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特集2
事例6 サンデンチーム ∼設計と製造技術から見直すモノづくり∼ 馬県伊勢崎市)は、サンデンの連結対象企業の1 1.サプライチェーンの概要 つであり、コンプレッサーのピストン部品の機械 加工を行っている。 サンデン(本社:群馬県伊勢崎市)は、"暖める"、 "冷やす"技術をコア技術として、カーエアコン、 2.対象製品と生産工程の概要 コンプレッサーなどの自動車機器事業、自動販売 機、店舗システムなどの流通システム事業などを 自動車部品メーカーは、開発時に決めた製品、 柱とする年商 2,166 億 900 万円の企業である。そ 部品の仕様を、その品質確認(試験)情報ととも のうちカーエアコン用コンプレッサーは、全世界 に顧客の自動車メーカーに提出している。量産開 で年間 1,200 万台以上販売している。 始以降に、その仕様変更をすることは、再度、そ サンデンで開発し、生産する小型・軽量、高性 の品質確認(試験)を必要とする。そのため、そ 能・高効率のコンプレッサーは、自動車の仕様段 れぞれの部品の生産段階の材料ロス削減の課題は、 階の環境負荷の低減に貢献している。一方で、コ 量産開始以降で対応できることもあるが、その開 ンプレッサーは部品点数が数十点になるが、金属 発段階で行う必要があるものが多い。 の機械加工部品が多く、製造段階の環境負荷低減 コンプレッサーは、金属の機械加工部品、数十 の課題の1つが、生産段階の資源効率の向上、す 点で構成されている。その部品の多くは、サンデ なわち材料ロス削減である。 ンとそのサプライヤー間を渡り歩いて機械加工さ 本事業のサプライチェーンチームに、サンデン とともに参加したサンワプレシジョン(本社:群 れ、最後にサンデンで組み立てられる。 小型・軽量、高性能・高効率という差別化を行 いながら、生産段階の資源効率の向上、すなわち 参 加 企 業:サンワプレシジョン[資本関係:あり] 対 象 製 品:カーエアコン用コンプレッサーのピスト ン部品 統括診断員:日本能率協会コンサルティング 下垣 彰 材料ロスの削減に取り組むためには、図1のよう に、量産段階におけるサンデンとサプライヤー間 を渡り歩く部品の材料のロスを評価、"見える化" し、その資源効率改善の課題を明確にし、その機 種での量産段階の改善を行いながら、次機種の設 計にフィードバックする仕組 図 1 開発プロセスと資源効率評価 要素開発 設計 みが必要である。 性能・品質 試験 今回、対象とした部品、カ 量産 ーエアコン用の斜板式可変容 量コンプレッサー(PX タイ 機種A プ:写真参照)のピストンは、 資源効率評価 性能面、品質面でも、中心と 機種B 要素開発 設計 性能・品質 試験 なる部品の1つである。コン 量産 プレッサーの他の部品と同じ ように、いくつかのサプライ > > 写真 コンプレッサー ヤー間で複数の加工がなされる。サプライヤー間 で複数の加工が行われる部品は、材料ロスの実態 がわかりにくい。 今回は、サンデンとそのサプライヤー間での材 料ロスの実態を"見える化"し、管理するモデルを 構築することを目的として、本事業に参加した。 分析段階は、サンデン、サンワプレシジョン双 方の製造現場で、個々にデータ収集と MFCA 計 算を行った。改善検討段階では、双方の製造現場 の関係者に加え、製品の開発設計の関係者も交え、 以外の間接材料は使用量が少なく、計算から除外 材料の投入とロスの物量情報を共有化し、共同で した。 改善方策の検討を行った。 物量センターは、サンデン赤城事業所の「素材 図2に、製造工程と今回の材料ロスの調査対象 切断」 「鍛造」、サンワプレシジョンの「機械加工」 「塗装」「機械加工2」と、合計5つの物量センタ 範囲を示す。調査対象のピストンの部材は、サン ーを設けて計算を行った。 デン(赤城事業所、部品加工工場)において、ア 分析の結果、特に主材料のアルミは、投入物量 ルミ素材の切断、鍛造が行われ、サンワプレシジ ョンにおいて、機械加工、塗装、検査が行われる。 の 50 %が材料ロスになっている(図3)。なお、 途中の工程では、他社製造の別の部材と接合され 他社製造品のアルミ部材も、その加工段階(今回 る。小型・軽量と高精度が求められる部品である の対象範囲外)で、かなりのマテリアルロスがあ ため、構造が複雑であり、工程も複雑になってい る。 る。各工程で、材料ロスが発生するが、特に機械 アルミ以外の材料ロスにも改善課題があったが、 加工時の切り粉が多い。塗料については、塗料に ここではアルミの材料ロスに絞って述べる。アル 含まれる溶剤のマテリアルロスが多いと思われる。 ミの材料ロスは、「素材切断」から「機械加工2」 まで5つの物量センターで、さまざまな要素、要 3.診断結果および抽出された課題 因のものが発生していた。それを技術課題ばらし という手法を用い、図4のように抽出し、整理し 今回は、サンデン赤城事業所の部品加工工場、 た。 サンワプレシジョンのそれぞれに MFCA を適用 図4を分析すると、アルミ材料ロスの改善課題 し、その材料ロスを分析した。直接材料のアルミ は、表1の①、②のように改善の基本条件によっ と塗料は、すべて分析対象にしたが、ショット材 て層別できた。特に②は、改善策を実現する上で、 図 2 製造工程と調査対象範囲 今回の調査対象 サンデン赤城事業所 部品加工工場 サンワプレシジョン 材料:棒材 サンデン 組立工場 材料:塗料 素材 切断 鍛造 機械 加工 塗装 機械 加工2 検査 製品 組立 負 の 製 品 負 の 製 品 負 の 製 品 負 の 製 品 負 の 製 品 負 の 製 品 負 の 製 品 ロス: 端材、不良 ロス:不良 ロス:切り 粉、不良 ロス: 塗料、不良 ロス:切り 粉、不良 ロス:不良 ロス:不良 他社製造の部品 / 他社製造の部品 図 3 材料(アルミ)の物量フローのグラフ 材料(アルミ)物量フローグラフ 新規投入 物量 材料ロス 発生物量 材料投入 累積物量 97.7 材料ロス 累積物量 97.7 97.7 78.2 78.2 48.6 29.0 30.7 3.1 素材切断 10.6 7.5 19.5 18.4 鍛造 17.8 1.7 機械加工 塗装 機械加工2 図 4 アルミ材料ロスとその要因の工程別整理 3.ロスの要因の分野(検討の視点)を設定する 製造手順 (現状) ロス、問題の定義 (具体的に) 設備仕様、条件 前加工1 設計仕様、条件 品質仕様 その他 (安全性、効率性など) 4.製造手順ごとに発生するロスに関して、 その関連する要因を(すべて)洗い出す 前加工2 接合 2.ロス、問題を具体的に書きだす(ポンチ絵など使う) 後加工1 **加工 1.現在の製造(加工)手順を細かく書きだす サンデンの製品設計や生産技術、実験などとの連 が必要である。あるいは、鍛造形状の簡素化、 携が必要になる。 およびそれが可能な加工手順の開発が必要で また表1の②については、次の課題1(不良削 ある。 減)、課題2(切り粉削減)の問題が大きいことが、 ・課題2(切り粉削減):機械加工工程のアル サンデン、サンワプレシジョン間で共有化できた。 ミ材料ロスの多くは、旋盤、フライス加工に ・課題1(不良削減):鍛造工程のアルミ材料 よる切り粉である。従来品の鍛造形状と加工 ロスの多くは不良である。現状の鍛造形状が 手順は切削個所、切削量が多く、必然的に大 複雑である一方、その鍛造品質を高める製造 量の切り粉が発生する。この切り粉量を削減 条件を確立できていない。従来品の鍛造形状 するためには、切削個所、切削量を少なくす で生産を続ける場合は、その製造条件の開発 る必要があるが、そのためには、加工工程、 手順を一から見直す必要がある。 表 1 図 4 で抽出された改善策の、改善条件による層別 改善の条件 改善策の例 ① 現状のライン ・ある部分の加工をやめる(搬送方法、 で実施できる 塗装時の保持方法が課題) ・円筒内部の黒皮を残す 改善 ・不良の原因となっている基準面の見 直し ・円筒部の研削をやめる ② 製品設計や製 ・接合させる材料の構造、形状を変 造プロセスの える 見直しが必要 ・接合させる材料を鍛造以外の方法 で製造する な改善 4.改善提案および改善策の実施状況 表1の①は効果としては小さいものの、サンワ プレシジョンが中心となって実施でき、早い改善 が実施可能である。実際、事業の終了後、いくつ かの材料ロスの原因になっていた不良について、 実際に改善が進み、不良の発生が激減したものも ある。 表1の②については、より詳細に改善課題を明 > > 図 5 製造プロセスの仮説と技術課題抽出のイメージ 技術課題(何をどうする) 工程 現状加工 内容(図) 製造手順 改善案、 アイディア その加工設備 の変更課題 (何をどうする) 前後工程の加 工形状の変更 課題 (何をどうする) 設計変更課 題(何をどう する) その他課題 前加工1 前加工2 ラインA 接合 後加工1 後加工2 ラインB 1)各手順の改善案と課題の抽出 2)各手順の改善案の改善効果を、個別に見積り (現状のロス⇒改善後のロス) 3)各手順の改善案の改善の可能性を評価 4)詳細検討案を決定、改善効果を全体で見積り ポイント:改善に関連して検討する 技術課題の抽出視点を定義すること ショット 確にする必要があり、日を改め、より詳細な技術 課題ばらしを行った。 5.参加企業の声 製品設計、製造プロセスの見直しの方向性も固 まっていない段階であり、その方向性として、次 本事業には、サンデンの設計部門、製造部門、 の4つの案(方向性)の製造プロセスを仮定し、 サンワプレシジョンから、このピストンに関わる それを実現するための技術課題を、より詳細にブ それぞれの中心メンバーが参加した。特に改善検 レークダウンし、それぞれの技術的な可能性と効 討の段階では、共同で、理想とする工法、工程を 果を机上検討した(図5)。 描きつつ、それを実現するための課題を、技術課 ・案1:現状のプロセスとほぼ同じ作り方で、 題ばらしという手法を使い、共同でディスカッシ 接合点を変更する方法 ・案2:鍛造品で、切断のない方法 ・案3:鍛造以外の作り方 ・案4:切断個所を変更する方法 ョンしながら抽出した。 この事業に参加したメンバーからは、次のよう な意見が得られた。 ・設計、製造の上下工程のメンバーで、材料ロ 表1の②は、基本的な構造は現状と同じであっ スを、物量、金額の両側面で共有でき、従来 ても、製造手順、ラインの大変更を伴う。改善の の検討方法に比べると、焦点を絞った深い議 効果は大きいと見込まれるが、客先承認、他社特 論ができた。 許対策なども必要であり、新製品開発のタイミン グで実施をしないと、実現できそうにない。 自動車部品メーカーは、顧客の自動車メーカー の新車開発のタイミングに合わせ、数年間隔で、 ・普段はあまり行っていないが、今回のように 設計、製造の上下工程が意見をぶつけ合うこ とは、改善や新工法の開発には、効果的であ る。 その製品や製造技術の開発を行うことが多い。こ ・今回の事業の中で診断員より提案された改善 のコンプレッサーでも、数年間隔で新しいタイプ の方向性の3案に対して、検討していたメン の方式や構造のコンプレッサーを開発している。 バーから、4番目の方向性を打ち出せたのが 今回の対象となったピストンについて、表1の② よかった。 の課題は、このコンプレッサーの次機種開発時の 課題の1つとして取り組むことになった。 また、この検討を行うことは、サンワプレシジ ・今まであまりできていなかったサンワプレシ ジョンからサンデンへの提案が、今回の活動 を通してできたことは、意義が大きい。 ョンの製造技術力を高め、またサンワプレシジョ ・MFCA により、材料ロスの理想の状態(材料 ンとサンデン(設計、生産技術、製造)間の連携 ロスゼロ)の状態と比較しながら検討するこ 力を高める効果も期待できる。 とで、"より簡単にできる"、"より安くでき る"ことを深く意識でき、設備に対する見方 も変わった。 /