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冗談に対する怒り喚起プロセス及びその要因の探索的検討
日心第71回大会 (2007) 冗談に対する怒り喚起プロセス及びその要因の探索的検討 ○葉山大地・櫻井茂男 (筑波大学大学院人間総合科学研究科) Key words: 冗談,怒り感情,不適切な話題 【 目 的 】 近年、ユーモアや冗談が対人関係に有益な機能を有すると 論じられてきた(Lefcort,2001)。しかし、先行研究の多く がユーモアや冗談が相手にきちんと伝わっていることを暗黙 の前提としている点が問題といえる。相手に冗談のおかしさ が伝わらなかったり,冗談に対して不快さや怒りを感じさせ てしまったりする現象である「冗談の不達(miscommunication of joke)」もしばしば経験されるのである。 冗談に対して聞き手が怒りを喚起させるのは、聞き手が冗 談をふざけているだけだと解釈せずに、悪意があると解釈す る た め で あ る こ と が 指 摘 さ れ て い る (Kruger, Gordon & Kuban, 2006)。これらのことから,聞き手が話し手の冗談に対 して行なう意図の解釈と聞き手の怒り感情の関連を検討する。 また、どのような要因が冗談の不達を生起させやすいのか を明らかにする必要がある。冗談の失敗に関する先行研究に おいては、(a)伝達手法の失敗(遊戯信号の失敗(McGhee, 1979 ;Pawluk, 1989)や音韻的手法の失敗(Lampert & Ervin, 2005)),(b)話題選択の誤り(相手の触れられたくない話題 や性的冗談を言う), (c)状況の不適切さ,(d)話し手の能 力不足,等が指摘されている。 【 方 法 】 対象者:大学生 411 名(男子 281 名,女子 130 名)を対象と した。平均年齢は 19.72(SD=1.27)であった。 調査内容:(a)半年以内に聞き手の立場で冗談の不達を経験 したかどうか(「はい」「いいえ」の 2 件法),(b)相手から言 われた冗談の内容,(c)その冗談におかしさが感じられなかっ たり、不快さや怒りを感じたりした理由,(d)話し手の冗談の 意図に関する項目(項目例:自分を笑わせようという相手の 意図を感じ取った),(e)話し手の悪意に関する項目(項目例: 自分を傷つけようという相手の悪意を感じ取った) , (f)経験中 の怒り感情に関する 5 項目(怒った,憎らしい等),(g)経験中 の倦怠感情に関する 4 項目(つまらない,退屈な等) 【 結 果 】 冗談の不達を聞き手の立場で経験した人数は 411 名中 158 名であった。まず、怒りの喚起プロセスを検討した結果、 Figure1 に示すモデル(N=158)が得られた(GFI=.99, AGFI=.96)。 自分を笑わせようという相手の意図を認知した場合、悪意を 認知する程度は低まる一方、倦怠感情(つまらなさ)を喚起 する。対して、冗談の意図を認知しなかった場合、悪意を認 知する程度が高まり、その結果、怒りを喚起するのである。 冗談の意図の 認知 .24 倦怠感情 e 怒り感情 e -.52 悪意の認知 .66 e Figure 1 冗談に対する怒りの喚起プロセス 次に、相手の冗談におかしさが感じられなかったり,不快 さを感じたりした理由に関して得られた 104 個の記述を基に, KJ 法による分類を行った。その結果,回答は 12 カテゴリー に分類され(Table 1),大きく分けて状況に関する要因,能力 に関する要因,伝達手法に関する要因,話題に関する要因と いう4つの要因に大別された。これらの要因は,先行研究か ら指摘されている4つの要因(話し手の能力に関する要因、 話題に関する要因、状況に関する要因、伝達手法に関する要 因)と対応すると考えられる。4 つの要因の中で,記述数に 関して全体に占める割合がもっとも大きかったのは,話題に 関する要因(64%)であった。 Table 1 冗談の不達に関する要因の分類 カテゴリー(記述数) 状況に関する要因(10, 9%) 聞き手が冗談を楽しめない気分(2) 冗談を言うべきではない状況(5) 相手との関係性が親しくない(3) 能力に関する要因(10, 9%) 話し手のスキル不足(10) 伝達手法に関する要因(11, 10%) 冗談であることを伝える表情の失敗(4) 行き過ぎた言い方(4) 執拗に冗談を繰り返す(3) 具体的内容 相手に腹が立っていた 自己嫌悪になっていた サークルの練習中であったため 電車の中でのシモネタであったため 親しくなかった 最近相手と合わない 話の流れに合っていない すごく寒かった 面白いと思える要素がなかった 顔が許せなかった 目が本気に感じられた あまりに行き過ぎていた 強く言われた 何度もしつこく言われた 何回も言われたので 話題に関する要因(65, 64%) わからないことを話題にした冗談(11) 元ネタがわからなかった 自分の知らない内容だった 倫理的・性的タブーに関する冗談(12) 差別的な内容であった 死ねは冗談では言ってはいけないと思う 聞き手のコンプレックスに関する冗談(16) 自分のコンプレックスだから 実際にそれについて悩んでいたから 聞き手の外見や行動に関する冗談((12) 一生懸命やったことだったから 暗にダサいと言われたように感じた 聞き手の好きな人や物に関する冗談(14) 自分がその作品が好きなため 好きな彼女だから 尊敬する相手への中傷と感じ取れた その他(8, 8%) まったくのうそだったから ふざけているのかどうかわからなかった 突然のことだったので驚いた 【 考 察 】 本研究より、冗談の不達という現象は,大学生において日 常生活で実際に経験されていることが明らかとなり、冗談の 不達という現象を研究として取り上げる意義があると考えら れる。また、冗談の意図をどのように認知するかが、その冗 談に対する怒り感情の喚起に関わっていることが本研究でも 示され、先行研究の知見を支持した。 さらに,冗談の不達が起こった理由に関する回答の分類に より、先行研究で指摘された冗談の不達の要因に対応する結 果が得られ,先行研究の知見は支持された。本研究により、 話題に関する回答が約 6 割を占め、冗談の不達において特に 注目すべき要因であることが示唆された。 今後の課題として、なぜ、冗談の話し手は聞き手の悩みや 外見について冗談を言ってしまうのかを検討していくことが 必要であると考えられる。 (HAYAMA daichi, SAKURAI shigeo)