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温泉地帯の道路計画における地温探査の利用例
全地連「技術 e-フォーラム 2002」よなご 【65】 温泉地帯の道路計画における地温探査の利用例 基礎地盤コンサルタンツ㈱ ○佐々木 竹友 勝 暢和 1.はじめに 雲仙岳ふもとに位置する雲仙温泉は,古くから観光 客で賑わっている温泉街である。この雲仙温泉から 千々石町へと通じる県道雲仙千々石線で道路改良計画 が進められている。計画区間のうち,起点(雲仙温泉 街)側では「地獄」と称される噴気ガスや温泉が噴出 している箇所が所々に認められている(写真-1)。 調査位置 図-1 写真-1 高温ガスの噴出状況 島原半島の地質 古期雲仙火山岩がその後の火山活動によって熱水変質 過去には建造物の改築現場で熱湯と噴気ガスが噴出 を受けた変質帯であることが特徴であり,完全に土砂 し,作業員が死亡する事故が起きている。また,雲仙 化している状況(温泉余土)が露頭として多くの地点 温泉の泉質は火山性の高温酸性硫酸塩泉のため,温泉 で確認できる。 水に含まれる硫酸イオン(SO42-)などの成分がコンク リートや鉄筋を劣化させる恐れがある。そのため,温 3.1m 深地温探査 泉地帯の道路計画において安全に調査・施工を行うた 温泉の分布を確認するために 1m 深地温探査を行っ めには,事前に温泉分布を把握しておく必要がある。 た。測定では,ボーリングバーを使用して地表から 1m 今回は 1m 深地温探査を用いて温泉地帯の地温分布の 穿孔し,孔中に温度計を挿し込み,地温の測定を行っ 把握を行い,温度検層によって道路計画に伴う構造物 た。測定点は計画道路測点 No.0~No.25 区間の計画道 の設計・施工における危険性の評価を行った。 路沿いに隣接した箇所で 10m 間隔を基本として設定し た。 2.地形・地質概要 雲仙岳がそびえる島原半島は東西 15km,南北 30km 1m 深地温探査によって得られた地温分布を図-2 に 示す。探査結果より,以下の情報を得ることができた。 の広さを持ち,典型的な扇状地を持つ火山地形を呈し ている。また,島原半島の中央部は火山性陥没地溝で ①定点観測の結果,調査地域付近の調査期間中の温泉 あり,雲仙地溝と呼ばれている。断層の配列は東西方 の影響を受けない地点における平常 1m 深地温は 向に顕著であり,今回の調査地域の北側には別所断層 20℃前後と確認できた。 に属する鴛鴦(おしどり)ノ池断層が計画ルートに沿 って確認されている。図-1 に島原半島の地質図を示す。 調査地域の地質は,雲仙岳の基底火山砕屑岩類とそ の岩砕なだれ堆積物からなる古期雲仙火山岩を基盤岩 としており,調査地域の全域で露頭として確認するこ とができる。特に,調査地域付近に分布するものは, ②図-2 の中央付近(測点 No.9~No.12)で 70℃以上の 非常に高い地温分布を示している。 ③鴛鴦(おしどり)ノ池に流れ込む湯の里川に沿うよ うにして 40℃以上の分布が見られる。 ④②③より 40℃以上の高温度帯が中央部を中心に南東 ~北西方向に分布していることが確認できる。 全地連「技術 e-フォーラム 2002」よなご ⑤測点 No.1+15 付近でも 30℃近い値が得られている が,聞き込み調査の結果,温泉ホテルへ引き込まれ ている温泉の管路が直下を通っており,高温ガス等 るが,施工の際には熱湯や高温ガス噴出の危険が想定 される地域である。 ボックスカルバートに用いる材料は,通常のコンク リートでは噴気ガス等によってコンクリートおよびコ には無関係であると判断できる。 ンクリート内部の鉄筋の腐食により構造破壊すること 熱源である温泉水は,岩盤の亀裂(弱線)に沿って が懸念される。初期投資は高くなるが,維持管理を含 あがってくるものと考えられるため,調査地域に分布 めたライフサイクルコストで考えると,耐酸性のコン する断層に大きく関係していると考えられる。既存調 クリートを使用することが最適と言える。 査により,調査地域の北側には鴛鴦(おしどり)ノ池 ②の中温地帯では,高温地帯ほど温度勾配は高くな 断層が存在していることが確認されているが,これに いが,地表部の地温は高温地帯と近似しており, 伴う小規模な断層が上記④の高温地帯に沿って存在し G.L.-10m 以深では温度勾配が上昇している。設計・施 ていることが推測できる。 工を行う際には十分な注意が必要である。 4.ボーリング調査と温度検層 ものと思われる。 ③の箇所に関しては,温度に関しては特に問題ない ボックスカルバートおよび擁壁の計画箇所を中心と してボーリング調査を実施し,標準貫入試験・孔内水 5.まとめ 平載荷試験・室内土質試験を行い構造物支持地盤の強 今回,温泉地帯での道路計画における危険性の評価 度の確認を行った。なお,ボーリング調査に際しては, を行う上で,1m 深地温探査,温度検層が有効なツール 簡易ガス測定を実施してボーリング時の安全管理に努 になり得ると判断できた。今後はこれらの結果をもと めた。原位置試験・室内試験の結果,構造物支持地盤 に,いかに定量的な評価を与えることができるかが課 と想定される深度では,変質を受けやや軟化している 題である。 ものの,支持地盤としては問題ないものと判断できた。 最後に,本稿を執筆するにあたり,調査成果の利用 また,ボーリング孔を利用して温度検層も実施した。 を快諾していただきました長崎県島原振興局の関係者 温度検層は,1m 深地温結果より高温帯が分布していな 各位に対し,厚く御礼申します。 いと判断される No.1 孔を除き,No.2~No.7 孔におい て実施した。ボーリング位置を図-2,温度検層結果を 0 10 20 地 温 (℃) 30 40 50 60 70 80 0 図-3 に示す。 2 温度検層の結果,地温と温度勾配により以下のよう 4 に分類することができた。 No.2 孔,No.3 孔 ②中温地帯 No.5 孔 ③低温地帯 No.4 孔,No.6 孔,No.7 孔 深 度 (m) ①高温地帯 6 8 10 No2 No3 No4 No5 No6 No7 12 14 16 18 ①の高温地帯は温度勾配が非常に高く,G.L.-10m 付 20 近で 80℃近くまで地温が上昇している。 この No.2 孔, No.3 孔付近ではボックスカルバートが計画されてい 図-3 温度検層結果 Bor No.1 Bor No.2 Bor No.3 Bor No.4 Bor No.5 Bor No.6 図-2 地温分布図 Bor No.7