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北米通貨統合の実現可能性
大阪経大論集・第57巻第2号・2006年7月 97 北米通貨統合の実現可能性 福 本 幸 男 概要 本稿は Mundell (1961) の最適通貨圏の理論に基づき,アメリカとカナダのビジネスサイク ルの相関を検証することで北米通貨統合 (NAMU) の実現可能性を探ることを目的としている。 分析対象国として,1980年1月∼1998年12月の北米諸国(アメリカ,カナダ)と主要な欧州諸 国(ドイツ,フランス,イギリス)を用いる。欧州12カ国は1999年1月(ギリシャは2001年1 月)に欧州通貨統合 (EMU) を達成している。よって,欧州諸国間のビジネスサイクルの相関 をベンチマークとして北米諸国間の相関と比較する。 分析手法として,AS・AD(総供給・総需要)モデルに基づいて産出量と物価から供給ショ ックと需要ショックを識別する構造 VAR 分析を用いる。ただし,構造ショックの頑健性を確 かめるために,これまで多用されてきた Bayoumi (1992) の長期制約に基づく構造ショックの 識別手法(古典派アプローチ)だけでなく,同時点制約に基づく識別手法(ケインジアンアプ ローチ)も用いる。そして,識別された各国間の構造ショックの相関を検証する。 分析の結果,2つのアプローチ共に供給ショックが有意に正の相関を有していたのはアメリ カ−カナダ,ドイツ−フランスであり,2つのアプローチ共に需要ショックが有意に正の相関 を有していたのはアメリカ−カナダ,ドイツ−フランス,ドイツ−イギリスであった。ドイツ とフランスは既に Euro を導入している。ドイツ−フランスのビジネスサイクルの相関をベン チマークとして判断すると,アメリカ−カナダの相関はこの基準を満たしており,北米通貨統 合の実現可能性は決して低くないといえるだろう。 キーワード:最適(共通)通貨圏,ビジネスサイクル,構造 VAR,北米通貨統合(NAMU) 1.は じ め に 1994年1月1日にアメリカ,カナダおよびメキシコを構成国とする北米自由貿易協定 (North American Free Trade Agreement : NAFTA)が発効し,巨大な経済圏が誕生 * 本稿を執筆するにあたり,宮尾龍蔵先生(神戸大学教授)には草稿の段階から何度も御助言を頂き ました。それらは本稿に大いに反映されております。また,藤田誠一先生(神戸大学教授)からの 御指摘も大変有益でありました。そして,2005年4月16日の制度論研究会(大阪経済大学)では討 論者の地主敏樹先生(神戸大学教授)と林由子先生(大阪経済大学助教授),瀬岡吉彦先生(大阪 市立大学名誉教授)から,2005年10月8日∼9日の日本金融学会秋季大会(大阪大学)では討論者 の川崎健太郎先生(東洋大学講師),座長の宮越龍義先生(東北大学教授),岩壷健太郎先生(一橋 大学講師)から貴重なコメントを頂き,本稿を大幅に改善することができました。ここに記して感 謝いたします。ただし,本稿のあらゆる間違いは全て私個人の責任です。 98 大阪経大論集 第57巻第2号 した。NAFTA により,3カ国は域内で生産された財にかかる関税と非関税の障壁を15 年以内に除去,サービス貿易その他の分野での規制も広範囲で撤廃されて一体化した市場 を創出されることが期待される。同じ日に欧州でも欧州経済地域(European Economic Area : EEA)が発足した。NAFTA と EEA は世界経済の統合の潮流と言えるだろう。そ して,1999年1月に欧州通貨統合(European Monetary Union : EMU)が達成されたことを 反映して,近年,アメリカとカナダの通貨統合である北米通貨統合 (North American Monetary Union : NAMU) は多くの議論がなされている1)。 アメリカとカナダは経済的にも政治的にも結びつきが強いことはよく知られている。実 際,2003年のデータにおいて,カナダの輸出額はGDPの31.3%であり,その輸出額の 86.7%がアメリカ向けである。同様に,カナダの輸入額はGDPの30.3%であり,その輸 入額の60.6%がアメリカからである2)。ちなみに,ドイツ,フランス,イギリスの輸出額 はGDPの17.1∼31.0%であり,その輸出額に占めるEU諸国内向けの割合は56.3∼65.8 %である。同様に,輸入額はGDPの20.5∼24.9%であり,その輸入額に占めるEU諸国 内からの割合は54.2∼69.6%である3)。このことから,主要な欧州諸国と比較してもカナ ダは経済の開放度が非常に高く,また,アメリカとの貿易依存度が極めて高いことが読み 取れる。また,カナダは既にドル化しているとの指摘もある4)。 最も初期の北米通貨統合に関する先行研究は Mundell (1961) であるとの指摘もある5)。 1)本稿で用いる北米通貨統合は Buiter (1999) 等で議論されているようにアメリカとカナダの通貨統 合を意味している。Bayoumi and Eichengreen (1994b) 等の先行研究ではメキシコを含めた広い意 味での北米通貨統合を議論しているが,現在のところ,メキシコはアメリカとカナダの経済状況と 大きく異なるため,近い将来において実現は不可能であると思われる。具体的に述べると,アメリ カ,カナダとの為替レートを固定した状況下で,メキシコが今後経済成長していくとなると,バラ ッサ・サミュエルソン効果によりメキシコの非貿易財価格が上昇して国内のインフレが過熱するこ とが予想される。そのため,たとえメキシコのインフレ率がアメリカとカナダのそれとの相関が高 くてもインフレーションの水準は異なるだろう。よって,この3カ国が同一の金融政策を用いるな らば,メキシコがアメリカ,カナダの経済規模に追いつくまで慢性的にアメリカ,カナダはデフレ 傾向,メキシコはインフレ傾向が続くこととなる。このようなコストはあまりにも大きすぎる。故 に,本稿ではメキシコについては北米通貨統合の対象としないことにする。 2)アメリカの輸出額はGDPの6.6%であり,その輸出額の23.4%がカナダ向けである。同様に,ア メリカの輸入額はGDPの11.9%であり,その輸入額の17.4%がカナダからである。 3)ここで用いたデータの出所はIMFの Direction of Trade Statistics と International Financial Statistics である。 4)ただし,この指摘に対しては Murray and Powell (2003) 等の批判も存在することに留意する必要 がある。 5)Bayoumi and Eichengreen (1994b) の126ページを参照。ただし,Mundell (1961) には北米通貨統 合という言葉は登場しない。実際,Mundell (1961) は最適通貨圏の基準で照らすとアメリカとカ ナダはそれぞれ最適な通貨圏ではなく,北米大陸の東部と西部で別々の通貨圏を持ち東部と西部の 通貨間の為替レートを変動させる方が望ましいと述べているにすぎない。これを Bayoumi and Eichengreen (1994b) は両国がそれぞれ最適な通貨圏ではなく為替レートが調整手段としての役割 を果たしていないのであれば,アメリカとカナダが共通通貨を用いたところで新たなデメリットは 生じないと Mundell (1961) の議論を解釈している。 北米通貨統合の実現可能性 99 そして,これまでに多くの研究がなされており,たとえば,Alesina, Barro and Tenreyro (2002), Courchene and Harris (2000) 等は北米通貨統合が実現可能であると指摘している 一方で,Murray (2000) 等はまだ実現可能な経済条件が整っておらず,北米通貨統合の議 論は早急すぎると指摘している6)。 通貨統合の是非を経済的側面から議論する上で,Mundell (1961) が提唱した最適通貨 圏の理論を考慮することは重要であるだろう。Mundell (1961) は当該地域諸国間のビジ ネスサイクルが同調的であることが共通通貨圏を形成する重要な基準の1つであると述べ ている。仮にこの基準を満たしているならば共通通貨圏を形成することで生じる国内にお ける金融政策の自律性の放棄といったデメリットは小さいと判断できる。具体的には,ア メリカ,カナダの中央銀行が独自の金融政策を遂行できなくとも,両国間のビジネスサイ クルが同調的であれば共通の金融政策で経済の安定を達成できるということになるだろう。 この場合,共通通貨圏を形成することによるデメリットが小さいことから,メリットが上 回りやすくなると考えられる。メリットは,第一に自国通貨と外国通貨の交換に伴うコス トがなくなることであり,第二に将来における為替レートの不確実な動きによるリスクが なくなることである。具体的には,通貨交換といった取引コストがなくなるので貿易・資 本取引が活発となり,両国の消費者にとってより多様な財を需要できるといったメリット がある。また,為替レートの不確実性を気にする事なく相手国での現地生産といった直接 投資の決定を下すことが可能になるため,両国の企業にとってもメリットがあると考えら れる7)。このように,共通通貨を導入するコストはマクロ的要因であるのに対して,ベネ フィットは経済的効率といったミクロ的要因に基づいていることが知られている。 もちろん,当該地域諸国間のビジネスサイクルが同調的でなくても,換言すれば共通の 金融政策では当該地域諸国間の経済を同時に安定化できなくとも,必ずしも共通通貨圏を 形成する基準を満たしていないとは限らない8)。資本や労働といった生産要素の移動性が 高い場合や物価や賃金が伸縮的である場合ならば,調整スピードが高いので当該地域諸国 間のショックの非対称性から生じるインフレ過熱や失業者数の増加といった負担は短期間 ですむからである。これも Mundell (1961) の指摘によるものであり,最適通貨圏の基準 の1つとして知られている。しかし,資本や労働の移動性,物価や賃金の伸縮性を検証し た先行研究が存在するものの,多くの先進諸国において国際的な労働移動は高いとは言え 6)最適通貨圏と北米通貨統合に関するこれまでの議論をまとめた先行研究に Lafrance and St-Amant (1999) 等がある。 7)共通通貨を採用することで消滅する利潤機会もあるが限定されたものである。詳細は De Grauwe (2000) を参照。 8)ショックの調整に対して金融政策を用いることが出来なくても,財政政策を用いることが考えられ る。しかし,金融政策と財政政策では経済に与える効果は異なるので,ショックの種類によっては 財政政策で十分に対処できない(もしくは副作用を伴う)。 また,財政政策は発動するまでにも, 効果が表れるまでにも時間がかかるだろう。加えて,Euro 圏のマーストリヒト条約のように制度 的に当該地域諸国の財政政策に縛りを設けるケースもあるため,財政政策の余地は限られると思わ れる。 100 大阪経大論集 第57巻第2号 ず物価や賃金は硬直的であることが指摘されている。実際のところ,Buiter (1999) が指 摘するように資本や労働の移動性が為替レートの調整を代替するとは考えにくいため共通 通貨を導入するインセンティブになるとは思えない9)。他にも最適通貨圏の基準を議論し た代表的な研究に McKinnon (1963) がある。McKinnon (1963) は経済の開放度の高さに 着目している。当該地域諸国間において非対称な需要ショックが生じたとしても,経済の 開放度が高ければ,財の輸出入により需要ショックを吸収できるため,最適通貨圏の基準 を満たすというものであり,これに関する実証研究も存在する。ただし,非対称な供給シ ョックが生じる場合は経済の開放度が高くても調整されないため,この基準を満たしてい るだけでは当該地域諸国の政策立案者は共通通貨を採用するとは思えない。よって,当該 地域諸国間の供給ショックが同調的であるかを検証しないことには共通通貨圏を満たすか どうかを確認できないと考えられる10)。 よって,本稿はアメリカとカナダのビジネスサイクルの相関を検証することで北米通貨 統合の可能性を探ることにする。アメリカとカナダのそれぞれに発生するショックが対称 的,もしくはショックが共有されるならば,アメリカとカナダのビジネスサイクルは同調 的になるだろう。そして,これを満たすならば,資本や労働の移動性がなく,物価や賃金 が硬直的であることは共通通貨圏を形成するための小さな障壁にしかならないと考えられ ることから,この点に着目する方が重要であると思われる。また,共通通貨圏を達成する ことにより,資本と労働の移動性は高まることが予想されるため,共通通貨を採用する前 段階のデータに基づいてこれらを検証することはその実現可能性を過小に評価することに なりかねないだろう。 これまでにも当該地域諸国間で発生するショックの対称性を検証した実証研究は膨大に あり,大きく4つの分析手法に分類される11)。1つめは,当該地域諸国間の産出量の成長 率や物価の成長率といったファンダメンタルズ(経済の基礎的要因)の相関を検証する手 法である。これはシンプルな手法であり直感的にも理解しやすい。これを北米通貨統合の 検証に用いた先行研究に,Bayoumi and Eichengreen (1994b, 1994c) がある。Bayoumi and Eichengreen (1994b) はカナダを東西2地域,アメリカを8地域に分けており,1971年∼ 1986年の年次データを用いて検証した結果,アメリカ−カナダで産出量の成長率の相関は 高くないものの,物価の成長率の相関は高いと指摘している。一方,Bayoumi and Eichengreen (1994c) はカナダ,アメリカを地域ごとに分けず,1969年∼1989年の年次データを 用いて検証した結果,アメリカ−カナダにおける産出量の成長率の相関,物価の成長率の 9)Buiter (1999) は共通通貨圏のビジネスサイクルを同調させるような資本は金融資本でなく実物的 な資本であるため移動は困難であり,また労働も移動にコストがかかるため,ビジネスサイクルに 合わせて頻繁に移動することは考えにくいと指摘している。 10)Kenen (1969) は産業構造の多様性に着目している。仮に当該地域諸国の産業構造が多様化してい るならばショックを緩和できるためである。この基準に従うと先進主要国はGDPの規模も大きく 産業構造が多様化しているため共通通貨を導入しやすいかもしれない。 11)本稿では特に代表的な4つの分析手法を取り上げたが,他の分析手法もないわけではない。たとえ ば Lafrance and St-Amant (1999) の3.1節を参照されたい。 北米通貨統合の実現可能性 101 相関は共に高いと結論づけている。 ただし,この分析では,必ずしも当該地域諸国間で供給ショックや需要ショックが同調 しているかまでは判断できないだろう。たとえば,物価が上昇するにしても一方の国では 供給ショックによるものであり,もう一方の国では需要ショックによるものかもしれない からである。よって,両国のファンダメンタルズの相関がある程度高くてもショックが同 調しておらず,同様の金融政策がとられていない可能性も否定できない。そのような場合, Bayoumi and Eichengreen (1994b, 1994c) も指摘しているように,通貨統合によって同一 の金融政策を遂行することとなった後でこれらの相関が低下する可能性もあるだろう。よ って,この分析手法はそういった点を十分に把握できないと言える。 2つめは,当該地域諸国間における実質為替レートの変動の分散を検証する手法である。 この手法の理論的根拠は,実質為替レートが自国財と外国財の相対価格であることに基づ いている。もし,当該地域諸国間で共通のショックが生じたならば実質為替レートは変動 しないが,非対称なショックが生じたならば変動することとなる。よって,実質為替レー トの変動の分散が大きいと共通でないショックが生じていると判断され,通貨統合は厳し いとみなされる。この手法を北米通貨統合の検証に用いた先行研究は見当たらない。しか し,Eichengreen (1993) 等は欧州諸国が共通通貨圏であるかをこの手法で検証しており, 既に共通通貨圏として存在するアメリカの各地域間の相対価格の変動と欧州諸国間の相対 価格の変動を比較している12)。検証結果はアメリカの各地域間の相対価格の変動よりも欧 州諸国間の相対価格の変動の方が大きく,欧州は共通通貨圏の条件を満たしていない可能 性があると指摘している。 ただし,この分析に対する問題点として Eichengreen (1993) 自身が指摘しているよう に,実質為替レートの変動が名目為替レート自体の変動に大きな影響を受けていることが 予想される。実際,Mussa (1986) により固定相場制であったブレトンウッズ期の実質為 替レートの変動が変動相場制となったポスト・ブレトンウッズ期の実質為替レートの変動 よりも小さいことが指摘されている。この理由として彼は為替レートのオーバーシュート を挙げている。これは,Dornbusch (1976) が提唱したものであり,価格が硬直的である 状況では予期しない金融政策の変更に対して資産市場を均衡させるために為替レートが大 きく反応しうるからである13)。当然,固定相場制下においては当該地域諸国間で基本的に 同様の金融政策が運営されており,そもそも為替レートは通常固定されているから,この 現象が生じるのは変動相場制下のみである。よって,Mussa (1986) は各国間の相対価格 である実質為替レートの変動が為替相場制度の違いによって大きく異なる可能性があると 述べている。このことから,この分析は共通通貨圏を形成した後でなければ正確な検証が 困難であると思われる。 12)この分析手法を共通通貨圏に関する実証研究に最初に用いたのは Poloz (1990) であり,Eichengreen (1993) 以外にも De Grauwe and Heens (1993) 等,膨大な研究がなされている。 13)オーバーシュートでなくアンダーシュートの可能性も理論的には考えられるが,これまでの実証研 究からそういった事例はほとんど見られない。 102 大阪経大論集 第57巻第2号 3つめは,Frankel and Rose (1998) の分析手法である。Frankel and Rose (1998) は, 1959年∼1993年のサンプル期間で工業国21カ国を用いて,パネル分析により相手国との 貿易が拡大すればその国とのビジネスサイクルの相関は高くなることを示している。そし て,為替レートを固定することによって内生的にビジネスサイクルは高まると指摘してい る14)。つまり,Frankel and Rose (1998) の分析にしたがうならば,通貨統合をして貿易が 拡大すれば21カ国間でビジネスサイクルの相関が内生的に高くなり,最適通貨圏の条件を 満たしやすくなるだろう。 彼らの分析対象国には,北米諸国(アメリカ,カナダ),欧州諸国(オーストリア,ベ ルギー,デンマーク,フィンランド,フランス,ドイツ,ギリシャ,アイルランド,イタ リア,ノルウェー,オランダ,ポルトガル,スペイン,スウェーデン,スイス,イギリス), 日本,オセアニア諸国(オーストラリア,ニュージーランド)の21カ国もの工業国が含ま れている。これらの諸国内で産業内貿易が行われているならばショックを共有できるかも しれない。しかし,工業国同士といっても産業内貿易を行うような代替的な財を生産して いるとはいえない国も含まれている。また,貿易が拡大することで相手国とのビジネスサ イクルの相関が高くなったとしても,どの程度高くなるかも重要であり,統計的に有意で あっても共通通貨圏を形成する基準を満たすほどではない可能性もあるだろう。 そして,4つめが各国ごとに供給ショックと需要ショックを取り出し,当該地域諸国間 のショックの相関を分析するという手法である。この分析手法は AS・AD(総供給・総需 要)モデルに基づき産出量と物価の2変数を用いた構造 VAR 分析であり,Bayoumi (1992) によって開発された。供給ショックは長期的に産出量と物価に影響を与えるもの の,需要ショックは産出量には長期的に影響を与えないとして,長期制約により供給ショ ックと需要ショックを識別している。これは古典派アプローチに従ったものと言えるだろ う15)。この分析のメリットは,ファンダメンタルズに影響を与えるショックを供給ショッ クと需要ショックに識別して,統計的有意性に基づいて当該地域諸国間のショックの相関 を分析することでビジネスサイクルの対称性を検証できる点である。 これまでにも Bayoumi and Eichengreen (1993),小川・川崎 (2002) 等により,欧州単 一通貨の導入の是非に関する研究で多用されている。そして,北米通貨統合においても, 1つめの分析手法でも紹介した Bayoumi and Eichengreen (1994b, 1994c) 等により用いら れてきた。Bayoumi and Eichengreen (1994b) はカナダ東部−アメリカ東部,カナダ西部 −アメリカ西部の供給ショックの相関が比較的高く,カナダ東部−カナダ西部,アメリカ 東部−アメリカ西部で需要ショックの相関が高いという検証結果を導き出している。そし て,産業構造の違いによって北米大陸の東部と西部で供給ショックのパターンが異なると の検証結果は Mundell (1961) と整合的であり,また,カナダ国内,アメリカ国内でそれ 14)この理論的根拠は EC Commission (1990) である。 15)Bayoumi and Eichengreen (1993,1994a,1994b,1994c),Eichengreen (1995),小川・川崎 (2002) 等は Bayoumi (1992) と同様の識別を行っている。ちなみに,長期制約による構造 VAR 分析を扱 った初期の論文に Blanchard and Quah (1989) がある。 北米通貨統合の実現可能性 103 ぞれ金融政策を運営していることから,国内の需要ショックのパターンが類似しているこ とは現実に即していると指摘した上で,北米通貨統合は非現実的ではないとしている16)。 一方,Bayoumi and Eichengreen (1994c) は,アメリカ−カナダの供給ショックと需要シ ョックが共に有意な正の相関はみられないと指摘しており,北米通貨統合は現実的ではな い と 結 論 づ け て い る 。 こ の 2 つ の 論 文 で 分 析 結 果 が 大 き く 異 な る が , Bayoumi and Eichengreen (1994b) は1971年∼1986年の年次データ,Bayoumi and Eichengreen (1994c) は1960年∼1990年(もしくは1969年∼1989年)の年次データを用いており,サンプル数が 極めて小さいことがその理由に挙げられるのかもしれない。相関係数の有意性を検定する 場合,50以上のサンプル数が必要であることは David (1938) のシミュレーションから確 認されており,Bayoumi and Eichengreen (1994b, 1994c) の分析結果は頑健なものとは言 えないだろう17)。 しかし,Bayoumi (1992) の識別方法に対してはこれまでに批判があるのも事実である。 たとえば,Robertson and Wickens (1997) 等はこの識別では長期的に産出量に影響を与え る可能性がある投資需要のような需要ショックを十分に識別できていないと指摘してい る18)19)。 本稿も AS・AD モデルに基づく構造 VAR 分析によって北米通貨統合の実現可能性の検 証を試みるものの,この批判を踏まえて同時点制約からも供給ショックと需要ショックの 識別を行うことにしたい。同時点制約では,供給ショックは同時点で産出量と物価に影響 を与えるものの,需要ショックは物価に対しては同時点で影響を与えないとして識別を行 う。この手法は,ケインジアンアプローチに従ったものと言えるだろう。これまで,この 分野の先行研究では,価格の硬直性を考慮したケインジアンアプローチを扱ってこなかっ 16)AS・AD モデルから明らかであるように,貨幣供給量を変化させるような金融政策は AD 曲線をシ フトさせることから需要ショックである。 17)我々は Bayoumi and Eichengreen (1994c) の1960年∼1990年と1969年∼1989年の期間において年次 データではなく四半期データを用いて分析を試みた。その結果,1960年∼1990年(1969年∼1989年) のアメリカ−カナダの供給ショックの相関は0.250(0.337),需要ショックの相関は0.370(0.380) となり,それぞれ5%基準で有意に正の相関があることが確認された。 18)Robertson and Wickens (1997) は実質GDPとGDPデフレーターの2変数での構造 VAR による 分析を行うものの,構造ショックを実物ショックと名目ショックとみなし議論を進めている。実物 ショックは長期的に実質GDPとGDPデフレーターに影響を与えるものの,名目ショックは実質 GDPには長期的に影響を与えないとして長期制約の識別を課している。要するに,Bayoumi (1992) が供給ショックとみなしているショックを実物ショックとして,需要ショックとみなして いるショックを名目ショックとして扱っている。 19)Bayoumi (1992) の分析手法の拡張として,本稿のアプローチの他に DeSerres and Lalonde (1994) がある。DeSerres and Lalonde (1994) は対数と階差をとった産出量と物価と貨幣の3変数を用い て,長期制約の構造 VAR により,供給ショックと実物的な需要ショックとマネタリーショックに 識別している。Bayoumi (1992) とは異なり,需要ショックを実物的要因と名目的要因に識別した 点は,より詳細に実物的な需要ショックを分析できるため,重要な拡張である。しかし,上で述べ た Robertson and Wickens (1997) 等による批判は克服できていない。 104 大阪経大論集 第57巻第2号 た。しかし,この2つのアプローチにより,分析結果が大きく変わるようでは,供給ショ ックと需要ショックを上手く識別できていない可能性があるだろう。逆に,2つのアプロ ーチによって,同様の分析結果が得られたならば,構造ショックの識別は現実的であると 考えられる。よって,本稿は2つのアプローチを用いて頑健性を確かめることにする20)。 分析対象国として,1980年1月∼1998年12月の北米諸国(アメリカ,カナダ)だけでな く,主要な欧州諸国(ドイツ,フランス,イギリス)を用いる。そして,通貨統合を達成 した欧州諸国間のビジネスサイクルの相関と北米諸国間の相関の大きさを比較することで 北米通貨統合の実現可能性を検証する。 分析の結果,2つのアプローチ共に供給ショックが有意に正の相関を有していたのはア メリカ−カナダ,ドイツ−フランスであり,2つのアプローチ共に需要ショックが有意に 正の相関を有していたのはアメリカ−カナダ,ドイツ−フランス,ドイツ−イギリスであ った。ドイツ−イギリスの需要ショックの相関は高いものの,供給ショックの相関は統計 的に有意ではない。非対称な供給ショックに関しては経済の開放度に関わらず調整されな いことを考慮するとイギリスが Euro を導入しないことは今回の分析結果からも支持され よう。また,ドイツ−フランスの供給ショックと需要ショックの相関はそれぞれ高いこと から,ドイツとフランスが Euro を導入することは政治的要因だけでなく,経済的要因か らも決して望ましくない選択ではなかった可能性が高いと判断できる。そして,既に通貨 統合を達成したドイツ−フランスのビジネスサイクルの相関をベンチマークとして判断し ても,アメリカ−カナダの相関は高いことから共通通貨圏の基準を満たしていると考えら れ,この条件に関する限り, 北米通貨統合の実現可能性は決して低くないといえるだろ う。 本稿の構成は以下の通りである。2節では AS・AD モデルに基づき構造 VAR の識別方 法を述べる。3節では,2節までの議論に基づいて実証分析を行う。4節では結論を述べ る。 2.理論的考察と構造 VAR の識別 2.1 AS・AD(総供給・総需要)モデルに基づく理論的考察 ここでは,AS・AD モデルに基づく理論的背景に沿って,ビジネスサイクルの要因とさ れる供給ショックと需要ショックが産出量と物価に与える影響を考察する。ここでの議論 は,標準的なマクロ経済学のテキストにあるとおりである21)。AS・AD モデルは縦軸が物 20)ただし,構造 VAR 分析そのもの, もしくは, AS・AD モデルに基づく2変数システムの構造 VAR 分析に対する批判があることに留意する必要がある。構造 VAR 分析によって取り出された 構造ショックが現実のショックにどの程度対応しているのかを検定できないからである。また,こ こでの分析では供給ショックと需要ショックの2つのタイプにしかショックを分けてない。しかし, 供給ショック,需要ショックといっても様々なタイプの供給ショックや需要ショックがあり,一括 りにしても良いのかといった批判もある。ただし,既に述べた他の3つの分析手法についてもこれ らの批判を克服できているわけではなく,少なくとも構造 VAR 分析による検証が他の分析手法に 劣っているとは言えないだろう。 北米通貨統合の実現可能性 105 図1 AS・ADモデル 古典派アプローチ 物価 長期 AS・AD モデル AD 曲線 供給ショック 物価 需要ショック 物価 長期 AS 曲線 産出量 産出量 産出量 価,横軸が産出量を表す平面上で描かれ,AS 曲線と AD 曲線の交点で物価と産出量が決 定される。AD 曲線は IS・LM モデルから導出されることが知られている。AD 曲線が右 下がりになるのは,物価が下落すれば実質貨幣残高が増大するのでより多くの財を需要で きるためである。AS 曲線の形状は価格が硬直的であることによって考察対象期間の長さ に大きく左右される。以下では,2つの極端なアプローチの AS 曲線に基づいて AS・AD モデルを議論する。1つは古典派アプローチである。このアプローチは Bayoumi (1992) が開発して以来,扱われてきたものであり長期制約による構造 VAR の理論的根拠に用い られてきた。もう1つはケインジアンアプローチである。このアプローチはこの分野の先 行研究で扱われてこなかったものであるが,同時点制約による構造 VAR の理論的根拠に 用いることが可能である。 まず,古典派アプローチから述べることにする。図1の は長期における AS・AD 曲 線を図示している。図1のの AS 曲線が垂直なのは,生産水準は経済の供給能力(資本 ・労働の供給と生産技術)に依存するが,物価水準に左右されないとの想定に基づいてい る。もちろん,価格が完全に調整されていない状況では,生産水準は金融政策,財政政策 等の要因に依存する。よって,現実の経済では短期の状態において価格が完全に伸縮的で あるとは言えないことから,この想定は価格が十分に調整される長期の状態でなされる議 論である。 正の供給ショックが生じた場合の長期における状態を表したものが図1のである22)。 長期の状態では,供給ショックが生じて AS 曲線が右にシフトすると産出量は増加して物 価は下落する。また,正の需要ショックが生じた場合の長期における状態を表したものが 図1のである。長期の状態では,需要ショックが生じて AD 曲線が右にシフトすると 物価は上がるが産出量は変化しない23)。この“需要ショックは長期的には産出量を変化さ 21)Mankiw (2002) の第9章を参照。 22)正の供給ショックは生産性の上昇を意味している。 23)ただし,AS 曲線は短期では垂直ではなく右上がりなので,短期的には需要ショックによって産出 量は増加する。 106 大阪経大論集 第57巻第2号 図2 AS・ADモデル ケインジアンアプローチ 超短期 AS・AD モデル 物価 供給ショック 物価 AD 曲線 需要ショック 物価 超短期 AS 曲線 産出量 産出量 産出量 せない”という設定が古典派アプローチの識別制約として用いられる。 次に,ケインジアンアプローチを述べることにする。図2のは超短期における AS・ AD 曲線を図示している。図2のの AS 曲線が水平なのは,超短期では限界費用が一定 である,あるいはメニューコストが存在するため価格が固定されているとの想定に基づい ている。 正の供給ショックが生じた場合の超短期における状態を表したものが図2のである。 超短期の状態では,供給ショックが生じて AS 曲線が下にシフトすると産出量は増加して 物価は低下する。また,正の需要ショックが生じた場合の超短期における状態を表したも のが,図2のである。需要ショックが生じて AD 曲線が右にシフトすると産出量は増 加するが物価は変化しない24)。この“需要ショックは超短期では物価を変化させない”と いう設定がケインジアンアプローチの識別制約として用いられる。 2.2 構造 VAR の識別方法 それでは,AS・AD モデルの理論的背景に基づいて構造 VAR を導出する。物価と産出 量といった変数は,それぞれ非定常である I(1) 過程に従っており,また,物価と産出量 の間には共和分関係はないものとして議論を進める。この仮定は2.1節の理論モデル,3.1 節の単位根検定,共和分検定の結果と矛盾するものではない。 まず,古典派アプローチに従った長期制約の構造 VAR から述べることにする。 とする。は,順に物価,産出量であり, はそれ ぞれ VAR の誤差項である。 は構造ショックであり,ここでは2.1節の理論的背景に 従って,順に古典派アプローチによって識別された需要ショック,供給ショックとして扱 う。そして,は階差オペレーターであり,変数の右下の添え字はその変数の時点を表 24)やがて価格は調整されるので AS 曲線は徐々に水平から右上がりに変化する。 その結果,物価は次 第に上昇すると予想される。 北米通貨統合の実現可能性 107 している。 (1)式は誘導形の VMA 表現である。ここで,はラグオペレーター,は単位行列であ り, は の転置行列であり,は誤差項の分散共分散行列である。 (2)式は物価と産出量が現在と過去の構造ショックの系列で表現できることを意味してい る25)。(1),(2)式より, となる。ここで, を導出できるから, と の左下の要 古典派アプローチを理論的根拠として, 素に対してゼロ制約を課すことができる。このゼロ制約は,産出量は長期的には需要ショ ックの影響を受けないことを意味している。そして,は対称行列, は既値である ことを用いると,Cholesky 分解から のように,上三角行列で ある を求められる。また, であるから, より,が導出できる26)。これにより,古典派アプローチに従った構造 VAR 分析を 行うことができる。 次に,ケインジアンアプローチに従った同時点制約の構造 VAR を述べる。 とする。 は構造ショックであり,ここでは2.1節の理 論的背景に従って,順にケインジアンアプローチによって識別された供給ショック,需要 ショックとして扱う27)。 (3)式は物価と産出量が現在と過去の構造ショックの系列で表現できることを意味してい る。(1),(3)式より, となる28) 。ここ を導出できるから, と の右上の要素 で,ケインジアンアプローチを理論的根拠として, に対してゼロ制約を課すことができる。このゼロ制約は,物価は同時点で需要ショックの 25)各構造ショック間の相関はないと仮定して,それぞれの構造ショックの分散を1と基準化している。 ケインジアンアプローチについても同様である。 26)ちなみに,(0) の各要素の絶対値は一意には決まるものの,符号条件は必ずしも一意には決まら ない。詳細は,Astley and Garratt (2000) の502ページの脚注15を参照。 27)長期制約と同時点制約で構造ショックの記号を変えたのは,異なる制約によって得られたショック は1節の議論からも全く同一のものにはならないことが予想されるからである。 28)先程と同様に,(0) の各要素の絶対値は一意には決まるものの,符号条件は必ずしも一意には決 まらない。 108 大阪経大論集 第57巻第2号 影響を受けないことを意味している。そして,は対称行列であることを用いると, Cholesky 分解から下三角行列である を求められる。これにより,ケインジアンア プローチに従った構造 VAR 分析を行うことができる。 3.構造 VAR 分析 以下の実証分析では2節で議論した AS・AD(総供給・総需要)モデルに基づき構造 VAR によって分析を進める。 3.1 データと予備検定 分析対象国はアメリカ,カナダ,イギリス,フランス,ドイツである。ただし,1979年 3月の欧州通貨制度(European Monetary System : EMS)の設立と1999年1月の欧州通貨 統合の誕生によって,ポスト・ブレトンウッズ期内でも経済構造が変化している可能性が あるだろう。そのため,サンプル期間は1980年1月∼1998年12月とする29)。データの出所 はIMFの International Financial Statistics である。物価は消費者物価指数,産出量は鉱 工業生産指数を用いており,それらは季節調整を施し,自然対数による変換を行ってい る30)。 2.2節で議論したように,今回の構造 VAR 分析を用いるには,消費者物価指数と鉱工 業生産指数はそれぞれ非定常である I(1) 過程に従っており,それらの間には共和分関係 はないことが条件となる。よって,5カ国のそれぞれの消費者物価指数と鉱工業生産指数 の時系列構造を単位根検定により確認する必要がある。また,消費者物価指数と鉱工業生 産指数が非定常であるといった結果が得られたならば,これらの変数の間で共和分関係が 存在する可能性がある。よって,その場合はそれぞれの国ごとに共和分検定によって確認 する必要がある。 単位根検定は, 定数項とタイムトレンドを含めた Dickey and Fuller (1979), Elliott, Rothenberg and Stock (1996) の方法(以下,順に DF, DFGLS 検定)を用いる。DF, DF GLS 検定ともに,帰無仮説は I(1) 過程に従う,対立仮説は I(0) 過程に従うである。拡 張項のラグ次数を選択するため,最大ラグ次数を12とする SBIC(Schwarz Baysian Infor29)もちろん,1992年の欧州通貨危機の影響で経済の構造変化が生じた可能性は否定できない。ただし, 欧州通貨危機は構造変化ではなく,欧州全体に影響を与えた供給ショックもしくは需要ショックで あったと捉えると,当時の欧州諸国間のビジネスサイクルの同調性は極めて高かったと言えるだろ う。そう考えると,北米通貨統合の実現可能性を議論する上で欧州諸国との比較はハードルの高い ベンチマークであるかもしれない。当然,1980年∼1998年のサンプル期間を分割して1980年∼1991 年もしくは1993年∼1998年で分析するか欧州通貨統合後を分析対象にすると,サンプル期間が短い ため分析結果の信頼性を低下させるというデメリットが生じるだろう。 30)実証分析の背景に AS・AD モデルがあるので,消費者物価指数,鉱工業生産指数を用いるより,G DPデフレーター,実質GDPを用いる方が適切であるかもしれない。しかし,本稿は超短期を考 慮したケインジアンアプローチを用いるため,また,より多くのサンプル数を確保するため,月次 データで入手可能な消費者物価指数,鉱工業生産指数を用いる方がより望ましいと判断した。 北米通貨統合の実現可能性 109 mation Criterion)を用いる。DF 検定の臨界値は MacKinnon (1996), DFGLS 検定の臨 界値は Elliott, Rothenberg and Stock (1996) に従っている。予備検定であるため分析結果 は掲載しないが,DF 検定と DFGLS 検定の両方で I(1) 過程に従うとの帰無仮説を5% 基準で棄却された変数は5カ国ともに存在しなかった。よって,以下の分析では各変数は I(1) 過程に従うものとして議論を進める。 共和分検定は,定数項のみを含めたケースと定数項とトレンド項を含めたケースの Engle and Granger (1987) の方法を用いる。そして,各国ごとに消費者物価指数と鉱工業 生産指数の間で共和分関係があるかを説明変数と被説明変数を入れ替えて検定する。帰無 仮説は共和分なし,対立仮説は共和分ありである。拡張項のラグ次数を選択するため,最 大ラグ次数を12とする SBIC を用いる。臨界値は MacKinnon (1996) に従っている。予備 検定であるため分析結果は掲載しないが,説明変数と被説明変数を入れ替えた両方の検定 結果で共和分関係が存在しないとの帰無仮説を5%基準で棄却されるような結果は5カ国 ともに生じなかった。よって,以下の分析では各変数間において共和分関係がないものと して議論を進める。 3.2 インパルス・レスポンス分析 3.1節での予備検定に基づき,以下,2.2節で議論した分析手法に従って構造 VAR 分析 を行う31)。VAR のラグ次数を選択するため,最大ラグ次数を12とする SBIC を用いた。 ここで,各国間の供給ショックと需要ショックの相関を検証する前に,各ショックによる 物価と産出量の反応を確認することにしたい。その反応が2.1節の議論と整合的でないな らば,各ショックが正しく識別されていない可能性があるからであり,その場合,これ以 降の分析が信頼できなくなるためである。 2.1節の議論から,正の供給ショックは物価を低下,産出量を増加させ,正の需要ショ ックは物価を上昇,産出量を増加させることが予想される。図3は古典派アプローチによ るインパルス・レスポンスの分析結果である32)。5カ国の分析結果は2.1節の AS・AD モ デルの議論と整合的であると判断できる。図4はケインジアンアプローチによるインパル ス・レスポンスの分析結果である。ほとんど反応していないもののイギリスの物価は正の 需要ショックに対して上昇しており,5カ国の分析結果は理論と整合的でないとは言えな いだろう。 ただし,全ての国において古典派アプローチとケインジアンアプローチの分析結果の相 違に留意する必要がある。当然,古典派アプローチは長期制約を課しているので,図3で 示されているように,需要ショックに対する産出量の反応は長期的にゼロであり,また, ケインジアンアプローチは同時点制約を課しているので,図4で示されているように,需 要ショックに対する物価の反応は超短期(1期目)ではゼロである。しかし,それだけで 31)VAR の系列には定数項を含めている。 32)図3,図4ともにショックの反応を累積して掲載している。 110 大阪経大論集 第57巻第2号 図3 インパルス・レスポンス分析 古典派アプローチ アメリカ 物価 アメリカ 産出量 0.006 0.012 0.004 0.009 0.002 0.006 0 0.003 −0.002 0 −0.004 −0.003 1 7 13 19 25 31 37 43 1 7 13 19 カナダ 物価 25 31 37 43 カナダ 産出量 0.02 0.012 0.016 0.008 0.012 0.004 0.008 0 0.004 −0.004 0 −0.008 −0.004 1 7 13 19 25 31 37 43 49 55 1 7 13 19 イギリス 物価 25 31 37 43 49 55 イギリス 産出量 0.008 0.012 0.006 0.009 0.004 0.006 0.002 0.003 0 0 −0.003 −0.002 1 4 7 10 13 16 19 22 1 4 7 フランス 物価 10 13 16 19 22 フランス 産出量 0.012 0.01 0.008 0.006 0.004 0.002 0 −0.002 −0.004 0.012 0.009 0.006 0.003 0 −0.003 1 7 13 19 25 31 37 43 1 7 13 ドイツ 物価 19 25 31 37 43 ドイツ 産出量 0.004 0.016 0.003 0.012 0.002 0.008 0.001 0.004 0 0 −0.001 −0.004 −0.002 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 供給ショック 1 2 3 需要ショック 4 5 6 7 8 9 10 11 12 北米通貨統合の実現可能性 111 図4 インパルス・レスポンス分析 ケインジアンアプローチ アメリカ 物価 アメリカ 産出量 0.002 0.012 0 0.009 0.006 −0.002 0.003 −0.004 0 −0.006 −0.003 1 7 13 19 25 31 37 43 1 7 13 19 カナダ 物価 25 31 37 43 カナダ 産出量 0.004 0.015 0 0.012 −0.004 0.009 −0.008 0.006 −0.012 −0.016 0 1 7 13 19 25 31 37 43 49 55 1 7 13 19 イギリス 物価 25 31 37 43 49 55 イギリス 産出量 0.002 0.012 0 0.009 −0.002 0.006 −0.004 0.003 −0.006 0 −0.008 −0.003 1 4 7 10 13 16 19 1 22 4 7 10 フランス 物価 13 16 19 22 フランス 産出量 0.003 0.012 0 0.009 −0.003 0.006 −0.006 0.003 −0.009 0 −0.003 −0.012 1 7 13 19 25 31 37 43 49 55 1 7 13 19 ドイツ 物価 25 31 37 43 49 55 ドイツ 産出量 0.001 0.02 0 0.016 −0.001 0.012 −0.002 0.008 −0.003 0.004 −0.004 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 供給ショック 0 1 2 3 需要ショック 4 5 6 7 8 9 10 11 12 112 大阪経大論集 第57巻第2号 図5 供給ショックの相関 アメリカと他国の相関 ドイツと他国の相関 0.2 0.3 US/GER US/FRA 0.1 US/CAN US/UK 0 −0.1 −0.2 −0.3 −0.3 −0.2 −0.1 0 0.1 0.2 0.3 ケインジアンアプローチ ケインジアンアプローチ 0.3 0.2 GER/US GER/FRA 0.1 GER/UK 0 −0.1 −0.2 GER/CAN −0.3 −0.3 −0.2 −0.1 古典派アプローチ 0 0.1 0.2 0.3 古典派アプローチ 注:US はアメリカ,CAN はカナダ,GER はドイツ,FRA はフランス,UK はイギリスであり,US/CAN, US/GER, US/FRA, US/UK はアメリカとカナダ,ドイツ,フランス,イギリスの4カ国の相関,GER/ US, GER/CAN, GER/FRA, GER/UK はドイツとアメリカ,カナダ,フランス,イギリスの4カ国の相関 を指している。各図において,破線よりも上に位置する相関係数はケインジアンアプローチにおいて有意 に正,破線よりも右に位置する相関係数は古典派アプローチにおいて有意に正であることを示唆している。 なく,古典派アプローチと比較してケインジアンアプローチでは需要ショックに対する物 価の長期的な反応が小さい一方で,供給ショックに対する物価の長期的な反応は大きいこ とが確認できる。また,古典派アプローチと比較してケインジアンアプローチでは供給シ ョックに対する産出量の反応の大きさが小さいことも確認できる。 これまでの先行研究は Bayoumi (1992) による古典派アプローチのみに基づいて,供給 ショックと需要ショックが識別されてきた。しかし,どちらのアプローチも AS・AD モデ ルに基づいており,どちらがより正確であるかは判断できない。よって,2つのアプロー チを併用することで,より慎重に分析を進める必要があると考えられる。 3.3 構造ショックの相関による検証 それでは,アメリカ,ドイツと各国のビジネスサイクルの相関を検証する。図5は供給 ショックの相関,図6は需要ショックの相関を表している。図5,6ともに,左側にアメ リカとカナダ,ドイツ,フランス,イギリスの4カ国の構造ショックの相関,右側にドイ ツとアメリカ,カナダ,フランス,イギリスの4カ国の構造ショックの相関を掲載した。 45度線より上に位置するケースは,古典派アプローチよりもケインジアンアプローチの相 関が高いことを表しており,逆に45度線より下に位置するケースは,古典派アプローチよ りもケインジアンアプローチの相関が低いことを表している。 図5,6に図示された相関係数に関しては統計的に有意性の検定が可能である33)。ここ 33)相関係数を として,それが0であるかを検定する場合, の分布の収束が遅いことが知られ て い 北米通貨統合の実現可能性 113 図6 需要ショックの相関 アメリカと他国の相関 ドイツと他国の相関 0.3 0.3 0.1 US/UK 0 ケインジアンアプローチ ケインジアンアプローチ US/CAN 0.2 US/GER US/FRA −0.1 −0.2 −0.3 −0.3 −0.2 −0.1 0 0.1 0.2 0.2 GER/UK 0.1 GER/US 0 −0.1 GER/CAN −0.2 −0.3 −0.3 −0.2 −0.1 0.3 GER/FRA 古典派アプローチ 0 0.1 0.2 0.3 古典派アプローチ 注:詳細は図5の注を参照。 で,5%基準で有意に正の相関があるためには図5,6の相関係数は0.131以上であること が必要となる。これを考慮すると,古典派アプローチとケインジアンアプローチ共にアメ リカ−カナダの供給ショックの相関は図5の左図において有意に正であることが示唆され る。また,ドイツ−フランスの供給ショックの相関は図5の右図において有意に正である ことが示唆される。同様に,アメリカ−カナダの需要ショックの相関は図6の左図におい て有意に正であることが示唆される。また,ドイツ−フランス,ドイツ−イギリスの需要 ショックの相関は図6の右図において有意に正であることが示唆される34)。 図5,6から確認されたことの1つに,インパルス・レスポンスの動きは2つのアプロ ーチ共に AS・AD モデルと整合的であるが,2つのアプローチで構造ショックの相関が異 なる場合があることであろう。よって,これまでの先行研究では古典派アプローチしか扱 われてこなかったが,2つのアプローチによる違いを十分に留意する必要があるだろう。 そして,もう1つは本稿の分析結果は Bayoumi and Eichengreen (1994c) のそれとは大き く異なるものとなったことである。Bayoumi and Eichengreen (1994c) はサンプル数が少 ないため,分析結果にバイアスが生じていたと思われる35)。 る。 よって,Kendall and Stuart (1969) はこの仮説の有意性を検定したい場合は そのものではな く, が0である場合に に従うことを用いて検定するように勧めてい 293 (26 る。 ちなみに, はデータの数である。議論の詳細は Kendall and Stuart (1967) の pp. 292 章)を参照されたい。 34)Bayoumi and Eichengreen (1994b) 等で議論されているように,この分析手法の限界のため, 需要 ショックの検証結果については留意する必要がある。その理由は,需要ショックに関しては政府が コントロール可能な財政政策,金融政策によるショックも含まれるため,共通通貨の導入前後で大 きな変化が生じる可能性がある一方で供給ショックに関してはそういった要因の影響を受ける余地 が少ないためである。よって,図6の検証結果に関しては議論できる範囲が限られる。 114 大阪経大論集 4.結 第57巻第2号 論 本稿は主要な欧州諸国(ドイツ,フランス,イギリス)間のビジネスサイクルの相関を ベンチマークとして用いることでアメリカとカナダの北米通貨統合 (NAMU) の実現可 能性を検証した。また,我々は AS・AD(総供給・総需要)モデルに基づき,Bayoumi (1992) の長期制約の構造 VAR 分析(古典派アプローチ)だけでなく同時点制約の構造 VAR 分析(ケインジアンアプローチ)を用いることで,各国ごとに供給ショックと需要 ショックを識別して取り出した。 分析の結果,2つのアプローチ共に供給ショックが有意に正の相関を有していたのはア メリカ−カナダ,ドイツ−フランスであり,2つのアプローチ共に需要ショックが有意に 正の相関を有していたのはアメリカ−カナダ,ドイツ−フランス,ドイツ−イギリスであ った。ドイツ−イギリスの需要ショックの相関は高いものの供給ショックの相関は有意に 正の相関を有していない。既に議論したように,非対称な供給ショックに関しては経済の 開放度に関わらず調整されない。よって,この結果はイギリスが積極的に Euro を導入し ない事実と整合的であると言えるのかもしれない。また,ドイツ−フランスの供給ショッ クと需要ショックの相関は高いことから,ドイツとフランスが Euro を導入することは政 治的要因だけでなく,経済的要因からも決して望ましくない選択ではなかった可能性が高 いと判断できる36)。そして,既に通貨統合を達成したドイツ−フランスのビジネスサイク ルの相関をベンチマークとして判断してもアメリカ−カナダの相関は高いことから共通通 貨圏の基準を満たしていると考えられ,この条件に関する限り北米通貨統合の実現可能性 は決して低くないといえるだろう。 ただし, 本稿の分析は通貨統合以前のデータに基づいているため留意すべき点もある。 EC Commission (1990), Krugman (1991) が指摘しているように,通貨統合によって貿易 障壁が小さくなることで,アメリカとカナダのビジネスサイクルの相関が内生的に変化す る可能性があるからである37)。EC Commission (1990) は,為替レートを固定する前には 必ずしもビジネスサイクルの相関が高くなくても,固定した後で内生的に相関が高くなる 可能性を指摘している。貿易が活発になれば,産業内貿易が中心である国の間では特定の 財に及ぼす需要ショックの影響は類似したものになるため,両国のビジネスサイクルの相 関はますます高くなる可能性があるからである。この仮説は,一般に最適通貨圏の議論で なされる指摘であり,ヨーロッパにおける通貨統合を正当化する根拠になっている。この 指摘に従うならば,アメリカとカナダは通貨統合を行うことにより,ますますビジネスサ 35)この点のついては脚注17を参照。 36)実際,1999年以降の数年間,ドイツとフランスの景気は停滞しており,皮肉にも両国のビジネスサ イクルの相関が高いことが裏付けられよう。 37)ちなみに, EC Commission (1990), Krugman (1991) の指摘に反して, Baxter and Stockman (1989), Ahmed, Ickes, Wang and Yoo (1993) は為替相場制度が変化してもビジネスサイクルは影響を受け ないとする実証研究結果を提示している。 北米通貨統合の実現可能性 115 イクルの相関が内生的に高くなり,通貨統合は事後的にも望ましい結果が期待される。 一方,Krugman (1991) は為替レートを固定した後で,ビジネスサイクルの相関が内生 的に低くなる可能性を指摘している。貿易が活発になれば,規模の経済が働き産業活動の 地域集中をもたらすので国際分業が起こり産業内貿易から産業間貿易になる結果,特定の 財に及ぼす需要ショックの影響は特定の国にのみ影響を与えるため,両国のビジネスサイ クルの相関はますます低くなる可能性があるからである38)。この指摘に従うならば,アメ リカとカナダは通貨統合を行うことにより,ビジネスサイクルの相関が内生的に低くなり, 通貨統合は事後的には望ましくない結果となるかもしれない。 しかし,Mundell (1961) が北米大陸は東部と西部で経済構造が異なると指摘してから 数十年が経過し,その間,アメリカとカナダは固定相場制から変動相場制へと異なる為替 相場制度を経験してきたにも関わらず,北米大陸の東部と西部のビジネスサイクルの状況 は大きく変わっていないことが Bayoumi and Eichengreen (1994b) の実証研究でも指摘さ れている。そして,福本 (2004) によってブレトンウッズ期の後半期間でもアメリカ−カ ナダのビジネスサイクルの相関が本稿の分析結果と同様に高いことが確認されており,少 なくともアメリカとカナダのビジネスサイクルは為替相場制度の影響を受けにくい可能性 があると言えよう。また,既に述べたように,Frankel and Rose (1998) は21カ国の工業 国を用いたパネル分析により,相手国との貿易が拡大すればその国とのビジネスサイクル の 相 関 は 高 く な る こ と を 示 し て い る 。 Frankel and Rose (1998) の 分 析 結 果 は , EC Commission (1990) の仮説を支持していることからもアメリカとカナダの通貨統合は事後 的にも問題が生じる可能性は小さく,悲観的な結果になる可能性は低いだろう。 現在,NAFTA が発効してアメリカとカナダの自由貿易が進展している。欧州は第2 次世界大戦後,経済的な統合だけでなく政治的な統合を経て1999年に共通通貨を導入する に 至 っ て い る39) 。 よ っ て , Buiter (1999) が 指 摘 す る よ う に , 北 米 政 治 統 合 ( North American Political Union : NAPU)は北米通貨統合を実現させるため,そして長期的に持 続可能とするため重要な要素であると思われる。これを構築することが北米通貨統合を成 功させる政治的側面における課題と言えるのかもしれない。しかし,ビジネスサイクルの 同調性といった経済的側面から判断する限り,北米通貨統合が成功する条件は整っている。 参 考 文 献 Ahmed, S., Ickes, B. 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