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低体温症の予防と対処

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低体温症の予防と対処
低体温症の予防と対処
日本山岳協会、大阪府山岳連盟
2010/11/13 大阪科学技術センター
北大山とスキーの会 苫小牧東病院副院長 船木上総
「トムラウシにおける
低体温症について」の復習
(2010/2/27 神戸市 王子動物園ホール)
熱の喪失  
 
 
 
RES-Q Products Inc.
Robert Douwens
風 対流
水(濡れ) 蒸発
低温 放射 接触物 伝導 熱の産生
Lehmann 労働生理学者 ドイツ
熱産生<熱喪失⇒低体温症
寒冷にさらされ、 体温(コア温度)が
35℃以下になった状態
低体温症の予防
低体温症の原因である
3つの不足
 
 
 
防寒不足
食物不足(運動時の燃料)
水分補給不足
低体温症の予防
①衣類 こまめな着脱、着替え、雨具
②水分 温かい飲料、意識的に摂取
③栄養 炭水化物、蛋白質
④ビバーク あるいは 勇気ある撤退
⑤低体温症の早期発見
歩行緩慢、無関心、記憶低下、震え、眠気
⑥加温 ホカロン、くっつく
① 衣類
重ね着をする (レイヤード)
  よけいな汗をかかない。
  暑いと感じる前にはだけておく。
  寒いと感じる前に、服をきちんと着る。
  上の衣服は下の衣服より大きいこと。
アウター 防水性 透湿性
中間着 保温性 透湿性
アンダー 吸水性 速乾性
 
ゴアテックス
生還者の衣類
 
 
H 一日目から嘔吐、二日目食欲不振があ
り、体調が悪かったが、ダウンを着ていた。
ガイドC 北沼渡渉中に転倒し、全身ずぶぬ
れになり、前トム平下方のハイマツの中に
転倒し、21時間意識を失っていたが、ソフ
トシェルを着ていた。ガイドBも着ていたが
なくなったガイドAは着ていなかった。
ソフトシェル
冬のアクティビティにおすすめ
豪雨や突風に耐えるタフなハードシェルジャケットに対し、しなやかで体の動きに追従する運動
性能と、透湿性に優れる「ソフトシェルジャケット」。耐風性、耐水性に優れているので冬のアウト
ドアスポーツで人気のカテゴリーのウェアです。柔らかくてしなやかな着心地は身体の動きを妨
げず、一度着たら手放せない着心地の良さがあります。
1hr降雨後の衣類の重量変化
g
 
12.6%
19.7%
雨量 5mm/hr 気温 10∼15℃ 風速 4∼7m/s
2010/6/23
低体温症の予防⇒検証登山
日時:2010/7/2∼4
コース:旭岳∼トムラウシ山
メンバー:5人 3人は60代、他50代、40代1人ずつ
40代を除いて登山歴あり
測定項目:各ポイントで鼓膜温度、心拍数、主
観的疲労強度をチェックした。
荷物:15∼18Kg。
宿泊: 1泊目 白雲小屋前で雪上テント泊
2泊目:ヒサゴ沼避難小屋で小屋泊
検証登山 一日目 旭岳→白雲
気温11.5∼21℃ 風速0∼5m
(二日目以降はこれよりも気温は高く、風も弱かった)
ミミッピ
検温時間:1秒
  表示範囲:32∼42℃
  使用条件:5∼35℃
  温度精度:℃
32 36 37 39 41 42
±0.3 0.2 0.1 0.2 0.3
 
登山者の鼓膜温度
平均
33.3度
栄養
検証登山での総蛋白 の 変化
総タンパク質は全員低下しており、山行中のタンパク質の補給が課題である。
正常範囲は6.7∼8.3なので、すべてが低値である。 (7.1→6.2 登山前後で
有意差あり:P<0.01)
低体温症の早期発見
-警告サイン【発見しやすい症状】
  歩くのが遅くなり、みんなに遅れる。
  岩場を歩くのが困難になる。
  ゆっくりと間延びしたしゃべり方。
  ブツブツ言う。不平をもらす。
【発見しにくい症状】
  寒気がして不快である。
  精神的にも反応が遅くなる。
  非協力的になる。
  震えたり、とまったり。
低体温症の処置
-実際に起きた山岳事故から-
軽症 35∼34℃
 
よろめき歩行
判断力低下
無関心状態
傾眠
口ごもり
 
低体温症の特徴は、疲労感!
 
 
 
 
安静にしているわずか0.6度だけ低体温症の方は、常温の人が歩
いている程度の酸素を消費している。つまり、疲労しやすい。
低体温時の酸素消費量(l/min)
Pugh LGCE:Cold stress and musclar exercise.Brit Med J 1967;2:333-7
中等症 33∼32℃
運動失調
  転倒
  精神的に不活発に
  逆行性健忘
直前の事も思い出せない
  意識混濁
  呼吸数、心拍数の低下
 
重症 32℃以下
 
 
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 
 
 
 
歩けず、立てない
震えが止まる
錯乱状態、目が見えなくなる(1時間で死)
不整脈
寒さに無関心、非協力的
皮膚冷却
アセトン臭、失禁
中等度と重症の比較(32℃境界)
 
 
 
 
冷たい皮膚
  冷たい皮膚
とめる事ができない激   ふるえがない
しいふるえ
  意識が低下
意識はある
口ごもり、呼びかけや
正常のvital sign
痛み刺激への反応な
い
  Vital sign 低下
(PR↓RR↓)
危険サイン
 
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 
 
 
 
 
震えがとまる。
ゆっくりとした痙攣のような動き。
転倒する。
虚脱。
意識消失。
失禁。
呼吸がゆっくりとなり、徐脈に。
注意点
 
 
 
症状は決まった順序で出現しない。
もし、急速に熱を喪失している場合は、いく
つかの症状を飛び越える。
症状に気がつくがやいなや、回復されねば
ならない。
温度と症状
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 
36℃ 基礎代謝率の増加
35℃ 最大の震え 判断力の低下
34℃ 健忘 構音障害
軽症
33℃ 運動失調 意識の低下
32℃ ふるえ消失 重症
31℃ 血圧測定不能
30℃ 心房細動 筋硬直
29℃ 瞳孔散大 心室細動
27℃以下深部反射の消失 死人様 心停止
低体温症の症状 現場では?
重症度
(℃)
体の動き
震 え
復温
心拍数
(/分)
軽症
無関心
32以上 健忘
ふらつき
転倒
最大
可能
正常
重症
32以下
錯乱⇒ 意
識消失 立てない
止まる
限界あり
80∼50
最重症
28以下
反応無し
寝たきり
無し
不可能
50以下
意 識
保温 断熱
 
 
 
避難 風と雨・雪と低温から避難
湿った衣類の処置
低体温ラップ
断熱パッド エマージェンシーブランケット
シュラフ 毛布
毛 フリース
化繊の下着 オーロン ポリプロピレン
コイカクシュサツナイ岳の遭難救助に協力
救助(現場処置)
 
 
 
 
先ず第一に 二次遭難を出さないこと。
低体温症は心筋梗塞と違って 本来の意
味での救急疾患ではない。したがって、
丁寧な扱いで救助をする時間は十分ある。
逆に、慌てた,乱暴な扱いはVfを引き起こし、
死の迫る、緊急状態となる。
正常心電図
心臓は規則正しく動いている
心室細動(Vf)
心臓は動いていない!
体を動かして暖めてもいい人
低体温症一歩手前の人。
  すこし震えているが、普通に動ける。
  ⇒運動で体を温めることができる。
  例:歩行する。スキーで小屋まで下りる。
キャンプサイトを設営する。
 
体を動かして暖めてはいけない人
 
 
 
明らかに低体温症で、激しく震えていて、と
める事ができない人。
厳しい環境から避難させ、適当な場所に移
す。
更なる体温低下を防止する処置がとられ
るべき。
処置
 
 
 
シェルターにはいるやいなや、大量の熱を
体表から奪う濡れた服を脱ぐこと。
軽症なら脱ぐのに協力してくれるが,それよ
り重症なら切り裂かないと駄目。
どちらのケースも,野外や病院への搬送の
ためには、体を包んだパッケージにくるま
ないといけない。
低体温症パッケージ
 
 
 
 
できるだけ多くの断熱材使用。
グランドマット、寝袋、断熱シート,防水シー
トからなる。防水シートは普通は雨から濡
れるのを防ぐため、一番外側にまく。
しかし、もし患者が濡れていて,かわかすこ
とができないなら、防水シートは断熱シート
の内側に巻く。
特に頭と頚部の保温を忘れずに。
治療の重要目標
 
 
 
 
コア温度の低下を止め,再加温する。心臓
に刺激を与えないこと。
酸素投与,電解質・代謝・水分の異常をで
きれば輸液で改善する。
軽症なのか、中等症異常なのかの判定を
おこなう。震え,運動障害,意識レベルから。
コア温度測定は助けにはなるが,必須では
ない。
軽症の低体温症の治療
 
 
 
 
 
シュラフにいれる。
震えは最も効率的な産熱方法。
震えのエネルギー源として、砂糖水が良い。
水かお湯かよりも、砂糖が含まれているか、
いないかの方が重要。もし、むせがあり飲
めなければ水分をあたえてはいけない。
アルコールや喫煙は禁止。
軽症の低体温症の加温
 
 
 
 
 
軽症の場合,熱の喪失が止まると、自然に
体温は上昇してくる。
医療機関に行けないか,30分以上かかる
なら、患者は再加温しなければならない。
体外加温の熱源があれば、熱の失いやす
い場所、脇や側胸部に当てると良い。
頭や頚部もいいが実用的ではない。
股は火傷しやすいので避けるべき。
体外加温熱源
 
 
 
お湯の入ったボトル⇒火傷ふせぐために
布で覆い,救助者の脇で熱すぎないかを確
認すべし。
体で直接くっ付く。
ホカロンは限界がある。手,足用の小さな
パックは、手足の凍傷予防にはよいが、体
外加温としては不十分。
治療 水分
 
 
 
中等度以上の低体温症は脱水で,かなり
の水分補給が必要となる。
できれば、生食とブドウ糖の42度の点滴。
水かお湯かよりも、砂糖が含まれているか、
いないかの方が重要。
重症の低体温症
生命徴候あり
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 
 
 
 
搬送はできる限り丁寧に、Vfを避ける。
四肢はこすってはいけない。
循環系の安定のために水平位で。
定時的な観察が必要。
危険から救出できたら,濡れた服は脱ぐの
ではなく、切り裂き,パッケージに入れて,近
くの病院に輸送。
再加温
呼吸,脈拍など生命反応があれば、胸部
脇に加温してよいが、以下の行為は禁止。
  再加温するまで、座位,立位は禁止。
  シャワーや入浴は突然死をひき起す。
  食物や飲み物を与えてはいけない。
  歩かせて再加温しようとしてはいけない。
 
アフタードロップ
 
 
どんな低体温症患者でも,寒さから避難さ
せても、コア温度は下がりつづける。
特に中等度以上の場合,はっきりとみとめ
られ、何時間も続く。
重症の低体温症
生命兆候なし
 
 
 
 
 
 
 
最大限注意深く扱われるべき。
1分間は呼吸と心拍の有無を調べるべき。
もし、呼吸がなければ3分間の口口換気。
さらに、1分間観察。呼吸なく、次の禁忌なければ
換気継続。
心拍が回復せず、3時間以内に病院にいけなけ
ればCPR開始する。
定時的な観察。
できるだけ早く、病院に搬送。
CPRを始めてはいけない場合
①1時間以上も水中にいた
②コア温度が10℃以下
③致命的な外傷
④凍りついた気道
⑤胸壁が硬く押しつぶせない
⑥救助者が疲弊又は、危険な状況にある
CPR
 
 
 
 
救助者の安全確保。
病院搬送を遅らせてはいけない。
もし輸送可能なら輸送車のなかで開始。
生命徴候があれば始めてはいけない。
CPRの回数
Mouth-to-mouth,bag-and-valve ventilation
は 通常の半分の回数。( 30:2 )
  低体温症の患者は必要とする酸素は少ない。ま
た二酸化炭素もわずかしか出さない。
  通常の回数で換気を行うと、血中の二酸化炭素
が少なくなり、Vfを引き起こす。
  冷却された心臓は拡張能力が低下しており、
ゆっくり心マすることにより、たくさんの血液が充
満することになる。
 
多施設研究
野外でのCPRのうち 9/27 生存。
  救急隊によるCPRの 6/14 生存。
  3時間40分∼6時間30分後に及ぶCPR後に
蘇生できた。
  担架搬送で一時的しかできなかったCPRも効果
があった。
  以上よりCPRは多くのスタッフで交代し、疲れない
ようにして、続けるべき。
 
CPRの中止
 
 
 
野外でCPRが一旦始まると、中止の判断は難し
い。
アラスカでは再加温しながらCPR30分してもダメ
なら、死と発表してよいといっている。
しかし、前スライドのデータから、長時間にわたる
CPRは、再加温しながら行うなら、決して非合理
的なことではない。
体温と脳酸素消費量
循環停止許容時間
%
分
℃
表 哲夫 旭赤医誌 9:30-38,1995 病院でのコア加温
 
 
 
 
 
 
加温、加湿した酸素の吸入
加温した輸液
体腔灌流 胃内・結腸への温水注入
胸腔・腹腔への温水注入
体外循環 PCPS経皮的心肺補助法
人工透析 人工心肺
本州の人に北海道の夏山について
ご注意もうしあげます ①
 
 
 
 
まず、北海道は寒いです。2000m級の山
でも、安心できません。
冬山に行くつもりで来てください。時には零
下の気温になります。
携帯電話の圏外が多く、セルフレスキュー
が必要になります。
道標も少なく、雪渓が多く、ガスになると、
夏道も見ず、方向を失いやすいです。
本州の人に北海道の夏山について
ご注意もうしあげます ②
 
 
 
 
 
小屋はほとんどが無人の避難小屋です。
従って、陣取りの考えをやめ、みんなで譲り合っ
て利用することが必要です。
着替えは下着上下と、フリースの中着上下ダウ
ン上を私は持っていき、検証登山ではすべてを
使用しました。
着替えはビニールにつつみ、雨が降っても濡れ
ないようにすることが必要です。ザックカバーだ
けの防水は完全ではありません。
北海道に限らず、1人で山に行かないでください。
北海道の山は夏でも
寒いです
よ!!
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