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動詞・形容詞のアクセントをめぐる現況
NHK アクセント辞典 “新辞典”への大改訂 ② 動詞・形容詞のアクセントをめぐる現況 ~進む一型化~ メディア研究部 塩田雄大 『NHK日本語発音アクセント新辞典』 (2016 年 5月発行)への改訂作業では,アナウンサーを対象とした調査の 結果を,最も重要な判断基準とした。この稿では,一連の調査のうち,音声聴取式の「第 2 回調査」で実施した質 問項目の中の「動詞・形容詞」について取り上げる。 ▽調査語の範囲内では,『98 年版』で平板型を第 1 アクセントで掲載していた動詞については,どちらかとい うと平板型から中高型へと向かっているもの〔=中高化〕が多い。 ▽複合動詞は,大部分のものが中高型を指向している。 ▽形容詞を活用させたものは,2 種類のパターンを系統的に区別する伝統的な方式から,両者を区別せずに「語 幹部分の末尾に“下がり目”を置く 」という形式への統合化が進みつつある。 ▽つまり,全体として複雑なパターンから単純なものへと変化する形での「一型化」が進行中であることが確 認できる。 (1958) (1970) ,稲垣滋子(1984) ,日比谷潤 はじめに 子(1989) (1990a) (1990b) (1991) (1993) ,塩 動詞・形容詞のアクセントのパターンは, 田雄大(1998.5) (1998.12) ,田中ゆかり(2003) , 特殊なものを除いて, 「平板型」か,あるい 小 林 め ぐ み(2003) , 松 崎 寛(2003) ,松崎 は「中高型(2 拍語の場合は頭高型) 」のどち 寛・河野俊之(2005) ,中川千恵子・田川恭 らかであると考えてよい。それぞれのグルー 識(2012a) (2012b) ,中村則子(2013) ,三樹 プに所属する動詞・形容詞の数は必ずしも均 陽介(2014) ,田川恭識・中川千恵子(2014) 等ではなく,全体としてはどちらかというと などで報告されている。 「中高型」のほうが多い。そして, 「平板型の 動詞・形容詞が,中高型に移りつつある」と この稿では,NHK アナウンサーへのアクセ いう言語変化の現象が,以前から指摘されて ント調査(第 2 回)1)の結果を概観し,現在「動 いる。 詞・形容詞の中高化」がアナウンサー集団で これまで,比較的多人数を対象にした実態 はどの程度進行しているのか,活用させた形 調査は,複合動詞を中心に取り上げたものと ではどうなのか,またその結果を新しいアクセ しては相澤正夫(1992) ,塩田雄大(1998.5) ント辞典にどの程度反映させたのかなどをめ (1998.8)などがある。また形容詞について は数多くなされており,たとえば清水郁子 82 AUGUST 2016 ぐって,報告する。 本稿で用いていることば・記号を,いくつか説 明しておく。 ▼ 起伏式・平板式: める,すぼまる,せっつく,沿う,添う,供え る*,備える* 【タ行】携える*,たるむ,た わむ,誓う,縮こまる,つぼまる,照らす,滞る, 【ハ 整える*,捕らえる* 【ナ行】擦る,呪う 行】はしゃぐ,はしょる,控える*,びくつく, 浸す,広まる,踏まえる*,震わす 【マ行】む 【ヤ行】結う,揺らぐ せぶ,むせる,萌える なす 音調の急激な“下がり目”が,語の中のどこかにあるも のは「起伏式」 ,どこにもないものは「平板式」である。 ▼ 頭高型・中高型・尾高型・平板型: 「起伏式」のうち,その語の1拍めの後に“下がり目” があるのが「頭高型」 ,語の最後の拍の後に“下がり 目”がある(後ろに助詞を付けたときに顕在化する)も のが「尾高型」,それ以外の位置(語中)に“下がり目” があるものが「中高型」である。なお,これらのもの と対比する際に, “下がり目”のないもののことを「平板 型」と呼ぶ。 ▼ ◎,①,②,③,… : それぞれ,語頭から数えた“下がり目”の位置を示 す。◎は平板型〔=“下がり目”がない〕 ,①は「1拍め の後」,②は「2拍めの後」に“下がり目”がある。 ▼[–2] : 後ろから数えて2拍めの直後に“下がり目”があるも のを示す。起伏式の動詞・形容詞の辞書形(終止形) の基本的な型である。特殊拍などの影響で“下がり目” が1拍前にずれたものは[–3]と表す。 ▼『SJT』 , 『98 年版』 : それぞれ『NHK日本語発音アクセント新辞典』 (2016 年) , 『NHK日本語発音アクセント辞典 新版』 (1998年) の略称として示す。 ▼ キ,ク,ツ など: も 上記のうち“*”を付した項は, [… エ\ ル] と[… \エル]のどちらが優勢であるかを調べ るために取り上げたものである。それ以外は, 基本的に平板型と中高型[–2]のペアについて 尋ねた。 1.1 『98 年版』において平板型を 第 1 アクセントで掲載していた動詞 第 2 回調査で対象とした動詞のうち,これ まで『98 年版』で平板型を第 1 アクセントで 掲載していたものの結果をまとめたのが表 2 である。 これらの「位置づけ」について簡単に考えて みよう。まず,アナウンサーを対象にした第 1 母音の無声化を示す。 回調査は, 『98 年版』の記述で修正したほうが よいと思う箇所を,いくつでも指摘するように 1. 動詞 依頼したものである。そしてその結果の中で指 第 2 回調査で取り上げた辞書形(終止形)の 動詞は,表 1 のとおりである。 調査の設問を作成した(塩田雄大(2011),塩 表 1 「第 2 回アナウンサーアクセント調査」 (2009 年,音声聴取式)で取り上げた動詞 (辞書形(終止形)) (76 項目) 【ア行】扱う,ありふれる,慌てる,いじける, 訴える*,うつむける,促す,うなされる,う なずく,うなだれる,うぬぼれる,うろたえる, 老いぼれる,怠る,襲う,脅かす,おどける,陥 れる,劣る,おぼし召す,重んじる,重んずる 【カ 行】かこつける,かすれる,かっ込む,考える*, きしむ,黄ばむ,ぐずつく,くすねる,くびれ る,食らう,くらます,気 取る,煙 る,答える *,こんがらかる 【サ行】栄える*,悟る,し こる,湿る,しゃくる,記す,しわがれる,すく おど け ど 摘件数の多いものを中心に選定して,第 2 回 けむ 田雄 大ほか(2014),太田眞 希恵・東美奈 子 (2016))。 つまり,表 2 の動詞の大部分は, 『98年版』で 平板型が第 1アクセントとして示されていること (あるいは中高型が第 2アクセントとして示され ていること)に対して何件かの疑義が寄せられ たものである。これらを第 2 回調査として尋ね てみたところ,一部の動詞には順序変更などの 改訂を施す必要のあるような数値になったので ある。 AUGUST 2016 83 表 2 『 98 年版』で平板型を第1アクセントで掲載していた動詞 調査語 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 はしょる かこつける 縮こまる しこる 結う こんがらかる むせる せっつく すぼまる 沿う ありふれる かっ込む 記す うつむける むせぶ 添う 滞る 老いぼれる 悟る つぼまる しわがれる はしゃぐ 怠る うなだれる すくめる びくつく くびれる 浸す くらます たるむ 萌える 扱う 震わす うぬぼれる 食らう いじける 湿る うなされる ぐずつく 脅かす おどける 煙る 襲う 慌てる も おど けむ 平板型 支持率 23 33 36 16 41 17 36 42 48 50 46 50 46 39 41 56 52 61 46 50 59 65 68 70 52 74 64 80 71 83 71 84 96 86 92 96 91 88 92 95 100 92 96 100 < < < < < < < < < < < < < < < < < < < < < < < > > > > > > > > > > > > > > 中高型 支持率の差 『SJT 』 『98 年版』 【“←”は「変更なし」の意】 支持率 “▲”はマイナス 100 ▲ 77 ②, ◎ ◎, ② 100 ▲ 67 ④, ◎ ◎, ④ 100 ▲ 64 ④, ◎ ◎, ④ 76 ▲ 60 ◎, ② ← 100 ▲ 59 ◎, ① ← 75 ▲ 58 ⑤, ◎ ◎, ⑤ 91 ▲ 55 ②, ◎ ◎, ② 96 ▲ 54 ③, ◎ ◎, ③ 100 ▲ 52 ③, ◎ ◎, ③ 100 ▲ 50 ①, ◎ ◎, ① 96 ▲ 50 ④, ◎ ◎, ④ 96 ▲ 46 ③, ◎ ◎, ③ 91 ▲ 45 ②, ◎ ◎, ② 83 ▲ 44 (なし ) ◎, ④ 82 ▲ 41 ②, ◎ ◎, ② 96 ▲ 40 ①, ◎ ◎, ① 91 ▲ 39 ③, ◎ ◎, ③ 100 ▲ 39 ④, ◎ ◎, ④ 83 ▲ 38 ②, ◎ ◎, ② 86 ▲ 36 ③, ◎ ◎, ③ 86 ▲ 27 ◎, ④ ← 87 ▲ 22 ②, ◎ ◎, ② 88 ▲ 20 ③, ◎ ◎, ③ 87 ▲ 17 ◎, ④ ← 65 ▲ 13 ◎, ③ ← 78 ▲4 ◎, ③ ← 68 ▲4 ◎, ③ ← 72 8 ◎, ② ← 62 10 ◎, ③ ← 65 17 ◎ ← 50 21 ◎ ← 60 24 ◎, ③ ← 70 26 ◎ ← 59 27 ◎, ④ ← 63 29 ◎, ② ← 64 32 ◎, ③ ← 57 35 ◎ ← 50 38 ◎, ④ ← 46 46 ◎, ③ ← 48 48 ◎ ← 50 50 ◎ ← 38 54 ◎ ← 18 77 ◎ ◎, ② 18 82 ◎ ← 改訂 順序変更(中高昇格) 順序変更(中高昇格) 順序変更(中高昇格) 例「はしょる 」 平板型支持率:[ハショル ̄ ]は「放送 でふさわしい 」と答えた割合が 23% 中高型支持率:[ハショ\ル ]は「放送 でふさわしい 」と答えた割合が 100% 【両者の差が 20%以上であるものに“<” “>”を付 順序変更(中高昇格) 順序変更(中高昇格) 順序変更(中高昇格) 順序変更(中高昇格) 順序変更(中高昇格) 順序変更(中高昇格) 順序変更(中高昇格) 順序変更(中高昇格) (項目を削除) 順序変更(中高昇格) 順序変更(中高昇格) 順序変更(中高昇格) 順序変更(中高昇格) 順序変更(中高昇格) 順序変更(中高昇格) 順序変更(中高昇格) 順序変更(中高昇格) した】 支持率の差:平板型支持率-中高型支 持率= −77% 『SJT 』 : 『NHK 日本語発音アクセント 新辞典』(2016 )で示したアクセント は,第 1 アクセントが[ハショ\ル ] , 第 2 アクセントが[ハショル ̄ ] 『98 年版』 : 『NHK 日本語発音アクセン ト辞典 新版』(1998 )で示していた アクセントは,第 1 アクセントが[ハ ショル ̄ ] ,第 2 アクセントが[ハ ショ\ル ] 【改訂していない項〔=『SJT』の記載は『98 年版』 から変更なし〕には, “←”を付した】 改訂: 「はしょる 」について, 『 SJT 』で は,『98 年版』での提示順を逆転させ た(中高型を昇格させた ) 支持率の差の順(中高型が優勢のもの が上位)に配列 2 拍語については,「頭高型」を中高型 と同等の扱いとした 削除(中高) 「1. はしょる」から「23. 怠る」までは, 『98 応を重視して,動詞についても平板型を第 1ア 年版』では平板型が第 1アクセントであるのに クセントのままとした。 「5. 結う」はこの語の伝 もかかわらず,調査結果では中高型の支持率 統性を重視し,個別の判断として既掲載順序 が平板型を20%以上の差をつけて上回ってい のままとした。また「21. しわがれる」はふつう るものである。こうしたものには,基本的に中 「しわがれた(声)」のように「た」を伴って連 高型を優先させる形で順序変更を施した。た 体修飾の形で使うものであり,このような場合 だし, 「4. しこる」は名詞形「しこり」に平板型 でも中高型が優勢なのかが確認できないため, の[シコリ ̄ ]しか載せておらず,体系的な対 手を加えなかった。 84 AUGUST 2016 また, 「43. 襲う」は平板型が優勢になる方向 平板型の掲載を削除した。また「47. うろたえ で変化しており,これについては中高型を削除 る」は平板型の支持率が 29%と低めで,削除 した。 はしなかったが優先順位を下げて示した。 一方「55. きしむ」から「65. 揺らぐ」までは, 第 2 回調査の対象の範囲内では, 『98 年版』 で平板型を第 1アクセントで掲載していた動詞 平板型の支持がある程度得られているものであ については,どちらかというと平板型から中高 る。 『98 年版』で平板型を示していない「55. き 型へと向かっているもの〔=中高化〕が多い。 しむ」 「56. たわむ」については,平板型を追加 した。これ以外のものはおおむね平板型の優 1.2 『98年版』において中高型を 第 1 アクセントで掲載していた動詞 先順位を上げる形で示した。ただし「60. 呪う」 け ど 「62. 気 取る」については,個別の判定として, 平板型を第 1に昇格させることは見送った。 『98 年版』で中高型を第 1アクセントで掲載し ていたものの結果をまとめたのが表 3 である。 第 2 回調査の対象の範囲内では, 『98 年版』 前節と同様に,表 3 の動詞の大部分は, 『98 で中高型を第 1アクセントで掲載していた動詞に 年版』で中高型が第 1アクセントとして示されて ついては,中高化指向のものと平板化指向のも いること(あるいは平板型が第 2アクセントとし のが,ほぼ同数程度であると言える。 て載せられていること)に対して,アナウンサー 1.3 [… \ エル] […エ\ ル]関連 から何件かの疑義が寄せられたものである。 「45. 陥れる」 「46. くすねる」は,平板型の支 動詞の起伏式においては,一般に後ろから2 持率がそれぞれ13%, 17%と非常に低いため, 拍めの直後に下がり目がある「中高型[–2]」が 基本型であるが,末尾が 表 3 『98 年版』で中高型を第1アクセントで掲載していた動詞 調査語 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 陥れる くすねる うろたえる おぼし召す 重んじる 促す 重んずる うなずく 擦る 劣る きしむ たわむ 広まる 照らす しゃくる 呪う 誓う 気取る 黄ばむ かすれる 揺らぐ なす け ど 平板型 支持率 13 17 29 32 48 56 68 68 52 64 91 73 74 71 72 75 86 83 100 88 92 中高型 支持率の差 支持率 “▲”はマイナス < 100 < 96 < 100 < 92 < 100 < 96 < 96 < 91 65 76 91 68 61 > 48 > 48 > 46 > 55 > 50 > 64 > 48 > 46 ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ 87 79 71 60 52 40 27 23 13 12 0 5 13 24 24 29 32 33 36 40 46 『SJT 』 ⑤ ③ ④, ④, ④, ③, ④, ③, ② ②, ②, ②, ③, ◎, ◎, ②, ◎, ②, ◎, ◎, ◎, ③, ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ② ② ◎ ② ◎ ② ③ ② 『98 年版』 【“←”は「変更なし」の意】 ⑤, ◎ ③, ◎ ④, ◎, ③ ← ← ← ← ← ← ← ② ② ← ②, ◎ ②, ◎ ← ②, ◎ ← ②, ◎ ③, ◎ ②, ◎ 改訂 削除(平板) 削除(平板) 順序変更(※) 「… エ\ ル」という形の ものでは下がり目が 1 拍 前に動いて「… \ エル」 という「中高型[–3]」も ある。こうしたものにつ いて, 『98 年版 』ではお おむね「動かない形」で ある「… エ\ ル」を第 1 追加(平板) 追加(平板) 順序変更(平板昇格) 順序変更(平板昇格) 順序変更(平板昇格) 順序変更(平板昇格) 順序変更(平板昇格) 順序変更(平板昇格) ※「うろたえる」の支持率は,それぞれ④ 100%,◎ 29%,③ 67%。 アクセントとして掲げて いたものが 多い。 調 査 をおこなった範 囲内で は,やはり「動かない形」 [–2]のほうが「 動いた 形」 [–3]よりも支持率が おおむね高いことが明ら AUGUST 2016 85 板 型 )に, 前 部 要 素 が 平 表 4 「…\エル」 [–3], 「…エ\ル」 [–2]関連 66 67 68 69 47 70 71 72 73 74 75 76 調査語 [–3 ] 支持率 栄える 整える 捕らえる 供える うろたえる 答える 備える 控える 踏まえる 訴える 携える 考える 33 50 54 61 67 50 70 67 68 86 88 96 [–2 ] 支持率の差 支持率 “▲”はマイナス < < < < < < < < < > 96 92 96 100 100 82 100 92 91 91 92 61 ▲ 63 ▲ 42 ▲ 42 ▲ 39 ▲ 33 ▲ 32 ▲ 30 ▲ 25 ▲ 23 ▲5 ▲4 35 『SJT 』 『 98 年版』 【“←”は「変更なし」の意】 ③, ② ④, ③ ③, ② ③, ② ④,③ , ◎ ③, ② ③, ② ③, ② ③, ② ④, ③ ④, ③ ③, ④ ← ← ← ← ④,◎ , ③ ← ← ← ← ← ← ④, ③ 改訂 板式であれば全体が起伏式 (中高型)になる」という傾 向が観察されていた。そし 順序変更 て,このパターンが厳格で 規範的なものであるととらえ られていたこともあった(塩 田雄 大(2014))。しかし近 順序変更 年では,前部要素の式にか かわらず全体として起伏式 かになった(表 4)。ただし「76. 考える」は例外 (中高型)になる複合動詞が非常に多くなって 的に「動いた形」のほうが支持率が高く,この いる。つまり,複合動詞のアクセントの変化の 結果に従って順序変更を施した。 現況は, 「平板型の衰退」という観点からとら えることが可能である。 複合動詞については第 1 回調査でのアナウ 2. 複合動詞 ンサーからの指摘が多く,その結果として第 複合動詞のアクセントに関しては,かつては 「前部要素が起伏式であれば全体が平板式 (平 2 回調査で取り上げた複合動詞は表 5 のとおり 非常に多くなった。 2) 表 5 「第 2 回アナウンサーアクセント調査」(2009 年,音声聴取式)で取り上げた複合動詞(191 項目 ) 【ア行】仰ぎ見る,歩み合う,歩み寄る,荒れ回る, 言い伝える,生き長らえる,射殺す,痛めつける, 植え替える,受け継ぐ,受け止める,打ち明ける, 打ち上げる,打ち合わせる,打ち解ける,打ち割る, 移り変わる,奪い合う,奪い返す,押し頂く,落ち 延びる,おびき出す,思い上がる,思い当たる,思 い余る,思い合わせる,思い描く,思い起こす,思 い返す,思い切る,思い込む,思い知る,思い過ごす, 思い出す,思い立つ,思いつく,思い続ける,思い 詰める,思い直す,折り畳む 【カ行】書き換える, 書き下す,かき暮れる,書き加える,かき壊す,書 き記す,書き足す,書き違える,かぎ取る,かき寄 せる,駆け下りる,掛け替える,駆け込む,掛け違う, 駆けつける,稼ぎ出す,勝ち上がる,勝ち越す,勝 ち取る,勝ち抜く,勝ち誇る,かなぐり捨てる,か みつく,かみ割る,考え出す,鍛え上げる,切れ上 がる,切れ込む,悔い改める,食いちぎる,食い残 す,崩れ落ちる,崩れかかる,繰り越す,繰り広げる, 蹴上げる,蹴飛ばす,恋い焦がれる,恋い慕う,こ ぎ返る,こき使う 【サ行】さえかえる,差し押さえ る,差し替える,差し込む,差し回す,差し向かう, 締め込む,調べ直す,すがりつく,住み替える,す り替える,ずれ込む,競り勝つ,そそり立つ,備え 86 AUGUST 2016 付ける,染め替える 【タ行】出し抜く,たたきのめ す,立ち上がる,立ちすくむ,立ち止まる,立ち直る, 立ち並ぶ,立ちのぼる,立ち回る,垂れこめる,垂 れ流す,散り敷く,付け加える,付け狙う,詰め込 む,出くわす,出尽くす,出っ張る,出直す,出回る, 出迎える,説きつける,解き分ける,とじ込む,取 り上げる,取り押さえる,取り囲む,取り消す,取 り下げる,取りすがる,取りつく,取り除く,取り 運ぶ,取り結ぶ 【ナ行】殴り飛ばす,投げ込む,成 り行く (※) ,煮返す,縫い上げる,塗り替える,寝 違える,飲み歩く 【ハ行】はいずり回る,はげ上がる, 走り去る,走り出る,走り回る,はせ参じる,話し かける,冷え込む,ひねくり回す,ひねり出す,ひ ねり回す,ぶち上げる,ぶち込む,ぶち抜く,ぶち まける,踏みこたえる,へばりつく,ほえつく,彫 り込む,彫りつける 【マ行】まかり越す,待ち暮ら す,待ち望む,待ちわびる,見飽きる,見失う,見下す, 見比べる,見据える,見過ごす,見立てる,乱れ飛 ぶ,見とがめる,見計らう,見開く,見舞う,見やる, 見分ける,見忘れる,見渡す,群れ飛ぶ,召し上が る,申し伝える,持ち上がる,持ち上げる,持ち帰る, 持ち替える,持ち越す,持ち込む,持ち運ぶ,持ち 回る 【ヤ行】酔っぱらう み くだ ※「成り行く」は改訂時に項目を削除した 2.1 平板型を削除したもの 2.2 平板型を「格下げ」したもの 『98年版』には平板型を載せていたが,今回 『98年版』には平板型を第 1アクセントとして の調査の結果で支持率がたいへん低かったた 載せていたが,今回第 2(・3)アクセントに「格 めに,その平板型を削除した複合動詞を,表 6 下げ」する形で順序変更を施した複合動詞を, に掲げた。これらの複合動詞では平板型は第 表 7 に掲げた。 2・3アクセントとして提示していたものが大部分 だが,中には第 1アクセントとして示していたも のもある(下線を施した) 。 表 6 第 2 回アナウンサーアクセント調査の結果に基づき, 平板型を削除した複合動詞 (47 項目,平板型の低支持率順に配列) 崩れ落ちる(平板型支持率 0% , 中高型支持率 100%),走り出る(0, 100 ),仰ぎ見る(4, 100 ), 思い起こす*(4, 100 ),思い切る*(4, 100 ), 奪い返す(4, 100 ),思い返す*(5, 100 ),備え 付ける(5, 100 ),踏みこたえる(5, 96 ),話しか ける(8, 100 ),崩れかかる(8, 100 ),思い込む *(8, 100 ),痛めつける*(8, 100 ),走り去る(8, 96 ),奪い合う(9, 100 ),思い出す*(9, 100 ), 食いちぎる(12, 100 ),思いつく*(12, 100 ), 思い上がる*(13, 100 ),思い描く(13, 100 ), 調べ直す(13, 100 ),たたきのめす*(13, 100 ), 歩み合う(13, 96 ),はげ上がる(13, 96 ),彫り つける(13, 96 ),こき使う(14, 24 ),殴り飛ば す*(14, 100 ),走り回る*(14, 100 ),荒れ回 る(16, 96 ),考え出す(17, 100 ),鍛え上げる(17, 100 ),思い知る*(17, 100 ),思い立つ*(17, 100 ),思い過ごす*(17, 100 ),思い詰める*(17, 100 ),ひねり出す*(17, 100 ),思い余る*(18, 96 ),書き記す(20, 100 ),歩み寄る(21, 100 ), 食い残す(21, 100 ),移り変わる(23, 100 ),す り替える(23, 68 ),差し押さえる(24, 96 ),ひ ねり回す*(25, 96 ),おびき出す*(26, 100 ), 解き分ける(27, 91 ),思い直す*(29, 100 ) すべて『98 年版』で平板型を掲載していたもの (下線を付したものは平板型を第 1 アクセントで, それ以外のものは第 2・3 アクセントで掲載) *:平板型・中高型以外に前部系〔=複合動詞 の前部要素の “下がり目”が生きるもの〕につ いても調査した項目(後出 2.4 参照) 数値は (平板型支持率,中高型支持率) 例:「崩れ落ちる」 ⑤ , ◎ 〔『98 年版』〕 ◎の支持率: 0% ⑤の支持率:100% ⇒『SJT』では平板型◎を削除した 表 7 第 2 回アナウンサーアクセント調査の結果に基づき, 平板型を「格下げ」した複合動詞 (49 項目,平板型の低支持率順に配列) 乱 れ 飛 ぶ(平 板 型 支 持 率 17 % , 中 高 型 支 持 率 100%),縫い上げる(18, 100 ),勝ち誇る(25, 100 ),かき壊す(29, 88 ),説きつける(30, 83 ), ぶちまける(32, 100 ),見忘れる(32, 100 ),見 やる(32, 91 ),かみ割る(32, 82 ),彫り込む(35, 100 ),出し抜く(36, 100 ),見計らう(38, 96 ), ぶち上げる(38, 92 ),立ち止まる(38, 83 ),出っ 張 る(38, 83 ), 群 れ 飛 ぶ(40, 96 ), 飲 み 歩 く (42, 100 ),蹴上げる(42, 88 ),落ち延びる(44, 100 ),立ちすくむ(44, 100 ),かき寄せる(44, 96 ),持ち帰る(44, 91 ),駆けつける(46, 100 ), 垂れ流す(46, 100 ),差し回す(46, 92 ),書き加 える(46, 91 ),打ち解ける(48, 100 ),出尽く す(48, 96 ),見飽きる(48, 88 ),競り勝つ(50, 100 ),差し向かう(52, 88 ),見開く(55, 91 ), 取りすがる(56, 100 ),切れ込む(58, 100 ),立 ち直る(58, 100 ),垂れこめる(58, 83 ),折り畳 む(59, 100 ),とじ込む(59, 100 ),見立てる(61, 100 ),受け継ぐ(61, 96 ),勝ち抜く(61, 91 ), 見とがめる(61, 91 ),見分ける(61, 91 ),ぶち 抜く(64, 100 ),見舞う(65, 91 ),勝ち取る(68, 91 ),出くわす(70, 100 ),勝ち越す(71, 96 ), 駆け込む(80, 100 ) すべて『98 年版』では平板型を第 1 アクセントで 示していたもの 数値は(平板型支持率,中高型支持率) 例:「乱れ飛ぶ」 ◎ , ④ 〔 『98 年版』 〕 ◎の支持率: 17% ④の支持率:100% ⇒『 SJT』では平板型を「格下げ」 して④ , ◎とした 2.3 拍数と平板型の保持をめぐる傾向 複合動詞のアクセントに関して, 「全体が長 くなる〔=拍数が多くなる〕ほど,平板型の支 持率が低くなる」という一般的な傾向が観察 AUGUST 2016 87 図 1 複合動詞全体の拍数と平板型の保持 (改訂での変更類型別,第 2 回調査で取り上げた複合動詞のみ対象) (平均拍数) a. もともと平板型を掲げていない複合動詞 (15 項目) 「生き長らえる,思い続ける,すがりつく,…」 b. 平板型を削除した複合動詞 「思い上がる,食い残す,崩れ落ちる,…」 (47 項目) c. 平板型を第 2(・3)アクセントのまま残した複合動詞 (33 項目) 「繰り広げる,出直す,申し伝える,…」 5.9 5.5 5.2 ままにしたものである。平均 拍数で見ると,d.とe.との間 には差がないが,それ以外で はグラフ内で上のほうに示し たものほど「長い〔=拍数が 多い〕」という整然とした分布 を見せる。 d. 平板型を第 2(・3)アクセントに「格下げ」した複合動詞 (49 項目) 「勝ち越す,立ち直る,見忘れる,…」 4.5 e. 平板型を第1アクセントのまま残した複合動詞 「かみつく,取り消す,持ち上げる,…」 4.5 (46 項目) であるため,第 1アクセントの つまり, 「 全 体が 長くなる 〔=拍数が多くなる〕ほど,平 板型の支持率が低くなる」と いう複合動詞のアクセントの される(相澤正夫(1992) ,塩田雄大(1998.5) (1998.8) (2013) ) 。今回の改訂に関して,この 傾向の表れる様相を確認しておこう。 一般 的傾向は,ここでもやはり確認できる。 今回の改訂作業では, 「拍数の長い複合動詞 については意図的に平板型の位置づけを低め 図 1 から, 「平板型の衰退が著しいものであ る」ということをおこなったわけではないのだ るほど平均拍数が多く,逆に平板型がある程 が,調査結果に従った改訂結果には,こうし 度の勢力を保っているものは平均拍数が少な た一般傾向が自然に発露しているのである。 い」という状況が見て取れる。順に見ていくと, 「a. もともと平板型を掲げていない複合動詞」 2.4 前部系を削除・保存したもの は平板型の勢力がいちばん弱い(あるいは「無 [コ\ キツ カウ] (こき使う)や[タタ\ キ・ノ い」)もので,そのために『98 年版 』でも平板 メ\ ス] (たたきのめす)のように,複合動詞の 型を掲げていない。次に「b. 平板型を削除した 前部要素に“下がり目”があるアクセントの型の 複合動詞」は, 『98 年版』ではかろうじて残っ ことを,ここでは仮に「前部系」と呼んでおく。 ていた平板型を,今回の調査の結果で削除し 前部系に関連して調査した項目は,表 8 のとお たものである。 「c. 平板型を第 2(・3)アクセン りである。前部系は,現代では衰退が激しい。 トのまま残した複合動詞」は, 『98 年版』での 平板型の位置づけをそのまま踏襲したものであ る。 「d. 平板型を第 2(・3)アクセントに「格下 げ」した複合動詞」は,平板型が『98 年版』で は第 1アクセントであったが調査の結果衰退が 確認されたため,第 2(・3)アクセントに格下げ したものである。そして「e. 平板型を第 1アクセ ントのまま残した複合動詞」は,平板型の勢力 が調査の結果としても十分に現存しているもの 88 AUGUST 2016 表 8 第 2 回アナウンサーアクセント調査で 調査した「前部系」関連複合動詞 (33 項目,前部系の低支持率順に配列) 【前部系を削除したもの 】(29 項目) 思い起こす*{前部系支持率 0% , 中高型支持 率 100 %}, 思 い 返 す *{0, 100 }, 思 い 出 す * {0, 100 },思い上がる*{0, 100 },たたきのめす *{0, 100 },走り回る*{0, 100 },思い立つ* {0, 100 },思い過ごす*{0, 100 },思い詰める *{0, 100 },思い当たる*{0, 100 },痛めつけ る*{0, 100 },おびき出す*{0, 100 },かなぐ り捨てる{0, 82 },思い切る*{4, 100 },思い込 4. 形容詞 む*{4, 100 },思いつく*{4, 100 },思い直す *{4, 100 },はいずり回る{4, 92 },ひねくり回 す{4, 88 },ひねり回す*{8, 96 },思い余る* {9, 96 },そそり立つ{9, 100 },思い知る*{13, 100 },すがりつく{13, 100 },思い合わせる{13, 100 },思い続ける{13, 96 },殴り飛ばす*{14, 100 },ひねり出す*{17, 100 },へばりつく{24, 100 } 形容詞のアクセントをめぐる問題は,たいへ ん複雑である。ここでは,辞書形(終止形)と, 活用させた形に分けて論ずる。 【前部系を残したもの 】(4 項目) 恋い慕う*{71, 88 },悔い改める{72, 72 },恋 い焦がれる{78, 91 },こき使う*{86, 24 } 4.1 辞書形(終止形) 形容詞の辞書形では,全体としてもともと中 高型を基本とするものが多く,平板型は少数派 下線: 『98 年版』で前部系を第 1 アクセントで示 していたもの *:前部系・中高型以外に平板型も調査 数値は {前部系支持率,中高型支持率} である。そしてこの平板型はさらに勢力を弱め ており, 「形容詞の辞書形はおおむね中高型」 というような状況に向かいつつある。 平板型衰退の度合いは,拍数によって異な る。拍数が多いものほど,衰退が進んでいる。 3. 一字漢語+ 「する・ずる・じる」 第 2 回調査で取り上げた形容詞の結果をま とめたのが表 10 である。3 拍語については, 「逸する・案ずる・案じる」などのように,一 字漢語に「する・ずる・じる」が付いた形の動 「1. 眠い」から「6. 浅い」までのものに,これ までの平板型に加えて中高型を第 2 アクセン 詞について調べた結果が,表 9 である。 表中に記したとおり, 〔~ン+ずる〕という形 トとして追加した。4 拍のものでは,「8. よ のものはどちらかというと中高型が優勢である ろしい」から「12. 煙たい」については中高型 のに対して, 〔~ン+じる〕という形のものは平 を第 1 アクセントに設定し,また「13. 悲し 板型が優勢であるような傾向が,調査結果か い」から「20. 分厚い」は『98年版』で中高型 ら観察される。 が非掲載のものについてはこれを追加した。 けむ 表 9 一字漢語+(する・ずる・じる) 調査語 〔~イ+する 〕 〔~ッ+する 〕 〔~ー+ずる 〕 〔~ン+ずる 〕 ⇨【中高型が優勢】 〔~ン+じる 〕 ⇨【平板型が優勢】 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 倍する 逸する 圧する 決する 興ずる 弁ずる 殉ずる 免ずる 準ずる 案ずる 変ずる 便じる 弁じる 変じる 免じる 案じる 平板型 支持率 9 86 83 84 100 55 61 63 61 73 87 54 83 82 91 92 < > < < < < > > > 中高型 支持率 “▲”はマイナス 91 86 78 68 65 96 96 88 83 91 78 46 70 46 52 50 ▲ 82 0 5 16 35 ▲ 41 ▲ 35 ▲ 25 ▲ 22 ▲ 18 9 8 13 36 39 42 支持率の差 『 SJT 』 ③ ◎, ◎, ◎, ◎, ③, ◎, ③, ◎, ③, ◎, ◎, ◎, ◎, ◎, ◎, ③ ③ ③ ③ ◎ ③ ◎ ③ ◎ ③ ③ ③ ③ ③ ③ 『98 年版』 【“←”は「変更なし」の意】 ③, ◎ ← ← ← ← ◎, ③ ← ◎, ③ ← ← ← ← ← ← ← ③, ◎ 改訂 削除(平板) 順序変更(中高昇格) 順序変更(中高昇格) 順序変更(平板昇格) AUGUST 2016 89 表 10 形容詞辞書形(平板型と中高型) 拍数 3拍 4拍 5拍 6拍 調査語 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 平板型支持率 眠い 煙い 遅い つらい 甘い 浅い 暗い よろしい 卑しい 眠たい 危うい 煙たい 悲しい 重たい 気安い やさしい いかつい 明るい 冷たい 分厚い 荒っぽい ほろ苦い 香ばしい 真ん丸い 甘ちょろい くすぐったい 平べったい 重々しい 煩わしい こやかましい 疑わしい なまやさしい おぼつかない 26 38 67 83 82 83 92 0 25 39 58 64 65 72 79 67 82 79 88 88 8 8 27 21 46 14 17 24 30 24 41 72 92 けむ けむ こう 中高型支持率 < < < 支持率の差 91 88 88 96 91 88 71 100 100 96 96 100 91 92 92 79 91 88 84 76 100 96 100 92 82 96 96 100 100 92 100 96 38 > < < < < < < < < < < < < < < < < < < < > 『SJT 』 “▲”はマイナス ▲ 65 ▲ 50 ▲ 21 ▲ 13 ▲9 ▲5 21 ▲ 100 ▲ 75 ▲ 57 ▲ 38 ▲ 36 ▲ 26 ▲ 20 ▲ 13 ▲ 12 ▲9 ▲9 4 12 ▲ 92 ▲ 88 ▲ 73 ▲ 71 ▲ 36 ▲ 82 ▲ 79 ▲ 76 ▲ 70 ▲ 68 ▲ 59 ▲ 24 54 ◎, ◎, ◎, ◎, ◎, ◎, ◎ ③ ③, ③, ③, ③, ◎, ◎, ③, ◎, ◎, ◎, ◎, ◎, ④ ④ ④, ④, ④ ⑤, ⑤ ⑤ ⑤, ⑤ ⑤, ◎, ◎, 『98 年版』 改訂 【“←”は「変更なし」の意】 ② ② ② ② ② ② ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ 追加(中高) 追加(中高) 追加(中高) 追加(中高) 追加(中高) 追加(中高) ← ◎, ③ ◎ ◎ ◎ ◎ ③ ③ ◎ ③ ③ ③ ③ ③ 削除(平板) ← ◎ ◎, ③ ◎, ③ ◎ ◎ 追加(中高) 順序変更(中高昇格) 順序変更(中高昇格) 追加(中高) 追加(中高) ← ◎ 追加(中高) ← ◎ ◎ 追加(中高) 追加(中高) ← ④, ◎ ④, ◎ ◎ ◎ 削除(平板) 削除(平板) ← ◎, ④ 順序変更(中高昇格) ← ◎ ◎, ⑤ ⑤, ◎ ⑤, ◎ ◎ ← ⑤ ,(◎),(伝①) ← ◎ ,(⑤),(伝①) ◎ , ④ ,(⑤) ◎ ⑤ ⑤ 順序変更(中高昇格) 削除(平板) 削除(平板) 削除(平板) 表 11 形容詞辞書形(前部系と中高型) 調査語 前部系支持率 34 たわいない 32 なまやさしい 30 こやかましい 0 0 12 中高型支持率 < < < 支持率の差 『SJT 』 “▲”はマイナス 100 96 92 ▲ 100 ▲ 96 ▲ 80 『98 年版』 【“←”は「変更なし」の意】 ④ ◎, ⑤ ⑤ ④, ① ◎ ,(⑤),(伝①) ⑤ ,(◎),(伝①) 改訂 削除(前部) 削除(前部) 削除(前部) 5 拍・6 拍のものでは,平板型の支持率が極 が見られる。ただし,形容詞全体としては明 端に低いものについてはこれを削除した。た 瞭ではない。各層の回答者の数も決して十分 だし「26. くすぐったい」は,動詞「くすぐ に確保できたわけではないため,例としていく る」が平板型のみであることから,整合性を 重視して平板型を残した。 100 ま た, [タ\ ワイナイ] ( た わ い な い ), [ナ\ マヤサシイ] (なまやさしい) , [コ\ ヤカマシイ] (こやかましい)といったように 図 2 「甘い」 (%) 50 100 なお,一部の形容詞の調査結果に,年代差 90 AUGUST 2016 100 78 78 50 前部にアクセントがある型は,いずれも支持 率が低かった(表 11) 。 100 伝統形[アマイđ ] (全体 82%) 革新形[アマ Ġイ] (全体 91%) 0 ベテラン層 〔45 歳以上〕 (4人) 中堅層 〔35 ∼ 44 歳〕 (9人) 若年層 〔23 ∼ 34 歳〕 (9人) つか掲げるにとどめておく(図 2,図 3,図 4)。 図 3 「危うい」 (%) 100 100 100 90 83 50 50 4.2 活用させた形 50 先述したとおり,形容詞のアクセントの現況 (全体 58%) 伝統形[アヤウイđ ] 革新形[アヤウ Ġイ] (全体 96%) 0 ベテラン層 〔45 歳以上〕 中堅層 〔35 ∼ 44 歳〕 (6人) (8人) 若年層 〔23 ∼ 34 歳〕 100 100 100 90 89 78 60 50 (全体 79%) 伝統形[アカルイđ ] 革新形[アカル Ġイ] (全体 88%) 0 ベテラン層 〔45 歳以上〕 (5人) 中堅層 〔35 ∼ 44 歳〕 (9人) 3) ことが言える 。 伝統形[アヤウイ ̄ ] (全体 58%) 革新形[アヤウ \ イ] (全体 96%) (10人) 図 4 「明るい」 (%) は非常に複雑である。概括的には,次のような 若年層 〔23 ∼ 34 歳〕 (10人) (1 )形容詞のアクセントは,伝統的には,平板式 か起伏式(中高型)かという 2 種類の系統があ り,活用させたときの形もそれぞれ 2 系統の ものが区別されていた。 (2 )しかしこの 2 系統の区別が明確ではなくなって (%) 100 きており,全体としては「一型化」が進みつつ 100 100 100 ある。 (3 )その変化は,辞書形だけでなく活用させたとき 78 78 においても,おおむね「語幹の末尾部分に“下 50 がり目” 50 を固定させる 」という方向に進んでい ると言える。 (全体 82%) 革新形[アカル\伝統形[アマイ ̄ イ] (全体 88%) ] (4 )ただしその変化の速度は一様ではなく,語に 革新形[アマ \イ] (全体 91%) 伝統形[アカルイ ̄ ] (全体 79%) 0 よって,また活用形によって遅速が見られる。 ベテラン層 〔45 歳以上〕 中堅層 〔35 ∼ 44 歳〕 若年層 〔23 ∼ 34 歳〕 表 12 形容詞(活用させた形) 数 拍 赤い 3 冷たい 4 悲しい 平板型 4 ~なる 連体形(~もの ) ~ば ~らしい アカイラシ\イ(φ) 100 アカ\カッタ(100% ) アカ\ テ(96% アカ\ケレバ(100% ) アカ\イ・ラシ\イ ) ク 100 \イ(モノ ) 100 100 アカ\ク・ナ\ル(8% )アカ (40% ) 語幹固定形 アカ\イ(φ) (φ) ア\カケレバ(16% ) ア\カカッタ(32% ) ア\カ テ(23% ) ア\カク・ナ\ル(4% ) ク その他 78 78 アカケ\レバ(28% ) ツメタクナ\ル ツメタイ ̄(モノ ) ツメタイ ̄(88% ) ツメタイラシ\イ(φ) 伝統形 50 (100% ) (96% ) ツメタ\カッタ ク ) ツメタ\ テ(100% 50ツメタ\イ(モノ ) ツメタ\ケレバ(96% ) ツメタ\イ・ラシ\イ (100% ) ツメタ\ク・ナ\ル 語幹固定形 ツメタ\イ(84% ) (46% ) (60% ) (φ) 伝統形[アマイ ̄ ] (全体 82%) ツメ\タケレバ(17% ) ツメ\タク・ナ\ル ク ツメ\タカッタ(13% ) ツメ\タ テ(4% ) その他 革新形[アマ (全体 91%) ) (4% ) ツメタケ \レバ(22%\イ] 0 ) カナ カナシイ ̄(モノ ) カナ シ\ケレバ(96%) シ\カッタ(96%) カナ シ\ テ(96% ク ベテラン層 中堅層 若年層 カナシイ ̄(65% ) カナ クナ カナシイラシ \ル(91%) \イ(φ) シ 伝統形 ) ケレバ(96%) カナ\ カッタ(96%) カナ\ (91% ) 〔35 カナ シ 歳〕 シ ク シ テ(100% 〔45 歳以上〕 ∼\44 〔23 ∼ 34 歳〕 カナ シ\ク・ナ\ル カナシ\イ(モノ ) カナ シ \ ク テ カナ カナシ\イ・ラシ\イ (43% ) カナ シ\ケレバ シ\カッタ 語幹固定形 カナシ\イ(91% ) (上欄参照) (上欄参照) (57% ) (上欄参照) (φ) カナ\ ク・ナ\ル 伝統形 辞書形 ~た ~て アカイ ̄(φ) (%) (100%) アカクナ\ル(100% ) アカイ ̄(モノ) シ (48% ) その他 カナ ケ\レバ(20%) シ 伝統形 白い 3 語幹固定形 その他 短い 中高型 うれしい 4 シロ\イ(φ) シロ\カッタ(76% ) シ\ロ テ(100% ) ク ク シロ\ テ(71% ) シ\ロク・ナ\ル (100% ) シロ\ク・ナ\ル (18% ) シ\ロケレバ(95% ) シロイラシ\イ(46% ) シロ\イ(モノ ) (100% ) シロ\ケレバ(43% ) シロ\イ・ラシ\イ (88% ) シロ\イラシイ (88% ) シロクナ\ル(0% ) シロイ ̄(モノ )(4% ) シロケ\レバ(0% ) ミジ\カク・ナ\ル ミジカイラシ\イ ミジ\カケレバ(21% ) (52% ) (57% ) ミジカ\イ(モノ ) ミジカ\イ・ラシ\イ ミジカ\イ(φ) (100% ) ミジカ\ケレバ (83% ) ミジカ\ク・ナ\ル ミジカ\カッタ(88% ) ミジカ\ テ(96% ) ク 語幹固定形 (96% ) (100% ) ミジカ\イラシイ (83% ) ミジカカ\ッタ(13% ) ミジカクナ\ル(20% )ミジカイ ̄(モノ) (0%)ミジカケ\レバ(13% ) その他 ウレ\ カッタ ウレ\ ク・ナ ウレシイラシ\イ シ \ル シ ウレ\ ケレバ(96%) ) ウレ\ シ テ(100% ク シ 伝統形 (100% ) (100% ) (54% ) ウレシ\イ(モノ ) ウレシ \イ・ラシ\イ ウレシ\イ(φ) (100% ) シ\ク・ナ\ル ウレ ウレ (79% ) ウレ シ\カッタ シ\ケレバ テ(100% ) ウレ シ\ク 語幹固定形 (100% ) (100% ) (100% ) ウレシ\イラシイ (79% ) ウレ カ ウレ クナ (9%)ウレ ケ シ \ッタ(0% ) シ \レバ(27%) \ル(14%)ウレシイ ̄(モノ) シ その他 伝統形 4 シ\ロカッタ(92% ) シロカ\ッタ(4% ) ) ミジ\カカッタ(50% ) ミジ\カ テ(29% ク φ=第 2 回調査において,辞書形(終止形)のアクセントを尋ねていない語 AUGUST 2016 91 このことを,表 12 をもとに,4.2.1 と4.2.2 で見 といったシンプルな形に再編成される動きであ てみる。表中には,第 2 回調査での結果の数 るものとして見ることができる(4.2 の(3))。な 値を付してある。 お [アカ\ カッタ] [アカ\ クテ] [アカ\ ケレバ] は,伝統形でありつつ語幹を固定させた形で 4.2.1 平板型形容詞 もある。 「伝統」と 「語幹固定性」を兼ね備えて 「赤い」の辞書形(終止形)は,伝統的には おり,こうしたものは非常に高支持率で,今後 平板型[アカイ ̄ ]である。これについては, ともアクセントが変化することはあまり考えられ 全体としての調査語数の関係から,第 2 回調査 ない。 では辞書形のアクセントを尋ねていない(表中 一方,連体形「赤い(もの)」では,伝統的な では“φ”と記した) 。ただし,アナウンサーの [アカイ ̄ ]の支持率が 100%,それに対して新 ベテラン層を対象にした第 3 回調査(塩田雄大 しい[アカ\ イ]は40%と,依然として伝統形 ほか(2014) ,太田眞希恵・東美奈子(2016) ) の平板型が非常に強く支持されている。これ では設定しており,そこでは平板型[アカイ ̄ ] は,これまでも指摘されているとおり(たとえば の支持率が 87%,中高型[アカ\ イ]の支持率 塩田雄大(1998.12)),また今回の調査でのほ が 71%という結果になっている。これまで(そ かの形容詞の結果にも見られるように, して今回も)アクセント辞典には[アカイ ̄ ]し か示してこなかったのにもかかわらず,中高型 [アカ\ イ]はかなりの高支持率を得ている。 これは, 「赤い」の辞書形において,伝統的 平板型形容詞の連体形のアクセントでは,辞書 形(終止形)に比べて,伝統的な平板型を保持 する傾向が強い ということの表れである。 な平板型から,形容詞全体として多数派である なお, 「赤くなる」では,新しい形として想定 中高型に収斂する形で「一型化」が進んでいる される[アカ\ ク・ナ\ ル]はあまり支持されて ことの反映として解釈できる(4.2の(2) ) 。 いない。これは, 「赤い」という語の使用頻度 れん [アカイ ̄ ]から[アカ\ イ]への変化は, 「平 の高さや拍数の少なさ〔=語の短さ〕などの要 板型から中高型へ」というとらえ方ももちろん正 因によって,変化の速度がある程度抑えられて しいが, 「 [アカ\ ]という形で語幹〔=活用さ いるものと想像される 4)。 せても変化しない部分〕 [アカ]の末尾に“下が なお,表 12 の「その他」の欄には,伝統形 り目”を固定させる動き〔=語幹固定〕 」である でも語幹固定形でもない型を示した。これらの という見方も可能である。革新的な型である [ア 支持率は,いずれも高くない。 カ\ イ]は, 「語幹固定形」と呼ぶこともできる 次に「冷たい」について見てみると,辞書形 だろう。このように考えることで,いま進みつつ では,伝統的な[ツメタイ ̄ ] (88%)と語幹固 ある変化は, (84%)の支持率がほぼ同程 定形[ツメタ\ イ] [アカ\ + イ] 〔←伝[アカイ ̄ ]〕 [アカ\ + カッタ] [アカ\ + ク テ] [アカ\ + ケレバ] 92 AUGUST 2016 度である。また,連体形[ツメタ\ イ(モノ)] (60%)および[ツメタ\ ク・ナ\ ル] (46%)に おいても,語幹固定形はある程度の支持率を 得ている。 語幹固定形を取り入れて示すと,次のように, 単純な形になる。 持率もあわせて付す。 〔←伝[ツメタイ ̄]〕 [ツメタ\ + イ] [ツメタ\ + カッタ] [ツメタ\ + ク テ] [ツメタ\ + ク・ナ\ル] 〔←伝[ツメタクナ\ル]〕 [ツメタ\ + イ(モノ) ] てみると,次のようになる。第 2 回調査での支 〔←伝[ツメタイ ̄]〕 [ツメタ\ + ケレバ] また「悲しい」の辞書形の支持率では,語幹 固定形[カナシ\ イ] (91%)が,伝統的な[カ (65%)を上回るような状況になって ナシイ ̄ ] いる。 「悲しかった」では,規則に従って導き出され る伝統形は[カナ シ \ カッタ]であるが,無声 化によって下がり目が 1 拍前に移った[カナ\ シ カッタ]も同じく伝統形の欄に記した。なおこ の両形のうち,語幹固定形としてとらえられる のは[カナ シ \ カッタ]のほうであるため,語 幹固定形の欄にはこちらのみを再掲した。詳細 は省くが, 「冷たい」と同様に,語幹固定形もか なりの支持率を得ていることがわかる。 4.2.2 中高型形容詞 ここまでは平板型の形容詞について示してき たが,次に中高型のものについて記す。伝統形 では,中高型での“下がり目”は,終止形と連 [シロ\ + イ] (76%) [シロ\ + カッタ] 〔←伝[シ\ロカッタ] (92%)〕 [シロ\ + ク テ] (71%) 〔←伝[シ\ロク テ] (100%)〕 (18%) [シロ\ + ク・ナ\ル] 〔←伝[シ\ロク・ナ\ル] (100%)〕 [シロ\ + イ(モノ)] (100%) (43%) [シロ\ + ケレバ] 〔←伝[シ\ロケレバ] (95%)〕 [シロ\イ・ラシ\イ] (88%) 〔←伝[シロイラシ\イ] (46%)〕 このように見ると,語幹固定形は, ([シロ\ ク・ナ\ ル]をひとまず例外とするならば)一定 の支持率を得ていることがわかるだろう。 4 拍形容詞「短い」では,語幹固定形への集 中が「白い」よりもさらに進んでいる。 [ミジカ\ + イ] (88%) [ミジカ\ + カッタ] 〔←伝[ミジ\カカッタ] (50%)〕 [ミジカ\ + ク テ] (96%) 〔←伝[ミジ\カク テ] (29%)〕 [ミジカ\ + ク・ナ\ル] (96%) 〔←伝[ミジ\カク・ナ\ル] (52%)〕 [ミジカ\ + イ(モノ)] (100%) (100%) [ミジカ\ + ケレバ] 〔←伝[ミジ\カケレバ] (21%)〕 [ミジカ\イ・ラシ\イ] (83%) 〔←伝[ミジカイラシ\イ] (57%)〕 体形では[シロ\ イ]のように語幹の末尾にあ るのに対して, [シ\ ロカッタ] [シ\ ロク テ]… こうした調査結果をふまえ, 『SJT』の本編 などでは語幹の内部にある。また, 「~らしい」 部分には, 「白い」のように 3 拍以下の短い中 が後続する際には“下がり目”が語幹部分から 高型形容詞の活用形については伝統形を示し は消えて[シロイラシ\ イ]となるのが伝統的 た。一方, 「短い」のように 4 拍以上の長い形 であるとされており,複雑をきわめる。 容詞の活用形は語幹固定形を提示した。いず これを,仮に語幹を固定させた形のみに揃え れについても,ほかのアクセントのパターン AUGUST 2016 93 もありうること(つまり,短い形容詞には語 幹固定形も,また長い形容詞には伝統形も) 図 8 「短かった」 (%) 100 を,巻末付録(解説・資料編)に示した。 なお「うれしい」の各活用形については, 無声化の影響で伝統形と語幹固定形との聴覚 60 100 88 63 50 印象が非常に類似したものになり,支持率も それぞれほぼ同様である。ただし「~らしい」 100 (全体 50%) 伝統形[ミジĠカカッタ] 革新形[ミジカĠカッタ] (全体 88%) 0 ベテラン層 〔45 歳以上〕 は無声化とは関係がないためこれに当てはま (5人) 中堅層 〔35 ∼ 44 歳〕 (8人) 18 若年層 〔23 ∼ 34 歳〕 (11人) らず,語幹固定形[ウレシ\ イ・ラシ\ イ] 図 9 「短くて」 図 5 「赤いもの」 (%) 100 100 (%) 100 100 (全体 100%) 伝統形[アカイ đ(モノ)] 革新形[アカĠイ(モノ) ] (全体 40%) 50 (6人) 中堅層 〔35 ∼ 44 歳〕 (9人) 100 100 100 100 60 44 (5人) (9人) 若年層 〔23 ∼ 34 歳〕 (10人) 100 100 100 100 0 ベテラン層 中堅層 若年層 革新形[アカ\イ(モノ) (全体 40%) 〔45 歳以上〕 〔35 ∼ 44 歳〕] 〔23 ∼ 34 歳〕 (5人) (11人) 伝統形[アカイ(8人)  ̄(モノ)] (全体 100%) イ] (54%)を上回っている。 80 33 ク (全体 100%) 伝統形[シĠロ テ] 革新形[シロĠク テ] (全体 71%) ベテラン層 〔45 歳以上〕 (6人) 中堅層 〔35 ∼ 44 歳〕 (8人) 100 100 100 なお,一部の調査結果に,年代差が見られ 78 78 50 る。例としていく つか掲げておく(図 5 50 中堅層 若年層 〔23 ∼ 34 歳〕 若年層 伝統形[ツメタクナ\ル ] (全体 〔23 92%) 基本的に変化の方向に合致するような分布を 〔45 歳以上〕 〔35 ∼ 44 歳〕 ∼ 34 歳〕 示す。つまり,若年層ほど革新形が多い形に (%) 100 結果から,形容詞については, 100 100 以上の調査 78 78 2 種類のパターンを系統的に区別する伝統的な 50 方式から,両者を区別せずに 「語幹部分の末 50 尾に“下がり目”を置く」という形式への指向 伝統形[アマイ ̄ ] (全体 82%) 革新形[アマ \イ] (全体 91%) 革新形[シロ\くテ] (全体 71%) が進みつつあると言うことができるだろう。 0 ベテラン層 中堅層 伝統形[シ\ロくテ] (全体 100%) 若年層 〔45 歳以上〕 〔35 ∼ 44 歳〕 〔23たけひろ) ∼ 34 歳〕 (しおだ (10人) AUGUST 2016 100 100 50 ~ 9)。 \イ] (全体 91%) このように年 代 差が 革新形[アマ 観 察されるものでは, 革新形[ツメタ\ク・ナ\ル] (全体 46%) 0 ベテラン層 (%) 100 (%) 94 0 100 (%) 100 88 50 9 なっている。 図 7 「白くて」 (%) 100 50 伝統形[アマイ ̄ ] (全体 82%) 20 中堅層 〔35 ∼ 44 歳〕 (%) ク (全体 29%) 伝統形[ミジĠカ テ] 革新形[ミジカĠク テ] (全体 96%) の支持率(79%)が伝統形[ウレシイラシ \ 50 ベテラン層 〔45 歳以上〕 91 (10人) (全体 100%) 伝統形[ツメタクナĠル ] 革新形[ツメタĠク・ナĠル] (全体 46%) 0 100 38 若年層 〔23 ∼ 34 歳〕 図 6 「冷たくなる」 (%) 60 50 0 17 ベテラン層 〔45 歳以上〕 100 50 44 0 100 100 100 78 78 0 注: 3) なお,アナウンサーを対象とした今回の調査で 1) 第 2 回アナウンサーアクセント調査(2009 年, は明確には見られないので指摘のみにとどめて 音声聴取式)は,第 1 回調査(2008 年,指摘式) おくが,現在,特に若い世代を中心に「2 単位 で何らかの指摘があった約 12,000 項目のうち, 形から 1 単位形へ」という動きが徐々に一般化 指摘件数の多かったものを中心として 3,021 項 目を選定し,音声を聴かせる形で回答を求めた ものである。 各アナウンサーは,イントラネットの画面上で 示される文字表記(アクセント記号は付されて いない)を見ながら,それにあわせて再生され る読み上げ音声を聴いて,そのアクセント型が 放送で使うのにふさわしいかどうかを回答する 形になっている。 【第 2 回アナウンサーアクセント調査 (2009 年・音声聴取式)の概要】 調査期間 2009 年 10 月 5 日~ 11 月 13 日 調査対象 NHK アナウンサー 493 人 うち回答者 471 人(有効回答率 96%) 調査項目 3,021 項目〔6,500 アクセント型〕 調査方法 NHK 局内イントラネットを使って,読み上げ 音声(事前に収録したもの)がランダムに再生 される。回答者は,再生された音声を聴いて, ○(放送で使うのにふさわしい) ,×(放送で 使うのにふさわしくない) ,☆(このことばを 口に出して言ったことがない)の判定(いずれ か一つ)をする。 人数配分 全アナウンサーを,20 のグループに分けた。 各グループの内部構成は,若年層(23 ~ 34 歳, 約 200 人)/中堅層(35 ~ 44 歳,約 180 人) /ベテラン層(45 歳以上,約 120 人)の 3 年 層ができるだけ均等になるよう配慮した。 【内 訳】 設問群(1 ~ 20) :それぞれ約 325 アクセント型 (約 151 項目)で構成 回答グループ(1 ~ 20):それぞれ約 25 人で 構成 (1 人の回答者が聴取して回答する数も約 325 アクセント型(約 151 項目) ) (塩田雄大(2010)(2011)(2013)) 2) 塩田雄大(2013)においても同じデータを用い て分析を施したが,その後の検討を通して,複 合動詞ではなく普通の動詞として認定したほう が現代語としてはふさわしいと思われる例が 8 語見つかった。そのため,今回の複合動詞の分 析対象数は塩田雄大(2013)のものよりも少な くなっている。ただし,全体の傾向はおおむね 同様である。 しつつある(第 2 回調査の項目では[シロク ナ\ル][ミジカクナ\ル][ウレシクナ\ル] がここで言う 1 単位形に該当) 。この動きは, 「や ばくない?」などにおける「とびはね音調」 (田 中ゆかり 2010)の発生・展開と密接に関連し ている。 4)現時点では,形容詞を活用させたときのアクセ ントは,全体として「語幹固定形」への指向が 明瞭に観察される。それと同時に,上記注 3 に 示した「2 単位形から 1 単位形へ」という動き も働きつつあるようであり,そのことが[ア カ\ク・ナ\ル]という 2 単位形への変化を押 しとどめる力〔=[アカクナ\ル]という1単 位形を保存しようとする力]〕として作用して いる可能性がある。革新形かつ 1 単位形である [ミジカクナ\ル] (支持率 20%)や[ウレシ クナ\ル] (14%)は,こうした「2 単位形か ら 1 単位形へ」という変化の兆しを示すものと して位置づけられるかもしれない。 引用文献: ・相澤正夫(1992 )「進行中のアクセント変化-東 京語の複合動詞の場合-」 『研究報告集』13(国立 国語研究所) ・稲垣滋子(1984 )「アクセントのゆれに関わる要 素について 」 『現代方言学の課題』2(明治書院) ・太田眞希恵・東美奈子(2016) 「NHK アクセント辞 典 “新辞典”への大改訂① 18 年ぶりの改訂で 誕生『NHK 日本語発音アクセント新辞典』~アクセ 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