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の所有財産

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の所有財産
のは…
る
い
て
狙われ
産
財
有
所
の
た
な
あ
件数ではダントツ! の置き引き系犯罪
ソーホーや中華街、劇場街などからなるウェストエンドを
はじめ、ロンドン一の繁華街を擁するウェストミンスター
地区。2009 年 12 月から今年の4月末にかけて、同地区内
の警察署に対して被害届けを出した、日本在住者(被害届
け内の住所欄に日本の住所を記入した者)は 85 名。
内訳は以下の通りだ。
【ATM (キャッシュマシーン)】
服を扱う小売店で、コートやジャケットを試着室以外
で試している人もターゲットになりやすいとのことだ
が、さらに 被害 が集中 する
のが 靴店。 貴重品 がつまっ
たバッグを置いたまま、試し
履きしつつ店内を歩き回る
ケースが多いためだ。置き引
きの常習犯たちは、ターゲットと見定めた「エモノ」が、
バッグを置いて歩き始めるまで根気強く待つ。私服警
官も店の警備員も、現行犯でなければ手出しができな
いので、置き引き犯が動くまで、30 分待機すること
もあるという。
犯罪防止に役立ててもらえることを目指して特集記事
を組むのは8年ぶりだが、その手口について、バリエー
ションはあるものの、
「基本」はほとんど変わってい
ないことに驚かされた。アナログ・カメラ用のフィル
ムを二つ折りにしてカード挿入口に差し込み、カード
が出てこないようにし、本人があきらめて立ち去るや
いなや、そのフィルムごとカードを取り出して持ち去
るケース(この場合、暗証番号を探るために、ATM
マシーンの上など一目につかないポイントに小型カ
メラが設置されていることがあるという)
、あるいは
さらに大掛かりに、ATM マシーンのカード挿入口に
スキミング(カード番号読み取り)機能のあるニセ
の挿入口を設置し、カード番号と暗証番号を盗み取
るという、犯罪組織によるかなりの投資をともなう
手口も見られる。また、2人組による右のようなケー
スにも注意が必要だ。
靴の試着中、店員がバッグを見て
くれているなどと考えるのは大
きな誤り。また、自分のバッグを
持ち歩くのは、店員や周りの人を
信じていないようで失礼に映る
のでは、といった考えも完全に捨
てること。面倒でも、必ず腕にかけておくなど、一
瞬たりとも肌身離さず持ち歩くのが基本中の基本。
【カフェ】
大手コーヒー・ショップ・チェーンの進出もあり、ロ
ンドンではカフェの数が飛躍的に増えた。もともと多
かったファストフードの店に加え、こうしたカフェが
置き引き犯の格好の仕事場となっている。買ったばか
りのブランド品を、袋ごと持っていかれるケースが見
られるのもウェストエンドの特徴。
イスの背もたれと自分の背中の
間にバッグを置くのは厳禁。小さ
なバッグならひざの上に、それが
しづらい大きさのバッグや、買い
物で手に入れた商品は、日本人女
性の場合、行儀が悪いと抵抗があ
るかもしれないが足ではさんで座るのがベスト。ま
た、携帯電話や音楽プレイヤーをカフェのテーブル
に置いたまま、話し込むのも避けること。特に屋外
のテーブルの場合、
「英語が話せません。困ってい
ます。お金をめぐんでください」などと書かれた紙
を見せられたり、突然、地図を広げられたりして、
注意がそれた瞬間が危険。その紙や地図が視界から
消えると同時に、携帯電話や音楽プレイヤーもなく
なっているという手口だ。
9
3 JUN 2010 / No 628
ATM マ シ ー ン は、 で き れ ば 人
通りの多いところにあるものを
使うよう心がけること。人通り
の少ない場所にあるマシーンに
は、スキミング機能つきのニセ
挿入口を設置するといった仕掛
けをほどこす機会が十分あるため要注意。日中
なら、面倒でも金融機関支店内にあるマシーンを
金融機関支店内にあるマシーンを
使うべき。また、友人といっしょなら、すぐ後ろ
また、友人といっしょなら、すぐ後ろ
に背中あわせに立ってもらい、周りに「ニラミ」
を効かせてもらうと良い。1人で ATM マシーン
を使う場合、並んでいる人に失礼などとは思わ
ず、まず、周囲をぐるりと見回すこと。必要以
上に接近してきている人がいないか確認し、暗
証番号を押す手もサイフでかくす(小型カメラ
で写されるのを避ける)くらいの用心をしたい。
用心はどんなにしても、決してし過ぎることは
ない!
●サバイバー●取材・執筆/本誌編集部
ちなみに、ウェストミンスターで今年の1月から3月にか
けて被害届けのあった事件のうち、殺人は4件、強姦事件
はゼロ、空き巣狙い 45 件(オフィス 4 件/個人宅 41 件)、
バッグの置き引きが 550 件などとなっている。
統計内のバッグの置き引きに注目すると、ウェストミンスターにおける、今年第1四半期の1ヵ
月あたりの被害件数は平均 183 件。日本人在住者のそれは平均 10.4 件で、単純計算するとウェスト
ミンスターで起きるバッグの置き引きの6%は日本在住者、つまり被害者は日本人観光客だったこ
とが分かる。20 件に1件以上という高い率だ。世界中から観光客が押し寄せるロンドンにあって、
一国の占める割合としてはきわめて高いといわざるを得ない。
ウェストエンドでは、海外旅行が一般人にも解禁となった中国からの旅行者が羽振りの良さをみせつけ、ブランドも
のを熱心に買う国民といえば中国人、とかつての日本人のお株を奪う勢いという。しかし、こと置き引き犯罪に関して
は、まだまだ日本人は狙われやすいターゲットの上位に間違いなく挙げられる存在だ。悪く言えば、カモがネギをしょっ
てやってくる=この上なく都合の良い相手、つまり「カモネギ」と思われているのだ。
強盗やひったくりを働く場合、返り討ちにあうなど、犯人自身に身体的被害がおよぶリスクが潜在的にある。これに
対して、置き引き系の犯罪はそうしたリスクがかなり低く抑えられるため、犯人にも好まれ、強盗よりも件数が圧倒的
に多い結果になる。メトロポリタン・ポリス(日本の「警視庁」にあたる。日本ではわかりやすいように「ロンドン警察」
と呼ばれることもある)でウェストミンスター内の犯罪防止を職務とする「Crime Prevention」部門のオフィサー、
ウィ
ル・デイヴィス氏によると、置き引きおよびそれに類似する犯罪が多発する「ホット・スポット」がいくつかあるという。
【靴ショップ】
52 件
26 件
1件
5件
1件
バッグの置き引きなど
スリ
ひったくり
金銭をだましとられた
口頭・暴力行為による脅し
イーリング在住
置き引き系犯
罪が多発する
3大ホット・ス
ポット
靴 ショップ
カフェ
ATM
(キャッシュマシー
ン)
A代 さん(34 歳) の ケース
それは朝から雨がちの嫌な天気の日のことだっ
た。ATM で現金をおろそうとしたA代さんは、その
日は傘をさしていたため、ATM のマシーンと自分と
の間にかなりの間隔があいていたと述懐する。ふだ
んから慎重なA代さんだったので、暗証番号を誰か
に見られるのを避けるため、体をマシーンに近づけ
てできるだけ隠すようにして現金の引き出し作業を
するよう心がけていたが、その日は傘のためにそれ
ができなかった。カードを入れて、暗証番号を押し、
カードが出てくるのを待っていたその瞬間、左手な
なめ後ろから、10 ポンド札を差し出された。
「あなたのお金ではありませんか」
A代さんは反射的に、その札と声の主に顔を向け、
「いいえ、私のではありません」
と即答した。答え終わってマシーンに向き直ってみ
ると、出てきていたはずのカードが見当たらない。
その直後に出てきた現金は受け取れたものの、キャ
ンセル・キーやエンター・キーを何度も押してみた
が、カードが出てくる気配はなかった。はっとして
周りを見回したが、さきほど 10 ポンド札を差し出
した人物の姿も見えなかった。不審に思ったA代
さんは、そのカードの発行元である銀行の最寄りの
支店に入り、フロアで来客対応をしていたスタッフ
に事情を話した。そのスタッフの勧めですぐにカー
ドを止めたものの、既にオイスターカードのトッ
プアップに 100 ポンド相当分を使い込まれていた。
カードを見失ってから時間にして、わずか 20 分ほ
どのことだった。
意気消沈して友人に電話をかけてみると、「お札
を差し出されたとき、右側に誰かいなかった?」と
聞かれた。そういえば、右隣の ATM マシーンに人
がいたが、その人の様子は傘でよく見えなかった。
「右手にいた人が、暗証番号を見たうえでカード
も盗っていったのよ」
警察に出向くと、
「あそこの ATM は CCTV に映っていないので、同
様の被害が後を絶たないんですよ」
そう告げられて、A代さんの落ち込みはさらに増
したのだった。
サバイバー
紀元前 13 世紀頃に活躍したとされる、預言者モーセ。
彼に従う人々に対し、
神から授かったとする「十戒」を告げたことでも広く知られる。
その中に次の戒めがある。
You shall not steal. 汝、盗むことなかれ
古代より、人は盗みを働く生き物だったことを示す。
それは 3000 年以上たった今でも変わらないというわけだ。
「十戒」に代わる、様々な法律で盗みを罰し、
思いとどまらせようとするものの、効き目はない。
盗みを働く者が狙うのは
あなたの所有物だけではなく、
時にはあなた自身という財産である。
今号では、体験談をまじえながら、被害事例をお届けする。
同じような状況に直面した時、
とっさの判断で被害にあうことを避けられるよう
少しでも役に立てば幸いに思う。
サバイバー
3 JUN 2010 / No 628
8
ひっかかるのは旅行者ばかりじゃない! の詐欺犯罪
産
あなたの所有財
…
は
の
る
い
て
狙われ
【旅行者 ・ 短期滞在者向け】
【在住者向け】
【人ごみの中】
スリに狙われることの多い日本人は、多額の現金、キャッシュ・カードを持っ
ているとして、残念ながら詐欺犯罪のターゲットにもなりやすいのが実情だ。
最近は、Eメールを使った、
「振り込め詐欺」のほか、
税務署からの還付金があるように装い、振り込みのため
に口座の詳細を知らせるよう仕向け、個人情報を盗む手
口など、インターネット関連の手口が急増している。ま
た、一時期、キングズ・クロス駅や大英博物館など、日
本人もよく訪れる場所で、多く見られた「エジンバラか
ら来た男」による寸借詐欺も、完全になくなったわけで
はないという。念のために、事例をご紹介しておこう。
スリのターゲットとして好まれるのは、ずばり「バッ
グを背負った日本人女性の旅行者」
。多額の現金を、
バッ
グで背負って持ち歩き(手が突っ込みやすい)
、翌日
には湖水地方やスコットランド、はたまた別の国に移
動してしまうことが多く(法廷で証人になることが難
しい)
、体格的・身体能力的に男性より劣ることが普通
だから、というのがその理由。差別などからではなく、
理由はきわめて論理的というわけだ。
本物の警官が「サイフを見せなさい」ということは 100%ありえないと、
日本から来英予定の肉親、知人、すべての方々にくれぐれもよく言って
おくこと。ましてや、暗証番号は、どんな状況であろうと誰にも言って
はいけない!これは旅行者だけでなく、在住者にも同じことがいえる。
ウィンブルドン在住 C介さん (28 歳) のケース
6ヵ月の短期留学生として英語を学びにロンド
ンにやってきたC介さんは、渡英してきてからま
だ1ヵ月。週末を迎えるたびに、ロンドンの名所
をたずねて精力的に出掛けていた。そんな週末の
ある日、ロンドン・アイからテート・モダンに向
かってテムズ河沿いを歩いていた時のこと。どこ
の国籍かはわからないが、白人系の男性がニコニ
コと近づいてきた。
「おトクなレートで両替しませんか」
その時、円建ての現金は持ち合わせておらず、
両替することはできないとC介さんが一生懸命、
その男性に説明していたところ、別の男性が足早
に近づいてきた。
「警察です。路上での両替行為は違法であること
は知っていますか。身分証明書を見せなさい」
私服ながら警官と名乗る男は、警察のバッジ(と、
C介さんには見えた)を見せつつ、トランシーバー
で誰かと交信した後、C介さんと両替屋の男性に向
かって厳しい顔を向けた。パスポートもホームステ
イ先においてきたため、身分証明書となるようなも
のは何も持っていないとC介さんが告げると、
「では、サイフを見せなさい。クレジット・カー
ドを持っているなら、
それが証明書の代わりになる」
と警官に言われたC介さん。両替屋の男性が素
直にサイフを警官に渡すのを見て、C介さんもそ
れにならった。ふたりのサイフをあらためながら、
さらに警官はこう告げた。
「クレジット・カードの暗証番号は?」
両替屋の男性が、再び素直に暗証番号を口にし
たため、
C介さんもそれに続いて暗証番号を伝えた。
警官は納得した、という表情でサイフをC介さん
と両替屋に返すと、立ち去ったのだった。
両替屋もきまり悪そうにそそくさと、どこかに
行ってしまい、C介さんひとりが残された。「ひ
どい目にあった…」と思ったものの、気を取り直
してテート・モダンに向かったC介さんだったが、
ショップで買い物をしようとして、クレジット・
11
カードがないことを発見。あの警官がサイフをあ
らためた時、カードはサイフの中に戻したように
見えたが、どうやらまんまと抜き取られていたら
しい。
翌月曜日、日本のクレジット・カード会社に連
絡したところ、1000 ポンド相当が既に使われた後
だった。幸い、C介さんの場合は、旅行保険で損
害は補償されたものの、お金が戻ってくるまでに
約半年かかった。
3 JUN 2010 / No 628
ウェスト ・ ハムステッド在住
D子 さん
「お金をすられた」「カバンを盗
られた」ので助けてほしい、と
いわれた場合、同情してしまう
かもしれないが、最寄の警察署
へ行くよう提案すること。もし、
最寄の警察署が思い浮かばない
なら、「サヴィル・ローにある警察署」(右ページ
参照)で十分。実際、本当に困っている人には、
警察はお金を貸すとのこと。この申し出を断るよ
うなら、相手は寸借詐欺!
(32 歳) の ケース
駐在員の妻として英国に住み始めて1年という
D子さんは、友人とナショナル・ギャラリーに出
掛けることにした。絵画の鑑賞後、リージェント・
ストリートにある、日系店舗で買いたいものがあっ
たため、トラファルガー広場から徒歩で向かうこ
とにしたが、あいにく雨が降り出した。その日、
家を出る時には晴れ間が見えていたため、油断し
て傘を置いてきてしまったD子さん。仕方なく、
足早にリージェント・ストリートに急ぐしかなかっ
た。こういう時に限って歩行者用信号も赤になる
ものだ。うらめしそうに空を見あげたD子さんに、
誰かが傘を差し出してくれた。
「よろしければ、そこまでご一緒にいかがですか」
声の主を見ると、こざっぱりとした英国人男性
だった。30 代後半というところだろうか。「英国
紳士」という言葉がD子さんの頭に浮かんだ。
「リージェント・ストリートまでで十分です」と
好意に甘えることにしたD子さんが、その紳士に
「どちらへ?」とたずねると、その紳士は表情を暗
くして、D子さんに相談事をもちかけた。
「私はエジンバラ在住の建築家です。打ち合わせ
のためにロンドンに来たついでに、久しぶりにナ
ショナル・ギャラリーに寄ったのですが、ついさっ
き、トイレでサイフなど貴重品の入ったカバンを
とられてしまったのです。
ナショナル・ギャラリーの
警備員にも相手にしてもら
えず、ギャラリーを出たところで見かけた警官に
話しても力になってもらえず、途方にくれていま
す。明日の朝一番で、別の大切なミーティングが
あるので、どうしても今日中にエジンバラに帰ら
なければならないのですが…」
紳士は本当に困っているという様子でさらに続
けた。
「100 ポンドあれば、列車でエジンバラまで戻れ
ます。貸して頂けませんか。これが私の名刺です。
この電話番号まで、あなたの口座をお知らせくだ
されば、エジンバラからお返しします」
手持ちは 50 ポンドしかない、とD子さんがいう
と、「片道の特別料金があるかもしれない。駅で聞
いてみます」とその男性は安堵の色を顔に浮かべ
てそう答えた。リージェント・ストリートで、男
性と別れたD子さんは「50 ポンドしかなくて、申
し訳なかったなー」と思ったという。
しかし、翌日、名刺にある電話番号、携帯電話
もつながらなかった。「だまされたー」ようやく、
それを悟ったD子さんだったが、あまりに悔しく
て、ご主人に話せずにいるという。
人ごみ、公共交通機関で多発! のスリ犯罪
8年前の取材時、旧東欧地域から移住してきた「スリ家族」の存在をメトロポリタン・ポリ
スのオフィサーから聞かされた。彼らが本当に家族かどうかは疑問で、働き手は常に、英国で
は有罪にできない「10 歳未満」の子供たち(出生証明書が正しいか、それを確認する手立てが
ない)
。稼ぎ時は人通りの増える昼前から午後2時、3時ごろ、多い時には1時間で 2000 ポン
ドもの大金を得る荒稼ぎふり。カモとなる旅行者や学生が通りから減る午後5時ごろには終業
という毎日で、
子供たちが補導されては「親」が引き取りにくるという繰り返しとのことだった。
旧東欧地域の国が相次いで EU に加盟し、英国内で合法的に働ける道が開けたこともあり、今
回の取材中、
「旧東欧地域から出稼ぎにくるスリ集団」という直接的な言葉はさすがに出なかっ
たが、あいかわらず「ジプシー」と呼ばれる住所不定の移住者がスリの犯人であるという認識
に変わりはないようだ。
【バス、 地下鉄】
特に旅行中、両手が自由になり
便利なことから、背負えるタイ
バス、地下鉄内での手口として多いのは、乗り降りの際、前の人が突然止
プのバッグを持ち歩きたくなる
まったがゆえに自分も立ち止まらざるを得なくなったものの、その後ろの
が、絶対に避けるよう、日本か
人は急には立ち止まれず、自分にぶつかってくるというもの。この後ろか
ら来英予定の肉親、知人、すべ
らぶつかってきた人がスリの犯人。その犯人が抜き取ったサイフは、すぐ
ての方々に伝えること。例え貴
そばに立っていた第3の仲間の手に渡り、それを確認する間もなく、この
重品が入っていなくても、バッグが背中にあるとい
グル3人はそれぞれ別方向へ逃げていくというシナリオが展開されること
うだけで狙われると心得ておいてもらおう。もしこ
も珍しくない。なお、エスカレーターでも同様の手口が見られる。
のタイプのバッグを持ち歩くなら、リージェント・
ストリート、オックスフォード・
ストリートといった目抜き通り(信
バス、地下鉄、エスカレーターのいずれを利
号待ちの時がことさら危険)
、ポー
用する際にも、バッグは自分の体の前に置く
トベロ・マーケットなど人ごみの
ことが鉄則。男性で、ズボンの後ろポケット
ハックニー在住 B 恵さん (28 歳) のケース
多いところでは、格好悪くても前
にサイフを入れている場合、面倒でも、ポケッ
に抱えるようにすること。
トに「ふた」がついているなら、ふたをして
「普通の格好をしているけれど、顔つきがずる賢そうな
ボタンをかけるよう習慣づけること。
子供たち3~4人のグループで、何かいやな予感がした
んです」と話すB恵さんは、ロンドン市内の美術大学に
通って2年目。ケチャップを上着にかけられた、青いバッ
グに真っ白いペンキをかけられた、といった、いわゆる
今 回、 取 材 に 協 力 し て く れ
「ジプシー」の子供たちによる手口(いずれも、そうして
たのは、サヴィルローにある
注意をそらし、その間にバッグに手を入れサイフを抜き
「ウェストエンド・セントラ
取る)について、既に聞いたことがあったため、このグ
ル」署を拠点に犯罪防止関連
ループが正面から近づいてきた時、B恵さんは思わず身
の職務にあたる、ウィル・デ
構えた。
イヴィス氏(Will Davies)=
▲メトロポリタン・ポリス提供
すれ違うまで、あと数メートルというところまで迫っ
写 真。お父さ ん も警 察 官で、
た次の瞬間、はたして、グループのひとりの少女が何
ルーシー・ブラックマンさん
スリ集団の中でもスリ実行犯は、
か大声で叫びながら、B恵さんのショルダーバッグに向
事件の捜査のために、日本に
サイフを抜き取る手をかくすため
かって突進してきたのだという。
行ったこともあるという。デ
に上着やウィンドーブレーカー、
イヴィス氏の肩書きはズバリ
「私のサイフ、盗ったでしょう! 返してー !!」
地図(年季が入ったものであるこ
「Crime Prevention Officer」
(犯
少女はそう叫んでいた。
とが多く、とても観光客のものと
罪防止官)だ。ウェストエン
驚きのあまり力がぬけ、バッグの中に少女の手が入り
は思えない)を利き腕とは逆の腕
ドの一等地にある「ウェスト
そうになったが、再び手に力を込めてバッグを押さえな
にかけたり、持ったりしているこ
エンド・セントラル」署は、日本領事館の最寄の警察署でもある
おしてから、B恵さんも必死で叫んだ。
とが多い=写真。もし、ティーン
ため、同領事館に駆け込んできた日本人被害者は、同署に被害届
「No, no! Help ! Help!」
けを提出しに行くことになる。ここで、発行された犯罪レファレ
エイジャーのグループに、そうい
幸い、近くを通りかかった若者2人がB恵さんのほう
ンス「番号」が、保険申請時に必要となる。
う格好の子供を見かけたら、要注
に駆け寄ってきてくれたため、子供たちはサッと散り散
West End Central Police Station
意(偏見はいけない、などとキレ
りになり、別々の方向に走って逃げていった。若者2人
27 Savile Row, London W1S 2EX Tel: 0300 123 1212
イごとを言ってはいられない)
。
に礼をいうB恵さんだったが、声の震えをおさえること
http://cms.met.police.uk/met/boroughs/city_of_westminster/
09contact_us/index
ができなかった。
最寄り駅は Oxford Circus / 365 日 24 時間オープン
サバイバー
サバイバー
3 JUN 2010 / No 628
10
は禁物
ミニキャブに対し、安心して利用できるはずのブ
ラック・キャブ(黒塗りタクシー)だが、残念なが
ら、100%安全とはいえなくなってしまっている。
昨年4月、ブラック・キャブの運転手、ジョン・
ウ ォ ー ボ ー イ ズ(John
Worboys)被告(52)=写
真=が、少なくとも 12 人
の女性に性的暴行を加えた
罪で無期懲役の判決を言い
渡され、この事件はロンド
ン市民、特に女性に大きな衝撃を与えた。
南ロンドンのロザハイズ出身、現在は南イングラ
ンドのプール在住というウォーボーイズ被告は元ア
マチュア・ポルノ男優にしてストリッパーとしての
職歴もある人物。
手口はこうだ。①夜、できれば酔った状態の女性
のひとり客を狙い、乗車させる。②競馬、またはカ
ジノでひと儲けしたと話し、札束でふくらんだスー
パーの袋を見せる。③孤独な身なので、いっしょに
祝ってほしいとし、車のトランクからシャンパンか
ウォッカを取り出して勧める。④このドリンクには、
粉末状にした鎮静剤を混入、被害者が意識もうろう
となったところで後部座席に移動、暴行を加える。
同様の手口で、12 年間にわたって最高 500 人の
女性が被害にあったと見られて
いる。また、2007 年、ウォーボー
イズ被告から性的暴行を受けた
とする学生が警察に通報、同被
告が初めて逮捕された時点で警
察がさらなる捜査を行っていれ
ば、08 年2月に再逮捕されるま
での間、被害の拡大は防げたと
して警察への激しい非難も巻き起こった。
被害者のひとりはこう話す。「タクシーの運転手
なのに、勤務中にアルコールを勧めるなんて、ヘン
な話」と思ったという。この「何かヘン」「何かお
産
財
う
い
と
」
身
自
のは…
る
い
て
狙われ
ャブも油断
キ
・
ク
ッ
ラ
ブ
かしい」という感覚を覚えた時、この後の判断が明
暗を分ける。自分で発した危険信号をいかすか無視
するかーあなた自身が試されていると言って過言で
はないだろう。
た
な
あ
「
ヘンドン在住
E花 さん(34 歳)の ケース
会社の同僚の送別会があり、その帰途で思わぬ
経験をしたと話すE花さんは、ロンドン在住4年
目。かなり酔っていたとはいえ、流しのミニキャ
ブに乗るのは言語道断、乗るならブラック・キャ
ブということを考えるだけの分別は十分残ってい
た。なかなか空車がつかまらなかったが、ようや
くオレンジ色の「TAXI」のライトがともるブラック・
キャブをひろい、乗車。時間は深夜 11 時半ごろだっ
たと記憶する。疲れていたこともあり、少し眠っ
てしまったE花さん、目覚めた時にはタクシーが
完全に停まっているのに気づいたのだった。
はっとして周りを見渡すと、運転手が隣に座っ
ている。
「きみ、かわいいね。中国人? 日本人?」
運転手は、熱心にE花さんを口説き始めた。こ
のままではいけない。
幸い、中東系とおぼしき運転手は、中肉中背。
そこまで腕力がありそうにないこともE花さんに
勇気を与えた。E花さんは意を決して、運転手の
手を両手で握り締めて、相手の目を見て言った。
「あなたを信じています。運転に戻ってください」
運転手が意表をつかれ、空気の流れが変わった。
やがて、運転手は何やらつぶやきながらも運転席
に戻ったのだった。
自宅は、ヘンドンの駅からさらに5分ほど歩く
必要があったが、自宅を知られてはいけないと思っ
たE花さんは駅の前で下ろしてと頼んだものの、
駅に着くまでの時間が何十分にも感じられた。駅
に着き、平静を装い、チップなしの値段を払って
下車したE花さんだったが、自宅に向かう道すが
ら、涙が出てくるのをとめることができなかった。
※前述の「Crime Prevention」担当オフィサー、ウィル・デイヴィス氏も、編集部からの「ブラッ
ク・キャブの運転手に襲われそうになったら、どうすれば良いんでしょうか」という問いには、
有効な策を答えることができなかったが、デイヴィス氏は、「とにかく被害にあったら警察に
通報してください」「私たちに話してください」と繰り返し訴えていた。
スリや置き引きといった、あなたの
所有物を狙う犯罪も多いが、命を含
む、
「あなた自身」を狙った犯罪も
後を絶たない。性犯罪もそのひとつ。
ロンドンのような大都市では、様々
な人が集まるため、犯罪実行の機会
をうかがう輩の数もそれに比例して
増える。ここでは、
「君子危うきに近
づかず」のルールな
ど、
「常識」に従っ
て行動するしかなさ
そうだ。
特にクリスマスなどのパーティー・シーズンには、政
府も大々的に広報活動を行い、違法な流しのミニキャ
ブ(登録済みのミニキャブは予約乗車のみ)にはくれ
ぐれも乗らないようにと呼びかけを行う。しかし、いっ
たん酔ってしまうと、安全確保のハードルが下がり、
いつもなら考えられない危険を冒してしまうことがあ
るのが実情だ。2009 年の数字では、ロンドンでは月に
8人の女性が違法なミニキャブ運転手によって、レイ
プの被害にあっていることが報告されている。
ミニキャブ会社には、ロンドン
交通局の認可を受けている会社
もあるが、事前予約なしの客を
通りで拾うことは禁止されてい
る。「You wanna minicab?」 と
徐行して近づいてくるミニキャ
ブはすべて違法と心得ること。とは言っても、酔っ
てしまった後では、こうした注意もまったく効果
がないと推察される。正しい判断ができなくなる
ほどに、外出先で酔わないように、自分で戒める
しかない。
編
番外
アーチウェイ在住
サバイバー
まず、初めて会う場所は、カフェ
など人目の多い場所にすること。
次に、カフェにせよ、バーにせよ、
トイレに行くために席をはずす時
は、飲みかけのドリンクは残さず、
飲み干して中座するか、あるいは
トイレから戻った後は、その飲みかけには手をつけ
ないよう徹底すること。また、映画やドラマで見か
けるような、
「あちらのお客様からです」という飲
み物のオファーは丁寧に辞退するべき。
マジック
F代 さん
(32 歳) の ケース
F代さんは、ロンドンで働き始めて4年、仕
事に追われる日々を送っている。仕事が安定し
ているのは良いのだが、異国での暮らしにもほ
ぼ慣れ、日々の生活に変化がないことに対して
物足りなさを感じるようになっていた、とF代
さんはその時のことをふり返る。
「なんだか、面白くない」
女性の友人といっしょにいったあるバーで、
英国人男性G氏に会ったのはちょうどそんな時
だった。翌朝、仕事が早いからと友人は先に帰ったが、F代さんとG氏
はその後もしばらくふたりでドリンクを楽しんだ。60 歳前後と思われる
G氏は、一方的に自分のことをしゃべるだけでなくF代さんの話にもじっ
くりと耳を傾けてくれ、気の利いたコメントをさしはさむ、いわゆる紳
士タイプ。やがて、彼が「私のフラットがここから歩いて 10 分ぐらいの
所にあるんだが、コーヒーでも飲んでいかないか」と提案した。時刻は
午後 10 時半ごろだったとF代さんは記憶する。
コーヒーだけ飲んで、11 時過ぎには帰途につこう、そう計算してその
申し出を受けることにした。
G氏のフラットは、住宅街の一角にあった。かなりのきれい好きらしい。
適度にモダンなインテリアが揃えられ、こざっぱりとした雰囲気にまと
められていた。
「ちょっとトイレを借りますね」
F代さんはそういって、バスルームに入った。バスルームもこまめに
掃除されているようで好感がもてた。
ところが、手を洗ってバスルームから出てきたF代さんの目に驚愕の
光景が飛び込んできたのだった。ズボンをおろしたG氏が、立ったまま
自慰行為を始めていた。
「キミは見ててくれるだけでいいから」
F代さんは、
「No way!」と叫ぶやいなや、バッグとコートをひっつかみ、
G氏の横をすりぬけて玄関から走り出た。そのまま駅まで早足で向かっ
たが、後ろからついてくる足音がないか、何度もふり返った。地下鉄に
乗り込み、あいている座席に座ったものの、まだ心臓がバクバクと音を
立てていた。
3 JUN 2010 / No 628
インターネット業界では、デート相手、結婚相手をみ
つけるためのサイトが乱立する昨今だが、何回かのメー
ルの交換のあと、いざ会う段になり、その危険
性を考える女性がどの程度いるだろうか。もち
ろん、より充実した人生のために役立つ出会い
であることも多いに違いない。しかし、
「デート・
レイプ」と呼ばれる犯罪の被害者となる女性が
後を絶たないのも事実だ。性善説の逆、
すなわち、
どの人も悪事を企んでいるという前提のもとに
行動することに対し、抵抗を覚える日本人女性
は多いだろうが、ロンドンではそれぐらいの心
構えでいることが必要といえる。
えの海外
ゆ
ン
ド
ン
ロ
ロンドンという、日本とは異なる環境ゆえに、いつも
とは異なる判断を下してしまうことがある。次の2つの
ケースに共通していえるのは、
「なんだか、面白くない」
「な
んだか、つまらない」という漫然とした不満を感じてい
た点といえるかもしれない。
13
【異物を混入された飲み物による犯罪】
【ミニキャブという密室で起こる犯罪】
サバイバー
アクトン在住
H子 さん(29 歳)の ケース
学生としてロンドンに暮らすようになって3年
目。難しいかも、と心配していた学生ビザの更新
も無事に終わり、ひと安心。午前中はトテナムコー
ト・ロードにある英語学校でアドバンスのコース
をとり、その後は英語学校でインターネットをし
たり、友人とカフェでおしゃべりを楽しんだり、
気が向けばナショナル・ギャラリーや大英博物館
(ともに無料なのでありがたかった)に行ったり
して時間をつぶし、午後5時からはウェストエン
ドにある日本食レストランでウェイトレスとして
働く。そんな、やや単調な毎日が続いていた。ロ
ンドンに来て1年目は、すべてが新鮮で、新しい
発見の連続。学校とアルバイトで毎日とぶように
過ぎていったが、ワクワクした気持ちを感じるこ
とができていた。だが、学生として3年目。労働
許可証をとってもらえる、という夢のような話も
なく、友人との話にもグチが多くなるようになっ
ていた。
「なんだか、つまらない」
学校もアルバイトも休みの土曜日の昼下がり。
ある日系店で買い物をしていたH子さんは、オー
ストラリアから来たというJ氏に声をかけられ
た。「ミソ・スープを作りたいんですが、何を買
えばいいかアドバイスしてもらえませんか」。ロ
ンドンに来て、すっかり日本食のファンになった
というJ氏は 40 歳前後に見えた。英語もわかり
やすく、「いい英語の練習になる」と思ったH子
さんは、いっしょに映画を見にいくことに同意し
た。
ちょうど、見たいと思っていた『シャーロッ
ク・ホームズ』をウェストエンドの映画館で鑑賞。
映画代はJ氏が出してくれるというので、最初は
迷ったが、好意に甘えることにした。
映画を見終わって外に出てみるとまだ午後5時
過ぎ。中途半端な時間だ。
「僕のフラットは、ここからバスで 10 分ほどな
んだけど、お茶でも飲みにきませんか」
まだ時間も早いし、お茶くらいいいかな、と思っ
たH子さんはJ氏といっしょにバスに乗り、フ
ラットに向かった。
便利なところだが、静かな住宅街とはいえない
エリアにJ氏のフラットはあった。背の高い、カ
ウンシル・フラットだ。J氏もそれを気にしてい
るらしく、彼の大家がカウンシルからこのフラッ
トを購入し、彼はそれを借りているとわざわざ説
明してくれた。
中に入ってH子さんは言葉を失った。あまりに
乱雑、雑誌や空のパッケージなどが床に散乱し、
いつ掃除したのかわからない有様で、キッチンに
は使ったまま洗われていない食器が無造作に置か
れていた。
「こんなところでお茶を飲むなんて、ありえな
い」
清潔好きのH子さんは、「ごめんなさい、気が
変わったので帰ります」とJ氏に、できるだけ丁
寧にそう告げた。しかし、今まで温和に見えたJ
氏の態度が豹変した。
「ここまで来ておいて。やるべきことがあるだ
ろう」
と強い口調で言われたが、H子さんは、「No!」
というなり、玄関まで思いっきり走った。運良く、
ドアはすぐにあき、H子さんはそのまま目に入っ
た非常階段をかけおりた。J氏のフラットが高層
階ではなく、3階にあったのも幸いだった。H子
さんは、バスの走っている大通りまで息を切らし
ながら走った。J氏の姿が見えないのを確認して
からバスに乗り込み、ウェストエンドに向かった
が、友人に携帯で連絡しようとキーパッドを押す
指のふるえは止まらなかった。
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