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7 - 新潟大学

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7 - 新潟大学
RADIOiSOTOPES,55,709・718 c 2⑪⑪6}
原 著
ll馴lll川i川川1‖旧llllll川1川ll
異なる3種の官能基を持つ
(7)
L−システイン酸とL−システインの反応性の同時解析
今泉洋,長澤智史,狩野直樹
新潟大学自然科学系(工学部)
‡新潟大学大学院自然科学研究科
950−2181新潟県新潟市五十蟻i二の町8050
2006年7月18日 受理
生態系に及ぽすトリチウム(3H又はT)の影響とHを含む物質の反応性を明らかにするため,
同一分子内に異なる3種の官能基を持つL一システイン酸とL 一一システインの反応性を追究した。
これらの物質とHTO蒸気との問の水素1司位体交換反応(T−for−H交換反応)を50∼70℃の温度
範囲で観測し,得られたデータとA”−McKayプロット法とを用いて各々の反応を解析した結果,
次のことが明らかになった。(1)異なる3種の官能基を持つこれらの化合物中の各官能基の反応性
は温度の上昇に伴い増加する。(2)L−’システイン酸中のSO3H基の反応性は, COOH基の反応性の
およそ2.6倍であり,NH2基の反応性のおよそ5. 8倍である。(3)L一システイン中のSH基の反応
性は,COOH基の反応性のおよそ1.4倍であり,NH2基の反応性のおよそ3.5倍である。(4)NHコ基
は電子求引性の大きい置換基が置換すると反応が促進されるが,COOH基ではあまり影響がない。
(5)異なる3種の官能基を持つ脂肪族化合物について,ピーMcKayプロット法を使うと,その物質
の反応性を,マスク剤等を使わないで非破壊的・薄時分梼釣に明らかにできるe(6}ある種の物質
へのT取込みの程度を,非破壊的・定量的に明らかにできる。(の本研究で欝られた繕果は,環境
中のT汚染防止のために役立ち,また今後,複数の官能基を持つある種碍麹巽の衰応{生を追究す
るための解析手法として役立つ。
ト
Key Words l simultane皿s analysis of reactivity. gas−solid reactien, L£ysteic acid. L−cysteine、
functional group,ピーMcK且y pl⑪t
ることは重要である。
1.緒 言
T標識化合物中のTは,他の化合物中のiH
一般に,トリチウム(3H又はT)は自然界
と容易に交換する(T−fer−H交換反応2りこと
にわずかに存在する(iH:T=1:10−IB>程度
がしられており,主に,−NH,・,−OH,一一COOH,
で,その崩壊によって放出されるβ一線の最大
一一
bHO,−SHなどの官能基中のHIと交換する
エネルギーは18.6keVと非常に低いため, T
場合が多い。このようなHを持った化合物が
の外部被曝による危険性は極めて低い。しかし,
起こすT・for・H交i換反応を追究することは, T
一度生態系に取り込まれると,生態中の物質と
の挙動を追究する上で,また,H原子を持つ物
の間でT−for−H型の水素同位体交換反応を起こ
質の反応性を追究する上で,重要と思われる。
し,生体中に取り込まれる1)ため,内部被曝の
そこで,Tの挙動やH原子を含む物質の反
危険が指摘されている。また,将来予測されて
応性を明らかにする目的で,これまでに,不均
いる核融合反応(d−t反応)にもTが使われる
一系(固気系3)・4吸び固液系5’・fi))でのT・for−H
と予想できる。したがって,Tの挙動を追究す
交換反応を数多く観測し,得られたデータに
(3)
一101一
RADIOISOTOPES
710
Xi ol.55, No.12
Table l Solid materials used in this work
Solid inaterial
Supplier
Purity
(Abbreviation)
L・・Cysteic Acid
COOH
>98%
Tokyo Kasei Kogyo Co,LTD
>98%
丁ekryo Kasei Kogyo Co., LTD
l
H・N−一(i)H
(?H,
SO3H
(Cya)
L−Cysteine
COOH
t
H2N−(i)H
‘i)H・
SH
(Cys)
A”−McKayプロット法3}1 ’1)を適用し,これらの
2. 実 験
反応の速度定数働を得ることで,上記の目
的を速度論的解析法を用いて追究してきた。そ
2・ユ 気体試料物質とその調製
の結果から,Tがそれぞれの物質に与える影響
気体試料物質には,日本アイソトープ協会か
の度合いを定量的に表すことができた。更に,
ら購入したトリチウム水(HTO水,比放射能
一分子中に:複数の異なる種類の官能基を持つ物
=1.9×108Bq・g”i)を蒸留水で希釈(比放射
質についても,非破壊的にその官能基の反応性
fit 6. O× 105 Bq・9一ユ)したものを用い,このHTO
を互いに定量比較できることも報告した7)一%
水を真空ラインで水蒸気とし,気体試料として
以上の研究の一環として,本研究では,同一
用いた。HTO水の比放射能は,液体シンチレ
分子内に3種の異なる官能基(COOH基, NH,
ーションカウンタ(液シン)(Aloka LSC−5100)
基,SO,iH基(又はSH基))を持つ脂肪族化合
で正確に測定した。Tの半滅期は12.3yであ
物(L一システイン酸(又はL−一システイン))
るため,この比放射能の補正を計算によって約
とHTO蒸気との聞のT−for−H交換反応を固気
3か月ごとに行った’。
系で観測し,得られたデータとA”−McKayプ
ロット法を用いてこれらの反応を解析し,その
2・2 固体試料物質とその調製
物質が持つ官能基の反応性をそれぞれの官能基
実験で使用した固体試料物質とその購入先を
ごとに非破壊的にleとして定量化することで,
Table 1に示す。これらは,3種の異なる官能
Tがその物質に与える影響を実態に則した形で
基を持つ脂肪族化合物(L一システイン酸とL一
定量的に明らかにすることにした。
システイン,以下,CyaとCysと略記)である。
これらの固体試料をめのう乳鉢を使って粉砕
し,分析ふるいを用いて粒径を53∼75μmに
揃え,恒量になるまで80℃で真空乾燥した後,
(4)
−102−一一
Dec.2006
今泉・他:異なる3種の官能基を持つt一システイン酸と1.一システインの反応性の同時解析
711
褐色の保管用バイアルに入れ,シリカゲルデシ
ケーター中で保存した。
1.5
苫
「と)
2・3 T−for−H交換反応の観測
二 LO
実験方法や使用した真空ラインについては,
宣
ξ
以前の報告“・】°)の通りであり,HTO蒸気とCya
呂
(又はCys)との間で起こるT−for.H交換反応
0.5
言
已
を固気反応の形で観測した。反応後,それぞれ
の固体試料の溶液(Cyaについては,2.00 cm3
061020304050
のイオン交換水に,Cysは3. 00 cm3の0.5
mo1・drn−3HC1水溶液に,それぞれ溶解したもの)
Mass of L−Cysteine used per run∫mg
の1. 00 cm3をバックグラウンド既知の液シン
Fig.1 Total activity of sohd sample materiah・∫.
に入れ,この放射能を液シンで測定した。なお,
mass of the material for the reaction.
観測温度は50,60,70℃の三つである。
Gas sampge material : HTO vapor
次に,得られた観測データにA”−McKayプ
Reaction temp.:70℃
ロット法を適用して,その試料物質の速度定数
Reaction time l 1.O h
(k)を算出した。
は,−K OOH,−NH,,−SO,H,−OH中のH及び
2・4 A ”−McKayプロット法の適用条件の
HTO中のHとTだけであるということができる。
確認
観測により得られたデータにA”McKayプ
3・2A”−McKayプロット法の適用
ロット法を適用するためには,例えば固気反応
2・4に基づき,大過剰であることを確かめる
においては,「固体試料表面付近に存在する反
実験を行った。概略は以下の通りである。この
応に関与する1H原子とT原子との総和」より
大過剰の条件が満たされているとき,ある反応
も,「この周りに存在するHTO蒸気のiH原子
時間での固体試料の全放射能は,その質量に対
とT原子の総和」の方が,圧倒的に多いとい
し比例すると考えることができる(言い換える
う大過剰の条件5)・11)を満たしていることの確認
と,固体試料物質の比放射能は一定となる)。
実験を行った(言い換えると,一次反応近似と
なお,1回の観測に用いるHTO蒸気量は全て
して反応を解析できるための条件を満足してい
の観測において7.22mgである。そこで,反
ることを,1回の観測に使用する固体試料の質
応量が半分程度となる反応時間を実験で見積も
量を変えて実験した)。
った結果,Cya・ O.8h, Cys=1hであった。
次に,1回の観測に用いる固体試料の質量を変
3.結果と考察
えて,この反応時間内に試料が持つようになる
3・1T−for−H交換反応に関与する水素原子
放射能(言い換えると,この時間までに反応し
CyaとCysには,炭素原子に直接結合して
た量)を測定する。70℃で行ったCysの結果
いるH原子と3種の異なる官能基中にあるH
についてFig.1に示す。 Cyaについても同様
原子とがあるが,以前の報告5)・ 12)から,アルキ
の結果が得られた。この図から,観測範囲にお
ル基や炭素直鎖に直結したHは今回の場合,
いて固体試料量と反応量との間によい直線性が
反応に関与しないと考えてよいことがわかって
あることがわかる。また,「ユ回の観測に用い
いる。したがって,ここで反応に関与できるH
る固体試料の質量と反応でこの試料が得た放射
(5)
一 103一
RADIOISOTOPES
712
1.5
VoL 55, No. 12
1.5
bO
〒oo
≡
冨
E
E
巴Lo
べ
1.0
.菅
.量
占
芸
8
邑0.5
£
目
’5
O.5
’歪
置
昔
口
t/h
t/h
Fig.2 Tspecific activity vs.亡ime for the reaction
Fig.3 Tspec述c activity vs. time for the reaction
between L−Cysteic Acid and HTO vapor.
betweenレCysteic Acid and HTO vapor,
△170℃,●150℃
Reaction temp.:60℃
能とが比例する部分」を「条件を満たす範囲」
で起こるT−for−H交換反応は以下のようになる。
とすることができる。即ち,この図で示される
直線の範囲内であれば,1回に使う試料の量に
COOH−CH(NH2)−CH2−SO3H+HTO口
関係なく,単位量あたりの反応量は一定である
COOH−CH(NH言)一一CH,−SO3T+H20 (1)
ということであり,HTO蒸気量が固体試料量
COOH−CH(NH2)−CH2−SO3H+HTO≠
に比べて大過剰であることがわかる。したがっ
COOT−CH(NH2)−CH2−SO3H+H,O (2)
て,有効数字や実験の容易さなどを考慮に入
COOH−C且(NH2)二CH,一一SO,H+HTO2
れ,1回の反応に使う固体試料量はCyaとCys
COOH−CH(NHT)−CH2−−SO3H+H20 (3)
の両方とも15.Omgとした。
COOH−C且(NH2)−CH2−SO3T+HTO t
COOT−CH(N且2)−CH2−SO,T+H20 (4)
3・3 L一システイン酸の反応性
COOH−CH(NH2)一℃Hz−SO3T+HTO#
2・2の方法で調製したCyaを使って,2・3で
COOH−CH(NHT)−CH2−SO3T+H20 (5)
示す観測を行った。その観測結果について,50
COOT−CH(NH2)−CH2−SO3T+HTO=±
と70℃のものをFig.2に示す。この図から,
COOT−CH(NHT)−CH2−SO3T+HzO (6)
次のことがわかる:(1)時間と共に反応量が増
大していることから,T−for−H交換反応が起こ
以前の報告13)一!6)から,COOH基及びNH2基
った,(2)温度が高いと反応量は大きい,(3)両
の反応性については,COOH基の方が2−−3倍
方の温度のプロットとも,屈曲点が三つ存在す
程度NH2基よりも大きいこと,また, SO3H基
る,(4)温度が高いと,各屈曲点までの時間が
の反応性はCOOH基よりも大きいことがわか
短い。次に,60℃のものを用いて,それぞれ
っている。したがってFigs.2,3では次のよう
の屈曲点に,時間の小さいものから(A),(B),
に反応が進行したと考えることができる。
(C)と記号をつける(Fig・3)。ここで, Table 1
(1)反応開始から(A)までの部分
に示す通り,Cyaには三つの官能基(SO3H基,
反応開始直後,物質表面におけるSO,H基と
COOH基, NH2基)が存在する。
COOH基とNH2基が共に反応し((1>一(3)式
したがって,これらの官能基とHTO蒸気と
が同時に進行),(A)でSO,H基の表面での
(6)
−104一
今泉,他:異なる3種の官能基を持つL−一システイン酸といシステインの反応性の同時酵柘
Dec.2006
713
2.5
2.5
2.0
2.0
言
言
元
元1.5
’き
さ
1.s
ii
1;
元
♀
ぎ1・o
T
1.O
O.5
O.5
0
5
10
15
20
〃h
t/h
Fig.5 パーMcKay plots for the COOH group in
Fig.4パーMcKay plots for the NH:, group in L・Cys・
L−Cysteic Acid in the reaction,
teic Acid in the reaction.
△:70℃,O:60℃,○:50℃
△:70℃,○:60て),●:50℃
反応((1)式)が平衡に達する。
次に,(A)∼(B)までの部分において,(上で
(2)(A)から(B)までの部分
求めた)ki TH。をもとに計算によって反応量を求
め,これを(A)∼(B)の反応量から差し引いた。
COOH基とNH,基が共に反応し((4),(5)式),
その差し引いた反応量をもとに,今度はCOOH
(B)でCOOH基の表面での反応((4)式)が平
基のみが反応に関与する部分(即ち,(A)∼(B)
衡に達する。
(3)(B)から(C)までの部分
間)にA”−McKayプロット法を適用して,
(C)でNH,基の表面での反応((3)式)が平衡
COOH基のhc。OHを求めることにした。ここ
に達し,その結果,(6)式で示す平衡となる。
で,COO且基のA”−McKayプロットをFig. 5
(4)(C)以降
に示す。この図において,xは(A)∼(B)間の
固体試料表面から内部への拡散が進行する。
放射能値からNH,基の放射能値を差し引いた
もので,.Xc。{F)は(B)において試料が持つ放射能
3・4 各官能基の反応性
値からNH2基のものを差し引いた値である。
Fig.3において, NH2基のみが交換反応に関
なお,破線は原点への外挿を示す。ここで,前
与する部分((B)から(C)までの部分)に,ゴー
述のようにパーMcKayプロット法では,』この
McKayプロット法を適用することで, NH2基
直線の傾きがそれぞれの試料物質におけるその
の速度定数(kNH,)を求めた。ここで, NH,基
温度でのkを示すので,この図の直線の傾き
のA”−McKaYプ「ロットをFig.4に示す。この
がその温度におけるCOOH基のkcoaHとなる。
図において,xは(B)∼(C)間のある時点
最後に反応開始から(A)までの部分におい
での試料の放射能,x。。㈹は(C)において試料
て,計算によって求めた「N昆基とCOOH基」
が持つ放射能3)・4)である。また,この図におけ
の反応量を全体の反応量から差し引いたものか
る直線の相関係数はすべて1%有意の条件を満
らSO,H基の反応量を求めた。これを基に, Cya
たしているlll。なお,図中の破線は原点への外
中のSO,H基のパーMcKayプロットを作った
挿を示す。以上を基に,この図の直線の傾きか
(Fig.6)。この図の直線の傾きからSO,H基の
ら輪1,を得た。
hso,Hを得た。
(7)
一105一
714
RADIOISOTOPES
Vol.55, No.12
一〇.3
三
(−O.6
く 1.5
三
苧
毫
き
莇
S−o.9
一♀
2
0.5
一12
2.9
t/h
3、0
3.1
τ’1/kK『1
FiSr.6 A ”−McKay plots for the SO,H group in
レCysteic Acid in the reaction.
Fig.7 Arrhenius plots for the SO,H, COOH, and
△:70℃,○:60℃,●:50℃
NH1 groups in L−Cysteic Aci(L
◆:SO,H group,□:COOH group,▲l
NH2 group
このようにして得た各官能基のkをTable 2
Table 2に一緒に示す。
に示す。この表から,各官能基に温度依存性が
次に,Cyaと同様の解析手法を用いて, Cys
あることがわかったので,これらの値を使って
中の各温度における各官能基(SH基, COOH
CyaのArrheniusプロットを作成した(Fig.7)。
基,NH2基)のh(Table3)を求め,その値を
この図から,各プロットには良い直線性が認め
使って,CysのArrheniusプロットを作成した
られた。即ち,この温度範囲では,T−for−H交
結果,Cyaと同様に良い直線性が認められたの
換反応が主体であることがわかる。また,それ
で,その傾きからCysのE,を求め, Table 3に
らの傾きから活性化エネルギー(E、)を求め,
一緒に記す。
Table 2 Rate constants(h)and activation energies(Ea)for the SO3H, COOH and NH2 groups
in L・Cysteic Acid
Functional
Ea
Je / 10−2 h’1
gr皿p
50℃
60℃
70℃
kJ・mor1
SO3H
31
39
43
15
COOH
13
14
16
9.5
NH2
5.4
6.3
7.8
17
Table 3 Rate constants(k〕and activation energies(Ea)for the SH, COOH and NH2 groups
in L・Cysteine
Functional
Ea
克 / 10−2 h−1
50℃
60℃
70℃
kJ・mor1
SH
18
20
23
11
COOH
13
15
17
12
NH2
45
5.8
7.2
22
9「oup
(8)
一一
@106一
Dec.2GO6
今泉,他1異なる3種の官能基を持つL一システイン酸とL一システインの反応性の伺時解析
2.S
25
2.0
2.0
言
言
』
亨
El
i.5
苫1・5
二
毫
函
♀
715
1.0
島ID
9
0.5
05
00
t/h
5
10
15
20
t/h
Fig. 8 A”−McKay plots for the functional groups
Fig.9 A”・McKay plots for the functional groups
in L−Cysteic Acid in the reaction,
inレCysteine in the reaction,
Reaction temp、:70℃
Reaction temp、 : 70℃
◆:SO,H group,□:COOH group,▲:
■:SH group,[コ:COOH group,▲lNH,
NH2 group
group
3・5 各物質中の官能基の反応性
70℃ hso、H : kcooH=2. 7:LO 臼2)
Tables 2,3は,各物質の反応性を官能基ご
以上から,T−for−H交換反応において50∼
とに表している。そこで,これらの表を使うと,
70℃の温度範囲において,次のことが定量的
各官能基同士の反応性や温度依存性を実態的に
に明らかになったe1)Cya中の各官能基の反
相互比較することができる。
応性は温度の上昇と共に増加する。2)Cya中
また,70℃におけるCyaとCysの各官能基
のSO,H基の反応性は, COOH基のそれの約
についてのA ”−McKayプロットを,それぞれ
2.6倍であり,NH,基のそれの約5.8倍である。
Figs.8,9に示す。これらの図から, Cyaと
3)Cya中のCOOH基の反応性はNH2基のそ
Cysの各官能基の反応性の違いを非破壊的・実
れの約2.2倍である。4)Enでは, COOH基の
態的に求めることができる。
ものが一番小さく,他のものよりも反応性に及
ぼす温度の影響を受けにくい。
3・6 システイン酸とシステインの反応性
Cyaと同様の解析により,CysのT−for−H交
Table 2に基づいてCyaの各官能基の反応性
換反応について,50 一 70 ℃の温度範囲で,以
を相互比較すると以下の通りとなる。ここで,
下のことが明らかになった。(1)各官能基の反
NH2基のkを1.0として比をとる。
応性は温度の上昇と共に増加する。(2)SH基
50℃ 丸so,H:kcooH:kNH, = 5. 7:2.4:1.0(7)
の反応性は,COOH基のそれの2.5倍であり,
60℃ k so、H : kcooH:kix・H, = 6. 2:2.2:1. 0(8)
NH,基のそれの3.5倍である。(3)COOH基の
70℃ kso、H:fecooH:hNH,=5.5:2.1:10(9)
反応性は,NH2基の反応性の1.4倍である。(4)
更に,SO、H基とCOOH基を比較する為に
EaではCyaと同様, NH,基のものが一番大き
COOH基のhを1.0として比をとると以下の
く,他のものよりも反応性に及ぼす温度の影響
ようになる。
を受けやすい。
50℃ hso,fl:kcooH = 2.4:1.0
(10)
60℃ kse、H:hcoo}i=2、 8:1.0
(11)
(9)
一107一
RADIOISOTOPES
716
Table 4
Vol.55, No.12
The values of the rate constants(占}and of rhe relatis’e atomic charge of the N(or O〕
atom il)each sample materiat obtained by MOPAC method
Functional group
Relative atomic charge of N (or
(le・/lTl)at 50℃
O) atOlll
NH2 in Cya
5.4
NH2 in Cys
4.5
COOH in Cya
13
COOH in Cys
13
一〇.26 1
一〇.264
一〇.295
一〇.309
3・7 MOPAC法を使った反応性の相互比較
Table 4に示す。更に,同様の方法で各物質の
CyaとCysとは構造式COOH−CH(NH,)−
COOH基中の交i換可能なH原子が結合してい
CH2−−Xで表すことができる(Cya:X=SO,H,
る0原子の相対電荷も求め,各物質中のCOOH
Cys:X=SH)。即ち,この2物質の違いは置
基のhと一緒にTable 4に示す。 Table 4より,
換ng Xだけである。したがって, CyaとCys
NH2基のN原子の負電荷が大きいとkが小さ
のCOOH基とNH2基の反応性は置換基Xの影
いことがわかる。このことからNH,基に対す
響を受けるものと考えられる。Tables 2,3
る置換基Xによる1効果の影響はMOPAC法
から,以下のことがわかる。(a)CyaとCysの
を用いることで,相対的に明らかにできる可能
NHz基の反応性を比較するとCyaの方が大き
性が高い。
い。(b)CyaとCysのCOOH基の反応性を比
(b)については,COOH基中のO原子の電
較すると,両者とも同程度である。(c)COOH
荷は,Cysの負が大きいのに対して,反応性は
基とNH,基のEaを比較すると,どちらの試料
両者とも同程度である。これはCOOH基がπ
物質においてもNH,基のほうが大きい。
電子を持つため,立体的な影響を受け,王効果
ここで,(a)について以下の考察を行う。置
による影響が抑制されたと考えることができる。
換基Xが持っ誘起効果庄効果)について考え
また,(c)については,COOH基がπ電子を
る:SO3H基とSH基はどちらも電子求引基で
持つことから,NH2基に比べH原子の自由度
あるが,SO,H基はSH基と比べると電子求引
が大きいため,温度による影響が小さくなった
性が大きいため,前者はNH,基の電子をより
ものと考えることができる。
強く求引すると考えられ,そのためCya中の
以上から,T−for−H交換反応の反応性は1効
NH,基はCys中のものに比べ, Hが脱離しや
果や立体的な影響など様々な影響を受けている
すく,反応性が増大することになる。このこと
と考えられる。NH2基のようにπ電子を持た
を半経験的分子軌道法プログラムである
ない官能基については1効果による影響が大き
MOPAC法17〕を用いて定量的に評価することが
いと考えられ,N原子の電荷を計算することで
可能18}である。
反応性をある程度推定できることがわかったが,
そこで,各物質中のNH2基において,交換
COOH基のようにπ電子を持つ官能基につい
可能なH原子が結合しているN原子の相対電
ては,電荷を計算することだけでは,その反応
荷をMOPAC法を使った分子軌道計算ソフト
によって求め,各物質中のNHz基のhと共に
性を推定することは難しく,反応性を推定する
ためには立体的な影響なども考慮しなければな
(10>
一108一
1)ec.2006
今泉,他:異なる3種の官能基を持つL一システイン酸とL一システインの反応性の同時解折
717
らないことも予想できた。
6]Iniaizumi. H.. Sasaki. T. and Okada, M., RadiocJtim.
以上,本研究で得られた結果は,物質の反応
Acra,49,,53−55{ig90)
性に及ぼす種々の効果や影響を総合的に数値で
7}Imaizumi. H., Sakai、 H. and Kano. N,.」. Ra‘ti‘」a,iaL
表しており,これを用いることで,反応性を相
Nitc・L CIte川.,241.451455口999)
互比較できること,今後予想されるT汚染防
8}Irnaizumi, H.. Koyanagi. T. and Zhao, D.,⊥Ra.
dieanal. NttcL Chent..252,467472(2002)
止の基礎データとして利用できること,がわか
9)今泉 洋,斎藤博美,狩野直樹,RA DiOISOTOP・ES.
った。
55,183・190(2006)
なお,本研究の非破壊的手法は,各官能基の
10)Okada, M, and lmaizumi. H., Radiocltim. Acta. 37.
電子状態等を変化させないで,その反応性を求
161−164(1984)
めることができる。即ち,実態分析が可能であ
11} 今泉 }羊,‡i『松 flSIE.1苅田 實; 日イヒ,1988,1753.
ることがわかる。
1755
12)Imaizumi, H.. Kobayasi. K. and Okada. M.. Radio・
chim. Acta.42.151454(1987}
本研究を行うにあたり,株式会社フジクラよ
工3)岡田 實,今泉 洋,佐々木達也,日化,1989,150・
り,工学研究のための助成を受けた。
152
14)岡田 實,今泉 洋,伊藤智子,日化,1991,1143−
文 献
1145
1}Hisamatsu, S. and Takizawa Y.,」. Radioanal.
15)ImaizumL H., Muramatsu. K. and Endo, T.. Radio−
Nttcl, Chem., Art.,197,271−280(1995)
ch itit. Ac’t‘1,61.53−56(1993)
2)今泉 洋,i高分子加工,42, 382・386(1993)
16)今泉 洋,松田秀和,日化,1993,1024−1028
3)Okada, M., Imaizumi,且., Satoh, H. and Kobayashi,
17)Stewart, JJ.P., int’J. ettanttt’lt cheiit..58,133−146
K.,Radiochim, A cta,38,49・52 Q 985)
(1996)
4)岡田實,今泉洋,小林一治,佐藤浩之, RADIO−
18)今泉 洋,長澤智史,篠原雷彦,狩野直樹,llADIO−
ISOTO、P、ES「,35,9・14(1986}
ISOTOPES,54.139−143(2005)
5)今泉 洋,内田和仁,岡田 實,日化,1988,853−857
(11)
一一一
@109 一一
RADIOISOTOPES
ア18
V凸1.55.No.12
Abstract
Simultaneous Analysis of Reactivity of L-Cysteic Acid or
L-Cysteine Having Three Different Kinds of Functional Groups
HiroshiIMAIZUMI, SatoshiNAGASAWA and NaokiKANO
Departmen亡of Chemistry and Chemical Engineering, Faculty of Engineering, Niigata University
*Graduate School of Science and Technology, Niigata University
8050 lkarashi 2−Nocho, Niigata−shi, Niigata Pref.950−2ユ81,Japan
In o”der to clai・tl6’加1/1 the qffectのF f’・ititlM(3H o’・T)o’l r1昭eCOS)・steln and t∬le r・eactiyめきげ川areria「∫
∫rピ∼11加gHロ’o川∫, the’・eactiT・’tyげLつ,steic aci∂(01・L・・c}・steine)ha、・’」79’∫?,・ee dt[ffe’・e’πkinds ofプ…tnロiOila互
91・αイps Si・as sttttl’ed, Titeノリ・d’・ogen−isotope ex’change 1・eactioll betVt,een each COMPOIti1ゴand HTO vαpor{T−
Jb,・・Hετc∫1ω18ε解αCf’o’1)11・as obsen・ed at 50−70℃, and ti昭1’eact「on vvas aJial),:ed M’ith both the A”・McKa.v
piot method伽d・the dataロbta”re4幽”i the euchange”eacrion. Thefolioivii]9・se:,en脚惚rs hai,e been coi]オε一
(lue’tt!y」b1‘月∂’月’he Tゴ危n・−H召、uchan8e l・eacr’o’L rノ, Tiie react’v「り, ef the fi’11ct’onal grOt{ρオiil each COinPOitnd
increases Ii・ith ineiでasilrg temper(’r£tl・e, f2」As rθL−c.vs’eic acid, fノ昭react輌1,ity qf SO3H gi・OttP is 2.6tilnes
g,・ea ter t「1‘,」1 f/iat of COOH one, and is 5.6 tiines g,’earei・thaii that of NH2 one.‘3,、4s fO L一の・s’eiile,苗θ∫・eac−
’∴,’ty of SH gt’Ol伊rエノ.4∫’Jnes gl’eater’llall賄ロt 6『COOH o’le, anゴ3,5 tii,res g1’eateJ・thair that of NH2 one,
r4/7Tle 1’eact↓㌍∫tv of NH28i・Olq,」P”08”essed・by fゐe Sttbstitt(ent ha}・ing large electron−ath’act輌ve effect, hovt,ei・{!1白,
fゐ・脚c∫∫晦,・f COOH 9”・t‘ρ』∫η・’s・pr・9、res輌suel1 a・substin‘ei!t. (5) Applying t∬leぽ一McKay p’・’
’ne∬hod, the jLeacti、,∫砂げ’he thi’eejunctiona’8”oups’n each aliphatic conrpound can be nond召∫∫”ucti、昭ly and
∫η川’∫’aneottsわ1 clai・苗e4聞由肖∫昭COJIゴ’∫fαl qfno’1・mask輌ng rea8en’. r6, D召8陀已q『T一加corPOI’ation’n a cer−
tain’押at{el’ia∬can be llo11ゴest」’tイ‘’1’vely and「quantitatil昭ら, dロ”{fied.(7)The resu「ゴ50btained輌12’his wol’k iぶ1‘se−
f’‘1’opre)・ent T conta川’nat輌o’1白τthe ell1・iJ・o’llJleilt aJid’to c「arti15, the j’eaCtiv「り!ef the,narerials ha、・ing P「Ul’al
輌c’輌oηロ’8∫・α’ρぷ,仰1〃昭’1昭thod used in rhis vi・o’・k can be also itsefiil as a anaり”icat }nethod to obtain the
”eact’1,ity ofmtdti−ft‘ηロ10’ial greups in a cei’rロ∫ηCO刀脚ttnd.
(Received July 18,2006)
(ユ2〕
一110一
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