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いくつかの分野で:クロスオーバー?支離滅裂?

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いくつかの分野で:クロスオーバー?支離滅裂?
研究室だより
いくつかの分野で:クロスオーバー?支離滅裂?
松本浩一
図書館情報メディア研究科教授
今、改めて
ある儀礼書や、小説(怪談というほうがふ
研究室だよりを書くようにといわれて、 さわしいでしょう)などの漢文と顔を突き
気楽に引き受けてしまいましたが、締め切
合わせる毎日でした。これが第一の課題で
りが近づいてきまして、今まではどのよう
す。そして台湾の民間信仰の迫力と多様さ
な記事が載っていたのだろうと思って、い
にすっかり圧倒され、以来台湾に実態調査
くつか読ませていただきましたところ、い
に出かけるのは、ずっと生き甲斐のように
ろいろと考えさせられることがありました。 なっています。
というのは私の場合、研究が多方面にわ
しかし 26 歳の時に筑波大学学術情報処
たっていて、現在追いかけている研究の主
理センターに勤務することになりまして、
題、そして研究ばかりでなく、ゼミ生たち
計算機を一から学ぶことになりました。今
がテーマとする主題、授業を行っている主
ではパソコン内蔵ですむようなディスクの
題、それらも同じように多種多様だと、改
容量が、広い部屋一杯になった大きな装置
めて思い至りました。
が必要だった時期です。そこで自分の分野
の研究にコンピュータを利用することに取
私自身の研究歴
り組むことになりました。またそのために
そのことは、私自身の研究歴と大きく関
は、情報検索など主として理系の分野で進
係しております。筑波大の前身東京教育大
められている情報学の成果を、文系に応用
の学部 3 年から、筑波大学の大学院に在籍
することが必要ですが、それには様々な問
したころは、宋代を中心に道教・民間信仰
題がありますから、その問題に対応するこ
の研究を志し、道蔵という道教の一切経に
とも課題となりました。なにしろ毎日漢文
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筑波フォーラム74号
と向かい合うという、ヘヴィー文系の典型
あまり挑んだ学生はおりません。目録に見
のような学問しか知らない人間が、理工の
える日本に輸入された漢籍が、どのような
最先端の世界へ行ったわけですから、不思
特色をもったものが多かったのかというこ
議の国のアリスと一緒です。日本語が話さ
とを、中国の目録に見えるものと比較して
れているのに、最初は意味が全くわからな
論じた院生がいましたが、漢籍整理の問題
い。しばらく「知恵熱」で寝込んだことも
にあってもまだまだ取り組むべき問題は多
ありました。しかしだんだん自分の取り組
く、また重要な問題でもありますので、学
むべきことも理解できるようになり、計算
類の時から挑戦してくれる学生を望んで止
機を使って漢文資料を多変量解析にかけた
みません。
りということを試みる中で、本来の研究も
細々と続けていきました。
民俗資料のデータベース
しかし図書館情報大学へ移ってから何年
このようにして三つから四つの分野が、
か経つと、今度はむしろ本来親しんできた
次々と課題となっていきました。図書館情
漢籍の古典を、どのように整理・組織化し
報大学でゼミ生を取り始めたころから、卒
ていくか、つまり分類や目録作成をどのよ
業研究のテーマとしてきたのは、主として
うに進めていくか、ということを課題とす
人文系の資料に関するデータベースの作
るようになりました。中国はこの分野でも
成ということでした。特に最初に民俗学の
古い歴史があり、写本や木版の時代から、 分野でデータベース化に挑んでもらった
目録の作成の過程や分類について、あるい
学生が、興味深い成果を上げてくれたこと
は版本の鑑定についての議論がなされ、そ
もあって、以来民俗学の分野の資料のデー
れらは現在では目録学の名で総称されて
タベース化には、毎年一人は取り組んでも
います。現在日本各地には、中国や日本で
らっています。対象とする資料は、年中行
作成され・出版された、古い装幀(線装本)
事や通過儀礼(冠婚葬祭)についての調査
の漢籍が大量に残されていますが、それら
報告書が多かったのですが、アクセスなど
は整理されない限り、利用に供されること
市販のソフトを使って入力する場合、どの
も、また貴重な郷土の遺産として認識され
まとまりを一レコードとして扱ったらいい
ることもありませんから、それらの整理を
のかということが、まず問題になります。
進めることが必要となっています。この分
一つの行事について一レコードにしたら簡
野は漢文の読解能力が必要なので、今まで
単ではないかといわれるかも知れませんが、
研究室だより
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必ずしも報告書の記述はそうなっており
にはデータベースを組み立ててみたいわけ
ません。では内容によって区分していった
で、そこで精力を使い果たすわけにはいか
らといっても、いくつかの行事を一括して
ず、問題点を指摘しておいて、とりあえず
記述した後、その意味づけについて話者が
の解決をして、データベース作成の手続き
語っていることを記していたりします。
に入ることになってしまいます。しかし一
さらにこれは民俗学の資料に限らず、人
度、江戸時代の随筆である『耳袋』の記事に、
文系の資料を扱う場合、どんな場合でも現
キーワードを振っていったときには、主題
れてくるのが、言葉の統制ということです。 のとらえ方やそれを表現する言葉の統制の
民俗学でいえばいわゆる民俗語彙というも
問題に集中し、それを整理・発展させて論
ので、ある民俗事象や民具を、その土地で
文にした場合もあります。
は何といっているかを、研究では重んじて
人文系のデータベースを作成する場合
おりますから、土地の言葉は必ず記されて
には、当然ながら人文の分野と、情報学の
おり、報告書ではそれらが見出し語になっ
両者の知識が必要とされますが、それ以上
ている場合もしばしばです。しかしその言
に指針となるようなものが、今ひとつ確立
葉はその土地独特の言葉ですから、その言
されたとはいえないところがあります。人
葉によって検索するのでは、他の地域の同
文系でいうデータとは、理系のいうデータ
じような事象の検索はできません。対応す
とどのように違い、どのようにモデル化で
る一般語をキーワードとして割り当ててお
きるのか、ということがはっきりしていな
く必要があります。この作業も、民俗学専
いのです。人文系の資料は予め存在してい
攻の古家先生に見てもらいながらゼミで少
るもので、実験や調査、観察のデータのよ
しづつ続けています。
うに、最初からある目的にそって生み出さ
れたというものではありません。意味づけ
人文系の資料
は研究者によって違います。ですからある
当然のことですが、人文系の各分野では、 人にとってはデータとなっても他の人には
格闘する資料にそれぞれ独自の特徴があり、 データとならない、もしくは何を意味する
それをデータベース化する際には、様々な
データかということが全く異なるという場
問題が現れてきます。本来はそれらを解決
合もあります。そこに工夫をしていかなけ
していかなければならないのですが、卒業
ればならない部分があるのだと思います。
研究に取り組む学生にしてみれば、最終的
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道教の分野でも
それだけに資料は多岐にわたっており、そ
さらに一歩進んで、実際に作成したデー
の整理は大きな課題です。これを専門にし
タベースを使って研究を進めていくには、 ようとする学生が出てきてくれることを
やはり骨の髄から文系の人間である私たち
だけではどうにもなりません。幸いわが図
願って止みません。
(まつもと こういち/中国史・図書館情報学)
書館情報メディア研究科は、もともとが理
系・文系が融合したということを謳ってい
たこともあって、人文系の研究に理解の深
い理工系のシステム研究者が多く、理工系
の先生とわれわれが協力するのにふさわし
い環境となっています。この研究科の宇陀
先生のゼミと協力して進めているのは、
『道
法会元』という道教の呪術書にある護符を
データベース化することです。かなり特徴
的な性格をもつこの書物ですが、専門に研
究している人こそごくごくわずかであれ、
参考にしたり引用したりする人は案外多く
います。私たちはいずれはこのデータベー
スを分析することで、道教研究の分野に一
石を投じたいと考えています。
道教や中国民間信仰の研究につきまして
も、これらの分野で資料の整理はますます
強く求められています。まあ道教研究は結
構幅が広く、思想的な問題から、文学への
影響、信仰の実態の研究など多岐にわたり
ますが、
私が研究を進めている分野は、
神々
に直接祈りの文を届けたり、あるいは死者
が憑依して不満を述べたり、神々がお告げ
を下したりというディープな世界ですが、
研究室だより
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