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小学校における遺伝教材の開発とその有効性について

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小学校における遺伝教材の開発とその有効性について
奈良教再入学紀要 第46巻第1"j 人文・II:会)平成9年
Iiull. NaraUniv. Educ., Vol.46, No.1 (Ci】It. & Soc), 1997
小学校における遺伝教材の開発とその有効性について
森本弘一・島原宏文*・谷 純子=・辻 靖子*=
(奈良教育大学理科教育教室)
(平成9年4月1日受理)
I.は じ め に
近年、分子生物学の進展は目ざましいものがあり、ヒト・ゲノム計画が出発するほどになった。
そのため社会に様々な影響を及ぼすことが懸念されている`1- 。特にその進展が著しいアメリカ
では、家族や親戚に遺伝病の人がいたり、その人が保因者である可能性がある場合などには医療
保険がかけられない、あるいは、就職の面でも不利になるといった、遺伝病の保因者に対する社
会的差別が問題となっている。そのことから、アメリカでは遺伝に関する正しい知識の必要性か
ら幼少の時からの遺伝教育が主張され、実際に行われているところもある。アメリカの幼稚園・
小学校の遺伝教材については、丹沢らが「You、 Me、 &Others」を報告しているcil。
一方日本では、高校で扱われていた「遺伝」の内容が、平成元年の学習指導要領改訂により中
学校で扱われることになった(1ノ。アメリカのこのような社会状況から考えると、近い将来、日本
でも小学校における遺伝教育の必要性が叫ばれるのではないかと考えられる。そこで、アメリカ
の小学校の遺伝教材である「You、 Me、 &Others」(5ノを参考にして、 E]本の小学校における遺伝教
材を作成することにした。
そして、作成した遺伝教材が日本の授業で有効に使うことができるかどうか確かめるために、
奈良教育大学附属小学校において実証授業を行った。
II.小学校における遺伝教材の開発
1.方法
「You、 Me、 &Others」`5'を和訳し、日本の理科教材と比較し、その特徴を分析した。日本とア
メリカの文化背景の違いを考慮しつつ、日本の理科の内容との関連も考えながら小学校における
遺伝教材として、ワークシートを作成することとした。作成するワークシートは、基本的には1
時間1枚のワークシートで活動できるよう心がけた。また、モジュール形式でも使えるようなも
のとした。
2.結果と考察
「You、 Me、 &Others」`は3つの単元からなっており、 3分冊となっている。これらは、
単元1 ; 「多様性」 (幼稚園、小学1, 2年用)
* 現在、大阪府堺市立鳳小学校教諭
* * 現在、大阪府富田林市立金剛保育園教諭
*** 現在、生駒郡平群町立平群南小学校教諭
91
森 本 弘 -島 原 宏 文・谷 純 子・辻 靖 子
92
単元2 ; 「変化」 (小学3, 4年用)
単元3 ; 「生命の連続性」 (小学5, 6牛用)
であり、それぞれの目標は、
単元1 ;一人一人の多様性は正常であって、それが生活を楽しくするということを認識する。
単元2 ;成長と発達はダイナミックであることを認識する。
単元3 ;生命の連続性のパターンを認識する。
となっている。単元1と単元2は人の生活や体における基礎的な概念を扱っているが、単元3で
は遺伝のしくみの理解や遺伝病の話など、専門的な内容となっている。
このプログラムは、国語、算数、理科、社会、保健、図p-l二のような小学校の科目に適合するよ
うに開発されている。そして、モジュール形式をとっているので、教師が子供の実態に合わせて
学習活動を選択することができる。日本においてもモジュール形式のワークシートが幾つか作ら
れているが(6)171、それらはいずれも理科という教科の枠の中で使うもので、この点が大きく異な
る点である。
丹沢が述べているように(3'、このプログラムはSTS (Sciens Technology Society)教育の一例
であると言える。そして、次のような特徴がある。 ○授業方法は討論重視であること。子供達が
感じたとおりに話し合うことで、子供達の間の多様性や相違性を認め、私達一人一人が特別な存
在であることに気付くことができる。また、討論することで問題解決能力を高めることができる。
○教室や学校を越えて地域での学習活動を行うこと。歯科医院、保育園または託児所などに訪問
する活動がある。 ○地域の資源(人と物)を使用して、情報収拾を多様にしていること。保健婦、
歯科衛生士、父母、色盲の人などを教室に招いて、話をしてもらったり、実演してもらったりす
る。また、聴診器、心臓のモデル、レントゲン写真、ビデオなどを借りて活用している。 ○亘理
の活動が多いこと。絵の作成、推測ゲーム、ゲス・フ-テスト、身長の測7E、コラージュの作成、
味覚テスト、豆の栽培、遺伝の仕組みのモデルゲーム、家族へのインタビューや調査、作文、歯
磨きの練習など、前述したように、理科だけでなく他の科目にも適合する活動が多く見られる。
○人間の生活を扱っていること。歯や心臓などの健康を考えたり、自分の食生活や生活パターン
を見直したりする活動がある。将来、日本においてS T S教育が普及した場合、このようなワー
クシートが求められるようになるかもしれない。
以上のような特徴を生かしながら、ワークシートを作成した。 「You、 Me、 &Others」'bJのワー
クシートの絵をほとんどそのまま使用したもの、これを日本向けに修正したもの、新しく作成し
たものがある。作成したワークシートの一覧を表1に示している。それぞれについて、その作成
にあたっての考えを以下に述べる。
「それは生きていますか」
子供達の中にはまだアニミズムの考えが残っており、雲や火、太陽などを生物として認識して
いる子もいると考えられる。そこで、ここでは生物と無生物の特徴を子供達に理解させ、私達人
間も動物の一種であることを知らせることを目的としている。
「わたしたちのにているところ、ちがうところ」
取り扱う主な形質は`顔の形'と つまくろ'にした。ここでは人々の間の身体的特徴における
多様性を子供達に理解させ、人間はお互いに似ている点もあるが、一人一人が独特の人間である
と気付かせることを目的としている。共通点や相違点の討論では、男女、髪の長さ、眼鏡、帽子
などの違いについて意見が出るだろう。 `眼鏡をかけているか、いないか'については視力の良
小学校における遺伝教材の開発とその有効性について
93
表l 作成したワークシートの-一一一覧表
蝣
蝣
;一
蝣;r
低
内
過
それ は
生 きて い ま
すか ?
容
生 物 と無 生 物 との 区別 を し、 その
理 由 に つ い て 、話 し合 う0
学
午
わ た した ち の に て い る
PJ の 子 や 女 の子 の絵 を見 て、 共 通
と ころ 、 ちが う とこ ろ
点 や 相 違 点 に つ い て話 し合 う0
毎 日の 活動 パ ター ン
I.一日の 活動 を表 に して 、 そ れ を も
と に明 E] の 活動 を予 想 す る0
中
脈 は く とこ きゆ う
運 動前 と運 動 後 の 脈 拍 数 と呼 吸 数
を調べ るO
辛
歯の生えかわ り
午
人 の 成 長 に と もな う歯 の 数 の 変 化
を調べ る0
両 親 とに て い る と こ ろ
顔 の形 質 につ いて 両 親 や 兄 弟 と似
て い る とこ ろ を探 す 0
同
')蝣蝣
午
発達 の た めの ル ー ル ;
1 5 の ル ー ル に した が って 生 物 を
不 思 議 な生 物 1
m < c.
発 達 の ため の ル ー ル ;
17 の ル ー ル に した が って 生物 を
不 思 議 な生 物 2
描 くO
遺伝 のパ タ ー ン ;
身 長 の遺 伝 の しか た を示 した カ ー
身長 の ゲ ー ム
ドゲ ー ム をす る0
遺 伝 のパ タ ー ン ;
耳 たぶ の 形 の 遺 伝 の しか た を示 し
耳 たぶ の ゲ ー ム
た カ ー ドゲ ー ム をす る。
めす とお す の ちが い
魚 を解 剖 して 卵 巣 、 精 巣 を観 察 し、
そ れ ぞれ の 存 在 に つ い て 考 え る0
生 命 の つ なが り
顔 の家 系 図 を用 い て 自 分 の生 命 が
桐先 か ら連 続 して い る こ とを知 る。
い悪いにつながるが、 `帽子をかぶっているか、いないか'については身体的特徴にはつながら
ない。しかし、人の好みの違いという面から人々の間の多様性につながると考えた。
「毎日の活動パターン」
活動が見やすいように同じ活動は同じ色で塗らせることにした。ここでは私達の生活には毎日
のパターンがあることを発見させ、人と比較することによってパターンの多様性と変異性に気付
かせることを目的としている。予想する活動は人の体とは直接関係はないが、天気予報など日常
において予想することは多くある。つまり、この活動は日常生活をよりよくするためのものであ
る。
「脈はくとこきゅう」
このワークシートでは4年生の理科の内容も考慮して、呼吸数についても調べることにした。
ここでは運動中は脈拍数や呼吸数が増加することに気付かせ、その理由について理解させる。さ
らに、脈拍数、呼吸数の変化のパターンは共通であるが、一人一人の脈拍数、呼吸数には個人差
森 本 弘 一・島 原 宏 文・谷 純 子・辻 靖 子
94
があることを知らせることを目的としている。
「歯の生えかわり」
ここでは年齢によって歯の本数が違うこと、 l司じ年齢でも発達には個人差があることを理解さ
せる。また永久歯は二度と生え変わらないことを知らせることで、子供達が自分の歯を大切にす
るようになることを目的としている。
「両親とにているところ」
ここでは両親や兄弟と似ているところがあるのは、親から子供へと形質が伝えられるからであ
る、という遺伝の概念を理解させることを目的としている。比較する形質は顔の形、目、耳たぶ
の形、髪の毛、舌の動かし方の5つを取り上げた。これらの形質は遺伝の傾向が強く、子供達に
とって比較的観察し易いし、また冷やかしの対象になりにくいと考えたからである。
「発達のためのルール;不思議な生物1、 2」
ここでは、すべての生物は自分自身のルールに従っていること、つまり人が人に成長したり、
魚が魚に成長したりするのは、遺伝子という発達のためのルールが働いているからであることを
おぼろげながら理解させることを目的としている。これは生物界における多様性と、人間におけ
る共通性に関するものである。実際にはこのワークシートのように単純ではないこともおさえさ
せる必要がある。
「遺伝のパターン;身長のゲーム」
「You、 Me、 &Others」(5)のゲームの方法を参考にした。変更したのは、アメリカの成人の平均
身長を日本の成人の平均身長に、計算値を1cmから2cmに、男の子が生まれるか女の子が生まれ
るかを決めるのをコインからサイコロにしたことである。計算値に関しては、以前大学生にこの
ゲームをしてもらった時に1cmでは高低の差があまりrfJ.なかったため、 2cmとした。ここでは身
長のようなポリジーンの特徴が遺伝するパターンを知らせ、子供の身長はほぼ両親の身長の平均
近くになることをゲームを通して体感させることを目的としている。この概念は子供達には理解
し難いと考えられる。しかし、カードゲームを行うことが、子供達の理解を助けるのではないか
と思われる。このゲームでは10枚のカードを使った。しかし、実際の発達ではもっと多くのルー
ルがあり、また食事や運動のような環境の要因も身長に影響する。このことも子供達に知らせる
必要がある。
「遺伝のパターン;耳たぶのゲーム」
ここでは単一遺伝子の遺伝パターンを知らせ、子供が片方の親に似ていても、その子供は両親
のどちらからも遺伝子を受け取っていること理解させることを目的としている。耳たぶの形の決
定は単一遺伝子の遺伝パターンではないが、その近似として扱っている。耳たぶの形は子供達に
とって興味があり、特徴を観察し易いと考えたからである。
「おすとめすのちがい」
これは、新しく付け加えたものである。 6年生の理科で、魚を解剖して消化管を観察する活動
が組み込まれている。このワークシートでは、それを遺伝との関連から生殖器の観察にまで発展
させた。ここでは卵巣や精巣の観察を適して、雄と雌(男女)の体には違いがあること、また雄
と雌(男女)にはそれぞれの働きがあることを理解させることを目的としている。
「生命のつながり」
このワークシートも新しく付け加えられたもので、人の誕生と関連させて新たに作成したもの
である。ここでは、ちびまる子ちゃん一家の模型を使い家系図を説明し,いろいろな顔の特徴を
小学校における遺伝教材の開発とその有効性について
9S
説明した後、実際にワークシートに示している顔の特徴を書き込ませ、気づいたことを発表させ
る。この討論の中で阻父、祖母から父、母、自分へと生命がつながっていること意識させること
を目的としている。
これらのワークシートは、文部省が定めた理科の内容に準ずるものについては理科の時間に、
それ以外のものについてはゆとりの時間や保健体育、特別活動の時間を利用しての実践が考えら
れる。
III.ワークシートの有効性の検証
1.方法
作成したワークシートの有効性を検証するために低学年用のワークシート「わたしたちのにて
いるところ、ちがうところ」と高学年用のワークシート「生命のつながり」を用いた授業を行っ
た。授業の評価は観察者と子供により行った。観察者の評価は、授業の「集中度」の記録と授業
中の「子供の様子」の記録および授業に対する感想意見である。授業の集中度とは子供達の授業
に対する集中の様子を学習活動の各過程において、 0 (全く集中していない)から10 (とても集
中していた)までの11段階によって評価するものである。子供による授業評価は、 5つの観点(分
かり易さ、困難度、面白さ、楽しさ、意欲)に対する5段階評価と感想である。
(1) 「わたしたちのにているところ、ちがうところ」
(力実施日と対象
・平成7年 7月 1日
・奈良教育大学教育学部附属小学校 2年3組 35名
・授業観察者8人
②本時の目標
・友達や自分自身を比較して,それぞれの身体的特徴の共通点や相違点を認める。
(彰活動内容
図1に本時で用いたワークシートを示しているO ここでは,ワークシートの9人の子供の絵を
見て、ほくろのある子を赤で、眼鏡をかけている子を青で開ませ、その後、自分達のクラスの中
で身体的特徴の共通点、相違点を探し、発表するといった活動を行わせた。
(2) 「生命のつながり」
①実施日と対象
・平成8年11月 11日
・奈良教育大学教育学部付属小学校 5年3組 34名
・授業観察者12人
(参本時の目標
・家系図を見て自分が母、父、祖母、祖父、に似ていることに気付くことができる。
・家系図を適して自分の生命が祖先から連続していることを知る。
③活動内容
図2に本時で用いたワークシートを示している。ここでは、まず生き物の子孫の残し方を討論
させ、生命のつながりについて意識させ、本時においては家系図を適してこのことを考えること
を伝えた。続いて、ちびまる子ちゃん一家の模型を使い家系図を説明し、いろいろな顔の特徴を
純 子・辻 靖If・
森 本 弘 一・島 原 宏 文・谷
96
説明した後、実際にワークシートに示している
顔の特徴を書き込ませ、そこで気付いたことを
わたしたち¢Li?._Sこ⊥ 主_互、__五重Lえ上JL皇
siBn U
討論させた。
rTrMmx即r りfTWMり ォ,蝣サ蝣.*サ,fォiM-i l MTォォ.サ^tlォ13
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。
2.結果と考察
i:ド
r-aa リ E:
(1) 「わたしたちのにているところ、ちがう
ところ」
(力授業観察者による評価
図3に授業観察者による集中度の中央値を示
している。これを見ると、一貫して高い値を示
している。子供達がこのワークシートの活動に
対して興味を持って取り組んでいることがうか
がえる。授業観察者による子供の様子の記述に
おいてもワークシートの活動についてはほとん
どの子供が無理なく取り組めたと記されていた。
学習活動⑥では特に集中度が高くなっている。
ここは、自分達の似ているところと違うところ
☆タクスのわと tJだtIのにていもと こ ろと ちがう と こ ろtさbIしま し ょ う.
月rォ!早 いnxHzi
をワークシートに書き込む活動である。集中度
が高くなった理由は、はじめにワークシートの
中のモデルの子供達の身体的特徴の共通点や相
図1 ワークシート「わたしたちの
にているところ、ちがうところ」
生命のつながり
主 こ.∫,
◎生き軸はどのようにして子謙t鼓すのかfI?
I
D ノGS^KThり
い
H Jとまつげに注Elしてみよう.
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書けい田tiAして生◆のつfLがりについて<えよう.
etlハtlこもる蝣1Iサち▲ '蝣ftこもう.
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K A-
蝣M^MH
図2 ワークシート「生命のつながり」
小学校における遺伝教材の開発とその有効性について
97
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
① ② ③
④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧
図3 「わたしたちのにているところ、ちがうところ」観察結果
遠点を見つけるという活動をしていたため、そ
waasm^Bs
EKeFHXZ」]B」
:mvMBM*eit
i;昭[ォ*j&5
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㌶ HSS児コ[TV
sz&msax
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の後、その活動の対象が自分達自身になったと
J5」2児ngia
き、身体的特徴の共通点や相違点を簡単に見つ
括(m wuwm/THBts
けることができたからである。それで、子供達
たいくつだった
が進んで活動していたのではないかと思われる。
もう たくさんだ
7 先生が辞しく鋭明してくれたから.
もう一つの理由は、子供達が自分達の身体的特
徴を調べる活動自身に興味をもったためだと思
われる。また、その反面、ワークシートでの作
業のイメージが強くなってしまい、自分達の身
イ 先生が分かるように説明してくれたから。
体的特徴の共通点、相違点も、 「眼鏡をかけて
ウ いろいろなことが分かったから。
いる」 「男の子、女の子」などワークシート上
でパターン化されたものが多く挙げられた。子
供達が自分達の身体的特徴の共通点や相違点を
エ しっかり勉強できたから。
実感できるように、発間などを改善する必要が
あると思われる。
オ いろいろなことを覚えられるから。
集中度が下がっているのは、学習活動(彰と⑧
である。学習活動⑦では、小学校2年生という
ことで、人の意見を聞くのが苦手であったり、
図4 「わたしたちのにているところ、
ちがうところ」子どもの授業評価
集中力の持続が難しいという原因が考えられる。
学習活動⑧では、少し発展させて人々の間の身
98
森 本 弘 一島 原 宏 文・谷 純 子・辻 靖 子
体的特徴の多様性に気付いてもらおうとして、 「今日の授業で何か気付いたことはありませんか」
という発問をしたのだが、子供達には難しかったようで、なかなか意見が出なかった。そこで、
「みんな同じ『人』であるが、一人一人違っている」というところは、教師がまとめた。子供の
発達段階を考慮し、発間や活動に変化をつけたり、発間をもっと分かりやすくしたりするなどの
改善が必要であろうO
②子供による授業評価
子供による授業評価の結果を図4に示している。これは、子供達の評価の平均値と、それぞれ
の評価の理由をまとめたものである。ここに示されているように、子供達の評価は全体的に好意
的なものが多く、「エ たのしかった」の評価が1.85であり、自由な感想、疑問などでも「楽しかっ
た・おもしろかった」という子供が35人中18人いたことから、子供達は楽しみながら学習できた
ようである。その他の項目の「ア わかりやすかった」「イ かんたんだった」「り おもしろかっ
た」の評価の平均値がそれぞれ1.79、 1.47、 ¥A となっており、理解度も高く、難易度や興味も
子供達に適しているように思われる。先に述べたように学習活動⑧での発間は、子供達には難し
いようであったが、自由な感想、疑問などで「ひとりひとりが違うことが分かった」という子供
が4人いたことから、発間を改善すれば理解できるようになると思われる。さらに「オ これか
らも もっとべんきょうしたい」の評価が1.74であることから、このワークシートの活動に意欲
的に取り組んでいたことがうかがえる。以上のことから、この遺伝教材は小学校2年生に対して
有効であったと言えるであろう。
(2) 「生命のつながり」
①授業観察者による評価
授業観察者による授業の集中度の記録を図5に示す。授業観察者の記述によると、顔の特徴を
書き込ませる作業についてほとんどの子供が無理なく取り組めたようであった。また、気付いた
ことは?を書き込ませる活動では「私は母、父に似ている」という記述にとどまっていて、 「祖
母にも似ている」まで記していない記述が多く見られた。この活動では時間をもっと十分に与え
て子供に気付かせるようにすれば良かったと思われる。さらに、時間を十分に与えた上で「私は
誰のどこと似ているのか、全ての人について考えてみましょう。」などの発間をしてみるのも良
かったと思われる。
学習活動①、 ②では集中度が低い値となっている。これは、実験室で授業を行ったこともあり、
子供達が向かい合う席で、話をしてしまったことが1つの原凶として考えられ、今回の授業は教
室で行うほうが良かったと考える。学習活動③で集中度の上昇が見られるのは、子供達にとって
身近なアニメキャラクターを使って家系図を説明したからであると思われる。学習活動④、 ⑤と
高い集中度になっているのは、学習活動(彰の効果で子供達が授業に乗ってきたからだと思われるO
学習活動⑥で集中度の低下が見られた。授業観察者の記録によると、このとき、書き込むことは
できているが発表する子供が限られていたことから、姓で発表させたり、一斉に声を合わせて言
わせるなどの工夫をする必要があったと思われる。学習活動⑦、 (卦は学習活動⑤と同じように書
き込む作業であるが、このように書き込む作業の時には比較的高い集中度となっている。
学習活動⑧では授業観察者の記録では、発表にもかかわらず書く作業にまだ夢中になっている
子供がいたとのことなので、学習活動⑦の書き込みの作業の時間を十分にとる必要があると思わ
れた。学習活動⑲においても時間の都合により学習活動⑨の特徴の書き込みの時間を短く切った
ために、発表のときにも書き込む作業に夢中になっている子供が多く見られたので、ここでも時
小学校における遺伝教材の開発とその有効性について
99
10
9
8
7
6
5
動
学
鮎
㊨
㊨
⑨
⑧
⑦
⑥
⑤
⑥
③
②
①
図5 「生命のつながり」観察結果
間を十分に与える必要があったと思われる。ま
ii ㌫MLJ-*IHォ
12345
I"II
イ ォ*cった
誠 LLHrt*?
エ ♯しかった
オ これからも
分かりにくかった
た集中度の低下として他に考えられることは、
tt-rかしかった
特徴の発表が単調でしかも時間がかかったため
YUVEWti別ttl
に子供達に飽きを感じさせてしまったかもしれ
smggiiigw
ない。そこで発表の方法として、こちら側(敬
・mixmsMk
LI EロI..VHSS
師側)から答えを提示し、それを確認させるよ
うにする活動や姓で発表させる、一斉に発表さ
せるなど時間の短縮をするようにすれば良いと
ア 少し難しいところもあったけど絵などを使って配明し
てくれたから。
思われる。学習活動⑪、 ⑫でもやや低い集中度
となっている。これは、チャイムが鳴ってしま
い子供達の集中が切れてしまったこと、チャイ
イ 回を見ただけで分かるから。
ムが鳴ったことで子供に考えさせる時間を十分
に与えず、教師側が一方的に話をしてしまった
り あまり生命のつながりに興味はないから。
エ 知っていることもあったし、暇だったから。
ことが原因として考えられる。
(む子供による授業評価
子供による授業評価の結果を図6に示す。こ
れは、子供達の評価の平均値とそれぞれの評価
オ 実験がしか、から。簡単すぎて退屈だったから.
の理由をまとめたものである。項目を内容理解
のI血と興味、関心の面で分けると内容理解のb-
図6 「生命のつながり」子どもの授業評価
から「ア 分かり易かった」が2.9、 「イ 簡単
森 本 弘I一一・島 原 宏 文・谷 純 子・辻 靖 千
100
だった」が2.4という平均値で、これと合わせ理由からも分かるように内容理解については問題
はないと考えられる。興味、関心の面から「り 興味がもてた」が3.6、 「エ 楽しかった」が3.4、
「オ これからももっと勉強したい」が3.7という平均値でやや興味、関心を示せなかった評価
となった。理由を見ると、エ 知っていることもあったし暇だった、オ 実験がしたいから、簡
単すぎて退屈だったなどが挙げられている。また、この授業においてワークシートの気付いたこ
とは?を考えさせる時に時間の都合上、いきなりヒントという形で私は誰のどこに似ていますか
と補助の発間をしたが、この時に子供の中に「ヒントなんかいらん。」という子供もいた。これ
らの結果から考えて、教師側からの説明をできるだけ少なくし、もっと時間を子供達に十分に与
え、自分達自身で考える活動をさせなければならない思われた。
このような結果、考察からこのワークシートを用いる授業では特徴の発表が単調なもので飽き
を感じさせる原因となりがちなので、発表のさせ方を姓での発表、一斉に言わせる発表、子供達
自身に答えを貼らせる発表、教師側から提示する、などいろいろなバリエーションで発表させる
必要があると思われる。また全体を適し、授業時間を十分に設定し、子供達自らが考える活動を
存分にできる授業にすることも大切であると思われる。
以上のようなことを考慮すれば、この授業において問題になった興味、関心の耐こおいても改
善されると思われる。
IV.お わ り に
日本ではほとんど例がないと思われる小学校における遺伝教材をワークシートという形で開発
し、その有効性を授業を通して検証した。その結果、一定の効果が見られた。これは、アメリカ
において実際使われているワークシートを改良しているので、期待されたことではあるが、この
研究をきっかけとして小学校のみならず中学校、高等学校の遺伝教育が見直されることを期待し
たい。
Ⅴ.謝 辞
この研究を行うにあたり、快く授業を実施させて下さった奈良教育大学教育学部附属小学校
井上龍一先生、園部勝幸先生、中村幸成先生、並びにご多忙にもかかわらず授業観察に時間を割
いて下さった方々に厚くお礼を申し上げる。
VI.参 考 文 献
(1)ロバート・シャピロ著/中原 英臣訳1993 ゲノム-人間の設計図をよむ 講談社
(2)藤木 典生・メイサーダリル(編) 1992 ヒト・ゲノム研究と社会 第2回国際生命倫理福井セミ
ナー ユウバイオス倫理研究会
(3)け沢 哲郎・長洲 南海男1991米国STS教育の現状と動向(4トーBSCSのSTS教育その2ノト中学校
の人間の遺伝学教育を事例として- 生物教育 第31巻第1号30-31
(4)中学校学習指導書 理科編 平成元年7月 文部省
( 5 ) March of Dimes-Birth Defects Foundation- 1991 You. Me, & Others
(6)斎藤 有厚1989 教科外理科学習の試み(2ト校内理科ワークシートの実践1一 口本理科教育学会
小学校における遺伝教材の開発とそのイ1`効性について
101
第39回全国大会
(7)山円 卓三編著1988 ワークシートによる理科学習 うれしの方式(ホロン方式)うれしの教材開
発研究会 兵庫教育大学
102
A Development and Potency Examination of Genetic Teaching Material
in Elementary School
Kouichi Morimoto, Hirofumi Shimabara, Junko Tani and Yasuko Tujl
(Dゆγtment of Science Education, Nam University of Education, Nara 630. Japan)
(Received April 1, 1997)
Recently. there is a problem that insurance companies reject applications of genetic disease
carriers in the USA. It is said that the educational content in a primary school should contain
genetic content as there is a genetic teaching material in the USA. It is "You, Me, & Others' In
the future, we predict that these situations will happen in Japan. SO, we have developed genetic
teaching material as worksheets for elementary schools.
In order to examine the potency, of developed worksheets, we taught the students in an
elementary school attached to Nara University of Education using these worksheets. The titles of
the worksheets used in this practice areーSimilarity and Difference between us and `Continuity of
Life'' The response of children was good. From this result, we confirm that these worksheets
are useful for elementary school eduation. We hope that many elementary schools will use the
genetic teaching material which we developed.
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