテンに設置されていた案内板には
この山が kunanyi という名前で古くから呼ばれていたということやここでアボリジニが生
活していたというヨーロッパ人による記録も書かれていました。この神秘的な地形を見た
アボリジニの人たちにとってこの山が特別な意味を持っていたのではないでしょうか。
フィールドトリップ全体を通して、いかに IT が進歩し情報が得られるようになったとし
ても世界には実際に行ってみなければ経験できないことがあるということを感じ、今回の
場合、それはタスマニアの自然環境とそれを守る取り組みだろうと考えました。勿論、例
えばコアラの生息地や生態を日本でも知ることができるように、地域の特徴などを抽象的
に日本に居ながらにして知ることはできます。しかし、それらは何らかの媒介を必要とし
ているというだけでなく、実際そこに行って得られるものを再構成したものでしかないの
で、現地に赴くことには十分に意味があると思いました。そして今回フィールドトリップ
を通して自然について考えられたことはとても有意義でした。
46
タスマニア研修を終えて
私はこのタスマニア研修を通じてとてもたくさんのことを学びました。
まず、第一に海外で生活をするということです。私は海外に行ったことはありますが、
その都度現地の環境になれるのはとても大変でした。そして今回も例外ではなくまた、南
半球ということもあり気候の変化に対応するのが難しかったです。
二つ目は、大学での研修です。今回配属された研究室は植物化石を専門とする教授が運
営しているので 自分の研究と少しは接点があるのかなと期待していましたがまさにその
通りでした。植物が育つ環境によって葉の形を変えるということはすでに知識としてあり
ましたが密度と絡めた話は今回初めて知り研究発表ではもちろんですが、自分の研究の考
察でも十分に使える内容だったのでこの研修のありがたみを改めて感じることができまし
た。
三つ目は、フィールドトリップです。ボノロング野生動物公園ではバスで目的地に着く
までにガイドの方からこの動物公園で何をしているのかを聞き衝撃を受けました。なぜな
ら、日本にはこのような動物園がほとんどないからです。病気やけがのために野生で暮ら
せなくなった動物がいる動物園とはどのようなところだろうと思っていましたが、実際に
行ってみるといたって普通の動物園で拍子抜けしてしまいました。私は怖くてカンガルー
に餌をあげることは出来なかったけれど、寝ているカンガルーを近くで見てかわいいなと
思いました。また、一番楽しみにしていたタスマニアデビルを間近で見ることができてと
てもうれしかったです。そのあとに訪れたウェリントン山は景色がとてもきれいで観光名
所となっているとは聞いていましたが、実際に見てもタスマニア島の景色が一望でき、と
ても美しかったです。
今回の研修では「大学で研修をして、それを最終日に発表する」というのがメインでし
たが、改めて自分の未熟さを実感しました。発表内容はすべて英語だったので英語が大の
苦手の私にはとても大変でした。また、発表内容もほかの生徒と比べて劣っているなとも
感じました。なので、自分の研究を通してこれからもっと上を目指して今回の研修に参加
して良かったと思えるようになりたいです。
47
タスマニア研修の感想
タスマニアでの研修は、僕にとって 3 度目の海外での研修となった。現地ではタスマニ
ア大学での分野別の教授による講義、動物園での動物の観察などを行い、その全てが新鮮
かつ今後の糧になるような経験だった。
特に印象に残ったことは 2 つある。一つはタスマニア大学での講義。もう一つは
GFEST 生との交流だ。
タスマニア大学では SS2 生の田渕君と共に技術分野の講義を受けた。事前に知らされて
いた教授が居なく、別の教授が講義をするということがあったが、その研究室ではレーシ
ングカーの開発を行っており、そこの学生と英語で自らの研究を話し合うということと、
シミュレーション用のモデル制作に使っている 3D CAD を用いて 3D モデル制作をした。
その研究室で大学生に英語で自らの研究を説明し、話し合うということは初めての体験
だった。そこでは相手が理解できるように、単語のニュアンスを考えて説明をしたり、質
問に答えたりした。自分の主観で研究を進めてきたが、外部の、そして海外の人からの意
見には参考になるものもあった。それは、今まで風車のブレードは物理的なモデル(その
まま実験に使えるサイズのもの)を作って実験を行ってきたが、手作業によって起こる僅
かな違いが、実験の結果を異なるものにしてしまう恐れがあるということ。また、物理的
なモデルの制作や調節には時間がかかることから、シミュレーションソフトを使うこと
で、細かい調節をしながら実験を行うことが出来るのではないか、というものだ。実際に
3D CAD を使わせてもらい、3D モデルの制作が出来たことで、その方法を実践するため
の具体的な道筋を考えることが出来たと思う。
次に、GFEST 生との交流だ。夏や冬の実習に参加することができなかったので、
GFEST 生との泊りがけでの交流は今回が初めてだった。参加者のほとんどとは、今まで
話したことが無く、この研修に参加する前はうまく交流ができるか不安だった。だが、実
際に参加してみると、SS コースの人も TL コースの人も、TA の人もフレンドリーに話し
てくれた。また、話す中で研究への熱意や知識の一端を知ることが出来た。例えば鳥や山
を見て、その感想よりも鳥の種類を叫んだり、山の地質などに興味を示したりするなどの
意外性に驚かされた。また、研修 3 日目の夜、プレゼン用のスライドを作っていた時、部
屋の飲み物がなくなってしまったので、飲み物が大量に余って処理に困っていた上の階に
居させてもらった時も、プレゼンが明日であるにもかかわらず準備がほとんど終わってい
ない、練習も出来ていない、というかなり追い詰められた状況でありながら、皆で語り合
い楽しくスライドを作ることが出来た。
このような貴重な経験をさせて頂き、GFEST 事務局には感謝いたします。今後はこの
経験を研究に活かせるように努力していきたいと思います。
48
49
変形菌の研究
変形体の「自他」を見分ける力
増井真那(東京都立小石川中等教育学校 2年)
担当教員:出川洋介先生(筑波大学)
◇研究の目的・意義
変形菌(真正粘菌)は粘菌とも呼ばれ、名前の語尾に菌とつ
いているが菌類ではなくアメーボゾアに属する。動き回り栄養
を得る変形体が、たくさんの子実体に変身し、そこから無数の
胞子を飛ばして増えていく生物である。変形体(図1)は自然
環境の中から見つけにくく、採集できても飼育培養は非常に困
難とされている。そのため変形体の研究はあまり進んでいな
く、ほとんどの先行研究には実験材料として培養系が確立され
図1
アカモジホコリ変形体
たモジホコリが使われている。ぼくは自然界の様々な種の変形
菌の変形体の採集・長期培養を8年間続け、継代培養も成功させている。これらを材料とした
前例のない実験を7年間行う中で、先行研究がほとんどない研究を行っている。
まず2008年までの研究から、種ごとの動き方の違いは変形体の体の特徴と関係があることが
わかった。この発見から変形体の動きと考えの関係を深めたくなり、2008年から変形体どうし
が出合うと何が起きるのかについての研究を始めた。実験をしていく中で、変形体の「自他」
を見分ける力というテーマを見出だすことができた。「変形菌の変形体には自他がない」とい
う通説があるが、研究を5年間続けた結果、それとは異なる結論を得ることができた。今回
は、変形体には「自他」を見分ける力があるということと、その自他が何によって見分けられ
ているかについての研究成果を説明する。
この研究のテーマ設定、実験計画、実験の実施、分析などは自宅で行い、進め方、考え方や
生じた疑問などについて、主に筑波大学GFESTと日本変形菌研究会の先生方、先輩方からご指
導をいただいた。実験材料の変形体は、ほとんどは自分で採集したが、一部は日本変形菌研究
会の皆さまが分けてくださり、これらを自分で実験に使える状態まで育てた。また、この7年
間に多くの発表機会(筑波大学GFEST、日本変形菌研究会、日本菌学会、日本生態学会など)
があり、その度にたくさんの専門家の方からアドバイスをいただくことができた。
今回の、変形体の「自他」を見分ける力についての研究は、2つのステップで進めた。
◇I.変形体どうしを出合わせ、「自他」を見分ける力について探る
Iの研究の方法・プロセス
5つの場合(別種、1つの変形体の個体から分かれたもの、菌核という休眠状態から戻した
変形体、同種世代違い、同種産地違い)に分け、個体どうしを寒天培地の上で出合わせたら融
合するかどうかを観察した。実験には実験材料として培養系が確立されたモジホコリに加えて
野生株6種 20 株と、野生株2種から継代培養した株を使った。
Iの結果と考察
変形体どうしを出合わせる実験を5年間に 291 シャーレ行ったところ、出合う相手によっ
て行動のパターンが違った。最終的に個体どうしが融合したかどうかについて見ると、別種は
全く融合せず、1つの個体から分かれた変形体どうしや、菌核から戻した変形体の場合、また
5 世代間の変形体の場合はとてもよく融合した。しかし、同種産地違いの場合は、融合できる
組み合わせも、全く融合せずに住み分ける場合もあり、「別種は避け合うが、同種は融合する
」とは言い切れないと考えた。
このことをはっきりさせるために、291 シャーレでの出合い合計 526 回について、融合しに
くさとして「避けた出合い率」、判断のしにくさとして「30 分以上止まってから行動を決めた
50
率」を比較したところ3グループに分かれることがわ
かった(図 2)。A の別種は、すぐに避け合う「わかり
やすい他人」の関係。B の同種は、よく融合し止まり
にくい「わかりやすい自分」の関係。C の同種産地違
いは、判断に時間がかかる「わかりにくい自分」の関
係だと言える。
以上の分析から、判断と融合のしにくさは出合う相
手との関係によって異なると言える。変形体の自他の
関係には「近い/遠い」があり、それは相手を判断す
るカギによって決まっていると考え始めた。これが新
しい仮説である。
◇Ⅱ.変形体が「自他」を見分けるカギを見つける
図2
5つの場合の比較
Ⅱの研究の方法・プロセス
変形体どうしが出合って最初に触れるのは、体を覆う透明な粘液鞘(ねんえきしょう)であ
る。Reid ら(2012)の研究によると、変形体ははいあと(脱ぎ捨てられた粘液鞘)を避ける
そうであるが、自分の観察からは、変形体がはいあとをたどっていく場合もあった。そこで判
断のカギは粘液鞘にあるとの仮説をたて、このことを証明するために、変形体の「はいあと」
(粘液鞘)に出合った時の反応と行動を5つの場合(自分自身、別種、同種世代違い、融合で
きる同種産地違い、融合できない同種産地違いの「はいあと」と出合わせる)について観察し
た。はいあとと出合った時の変形体の反応は、変形体どうしの場合と同じようになると予想し
た。
Ⅱの結果と考察
5つの場合について、はいあとを避けた率、はいあとに触れて止まった率、はいあとを覆っ
た最大面積比率を比較したところ、5つの場合は全てはいあとに対する反応や行動が違い、I
の変形体どうしの場合と似たパターンを示した。このこと自体が、変形体は「はいあと」、つ
まり粘液鞘を見分けていることを意味している。変形体にとって相手の粘液鞘は、判断しやす
かったり、しにくかったりする。このことから、変形体の自他の関係は、「近い/遠い相手(
判断のしやすさ)」と「融合できるかどうか」のかけ合わせで〈わかりやすい他人〉〈わかりや
すい自分〉〈わかりにくい他人〉〈わかりにくい自分〉の4つに分類できる。
◇IとⅡからの結論
第1に、変形体には自他を見分ける力がある。第2に、変形体の「自分」は個体の判断と行
動で変化する。第3に、変形体の自他は「融合する/しない」で二分されるのではなく、関係
の「近い/遠い」があると言える。第4に、変形体の自他の判断には、粘液鞘が関係している
。「変形体には自他がない」という人も少なくないが、以上のことから、変形体は人間や他の
生物とは違う、独特な自他を持っているのだと言える。
◇今後の展望
変形体が持つ独特な「自他」の判断の仕組みを解明していきたいと考えている。粘液鞘の質
量分析と個体の行動観察を関係づけて、自他の関係が環境の影響で変化するという仮説、属/
種によって自他を判断する仕組みや、判断する物質が違うという仮説を今、検証している。
◇主要参考文献
Reid, C. R., Lattya, T., Dussutour, A. & Beekman, M. 2012. Slime mold uses an
externalized spatial “memory” to navigate in complex environments. Proceedings of the
National Academy of Sciences. 109 (43): 17490-17494.
51
後頭骨化石からイルカの首の動きを復元できるのか
岡村 太路
( 東京学芸大学附属高等学校 2年)
担当教員:上松
佐知子先生(筑波大学生命環境系)
◇研究の目的・意義
私は、2011年に千葉県の上総層群市宿層よりハクジラ亜目の後頭骨化石を採取した。それ
以来、鯨類の形態に関する研究を継続している。鯨類は、私たちにとって水族館で出会える身
近な動物であるが、水中適応の結果として他の哺乳類とは大きく異なる生態・体の特徴をもつ。
鯨類は、人間にとってなじみ深い生物であるにもかかわらず、わかっていることは非常に少
ない。しかしながら、野生の鯨類は広い海洋上に生息していることに加え、近年は保護の対象
とされ調査は容易には行えない状況にある。生きていた状態を推定することになる化石種にお
いては、なおさら明らかになっていない。
この標本には、頭部の可動を担っているとされる後頭顆が残っていて、私はこの化石から首
の動きを推定できないかと考えた。そこで本研究では、市宿層で見つけた化石をきっかけに鯨
類の首の動きを一例として、化石からその生物の動きやさらには生態を復元することを試みた。
なお研究においては、テーマ設定から実施までを『筑波大学GFEST』にて行った 。
多くの鯨類は水中に適応する過程で、首は極端に短くなり、頚椎を癒合させていてほとんど
動かないと言われている(伊藤,2008)。その一方で、水族館でスナメリやシロイルカが頭部を
自由自在に大きく動かしている様子を観察できる。多くの鯨類は、頚椎が固定されているた
め、球状の頭と首の関節のみで頭部を動かしていることが先行研究(伊藤,2008)で知られて
いる。しかし、鯨類がどのようなメカニズムで首を動かしているかは、未だに明確になってい
ない。鯨類の首の可動域を数値化できるような研究はなく、首の可動の定量的な比較は行なわ
れていない。また、筋肉や軟組織が残ることが極めて少ない化石から、当時の生物の動きを復
元することは非常に難しいと言われており、本研究は化石から生物の動きを復元する研究の一
例として、地学・生物分野において意義があると考える。
本研究では、現生ハクジラ亜目の骨格を比較・分析することで、首を動かすメカニズムを解
明し、骨格から首の可動域を推定することを目的とする。さらに、この結果を市宿層で採取し
た後頭骨化石に適用し、化石にもその基準が妥当であるか検討を行った。
◇研究の方法・プロセス
鯨類の首の可動をもたらすメカニズムを解明するため、国立科学博物館に所蔵されているハ
クジラ亜目 7 科 35 種 159 個体の頭骨の観
察を行った。また、マイルカ科をはじめとす
るハクジラ亜目 7 科 35 種 86 個体の環椎
後頭顆関節の計測を行 った。これらの後頭
顆・ 環椎の寸法と形状について比較を行
い、首の可動に影響をもたらしている要素を
調べ、首を動かすメカニズムを検討した。ま
た、いくつかの種においては、実際に骨格を
用いて可動域の検証を行なった。
図1
後頭顆と環椎の形態
◇結果と考察
標本の観察・計測の結果、頚椎は計測を行ったほとんどの種において癒合しており、首の可
動はほぼ環椎後頭顆関節が担っていることが確認された。また、鯨類の環椎後頭顆関節の構造
は、種によって大きな差異が見られた。私は、“環椎・後頭顆の長さの差”、“後頭顆の膨ら
52
み”、“環椎の膨らみ”、“左右後頭顆の開き具合”の4つの要素に着目し、これらの要素の差異
により環椎後頭顆関節の動きの違いが生じているのではないかと考えた。そして、それぞれの
要素についての検証と考察を行った。なお、可動域の検討においては、前後屈のみの背腹方向
の可動域に限定し、後頭顆・環椎の凸状・凹状のふくらみは円の弧として計算し理論値を求め
ることとした。
その結果、“環椎の膨らみ”を除く3つの要素は首の可動域との相関関係が見られ、首の可
動に影響を与えていることがわかった。また、それぞれの要素におけるモデル化での検証にお
いても、首の可動に影響を与えていることが確認された。さらに、この3つの要素を数値化し、
その積の値と首の可動域は強い相関関係にあることが明らかとなった。そこでは、それぞれの
要素ごとの関係よりも相関係数が高く、3つの要素が複合して働いていると考えられる。この
3つの要素により求められる数値モデルは、首の可動域を推定する基準・指標として有用であ
り、実際に骨格を用いて検証した実測値との比較においても、一部の鯨類を除き、ほぼ同様の
値を得ることができた。
さ ら に 、 得 ら れ た 数 値 モ デ ル を 市 宿 化 石 標 本 に 適 用 す る と 、 首 の 前 後 屈 可 動 域 23.1 〜
31.7°という推測を得ることができた。
図2
首の前後屈方向の可動
図3
ハクジラ亜目における首の前後屈可動域
◇今後の展望
今後は、ハクジラ亜目の絶滅種において首の可動域の復元を行い、絶滅種における指標の妥
当性を検証したいと考えている。さらに、絶滅種においての指標が有用であれば、ムカシクジ
ラ類も含んだ鯨類の首の可動域を推定し、鯨類の首の進化適応を検討することが期待できる。
また、首の可動域は鯨類の遊泳・摂餌・生態と密接な関係があると考えられるので、化石から
復元を行うことでそれらを明らかにしていきたい。
◇ 主要参考文献
(1) 伊藤春香, 2008:クジラの形態. 村山司(編), “鯨類学”, 東海大学出版会, 78-132.
(2) Michael R. McGowen, Michelle Spaulding and John Gatesy, 2009 : Divergence date
estimation and a comprehensive molecular tree of extant cetaceans, Molecular Phylogenetics
and Evolution 53 (2009) 891–906
53
セミの羽化殻はなぜ集まる?
~フェロモンのような物質の存在を検証する~
内山 龍人(私立水城高等学校 2年)
戒能 洋一 先生(筑波大学応用動物昆虫学研究室)
◇研究の目的・意義
長年に渡りセミの生態について観察
実験を行ってきた中で、アブラセミの
羽化殻が一部箇所に集合している現象
(図1)に気づいた。この現象はフェ
ロモンのような作用を持つ匂い物質に
起因するのではないかと考えた。
一方で、アブラゼミは、羽化期間、
羽化時間帯、羽化場所とも集中する状
況下で一斉に羽化するにも関わらず、
羽化中の個体に羽化場所を探す幼虫が
接触することは、ほとんど無い。
以上の現象を整理すると、
① 羽化殻は他個体幼虫を誘引する
② 羽化中の個体は他個体幼虫を忌避させる 図 1 :一部の木の葉に集合しているアブラゼミの羽化殻
という2つの仮説が考えられる。また、それらの作用の要因となる物質の存在が考えられる。
本研究は、アブラゼミの羽化場所決定に作用する、他個体由来の誘引または忌避物質の存在
と作用を確認することを目的とする。
◇研究方法・結果
実験対象はアブラゼミ
(Graptopsaltria nigrofuscata)と
:空気の流れ
し、幼虫及び羽化殻は高井ら(2013)
に従い種を同定した。
ガラス製のY字オルファクトメータ
ー(以下Y字管)を用い、アブラゼミ
終齢幼虫の選好性を比較した。Y字上
部の一方から試料由来の空気を吸引、
幼
虫
もう一方からはコントロールの空気を
吸引し、下端に当たるスタート地点か
コント
ロール
試料
吸 引
ら羽化前の幼虫を歩かせたときに、ど
ちらへ向かうのか、選択実験を行った
(図2)(筑波大学にて)。
Y字管内部に幼虫の足場となるネッ
図 2:装置の仕組み
トを設置したが、匂いなどの影響を統
一するため、実験1回ごとに交換した。
実験① 幼虫は、羽化殻由来の匂いに誘引されるのか
試料は、羽化後1日の羽化殻×5個を設定し、コントロールはただの空気とした。
54
20個体実験を行い、試料側を、17個体が選択した(p<0.01)。このことから、羽化殻由来
の匂いが、幼虫を誘引することが示された。
実験と同時に、羽化殻の集合現象を統計的に示すための野外調査を茨城県内の3箇所(水戸
市、小美玉市、つくば市)で行い、自然化における羽化殻集合現象の実態を明らかにした。
実験② 幼虫は、羽化中の個体由来の匂いを忌避するのか
試料は、羽化中の1個体を設定した。自然界の状況に近づけるため、試料となる個体は殺さ
ずに、試料を入れるフラスコ内で羽化を継続させる形で行った(当実験では、羽化中の個体と
は、殻が約5mm割れた瞬間から、体が全て殻から出るまでとした)。また、その際に羽化して
いる個体の足場として、ネットも羽化中の個体と一緒にフラスコに入れた。そのため、コント
ロールにも試料に合わせネットのみをいれ、実験を行った。
20個体実験を行い、試料側を、5個体のみが試料側を選択した(p<0.05)。このことか
ら、幼虫が、羽化中の個体由来の匂いを忌避していることが示された。
◇考察
アブラゼミ幼虫が他個体の羽化殻に誘引されることは、先に羽化した個体と同じ場所で羽化
をすることで、自身の羽化の成功率を高めていることが考えられる。
また、セミの場合、羽化中に他個体に接触されれば、表皮に傷が付いて体液が流れ出し、羽
化不全に直結する。さらに、もし羽化中の個体の上で、後から来た個体が羽化を始めてしまっ
た場合、多くは2匹もろとも木から落下し、共倒れしてしまう。つまり、接触する側にとって
も、命を脅かす危険がある。
そのため、アブラゼミの羽化中の個体が発する匂いが,他個体幼虫に対し忌避の作用を持つ
ことは、本種が接触事故を避け羽化の成功率を高めるための機能と考えられる。
◇今後の展望
本研究の実験により、アブラゼミの幼虫が羽化に際し、利用している匂い物質が存在するこ
とを明らかにできたが、今後は、さらにそれら成分の特定までを目指したいと考えている。
また、セミにこのような物質が存在していると明らかになれば、セミに限らず、他にも羽化
の成功率を上げるため同様の匂い物質を有している昆虫がいるのではないかとも考えられる。
なお、セミと同じく半翅目のカメムシの一種は、同じ成分でありながら、濃度によって、異
なる機能(薄→集合・濃→警報)を持つものが知られている(藤崎
2001)。本研究から、ア
ブラゼミが誘引物質及び忌避物質も持っていることが推定されるが、異なる2種類の物質がそ
れぞれ作用を持つ可能性と共に、カメムシ同様、同じ成分の物質でありながら、機能を2つ持
っている可能性も考えられる。最終的には、物質の成分特定をすることまでを目指したい。
◇主要参考文献
高井ら(2013)
日本の昆虫1400(1),文一総合出版
藤崎憲治(2001) カメムシはなぜ群れる? 離合集散の生態学,京都大学学術出版会
本研究を行うにあたりご指導くださった、筑波大学の戒能洋一先生、大学院生の藏滿司夢さ
ん、その他、協力・応援下さった多くの皆様に、お礼申し上げます。
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< ポスター発表 >
ファンプロペラの効率アップ -風を変えるシンプルな表面加工田渕 宏太朗(南山高校男子部 2 年)
担当教員 吉田 恭
◇研究の目的・意義
静音※1 やファン効率(風量×風圧/電圧×電流)(以下効率)の向上を目的として、新たな形状のプロペラ設計が
盛んに行われている。アサギマダラの羽を模した扇風機は、同一回転数において 16 %の風量増加を達成し※2、エ
イの体を模したファンは、翼端流の縮小によって 6 %の効率向上が確認されている※3。
しかし、プロペラの表面に加工を施すことで効率を向上させようという研究はほとんど行われていない。そ
こで、新たな形状のプロペラを設計するのではなく、表面に加工を施すことで、効率を向上させることを目的
に研究を行った。ゴルフボール表面の小さな凹み(ディンプル)は、表面の流れを乱すことで流れの剥離を遅ら
せ、より遠くまで飛ぶようになっている。プロペラの効率を向上させる鍵はこの剥離の抑制にあると考え、溝
やディンプルなど、多種多様の表面加工によって剥離を抑制し、最も効率が上がる方法を模索した。目標は 5 %
以上の効率上昇とし、省エネ効果の高いプロペラの考案につなげたいと考えた。なお、研究はすべて自宅で行
った。
◇研究の方法・プロセス
(1)これまでに作成したプロペラから、効率を上げる加工の共通点を探した。約 120 枚
のプロペラを加工して、正面から 30, 50 cm 離れた位置と、そこから横に 5, 10 cm 離れた位置(風量半径)で風速
を計測(図 1)。回転数は 2000, 3000, 4000 rpm に制御。
(2)計測した風速、電圧と電流を元にそれぞれの風量の計算を行い、効率を計算する。
(3)プロペラの重量の増減が効率上昇の要因ではないことを実証する。
(4)効率が上がる加工が有効かどうかを調べるため、形の違うプロペラでも実験を行う。
(5)効率の高いプロペラについては、自作風洞を用いてプロペラ周りの流れを可視化する。
◇結果と考察
計測した風速、電圧、電流を基に、以下の式を用いて効率 η を算出。風圧は全圧とした。
ρ=空気の密度、R=風量半径、V0=正面風速、V1=中心から 5 cm もしくは 10 cm の風速、V=電圧、I=電流を示
す。
𝜂=
𝑉0 3
3
1
−𝑉0 2 (𝑉0 −𝑉1 )+ 𝑉0 (𝑉0 −𝑉1 )2 − (𝑉0 −𝑉1 )3 }
2
4
5
𝜋𝜌𝑅2 {
𝑉×𝐼
●グラフの横軸はレイノルズ数(Re)、縦軸はノーマルプロペラの最大全圧効率に対する比
率 η※で整理した。
●オモテ面はプロペラが空気を吐き出す方向、ウラ面はプロペラが空気を吸い込む方向。
●前縁部とは、プロペラが回転する方向にある羽根のエッジ。後縁部は、その逆方向のエ
ッジを示す(図 2)。
■Grooved fan1:オモテ面に前縁部と後縁部からの距離の比が 3:1 になるように幅 2 mm×深さ 0.7 mm の溝を掘
ったもの ■Grooved fan2: ウラ面に前縁部と後縁部からの距離の
56
比が 3:1 になるように幅 2 mm×深さ 0.7 mm の溝を掘ったもの
【実験 1】 凸加工と凹加工はどちらが有効か?
凸加工のプロペラは、10 %ほど効率が下がる結果となった。物体の表面では流速(流れの速さ)が 0 になり、ある
ところまで行くと流速が一定となる。この変化する区間を境界層といい、その厚さは次式で求められる※4。
𝛿
𝑙
≈
1
√𝑅𝑒
δ=境界層厚さ、l=物体の長さ、Re=レイノルズ数を示す。
計算したところ、境界層の厚さ δ は 135 μm となった。実験には直径 3 mm の針金を使用したため、境界層を超
えて、層流(境界層の外側=流れが整っている)部までをも乱している可能性が高いことがわかった。
【実験 2】 プロペラにつける溝を、より深く、より幅を広くすれば効率は上がるか?
Grooved fan2 と同じ位置に深さと幅が異なる溝を加工し、それぞれの効率を比較した。溝の深さと幅は、深さ
0.7 mm×幅 2 mm、深さ 0.3 mm×幅 1 mm とした。結果、溝の幅が広く、深い方が 2 %効率が良かった。これ
は、溝が大きくなったことで渦が大きくなり、流れの剥離をより抑制できるからでは
ないかと考えられる。
【実験 3】 オモテ面とウラ面のどちらへの加工が効果的か?
オモテ面とウラ面に加工を施したプロペラの中で、それぞれ最も効率があがったプロ
ペラの効率を比べた。結果、ノーマルプロペラの最大効率点(Re=1.77×104)を 100 %と
した場合、Grooved fan1 は 132 %、Grooved fan2 は 121 %という結果になった(図 3)。
オモテ面への加工によって、プロペラの前後間の圧力差(プロペラは翼の集合体のため、それぞれの翼の後面が前
面よりも圧力が低下し、プロペラの前から後ろへ流れる翼端流が発生する)を減らしたことが効果的だったのでは
ないかと考えた。
【実験 4】 プロペラ前縁部と後縁部、どちらへの加工が効果的か?
航空機のボルテックスジェネレーターは、流れの剥離を抑制し、失速を防ぐ目的で翼の前縁部に付いている。そ
こで、前縁部への加工が有効かどうかを試した結果、オモテ面加工の場合、前縁部への加工をしたプロペラはノ
ーマルプロペラの最高効率に比べ 21 %効率が向上したのに対し、後縁部に近い位置に加工をしたプロペラでは
32 %の効率向上という結果になった。前縁部よりも後縁部への加工が効果的であると結論付けた。
【実験 5】 剥離を抑制するには、剥離点付近に加工を施せば良いのではないか?
剥離点(流れが剥離する位置)の可視化を風洞を用いて行った。すると、流れが剥離を始めるポイントは、Grooved
fan2 に加工した位置とぴったり重なる結果となった。これより、剥離点付近、または剥離点よりも前に加工を施
すことが最適であると結論付けた。
【実験 6】 オモテ面への加工は翼端流を抑制するか?
オモテ面の適切な位置に加工を施した際、効率が 30 %も上昇した。これを翼端流が抑制されたことに起因する
と結論付けたが、その流れを確認するために、風洞を用いて可視化実験を行った。その結果、ノーマルプロペラ
と Grooved fan1 では、発生する渦の大きさに違いがあることが確認できた。これより翼端流は確かに抑制され、
効率の向上につながったと考えられる。
図 4:ノーマルプロペラ
図 5:Grooved fan1
図4
図5
【実験
7】 この実験で有効な加工法は、他のプロペラでも効果的か?
小型の
6 枚羽根プロペラを加工して効率を調べた。結果、Grooved fan3 で
Re=1.17×104 時に 20 %の効率向上が認められた(図 6)。
■Grooved fan3:
ウラ面
に前縁部と後縁部からの距離の比が 1:3 になるように幅 0.2 mm×深さ
0.1 mm
の溝を掘ったもの ■Grooved fan4:ウラ面に前縁部と後縁部からの距
離の比
が 3:1 になるように幅 0.2 mm、深さ 0.1 mm の溝を掘ったもの
【実験 8】 効率が上がるのは、プロペラを加工することで重量が軽くなることが原因ではないか?
57
重さが 7.53 g のノーマルプロペラと、7.63 g の加工済みプロペラでは、加工済みプロペラの方が重いにも関わ
らず 10 %の効率向上が認められた。加工によって軽くなったプロペラの重量変化は平均−0.02 %であるため、
加工による重さの減少は効率上昇には影響しないと結論付けた。
◇今後の展望
5 %以上の効率上昇を目指した研究であるが、2 桁の効率上昇が実現できた。現在扇風機のプロペラにもこの
加工を行い、効率上昇が可能かどうかを検証中である。今後はこのファンプロペラの効率上昇を実現するシン
プルな表面加工方法を確立し、あらゆるファンプロペラに応用する道を探りたい。
◇主要参考文献
1.日本機械学会論文集B編 第725号・2006年3月 小型軸流ファンの性能と騒音に関する実験的研究 2.シャープ技報 第105号・2013年7月
生物模倣応用による家電製品の価値創造 3.ターボ機械 第480号・2015年1月 空調用プロペラファンの効率向上技術に関する開発事例 鄭
志明 4.日本航空宇宙学会編 (2016) 『空気力学入門』 丸善出版
58
擬似微小重力環境下におけるトマトの成長
高瀨 由杏(國學院高等学校 2 年)
担当教員 横谷(富田)香織先生(筑波大学)
◇研究の目的・意義
これまで私が 3 年間行ってきた擬似微小重力環境におけ
るスプラウトの生育実験で、擬似微小重力環境は、植物の成
長や茎と葉の形態に変化を与えることを観察し確認してき
た。これは、茎と葉の間でエネルギーの配分が、擬似微小重
力環境で変化したことによる可能性があると仮説を立てた。
当時調べた先行研究の中で、富山大学の神阪盛一郎が代表研
究者を務めた「微小重力環境における高等植物の生活環
(Space Seed)」研究(2009)において、シロイヌナズナが
宇宙の微小重力環境下で、正常な生活環(種子の発芽から結
実採種まで)を完了できることを知った。では、日頃口にしている果実を作る作物も生活環は
完成するのかについて興味を持ち注目した(図 1)。重力環境の変化が果実の生育にどのような
影響があるのか、果実を作り種子を採取出来て生活環が完了するかどうかについての詳細はま
だ分かっていない。2030 年代には有人火星探査が予定されている今、人間が宇宙に長期滞在す
る時の食料の確保は大きな課題となる。本研究は、矮性のトマト種を実験材料として用い、微
小重力環境下で果実を作る作物の生活環を成立させるための基礎研究として、自作の 2 軸クリ
ノスタットで作出した擬似微小重力環境が矮性トマトの成長過程にどのような影響を与えるの
かを、まず詳細に検証した。
◇研究の方法・態度
生物材料として、筑波大学遺伝子実験センターより提供を受けた矮性品種マイクロトムを発
芽させ、本実験に用いた。栽培の様子を図 2 左写真に示す。栽培環境は 25~28℃に保つため、
温室(冬季:サーモスタット付ヒーター利用、夏期:保冷材利用)を使用した。栽培環境内の
空気の循環を行うために、小型送風機を使用した。7:00 から 23:00 の 16 時間 LED ライトに
よる光照射を行った(赤色 LED8 灯:620 nm、青色 LED3 灯:465 nm)。培土として固形土培地(み
のる産業、元肥の固形肥料入)を用いた。毎朝 50 mL の水と週に 1 回の液肥 50 mL を、地上対
照(1G 環境)および擬似微小重力環境(μG 環境)各A,B2 グループで栽培したポットに与
えた。3D クリノスタット(自作)は縦軸回転枠、横軸回転枠、ターンテーブル 2 個(充電池、
1.3 回転/分)、LED ライト(ブレッドボードに LED 電球 11 灯、充電池)を使用した。植物の高さ、
収穫時の実の重さ、直径、個数、種の個数を観察項目とし、目視、あるいは定規およびノギス
を用いて計測した。成長過程の茎や葉の形態と実の断面の観察も行った。
59
◇考察と成果
植物が成長するためのエネルギーは、根からの水や栄
養分の吸収、光合成による糖分の合成など、多くの代謝
が体内で行われて、花が咲き結実して種が出来きて次世
代へ繋がる生活環が営まれる。微小重力環境でトマトを
栽培すると成長過程で、茎や葉に湾曲や捻じれが生じ、
葉張り(水平投影面積)が減少する等の明らかな形態変
化が認められた(表1および写真1)。また、微小重力環
境で栽培した場合、実の収穫までの期間が地上対照と比
較して時間を要し、地上部の高さが低いこと、葉の枚数の減少、実が出来ても小さく軽く数も
少ないことがわかった(表2)。また、実の中に種は出来ていなかった。調べた全ての項目で抑
制傾向を示した。これらの原因の 1 つとして栄養分の吸い上げる力や光合成による養分生産量
の減少が考えられる。実が十分に成長するまでは養分が行き渡らなかった為に実の成長が途中
で止まったためだと考えられる。
◇今後の展望
本研究の概要を図 3 に示す。高等植物が、微小重力環境下で生活環を成立させて人間が宇宙
環境で作物生産ができるようにするために、必要な環境条件を探索してきた。これまでに私が
行ったトマトを用いた実験で、擬似微小重力環境下で、種子を作る正常なトマト果実をまだ得
ていない。この原因として、環境条件の設定に何らかの問題がある可能性が考えられたことか
ら、現在、トマトの葉が得られる光条件がより一定になるようにして進めている。私は本研究
の予備実験時に、実の生り方や葉の形態の違い(写真 2 )など、新たな発見をしている。これ
は植物が根から得る栄養成分の違いも考えられる。今後、植物が生育過程で得ている栄養素の
変化にも注目し、微小重力環境で植物の必要な栄養が十分に得られているのかの研究にも繋げ
ていきたい。また、細胞レベルの観察を加えて、種子形成が完了する環境条件を模索して現在
も実験中である。
◇主要参考文献
Space Seed(微小重力環境における高等植物の生活環)
60
神坂盛一郎
植物ホルモンのジベレリンとオーキシンが花粉管に与える影響
大輪 奏太朗 筑波大学附属駒場高等学校 高 1
佐藤 忍先生
研究の目的・意義
私は植物ホルモンにとても興味を持っている。勉強するうちに花粉に対する植物ホルモンの作
用が教科書・参考書に記載されていなかったので、花粉は植物ホルモンの影響を受けているのか
と疑問に思った。調べてみると、ジベレリンは花粉管伸長を促進すると書いてある文献もあれば、
ジベレリンを与えると花粉管伸長が抑制されると書いてある文献もあった。ジベレリンは種無しブ
ドウの生産によく使用されているが、その作用メカニズムは未だ不明な点が多く、花粉管伸長に対す
る効果もよく分かっていない。促進と抑制どちらも起こりうるというのが興味深かったため、本研
究では、植物ホルモンと花粉の関係について明らかにすることを目的とした。
花粉の性質・測定手法
・スクロースを与えると花粉の発芽(花粉管が伸長しはじめ、花粉から花粉管が
出てくること)
、花粉管の伸長が盛んに起こる。この花粉管の伸長を顕微鏡で観察
した。
・花粉の発芽率は「発芽した花粉数/観察した全花粉数×100(%)」で示す。
花粉管↑
・花粉の散布密度により発芽率が異なると書いてある文献がある。そこで今後
の実験を進めるうえで花粉の散布密度の差による結果の差が出てしまうことを
防ぐための予備実験を行った。アフリカホウセンカの花粉を使用した結果、密
度が高いほど発芽率が高いが他の複数の花粉と接しているなど過度に密度が高
いと逆に発芽率が低くなるということが分かった。この結果を受けて、今後の
実験では他の花粉と接していなく、かつ一番近い花粉との距離が 50 μm 以下
(花粉の長さ=約 50 μm 弱)の位置にある適度に密度の高い条件下にある花粉
を測定対象と定めた(図 1)
。
測定手法
図 1 観察対象に選んだ花粉
・ヤブツバキの同じ花から採取した花粉を用いた。これは花粉の質を揃えるためである。
・測定の時間は結果に影響が出ない時間の範囲内で行った。
・図 1 の条件の花粉において発芽率を測定した。
・花粉管の長さについては、線上に固めて花粉をまいて伸長した花粉管の長さを測定した。
仮説
ジベレリンを与えると花粉管伸長の促進、抑制どちらも起こりうるということから、
「花粉管伸
長はジベレリン濃度の違いによって制御されている」のではないかと考えた。
実験方法 それぞれの実験には寒天培地(スクロース濃度約 10 %)を用いた。それぞれの条件の区
間を 3 つずつ用意し、発芽率の平均値及び標準偏差を得た。ジベレリンは、種無しブドウの育成
等の産業に利用されている GA3 を用いた。オーキシンは、天然のオーキシンであるインドール酢酸が
不安定で保存しにくいので、安定で入手しやすい 2,4-D を用いた。濃度の異なるオーキシンとジベ
レリンを組み合わせて与えた。オーキシンの溶媒はエタノールであるためオーキシンを加えてい
ない対照区では 30 μl エタノールを加えた。培地に花粉を撒いて 40~45 分後に発芽率を、20 時
間後に長さを測定した。花粉はアフリカホウセンカを使用した。
61
結果
高濃度のジベレリンのみを与えた場合では、発芽率や花粉管の長さは通常条件と大きな差はな
かったが、低濃度のオーキシン存在下ではジベレリンを高濃度与えると抑制がみられた。
考察 以上より、花粉に含まれている(人為的に与えたものも含む)オーキシンの量によって、
ジベレリンの影響の出方も変わると考えられる。同じ種類でも花の状態によって花粉へのホルモ
ンの影響の出方、影響の大きさが違ったのはこのためかもしれない。また、内生オーキシンの量
によっては、ジベレリンが花粉の発芽、伸長を促進することがあるかもしれない。
今後の展望 植物ホルモンを外から与えるだけではホルモン本来の働きが分からないので、植物
ホルモン合成阻害剤等を使った実験を計画している。また、めしべに付けた花粉の発芽や花粉管
伸長に対する植物ホルモンの影響も調べていきたい。最終的には、花粉の性質の一端を明らかに
し、ブドウ以外の種がない作物の作成等を試みたい。
主要参考文献:植物の生殖についての指導の工夫(https://gen1.open.ed.jp/data/51556/01.pdf)、
日本植物学会(http://link.springer.com/article/10.1007/s10265-013-0623-x)
、
絵を見てできる生物実験 岩波洋造、森脇美武 講談社 p90, 91
62
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