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報告書要約(和文) - 日本貿易振興機構

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報告書要約(和文) - 日本貿易振興機構
平成 25 年度
エネルギー需給緩和型インフラ・システム普及等促進事業
(円借款・民活インフラ案件形成等調査)
ベトナム・ランドン省における小水力発電開発プロジェクト調査
【要約】
平成 26 年 2 月
経
済
産
業
省
新 日 本 有 限 責 任 監 査 法 人
独立行政法人日本貿易振興機構
委託先 :
株式会社インダストリアル・ディシジョンズ
北電総合設計株式会社
(1) プロジェクトの背景・必要性等
1) プロジェクトの背景
ベトナムにおいては、今後の高い経済成長による急激な電力需要の増加に備え、安定的な電力供給体
制の構築が重要な課題の一つに挙げられている。ベトナム政府は、2011 年 7 月に同国の電源開発計画で
ある第 7 次国家電力マスタープランを策定し、今後 20 年間の開発計画を打ち出した。また、同時にベ
トナム国内のエネルギー資源の有効活用、および持続的な発展に向けて、2030 年までに再生可能エネル
ギー発電の総発電電力量に占める割合を 6%まで増加させる事を、第 7 次国家電力マスタープランの数値
目標の一つとした。
ベトナム政府により再生可能エネルギーへの投資促進政策が実施されていることを背景に、各省の人
民委員会にて多くの小水力発電プロジェクトが計画されている。本調査の対象であるダイビン(Dai Binh)
小水力発電プロジェクトは、ランドン(Lam Dong)省の人民委員会によって計画された小水力発電プロ
ジェクトの一つである。
一方で、ある中規模水力発電所のダム決壊懸念を契機にベトナム政府の下で水力発電計画の見直しが
なされ、ベトナム国内の全小水力発電プロジェクトの約 40%が計画除外(開発中止)となる見通しであ
る。ランドン省では、開発事業者の不在、低い経済性、環境への悪影響などの事由により、当初計画さ
れていた 79 の小水力発電プロジェクトのうち、46 プロジェクトが計画除外となる見通しである。しか
しながら、今次調査対象のダイビン小水力発電プロジェクトは、ランドン省の小水力開発計画から除外
されることはなく、ビントイランドン水力発電株式会社(Binh Thuy Lam Dong Hydroelectric JSC.、
以下「BTLD」と記す。
)の下でプロジェクトが推進されている。
2) プロジェクトの必要性
ベトナム政府により再生可能エネルギー発電に対し各種の投資インセンティブが実施されているも
のの、電力売電単価に対し開発費用が高く経済的合理性を欠いた風力発電、バイオマス発電の開発は難
しい状況である。ベトナム政府としては、現在の電力売電単価水準、技術水準であっても民間企業によ
る開発が可能である小水力発電の開発を進めつつ、ポテンシャルを有す風力発電やバイオマス発電の割
合を将来的に増やしていく事を企図している模様である。
また、2017 年から 2019 年において南部エリアでは電力不足が生じると予想されており、ベトナム政
府はその対応策を検討している。北部エリア、中部エリアの電力系統に接続する地域に小水力発電プロ
ジェクトの計画が集中する中で、ダイビン小水力発電プロジェクトは、電力不足が懸念される南部エリ
アの電力系統への接続を予定している。北部エリア、中部エリア、南部エリアを結ぶ連系線の容量が限
られている状況下、ダイビン小水力発電プロジェクトは南部エリアの需給安定に貢献する電源であり、
必要性が高いものと考えられる。
(2) プロジェクトの内容決定に関する基本方針
ダイビン小水力発電プロジェクトは、既述の通り、ランドン省の小水力開発計画に記載されており、
第 7 次国家電力マスタープランの開発方針、また、同省の政策ニーズとも合致する。加えて、電力不足
が懸念される南部エリアへの電力供給を行う予定である必要性が高い小水力発電プロジェクトと考え
られる。
同プロジェクトの実施可否を左右する許認可取得などに関しては既に対応済みであるが、既存調査を
基に以下の点について調査した。

現地調査を踏まえたプロジェクトサイト周辺の環境社会的側面の検討

発電可能電力量の検討

土木構造物および電気設備の基本設計の妥当性検討

本邦技術、ノウハウの活用可能性検討
上述の調査の結果、現在計画されているプロジェクトの内容に特段の問題が無いこと、および本邦技
術、ノウハウが技術力、価格競争力の面で優位になり得る可能性が高いことを確認した。具体的な優位
性については、
「(6) 我が国企業の技術面等での優位性」に記載した。
(3) プロジェクトの概要
1) プロジェクト概要および事業総額
a) プロジェクト概要
ダイビン小水力発電プロジェクトは、BTLD によるランドン省に位置するダイビン(Dai Binh)川に建
設予定のダム式・調整池式小水力発電所の開発案件である。発電された電力は、南部エリアの送配電事
業者であるベトナム南部電力会社総公社(EVN Southern Power Corporation 、以下「EVNSPC」と記す。
)
へ供給される予定である。表 1 にプロジェクトの概要、表 2 に発電諸元を記す。
表 1 ダイビン小水力発電プロジェクトの概要
プロジェクト名
実施事業者
プロジェクトサイト地
ダイビン小水力発電プロジェクト
ビントイランドン水力発電株式会社
ランドン省バオロック(Bao Loc)市、およびバオ
ラム(Bao Lam)郡
発電設備容量
想定発電電力量
発電方式
接続先の系統
13.4MW(6.7MW×2)
年間約 52.9GWh(設備利用率 45.0%)
ダム式・調整池式
南部エリアの電力系統
出典:調査団作成
表 2 ダイビン小水力発電プロジェクトの発電諸元
項
目
諸
元
水系
ダイビン川
流域面積
984 km2
河川流量
2 箇所の雨量データから推計後、1977~2008 年の平均で算出
平
均
44.74 m3/s
最大量 270.01 m3/s
発
電
計
画
豊水量
62.79 m3/s
平水量
25.99 m3/s
低水量
10.65 m3/s
渇水量
4.62 m3/s
最小量
3.31 m3/s
発電方式
ダム式・調整池式
取水位
標高(Elevation、以下「EL」と記す。):705.000 m
放水位
EL:684.935 m
総落差
20.065 m
有効落差
19.060 m
使用水量
86.92 m3/s
出力
13,400 kW
年間可能発電電力量
52,880 MWh
ダム
高さ 22.0 m
堤頂長 122.243 m
設
(コンクリートダム 30.000m、フィルダム 92.243 m)
洪水吐
幅 12.0 m×2 門、越流頂 EL:691.0 m
取水口
高さ 3.65 m、幅 6.68 m×2 門
水圧管路
高さ 3.65 m、幅 6.68 m、長さ 20.00 m×2 条
発電所
半地下式
放水路
幅 19.50 m、長さ 16.44m
水車形式
立軸カプラン水車×2 台
発電機容量
6,700kW×2 台
河
河川維持流量
なし
川
設備利用率
92.8 %
利
河川利用率
44.8 %
備
概
要
用
出典:調査団作成
b) 事業総額
ダイビン小水力発電プロジェクトの事業費合計は 3,250 億 VND(約 15 億 2,000 万円1)となる見込み
である。事業費の内訳について下表に示す。
表 3 ダイビン小水力発電プロジェクトの事業費内訳
事業費
ベトナム現地通貨(100 万 VND)
日本円(100 万円)
建設工事費用
161,755
757
発電設備費用
80,267
375
3,785
18
土地収用費用
20,000
94
その他費用
19,086
89
建中金利費用
40,106
188
合計
325,000
1,520
技術コンサルティング、
スーパーバイザー費用
出典:調査団作成
2) 予備的な財務・経済分析の結果概要
資金調達においては、シニアローン 60%、メザニンファイナンス 10%、エクイティ 30%と想定し、ダイ
ビン小水力発電プロジェクトの事業計画(損益計算書、貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書)を策
定した。想定通りの運営を行うことが出来れば、安定的な売電収入を原資としてプロジェクトを推進す
ることが可能なものと考え得る。
また、当事業計画を基にダイビン小水力発電プロジェクトの財務的内部収益率(Financial Internal
Rate of Return、以下「FIRR」と記す。
)
、経済的内部収益率(Economic Internal Rate of Return、以
下「EIRR」と記す。
)を算定し、財務、経済分析を行った。また、財務、経済分析に当たっては、それ
ぞれ、正味現在価値(Net Present Value 、以下「NPV」と記す。
)、および費用便益比(Benefit / Cost 、
以下「B/C」と記す。
)を算定した。財務、経済分析の結果をそれぞれ表 4、表 5 に示す。
1
2013 年 10 月 31 日時点のベトナム工商銀行の為替レート 213.78VND/円 を用いて日本円に換算。
表 4 財務分析における投資効率性
項目
指標
FIRR
12.8%
NPV
662 億 3,500 万 VND(約 3 億 1,000 万円)
B/C
1.21
出典:調査団作成
表 5 経済分析における投資効率性
項目
指標
EIRR
24.3%
NPV
2,395 億 1,600 万 VND(約 11 億 2,000 万円)
B/C
1.98
出典:調査団作成
ダイビン小水力発電プロジェクトの FIRR はベトナム 10 年国債利回り 8.85%2を上回り、また、EIRR
は世界銀行、アジア開発銀行などの国際機関で活用されている一般的な社会的割引率 10~12%を上回る。
また、FIRR、EIRR それぞれの NPV、B/C が財務・経済分析に用いられる一般的な投資判断基準3を満たし
ており、財務的、経済的な双方の観点から同プロジェクトへの投資の妥当性があると言える。
3) 環境社会的側面の検討
ダイビン小水力発電プロジェクトの実施による環境への影響について、現地における自然環境や社会
環境の現状を把握するとともに、ベトナムにおける環境社会配慮関連法規等の状況について確認した。
現地調査、および環境社会影響項目の洗い出しを行った結果、重大な環境負荷や社会への負の影響は
認められない。しかしながら、湛水範囲でのコーヒー農園等の農地補償は数世帯において完了していな
いため、引き続き事業者と対象農家との交渉が必要である。また、湛水後 1~3 年の間は、湛水部で腐
食する植物に起因する水質の悪化が予測されるため、湛水範囲の植物の除去および水質モニタリングの
実施が必要である。
環境保護法の下で、ダイビン小水力発電プロジェクトは既に環境影響評価を実施しており、ランドン
省人民委員会より承認を得ている。今後、プロジェクトを実施する上で、上述の農地補償を実施すると
共に、ダム・貯水池の安全性に関する証明書、ダム・貯水池の運用方法に関する承認、水資源活用に関
する許可、電力事業の許可の取得が必要である。
2
出典:Investing.com、2013 年 10 月 31 日のベトナム 10 年国債利回り
3
投資判断基準:NPV>0、B/C>1.0
(4) 実施スケジュール
ダイビン小水力発電プロジェクトの実施スケジュールは、図 1 に示す通り、建設期間は 20 か月間を
予定しており、試運転を経て 2016 年の第 2 四半期から営業運転を開始する見通しである。
図 1 ダイビン小水力発電プロジェクトの実施スケジュール
項目
2014 年
3
6
9
2015 年
12
3
6
9
2016 年
12
3
6
① 運用に関する許認可・PPA4の取得
② 設計
③ 資金調達
④ 建設工事・試運転
⑤ 営業運転開始
▼
出典:調査団作成
4
電力購入契約(Power Purchase Agreement、以下「PPA」と記す。
)
9
(5) 実施に関するフィージビリティ
ダイビン小水力発電プロジェクトは、ランドン省の政策ニーズとも合致し、電力不足が懸念される南
部への電力供給を行う予定であることから、地域経済に必要性が高い小水力発電プロジェクトと考えら
れる。同プロジェクトの実施可否を左右する許認可取得などの点は対応済みであるが、貯水池用地内の
農地使用権保有者との土地補償に関する交渉、金利上昇時などの追加的な資金の確保について、BTLD と
の協議が必要となる。
1) 農地使用権保有者との土地補償に関する交渉
発電所、およびダムの建設予定地については既に農地使用権保有者への補償が実施されており、建設
工事を開始できる状況にある。しかしながら、貯水池用地の一部の農地使用権保有者と補償金額につい
て合意に至っておらず、今後、農地補償者と BTLD の協議の進展について確認していく必要がある。
2) 金利上昇時などの追加的な資金の確保
2013 年 10 月末時点の金利水準、および事業費総額の想定の下で、財務、経済分析を行った結果、ダ
イビン小水力発電プロジェクトへの投資が妥当であることが示された。しかしながら、ベトナム地場銀
行の貸し出し金利は変動金利が一般的であり、BTLD は金利変動リスクを負うことになる。また、ダイビ
ン小水力発電プロジェクトの建設工事請負契約の契約金額は固定価格(Fixed Lump-sum)ではないため、
資材価格の上昇により事業費総額が増額するリスクがある。これらのリスクが顕在化しプロジェクト資
金が不足する際の備えとして、余剰資金の確保が必要である。本調査の結果を BTLD に対して説明済み
であり、プロジェクト実現に向けて協議を行う予定である。
(6) 我が国企業の技術面等での優位性
日本企業は以下に示す技術面、価格面、資金面の観点から優位性があると考えられる。ベトナムの発
電事業への民間企業の参入は既に自由化されている。外資企業が発電事業へ新規参入する場合であって
も、統一企業法第 8 条 3 項により、発電事業者と委託先企業による、技術関連、資金調達に関する随意
契約をもって、事業を推進することが出来る。本調査を通しダイビン小水力発電プロジェクトの開発に
調査団が参画したことにより、今後予定されている小水力発電プロジェクト(発電設備容量 21.6MW)へ
の参画も期待でき、日本企業のベトナム小水力市場への参入促進に貢献するものと考えられる。
表 6 我が国企業の技術面等の優位性
項目
優位性
技術面

国内外で豊富な水力発電調査、計画、設計の実績

遠隔監視システムによる効率的な広域保守体制構築

水理シミュレーションによる水車、発電機効率の最適化

技術革新による合理的な機器、装置の提供

長寿命、メンテナンスサイクルの長期化に伴うランニングコストの低減により、
価格面
相対的に高いイニシャルコストを吸収し、トータルコストを抑制

我が国企業の海外拠点にて各種機器を製作・納品することによる、イニシャルコ
スト自体の低減
資金面

自己資金が不足している開発事業者への支援策として、メザニンファイナンスな
どを活用したファイナンススキームを構築
出典:調査団作成
(7) 調査対象国内での事業実施地点が分かる地図
ダムサイト
出典:LAM DONG PORTAL Management agency center manage electric information, of the department
information and communications より調査団作成
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