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電光掲示板における情報提示のためのスクロール最適速度について

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電光掲示板における情報提示のためのスクロール最適速度について
東京大学工学部建築学科
2005 年度卒業論文梗概集
電光掲示板における情報提示のためのスクロール最適速度について
40068
1.研究の背景と目的
人が公共建築物を安全で快適に利用するためには、サインの判
小川
基世
3.2.2 提示画像
実験で用いる提示画像の条件は以下の通りである。
読が利用者の負担となってその行動を制限することがないよう、
・空間
:高さ=3.8m・幅=7m・奥行き=25m
読みやすいサインを使用する必要がある。この条件が満たされな
・電光掲示板:床からの距離=2.8m
高さ=0.6m
ければ多くの人の混乱を招き事故につながる恐れもあるため、こ
れまでにも公共建築物の中でのサインの配置計画やサイン自体の
・障害物
視認性についての研究が行われてきた。しかし、これらの研究で
3.2.3 提示文字
扱われてきたものの多くは静止文字のサインであり、スクロール
電光掲示板上に提示する文字は、無意味なひらがなとした。
文字のサインに関する研究はまだ少ない。
特に、近年ではLEDの開発とともに駅や空港・道路などで電
:直径=0.4m・高さ=1.8m
これは、予測による正答や被験者間の経験の差をできる限り少
なくすること、本研究が内容理解については扱わないことによ
光掲示板が多用され、スクロール文字も活用されているが、その
る。なお、文字の並べ方については、聴覚検査の表を用いた。
反面、これに関する研究はまだ充分でなく、現時点では基準も存
3.2.4 評価方法
正答率と主観評価で評価する。正答率は判読可能かどうかの
在していない。
本研究では、公共建築物の中で電光掲示板のスクロール文字に
より情報を得る際に、最も安全かつ快適に読み取れるスクロール
指標として、主観評価は不快感の指標として用いる。主観評価
項目およびその尺度については表2の通りである。
速度を求めることを目的とする。
なお、本研究で「最適速度」とは、①短時間で情報を取得でき
ること、②注意力が分散している状況下でも正確な情報が取得で
表1 主観評価尺度
評価対象
項目
スクロール速度
主観速度
速い⇔遅い
速度評価
読みやすい⇔読みにくい
きること、の両方を最も満足させる速度とする。
2.予備調査
表示文字数
JRの電光掲示板の製造元の会社によると、現在、電光掲示
板には基準がないということであった。そこで、実際に使用さ
尺度(7 段階)
主観文字数
文字数評価
障害物
れている電光掲示板のスクロール速度や表示文字数がどうなっ
読みやすい⇔読みにくい
障害物意識度
気になる⇔気にならない
障害物回避度
ているのか、実験に先駆けて調査した。調査対象は、東京都内
4.実験結果と分析
の各駅・各鉄道会社で用いられている電光掲示板とした。
4.1 分散分析
調査の結果、スクロール速度は 100∼300 文字/min・表示文字数
多い⇔少ない
よけやすい⇔よけにくい
分散分析によるF値を表2に示す。
は 8∼24 文字、と設置場所や会社によって大きな差があることが
表2 分散分析
主観文字数
文字数評価
意識度
回避度
362.82
68.11
27.22
57.1
3.13
5.52
表示文字数
6.16
35
2.73
66.53
2.66
0.65
1.35
障害物
4.39
6.41
0.36
0.03
1.15
速度*文字数
3.16
2.91
5.9
1.16
2.88
0.89
0.51
1.3
4.29
1.9
1.55
0.28
0.78
1.09
4.81
3.62
1.02
3732.1
63.34
15.59
6.72
12.3
1.4
1.91
3.実験概要
主観速度
158.59
正答率
速度評価
わかった。また、スクロール速度と表示文字数には相関がなかった。
3.1 実験方法
日本人学生 24 人に対して実験を行った。被験者は立体画像を
スクロール速度
映したスクリーンの前に立たせ、コントローラーを使って画像
の中を一定速度でウォークスルーさせた。提示画像は駅の構内
三
を模した通路状の空間であり、天井から電光掲示板を吊り下げ
次
た。また、人を模した円柱を障害物として配置した。被験者に
元
速度*障害
はウォークスルーしながら電光掲示板に提示されたスクロール
文字数*障害
文字を読みあげさせ、その正答率や主観評価によってスクロー
二
提示時間
3.2 実験条件
次
障害物
3.44
2.29
0.28
0.03
0.71
3.2.1 変動要因
元
時間*障害
0.74
0.82
4.93
0.79
0.23
ル速度および表示文字数を評価した。
本実験に対する変動要因および水準派は以下の3つである。
・スクロール速度:100, 150, 200, 250, 300 文字/min
「提示時間」はスクロール速度と表示文字数から計算した、1
文字あたりの提示時間である。5%検定により有意差が認められ
・表示文字数
:8, 16, 24 文字
るものは下線、1%検定により有意差が認められるものは外枠で
・障害物(円柱)
:有(0.1 本/㎡), 無
表示している。
指導教官 平手 小太郎 助教授
4.2 結果
③文字数評価
4.2.1 主観評価の傾向
全被験者の平均値を評価する。
①主観速度評価
7
スクロール速度が速くなると、被験者もスクロール速度が速く
②主観文字数評価
表示文字数が多くなると、被験者も表示文字数が多くなったと
文字数評価
い方が被験者はスクロール速度を速いと感じる傾向にある。
8文字
24文字
5
4
3
感じる。同じ表示文字数の場合、スクロール速度が速い方が被験
2
者は表示文字数を多いと感じる傾向にある。
1
0
③障害物評価
16文字
6
なったと感じる。同じスクロール速度の場合、表示文字数が少な
50
スクロール速度が速くなると、被験者は障害物を強く意識しよ
けにくいと感じる傾向がある。
100
150
200
250
スクロール速度(文字/min)
300
350
図3 スクロール速度と文字数評価
4.2.2 最適速度の検討
全体として、スクロール速度が特に速くなると、文字数評価の値
①正答率
も小さくなっているが、どの速度でもそれほど強い不快感を持って
全被験者の正答率の 20 パーセンタイル値を評価する。
はいない。
4.2.3 最適速度
図1∼3の結果に対する近似曲線を求め、そこから正答率「90%」
100
以上、読みやすさ「3」以上となる範囲を調べ表3に示す。
80
正答率(%)
表3 スクロール最適速度
60
障害物有・8文字
障害物有・16文字
障害物有・24文字
障害物無・8文字
障害物無・16文字
障害物無・24文字
40
20
0
50
100
8 文字
16 文字
24 文字
<217
<211
<267
<239
<220
<267
速度評価
<245
<260
<293
文字数評価
<255
<280
<295
正答率
0
150
200
250
300
350
スクロール速度(文字/min)
図1 スクロール速度と正答率
単位:文字/min
<245
<260
上段は障害物有り、下段は障害物無しのときをあらわす。
スクロール速度が速くなるほど、正答率は下がっている。しかし、
表3では、最も厳しい条件について網掛け表示している。
その下がり方は表示文字数により違う。また、障害物の有無によ
前述したように、
「最適速度」とは以上のような正答率・読みやす
っても正答率に差は出るが、これは表示文字数が少ないもので顕
さの確保とともに短時間で情報取得が可能であるという条件も満た
著であり、表示文字数が多いものでは影響はほとんど出ていない。 さねばならない。よって、最適速度は実験によって求められた速度
②速度評価
の範囲のうち、最も速い速度であるということができる。したがっ
全被験者の平均値を評価する。
て、最適速度は表3の太字の値である。
5.おわりに
7
障害物有・8文字
障害物無・8文字
読みやすさ
6
障害物有・16文字
障害物無・16文字
今回、実験によって求められたスクロール最適速度は、現在実際
障害物有・24文字
障害物無・24文字
に用いられているスクロール速度の中では速い方であった。本実験
5
では1文字 1 文字の正確な読み上げという、実際の状況よりも厳し
4
い要求をしていることを考えると、実際に使用されているスクロー
3
ル速度はかなり遅い値であるということができる。これは正確に情
2
報を取得するという観点からは、利用者にやさしい値であるといえ
るが、同時に、すべての情報を提示し終えるのに時間がかかり、利
1
0
50
100
150
200
250
スクロール速度(文字/min)
300
350
用者の苛立ちや電光掲示板の前での立ち止まり行為を促進させてし
まうということもできる。また、今回の実験では被験者を日本人学
図2 スクロール速度と速度評価
表示文字数が 16 文字で障害物がない場合を除いて、速度が特に
生に限定していることから、最適速度としては速めの値が求められ
たと考えられる。一方、電光掲示板を実際に利用する人の年齢層な
速いと速度評価の値が急激に小さくなる。また、速度評価が最高
どは実に幅広い。利用者一般に対して最適なスクロール速度を実現
になるスクロール速度は条件によりさまざまである。
するには、検証しなければならない事項がまだまだありそうである。
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