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グアテマラ子どもの健康プロジェクト
Healthy Children for
Healthy Family
Issue No.4 April 2007
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先住民の民族衣装「ウイピル」の由来
ここケツアルテナンゴ県には24 の市があり、そのうち先住民の割合
が住民の 80%以上を占める 12 市は、主に北部の山岳地帯である。ウイピ
ルと呼ばれる民族衣装は地域ごとに色や柄が違い、頭にも紐として巻く地域
もある。自分で刺繍をする人もいるが、店で買う人も多く非常に高いものも
ある。准看護師など公務員である多くの保健スタッフの月給は 27000円く
らいであるが、我々の事務所で働くアシスタントが着ている上下のウイピル
は 39000 円もしたという。隣の県では、男性の民族衣装を見ることもある
が、ここケツアルテナンゴ県では女性だけが着用し、小さな女の子や赤ちゃ
んの民族衣装姿はとても可愛い。
グァテマラには 22 のマヤ語があり、その地域ごとに違うウイピルは 織物
や衣装はそれを着ている人が、誰なのか、どこから来たのか、結婚している
のか、社会的な身分、スカートの色合いと長さによって、どの部落に住んで
いるのか、未婚か、既婚者か、あるいは未亡人なのか、また部落においてど
のような重要な地位にあるのかを知ることができる と、グァテマラの本に書かれてある。
スペインがアメリカ大陸にやってき征服、植民地化した時、マヤ先住民は彼らの歴史や神話、宗教を忘
れさせようとする圧力を受けた。彼らは征服者が築いた社会の中で抑圧されたまま生きることに納得できず、
逃亡する者が絶えなかった。そこでスペイン人は、それぞれの領地特有の衣装を創作し自分の領土の先住民、
逃亡者を識別するため利用したという。伝統衣装はこのような悲しい歴史を経ながらも、今でも日常に使われ
ている。現在では既製品には新しいデザインや素材もあるが、着物の帯のようにウエストをきつく締めた伝統
的スタイルは、体にぴったりしたジーンズと共に若い女性のファッションでもあり美しい。
2007 年に実施したトレーニング:
乳幼児健診トレーニング
県保健事務所の看護課長の提案で、昨年プロジェクト地で実施した乳幼児健診のトレーニングを
県全体の正看護婦対象に実施した。18市のうち16市から24人、県保健事務所から6人が参加した。ト
レーニング終了と同時に他のスタッフへのトレーニングのために、4市の看護婦達が資料教材を持ち帰り早
速スタッフへの伝達トレーニングを行い、乳幼児健診の部屋も準備し、検診を開始している。また、プロジ
ェクト地で使っている病気の子供の状態を評価するフォームを使い始めた地域もある。
セルフケアとリーダーシップトレーニング
「来月、森川ひかりさんのトレーニングがあります」というと、スタッフ達の顔がパッと明るくな
り、「森川医師もやってきますよ」と言うと、みんなの顔が緊張した。
森川ひかり専門家による第2回目のトレーニングは、去年のコミュニケーション技術の継続で、患
者家族へのケアとともにスタッフ自身のケアへと広がった。自分のストレスを軽減して他の人との良いコ
ミュニケーションを図るセルフケアは重要なテーマであった。今回、最も興味を示したのはカウンターパ
ートの心理療法士カルメンだった。今にも踊りだしそうなまさに「カルメン」といった感じのすそにフレ
ヤのいっぱいついた真っ赤かなドレスをきて、「自分のことをケアすることは非常に大切!」と強調する。
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グアテマラ子どもの健康プロジェクト
しかし、保健スタッフ達はどのように実施すべきか理解できていない人が多く、フォローアップのときに
問題として出てきた。
カルメンによるフォローアップ:カホラ地区では初めてのセルフケアの集まりを協力隊の波多野桃
隊員の送別会にしたという。「これまで全員集まって送別会をしたことはなかったのでとても良かった」
と言い、第2回目は「モモ(栄養の波多野桃隊員)を想う会にする」と、2回ともモモへの気持ちでいっ
ぱいという感じで、カウンターパートの地域保健担当のジュリッサが話し続けていた。
県看護責任者のアリシアによるフォローアップ:カンテル地域では、3 月末に第一回目のセルフケ
アを実施したが、参加者は 4 人だけで麻疹と風疹についての話し合いをしたという。報告後アリシアがな
ぜ 4 人だけだったのかと質問すると、医師が「麻疹と風疹」と言うテーマが適切でなかったと指摘した。
突然セルフケアの集まりを担当した准看護婦のアルマが泣き出した。「医師がこの集まりをする時間をく
れなかったからうまくできなかった」という気持ちになったからだという。リーダーシップのトレーニン
グの直後、 セルフケアが難しくて理解できなかった と言いながらも、最初のセルフケアの集まりの担
当を自分からかって出たアルマだった。
翌日、フォローアップ担当者であるカルメン、アリシアと話し合い、グループでセルフケアをする
方法をみんなにわかってもらうために例を出しながら説明すること、担当者を正看護婦がサポートして実
施していく、医師たちが理解しサポートしてもらうようにすることを話し合った。
リーダーシップ・トレーニングは、自分の学び方の傾向をチェックすることによって、どのような
タイプのリーダーであるかのチェックをして盛り上がった。結果は、県保健事務所で働く各課の責任者達
には理論的な「融合型」の人が多く、地域の保健スタッフ達の多くは行動を起こそうとするよりはまず観
察をしようとする「拡大展開型」にはいっていた。問題解決の決断をする「処理実行型」には県保健事務
所長や保健センターの医師など少数で、実践から学ぶ「即実行型」は最も少なくカホラ地域のジュリッサ
とカンテルのアルマと私たち日本人 3 人だった。リーダーシップは、各自の学びの長所を生かし、不足し
ている学びの技術を伸ばしていくことが私たちの課題である。セルフケアがグループの中で理解され実施
できるようになってから、このリーダーシップのフォローアップを開始する予定である。
診療技術のフォローアップ・トレーニング:
6人のボランティア医師たち
昨年第一回トレーニングで保健スタッフ達に強い印象を与えた森川医師が、大学の研修医6人を連
れて(1 週間ずつ 2 グループに分かれて)戻ってきた。6 人のうち 4 人はスペイン語が話せ、各地域での
トレーニングは傷の縫合、呼吸器感染、皮膚病、やけど、お産を分担してスペイン語で行われた。今回は、
各保健施設で准看護師の診療を観察しながらの臨床指導が行われた。保健スタッフ達は緊張していたもの
の「非常に勉強になった」と喜んでいた。保健ポスト(准看護婦が 1 人だけの施設)では、アメリカ人の
医師が来ているという話を聞いた患者が一人また一人と増え、普段 1 日 10 人程度の患者数が午前中で
40 人以上にもなった。一方、あまり仕事をしない態度の悪いことで定評のスタッフのいる所を担当した
アメリカ人医師は、今後のやり方として、「私の時間をむだにした。あのようなスタッフはトレーニング
からはずし、やる気のある人だけを対象にすべきだ」と主張したが、他のアメリカ人医師他、パブリック
の保健施設なのだから住民全員へのサービス向上のためにも、そのような方法はふさわしくないという意
見をぶつけ、盛んな議論となった。
今回の臨床指導のおかげで、昨年森川医師によって作成された「三角形の病気の子供の評価方法」
による診療とそのフォームが各施設で使われていたことが明らかになった。また、「限られた薬や設備の
中で多くの保健ポストのスタッフ達がよい診療を行っている」と評価され、これはプロジェクトにとって
は大きな希望となった。しかし、同時にプロジェクトだけでなく各地域の弱点として悩みの種であった保
健センター(医師と正看護師、数人の准看護師、その他の保健スタッフが常勤)のキャパシティのなさが
問題として指摘された。その結果、一番北部に位置し、保健ポストの多いカブリカンとウイタン地区をパ
イロット地域として保健センター強化の活動を行う計画が出てきた。本来ならば、状態の悪い患者の場合
は、その地域の保健センターに送り医師によって治療されることが期待される。しかし、医師は不在であ
ることが多く、保健センターも保健ポストも同じ薬しか常備していないため、昨年は病院に直接送るシス
テムを作った。送った 5 歳以下の子供 65 人のうち 43%が病院に行き、57%は行かなかった。
農器具の切断で指がほとんどちぎれかかった男性がやってきた。前日に保健ポストの准看護師に病
院にいくように勧められ数時間かけて行ったところ、救急外来で「待て」と言われ続け、結局何の処置も
受けられないまま一晩放置され帰宅した。運よく、森川医師とアメリカ人外科医が手当てをして、翌週再
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グアテマラ子どもの健康プロジェクト
チェックしたときには感染もなく順調に経過していた。一方、カホラの保健センターではちょうど極度の
栄養不良の 1 歳 3 ヶ月の子供が初めてやってきた。体は腫れ、皮膚は傷み、腹部はしわがたくさん出来て
いた。森川医師はすぐに病院に送るよう勧めた。2 日後、祖母が子供を病院に連れて行ったが、病院では
「もう状態が悪くて死亡するので家につれて帰るように。先住民はこれだから・・・」と言われ、何の治
療も受けず帰宅し、2 日後に子共は死亡した。病院での悪い経験は住民からよく聞いている。「作り話を
よくする」と病院の医師たちは言うが、こういう例を実際見ると、そのようには思えない。
今年になって、グァテマラ国内 3 箇所に母子保健センターが開設されることが決まった。カブリカ
ン市がそのうちの一箇所に選ばれ、母子センターが建設される予定で現在の保健センターがそこに統合さ
れることになった。今後は、アメリカの大学との協力で、この母子保健センターを中心にスタッフの強化
トレーニング、患者のリファー(適切な施設への紹介)の改善を行っていくことを計画している。
麻疹と風疹の撲滅予防注射キャンペーン:
昨年 9 月に予防注射キャンペーンが予定されたため、他の活動は一切できないといわれ、プロジェ
クトの短期専門家によるトレーニングを 2 月に延期せざるを得なくなった。ところが、8 月になると今度
はそれが今年の 2 月に延期になり、またもやプロジェクトのトレーニングに影響することとなった。9 月
にできなくなった理由は、グァテマラの病院の物品が不足していた為、6 月から病院の医師がストをしてい
た。このような予算不足のために病院の診療にも影響しているときに予防注射どころではないという反対が
あり、延期になったそうである。しかもこのストは 12 月まで 6 ヶ月間続き、その間病院の外来は閉鎖さ
れ救急外来でのみ患者の診療が行われていた。
予防注射キャンペーンは結局再度 4 月に変更され、1 月からトレーニングや準備が始まり、4 月
14 日やっと 1 ヵ月半の予防注射が開始された。9 歳から 39 歳までの人が対象で、学校や教会など人の
集まるところから始め、個々の家を歩き回っているが、住民の反応は大変なものであった。パレスチナ地
域の最も僻地になる谷底のような村の家々を歩き回った。ここはエバンヘリコ(プロテスタント)の中の
強固なグループが多く、閉鎖的なところである。どこの家でも簡単には予防接種を受け入れず、一人を説
得するのに 1 時間もかけたほどだった。理由としてあげたのが、「神がするなといった」、「受けると病
気になる」、「子供が嫌がる」、「注射が痛くて仕事ができなくなる」、というものから、「保健ポスト
に行った時、薬をくれなかったから協力しない」という理由まで様々だった。栄養不良の子共を診察して
いると、「予防注射を受けるな!」と深い霧の闇の中から、叫び続ける人がいた。カホラ地域では石を投
げる人や、「キリストを信じない人たちが(保健スタッフ)予防注射を持ってくる」と言って強硬な行動
で、反対を訴えた。県の中心地に最も近いカンテル地域では、「痛いから」と拒否するのは若者達で、接
種の後病気になるので子供には受けたくないと学校までわざわざ報告にやってくる母親もいた。しかし、
ほとんどの人は協力的で、5 年前に比べると人々が予防注射を受け入れるようになったと、保健スタッフ
達はいう。
隊員のよもやま話 第4回: マヤ文明の伝統サウナ「テマスカル」
私が住んでいる地域は、標高が 2,500∼2,600m と高いため、
グアテマラの中でも寒い地域に属し、12 月∼1 月の寒い時期の
朝には霜が降ります。この地域の昔からの風習に『テマスカル』
というものがあります。写真をみて、どのように利用するものか
想像してみてください。先住民の家には必ず1つあり、欠かせな
いものだそうです。
実はこれ、日本で言う『蒸し風呂またはサウナ』にあた
ります。各家庭にあり、写真のようにブロックで出来たものや、
土の壁で出来たものなど形状は様々です。入り口は小さく、人が
一人しゃがんで入れる位の大きさで、中も大人が二人座れる位の
広さがあります。さて使い方ですが、最初にテマスカルの中で炭
を起こしたり、お湯を沸かすためのまきを燃やします。40―50 分たつと、テマスカルの温度が上がり、
薪を燃やした時の煙も少なくなり、テマスカルが使えるようになります。中には、お水とお湯を鍋や桶に
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グアテマラ子どもの健康プロジェクト
入れて使える状態にして置き、みんな裸でテマスカルの中に入っていきます。そして、寒さが入ってこな
いように、入り口を毛布や木で覆います。
このテマスカル、実際の温度を測ってはいませんが、入り口に入っただけでもけっこう「ムッ」と
熱かったので、中はサウナの様に熱いと予想できます。しかも中の炭は燃えており、入り口を閉めると密
封状態に近くなり、一酸化炭素中毒?になりそうですが、地元の人は 30 分位平気で入り、長い人だと 1
時間もテマスカルに入っているそうです。寒い地域ならではの体を温めながら体を洗う方法です。もちろ
ん、このテマスカルを利用するのは大人だけではありません。写真は、伝統産婆が生後 3 日目の赤ちゃん
をテマスカルに入れている様子です。日本では、生後間もない赤ちゃんは沐浴するのが一般的ですが、こ
の地域ではてテマスカルを使い、長い時間は入れないと言っていました。
看護婦隊員 三浦亜紀
テマスカルについて:
2004 年のプロジェクト事前調査の時には、この伝統サウナについても調査をした。その結果、
死産や産後すぐに赤ちゃんが死亡したケースでは、一酸化炭素中毒で何回もサウナの中で倒れたという母
親や、吐き気や頭痛などの症状のあった人が少なくなかったことがわかった。山岳地帯の寒い地域で、サ
ウナは清潔や保温の為に、非常に重要な生活習慣である。しかし、時代と共にこのテマスカルの作り方が
変わってきた。土作りだったサウナが、今ではブロックやコンクリート作りの丈夫で美しいものを作るよ
うになったため、薪を燃やした後にいつまでも煙が充満し一酸化中毒になりやすい。多くの人はこの煙に
慣れているようだが、妊婦、胎児は酸素不足で死産と関連があるのではという疑問を私は持っている。サ
ウナに入っているときに死亡した人もあり、1 ヶ月前にも男性が死亡した事を聞いた。
2004 年、私は協力隊員と一緒に実態調査を行い、サウナの中の温度を調べた。煙がなくなるの
を待ち、入っても良いと言われて入った。火の近くは水がお湯になり裸でも温かいが、端の方は温度が上
昇せず火から少し離れると寒いため、20 分くらいサウナの温度を測っているうちに意識が遠のいた。そ
の家の人がやってきて声を掛けているのはわかったが、二人とも気を失ってしまった。運よく 1 時間後に
目が覚め、私たちをベットに運ぶのが大変だったと皆が話していたが、私の腕は 1 ヶ月以上しびれて感覚
がなかった(倒れた重い私を運ぶためにしっかり腕をつかんだ結果、圧迫されたのが原因)。
プロジェクトの事前調査結果をノーベル平和賞を受賞したリゴベルタ・メンチュウ氏に報告する機
会があった。しかし、テマスカルの調査結果になると「伝統サウナは神聖なもので、マヤ民族の精神だ、
問題点などとんでもない」と、怒って彼女は部屋を出て行き、そのまま戻ってこなかった。
工藤芙美子
協力隊員 3 人の帰国
2005 年から 1 年 10 ヶ月、現地での任期を終えて栄養
士の波多野桃隊員、助産師の保母涼子隊員、小児看護師の黒山真
弓隊員の 3 人が 4 月初めに帰国した。更に 7 月と 11 月には残
る 2 人も帰国予定で、にぎやかさを運んできた隊員達が次々いな
くなってちょっと寂しいが、4 月末に 1 人、7 月末には 3 人が
新しく赴任予定で、どんな人が来るのか期待と不安もある。
また、算数教育、土壌の分野で 2 人の協力隊員、更にシニアのボ
ランティアも 2 人赴任し、ここケツアルテナンゴ県は日本人が多
くなり、特に今まで女性だけだったが、男性の方が多くなった。
波多野隊員は保健センターや地域での栄養教育と料理実施、栄養
不良児の家庭訪問と高カロリーおかゆ作り指導、保母助産婦隊員は妊産婦への保健教育、黒山看護婦は子
供ボランティアへのトレーニングなどが独自の活動であったが、みんな共通して乳幼児健診、五つの基礎
ケア、予防注射、その他の活動を行っていた。活動を決めるまで悩んだ期間、保健スタッフとのトラブル
や反対に支えられたこと、村人から貰った元気など、様々な経験をこれからの糧として、新しい職場で活
かして欲しい。
(左写真)村で住民とピザを作る栄養士の波多野桃隊員
編集後記 今回写真が 4 枚と多く、メールで送れるかどうか心配しています。もし送れなければ減らします。
グアテマラ子どもの健康プロジェクトニュースレター第 4 号
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グアテマラ子どもの健康プロジェクト
発行日 2007 年4月 30 日
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それぞれに
編集人 工藤芙美子 三浦亜紀
連絡先 [email protected]
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発行人 工藤芙美子 チーフアドバイザー
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