...

遅延後の虚再認にみられる気分がカテゴリ情報処理に及ぼす効果

by user

on
Category: Documents
11

views

Report

Comments

Transcript

遅延後の虚再認にみられる気分がカテゴリ情報処理に及ぼす効果
日心第71回大会 (2007)
遅延後の虚再認にみられる気分がカテゴリ情報処理に及ぼす効果
野田理世
(吉備国際大学心理学部)
Key words: 気分 情報処理方略 既存知識構造
目
的
気分が,ステレオタイプやスクリプトなどの既存の知識構
造を利用させた情報処理を行わせることは広く報告されてい
る (Bless, Clore, Schwarz, Golosano, Rabe, & Wölk, 1996;
Bodenhausen, Kramer, & Suesser, 1994; Isbell, 2003).例えば,
Bless et al.(1996)は,レストランで行う典型的な行動と非典型
的な行動を含む話を聞かせた場合,非典型的な行動の記憶再
認については,ネガティブ気分とポジティブ気分で差はみら
れないが,典型的な行動の再認に関しては,ポジティブ気分
の実験参加者のほうが,
“あった”と回答する数が多いことを
報告している.さらにいえば,ポジティブ気分では,提示さ
れていない典型的な行動に関しても“あった”と回答される
傾向が高くなり,虚再認の増加することが明らかになってい
る.
野田(2006)では,気分導入後,刺激対象人物の所属する社
会的なカテゴリ情報を与えた後で,その人物に関する具体的
な個人情報を提示した際,実験直後と遅延後では,記憶再生
率がどのように異なるのかが検討されている.実験直後では,
記憶再生に与える気分の影響は確認されていないが,遅延後
では,ポジティブ気分でカテゴリ一致情報の正再生率の高く
なることが確認されている.この結果は,ポジティブ気分が,
情報入力時にカテゴリ情報を利用させてカテゴリ一致情報を
処理し,カテゴリ情報とカテゴリ一致情報のリンクを強くし
た可能性を示唆する.ポジティブ気分では,カテゴリ情報と
カテゴリ一致情報のリンクが強くなったために,遅延後,記
憶が再構成される段階で,カテゴリに一致した記憶情報の再
構成が行われやすくなったと考えられる.もし,ポジティブ
気分において,カテゴリ情報とカテゴリ一致情報のリンクが
強いために,記憶が再構成されやすくなるのであれば,記憶
再認に関しても類似した結果が得られると考えられる.そこ
で,本研究では,遅延後の虚再認データを用いて気分がカテ
ゴリ情報処理に及ぼす効果を分析する.
方
各々10 項目から構成されていた.各項目については,
“あった”
もしくは“なかった”で回答が求められた.
結果と考察
刺激ビデオで提示された職業カテゴリ情報に一致する項目
について,再認テストの中で“なかった”と回答するのが正当
である項目数のうち,“あった”と誤って回答された項目数の
占める割合を虚再認率とした.虚再認率について角変換を行っ
た上で,気分(3)×時期(2)の2要因分散分析を行った.その
結果,時期の主効果が認められ(F(1, 78)=20.86, p<.001),実
験直後よりも遅延後で,虚再認率が高かった.なお,気分の主
効果(F(2, 78)=1.69, ns.),及び気分×時期の交互作用(F(2,
78)=.05, ns.)はいずれも認められなかった.
本研究では,ポジティブ気分において,カテゴリ情報とカテ
ゴリ一致情報のリンクが強くなるため,遅延後,記憶が再構成
されやすくなると予測した.しかし,気分×時期の交互作用が
認められなかったため,そのような予測を支持する結果は得ら
れなかった.虚再認率について,ポジティブ気分による明確な
影響が認められなかった原因として以下の2点が考えられる.
まず,実験直後条件,遅延後条件において,全体的に非常に虚
再認率が低く,完全に回答できる実験参加者が多かったことが
あげられる.この点については,刺激ビデオの中で提示される
項目数を増加させ,さらなる検討を試みる必要がある.第二に,
再生と再認では,そもそも想起プロセスが異なるため(Stangor
& McMillian, 1992),再生結果と再認結果で類似した結果が得ら
れなかった可能性も考えられる.つまり,項目が提示されて質
問されたのであれば,正しい回答を識別することは可能である
が,手がかりが乏しい状況から記憶の再構成を試みた場合に,
入力時の気分の影響が生じやすかったのかもしれない.これら
の点については,刺激ビデオに含まれる項目数を考慮した上で,
さらに検討する必要がある.
法
デザイン 気分(3; ポジティブ,ニュートラル,ネガティ
ブ:個人間要因)×時期(2; 実験直後,遅延後:個人間要因)
の2要因実験計画である.
実験参加者 大学生 84 名
手続き 実験参加者に音楽を聴きながら,楽しかった(or
悲しかった)出来事を思い出して書くように指示し,ポジティ
ブ気分,もしくはネガティブ気分を導入した.なお,ニュー
トラル気分条件では,刺激対象として与えた電化製品の特徴
を記述させた.その後,印象形成の実験に入ることを伝え,
A という人物のビデオを見せた.ビデオは,A が最近の出来
事について語るものであった.A の発言内容は,予備実験の
結果に基づき,教示で示した職業カテゴリ(イベントコンパ
ニオン or 理学部の助手)に一致する 10 項目と一致しない 10
項目を順序を変えた2種類のリスト上で提示した.3日後に
記憶再認テストを実施した.再認テストは,イベントコンパ
ニオン(or 助手)の特徴に一致する,もしくは一致しない項目,
26.96
(20.40)
3 0 .0 0
2 5 .0 0
虚
再
認
率
2 0 .0 0
9.40
(15.82)
1 0 .0 0
5 .0 0
遅延後
20.62
(17.41)
18.55
(21.74)
1 5 .0 0
実験直後
5.69
(11.31)
1.90
(7.10)
0 .0 0
ポジティブ
ニュートラル
ネガティブ
Figure1 各条件別の虚再認率
(Noda Masayo)
Fly UP