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3 1C 型慢性肝炎治療の選択

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3 1C 型慢性肝炎治療の選択
3
C 型肝炎の診断と治療
要点
1 C 型慢性肝炎治療の選択
3
国立病院機構大阪医療センター消化器科 科長 三田英治
レベル A C 型慢性肝炎の治療はインターフェロン治療(可能ならリバビリン併用)が
第一選択です。
4
レベル A C 型慢性肝炎~代償性肝硬変に対して推奨されるインターフェロン治療のメ
ニューはガイドラインで示されています。
インターフェロン治療を考慮すべきケースがあります。
1
HCV-RNA 陽 性 が 確 定 し た HCV キ ャ リ ア が、
治療の対象であるか否かをまず評価します。
IFN)治療を受ける患者の背景、すなわち年齢、
合併症に問題がないことを前提にします。
2 ガイドラインを読む前に レベル C
ALT が異常値であれば C 型慢性肝疾患である
現在のガイドラインはこれまでの治療の変遷か
可能性は高いわけですが、脂肪肝や自己免疫性肝
ら練られた賜物であり、完成するまでの経緯を振
疾患の合併またはアルコール摂取による ALT 値
り返ることは重要です。それには IFN 単独 24 週
上昇を見極める必要があります。
治療の著効率(表 1)が参考になります。
たまもの
また ALT 値が正常範囲だからといって、治療
現在、標準治療となっているペグインターフェ
の対象にならないと安易に判断してはいけませ
ロ ン(pegylated interferon;PEG-IFN)
・リバビ
ん。ALT 正 常 HCV キ ャ リ ア( 最 近 で は HCV
リン併用療法は、この表 1 の著効率をもとに「IFN
carrier with persistently normal ALT[PNALT]
単独療法の難治群であるゲノタイプ 1 型(1b 型)
と呼ばれています)の 70 ~ 80%は実際に肝炎を発
の高ウイルス量症例」および「著効率が約 50%に
1)
症していることが報告されていますし 、また逆
型慢性肝炎の治療
C
レベル A ALT 値が正常でも 70 ~ 80%の HCV キャリアは慢性肝病変を有しており、
療の対象をどう考えるか?
治
レベル A
C
型肝炎の診断と治療
4
C 型慢性肝炎の治療
とどまったゲノタイプ 2 型(2a / 2b 型)の高ウイ
に肝病変が高度に進展して見かけ上 ALT 値が落
ち着いているということもあります。しっかりと
肝予備能、血小板数、肝線維化マーカー、画像に
表 1… IFN 単独 24 週療法の著効率
昔のデータであるため
ゲノタイプ 1 型
(1b 型)
よる評価を行ってください。
そして治療対象と診断されたなら、ガイドライ
ンに沿った治療を検討してください。ただし、こ
れからの解説はインターフェロン(interferon;
レベル
C
ゲノタイプ 2 型
(2a / 2b 型)
高ウイルス量
0 ~ 5%
40~50%
低ウイルス量
50~70%
70~90%
……… 73
ルス量症例」を意識した治験が企画された経緯が
されますが、抑うつ傾向が認められるケースでは
あります。そのため一見、低ウイルス量症例は
IFN β・リバビリン併用療法が考慮されます。
PEG-IFN・リバビリン併用療法では「蚊帳の外」
2.ゲノタイプ1型(1b 型)
・高ウイルス量症例に
のように思えますが、それだけ PEG-IFN 単独療
法や IFN 単独療法でも著効率が高いといえます。
2)
3 C 型慢性肝炎治療ガイドライン レベル A
対する治療方針 ▶ p.81 ~
ゲノタイプ 1 型(1b 型)
・高ウイルス量症例に対
して、初回 IFN 治療を行う場合は PEG-IFN α -2a
あるいは PEG-IFN α -2b あるいは IFN βとリバビ
リンとの併用 48 もしくは 72 週治療が推奨されて
「C 型慢性肝炎治療ガイドライン 2010」(厚生労
います。もともと保険認可時の治療期間は 48 週
働省肝硬変を含めたウイルス性肝疾患の治療の標
間でしたが、Late responder(治療開始 12 週目ま
2)
準化に関する研究班)を示します(表 2) 。主とし
でに HCV-RNA が陰性化しなかったものの 24 週
て IFN 治療を意識したガイドラインですので、
目までに陰性化した症例)では 72 週まで治療期間
IFN 以外の治療に関しては別の章で述べます。
を延長することで、著効率の改善(48 週治療で
1. ゲノタイプ1型(1b 型)
・低ウイルス量症例、
40%弱→72週治療で70%前後)
が認められました。
ゲノタイプ 2 型(2a / 2b 型)
・低ウイルス量症
ただし、この結果はアンプリコア 定性法に基づ
例に対する治療方針
いた「HCV-RNA 陰性化」の評価で、測定感度下
®
先の稿で述べましたが、初回投与で低ウイルス
限が低いレンジまで改良されたリアルタイム
量 の 場 合、 ゲ ノ タ イ プ に か か わ ら ず、PEG-
PCR 法では「HCV-RNA 陰性化」時期が従来のア
IFN α-2a 単独療法(24 ~ 48 週)もしくは IFN 単
ンプリコア 定性法での評価より後ろにずれ込む
独療法となり、著効率は 80 ~ 90%と高率です。
ことが容易に予想されます。これらのことをふま
PEG-IFNα-2a 単独療法と IFN 単独療法での著効
え て 最 新 の ガ イ ド ラ イ ン で は、 リ ア ル タ イ ム
率に大きな差はありませんが、それぞれに特徴が
PCR 法で HCV-RNA を評価することを前提に、
あります。PEG-IFNα -2a 単独療法は週 1 回の投
治療開始 12 週後に HCV-RNA が陰性化していな
与ですみますが、毎回投与前に末梢血データを
いものの開始前に比べ 2 log IU/mL 以上低下して
チェックして血球減少がないかを評価し、必要で
おり、36 週目までに陰性化した症例では総治療
あれば薬剤の減量・中止の指示をしなければなり
期間を 72 週まで延長することが望ましいとして
ません。IFN 単独療法は最近では自己注射も認め
います(表 2 ガイドラインの補足 -1)
。
®
られ、頻回の通院というわずらわしさからは解放
リバビリンを併用せずに初回 IFN 治療で著効
されましたが、週 3 回、注射直後でのインフルエ
が得られなかったゲノタイプ 1 型(1b 型)
・高ウイ
ンザ様症状がPEG製剤に比し顕著です。そのため、
ルス量症例の再投与の際も、初回投与例と同じく
自己注射では自宅で就寝前に解熱薬の使用ととも
PEG-IFN α -2a あるいは PEG-IFN α -2b あるいは
に注射することによって、副作用からくる身体的
IFN βとリバビリンとの併用 48 もしくは 72 週治
負担の軽減が工夫されています。
療が推奨されています。
低ウイルス量でありながら、初回 IFN 単独療
法で著効が得られなかった場合の再投与では、
PEG-IFN α -2a もしくは PEG-IFN α -2b もしくは
3.ゲノタイプ 2 型(2a / 2b 型)
・高ウイルス量症
例に対する治療方針
ゲノタイプ 2 型
(2a / 2b 型)・高ウイルス量症例に
IFN βとリバビリンとの併用療法を検討します。
対して初回IFN治療を行う場合は、
PEG-IFNα-2b・
通常、PEG-IFN α・リバビリン併用療法が選択
リバビリン併用もしくは IFN βとリバビリン併
74 ………
レベル
A 表 2… C
型慢性肝炎治療ガイドライン 2010
ゲノタイプ 1 型(≒ 1b 型)
⃝ PEG-IFNα-2b+リバビリン併用療法(48 ~ 72週間)
療法(24 週間)
5.0 log IU/mL 以上
⃝ PEG-IFNα-2a+リバビリン併用療法(48 ~ 72週間)
300 fmol/L 以上
⃝ IFN β+リバビリン併用療法(24 週
⃝ IFN β+リバビリン併用療法(48 ~ 72 週間)
1Meq/mL 以上
間)
低ウイルス量
5.0 log IU/mL 未満 ⃝ IFN 単独療法(24 週間)
300 fmol/L 未満
⃝ PEG-IFN α -2a 単独療法(24 ~ 48 週間)
1Meq/mL 未満
⃝ IFN 単独療法(8 ~ 24 週間)
⃝ PEG-IFN α -2a 単独療法(24 ~ 48
週間)
⃝ C 型慢性肝炎に対する IFN の再治療は初回治療での無効の要因を検討し、治癒目的の治療か、進展予防(発癌予防)を
目指した ALT 値と AFP 値の正常化あるいは安定化のための治療法を選択すべきである。
治癒目的の再治療
1.初回 1 型・高ウイルス量症例で IFN 再燃・無効例への再投与は、PEG-IFN αまたは IFN β+リバビリン併用療法 48 ~ 72 週間
2.初回 1 型・高ウイルス量症例で IFN +リバビリン併用療法再燃(治療後 36 週までに HCV-RNA 陰性化例)への再投与は、PEGIFN αまたは IFN β+リバビリン併用療法 72 週間投与が望ましい。
3.初回低ウイルス量症例で IFN 再燃・無効例への再投与は、PEG-IFN αまたは IFN β+リバビリン併用療法が治療の基本である。
再治療
4.うつ病・うつ状態など IFN αが不適応および PEG-IFN α+リバビリン併用療法でうつ状態が出現した症例に対しては IFN β+リ
バビリン併用療法を選択する。
C
4
C
型慢性肝炎の治療
投与が、治療の基本である。
3
型肝炎の診断と治療
ウイルス量
初回治療
高ウイルス量
ゲノタイプ 2 型(2a / 2b 型)
⃝ PEG-IFN α -2b +リバビリン併用
5.リバビリン併用療法を行う場合には治療効果に寄与するホスト側(=患者側)の因子である年齢、性別、肝疾患進行度、IL-28B
の SNP ▶
p.80
、およびウイルス側の因子である遺伝子(Core 領域の 70、91 の置換、ISDR 変異)
、リアルタイム PCR 法による
ウイルス量などを参考にし、治療法を選択することが望ましい。
※原文を理解しやすいように一部改変しています。
進展予防(発癌予防)の治療
1.リバビリン併用療法の非適応例あるいはリバビリン併用療法で無反応例では、発癌予防目的の IFN 長期投与が望ましい。なお、
IFN α製剤(PEG 製剤を除く)は在宅自己注射が可能。
®
2.IFN 非適応例および IFN で ALT 値、AFP 値の改善が得られない症例は肝庇護剤(強力ネオミノファーゲンシー 、ウルソデオキ
シコール酸)、瀉血療法を単独あるいは組み合わせて治療する。
3.進 展予防(発癌予防)を目指した治療の ALT 目標値は stage1(F1)では、持続的に基準値の 1.5 倍以下にコントロールする。
stage 2 ~ 3(F2 ~ F3)では、極力正常値 ALT ≦ 30IU/L にコントロールする。
⃝ C 型慢性肝炎に対する治療の中止基準:PEG-IFN α+リバビリン併用療法を行っても投与開始 12 週後に HCV-RNA
量が前値の 1/100 以下に低下がなく HCV-RNA が陽性(リアルタイム PCR 法)で、36 週までに陰性化がなくかつ
ガイドラインの補足
ALT・AST が正常化しない症例は、36 週で治癒目的の治療は中止する。
1.1 型・高ウイルス量症例への PEG-IFN α+リバビリン併用療法の投与期間延長(72 週間投与)の基準:投与開始 12 週後に HCVRNA 量が前値の 1/100 以下に低下するが HCV-RNA が陽性(リアルタイム PCR 法)で 36 週までに陰性化した症例では、プラ
3
ス 24 週(トータル 72 週間)に投与期間を延長する。なお、50 歳以上の女性、血小板が 13 万 /mm 以下の症例、または肝生検
*
で F3 の症例では投与開始 9 週目以降(12 週目まで)に、HCV-RNA が陰性化した症例では 72 週間投与も考慮する 。
*:上記下線部は保険適用や医療費助成上、認められるかは不明なので、運用には注意が必要。
2.1 型・高ウイルス量症例への PEG-IFN α+リバビリン併用療法で、投与開始 36 週後に HCV-RNA が陽性(リアルタイム PCR 法)
でも ALT 値が正常化例は、48 週まで継続治療を行い、治療終了後の長期 ALT 値正常化維持を目指す。
3.PEG-IFN α+リバビリン非適応例・無反応例に対する IFN 単独長期療法は、最初の 2 週間は通常量の連日または週 3 回間欠投与
とし、最大 8 週間で HCV-RNA が陰性化しない症例は通常量の半分量を長期投与する。
文献 2 より
用 24 週治療が推奨されています。この治療法に
よる著効率は 80 ~ 90%と高率です。▶
p.81 ~
初回 IFN 単独療法が再燃もしくは無効であっ
たゲノタイプ 2 型(2a / 2b 型)
・高ウイルス量症例
併用 24 週治療が推奨されています。
4 ALT 正常の C 型慢性肝炎患者の
治療ガイドライン
レベル A
に 対 す る 再 投 与 で も、PEG-IFNα-2a あ る い は
IFN 単独療法が認可された当初、ALT 正常の
PEG-IFNα-2b あるいは IFN βとリバビリンとの
HCV キャリアに対する IFN 単独療法は著効率が
……… 75
レベル
A 表 3… 肝
炎の治癒および発癌抑制を目指した血清 ALT 正常 C 型肝炎例への抗ウイルス治療ガイドライン
3
3
血小板数 15 万 /mm 以上
血小板数 15 万 /mm 未満
⃝ 2 ~ 4 カ月ごとに血清 ALT 値フォロー。
⃝ 線維化進展例がかなり存在する。可能なら肝生検を施
血清 ALT 値
ALT 異常を呈した時点で完治の可能性、
行し、F2A2 以上の例に抗ウイルス療法を考慮。肝生検
30 IU/L 以下
発癌リスクを評価し、 抗ウイルス療法
非施行例は 2 ~ 4 カ月ごとに血清 ALT 値を測定し、異
を考慮
常を示した時点で抗ウイルス療法を考慮
血清 ALT 値
31 ~ 40 IU/L
⃝ 65 歳以下は抗ウイルス療法の考慮
⃝ 慢性肝炎治療に準ずる
*
*:遺伝子型(ゲノタイプ)、ウイルス量、年齢などを考慮し、通常の C 型慢性肝炎治療に準じて、治療法を選択する
文献 2 より
低く、さらに治療中・治療後に ALT 上昇をきた
MINOPHAGEN C;SNMC)40 ~ 60mL/ 回を週 2 ~
す症例があったため、「寝た子を起こすだけ」と
3 回──の単独もしくは併用治療です。治療の目
して否定的な見解が多い状況でした。また ALT
標は「ALT 正常上限の 1.5 倍以下に」という設定に
正常 HCV キャリアの多くが肝炎を起こしていな
している施設が多いですが、患者の理解が得られ
いhealthy carrierと考えられていました。しかし、
治療の意欲が感じられるなら、SNMC の回数を
その後の検討で ALT 正常 HCV キャリアの 70 ~
こまめにして、
「ALT 値を正常範囲まで」コント
80%は肝炎を起こしていることが示され、また著
ロールするのが理想です。
しょうさい こ とう
効率の期待できる PEG-IFN・リバビリン併用療
これら以外にも肝庇護薬、小柴胡湯などが C 型
法も出てきたため、ALT 正常 HCV キャリアに対
肝炎に用いられています。血清フェリチンが高い
しても、治療のガイドライン(表 3)を設定し積極
症例に対しては、
瀉血療法や鉄制限食が有効です。
的な治療の介入を勧めるようになってきました。
5 IFN 治療以外の選択肢
リバビリン併用の IFN 治療を行ったものの著
効が得られなかったケース、また IFN 治療が併
存疾患・年齢などによって適応外のケースなどは、
IFN 以外の治療法を検討しなければなりません。
最もよく行われている治療法は、①ウルソデオ
キシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA:ウ
ルソ
®
100mg 錠)600mg(~ 900mg)/ 日 ②強力ネ
文献
1) Okanoue,T.et al.A follow-up study to determine the
value of liver biopsy and need for antiviral therapy for
hepatitis C virus carriers with persistently normal
serum aminotransferase.J.Hepatol.43,2005,
599-605.
2) 熊田博光.肝硬変を含めたウイルス性肝疾患の治療の
標準化に関する研究:厚生労働科学研究費補助金肝炎
等克服緊急対策研究事業(肝炎分野)総括研究報告書.
2010.
3) Prati,D.et al.Updated definitions of healthy ranges
for serum alanine aminotransferase levels.Ann.Int.
Med.131,2002,1-10.
®
オ ミ ノ フ ァ ー ゲ ン シ ー (STRONGER NEO豆知識
ALT 値の “ 真 ” の正常値
血清 ALT 値の正常値は、日本の各医療機関でバラツキがあります。多くは正常上限を 40 IU/L 弱に設定している
病院が多いと思います。
3)
イタリアからの報告 で、供血者のサンプルから、ALT 上昇をきたす可能性のある因子(HCV や HBV 感染の他に、
肥満、アルコール摂取、服薬歴など)を保有しているサンプルを除外して ALT 値の “ 真 ” の正常上限値を検討したとこ
ろ、男性は 30 IU/L、女性は 19 IU/L が適正であると結論しています。
76 ………
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