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ハブ観光のつくりかた

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ハブ観光のつくりかた
道央地域観光戦略会議提言書
ハブ観光のつくりかた
2009(平成21)年6月
目
次
1.提言の背景
1
2.
「ハブ観光」とは何か
4
3.ハブ観光の進め方
8
4.サテライトとアクティビティ
9
5.課題と提案
(1)
「A 来る前」
14
(2)
「B 来た時」
15
(3)
「C 来た後」
17
6.今後の展開
18
1.提言の背景
(地域観光戦略会議の設置)
団体旅行から個人や小グループへと行動単位がシフトするとともに、明確な目的意識を
持った主体的な旅行スタイルが一般化するなど、近年、観光は大きく様変わりし、旅行者
のニーズは多様化しています。
道では、こうした状況の変化に的確に対応し、広域的な連携によるスケールメリットと
多様性の発現を生かし、幅広い関係者の参画によって地域の魅力ある観光を進めるため、
「地域観光戦略会議」を設置することとしました。
設置に当たっては、各地域の特性や観光資源などを踏まえ、広域的な取組を効果的に進めて
いくために、どのような地域を単位とすることがよいのかについて、6つの連携地域を基本と
しながら、各支庁において検討を行いました。その結果、道央、道南、道北及び道東の4圏域
にそれぞれ地域観光戦略会議を設置することとし、この道央圏では、石狩、後志、空知、胆
振、日高の5支庁をエリアとした観光振興策の検討を行うことになりました。
(観光振興の目的)
道央圏における観光振興策を検討するに当たって、まず、観光振興の目的とは何かにつ
いて考えてみましょう。
「北海道観光のくにづくり行動計画」
(平成20年4月)では、
「道内はもとより、国内
外に地域の魅力を発信し、多くの人々に何度でも訪れていただき、地域の様々な産業が連
携して、観光による消費を地域でしっかりと受け止める、潤いと活力のある北海道をめざ
す」として、観光振興による地域経済の活性化が大きな柱になっています。
確かに、産業がなければ地域社会は成立しませんが、豊かな文化を持った地域でなけれ
ば、魅力ある観光地ともなり得ず、観光を産業として成立させることは出来ません。そし
て、豊かな文化を育む土壌は、郷土史の研究家であったり、郷土芸能の保存に取り組んで
いるNPOであったり、あるいは農業体験の受入を行っている農家であったりと、観光を
生業としない人々の側にあり、それが顧客の満足(カスタマーサティスファクション:C
S)の源泉になっているのです。
したがって、経済的側面にばかり目を奪われて、産業としての観光を強調するだけでは、
地域を挙げて観光振興に取り組むモチベーションを高めることは出来ません。観光を生業
とする人たちだけではなく、様々な場面で観光に関わっている人たちを含めた地域全体、
更には訪れてくれるお客様も満足する「三方一両得」の状態(図1の3つの集合の交わり
部分)を実現すること、それこそが観光振興の目的です。
コラム
各パートの満足度や目標の達成度を測るため、適切な指標を開発し、数値目標を設定する
ことは検討されて良いでしょう。ただし、指標の開発に当たっては、①計測が簡便で、②全
体の傾向を把握出来るものであることに留意する必要があります。
1
【図1】観光における三つの視点
一方で、観光を生業としている人たちがいます。彼らは、経済的視点から観光
振興の課題に取り組んでおり、短期的視点に立つのはやむを得ません。
他方、観光を生業とはしていないが、様々な場面で観光に関わっている(自覚
の有無はともかく)人たちがいます。彼らからの提案は、観光に厚みと広がりを
与えます。後者には、経済的果実や短期的な課題解決に対する希求度が低いこと
などから、これまでは前者との間に積極的な関係はありませんでしたが、
「三方一
両得」を実現するためには、両者の連携が不可欠です。
(道央観光の目標)
従来の北海道観光は、宿泊地を変えながら複数の観光スポットを長距離移動する周遊型
が一般的です。この観光スタイルは、大消費地から顔の見えないひとかたまりで観光客を
連れてきて有名な観光スポットを周遊させ、飽きられたらまた新たな消費地を探して新た
な観光客を連れてくるという発地に依拠したスタイルです。旅行効率を重視するためスピ
ードが速く、人と人との出会いやふれあいが希薄にならざるを得ません。
ところが、観光を生業としない人々にとっては、出会いやふれあい、外からの「まなざ
し」こそ活動のモチベーションなので、周遊型観光には参画の余地がありません。そして、
それらの人々が参画しない観光は顧客に深い満足を与えられず、数メートルの積雪とか、
見渡す限りの地平線とかいった「非日常」に対する「驚き」が薄れるとともに衰微してい
2
かざるを得ません。
「三方一両得」を実現するには、持続可能な新しいスタイルの観光が必
要です。
日常的
めざす観光
出張=非自発的移動
・なじみ
・内面的
・多様性
・微細な違い
・今まで未着手
Speed 遅い
Speed 速い
・驚き
・広い、大きい
・形、違い
リゾート:限界
従来の観光
非日常的
【図2】観光スタイルの分類
めざす観光のコンセプト
◎ それは北海道の暮らしやそれが育んだ文化、すなわち「北海道スタイル」
を共有・体験してもらうこと。
◎ 「北海道スタイル」の魅力は「日本規格」から外れていること。例えば、
年収60万円で暮らせるとしたら、物質的な豊かさと引き替えに「稼が
なければならない」という強迫観念(経済至上主義)から解放されます。
◎ 三つの呪文=「いんでないかい」
(インデネカ文明)
、
「しゃあないね」
(シ
ャーナイズム)
、
「なんもさ」…ある種の諦念、受容するしなやかさがあ
り、肩の力を抜いて暮らせる、窮屈さをほぐしてくれる場所が北海道。
◎ それは共有・体験してもらって初めて分かること。だから滞在型です。
3
道央地域観光戦略会議が提案するのは、滞在型観光です。3時間立ち寄るだけの人と3
日間滞在する人に対するのとでは、地元の接し方も大きく異なります。地元の人とのふれ
あいや旅行者同士の出会いを楽しみ、地域の文化を味わうことは、そこに出来るだけ長く
滞在し、地域の日常生活に身を置いて初めて可能になります。長期滞在を通して心を通わ
せる経験をした顧客は、その地域に「馴染み」
、何度も訪れてくれるようになります。
このような、滞在型観光が定着し、
「三方一両得」が実現している状態を道央観光の目標
としたいと思います。
そのために、旅行者の「顔」をイメージしながらいくつものテーマを設定し、着地側か
ら滞在型の旅を発信して、リピーターやファンを獲得したいと思います。拠点となるまち
に連泊し、それぞれの関心や興味に応じて周辺の各地へと足を伸ばしてもらう、こうした
旅行スタイルを、自転車等の車輪の、軸(ハブ/HUB)からスポークが放射状に伸びる姿に
喩えて、
「ハブ観光」と名付け、道央圏域がめざす新しい観光スタイルとして提案しま
す。
従来の観光
ハブ観光
観光スタイル
周遊型
滞在型
イニシアティブ
発地(消費地)
着地(地元)
ターゲット像
不特定多数(マス)の団体客
より具体的な個人客をイメー
ジ
行動スタイル
宿泊地を変えながら広く有名 拠点都市に連泊しながら関心
観光地を見て回る
や興味(テーマ)にしたがって
訪問先をチョイスする
来
た
喩
後
え
別のターゲットを発掘
リピーターやファンを獲得
底引き網漁業
養殖漁業
【表1】従来の観光とハブ観光の比較
2.
「ハブ観光」とは何か
(ハブ観光の定義)
ハブ観光は、まだ何処にもない、これからみんなで作っていく新しい観光スタイルです。
したがって、最初から完全な定義を与えるのは難しいので、ひとまず「1ないし2カ所に
滞在し、そこを拠点として周囲のまちへと足を伸ばしてもらう観光のスタイル」と定義し
ておきます。
ここで、滞在の拠点となるまちを「ハブ」
、足を伸ばす周囲のまちを「サテライト」と呼
ぶことにします。ハブとサテライトとで互いを利用しながら(互恵的)
、新しい客層を開拓
していくことをめざす、地元(着地)の側からの提案です。後述しますが、ハブ、サテラ
4
イトは、空間的に、あるいは機能的につながっていくことになります。
将来的には1か月、2か月という長期間の滞在を目標としていきますが、当面は、現在
の滞在日数を少しでも伸ばすことをめざして、1∼2カ所に4∼6泊くらいのイメージで
スタートすることにしたいと思います。
(ハブ市町村)
ハブ観光のイメージを構築するためには、まず、滞在拠点となるハブ市町村を特定する
必要があります。ここでは、直近(平成19年度)の統計データに基づき、宿泊客延数が
15万人以上の市町村(エリア)を機械的に拾い出し、10カ所をハブとして「仮置き」
します。
ハブ市町村(エリア)
平成19年度宿泊客延数
札幌市
9,242.4(千人)
小樽市
733.6(千人)
千歳市
190.9(千人)
苫小牧市
167.4(千人)
登別市
1,303.4(千人)
室蘭市
284.4(千人)
洞爺湖エリア(伊達市、洞爺湖町、壮瞥町)
1,410.5(千人)
ニセコエリア(ニセコ町、倶知安町、留寿都村)
1,521.9(千人)
赤井川村
225.8(千人)
日高エリア(日高町、占冠村)
333.9(千人)
【表2】ハブ市町村(エリア)
厳密に考えると、過去の宿泊客数のデータは従来の観光スタイルを前提としたものです
から、新たな観光スタイルの拠点となりうるとするためには、宿泊施設等のファシリティ
やまち自体の魅力について、長期滞在に相応しいかどうかを検討しなければなりません。
しかし、ハブはその名のとおりハブ観光において最も重要なファクターですが、ファシ
リティといったハード部分の要素が大きく、一定の集積と顧客の認識を得るには時間がか
かるので、ある程度現状を前提として考えざるを得ないこともまた事実です。したがって、
まずは現状のデータからハブ市町村を機械的に抽出し、これを仮置きすることから始めま
す。
(ハブ観光の全体イメージ)
仮置きした10カ所のハブ市町村を地図にプロットすると、札幌市と胆振、後志を中心
とする円環が形成されます。この円環のエリアから、空知や日高、積丹といった周辺へと
足を運んでもらうというのが、ハブ観光の大まかな全体イメージです。
5
【図3】ハブ観光のイメージ
次に、より具体的なイメージをつかむため、空間的なつながりと機能的なつながりの典
型的な例をそれぞれ考えてみます。
(空間的なつながり)
空間的なつながりの典型的な例は、ニセコをハブとして、神仙沼(共和町)やダチョウ
牧場(ニセコ町)
、マッカリーナ(真狩村)等、近場の見どころ・グルメスポットへと足を
伸ばす観光モデルです。訪問先に統一的なテーマはありませんが、周囲に観光対象となる
魅力的な地域資源を豊富に有するニセコの秀逸なロケーションが生かされています。移動
範囲が狭いこと、また、幅広い顧客層に受け入れられやすいことが特徴です。
6
【図4】空間的なつながりの例
(機能的なつながり)
機能的なつながりの典型的な例は、鉄道と炭鉱をテーマとし、札幌に滞在する観光モデ
ルです。テーマを設定することで対象となる顧客層は絞られますが、そのおかげで、
「分か
っている人たち」が訪れてくれるので、地域にとっての刺激もより大きいものになります。
確かなテーマを持っている顧客にとって、多少の移動距離は阻害要因になりませんから、
三笠、赤平など空知の旧産炭地域や室蘭等、移動範囲が広範に及ぶのもこのモデルの特徴
です。
【図5】機能的なつながりの例
7
3.ハブ観光の進め方
(コンセプトワーク)
ハブ観光は、着地提案型の観光スタイルですから、着地=供給側のコンセプトワークが
重要です。供給側としての資源の制約や可能性、どのような観光を展開したいのかという
意志をベースにすると次のような3つのファクターが考えられます。
1)ハブ…まちの魅力、ファシリティ
2)サテライト…可能性、課題、意向
3)連絡…ハブとサテライトの物理的・情報的な結びつき
また、顧客に対する関係から、次の3つのステージが考えられます。
A)来る前…対象顧客(ターゲット)の検討、PR、集客
B)来た時…上記 1)、2)、3)
C)来た後…フィードバック、リピーターづくり
これらのファクターとステージは相互に関連しているので、検討に当たっては、1) 2) 3)
→ A) B) C) → 1)’2)’3)’→ A)’B)’C)’→ …というように行きつ戻りつしながら進
めることになります。これを1つにまとめると次の図のようになります。
【図6】コンセプトワーク
8
ハブについては、先に10カ所を仮置きしましたので、次はサテライトについて検討し
ます。
4.サテライトとアクティビティ
ハブ観光では、観光対象となる地域資源は、空間的なつながりまたは機能的なつながり
の中で決定されます。そのため、これまで地元単独で考えて観光対象と思っていたものが
あまり役に立たなかったり、逆に、これまであまり注目していなかったものが観光対象と
なるということが起こりえます。
コラム
顧客との関係で考えると、対象顧客像から旅のテーマ=機能的なつながりが導き出され、
それに応じて観光対象となる地域資源が選択されることになりますが、対象として想定され
る顧客像は常に変化しうるものですから、観光対象となる地域資源も固定的ではあり得ず、
ゆえにその拾い出しの作業も常に進行形であると言えます。
また、両者は相互規定的ですから、観光対象となる地域資源を拾い出す作業によって、対
象とする顧客像が浮かんでも来ますし、更に、ハブに期待されるファシリティやまちの魅力
もイメージされます。
(サテライトの作法)
道央圏全体として見た場合でも観光対象として十分魅力的と思われる地域資源の中から、
空知を例としてその一部を(地元の思惑とは無関係に)抽出し、観光対象となる地域資源
を拾い出す方法(サテライトの作法)を探ってみると、次の5つが考えられます。
ア)定食型 : 定食を作るように地域資源をセットする
(例)北の錦(小林酒造)
、錦水庵(そば)
、…
イ)グラデーション型 : 少しずつ目先を変える
(例)どぶろく、北の錦、山崎ワイン、…
ウ)一点豪華主義 : それ一つでサテライトになりうる
(例)アルテピアッツァ美唄、三笠鉄道村、…
エ)連想式 : 「○○と言えば△△」と連想ゲームのように拾い出す
(例)北の錦、
→(北の錦と言えば酒の仕込み水を使ったそば店)錦水庵、
→(そば店といえば空知で有名な)からまつ園、
9
→(からまつ園と言えば牡丹そば)牡丹そばダイニングつるぬま
→…
オ)定番型 : 従来からデスティネーションとされているもの
(例)
(空知ではないが)小樽運河、のぼりべつクマ牧場、…
(観光モデルの検討)
前項のサテライトの作法を参考に、観光対象となる地域資源を拾い出し、ハブ観光なら
ではの観光モデルを考えてみましょう。
顧客は、旅行前に情報収集を行い、ステイ先やサテライトについて自分なりのイメージ
を持ってやってきます。しかし、実際に現地に来てみると、さらに魅力的な観光情報をつ
かんだり、あるいは悪天候とぶつかったりと、往々にして想定外のことが起こるものです。
そんなとき、当初のプランに固執するのでは、旅行がストレスになりかねません。
ハブ観光では、
「北海道スタイル」というコンセプトを担保するため、滞在型の利点を最
大限に生かすことの出来る観光モデルを提案します。すなわち、半日ないし1日を単位と
する地域資源(のセット)=「ユニット」を組み合わせ、状況変更に即応して入れ替え可
能とするモデルです。
【図7】観光モデル
当初は、A1 → A2 → A3 → A4 → A5 → A6 の予定だった
ものを、A1 → C2 → D3 → E3 → B6 へと変更。
10
例えば、2日目は美術館を回る予定だったが、とても天気が良いので羊蹄山を見に行く
とか、あるいは3日目は急に大雨になったので、洞爺湖に行く予定をキャンセルして宿で
1日まったりするとか、臨機応変に旅行行程を変更することが出来ます。ユニットが豊富
になるほど、代替性・即応性は高くなります。
(モデルプラン)
それでは、実際の地域資源を使って具体的なプランを作ってみましょう。以下は、鉄道
と炭鉱をテーマとし、札幌をハブとする3泊4日のプランです。
空 港 等 か ら 移 動
1日目
市町村
小樽市
資源
訴求ポイント
・小樽市総合博物館
→鉄道フロア等で関連展示を見学
・旧手宮鉄道施設
→幌内(三笠市)と結んだ北海道最初
の鉄道
・小樽運河、小樽港等
→定番のスポットを見学
・海猫屋
→数々の逸話に彩られたレストラン。
「海猫屋の客」
(村松友視)を携えて
市町村
2日目
三笠市
資源
訴求ポイント
・三笠鉄道村
→施設見学、SL機関士体験クラブ(S
L運転体験)
・幌内地区
→炭鉱遺産を見学
・山崎ワイナリー
→ブドウ栽培から瓶詰めまでを自社で
行う数少ないワイナリー
市町村
3日目
室蘭市
資源
訴求ポイント
・ふじとり
→輪西人の心の店(ラーメン、焼き鳥)
・むろらん屋台村恵友店
→帆立の卵焼き
・(株)日本製鋼所
→鉄鋼生産関連遺産(旧発電所、瑞泉
閣)
・新日本製鐵(株)
→鉄鋼生産関連遺産(エレガ館、知利
別会館)
・ボルタ工房
→ボルトやナットで製作された人形を
お土産に
11
市町村
4日目
資源
訴求ポイント
千歳市
・支笏湖
→オコタンペ湖、苔の洞門
むかわ町
・ししゃも料理(各店)
→鵡川ししゃも(商標登録)を味わう
千歳市
・アウトレットモールレラ
→道内最大級のアウトレットモールで
ショッピング
空 港 等 へ 移 動
【図8】モデルプラン
このプランでは、顧客像として、テーマを追求して能動的に行動出来るタイプを想定し
ています。ですから、移動制約は小さく、多少遠くへと足を伸ばすことも厭いません。
しかし、北海道は、まちからまちへの移動スケールが本州とは異なりますから、2日目
を終えた段階で、3日目に室蘭まで出かけるのは億劫になるかもしれません。あるいは、
3日目までを消化した後、最終日は札幌をブラブラしたいと思うかもしれません。
また、あんまり天気が良いと、産業観光をやめて自然探索に出かけたくなることもある
でしょう。
そんなときに、半日ないし1日を楽しむことの出来るユニットを多数用意しておけば、
顧客はそのときの興味や条件に応じて、ユニットを差し替え、ストレスなくプランの変更
をすることが出来ます。以下は、空知のユニットの例です。
番 号
市町村
空知 1
岩見沢市
▷アート
資 源
訴求ポイント
・美流渡アートパーク
→芸術家のアトリエ集落、旧炭鉱街
・ミルトコッペ
→完全手作りの自然発酵パン、薪釜(香
りの良い広葉樹の薪)
、食パン等には
油脂未使用
・宝水ワイナリー
→藤山海運(小樽一の財閥)旧軍需工
場を移築、2階ギャラリー
美唄市
・Aコープ美唄
→中村のとりめし(鶏一羽を残さずに
使った炊き込みご飯、開拓当時最高
のもてなし)
・アルテピアッツァ美唄
→世界的彫刻家 安田侃の作品を常設
展示、作品が生きる展示場所(廃校
になった木造の小学校)
・パスタさとう
→安田侃御用達の道産イタリアン
12
時間
1日
空知 2
栗山町
・小林酒造
→酒蔵見学。出来れば毎回テーマ設定
▷空間的
1日
して実施している「造り酒屋を知る
会」に参加したい(要予約)
・錦水庵(そば)
→酒の仕込み水を使った道産そば
・レストラン蔵
→酒粕入り「北の錦カレー」
・王子の森
→27㌶のフィールド、樹種ごとの森、
フォトジェニックな白樺並木、森林
博物館
空知 3
由仁町
・ゆにガーデン
→日本最大級の英国式庭園、100 万本
▷自然
1日
のリナリア
長沼町
・東京ホルモン
→地元で大人気の鉄板焼きホルモン
・ハイジ牧場
→動物とのふれあい体験(牛の搾乳、
子ヤギへの哺乳、乗馬)
・ファームレストラン
空知 4
滝川市
選 レストラン・ハーベスト
○
→農家直営ログハウスレストラン
選 リストランテ・クレス
○
→自家栽培ハーブ使用のイタリアン
選 里日和
○
→地場野菜使用
・たきかわスカイパーク
→グライダー、モーターグライダーの
▷空間的
1日
体験飛行
・イルチエロ(三浦華園) →空知産食材使用のイタリアン
空知 5
新十津川町
・ブルストよしだ
→手作りハム、ソーセージ、パテ
浦臼町
・鶴沼ワイナリー
→日本一のブドウ畑、恋人の聖地
雨竜町
・雨竜沼湿原
→日本有数の山岳型高層湿原帯。初夏
▷自然
1日
から秋まで多数の花々が咲き誇る
新十津川町
・ピンネ荘
→ピンネ高原標高 300m の玄そば使用
手打ちそば
【表3】ユニットの例(空知)
これらユニットがたくさん揃えば、各ハブからのアクセシビリティに対応し、次のよう
な一覧表に整理すると良いでしょう。
ハ
ブ
札 幌
小 樽
千 歳
苫小牧
∼
ニセコ
赤井川
日 高
後志 1
○
○
○
○
∼
○
○
×
2
○
○
○
○
∼
○
○
×
:
:
:
:
:
∼
:
:
:
空知 1
○
○
○
○
∼
△
○
△
ユニット
13
○
△
○
○
∼
×
△
×
:
:
:
:
:
∼
:
:
:
胆振 1
○
△
○
○
∼
○
△
○
2
○
△
○
○
∼
△
△
○
:
:
:
:
:
∼
:
:
:
日高 1
△
×
○
○
∼
×
×
○
2
×
×
△
△
∼
×
×
○
:
:
:
:
∼
:
:
:
2
:
【表4】ハブ・ユニット対応表
○>△>×の順にアクセシビリティが低くなる。
5.課題と提案
前項でモデルプランを作成しましたが、その過程で見えてきた課題とその解決策ないし
ヒントを、コンセプトワークの検討図(図6)に基づいて整理してみます。
(1)
「A 来る前」
(イメージ形成)
ここでの最優先課題は、顧客に関心を持ってもらうことです。デスティネーションとし
て認識してもらうためには、
「こういうところ」という道央のイメージの発信が必要です。
そのためには、例えば、海外のプロモーションビデオのような、エリア全体の景色を編集
した映像の放映など、様々な手法を駆使した効果的なイメージ形成を検討する必要があり
ます。
(PR)
イメージ形成は、いわゆるPR(パブリック・リレーションズ)の一環です。一般的に、
PRとは、パブリックに働きかける活動と理解されていますが、観光における情報発信は、
必ずしもそれにとどまりません。固定ファンやリピーターの育成をめざすという観点から
考えると、むしろ、プライベートを対象とした手法が効果的な場合があります。例えば、
果樹等のオーナー制度は、オーナーとなった果樹の個々の生育状況というプライベートな
情報を随時オーナーに届けることで個人的な関係(プライベート・リレーションズ:PR)
を構築し、それを拠り所として何度も訪れてもらうことが期待できます。
(様々な手法の必要性)
従来、旅行情報は、旅行会社等供給側が保有し、顧客に対して「教えてあげる」という
関係が一般的でした。しかし、インターネットが普及し、情報へのアクセスが容易になる
14
とともに、旅行ニーズが多様化したことにより、今や顧客は自らの関心に従って自分自身
で情報を探します。地元よりも顧客の方が詳しくなっているそうした状況の中で顧客にア
ピールするためには、単に「旅行に来てください」というだけではなく、例えば、
「学ぶ」
という視点から、現地の産業・文化等に関する学習プログラムを発信し、一定の習熟地点
に到達した人に対し現地見学メニューを用意するとか、様々な角度から顧客の琴線に触れ
るようなアプローチを模索することが必要です。
(2)
「B 来た時」
B1 ハブ
(センター機能)
ハブ観光はハブとサテライトとのつながりですから、ハブにはサテライトとリンクして
情報を集め、顧客に提供するセンター機能が求められます。検討するべき課題は主に二つ、
提供する内容と提供する形態についてです。
提供する内容については、例えば宿泊施設であれば、場所や金額という情報を提供する
にとどめるのか、あるいは宿泊手続まで出来るようにするのか。また、地域資源の情報で
あれば、歴史や蘊蓄といった訴求ポイントをどのように見せるのか、数多くの情報を利用
しやすくするためにはどのようにカテゴライズするのが良いのか。更にはそれらの情報を
迅速に集めるにはどのような方法が適切なのか。こうしたことを整理する必要があります。
情報提供の形態については、紙媒体の情報とするのか、ウェブにデータを蓄積するのか、
あるいは人(コンシエルジュ)を配置するのか。紙媒体であれば、顧客像を想定して提供
内容や提供場所を絞り込むといった方法も効果的と考えられます。また、コンシエルジュ
を設置するのであれば、人材の確保・育成やスキル(例えば、観光マスター検定の取得等)
の問題を考える必要がありますし、設置する場所についても、宿泊施設、案内所等いくつ
かの選択肢があります。
(まちの魅力)
ハブには、まちとしての魅力が求められます。まちの魅力は、
「宿泊施設」
「ホスピタリ
ティ」
「見栄え」など様々な要素によって構成されています。
宿泊施設は、ハブにおいて決定的に大きなウエイトを占めます。ハードについてはもち
ろん、例えば泊食分離など、ソフト面でも検討すべき面は大いにあります。
また、住んでいる人がまちを好きなら何かと手をかけるでしょうから、来訪者から見て
もどことなく清潔感のある気持ちよさを感じることでしょう。
もとより完璧なハブというのは求めても得られるものではありませんが、道央広域観光
としての一体感から、道央スタンダード(標準)として、ハブに求められるレベルを設定
する必要があります。
ただし、様々な要素が一体となってまちの魅力を形づくっていると言っても、それらの
要素は全てが同じ重要性を持つものではありません。例えば、他の要素がどんなに優れて
15
いても、一定の条件を満たす「宿」がなければ、そのまちはハブとしては失格です。他方、
このように絶対確保しなければならない要素(必須項目)ではないが、例えば「レンタカ
ーショップ」などは、バリエーションが増えればそれだけ大きな効用を与えてくれるもの
です(選択項目)
。道央スタンダードを設定するためには、多くの要素の中から必須項目を
選り分け、道央観光としてそれにどこまでのレベルを求めるのか考える必要があります。
それは、顧客に一定の水準を保証することであり、道央観光をブランド化することに他な
りません。
いずれにしても、ハブの問題は大きいので、将来ビジョンを念頭に置きながらも、現状
をベースに仮置きしながら進めることになります。
B2 サテライト
(観光対象となる地域資源の再発見)
観光対象となる地域資源の基本元素は、
「食」
「みやげ」
「見るところ・体験するところ」
の三つです。サテライトでは、ハブから足を運んでもらえるメニューをいくつも用意する
ことが肝要です。その際に重要なのは、
「サテライトの作法」でも見たように、旧来の価値
観を離れて地域資源を拾い直すことです。
ところで、いわゆる「B級」施設などには、観光を目的として作られたのではないもの
も多く、不規則なクローズを避けられない場合もあると思います。もちろん、センターや
サブセンターへの迅速な情報入力など、最低限の情報発信は確保しなければなりません。
しかし、それでもなおイレギュラーを避けられない場合は生じます。そういう時は、例え
ば次回のための無料券を発行するなど、
「B級」に似つかわしい穴埋めを考えてみましょう。
地元の心遣いはきっと顧客に伝わるでしょう。
(サブセンター)
サテライトの情報発信拠点=サブセンターについて考える時に一番問題となるのは人材
です。特に、過疎地になるほどサブセンターの機能を商売ベースに乗せるのは困難です。
まちづくりグループや青年会議所など、地域の組織や団体で対応することを考えなくては
なりません。
しかし、情報の集約・発信という最低限の対応が出来るならば、
「独立した」センターで
ある必要はありません。道の駅の一角にコーナーを作り、人を配置しても良いし、バス停
や駅の近くの個人商店に、紙媒体の情報の設置等をお願いしても良いでしょう。それぞれ
の地域の事情に応じてその機能を確保すれば良く、固定概念を離れて様々な工夫をしてみ
ましょう。
B3 連絡
(交通機関の整備)
ハブ、サテライトを結ぶ交通機関は、公共交通と私交通の二つに大きく分かれます。私
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交通には、自家用車のほか、オプショナルツアー(バス)やレンタカーを含めます。道央
の場合、プランの自由度を考えると、現状ではレンタカーを基本にせざるを得ませんが、
道央標準として、公共交通機関の整備を考えるべきです。
公共交通機関の問題点として、ここでは2点指摘します。
一つ目は、交通機関横断型の利用システムがないことです。JR⇄バス、A社バス⇄B社
バスという横断型の乗り継ぎの出来る共通フリーパスがあれば、サテライトへはより気軽
に出かけられるようになります。
二つ目は、交通機関の接続の問題です。過疎地であればあるほど交通機関の運行本数は
少なくなり、それに伴って交通機関相互の接続も不便になります。その対策として、毎時
決まった時刻(10:20、11:20、…)に運行するタクトシステムやパターンダイヤの導入は
その効果が期待出来ます。時刻が覚えやすく、移動計画も立てやすいので、時刻表いらず
の旅行が可能となります。
また、現在は、交通機関、交通会社が異なる場合、インターネットであってもそれぞれ
のホームページにアクセスをしなければならないという煩雑さがありますから、何らかの
形で時刻表を集中管理するというのも顧客の利便性を高める手段として検討すべきです。
いずれにしても、観光振興を本気で進めるつもりがあるのなら、交通機関の問題を含め
た全体のパッケージとして考える必要があります。
(移動の付加価値化)
交通機関の問題については、上記のようなミニマムの確保、調整という視点のほかに、
移動自体に付加価値を持たせるという視点から考えることも必要です。例えば、車窓から
の景観は旅行の大きな楽しみの一つです。シーニックバイウェイの取組など、地元が主体
となった景観づくりの取組も検討すべきです。また、日高路のように延々と単調な風景が
続くような区間では、移動時間の過ごし方は特に重要です。例えば、帰路の夕日を楽しむ
ため、西側の窓と対面した座席を設置してワインを出すような特別車両を走らせるなど、
色々なアイディアで移動時間そのものに価値を与えることで、マイナスをプラスに転化す
ることが出来ます。
(3)
「C 来た後」
(情報発信)
「A 来る前」でも言及しましたが、来てもらった後に情報を届けることは重要です。す
なわち、プライベート・リレーションズを構築し、リピーターや固定ファンを育成するた
め、顧客情報のデータベース化、メールマガジンの発行といった手法を駆使しながら、
「来
る前」へとフィードバックしていく必要があります。
(調査・分析)
現在行われている観光客の入り込み調査や満足度調査では、顧客を呼び込む戦略や手法
を考えるためには全く不十分です。なぜなら、そこに、顧客の価値観が反映されていない
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からです。これからは、顧客のニーズの多様化に対応するために、旅行者がどう思って帰
って行ったのか、その人の生き方や価値観を分析対象とすることが重要です。データを取
ること自体が目的なのではなく、どういう対策を打つべきか考える材料とするために調査
を行なうのですから、それが反映されない調査では意味がありません。
ただし、このような複雑なマーケティングに対応した調査やリサーチには特別なスキル
やコツが要求されます。通常の行政事務の中で処理できる仕事なのか、あるいはスペシャ
リストに依頼すべき仕事なのか、十分に検討する必要があります。真剣に観光振興に取り
組むつもりなら、お金をかけるべきところには惜しまずにお金をかけなければなりません。
6.今後の展開
(コンセンサスからアコモデーションへ)
今や右肩上がりの成長の時代は終わり、私たちの将来は、不確定な要素で満ちています。
こうした状況下で新しい事業に取り組もうとする時、スタート段階でゴールまでの道筋を
明らかにするのはおよそ困難です。したがって、関係者の利害や価値観が一点に収束して
いることを前提とする従来の合意(コンセンサス)形成の手法では、事業をスタートさせ
ることが出来ません。むしろ、様々な状況の変化に対応出来るように、将来に対してより
多くの選択肢を確保し、持続可能性を担保するべきです。そのためには、将来に対する大
まかなイメージを共有しながらも、そこに至る道筋を唯一固定的なものとは考えず、その
都度その都度検証しながら、目標により近いと思われる方向を選択して進んで行かなけれ
ばなりません。
しかし、このように、進むべき道を常に探りながら、同じ方向を向いて「ともに事に当
たる」
(アコモデーション)場合、先が見えない不安と常に隣り合わせです。そのため、い
かにこの不安を払拭するかが課題となります。
(推進体制)
アコモデーションでは、強力なリーダーシップや上下関係を前提としていません。関係
者横並びの中、あらかじめ落としどころを持たず、学習と相互理解を重ねながら、最適な
選択を考え続けることが求められます。従って、コンセンサスによる展開に慣らされてき
た我々にとっては、苦手な手法かもしれませんが、ハブ観光へと一歩を踏み出すためには、
従来型の進め方では限界があります。
道央地域観光戦略会議では、各支庁の実務担当者が集まって(ワーキンググループ)ハ
ブ観光について議論を重ねてきた経緯があるので、当面、引き続きそこで全体のハンドリ
ングを担うことが適切だろうと考えます。支庁が中心となって、市町村、観光協会等への
説明・参画募集を行い、まずは参画を希望する関係機関の実務者とワーキンググループと
で、今何ができるか、これから何をしたいか等を議論しながら具体的な事業を決めていく
ことにしましょう。
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(最後に)
すべての市町村、観光協会等が一斉にスタートすることは無理かもしれません。大切な
のは、この戦略の方向に沿って、意欲のある人から、出来ることから、まず始めることで
す。小さな成功体験を積み重ねて行くことが、やがて大きな波紋となって広がっていくも
のと信じます。
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道央地域観光戦略会議
会 長
吉岡 宏高
NPO法人炭鉱の記憶推進事業団理事長
構成団体
石狩支庁
札幌ホテル旅館協同組合
ANAセールス北海道株式会社
後志支庁
社団法人小樽観光協会
空知支庁
NPO法人炭鉱の記憶推進事業団
社団法人たきかわ観光協会
長沼町グリーンツーリズム推進協議会
胆振支庁
西いぶり戦略的観光推進協議会
北海道中小企業家同友会苫小牧支部
日高支庁
日高管内観光連盟
日高ケンタッキーファーム
(事務局)
石狩支庁産業振興部商工労働観光課
後志支庁産業振興部商工労働観光課
空知支庁産業振興部商工労働観光課
胆振支庁産業振興部商工労働観光課
日高支庁産業振興部商工労働観光課
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