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Providence and the Multiplicity of Its Literary Use( Abstract_要旨 )

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Providence and the Multiplicity of Its Literary Use( Abstract_要旨 )
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Hawthorne's Dual Narratives in His Four Romances:
Providence and the Multiplicity of Its Literary Use(
Abstract_要旨 )
Nakanishi, Kayoko
Kyoto University (京都大学)
2010-11-24
http://hdl.handle.net/2433/131897
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
none
Kyoto University
京都大学
博士
(人間・環境学)
氏名
中西
佳世子
Hawthorne's Dual Narratives in His Four Romances: Providence
論文題目
and the Multiplicity of Its Literary Use
(ホーソーンの 4 つのロマンスにおける二重のナラティヴ
―プ
ロヴィデンスとその文学的機能の多様性―)
(論 文 内 容 の 要 旨 )
ホーソーンは初期の作品から晩年の未完作品にいたるまでプロヴィデンス
という言葉と概念を頻繁に用いており、プロヴィデンスはホーソーン作品に
通底するテーマといえる。しかし、ホーソーンのプロヴィデンスを作品のテ
ーマと技法の双方から総括的に論じた研究は未だほとんどなされていない。
本論文は、プロヴィデンスの政治的・文化的言説に注目することにより、作
家 が 創 作 し た 4 つ の 長 編 作 品 に お け る 二 重 の ナ ラ テ ィ ヴ 構 造 を 分 析 し 、ま た 、
この技法が作家のプロヴィデンスに基づく芸術観や人生観と深く結びついて
いることを論証している。
本論文では、メインプロットとは別の表面下のプロットを持つナラティヴ
を「 二 重 の ナ ラ テ ィ ヴ 」と 定 義 し 、4 つ の 長 編 に 共 通 す る ① 序 文 に お け る 予 告 、
②プロヴィデンスの概念を用いた物語の枠組み、③二重のナラティヴと曖昧
性( ambiguity)と い う 技 法 を 考 察 し て い る 。序 章 で は ま ず「 人 間 に と っ て の
偶 然 は 神 に と っ て の 目 的 」( “Man’s accidents are God’s purposes”) と い う
作家のプロヴィデンスに基づく信条に言及し、プロヴィデンスの歴史的背景
を概観している。また、続く各章では、作品の枠組みとして用いられている
プロヴィデンスの属性、プロヴィデンスによって解釈される出来事、そこで
提 示 さ れ る テ ー マ と 19 世 紀 ア メ リ カ 社 会 の プ ロ ヴ ィ デ ン ス 言 説 と の 関 連 性 、
に着目して考察を行なっている。
本論文の各章の構成は、まず第 1 章において短編集を作家の長編創作のた
めの実験と読みとって考察した上、第 2 章から第 5 章において創作年代順に
作家の4つの長編すなわちロマンスを考察することにより、それらの技法が
ど の よ う に 発 展 完 成 さ れ て い る か を 論 証 し て い る 。具 体 的 に は 、第 1 章 で は 、
短編集『旧牧師館の苔』を扱い、序章「旧牧師館」とその他の収録作品との
間に構築されている有機的な関連を考察し、それが後のロマンスにおける長
編 創 作 の 手 法 の 実 験 で あ る こ と を 論 証 し て い る 。第 2 章 は 17 世 紀 の 清 教 徒 の
共同体を背景にした『緋文字』を扱い、この物語で曖昧性を生み出すプロヴ
ィデンスの属性が物語の枠組みの構築に用いられていることを考察してい
る。そして序章「税関」で提示される曖昧性のメカニズムが本体の物語で清
教徒達によって繰り返される一方、表面下のプロットでは、この清教徒達の
見方を変化させていくへスターの戦略が展開される二重の構造が存在するこ
と を 明 ら か に し 、そ こ に 19 世 紀 中 葉 特 有 の 、ま た ホ ー ソ ー ン の 作 家 と し て の
自意識といったテーマが提示されていることを論証している。第 3 章はセイ
レムの旧家の歴史を描く『七破風の家』を扱い、そこでは歴史の支配者とい
うプロヴィデンスの属性によって物語の枠組みが構築されていることを考察
している。そして物語の「呪いの成就」と「呪いの解体」という、相反する
流 れ が 二 重 構 造 を 形 成 し 、 19 世 紀 の 政 治 言 説 の ア ン チ テ ー ゼ を 提 示 し て い る
ことを論証する。第4章は、作家のユートピア共同体への参加体験を基にし
た『ブライズデイル・ロマンス』を扱っている。ここでは、まず葡萄酒を熟
成する酒の神が自然を司るプロヴィデンスの属性を体現し、劇場の劇を采配
する演劇の神が地上を監視する目としてのプロヴィデンスの属性を体現して
いることを説明している。そして表面下のプロットでアイロニカルなバッカ
スの役割を担う語り手にそれらの属性が人格化されていることを考察し、こ
の二重の構造によって、メインプロットで提示される社会改革運動批判、作
家の実体験記録、禁酒法批判、ホーソーンの作家としての自意識という複数
のテーマが統合されていることを論証している。第 5 章では作家のヨーロッ
パ体験を基に創作された『大理石の牧神』を扱っている。ここでは、プロヴ
ィデンスと深く関わる宗教的思想である「幸運な堕落」が物語の枠組みに用
いられ、二通りの「幸運な堕落」を巡る二重のナラティヴが構築されている
ことを明らかにする。そしてその表面下のプロットで描かれる二人のアメリ
カ 人 に 対 す る 痛 烈 な ア イ ロ ニ ー に よ っ て 、作 家 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ の 危 機 と 、
南北戦争を目前にしたアメリカへの失望が提示されていることを論証してい
る。
結論では、ホーソーンの 4 つのロマンスにおける手法とテーマをもう一度
概観し、ホーソーンのプロヴィデンスが、創作の技法とテーマに深く関わる
概念であり、作家の宗教観、人生観、芸術観と作品を有機的に統合する重要
な概念であることを総括している。
(
続紙 2 )
(論文審査の結果の要旨)
本 論 文 は 、1 9 世 紀 中 葉 に 創 作 し た ア メ リ カ 人 作 家 ナ サ ニ エ ル・ホ ー ソ ー ン
の 4 つ の 作 品 を 分 析 の 対 象 と し て い る 。特 に 、プ ロ ヴ ィ デ ン ス と い う 概 念 を 政
治 的・文 化 的 に 用 い た 表 現 に 注 目 し て 、作 品 に お け る 二 重 の ナ ラ テ ィ ヴ 構 造 を
明 ら か に す る こ と を 試 み て い る 。そ も そ も プ ロ ヴ ィ デ ン ス(「 神 意 」)は 、ホ ー
ソ ー ン が そ の 作 家 経 歴 の 全 域 に わ た っ て 愛 用 し た 語 で あ り 、南 北 戦 争 前 の ア メ
リ カ 政 治 の 場 で 活 用 さ れ た キ ー ワ ー ド で あ る に も か か わ ら ず 、こ れ ま で の ホ ー
ソ ー ン 研 究 に お い て は 、彼 の 文 学 に お け る プ ロ ヴ ィ デ ン ス の 意 味 を 体 系 的 に 論
じ た も の が ほ と ん ど 見 当 た ら な い 。そ う し た 点 を 考 慮 す る と き 、本 論 文 の 独 創
性は高く評価されるべきものと考えられる。
本 論 文 の 序 章 で は 、ま ず「 人 間 に と っ て の 偶 然 は 神 に と っ て の 目 的 」
( “Man’s
accidents are God’s purposes”) と い う 作 家 の 信 条 が 述 べ ら れ た 経 緯 が 明 ら か
に さ れ 、プ ロ ヴ ィ デ ン ス の 歴 史 的 背 景 を 概 観 し て い る 。様 々 な 資 料 が 活 用 さ れ 、
そ の 上 で こ れ ま で の 研 究 に 欠 け て い た 点 を 指 摘 し て お り 、本 論 文 の 着 眼 点 の 重
要さを強調している。
第 1 章 で は 、短 編 集『 旧 牧 師 館 の 苔 』が 分 析 と 対 象 と な る が 、特 に 序 章「 旧
牧 師 館 」と そ の 他 の 収 録 作 品 と の 間 に 構 築 さ れ て い る 有 機 的 な 関 連 を 明 ら か に
した上で、その関連が後の長編の手法の実験と見なされることを論証してい
る 。第 2 章 は『 緋 文 字 』を 扱 う 。こ の 物 語 の 解 釈 に お い て は 、曖 昧 性( ambiguity)
が し ば し ば 問 題 と さ れ る が 、こ の 章 で は 、そ の 曖 昧 性 こ そ プ ロ ヴ ィ デ ン ス の 属
性 が 生 み 出 す も の で あ る こ と を 明 ら か に し て い る 。『 緋 文 字 』 に は 「 税 関 」 と
い う 長 い 序 章 が 付 さ れ て い る が 、こ の「 税 関 」に お い て 提 示 さ れ る 曖 昧 性 の メ
カニズムが本体の物語において清教徒達によって繰り返されていることが指
摘 さ れ て い る 。ま た 一 方 、表 面 下 の プ ロ ッ ト に お い て は 、へ ス タ ー の 戦 略 に よ
っ て 清 教 徒 達 の 見 方 が 変 化 さ せ ら れ て い く 。『 緋 文 字 』 に は こ の よ う な 二 重 の
構 造 が 存 在 す る こ と が 明 ら か に さ れ 、ま た そ の よ う な 二 重 構 造 の 中 に ホ ー ソ ー
ンの作家としての自意識というテーマが提示されていることが論証されてい
る。
第 3 章 で は『 七 破 風 の 家 』が 扱 わ れ て い る 。セ イ レ ム の 旧 家 の 二 世 紀 に わ た
る歴史を描くこの作品では、プロヴィデンスが歴史の支配者という属性を持
ち 、こ れ に よ っ て 物 語 の 枠 組 み が 構 築 さ れ て い る 、と 論 じ て い る 。物 語 の 中 に
は「 呪 い の 成 就 」と「 呪 い の 解 体 」と い う 相 反 す る 流 れ が 存 在 し 、作 品 の 二 重
構 造 を 形 成 し て い る だ け で な く 、ホ ー ソ ー ン の 時 代 の 政 治 言 説 の ア ン チ テ ー ゼ
を 提 示 し て い る こ と が 論 証 さ れ て い る 。第 4 章 は『 ブ ラ イ ズ デ イ ル・ロ マ ン ス 』
を 扱 っ て い る 。作 家 ホ ー ソ ー ン 自 身 が ブ ル ッ ク・フ ァ ー ム と い う ユ ー ト ピ ア 共
同 体 へ 実 際 に 参 加 し 、挫 折 し た 体 験 を 基 に 書 か れ た こ の 作 品 は 、作 家 の 社 会 意
識 や 、後 世 の 作 家 た ち に 影 響 を 与 え た 視 点 の 技 法 な ど の 点 か ら 、こ れ ま で 様 々
に 論 じ ら れ て き た 。本 論 文 で は プ ロ ヴ ィ デ ン ス と い う 独 自 の 観 点 か ら 、従 来 に
な い 指 摘 を 行 な っ て い る 。す な わ ち 、ま ず 葡 萄 酒 を 熟 成 す る 酒 の 神 が 自 然 を 司
る プ ロ ヴ ィ デ ン ス の 属 性 を 体 現 し て い る こ と 、ま た 劇 場 の 劇 を 采 配 す る 演 劇 の
神 こ そ プ ロ ヴ ィ デ ン ス の 属 性 で あ り 、こ の 属 性 が 地 上 を 監 視 す る 目 を 体 現 し て
い る こ と を 明 ら か に す る 。一 方 、表 面 下 の プ ロ ッ ト で は 、プ ロ ヴ ィ デ ン ス の 属
性 が バ ッ カ ス の ア イ ロ ニ カ ル な 役 割 を 担 う 語 り 手 に 人 格 化 さ れ て い る 、と 指 摘
す る 。さ ら に は 、こ の 二 重 の 構 造 に よ っ て 、メ イ ン プ ロ ッ ト で 提 示 さ れ る 複 数
のテーマが統合されていることを論証する。ワインと蒸留酒の比喩によって、
社 会 改 革 に は 熟 成 が 決 め 手 と ホ ー ソ ー ン が み な し て い た 論 じ る 部 分 は 、十 分 な
説得力を持つ。
本 論 の 最 終 章 を な す 第 5 章 で は 、『 大 理 石 の 牧 神 』 が 分 析 の 対 象 と さ れ る 。
こ の 作 品 は 、ホ ー ソ ー ン が 作 家 と し て の 後 期 に 行 な っ た 数 年 に わ た る ヨ ー ロ ッ
パ 体 験 を も と に 創 作 さ れ た も の で あ り 、そ の 完 成 度 に 対 す る 疑 問 や 、ロ マ ン ス
と い う ジ ャ ン ル に 収 ま り き ら な い 要 素 の 解 釈 な ど 、批 評 家 た ち を 困 惑 さ せ て き
た 問 題 作 で あ る 。こ の 作 品 で は 、プ ロ ヴ ィ デ ン ス と 深 く 関 わ る 宗 教 的 思 想 で あ
る「 幸 運 な 堕 落 」が 物 語 の 枠 組 み に 用 い ら れ て い る が 、本 論 文 は 、作 品 に 二 通
り の「 幸 運 な 堕 落 」を 巡 る 二 重 の ナ ラ テ ィ ヴ が 構 築 さ れ て い る こ と を 明 ら か に
し 、作 品 に 対 す る 統 一 的 な 解 釈 を 試 み て い る 。作 品 の 表 面 下 の プ ロ ッ ト に お い
て 二 人 の ア メ リ カ 人 が 痛 烈 な ア イ ロ ニ ー に さ ら さ れ て い る と こ ろ に 、作 家 ホ ー
ソ ー ン 自 身 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ の 危 機 と 、南 北 戦 争 に 突 入 し て い く ア メ リ カ へ
の 失 望 が 提 示 さ れ て い る 、と 論 じ て い る 。南 北 戦 争 前 の ア メ リ カ に お け る 政 治
的 言 説 と ホ ー ソ ー ン 文 学 と の 関 わ り を 論 じ る 部 分 、と り わ け 民 主 主 義 と 人 間 の
「 心 」(the heart)と の 関 連 を 論 じ る 部 分 、ピ ュ ー リ タ ニ ズ ム を 奉 じ る ア メ リ カ
人 の 偏 狭 な 独 善 性 を 、カ ト リ シ ズ ム を 奉 じ る イ タ リ ア 人 と の 対 照 を 通 し て 指 摘
する部分、などは説得力に富む有益な知見である。
ホ ー ソ ー ン の 作 家 経 歴 の 全 域 を 見 る と き 、ま た 南 北 戦 争 前 の ア メ リ カ の 政 治
情勢を考えると、プロヴィデンスという語の重要性は無視できない。そして、
こ の 重 要 な プ ロ ヴ ィ デ ン ス と い う 概 念 を 通 し て 、『 緋 文 字 』 を は じ め と す る こ
の作家の主要な4つの長編における曖昧性の構造、意味と緊密に関わり合い、
作 品 中 に 二 重 の 物 語 を 作 り 上 げ て い る こ と 、ま た そ う し た 二 重 性 を 巧 み に 操 り
な が ら も 、 作 家 自 身 は 「 人 間 に と っ て の 偶 然 は 神 に と っ て の 目 的 」( Man’s
accidents are God’s purposes.) と い う 信 念 を 踏 み 外 し て い な い こ と 、 を 本 論
文 が 丁 寧 に 論 証 し て い る こ と は 、高 く 評 価 し う る 。ま た 、西 部 開 拓 と 拡 大 主 義
に 踊 っ た 時 代 の 政 治 的 言 説 を 踏 ま え 、ホ ー ソ ー ン 文 学 の 曖 昧 性 の 構 造 と 意 味 に
光 を 当 て た 本 論 文 は 、十 分 な オ リ ジ ナ リ テ ィ ー を 備 え て お り 、4 つ の 長 編 の そ
れぞれに新たな読みの可能性を提案している。
章 に よ っ て は 必 ず し も 論 旨 が 明 快 に 展 開 さ れ て い な い 箇 所 も あ り 、や や 不 満
が 残 る が 、論 文 全 体 と し て は 統 一 的 な ま と ま り を 示 し て お り 、二 重 の ナ ラ テ ィ
ヴ 構 造 と い う 概 念 を 導 入 さ せ る こ と に よ っ て 、従 来 ホ ー ソ ー ン 文 学 の 特 質 と さ
れ て き た 曖 昧 性 に 新 た な 考 察 を 加 え た 点 は 、申 請 者 の 今 後 の 研 究 を 十 分 期 待 さ
せるものである。
以 上 の よ う に 、本 学 位 論 文 は 、人 間 と そ の 社 会 を 環 境 と の 関 わ り に 沿 っ て
解明することを目指した人間・環境学研究科の理念に適ったものと言える。
よ っ て 、本 論 文 は 、博 士( 人 間 ・ 環 境 学 )の 学 位 論 文 と し て 価 値 あ る も の と
認 め る 。 ま た 、 平 成 2 2 年 8 月 1 2 日 ( 木 )、 論 文 内 容 と そ れ に 関 連 し た 事 項
について試問を行なった結果、合格と認めた。
Web で の 即 日 公 開 を 希 望 し な い 場 合 は 、 以 下 に 公 表 可 能 と す る 日 付 を 記 入 す る こ
と。
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