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東文研ニュースno.13

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東文研ニュースno.13
TOBUNKENNEWS
独立行政法人文化財研究所 東京文化財研究所
no.13
2003
National Research Institute for Cultural Properties, Tokyo
〒110-8713
東京都台東区上野公園 13-43
『木村荘八日記』刊行
平成 15 年 2 月、美術部は、研究プロジェクト
のひとつ「昭和前期を中心とする日本近代美術の
発達に関する調査研究」の成果の一部として、
『木
村荘八日記〔明治篇〕校註と研究』を刊行しまし
http://www.tobunken.go.jp
の脚註、そして各研究者による論文 8 編をもとに
構成したものです(A5 判、全 472 頁)
。ご協力い
ただいた関係各機関、及び関係者に感謝するとと
もに、同書が、美術史ばかりでなく、ひろく人文
研究に寄与することを願っています。
(美術部・田中
た。
ひろく知られるように、木村荘八(1893~1958)
淳)
橋岡久馬師の謡録音
は、画家、挿絵画家、そして美術、文学、芸能、
風俗にわたる随筆などの著述家として活躍した
芸能部では、所内の舞台に演奏者を招いて、上
人物です。この多彩な活動の原点ともなる青年時
演機会の少ない演目を中心に録音・録画事業を行
代の「日記」
(明治 44 年~大正 2 年、3 冊)が、
っています。今年度はプロジェクト研究「伝統芸
平成 12 年度に社団法人春陽会から小杉放庵記念
能の特殊な上演に関する調査研究」の一環とし
日光美術館に寄贈された木村荘八資料のなかに
て、3 月に橋岡久馬師の謡を録音しました。能楽
ありました。たいへんに資料的な価値の高いこと
には、所作を伴わず謡だけで伝承されてきた曲目
から、美術部では、同美術館と共同で、公刊を前
があります。らん曲、と総称されていますが、微
提に翻刻作業をはじめました。それと併行して、
妙な旋律の味わい、謡い方ゆえに秘伝、とされて
内容が多分野にわたることから、美術史ばかりで
きた曲が多く、めったに上演されることはありま
なく、文学史、演劇・芸能史、風俗史等の研究者
せん。なかでも「東国下り」は「西国下り」「初
の参加を願い、研究会をたちあげることにしまし
瀬六代」とあわせて三曲とよばれる長大な謡で、
た。この度の刊行は、3 年間わたる研究会の成果
演奏時間も 40 分近くかかる難曲です。橋岡久馬
でもあります。
師は観世流のシテ方で、日本能楽協会会員(無形
同書の内容は、翻刻と校閲を経た「日記」とそ
文化財総合指定)。独特の味わいを持った謡で知
られていますが、まさに師の面目躍如たる演奏と
なりました。
『木村荘八日記〔明治篇〕校註と研究』
(芸能部・高桑いづみ)
1
TOBUNKENNEWS
研究会「カビのモニタリング
―その手法と限界」
要があります。このガイドブックは臭化メチル燻
蒸代替法の手引きとして企画編集されたもので、
標記の研究会は「室内空間におけるカビ等真菌
総 合 的 害 虫 防 除 管 理 ( Integrated Pest
類汚染の調査と地球環境に配慮した殺菌殺黴法
Management)の考え方に沿って、日常管理の具
体的な方法や被害が発生したときの実際の対応
に関する基礎研究」(文部科学省科学研究費補助
など、その要点を視覚的にまとめました。フルカ
金特別研究促進費、平成 13~15 年度)の研究交
ラー、32 ページの簡潔なリーフレットですが、
流のために行われたもので、研究分担者等が集ま
各手順をおおよそ見開き単位にわかりやすく構
り、研究の現状と今後の方向について討議しまし
成しましたので、
『文化財害虫事典』
(東京文化財
た(平成 15 年3月 10 日、東京文化財研究所国際
研究所編集、(株)クバプロ刊)とともに、皆さ
研修室、参加者 15 名)。カビは粉塵などとともに
まの座右でお使いいただけると幸いです。
浮遊してどこにでも存在するため、文化財へのカ
ビによる被害を低減するには、清掃による除去、
湿度調整による発育阻害とともに、保管空間の清
浄度を上げることが重要です。研究会では、カビ
による文化財への被害の評価基準は何か、落下
菌・付着菌・空中浮遊菌の計測結果の比較検討は
可能か、より簡易なモニタリング法への展開につ
『臭化メチル代替法の
手引き(平成 14 年度版)
』
いて検討しました。
カビによる被害は、環境改善なくして防止でき
ません。被害のない状態での定期燻蒸を止め、燻
各都道府県教育委員会や図書館、国立等博物
蒸薬剤量を減らすために、基礎研究と成果公開に
館・美術館などに、当所より約 1,000 部配付いた
努める予定です。
しましたが、好評につき文化庁予算で増刷するこ
となりました。発行:平成 15 年3月 28 日。
(保存科学部・佐野千絵)
研究会「文化財施設の温湿度環境と
建材の調湿性」の開催
保存科学部では、美術館、博物館の展示室、収
蔵庫の保存環境に関する研究を行っています。展
示収蔵施設内の温湿度環境には、建材の調湿性が
大きな影響を与えます。今回は、建材の調湿性や
室内の温湿度環境に関して長く研究されてきた
研究会の様子
名古屋工業大学名誉教授の宮野秋彦先生をお招
(保存科学部・佐野千絵)
きして上記テーマの研究会を平成 15 年 3 月 13
日に東京文化財研究所で開催しました。
「文化財の生物被害防止
ガイドブック」を発行
まず、保存科学部の石崎から、川越市山車収蔵
施設、長浜市の曳山博物館の環境調査に関して報
告しました。次に、宮野先生が調湿建材を用いた
2004 年末の臭化メチル生産中止を前に、臭化
博物館等文化財施設の湿気環境というテーマで
メチル燻蒸代替法について十分な知識を持つ必
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TOBUNKENNEWS
講演され、先生が手がけてこられた建造物の構造
年2月には、東京大学生産技術研究所との共同研
や湿度変動の測定結果について話されました。機
究(文化遺産の高度メディアコンテンツ化のため
械空調を使わなくても、壁材の調湿性、断熱性を
の自動化手法)とジョイントし、遺構の3次元レ
考慮することにより、施設内の湿度を極めて安定
ーザー測量によるデジタル情報化作業を行いま
した状態にできるという事例に関しては、改めて
した。
その重要性を認識させられました。また、大阪市
現在タイ、カンボジアを中心に進めている東南
立住まいのミュージアムや熊本市立熊本博物館
アジアの遺跡保存に関する調査、研究を、近隣諸
等での温湿度環境に関する問題点について学芸
国に広げていく予定であり、今回その一環として
員の方から報告があり、その解決方法などに関し
ラオスを訪れ、世界遺産であるワットプー石造寺
て活発な討論が行われました。
院遺跡の劣化状況と保存修復対策に関する現地
調査を行いました。また、文化情報省考古博物館
局へトンサ・サヤボンハムディ局長、ボーンホ
ム・チャンタマット副局長を訪ね、今後の協力関
係について協議を行いました。
館の担当者からの質問に答える宮野秋彦先生
(保存科学部・石崎武志)
カンボジアとの共同研究と
ラオスの遺跡調査
ラオスのワットプー遺跡の調査
(保存科学部・西浦忠輝)
カンボジア政府アンコール・シェムリアップ地
域保護管理機構(APSARA)との国際共同研究は、
「ドイツの歴史的建造物の再生」
研究会の開催
アンコールのタ・ネイ遺跡をフィールドとして、
保存環境計測とケミカルパック法による石材の
2002 年7月に「ドイツの産業遺産の保存と活
クリーニングの現地実験を行っています。2003
用」と題した研究会を開催し、ドイツ・ルール地
方の産業施設の保存と活用の事例を紹介しまし
た。その続きとして、2003 年 2 月 13 日に「ドイ
ツの歴史的建造物の再生」をテーマに研究会を開
催しました。今回はドイツから、ヘッセン州文化
財保存局調査官クリストフ・ヘンリヒセン氏と、
ベルリンを拠点に歴史的建造物の改修・再生プロ
ジェクトを数多く手がけている若手建築家クラ
ウス・アンデルハルテン氏を招へいしました。研
カンボジア、タ・ネイ遺跡における 3 次元レーザー測量
究会ではアンデルハルテン氏の設計事例のほか、
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TOBUNKENNEWS
ベトナム・ホイアンの歴史地区
におけるセミナー
ドイツ連邦議会議事堂やカッセル駅舎の改造・再
生事例など、ドイツの近年の動向も併せて紹介し
東文研ニュース no.2(2000 年5月発行)で紹
ました。
介しましたように、ベトナム中部の町ホイアン
研究会のプログラムは以下の通りです。
は、16~18 世紀にかけて国際貿易で栄えた商業
「ドイツにおける歴史的建造物の再生:Ⅰ―ベル
港で、かつては日本人町もつくられていました。
リンの 3 つの事例―」(斎藤英俊)
約 500 棟もの伝統的な木造家屋が残る歴史地
「ドイツにおける歴史的建造物の再生:Ⅱ―駅
区は、1999 年に世界遺産に登録されていますが、
舎、市電車庫、屠場の活用―」(木村勉:文化財
この地区の保存については、1992 年から文化庁
建造物保存技術協会)
を中心に日本の研究者・技術者が協力していま
「ベルリンとその郊外の産業建築物の転用につ
す。
いて―歴史的建造物の発展的可能性―」(クラウ
今年は日本とベトナムが国交を回復して 30 年
ス・アンデルハルテン)
にあたります。そのことを記念して、「ホイアン
総合討議
歴史地区町並みセミナー」が開催され、研究所か
「歴史的建造物の保存と再生:日本とドイツ」
らは斎藤と萩原管理部長が参加しました。斎藤は
(パネラー/クラウス・アンデルハルテン、クリ
JICA 専門家として派遣されたもので、日本の文
ストフ・ヘンリヒセン、澤田誠二:滋賀県立大学、
化財保護制度について講演しました。また、伊原
近藤光雄:文化財建造物保存技術協会、司会/斎
惠司東京藝術大学大学院客員教授は日本の木造
藤英俊)
建造物の修復技術について、谷口尚白川村長は、
研究会の参加者は、文化財保存専門家や建築家
合掌造り集落として世界遺産となっている荻町
など 118 名で、講演内容に関して高い評価をいた
地区の保存の歴史や制度について講演しました。
だきました。
10 年前のホイアンは静かな地方の町でしたが、
現在では年間 80 万人もの観光客が世界各地から
集まり、急速な発展を続けています。3年前に訪
問したときには、レストランや土産物屋が軒を連
ねるその変貌ぶりに驚きましたが、今回は、文化
財としての保存を進める一方で、高級リゾートと
して洗練された町となっていることに感嘆しま
した。
1902 年建設の銀行を会議場に改修した例
(上:改修前、下:改修後)
歴史地区の景観:家屋の修理が進められ、レストランや土産
物店、ホテルとして活用されている。
(国際文化財保存修復協力センター・斎藤英俊)
(国際文化財保存修復協力センター・斎藤英俊)
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TOBUNKENNEWS
パナマで町並み保存に関する
国際セミナー開催
による日本の町並み保存に関する基調講演の他、
フィリピンの世界遺産ビガン歴史地区、シンガポ
ールのチャイナタウン活性化事業、メキシコシテ
パナマ政府文化庁との合意書に基づき東京文
ィーの近代建築の保存、コロンビアの青少年ボラ
化財研究所が進めている共同研究事業の一環と
ンティア事業などについて発表が行われました。
して、2003 年 3 月 26 日から 28 日までパナマの
パナマ大学の教官や学生が多数参加し、活発な質
世界遺産カスコ・アンティグオ歴史地区で町並み
疑応答がありました。
保存に関する国際セミナー「アジアと中南米の世
界遺産都市」を開催しました。
(国際文化財保存修復協力センター・稲葉信子)
このセミナーは、パナマで文化財建造物や町並
みの保存に関わっている専門家と、保存地区の住
第 6 回各国の文化財保護制度研究
「イギリスの新しい文化財保護の動き」
民の町並み保存に対する意識啓発を第一の目的
に、しかしそれだけでなく、普段は余り連絡のな
いアジアと中南米の専門家の意見交換の機会を
国際文化財保存修復協力センターでは、各国の
設けて、この二つの地域を結ぶ専門家のネットワ
文化財保護制度に関する情報収集を行い、機会が
ーク構築の基礎となることを期待して開催され
あるごとに公開研究会を開催しています。今回
ました。常に北米やヨーロッパ中心で行われる情
は、イギリスの文化財保護制度の研究の一環とし
報交換の流れを変えようとする試みです。
て、イングランドから 3 人、スコットランドから
1 人の専門家を日本に招へいし、情報交換を行っ
アジアからは日本、フィリピン、シンガポール、
中南米からはパナマ、メキシコ、コロンビアから
たのを機に、標記の研究会を 2003 年 3 月 8 日に
専門家を迎えて、発表と意見交換が行われまし
開催しました。
た。日本イコモス国内委員会委員長前野まさる氏
イギリスの文化財保護制度研究会発表者ディスカッション
パナマ国際セミナー:現場見学でのディスカッション
イギリスの遺跡、建造物、都市及び町並み、す
なわち不動産文化財の保存には定評があります。
例えば日本の登録文化財建造物の登録件数に比
べ、イングランドの建造物の登録件数は 37 万件
に及びます。以前より日本の専門家が注目してき
たところです。しかし日本も含め多くの先進国の
文化財保護の制度が 19 世紀半ばに始まって 1 世
紀以上が経過し、また経済構造も変化してきてい
る中で、改めて文化財保護の先進国がどのような
パナマ国際セミナ
状況にあって、そして何を模索しているのか、情
ー:インタビューを
受ける参加者
5
TOBUNKENNEWS
報交換が重要な時期にきています。イギリスで
産委員会でも議論が続いています。気をつけてい
は、文化遺産の保護が国家にとってどういう意味
ないと、装飾のない箱型のいわゆる近代主義のデ
を持つのかが問われているといいます。発表者の
ザインの建築だけが対象になってしまいます。近
演題は以下の通りです。
代を時代でとらえると、日本では 18 世紀後半か
「スコットランドの遺跡と歴史的建造物の保存」
ら 20 世紀までが対象です。アジアは独自の近代
(Ingval Maxwell)
化の歴史を有し、その時代を必ずしもヨーロッパ
「人と場所:イングランドの歴史的環境の未来」
で生まれた近代主義の建築が代表することには
(Geoffrey Noble)
なりません。会議にはアジアの近代建築の研究者
「イングリッシュ・ヘリティジと市町村活性化事
のネットワーク組織 mAAn のメンバーも出席し、
業」(Charles Wagner・Robert Williams)
バンドンや上海などの都市を含む民族的色彩の
(国際文化財保存修復協力センター・稲葉信子)
豊かなアジアの近代建築について、既成の概念に
とらわれることない議論が行われました。なお第
3 回はアフリカで開催される予定です。
近代の遺産に関する第 2 回地域専門家
会議:アジア(世界遺産センター主催)
(国際文化財保存修復協力センター・稲葉信子)
世界遺産委員会では、世界遺産条約の運営にあ
たって重要な事項は、テーマ別あるいは地域別に
文化財への地理情報
システム応用に関する研究会
開催された専門家会議の成果をもとに議論し、決
定しています。今回の会議もそうした専門家会議
の一つです。世界遺産リストに登録する価値のあ
平成 15 年 1 月 22 日、
「第 4 回各国の文化財保
る近代の遺産にはどのようなものがあるか、地域
護制度に関する研究会」として文化財への地理情
別に検討してみようとする会議です。第 1 回はメ
報システム応用に関する研究会を開催しました。
キシコでアメリカ大陸の近代遺産を対象に行わ
文化財に関するさまざまな情報は、従来は個別
れました。今回はその 2 回目でアジアを対象に、
の作品やジャンルごとに、蓄積されたデータが書
2003 年 2 月 24 日から 27 日までインドのチャン
物などの媒体によって公開され、活用されてきま
ディガール市で開催されました。近代建築の巨匠
した。もちろん近年ではコンピュータによるデー
として有名なル・コルビュジェが設計した新都市
タ管理が一般化し、さらにネットワーク上でのデ
です。稲葉が日本の近代遺産について発表するた
ータの共有化も進んでいます。いっぽう、位置情
めに出席しました。
報を利用してデータベースを構築する GIS(地理
情報システム、Geographic Information System)
近代の遺産をどのように評価するかは世界遺
と呼ばれる技術が開発され、各方面からその活用
方法について注目が集まっています。文化財保護
の分野でも、文化財の所在地に関する地図情報と
文化財そのものに関する情報を連結させる研究
が進められ、考古発掘現場のデータ管理など、す
でに日本のみならず世界中で利用され始めてい
ます。
今回は、最近中国・陝西省で開発された文化財
地図をコンピュータで検索しながら見るシステ
ムについての実例や、日本での GIS 活用の実例
とその可能性などについて、発表と討論を行いま
した。
ル・コルビュジェが設計した新都市チャンディガール:
庁舎屋上から裁判所と議会を望む
6
TOBUNKENNEWS
の保存に向けての対策」と題してお話を伺いまし
た。また渡邊明義所長からは、本研究所が文化庁
の要請で行った第 1 回アフガニスタンミッショ
ンの報告をさせていただきました。
来日したアフガニスタンの専門家は、国立考古
学研究所長 Feroozi 氏と歴史的記念物保存修復局
長 Abbasy 氏です。Feroozi 氏はアフガニスタン
の考古遺跡、Abbasy 氏は記念物や建造物などの
発表する西安文物保護修復センターの張在明氏(左)と
保存に責任を持つ立場にあるいずれも政府の
范培松氏(中央)
方々です。約 20 年間に及ぶ他国の干渉や内乱で
(国際文化財保存修復協力センター・岡田
荒廃した文化財の保存の現状、盗掘の危険にある
健)
数多くの考古遺跡、専門家が他国に逃れていって
アフガニスタンから専門家の招へいと
第 13 回国際文化財保存修復研究会
人材不足が深刻な状況についてお話を伺うこと
ができました。これから日本が行っていく協力事
業をより効果的に進めていくための貴重な情報
2003 年 3 月 13 日に第 13 回国際文化財保存修
復研究会「アフガニスタンの文化遺産の復興をめ
を得ることができました。
ざして」を開催しました。東京文化財研究所では
(国際文化財保存修復協力センター・稲葉信子)
文化庁と連携してアフガニスタンの文化財保存
修復協力事業を進めていますが、その一環として
アフガニスタンの
文化遺産保存への支援協力
3 月にアフガニスタンから 2 名の専門家を協議の
ため日本に招へいしました。現地の方のお話を直
接聞くこのできる機会はあまりありませんから、
東京文化財研究所では、文化庁に協力してアフ
その方々の来日に合わせて、本研究会を開くこと
ガニスタンの文化遺産の保存支援協力を実施し
ています。修復技術部長青木繁夫と国際文化財保
としたものです。ユネスコのミッションで昨年秋
にバーミヤンの調査をされた和光大学の前田耕
存修復協力センター保存計画研究室長稲葉信子
作先生からも「バーミヤン遺跡の保存の現状とそ
が保存支援協力の第二次ミッションとして平成
15 年 1 月 24 日から同 31 日までカーブルに派遣
されました。その目的は、カーブル国立博物館へ
の調査協力で、調査に必要な写真機材等を準備
し、その操作研修を行うこと、さらに文化財保存
修復協力について具体的にどのような要望があ
るか調査することでした。
調査協力事業の開始にあたり、1 月 26 日、情
報文化省大臣室においてラヒーン情報文化大臣、
カーブル国立博物館長、考古学研究所長および在
アフガニスタン日本大使館から駒野欽一大使、篠
塚栄男二等書記官、現地ユネスコ事務所職員など
多数が出席して和やかな雰囲気の中で、共同調査
に使用するデジタルカメラやパソコンなどの機
奈良文化財研究所の発掘現場で説明を受ける
アフガニスタンからの招へい専門家
材のカーブル国立博物館への引渡しが行われま
7
TOBUNKENNEWS
した。翌日からカーブル国立博物館職員に対して
龍門石窟研究院李振剛院長の来訪
収蔵品の記録作成や博物館ニュースなどの編集
についてデジタルカメラとパソコンを使用した
当研究所は、2000 年秋に龍門石窟研究所(当
実践的な講習を実施しました。講習会の合間を縫
時)から最初の長期研修生を受け入れて以来、同
ってどのような保存支援の需要があるか国立考
石窟の保存修復に協力するためにさまざまな共
古学研究所や歴史的記念物保存修復局などを訪
同研究を展開してきました。
問して情報収集を行いました。博物館や考古学研
龍門石窟は 2001 年 12 月に世界文化遺産に登
究所の文化財修復担当者の教育、文化財修復に必
録されましたが、それにともない、2002 年 3 月
要な修復材料や機材の援助、重要な遺跡の盗掘が
には同研究所が一段格を上げた龍門石窟研究院
行われているため、その発掘調査とそれに伴う考
となり、同時にこの地区を管理する龍門管理局を
古学専門家の育成などが強く要望されました。こ
兼ねるという機構改革が行われ、指導部にも大き
の情報をもとに今後の支援計画を立案していく
な人事異動がありました。このため 2002 年度に
予定でいます。
は再三にわたり会議を開き、共同研究の内容を再
確認し、相互の理解をはかって、今後に向けての
一層強固な協力関係を構築することに努めまし
た。
その一環として、文化庁の 2002 年度外国人芸
術家・文化財専門家招へい事業によって 3 月 16
日から 23 日の日程で李振剛院長(兼龍門管理局
長)を招へいし、当研究所をつぶさにご覧いただ
きました。李院長はさらに、龍門石窟保存事業を
支援する文化庁、外務省、東京藝術大学、東京大
情報文化省での会談、左より青木部長、駒野欽一大使、
学、国際協力事業団、財団法人文化財保護振興財
ラヒーン情報文化大臣、カーブル国立博物館長
団等を訪問したほか、奈良・法隆寺等へも足を伸
ばして我が国の文化財保存の一端にも触れられ、
当研究所との共同事業に大きな信頼を寄せて帰
国されました。
カーブル国立博物館でのデジタルカメラによる調査実習風景
(修復技術部・青木繁夫)
東大生産技術研究所視察(左から 4 人目が李院長)
(国際文化財保存修復協力センター・岡田
8
健)
TOBUNKENNEWS
龍門石窟における写真撮影
平尾良光氏の退官記念講演会
龍門石窟研究院との共同研究として、石窟の写
平尾良光氏(前保存科学部化学研究室長)は本年
真撮影を実施しています。これは、財団法人文化
3月で定年退官されました。3 月 18 日に所内外
財保護振興財団からの助成を得て、2002 年から
から約 80 名の参加のもと、退官記念講演会が研
5 カ年の計画で進めようとしているもので、龍門
究所内で催されました。平尾氏は昭和 62 年から
石窟の主要洞窟について 4 年間の撮影作業を行
当研究所に勤務され、「鉛同位体比法による考古
い、第 5 年目に報告書を出版する予定です。ただ
資料の材料産地推定」の研究に一貫して取り組ま
し 2002 年については、ユネスコ日本信託基金に
れ、国内だけでなく、海外においてもこの分野の
よる龍門石窟保存修復事業が同時にスタートし、
第一人者として広く知られています。
選定された実験窟について精細な現状記録の写
講演は「鉛を通して見た世界」という演題で、
真を撮る必要があったため、当研究所がこれを行
前半では当研究所に勤務する前の「環境の鉛汚
って事業に貢献することになり、文化財保護振興
染」に関する研究について、後半では当研究所で
財団のご理解を得て、1 年に限ってこの作業を実
行った「鉛同位体比による材料産地推定」に関す
施しました。
る研究について約2時間にわたって行われまし
た。定年退官者の記念講演会は当研究所では初め
ての試みでしたが、平尾氏の研究の総括を拝聴す
ることができ、大変有意義な講演会でした。
平尾氏は4月より当研究所の名誉研究員、別府
大学文学部文化財学科教授として後進の指導に
あたっておられます。
計 380 カットの画像データを収集しました。撮影
には情報調整室の城野誠治技術職員があたりま
した。大型デジタルカメラによって撮影された画
像データは、現在当研究所で処理作業を行ってい
ます。完成後はすべて龍門石窟研究院に返却され
ます。
平尾良光氏の退官記念講演会
(国際文化財保存修復協力センター・岡田 健)
(保存科学部・早川泰弘)
東京文化財研究所人事異動
平成 15 年 3 月 31 日付け
定年退職
平尾
良光(保存科学部化学研究室長)
辞
大塚
英明(協力調整官)
職
平成 15 年 4 月 1 日付け
転出
転入
千葉大学大学院自然科学研究科庶務係主任
森田
東京大学先端科学技術研究センター
坂巻 信宏(管理部管理課経理係)
健一(管理部管理課庶務係主任)
管理部管理課庶務係長
若月
雄二(千葉大学総務部総務課総務係主任)
管理部管理課経理係
蛭川
聖二(東京大学柏地区経理課)
9
TOBUNKENNEWS
昇
任
保存科学部長
西浦 忠輝(国際文化財保存修復協力センター地域環境研究室長)
配置換
協力調整官
三浦 定俊(保存科学部長)
協力調整官情報調整室
綿田
稔(美術部日本東洋美術研究室)
美術部黒田記念近代現代美術研究室
塩谷
純(協力調整官―情報調整室)
国際文化財保存修復協力センター企画情報研究室長
稲葉 信子(国際文化財保存修復協力センター保存計画研究室長)
国際文化財保存修復協力センター保存計画研究室長
岡田
国際文化財保存修復協力センター企画情報研究室
二神 葉子(国際文化財保存修復協力センター国際情報研究室)
採
健(国際文化財保存修復協力センター国際情報研究室長)
用
保存科学部化学研究室
国際文化財保存修復協力センター主任研究官
吉田
直人
山内 和也
事務取扱
保存科学部化学研究室長
国際文化財保存修復協力センター地域環境研究室
来
訪
者
西浦 忠輝(保存科学部長)
斎藤 英俊(国際文化財保存修復協力センター長)
所
モンゴル青年5名、通訳1名、
属
モンゴル美術館・博物館学芸員
外務省1名
年月日
目
15. 3. 7
施設見学
シェラズディン・サイファイ部長、
ユネスコ・アジア文化センター文化
的
「国際文化財保
カブール国立博物館修復部長
15. 3.13
遺産保護協力事務所職員、通訳
存修復研究会」
参加
アンドレ・ギエルム、アンジュリク・
ディ・マントーバ以下2名
フランス国立工芸学院教授
15. 3.18
施設見学
(管理部・渡邉仁之)
黒田記念館
公開カレンダー
2003
公開日:木曜・土曜、午後 1 時~4 時 入館料:無料
6
日
月
火
水
木
金
土
黒田記念館は、エレベーター設置工事のため、7、8
1
2
3
4
5
6
7
月は休館します。9 月 18 日(木)より、再公開します。
8
9
10
11
12
13
14
詳細は、当研究所のホームページをご覧下さい。
15
16
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18
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20
21
http://www.tobunken.go.jp/kuroda/
22
23
24
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26
27
28
29
30
TOBUNKENNEWS No.13 2003 年 6 月 30 日
発行:独立行政法人文化財研究所
東京文化財研究所
編集:協力調整官―情報調整室
10
Fly UP