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高しゃ熱、高通気機能衣服の開発に関する研究(PDF: 221.1 KB)

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高しゃ熱、高通気機能衣服の開発に関する研究(PDF: 221.1 KB)
研究論文
高しゃ熱、高通気機能衣服の開発に関する研究
板津敏彦 *1
古田正明 *2
坂川
登 *1
杉浦清治 *1
Development of High Thermal Wave Insulation and Air Permeability Clothing
Toshihiko ITATSU , Masaaki FURUTA, Noboru SAKAGAWA and Seiji SUGIURA
O w a r i Te x t i l e R e s e a r c h C e n t e r, A I T E C * 1
真夏の日射時に身体を涼しく保つ衣服を開発するため、平成 14 年度に開発した高しゃ熱・高通気性織
物(以下高機能織物)の機能を活かす縫製副資材(肩パット、増芯向けシート)を開発した。この縫製副
資材と高機能織物を積層した場合は、高温低湿、白熱灯照射、一定の風がある時、市販の素材に比べ、涼
し さ の 指 標 と な る 熱 損 失 量( 大 き い ほ ど 涼 し い )が 非 常 に 大 き く な っ た 。こ の 結 果 を 基 に 婦 人 服 を 試 作 し 、
サーマルマネキンで評価した結果、普通衣服に比べ大きな熱損失量が得られ、涼しさの機能を確認した。
1.はじめに
2.1.3 PPS カラミ織物の物性評価
高温多湿の日本では、高齢者の増加、環境保護などの
・ JISL1059-1(モンサント法)準用
引張り金具に折り曲げてセットする。
社会的背景もあり、体を涼しく保つ機能の衣服開発が求
められている。当センター調査でも、市場ニーズと産地
PPSカラミ織物の組織図
シーズに照らして開発すべき製品は「夏季に涼しく着用
PPSカラミ織物の糸使い
経 PPSモノフィラメント糸350D、483D
緯 吸汗速乾ポリエステル150D
経密度 20本/インチ
緯密度 14 本/インチ、18 本/インチ
22本/インチ
できる衣服」、次いで「高齢者向け衣服」であった。
真夏に屋外を歩く人、作業する人、体温調節機能の衰
えた高齢者には、高いしゃ熱性・通気性・吸汗性のある
6種のPPSカラミ織物の試作
機能衣服が必要となっている。
緯密度 密 度 1 4 本 密 度 1 8 本 密 度 2 2 本
/インチ
/インチ
/インチ
PPS糸
このため、平成 14 年度に開発した高しゃ熱・高通気
フィラメント
糸350D
性織物(裏側スパッタ加工糸使用二重織物、以下高機能
フィラメント
糸483D
織物) 1) の機能を活かす縫製副資材(肩パット、増芯等
図1
向けシート以下開発シート)を試作し、これらを用いて
真夏に身体を涼しく保つ機能衣服を開発することとした。
ただし、試料を強く
①
②
③
④
⑤
⑥
PPSカラミ織物の規格
2.2 性能評価試験
2.2.1 複合環境における熱損失量の測定
2.実験方法
・ 試料
:
市販肌着生地
ワイシャツ地
2.1 高通気性縫製副資材の試作
開発シート
2.1.1 PPS(ポリフェニレンサルファイド)糸の紡糸
市販縫製副資材
・ 原料
:
PPS 樹脂チップ
市販表地
失量測定部に湿潤物を入れた銅製バット(容量
シリンダー温度:280℃、アダプター温度:288℃
40cc)を置き、試料が濡れないよう糸を張った試料
ダイス温度:285℃、押出機回転数:4rpm、第1
固定枠の上に試料を乗せ測定した(図2) 2) 。
延 伸 機 回 転 数 : 15.6rpm 、 第 2 延 伸 機 回 転 数 :
複合環境の設定
59.7rpm
W,4 灯)とファンにより、高温低湿(30℃・25%RH)、高
2.1.2 PPS カラミ織物の試作
製織
・ 仕上げ
:
普通織機使用
:
芯地接着プレス機
1 尾張繊維技術センター
:
環境試験室内で白熱灯光源(300
温高湿(30℃・90%RH)、白熱灯 26∼13,000 ルクス、風速 0.2
カラミ織物(図1)
応用技術室
∼1.6m/秒)の各条件で測定した。
2.2.2 試作衣服の熱損失量測定
プレス条件 190℃,30 秒,押さえ圧 0.35 ㎏/c㎡
*
裏地
その他比較用
・ 熱損失量の測定 : KES-F7 サーモラボⅡ型の熱損
・ 試験用熱溶融紡糸機の紡糸条件
・
高機能織物
*
・ サーマルマネキン制御装置により、次の条件で試作
2 尾張繊維技術センター
開発技術室
3.2 高しゃ熱・高通気機能衣服の設計
試料固定枠
・主に日射時に体を涼しく保つ衣服を想定し、熱損失量
粗いポリエステ
ル編地シート
測定装置で各種環境下における熱損失量(涼しさの指
吸水性ポリ
エステル編地
標となり、大きいほど涼しい)を測定した結果、高機
能織物、PPS カラミ織物とスポンジ状フィルター素材
銅製バット
を組み合わせたシート(以下開発シート)を重ね合わ
せた場合は、市販の生地、縫製副資材使用の場合より
大きな熱損失量があった(図5、表1)。
・ワイシャツ地、裏地、開発シート、高機能織物を積層
した場合、高温低湿(30℃・25%RH)、白熱灯照射(2 灯
図2
熱損失量測定部(湿潤物使用)
6.0
衣服の熱損失量を測定した。
測定条件
)
温度:30℃、湿度:35%RH
送風
熱損失量 W/c㎡
(
5.0
ファン風速:0.8m/秒、風向き:試作衣服の
右真横から送風、白熱灯照度:5,600∼7,700
4.0
3.0
2.0
1.0
ルクス、試作衣服の右斜め後方向から照射
測定条件
0.0
NO.1 NO.2 NO.3 NO.4 NO.5 NO.6
NO.7 NO.8 NO.9
NO.10 NO.11 NO.12
NO.1 NO.2 NO.3 NO.4 NO.5 NO.6 NO.7 NO.8 NO.9 NO.10 NO.11 NO.12
肌着生地
3. 実験結果及び考察
3.1 高通気性縫製副資材の性能
馬毛芯地と同等の高いハリ・コシ、しわになりにくい物
性が得られた。しわ回復率は、未処理約 40%から、プレ
ス加熱処理 30 秒、190℃では約 80%まで高くなった。(図
3)。また、190℃で処理時間を変えると 30 秒でほぼ平
衡になった(図4)。以上から、高機能織物の機能を活
200
250
しわ回復率 %
図3 処理温度としわ回復率(処理時間30秒)
しわ回復率 %
80
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
高度機能織
○
○
○
○
○
1.78
2.12
2.32
3.11
4.36
5.37
熱損失量
(W/c㎡)
2.03
1.93
2.47
1.91
○
○
○
4.20
2.20
図5 開発品を用いた場合の熱損失量比較(高温低湿(30℃、
25%RH)
、白熱灯照度5,600ルクス、風速0.8m/秒)
表1
比較品を用いワイシャツ、裏地を使用した場合の熱損失量
測定条件
ワイシャツ地
裏地
従来増芯1
従来増芯2
従来肩パット1
従来肩パット2
比較生地1
熱損失量(W/c㎡)
熱損失比率 %
100
150
処理温度 ℃
○
○
○
は 190℃、30 秒であることが分かった。
90
80
70
60
50
40
30
○
開発シート
かす縫製副資材(肩パット、増芯)に適した熱処理条件
50
○
裏地
PPS カラミ織物は、製織後の熱処理により物性変化し、
0
○
ワイシャツ地
NO.1
○
○
○
NO.2
○
○
NO.3
○
○
NO.4
○
○
○
○
○
○ ○ ○ ○
1.24
1.43
0.97
1.26
150
100
50
0
A
B
NO.10
NO.1
開発シート
ブランク
(生地等なし) H14高機能
織物
C
NO.11
開発シート
のみ
D
E
NO.7
NO.3
ワイシャツ ワイシャツのみ
裏地
開発シート
H14高機能織物
F
市販増芯、肩パッ
ト素材、ワイシャ
ツ、裏地の各種組
み合わせ
各種積層サンプル
70
図 開発素材の冷涼効果
60
図6 開発素材の冷涼効果
5,600 ルクス)、風速
0.8m/秒の環境下でワイシャツ地
50
のみよりも大きな熱損失量があった(図6)。
40
・開発シートと高機能織物を積層した場合、試料がない
30
0
10
20
30
40
処理時間 秒
50
60
図4 処理時間としわ回復率(処理温度190℃)
場合の約 80%と大きな熱損失量があった。
・高温低湿、高温高湿における照度と熱損失量の関係を
①ワイシャツ、裏地、開発シート、高機能織物を積層
した場合と②開発シート、高機能織物を積層した場合
の2通りで調べた結果、湿度の影響が非常に大きく、
ぼす影響が大きくなることが予想される(図9)。
どの照度でも高温低湿では高温高湿の倍以上の熱損
・風速が 1.0m/秒までは、風速が熱損失量に及ぼす影
失量があった(図7、8)。
響が大きく、シートの形状では大差なかった(図10)。
・13,000 ルクスまでの照度範囲で熱損失量を測定したが、
・高機能織物と PPS カラミ織物を組み合わせ、各種換気
直線関係の高い相関があった。さらに高い照度になっ
口を設けた場合、換気口が効果的に機能すると大きな
た場合を予測すると、13,000 ルクス以上では、②の積層
熱損失量が得られることが分かった(図11)。
の熱損失量が生地なしの場合と逆転して相対的に大
以上の結果より、身体と表地の間隔を空け、身体の
きくなり、また 16,000 ルクス以上になると、①の積層の
動きに合わせて衣服内換気を促進できる衣服構造と
熱損失量が生地なしと逆転して大きくなり、さらに
すれば、涼しい衣服が開発できるとみられた(図12)。
26,000 ルクス以上になると、①の積層が②の積層と逆転
熱損失量 w/c㎡
6
熱損失量 W/c㎡
6.00
5
4
3
5.00
4.00
3.00
2.00
1.00
0.00
0.0
2
1
0
2,000
4,000
1.5
2.0
図10 風速と熱損失量の関係
(ワイシャツ、裏地、開発シート、高機能織物積層、高
温・低湿(30℃、25%RH)
、白熱灯照度5,600ル
表 風速と熱損失量の関係
クス)
6,000 8,000 10,000 12,000 14,000
照度 ルクス
◇:30℃、25%RH
□:30℃、90%RH
4.0
図7 高温で白熱灯照時の照度と熱損失量 (ワイシャツ、裏地、
開発シート、高機能織物積層、風速0.8m/秒)
5
4
3
2
3.0
2.5
(換気口に風が
入りにくい向き)
2.0
1.5
1.0
(換気口に風が
入りにくい向き、
ただし換気口の
位置を最も端ま
で移動)
0.5
1
0.0
0
0
2,000
4,000
6,000
8,000
◇:30℃、25%RH
10,000
12,000
14,000
5
10
15
生地引張り長さ(㎜)
20
図12
高温で白熱灯照時の照度と熱損失量
(開発シート、高機能織物積層、風速0.8m/秒)
8
0
□:30℃、90%RH
照度 ルクス
図8
(換気口に風が
入る向き)
3.5
熱損失量 W/c㎡
6
熱損失量 w/c㎡
1.0
風速 m/s
0
熱損失量 (W/c㎡)
0.5
換気口の開閉に伴う熱損失量の変化
(高機能織物、開発シートを用いて換気口作
成、換気口の大きさは、開く方向に生地を引張っ
て調整、高温低湿(30℃、25%RH)、白熱 灯照
度5,600ルクス、風速0.8m/秒)
□ : ブランク(生地:なし)
7
y = -0.0003x + 7.0556
R2 = 0.9997
6
5
3.3 高しゃ熱・高通気機能衣服の試作
◇ : ① ワイシャツ、裏地、開 発
シート、高機能織物積層
衣服内換気が促進できる衣服構造を検討し、試作した
△ : ②開発シート+高機能織物
積層
4
主な結果は次のとおりである。①肩部分には肩パットを
使用せず、PPS カラミ織物とスポンジ状フィルター素材
y = -0.0001x + 4.756
R2 = 0.9758
3
2
を組み合わせて、身体から肩部分の生地を浮かせる構造
y = -5E-05x + 2.6201
R2 = 0.9938
1
とした。②PPS カラミ織物を肩から前後に用い(フロン
0
0
10000
20000
30000
照度 (ルックス)
40000
50000
する。照度が大きくなると、しゃ熱性が熱損失量に及
図9 白熱灯照度と開発素材の熱損失量
ト方向は胸増芯のように用い)、背中部、胸部において高
機能織物と身体との間に間隔が開きやすいようにした。
③PPS カラミ織物を用い、背中心及び左右の後肩部分、
上腕内側、脇の下、脇上部の計9カ所に換気口を設けた
(図13)。④PPS カラミ織物によるヒビキ(織物表面状
態の悪化)を防止するとともに、衣服全体の通気性の低
表2 サーマルマネキン測定による開発衣服の
熱損失量率(衣服なしの場合を100%として)
高しゃ熱・高通気衣服
部位名
下を避けるため、必要最少限度の接着芯地を用いた。⑤
PPS カラミ織物と表地との伸縮挙動を合わせるため PPS
カラミ織物をイセながら(少し多めに縫い込む)縫製し、
パッカリングを防止した。⑥PPS カラミ織物の PPS フィラメ
ント糸の飛び出し防止のため端部にパイピングテープ使
用、オーバーロック処理、接着芯地テープ両面処理、本
頭
胸
背
腹
腰
右上腕
右前腕
衣服なし
比較用普
通衣服
(W/c㎡)
(W/c㎡)
34.1
81.9
40.5
120.1
63.7
74.9
102.3
41.5
49.0
20.1
64.7
34.7
13.8
35.9
換気口なし
(W/c㎡)
34.3
59.8
22.3
83.8
45.4
39.3
50.3
換気口あり
(W/c㎡)
38.2
53.3
33.9
80.0
47.1
32.8
53.4
縫いによる補強等で対応した。
100
サーマルマネキンにより、試作婦人服の熱損失量を測
定した。その結果、全ての測定部分で普通衣服より大き
な熱損失量があり、涼しさの機能が確認できた(普通衣
服の熱損失量:13.8∼64.7W/㎡、試作衣服:22.3∼83.8
W/㎡)。また腕を約 45°前方に上げて後肩部分の換気
熱損失量比率 %
3.4 試作した高しゃ熱・高通気機能衣服の性能
60
40
20
0
口を開けると背中部分の熱損失量が上がった(22.3→
普通衣服
普通衣服
33.9W/㎡)(表2、図14)。
開発イメージ
しゃ熱性・通気性の高
い素材を用い、身体か
ら少し間隔を空け、換
気しやすい状態にする
と涼しい。
胸
背
腹
腰
右上腕
右前腕
80
開発衣服
試作衣服
(換気口なし)
開
発衣服(換
換気口あり
気口あり 腕上
げ換気促進)
図14 サーマルマネキン測定による開発衣服の
熱損失量率(衣服なしの場合を100%として)
日光
4.結び
しゃ熱
高通気・吸汗機能縫製副
資材(肩パット、芯地)
ハリ・コシのある新素材の
開発(PPSカラミ織物)
以上の結果をまとめると次のとおりである。
(1) 平成 14 年度に開発した高機能織物の機能を活か
すことのできる縫製副資材用の PPS カラミ織物を
開発した。この織物は製織後の熱処理で馬毛芯地
高しゃ熱・高通気織物
涼しさを実現す
る衣服設計
光
となることを明らかにした。
(2) 高機能織物と開発シートを積層した場合は、高温
試料
衣服試作と涼
しさの評価
のように高いハリ・コシ、しわになりにくい物性
風
低湿、白熱灯照射、一定の風がある時、市販の素
材に比べ、涼しさの指標である熱損失量が非常に
すきま
図12
空気の流れイメージ
大きくなり、また各種換気口が効果的に機能して
も熱損失量が大きくなることを明らかにした。
(3) 衣服内換気を促進する婦人服を試作し、サーマル
マネキンで熱損失量を測定した結果、普通衣服に
比べ大きな値が得られ、涼しさの機能を確認した。
謝辞
本研究を進めるにあたり、元日本バイリーン株式会社
守岡美子様、岐阜県製品技術研究所 山下典男様、西村
大志様にご協力いただきましたことを厚くお礼申し上げ
ます。
図13
開発衣服に設定された換気口
文献
1)古田他:テキスタイル&ファッション,VOL.20,No.4
2)板津他:テキスタイル&ファッション,VOL.19,No.12
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