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(2008 年 10 月 12 日) 1.

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(2008 年 10 月 12 日) 1.
第 78 回世銀・IMF合同開発委員会における日本国ステートメント
(2008 年 10 月 12 日)
1.現下の世界経済情勢への対応
今年は 2015 年までのミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向けての中間年に
当たります。乳幼児死亡率や栄養不良の問題等、大きく立ち遅れてしまっている課
題がいまだ多く残されている反面、世界的な貧困人口の削減等、着実に成果を挙げ
てきている分野も、又、少なくありません。しかしながら、現在、我々が直面して
いる食料価格やエネルギー価格の高騰、更にはサブプライムローン問題に端を発す
る世界的な金融市場の混乱は、途上国の財政・金融政策両面で経済の舵取りを非常
に困難にするのみならず、これらの外的ショックに対して最も脆弱な貧困層の生活
に容赦ない打撃を与え、これまで途上国が長年にわたって営々と築き上げてきた開
発の成果を一挙に葬り去ってしまうおそれがあります。この世界経済を覆う不安を
払拭し、貧困削減に向けた歩みを確実なものとし、
「人間の安全保障」を実現してい
く必要があります。そのための我々の決意が、今、試されていると言えます。
特に、ここに来て予想外の広がりを見せている金融市場の混乱は、今後、途上国
経済に甚大な影響を与えるおそれがあります。途上国への民間資金の流れは、2001
年には 1500 億ドル程度であったものが、2007 年には 1 兆ドルを超えるまでに増加
し、途上国の成長を牽引してきました。今後は、反対に、世界的な信用収縮により、
途上国への民間資金の流入が細り、経済成長を支えるインフラ投資や将来を担う人
材育成に不可欠な教育、保健への投資のための資金が不足し、更には貧困層の生活
を底支えするセーフティネットを整備するための資金手当てがつかなくなるおそれ
があります。また、金融市場の混乱が実体経済に波及し、世界経済の成長が大幅に
鈍化するようなことになれば、途上国の輸出減少、成長鈍化、失業増大へとつなが
り、これまでの経済発展に向けての努力を台無しにしてしまいかねません。
世銀に対しては、このような途上国への悪影響を最小限に抑えるべく、これまで
民間資金が主役となってきた途上国への資金の流れを、どのように世銀や地域開銀
が代替していくことができるか、また萎縮する民間資金に対して世銀グループとし
てどのような触媒機能を果たせるか、例えば MIGA の保証をもっと弾力的に活用す
ることはできないのか、IFC の民間資金に対するレバレッジを増加させる方法はな
いかなどについて、既存の枠組みにとらわれず、様々な案を積極的かつ創造的に検
討することを期待します。また、現地通貨建ての債券市場育成の支援など、途上国
の国内資金を開発に有効活用するための支援にも力を入れていくべきです。
幸い、IBRD の財務体質は極めて良好で、100 億ドルにも上る余剰資本を有してお
ります。世銀は、世界が直面しているこの困難な局面を乗り切るため、この資本を
最大限活用すべきです。我が国は、世銀の資本を有効活用すべきとのゼーリック総
裁の提言を歓迎します。今後想定される様々な資金ニーズに対応するため、IBRD 融
資の運用を柔軟化して、IDA オンリー国に対しても IBRD 融資への途を開くことを
真剣に検討すべきです。財政管理能力が高く、債務持続可能性が高い国が、開発効
果の高い案件を実施する場合に、IBRD 融資へのアクセスを認めることは、現下の経
済情勢下で世銀に期待されている役割を果たすことにもつながると考えます。その
際、債務の持続可能性に与える影響についての十分な検討が必要であることは言う
までもなく、特に、ポスト MDRI 国については、IMF とも緊密に連携をとりつつ、
慎重な検証が求められます。
2.新 JICA の発足と世界銀行との連携強化
このように途上国を取り巻く状況が厳しさを増しつつある中、この 10 月 1 日、新
生 JICA が誕生しました。新 JICA は、我が国の有するリソースを最大限に活かし、
より質の高い援助を提供するため、JICA と旧 JBIC の海外経済協力部門を統合した
ものであり、これにより技術協力・無償資金協力・有償資金協力の3つの援助モダ
リティを有する世界有数の二国間援助機関が生まれたことになります。大規模なイ
ンフラ整備の支援から、コミュニティに根ざした草の根レベルの協力まで、途上国
の多様なニーズに合わせ、より的確かつスピーディーな協力を進めていくことがで
きるようになりました。
途上国への資金の流れが縮小する可能性がある現在、新 JICA を含む全ての開発機
関は、限られた資金で最大限の開発効果が得られるよう、お互いの比較優位を活か
し、より一層密接に連携・協力すべきです。世銀に対しては、開発のために必要な
資金の動員のほか、その援助のプラットフォームとして機能、世銀自身及び各国の
成功事例・知見を集約し、発信するノレッジバンクとしての役割をより一層強化し、
国際社会の援助が、効果的かつ効率的に行われ、最大の成果を挙げることに貢献す
ることが求められます。
新 JICA には、世界に向けて発信できる多数の成功事例や知見が蓄積されておりま
す。我が国は、世銀と新 JICA が、お互いの成功事例や知見を取り入れあい、密接に
連携・協力することで、より効果的かつ効率的な援助を実現し、着実に成果を挙げ
ることを期待します。
既に、今年の TICADⅣでは、MDGs 達成の鍵を握るアフリカ開発において、教育、
保健からインフラ整備に至るまで幅広い分野で良好な協力関係を築くことができま
した。今後、TICADⅣで設置したフォローアップメカニズムを最大限に活用し、世
銀との協力案件を着実に実施していく考えです。
また、TICADⅣの成果を、ゼーリック世銀総裁及びストロス・カーン IMF 専務理
事にも参加頂いた 7 月の G8 北海道洞爺湖サミットにおいて首脳間の議論に反映し、
保健、水・衛生、教育といった諸課題や食料価格高騰問題について、国際社会の取
組みの方向性を示すことができたと考えています。G8 サミットにおいては、気候変
動についても、2050 年までに世界全体の排出量の少なくとも 50%の削減を達成する
目標というビジョンを共有し、採択することを求めることで合意しました。
これらの会議の成果も踏まえ、我が国は、喫緊の課題である食料問題及び気候変
動問題への取組みにおいて、より一層、世銀との協力関係を強化していきたいと考
えております。
3.農業生産性向上に向けた支援
まずは途上国での農業の生産性向上に向けての支援です。
食料価格は、ピーク時よりは下落しつつあるものの、依然として高止まりを続け
ており、引き続き途上国の貧困層に多大な影響を与えることが予想されます。
短期的な対応としては、世銀の食料危機対応プログラム(GFRP)などにより食
料価格高騰の影響を最も大きく受ける貧困層を救済するためのセーフティネットを
強化することが重要であり、我が国は世銀の取組を強く支持します。
他方、食料価格高騰の背景には、バイオ燃料の増産や原油価格高騰に加え、人口
増による需要の増大に供給が十分追いついていないことや、目覚しい発展を遂げる
新興国における食生活の変化などの構造的要因があることから、その根本的な解決
のためには、中長期的な視点に立ち、農業の生産性を向上させていくことが不可欠
です。また、途上国の貧困層の 4 人に 3 人が農村部に居住し、そのほとんどが生計
を農業に依存していることを踏まえれば、貧困層に配慮した成長の実現には、農業
の生産性向上を含む農業の改革は欠かせません。農業の改革は、水、土地・気候に
適した優良な品種、肥料、それらを活用する人及び組織、さらには、農産物を収穫
した農民のマーケットアクセスなどの要素が揃わなければ、成功しません。我が国
は、農業生産性向上を含む農業の改革に向けて、世銀の取組の一層の強化を求めま
す。
我が国の新 JICA には、農業、特に、米に関する分野において、数多くの日本の知
見と経験を活かしたアプローチによる実績が蓄積されております。それを踏まえ、
本年 5 月の TICADⅣでは、
「アフリカ稲作振興のための共同体」(CARD:Coalition for
African Rice Development)等を通じ、様々な国や機関と協力してアジアに引き続き
アフリカでも「緑の革命」を実現するため、今後 10 年間でアフリカでのコメ生産を
倍増させることを目標に掲げております。我が国は、世銀と新 JICA のそれぞれの比
較優位を活かし、TICADⅣ以来の世銀との連携をさらに強固なものとし、農業の生
産性向上に確実につなげていくための支援を行います。
具体的には、まず、今後世界がますます温暖化していく中で、アフリカをはじめ
とする途上国の厳しい自然環境及び将来の気候変動に対応できる、高温かつ少雨量
に耐えられるイネの品種の開発を CGIAR を通じて支援します。また、アフリカ農業
の大きな課題である肥料の使用についても、世銀を通じ、その拡大に向けて支援し
ます。さらに、せっかく新たな種子や肥料を用意しても、それが実際に生産を担う
農家に普及しなければ具体的な成果にはつながりません。コメ生産倍増の目標達成
のためには、アフリカでの農業発展の大きな障害となっている農業研究者や有能な
技術普及員の不足を解消することが重要です。我が国は、世銀と協力しつつ、CGIAR
の機能も活用して、各国の農業技術面での各レベルでの人材育成を支援します。
また、アフリカ各国での稲作強化に向けての主体的な取組を促進するため、国別
もしくは地域別に、需給関係やマーケットアクセスの状況、生産性向上の上でボト
ルネックになっている課題の割り出しなどを行う稲作アセスメントを実施し、国別
の稲作開発計画の策定へとつなげる取組を支援いたします。
さらに、アセスメントにおいて得られた情報なども活用しつつ、世銀や JICA が灌
漑事業を行っているような有望な箇所をいくつか選定し、種子、肥料、人材など我
が国が支援する要素を包括的に組み合わせたパイロット・プロジェクトの実施を支
援します。その際、コミュニティ・レベルの活動に着目して、農民の市場アクセス
向上、農民の組織化などのための支援などの個別の支援を有機的に結びつけること
により、着実にボトルネックを取り除き、農業生産性の向上、耕地面積の拡大、農
村における一人当たり所得の向上などの成果に結び付けていきます。更に、こうし
た成果の実証研究を通じ、成功要因を特定し、他地域への普及を図ることにも力点
をおきます。
このようなアフリカ農業の包括的支援のため、我が国は、世銀の信託基金を通じ、
今後 5 年間で、100 百万ドルの支援を実施する考えです。
4.気候変動・防災の取組の強化
気候変動は、国際社会の喫緊の課題であり、開発分野においても重要な課題です。
我が国は、UNFCCC の下での取組に加え、バイ・マルチ双方の取組を活用して気
候変動分野での途上国支援を実施しています。本年1月、我が国は「クールアース
推進構想」を提唱し、その中で排出削減と経済成長を両立しようとする途上国と「ク
ールアース・パートナーシップ」を構築し、100 億ドル規模の支援を行うことを発
表しました。現在までに約 60 カ国との間で「パートナーシップ」を構築し、北海道
洞爺湖サミットの際にインドネシアとの間でプレッジされた総額約 3 億ドルの気候
変動対策プログラム・ローンをはじめとして、我が国は緩和策・適応策等の分野で
途上国の支援を進めています。
低炭素社会への移行や気候変動に対する適応を行いつつ、経済成長を目指す途上
国を支援することは、貧困削減などの世銀の開発機関としての使命を果たす上でも、
極めて重要です。その取組みの指針となる気候変動戦略枠組みの策定を歓迎いたし
ます。本枠組みの下、今後の世銀グループの活動において、気候変動対策が主流化
されること、先進国・途上国が協調して取り組む基礎がより強固となることを期待
いたします。
本枠組みにおいて、重要な役割を担う気候投資基金(CIF)が設立され、我が国か
らの最大 12 億ドルの拠出も含め、全体で 61 億ドルもの資金が集まったことを歓迎
いたします。今後は、この資金が、気候変動への国際社会の取組において重要な役
割を果たし、多様な途上国のニーズに応えつつ、低炭素技術の普及を通じた温室効
果ガス削減、適応に関する経験や知識・教訓の蓄積、及び、その共有などの目に見
える成果を挙げていくことを期待します。また、気候投資基金には、民間資金の呼
び水として機能することも強く期待します。気候変動対策に必要な資金は膨大であ
り、政府などの公的機関による資金のみならず、民間資金を低炭素経済実現のため
の投資に導くことが不可欠だからです。
また、近年、大規模な災害が頻発していますが、今後、気候変動の影響などによ
り、災害リスクの更なる増大が懸念されています。1970 年から 2007 年までの平均
で、毎年、全世界で約 1 億 6 千万人が被災し、約 9 万 5 千人の命が奪われ、約 367
億ドル以上の被害額が発生しており、最近 10 年間では、発生件数、被災者数ともに、
1970 年代に比べて約 3 倍に増加しています。大規模な災害は、武力紛争や内戦と同
じように、それまで積み上げてきた開発の努力や成果を一瞬にして奪い、弱者に甚
大な被害を与え、国家を脆弱なものにします。防災は、気候変動への適応という面
からだけでなく、脆弱国支援、最も貧困かつ脆弱な層の保護の観点からも極めて重
要であり、持続可能な発展及び貧困削減にとっても大きな課題となっています。我
が国は、台風・地震・洪水と多くの災害を経験しており、世界に提供できる知見や
教訓を多く蓄積しています。我が国は、新 JICA と世銀が実施する途上国の主要都市
における気候変動の影響に係る研究等、世銀との連携を推し進めており、今後蓄積
された知見を広く共有し、最大限世界のために活用いたします。
我が国が学んだ教訓のひとつは、災害による被害は、防災設備の整備や住民の防
災意識の向上等、人の力によって減らすことができるということです。災害の多い
国にとって、防災への投資は、合理的な投資です。我が国は、2005 年に神戸にて開
催された国連防災世界会議において、世界の 168 カ国により合意された兵庫行動枠
組に則り、前述の研究等を通じて主要都市等が災害に見舞われた場合の社会経済的
損失額の評価を実施することにより、防災への投資の経済的合理性を明らかにする
ことを支援いたします。また、ハザードマップの作成、防災関連プロジェクトの案
件形成などを通じ、貧困削減戦略などに防災の観点を盛り込み、防災を主流化する
ことを支援いたします。
このため、我が国は、世銀の信託基金を通じ、今後 5 年間で、50 百万ドルの支援
を実施していく考えです。
5.ボイスと参加
開発機関である世銀においては、開発途上国の意見が政策やプロジェクトに適切
に反映されることが重要です。これまでの世銀理事会における様々な議論を経て、
当開発委員会に、途上国の発言権を拡大する基礎票の倍増などを含む包括的パッケ
ージが提示されたことを歓迎いたします。我が国は、このパッケージは様々な関係
者の要請に配慮したバランスのとれた現実的なものであると考えており、これを速
やかに実施に移していくことが大事であると考えます。今後の第 2 段階の議論にお
いては、世銀が、引き続き貧困削減等の開発金融機関としての使命を果たしていく
ために、如何にしてより多くの国から IDA 貢献等の世銀への貢献を引き出していく
かという視点をも踏まえながら、我が国としても積極的に議論に参加していく考え
です。
(以上)
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