Comments
Description
Transcript
地中熱利用ヒートポンプ空調システムの 導入事例
── 実 施 例 ── 地中熱利用ヒートポンプ空調システムの 導入事例 ㈱中電工 大阪本部 吉 武 大 樹 ■キーワード/ ■キーワード/地中熱・ヒートポンプ空調・Uチューブ・CO 2削減 1.はじめに 常翔学園高等学校新館の新築工事にあたり,環境に配 慮したエコ設備を導入したいとの要望を受けた。 検討の結果,環境に優しい再生可能な自然エネルギー である地中熱を利用した「地中熱利用ヒートポンプ空調 システム」を導入することが決定したので,施工事例と して紹介する。(写真-1・2・3) 2.工事概要 2-1 建物概要 建物名称 常翔学園高等学校 所 在 地 大阪市旭区大宮 写真-3 地中熱利用空調モニター(画面2) 構 造 SRC造 延床面積 19,217㎡ 階 数 12階建 教室数等 普通教室42部屋,物理,化学,生物 敷地面積 51,759㎡ 家庭科実習室,情報演習室ほか 工 期 平成21年4月〜平成22年7月(1期) 2-2 設備概要 空水冷室外機(1階屋外) [56.0kW]×1台 室内機 天井カセット型(下足室) [4.5kW]×4台 天井埋込型(ギャラリー) [7.1kW]×4台 ビルトイン型(EVホール) ヘッダ(往)(環) 原水ポンプ 50φ×190ℓ/min×17m×1台 加圧ポンプ 25φ×015ℓ/min×10m×1台 熱交換井 ダブルUチューブ 写真-1 空水冷室外機設置状況 [4.5kW]×2台 150φ×1,200L×2台 100m×6本 25A×4本×6ヶ所 熱電対 1本 制御盤 1面 表示モニター 40インチ×1台 3.地中熱利用ヒートポンプ空調シ ステム 3-1 地中熱利用ヒートポンプ空調システムとは 地中の温度は外気温に比べて年間を通じて安定してい る(15℃前後)。そこで,空気の代わりに地中へ熱を放熱 (冷房時),および地中から熱を採熱(暖房時)して空調 (冷暖房)を行うのが本システムである。(図-2・3) また,空気熱源ヒートポンプと比較して,冷房の場合 は熱源温度が低い方が有利であり,暖房の場合は熱源温 写真-2 地中熱利用空調モニター(画面1) ヒートポンプとその応用 2011.3. No.81 度が高い方が有利である。 ─ 32 ─ ── 実 施 例 ── R EVホール (2台) 空水冷式ビル用マルチ (8HP×2:16HP) 外部 R 制御盤 下足室 (4台) ギャラリー (4台) PS内立ち上げ 建物内部 GL 建物内部:基礎ピット配管 外部:トレンチ内配管 HS M HR 流量計 膨張タンク HS 熱源水ヘッダ (還) 熱源水ヘッダ (往) HR P 補給水 P 熱源水ポンプ 加圧ポンプ HR 25PE,25PE HR HS GL HS (25PE*3),(25PE*3),(25PE*3),(25PE*3) 100m 図-1 系統図 熱交換井 (高密度ポリエチレンパイプ) U字型ダブルチューブ25A:φ34×3.5t×4本 熱交換井 L=100m×6本 3-2 地中熱利用ヒートポンプ空調システムの特徴 地中熱源ヒートポンプはデフロスト(除霜)が不要であ ① 外気に比べて温度の安定している地中熱を利用する る。 ことで,ヒートポンプの効率が高くなる。 ⑥ 空気熱源ヒートポンプと比較して,熱源空気を排出 ② 通常よりも熱交換器を小さくでき,ヒートポンプの 負荷を低減することができるため,消費電力およびラ ンニングコストの削減が可能である。 ③ CO2排出量が低減でき,地球温暖化防止に貢献でき するファンの運転が不要なため,騒音が小さくて済む。 4.地中熱の利用方式 4-1 地中熱利用ヒートポンプの方式 る。 地中熱利用ヒートポンプの方式は図-4に示すとお ④ 室外機から温風(冷房時)が排出されないため,ヒー り,大きく分けて地下水直接方式,直膨方式,間接方式 の3方式がある。 トアイランドの抑制につながる。 ⑤ 冬季の暖房運転時,空気熱源ヒートポンプは空気熱 ⑴ 地下水直接方式 地下水直接方式は,熱交換するための水を,直接地 交換器のフロスト(着霜)により能力ダウンがあるが, 冷媒回路 ポンプ ポンプ 熱交換器 (蒸発器) 圧縮機 四方弁 地中熱交換器 放熱 ブライン 15℃∼40℃ 図-2 冷房時のしくみ 膨張弁 熱交換器 (蒸発器) ブライン回路 ヒートポンプ (室外機) ヒートポンプ (室内機) 加熱 冷却 圧縮機 冷媒回路 膨張弁 熱交換器 (凝縮器) ブライン回路 地中熱交換器 ヒートポンプ (室内機) 熱交換器 (凝縮器) 四方弁 ヒートポンプ (室外機) 吸熱 地中 ブライン ー5℃∼15℃ 図-3 暖房時のしくみ ─ 33 ─ 地中 ヒートポンプとその応用 2011. 3. No.81 ── 実 施 例 ── P-79 冷媒 膨張弁 熱交換器 熱交換器 負荷 負荷 負荷 圧縮機 冷媒 熱交換器 膨張弁 圧縮機 熱交換器 膨張弁 P-68 冷媒 ポンプ 熱交換器 地中 地下水 地下水直接方式 ポンプ ブライン 地中 圧縮機 地中 熱交換器 熱交換器 直膨方式 間接方式 図-4 地中熱利用ヒートポンプの方式 さらに密閉回路で使用するため,Uチューブ内部に 下から汲み上げて熱交換器に取り入れ,熱交換された スケールが付着する可能性が小さい。 水を直接地下に戻すシステムである。この方式は効率 的であるが,地下水の水質を考慮しなければならな ⑵ ダブルUチューブ ダブルUチューブはシングルUチューブと同様に配 い。また,各都道府県の地下水環境条例により地下水 管の材質はポリエチレン製で,施工方法も簡単であるが, が使用可能かどうかの確認が必要である。 シングルUチューブと比較して4本(往2本,環2本) ⑵ 直膨方式 で熱交換を行うため,シングルUチューブに比べて熱 直膨方式は,冷媒ガスを直接地中に取り入れて熱交 交換水量が多く,熱交換率は20%〜30%向上する。 換する方式である。この方式は,技術的難度が高いの と同時に,冷媒ガスが地中に漏れた場合,地下の環境 ⑶ 二重管 二重管は掘削井の中に径の大きい配管(鋼管)を挿入 汚染がともなう危険性がある。 し,その配管の中に径の小さい配管(鋼管)を挿入し熱 ⑶ 間接方式 交換をする方式である。 間接方式は,熱交換するためのブラインを地中埋設 この方式は配管の材質が鋼管のため,Uチューブと パイプの中を通して間接的に熱交換するシステムであ る。この方式は施工が比較的簡単で,将来万が一ブラ 比較して熱交換率に優れているが,配管材の重量が大 インが漏えいしても,地下の環境汚染にはつながらな きくなり挿入する際の揚重機器などの規模が大きくな い。 り,揚重機器を据え付ける作業スペースの確保と揚重 以上のことから総合的に判断して,本件では地中熱源 コストが高くなる問題がある。 また,配管は4mの定尺のため継手接続が必要であ ヒートポンプの間接方式のシステムを採用した。 4-2 地中熱交換器の種類 り,継手部からブラインが漏えいする可能性がある。 地中熱交換器の種類は図-5に示すとおり,大きく分 けてボアホール方式と杭方式の2種類がある。また,ボ 名称 方式 アホール方式には,シングルUチューブ,ダブルU シングル Uチューブ ダブル Uチューブ ボアホール方式 二重管 杭二重管 杭+ 現場施工杭 Uチューブ (場所打ち杭) 杭方式 断面図 チューブ,二重管の3種類があり,杭方式にも,杭二重 管,杭+Uチューブ,現場施工杭(場所打ち杭)がある。 ⑴ シングルUチューブ 立面図 シングルUチューブは配管の材質がポリエチレンで 配管材の重量が小さく耐久性,耐衝撃性,耐薬品性な どに優れた特性を持ち,施工が比較的簡単にできる。 Uチューブには1mピッチで長さが印字されている 材質 ので,挿入した長さの確認ができるようになってお り,熱交換井の中への挿入管理がしやすい形状となっ ている。また,長尺の巻き物のため途中に継手がな く,ブライン漏えいの危険が低い。 ヒートポンプとその応用 2011.3. No.81 外管:スチー 杭:スチー ル, コンクリー ル ,コンク ト リート 内管:ポリエ 内 管:ポリ チレン,塩ビ, エチレン, ス スチール チール ポリエチレン,銅, ステンレス 流体 水,不凍液,冷媒 水,不凍液 封入 管外:土, グラウト材 なし 採用方式 図-5 地中熱交換器の種類 ─ 34 ─ 杭:スチール, コンクリート 内 管:ポリエ チレン,銅, ス チール,ステ ンレス 杭:鉄 筋コ ンクリート Uチューブ: ポリエチレン 水,不凍液,冷媒 グラウト材,水 コンクリート ── 実 施 例 ── に変更したことで,機械の1日のリース代がコストUP になったが,さく井期間を2分の1に短縮することがで き,結果的に掘削機械のリース代は当初の予定コストの 範囲内で収まるとともに,工期の短縮をはかることがで きた。 ただしここで重要なことは,急速穿孔機は通常穿孔機 よりも大型となるため,急速穿孔機を搬出入する運搬車 両が特殊車両(20tトレーラー)になることであった。 (写真-6) 写真-4 ダブルUチューブ 写真-6 急速穿孔機搬入状況 写真-5 ダブルUチューブ挿入状況 よって現場の敷地に隣接する道路が特殊車両の通行が 可能であることと,急速穿孔機の台数に制約があること 以上のことから総合的に判断して,今回はボアホール のダブルUチューブの方式を採択した。(写真-4・5) のデメリットはあるが,早期手配(計画的な手配)により 工期の短縮をはかることが可能となる。 また,特殊車両の通行許可の申請が約1カ月かかるた 杭方式については,建物基礎杭を利用するため建築計 画初期から計画に盛り込んでおく必要がある。よって, め,県や市,警察,消防と打ち合わせを行い,許可申請 今回の地中熱交換器の選定からは除外した。 の手続きを迅速にする必要がある。 5-2 熱交換井設置本数の検討 5.工事における課題と対応策 今回導入した地中熱利用ヒートポンプ空調システムの 5-1 短期間工事にともなう工程管理 熱交換井は,隣接する既設建物と新築建物の間の敷地に 地中熱利用ヒートポンプ空調システムは,地中熱を利 設置しなければならなかった。(写真-7) 井戸と井戸の離隔距離は,熱交換の支障が出るため5m 用するための熱交換を設置する井戸を掘削する必要があ り,掘削工事のコストは高く,掘削作業日数がかかる。 以上離さなければならない。 今回工事を受注した時期が全体工程の後半であり,さ この条件を踏まえると,熱交換井を設置するためには く井工事は新築現場の足場解体後から工事を着手して外 敷地の面積が最低300㎡必要となるが,当現場の敷地の 構工事の前に施工を完了しなければならないという短期 広さは約200㎡しかないため,12本の井戸をさく井する 間であるため,工程管理の検討が重要課題となった。 ことは不可能であった。 今回の空調機の能力によると,熱交換井は掘削深さ50 mの井戸を12本設置しなければならない。 そこで当初設計の熱交換井は掘削深さ50mを12本設置 する計画であったが,さく井する敷地が狭いため,変更 さく井にはボーリングマシンを使用するが,通常穿孔 案として掘削深さを50mから100mの2倍にし,熱交換 機で,通常の地質で,井戸1本につき3日〜4日かかる。 井の本数を12本から6本に半減して敷地内に収まるよう 今回は短期間工事ということで,ボーリングマシンのさ に検討した。 く井能力に注目し,通常穿孔機よりも急速に穿孔できる 急速穿孔機を選択することで掘削工程の短縮を立案した。 熱交換井をさく井するボーリングマシンを急速穿孔機 変更案の熱交換容量を計算したところ,空調機の熱交 換効率は当初の計画と変わらず設計どおりの能力が得ら れたため,変更案を採用した。(図-6) ─ 35 ─ ヒートポンプとその応用 2011. 3. No.81 ── 実 施 例 ── 表-1 イニシャル・ランニングコスト比較 空気熱源 地中熱利用 ヒートポンプ空調 ヒートポンプ空調 イニシャルコスト 100 比率 (基準) ランニングコスト 100 比率 (基準) CO2 排出量 100 比率 (基準) 270 75 70 (本施設における試算値) 7.おわりに 写真-7 さく井状況 本工事は短期間工事および狭い敷地での施工方法など 6.イニシャルコスト・ランニング コスト の諸問題があったが,無事完成を迎えることができた。 これも,施主,設計事務所,建築業者の皆さまをはじ 地中熱利用ヒートポンプ空調と一般的な空気熱源ヒー め,工事に携わられた方々の多大なる支援によるもの と,深く感謝いたします。 トポンプ空調とのイニシャルコストおよびランニングコ 本件では学校(高校)施設の空調(冷暖房)に地中熱利用 ストの比較を表-1に示す。 のシステムを取り入れたが,空調以外にも給湯(温泉, 地中熱利用ヒートポンプ空調は,一般的な空気熱源 プール)や床暖房へ取り入れることが可能である。 ヒートポンプ空調に比べ,イニシャルコストが高い(約 ただし,イニシャルコスト差の回収に,掘削コストの 2.7倍)が,ランニングコストは熱交換1次側の温度条件 低減や熱交換効率の向上といった課題も残っている。 が良くなることから効率が向上し約25%低減できる。ま このような課題は残るものの,地中熱などの自然エネ た,CO2排出量も約30%削減できる。 ルギーを利用したシステムを採用することは,地球環境 イニシャルコストが高くなる要因は主に熱交換井の掘 削コストであり,空調機本体や熱交換器など機器・材料 の保全に対して大きく貢献するものであると考えられ, は一般的な空調システムと比較してもコストに占める割 今後の施工に実績を生かすと同時に,顧客の要望事項に 合は大きくない。 応えられるよう,技術力の向上をはかりたい。 ギャラリー 凡例 熱交換井 空調機 高校新館 (仮称) (高層棟) 第2情報演習室 10号館 5m 5m 5m 5m EVホール 消防隊活動 スペース 5m DS (給) 図-6 熱交換井配置図 ヒートポンプとその応用 2011.3. No.81 ─ 36 ─