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2008結核予防週間レポート

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2008結核予防週間レポート
2008結核予防週間レポート
9月24日から30日までの結核予防週間を中心に,「全国一斉複十字シール運動キャンペーン」が実施され,
全国各地で工夫をこらした活動が繰り広げられました。各地の活動の一部を紹介します。
北海道
ここで会ったのが運の・・
石 川
タクシーの運転手さんも熱心に話を
聞いてくださいました
滋 賀
支部長自ら街頭に立って資材を配布しました
福 岡
複十字シール運動キャンペーンにご協力
いただいた婦人会の皆さん
青 森
雨にも負けず頑張るシールぼうや
愛 知
イベント会場において,
無料結核検診を実施しました
奈 良
シールぼうやと握手しましょう
熊 本
シールぼうや,ケッカクってなあに?
岩 手
盛岡市女性団体協議会のみなさんに
ご協力いただき,募金を呼びかけました
三 重
おそろいのシールぼうやTシャツで
複十字シール募金を呼びかけました
愛 媛
シールぼうやのビニール袋と風船を
もらってうれしいな
鹿児島
募金箱をはさんで笑顔が広がります
Message 世界の結核対策に対する日本の貢献
厚生労働省大臣官房国際課課長補佐
杉浦 康夫(すぎうら やすお)
今から70年前,日本では結核が死因の第一位を
占めていました。その後,抗結核薬の登場や医療
技術の進歩により日本の結核は大幅に減少したこ
とはよく知られています。しかし,薬や技術のみ
ではなく,国民,保健スタッフ,学校,企業,政
府が一丸となって結核対策を実施したことが日本
の結核対策の本当の強みであったように思います。
その機動力として結核予防会は大きな役割を果た
したことは申すまでもありません。さらに,これ
らの結核対策には結核を予防するため,また結核
に罹患している人々を救うための人材を育てるこ
とがその中核にありました。その考え方は,日本
における世界各国からの結核対策の人材養成へと
受け継がれ,結核研究所において40年以上研修を
続けることで,世界の結核対策に大きく貢献して
きました。
2008年7月に,外務省と厚生労働省は,WHO西
太平洋地域事務局,結核予防会,ストップ結核パー
トナーシップ日本と共に,国際結核シンポジウム
を開催し,結核予防会総裁の秋篠宮妃殿下のご臨
席を頂きました。このシンポジウムでは世界の結
核対策のために,日本で研修を受けたリーダー達
が再び集まり,今後の世界の結核対策の課題であ
る多剤耐性結核やHIVとの重複感染などに関して
意見交換をしました。また,シンポジウムの中で,
日本の官民が協力して世界の結核対策に貢献する
ための「ストップ結核ジャパンアクションプラン」
が発表されました。これは日本から世界に向けた
官民からのメッセージとして大きな意義があった
と思います。
2015年のミレニアム開発目標や2050年までに結
核のない世界を目指して,世界は動き始めています。
日本はこれまでの経験を元に世界の結核対策にさ
らに貢献できる国です。今後も官民が共に考え協
力しあう事で,結核のない世界に一日も早く近づ
核 な 世界
も早く近
く事を願います。
Contents
■メッセージ 世界の結核対策に対する日本の貢献
■「第4回アジア大都市感染症対策プロジェクト会議」の報告 杉浦 康夫……1
■結核の統計2008を読む
加藤 誠也……2
■シールだより
櫻山 豊夫……20
■喫煙と結核
島尾 忠男……21
……5
■たばこ 女性の喫煙が胎児に及ぼす影響について(前編)
○結核予防週間支部・本部活動報告
……6
■平成20年度地区別講習会実施報告
○知事表敬訪問報告続報
……8
■思い出の人を偲んで 磯江驥一郎先生
■結核予防週間レポート
望月 博之……22
■シリーズ 新しくなった結核研究所(1)
……24
青木 国雄……28
■健康ネットワーク通信 №21
「結核菌バンク」と「疫学情報センター」の開設
特定健診・保健指導の成功の要 −受診率向上に向けて−
石川 信克……9
岡山 明……30
■日本の国際保健協力と結核
中野 靖彦……10
■予防会だより
■結核予防会支部紹介の頁 和歌山県支部
植野 博文……11
○切手にみる結核 7.結核に悩んだ文学者たち(西洋編 Ⅱ)
■DOTS 保健所の役割と医療機関の連携を通して
島田 和……12
〔表紙〕「秋の空に光輝くコスモス」
■シリーズ 結核予防会創立70周年を迎えるにあたって(4)
(東京都立川市・国営昭和記念公園)
これからの結核予防会
この日は快晴に恵まれ,日の光を浴びて鮮やかなピ
青木 正和……14
■今年で3年目の在日外国人無料結核健診
……16
ンク色がまぶしいくらいでした。
■ベトナムフェスティバル2008開催される
……16
花びらを太陽に透かして見たり,コスモスの高さか
ら空を見上げると,爽快な気分になりました。
■グローバルフェスタJAPAN2008 世界へ響け!
地球を守るメッセージ
……17
撮影者:堀川 春男氏
■国際エイズ会議(2008/8/3-8,メキシコシティ)参加報告
島村 珠枝……18
〔カット〕佐藤奈津江
■タイ国チェンマイ県におけるUNAIDS理事会開催
堀井 直子……19
11/2008 複十字 No.324
1
結核の統計2008を読む
ー“結核のない世界へ”グラビアの解説ー
結核予防会結核研究所
副所長 加藤
誠也
ご注文・お問合せ先:出版調査課 TEL 03-3292-9289
「結核の統計」は例年9月の結核予防週間に発表
されてきた。本年は2007年から運用されている新
しい登録患者情報システムからのデータを用いた
結果を初めて発表する年となった。新登録患者情
報システムでは,保健所からの情報はオンライン
で集計され,その集計値をシステムから取り出す
ことも可能になっている。また,近年,結核研究
所ホームページからの情報発信も随時行っている。
このような状況を踏まえて,「結核の統計2008」
の企画段階で,刊行する意義を再検討した。その
結果,登録患者情報システムにある多くのデータ
の中から,その時々の状況に応じたデータを取捨
選択・加工してわかりやすく発信する年次刊行物
としての意義は変わらないとの考え方から従来通
りの形で刊行することとした。読者の皆様から忌
憚のないご意見をお聞きしたいと考えている。
世界の結核問題
死亡率は比較的手に入れやすい指標であるため,
問題の大きさを表すために広く用いられてきた。
欧米先進国では抗結核薬が発見される前から社会
状況の改善と共に死亡率は低下していたが,我が
国の死亡率低下は第二次世界大戦後で,30∼40年
遅れて始まった。その後の減少は比較的順調であっ
たが,近年は患者の高齢化もあって鈍化傾向が続
いている。タイのようなHIV合併結核が多い国では
死亡もそれに伴って増加した。今後はARTの普及
とともに減少することも期待される(グラビア1)。
WHOの2006年の発表によると,1年間に新たに
結核を発症した人は920万人,170万人が死亡した
と推計されている。エイズ合併によってサハラ砂
漠以南のアフリカで罹患率が著しく高い傾向を示
している一方,患者数はインド,中国,インドネ
シアのような人口が多い国々で非常に多くなって
いる(グラビア2)。
我が国の結核罹患率の推移
2007年の日本全体の結核罹患率は人口10万対19.8
と初めて20を下回った。しかし,欧米先進国の多
くが人口10万対10以下の低まん延状態になってい
2
11/2008 複十字 No.324
るのに対して未だ中まん延状態であり,患者数は2
万5千人以上と我が国最大級の感染症である。
0∼14歳の小児結核は罹患率人口10万対0.49から
0.53に上昇したが,これは小児結核の年間発生数が
100人以下とかなり少なくなっているために非特異
的な変動の可能性が高い。その他の年代の罹患率は
全て減少傾向を示しており,この数年間の傾向では
50歳代から70歳代での減少が目立っている。中高年
の結核発病は過去の感染の再燃が多いと考えられて
おり,これらの年代における罹患率の減少が大きい
のは既感染率の低下(図1参照)を反映しているも
のと考えられる(グラビア3)。
80歳以上の罹患率は若干減少傾向にあるが人口
が増加しているために,実数は2001年からほとん
ど変わらず,結核患者総数が減少しているために,
全体に占める割合は年々増加している。これらの
ことから,70歳以上の高齢者の占める割合も増加
傾向にあり,47.9%に至っている。欧米の先進諸国
では自国生まれの患者では高齢者の割合が高いが,
外国生まれの比較的若い年齢の者が多数を占める
ようになっている。アジアのいくつかの国におい
ても高齢化が始まっているが,我が国のように高
齢者が多い国はない(グラビア7)。
地域的には長野,山梨,東北地方の各県で罹患
率が低く,低まん延状態になるのも近いと考えら
れる。大阪,名古屋,東京をはじめとする関西,
関東の大都市を含む都府県の罹患率は高い。これ
らはホームレスや日雇い労務者,外国人などのハ
イリスクグループが多いことが原因の一つになっ
ていると考えられる(グラビア4,5)。
患者発生の将来予測は男女別・年齢別の罹患傾
向に予測人口を勘案して算出したものである。低
まん延状況になるのは2020年頃でそのころには高
齢者の中で85歳以上の割合が大きくなり,75∼84
歳の割合は相対的に小さくなるとの結果であった。
また,25∼64歳の青壮年層の割合も相対的に大き
くなるが,これはハイリスクグループ・外国人の
増加傾向を反映しているものと考えられる。これ
らのリスクグループの増加がこれまでの傾向を超
えるような場合,低まん延状況になるのが遅れる
可能性もある(グラビア8)。
外国人結核の動向
外国籍の患者は増加を続けてきたが,平成19年は,
平成18年の920人(3.5%)から842人(3.3%)に減
少した。これは,患者が真に減少した可能性もあ
るが,平成19年末の外国人登録統計1)では登録者は
2,152,973人と過去最高を更新したことを考え合わせ
ると,実際の患者数は減少しておらず,発見され
るべき患者が発見されなかった可能性が高いもの
と考えられる。
年齢別に見ると20歳代では約5人に1人が外国籍
になった。いずれにしても,欧米先進国低まん延
国に見るように,外国人結核患者の増加は大きな
問題となるものと考えられる。新入国者に対する
健康診断の実施や有症状時に受診に結びつける体
制を整えるなど,患者の早期発見のための対策や
診断されてからスムーズかつ確実な治療に結びつ
けるため,経済的問題や言語障壁解消など多くの
課題への対応が必要になる。
多剤耐性結核の問題
多剤耐性結核(Multidrug resistant TB; MDRTB)はヒドラジド(INH)とリファンピシン(RFP)
の両者に耐性になった結核菌である。突然変異によっ
て薬剤耐性になった結核菌が不適切な治療や不規
則な服薬のために選択的に増殖する過程を繰り返
すことによって作られる。
WHOの報告によるとMDRは増加している。二次
抗結核薬を動員した長期間の治療を必要とするた
め高額な治療費を必要とする上に,患者の予後は
不良で長期間感染源となりつづけるなど,大きな
問題となっている。
超多剤耐性結核 (Extensively drug resistant TB;
XDR-TB)は,INH, RFPに加えてキノロン剤とアミ
カシン,カプレオマイシン,カナマイシンの3者の
いずれかに耐性になった結核と定義されているが,
ほとんどの抗結核薬に耐性になった結核菌を意味
している。
我が国の初回治療患者におけるMDRは1%程度
とそれほど多くないが,これにはMDR菌に感染・
発病した患者が多く含まれている。一方,MDRの
中でのXDRの割合は3割程度と非常に高率になって
いる(グラビア9)。
従来,MDRは通常の感受性のある結核菌よりも
感染性・病原性が弱いとの見解もあったが,大阪
府立呼吸器・アレルギー疾患センターで行われた
分子疫学的研究では全剤感受性菌よりもMDRの方が,
さらにMDRよりもXDRのクラスター形成率が高く,
MDR,XDRにも感染性が高い菌が存在することが
明らかになった(グラビア10)。
DOTSの成果と今後
我が国でもDOTSが多剤耐性結核や再発の減少に
有効であることが明らかになった。この研究では
慢性排菌患者を「患者発生登録に2年以上登録され,
1年以内に菌陽性であった患者」と定義したが,多
剤耐性や高度の薬剤アレルギー等のために治療が
進まない患者と登録後一たん治療が終了したが再
発した患者が含まれる。慢性排菌患者数は平成11
年∼18年の7年間に1,598人から465人に減少し,年
末の全登録患者と比較するとその減少率は平成14
年から慢性排菌患者の方が多くなった。これは大
都市を中心に平成10年頃から試行的に行われてい
たDOTSが平成15年に厚生労働省から発出された通
知によって全国的に拡大したことと関係している
ものと考えられる。
これを裏付けるように,平成12年と19年に行わ
れた調査で慢性排菌となった理由を比較すると,「糖
尿病合併」,「副作用による治療中断」といった
不可避な要因はほとんど変わらなかったのに対して,
「本人の不規則治療・自己中断」,「未使用薬剤
の1剤ずつの追加」,「初回治療時耐性」,「初
回治療時薬剤感受性検査未実施」,「薬剤耐性不
明のまま薬剤追加」といった人為的な要因は減少
していた(グラビア11)。
また,新宿区では平成9年よりDOTSを中心とし
た対策強化に努めた結果,治療成績でも脱落率およ
び再発率が低下し,新登録患者の薬剤感受性検査で
多剤耐性結核は1.6%から0.2%に減少した(グラビア
12)。
平成19年に実施されたDOTSの実施状況調査によ
ると、院内DOTSは結核病床を有する医療機関の
87.2%,地域DOTSは保健所の97.9%で実施されてお
11/2008 複十字 No.324
3
り,前回の平成15年調査時より大幅に拡大してい
ることが明らかになった。医療機関,保健所,調
剤薬局,訪問看護ステーション,学校など地域の
状況に応じた様々な連携によって,患者の生活に
即したDOTS事業が展開されている。しかし,
DOTSカンファレンス・コホート検討会を含む評価
については72.8%と改善の余地が大きい(グラビア
15,16)。
コホート分析判定方法の変更
DOTSの評価の鍵であるコホート分析の判定方法
が新しい結核患者登録システムで改訂された。従来
は,標準治療が行われた患者を対象としていたが,
新システムでは肺結核として登録された全患者とし
た。従って,従来は治療の結果を評価していたのに
対して,登録された患者が結果としてどのようになっ
たかを評価していることになったもので,意味する
ことは全く異なっている。また,判定基準の「その
他」を廃止し,「12ヵ月を超える治療」(12ヵ月を
超えた時点で治療中かつその他の治療判定に合致し
なかった者)および「判定不能」(死亡後登録,治
療開始時に治療なし,または治療の有無不明,標準
治療方式以外で治療開始,判定に必要な情報がない
者)を導入した。治療期間については強化期に
PZAを使った(A)法では180日,PZAを用いない(B)
法では270日を基本とし,それに満たない治療は治
療中断と判定されることとした。
今回の結果を検討するために,Euro TBの2006
年報告2)におけるドイツ,イギリス,オランダ,ノ
ルウェーの治療成績を図2に示す。
(2005年)
対象は我が国と違って培養陽性例であることに注
意が必要であるが,これらの国々に比較すると,日
本の治療成功率は約50%と非常に低く,「死亡」,
「脱落中断」,「12ヵ月を超える治療」,「判定不
能」とも多い。このうち,日本の「死亡」が19%と
高いのは高齢者割合が高いためと考えられる。ドイ
ツ,イギリス,オランダ,ノルウェーの「死亡」は
12,8,7,6%であるが,外国生まれの比率は2006
4
11/2008 複十字 No.324
年でそれぞれ41,64,63, 81%となっており,これ
らの国々でも死亡例の多くは高齢者であることを
考えると,我が国の結果は必ずしも不合理な結果
ではないと思われる。
脱落中断はその他菌陽性,菌陰性例で特に多い。
脱落中断の中では「不十分な治療期間」が多数を
占めており,新システムでは1日でも治療期間が不
足の場合は「脱落中断」に自動的に分類されるた
めと考えられる。医師は最後まで確実に処方し,
患者にきちんと薬を服用させることが肝要である。
「12ヵ月を超える治療」が多い理由は,80代以
上の高齢者にはPZAを含まない9ヵ月医療が原則
であり,副反応などで若干治療が遅れるような例
が多いためかと推定する。本年度は初年度であり,
不明な点もあることから原因についてさらに分析
を進める必要がある(グラビア17)。
新しい対策の実現に向けて
結核菌の遺伝子型の同定方法として制限酵素断
片長多型(RFLP)が使われてきたが,多反復配列
多型(Variable Numbers of Tandem Repeats; VNTR)
へ移行する方向になっている。VNTRは次のよう
な利点を持っている;①PCR法を用いるため,結
果が迅速に得られる。②死菌でも検査可能である。
③結果が数字で表せるので施設間比較が容易である。
欧米ではVNTRを用いた標準的方法(検索する
locusの選定)が確立しつつある。しかし,北京型
結核菌が多い日本では,欧米で用いられている方
法では分解能にやや難があるため,結核研究所で
は我が国に即したlocusを検討しJATA12を開発した。
これは集団感染が疑われる事例での解析で,一定
の有用性が期待されるが,RFLPと同等の分解能を
求めて検討を行う必要である(グラビア13)。
結核対策の企画・立案のために感染がどのよう
に起こっているかを知ることは極めて重要である。
上述のRFLPやVNTRを用いた結核菌遺伝子指紋法
によって,従来から報告されてきた家庭,職場,
学校などの他に,結核のハイリスクグループと不
特定多数の若年層が長時間同じ空間を共有する酒場,
カフェ,パチンコ店などでの感染事例が報告され
ている。新しい感染診断法であるクォンティフェ
ロンを用いた検討では最近の院内感染対策の成果
を示す報告がある一方で,結核病床を持っていな
い医療機関での結核発病は減少していないとのデー
タが示されている(グラビア14)。
平成20年7月結核研究所では結核菌検査・保存施
設(通称:菌バンク)の運用を開始した。これは
改正感染症法の重要な事項である「病原体管理の
強化」によって多剤耐性結核菌が第3種病原体に
結核の統計2008を読む
指定されたことに伴い設立されたものである。今後,
我が国の結核低まん延状況に向けて必要な対策の
一つが「病原体サーベイランスシステム」であり,
菌バンクはその要素の一つとして活用されるよう
期待される(グラビア20)。
新たに取られるようになった指標
「結核の統計2008」の資料に掲載されている中で,
新たに取られるようになった指標がある。潜在性
結核感染症(LTBI)治療対象者数は従来,初感染
結核(いわゆるマル初)として集計されていた数
に対応するものであるが,年齢制限がなくなった。
総数は2,959で,従来対象でなかった30歳以上の者
は760例と約4分の1になっている。リウマチ治療
のためにTNFα阻害剤を使用する場合に,LTBI治
療を行う者も届出の対象者になっているが,この
数値からは届出の必要性が十分に周知されていな
い懸念がある。
合併症として,糖尿病ありの者は新登録患者の
うち3,275人(12.9%)で,これまでに報告されてき
た数値に概ね準ずるものであった。HIV合併は57人
(0.2%)であったが,検査結果が不明であった者
も相当数あるため,検査を実施した中での合併率
ではない。
小児結核患者中BCG接種済みの者は60.9%と全体
の接種率よりはかなり低く,小児結核の予防のた
めにBCG接種が重要であることを改めて示す結果
と考えられる。
新登録肺結核培養陽性患者中薬剤感受性検査結
果の報告があった4,173人中,何らかの薬剤に耐性
の者が628人(15.0%),多剤耐性は50人(1.2%)
であった。多剤耐性結核は2002年結核療法研究協
議会における報告0.7%よりも高い数値であった。
これらは今後の推移を慎重に見極める必要がある。
また,検査項目に核酸増幅法等が加わった。そ
の影響で新登録患者中の「その他の結核菌」は前
年の18.3%から23.6%に上昇,逆に「菌陰性結核・他」
は21.0%から14.7%になったものと考えられる。
結核予防会・結核研究所の活動
結核予防会・結核研究所は世界と日本における
結核の制圧のために様々な活動を行っている。国
際協力では今年45周年を迎えた研修は97カ国に
2056人の修了生を送り出した。JICA等を通じた技
術協力は,ネパール,フィリピン,ミャンマー,
カンボジア,バングラデシュ,タイ,パキスタン,
ザンビア,インドネシアで展開されており,「結
核の統計2008」ではカンボジアでの事例が紹介さ
れている。複十字シール募金運動は結核予防週間
行事や教育資材作成,胸部検診の機器整備,結核
予防団体の活動費,途上国等の対策支援に使われ
ているが近年国際協力費の割合が増加している。
禁煙対策・COPD等の呼吸器疾患対策は結核対策,
国際協力,生活習慣病対策とともに結核予防会の4
本柱の一つとなっている。「肺年齢」は肺機能へ
の関心を高め,COPD予防のために広く用いられる
ようになることを期待している。
最後に,新システムへの移行に際して,現場の
入力を担っている担当者をはじめ多くの関係者の
ご尽力によってデータが集計され,「結核の統計2008」
を刊行することができたことに心から感謝を申し
上げます。
【参考資料】
1) 平成19年末現在における外国人登録者統計につ
いて 平成20 年6月 法務省入国管理局 http://www.moj.go.jp/PRESS/080601-1.pdf
2) Surveillance of tuberculosis in Europe, Euro
TB 2006 http://www.eurotb.org/rapports/2006/tables_
figures.pdf
シールだより−お詫びと訂正
前号(№323)「平成19年度高額寄付をいただ
いた方からのメッセージ」中,35pに掲載した
椎橋信夫(しのぶ)様のお写真を誤って掲載い
たしました。深くお詫び申し上げますと共に謹
んでお写真とメッセージの全文を再掲載させて
いただきます。
1951(昭和26)年,兄が
結核を発病致しまして,そ
れから家中で看病が始まり
ました。その間どのような
きっかけで結核予防会を存
じ上げたのかは,私はまだ
18歳でわかりませんでした。
昭和30年代後半位から母か
椎橋信夫様
ら頼まれ,些少の金額を持っ
て毎年12月に郵便局へ参りました。兄もお蔭様
で治りまして,定年退職まで無事に勤め上げま
した。その兄も,若い時の結核がもとで,平成
18年に“非結核性抗酸菌症”という病名で亡く
なりました。私も母の意思を継ぎたいと私の誕
生日に結核予防会に少しでもお役に立ちたいと
思いまして,寄付させて頂きました。
会の運営も職員の皆様も大変な事とは思いま
すが,結核撲滅のために,世界のためにも頑張っ
て頂きたいと思います。ありがとうございました。
11/2008 複十字 No.324
5
結核予防週間
日 付
開催数
係員
合計
資材点数・
セット数
北 海 道 9/13,22
∼10/4
6ヵ所
135
13点・200∼
5000セット
例年実施している「複十字シール運動キャンペーン」を札幌市内他で5日間6地区で実施した。「札幌市健康をまもる
つどい」の他,「北海道健康をまもる地域団体連合会」役員による夜間無料結核検診に合わせた街頭募金,また北海
道東部にある白糠町の女性団体連絡協議会が町のイベントに合わせ今年初めて街頭募金を実施した。各地区2∼5名
1組になって繁華街に立ち,多くの方より募金をいただいた。
青 森
9/27
3ヵ所
36
7点・30∼
1500セット
青森市内のショッピングセンターなど3会場で,支部職員と結核予防婦人会会員が結核予防のPRと複十字シール運動
の募金協力を呼びかけた。また,シールぼうやの着ぐるみも3会場を順に回り,会場を盛り上げた。
岩 手
9/27
1ヵ所
4
5点・100∼
300セット
結核撲滅PRコーナーにて,①複十字シール募金,②結核予防普及啓発グッズの配布,③結核予防啓発パネル・ポスター
の展示を行った。
宮
城
9/27
1ヵ所
28
4点・1000
セット
街頭募金:マイクで結核予防を呼びかけ,着ぐるみ(ウサギ・トラ)による風船配り等PR. 無料健診:血管年齢測定,
体脂肪測定,血圧測定
秋
田
9/27
1ヵ所
41
686セット
秋田駅東西連絡自由通路「ぽぽろ∼ど」・アゴラ広場にて,結核予防会秋田県支部長である西村副知事,支部職員の
他,結核予防婦人会秋田県連合会役員,各地区連合会役員及び秋田市会員などの協力を得て実施した。会場となった
「ぽぽろ∼ど」からアゴラ広場にかけて,全国一斉複十字シール運動キャンペーン実施中及び結核予防週間の標語入
り立て看板やのぼりの設置,複十字シール運動への協力を呼びかける横断幕,パネルなどを展示した。募金活動につ
いては,婦人会員に西村支部長,支部職員も加わり8グループに分かれて実施し,ハンドマイクを使い,複十字シール
運動へのご協力を繰り返し県民に訴えた。また,募金していただいた方で希望があれば,秋田県のマスコット「スギッ
チ」の着ぐるみと一緒にポラロイドカメラで撮影した写真を差し上げた。
山
形 9/23,27
5ヵ所
75
4点・2000∼
2500セット
山形県内5ヵ所の大型ショッピングセンターやショッピングタウン,遊園地にて,支部職員,山婦協会員,山形まめの
会(術後者の会)会員が参加し,結核撲滅がん征圧運動街頭キャンペーンとして実施。結核,がん,生活習慣病など
の普及啓発用パンフレットや検診車ティッシュBOX,風船などを配布。併せて一部の会場にて複十字シール募金運動
も実施した。
福
島 9/20,24,
10/23,
11/8
4ヵ所
123
7点・3300
セット
結核予防週間とがん征圧月間に合わせ実施し,支部職員,結核予防婦人会会員の他がん克服者の会である「しゃくな
げ会会員」や保健所職員,市職員も参加して行った。参加者は法被やたすきを着用し,その年の結核予防,がん征圧
の標語を入れた横断幕やのぼりを掲げながら,道行く市民へ風船や啓発用資料を配布した。なお,配付資料は事前に
結核予防とがん征圧の資料を透明な袋へセットし,手に取りやすくして配った。
茨
城 8/1,
9/23,27,
28
3ヵ所
39
3点・1700
セット
当協会山口会長,根本理事(兼)事務局長,茨城県健康をまもる女性団体連絡会の川連理事,鴨志田理事,大高理事,
亀井理事が橋本知事を表敬訪問した。席上,山口会長が同運動の趣旨を説明し,川連理事が陳情書と決議文を橋本知
事へ手渡して複十字シール運動への協力をお願いした。さらに女性団体連絡会各支部における結核予防への取り組み
を紹介した。最後に,橋本知事より同運動に対して激励の言葉をいただいた。茨城県及び健康をまもる女性団体連絡
会(結核予防婦人団体連絡協議会茨城県支部)との共催により,催事来場者(9/27)やスーパー来場者(9/23,28)
へ,パンフレットを配布するとともに,規則正しい生活習慣の励行や健診の必要性を呼びかけた。なお,9/27,28は,
シールぼうやの参加により,若年層への啓発を効果的に行うことができた。
栃
木 9/21
1ヵ所
19
8点・1500
セット
結核予防普及パネル,複十字シールパネルの展示,複十字シール運動の,のぼりをたてる,キャンペーングッズの配
布,シールぼうやの着ぐるみによる街頭募金のお願い
群
馬 6/29
1ヵ所
12
3点・500∼
1000セット
群馬県女性団体連絡協議会主催の「輝こう 群馬の女と男」のイベント会場の群馬県女性会館において,キャンペー
ンを実施した。
埼
玉 9/23
2ヵ所
54
5点・300∼
3000セット
JR浦和駅西口歩道・JR川越駅東口デッキにおいて,県職員,婦人会役員,川越市職員,支部職員が参加し,ポケッ
トティッシュや風船等を配布しながら,結核予防週間街頭キャンペーンを実施しました。2会場において,県のマス
コット「コバトン」の着ぐるみを登場させた為,家族連れや子どもの注目を集めることができ,予防週間をPRするこ
とができました。
千
葉 9/21
1ヵ所
58
5点・400∼
1650セット
千葉駅前にのぼりやポスター・パネルを設置し,結核予防週間およびシール運動のPRを行うとともに,啓発資材入り
バックや風船を配布しながら募金を呼びかけた。市民吹奏楽団による「小さなシールに大きな愛を」等の演奏やトラ
の着ぐるみにより街頭募金は注目を集め,多くの人に足を止めていただいた。
東
京 9/15
1ヵ所
9
1000セット
両国駅出口から国技館までの道路にのぼりを立て,「結核予防週間キャンペーン」を実施しました。当日は,大相撲
秋場所開催中のため,国技館へ向かう人通りも多く,係員は予防週間のエプロン,たすきをかけてグッズ,風船の配
布を行いました。シールぼうや,結核菌の着ぐるみで多くの方々の関心を集めることができ,家族連れも多く,子ど
もからご年配,外国人の方まで予防週間をPRすることができました。
神 奈 川 9/20,27
2ヵ所
25
7点・500
セット
①小田原駅東西自由通路において支部職員8名,県婦人会16名と共に街頭募金を風船・パンフレット等の配布と併せて
行った。・JR改札出口・小田急線改札出口の2ヵ所で複十字の幟を立てて実施した。②藤沢市民まつりは,藤沢駅コ
ンコースで藤沢保健所の協力を得てパンフレット・封筒・オーキューバン等の配布と街頭募金を行った。
新
潟 9/21,
10/12
2ヵ所
12
1点・600
セット
新潟市主催の健康まつりへ参加し,肺年齢測定,顕微鏡での結核菌の観察,レントゲン写真での結核の説明,風船で
動物等を作成・配布,結核の知識の普及啓発をすると共に,複十字シール募金への協力を呼びかけた。
富
山 9/23
1ヵ所
15
5点・1000
セット
・実施場所である総曲輪通り付近にシールぼうや立看板を設置し,大道芸師(風船おにいさん)のバルーンパフォー
マンスを行い,キャンペーンをアピールした。・参加者を3班に分けて「複十字シール運動」のロゴ入りTシャツにた
すき掛けで,「結核に対する正しい知識を持ちましょう。複十字シール運動にご協力をお願い致します」の呼びかけ
のもと,パンフレット等の袋詰めを配布し,普及・募金活動を行った。
石
川 9/25
1ヵ所
12
5点・400
セット
金沢駅前の通行路で実施いたしました。参加者は,当支部職員と石川よろこびの会という,がん体験者の方と協力し
て実施いたしました。石川県の玄関口の金沢駅で実施できましたので,多くの方にPRできたと思います。のぼり旗を
立てて,その近くで配布資料をお渡ししました。募金は行わず,PRに専念いたしました。
福
井 9/23
県内
各地
21
都道
府県
6
支部・本部活動報告
3点・500セット
(1ヵ所)
計4500セット
報 告
本部提供のパンフレット等及び本部斡旋の資料を配布して,啓発活動を実施した。
山
梨 9/25
1ヵ所
19
5点・3000
セット
JR甲府駅前において,結核予防普及啓発パンフレット(結核の常識,リーフレット,ポケットティッシュ,オーキュー
バン等を袋詰めしたもの)を配布するとともに募金活動を行った。
長
野 9/20,23
2ヵ所
49
2または5点・3800
セットまたは適宜
支部職員,婦人会と共に,ポケットティッシュ・絆創膏等を配布。また,今年度も昨年同様に,がん克服者の会「長
野よろこびの会」の方も参加いただき,併せてがん征圧月間もPRした。
岐
阜 9/16,19,
24
3ヵ所
3
4点
9/16 岐阜市,9/19 美濃加茂市,9/24 大垣市 財団が実施しているシルバー大学(岐阜校,美濃加茂校,大垣校)
の終了時間に会場出口にて,啓発を行った。
静
岡 9/20
1ヵ所
25
6点・1000∼
3000セット
結核予防週間にむけて,「結核のない世界へ」をスローガンに,アピタ静岡店のウエストコートにブースを構え「結
核の基礎知識パネル」,「複十字シールをご存知ですか?」を掲示し,風船や着ぐるみで来店客を注目させてパンフ
レット等の配布をしました。また参加者は「複十字シール運動」,「結核予防週間」のたすきを着用して結核予防週
間を来店者にアピールしました。
愛
知 9/20,21,
24∼30
3ヵ所
11
750セット
①9/20,21 あいち県民健康祭の会場で結核予防会愛知県支部として,来館者に対してパネルの展示,複十字シールパ
ンフレット,風船,オーキューバン等の資材をシールぼうやと共に配布し,結核予防思想の普及と募金の呼びかけを
行った。②9/21 9:30∼15:00 あいち県民健康祭の来場者に対して,結核検診による早期発見の重要性を広めるた
め,結核の無料検診(53名受診)を実施した。③9/24,29 JR及び名古屋鉄道の総合駅である金山駅のアスナル金山(広
場)で,通行者等に対して複十字シールパンフレット,オーキューバン等を配布して結核予防思想の普及を行った。
④9/24∼30 結核予防会愛知県支部の診療室において,結核予防週間に垂れ幕(「結核予防週間9月24日∼30日」と
「結核はあなたの自信にかくれんぼう」)を掲げて結核予防思想の普及を行った。
三
重 10/19
1ヵ所
8
6点・300
セット
亀山市で行われる健康まつりに婦人会と共に参加し,結核予防啓発資材を来場者に配布しつつ募金依頼を行う。
11/2008 複十字 No.324
都道
府県
日 付
開催数
係員
合計
資材点数・
セット数
報 告
滋
賀
9/23
1ヵ所
9
2点・500∼
3000セット
平成20年度複十字シール運動のリーフレットを街頭にて配布し,募金を呼びかけた。募金をしていただいた方には,
小型シールもしくは封筒組み合わせを渡した。
京
都
9/25
3ヵ所
66
5点・2000
セット
京都駅とその周辺の通行人へ啓発資料を配布,メガホンで結核予防の呼びかけをして街頭募金を行いました。京都駅
前広場では,検診車による無料結核検診,保健師による結核相談窓口を開設しました。
大
阪
9/30
1ヵ所
50
5点・3∼4700 JR京橋駅北口前周辺にて支部職員と大阪市地域女性団体協議会員,総勢50名と「シールぼうや」が,ポケットティッ
セット
シュ,オーキューバン(絆創膏),エコバッグ等の結核予防啓発グッズを街行く人々に配布し,結核予防の普及啓発
及びシール募金の協力を呼びかけた。
兵
庫 9/29,30
2ヵ所
29
3点・1500
セット
奈
良
9/25
1ヵ所
11
“世界中から結核をなくそう”等呼びかける。関心のない人に目や耳を傾けていただけるように声掛け
3点・50∼500 “結核予防”,
セット
だけでなく,近寄り話しかけるようにする。
和歌山
9/25
2ヵ所
29
2点・1500
セット
「結核予防週間」「結核をなくそう」の,のぼりを街頭に立てかけ,「複十字シール運動」のたすきを着用し,あぶ
ら取り紙・啓発用パンフレット等をビニール袋に入れ,「9/24から9/30が結核予防週間です」と呼びかけながら配布・
啓発を行った。
鳥
取
9/20
3ヵ所
29
2点・600∼
1200セット
東部・中部・西部それぞれ3ヵ所で,募金活動を実施しました。なお,東部地区では,知事の奥様にもご参加いただ
きました。
島
根 実施せず
岡
山
9/24
1ヵ所
130
4点・700∼
3800セット
・シールぼうやのハッピや結核予防週間のタスキを着用し,啓発用セットや標語入りゴム風船を配布して結核予防を
呼びかけるとともに,複十字シール運動への協力をお願いした。・無料検診として骨密度,体脂肪率,血圧の測定の
ほか,スモーカーライザによる呼気中一酸化炭素濃度の測定,医師による健康相談を無料で行った。
広
島
9/23
1ヵ所
16
2点・750
セット
集客の見込める大型商業施設で結核予防週間,禁煙及び複十字シール運動等のポスターを掲示するとともに「のぼり」
を掲げて結核予防週間を広くPRした。また,女性会幹部とともに支部役職員が複十字シール運動の「たすき」をかけ
てパンフレット等を配布し,この運動への協力を呼びかけ,結核の現状についての理解と予防意識の向上に努めた。
結核,肺がん,マンモグラフィの無料検診も同時に開催し,相乗効果を高めた。
山
口
9/23
1ヵ所
24
2点・500
セット
・防府サティ店頭及び店内において,幟を立て,「結核の常識2008」に,複十字シール運動リーフレット,募金振替
用紙,オーキューバンを(社)全国結核予防婦人団体連絡協議会作成のビニール袋に入れたもの,及び風船を配布し,
結核予防を呼びかけた。祝日ということで人通りは多く,たくさんの方に資料を配布し,結核について呼び掛けを行っ
た。募金額は多くはなかったが,多くの方に結核予防の啓発が出来たように思う。
・事前に県内マスコミ各社には,当日の実施内容を書面にて配布して報道して頂くように依頼をした。毎日新聞より
取材に伺うとの連絡を受けたが,当日マスコミの取材は来なかった。
香
川
9/30
1ヵ所
22
8点・30∼
1300セット
・今年も大型ショッピングセンターでキャンペーンを行い,「結核の常識2008」などの啓発資料を婦人会製作のビニー
ル袋に入れて配布した。中央ブースのほか,5ヵ所の出入り口付近で結核予防の啓発グッズを配布し,複十字シール
募金への協力を呼びかけた。小さい子どもには風船も配って若い方へもアピールした。 ・中央ブースでは募金のほ
かにCOPDの問診をして,スパイロメーターを使って肺年齢検査をして,肺疾患への関心を促した。
徳
島
9/28
1ヵ所
60
4点・3000
セット
JR徳島駅前において,総勢60名で行き交う人々にパンフレット等を配布し,結核予防の重要性と複十字シール募金へ
の協力を呼びかけるとともに,無料結核検診を実施した。
愛
媛
9/23
2ヵ所
10
7点・130∼
400セット
・結核予防パネルの左右に立ち,世界や県下の結核事情を報告し,結核予防のための複十字シール募金への協力を呼
びかける者,資料の入った袋を手渡していく者,子ども連れに風船を手渡す者,中高生・若者にも積極的に声かけして
いく婦人会員など,支部職員と婦人会員が一体となってキャンペーンを展開した結果,1時間15分で用意した400個の
資料袋はなくなった。募金は前年を40%下回る金額であった。 ・婦人会員もご年配だったが皆さん積極的で,若者
から年配者までパーソナルタッチでの呼びかけは,ずいぶん効果的であった。 ・マスコミは,テレビ1社,地元新
聞社1社の取材があり,テレビは同夜のニュースで,新聞は翌日の紙面に写真入で報道された。
高
知
9/28
1ヵ所
33
7点・500∼
1500セット
本部を中央公園北口(中央)に置き,高知市繁華街西(ひろめ市場)から東(帯屋町・京町) 約1キロのアーケード
内で実施。 ・高知市の中心繁華街において,啓発活動と募金活動を実施した。その周辺では別のイベントもあり,
人の流れも普段より多くあって効果があったと感じた。 ・テントを設置して医師(1名)により無料健康相談・保
健師と看護師(各1名)により血圧測定を行い,健康に関するアドバイス等を行った(約80名)。 ・テント3張,そ
の周辺に賑々しく,パネル展示。のぼり,看板を立て,ポスターも貼った。 ・全員がシールぼうやのTシャツを着
用し,タスキをかけキャンペーンに臨んだ。 ・3名1グループとなり,人出の多いところなどに立ち,呼びかけな
がら啓発活動や募金活動を行った。 ・本部ではマイクで,結核の現状と募金のお願いなどを止むことなく呼びかけ
た。 ・着ぐるみ「くろしおくん」は子どもたちに大人気,募金へも繋がった。 ・9団体に後援を承諾していただ
く。 ・報道関係に取材依頼。
福
岡
9/23
1ヵ所
62
7点・500∼
2000セット
・当支部医師3名(各1回)と司会者による結核に関するミニ講演 計3回開催(クイズ形式:パネル13枚) ・胸部レン
トゲン無料健診(直接撮影)37名 ・健康相談(医師・保健師)23名・血圧測定147名 ・体脂肪測定144名 ・呼気一
酸化炭素濃度測定22名 ・結核予防の普及啓発,パンフレットの配布 2000組 福岡県結核予防婦人会:正午から午後3
時までの3時間,福岡市関係婦人会:午後3時から5時までの2時間 ・普及啓発運動用風船,バルーンアートを子ども他
に配布 500個 ・結核予防・結核予防週間・複十字シール運動の各パネル展示 計10枚 ・募金(設置型募金箱)
佐
賀
9/23
2ヵ所
19
3点・1000
セット
ジャスコ佐賀大和店,ゆめタウン佐賀で募金活動を実施。婦人会の方を中心に啓発物を配布しながら結核撲滅のため
募金のお願いをする。また風船を膨らませ子どもたちに配布する。
長
崎 9/27,
3ヵ所
10/12,
11/30
(予定)
28
5点・1400
セット
・8/1から12/31まで全国一斉に展開される複十字シール運動に先立って,初日の8月1日に当事業団の山口事務局次長,
城村健診事業課長,濱崎総務課長補佐並びに県地域婦人団体連絡協議会の3名の副会長らと県の福祉保健部長を表敬訪
問し運動の意義を説明し,協力を要請した。 ・婦人会,保健所,市町等と共催し,県下数カ所で様々なイベント・
キャンペーンを開催した。 ・キャンペーン等には結核予防週間のぼりを立て,関係者全員タスキをつけて,資料等
を手渡して結核予防思想の普及を図ると同時に複十字シール街頭募金を行った。
熊
本 9/14,28
2ヵ所
114
5∼6点・1200 ①9/14 10:00∼14:00 イオンモール宇城バリュー パネル(結核・がん関係)の展示,乳房モデルの展示。「結核
∼1600セット 予防週間」印字風船配布,街頭募金活動,資材(結核の常識・オーキューバン・複十字シール運動リーフレット・ウェッ
トティッシュ,複十字シール)をセットし配布。結核検診(無料)の実施。②9/28 10:00∼15:00 ゆめタウンはま
せん パネル(結核・がん関係)の展示,肺モデル・乳房モデルの展示。「結核予防週間」印字風船配布。熊本市役所
提供のポケットティッシュの配布。資材(結核の常識・オーキューバン・複十字シール運動リーフレット・ウェットティッ
シュ・複十字シール・ポケットカレンダー)をセットし配布。街頭募金活動。結核検診(無料)の実施。
大
分
9/24
1ヵ所
19
3点・50∼500 昨年度と同様に当支部が行う募金活動と併せて,県,大分市の職員が結核の正しい知識の普及啓発を図る街頭キャン
セット
ペーンを実施した。
宮
崎
9/27
1ヵ所
11
3点・500
セット
宮崎市主催の「きて,見て,体験,みやざき発! 健康パーク2008」に参加し,結核予防会のハッピ等を着用し,風
船や啓発グッズを配布した。
鹿児島
9/23
1ヵ所
25
6点・1600
セット
JR鹿児島中央駅内コンコースにおいて「複十字シール運動」のたすきがけをした参加者が通行人に複十字シール運動
のリーフレットやオーキューバン等を配布して,結核についての正しい理解と予防を呼びかけた。コンコース内には全
国と鹿児島の結核についてのデータを記載したパネルを展示。また,「複十字シール運動」,「受けよう 結核健診」,
「結核をなくそう」と書かれたのぼりを設置し,結核予防週間ポスターも壁貼りして,イベントの雰囲気を盛り上げた。
沖
縄
9/26
1ヵ所
105
3点・500∼
1000セット
資料配布等。今回,アトラクションに4歳,5歳の園児に沖縄の伝統芸能エイサーを踊ってもらいました。保護者の方
の参加も多くてキャンペーンが盛り上がりました。
本
部 9/20.21,
10/4,5
3ヵ所
48
6点・3550
セット
①9/21 在日外国人無料結核健診 北区飛鳥山公園 在日外国人の火祭りのイベントの横で,結核予防週間のPRと,会場に
きている外国人に健診を無料で実施し,58名の胸部X線撮影を行い,その場で結果を伝えた。異常なし55名・要精検者3名と
なり,精密検査を10月中に対応。②10/4∼5 グローバルフェスタJAPAN2008(日比谷公園) 国際協力に関心のある一
般の方を対象に,結核予防週間や国際協力のポスター掲示・シールぼうやの着ぐるみと風船による予防週間のPR,複十字シー
ル募金を行った。③9/20∼21 ベトナムフェスティバル2008(代々木公園イベント広場)にて,イベント参加者に対してベ
トナムと日本の結核対策の状況や世界の状況をアピールし,複十字シール運動の啓発を行い,募金活動を行った。
①JR姫路駅北側・南側・山陽姫路駅の3ヵ所に分かれて,のぼりを立て,リーフレット・小型シール・ティッシュをセッ
トにした資材を配布した。台風の影響で,雨が降っていたため,実施を見送るかどうか検討したが,配布場所を屋根の
ある場所に移動して実施することができた。ただ,天候が悪かったため,人通りが少なかった。②JR明石駅から山陽明
石駅の間のコンコースにてのぼりを立てて,リーフレット・小型シール・ティッシュをセットにした資材を配布した。
11/2008 複十字 No.324
7
知事表敬訪問報告 続報
複十字№323掲載に加えて4支部の報告です。
●東京都支部
●香川県支部
9/22,櫻山福祉保健局技監を石館理
事長が訪問。今年の複十字シールの
デザインや「複十字シール運動」の
意味等を説明し,本運動の一層のご
協力をお願いしました。
●大分県支部
8/1,森下支部長と香川県結核予防婦
人会野田会長らが真鍋県知事を訪問。
昨年度の複十字シール運動の取り組
みと香川県の結核の現状についてお
話しし,今年度のご協力をお願いした。
地元新聞社が取材に訪れ,翌日の紙
面に記事が掲載された。
8/1,嶋津支部長と大分県結核予防婦
人会矢野目会長らが,平野副知事を
訪問。
●長崎県支部
8月1日に当事業団の山口事務局次長,城村健診事業課長,濱崎総務課長補佐並びに県地域婦人団体連絡協議会の3名の
副会長らと県の福祉保健部長を表敬訪問し運動の意義を説明し,協力を要請した。 いろいろな取り組みをみつけました!
来年度に向けて,いろいろ検討中です!
県のマスコット「コバトン」は子供から大人まで人気があ
り,着ぐるみと写真を撮りたがる方が多く,今後はその場
で写真をプレゼントするなどの検討をしてみたいと思いま
す。募金活動が終わった後に,わざわざタクシーで追いか
けてきてくれて募金して下さった方がいらっしゃいました。
埼玉県
今年は婦人会の方の参加が多く,より大勢の方に結核予防
の呼び掛けが出来たと思われる。募金というより結核予防
の啓発を主にとのことで実施したが,その目的は達せられ
たと思う。できれば,新聞,テレビなどの取材,報道があ
れば更に効果があがるだろうと思う。今後マスコミへのアピー
ルを考えたい。
山口県
今年は全国と鹿児島県の結核につい
てのデータを記載したパネルを駅コ
ンコース内で展示したが,足を止め
てご覧になる方もいらしたので,情
報提供の方法としては良かった。
鹿児島県
都立高等学校養護教諭の藤田先生は,平成15年から着任さ
れている学校の文化祭で,毎年生徒さんとご一緒に複十字シー
ル募金にご協力いただいております。
今年も東久留米総合高等学校文化祭「しらさぎ祭」で,保
健委員の生徒の方々とシールぼうやの着ぐるみ,シール運
動のリーフレット等を活用して,募金運動を実施してくだ
さいました。文化祭開催中は,シールぼうやの着ぐるみの
生徒さん,生徒さんが描いたシールぼうやのイラスト入り
の手作り募金箱を持った生徒さんで校内を回り,募金を呼
びかけました。
写真の様子でもわかるように,生徒さんの元気な呼びかけ
の効果もあり,来校者の方々にも,「複十字シール運動」
を知っていただけたということでした。
東京都
皆様のご協力ありがとうございます。これからもよろしくお願い致します。
8
11/2008 複十字 No.324
シリーズ
新しくなった結核研究所 (1)
「結核菌バンク」と
「疫学情報センター」の開設
結核予防会結核研究所は,平成20年9月に新しい
組織編成のもとに活動が始まった。これは19年度
になされた外部有識者による「あり方検討委員会」
での検討や提言にもとづいてなされたものである(資
料)。
結核研究所は,従来,研究,リファレンスラボ,
対策支援(研修と技術支援),国際協力を4つの
柱としてきたが,それらの基本的な機能を継承し
つつも,いくつかの新しい視点による組織編成が
なされた。その概略と新しくできた2つの機能につ
いて述べる。
研究部名称の廃止と研究の強化
研究活動は結核研究所の中心である。まずわが国,
そして世界の結核制圧を促進する対策のための研
究を優先的に行うという認識に立ち,体制を強化
するため,従来の研究部という名称を廃止し,上
記4つを柱とする部がすべて研究部であるとした。
すなわち,臨床・疫学部,抗酸菌レファレンス部,
対策支援部,国際協力部である。各部は,重要な
業務も持つが,研究を中心的課題とする。横断的
機能を持った従来のプロジェクト制は継続し,各部・
事業の連携を図る。
結核菌検査・保管施設(菌バンク)の設置
改正感染症法下の病原体管理の強化に伴い,菌
株保存ができない施設で,検出された菌が散逸す
る恐れがあるが,必要な菌株の保存は制圧に向け
た対策研究のために必須である。菌バンクにより,
必要な菌種の保存,維持管理,集まった菌株の分析,
菌情報の収集管理,その分析結果の発信など病原
体サーベイランス構築の基礎ができる。
病原体サーベイランスは,先進諸国の多くで,
体制が確立されつつある。日本では,まず病原体
検出システムとしての抗酸菌検査精度保証システ
ムが未整備であり,薬剤耐性調査や分子疫学調査
も定常的サーベイランスとして確立されていない。
また近年の病原体取り扱い基準の厳格化に伴って,
検査自体を行う施設も減少している。
例えば,日本の代表的耐性結核菌サーベイラン
スである結核療法研究協議会による最近の全国調
査では,多くの施設が多剤耐性結核菌を不所持と
したため,参加施設や検体数が減るという事態が
起こっている。日本の菌に関する疫学情報を正し
く把握するために,よりよいサーベイランスシス
テムが求められ,本施設の役割が期待できる。ま
た結核診療施設,検査センター,地方衛生研究所
等とも連携を強化し,国の菌情報に関する一元化
の要になることが目指されている。また近隣諸国
からの患者の流入が盛んになってきた昨今,国際
的な菌の情報管理も重要である。
疫学情報センター
結核の疫学的サーベイランスに関する活動は,
従来から結核研究所の重要な機能であったが,研
究部の研究活動の一環として位置づけていた。今
結核研究所所長
石川 信克
回センターという名称のもとで,恒常的な位置づ
けをしたものである。「結核の統計」の編纂をは
じめ,国の結核登録者情報システムの運用を支援し,
そこから得られた情報を整理分析し,国及び地域
の対策に必要な結核疫学情報として発信していこ
うとするものである。また,結核疫学に関心のあ
る研究者や一般の人々にも結核の疫学状況を伝え
ていく。
結核が減少しつつあることは喜ばしいことであ
るが,低まん延化(10万対1以下の罹患率)には,
まだ10年以上はかかると考えられ,さらに制圧(人
口100万対1以下の罹患率)には半世紀以上が必要
である。しぶとく社会に残り続ける結核は,減少
すればするほど複雑化し,対策は複雑・困難になる。
それに対し,結核研究所は国立感染症研究所,各
地方自治体の衛生研究所,保健所,検査機関,大
学等を含めた研究機関と協力・連携しつつ,正し
い疫学情報,菌情報の把握や分析を行い,効果的
な対策研究を推進していきたいと考えている。
資料:「あり方検討委員会」提言のまとめより
1) わが国の結核罹患は,未だ中まん延状況にあり,様々な
問題を抱えている。今後,低まん延時代に入ったとしても,
健康危機管理上,国の重要な課題として不可欠の役割を
担うことを確認しなければならない。また世界的に見て,
結核は最も優先順位の高い健康問題に位置づけられており,
その制圧のために世界中のあらゆる組織による連携の強
化が必要とされている。
2) その背景の下で,わが国は結核制圧の目標を掲げ,まず
早期の結核低まん延化をはかる必要がある。一方,結核
低まん延化の動きの中では,人材確保や対策実施におけ
る技術的適正性の確保が困難になる可能性が高い。また
わが国に求められている重要な国際的役割を考えれば,
わが国が最も得意としてきた結核分野において,アジア
の戦略的拠点作りを含め,世界の結核制圧のために一層
の貢献が必要である。
3) 結核研究所は,対策推進のための基礎及び応用研究,対
策の技術支援,人材育成に成果を上げてきたが,上記の
目的に資するため,国内,国際的ニーズに適合した活動を,
諸機関の連携の中核になって,効率的・効果的に実施で
きるよう,重点的な活動を見直し,強化することが重要
である。
4) 研究は結核研究所の諸活動の基礎であり,わが国および
世界の結核制圧に道を拓くような研究を基本とする。研
究活動から十分な成果を上げられるよう,重点的な人員・
予算の配分,適切な優先課題の選定,実施体制の見直し
によって,有用かつ質の高い成果を産出し社会への還元
を推進する。
5) 抗酸菌リファレンス機能,対策支援機能については,ニー
ズの動向に沿った活動の見直しをする。特に菌バンクの
設立は極めて重要な課題である。国際協力については,
結核研究所(RIT)の国際的ブランドを強化し,アジア
における戦略的基地となる。研究所としての本来の役割
を果たしていく必要がある。
6) 上記の認識に立ち,結核研究所は今後の対策における役
割を果たすため,人的資源の確保・活用,組織編成・運
営の見直し,業績の適切な評価や公開を行う必要がある。
7) 財源については,低まん延を来している他の先進諸国の
ような中央(国)の関与の強化が必要であるとともに,
多様な財源の確保,特に競争的資金の獲得及びその有効
活用のためのあらゆる努力を怠ってはならない。
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日本の国際保健協力と結核
∼G8サミットに向けた政策提言(アドボカシー)活動/
国際結核シンポジウム報告会・ワークショップ∼参加報告
【日時】平成20年8月22日 18:00∼
【場所】結核予防会本部 大会議室
標記ワークショップは,日本リザルツ,ストッ
プ結核パートナーシップ日本の主催で行われました。
参加者は学生ボランティアの方,大学関係の方,
国際協力を行っている医療団体の方など様々で,
当会からは島尾顧問,山下事業部長および普及課
員が参加しました。
アドボカシー活動とストップ結核パートナーシッ
プ日本
鈴木事務局長による講演では,「アドボカシー,
日本リザルツ,結核,ストップ結核パートナーシッ
プ日本」について非常にわかりやすく説明されて
おり,アドボカシーとは「市民の視点からの政策
提言」であることを知りました。そもそも
advocate(叫ぶということ)が語源なのだそうです。
日本リザルツでは貧困や飢餓,医療の問題を市民
の視点から政策提言をする中で結核の問題を取り
上げ,ストップ結核パートナーシップ日本(以後,
STBJ)を設立し,今では超党派の議員連盟も発足
しています。
結核に関する国際協力と国際結核シンポジウムに
ついて
STBJの代表理事でもある森先生からは,STBJの
役割についてご説明がありました。政府,WHO,
世界エイズ結核マラリア対策基金等と連携し,ストッ
プ結核ジャパンアクションプランに主体的に関与
することを主旨とし,外務省,厚生労働省,WPRO,
当会と共催で先のTICADⅣ,G8のフォローアップ
としての国際結核シンポジウムを7月24,25日に開催。
日本の官民が連携し,国際的な結核対策に取り組
むことを表明しました。
和やかな雰囲気のなかでワークショップは進行した
10
11/2008 複十字 No.324
結核予防会企画・情報部
中野 靖彦
経営情報課長 以上の講演内容から,結核に関する政策提言と
いうものが大変重要であることを新たに認識しま
した。早速,普段から私が関わる業務で感じたこ
とを以下に述べさせて頂きます。
わが国における戦後の結核対策は,昭和40年代
までに大きな成果を上げ,結核を激減させました。
そのノウハウは,現在,途上国を始めとする結核
高まん延地域への国際協力として生かされています。
そんな優れた日本の結核対策ですが,実は今,
国内の結核医療が大変厳しい状況に陥っています。
多剤耐性や超多剤耐性のような問題もありますが,
医学上の問題もさることながら,日本の医療機関
では結核医療自体が経営的に成り立たない危機に
瀕しているのです。全国的に結核病棟の赤字は年
間1億5千万円にも上り,今,日本の結核病床は
不採算を理由にどんどん減少しています。診療報
酬の設定に主な要因があるようですが,医療費の
増大を抑制しなければならない政府の命題からも,
今後,結核の診療報酬を上げていくことは難しい
状況といえます。
しかし都市部での結核医療は,前述の多剤耐性
結核やホームレス等の社会的問題もはらみ,当会
の使命としても放棄することはできません。複十
字病院では結核病棟60床の利用率は常時90%を超
えています。結核は地域により偏在が大きいですが,
都市部では必要不可欠な医療の一つといえます。
しかし経営が成り立たなければ継続できません。
医療崩壊が叫ばれて久しい昨今ですが,国内では
瀕死の状況にある結核医療をなんとかしなければ
いけません。現在,当会では厚生労働省,東京都,
国立病院機構,結核病学会と連携し,この深刻な
問題を打開すべく検討会を始めています。
今回のワークショップで特に印象的だったのは
最後の島尾顧問のコメントでした。顧問がWHOに
赴任していた1987∼90年当時,WHO内ですら結核
はあまり取り上げられることもなかったそうです。
しかし熱心に根気よく説明を続け,ついに20世紀
末にはWHOから非常事態宣言まで出されることに
なりました。特に結核予防会はアドボカシーが苦
手であり,今後もそういった活動のプロと連携し
強化していくことが重要とのことでした。
今,正に,足下にあるわが国の結核医療の再生
について,当会は強力に政策提言していかなけれ
ばならない時かもしれません。
結核予防会支部紹介のページ
和歌山県支部
県民の健康づくり推進の一翼を担って
結核予防会和歌山県支部
(財)和歌山県民総合健診センター
専務理事兼事務局長
和歌山県民総合健診センター入居ビル外観
はじめに(沿革)
和歌山県支部は,昭和15年4月1日に設立され,
「本部の目的とその事業を補完するため結核予防並
びに療養に必要な事業を行い,県民の健康増進に寄
与すること」を目的として,結核予防対策の調査研
究・結核予防思想の普及・結核予防に関する助成事
業を行ってきました。
またその後,昭和60年4月1日から(財)和歌山
県民総合健診センター内に事務局が移転し,現在に
至っています。
植野 博文
なお,本年はAC公共広告機構による支援キャンペー
ンで「地球の咳」がテレビ,ラジオ,新聞,ポスター
で全国的に広報が展開された結果,当支部が実施
した普及啓発事業にも相乗効果があったものと考
えております。
さらに,平成20年4月には当県において「和歌
山県長期総合計画」が策定され,今後10年間の県
の施策の基本的方向が明らかにされました。その
中で,健康づくりを推進するうえで,県民の健康
を脅かす事態への対応の必要性として,「結核を
はじめとした従来からの感染症に加え,新型イン
フルエンザなどの新たな感染症の発生が危惧され
る・・・」と結核及び感染症対策等として予防啓
発や体制整備の充実が明記されており,今後も当
支部が県とともに県民の結核予防に対し,中心になっ
て活動していかなければならないと決意を新たに
しています。
事業概要
当支部では,県民の健康保持・増進と健康水準
の向上を目指し,県内市町村各地域,学校及び事
業所へ赴いての巡回健診検査(事業所健診では一
部当センターで施設健診を実施)事業を行ってい
ます。なお,当県は紀北,紀中及び紀南と南北に
人口が散在する地理的条件から,田辺市と新宮市
にそれぞれ支所を設けて事業を行っています。
また,結核予防思想の普及啓発事業として,当
県及び県内各市町村の行政機関,和歌山県健康を
守る婦人の会,並びに各種団体等の協力を得て,
複十字シール募金運動を実施し,結核予防週間に
はポスター及びパンフレットを県内各保健所及び
各市町村等を通じ配布を行うとともに,JR和歌
山駅及び南海電鉄和歌山市駅前にて街頭啓発活動
及び駅前の電光掲示板による啓発を行っています。
JR和歌山駅前にて広報資料を配布
おわりに
本年度から特定健康診査が始まり,当支部では,
この変化に乗り遅れることのないよう特定健康診
査等に対応出来る新総合健診システムを導入し,
精度管理の向上及び疾病予防の普及啓発等,体制
の整備に努めていますが,健診現場と結果事務処
理においては,一部混乱が続いています。このよ
うな状況ではありますが,関係機関の協力をいた
だくとともに,職員が力を合わせることにより,
今日の困難を克服してまいります。
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Use DOTS More Widely
保健所の役割と医療機関の連携を通して
−訪問看護ステーションと連携して行った地域DOTS−
石川県能登北部保健福祉センター
島田 和
珠洲地域センター 1.はじめに
石川県では,平成17年度より結核患者服薬確認
の訪問を訪問看護ステーションに委託している。
当地域センターでは,2事例に訪問看護ステーショ
ンと連携して地域DOTSを行ったので報告する。
2.珠洲地域センターの概要
能登北部保健福祉センターの所管区域は,能登
半島の先端部に位置する2市2町(人口81,568人,
1,130km2,高齢化率33.5%)からなり,北東に位置
する珠洲市(17,189人,高齢化率39.5%)を所轄し
ている。珠洲市には結核病床7床を有する公立病院
1ヵ所,訪問看護ステーションが1ヵ所ある。
3.結核患者服薬確認のための県訪問業務について
実施方法などは県が定めた仕様書がありアウト
ラインが決められている。
対象者 支援方法
①服薬中断リスクが高く,在宅療養生活の者
②訪問による服薬支援が必要な者
①保健所が服薬支援計画書を作成し,訪問看護
ステーション,対象者,医療機関が共有
②初回は,保健所保健師が同行
③薬の飲み込みを確認し,服薬手帳にサインし
残薬の確認と服薬手帳の自己管理状況を確認
④食欲,体調などの状況の聞き取り
⑤訪問終了後,保健所の様式を用いて翌日まで
にFAXもしくはメールで報告
⑥報告により保健所は支援内容を見直し,必要
に応じて主治医等と連絡・調整
4.訪問看護ステーションと連携した2事例
事例1
年齢:80歳代 性別:女性 病名:肺結核
菌検査:喀痰塗抹陽性 培養陽性 合併症:高血圧
家族構成:本人と50代の長男
治療内容:INH・RFP・PZA・EB
治療期間:6ヵ月(入院3ヵ月,通院3ヵ月)終了
中断リスク要因:物忘れがあり,自己服薬管理が困難,
家族の協力が困難
【訪問看護ステーション導入の経緯】
中断リスク要因から,退院後の服薬支援は,訪
問看護ステーション看護師による週1回の服薬確
認を計画した。導入に当たり,本人の同意を得て,
退院前に保健師に訪問看護師が同行し病室で面接
12
11/2008 複十字 No.324
を行い,自宅への訪問・支援方法や注意点などを
説明した。
<退院時DOTSカンファレンス> 主治医,病棟
看護師長,訪問看護師が参加し,服薬状況を主治
医に連絡,相談することを確認した。
退院後の主治医への連絡は,服薬状況,生活状
況など詳しく文書で4回,電話連絡で2回行った。
【訪問看護師による支援の実際:週1回(30分)計10回】
初回訪問は退院後5日目に保健師が同行して行っ
た。本人より「病院では,その都度看護師さんが
飲ませてくれたが,家では何種類かの薬を合わせ
て飲まなければならないので大変だ」という言葉
が聞かれ,薬が2日分残っていた。薬を飲みやす
いよう,1週間分の薬を朝・昼・夕ごとにホッチキ
スで止め,日付を入れて薬ケースにセットする。
飲み終わった空袋を決めた箱に取っておくよう再
度説明した。また,服薬手帳への記入,体調の確認,
精神的支援を行った。
訪問看護師と保健師が連携して支援したが7割程
度の服薬率であった。その理由として当時薬が1日
3回の処方で他の薬も含め量が多く,対象者にとっ
て服薬が困難であった。
保健師は8回訪問し,本人および長男以外の子ど
も達へも本人の服薬が確実にされるように支援の
理解と協力を働きかけた。
事例2
年齢:40歳代 性別:女性 肺結核
菌検査:喀痰塗抹陽性,培養陽性
治療内容:INH・RFP・PZA・EB
治療期間:6ヵ月(入院3ヵ月半,通院2ヵ月半)終了
中断リスク要因:入院中精神的に不安定,子どもの服
薬管理で負担増
子ども2人 肺結核
菌検査:胃液 塗抹陰性,培養陰性
治療内容:INH・RFP・PZA
治療期間:6ヵ月(通院)終了
【訪問看護ステーション導入の経緯】
入院中の行動制限,家族と離れた寂しさや家の
心配などで精神的に不安定な状態になり,訪問看
護師の支援は必要との意見で主治医や病院看護師
と一致した。
<退院時DOTSカンファレンス> 患者,担当看
護師,保健師とで1回,病棟看護師長,保健師,主
治医とで1回の計2回行った。
退院後は,保健師から主治医や外来担当看護師
に服薬や生活の状況などの連絡を行った。保健師は,
初回訪問に同行し,必要時に家庭訪問や電話など
で支援した。又,医療機関や学校への連絡調整を行っ
た。
【訪問看護師の支援の実際:週1回(60分)計13回】
子どもの在宅の時間に訪問。3人分の空袋,残薬,
服薬手帳,体調の確認,精神的支援を行った。
当初子どもの服薬を担当したのは祖母であった。
薬の袋に日付を入れて,空袋を取っておき,服薬
手帳に子ども自身にシールを貼らせること,尿が
赤くなるなど説明した。祖母は子ども1人ずつに入
れ物を用意して1回の薬を入れ飲み終えたら次の薬
を入れていた。又,子どもが飲む際,薬が苦く,
甘いジュースを欲しがったため,果物味のオブラー
トを使用し2回に分けて包んで飲ませるなど工夫を
凝らしていた。
事例2は,入院中から自分で服薬手帳を記載し
て服薬管理をしており,子どもについては,祖母
がしていた服薬管理を退院後引き継ぎ,3人とも1
回の飲み忘れもなく服薬できた。
服薬手帳記載例
<訪問看護ステーションの訪問時の配慮>
事例2では「近所の人は病気の事を知らないので,
ステーションの名前の書いてある車や服装で来て
もらうと近所の人に不信に思われる」と言われ,
名前の書いてない車で,一見ステーションの職員
とわからない服装で訪問した。
5.医療機関との連携について
服薬支援の方法について,医療機関と保健所の
判断が異なる場合があった。入院中は,規則的な
服薬が出来ていても家では出来ないことがあった。
保健師が入院中の限られた面接ではわからないこ
とを主治医や看護師は把握しているので,両方の
意見交換をする場である退院時のカンファレンス
では,様々なリスクを予測し,事前に対応を検討
することができ,また同じメッセージを対象者に
発信することができると再認識した。事例1では,
主治医と病院看護師は本人の入院状況から一人で
服薬管理可能と認識しており,介護保険サービス
導入は導入できなかった。DOTSカンファレンスは
退院前のみの開催である。退院後は文書や電話で
は報告のみとなってしまうため,支援方法につい
て検討する場として,結核治療と支援に携わる関
係者が一堂に会したDOTSカンファレンスの必要性
を痛感している。
事例を通して医療機関へ積極的に保健所からメッ
セージを届け続けたこともあり、結核患者の服薬
は1日1回の服用になった(事例1)。
また,外来通院時に担当看護師が空袋と服薬手
帳を確認し同様の支援が行えた(事例2)。
6.訪問看護ステーション導入のメリット
入院中に訪問看護師が患者に面接する機会を持
つことは,対象者との信頼関係が深まり,入院中
の対象者の状況を把握できるなど,退院後の訪問
支援がスムーズにでき有効であった。 訪問看護師導入にあたっては,保健所以外の人
が訪問の必要性を疑問視したり,周囲の目を気に
したりするので,対象者や家族に支援内容やメリッ
トを納得してもらう必要がある。
訪問看護師の感想は,①2事例とも受け入れが
よく訪問しやすかった。②事例1は,薬のセットに
時間を要した。③当初,訪問看護師が直接主治医
に連絡した方がよいのではないかと思ったが,全
体を把握している保健所保健師でよかった。④困っ
た事や判断に迷った時に保健所保健師に相談すると,
すぐに対応してもらえ,仕事がしやすかった。
訪問看護師は定期的訪問ができること,そして
翌日まで担当保健師に情報が入るので,問題をい
ち早く把握でき,保健師は即対応することができた。
事例2から感想を聞いた所,「精神的にとても
助かった。又,手帳や空袋を確認してもらったこ
とにより服薬継続の励みになった」との声が聞か
れた。保健師は,立場上入院勧告の延長や行動制
限などの説明もするが,訪問看護師は服薬支援の
ための訪問であるので,精神的に支えになった。
7.おわりに
最後に,服薬支援するには,主治医との共通認
識を持つことが重要である。2事例の実施であっ
たが,今後も必要な対象者があった場合は訪問看
護ステーションと連携してDOTSを推進していき
たい。
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創立70周年を迎えるにあたって(4)
これからの結核予防会
青木 正和
結核予防会 会長 1.結核専門組織への改変論
シップ推進議員連盟も組織され,政治的にも強力
結核予防会は[結核]予防会(以下予防会)なのだ
に運動を展開できることは力強い。ただ,この組
から,他のことには手を出さず,結核対策に専念
織は新しく活発,強力,加えて展開が速いため,
すべきであるという議論もある。予防会本部と結核
実際には研究所が中心になって予防会が実施して
研究所(以下研究所)が残り,複十字病院などは
いる運動も最近ではSTBJに呑み込まれたような感
それぞれ医療法人として独立し,予防会は文字通
じがあることも否めない。実際は,予防会も研究
り結核に専念すべきであるというわけである。確
所もSTBJの有力な構成組織,予防会の役員,職員
かに一理ある議論である。しかし,財団法人の資
の多くもSTBJの有力な構成員である。STBJを支え
産を分割する場合,各施設への贈与として税の対
ていく立場である。予防会は今後国際協力をます
象になり,各施設の負担は大変なものとなる可能
ます盛んに実施しなければならないが,予防会の
性があるし,研究所と本部を運営する資金をどの
理念,伝統,実績の上に立って誇りを持って事業
ようにして確保するかという問題もある。こうな
を展開していきたいものである。
れば各支部もそれぞれ完全に独立するだろう。結局,
予防会は次第に縮小を繰り返し,やがて消滅の運
命をたどるだろう。 予防会はその創立の当初から,国の方針に協力
しながらも学問の基盤の上に立って,全国民を対
象にしてその時々に最善と考えられる事業を展開
してきた。その結果は評価,研究され,改めるべ
き点は改めて実践,その結果を全国の技術者に広
く研修,対策の進歩に努めてきた。このように学
問的基盤の上に活動してきたからこそ,専門の医師,
保健師,放射線技師などからも厚く信頼され,全
国で運動を展開することが出来たのである。もし
病院などを切り離して臨床から離れて対策だけに
走れば,今後ますます重要となる一般の医師など
の研修実施,あるいは医師の共感は得難くなる可
能性があり,結核対策も進め難くなるだろう。
2.国際協力の強化
2007年11月ストップ結核パートナーシップ日本
14
3.結核予防会の理念
結核予防会設立の理念は,初代結核研究所長の
長与又郎が研究所設立時の抱負として述べたこと
に尽くされている。「この研究所の使命は単に結
核の純理論的方面を攻究するのみならず,学問的
研究とその臨床的応用との結合に重点を置き,・・・
結核の行政もまた確固たる学術的根拠を持つ原理
の上にたって・・・常に全国各地の同学者および
研究機関と緊密な連絡を取り・・・また,いかに
多くの施設が出来ても医師および技術者にその人
を得なければ良い効果は得られないので,その養
成は極めて必要で,その方面(研修事業)でも力
をつくす・・・」となっているのである。当時は
大研究所主義の下「研究所に研究部,療養部,健康
相談所の3部を置き,・・・健康相談部は適当な
地点に数ヵ所相談所を置く」としており,療養所,
診療所を含めた全施設を挙げてこの理念の達成に
進むことを使命としたのである。
(STBJ)が発足し,全国の各種組織,関係者が結
その後大研究所主義は改められ,各施設は現在
集されて結核対策の推進が進められている。喜ば
のように独立したが,その理念は変わっていない。
しいことである。特に同名のストップ結核パートナー
そして,これによって得られた成果は,いちいち
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挙げて論ずるまでもなかろう。国を挙げて推進した
はいえるだろう。
対策,全国民の協力,全国各都道府県との協力,医
①Never give up(決して諦めない)
師を始め多くの技術者を対象とした研修事業,さら
結核の患者は減り,難しい手のかかる患者が増え,
に発展して実施した国際協力事業,これらによって
その上経済的に報われないことなので結核医療を
得られた戦後から1977年までの世界で最も早い結核
継続することは困難なことである。しかし予防会
罹患率の減少,その後も続く順調な減少などを見た
の中心的業務なので各施設とも結核を放棄するこ
だけで予防会の業績は充分に理解できよう。
とは許されない。専門的な医師の確保は困難なこ
戦後日本の経済的発展は目を見張るばかりであり,
とであるが,結核を理解した呼吸器疾患または感
社会構造は変化し,国民の少子高齢化は大きく進む
染症専門医を擁し,研究所で結核研究を活発に継
などの変化を受け,わが国民の疾病構造も大きく変
続することで全体のレベルを高く維持し,結核専
わった。保健医療福祉問題に対する国民のニーズも
門機関としての業務は決して放棄すべきでない。
大きく変化した。これらの結果,結核医療の経営は
② 四ツ葉のクローバー
赤字が続き,結核関係の保健衛生事業も単独では成
結核を重視することは勿論だが,肺癌,COPD,
り立たない状況となっている。さらに,状況の変化
非結核性抗酸菌症などの呼吸器疾患には予防会の
を受けて,国の要請,同じ目的で働く医師,技術者
関係者はすべて関心を持って国民の信頼に応える
の要望も結核から離れてきている。
ことが重要である。健診事業に携わる職員は勿論,
これらの状況下で今後,予防会はどういう活動
その他の者も生活習慣病にも関心を広げて活躍す
をするのか,その青写真を描くことこそ70周年を
ることが望まれよう。このような視点にたって昨
迎えるにあたってわれわれが考えなければならな
年(2007年)1月,「結核予防会の基本方針」,
いことである。今後のあり方は今までの延長線上
いわゆる「四ツ葉のクローバー」が発表されたの
にはない。改革し,新たな道を切り開かねばなら
である。
ない。加えて現在,「公益法人制度の見直し」も進
められている。
結核予防会という名前は勿論変えない。しかし,
活動の範囲は知識,経験,ニーズに応じて関連領
域に広げ,内外の結核制圧に向かって最後まで努
4.結核の疫学的状況
わが国の結核の疫学的状況については,既に前号
までに述べた。「結核問題は大筋では済んだ。過去
の問題である」といえるほど簡単なものではないこ
とはいうまでもない。ここでは問題点の項目だけを
列挙すれば次のとおりである。①先進国のラスト・
グループ,②格差の拡大,③増大する大都市の結核
問題,④漸増する外国人の結核,⑤HIV感染合併結
核,⑥逆に減少してかえって対策が難しい農村の結
核,⑦加えて最大の問題として専門家の減少などが
挙げられよう。
力する。何処の企業体でも顧客のニーズの変化,技
術の進歩に応じて,専門知識,経験,智慧をフル
に生かしてその事業を新しい領域を拡張している
のと同じことである。予防会も「四ツ葉のクロー
バー」を進めていけば洋々たる将来があるだろう。
③頼られる専門家の育成 結核事情が好転すれば結核単科の専門家は急速
に少なくなる。一方,保健所の医師,保健師は勿論,
一般の医師,技術者が常に進歩する結核の診断・
治療の技術・方法を正確に理解できるよういろいろ
な機会を捉えて研修活動を行うことが重要である。
結核に関して疑問があれば,電話なりメールなり
で気軽に相談できる「頼られる医師」が各施設,支部
5.5年後,10年後の結核予防会の青写真
に居るよう備えることが今後は大切なことといえ
こういう条件下で5年後,10年後の結核予防会
よう。
の青写真をどう描けばよいか? 全職員,結核予
防婦人会,さらに多くの関係者が力を合わせて描
くべきものである。しかし,少なくとも次のこと
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今年で3年目の在日外国人無料結核健診
9月21日(日),台風通過後の低気圧の影響によ
る雨天の中,東京都北区立飛鳥山公園内で実施さ
れた在日外国人による「火祭り」会場の隣で10時
∼12時と13時∼15時に無料結核健診を実施しました。
雨のため火祭り来場者の出足が遅く,午前中の受
診者は18名と少なかったのですが,午後は40名と
盛況で,異常なし55名,要精検者3名でした。先着
50名の受診者に今年作って好評の「シールぼうや
ストラップ」を進呈し,喜ばれました。
ど結核予防知識の普及啓発資料配布によるシール
募金活動・結核予防週間のPRを行いました。財
団法人アジア福祉教育財団難民事業本部3名,結核
予防会東京都支部4名,第一健康相談所健康ネットワー
ク事業部3名,本部事業部4名,元複十字病院看護
師長1名,全15名のスタッフで実施し,「火祭り」
途中でステージ横の主催者席からマイクをお借り
して,世界でアジアとアフリカではまだまだ結核
が多いことと,本日ぜひ無料結核健診を受けて,
皆さん健康に注意して日本で活躍してくださいと
来場者に呼びかけました。(文責:編集部)
火祭りを楽しむ人々
複十字シールの益金で実施したこの事業で,東
京都支部CR検診車による在日外国人結核健診,
複十字シール宣伝グッズや「結核の常識2008」な
傘が重宝した無料結核健診
ベトナムフェスティバル2008開催される
9月20(土)∼21日(日)の2日間,渋谷の代々
木公園イベント広場において,「Vietnam Festival
2008」が開かれました。このイベントは日越外交
関係樹立35周年を記念して開催されました。結核
予防会は,ストップ結核パートナーシップ日本
(STBJ),日本リザルツと共同で,展示ブースを
用意しました。スタッフは本部より延べ10名,結
シールぼうやは子どもに大人気
16
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核研究所から1名,STBJから3名,日本リザルツ5
名がブースで対応し,ベトナムと日本の結核対策
の状況や世界の状況を来場者にアピールしました。
台風が接近しており,準備は風雨対策を万全に行っ
て初日を迎えました。土曜日は台風一過の秋晴れで,
来場者も多く,配布資材(結核の常識2008)が途
中でなくなるほど盛況でした。ブース内のパネル
に目を留めていただき,「ぜひ一人分の薬代2,000
円を募金させてください!」と声をかけてくださ
る方や,シールぼうやのマスコット(ストラップ)
がかわいいと,募金してくださる方などが多くいらっ
しゃいました。
2日目はあいにくの雨模様でしたが,夕方まで来
場者が絶えず,ベトナム料理や雑貨を扱うテント
は大賑わいでした。野外ステージでもベトナム留
学生の民謡や,ベトナムと親交のあるアーティス
トやベトナムの盲学校の生徒による演奏,またサ
ンプラザ中野さんなどスペシャルゲストも登場し,
大変盛り上がりました。
政府公認のフェスティバルということもあり,
非常に集客の多いイベントでした。食や文化の交
流を目的としたイベントでしたが,ベトナムとの
結核対策の関係を幅広く知っていただくよい機会
となりました。2日間で1,250部の普及啓発資材を配
布し,複十字シール募金は,総額48,167円になりま
した。(文責:編集部)
ベトナムの方が熱心に結核の話を聞いてくださる
グローバルフェスタJAPAN 2008
世界へ響け! 地球を守るメッセージ ∼ひとりひとりが「地球市民」∼
10月4日(土)・5日(日)10:00∼17:00 日比谷公園
毎年10月6日が「国際協力の日」と定められ,
国際協力の重要性とあり方に対する国民の認識と
関心を高めるため,この日を中心として国際協力
に関する各種行事が実施されています。グローバ
ルフェスタ2008は,一般国民を対象に楽しく分か
りやすいをモットーに国際協力をより身近なもの
に感じてもらうとともに,ODAを含む国際協力の
現状と必要性,NGOの活動などについて理解と認
識を深めてもらうことが目的です。
結核予防会は,東南アジア・アフリカに於ける
国際協力活動・国際研修・複十字シール運動・結
核予防婦人会の活動等を紹介し,あわせてCOPD(慢
性閉塞性肺疾患)の普及啓発を行いました。
ただきました。次にプロジェクトコーディネーター
の大室さん,石黒さんから仕事についての感想や
現地での一日の業務の紹介がされました。結核研
究所の開発途上国での国際協力活動を紹介し,10
時30分に終了しました。
ブースでは,来場者に対し結核に関する普及啓
発を目的とし,2日間で1,800部の結核の常識2008・
複十字シール運動のリーフレット・COPDの資料・
ストップ結核パートナーシップ入会申込書等を配
付しました。
又,ブース内の展示は結核研究所の国際協力・
国際研修・開発途上国での結核対策プロジェクト
の紹介・日本の結核の現状報告をポスターにまと
め訴えました。
展示ブースは日比谷公園の出入り口に近く,
多くの入場者がパネルを見てくださいました
ワークショップで司会をする下谷さん(左)
と
DOTSの模様がプリントされた衣装で登場した村上医師(右)
今年は,結核研究所国際協力部の協力を得てワー
クショップを行いました。内容は,「国際保健に
どう関わる? 結核の場合」です。司会役の下谷
さんの挨拶で幕を開けました。村上医師が鮮やか
な緑色の民族衣装で颯爽と登場し会場の目を引き
ました。それから分かりやすく結核の話をしてい
昨年,好評だった婦人会のカンボジア・スタディー
ツアーと南アフリカのケープタウンに於けるストッ
プ結核パートナーシップ活動のDVDを上映しました。
結核菌と戦うシールぼうやも駆けつけ,子供や
女子高生に大人気で普及啓発に一役買いました。
天候も土曜日は,絶好の行楽日和,日曜日もまず
まずの天気で複十字シール募金も2日間で21,409円
になりました。(文責:編集部)
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国際エイズ会議
(2008/8/3-8, メキシコシティ)
参加報告
東京大学大学院医学系研究科
健康科学・看護学専攻地域看護学分野
島村 珠枝
1.TB/HIV合併感染に関するセッションの概要
は低く,世界的にみると感染率の非常に低い国で
世界のHIV感染者の75万人が結核を発症し,HIV
もある。一方で,アフリカ,アジア諸国を中心と
合併結核により23万人が死亡すると言われている。
した諸外国ではエイズの問題は非常に大きく,国
特にアフリカにおいて,結核はHIV感染者にとって
を揺るがす問題となっている。HIV関連の諸問題の
最大の死因であり,結核とHIV感染はイコールと言
中でもTB/HIVは関心が高く,結核対策への取り組
えるほどである。抗ウイルス療法を行っている患
みの必要性についての発言が多く聞かれた。HIVの
者であっても,日和見感染症の中で結核の罹患は
感染率が高い国では,結核は大きな脅威である。
多く,先進国でもまた大きな問題と言える。
アフリカにおいては “TB is HIV, HIV is TB.” とい
TB/HIV(HIV合併結核)対策を進めていくために,
う言葉がとても印象的であった。感染症というボー
以下の2点が特に強調されていた。
ダーレスな問題であるからこそ,感染者の多い国
1)
‘Three I’strategy
だけではなく世界的な視野を持って考えていかな
WHOが現在推奨しているTB/HIV合併感染の戦
略として,
‘Three I’ strategyがある。
‘Three I’
ければならない,ということを強く感じた。
また,今回の会議では時間が合わず参加できなかっ
とは,以下の3つを指す。
たが,HIVと肝炎ウイルスの合併感染のセッション
(1)HIV感染者へのイソニアジド予防内服
に関心を持った。日本でもC型肝炎のキャリアは多
(2)HIV感染者における,結核患者の発見の強化
いので,今後問題になってくると予想される。今
(3)HIV感染者への結核感染制御
後の国内外の動向に注目していきたい。
‘Three I’は,WHOがまとめたTB/HIV活動を
世界エイズ会議には,世界中から,医学,社会学,
協調して進めるための12の政策の一部である。こ
NGO/NPO,HIV陽性者など,様々な立場で
れらが積極的かつ強力に実行されると,TB/HIVに
HIV/AIDSというテーマの下に人が集まっており,
非常に大きな影響を与えることができると考えら
その多彩さがとても興味深かった。普段はそれぞ
れる。
れの立場で活動をしている人々が一堂に会し,
2)Coordination and Collaboration between
HIV/AIDSを中心とした世界の広さを感じることが
the TB and HIV communities
できた。
上記の‘Three I’strategyを含めた戦略を進めて
いくためには,結核対策とHIV対策の両者の協働が
求められる。この協働は選択肢の1つなのではなく,
必須のものである。これまでも協働の重要性は認
識してきたが,それだけでは充分ではなく,実際
に協働を始め,進めていかなければならない。結
核対策とHIV対策の2つのプログラムを進めることは,
TB/HIVの患者の負担を減らし,生命を守ることに
つながる。
2.会議の感想
私は今回,初めて国際エイズ会議に参加した。
会議の参加により,世界のエイズの現状が身近になっ
た。日本ではHIV感染者は増えているものの,関心
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ストップ結核パートナーシップ(南アフリカ)のブース:スラ
ムの家を模したスペース内でTB/HIV患者の写真が展示された
タイ国チェンマイ県における
UNAIDS理事会開催
―JATAブースの反響―
結核研究所国際協力部
堀井 直子
本年4月23∼25日,タイ国チェンマイ県において
UNAIDS理事会が“結核とエイズ”のテーマのも
と開催され,政府,NGO,エイズ患者同盟の代表
が出席した。論議の焦点は,結核がHIV感染者にとっ
て脅威であることを認識し,結核対策の強化に伴
うHIV患者へのより効果的な支援策の可能性を模
索することにおかれた。シディベーUNAIDS副総
裁は,結核・エイズ二大感染症対策のための “戦
略的パートナーシップ”の構築が急務であると表
明された。
今回の会議は,結核対策をなおざりにしてHIV
対策を講じることはできないこと,HIVの包括的
ケアの枠組みで,結核感染予防,治療及びケアな
どのサービスを同時提供する重要性について再確
認する機会となった。今回UNAIDS理事会で結核・
HIVの重複感染対策が議題に挙げられたこと,ま
た統合的アプローチによる二大疾患対策の重要性
が確認された意義は大きい。
会議会場となりの展示室では,世界中から集まっ
た団体がポスター発表,ブース等の展示を行い,
結核・エイズの協調のあり方に関する見識や経験
を共有する場となった。結核予防会/結核研究所は,
長年に及ぶチェンライ地方へのエイズ・結核研究
プロジェクト,支援を実施してきた。同地方にお
ける結核・エイズ疾患にかかる指標に改善が見られ,
死亡率は26.5%に削減し,結核患者のうちHIV検査
受診の割合も87%に上昇した。
ブースを訪れ結核クイズに挑戦するWHOストップ結核ダイレク
ターのDr.ラヴィリオーネは,もちろん正解されました!
これまでの活動の成果について,結核予防会/
結核研究所,現地NGOであるタイ国結核・エイズ
研究財団,チェンライ郡保健局,日本のエイズ予
防財団,タイ北部地方CDC,エイズ患者ネットワー
ク等から構成される「結核・HIV重複感染対策の
ためのタイ・日本国同盟」の名の下ブース展示を
行い,大きな反響を呼んだ。
同分野の研究者,公衆衛生プログラム担当,エ
イズ患者ネットワーク等のステークホルダーが協
力して,結核・エイズの協調を行うために何をす
べきかを問いかけ,チェンライでの研究プロジェ
クト紹介が主眼に置かれた。
このブース展示に先駆けて,理事会の席上タイ
国結核・エイズ研究財団のDr.パチャリー・カンティ
ポンが「結核・HIV重複感染対策のためのタイ・
日本国同盟」を代表して,ブースのアピールをし
た際,「コンドームが,エイズ患者の結核に対す
る意識を向上させることができる,そう信じますか?
答えはブースで!」と会場に呼びかけた。ブー
スの前に立ち,まず目に入るのは天井から吊るさ
れた透明の風船。実はコンドームを膨らませて並
べたもので,これを割ると中から,結核について
の豆知識を問うクイズが。つまり,このコンドー
ムでできた風船ゲームを通して,結核クイズを楽
しみながら学べるという工夫が凝らされていた。
訪問者の中には,WHOストップ結核ダイレクター
のDr.マリオ・ラヴィリオーネ(写真)はじめ,多
くの結核・エイズ専門家がブースを訪れ,全員が「コ
ンドームによる結核の知識促進」ゲームを楽しん
でおり,オリジナリティーに溢れた展示内容が好
評を博した。
その他,結核診断を
実施するためのエイズ
患者グループリーダー,
ヘルスワーカーのエン
パワメントを目的とし
たトレーニングカリキュ
ラム,マニュアルが結
核予防会結核研究所の
技術・資金協力により
作成・出版され,同ブー
ス訪問者に配布された。
マニュアルの表紙(結核研究所作成)
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「第4回アジア大都市感染症
対策プロジェクト会議」の報告
東京都福祉保健局技監
櫻山 豊夫
2008年7月22日,23日,24日とタイのバンコク
都で「第4回アジア大都市感染症対策プロジェク
ト会議」が開催されました。この会議は,東京都
の提唱によって組織された「アジア大都市ネットワー
ク21(ANMC21)」の共同事業として毎年,参加
都市の持ち回りで開催されているものです。今回
の主要議題は,1)結核対策,2)HIV/AIDS対策,
3)鳥インフルエンザ・新型インフルエンザ対策
について,アジア各都市の現状報告と,今後の参
加都市による共同調査研究計画についての検討です。
東京都からは私のほか,各臨床分野の専門家と
して,結核については府中病院の藤田明呼吸器科
部長,HIVについては駒込病院の味沢篤感染症科部
長,インフルエンザについては荏原病院の角田隆
文感染症科部長,そして総括的な立場から都立健
康安全研究センターの前田秀雄所長,健康安全部
の野原永子副参事,前田千歳係長が出席しました。
また結核研究所の大角晃弘先生にも特別にご参加
いただいております。
報告があり,各都市で,まず高齢者を主たるターゲッ
トとした共同調査を行っていく方向が確認されま
した。
HIV/エイズ,鳥インフルエンザについても,現
状報告と意見交換がなされ,これからも各都市間
で情報を交換していくことで一致しました。
また台北からは2007年9月に発生した急性出血
性結膜熱について報告があり,感染症流行時にお
ける,住民やマスメディアへの情報提供,感染拡
大の防止対策などについてディスカッションが行
われました。このような実例を経験することが,
SARSや新型インフルエンザ発生時にも役立つので
はないかと思われます。
東京都の参考になるタイでの取組
3日間にわたる会議の最後に,タイ赤十字エイ
ズ研究センターの見学が企画されました。同施設は,
HIV検査,相談,診療,患者療養支援,研究,慈善
活動など,HIV/エイズに関して幅広く活動してい
ます。東京都でも南新宿検査相談室やHIV/AIDS
情報ラウンジ「ふぉー・てぃー」を展開していま
すが,これからのエイズ対策を考えるうえで,大
いに参考になりました。
今回は日程がきつく,観光地めぐりはできなかっ
たのですが,バンコク都の副知事はじめ健康局,
保健所長の皆様方の心がこもった会議運営のおか
げもあって,有意義な意見交換ができました。
東京都からの発表(執筆者の櫻山)
アジア参加国の発表
結核に関しては,藤田明部長からアジア各都市
の結核の罹患状況などについて報告があった後,
タイ保健省疾病対策部門の副責任者であるユティチャ
イ・カセチャロン博士から基調報告がありました。
タイ国内においては,HIV感染症との合併例が問題
となっているほか,多剤耐性結核菌(MDR)が全
患者の5%を占めているとのことでした。バンコ
ク都ではDOTSの成功率が90%に達しています。
各都市による共同調査研究についてのディスカッ
ションの中では,共通するハイリスクグループと
して,高齢者が挙げられました。そのほか,ホー
ムレスや不法就労外国人,HIV感染者,糖尿病患者
など,東京都とも共通するハイリスク層について
20
11/2008 複十字 No.324
参加者による集合写真
余談になりますが,タイ料理はさぞや辛かろう
と警戒して会議に臨んだのですが,外国人向けに
アレンジしてあるのでしょうか,ホテルで供され
たトムヤムクンやレッドカレーは日本で食べるタ
イ料理に比べればマイルドな気がしました。機会
があれば,こんどは観光でバンコクを訪れてみた
いと思います。
喫煙と結核
結核予防会顧問
島尾 忠男
喫煙と健康については,がんなどいろいろな疾
病が喫煙の影響を受けて,発生や死亡が多くなる
ことが示され,喫煙者自身だけでなく,周囲に喫
煙者がいることによる受動喫煙の影響まで明らか
にされてきている。しかし,喫煙と感染症である
結核との関係については,それほどの影響がない
と考えられていた。WHOは国際結核肺疾患予防連
合(IUATLD)と共同で,喫煙と結核の関連につ
いて世界中の文献を集めて総合的な検討を行い,
その成果が発表されたので概要を紹介する。
(http://whqlibdoc.who.int/publications/2007/9789241596220_eng.pdf)
喫煙と結核の感染,発病や再発,治療成績,結
核死亡率との関連について研究し,英語で発表さ
れた論文1,863の中から,非喫煙者と比べた喫煙者
あるいは受動喫煙者のリスクを,信頼区間を示し
て掲載してある論文192を選び,その全文を3人の
研究者が独立して検討し,最終的に37論文,50の
研究が評価に耐えうるものとして残された。
結核感染と喫煙
採用された研究は8,その内症例・対照研究が1,
その他は断面調査で,オッズ比は1.03∼3.2と喫煙者
に結核感染が多く見られており,感染を厳格に判
断したと思われる5研究の内,1研究では受動喫
煙の感染に対する影響も見られている。
発病,再発と喫煙
採用された24研究中22が,発病または再発に対
する喫煙の影響を認めており,自分の喫煙の影響
を研究した19研究では,オッズ比は1.012∼6.26,受
動喫煙の影響を見た4研究では,オッズ比は1.6∼
9.3であった。煙と結核発病の関係を分析し,残り
の12研究は発病要因を検討する中に喫煙を含めて
いる。追跡調査が5,症例・対照研究が15,断面
調査が4であった。
患者管理・治療成績と喫煙
喫煙と患者発見の遅れ,治療からの脱落,菌の
陰性化の早さ,発見時の病状の重さ,薬剤耐性など,
患者管理や治療成績との関連を分析した研究は11,
その内喫煙の影響が見られたのは7であった。
治療中,治療終了後の死亡と喫煙
香港での追跡調査で,女性では喫煙の影響は見
られないが,男性ではオッズ比4.66。スペインでの
症例・対照研究では治療中の死亡がわずかではあ
るが喫煙群に有意に高かった。
結核死亡と喫煙
5研究のすべてで,喫煙者のほうが結核で死亡
するリスクが高くなっており,オッズ比は最低が1.02,
最高は6.62であった。
研究の進め方を評価し,精度の高いものとその
他に分け,最終的に得られた結論の確かさを評価
しているが,結核発病と喫煙については,精度の
高い8研究がすべて喫煙の影響を肯定しており,
強い証拠が得られたとしている。再発についても,
精度の高い2研究が影響を示し,ほぼ確実な証拠
ありとしている。結核感染と喫煙,結核死亡と喫
煙については精度の高い研究がそれぞれ5研究,
2研究あり,いずれも影響を肯定しているが,感
染についてはそれを判断する方法,死亡について
は結核と他の死因を判別する難しさなど,研究の
進め方に限界があり,ある程度の証拠が得られた
としており,治療や患者管理と関連した成績と喫
煙との関連については,今後の研究課題としている。
このように,少なくとも発病と再発に対する喫
煙の悪影響は確認できたので,WHOは今後結核対
策部とたばこ対策部が共同で,結核とたばこ病と
いう二つの流行に取り組むことになっている。
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女性の喫煙が胎児に及ぼす
影響について(前編)
群馬大学大学院小児科学分野
准教授 望月
1.小児とタバコの害
近年,日本を含む世界各国において,気管支喘
息の増加とその低年齢化が問題となっている。乳
幼児の喘息の発症には,先天的因子と後天的因子
の双方の関与が推測されているが,明らかな後天
的因子として,室内汚染,特に家庭における受動
喫煙について,これまでに数多くの報告がなされ
てきた。 しかしながら,受動喫煙による弊害は喘息のみ
に留まらず,近年の疫学的な報告からも,乳幼児
に引き起こされる障害は,従来考えられていた以
上に多岐に及ぶことが明らかにされている。中でも,
妊婦の喫煙や受動喫煙によって胎児が受ける健康
被害は深刻であり,その後の児の成長発達に大き
な影響を与えることが推測されている。今回は喫
煙と小児に関するこれまでの膨大な報告の中から,
妊娠中の喫煙が如何に胎児に悪影響を及ぼすかに
ついて注目し,述べる。
2.タバコの害とは何か
1) 本邦における喫煙の実態
本邦の成人における喫煙率は,先進国では少な
くない。最近の報告では,男性54%,女性21%であっ
た。注目すべきは,男性は近年になり,全年齢に
おいて減少傾向にあるのに対し,20代の女性の喫
煙率は,むしろ増加する傾向にある(図1)。
博之
若者が喫煙を始める動機には,「好奇心」や「何
となく」など,明確な理由というより生活環境か
らの影響が強く,さらに言えば,未成年の喫煙行
動は友人,親,兄姉,教師などの喫煙と密接な関
係がある。若い女性は喫煙による体重減少を期待
しているとの報告もある。
2) タバコ依存性とは
男女を問わず,喫煙習慣を止められないという
状態は,タバコに対する依存性として考えられて
いる。このようなニコチン依存症は,タバコに含
まれるニコチンが,脳内のニコチン受容体に結合
して快感を生じさせる物質(ドーパミン)を放出
させることに関連する。ニコチンは,ヒトの体内
で作られ,大脳や自律神経系の神経伝達物質とし
て重要な働きを司るが,ニコチンを補給しないと
本来の正常な機能が営めない状態が依存症である。
ニコチン依存の度合いは「起床後何分でたばこを
吸うか」という質問でほぼ正確に推測することが
でき,喫煙までの時間が短いほど,ニコチンへの
依存性が強いと考えられる。
タバコ依存性には,大きく分けて身体的依存と
心理的依存の2つのタイプが考えられている。身
体的依存は脳内のα4β2ニコチン受容体が関係し,
その周囲にニコチンが少なくなると,ニコチンが
欲しくなると考えられている。近年,発売されたチャ
ンピックス錠獏(α4β2ニコチン受容体の作動薬,
拮抗薬)は,脳内にある受容体に接着することに
より,タバコの離脱症状を軽減することができる。
また,服用中,タバコを吸ってニコチンを体内に
入れた場合,あまり満足感が得られなくなり喫煙
行動が抑制される。この薬剤の効果からも,喫煙
常習者のタバコへの身体的依存が確認されるもの
である。
心理的依存としては,喫煙行動に対して重要な
影響力あるいは規定力をもつ因子として,喫煙に
対するイメージや信念などが重視されるべきこと
が明らかにされている。禁煙を勧めるにあたっては,
この2つの依存性を解決する必要がある。
3) タバコの有害性
乳幼児にタバコがもたらす直接的な障害は,タ
22
11/2008 複十字 No.324
バコの煙を吸入することによる気道障害が中心で
ある(図2)。タバコの煙には,ニコチンや一酸
化炭素,シアン化合物,鉛が含まれ,このような
有害物質が,直接,気道に障害を与えることが報
告されている。乳幼児突然死症候群(SIDS)は,
それまで健康であった乳幼児が突然死する疾患で
あるが,近年の検討から,とりわけ,影響が大き
いのは妊娠中の母親の喫煙と出生後の乳幼児の受
動喫煙であることがわかった。乳幼児突然死症候
群と家族の喫煙との関連性が明示された後は,世
界的に発症の減少がみられたことは,如何にタバ
コが乳幼児に気道障害を引き起こしていたかを証
明できたと考えられる。
胎児においては,さらにタバコによる血管収縮
作用と母親の一酸化炭素曝露による低酸素血症が
問題となる。血管収縮作用は主にニコチンによる
と考えられるが,全身の血管に即効性で強力な作
用を示すことが知られている。また,ヘモグロビ
ンに一酸化炭素が結合すると,ヘモグロビンの酸
素運搬能は低下する。ヘモグロビンに結合した一
酸化炭素(血液全量の50%に結合した場合)が消滅
するのに空気呼吸では24時間と長いため,その間,
低酸素の状態が持続することになる。
さらに,タバコの有害物質としての側面を示す
事象として,タバコ摂取により, 抗喘息薬(テオ
フィリン),狭心症治療薬,血圧降下薬(β遮断薬・
カルシウム拮抗薬),非ステロイド系抗炎症薬,
胃潰瘍薬(シメチジン),抗不安薬・精神安定薬,
などの薬物の効果が低下することが知られている。
有効性が減じることにより,薬剤の増量または長
期持続が必要となれば,さらなる副作用について
の懸念も生まれる。
3.タバコの胎児への影響
妊婦が喫煙や受動喫煙をすることにより,胎児
が直接的な被害を受けることは想像に難くない。
前述のごとく,タバコによる血管収縮作用と一酸
化炭素による母親の低酸素血症が直接的に問題と
なる。子宮内でめまぐるしい成長,発達を続ける
胎児にとって,血管収縮作用を示すタバコ関連因
子に胎盤を経由して連日曝露されることは,すべ
ての臓器において,成長阻止や発達抑制がもたら
されると考えられる。
妊婦が喫煙することにより,胎児の成長,発達
が障害されることは,喫煙の妊婦から生まれる児
の出生時体重が少ないことからも明らかである(図
3)。さらに,分娩に関連する種々の障害や児の
形態異常の頻度の増加,さらにその後の発達に関
する障害が増加することも報告されている。これ
らの障害の多くは,妊娠中の喫煙本数と関係する
ことも報告されている。受動喫煙によって小児の
脳腫瘍,白血病,悪性リンパ腫などの疾患の発症
頻度が増加するとの報告があるが,喫煙する妊婦
から生まれた小児でも同様に,悪性腫瘍の発症率
が高いとの報告がみられる。妊婦の喫煙や受動喫
煙が前述の乳幼児突然死症候群を誘発する機序に
ついては,まだ議論の多いところであるが,タバ
コによる低酸素状態が慢性的に続くことが中枢神
経系の発達障害を引き起こすことも推測されている。
(つづく)
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平成20年度地区別講習会実施報告
○講習会テーマ
合同講義Ⅰ,Ⅱ(結核研究所) 「新しい結核対策の展開」
合同講義Ⅲ(厚生労働省)
「感染症法における結核対策」
医師講義
「結核診療 ―最近の動向―」
診療放射線技師講義
「改正感染症法に対応した結核対策・ICRP 2007年勧告の概要」
保健師講義
「変革を続ける結核対策∼看護はどう立ち向かうか」
○開催・講師一覧
開催地
東北
(宮城県)
関東・甲信越
(東京都)
東海・北陸
(石川県)
近畿
(滋賀県)
中国・四国
(島根県)
九州
(福岡県)
日 程
担 当 講 師
9/4∼5
合同講義:加藤誠也(結核研究所副所長)
医師:吉山崇(複十字病院第一診療部付部長) 保健師:永田容子(結核研究所対策支援部保健看護学科長)
診療放射線技師:星野豊(結核研究所対策支援部放射線学科長)
厚生労働省:宮野真輔(健康局結核感染症課専門官)
7/3∼4
合同講義:石川信克(結核研究所所長)
医師:吉山崇(複十字病院第一診療部付部長) 保健師:永田容子(結核研究所対策支援部保健看護学科長)
診療放射線技師:星野豊(結核研究所対策支援部放射線学科長)
厚生労働省:宮野真輔(健康局結核感染症課専門官)
7/31∼8/1
合同講義:星野斉之(結核研究所対策支援部企画・医学科長)
医師:伊藤邦彦(結核研究所研究部主任研究員)
保健師:永田容子(結核研究所対策支援部保健看護学科長)
診療放射線技師:星野豊(結核研究所対策支援部放射線学科長)
厚生労働省:宮野真輔(健康局結核感染症課専門官)
7/22∼23
合同講義:星野斉之(結核研究所対策支援部企画・医学科長) 医師:角泰人(結核研究所抗酸菌レファレンスセンター細菌検査科医員)
保健師:小林典子(結核研究所対策支援部長)
診療放射線技師:星野豊(結核研究所対策支援部放射線学科長) 厚生労働省:宮野真輔(健康局結核感染症課専門官)
7/10∼11
合同講義:加藤誠也(結核研究所副所長) 医師:御手洗聡(結核研究所抗酸菌レファレンスセンター細菌検査科長)
保健師:永田容子(結核研究所対策支援部保健看護学科長)
診療放射線技師:星野豊(結核研究所対策支援部放射線学科長)
厚生労働省:宮野真輔(健康局結核感染症課専門官)
7/16∼17
合同講義:石川信克(結核研究所所長) 医師:御手洗聡(結核研究所抗酸菌レファレンスセンター細菌検査科長)
保健師:小林典子(結核研究所対策支援部長)
診療放射線技師:星野豊(結核研究所対策支援部放射線学科長)
厚生労働省:宮野真輔(健康局結核感染症課専門官)
※講師の役職は開催当時のものです。
平成20年度も結核予防技術者地区別講習会が全国6ブロックで開催されました。
本講習会は,日本の結核および結核対策における最近の動向を示しつつ,日本の結核対策の今後につい
て展望することを目的とします。特に医療基準や定期健康診断,結核病床体制,長期入院対策などを取り
上げ,業務内容に即した講義をもとに参加者で議論を深めていきます。
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東北地区
から,最新のトピックスも交えて,結核の基礎か
ら医療に関する専門的な内容まで幅広い御講義を
宮城県保健福祉部疾病・
感染症対策室結核感染症班
技師 関 貴子
いただき,会場からは日ごろの疑問点を解決する
場として多くの質疑が出ました。
結核対策特別促進事業の実践報告では,宮城県
大崎保健所から「地域DOTSの取り組み」,仙台赤
十字病院から「院内DOTSの取り組み」,いわき市
平成20年度東北地区結核予防技術者地区別講習
保健所から「DOTS事業における薬局との連携」に
会は,宮城県が担当県となり,9月4日,5日の2日
ついて報告及び講師の先生方の助言があり,今後,
間にわたり,仙台市の仙台国際センターで開催し
各自治体で取り組む上で大変参考になりました。
ました。県内外の保健所,市町村,医療機関,薬局,
担当者会議では,各自治体からQFT検査,結核
大学などから約240名の方々に御参加いただきました。
病床の確保などの多くの議題が挙がり,東北6県
今回は,行政関係者以外の医療機関などから多数
の状況を知ることができました。
の参加があり,年々,地域の関心の強まりを感じ
最後になりましたが,研修の企画及び講師とし
るとともに,結核の制圧に向け,多くの関係者の方々
て御指導いただきました結核研究所の方々に深く
と,結核のことを共有する機会となりました。また,
感謝申し上げますとともに,結核対策特別促進事
官民一体となった支援体制作りという面からも貴
業の発表者の方々,東北各県の担当者の方々,そ
重な場面でした。
して遠路はるばる御参加いただいた皆様に,誌上
合同講義及び職種別講義では,厚生労働省結核
よりお礼申し上げます。
感染症課から,感染症法の改正内容を,更に,第
一線で活躍されている結核研究所の講師の先生方
関東・甲信越地区
東京都福祉保健局健康安全部
感染症対策課結核係
係長 大西
清貴
平成20年度の関東・甲信越地区の結核予防技術
者講習会は,7月3日及び4日に東京都において
開催いたしました。
結核予防法が廃止され一年が経過し,法の動向
は少し落ち着きをみせている現在ですが,末端の
現場ではまだ戸惑うことも多く,都道府県の担当
もその処理に追われていることと思います。
また,結核の患者数や罹患率が下がってきてい
るものの,都市部を中心に新たな結核の動向も認
められているところであり,行政のみならず医療
分野,保健分野との連携が急がれているところです。
東京都では,本講習会で医師・保健師・看護師・
放射線技師・介護老人保健施設職員についても対
象とし,各県関係団体を通じて広く参加を呼びか
けたところ312名の参加があり,結核対策への関心
の高さを改めて実感したところです。
特に「結核対策特別促進事業の報告・評価」には,
「外国人に対する結核健診事業(千葉県)」,「薬
局DOTS事業(船橋市)」,「結核地域連携パスの
開発(東京都)」などの先進事例を取り上げたと
ころ,参加が集中し,急遽2階席も開放するなど
うれしいハプニングもありました。
また,行政担当者会議は,私どもの不手際もあ
り短い時間しか取れませんでしたが「横の連携の
ための手続きの統一をどのように図っていくのか」
など16の議題について熱心に討議されました。
感染症法の意義については,従前からの関係者
のご説明で理解を深めているところですが,“結核”
については一くくりにできない部分もあり,現場
の意見を取りまとめ国に提案していくことが非常
に重要と考えます。従って,この講習会のような,
県をまたいだ集まりは大変意義深いものであり,
東京都において開催できたことを担当としてうれ
しく思います。
講師の先生,報告をいただいた皆さま,開催へ
のご協力をいただいた皆さまに,感謝申し上げま
すとともに,参加いただいた皆さまには地域での
活動に活かし次回開催につなげていただければと
思います。
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東海・北陸地区
石川県健康福祉部健康推進課
感染症対策グループ
松村 幸代
平成20年度東海・北陸地区の結核予防技術者地
区別講習会は,石川県が担当となり,7月31日,
8月1日の2日間にわたり,金沢市の石川県女性
センターを会場に開催いたしました。
この講習会には,東海・北陸地区の保健所,市
町村,医療機関等から約120名の方々にご参加いた
だきました。
合同講義では,結核の基礎知識,結核対策の基
本と対策の現状,DOTS,BCG,接触者健診,慢性
排菌者対策等の幅広い内容を大変わかりやすくご
講義いただきました。厚生労働省結核感染症課か
らは,感染症法改正の背景,感染症法の主な改正点,
今後の課題として,国際的な結核対策等について
ご講義いただきました。
近畿地区
滋賀県健康福祉部健康推進課
感染症・難病担当
主査 藤澤
隆二
平成20年度近畿地区の結核予防技術者地区別講
習会を,7月22日,23日の2日間にわたり滋賀県
で開催いたしました。
この講習会には,近畿地区の保健所,市町,医
療機関などから約200名の方々に参加いただきました。
参加者の熱心な様子に関心の高さがうかがえました。
合同講義では,結核の基本的事項,接触者健診
やQFT検査,そして感染症法について,わかりや
すく講義いただきました。合同講義Ⅲは,音声と
パワーポイントによる講義になりましたが,結核
研究所の先生方のご協力により無事行うことがで
きました。
職種別講義では,DOTSをはじめ,それぞれ最新
の知見を講義いただきました。
結核対策特別促進事業の発表では,①「京都市
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また,職種別講義では,講師の先生方それぞれ
専門的な見地からご講義をいただき,活発な意見
交換も行われ,大変有意義でありました。
結核対策特別促進事業の報告・評価では,「抗
結核薬に対する患者意識調査とDOTS対策」(富山
県),「結核患者服薬支援に関する医療機関と保
健所の連携について」(愛知県),「訪問看護ステー
ションと連携して行った地域DOTS」(石川県)の
3件の報告をいただきました。講師の先生方から
的確なご助言をいただき,今後の各自治体での取
り組みに大いに参考となりました。
担当者会議では,感染症法が改正され一年経過
しましたが,行政での結核対応に伴う多くの議題
が提出され,各自治体間で様々な情報交換を行う
ことができました。講師の先生方のご助言もいた
だき,充実した会議となりました。
最後になりましたが,講師の先生方をはじめ,ご
多忙にも関わらず結核対策特別促進事業のご報告を
いただいた方々,講習会の開催にご協力いただいた
各自治体担当者の方々,ご参加いただいた皆様にこ
の場をお借りしまして深く感謝申し上げます。
結核対策推進プロジェクトチームの活動」(京都
府),②「QFT−2Gを用いた接触者健診について」
(滋賀県),③「母子結核発症事例を通して」(奈
良県),④「大阪府下における塗抹陽性患者の
DOTS取り組みのまとめから」(大阪府),⑤「接
触者集団検診におけるQFT検査の使用事例」(兵
庫県),⑥「手帳型地域連携クリティカルパス(パ
スポート)の取り組みについて」(和歌山県)を
発表いただきました。併せて,各発表に対して講
師の先生方から助言いただきました。
発表により各府県共通の課題や最新の取り組み
を知ることができ,結核予防対策を推進する上で
大変参考になりました。
また,講習会終了後に結核研究所の先生方や近
畿地区の結核担当者の方々と意見交換会を開催い
たしました。全国の動向や近畿各府県の結核対策
の現状などをお聞きするとともに,日頃の疑問な
どを気軽に質問させていただき,大変有意義な時
間となりました。
最後になりましたが,講師の先生方,近畿各自
治体の発表者の方々,担当者の方々,そして参加
いただいた皆様にこの場をお借りして深く感謝申
し上げます。
平成20年度地区別講習会実施報告
中国・四国地区
島根県健康福祉部薬事衛生課
感染症グループ
主任 細木 進
島根県は,地区別講習会を7月10日∼11日の2日間,
本県松江市において開催し,保健所をはじめ関係
機関等から約140名の方々に御参加いただきました。
講習会では,講師の先生方に専門的な見地からの
講義に加え,結核対策特別促進事業の報告や行政担
当者会議において的確な御助言をいただきました。
今回の講習会は,法改正から1年経過後の開催
となりましたが,感染症法における結核対策につ
いて再確認するとともに,現状における課題や今
後の対策について知見を得る非常に有意義な機会
となりました。
結核対策特別促進事業の報告では,倉敷市,広
島県,島根県の担当者からDOTS事業,コホート検
討会,地域連携クリティカルパスの取り組みにつ
いてそれぞれ発表していただきました。発表は,
事業を実施して効果的だった点や課題に対する対
応等について具体的な事例が盛り込まれており,
九州地区
福岡県保健医療介護部
保健衛生課感染症係
技術主査 馬場 洋
結核を取り巻く環境は,急速な高齢化・多剤耐
性の出現など社会情勢の変化や昨年度の法体系改
正などで新たな結核対策が求められているなか,
平成20年度九州地区結核予防技術者地区別講習会
を7月16日,17日の2日間,県内外の保健所,市
町村,医療機関などから約230名の参加をいただき
福岡県春日市のクローバープラザにて開催しました。
合同講義では,結核予防会結核研究所の石川所
長から「新しい結核対策の展開PartⅠ・Ⅱ」として
2日間に渡り,結核の基礎からDOTS戦略・感染症
法下の結核対策・今後の課題の順に細やかな説明
と参加者からの質問への丁寧な受け答えで,会場
は和やかな雰囲気に終始包まれました。
厚生労働省健康局結核感染症課宮野専門官からは,
「感染症法における結核対策」と題して感染症法
結核対策に携わる参加者にとって,日頃の活動と
重ね,非常に参考となる内容であったと思います。
また,行政担当者会議については,2部構成で開
催しました。初日に担当者のみで意見交換を行い,
2日目に講師の先生方を交え,初日に議論した議題
等について御助言をいただきました。会議の進め
方など運営上の課題もありますが,一つの事例と
してお知らせします。
この講習会では,講義の受講による知識の習得
だけでなく,講師の先生方や各自治体の担当者と
交流できたことも収穫でした。初日の講義終了後,
講師の先生方と各自治体の担当者との食事会を企
画したところ,多数の方に御参加いただきました。
食事会では,忌憚のない情報交換を行ったほか,
各地のPRを兼ねた自己紹介等により盛り上がりま
した。講師の先生の意外な一面も垣間見ることが
でき,また,電話や電子メールでの連絡だけだっ
た担当者の方との会話により親交が深まったと感
じています。
最後になりますが,講師の先生方,結核対策特
別促進事業の発表者の皆様,各自治体の担当者の
皆様,結核研究所をはじめ企画・運営に御協力を
いただいた皆様,そして参加された皆様にこの場
をお借りして厚く御礼申し上げます。
改正の背景から感染症法の主な改正点・今後の検
討課題について解説して頂き,参加者より「理解
しやすくわかりやすかった」との声が多く聞かれ
ました。
職種別3分科会では,医師・保健師・診療放射
線技師に分かれ,それぞれの講師と参加者の声が
会場内に響き渡り,終了予定の時間を大幅に超え
大変な盛り上がりとなりました。
結核対策特別促進事業の報告・評価では、結核
服薬支援事業の報告について福岡県と宮崎県から
の報告が行われ,今後各地での治療成績の向上に
大いに活かされる報告でありました。
講習会終了後に開催した九州地区担当者会議では,
感染症法に基づく人権に配慮した結核対策について,
それぞれの立場での考えを述べ講師の方々より助
言を仰ぎながら,各自治体の現状把握と結核対策
の方向性を見い出すことができました。
最後になりましたが,講師の先生方をはじめ九
州各県の担当者の方々,ご多忙にも関わらず結核
対策特別促進事業の報告を頂いた方々,参加され
た皆様方と本講習会運営に携わった方々にこの場
をお借りして深くお礼を申し上げます。
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愛知県の結核予防会活動の確立と発展
いそえ きいちろう
磯江 驥一郎
先生
平成20年1月15日逝去 享年91歳
文:名古屋大学名誉教授 青木 国雄
ご 略 歴
栄誉
平 成 4 年 叙勲 銀杯授与
昭和17年
9月 北海道帝国大学医学部から転学,名古屋帝国大
学医学部を卒業
昭和17年
9月 名古屋帝国大学医学部勝沼内科入局
昭和49年 財団法人結核予防会会長表彰
昭和54年 愛知県知事感謝状
昭和55年 警察庁長官警察協力賞
昭和17年 10月 海軍短期現役軍医として入隊 終戦で復員,勝
沼内科復帰 昭和22年
4月 鳥取県東伯郡旭村農業組合診療所勤務
昭和25年
3月 名古屋大学医学部日比野内科帰局,
同27年4月 名古屋大学医学部助手
磯江先生は鳥取,倉吉の人である。志を抱いて
北海道帝国大学予科に進まれ,北大医学部に入学
昭和29年 10月 財団法人結核予防会愛知県支部第一診療所長
されたが,ご家庭の事情で名古屋帝国大学に転校
昭和31年
され,卒業後,直ちに海軍短期現役軍医として招集,
2月 イタリア国フォラニーニ結核研究所留学
(9ヵ月)
昭和37年 11月 財団法人結核予防会愛知県支部常務理事
昭和52年
8月 財団法人結核予防会愛知県支部結核予防センター
太平洋海域で活躍された。乗艦がトラック島停泊
中に米軍機の急襲で沈没し,先生はたまたま上陸
所長
昭和53年
4月 国立療養所中部病院院長(6年)
中で帰船できず,その後は大部分陸上勤務で苦労
昭和59年
4月 同上病院名誉院長,財団法人結核予防会愛知県
されたようである。昭和25年,名古屋大学第一内
支部常務理事復帰
昭和61年
4月 財団法人愛知県健康づくり振興事業団常務理事
科に帰局,勝沼教授の後任,日比野進教授から結
昭和63年
3月 同事業団常務理事退職
核研究部門の確立を命ぜられ,先輩の高島常二博
士とともに新しい研究室を短期間に大発展させた。
昭和29年,第29回日本結核病学会が勝沼会長の下,
学会活動
日本結核病学会: 昭和59年4月:名誉会員,理事:昭和
名古屋で開催された時,磯江先生は学会の運営,
44年7月より58年4月まで,合計5期
財務を担当され,文字通り東奔西走され,無事目
同 評 議 員: 昭和38年4月より58年4月まで20年間。
日本肺癌学会特別委員:昭和59年10月,日本肺癌学会中
部肺癌学会名誉会員
社会的活動
厚生省臨時結核実態調査幹事 昭和33年3月(1年半),厚
生省公衆衛生審議会委員 昭和61年9月より5年1ヵ月。愛
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的を果たされ,勝沼会長,日比野教授より高く評
価された。当時の愛知県衛生部長は厚生省の結核
対策で敏腕を振るわれた小川朝吉先生であり,愛
知県では手始めに,焼失した結核予防会愛知支部
知県及び名古屋市の衛生対策,結核対策委員として約半世紀,
第一診療所(戦時中に焼失)の再開を企画,日比
その他教職員,警察,地域集団の健康管理に長年貢献した。
野教授に相談された。そして磯江先生が手腕をか
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われ責任者に任命された。この診療所は結核予防
物事を運ぶことは少なく,先輩や,同僚,後輩に
会の全国ネットの一環としての結核対策,それに
よく相談された。しかし地方の医学界には因習的
地域での診療・指導,医療機関への情報提供,協力,
なことも多く,各種の問題に悩まれ,また妥協を
保健所活動の支援,地域集団検診や結核管理の推
余儀なくされたことも一切ならずあったが,あま
進が目的であった。診療所は同年10月開設,11月
り動揺の色をみせられず,粘り強く仕事を処理さ
より診療を開始した。大学人の医療経営で心配さ
れた。長身で身だしなみがよく,微笑をたたえて
れたが,先生は三面六臂の活躍をされ,ほぼ2年
応対されるので,多くの人々から頼みにされていた。
間で予想以上の成果をあげられた。さらに若手医
話術は巧みで人をそらせず,いつの間にか自分のペー
師の卒後教育,結核治療・予防研究も始め,大学
スに持ち込まれた。先輩,友人を大事にされ,社
の出先病院と密接に協力し,結核医療と教育の中
交的で,他人の心を傷つけないようたえず配慮さ
心とされた。敗戦後当地方の大学の診療・予防の
れていた。一方シャイな面があり,周辺がやきも
能力が低下していた時代であり注目を集めた。
きすることもあった。友人,後輩と団欒する雰囲
磯江先生は昭和31年,結核予防会結核研究所長
気がお好きで,しばしば独自の磯江節をかたり続
隈部英雄先生のご推薦でイタリアのフォラニーニ
けられたが,こと志と異なる生活への気晴らしもあっ
研究所へ留学され,欧州での結核医療を学ばれた。
たようである。ごく晩年,昔,無理な要請がつづき,
新しい医療とともに,疫学研究も紹介され,歴史・
つい睡眠薬を飲みすぎたこともあったと洩らされ
文化を通した欧州の考え方を,敗戦後の情報の乏
ていたからである。
しいこの地方に伝え活性を与えた。以降,積極的
院長を退職されてから発声障害に悩まれたが,
に結核予防会活動を展開され,同時に東海地方の
療養中でも落ち込まれず,生活を規制され,回復
結核研究活動を推進された。その後,結核感染予
期には積極的に集会に参加され,障害の克服につ
防対策の強化が求められ,この診療所を結核予防
とめられた。これは後輩にとって非常な教訓となっ
センターに発展,拡大され,結核低死亡率・高罹
た。さらに晩年は,奥様を介護しながらも,ご苦
患率時代の活動拠点とされた。
労はあまり洩らされず,また最後まで結核予防会
昭和53年には大学や国の要請で国立療養所中部
愛知県支部にサービスをつづけられたことは敬服
病院院長に転任され,転換期の結核療養システム
のほかはない。幸い女婿の下方薫教授が日本結核
の改組に当たられた。同病院定年退官後は,常務
病学会で大活躍をしておられる。二代にわたる結
理事として同上結核予防センターに復帰され,昭
核への貢献は当地方の誇りでもある。
和61年以降は再編成により統合された愛知県健康
筆者は卒業後まもなく,磯江先生のご高配もあ
づくり振興事業団の常務理事として結核部門の責
り結核予防会結核研究所へ内地留学,その後6年余,
任者を担当された。昭和63年に退職されたが,引
前記の第一診療所でご指導,ご鞭撻を受けた。そ
き続き助言と実際的な支援を続けられた。
の後,大学医局から疫学研究を命ぜられ臨床を離
診療・予防活動と同時に,厚生省,愛知県,名
れたので,以降,先生にあまりご恩返し出来ず悔
古屋市などの結核・保健・医療関係の各種の役職
いも少なくない。そうした事情と多くの身近な先
につかれ,結核を中心とした社会保健医療対策に
輩が先立たれたので,不肖がこの稿をお引き受け
半世紀にわたり貢献された。
することになった。至らない拙文のお許しを願う
先生は大きな志を持たれ,お名前のごとく駿馬
の勢いで仕事を進められた。大局を把握され,現
ものである。
謹んでご冥福をお祈り申し上げる次第である。
実をきめ細かく分析される方であったが,独断で
お詫びと訂正
前号(№323)30pのご略歴を誤って掲載いたしました。磯江先生とご家族の方,ご執筆いただいた青木国雄先生に
深くお詫び申し上げます。謹んで全文を再掲載させていただきます。
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29
健康ネットワーク通信
No.
21
特定健診・保健指導の成功の要 −受診率向上に向けて−
結核予防会 理事
結核予防会第一健康相談所
岡山 明
所長 特定健診開始半年の状況
本年度から施行された特定健診・特定保健指導
により健康づくりの考え方を大きく変えることが
求められています。市町村保険者,健診機関のもっ
とも大きな関心事は受診率の低迷です。国民の健
康診断受診率は60%前後,国保加入者では30%程
度にとどまっていた受診率向上が制度の柱となっ
ています。国の示した目標に沿って計画を作成し
たものの受診率が伸びず,計画とは大きな乖離を
示している保険者が多いと聞いています。その結果,
健診を受託する側も実績が大きく落ち込んでいます。
これはどのような原因によるものでしょうか。
老人保健事業を中心とした従来の保健事業では「効
果評価は10年先でなけばわからない」,「住民の
意識付けは短期では変わらない」といった健康づ
くりの難しさが強調され,個々の保健事業の目標
達成度を評価する仕組みが十分ではありませんで
した。今回の保健事業では達成目標として「特定
健診の受診率」,「保健指導の実施率」,および「保
健事業によるメタボリックシンドロームの有病率
の変化」を数値目標として設定することを保険者
に求めています。また保健事業の達成度によって
高齢者医療の分担金を加減することも盛り込まれ
ました。従来の事業が保健師や保健事業関係者の
代償を求めない積極的な活動を前提としたのに比
較してかなり現実的な制度になったといえます。
大きな動きとしては健診を受診するだけで終わら
ないで支援の必要な人には保健指導を実施する仕
組みの整備が今回の制度の主眼といえますが,国
民全体が健康診断を受診することが前提となって
います。
受診率向上のためには,従来受診してこなかっ
た加入者に働きかけて新たに受診していただく必
要があります。残念ながら今の市町村保険者のほ
とんどはこうした未受診者にうまく働きかける方
策を持っていません。従来「受けたい人が受ける」,
「受診率が高くなりすぎると費用がかさむ」など
30
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の理由から積極的な働きかけをしてきていないた
め受診率向上のノウハウがありません。またそう
したノウハウを他から入手するルートもないのが
現状です。一方健診機関は入札結果に基づき委託
者の示した契約内容に沿って健診を行うことが主
眼であり,保険者とともに健診の受診率向上につ
いて一緒に取り組むという視点がありませんでした。
現状を見ると保険者,健診実施機関ともに考え
方を大きく変える必要があることが分かります。
保険者は受診率向上のために,様々な手を打つ必
要があります。被保険者一人一人の意識を変えな
いと受診率が伸びることは考えられず,それは容
易なことではありません。図1は計画的な受診率
向上のために強化地区を作成して順番に行ってい
く手法です。この方法の特徴は同じ手法を異なる
集団に順番に適用するものです。実施側にはノウ
ハウの蓄積がえられ,対象者側は順次交代するの
で新鮮な受け止めが可能となります。孫子の兵法
にあるように「相手は分散させ,味方は集中させる」
ことが事業成功の秘訣ではないでしょうか。
受診率向上への取り組み
受診率向上の基本的な考え方はそれでよいので
すが,具体的には被保険者にどんな働きかけをす
ればよいのでしょうか。この答えは,保険者と健
診機関双方にあります。すべての保険者の受診率
が低迷している訳ではなく少数の保険者では受診
率向上に結びついた実績をもっています。成功し
た保険者にその要因を聞きますと,様々なノウハ
ウを用いています。各市町村保険者の情報を集め
ることは健診機関にとって基本的な活動といえます。
この取組情報を保険者の協力を得て精査し,他の
保険者に伝達する役割を健診機関が担当してはど
うでしょうか。健診機関がノウハウの伝達媒体と
なるのです。さらに結核予防会の全国組織を活用
すれば全国レベルの情報交換を媒介することも可
能になり,情報の質があがります。情報提供組織
としての期待度も大いに高まり,公益団体の業務
としても意義あるものといえるでしょう。
健診機関のあり方
上記に述べたように特定健診・保健指導は健診
を実施する側にも意識の変革を迫っているといえ
ます。従来の「質の高い健診を行う」ことは重要
ですが,それだけでは十分ではありません。保険
者の保健事業全体を支援していくための企画力を
発揮して,受診率の向上,保健指導への参加率の
向上,さらに有病率の減少に向けた提案を実施で
きるよう体制を強化していく必要があり,こうし
た取り組みの上に効果的な保健指導の実施が期待
されます(図2)。
特定健診・保健指導のもう一つの課題は,治療
を必要とするようなハイリスク者の扱いです。特
定健診では要治療域に入らない比較的狭い範囲が
指導対象となっており,さらなるハイリスク者に
対する支援は義務事項となっていません。しかし
将来の医療費の増加抑制効果を考えると,治療中
の人へも適切な支援が必要になります。しかし,
実際には特定保健指導のような詳細な保健指導を
医療現場で受けていないのが現状です。そこで厚
生労働省では現在,治療中の人への保健指導が医
療費へどのような影響を与えるかについての研究
事業を開始し,国保の直診で約200名を対象として
無作為割り付け介入研究の手法を用いて効果を明
らかにしようとしています。2年後には効果の程
度やそれを活用した保健指導のあり方について一
定の方向性が見えてくると思います。私たちの経
験では特定保健指導は,ほぼそのまま治療中の方
への保健指導に応用が可能です。保健指導の手法
は特定保健指導にとどまらず幅広く応用される可
能性があるのです。私たちは保健指導の手法を磨き,
対象者への適切な支援を行える人材を育成してい
くことが求められています。
予防会だより
リニック,日本土木工業協会北海道支
部,北海道建設新聞社,沖井キク,札
<指定寄付等>(敬称略)
幌臨床検査センター,伊藤義郎,辻商
紫芝りつ子(複十字病院),東京ナノ 店,岡本内科クリニック,札幌市医師
バイオテクノロジー(結核研究所), 会,南一条病院,鈴木寿江,河合新三,
加藤栄三,安形和巳,木下工業所(新 経成興業,前田和夫,三王印刷,医用
山手病院)
センターフクヤ,産婦人科吉尾医院,
<複十字シール募金>(敬称略)
林ミサオ,メディカルサービス光星調
北海道−北大前クリニック,寺山吉彦, 剤センター,大平燃料店,北海道対が
これなが夜間診療所,小野眼科医院, ん協会,神原商事,三草会クラーク病
原田配管工業所,札幌呼吸器科病院, 院,嵩文彦,藤根勝,慈成会東旭川病
久保田幸代,中垣病院,仲野谷泌尿器 院,酒井仁
科医院,大口正道,小樽病院,保坂真, 東京都−東京都地域婦人団体連盟,宝
時計台鑑定,胃腸科・内科吉田裕司ク 仙学園小学校,東京都立東久留米総合
多額のご寄付をくださった方々
高等学校
京都府−早川みさを,田中一二,上尾
美代子,村田元,小澤壽一郎,上田千
里,寸田脩,水田育子,三陽商事,英
興,菱田多賀志,奥本惠治,安城欽寿,
安岡五郎,西田武,京都府歯科医師会
会長平塚靖規
大阪府−浄美社,齋藤明彦,増田國次,
小倉剛,岡島健三,吉田忠春,川闢優
美,渡辺会渡辺病院,切石次郎,なか
じまちあきクリニック,兵頭厚子,新
宮良介,大槻博司,吉田実,村井正直,
三宅豊,広村孝司,駒谷美津男,武田
吉弘,橋詰電気工業所,永尾尚子,清
11/2008 複十字 No.324
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水敦,映機工業,ホリキリ,吉長正文, 泉潔,岩本愛吉,小沢利男,大谷和子,
三谷哲雄,小野紀子,西林英則,金杉 加藤宏,岸田英明,小寺守,小林健,
さよ子,松浦清臣,守行善五郎,木村 小林貞夫,小林康子,小原二郎,神前
秀元,真鍋千賀子,リフレッシュハン 和郎,佐藤尚人,清水國光,庄司義雄,
ズ,中田美子,佐名木定夫,倉橋秀円, 鈴木満,早田頼子,闍岡浩一郎,塚本
木下明之,北祐三,乾一郎,木村文雄, 信一,寺沢浩平,中村精悟,野田健,
神尾英雄,忌部卓,三宅正昭,鶴岡保, 支倉崇晴,樋口光雄,平岩阿佐夫,平
岡部義一,奥田順一,笠井昭道,青洲 山清,真家孝,松井啓子,松下満雄,
会,長尾喜一郎,永山透析クリニック, 三井高周,村井温,山西貞,横堀惠一,
米村晋,渡辺雄司,末松良介,榎本義
石川幸助,小縣一興,大平政義,咸宜
男,横山宏子,土橋弘道,佐々木正,
建設,上田起業,笠井敬三,山田治彦,
曽野維喜,野口ケイ子,田中佐喜子,
山口朝子,盛田利郎,江田直介,土屋
木下敏子,三輪操子,笠原督,西川博
佳彦,西脇伴平,藤墳誠,山添康,山
之,芳賀敏夫,清野友三郎,富田香,
本雅弘,櫻井信春,加納ミチ,木下渥, 望月紘一,丸山徹雄,山瀬裕,知念昭
平野俊夫,川野憲次,佐野内科,後藤 男,山本千枝,遠藤ユリ,草間光一,
晃,小林三郎,北居俊夫,大西洋一郎, 外山攻,野本震作,後久靜子,井田君
飯尾明郎,天春厚三,小出治光,玉川 子,飯田豊子,青木栄一,塚本華子,
長雄,天野文武,郡慶三,柏木薫,上 遠藤昌一,橋本壽,川嶋みどり,温井
田規充,大京システム開発,隅谷登, みさ,石黒雅明,瀧島輝雄,馬場紀行,
庄司修三郎,安藤敏郎,クリ−ンケミ 藤田力也,小泉潔,吉田豊,長澤紘一,
カル,西保光一,石山憲雄,辻義則, 岸信行,平野正男,保坂紀代恵,田中
下瀬雅士
雅史,三和直子,有馬記念医学財団,
本部−山下武子,阿部陽一,浅岡貞雄, 笹野武則,立川市医師会,東京実華道
場,東京中小建築業協会,東京都遺族
連合会,日本産業廃棄物処理振興セン
ター,日本精神病院協会,日本放射線
技師会,東村山市医師会,国際協力医
学研究振興財団,国土地理協会,全国
学校栄養士協議会,東華教育文化交流
財団,日本照明家協会,寧波旅日同郷
会,龍生華道会,雪谷法人会,全国信
販協会,東京空気調和衛生工事業協会,
福田光,西沢英雄,奥村勇雄,廣瀬勝,
松井由光,伊藤和子,野田和男,殿岡
充夫,平澤省而,京増隆一,水谷直栄,
渡辺康生,中本逸郎,永納尚武,笠原
龍三,杉本栄作,坪井和男,山田浩平,
佐藤博史,廻谷正,日本情報開発・藤
原智,日本建設,社会経済生産性本部
コンサルティング部,瀬山詠子,竹下
景子,伊東保雄,石和田一郎,大槻敏
明,中田加津三,金井文雄,木村久弥,
野村昌夫,橋本一太郎,梅里悦康,栗
原修,小礒一男,三原紀久恵,南袈裟
雄,守屋俊晴,海老名信二,田崎嘉子,
山口新平,熊本貞夫
結核予防会役員人事<敬称略>
《支部》
発
令
日
平成20年 7月 1 日
平成20年 6月 30日
平成20年 4月 1 日
平成20年 4月 1 日
平成20年 3月 31日
平成20年 4月 1 日
平成20年 3月 31日
平成20年 6月 23日
平成20年 6月 23日
平成20年 6月 23日
平成20年 4月 1 日
平成20年 3月 31日
平成20年 7月 23日
平成20年 4月 1 日
平成20年 3月 31日
平成20年 8月 21日
平成20年 8月 20日
支部名
秋田県
秋田県
岐阜県
岐阜県
岐阜県
山梨県
山梨県
長崎県
長崎県
長崎県
兵庫県
兵庫県
山形県
岡山県
岡山県
岡山県
岡山県
平成20年11月15日 発行
複十字 2008年324号
編集兼発行人 山下 武子
発行所 財団法人結核予防会
〒101- 0061 東京都千代田区三崎町1-3-12
電話 03
(3292)9211(代)
印刷所 日本印刷株式会社
東京都千代田区外神田6-3-3
電話 03
(3833)6971
結核予防会ホームページ
URL http://www.jatahq.org
谷
井
亀
古
青
薬
大
蒔
井
入
田
渡
藤
井
末
神
田
氏 名
田 部 知
上 裕
山 川 一
山 二 美
袋 久 保 幹
本 石 哲
江 季
口 辺 田 戸 俊
長 ノ 田 昌
原 克
一
司
美
雄
健
雄
恭
哉
記
章
裕
穣
夫
敦
博
志
発
令
内
容
副支部長を委嘱する
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支部長を委嘱する
副支部長を委嘱する
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本誌は皆様からお寄せいただいた複十字シール募金の益金により作られています。
複十字シール運動
みんなの力で目指す,結核・肺がんのない社会
平成20年度複十字シール
複十字シール運動は,結核や肺がんなど,胸の病
気をなくすため100年近く続いている世界共通の
募金活動です。複十字シールを通じて集められた
益金は,研究,健診,普及活動,国際協力事業な
どの推進に大きく役立っています。皆様のあたた
かいご協力を,心よりお願いいたします。
運動の輪を広げてください。シールは,はがきや,手紙や包装の封印,何にでも使えます。
問合せ:資金課 TEL03-3292-9287(直)
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● 切手にみる結核 7.結核に悩んだ文学者たち
(西洋編 Ⅱ)
岡西雅子様から貴重な切手のご紹介は7回目となり,前回に引き続き文学者を集めてみました。
①ソビエト・1968年
②ルーマニア・1960年
③ブルガリア・1956年
④アメリカ・1940年
⑤アメリカ・1940年
⑥アメリカ・1967年
⑦ダホメ共和国・1970年
⑧アメリカ・1967年
*切手の下には、発行地域と発行年を記載しています
切手解説
前回に引き続き,文学者を取り上げます。今回は,アメリカとロシアの文学者を紹介します。
①のマクシム・ゴーリキー(Максим Горький, 1868−1936年)はロシアの作家で,10歳で母を結
核で亡くし,自らも19歳の時結核になって亡命し,海外での療養を繰り返しました。生誕100年記念の切手です。
②のアントン・チェーホフ(Антон Павлович Чехов,1860−1904年)は劇作家であり,ま
た優れた短編小説家です。医師としての資格を持っていましたが,診療行為を行うことはなく,コレラの予防や
医学雑誌の発刊の援助をし,またその鋭い観察眼で結核との戦いを続けながら小説や戯曲を残しました。日常の
ささいな出来事が描写された「かもめ」,「ワーニャ伯父さん」,「桜の園」などは有名です。こちらも生誕
100年記念の切手です。
③のドフトエフスキー(Фёдор Михайлович Достоевский,1821−1881年)は,小説
家・思想家です。1844年に軍を退き,翌年に「貧しき人々」を発表し,有名になりました。しかし,その思想か
ら4年間シベリアに投獄され,さらに5年間兵役を命じられ,その後結核を患いました。「罪と罰」,「カラーマー
ゾフの兄弟」などは彼の作品です。
④のワシントン・アーヴィング(Washington Irving, 1783−1859年)は,19世紀前半のアメリカ合衆国最初の
作家です。16歳になって法律事務所で働き,その頃肺結核を患いました。経過は緩慢で,76歳で亡くなりました。
⑤のラルフ・エマーソン(Ralph Waldo Emerson,1803−1882年)は,米国の作家で詩人です。ハーバード大
学神学部に在学中,結核となりました。1829年に結婚した妻も1年半で他界し,イギリスに渡ってワーズワース
らと親交を深めましたが,5年後に帰国し79歳で亡くなりました。
⑥のヘンリー・ソロー(Henry David Thoreau,1817−1862年)は,作家・思想家・詩人でエマーソンと交流
がありました。家族が結核となり私塾の職を失い,自然の生活を送りながら「森の生活」という作品を発表しま
した。
⑦のウォルター・ホイットマン (Walter Whitman, 1819−1892年) は詩人,随筆家です。アメリカ文学において
最も影響力の大きい作家の一人でもあり,しばしば「自由詩の父」と呼ばれています。彼もまた,結核で亡くなっ
ています。ダホメ共和国は,西アフリカにある国で1975年にベナン共和国と名を変えています。
⑧のユージン・オニール(Eugene Gladstone O'Neill,1888−1953年)は,アメリカの近代演劇を築いた劇作家
として知られています。1912年に肺結核と診断され,療養中に劇作を始めました。「地平線のかなた」という作
品では,肺結核患者の姿が描かれています。彼は1936年,ノーベル文学賞を受けました。
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