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アルコール依存症者の断酒会における体験と 回復過程との関連
広島文教女子大学紀要 3 8,2 0 0 3 アルコール依存症者の断酒会における体験と 回復過程との関連 千 両 回 雄 Experiencesi nt h eT e e t o t a lMeeting( D a n s h u k a i :]apaneseSelfHelp Groupo fA l c o h o l i c s )andRecoveηTProcesso fA l coholism Y u i c h iFukuda A b s t r a c t : 1h a v ep a r t i c i p a t e di nt h et e e t o t a lr e g u l a rm e e t i n g sa n di n t e r v i e w e d4 r e c o v e r i n ga l c o h o l i c s who had a b s t a i n e df r o md r i n k i n gf o ro v e r1 0y e a r s . The i r e x p e r i e n c e swered e s c r i b e df r o mt h ep o i n to fhowt h e yr e c o v e r e da n dt h et h e r a p e u t i c f u n c t i o n so ft h em e e t i n g .1 ng e n e r a l,i ti st h o u g h tt oben e c e s s a r yt h a tt h ed e n i a la s d e f e n s e mechanism s h o u l dbe d i r e c t l yc o n f r o n t e d .1 nt h ee a r l ys t a g eo fr e c o v e r y , however ,t h es e c o n dl e v e lo fd e n i a l,t h a ti s,t h ed e n i a la g a i n s ta n yp r o b l e m so t h e rt h a n d r i n k i n gi t s e l fwasp o s i t i v e l ym a d e . 1.問題と目的 アルコール依存症は経過の長い疾忠で定期間の断酒により身体的な回復は得られるが, 容易に再飲酒してしまうために,長期的にみた予後は芳しくない。入院治療後の断酒率は 2年 間で全体の 20%まで低下する(鈴木, 1 9 8 4 ) という資料が示すように,断 j 酉の継続にはさま ざまな岡難が伴うが,断酒会や AA ( A lc o h i l i c sAnonymous) といった自助グループの有効性が 指摘されている(田中, 1 9 8 4 ;野口, 1 9 9 6 )。 野口(19 9 6 ) によれば,白助グループは代替機能と創造機能という:つの治療的機能をもっ O 代替機能とは,それまでの本人の f主活の中で酒が呆たしていた機能を代替するという怠味で, 具体的には不安の軽減や情緒的な傷の癒しといった作用を意味する。創造機能とは,対人関係 能力の成長,自己の再発見と再確認,ステイグマへの対処といった点で,酒なしの新しい't.き 方を作り出していくのに役立つ。 [ n T復初期は,代替機能がアルコール依存を自助グループへの 依存に向け変え当面の断酒行動を達成するのに役立ち,回復中期以降は,継続的な断酒を支え る安定したライフスタイルの獲得のために,創造機能が重要な意義をもっという。しかし,こ れらの機能と阿復過程の対応関係は必ずしも明確に論じられてはいない。 アルコール依存症の回復過程は,概ね初期・中期・後期にまとめられており(例えば,斎藤 ( 19 8 5 ), 一丸(19 8 7 ) など),飲酒の時期を合めると四つの時期がある。飲酒の時期のみならず, アルコール依存の問題全体を形成する上で,中心的な役割を果たす防衛機制のひとつに否認 ( d e n i a l)がある。 Blume ( 1 9 8 5 ) によれば,アルコール依存症者の用いる否認には二つの水準 があるという。「第一の否認」は,飲酒にまつわる問題の存在やその重大さを当事者が認めよ うとしないことをさし治療的介入や回復過程への導入を妨げるものとなる。「第三の存認jは , 飲酒以外にもさまざまな問題があるということについての百認であり, ["第・の否認」が取り 扱われた後の回復を阻む要因となる O 1 5 5 しかし,否認がどのような過程を経て揺らぎ,崩れ去っていくのかという点を論じた研究は 少ない。百認が崩れ去った状態は「底っき感(斎藤, 1 9 8 5 )Jゃ「敗北宣討(--fL, 1 9 8 7 ) Jと 表現されるものの,そのプロセスは明確ではない。 a l l a c e( 19 8 5 ) はアルコール依存症のクライエントに関わるセラピストが陥りやすい また, W 1 宣I IlI化させ,防衛をはぎ取ってし 問題として,クライエントの問題にセラピストが早い段階で' キったリーダーのいない自助 まうことの危険性を指摘している。 治療者という専門的な志岡を J グループでは,当事者の否認はどのように扱われているのだろうか。 門会によってアルコール依存佐から回復した人々の体験談 本稿では以上のことをふまえ,断 j や,断 j 附会のミーテイングである断酒例会への参加観察をもとに,(1)断酒会のもつ機能とアル 1 f症の 1 1 1 復過程との関連,⑨アルコール依存症の回復における否認の変遷やその取り コール依 { 8 5 ) や-丸 ( 1 9 8 7 ) の示した回復過程を参考にしながら検討する。 扱いの重要性を,斎藤(19 1 1 . 方 法 [ 1 1 1復の典型例として, 1 0年以 L 断酒を継続し断酒会でリーダーの役割を来たしている 4 ? ' 1の 男性(去1)を対象とした。対象者の所属する断酒会の例会へ週 1回のベースで出席し, 1 同別 に半構造化面接を行った。面接の内容は対象者の許可を得て録在した。 表 1 対象 { i "のl t本 J ' 同i 'Jj.例 年齢 断州歴 入院 1 1 司数 A 4 0 F 1 2{ 1 1 1 1 ] (粕神科) B 5 3 1 5年 2 1 " 1 (内科,精神科) C 5 4 2 0年 1[ 1 1 (アルコール守門病院) D 7 9 4 ' 3 2: 3 1 " 1 (内科 2 1 " 1,精神科) 皿.結果と考察 i 副長の内容を I r t l復過程の時期jごとに整理し,①断酒会の機能,②否認の変遷や断相会におけ る百認の取り扱い,という;つの視点から記述した。先行研究では, I 否認JI つながり JI 継 安定 Jの同つの時期が提示されているが,本研究では否認が崩れ去る「敗北体験j 続の危機 JI の彦、義を重視して別に記述した。なお,この頃では調査者(筆者)の発言を< >で、開って記 した。 (I)百認の時期(回復以前) ⑨ 断酒会の機能 附会の介入はないか,あっても本人が断州を決断するまでには至らない。 この時期jには,断 j ② 丙誌の変遷 C氏は入院への経緯を語る中で次のように述べ, Blume ( 1 9 8 5 ) のいう「第 A の百認」が存 在したことを何わせる。 初めて断酒会に入った時は,何で酒をやめなきゃいかんのかなと。 淵で家の中がごたご 1 5 6 アルコール依存症行の断洲会における体験と 1 " 1復過れとの関連 たしながら,断酒会を知ったらもう家内は酒をやめてくれるものと思って,それが入会し て 3J か月で体も Eかったんですよね。しかし,やはり酒が悪いとは思わなかった。家内が折り合いが 悪いからこうなるんだと,他人のせいにしてしまう。飲酒運転しでも,運が悪いくらいに 思っている。だから,検問の時間とずらして帰宅するとか,そんなことをやってました。 B氏はアルコール離脱杭状のひとつである手の震えのために,仕事も満足にできない状態だ、っ たが, I f l :事さえやればいいんだろ」と居直って,堂々と職場で飲酒するようになっていたの B 氏は当時の心境を振り返って次のように述べている。 j 内が切れてどうしようもない時は,飲めば楽になれるというのを主1っているから,もう とにかく半く飲んで,来になりたいと思う, もうそれしかない。 少し飲んで、,震えが止まって,気持ちも格ち着いてくると,何でこんなにしてまで飲ま ないといけないんだろうという気持ちに変わるんですよ。 自分が惨めで情けない。周りの 人は飲んでいてもきちんとしているけれど,こちらはもうとにかく飲んでいる。みんなは 似る家があるけれど,こっちは帰っても誰もいない。悔しくて涙が{I¥てくる。 それからは「俺がこんなに辛い日にあっているのに」と同りが憎らしくなって,ちょっ としたことでケンカをふっかける。それも次の朝には全く覚えでなくて,服の汚れとか, 子のケガとか,そういうのを見て「ああまたやったんだ」と。ただ何をやらかしたのかが わからない,怖いんだよこれが。何したかわからないっていうくらい怖いのはない。ひょっ Iおそるおそる会社に行って,聞き耳 として相子に大けがさせたんじゃないかとか。次の 1 を立てる。お昼すぎてもそういう話が出てこなければ,ああ{りもなかったんだと安心して, で,タノI j~こはもう飲むことを考えている。それの繰り返しで,だんだん忠くなっていった んですね。もう絶対に j 酉はやめられない,このまま死ぬしかないと思った。幼い頃からは できた人で,アル中が治ったという訴は聞いたことがなかった。 b l a c k o u t ) のために生じる不安にさい このように,孤独感や劣等感,記憶の部分的な欠落 ( なまれているのだが,当面の凶難がやり過ごせるとわかると,そうした感情は再び飲酒欲求に 緩い隠されてしまう。 B氏は「何をするにしても酒がないと何もできない j という無力感にこ l ume (1985) のいう「第‘の否認Jが揺らいではいた。しかし,断 の時点で気づいており, B u l復への希望的な見 酒ということが他者のこととしても自分のこととしてもイメージできず, l 通しも持てないでいた。 桝に振り回されているが,それを取り上げるとド l 分に何も残らない状 況であった。また,問題の原│却をアルコール依存症という病気として H I !解する悦点も十分で、な かったために,精神科や専門病院の受診は選択肢に挙がらなかった。 ( 2 ) 敗北体験(回復への転機) 精神科やアルコール専門病院への入院が, I 祈相会との出会いや回復への転機になったことが, 任後は, i酉に振り 11 1 1 された汗しさから解放され,~堵が感じ すべての事例で確認された。入院 l られた。 B氏は次のように述べている。 ベッドに案内された時にホッとしたというのが最初ですかね。もうそれまでの飲む毎日 がただ苦しかったから,やっとそれから解放されたかという感じ。その時は将来断洞する 1 5 7 とかしないとか,そういうことは全くなくて, もうただ苦しかったのが楽になれる,と。 C氏も同様に,生活のすべてを振り回した酒から解放された安堵感を述べている。 初めはね,酒から解放されたという安堵の気持ちというか,安心しておれるというか。 というのは,家にいた頃は,何かにもうとにかくおびえていて,やはり周りが誰も相手に してくれんという寂しさもあったんじゃないかと思う。(中略)酒をどうやって子に入れ ょうかと,盗んで飲んだこともあるし,飲酒運転になるからと車の鍵を親が取り上げたこ ともありましたが,どういう方法でもダメだ、ったですね。酒に振り│叫されていたのが,病 院へ入ったら柄がない。そのあたりが安堵の気持ちというのではなかったかなと。 このようにみると,生活を振り│叫した酒:から(任意であれ強制的であれ)物理的に引き離す ことが,結果として心理的な安全感を保障することにつながり,それが凶復の転機となってい るように忠われる。 ① 断酒会の機能 ところが, B氏は入院治療の」環として断柄会に参加していたが,会の権威的な雰囲気や束縛 に反発を感じるなど,必ずしも良好な関係が築けていたわけではなかった。 あそこ(病院)で断柄会にも入れと言われたけれど,冗談じゃない,大嫌いだ、ったです ね。束縛されるのが嫌だ、ったし,先輩が権威でもって命令して抑えているような雰囲気だ、っ たり,先輩同 f :で、も派闘があったり,私たちが挨拶しでもそっくりかえっているような感 じでしてね。そういうのに反発して。「断酒会に入ります j と言わないと退院できないか ら,その場ではそう言ってるんだけど, I 人j 心は先輩たちの態度をチェックして「こんな断 酒会入ってたまるか」と思っていて,病主主に帰っても恵口ばかり言ってました。 B氏は結局,妻が参加していた別の断酒会に出席し,その温かな雰囲気に「ここならやれる かもしれん j と,退院後のつながりを得ることになった。のちに B氏は例会のまとめ役として 他の会員に関わるようになるが,当時の経験をふまえて「新しい人にはなるべく構えを解いて もらえるような雰囲気をつくるようにしている」ということである。 ② 否認の変遷 内科ではなく精神科や専門科に入院したことが回復の転機になったのは,それまでの「身体 が悪い」あるいは「家族との折り合いが悪い j という否認の理屈づけが激しく揺さぶられ, I 身 体の問題だけではない」と気づきはじめたためではないかと考えられる。身体が悪いだけなら, 内科に入院して,また飲める身体になるまで治療を受ければよいからである O ところが,専門病院に入院した C氏は,退院を控えた外泊で早速飲酒した。 c氏は当時を以 下のように振り返る。 しかしまた,体が良くなるにつれて,違った面が出てくるんですよ。私の本来のいい加 減な人間というか性格というか,何とかならあと。 6か月日くらいだ、ったですかね。別居 していた家内が,離婚を思いとどまってくれたのがその頃だ、ったんですが,その条件が, 1 5 8 アルコール依存症1'i"の断 j 例会における体験と [ 1 1復過程との関連 今住んでいる場所で,親と別居して,断酒会の近いところで-諸に{主むということになっ 1¥るんですよね(背笑)。もうこれで(家内も)逃げやせ て。今度はそこで本米の自分が 1 んわ,一件落着よと O 本来の飲みよった頃の性格が出てきて,入院中から外泊しては,飲 みよりましたよ。そしてー番ひどいのが,今でもその時の気持ちが分析できんのですが, 酒のために家内が実家に帰っているんですよね。 涙を流して,子どもがかわいくでかなわ んといって,それでもアルコールとは別なんですよ。入院中に外泊もらって,一杯飲んで、 真っ赤な顔して家内の実家へ行ったことがあるんですよ。だからもう,それは,人の気持 ちを踏みにじるというのか,今でもこわいような気がします。 このようにみると,入院したからといって必ずしも欽淵欲求が抑えられるわけで、はない。酔っ た状態で、起こしたさまざまな問題行動は非難の的になりやすいが,むしろその本質は,小林 ( 2 0 0 0 ) が「歪んだ発想、や,人間らしさを欠き始めたこころの動き」と述べるように,行動の背 景にある認知や出、与,感情といった内的側而であるように思われる。 で家族と別凶し入院したという状況と , c氏の場合,飲 i 阿が!以│刈 r どもに会いたいという思いと,自らの飲酒欲求とが c氏の「第ーの汗認j はこの時点ではまだ克服 c氏は退院後も断柄会に参加しながら飲酒を続けていたが,以下に述べられる 葛藤していなかったことになる。この意味で, されていない。 ような経緯で、飲柄が 1 1:まった。 ' ,た。お金もなくなって,飲もうにも飲めない状態 最後の酒を飲んだ頃には,別れ話も 1 で,それまでごまかしつつ飲んできたけど,気がついたらー週間飲まない状態が続いた。 今でも鮮明に覚えている。そこから,例会へ 1 ¥るのがあまり苦にならなくなった。くそれ までも,出るのは出ていた >2日に 1回くらいのベースで家内が述れて 1 1¥ていたから。気 がついたときに飲んでいなくて,それからですね, I~ 分から例会を探して 1 1\るようになっ たのは。きっかけを作ってくれたのはやっぱり家内だと思います。というのが,当時の支 部長夫妻に,一部始終を全部話していた。飲む飲まないから,私が 1 ' 1分で気づかないとこ ろまで,全部。 C氏にとっての「どん底」はこのような状況であった。ここでは, I 飲もうにも飲めない j と 会へ 1 1¥席する行動が続いたことにより,そのことを昨痛に感じなくなっ いう状況で,しらふで秒1 ている O 周凶に宇部始終を把握されることは,自分の ) Jでは状況をどうにも変えることができ j感につながるものとして解釈されがちである。しかし, B氏はこのことを苦痛 ないという無 } に感じてはいない。自分の辛い状況を埋解してもらえているという実感がもてることで,断酒 会に自分の身を委ねることが可能となったのではないだろうか。 ( 3 ) つながりの時期(回復初期) ① 断酒会の機能 A氏は断酒会と出会って「酒をやめれば彼らのように立派になれる」という肯定的な同砂t のために,飲酒以外の問題が・時的に見えなくなる傾向があったものの,回復が強く動機づけ られた。 A氏は断 j 阿会員との最初の接触の印象を以下のように語っている。 (入院中に)会長が見舞いに来てくれた時は,保護可かと思った。スーツを着て物吉い も丁寧で、,上品な老紳 t~ だった。けれども話を聞いてみると,自分以上にすごい体験を持つ 1 5 9 ている酒害者だ、った。もう理屈じゃなくて,人間は変われるんだなと。変わりたいと思っ ていましたし。どうしても淵がやめられなくて,自己嫌悪で泣きながら飲んでいましたか らね。会長もそうだ、ったんです。そんな人がこのように伝派に見えるまでになっているの だから,白分だ、って(柑を)やめれば \ì~ 派になれるかもしれないと,思ったんです。 C氏が断酒会を「自分が安心して居れる場所」と実感し,他者の助言を受け入れることがで きるようになったことは,野口(19 9 6 ) のいう代替機能のうち情緒的なサポートに支えられて いたことを示している。このことについて C氏は次のように述べている O 職場でも,白分の家に帰っても寒々としたもんでしょ。でも例会へ行くと誰とも話さず 1 l こ一生懸命聞い-C,落ちついている場がある。(I t 略)家では会話がないけど,例会の場は, 話される体験談とか家内の話と,自分の気持ちとを照らし合わせる格好の場だ、った。そこ ら辺だと思う,今まで引っ張って,継続する基礎をつくってくれたのは。 3年くらいは f どもも連れて夫婦で例会に出ていた。 「頑張ってるか」とか「遊びに来いよ」と戸をかけてもらって,そのへんから自分の胸 のq Tを話せるようになってくるし,同りの仲間も「何か悩んでることがあるんじゃないか, 少し話してごらんよ」というようなことを,例会のI 易以外でもrJってくれて,そういう仲 間とのつながりですね,そのへんからじゃないで、すかね,仲間の百うことを取り入れてみ ょうかと思うようになったのは。 2 0 0 0 ) は「桝害という共 アルコール依存庄の当事者であり,断酒会によって[Il[復した小林 ( 通の悩みをもっている会員たちが,ありのままの n分を語っている姿を通して,夜、は自分の悩 みやもどかしさを吐き出していた」と述べている。 C氏にも小林にも(そしておそらくほとん どのアルコール依存痕者にも)共通しているのは,背中を押される形で出席しながらも,そこ で他符の体験を聴き, n己の体験を振り返っていくことである。例会の場では単に孤独感が紛 れるというだけではなく,他苛の体験を共感的に聴くことができ,さらに n 己の体験と照らし 合わせながら内省を深めていくことができるのである。 ⑨ 再認の変遷 この時期の C氏や D氏には「とにかく足で(飲まない I L y.聞を)稼ぐ」という「断柄会依存 J( 丸 , 1 9 8 8 ) の状態がうかがえた。例会の参加若からも, i (例会に)出れば少なくともその間だ けは飲まずにすむ j という発誌が聞かれた。ここでは,例会へ出!市し 1々しらふで過ごすとい 甫 君 う行動の達成に大きな怠義がおかれ,それ以外の課題への取り組みはさほど 1 C 氏は、:~~叩H時寺を次のように J振辰り j返逗る υ 七番大きかった要閃は,文郎長夫妻が→緒に車で行動してくれたこと。それから, 1か 門学校(iJ)へ行ったこと。家内が誘ってくれた。大きな仲間の 1 f Tへ入れてもら 月たって断 j える体験になったし,先輩 } jにもひっぱってもらった。もう, 1 +1ることに」生懸命になっ 阿(を飲むこと)が(例会へ) た 。 i るのは I Hることに変わっただけなんですけど。今も守ってい i Cさんは ) J2 3[ I 1J 例会出席を割ったら再飲桝だ」と弓われていたこと。冗談とも本 気ともつかんかったけど,家内も私も本気にした。 1 6 0 アルコール依存' : i, ' "1 守の断例会における体験と r " 1復過れとの関連 (i判断 j向学校・ 2~311 の宿泊を伴う研修会。小集 I.fl でのミーティングなどを行うが,体験を語るこ とがその中心であることは例会と変わらない。 また, D氏は飲酒期から回復初期にみられる依存症者の「強がり」について次のように語り, [解した対応が望ましいことを示唆しているの その背後にある弱さをま1 (飲んでいる頃は)強がりで物を言っているんだけど,衷ではものすごく助けてほしい。 そんな強がりでも,ないよりはまし。くそういう強がりを人から聞くと,いじらしくなり えらい苦労して酒飲んだなあ」って(笑)。それがわかりあえるから断澗会が ますね> I あるの。普通だ、ったら「パカなことを」でおしまいだけど,自分は「苦しかったね,大変 だったね,やめれば楽になれるさ」と言える。 ( 4 ) 継続の危機の時期(回復中期) ⑨ 断酒会の機能 C氏は順調に断 j 阿を続けていたが, 3年を経過した頃から経済的な問題を感じるようになり, 超過勤務を繰り返していた。 例会へ出るのに弊害になったのが仕事で,やはり忙しい。周りはばたばたしている,給 料も多くほしい,山│吐欲もある。そんなことを考えていたら,例会へ出るのが邪魔になっ てくる O 貧乏をしたから家族にも楽をさせてやりたい。(中略)何とかしなくちゃと思っ て,仕事に没頭するようになったのもあるんです。病院の例会にも行かずに,休日出勤し : fUにハッと気がついたのが,入院したときの惨めな ていた時期がありました。けれど 4i 姿を,やはり(病院に)行かないと思い出せない。あのあたりが第宇の危機だ、ったと思う んです。みんな仕事がらみや内部の人間関係で会を去っていって,葛藤があったのは。 ここでは, A 氏とは逆の}j IÎIJ でがJ-~ 視が起こっている。 A 氏が「洞をやめれば彼らのように 立派になれる j と思ったのに対し, C氏は「また飲んでしまえば,惨めな姿をさらすことにな るJと感じている。このことは断酒会がさまざまな状況の人々で構成されていることにより可 能となっているのであるが,それぞれがお 1 1 :いの立場を自己の鏡として認知しており.それが 断酒の動機づけに役立っているところが特徴的であるといえる O ② 再認の変遷 この時期には飲酒以外にも係々な問題があることに気づき,飲酒に代わる建設的で現実的な 問題解決の仕方を先輩会員の助弓や試行錯誤により学んでいく時期であるといえる ο l i 闘をやめれば全ての問題は解決する j と思っていた B氏は,断酒していても少しのことで イライラしてしまい,その対処に関して先輩会員の助言をしばしば受けて解決していた。それ を通して「自分には思ったより力がない,白分ひとりで(酒を)やめているなんて大間違いだ」 と気づき,感謝の気持ちを率直に表現できるようになった。 例会の参加者は, しばしば「おかげさまで ~J あるいは I~ させてもらう」という表現を用 いるし, B氏が述べていたように「自分ひとりでこのように(酒を)やめることはできなかっ た」と振り返る発日は, B氏以外にも多くの会員から耳にした。自分ひとりでは出会いもなけ れば孤独を癒すこともできないし,他者を自分の鏡としてみることもできない。こうした体験 -161 は,アルコール依作症に陥る長い経過の中で次第に周囲から孤立していった経験をもっ当事者 にとって,もっとも欠如している体験の」つではないだろうか。このようにさまざまな対人関 j助グループという枠組みをもつことの大きな意義を示して 係を経験できることは,断酒会が f いる O ( 5 ) 安定の時期(回復後期) ④ 断柄会の機能 彼らは援助者として他の会員に関わるようになるが,回復初期j の会員にありがちな否認を突 き崩そうとしたり,一方的に助言を押しつけたりはしない。相手を責めることが混乱を引き起 こしたり,思着せがましさが以発を招くことを体験として理解しているからである。以下は C 氏の例である。 私たちが助かっていこうと思ったら,常に新しい方と接しておく。自分だけのことを考 えているのではないですね。例会の会場でもまず座って, (出席者の)顔色を見て,それ から話を聞いていると,最後のちょっとした言葉尻で調子がわかるものなんです。オクター J調になったりね。夫婦で喧 l摩をしたなとか。あまり外れませんね。 ブあがったり,命令 r ただ,そのI 易でやって(指摘して)しまうと,務ち込んでいるのを却って落としてしまう i 調子思い,寂しそうみたいだったけどど i 実は…j と話してくれることがあるんですね。そこからつながりを ことがあるんですよ。例会のあとで電話して, う?Jとか亘うと, つくっていく。 ー杯飲んでいるなということが一日で、わかってもその場では日いません。 責めるようになってしまいますからね。私たちもそれをやられてきましたから,よくわか ります。人間やっぱり相性がありますから,なるべく話が合うような人を選んで、ですね。 会長がよく亘ってますが,まずその家へ行ってみて,生活状況をつかんで、,まずは知るこ とからだと。言われてみると,会長が(白分の)家に来たこともあったなと思い出してで すね。自分でもやってます。私で具合が悪い場合には誰かに頼んで電話してもらったり。 Mよりもむしろ ( ' i -声的側面に注目すべき,という点はサリヴァン(中井ほか訳, 言語的側 1 1 9 8 6 ) が精神医学的而接のポイントとして述べているとおりである。また,介入の時期や状況 はアセスメントに基づいて見極めるべきであり,いたずらに直面化せず,キ日子が取り組むべき 問題を n発的に提示するのを待つという姿勢は,心理臨床家の実践にも示唆を与えてくれるも 同会員として酒害者に のである。 彼らは専門家としての訓練を受けているわけではないが,断 j 阿害者であった経験から, 関わった経験や,自分自身が j i 何が酒害者に対して援助的でありうる かj ということを理解しており,それを実践に1'.かすことができているのである。 ⑨ 否認の変遷 リーダーとして援助者の役割を果たすようになった彼らもまた,断酒会とのつながりを必要 としていることが,すべての事例で確認された。断酒を通して人It.を生きなおすという視点は, C氏と D氏がより明確に意識していた。これは Blume ( 1 9 8 5 ) のいう「第三の否認」が克服さ れた状態をさしている。このことについて C氏は次のように話している O <生き方を問い l 直していかなければ断洞が続かない>20年やめて違ってきたのは,酒に こだ、わらなくなったことですね。こだわらなくなった代わりに,人間性の問題で飲まない 1 6 2 アルコール依存注荷の l 祈j 同会における体験と [ n [復過程との関連 方向に自分を持っていかないといけない。それに加えて夫婦のこととか子育てのこととか, 酒以外のことにも取り組んで、いく。そうしない限り,酒をやめ続けることはできないと思 います。やめ続けるというのは一人ひとり違うと思います。 lV.ま と め ( 1 ) アルコール依存症の回復過程と断酒会の機能 本研究では実際に断酒を続けることでアルコール依存広から回復しつつある人々の体験を聴 き,野口 (1996) の述べるような治療的機能を,経過にそって子~事者の体験の側から確かめる ことができた。 敗北体験を断酒会が非常に重視していることは,例会の開催ごとに冒頭で朗読される「断酒 の誓ぃ」にもあらわれている。その最初に「私たちは柄に対して無力であり,自分ひとりの力 だけではどうにもならなかったことを認めます」と述べられているのである。これは M にお いても同趣旨のことが凶復の最初のステップとして示されている。 彼らは n分の無 }J;さを認めることで,それまで酒に依存していた白己のよりどころを,断酒 会に投げ出す形で求めている。つまり断酒会は,メンバーの依存性を(相互に)ひきうけあう 1 9 9 6 ) のいう「代替機能」と類似している グループでもあるということである。これは野口 ( が,依存性を断酒会そのものが5 1き受けるという意義は,これまで明確に述べられてはいない ように思われる O このことは,単に依存対象が淵から断酒会へ置き換わったことを意味するだ けではなく,健康な対人関係の A 側面として表れる依存の萌芽を意味する。誰にも依存せずに 生きている人などいないのだが,アルコール依存症者の存認は「迷惑をかけることで他者に依 存している Jという事実を覆い隠し, うに考えると, I 好きで、飲んでイロJ が悪い j と意識させてしまう。このよ I 敗北体験」は, I 自分は何かに依存しなければ生きられない」という事実に向 き合うことであり,これを適切な対人関係の構築によって果たしていく転機であるということ カまできる。 ( 2 ) 断酒会における否認の取り扱い 日本における断附会活動の作みの親である松村春繁は, I 断酒幸福」の亘葉を好んで色紙に書 き,新入会員や未加入の酒害者に対しては「断酒さえすれば幸せになれる j という 意味を{ムえ 4 たという O これは「第ての育認Jを一時的に強化することにはなるが,初期の動機づけには役 。:つ o-~)j,断柄がある程度達成された者に対しては「断酒を通して幸せとは何かを考える」 という意味を伝えたという。初期の「断酒の達成 j という行動レベルの 1標は, I 第ての否認」 への取り組みを通して「断酒の継続」すなわち「生き万を作りなおす」という心理的レベルの 作業に変化していくと考えられる。依存のメカニズムが身体依存と精神依存とに l 又別して捉え られているように,その回復も行動而で断酒を達成すること(初期の解毒を含む)と心理的な 作業に取り組んでいくこととにわけで埋解し,対応することが適切であろう。 また,百認や l 司寸見といった防衛を直ちに取り去ってしまうのではなく,むしろ断酒の達成 のために積極的に利用するという視点は,心埋療法における抵抗の取り扱いにも示峻を与えて くれるものである。 ( 3 ) 今後の課題 本稿では,アルコール依存症者の内的体験を回復の過程に沿って捉えなおし,また否認の変 -163 遷という視点、で分析した。今後は, I アルコール依存症は自分にとって負の体験ではなく,私 の人件の'11で重要な役割をもっていたのだ, 2 0 0 0 ) が述べる と考えるようになった」と小林 ( ように,当事者のアイデンテイテイの時間的・空間的な連続性という視点での分析が望まれる。 また,そのような長い経過の'11で 形 づ く ら れ た 「 体 験 " 炎 」 を 例 会 で く り か え し 「 物 語 る j こと が回復に果たす車、義も深いと思われる。 H, : t : ,制作に快くご協力いただきました断例会t1のみなさんに深く佐[J礼 q Jし I 宇げます。 引用文献 B lume,S .B . 1 9 8 5 GroupP s y c h o t h e r a p yi nt h eT r e a t m e n to fA l c o h o l i s m .I n Zimberg,S .,W a l l a c e,, . ] & B lume,S .B .( E d s . )P r a c t i c a lA戸' p r o a c h e st oA l c o h o l i . 幻 刊 P s y c h o t h e r a p y( S e c o n dE d i t i o n ) . 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NewY o r k 鈴木康夫 川' 1 '孝雄 平成 15年 10月 15日 受理一 1 6 4