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肝炎治療と ネットワーク

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肝炎治療と ネットワーク
健康教室
ひろの内科クリニック
肝疾患診療ネットワーク
No.33 2010/2/27
ウィルス肝炎は国内に300万人以上いると言われる国民病です。そのほとんどが無症状
で、進行すると肝癌の原因となります。平成20年4月からウィルス肝炎の治療費助成が
始まりました。まだまだ必要な治療を受けていない患者が多く、また、肝炎ウィルス
に感染していることを知らない人も多いのが現状です。今回はウィルス肝炎の治療と
治療費助成の実際、肝疾患診療ネットワーク、さらに平成22年度から認定される身体
障害としての肝機能障害についてまとめてみました。
なお下記の資料から一部図表や本文の引用をしていることをお断りします。
資料:宮崎県肝炎対策事業 宮崎地区 市民公開講座(H21/12/13開催)
厚生労働省肝機能障害の評価に関する検討会 より
肝癌の原因はウィルス肝炎
図1
今回の主役の肝臓とはどんな臓器でしょうか? 肝
臓はみぞおちから右の脇腹にかけた身体の奥にあって
重さが1-1.5kgと人体で最大の臓器です。その機能は
小腸で分解・吸収された栄養物を利用してタンパク質
やブドウ糖をはじめいろいろな物を合成したり、薬物
や毒物を解毒する重要な役割をしています。肝臓の悪
性腫瘍である肝がんは、年々増加しており最近では年
間3万人以上が肝がんで死亡しています。またその原
因のほとんどがウィルス肝炎で、80%がC型肝炎ウィ
ルス感染で、B型肝炎ウィルス感染もあわせると90%
以上を占めます。(図1および2)最近では非アルコー
ル性脂肪性肝炎(NASH)も肝がんの原因であると言わ
れています。B型、C型肝炎ウィルスは血液を介して感
染しますが、B型では成人で感染してもまず慢性肝炎
になることはなく、慢性肝炎のほとんどが母子感染な
どの幼小児期の感染によるものです。一方、C型では
図2
輸血、血液製剤、刺青などで感染すると約70%が慢性
肝炎になります。現在では医療行為・血液製剤による
C型肝炎ウィルスの感染はほとんどありません。
慢性肝炎が進み肝硬変になると発がんの危険性が増し 図3
てきます。特にC型では肝硬変(血小板数が10万以
下)になると年率で8%に肝がんを発症します。(図
3 )肝がんを予防するためには慢性肝炎のうちに治療
することが大事ですが、この病気はほとんど症状がな
いため、肝炎ウィルスに感染している事を知らずにい
ることが多いのです。肝炎ウィルスに感染しているか
どうかを調べるために、HBs抗原とHCV抗体の検査を積
極的に受けましょう。まずは各保健所にご相談下さい。
1
ウィルス肝炎の治療
C型肝炎は非A非B型肝炎といわれ、長い間
原因不明の肝炎でした。1989年にC型肝炎
ウィルスの存在が明らかとなり、インター
フェロン(IFN)による治療が1992年から行
われました。現在でもIFNが治療の主役で
す。しかしながらIFN単独による治療効果
は低く、特に日本人に多い1b型でウィル
ス量の多いC型肝炎ではウィルス除去率が
3-5%しかありませんでした。その後開発さ
れた経口の抗ウィルス剤(リバビリン)と
の併用でその治療効果が高まり、近年は体
内で長時間作用するペグ・IFN製剤の週1
回の皮下注射とリバビリンの内服という併
用療法でかなりの治療効果が期待できるよ
うになりました。(図4)現在さらに新しい
抗ウィルス剤の開発が進められています。
またB型肝炎に対する治療は経口の核酸
アナログ製剤(抗ウィルス剤)が用いられ
ており、現在ではバラクルード(エンテカ
ビル)という薬が第一選択薬となっていま
す。しかしながらB型肝炎の場合はウィル
スを除去することが困難で、抗ウィルス剤
を長期間服用しなくてはならず、治療終了
時期の決定が難しいのが現実です。
図4
図5
肝炎は継続性のあるケアが必要
ウィルス肝炎は慢性肝炎、肝硬変、
肝がんというように徐々に進行する
ため、長期にわたるケアが必要にな
ります。たとえばC型慢性肝炎に対
(除去)
(不完全効果) (無効)
し、IFN治療によりウィルスを除去
することができた場合でも、すでに
発がんしている可能性もあり、10年
図6
間は定期的にフォローする必要があ
ります。
またウィルスを除去できなかった場合は病気の進行を遅らせるために一層長期にわた
る治療が必要です。定期的な血液検査の他に少なくとも6ヶ月に一度は超音波検査や
CT検査などを行います。また、食道静脈瘤などの合併症の診断・治療のために内視鏡
検査も必要になってきます。そのためこれらの患者は主治医であるかかりつけ医だけ
でなく3-6ヶ月に一度は専門医を受診することになります。(図6)
2
肝疾患ネットワーク
前項でも述べたようにウィルス肝炎は自
図7
覚症状に乏しいため、積極的な治療をせ
ず経過を見ることになりがちです。しか
しその結果病変が進行し、発ガンを早め
てしまうことにつながります。新しい有
効な治療法について深く認識しなければ、
適応を誤り、いたずらに患者を苦しめる
ことにもなります。かかりつけ医が診療
している疾患は多岐にわたり、肝疾患は
その一つにしか過ぎず、しかも多忙な日
常診療のなかで、日進月歩する専門的治
療に追いつくのは困難です。またウィル
ス肝炎は長期間の治療やフォローが必要
です。したがって一次医療機関(かかり 表1
つけ医)と二次医療機関(専門医)と機
能を分担し、密な連携で患者を診療して
いくことが必要なのです。二次医療機関
では経時観察ですむ患者や、一定の治療
で安定している肝炎患者までも診る必要
はありません。(図7)当院は肝臓専門医
ですが、肝がんの治療は設備の整った専
門病院と連携をしています。 (表1)進
行した疾患では緊密な連携診療が必要に
なってきます。
厚生労働省は平成20年に「肝炎治療7ヶ年計画」を発表しました。その中の大きな柱は
後述する肝炎の治療費助成の他に、肝炎ウィルス検査の促進、肝疾患診療連携拠点病院を
選定し、肝疾患診療ネットワークを構築することなどが挙げられます。昨年、宮崎県でも
独自の基準を設け肝疾患診療ネットワークが構築されました。連携拠点病院は宮崎大学医
学部附属病院です。宮崎県には平成21年現在、肝臓専門医が22名しかおらずしかも宮崎市
郡に集中しています。そのため宮崎県では肝疾患専門医療機関を肝臓専門医だけでなく、
IFN治療の導入や治療方針の決定、肝がんの診断ができる施設 (40機関)とし、IFN治療
(継続治療)実施機関を協力医療機関(58機関)として認定しました。詳細は県のホーム
ページをご覧下さい。(http://www.pref.miyazaki.lg.jp/contents/org/fukushi/kenko/kansikan_network/page00121.html)
患者さんを中心としたツール
「肝炎ネットワーク手帳」
図8
この肝疾患ネットワークにおいて病診連
携をおこなうには、患者さんを中心とし
たシステムであることが重要です。我々
はそのためのツールとして「肝炎ネット
ワーク手帳」を作っています。現在はC
型肝炎におけるIFN治療とその後のフォ
ローに役立てています。(表8)次頁の
治療助成の場合も便利につかえます。
B型肝炎にも対応した手帳も近々作成す
る予定です。
3
肝炎治療費助成
平成20年4月より厚生労働省は肝炎治療助成事業を始めました。対象はB型およびC型
肝炎ウィルスの除去を目的としたインターフェロン(IFN)治療ですが、B型に関して
はIFN治療の適応患者が少ないため、平成22年度からはB型肝炎に対する核酸アナログ
製剤治療(経口抗ウィルス療法)も対象になります。期間は原則1年間ですがC型肝炎
に対するIFN治療は最長1年半まで延長が可能で、B型肝炎に対する経口抗ウィルス療
法は必要により年次更新を認めるようです。(表2)
また自己負担限度額(月額)は患者の属する世帯の収入により1万円、3万円、5万円
に分類されていましたが、平成22年度からは表3のように1万円、2万円の2群に分けら
れます。なお平成20年度は県内で513名が治療費助成を受けましたが平成21年度は1月
末現在で196名とその受給者が減少しています。まだまだ周知されていないのではな
いかと思います。
表2
表3
肝機能障害が身体障害の対象に
平成22年4月1日より「肝機能障害」が新たに身体障害の対象になります。その認定には身体障
害者福祉法第15条指定医による診断書・意見書の作成が必要です。その対象となる肝機能障
害とは表4に示すように回復困難な肝硬変でその原因は問いません。そして対象となる肝機能
障害の程度はChild-Pugh分類(表5)のグレードCという非常に重症の状態です。またそのほかに
肝臓移植後で抗免疫療法を継続して受けている患者も対象です。障害の等級は1級・2級・3
級・4級とあり、肝臓移植後の患者は1級になります。肝硬変でChild-Pugh分類グレードCの中
でもその重症度と日常生活活動の制限の度合い(表5)が勘案されて1~4級に分かれます。
表5
表4
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