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衛星回線終端装置SYS-U
衛星通信 離島通信 R&D 災害対策通信 離島衛星通信においてネットワークシンプル化を 実現する「衛星回線終端装置SYS-U」 NTTアクセスサービスシステム研究所 し か ま まさひろ 志鎌 昌宏 おおさか か ず お /大坂 一夫 う ら た いずみ /浦田 泉 さ が わ ゆういち /佐川 雄一 ひ ろ せ た か し ※ /廣瀬 貴史 こばやし きよし /小林 聖 NTTでは,公衆電話,固定電話通信などのサービスを,いつでも,どこでも,誰 もが利用可能な料金でお客さまに提供できるよう,通信網の維持 ・ 保守に取り組ん でいます.これらのユニバーサルサービスを提供するために,NTTでは光ファイバ など有線系インフラ整備が困難な山間部や離島,被災地の通信手段として衛星通信 を活用するとともに,その一層の効率化,高度化を目指し研究開発を推進しています. ここでは,海底光通信や衛星通信により離島に通信サービスを提供するネットワー ク設備全体の早期マイグレーション(ネットワークシンプル化)の実現に向けて開 発した「衛星回線終端装置SYS-U」について紹介します. 高効率衛星通信システム 「高効率衛星通信システム」の実現イ トの開発を進めています. 害対策衛星通信の提供の迅速化のため (1) 災害対策衛星通信 に,NTTアクセスサービスシステム研 究所では2012年に「小型衛星通信地球 災害対策衛星通信は,地震,台風, メージを図 1 に示します.本システムは, 豪雪などの影響で通信インフラが途絶 局」を開発し(2),現在は日本全国に順次 NTTグループで提供している「災害対 し,通信手段を失って孤立状態になっ 配備を進めています(図 2 ) .この小型 策衛星通信」 「船舶衛星通信」 「離島衛 た被災地に対する通信手段を迅速に提 衛星通信地球局は簡単に組み立てら (1) 星通信」の 3 つのサービスへの適用を 供します .2011年の東日本大震災の際 れ,組立設置すればボタン 1 つで目的 目指しており,現在さまざまなプロダク にも,数多くの避難所に対して長期間 の通信衛星を自動で捕捉することが可 にわたり特設公衆電話やインターネット 能で,高度な設置スキルがなくとも迅速 接続の通信サービスを提供しました.災 に回線開設ができることを特長としてい ※ 現,NTTネットワーク基盤技術研究所 通信衛星 (衛星トランスポンダ) 離島衛星通信 電話 専用線 本土局 船舶衛星通信 離島局 災害対策衛星通信 監視制御 電話 インターネット 基地局 端末局 病院・役場 ネットワーク 基地局 船舶局 図 1 高効率衛星通信システムの実現イメージ 42 NTT技術ジャーナル 2014.10 避難所 被災エリア 電話 専用線 R スの効率的な利用を実現します. 衛星通信において,衛星通信モデ 船舶衛星通信は,海洋上の船舶に対 ② 衛星回線終端装置COM-U:高効 ムで生成する衛星回線を終端して して通信サービスを提供します.海洋 率グループモデムモジュールを搭 本土側と離島側の地上回線を衛星 上での通信手段は衛星通信が主流であ 載した衛星通信モデムです.これ 回線経由で接続する伝送装置で, り,これまでにNTTアクセスサービスシ までの衛星通信モデムは可搬性も 地上回線との接続インタフェースを (2) 船舶衛星通信 ステム研究所が開発した衛星通信プロ 考慮して機能ごとに装置化してい 高度化することで地上伝送交換装 ダクトも船舶衛星通信に適用されてい ましたが,今回の開発ではそれぞ 置の早期マイグレーション(ネット れの機能を小型化されたパッケー ワークシンプル化)を実現します. ジにより実現し,監視制御を一元 離 島 衛 星 通 信 では,赤 道 上 空 約 離島衛星通信は,海底光ケーブルな 化することにより保守運用性を大 3 万6000 kmにある通信衛星を経由 ど有線系インフラの整備が困難な場合 幅に向上したパッケージタイプ搭載 して通信を行うことから伝搬遅延 や,単一の海底光ケーブルルートが切 型装置として開発を推進してい の発生が避けられないこと,また通 断されると通信ができず孤立してしまう ます. 信衛星上の通信リソースが地上系 ます. (3) 離島衛星通信 場合にも,離島に対してユニバーサル な通信サービスを提供します. 高効率衛星通信システムの概要を離 島衛星通信システム構成を例に紹介し ます(図 3 ) . ① 高効率グループモデムモジュー ル: 1 台の変 復 調 装 置(モデム) で複数波の同時送受信を可能とす る,衛星通信モデムの心臓部とな るデバイスです.多重処理型ター ボ符号技術を採用した強力な誤り 訂正や,任意の周波数位置に通信 (a) 可搬タイプ 波 を 配 置 するFFT(Fast Fourier (b) 車載タイプ 図 2 小型衛星通信地球局 Transform)フィルタバンク方式を 通信衛星 RF装置 RF装置 COM-U COM-U 高効率GMM 伝送交換装置 COM-U RF装置 小型衛星通信地球局 高効率GMM SYS-U SYS-U SYS-U 衛星回線終端装置 監視制御装置 (SAT-EMS) 衛星回線終端装置 RF:Radio Frequency GMM:Group Modem Module SAT-EMS:SATellite-Element Management System 伝送交換装置 図 3 高効率衛星通信システムの概要 NTT技術ジャーナル 2014.10 43 &Dホットコーナー ③ 衛星回線終端装置SYS-U:離島 採用し,通信衛星上の通信リソー ます. の通信リソースに比べて大幅に少 可能なスキルフリー化を実現しま とにより,伝 送 装 置との 接 続 インタ ないことなど,地上回線にないさま す.回線開通が円滑に実施できる フェースが高度化されるため,離島衛星 ざまな特徴や制限があるため,交 とともに,故障発生時にも故障個 通信システムを構成する旧世代の地上 換装置や専用装置などの地上伝送 所を早期に発見し修理することが 伝送交換装置類やオペレーション装置 交換装置と接続するうえでの衛星 可能です. 類のマイグレーションが可能となりま 通信の特性を考慮してさまざまな 機能を搭載しています.詳細につ す.このマイグレーションによるコスト 衛星回線終端装置SYS-U いては後述します. 削減をできるだけ早期に実現するため に,これまでNTTアクセスサービスシス 現行の離島衛星通信システムにも衛 ④ 監視制御装置SAT-EMS:SYS-U 星 回 線 を 地 上 伝 送 装 置 と の イン タ テム研究所では他のプロダクトより先行 やCOM-Uをはじめ,アンテナやア フェースに変換する機能を持つ装置は してSYS-Uの開発を進めてきました. ンプ等のRF(高周波)装置や端末 導入されていますが,これは旧世代の ■開発コンセプト 局である小型衛星通信地球局など, 低速タイプであり,さらに複数の伝送装 衛星通信システムを構成する装置 置が介在する複雑な構成となっていま 類を監視制御する装置です.従来 す.このため,衛星通信と接続する伝 SYS-Uの開発コンセプトを図 4 に示 します. ① 複数の装置を 1 つの装置にまと の監視制御装置は衛星通信に関す 送交換装置は旧世代のインタフェース め,低速 ・ 高遅延な衛星回線を使 る専門的な知識を必要としました を維持する必要があるうえ,本土側から う場合に発生する,さまざまな技術 が,機能等を大幅に見直し,地上 離島側までの地上伝送装置類を含む離 的課題(音声エコーによる通話品 の有線ネットワークで用いられてい 島通信全体のネットワーク構成は複雑 質への影響,多くのデータ量を要 る伝送装置と親和性のある操作機 化し,これらの装置を監視制御するオ するSDHフレーム情報の透過,回 能や画面などを具備することで, ペレーション装置類のマイグレーション 線切替時の遅延の影響など)を解 衛星通信の専門的技術がなくても も実現できないという課題がありまし 決します. システムの状態を把握することが た.今回開発したSYS-Uを導入するこ 衛星 モデム 装置 (GM) ② 地 上 伝 送 装 置との 接 続インタ 衛星ADP(既存装置) 回線接続装置 エコーキャンセラ装置 分離多重装置 RS-422 1.5Mインタフェース 1.5Mインタフェース STM-1インタフェース 変 換 マッピング エコー除去 STM化 1.5Mインタフェース 1.5Mインタフェース 1.5Mインタフェース 1.5Mインタフェース 1.5Mインタフェース 集 約 ●複数の装置で実施していた ① 各種機能を集約 SYS-U 衛星 モデム 装置 RS-422 エコー除去 ●衛星モデム装置マイグレー ④ ションに対応 変 換 マッピング ●伝送装置との接続インタ ② フェースを高度化 STM化 ●高遅延回線による音声 ③ エコーの除去 STM-1インタフェース 図 4 SYS-Uの開発コンセプト 44 NTT技術ジャーナル 2014.10 伝送 装置 伝送 装置 R コーキャンセラ機能を提供する「ECモー SYS-Uの衛星通信モデムの接続モード ド」の 2 つの装置モードを具備していま を現在使用している衛星モデム対応の に高度化し,接続される地上伝送 す.エコーキャンセラは,装置当り最大 「レガシーモード」からCOM-U対応の 装置のマイグレーションを実現し 200回線弱の音声回線のエコーを同時に 「COM-Uモード」に切り替えることによ ます. 除去する性能を有し,無音時の誤切断 り,同一物理インタフェースで回線容量 防止機能などに加えて回線種別ごとに が約1.4倍に増加します. ③ 高遅延な通信回線で発生する音 声エコーを,電話や専用線等のサー 最適化された音声検出アルゴリズムに ビスに合わせて制御しエコーを除 より高品質なエコー除去を可能としてい SYS-Uの地上回線 側はSTM- 1 イン 去することにより良好な通話品質 ます.なお,ECモードが提供するエコー タフェースを用い155.522 Mbit/s の速度 を確保します. キャンセラ機能は,海底光回線だけで でSDH(Synchronous Digital Hierarchy) はなく長距離通信など音声エコーが発 フレームを使って伝送装置や交換装置 ンタフェースを統一化し,現行の衛 生する高遅延回線にも適用することが と通信を確立します.一方で衛星回線 星通信モデムとの接続を可能とす 可能であるため,今後は適用範囲の拡 側はRS-422インタフェースを用い衛星 るとともに,現在開発中の次期衛 大に向けて検討を進める予定です. 回線フレームを使って通信するため,通 星通信モデムであるCOM-U装置へ (2) 衛星通信モデムインタフェース ④ 衛星通信モデム装置との接続イ のスムーズなマイグレーションに対 応します. ■機 能 前述の開発コンセプトに基づき,さま ざまな機能を開発しました(図 5 ) . (3) SDHフレームオーバヘッド伝送 信速度は最大でも23 Mbit/s強と地上回 静止衛星軌道の24時間周期変動によ 線側より大幅に低速です.したがって, り発生するドップラーシフトの影響を吸 本土側と離島側との間でSDHフレーム 収するためのバッファを具備することに を使って通信を確立するためには,衛 より,通信品質を確保しつつ現行のモ 星回線容量に合わせた速度でユーザ デム装置との接続が可能です.また同 データを送受信することに加えて,SDH じ物理インタフェースで現在開発中の, フレームのオーバヘッドをすべて送受信 SYS-Uは,衛星回線を終端して接続 次期モデム装置であるCOM-Uとも接続 するのではなく離島と本土局間で監視 する「SYS-Uモード」と,海底光回線 することが可能です.現行モデムから 制御,回線切替等に必要な最小限のオー で発 生する音 声エコーを除 去するエ COM-Uへのマイグレーション時には, バヘッドのみを抽出し送受信するように (1) 装置モード 本土衛星基地局 COM-U 衛星モデム インタフェース RS-422 中継装置 伝送装置 RS-422 COM-U RS-422 RS-422 RS-422 自動 切替 EC機能等 STM 1 STM 1 監視制御 監視制御 1系 EC機能等 伝送装置 警報監視 制御 ネットワーク EC機能等 EC機能等 STM 1 監視制御 STM 1 監視制御 SYS-U STM 1 自動 切替 1系 SYS-U 1系 1系 SYS-U 自動 切替 STM 1 自動 切替 0系 衛星 1 系 0系 COM-U SDH フレーム オーバヘッド 伝送機能 中継装置 海底 光 監視制御 1系 離島交換局 EC機能等 伝送装置 STM 1 STM 1 1系 0系 0系 監視制御 STM 1 SYS-U 自動 切替 STM 1 監視制御 SYS-U 自動 切替 SYS-U SYS-U EC機能等 STM 1 本土交換局 ECモード 海底光区間用エコーキャンセラ RS-422 RS-422 EC機能等 SYS-Uモード 衛星回線を終端 0系 SYS-U 衛星 0 系 COM-U 0系 SDH フレーム オーバヘッド 伝送機能 RS-422 装置モード 離島衛星基地局 EC機能等 STM 1 監視制御 ネットワーク SAT-EMSサーバ 図 5 SYS-U開発機能 NTT技術ジャーナル 2014.10 45 &Dホットコーナー フェースを1.544 Mbit/s 電気信号か ら155.522 Mbit/s のSTM- 1 光 信 号 今後の予定 高効率衛星通信システムにおける第 一弾のプロダクトとしてSYS-Uを開発 しました.今後も引き続きプロダクトの 開発を進め,高効率衛星通信システム の完成を目指します.また,SYS-Uに ついてはエコーキャンセラ機能の適用 CONT 1 0 150M 150M 150M 150M 1 2 1 0 PU PU SW EC EC CLK CLK 領域拡大を目指して引き続き検討を進 めます. 4 3 2 1 IF IF IF IF ■参考文献 図 6 SYS-U試作機の外観 装 置 側 で 工 夫 す る 必 要 が ありま す. また,現行システムでは監視制御装 SYS-UではSDHフレームオーバヘッド 置を構成する警報収集装置が多数存 をサービスに影響を与えないように,最 在することから,監視制御装置構成が 低限までスリム化して衛星回線で伝送 複雑になっていますが,この複雑な装 しています. また,本土と離島間で衛星回線の遅 置構成についてもシンプル化を行いま した. 延の影響により回線切替に影響が出な 今回開発したSYS-Uの試作機を図 6 いように,切替応答の代理応答機能等 に示します.従来は個別の装置として を具備し,遅延による影響を最小限に 構成されていた各種機能をパッケージ 抑えます. 化するとともに,電源を投入したままの (4) 警報監視制御 現行の衛星通信システムの警報監視 制御は衛星通信装置が持つ独自の機能 状態でもほかのパッケージや主信号な どに影響を与えずパッケージの抜き差し を行う活線挿抜を可能としています. に合わせてつくられているため,衛星 また,装置内で音声エコー除去が必 通信の仕組みや通信装置の機能を知ら 要なパスを振り分けるクロスコネクト ないと運用が難しくなっています. 機能や,64 kbit/s の音声チャネル単位 しかしNTTアクセスサービスシステ ム研究所では,これからの開発では業 でのエコーキャンセラ機能を実現しま した. 務の効率化や技術者の減耗への対応が 保守性においては,衛星回線を介し 重要と考え,本システムにおいても衛星 て故障の切り分けが可能な各種試験機 通信関連の運用業務から必要な監視制 能,サントランジット*時の警報多発に 御機能を洗い出し,監視制御装置と通 対応し運用に合わせた設定が可能な感 信装置に地上系装置同様の監視制御機 知重要度設定機能,遠隔操作により交 能を実現する開発を進めています.こ 換対象パッケージを現地保守者にラン れにより,運用者のスキルフリー化を可 プの点滅で指定する遠隔ランプ制御機 能とし,効率的な運用業務を実現します. 能等の保守運用機能の充実に取り組み *サントランジット:地球と太陽との間に通信衛 星が位置し,地上の衛星通信用アンテナから見 て通信衛星と太陽の方向が一致すると,地上 のアンテナが太陽から放射される雑音も拾っ てしまい,その雑音により通信品質が劣化する 現象. 46 NTT技術ジャーナル 2014.10 (1) 松下 ・ 佐藤 ・ 湯本 ・ 山口 ・ 田畑 ・ 亀澤 ・ 風間: “離島通信および災害対策に適用するインフラ 衛星通信システム, ” 信学技報,SAT,Vol.105, No.69,pp.1- 6 ,2005. (2) 今泉 ・ 廣瀬 ・ 吉田:“小型衛星通信地球局の開 発:次期災害対策用衛星通信システム, ” 信学 技報,SAT,Vol.112,No.150,pp.19-23,2012. ました.また,局舎への設置を前提とし ているため,電源はDCタイプ,冷却方 式は自然空冷としています. (後列左から) 佐川 雄一/ 廣瀬 貴史/ 小林 聖 (前列左から) 浦田 泉/ 志鎌 昌宏/ 大坂 一夫 東日本大震災以降,衛星通信の役割が再 認識され,その重要性は日を追うごとに増 しています.今後とも,衛星通信の特徴で ある広域性,高信頼性を損なうことなく, 利便性や迅速性をさらに向上すべく研究開 発に取り組んでいきます. ◆問い合わせ先 NTTアクセスサービスシステム研究所 無線エントランスプロジェクト 衛星通信グループ TEL 046-859-4207 FAX 046-859-4311 E-mail eeig lab.ntt.co.jp