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犬と猫と人間と 2―
原発事故で取り残された動物たちの死と命の意味 『犬と猫と人間と 2― 動物たちの大震災』 東日本大震災とその後の原発事故によって多くの人が被災したが、犬や猫、そして牛などの動物も犠牲となった。 宮城県出身の宍戸大裕監督は、愛犬を津波で失った人々の悲しみや、原発事故によって取り残された動物たちの苦 難を記録。 『犬と猫と人間と』を製作した飯田基晴監督のプロデュースにより、その続編として作品になった。 腐敗した遺体もあり、何とか生 いる遺体もあれば、最近死んで するのですが、どうしても随所 ィアと協力して牛を生かそうと 月公開を前に、宍戸監督が作品に込めた思いを聞いた。 めて牛舎に行きました。その時 て、それからすっかり共感した を毎日やっているのか」と思っ た に な っ て 帰 り ま し た。「 こ れ 餌やりと水やりをして、くたく んと一緒に日が暮れるまで牛の その日は1時間くらい撮影し た後、カメラを置いて、岡田さ お互いに激突するだろうと思っ もし生き残った牛を肉として 出 荷 で き る と 国 が 判 断 す れ ば、 感じです(笑) 。 情で顔を見合わせているという ランティアの皆さんは微妙な表 た焼き肉をごちそうすると、ボ さんが心臓発作で倒れてしまい、 ていました。でもその前に根本 最終的に牛たちは浪江町にある 吉 沢 正 己 さ ん の「 希 望 の 牧 場 」 国の全頭殺処分の方針に反対 し、楢葉町の畜産農家の根本さ に活動しています。 に補い合いながら、現在も一緒 う、出発点の違う両者がお互い に引き取られることになった。 んが警戒区域内に「ファーム・ ―農家と動物愛護団体が協力し ア ル カ デ ィ ア 」 を 作 り ま し た。 吉沢さんは「ファーム・アル ていますね そこで動物愛護団体のボランテ そこでは畜産農家の吉沢さん と動物愛護団体の岡田さんとい 家畜でもあり 家族でもある存在 わけです。 うまいんだよ」と家で作ってき に初めて現場の光景を見て、も 年目の記憶』がある。 か興味が湧かなかったからです。 る住民の姿を追った『高尾山 二十四 にずれがあるんです。 央道トンネル工事計画とそれに反対す きている牛もいるなど様々。あ 学生時代の作品に、東京・高尾山の圏 のすごいショックを受けた。 飯田基晴氏や土屋トカチ氏が主宰する それでも「映像をユーチュー ブなどにアップして世論を喚起 したいので撮って欲しい」と頼 6 月 1 日より渋谷ユーロスペースにてロードショー、ほか全国順次公開 ―多くの動物の死体が映し出さ 2013 年/日本/ 104 分 配給=東風 公式HP http://inunekoningen2.com/ ミイラ化した牛が 物語るもの 「風の集い」に参加し、映像制作を学ぶ。 る意味で原発事故後にどれだけ 県名取市在住。学生時代、映像作家の たとえば昼ごはんの時ですが、 農家さんはやっぱり肉を食べる 1982 年、宮城県仙台市生まれ。宮城 の が 好 き な ん で す よ。「 こ の 肉 いすけ) エサやりに来たかが分かるよう プロフィール▶宍戸大裕(ししど・だ な状況だったんです。 6 牛舎ごとに状況が違っている のですが、もうミイラになって 監督・撮影・ナレーション=宍戸大裕 構成・編集・プロデュース=飯田基晴 まれ、2011年8月7日に初 『犬と猫と人間と 2 動物たちの大震災』 れています 前作では殺処分直前の犬を映 すなど、死を想像させるシーン に限定されていましたが、今回 は犬も猫も牛も遺体を見せてい ます。 鎖につながれたまま死んだ福 島の犬の苦しみを想像して欲し い。人間のためにこの死が強い られていることを感じて欲しい。 そういう想いで、プロデューサ ーの飯田基晴さんとも「見せる べきだよな」と同意し、二人と もその点は揺るぎませんでした。 今回は犬と猫だけでなく牛に ついても取材していますが、当 初は家畜を撮ろうとは思ってい なかったんですよ。福島の警戒 区域内で犬猫の保護活動をされ ていた岡田久子さんから牛のこ とは聞いていましたが、なかな (C)宍戸大裕 16 い。岡田さんや動物愛護の人た ればもうやめていたかもしれな カディアの皆さんと合流しなけ 抵抗を感じる」という感想が少 生かすことが前提になっていて くない。アンケートにも「牛を ところがお客さんの反応が芳し て2011年 間が優先。そこを交渉を重ね 度も折衝した。しかしまず人 し、原子力災害対策本部と何 っています。岡田さんも牛の世 からすごく変わった」とよく言 ばされることも多かった。そこ 支援者も拡がり、その姿勢に学 いたわけです。 の近さが観る人の反発を招いて 人が一般的ですし、僕の対象へ ットと違って経済動物と捉える なからずありました。やはりペ のでした。 害対策本部に折衝してもはね と言われ、その後はいくら災 入れた。それが『約束違反だ』 物愛護団体がテレビクルーを が実現した。けれどもある動 月の一斉救出 ちと一緒に活動していくうちに 話をする中で、撮影当初とは雰 飯田さんからも指摘され、一 人一人に考えてもらうための距 ました。 でも僕が接した限りでは、家 族を亡くした人の悲しみと、動 物を亡くした人の悲しみに差が あるとは全然思えない。石巻の 小野夫妻は息子さんを3歳で亡 くしていますが、今回の震災で 犬のモモちゃんが行方不明にな り、同じように「ぽっかり穴が 開いたようだ」と言っていまし ですが、岡田さんと吉沢さんの つ」とそれぞれ異なっているの 「殺処分」 、吉沢さんが「解き放 があります。答えは岡田さんが うするのか」と質問するシーン 「もし 映 画 で は そ の 二 人 に、 牛の世話ができなくなったらど 僕の被写体への近さを飯田さ んが引きはがしながら試行錯誤 しました。 ンを作りなおし、映像を再構成 と離れた立ち位置でナレーショ ました。そこで被写体からぐっ 離感を持つ必要があると認識し います。実際に警戒区域内で そうした行政の力不足をカ バーしたのが民間だったと思 っているわけです。 在が分からないシステムにな 結局組織というのは責任の所 だからと言ってその災害対 策本部を問い詰めたとしても、 れ、うれしかったですね。 て、辛い気持ちを引きずってい でいたために津波で亡くしてし た。そういうふうに悲しんでい 答えは予想と全く逆だったので し て 仕 上 げ た。 そ の 結 果、 「牛 民間の団体・個人が保護した犬 「世 実 は ペ ッ ト の 飼 い 主 は、 間は人を亡くした悲しみよりも つけられてしまう」というも 囲気がまったく変わった。 驚きました。それぞれの思いが のことをものすごく考えさせら と猫の数は5814匹と、行政 動物を亡くした悲しみの方が軽 ます。 す。ペットと一緒に逃げるのは いと思っている」と捉えている。 なく外で泣いていました。 ずはペットを守り、共に生きの そうしたことを避けるために も、環境省などでは緊急時にペ な ぜ か と 聞 い た ら、「 泣 い て いるのを見られて声をかけられ びること。 ットの同伴避難を推奨していま た時に『なんだ犬だっちゃ』な 震災が長引けば避難所の中で のルールが作られ、住み分けが たとえば犬のコロスケを亡くし んて言われて、これ以上傷つい できます。考えるのはそれから た磯崎さんは、避難所の中では まった。夫妻は今も後悔してい ないように言われ、柱につない とした際、大きい犬は中へ入れ する磯崎夫妻は避難所に入ろう いことがあります。映画に登場 そして動物を飼っている方に も、飼っていない方にも伝えた ってもらいたいと思います。 る人がいることを多くの人に知 にじみ出ている場面です。 の882匹をはるかにしのいで います。 れた」という意見が寄せられる 観客から 問い正された距離感 ―普通は牛を「家畜」としか見 くさんいます たりするのが嫌だったから」と。 ませんよね 今年2月末、石巻で完成上映 会 を し ま し た。「 俺 も 家 族 亡 く 猫をずっと探している方も、「今 災害時はペットと 共に逃げる権利を 映 画 で は 使 っ て い ま せ ん が、 実は環境省にも取材にいきまし したんだけどさ」と声をかけて ―行政はどんな対応をしたので た。 「福島の警戒区域に取り残 くれたおじさんが上映後に、「動 で良いですよと伝えたいですね。 権利であって義務なんです。ま ーサーの飯田さんが少し手直し された犬と猫が多数死んだこと は人が大変だから探しているこ ―深く傷ついている人たちがた したものでした。 に対して行政として反省すべき 物のことを知らなかったけれど とを言えなかった」と語ってい しょう? 僕自身すっかり現場にのめり こ ん で い た の で、 「牛を救うこ 点はないのか」と問うたのです。 良い映画だったよ」と言ってく に僕の編集で構成し、プロデュ とがハッピーだ」という考えを その答えは「自分たちも努力 去年の夏、完成前試写会を宮 城県多賀城で行ないました。主 ペット救出で 発揮された民間の力 作品となりました。 (C)宍戸大裕 全 面 に 押 し 出 し た 構 成 で し た。 Actio June 2013 17 12