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最適化技術を応用した高揚力装置の設計技術開発

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最適化技術を応用した高揚力装置の設計技術開発
ISSN 1880-3660
環境調和型航空機技術に関する調査研究
成 果
報
告
書
No.2215
最適化技術を応用した高揚力装置の
設計技術開発
2011年 3月
社団法人
日本航空宇宙工業会
革新航空機技術開発センター
ま え が き
日本航空宇宙工業会は、平成22年度事業の一つとして、(財)JKA から補助金の交付を得
て、「航空機工業の国際競争力強化に関する調査研究(次世代航空機・航空機用新素材)」およ
び「環境調和型航空機技術に関する調査研究」を下表のように実施した。
研究の実施に対し、その実現と推進にご尽力賜った経済産業省ならびに(財)JKA のご関係者
に厚くお礼申し上げる。
平成23年3月
社団法人 日本航空宇宙工業会
革新航空機技術開発センター
平成22年度委託研究登録番号(報告書No.)一覧
No.
報告書
No.
分野
1
2201
推進
次世代
航空機
継続
航空用エンジンにおけるファンへの着氷低減技術
㈱ IHI
の研究
2
2202
制御
次世代
航空機
継続
全舵面不作動時の推力による代替飛行制御技術
に関する研究
3
2203 機体/空力
次世代
航空機
継続 ヘリコプター用ブレードの低コスト製造方法の研究 川崎重工業㈱
4
2204 機体/空力
航空機用
継続 高性能複合材成形治具の研究
新素材
三菱重工業㈱
㈱ジーエイチクラフト
5
2205 機体/空力
航空機用
高強度ステンレス鋼の実機適用推進と改良開発
継続
新素材
に関する研究
住友精密工業㈱
日立金属㈱
6
2206 機体/空力 環境調和 継続 軽量ファイバーメタルの研究
7
2207 機体/空力 環境調和 継続
8
2208
推進
9
2209
推進
次世代
航空機
新規
航空エンジンにおける回転体の光学式ひずみ
・振動計測技術の研究
㈱ IHI
10
2210
制御
次世代
航空機
新規
リージョナルジェット機を対象としたダイナミック
インバージョン飛行制御技術に関する研究
三菱重工業㈱
11
2211
機体空力
・制御
次世代
航空機
新規
Integrated Fault/Damage Detection and Isolation
(IFDDI)技術に関する研究
三菱重工業㈱
12
2212
機体空力
航空機用
チタン基複合材(TMC)の降着装置部品の
新規
新素材
実用化研究
住友精密工業㈱
13
2213
機体空力
航空機用
新規 革新的軽量金属構造材料の研究
新素材
富士重工業㈱
14
2214
機体空力 環境調和 新規 航空機HLD騒音低減技術の研究
川崎重工業㈱
15
2215
機体空力 環境調和 新規
16
2216
推進
技術
継続
カテゴリー 新規
研究名
チタン合金板材の局所加熱による複雑形状成形
技術の研究
環境調和 継続 高耐食性アルミダブルフレキシブルコアの研究
環境調和 新規
委託会社
三菱重工業㈱
富士重工業㈱
日本飛行機㈱
昭和飛行機工業㈱
最適化技術を応用した高揚力装置の設計技術
開発
川崎重工業㈱
日本飛行機㈱
航空エンジンのタービン翼に適用する冷却空気
削減技術の研究
㈱ IHI
最適化技術を応用した高揚力装置の
設計技術開発
調査研究委託会社
川崎重工業㈱・日本飛行機㈱
目次
第 1 章 研究の概要
1.1 研究目的
1.2 実施期間等
························································ 1
·························································· 1
························································ 1
1.3 実施内容
·························································· 2
1.4 成果概要
·························································· 3
1.5 所見
······························································ 6
第 2 章 研究の内容
························································ 7
2.1 緒言
······························································ 7
2.2 目的
····························································· 11
2.3 研究の方法
······················································· 12
2.3.1 空力研究
···················································· 12
2.3.2 機構研究
···················································· 14
2.4 技術動向調査 ······················································· 15
2.5 空力形状の検討(2次元多翼素) ····································· 27
2.5.1 設計要求
···················································· 27
2.5.2 形状定義
···················································· 29
2.5.3 最適化手法
·················································· 33
2.5.4 HLD 断面形状設計
············································· 36
2.5.5 HLD 展開位置最適化における計算条件
··························· 41
2.5.6 シングル・スロッテッド・フラップ展開位置最適化
··············· 44
2.5.7 モーフィング・フラップ展開位置最適化 ························· 49
2.5.8 スポイラ・ドループ効果
······································ 60
2.5.9 モーフィングとスポイラ・ドループの同時最適化
2.6 構造・機構の検討
················································· 76
2.6.1 機構関連技術調査
2.6.2 機構案の抽出
················· 65
············································ 76
················································ 84
2.6.3 既存の伸縮材料調査
·········································· 87
2.6.4 伸縮性材料を用いた翼構造の成立性検討 ························· 91
2.7 結論
····························································· 94
i
第 3 章 問題点と今後の課題
第 4 章 関連事項調査
4.1 関連特許
··············································· 96
····················································· 98
························································· 98
4.2 参考技術文献
···················································· 100
ii
第1章 研究の概要
1.1 研究目的
本研究の目的は、従来の高揚力装置設計に、多目的最適化技術・モーフィングの新技術を導
入し、新しい設計技術を獲得することである。シングルタイプのフラップにこれらの新技術を
導入することで、ダブル・スロッテッド・フラップの最大揚力係数を達成すること、及び、従
来のフラップ機構・構造に対して重量ペナルティ"0"を達成することを研究の目標とする。
本研究により高揚力、高揚抗比の高揚力装置を実現し、従来機より低速での飛行、低推力に
よる離陸又は高上昇勾配の飛行を可能とすることで、離着陸時の騒音低減、エンジン規模縮小
による環境負荷の低減と経済性の向上を図る。
1.2 実施期間等
1.2.1 実施期間
平成 22 年6月~平成 23 年3月
1.2.2 実施場所
(1) 川崎重工業株式会社
事業所
: 岐阜工場
住 所
: 〒504-8710 岐阜県各務原市川崎町1番地
電話番号
: 058 - 382 - 5346
FAX 番号
: 058 - 382 - 1519
(2) 日本飛行機株式会社
事業所
: 航空宇宙機器事業部
住 所
: 〒236-8540 神奈川県横浜市金沢区昭和町 3175 番地
電話番号
: 045 - 773 - 5331
FAX 番号
: 045 - 771 - 3208
1
1.2.3 研究主務者
(1) 川崎重工業株式会社
技術本部 研究部 空力技術課
課長
村重 敦
基幹職
園田 精一
基幹職
鈴木 亙
主事
木村 敏之
主事
浅野 宏佳
(2) 日本飛行機株式会社
航空宇宙機器事業部 技術部 機器設計グループ
グループ長
澤田 昌宏
前田 真宏
蜜谷 真一郎
1.3 実施内容
(1) 欧米の最新の高揚力装置の技術動向調査(担当:川崎重工業、日本飛行機)
本研究の基礎とすべく、欧米の最新の高揚力装置の技術動向を調査した。
(2) 高揚力装置空力形状の検討とその性能評価(担当:川崎重工業)
最適化技術・モーフィング技術を適用して、2次元設計断面における高揚力装置空力形
状の検討を行い、その性能を評価した。
(3) 空力形状に適合する構造・機構の検討と評価(担当:日本飛行機)
最適化された空力形状について構造・機構検討を行い、モーフィング技術を適用した高
揚力装置構造の重量について見通しを得た。
(4) 総合評価
本研究で得られた結果に対する総合評価を行い、成果と課題を整理した。
2
1.4 成果概要
設計・検討作業に先立ち、航空機の高揚力装置(HLD:High Lift Device)に関する欧米の技
術動向を調査した。全体的な傾向として、複雑な多段機構から簡素な機構へと移行していく一
方で、
その空力性能はほぼ頭打ちとなっていることが分かった。
航空機の性能向上のためには、
HLD においても技術革新が必要であるが、そこにモーフィング技術の適用が考えられる。現在、
このモーフィング翼というコンセプトについて、欧米では解析のみならず、供試体を作成した
実証試験が行われており、実用化に向けた挑戦が続いている。
次に、HLD の空力分野における研究として、120 席クラスの旅客機形状に対して、シングル・
スロッテッド・フラップをモーフィングさせた場合の2次元 HLD 断面設計を行うために、CFD
(Computational Fluid Dynamics)解析と多目的遺伝的アルゴリズムによる最適化手法を組み合
わせた設計技術を開発した。
また、フラップ・モーフィングにスポイラ・ドループを加えた形状に対する解析・設計も実
施し、母翼後流とフラップ境界層の干渉や、境界層剥離などの複雑な流れ場(図 1.4-1)に置か
れた多翼素の空力特性データを得ることができた。
最適化結果から得られるパレート解の情報を分析すると、モーフィングによりフラップ上面
流が加速されるため、通常のフラップよりも境界層が薄くなり、モーフィング・フラップでは
母翼‐フラップ間ギャップを大きくして、境界層干渉による摩擦抵抗の増加を緩和できる。そ
して、フラップのキャンバ増大による循環効果(2.5.4 節(3)参照)が得られ、揚力増加を実
現できることが分かった。一方、モーフィングによりフラップ上面の流れが剥離しやすくなる
ため、揚抗特性が悪化するが、モーフィング範囲を狭くすることで剥離領域を小さくし、それ
を改善できる。
さらに、スポイラをドループさせることにより母翼のキャンバ効果を増加させると、その結
果として吹き降ろしが強まり、フラップの局所迎角が浅くなる。これにより、フラップ荷重が
低減される。加えて、母翼後流が厚くなるので、排除効果が増し、フラップ上面の負圧が抑え
られる。これらの現象により、スポイラ・ドループがフラップの剥離を緩和する効果について
確認できた。
最適設計の結果を図 1.4-2 に示す。モーフィングにより、シングル・スロッテッド・フラッ
プでも、ダブル・スロッテッド・フラップと同等の揚抗比を維持しつつ、約8%の揚力増加が
得られる結果となった。さらに、スポイラ・ドループを加えると約 15%の揚力増加が得られた。
これはダブル・スロッテッド・フラップの約 90%の性能であり、
揚抗比の低下を許容すれば 100%
の性能に達する見込みを得た。
3
つづいて、モーフィング・フラップを実現するための機構研究として、主に欧米のモーフィ
ング・スキン、
先進的アクチュエータ及びモーフィング機構の研究について調査及び検討を行っ
た。
モーフィング・フラップではキャンバを変化させることから、モーフィング・スキンには、
「伸縮性」
、
「コード方向の曲げ」及び「スパン方向の剛性」及び「コンタ保持力」の4つの特
性が必要である。しかし、調査を行った結果、4つ全ての特性をもつスキンを実現させること
は、現段階では難しいということが明らかになった。したがって、
「伸縮性」
、
「コード方向の曲
げ」及び「コンタ保持力」をモーフィング・スキンの特性で達成し、スパン方向の剛性は内部
構造で補完することでモーフィング・フラップに適用することとした。
また、先進的アクチュエータは翼構造に組み込むことで構造が簡素になり、重量軽減をでき
ることが分かっている。しかし、多くの研究がコンセプト案で留まっており、試験及び供試体
製作等を行っている研究は少ない。したがって、本研究では実現性の高い既存のアクチュエー
タの使用を基本方針として検討した。また、駆動系の動力を用いたモーフィング機構は実用に
近いレベルまできているが、機能性材料等を用いた研究の大半は、先進的アクチュエータと同
様に概念検討の段階にある。したがって、モーフィング機構の方向性を駆動系の動力を用いた
機構に定めた。
最後に、伸縮材料のモーフィング・フラップ外板への適用可否を、耐空力荷重及び外板適用
時の重量で検討した。耐空力荷重は、板厚を厚くすることによって適用可能ではあるが、板厚
が金属材料に対して、9 倍程度になる見込みとなった。また、フラップがモーフィングを行う
部分(図 1.4-3、後縁から 14%フラップ・コード長)に限定して伸縮材料を適用する条件で、
金属材料に対してフラップ全体の重量が1.14 倍重くなるとの検討結果を得た。
今後は、
モーフィ
ング・フラップの外板重量の増分を相殺できる軽量機構を検討し、重量ペナルティ"0"を目指
していく。
4
M=0.2, α=4 deg., Re=24×106
総圧比
1.00
後縁 40%
0.97
前桁
後桁
後縁 14% (モーフィング領域)
図 1.4-1 フラップ周りの流れ
図 1.4-3 モーフィング・スキン適用領域
DSF0
MSSFSD
MSSF
SSF0
Cl @ α=4 deg.
4.5
: Double Slotted Flap
: Morphing Single Slotted Flap
with Spoiler Droop
: Morphing Single Slotted Flap
: Single Slotted Flap
L/D 低下を許容すれば
DSF0 比 100%も可能
DSF0
MSSFSD
DSF0 比
93%
MSSF
3.5
15%
8%
SSF0 比
SSF0
パレート解
2.5
50
75
L/D @ α= 4deg.
図 1.4-2 内舷フラップ展開位置最適化
(M=0.2, α=4 deg., Re=24×106)
5
100
1.5 所見
(1) フラップの後部形状にモーフィングを適用することによる空力特性の変化を CFD 解
析と最適化手法により明確化できた。フラップのモーフィングによる揚力増加は目標
値には及ばないものの、性能が向上することが明らかとなり、これにスポイラ・ドルー
プを組み合わせることで相乗効果を生み出していることが分かったことが、本研究の
最大の成果である。
(2) HLD のような多翼素周りの流れ場は非常に複雑であるが、モーフィングという要素を
取り入れたことで、さらに設計が難しいものになった。しかし、最適化手法を適用す
ることで、解の探索が容易になり、モーフィング技術を適用した HLD の2次元断面
設計技術を整備することができた。
(3) 平成 22 年度作業では、スポイラを適切な量だけドループさせ、フラップ角を浅くしつ
つモーフィングを施すことで抵抗の増加を抑制しつつ揚力を大きくする指針が得られ
た。しかし、これは2次元での結果に限定されており、実機性能では3次元効果が含
まれる。平成 23 年度では3次元 HLD 設計に研究を進め、モーフィング効果に関する
知見を深めていきたい。
(4) 機構に関しては、技術動向調査を中心に行い、概略検討を実施した。モーフィングの
研究は盛んに行われているが、まだまだ研究段階のものがほとんどで、実用には程遠
い。したがって、モーフィング構造の方向性を、既存の技術を用いた構造様式で検討
を行い、成立性を見出していく必要がある。
(5) 伸縮材料を用いた翼構造の成立性検討を行い、フラップ・スキンに対する伸縮材料の
適用可否を明らかにした。伸縮材料で懸念される空力荷重でのたわみ及び重量増加に
ついて検討を行った結果、伸縮材料は実用可能だと考えられる。今後は、本研究の目
的を達成するために機構解析及び構造解析等の詳細検討を行い、課題を明らかにして
いく。
6
第2章 研究の内容
2.1 緒言
現代の旅客機のように高速化・大型化した航空機では長い滑走路を必要とするが、既存空港
への離着陸を可能とするためには、離着陸距離が制限される。そのため、運行中の航空機の多
くが高揚力装置(HLD:High Lift Device)を有しており、今や必要不可欠の装備となっている。
HLD の原理は、翼の前後縁のデバイスを展開して翼全体のキャンバを増やすことで、翼周りの
流線を湾曲させることにより循環を強め、その直接作用として上方への揚力を高めることであ
る。一般的な航空機には前縁スラットや後縁フラップに代表される機械的駆動機構式のものが
採用されている 1)。
航空機のジェット化がなされてから、HLD はフラップの多段化等、機構面のアプローチによ
り性能向上を果たしてきたが、その後、設計・製造技術の発達が進み、少ない段数で簡素な機
構による軽量化・信頼性向上と、最適化された空力形状の実現による性能向上へと移り変わっ
てきた(図 2.1-1、図 2.1-2)
。
また、最新の旅客機では、巡航時抵抗を低減することで高速化・低燃費化が進んでいる。そ
の抵抗低減の方策として、主翼面積は小さくなる傾向にあり、それと同時に離着陸時に要求さ
れる翼面荷重が大きくなっている。この要求を満たすためには、これまで以上に HLD の能力
を向上させる必要がある。
HLD が使われるのは飛行プロファイルのごく一部であるが、その空力性能により機体のサイ
ジングや性能が大きく左右されるため、航空機設計において重要な設計要素である。展開され
た HLD 周囲の流れは非常に複雑なものになるが、これは、HLD を使用する離着陸フェーズで
は飛行速度が低く、空気の粘性の影響が大きくなるためである。一般に、スラットとフラップ
を展開した3翼素断面の周りでは、図 2.1-3 に示すような境界層の合流や母翼の後流とフラッ
プ境界層の干渉、境界層剥離など、様々な空力現象が現れるため、今もなお研究課題として興
味深い分野となっている。
7
図 2.1-1 最大揚力係数の傾向 2)
8
a) 内舷ダブル・スロッテッド・フラップ
b) 外舷シングル・スロッテッド・フラップ
図 2.1-2 Boeing 767 フラップ機構 3)
9
衝撃波と境界層の干渉
合流した境界層
母翼後流とフラップ境界層の干渉
コーブ内剥離
コーブ内剥離
境界層剥離
図 2.1-3 多翼素周りの流れ場
10
2.2 目的
本研究の目的は、従来の HLD 設計に、多目的最適化技術及びモーフィングの概念を導入し、
新しい設計技術を獲得することである。シングル・タイプのフラップにこれらの新技術を導入
することで、ダブル・スロッテッド・フラップと同等の最大揚力係数(CLmax、図 2.2-1 より、
後退角 25 deg.で 2.6 程度)を達成すること、及び、従来のフラップ機構・構造に対して重量ペ
ナルティ"0"を達成することを研究の目標とする。
本研究により高揚力、高揚抗比の HLD を実現し、従来機より低速での飛行、低推力による
離陸、そして高上昇勾配の飛行を可能とすることで、離着陸時の騒音低減、エンジン規模縮小
による環境負荷の低減と経済性の向上が期待できる。
表記
1-SLOT
2/1-SLOT
2-SLOT
3-SLOT
内舷フラップ
シングル
ダブル
ダブル
トリプル
外舷フラップ
シングル
シングル
ダブル
トリプル
目標 CLmax=2.6
図 2.2-1 フラップ形式と最大揚力係数
11
2.3 研究の方法
2.3.1 空力研究
はじめに、従来行われてきた HLD 設計の流れを図 2.3-1 に示す。
旅客機では、巡航時性能に重点を置いた主翼形状の設計を行った後、HLD の平面配置を決
定する。このとき、主翼構造部材(前後桁等)の配置を考慮する必要がある。
次に HLD が配置される位置の翼断面に対して、翼素の数や形状、展開位置等を設計する。
そして、設計された断面形状を、主翼スパン方向へ展開し、3次元的な動作解析により物理
的な干渉が生じないよう、微修正を行う。
最後に、設定された3次元形状を数値流体力学(CFD:Computational Fluid Dynamics)や
風洞試験により空力特性を推定し、CLmax や揚抗特性(L/D)が要求を満足するか否か評価す
る。ここで、要求を満足しない場合は、2次元設計に始まる設計サイクルを繰り返す。
本研究では、120 席クラスの旅客機 4)を想定し、内外舷フラップにモーフィング技術を適
用した HLD 設計を行う。今年度は2次元翼断面形状の設計に取り組み、必要となる設計技
術を獲得するとともに、設計課題を抽出する。
まず、モーフィングによる形状変化を取り入れたフラップ翼素の形状定義方法を考案する
ことから始める。この段階から、モーフィング機構の成立性を持たせるための制約条件を形
状定義に付加する。
次に、モーフィングに関わる設計変数と従来の設計変数を用いて断面設計を実施する。こ
の時、設計指針は発生揚力の増大と揚抗比の向上である。一般に、これらの性能指標は相反
する性質を持っており、片方を得ようとすればもう片方が犠牲になる傾向がある。この設計
課題に対し、本研究では多目的遺伝的アルゴリズム(MOGA:Multi-Objective Genetic
Algorithm)5)を用いる。これは、近年応用が進んでいる変数最適化手法の一つであり、複数
の設計指標を同時に最適化する変数の組合せ(解)を探索する技術である。空力特性の推定
には相当規模の CFD 解析が必要となるが、これについては、近年発達が著しい並列計算環境
を活用することにより、現実的な設計効率を実現する。
設計過程では、単に数値的な"解"を探索するだけでなく、設計変数と空力性能の関係につ
いて流体力学的な観点からの考察を加えることにより、モーフィング・フラップに関する有
効な設計技術を開発する。
12
① 巡航形態 主翼形状の設計
⇒ 設計点 : 巡航条件
②HLD平面配置の決定
⇒ 制約条件: 主翼桁、舵面配置等
③2次元翼断面設計
⇒ 段数、翼素形状、
角度、展開位置、構造、機構等
④3次元展開
⇒ スパン方向配置修正、展開位置修正
⑤空力性能評価
⇒ CFD解析、風洞試験による性能評価
No
要求を満足
Yes
(CLmax , L/D)
END
図 2.3-1 HLD 設計の流れ
13
2.3.2 機構研究
本研究における機構研究方法の流れを図 2.3-2 に示す。
まず、モーフィング・スキン、先進的アクチュエータ及びモーフィング機構について調査
及び検討を行い、課題を明らかにする。それと同時に、機構案も抽出する。
次に、モーフィングに必要となる伸縮材料の耐空力荷重及び重量検討を行い、モーフィン
グ・フラップ構造への適用可否の判断をする。
その後、モーフィング構造に適用する材料及び機構の選定を行い、詳細設計を行う。
技術動向調査
機構案抽出
調査内容
モーフィング・スキン
先進的アクチュエータ
モーフィング機構
伸縮性材料を用いた翼構造の成立性検討
検討内容
重量の概算
伸縮性材料の耐空力荷重
今年度
来年度
モーフィング構造及び材料の選定
機構解析
構造解析
重量算出
図 2.3-2 機構研究の流れ
14
2.4 技術動向調査
近年、HLD の高性能化を実現するために、より精度の良い設計技術の獲得を目指した取組み
が行われてきている。
その一つは、欧州の EUROLIFT プロジェクトである。実機レイノルズ数での離着陸形態の空
力現象の予測に向けた研究の一環として、半裁模型(図 2.4-1 a)による風洞試験が行われ、低
~高レイノルズ数条件における CFD ツールの検証用データが蓄積された 6)。現在の CFD 解析
技術は非常に高い水準に達しており、3次元の複雑な流れ場を定性的に把握することは可能と
なったが、最大揚力などの絶対値は未だ精度良く求めることが出来ていない 7)。
また、日本においても、宇宙航空研究開発機構が HLD の空力性能予測技術及び設計技術に
関する研究の中で、半裁模型(図 2.4-1 b)による風洞試験データの取得と CFD の検証を実施
している 8)。
a) KH3Y6)
b) JSM8)
図 2.4-1 HLD 研究用半裁模型の例
15
一方、航空機の翼設計分野に目を向けてみると、従来の翼型設計は形状定義方法や最適化設
計手法などの適用が進められているものの、基本的に固定された翼型を取り扱うことに変わり
ない。しかしながら、昨今の機能性材料やアクチュエータの活発な開発を受け、鳥の翼のよう
に単一の構造で複数の飛行状態を可能にするモーフィング(表面形状を滑らかに変形させる)
翼の研究開発が行われ始めており 9)、変形する翼の設計技術を含めた、航空機開発の分野で技
術革新の期待が高まっている。
そのようなモーフィング翼の一例として、図 2.4-2 に示す米国 Flex-Sys 社による MAC
(Mission Adaptive Compliant)翼の開発が挙げられる。これは、柔軟素材を使用したヒンジレ
スの機構により翼後縁形状を連続的に変化させることで、翼上面の層流域を広範囲で実現する
ものである。つまり、飛行条件毎に最適な形状を実現することで、全飛行過程において低抵抗
化が達成できるため、航続距離を伸ばすことが可能となる。彼らは実物大供試体を用いた飛行
試験により、
翼の上面圧力分布をコントロールし、
層流化範囲を拡大できることを実証した 10)。
図 2.4-2 MAC 翼 10)
16
また、欧州においては、13 組織が参画する SADE(Smart high Lift Devices for Next Generation
Wings)と呼ばれるプロジェクトが立ち上がっている。彼らは、モーフィング技術を適用す
ることで低抵抗化、
すなわち CO2 削減を実現する環境に優しい航空機の開発を目指している。
既に 2008 年から4ヵ年計画で、主翼前後縁デバイスにモーフィング技術を適用する、スマー
ト HLD(図 2.4-3)の研究開発が進行中である。
図 2.4-3 SADE スマート HLD 計画 11) 12)
このようなモーフィング技術は、旅客機の主翼だけでなく、ヘリコプタのロータや小型無人
機など様々な機体・部位への適用が検討されていて、その波及効果は大きい。
こうした欧米の研究開発動向から、モーフィング技術による巡航時抵抗低減や離着陸時の騒
音低減、燃費向上の実現に向けた期待が高まっていることが分かる。
17
モーフィング構造を実現させる技術として、モーフィング・スキン、先進的アクチュエータ
及びモーフィング機構に注目して調査を行った。その結果を以下に示す。
(1) Flexible Matrix Composite(FMC), FMC / Zero – Poisson honeycomb13)
フレキシブル・マトリックス・コンポジット(FMC)
、ゼロポアソン・ハニカム及び CFRP
(Carbon Fiber Reinforced Plastic) ロッドを組み合わせて、空力荷重に耐え、かつスパン
方向に伸縮できるモーフィング・スキン(図 2.4-4)を製作している。
このスキンの性能評価のために、たわみ試験及び引張り試験が行われている。たわみ試
験では、モーフィング・スキンに微細な鉄球を載せて荷重を負荷するとともに、鉄球とス
キンの間に砂を敷いて荷重の均等化を図っている。また、引張りで試験は、X フレーム・
アクチュエータ・アセンブリ試験機を用いて実施している。これらの試験結果として図
2.4-5 に示すデータが得られている。
図 2.4-4 FMC スキン 13)
18
200 psf
100 psf
40 psf
(a) たわみ試験結果
(b) 静的ひずみ
(c) 伸縮率と荷重
図 2.4-5 FMC スキン性能データ 13)
19
(2) Reinforced corrugated structure with elastomeric surface14)
フレキシブルな翼の外板を実現する材料候補の一つとして、波形の複合材シート(コル
ゲート構造)による実証が行われた。そこでは、波形の複合材シートの機械特性を評価す
るために、4種類の試験(縦横それぞれの引張り及び曲げ)を実施している。それと並行
して、曲げ弾性率及びヤング率を算出するための解析を行っており、実験及び解析の結果
から、コルゲート構造の直交異方性挙動が確認された。しかしながら、CFRP のコルゲー
ト構造(図 2.4-6①)単体では翼の外板として使用するには剛性不足等の問題があるので、
縦方向の剛性と滑らかな空力面の作成に、更なる改良が試みられている。縦方向の剛性に
は、CFRP ロッド(図 2.4-6 ②)を組み込み、空力面にはフレキシブル・ラバー(図 2.4-6
③)を使用している。
CFD ソフト"XFOIL" を使用した非粘性の空力解析により、ヒンジ・フラップより高い
揚力係数を達成できることが確認されている。
③ フレキシブル・ラバー
① CFRP コルゲート構造
縦方向
横方向
② 剛性ロッド(CFRP ロッド等)
図 2.4-6 Reinforced corrugated structure with elastomeric surface14)
20
(3) A Feasibility Study to Control Airfoil Shape Using THUNDER15)
NASA(National Aeronautics and Space Administration)ラングレー研究センターの研究者
らによって、薄層複合ユニモルフ強誘電体ドライバ及びセンサ(THUNDER:THin layer
composite UNimorph ferroelectric DrivER and sensor)の開発が行われている。圧電性のウエ
ハを金属基板に接着して製作されていて、印加電圧を加えるとウエハが動くため、金属基
板が連動する。図 2.4-7 に THUNDER アクチュエータ及び作動状態を示している。
空力特性の向上を図るために THUNDER を翼上面に適用した供試体を製作して研究が
行われている。その結果、翼の上面の変位は印加電圧、対気速度、迎え角、クリープ及び
ヒステリシスに依存していることが明らかにされた。また、アクチュエータの力が空力荷
重より大きかったことから、外板を変形させるために THUNDER を使用できるという結
果が得られている。しかしながら、これらはスケールモデルによる実証のみであり、
THUNDER を実機に適用するためには、多くの研究が必要と考えられている。
図 2.4-7 Enlarged Isometric View of THUNDER actuator and
Unrestrained positive Actuation of THUNDER15)
21
(4) Flexible matrix composites(FMC)14)
構造の剛性と形状変化を同時に達成するには FMC 作動装置が使用できる。FMC の概
念は、数個の FMC チューブをエラストマ・マトリックスの中に入れ、マルチセルの FMC
適応構造を構成するものである。これを流体で加圧すると、初期の繊維角度とアクチュ
エータ膜の異方性によって、FMC チューブは収縮又は膨張することになる。
図 2.4-8 のように、与圧によって剛性及び形状を変える仕組みになっている。
図 2.4-8 FMC actuators and pressurization scheme of FMC actuators in an elastomer matrix14)
22
(5) Compliant Mechanism15)
現在開発されているハイテク素材では、
アクチュエータから得られる変位及び力が低い
ことから、実物大のアクチュエーション効果に役立つ能力を持っていない。
しかし、ミシガン大学で開発された「コンプライアント・メカニズム」は、既存のハイ
テク材料を少量使用することで所望の変形を達成する可能性を示唆している。
この概念を
通して、ハイテク素材から制御された変位及びエネルギーを、図 2.4-9 に示されている「コ
ンプライアント・メカニズム」と呼ばれる柔軟リンク及びジョイントに伝えて、翼形状の
変化を実現している。
このコンプライアント・メカニズムには、既存のメカニズムに比べて幾つかのメリット
がある。まず、アセンブリが無いことから重量を軽くできる。そして、アクチュエータを
構造体から離して配置できることから、
応力集中等の望ましくない影響から保護すること
ができるのである。
図 2.4-9 Schematic of shape control of leading and trailing edges of an airfoil
using compliant mechanisms15)
23
(6) DARPA / Wright Lab "Smart Wing" 15)
形状記憶合金を用いて翼形状を変化させる技術は DARPA(Defense Advanced Research
Projects Agency)によって研究された。
「スマート・ウイング」
(図 2.4-10)は、無人戦闘
機への適用可能性を研究するために設計、
製作及び試験が行われている。
駆動機構として、
翼のねじれを内舷及び外舷に与えるために、形状記憶合金で作られたトルクチューブ(図
2.4-11)を使用している。また、翼の後縁は、形状記憶合金ワイヤを上下面に埋め込むこ
とで、滑らかなコンタを与えている。そして、風洞試験では、
「スマート・ウイング」を
用いることで剥離を遅らせる効果があることが、
圧力分布データから明らかになっている。
また従来の翼の空力特性と比べて、ローリング・モーメントが 8 ~18%増加している。
図 2.4-10 Smart Wing Model15)
図 2.4-11 Shape Memory Alloy(SMA)Torque Tube15)
24
(7) Eccentuator14)
翼後縁をモーフィングするためにフレキシブル・コントロール・サーフェスに Eccentuator
を使用した概念が提案されている(図 2.4-12)
。Eccentuator は回転運動を鉛直力に置き換
える湾曲したロッドで、超音波圧電モータによりを作動させている。
スパン 2.8 m、コード長 2.5 m 重量 273 kg の翼模型を使用した風洞試験が、マッハ数 0.8
及び最高動圧 14.4 kPa という条件の下で行われた。後縁形状を 70 種類以上の異なる形状
に変化させて試験した結果、変位率が 80 deg./s、最大変位が 20 deg.というデータが得られ
た。この風洞試験によると、Eccentuator を使用したモーフィング翼は従来の翼よりも大き
な揚力を発生する結果となっている。
図 2.4-12 Eccentuator14)
25
(8) Finger concept14)
可変キャンバを旅客機の翼に適用するためにヒトの指の概念を使用したものである。
外
板には、最適な空力形状を再現するために、フレキシブル・スキンを使用している(図
2.4-13 a)
。後縁における堅いリブは幾つかのプレートで構成されており、動力源である電
気モータを作動させると図 2.4-13 b のように作動する。
a) Position and distribution of active deformable ribs
in the Fowler flaps16)
図 2.4-13 Finger concept
26
b) Geometry of an element16)
2.5 空力形状の検討(2次元多翼素)
2.5.1 設計要求
本研究では、より高い揚力性能が要求される着陸アプローチを設計点とする。
旅客機では、Federal Aviation Regulations(FAR)Part 25 で規定されているとおり、高度 50 ft
でのアプローチ速度は 1.23VS1g(1g 失速速度の 1.23 倍)以上になる。つまり最大揚力係数
CLmax に対して 66%の CL 以下で飛行することになる。また、アプローチ時の姿勢角は、着陸
時の尻擦り及び前脚接地を回避するために、3 deg.程度としている機体が多い 2)。さらに、グ
ライドスロープは空港側で 3 deg.付近に定められているため、アプローチ時迎角(α)は 6 deg.
前後で考えることにする(図 2.5-1)
。このアプローチ迎角での CL と CLmax をできるだけ大き
くすれば(図 2.5-2)
、アプローチ速度/接地速度を下げることができ、地上滑走路長を短く
することが可能になる。
一般に、HLD はスラット等の前縁デバイスとフラップ等の後縁デバイスから構成される場
合が多いが、前縁デバイスと後縁デバイスでは各々揚力を増加させる効果が異なる。図 2.5-3
に示すように、
前縁デバイスは失速迎角を大きくすることで CLmax を増加させる効果がある。
一方、後縁デバイスは全ての迎角でほぼ一定量の揚力増加が得られるが、失速迎角は若干減
少する。
これまでに、CFD による CLmax の推定方法は幾つか提案されているが 17) 18)、未だ確立され
ておらず、飛行試験や高レイノルズ数風洞試験に基づいた検証が必要である。このことを踏
まえて、本研究においては、前縁デバイスによる CLmax の増加に関する検討は今後の課題と
して、アプローチ迎角における CL を増加させることに主眼を置くことにする。
姿勢角=3 deg.
迎角=6 deg.
高度=50 ft
グライドスロープ=3 deg.
図 2.5-1 アプローチ迎角
27
CL
CLmax
アプローチ CL
(VS1g)
(1.23VS1g)
αapproach
α
図 2.5-2 アプローチ時必要 CL
前縁スラットによる効果
後縁フラップ
による効果
図 2.5-3 HLD の揚力増加効果 19)
28
2.5.2 形状定義
(1) HLD 設計変数
HLD を展開した多翼素断面形状を設計する際には、翼型設計に見られる形状定義に加
えて、展開位置に関する情報が必要になる。
多翼素で構成される翼型において、スラットやフラップなどの可動部に対して、それを
支える固定部を母翼と呼ぶ。スラットやフラップの幾何学的配置は、それぞれギャップ、
オーバーラップ、角度の3変数(3自由度)で定義できる。また、HLD の展開に伴って
気流に曝される部分の形状についても定義しなければならない。この中で、母翼とフラッ
プの前縁部分の形状は翼型全体の空力特性を左右する重要な設計対象となる。図 2.5-4 に
3翼素で構成される典型的な HLD の設計パラメータを示す。
スラット
g/c
母翼
G/c
δslat
フラップ
o/c
O/c
g,G
o,O
δ
c
:
:
:
:
:
δflap
形状設計部分
ギャップ
オーバーラップ
角度
基準翼弦長
図 2.5-4 HLD 断面設計パラメータ
HLD の設計変数の組み合わせは無限にあるため、計算機の能力が十分では無かった時
代は、風洞試験や CFD により、経験的に培われてきた設定値の周りでパラメトリック・
スタディを行い、
限定的な組み合わせの中に最適値を見出してきた。
それに加えて、
フラッ
プの後縁にモーフィング技術の適用を考えた場合、その分の設計変数が加わるので、組み
合わせはさらに多くなる。しかし、モーフィングによるアプローチ迎角における揚力の増
加が目的であることと、図 2.5-3 で見られるように、前縁スラットと後縁フラップの効果
は切り分けて考えられることから、
本研究においては前縁スラットと母翼前縁形状につい
ては固定し、設計変数を限定的にすることにした。
29
(2) フラップ前縁
フラップ前縁形状を以下の要領で定義した。
[拘束条件]
・フラップ格納時には母翼コーブ内に収まること
・元の外形状との接合点では形状の勾配が一致すること
これらの条件を満たすために、制御点により定義される B スプライン曲線と円錐曲線
で構成することとした(図 2.5-5)
。B スプライン曲線は、翼素を前縁で上下分割し、それ
ぞれ6変数、計 12 変数で定義する。円錐曲線は、コーブ下端位置から翼素上面までを滑
らかに接続するが、両形状の端点における接線情報を基に一意に決定される。
前方翼素コーブ下端
翼素上面との接続
③
②
翼素前縁
① B スプライン曲線
② B スプライン曲線
①
③ 円錐曲線
翼素下面との接続
制御点
円錐曲線 ③
B スプライン曲線 ①②
図 2.5-5 フラップ翼素前縁形状定義
30
(3) モーフィング後縁
モーフィング形状の具体化においては、
スキン素材やリンク機構などと密接に関わるた
め、設計を進めていく中で制約条件を明らかにする必要がある。現在、空力設計と並行し
て機構の検討を実施している段階では、スキン素材に伸縮性を見込まず、弾性曲げ変形の
み可能なものを前提に取り扱う(フラップ・コード長の伸縮は考えない)ことで、機構側
から見た実現性との乖離を回避する。ここでは、翼の上面コンタ長が一定になるように変
形を拘束しながら、翼断面形状を変化させることにする。
また、
フラップ内部には構造部材である桁やモーフィングを行うためのアクチュエータ
等が設置される。この空間を維持するために、モーフィング開始位置を変数として与え、
それより後方のみを変形対象とする。
加えて、フラップ後縁端では、変形及び飛行中に形状を保持するためのリンク機構の設
置が困難になると考えられるので、フラップ・コード長(cflap)の 95%以降は剛体として
扱うこととする。以上、モーフィングによるフラップ後部の変形に関する考え方を図
2.5-6 に示す。
モーフィング
開始位置
0.95cflap
モーフィング角度
dδ
δflap=Σdδ
図 2.5-6 モーフィング・フラップ形状定義
31
(4) スポイラ・ドループ
モーフィング・フラップは、通常のフラップ角を取った状態から、モーフィングにより
フラップのキャンバを大きく変化させる。このため、フラップ上面の流れが剥がれ易くな
ることが予想される。そこで、一部の航空機(Boeing 787 等)において採用されている「ス
ポイラ・ドループ」を適用する。これは、フラップ展開時に母翼後縁にあるスポイラを下
げることにより、母翼のキャンバ効果を高める作用があるものと考えられる。このキャン
バ効果によって母翼の揚力が増すとともに、
フラップへの吹き下ろしが大きくなることで、
フラップ上面での流れの剥離が緩和され、モーフィング・フラップとの相乗効果が期待で
きる。
なお、本研究における、スポイラ・ドループの定義は、次のようにした。
スポイラは上面コンタより1%c 下がった位置をヒンジとして、スポイラ部を下方へ回
転させる。このときスポイラ後縁下端とフラップの相対位置(ギャップ、オーバーラップ
量)は保持する。これにより、フラップは下方へ移動することになる。
スポイラ
1%c
スポイラ・ドループ角
δspoilerD
母翼
図 2.5-7 スポイラ・ドループ形状定義
32
2.5.3 最適化手法
前節で説明したように、モーフィング・フラップの設計では、使用する設計変数が多く、
個々の変数について最適値を見出しても、全体としての最適値と異なる可能性がある。
また、2.5.1 節で述べたとおり、本設計ではアプローチ迎角における CL を大きくすること
が第一目的である。しかしながら、無理に CL を大きくすると、翼上面の流れが剥がれ出して
抵抗が増大するものと予想される。もし、アプローチ迎角で翼の一部が剥がれ出すと、失速
迎角が浅くなってしまい、CLmax の減少を引き起こしかねない。これでは、接地速度が増加し
て着陸距離が長くなるため、HLD の機能として適切ではない。最適化の中でこのように不適
当な形状への収束を避けるため、L/D を大きくするという目的を追加しておく。
こうして定めた二つの目的に対して、より良い性能を持つ形状を設計するために、MOGA
を使用して設計変数と目的関数の関係について情報を得ていく。一つの目的関数を良くする
ためにはもう一つを悪化させるような非劣解をパレート解と呼ぶ。MOGA を用いれば、様々
な設計変数の組み合わせから図 2.5-8 のようなパレート解を得ることができる。したがって、
設計者はパレート解に見られるトレードオフ情報を参考にしながら、形状を決定することが
できる。
パレート解
目的関数2
解空間
目的関数1
図 2.5-8 目的関数とパレート解
33
MOGA の特徴として、その実行に目的関数の勾配情報を必要とせず、多数の個体評価を並
列して実行できるということが挙げられる。このことから、パレート解を効率良く得ること
ができる有効な手法と考えられている。また、多点同時探索のため、多峰性の強い問題でも
局所最適解に陥りにくい点が、未知の設計問題に取り組む場合に適している。
ここで、MOGA の概略を図 2.5-9 に示す。
・ 初期化:第一世代の個体群をランダムに生成する。
・ 目的関数の評価:各個体の遺伝子(設計変数)の並びから、目的関数を評価する。
・ 選択:自然淘汰をモデル化したプロセス。各個体の目的関数から適応度を求め、次世
代に子孫を残す個体を選択する。適応度が高い個体ほど子孫を残す可能性は高くなる。
単目的の場合には目的関数がそのまま適応度となるが、多目的の場合には目的関数か
ら計算されたパレートランクを基に適応度が決定される。
・ 交叉:生物の繁殖をモデル化したプロセス。個体の遺伝子情報の一部を入れ替えたり、
又は内挿したりして新しい個体(子孫)を生成する。
・ 突然変異:遺伝子のコピーミスをモデル化したプロセス。個体の遺伝子情報の一部を
ランダムに変化させ、個体の多様性を維持する。
上記作業を繰り返し、問題に適した個体を残していく。
このようにして MOGA では、設計変数の組み合わせに対する目的関数の値を何らかの方
法で与えることによって、最適解を見つけ出していく。つまり、目的関数を得る過程は何で
も構わないことになる。
これは、
ポテンシャル計算から粘性流計算まで、
都合の良い CFD ツー
ルが使用できることを意味し、設計者は問題に応じた適切なツールを選択して効率的に設計
作業を進めることが可能となる。
34
開始
初期化
目的関数の評価
選択
交差
突然変異
終了条件
No
Yes
終了
図 2.5-9 MOGA の処理フロー
35
2.5.4 HLD 断面形状設計
(1) 設計断面
想定する機体主翼の HLD 配置は図 2.5-10 のとおりとした。ここでは、内舷・外舷フラッ
プに対して、それぞれのフラップにおけるスパン方向の中間位置を設計断面として、二つ
の HLD 形状を設計する。
スポイラ
スラット
フラップ
外舷HLD設計断面
内舷HLD設計断面
胴体中心
図 2.5-10 HLD 配置概略
36
(2) 設計手法
フラップ展開位置やモーフィング形状によらず、
フラップ前縁はある一定の形状に固定
するものとする。ここでは、フラップ前縁形状の設計を、ポテンシャル解析と MOGA の
組み合わせにより実施した。
本研究実施会社(川崎重工業)の経験的知見により、着陸アプローチ時の迎角が 6 deg.
の場合、
HLD 設計断面位置での局所迎角を迎角 4 deg.付近にした2次元解析結果が3次元
形状におけるその断面位置での空力現象を良く再現することが分かっている。
上記理由から、本研究で行う2次元断面設計の設計点を迎角 4 deg.とした。
しかしながら、
ワンポイント設計によるオフデザイン領域での特性悪化が懸念されるた
め、ここでは迎角 6 deg.と 8 deg.での特性も考慮し、流れ場の変化あるいは HLD 展開位置
のずれに対するロバスト性を高めることにした。
MOGA における目的関数つまり空力性能の評価は、以下のとおりとした。
・揚力係数(Cl)の最大化(揚力を大きくする)
・フラップ圧力係数(Cp)のピーク値(Cpmin)最小化(剥離耐性を高める)
上記条件の下、
MOGA によるフラップ前縁形状の最適化を行った。
設計変数は12 変数、
30 個体、50 世代で実施した。
37
(3) 設計結果
内舷フラップ形状の最適化結果を図 2.5-11 に、外舷フラップについては図 2.5-12 に示
す。図の右上方の個体群がパレート解となる。3迎角における Cl の平均値が大きい個体
は、前縁が膨らみ、フラップ上面の負圧ピークが高い"ピーキー"な圧力分布となる。反対
に、平均 Cl が小さい個体では、フラップ上面の負圧は低く平らな"ルーフトップ型"の圧
力分布になる。
これら圧力分布と揚力の関係を見ると、
フラップ上面の負圧ピークをできるだけフラッ
プの前縁付近へ置くことで、循環効果と放出速度効果
20)
による揚力の増加が達成されて
いるように見える。
循環効果:
フラップの循環により、母翼後縁が流速の速い領域に置かれるため、
母翼の後半にキャンバを付けた効果が得られる。このように流れを
曲げることは母翼に大きな循環を誘起することになり、翼素全体の
揚力が増加する。
放出速度効果: 母翼の後縁が流速の速い領域に置かれることで、境界層が速い速度
のまま放出される効果である。したがって、母翼境界層内の急な圧
力回復が緩和されるため、気流が剥離することなく揚力を増加でき
る。
ピーキーな圧力分布の場合、
フラップ上面の圧力回復部における圧力勾配が大きくなる
ため、流れが剥離しやすくなる。その一方、ルーフトップ型圧力分布は剥離耐性が良くな
るが、風圧中心が後方に移動するため、フラップによる循環が母翼後縁から離れる方向に
なってしまう。
フラップの展開位置を変えずに、その循環中心をできるだけ前方に持ってきて、母翼の
後縁に接近させることができれば、
放出速度効果を高めることが可能となる。
これは、
ルー
フトップ型圧力分布よりも負圧ピークが高く、
ピーク位置を前方へずらしたワイドピーク
型圧力分布
21)
として提案されている。すなわち、負圧ピーク部にある程度の幅があるワ
イドピークな圧力分布をとることで、剥離耐性を持たせつつ、空力性能の向上が実現でき
るのである。
このような情報を基に、
パレート解の中でワイドピーク型に近い圧力分布を持つ前縁形
状の個体として、内舷フラップは FI3、外舷フラップは FO3 の形状を選択した。
38
3.8
MOGA(30個体 50世代)
ポテンシャル解析
α=4, 6, 8 deg. 平均値
Cp
Cp
-4
Cp
-2
Cp
フラップの表面圧力
(α=4 deg.)
-4
0
平均 Cl
パレート解
-2
2
0.8
0.9
1
1.1
x/c
x/c
0
2
0.8
0.9
1
FI4
3.7
1.1
x/c
x/c
Cp
Cp
FI3
-4
-2
FI2
0
2
0.8
0.9
1
0.9
1
1.1
x/c
1.1
x/c
x/c
Cp
FI1
Cp
-4
-2
0
2
0.8
x/c
3.6
-7
-6
-5
-4
-3
-2
平均 Cpmin
a) MOGA の結果
0
z/c
-0.02
FI1
FI2
FI3
FI4
-0.04
-0.06
0.76
0.78
0.8
0.82
b) 前縁形状の比較
図 2.5-11 内舷フラップ前縁形状最適化結果
39
x/c
3.9
MOGA(30個体 50世代)
ポテンシャル解析
α=4, 6, 8 deg. 平均値
Cp
Cp
-4
-2
Cp
0
2
0.8
0.9
平均 Cl
パレート解
1
x/c
1.1
x/c
フラップの表面圧力
(α=4 deg.)
Cp
-4
-2
0
FO4
3.8
2
0.8
0.9
1
1.1
x/c
FO3
x/c
Cp
FO2
Cp
-4
-2
0
2
0.8
Cp
FO1
0.9
-5
-4
1.1
0
0.9
1
-3
0
-0.02
FO1
FO2
FO3
FO4
-0.06
0.7
0.72
0.74
0.76
b) 前縁形状の比較
図 2.5-12 外舷フラップ前縁形状最適化結果
40
x/c
-2
a) MOGA の結果
-0.04
1.1
x/c
平均 Cpmin
z/c
x/c
-2
3.7
-6
x/c
-4
2
0.8
-7
1
Cp
x/c
2.5.5 HLD 展開位置最適化における計算条件
先述のとおり、HLD 周りの流れ場においては、その展開位置によって境界層干渉などの様
子が大きく変化する。こういった空力的に複雑な現象を含めて2次元多翼素の空力特性を得
るために、本研究では、川崎重工業が開発した粘性流解析用 CFD ツール(UG3:Unstructured
Grid 3D)22) 23)による Navier-Stokes(NS)解析を実施した。UG3 は非構造有限体積法に基づ
き、2次元及び3次元形状における粘性及び非粘性の圧縮性流れを解析できる。HLD が用い
られる高レイノルズ数の乱流場を解析するには乱流モデルが必要であるが、ここでは3方向
薄層近似 RANS(Reynolds Averaged Navier-Stokes)方程式で取り扱い、RANS の乱流モデル
としては Baldwin-Barth モデル
24)
を用いた。なお、層流から乱流への遷移条件は全場乱流と
した。
多翼素周りの複雑な流れ場を解くために、通常の翼型解析用の計算格子("親格子"と呼ぶ)
を生成してから、前縁スラット・後縁フラップを局所的に包括する計算格子("子格子"と呼
ぶ)を重ね合わせた(図 2.5-13)
。この格子生成には同じく川崎重工業が開発した自動格子
生成ツールを用いている。本ツールにより、物体表面に沿う構造格子が使用されるため、HLD
周りの境界層や翼素後流の解像度を上げる点で有利である。
また、コーブ(後方翼素が格納される前方翼素後端凹部)の内部は死水域となり、その部
分の圧力は一様流静圧に落ち着くことが分かっている。この形状を直接 CFD で解く場合、
コーブ内の渦の動きが非定常成分として、解の収束を遅らせる原因となる。MOGA による最
適化計算においては、非常に多くの個体(ケース)を解析することになるので、空力特性に
影響しない領域は流線形状の壁面境界として与え、CFD による解の収束を早めることにした。
解析条件は着陸アプローチを想定した速度、迎角、レイノルズ数を用いており、詳細を表
2.5-1 にまとめた。
41
図 2.5-13 多翼素における計算格子生成例
42
表 2.5-1 2次元流解析条件
解析ツール
UG3(川崎重工業開発)
空間離散化
非構造有限体積法
リーマン流束
LSHUS(Low-dissipation Simple High Resolution Upwind Scheme)25)
時間積分
MFGS(Matrix Free Gauss-Seidel)陰解法
乱流モデル
Baldwin-Barth の1方程式乱流モデル
マッハ数(M)
0.2
レイノルズ数(Re) 24×106(内舷) 、15×106(外舷)
迎角(α)
4 deg.
43
2.5.6 シングル・スロッテッド・フラップ展開位置最適化
はじめに、従来のシングル・スロッテッド・フラップ(SSF:Single Slotted Flap)及びダブ
ル・スロッテッド・フラップ(DSF:Double Slotted Flap)について、経験に基づく手法によ
り設定したもの(SSF0, DSF0)と、展開位置を MOGA により最適化したものの比較を行う。
設計変数として、ギャップ(G/c)
、オーバーラップ(O/c)
、フラップ角(δflap)の3変数、
30 個体、15 世代で最適化を実施した。
MOGA による最適化結果を図 2.5-14~図 2.5-17 に示す。
内舷(図 2.5-14 a)
、外舷(図 2.5-16 a)のパレート解に見られるように、各フラップ角に
対して適切な G/c と O/c 値が存在し、SSF0(δflap=38 deg.)よりも Cl が大きく、L/D の大き
な解が得られた。パレート解のうち、代表的な個体の圧力分布を図 2.5-14 b、図 2.5-16 b に
示しているが、δflap が大きくなるとともに、フラップ上面の負圧ピークが高く、前方へ移動
している。それと同時に、母翼上面の負圧領域が増加しており、放出速度効果が認められる。
続いて、設計変数と目的関数の関係を示した図 2.5-15 及び図 2.5-17 の中で Cl とδflap の関
係を見ると、強い相関があることが分かる。また、このことはパレート解(図中 )とそれ
以外(図中 )でも大きな変化が見られない。さらに、Cl に対して G/c や O/c が分散してお
り相関は弱いが、パレート解の G/c や O/c が一定値に集まる傾向から、パレート解を与える
最適な G/c と O/c が存在することが分かる。
次に L/D とδflap の関係であるが、こちらも強い相関が認められる。しかし、パレート解以
外の個体(図中 )を見てみると、同じδflap でも L/D に幅がある。ギャップが狭くオーバー
ラップが小さい場合には、母翼後流とフラップ上面の境界層が干渉して、厚い合流境界層が
形成されるため、摩擦抵抗が増加する。一方、ギャップが広がりオーバーラップが小さくな
ると、スロット流の運動量がフラップ上面の境界層を薄く保つほど十分ではなくなり、境界
層が厚くなることで、やはり摩擦抵抗が増加してしまう。よってこの中間に最適なギャップ
やオーバーラップの大きさが存在することになる。CFD と MOGA を組み合わせた本手法に
よって最適な Cl と L/D を与える G/c 及び O/c の解を得られることが確認できた。
ここでは、今後の比較のために、基準となる SSF0 と同程度の L/D で Cl の大きな個体(内
舷δflap=40 deg., 外舷δflap=39 deg.)を SSF の代表値とする。
44
4.5
MOGA(30個体 15世代)
M=0.2, α=4 deg., Re=24×106
4.1
Cl @ α=4 deg.
DSF0
3.7
パレート解
δflap=40 deg.
3.3
δflap=35 deg.
0.09
SSF0
δflap=30 deg.
2.9
2.5
50
60
70
80
90
100
L/D @ α=4 deg.
a) MOGA の結果
0.1
Cp
z/c
-10
0
-8
-0.1
:δflap=30 deg.
:δflap=35 deg.
:δflap=40 deg.
-6
-0.2
-4
-0.3
-2
0
2
M=0.2, α=4 deg., Re=24 ×106
-0.1
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
b) 圧力分布の比較
図 2.5-14 内舷 SSF 展開位置最適化
45
0.9
1
1.1
x/c
MOGA(30 個体 15 世代)
:パレート解
6
:個体
4.5
4.5
4.0
4.0
4.0
3.5
3.0
2.5
30
40
Cl @ α=4 deg.
4.5
Cl @ α=4 deg.
Cl @ α=4 deg.
M=0.2, α=4 deg., Re=24×10
3.5
3.0
3.0
2.5
0.01
2.5
0.005
0.02
δflap [deg.]
G/c
100
90
90
90
70
60
50
30
40
δflap [deg.]
L/D @ α=4 deg.
100
80
80
70
80
70
60
60
50
0.005
50
0.005
0.02
G/c
図 2.5-15 内舷 SSF 設計変数と目的関数
46
0.015
O/c
100
L/D @ α=4 deg.
L/D @ α=4 deg.
3.5
0.015
O/c
4.7
MOGA(30個体 15世代)
M=0.2, α=4 deg., Re=15×106
Cl @ α=4 deg.
4.3
DSF0
3.9
パレート解
3.5
δflap=39 deg.
δflap=35 deg.
0.08
SSF0
δflap=30 deg.
3.1
2.7
50
60
70
80
L/D @ α=4 deg.
90
100
a) MOGA の結果
0.1
Cp
z/c
-10
0
-8
-0.1
:δflap=30 deg.
:δflap=35 deg.
:δflap=39 deg.
-6
-0.2
-4
-0.3
-2
0
2
M=0.2, α=4 deg., Re=15 ×106
-0.1
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
b) 圧力分布の比較
図 2.5-16 外舷 SSF 展開位置最適化
47
0.9
1
1.1
x/c
MOGA(30 個体 15 世代)
:パレート解
:個体
4.5
4.5
4.0
4.0
4.0
3.5
3.0
2.5
30
40
Cl @ α=4 deg.
4.5
Cl @ α=4 deg.
Cl @ α=4 deg.
M=0.2, α=4 deg., Re=15×10
6
3.5
3.0
3.0
2.5
0.01
2.5
0.005
0.02
δflap [deg.]
G/c
100
90
90
90
70
60
50
30
40
δflap [deg.]
L/D @ α=4 deg.
100
80
80
70
80
70
60
60
50
0.005
50
0.005
0.02
G/c
図 2.5-17 外舷 SSF 設計変数と目的関数
48
0.015
O/c
100
L/D @ α=4 deg.
L/D @ α=4 deg.
3.5
0.015
O/c
2.5.7 モーフィング・フラップ展開位置最適化
次に、SSF にモーフィングを適用した場合(MSSF:Morphing Single Slotted Flap)の最適配
置を求める。設計変数は、δflap、G/c、O/c、モーフィング開始位置(Xmorph/c)
、モーフィン
グ後縁角(δmorph)の5変数とし、50 個体、15 世代で最適化を実施した。
MOGA による最適化結果を図 2.5-18~図 2.5-23 に示す。
図 2.5-18 a に示す内舷 HLD 設計断面におけるパレート解のうち、代表的な個体について
以下に示す。
FI31:
SSF と同程度の L/D では、δflap=40.0→34 .5 deg.へ角度を浅くしながら
も、全体の Cl を増加させている。図 2.5-18 b で両者の圧力分布を比較し
てみると、SSF に比べてδflap が浅くなることでフラップ上面の負圧ピー
クが下がる一方、
モーフィングによるキャンバ効果によってピーク上がる
ため、ピーク高さは同程度を維持しながらも、その幅は減少している。ま
た、フラップ後半部に流れの加速が見られ、結果としてフラップの揚力は
増えている。このため、フラップ翼素の循環は SSF より強くなっており、
循環効果による母翼揚力の増加が見られる。
FI32:
FI31 に対してδflap=34.5→38.1 deg.、δmorph=18.7→34.1 deg.となる。δflap
を深くすることで負圧ピークは SSF のように幅広くなりながらも、モー
フィングによってフラップ後半部の負圧レベルを FI31 と同程度に維持し
ている(図 2.5-18 c)
。このため、基準である SSF0 の揚力から8%向上す
る性能が得られる。これは目標となる DSF0 に対してほぼ同じ L/D で、揚
力は 87%に相当する。
FI33:
パレート解の中で、揚力が最大となるこの個体では、FI32 に対して
δflap=38.1→40.0 deg.、δmorph=34.1→38.4 deg.とさらに角度が深くなり、フ
ラップの負圧ピーク及び全体 Cl の増加が見られる
(図 2.5-18 d)
。
しかし、
モーフィング範囲が広く、角度が深くなっているため、フラップ後縁付近
の剥離による総圧損失が増えており(図 2.5-19)
、抵抗の増大すなわち、
L/D の悪化を招いている。
全体として、フラップ後縁のモーフィングによるキャンバ効果で、フラップ上面の負圧が
大きくなる。その結果、母翼後縁の放出速度が速くなり、母翼自身の揚力が増加したと考え
られる。また、図 2.5-20 で見られるように、モーフィングの効果は、同じフラップ角範囲で
実現可能な Cl と L/D の範囲を拡大する形で現れることが分かった。
49
図 2.5-21 に、設計変数と目的関数の関係を示す。
パレート解で見た Cl とδflap の関係は、ほぼ線形になっていることが分かる。その他の個体
では Cl に大きな幅が見られる。
また、SSF と同様に、パレート解で見た G/c や O/c は、ほぼ一定の値をとっているが、そ
の他の個体は探索範囲に分散している。そして、SSF と比べ、O/c は同程度(約 0.013)であ
るが、G/c は若干大きい傾向にある(約 0.012)
。母翼後流とフラップ上面境界層の干渉を抑
えるためにギャップを大きくすると、スロット流の運動量が減少してフラップ上面の境界層
が厚くなり、摩擦抵抗が増えることになることは先述のとおりである。しかし、モーフィン
グによってフラップ上面流が加速されたため、
局所レイノルズ数が大きくなる。
つまりフラッ
プ上面境界層が SSF よりも薄くなり、フラップをさらに後方へ移動させることが可能となっ
たものと考えられる。
また、パレート解は Xmorph/c をできるだけ後方にして、δflap とともにδmorph を大きくした
状態に集まっていることが分かる。これは揚力に寄与するフラップ・コード長を大きくとり
つつ、キャンバ効果を出すような形状が残った結果である。
一方、L/D と設計変数の関係に目を向けると、δflap とδmorph を大きくとった場合、フラッ
プ後縁付近の曲がりがきつくなるため、流れが剥離して、抵抗が増加する傾向にある。さら
に、モーフィングの効果が入ったことにより、SSF に比べて、L/D のばらつきに幅ができて
いる。Xmorph/c が後方にあると L/D が大きくなる傾向があり、モーフィング範囲を絞ること
でフラップ後縁部の剥離領域を小さくして抵抗の増加を緩和しているものと考えられる。
外舷 HLD 設計断面についても、図 2.5-22、図 2.5-23 に示すように、内舷と同様の傾向に
なっていることが分かる。
MSSF については、着陸アプローチ条件での Cl の増加に重点を置き、モーフィングによる
L/D の減少をダブル・スロッテッド・フラップと同程度まで許容することにする。ここでは、
DSF0 相当の L/D を持つ個体を選択し、内舷 FI32、外舷 FO32 を MSSF の代表値とする。
50
4.5
MOGA(50個体 15世代)
M=0.2, α=4 deg., Re=24×106
4.1
(δflap=40.0 deg.)
(δmorph=38.4 deg.)
DSF0
Cl @ α=4 deg.
FI33
(δflap=38.1 deg.)
3.7
FI32 (δmorph=34.1 deg.)
FI31(δflap=34.5 deg.)
(δmorph=18.7 deg.)
3.3
0.26
(δflap=40.0 deg.)
SSF
0.09
SSF0
2.9
パレート解
2.5
50
60
70
80
90
100
L/D @ α=4 deg.
a) MOGA の結果
Cp
z/c
:SSF
:FI31
0
-4
-0.1
-2
-0.2
0
-0.3
M=0.2, α=4 deg., Re=24×10
2
0.7
0.8
0.9
6
1
1.1
x/c
b) SSF と FI31 の圧力分布の比較
図 2.5-18 内舷 MSSF 展開位置最適化(1/2)
51
Cp
z/c
:FI31
:FI32
0
-4
-0.1
-2
-0.2
0
-0.3
M=0.2, α=4 deg., Re=24×10
2
0.7
0.8
0.9
6
1
1.1
x/c
c) FI31 と FI32 の圧力分布の比較
Cp
z/c
:FI32
:FI33
0
-4
-0.1
-2
-0.2
0
-0.3
M=0.2, α=4 deg., Re=24×10
2
0.7
0.8
0.9
6
1
1.1
x/c
d) FI32 と FI33 の圧力分布の比較
図 2.5-18 内舷 MSSF 展開位置最適化(2/2)
52
M=0.2, α=4 deg., Re=24×106
FI32
総圧比
FI33
図 2.5-19 内舷 MSSF 総圧比分布
53
4.5
NS解析
M=0.2, α=4 deg., Re=24×106
4.1
DSF0
Cl @ α=4 deg.
MSSFパレート解
3.7
3.3
SSFパレート解
SSF0
2.9
2.5
50
60
70
80
90
L/D @ α=4 deg.
図 2.5-20 モーフィングによるパレート解の変化
54
100
MOGA(50 個体 15 世代)
:パレート解
6
:個体
4.5
4.5
4.0
4.0
4.0
3.5
3.0
2.5
30
40
SSF
3.5
2.5
0.01
2.5
0.005
4.0
Cl @ α=4 deg.
Cl @ α=4 deg.
4.0
3.0
2.5
2.5
0
40
δmorph [deg.]
図 2.5-21 内舷 MSSF 設計変数と目的関数(1/2)
55
0.015
O/c
3.5
3.0
Xmorph/c
0.02
G/c
4.5
0.94
3.5
3.0
4.5
0.5
SSF
3.0
δflap [deg.]
3.5
Cl @ α=4 deg.
4.5
Cl @ α=4 deg.
Cl @ α=4 deg.
M=0.2, α=4 deg., Re=24×10
MOGA(50 個体 15 世代)
:パレート解
6
:個体
100
100
90
90
90
SSF の
ばらつき範囲
80
70
60
50
30
40
L/D @ α=4 deg.
100
L/D @ α=4 deg.
L/D @ α=4 deg.
M=0.2, α=4 deg., Re=24×10
80
70
60
50
0.01
50
0.005
90
90
L/D @ α=4 deg.
L/D @ α=4 deg.
100
70
60
50
50
0.94
Xmorph/c
0
40
δmorph [deg.]
図 2.5-21 内舷 MSSF 設計変数と目的関数(2/2)
56
0.015
O/c
80
60
0.5
0.02
G/c
100
70
70
60
δflap [deg.]
80
80
4.7
MOGA(50個体 15世代)
M=0.2, α=4 deg., Re=15×106
4.3
DSF0
Cl @ α=4 deg.
(δflap=40.0 deg.)
(δmorph=35.9 deg.)
FO33
3.9
(δflap=37.3 deg.)
FO32(δmorph=37.4 deg.)
FO31(δflap=36.8 deg.)
(δmorph=23.3 deg.)
3.5
0.31
SSF
0.10
SSF0
3.1
(δflap=39.1 deg.)
パレート解
2.7
50
60
70
80
90
100
L/D @ α=4 deg.
a) MOGA の結果
Cp
z/c
:FO31
:FO32
:FO33
-4
0
-0.1
-2
-0.2
0
-0.3
M=0.2, α=4 deg., Re=15×10
2
0.7
0.8
0.9
6
1
1.1
x/c
b) 圧力分布の比較
図 2.5-22 外舷 MSSF 展開位置最適化
57
MOGA(50 個体 15 世代)
:パレート解
6
:個体
4.5
4.0
4.0
3.5
3.0
2.5
30
40
4.5
3.5
3.0
2.5
0.01
2.5
0.005
4.5
4.0
4.0
Cl @ α=4 deg.
Cl @ α=4 deg.
G/c
4.5
3.0
2.5
2.5
0.94
Xmorph/c
0
40
δmorph [deg.]
図 2.5-23 外舷 MSSF 設計変数と目的関数(1/2)
58
0.015
O/c
3.5
3.0
0.5
0.02
SSF
3.5
3.0
δflap [deg.]
3.5
4.0
SSF
Cl @ α=4 deg.
4.5
Cl @ α=4 deg.
Cl @ α=4 deg.
M=0.2, α=4 deg., Re=15×10
MOGA(50 個体 15 世代)
:パレート解
6
:個体
100
100
90
90
90
SSF の
ばらつき範囲
80
70
60
L/D @ α=4 deg.
100
L/D @ α=4 deg.
L/D @ α=4 deg.
M=0.2, α=4 deg., Re=15×10
80
70
60
50
30
40
50
0.01
90
90
L/D @ α=4 deg.
L/D @ α=4 deg.
100
70
60
50
50
0.94
Xmorph/c
0
40
δmorph [deg.]
図 2.5-23 外舷 MSSF 設計変数と目的関数(2/2)
59
0.015
O/c
80
60
0.5
50
0.005
0.02
G/c
100
70
70
60
δflap [deg.]
80
80
2.5.8 スポイラ・ドループ効果
これまでの最適化結果から、モーフィング効果だけでは、目標とする DSF0 の性能に及ば
ないことが分かった。そこで、スポイラをドループさせた効果について調査する。
前節の MSSF(FI32, FO32)に対して、スポイラを角度(δspoilerD)だけ下げた場合の Cl の
変化を図 2.5-24 に示す。この結果から、両者とも、δspoilerD とともに Cl が増加していること
が分かる。これはスポイラを下げることで母翼のキャンバが増すことが要因として考えられ
る。また、図 2.5-24 b では、外舷 HLD 設計断面のδspoilerD =15 deg.付近にピークが見られる。
これは、母翼のキャンバ効果による揚力増分に比べて、フラップ自体が発生する揚力の減少
の方が大きくなったことにより、全体揚力が下がってしまった結果である(図 2.5-25)
。
同時に、総圧比分布(図 2.5-26)を見てみると、フラップ後縁部の総圧損失が緩和されて
いることが分かる。
ここで、スポイラ・ドループによるフラップの荷重減少メカニズムについて、二つの視点
で考察する。
一つは、母翼の揚力が増加することで、吹き降ろしが強くなると考えるものである。吹き
降ろしの変化によって、フラップの局所迎角が浅くなるため、フラップの揚力が減少すると
見ることができる。
次に、母翼後流の排除効果として考えみる。迎角を大きくしたときに、フラップの受け持
つ荷重の割合が減少する事象は、フラップの剥離によるものではなく、母翼後流の排除効果
によりフラップの負圧ピークが抑えられた結果と考えられている 26)。つまり、高迎角で母翼
後流が厚いほど、フラップの上面圧力は抑えられ、フラップの剥離を遅らせることが可能と
なるのである。
いま、図 2.5-26 の中で、δspoilerD による母翼後流の厚さを比べてみると、スポイラを下げ
ることで後流が広がっていることが分かる。これは多翼素全体の迎角を大きくしたときと似
た状態として捉えることができる。したがって、スポイラ・ドループにより母翼後流がフラッ
プ上面の流れ場に対して与える排除効果が増大し、近傍の静圧を高くするため、フラップ上
面の負圧が抑えられていると見ることができる。
以上の結果から、δspoilerD により、母翼キャンバを大きくすることで得られる揚力増分は
モーフィングによるものと同程度であり、かつ、フラップの剥離を遅らせる効果があること
が分かった。
60
ただし、スポイラ・ドループ効果は、前縁部吹き上げも強めるため、前縁スラットの荷重
が増加してしまう。これは、前縁スラットの失速を早めるので、CLmax 又は失速迎角が小さく
なり、急激な失速特性になることが示されている 27)。この欠点を補うため、スポイラをドルー
プさせる場合には、前縁スラットの適切な展開位置についても検討する必要がある。
61
4.5
M=0.2, α=4 deg., Re=24×106
4.1
Cl @ α=4 deg.
DSF0
3.7
MSSF
3.3
SSF0
2.9
2.5
-5
0
5
10
15
20
25
δspoilerD
a) 内舷 HLD 設計断面
4.7
M=0.2, α=4 deg., Re=15×106
Cl @ α=4 deg.
4.3
DSF0
3.9
MSSF
3.5
SSF0
3.1
2.7
-5
0
5
10
15
20
δspoilerD
b) 外舷 HLD 設計断面
図 2.5-24 スポイラ・ドループ効果(Cl 変化)
62
25
0.1
Cp
z/c
-10
0
-8
-0.1
:δspoilerD= 0 deg.
:δspoilerD=15 deg.
:δspoilerD=20 deg.
-6
-0.2
-4
-0.3
-2
0
2
6
M=0.2, α=4 deg., Re=24 ×10
-0.1
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1
1.1
x/c
a) 内舷 HLD 設計断面
0.1
Cp
z/c
-10
0
-8
-0.1
:δspoilerD= 0 deg.
:δspoilerD=15 deg.
:δspoilerD=20 deg.
-6
-0.2
-4
-0.3
-2
0
2
6
M=0.2, α=4 deg., Re=15 ×10
-0.1
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
b) 外舷 HLD 設計断面
図 2.5-25 スポイラ・ドループ効果(圧力分布)
63
1
1.1
x/c
M=0.2, α=4 deg., Re=24×106
δspoiler= 0 deg.
総圧比
δspoiler= 15 deg.
a) 内舷 HLD 設計断面
M=0.2, α=4 deg., Re=15×106
δspoiler= 0 deg.
総圧比
δspoiler= 15 deg.
b) 外舷 HLD 設計断面
図 2.5-26 スポイラ・ドループ効果(総圧比分布)
64
2.5.9 モーフィングとスポイラ・ドループの同時最適化
前述のとおり、フラップの剥離を遅らせながらも、アプローチ迎角での揚力を増加させる
のにスポイラ・ドループが有効であることが分かった。
この効果は粘性の影響が大きいため、
これまで見てきた MSSF の展開位置とδspoilerD の組み合わせ(MSSFSD:MSSF with Spoiler
Droop)により、更なる性能改善の余地が見込まれる。
そこで、6個の設計変数(δflap、G/c、O/c、Xmorph/c、δmorph、δspoilerD)を用いて、50 個体、
30 世代で MOGA による最適化を実施した。
MOGA による最適化結果を図 2.5-27~図 2.5-31 に示す。
図 2.5-27 a に示す内舷 HLD 設計断面におけるパレート解のうち、代表的な個体について
以下に示す。
FI321:
SSF と同程度の L/D では、δflap=40.0→36.1 deg.へ浅くしながらも、全
体の Cl を増加させている。この Cl は MSSF に対しても大きな値であり、
SSF に対して L/D を悪化させないまま Cl の大幅な向上が可能であること
が分かる。 図 2.5-27 b で両者の圧力分布を比較してみると、SSF に比べ
てδflap が浅く、スポイラ・ドループ効果(δspoilerD=10.2 deg.)により、フ
ラップ上面の負圧ピークが下がっている。一方、モーフィング効果により
フラップ上面負圧レベルが上がるため、フラップの循環は強まっている。
FI322:
FI321 に対してδflap は変わらないものの、
δspoilerD=10.2→14.2 deg.と深く
なり、反対にδmorph=26.3→20.4 deg.へ浅くなっている。スポイラ・ドルー
プ効果が強まったため、
モーフィングによる抵抗増を抑える形になったと
考えられる。両者の圧力分布を比較してみると(図 2.5-27 c)
、フラップ
の荷重が緩和されていることが分かる。この個体では、SSF0 の揚力から
15%向上する結果となっている。また、ほぼ同じ L/D を持つ DSF0 に対し
て約 93%の揚力を発生させている。
FI323:
パレート解の中で、揚力が最大となるこの個体は、FI322 に対して
δflap=36.1→40.0 deg.、δmorph=20.4→39.8 deg.、δspoilerD=14.2→18.0 deg.と全
ての角度が深くなり、DSF0 相当の Cl を発生している。FI322 との圧力分
布の比較(図 2.5-27 d)から、この個体ではフラップ後縁が垂直になり、
後縁付近の形状が直接揚力に寄与せず、
抵抗成分を増加させている。
また、
総圧比分布(図 2.5-28)を見ると、母翼境界層厚の増加と、フラップ後
縁の総圧損失が増えており、これら損失の増大が L/D の悪化を招いてい
ることが分かる。
65
図 2.5-29 に設計変数と目的関数の関係を示す。
Cl とδflap の関係は、これまでと概ね同じである。G/c は MSSF(約 0.012)よりも大きい傾
向にあるが、O/c は MSSF と同程度(約 0.013)である。また、パレート解は Xmorph/c が MSSF
(約 0.88)よりもやや前方になり、δmorph とδspoilerD は Cl に対して類似した相関を持ってい
る。これは後端部の急激な曲げを避けて抵抗増を抑えている状態といえる。
外舷 HLD 設計断面についても、図 2.5-30、図 2.5-31 に示すように、全体的には内舷と類
似の傾向になっている。ただし、Xmorph/c と Cl の関係については若干異なり、δflap の増大と
ともに後方へ移動、δspoilerD の増大とともに前方へ移動する傾向がある。
ここでは、MSSF と同様に、DSF0 相当の L/D を持つ個体(内舷 FI322、外舷 FO322)を
MSSFSD の代表形状とする。
着陸形態の L/D は、着陸復行時の上昇勾配に大きく関わるが、モーフィング機構の応答性
はエンジンの応答時間である6~8秒に対して十分に速いと予想されるので、フラップ設定
を浅くすることで L/D を改善できると考える。
これまでのフラップ形状による Cl の変化を図 2.5-32 にまとめる。DSF0 相当の L/D で見た
とき、
MSSF:
SSF にモーフィングを適用することで SSF0 の約 8%増、
DSF0 の 85-87%に相当する Cl
MSSFSD:
MSSF にスポイラ・ドループを適用することで SSF0 の約 15%増、
DSF0 の 90-93%に相当する Cl
となり、シングルタイプのフラップでも相当な空力性能向上が見込めることが分かった。
66
4.5
MOGA(50個体 30世代)
M=0.2, α=4 deg., Re=24×106
(δflap=40.0 deg.)
(δmorph=39.8 deg.)
(δspoilerD=18.0 deg.)
FI323
4.1
Cl @ α=4 deg.
DSF0
(δflap=36.1 deg.)
(δmorph=20.4 deg.)
FI322(δspoilerD=14.2 deg.)
3.7
0.22
0.26
3.3
(δflap=40.0 deg.)
FI321(δflap=36.1 deg.)
(δmorph=26.3 deg.)
(δspoilerD=10.2 deg.)
MSSF
SSF
0.09
SSF0
2.9
パレート解
2.5
50
60
70
80
L/D @ α= 4deg.
90
100
a) MOGA の結果
Cp
z/c
:SSF
:FI321
0
-4
-0.1
-2
-0.2
0
-0.3
M=0.2, α=4 deg., Re=24×10
2
0.7
0.8
0.9
6
1
1.1
x/c
b) SSF と FI321 の圧力分布比較
図 2.5-27 内舷 MSSFSD 最適化(1/2)
67
Cp
z/c
:FI321
:FI322
0
-4
-0.1
-2
-0.2
0
-0.3
M=0.2, α=4 deg., Re=24×10
2
0.7
0.8
0.9
6
1
1.1
x/c
c) FI321 と FI322 の圧力分布の比較
Cp
z/c
:FI322
:FI323
0
-4
-0.1
-2
-0.2
0
-0.3
M=0.2, α=4 deg., Re=24×10
2
0.7
0.8
0.9
6
1
1.1
x/c
d) FI322 と IF323 の圧力分布の比較
図 2.5-27 内舷 MSSFSD 最適化(2/2)
68
M=0.2, α=4 deg., Re=24×106
FI321
総圧比
FI322
FI323
図 2.5-28 内舷 MSSDF(総圧比分布)
69
MOGA(50 個体 30 世代)
:パレート解
6
M=0.2, α=4 deg., Re=24×10
:個体
4.5
4.5
4.5
MSSF
3.5
3.0
2.5
30
40
4.0
Cl @ α=4 deg.
4.0
Cl @ α=4 deg.
Cl @ α=4 deg.
4.0
MSSF
3.5
3.5
3.0
3.0
2.5
0.01
2.5
0.005
δflap [deg.]
0.02
G/c
4.5
0.015
O/c
4.5
4.5
4.0
4.0
Cl @ α=4 deg.
Cl @ α=4 deg.
4.0
3.5
Cl @ α=4 deg.
MSSF
3.5
3.5
3.0
3.0
3.0
2.5
2.5
2.5
0.5
0.94
Xmorph /c
0
40
δmorph [deg.]
図 2.5-29 内舷 MSSFSD 設計変数と目的関数(1/2)
70
0
20
δspoilerD [deg.]
MOGA(50 個体 30 世代)
:パレート解
:個体
100
100
90
90
90
80
70
60
50
30
40
L/D @ α=4 deg.
100
L/D @ α=4 deg.
L/D @ α=4 deg.
M=0.2, α=4 deg., Re=24×10
6
80
70
70
60
60
50
0.01
50
0.005
δflap [deg.]
0.02
G/c
100
90
90
90
70
L/D @ α=4 deg.
100
80
80
70
80
70
60
60
60
50
50
50
0.5
0.94
Xmorph /c
0
40
δmorph [deg.]
図 2.5-29 内舷 MSSFSD 設計変数と目的関数(2/2)
71
0.015
O/c
100
L/D @ α=4 deg.
L/D @ α=4 deg.
80
0
20
δspoilerD [deg.]
4.7
(δflap=40.0 deg.)
(δmorph=35.7 deg.)
(δspoilerD=4.2 deg.)
MOGA(50個体 30世代)
M=0.2, α=4 deg., Re=15×106
FO323
4.3
(δflap=40.0 deg.)
(δmorph=17.9 deg.)
(δspoilerD=7.6 deg.)
Cl @ α=4 deg.
DSF0
FO322
3.9
FO321
0.20
3.5
0.31
SSF
0.08
SSF0
(δflap=39.1 deg.)
3.1
(δflap=35.8 deg.)
(δmorph=15.9 deg.)
(δspoilerD=7.8 deg.)
MSSF
パレート解
2.7
40
50
60
70
L/D @ α= 4deg.
図 2.5-30 外舷 MSSFSD 最適化
72
80
90
MOGA(50 個体 30 世代)
:パレート解
M=0.2, α=4 deg., Re=15×10
6
:個体
4.5
4.5
4.5
MSSF
MSSF
3.5
3.0
2.5
30
4.0
Cl @ α=4 deg.
4.0
Cl @ α=4 deg.
Cl @ α=4 deg.
4.0
3.5
3.0
3.0
2.5
2.5
0.005
40
0.01
δflap [deg.]
0.02
G/c
4.5
4.0
4.0
4.0
Cl @ α=4 deg.
4.5
3.5
3.5
3.5
3.0
3.0
3.0
2.5
2.5
2.5
0.5
0.94
Xmorph [%c]
0
40
δmorph [deg.]
図 2.5-31 外舷 MSSFSD 設計変数と目的関数(1/2)
73
0.015
O/c
4.5
Cl @ α=4 deg.
Cl @ α=4 deg.
3.5
0
20
δspoilerD [deg.]
MOGA(50 個体 30 世代)
:パレート解
:個体
100
100
90
90
90
80
70
60
50
30
L/D @ α=4 deg.
100
L/D @ α=4 deg.
L/D @ α=4 deg.
M=0.2, α=4 deg., Re=15×10
6
80
70
70
60
60
50
50
0.005
40
0.01
δflap [deg.]
0.02
G/c
100
90
90
90
70
L/D @ α=4 deg.
100
80
80
70
80
70
60
60
60
50
50
50
0.5
0.94
Xmorph [%c]
0
40
δmorph [deg.]
図 2.5-31 外舷 MSSFSD 設計変数と目的関数(2/2)
74
0.015
O/c
100
L/D @ α=4 deg.
L/D @ α=4 deg.
80
0
20
δspoilerD [deg.]
5.0
Cl @ α=4 deg.
4.0
3.0
DSF0
の93%
SSF0
の15%
向上
2.0
1.0
0.0
SSF0
SSF
MSSF
MSSFSD
DSF0
a) 内舷 HLD 設計断面
5.0
Cl @ α=4 deg.
4.0
DSF0
の90%
SSF0
の16%
向上
3.0
2.0
1.0
0.0
SSF0
SSF
MSSF
MSSFSD
b) 外舷 HLD 設計断面
図 2.5-32 フラップ形状による揚力の比較
75
DSF0
2.6 構造・機構の検討
2.6.1 機構関連技術調査
まず、機構検討の基礎とするために、関連技術の調査及び検討を行い、課題を明らかにす
る。ここでは特に、モーフィング・スキン、先進的アクチュエータ及びモーフィング機構の
3つに注目し、検討を行った。
(1) モーフィング・スキン
本研究の目的である揚力の向上を達成するためには、
外板のコンタを滑らかに変形させ
る必要がある。現在の技術では、キャンバを変化させる手段としては、金属材料の外板を
機械的にスライドさせる必要がある。しかし、それでは外板に段差ができてしまい、空気
の流れが乱れて剥離が起きてしまう。この課題を解決するために、伸縮材料の適用が考え
られる。
伸縮材料ならば、
コンタを滑らかに保ちながらキャンバを変化することができる。
そこで、モーフィング・スキンに関しては、
「伸縮性」
、
「コード方向の曲げ」
、
「スパン
方向の剛性」
、
「コンタ保持力」について調査検討を実施した。調査結果を表 2.6-1 にまと
める。
この調査により、
2つの技術的課題が明らかになった。
1つはスパン方向の剛性である。
現段階では、伸縮材料自身にスパン方向の剛性を持たせることは難しいため、ストリンガ
等で補強する必要がある。2つ目はコンタ保持である。金属材料と同じ板厚でコンタ保持
することは難しい。したがって、ある程度の重量増加を許容しながら、板厚を厚くしてコ
ンタ保持をさせる必要がある。
76
表 2.6-1 モーフィング・スキン調査結果
(a1) Flexible Matrix Composite ( FMC )13)
材質
・Elastomer sheets:
シリコンエラストマ
・Carbon fiber layers:
炭素繊維/エラストマ複合材料
Elastomer sheets
Carbon fiber layers
(a2) FMC / Zero – Poisson honeycomb13)
伸縮性
○
コード方向の曲げ
○
スパン方向の剛性
×
コンタ保持力
×
材質
・ハニカムコア:光硬化樹脂
(b) Reinforced corrugated structure with
elastomeric surface14)
伸縮性
○
コード方向の曲げ
○
スパン方向の剛性
×
コンタ保持力
×
材質
・波板:
CFRP
・ロッド: CFRP
・膜材:
フレキシブル・ラバー
伸縮性
×
コード方向の曲げ
○
スパン方向の剛性
○
コンタ保持力
○
77
(2) 先進的アクチュエータ
先進的アクチュエータは、翼の外板等の構造に適用可能で、なおかつ空力荷重に耐えつ
つ変形可能なアクチュエータである。最近では、先進的アクチュエータを用いて翼構造を
簡素にし、重量軽減を図っている研究が多く存在する。
ここでは、今後の構造案抽出のために調査を行い、先進的アクチュエータの適用可否を
検討した。その調査結果を表 2.6-2 に示す。
調査を行った結果、実用化までの道のりはまだ遠いと考えられる。なぜなら、多くの研
究がコンセプト案で留まっており、
プロトタイプ製作及び試験等を行っている研究が少な
いからである。
したがって、
本研究においてモーフィング構造を早期実現させるためにも、
既存のアクチュエータを使用する方針とした。
78
表 2.6-2 先進的アクチュエータの調査結果
15)
(c) Piezoelectric Actuator
材料
・Piezoelectric wafer
・Metallic substrates
動作原理
Piezoelectric wafer を Metallic substrates に接着し、
印加電圧をかけると Piezoelectric wafer が動くの
で、Metallic substrates がつられて動く。
(d) Flexible matrix composites (FMC)14)
材料
・エラストマ・マトリックス
・FMC チューブ
動作原理
エラストマ・マトリックスの中に FMC チュー
ブを数個埋め込む。それを流体で加圧すること
により、初期の繊維角度が縮小及び膨張する。
FMC チューブへの圧力付加を制御することで、
構造の剛性と形状(伸縮、曲げ及びねじれ)が
変化する。
79
(3) モーフィング機構
本研究の目的の一つである重量ペナルティ"0"を達成するためには、構造を簡素にする
必要がある。
モーフィング機構を実現させるためには2つの方法が考えられる。
1つ目は、
駆動系の動力を用いて機構を動かす方法である。2つ目は、機能性材料を用いて、構造自
身を変形させる方法である。
しかし、それぞれの方法には問題点がある。1つ目の方法は、駆動系の動力を用いてい
るので耐空力荷重はあるが、重量が重くなる可能性がある。2つ目はその逆で、機能性材
料等を用いることで構造が簡素になり重量を軽くできるが、
空力荷重に耐えられなくなる
可能性がある。
このようなことから、モーフィング機構に関しては、
「重量軽減効果」及び「耐空力荷
重」について検討を行った。表 2.6-3 にモーフィング機構の調査・検討結果を示す。
調査の結果、
駆動系の動力を用いたモーフィング機構は実用に近いレベルまできている
ことが分かった。一方、機能性材料を用いた場合は、耐空力荷重の低下及びモーフィング
させるパワー不足が懸念される。また、それら研究の多くが先進アクチュエータと同様に
概念研究の段階であることから、機能性材料を用いた機構は、現時点では難しいと考えら
れる。したがって、モーフィング機構の方向性を駆動系の動力を用いた機構に定める。
80
表 2.6-3 モーフィング機構の調査結果(1/2)
(e) Compliant Mechanism15)
機構概要
フレキシブルなリンクとジョイントで構成
されており、ハイテク素材から制御された
変位とエネルギーを伝えることでモーフィ
ングさせる。
重量軽減効果
○
機構が簡素で、アセンブリも無いので重量
は軽減できると考えられる。
耐空力荷重
△
構造がフレキシブルな材料であることから
前後縁が空力荷重に耐えられない可能性が
ある。
(f) DARPA / Wright Lab "Smart Wing" 15)
機構概要
翼の後縁を、トルクチューブを用いて変形
させ、上下面に埋め込んである形状記憶合
金ワイヤで形状を滑らかにする。
重量軽減効果
△
形状記憶合金ワイヤによる重量増加の可能
性がある。
耐空力荷重
○
風洞試験を行っていることにより、空力荷
重に耐えられると考えられる。
81
表 2.6-3 モーフィング機構の調査結果(2/2)
14)
(g) Eccentuator
機構概要
翼の後縁を、トルクチューブを用いて変形
させ、上下面に埋め込んである形状記憶合
金ワイヤで形状を滑らかにする。
重量軽減効果
△
形状記憶合金ワイヤによる重量増加の可能
性がある。
耐空力荷重
○
風洞試験を行っていることにより、空力荷
重に耐えられると考えられる。
(h) Finger concept14)
機構概要
リブがリンク機構で変形可能になってお
り、電気モータが動力源である。
重量軽減効果
×
全てのリブにアクチュエータを組み込み、
更にリンク機構になっていることから重量
は増加すると考えられる。
耐空力荷重
○
基本構造自体は変わらないことから、空力
荷重に耐えられると考えられる。
82
(4) 検討結果
先進的なアクチュエータを用いた機構及び構造は研究段階のものが多く、
実用化には程
遠いことが分かった。したがって、現時点では、既存の技術で考えられる構造様式を目指
し検討を行う方針とした。
今後は、モーフィング・スキンに用いる材料検討結果(表 2.6-4)から、金属材料と伸
縮材料の比較検討を行い、モーフィング構造に妥当なものを選択していく。
表 2.6-4 モーフィング・スキンに用いる材料検討結果
材料
メリット
デメリット
金属材料
伸縮材料
平滑なコンタ面を保ちやす モーフィング形状の自由度を
い。
高くできる。
空力的最適形状を達成できな 単体ではコンタ保持能力が低
い可能性がある。
い。
モーフィング構造の検討結果を表 2.6-5 に示す。モーフィングを行う際、外板及び支持
構造を変形させなければならない。すなわち、既存の技術を用いた場合、変形してなおか
つ荷重を負担できる材料は無いことから、
駆動系に形状維持を持たせた構造様式を目指す
ことにした。
表 2.6-5 モーフィング構造検討結果
変形の可否
形状維持
評価
(荷重負担)
外板
支持構造
外板
×
○
×
支持構造
○
×
×
駆動系
○
○
○
83
2.6.2 機構案の抽出
調査結果を基に機構案の抽出を行った。現時点での機構及び材料案を以下に示す。
(1) モーフィング・コンセプト1
図 2.6-1 に示すように、アクチュエータ力で CFRP 板を曲げてモーフィングさせる形式
である。アクチュエータの配置数によっては重量が増加する。また、CFRP 板が空力荷重
に耐えられず、座屈する可能性がある。
リニアアクチュエータ
CFRP 板
伸縮材料スキン
重量軽減効果:△
耐空力荷重:△
図 2.6-1 モーフィング・コンセプト1
(2) モーフィング・コンセプト2
こちらの形式は、図 2.6-2 に示すように、スキンの剛性及び補強材(板ばね)の剛性を
利用してモーフィングさせるものである。
板ばねによって重量増加になると考えられるが、
金属材料及びアクチュエータ力で支えることから空力荷重に耐えられると思われる。
アクチュエータ
板ばね
すべり
ロッド
シール
重量軽減効果:×
耐空力荷重:○
図 2.6-2 モーフィング・コンセプト2
84
(3) モーフィング・コンセプト3
コンセプト2に対して、後縁の上下面に波板を用いてモーフィングさせるもので、図
2.6-3 のような機構となる。こちらもアクチュエータ力により、空力荷重に耐えられるも
のと考えられる。ただし、アクチュエータの配置数によっては重量の増加が見込まれる。
ゴム式
ゴム
スライド式
甲殻類式
滑り
重量軽減効果:△
耐空力荷重:○
図 2.6-3 モーフィング・コンセプト3
(4) モーフィング・コンセプト4
図 2.6-4 で示すように、下面側スキンをローラで巻き取り、キャンバを変化させると同時
に SMA ワイヤで翼面を滑らかにする機構である。ローラと SMA ワイヤによって重量増加が
見込まれる。加えて、耐空力荷重は SMA ワイヤの強度によって変わってくる。
アルミ合金
ローラ
フレキシブルスキン
SMA ワイヤを組み込んだ
フレキシブルスキン
SMA ワイヤで形状を
滑らかにする。
重量軽減効果:×
耐空力荷重:△
図 2.6-4 モーフィング・コンセプト4
85
(5) モーフィング・スキン
図 2.6-5 のような構成を考える。伸縮性能を持つシリコンエポキシに、ポリウレア樹脂
をコーティングして耐候性を良くする。また、CFRP スパーでスパン方向の剛性を確保す
る。
伸縮性を持つ
スパー
ポリウレア樹脂
シリコンエポキシ
図 2.6-5 モーフィング・スキン
86
2.6.3 既存の伸縮材料調査
モーフィング構造に伸縮材料と使用するために伸縮材料の性質を調査した。強度面では大
差ないが、耐候性については伸縮材料ごとに異なるということが明らかになった。調査した
伸縮材料の詳細を以下に示す。
(1) ゴム
ゴムは、航空機への使用実績があることから信頼性が高く、モーフィング・スキンに使
用できると考えられる。また、他の伸縮材料に対して比重及び耐候性に優れている特徴が
ある。ゴムの性質を表 2.6-6 に示す。
表 2.6-6 ゴムの性質 28)
ゴムの種類
クロロプレンゴム
ブタジェンゴム
シリコンゴム
ASTM による略称
CR
BR
SR
比重
1.15~1.25
0.93~0.94
0.95~0.98
引張強さ [kg/cm3]
50~250
20~200
40~100
伸び [%]
100~1000
100~800
50~500
反発弾性
◎
◎
◎
引裂き強さ
○
○
△~×
圧縮永久歪
◎
○
◎
耐摩耗性
◎~○
◎
△~×
耐屈曲亀裂性
○
△
○~×
耐熱性 [℃]
130
120
280
耐寒性 [℃]
-35~-55
-70
-70~-120
耐老化性
◎
○
◎
耐オゾン性
○
×
◎
耐候性
◎
○
◎
耐放射線性
○~△
×
◎~△
87
(2) エラストマ
以下にエラストマの調査結果を示す。
三菱化学 ゼラス 29):
ホモポリプロプレンのマトリックスに、
高いゴム含量を達成する触媒技術と重合プロセ
ス技術を組み合わせたことにより、製造された高性能のオレフィン系エラストマである。
ゼラスの性質を表 2.6-7 に示すが、その特徴は以下のとおりである。
・比重が小さく、製品の軽量化が可能である。
・ホモポリプロピレンの耐熱性と優れた柔軟性を併せ持つ。
・高い強度を有する。
・耐衝撃性に優れる。
BLUESTAR SILICONES Rhodorsil® V-33030):
2液室温硬化型シリコン・ゴム化合物であり、加熱により硬化時間を調節できる。その
性質を表 2.6-8 示すが、この材料には、高強度で、優れたディティール再現ができるとい
う特徴がある。
BLUESTAR SILICONES Rhodorsil® RTV-3460 PEX31):
2液室温硬化型シリコン・ゴム化合物であり、発泡ウレタンなどで複製を作る場合の型
取り母型用に適している。その特徴として、高い引張り強度及び引裂強度を有しており、
金型寿命が長いことが挙げられる。さらに、優れたディティール再現ができる。
材料の性質を表 2.6-9 に示す。
日本ジッコウ ジックシール E-1632):
ジックシール E-16 は、同種のエポキシ系コーキング材に比べ伸縮性を改良した高弾性
エポキシ・コーキング材である。シリコン、ポリサルファイド等の高弾性シーリング材で
は得られない機械的強度、接着性や耐水性等、エポキシ樹脂の持つ優れた特性を兼備して
いる。また、材料の特徴として、高伸縮性を有し、耐酸性、耐アルカリ性、耐油性に優れ
ている。さらに、上塗り材の適合性にも優れている。
材料の性質を表 2.6-10 に示す。
88
表 2.6-7 ゼラスの性質 29)
表 2.6-8 Rhodorsil® V-330 の性質 30)
89
表 2.6-9 Rhodorsil® RTV-3460 PEX の性質 31)
表 2.6-10 ジックシール E-16 の性質 32)
90
2.6.4 伸縮材料を用いた翼構造の成立性検討
伸縮材料の空力荷重に耐えられる板厚を算出し、伸縮材料の適用可否を検討する。
(1) 空力荷重の算出
たわみ量を検討する際の荷重は、
空力検討で算出された外舷フラップ表面のモーフィン
グ部の最大圧力係数 Cp=0.773 を用いる。圧力係数が算出された条件を以下に示す。
・ マッハ数:0.2
・ レイノルズ数:15×106
・ フラップ角:40 deg.
・ モーフィング開始位置:86%cflap
・ モーフィング後縁角:18 deg.
Cp 値を以下の式を用いて圧力に変換する。
Cp =
p − p∞
1 2
ρv
2
0.773 =
p − 101325
p
:局所静圧 [Pa]
p∞
:一様流静圧 [Pa]
ρ
:一様流空気密度 [kg / m3]
v
:速度 [m/s]
1
× 1.225 × 68.12
2
∴ p = 103.5 [kPa]
91
(2) 板厚の算出
(1)で算出した圧力を単位長さ当たりの力にして、空力荷重に耐えられる板厚を以下の
式により算出する。ここでは、a をストリンガ間隔(20 mm)
、b をリブ間隔(200 mm)
と仮定した板で、
4辺はリベットで完全固定されているとする。
板材はシリコン・ゴムで、
ヤング率 3 MPa とする。最大たわみが 1 mm 以下で空力荷重に耐えることができると仮定
する。
103.5 [kPa] → 0.1035 [ N / mm]
ω max = α
ωmax :最大たわみ [mm]
4
Pa
× n × S .F .
Eh 3
a
:ストリンガ間隔 [mm]
b
:リブ間隔 [mm]
α
:係数(下表参照)
h
:板厚 [mm]
P
:単位長さ当たりの力 [N/mm]
E
:ヤング率 [MPa]
n
:荷重倍数(=2)
S.F. :安全率(=1.5)
表 2.6-11 長方形の全面に分布荷重が加わっているときの係数
b/a
1.0
1.1
1.2
1.4
1.7
2
3
4
5
∞
α
0.0138
0.0164
0.0188
0.0226
0.0260
0.0277
-
-
-
0.0285
1 = 0.0285 ×
0.1035 × 204
× 2 × 1.5
3h3
∴ h = 7.78 [mm]
空力荷重に耐えるには、シリコン・ゴムの場合、板厚 7.78 mm となり、これぐらいの
板厚ならばモーフィングに支障はないと考えられる。
金属材料を使用した場合の板厚と比
較すると、9.7 倍以上増えることで重量増加になってしまうが、外板への適用は可能だと
いうことを明らかにすることができた。
92
(3) 重量の概算
金属材料及びモーフィングで使用する材料で構成された構造重量を算出する。
その結果
から重量比較を行い、モーフィング・フラップ構造への伸縮材料適用可否の検討をする。
ここでは、モーフィングで使用する材料として、以下の2つのパターンを考える。
パターン1:上下面ともに伸縮材料を使用する。
パターン2:上面に金属材料、下面に伸縮材料を使用する。ただし、モーフィングで
きるように金属材料の板厚を 0.5 mm とする。
2
面積1m 、板厚を材料毎の最適な値を使用して、金属材料及びモーフィング材料重量
を算出し比較する。各材料の重量を表 2.6-12 に示す。
表 2.6-12 各材料の重量
材料
材質
密度 [g/cm3]
板厚 [mm]
重量 [kg]
金属材料
7075T6
2.80
0.8
2.24
シリコン・ゴム
0.96
7.78
7.47
モーフィング材料
7075T6
2.80
0.5
1.40
パターン2
シリコン・ゴム
0.96
7.78
7.47
モーフィング材料
パターン1
4.44
算出結果から金属材料とモーフィング材料パターン1及びパターン2を比較すると、
そ
れぞれ 3. 33 倍及び 1. 98 倍になる。この数値だけ見ると本研究の目的を達成することは不
可能であるように思える。しかし、モーフィングで使用する外板材料は、後縁の 40%~
14%(空力的最適形状はモーフィング開始位置がフラップ・コード長 86%)である。全
体で重量を比較すると、
パターン1が1.93~1.32 倍で、
パターン2が1.39~1.14 倍となる。
さらに、フラップ構造全体で考えると重量増加分はより小さな割合になると考えられる。
したがって、この程度の重量増加であれば、伸縮材料は適用可能と考えられる。しかし、
外板のみに注目をして重量を算出していることから、
今後は駆動機構までを含めた詳細な
重量検討を行い、ダブル・スロッテッド・フラップと比較して重量ペナルティ"0"を達成
できるか検討する必要がある。
93
2.7 結論
多目的遺伝的アルゴリズム(MOGA)と CFD 解析の組合せにより、モーフィング技術を適
用したフラップの2次元断面空力設計を実施し、以下の結論を得た。
(1) MOGA を用いた、モーフィング・フラップ(MSSF)の2次元断面設計技術を開発し
た。この設計技術により、シングル・タイプのフラップでもダブル・タイプのフラッ
プ(DSF0)と同程度の揚力を発生させることが可能となった。
(2) DSF0 相当の揚抗比で見た場合、MSSF はシングル・タイプ(SSF0)の約 8%増、MSSF
にスポイラ・ドループを組み合わせたもの(MSSFSD)では約 15%増の揚力を得られ
る見込みを得た。これは DSF0 が発生する揚力の約 90%に相当するものであり、シン
グル・タイプのフラップにモーフィング技術を適用することにより飛躍的な性能向上
が期待できる。
(3) モーフィングによってフラップ後縁を下方へ曲げることで、フラップ上面流が加速さ
れ、通常のフラップよりも境界層が薄くなる。このため、フラップを母翼から離すこ
とが可能となり、母翼後流とフラップ境界層の干渉が緩和される。さらに、フラップ
のキャンバ増大による循環効果で揚力の増加が実現できる。
(4) モーフィングによりフラップ上面の流れが剥離しやすくなるため、揚抗特性が悪化す
るが、モーフィングの適用をフラップの広範囲ではなく後縁近傍にすることにより剥
離領域を小さくできる。これにより、揚力の損失が少なく、抵抗の増加も抑制できる
ことになる。
(5) スポイラ・ドループにより、母翼のキャンバ効果が得られるが、その結果として母翼
からの吹き下ろしが強まり、フラップの局所迎角が浅くなるため、フラップの荷重が
低減される。さらに、母翼後流が厚くなるので、排除効果が増し、フラップ上面の負
圧が抑えられる。これら二つの効果により、フラップの剥離を緩和することが可能と
なる。
また、機構の調査・検討により、以下の結論を得た。
(6) モーフィング・スキンの調査検討から、伸縮材料にスパン方向の剛性及び金属材料と
同じ板厚でのコンタ保持は難しいことが明らかになった。したがって、伸縮材料を使
用する場合は、
スパン方向はストリンガ等により剛性を確保し、
空力荷重に対しては、
スキンの板厚を厚くする必要がある。
(7) 先進的アクチュエータの調査検討から、早期実用化は難しいということが明らかに
なった。したがって、アクチュエータは既存のものを使用する。
94
(8) モーフィング機構の調査検討から、駆動系の動力を用いた機構は実用に近いレベルま
で達しているが、機能性材料を用いた機構には耐空力荷重の低下及びモーフィングを
作動させる駆動力に懸念が残る。また、多くの研究がコンセプト案で留まっているこ
とから、機能性材料を用いた機構を現段階で採用するのは難しいと考える。したがっ
て、モーフィング・フラップ機構の方向性を駆動系の動力を用いた機構に定める。
(9) モーフィング・スキンに用いる材料検討から、金属材料及び伸縮材料をモーフィング・
フラップに適用した場合に期待できる効果は、両材料で相反することが明らかになっ
た。したがって、金属材料及び伸縮材料の比較検討を行い、モーフィング・フラップ
構造に妥当なものを選択する。
(10) モーフィング構造の検討から、既存の技術を用いたモーフィング構造の外板もしくは
支持構造に形状維持を持たせた場合、モーフィングが困難であることが明らかになっ
た。モーフィング構造の方向性として、駆動機構で形状維持をもたせる構造様式を目
指す。
(11) 伸縮材料をモーフィング構造の外板に適用する場合、
空力荷重での最大たわみが 1 mm
以下で耐えることができると仮定して板厚を算出した結果、金属材料に対して 9 倍程
度厚くなる見込みである。
この結果を基に外板重量を算出すると、
フラップがモーフィ
ングを行う部位に限定してモーフィング材料を使用することにより、金属材料に対し
て 1.14 倍の重量増加となる。この程度の重量増加であれば、伸縮材料は適用可能であ
ると考えられる。
95
第3章 問題点と今後の課題
(1) モーフィング形状定義
本研究では、フラップのモーフィング効果を調べるために、幾つかの制約条件を与えな
がら空力形状を定義した。しかし、機構・材料から見た成立性を持たせるためには、さら
に厳しい制約条件が課せられる可能性がある。今後も機構側の検討結果を適時反映して、
形状定義方法を考案する必要がある。
(2) 失速特性の評価
モーフィングの効果として着陸アプローチ条件における揚力に着目した最適化設計を
行い、シングル・スロッテッド・フラップでダブル・スロッテッド・フラップ並みの揚力
を出せることは本研究の成果である。しかし、フラップのモーフィングが翼の失速特性に
どの程度影響するのかを本年度の研究の中では未検討である。HLD 設計として CLmax にも
同様の注意を払うべきであり、今後の3次元設計の中では、失速特性にも着目して、モー
フィング効果の知見を深めることが必要である。
風洞試験の実施には供試体製作や試験実施に多大な費用がかかるため、
本研究のような
初期研究の段階における CLmax の評価は、数値解析による定性的評価をすることが望まし
い。2年間にわたる本研究には入っていないが、将来的には CLmax の定量的な評価が不可
欠であり、モーフィング・フラップの研究を次の段階へ進めるためには風洞試験等による
実証が必須である。
(3) 3次元解析による性能の評価
次年度は本年度の成果を踏まえ、主翼3次元形状に対する HLD 設計を行う。その際に
は、フラップ端付近での翼端渦や横流れ等の3次元効果や、内・外舷フラップ展開時の物
理的な干渉についても考慮する必要がある。
96
(4) 外板使用材料の選択
空力的最適形状を模擬するためには、外板のコンタを滑らかにする必要があるが、既存
の機構のように、外板を機械的にスライドさせる様式では段差が発生してしまい、気流の
剥離が生じてしまう。
したがって、
空力的最適形状を模擬するための外板に必要な性質は、
負圧による引きはがし力に耐えてコンタ保持ができること、耐候性に優れていること、繰
り返し変形に対する疲労強度が優れていることが考えられる。本年度では、コンタ保持及
び耐候性について検討したことから、
今後は伸縮材料及び金属材料の繰り返し変形に対す
る疲労強度の検討を行い、材料を選定していく。
(5) 駆動機構様式
モーフィング機構は、動力を用いて機構を動かす様式と、機能性材料を用いて構造自身
を変形させる様式の、二つの機構様式が考えられる。今回の調査から、駆動系の動力を用
いた機構は実用に近いレベルまで達しているが、機能性材料を用いた場合は、耐空力荷重
の低下やモーフィングを作動させる際の駆動力不足の懸念が残る。したがって、空力荷重
を負担できる駆動機構が必要で、
なおかつ重量軽減のために、
機構の単純化が必要である。
(6) 内部支持構造様式
調査結果から、
内部支持構造には従来の構造様式を適用することはできないことが明ら
かになった。翼の後縁キャンバを変化させる場合、従来ではリンク機構を用いて荷重を持
たせ、なおかつキャンバを変化させていた。荷重負担及びキャンバ変化という面のみを考
えると効率が良い機構であるが、重量増加が大きい機構でもある。したがって、従来とは
違う内部支持構造を検討する必要がある。さらに、その構造は変形を許容でき、なおかつ
単純化の検討を行うことで重量軽減を図る必要がある。
97
第4章 関連事項調査
4.1 関連特許
特許電子図書館等を用い、高揚力装置に関する特許の調査結果を示す。
No.
公表番号
出願人
発明の名称
発明の概要
1
US 2007/0241236A1
AIRBUS UK LIMITED(UK)
HIGH-LIFT DEVICE FOR AN AIRCRAFT
前縁フラップをドループさせる方式。従来のドループ前縁フラップとは異なり、母翼と
の隙間にシールが不用。母翼と前縁フラップの小さなスロットから気流を送り込み、翼
上面の境界層剥離を遅らせる。
2
US 2008/0179464A1
Airbus Deutschland GmbH(DE)
SINGLE SLOTTED FLAP WITH SLIDING DEFLECTOR FLAP AND LOWERABLE
SPOILER
母翼とフラップ間のスロットの大きさを調整するスロットカバー装置。
飛行条件によって、母翼後部についた上/下のスロットカバーを動かすことで、揚力特
性を調節する。フラップだけでは実現できないスロット調整が可能となる。
3
US2009/0084905A1
Airbus Deutschland GmbH(DE)
AERODYNAMIC FLAP OF AN AIRCRAFT HAVING A DEVICE WHICH INFLUENCES
THE FLAP VORTEX
フラップの端面に付加する翼端渦を緩和するデバイス。
離着陸時の空力騒音源の一つであるフラップ翼端渦の緩和を低コストで実現する方法で
あり、幾つかの翼端形状や翼端からの噴出しによる方式がある。
4
US2010/0006707A1
Airbus Deutschland GmbH(DE)
ADVANCED TRAILING EDGE CONTROL SURFACE ON THE WING OF AN AIRCRAFT
母翼とフラップ間の上/下面にシール/通気フラップを設ける。
コントロール・フラップとして使用する場合はシール/通気フラップは閉じるが、高揚
力を発生させるときは両方とも開き、下面から上面へ気流を通す。従来のフラップより
もスロット流の制御が細かくできる。
98
モーフィング機構に関する特許の調査結果を示す。
No.
公表番号
出願人
発明の名称
発明の概要
5
CN101693467
UNIV NANJING AERONAUTICS
Self-adapting morphing trailing edge based on SMA
後縁の単純な構造の上下面に SMA ワイヤを取り付け、モーフィングさせる。特徴はリ
ブ付近の上下面に SMA ワイヤ及び電流を流す装置を構成していることである。また、単
純な構造であること、簡単なコントロールで安定して、なおかつ迅速なモーフィングが
できる。
6
US2006145031
JAPAN AEROSPACE EXPLORATION
Aircraft wing, aircraft wing composite material, and method of manufacture thereof
CFRP ロッドを翼幅方向に平行になるように配列し、隙間に弾性材料を流し込み成形す
る。その特徴は、翼のスパン方向の高い剛性及びコード方向の柔軟性を両立し、空気力
の大きい高速域での飛行状態でモーフィングすることができる翼である。
7
CN101503113
HARBIN INST OF TECHNOLOGY
Shape memory spring driven hinder margin camber variable wing
形状記憶スプリングを用いてキャンバを変化させる。軽量、単純構造及び高い空気力学
的効率が利点である。特徴は、部品点数が少なく単純構造ということから軽量であるこ
と、外板を滑らかなコンタ面にすることができ、高い空気力学的効率があることである。
8
EP1205383
EADS DEUTSCHLAND GMBH
Mechanism for modifying the camber of at least a part of an aircraft wing
リブに、調整可能なセクションがあり、その調整度合いでキャンバの変化量も変わる。
特徴は、セクション数が多いことから、細かいキャンバ変化量の調整をすることができ
る。
9
EP0836988
DAIMLER BENZ AG
Variable-camber airfoil
後縁に曲がりロッドが組み込まれており、曲がりロッドを回転させることでキャンバを
変化させる。特徴は、曲がりロッドがリブの役目を果たしていることから、構造が単純
である。
99
4.2 参考技術文献
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年7月、pp.63-67
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甲第 7084 号、2004 年9月
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4) (財) 日本航空機開発協会:平成 21 年度 民間輸送機に関する調査研究、YGR-5066、平成
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6) Quix, Schulz, Quest, Rudnik and Schröder:Low Speed High Lift Validation Tests within the
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of Wing and Nacelle Stall", June 2010
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9) 玉山:モーフィングに関する動向、ながれ、第 28 巻、第4号、2009 年8月、pp.277-284
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AIAA/ASME/ASCE/AHS/ASC Structures, Structural Dynamics, and Materials Conference, April
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2011,
BLUESTAR
SILICONES
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101
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